(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-24
(45)【発行日】2024-06-03
(54)【発明の名称】適応能力評価装置、適応能力評価方法及び適応能力評価プログラム
(51)【国際特許分類】
A63B 71/06 20060101AFI20240527BHJP
G06F 3/04815 20220101ALI20240527BHJP
【FI】
A63B71/06 M
G06F3/04815
(21)【出願番号】P 2020194548
(22)【出願日】2020-11-24
【審査請求日】2023-05-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊勢崎 隆司
(72)【発明者】
【氏名】渡部 智樹
(72)【発明者】
【氏名】森 健策
(72)【発明者】
【氏名】小田 昌宏
(72)【発明者】
【氏名】大山 慎太郎
【審査官】井上 香緒梨
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/199196(WO,A1)
【文献】特開2019-118783(JP,A)
【文献】特開2019-205594(JP,A)
【文献】特開2017-068430(JP,A)
【文献】国際公開第2016/024565(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第107433021(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63B69/00-69/40
A63B71/00-71/16
A61H1/00-5/00
A61H99/00
G06T7/00-7/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーザが実行した結果、成功か失敗かを判定可能であり、且つ、所定の条件が変化することにより変化する、目標とする運動に対する前記ユーザの適応能力を評価する適応能力評価装置であって、
前記所定の条件を設定する条件制御部と、
前記設定された条件で前記目標とする運動を前記ユーザが所定の回数実行する際、前記ユーザが前記目標とする運動を実行する毎に前記ユーザについての運動情報を計測する計測部と、
前記運動情報に基づいて、直近に計測された運動情報をどれだけ再現しているかを表す再現性評価値及び前記目標とする運動を実行した際の前記ユーザの動きの少なさを表す効率性評価値を算出する運動内容評価計算部と、
前記ユーザが前記目標とする運動を前記所定の回数実行した結果、成功と判定された回数に基づいて前記目標とする運動の成功率を算出する目標運動判定部と、
前記再現性評価値、前記効率性評価値及び前記成功率に基づいて、前記目標とする運動に対する前記ユーザの前記適応能力を表す適応能力評価値を算出する適応能力評価計算部と、
を備える、適応能力評価装置。
【請求項2】
前記所定の条件は、物体特性、環境特性及び運動特性を含み、
前記物体特性は、目標とする運動に使用される物体の大きさ、重量、又は形状であり、
前記環境特性は、前記物体の速度、又は加速度が変化する領域であり、
前記運動特性は、前記ユーザへの運動負荷、又は運動の大きさである、請求項1に記載の適応能力評価装置。
【請求項3】
前記条件制御部は、前記物体特性、環境特性、運動特性のうちの少なくとも1つを少なくとも1回変化させる、請求項2に記載の適応能力評価装置。
【請求項4】
前記運動内容評価計算部は、
前記目標とする運動の目標とする再現性パラメータを予め備え、
1より大きく前記所定の回数以下であるi回目の運動情報とi-1回目の前記運動情報との間のコサイン類似度を目的変数とし、前記目的変数と、前記所定の回数までの正の整数を説明変数とした関数との間の誤差を最小化するような前記関数のパラメータを算出し、
前記算出されたパラメータと、前記再現性パラメータとの間のコサイン類似度により算出された値を、前記再現性評価値とする、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の適応能力評価装置。
【請求項5】
前記運動内容評価計算部は、
前記目標とする運動の目標とする効率性パラメータを予め備え、
前記運動情報の絶対値を算出し、
前記絶対値を目的変数とし、前記目的変数と、前記所定の回数までの正の整数を説明変数とした関数との間の誤差を最小化するような前記関数のパラメータを算出し、
前記算出されたパラメータと、前記効率性パラメータとの間のコサイン類似度により算出された値を、前記効率性評価値とする、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の適応能力評価装置。
【請求項6】
前記適応能力評価計算部は、前記再現性評価値と0とのうちの大きい方の値と、前記効率性評価値と0とのうちの大きい方の値と、前記成功率と、を掛け合わせた値を、前記適応能力評価値とする、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の適応能力評価装置。
【請求項7】
適応能力評価装置のプロセッサが実行し、ユーザが実行した結果、成功か失敗かを判定可能であり、且つ、所定の条件が変化することにより変化する、目標とする運動に対する前記ユーザの適応能力を評価する適応能力評価方法であって、
前記所定の条件を設定することと、
前記設定された条件で前記目標とする運動を前記ユーザが所定の回数実行する際、前記ユーザが前記目標とする運動を実行する毎に前記ユーザについての運動情報を計測することと、
前記運動情報に基づいて、直近に計測された運動情報をどれだけ再現しているかを表す再現性評価値及び前記目標とする運動を実行した際の前記ユーザの動きの少なさを表す効率性評価値を算出することと、
前記ユーザが前記目標とする運動を前記所定の回数実行した結果、成功と判定された回数に基づいて前記目標とする運動の成功率を算出することと、
前記再現性評価値、前記効率性評価値及び前記成功率に基づいて、前記目標とする運動に対する前記ユーザの前記適応能力を表す適応能力評価値を算出することと、
を備える、適応能力評価方法。
【請求項8】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の適応能力評価装置の前記各部としてプロセッサを機能させる適応能力評価プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、適応能力評価装置、適応能力評価方法及び適応能力評価プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
状況が変化する目標とする運動を行うユーザの適応能力の評価についてシステム(ゲーム)を通じて行うアプローチがある(例えば、非特許文献1を参照)。このアプローチで適応能力の評価に用いられるパラメータは、目標とする運動を達成した際のスコアである、得点と成功回数である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】齋藤徹、浅川康吉、“体感型ゲームの遂行能力に対するバランス機能および認知的注意・遂行機能の関連” 理学療法学Supplement, vol. 2013, p. 519, 2014.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、非特許文献1は、目標とする運動の状況変化を考慮していないため、適応能力の正しい評価が行えない。
【0005】
この発明の課題は、目標とする運動の状況変化に対するユーザの適応能力を正しく評価することができるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、この発明の、ユーザが実行した結果、成功か失敗かを判定可能であり、且つ、所定の条件が変化することにより変化する、目標とする運動に対する前記ユーザの適応能力を評価する適応能力評価装置は、前記所定の条件を設定する条件制御部と、前記設定された条件で前記目標とする運動を前記ユーザが所定の回数実行する際、前記ユーザが前記目標とする運動を実行する毎に前記ユーザについての運動情報を計測する計測部と、前記運動情報に基づいて、直近に計測された運動情報をどれだけ再現しているかを表す再現性評価値及び前記目標とする運動を実行した際の前記ユーザの動きの少なさを表す効率性評価値を算出する運動内容評価計算部と、前記ユーザが前記目標とする運動を前記所定の回数実行した結果、成功と判定された回数に基づいて前記目標とする運動の成功率を算出する目標運動判定部と、前記再現性評価値、前記効率性評価値及び前記成功率に基づいて、前記目標とする運動に対する前記ユーザの前記適応能力を表す適応能力評価値を算出する適応能力評価計算部と、を備えるようにしたものである。
【発明の効果】
【0007】
この発明の一態様によれば、ユーザの目標とする運動の状況変化に対する適応能力を正しく評価することができる適応能力評価装置、適応能力評価方法及び適応能力評価プログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、この発明の一実施形態に係る適応能力評価装置と、バーチャルリアリティ装置と、目標とする動作を実行するユーザとの一例を示す模式図である。
【
図2】
図2は、適応能力評価装置のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
【
図3】
図3は、この実施形態に係る適応能力評価装置の機能構成図を示したものである。
【
図4】
図4は、本実施形態における適応能力評価装置がユーザの適応能力を評価するための動作の一例を示すフローチャートである。
【
図5】
図5は、
図4中のステップS105をより詳細に説明したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照してこの発明に係わる実施形態を説明する。
[構成]
図1は、この発明の一実施形態に係る適応能力評価装置10と、バーチャルリアリティ装置11と、目標とする動作を実行するユーザ20との一例を示す模式図である。
【0010】
適応能力評価装置10は、目標とする運動をユーザ20に実行させる。目標とする運動は、実行の結果、適応能力評価装置10が成功したか失敗したかを判定可能な運動であれば任意の運動であって良い。例えば、目標とする運動が片足で5秒立っていることである場合、5秒以上片足で立っていれば成功であり、5秒未満で両足が地面についてしまった場合、失敗となる。以下において、目標とする運動は、落下や飛行等の規則的に移動する任意の移動物体をユーザ20の右手で掴む運動であるとして説明する。この場合、ユーザ20が右手で飛行物体を掴めたら成功と判定され、掴めたなった場合、失敗と判定される運動である。なお、目標とする運動を実行する手は、ユーザの利き手であって良い、すなわち、右手ではなくて、左手を用いて目標とする運動を実行しても良いのは勿論である。目標とする運動は、例えば、適応能力評価装置10と連動して動作する、デジタル空間に射影可能なバーチャルリアリティ環境を提供可能なバーチャルリアリティ装置11を利用して実行される。すなわち、ユーザ20は、バーチャルリアリティ環境で移動物体を見ながら目標とする運動を実行する。なお、バーチャルリアリティ装置11は、バーチャルリアリティ環境を提供できる装置であれば一般的な装置で良い。また、適応能力評価装置10は、バーチャルリアリティ装置11と有線又は無線で接続可能であるとする。
【0011】
適応能力評価装置10はさらに、バーチャルリアリティ装置11が提供するバーチャルリアリティ環境においてユーザ20が目標とする運動を実行している際のユーザ20の各身体部位の運動情報を取得し、解析する。適応能力評価装置10は、例えば、目標とする運動を実行しているユーザ20の右手の3次元位置データ及び視線を運動情報として計測し、解析する。なお、解析方法は、後述する。計測する運動情報は、以下では右腕の3次元位置データ及び視線データを例にして説明するが、これらのデータに限らず、頭、肘、肩、腰、体幹、膝、足等他の身体の各部位の3次元位置データに置き換え可能であることは勿論である。
【0012】
ユーザ20は、バーチャルリアリティ環境において、目標とする運動を所定の回数、例えば、N回実行する。ここで、Nは、任意の正の整数である。
【0013】
図2は、適応能力評価装置10のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
【0014】
適応能力評価装置10は、例えば、CPU(Central Processing Unit)やMPU(Micro Processing Unit)等のハードウェアプロセッサ101を有する。そして、このハードウェアプロセッサ101に対し、プログラムメモリ102、データメモリ103、通信インタフェース104及び入出力インタフェース105が、バス106を介して接続されている。
【0015】
プログラムメモリ102は、記憶媒体として、非一時的な有形のコンピュータ可読記憶媒体として、例えば、HDD(Hard Disk Drive)又はSSD(Solid State Drive)等の随時書込み及び読出しが可能な不揮発性メモリとROM(Read Only Memory)等の不揮発性メモリとを組み合わせて使用することができる。プログラムメモリ102は、各種処理を実行するために必要なプログラムを格納している。すなわち、後述する機能構成の各部における計算機能部は、いずれも、プログラムメモリ102に格納されたプログラムを上記プロセッサ101により読み出して実行することにより実現され得る。なお、これらの処理機能部の一部又は全部は、特定用途向け集積回路(ASIC:Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(field-programmable gate array)、又はGPU(Graphics Processing Unit)などの集積回路を含む、他の多様な形式によって実現されても良い。
【0016】
データメモリ103は、有形のコンピュータ可読記憶媒体として、例えば、上記の不揮発性メモリと、RAM(Random Access Memory)等の揮発性メモリとを組み合わせて使用したストレージである。データメモリ103は、プロセッサ101がプログラムを実行して各種処理を行う過程で取得及び生成されたデータを記憶するために用いられる。データメモリ103は、例えば、計測される右手の3次元位置データ及び視線データの目標とする再現性パラメータ及び効率性パラメータを有している。なお再現性パラメータ及び効率性パラメータの詳細は、後述する。すなわち、データメモリ103には、各種処理が行われる過程で、適宜、各種データを記憶するための領域が確保される。
【0017】
通信インタフェース104は、例えば一つ以上の有線又は無線の通信モジュールを含むことができる。例えば、通信インタフェース104は、Wi-Fiアクセスポイントや携帯電話基地局と無線接続する無線通信モジュールを含む。さらに通信インタフェース104は、近距離無線技術を利用してバーチャルリアリティ装置11等と無線接続するための無線通信モジュールを含むこともできる。
【0018】
入出力インタフェース105は、ユーザインタフェース装置107とのインタフェースである。なお、
図2では、「ユーザインタフェース装置」を「ユーザIF装置」と記載している。
【0019】
ユーザインタフェース装置107は、入力装置1071及び出力装置1072を含む。入力装置1071は、例えば、出力装置1072である表示デバイスの表示画面上に配置された、静電方式又は圧力方式を採用した入力検知シートであり、ユーザ20のタッチ位置を入出力インタフェース105を介してプロセッサ101に出力する。出力装置1072は、例えば液晶、有機EL(Electro Luminescence)、等を使用した表示デバイスであり、入出力インタフェース105から入力された信号に応じた画像及びメッセージを表示する。
【0020】
出力装置1072はまた、ユーザ20にバーチャルリアリティ環境を提供することが可能なメガネ又はゴーグルであるバーチャルリアリティ装置11であっても良い。入出力インタフェース105から入力された信号に応じた画像をメガネ又はゴーグル内に表示し、ユーザ20にバーチャルリアリティ環境を提供することも可能である。
【0021】
また、入出力インタフェース105には、センサ108も接続され得る。センサ108は、入出力インタフェース105を介して、プロセッサ101に取得したデータを送信可能である。センサ108は、例えば、ユーザ20が目標とする運動を実行する際にユーザ20の位置を計測し、位置を示す3次元位置データを取得することが可能なセンサである。さらにセンサ108は、バーチャルリアリティ装置11内に配置された、ユーザ20の視線を計測して視線の動きを示す視線データを取得することが可能なセンサも含む。センサ108は、例えば、距離センサ、加速度センサ、視線検出センサ等、ユーザ20の運動に対するユーザ20の3次元位置データを計測可能なセンサ、及びユーザ20の視線データを計測可能なセンサであれば良い。例えば、ユーザ20の右腕等に加速度センサを張り付け、ユーザ20の右腕の動きを加速度センサによって検出することにより、右腕の動きについての3次元位置データを計測することができる。センサ108によって計測された3次元位置データ及び視線データは、入出力インタフェース105を介して出力装置1072でバーチャルリアリティ環境でのユーザ20の動きに反映するようにしても良い。なお、センサ108は、適応能力評価装置10内に配置されても良いし、適応能力評価装置10とは別個の装置として配置されても良い。また、センサ108は、1つ又は複数のカメラに置き換え可能である。すなわち、1つ又は複数のカメラにより、ユーザ20が目標とする運動を実行する際のユーザ20についての3次元位置データ及びユーザ20の視線を計測可能であれば、センサ108は、1つ又は複数のカメラに置き換え可能である。その他、センサ108は、ユーザ20が目標とする運動を実行する際のユーザ20についての3次元位置データ及び視線データを計測可能であれば良く、上述した例に限定されないのは勿論である。
【0022】
また、バーチャルリアリティ装置11は、3次元位置データを取得可能なセンサが無いことを除いて適応能力評価装置10のハードウェア構成と同様のハードウェア構成を有することが可能であり、ここでの説明を省略する。
【0023】
図3は、この実施形態に係る適応能力評価装置10の機能構成図を示したものである。
【0024】
適応能力評価装置10は、条件制御部301と、計測部302と、運動内容評価計算部303と、目標運動判定部304と、適応能力評価計算部305と、を備える。
【0025】
条件制御部301は、物体特性制御部306と、環境特性制御部307と、運動特性制御部308と、を備える。条件制御部301は、目標とする運動の各条件を設定し制御することが可能である。条件は、例えば、物体特性と、環境特性と、運動特性とが有る。物体特性は、飛行物体の大きさや重量、形状等である。環境特性は、飛行物体の速度、加速度が変化する領域等である。ここで、加速度が変化する領域とは、移動物体がある位置に到達したら加速又は減速する領域である、又は移動物体を一定加速度で速度を上げていき、ある速度に達したら加速度を定数倍する領域であるとする。運動特性は、運動負荷、運動の大きさ等である。なお、運動特性における運動の大きさを変更することは、バーチャルリアリティ環境におけるユーザ20が腕を動かした際の運動の大きさがバーチャルリアリティ環境において小さく又は大きくなることを意味する。各条件は、適応能力評価装置10の管理者による指示に基づいて条件制御部301により設定され、データメモリ103中に保持されることが可能である。なお、ここでは、バーチャルリアリティ環境で目標とする運動を実行する例を示しているが、バーチャルリアリティ環境で目標とする運動を実行しない場合であっても、条件制御部301は、データメモリ103に記憶した条件に従って制御することができるのは勿論である。
【0026】
物体特性制御部306は、ユーザ20が目標とする運動をN回実行する際、各回において物体特性を変更することが可能である。環境特性制御部307は、ユーザ20が目標とする運動をN回実行する際、各回において環境特性を変更することが可能である。運動特性制御部308は、ユーザ20が目標とする運動をN回実行する際、各回において運動特性を変更することが可能である。すなわち物体特性制御部306、環境特性制御部307及び運動特性制御部308は、ユーザ20が目標とする運動を実行する前に設定された条件に従って移動物体を制御する。なお、N回の運動実行の各回において物体特性制御部306、環境特性制御部307及び運動特性制御部308の全てが特性を変更しても良いし、いずれか一つの特性のみを変更する様にすることも可能である。
【0027】
計測部302は、運動計測部309と、視線計測部310と、を備える。計測部302は、ユーザ20が目標とする運動をN回実行する際の各実行回において運動情報を計測する。運動情報は、例えば、ユーザ20の右手の3次元位置データ及び視線データである。
【0028】
運動計測部309は、ユーザ20が目標とする各回の運動実行時、ユーザ20の動きについての3次元位置データを計測する。視線計測部310は、ユーザ20が目標とする各回の運動実行時、ユーザ20の視線の動きである視線データを計測する。運動計測部309及び視線計測部310は、目標とする運動を実行する毎に、同一のサンプルサイズnからなるユーザ20の3次元位置データ及び視線データを計測する。すなわち、運動計測部309及び視線計測部310は、ユーザ20が目標とする運動を実行する毎に、センサ108を用いてn回計測を行い、各データをデータメモリ103に保存する。
【0029】
運動内容評価計算部303は、再現性評価計算部311と、効率性評価計算部312と、を備える。
【0030】
再現性評価計算部311は、i回目に取得された運動情報及びi-1回目に取得された運動情報に基づいて再現性評価値を算出する。ここで、各運動情報はn個の3次元位置データ及び視線データを含み、iは、2<i≦Nを満たす整数である。すなわち、再現性評価値は、直近に計測された運動情報をどれだけ再現しているかを表す指標である。なお、当該再現性評価値の算出方法は、後述する。
【0031】
効率性評価計算部312は、i回目に取得された運動情報に基づいて効率性評価値を算出する。効率性評価値は、目標とする運動を実行した際のユーザ20の動きの少なさを表す指標であり、効率的な動きで目標とする運動を実行できたかを示す。なお、当該効率性評価値の算出方法は、後述する。
【0032】
目標運動判定部304は、目標運動成功判定部313と、目標運動成功率計算部314と、を備える。
【0033】
目標運動成功判定部313は、ユーザ20が目標とする運動を実行した結果、ユーザ20が目標とする運動が成功したかどうかを判定する。例えば、ユーザ20が右手で移動物体を掴めた場合、目標運動成功判定部313は、目標とする運動が成功したと判定する。
【0034】
目標運動成功率計算部314は、目標運動成功判定部313で成功と判定された回数をユーザ20が目標とする運動を実行した回数で割ることにより目標とする運動の成功率を算出する。
【0035】
適応能力評価計算部305は、運動内容評価計算部303で算出された再現性評価値及び効率性評価値と、目標運動判定部304で算出された成功率に基づいて、適応能力を算出する。
【0036】
また、適応能力評価装置10は、出力装置1072を介して、ユーザ20又は図示していない適応能力評価装置10の管理者に適応能力評価計算部305で算出された適応能力を提示することが可能である。
【0037】
[動作]
図4は、本実施形態における適応能力評価装置10がユーザ20の適応能力を評価するための動作の一例を示すフローチャートである。適応能力評価装置10のプロセッサ101がプログラムメモリ102に格納された適応能力評価プログラムを読み出して実行することにより、このフローチャートの動作が実現される。このフローチャートは、ユーザ20又は適応能力評価装置10の管理者によってユーザ20の運動に対する適応能力を評価したい旨の指示を適応能力評価装置10が受信することにより開始する。なお、指示は、目標とする運動を実行する際の条件についての情報及び目標とする運動を実行する回数等の情報を含む。条件についての情報は、例えば、物体特性、環境特性、運動特性をどのように設定するかという指示である。また、目標とする運動を実行する際、適応能力評価装置10は、ユーザ20に開始を報知するようにしても良い。
【0038】
条件制御部301は、条件についての情報に基づいて各条件を設定する(ステップS101)。条件制御部301は、当該指示に従って、物体特性制御部306、環境特性制御部307及び運動特性制御部308それぞれを用いて物体特性、環境特性及び運動特性を設定する。これらの条件は、ユーザ20が目標とする運動を実行可能な範囲、例えば、ユーザ20の右手で移動物体を掴むことができる範囲であれば、任意の条件に設定することが可能である。なお、条件が同一である場合、条件制御部301は、移動物体が条件に従った同一の挙動になるように制御する。このステップS101では、条件制御部301は、物体特性、環境特性及び運動特性の一つを、各回の運動毎に変更するような条件を設定するものとする。
【0039】
適応能力評価装置10は、バーチャルリアリティ装置11により、ステップS101で設定された条件に従った挙動を行う移動物体をデジタル環境に射影することで、ユーザ20に目標とする運動を実行させる。この運動実行中、計測部302は、運動計測部309及び視線計測部310を用いてユーザ20の運動情報を計測する(ステップS102)。運動情報は、例えば、ユーザ20の右腕の3次元位置データ及び視線データである。例えば、任意の正の整数であるi回目の目標とする運動を実行した際のユーザ20の3次元位置データHi及び視線データEiは、以下の式のように得られる。
【0040】
【0041】
ここで、x、y、zは、右手のz、y、z座標成分であり、例えば、
【0042】
【0043】
は、i回目の目標とする運動実行におけるx座標成分の1つ目の計測値である。すなわち、式1及び式2で表されるユーザ20の3次元位置データ及び視線データは、ユーザ20が目標とする運動を実行した際、3次元位置データ及び視線データを時系列でn回計測していることを示す。ここで、nは、任意の正の整数である。
【0044】
目標運動判定部304は、ユーザ20がこのi回目の運動実行において、目標とする運動を成功させたかどうかを判定する(ステップS103)。目標とする運動がユーザ20の右手で移動物体を掴むことである場合、目標運動判定部304は、ユーザ20の右手で移動物体を掴めた場合を成功と判定し、掴めなかった場合を失敗とする。
【0045】
適応能力評価装置10は、ユーザ20が目標とする運動をN回実行したかどうかを判定する(ステップS104)。ユーザ20が目標とする運動をN回実行していないと判定する場合、処理は、ステップS102に戻る。なお、条件制御部301は、こうして戻ったi+1回目の条件設定においては、i回目とは異なる各条件を設定する、すなわち、運動の状況を変更することになる。また、ステップS103においてユーザ20が目標とする運動をN回実行したと判定した場合、処理は、ステップS104に進む。
【0046】
適応能力評価装置10は、計測されたユーザ20の3次元位置データ及び視線データと、ステップS103で判定した目標とする運動の成功率に基づいて適応能力評価値を算出する(ステップS105)。
【0047】
図5は、
図4中のステップS104をより詳細に説明したフローチャートである。
【0048】
適応能力評価装置10の運動内容評価計算部303は、計測部302によって計測された運動情報を取得する(ステップS201)。上述したように、運動情報は、例えば、ユーザ20の右腕の3次元位置データ及び視線データである。
【0049】
適応能力評価装置10の再現性評価計算部311は、取得した3次元位置データ及び視線データに基づいて再現性評価値を算出する(ステップS202)。再現性評価計算部311は、3次元位置データ及び視線データについて試行間の運動の類似性を以下の式の様に算出する。
【0050】
【0051】
さらに、再現性評価計算部311は、式4で表される類似性REH及びREEに対して説明変数p=1,...,Nとする関数f(p)を算出する。関数f(p)は、α、β、γ、δをパラメータとする以下の式5で表される。
【0052】
【0053】
なお、具体的には、p=iの時、REi
Hが目的変数となり、誤差
【0054】
【0055】
を最小化するようなパラメータ(α,β,γ、δ)をα≧0,β≧0,γ≧0,δ≧0の制約で求める。再現性REH及びREEは、はじめの数試行については上昇し続け一定試行後は特定値に漸近すると考えられる。再現性評価計算部311は、このような特徴を持つ曲線から、再現性が上昇する速度、タイミング、漸近する値を特徴量として抽出することで、ユーザの再現性の特徴を得る。再現性評価計算部311は、上昇速度、タイミング、漸近する値の抽出のため、式5に示すシグモイド関数にて曲線近似を行う。得られたパラメータについては、αは、再現性の上昇速度、βは、上昇タイミング、(γ-δ)は、漸近する値である。上記で求められたパラメータ(α,β,γ,δ)から再現性パラメータとして、
【0056】
【0057】
が取得される。再現性評価計算部311は、取得した再現性パラメータと、データメモリ103に予め記憶している各身体部位の目標とする再現性パラメータのうちの対応する再現性パラメータ
【0058】
【0059】
とのコサイン類似度
【0060】
【0061】
を算出する。なお、目標とする再現性パラメータは、目標とする運動を実行する際の理想とする動作から算出されたものでもその他の目標とする運動を実行する際の平均的な動作から算出されたものでも良い。そして再現性評価計算部311は、この算出された値を再現性評価値とする。
【0062】
効率性評価計算部312は、取得した3次元位置データ及び視線データに基づいて効率性評価値を算出する(ステップS203)。効率性評価計算部312は、3次元位置データ及び視線データの目標とする運動毎の効率性を以下の式の様に算出する。
【0063】
【0064】
さらに、効率性評価計算部312は、この効率性EFH及びEFEに対して説明変数p=1,...,Nとする関数f(p)を算出する。関数f(p)は、上で説明した式5と同一である。具体的には、p=iの時、EFi
Hが目的変数となり、誤差
【0065】
【0066】
を最小化するようなパラメータ(α,β,γ,δ)をα≦0,β≧0,γ≧0,δ≧0の制約で求める.効率性EFH及びEFEは、はじめの数試行については減少し続け一定試行後は特定値に漸近すると考えられる。効率性評価計算部312は、このような特徴を持つ曲線から、効率性が減少する速度、タイミング、漸近する値を特徴量として抽出することで、ユーザの効率性の特徴を得る。効率性評価計算部312は、減少速度、タイミング、漸近する値の抽出のため、式5に示すシグモイド関数にて曲線近似を行う。得られたパラメータについては、|α|は、効率性の減少速度、βは減少タイミング、(γ-δ)は、漸近する値である。上記で求められたパラメータ(α,β、γ、δ)から効率性パラメータとして、
【0067】
【0068】
が取得される。効率性評価計算部312は、取得した効率性パラメータと、データメモリ103に予め記憶している各身体部位の目標とする効率性パラメータのうちの対応する効率性パラメータ
【0069】
【0070】
とのコサイン類似度
【0071】
【0072】
を算出する。そして効率性評価計算部312は、この算出された値を効率性評価値とする。なお、効率性パラメータは、目標とする運動を実行する際の理想とする動作から算出されたものでもその他の目標とする運動を実行する際の平均的な動作から算出されたものでも良い。
【0073】
目標運動成功率計算部314は、目標とする運動の成功率Sを算出する(ステップS204)。目標運動成功率計算部314は、ステップS103の結果に基づいて、ユーザ20が目標とする運動をN回実行したうち何回成功したかに基づいて目標とする運動の成功率Sを算出する。
【0074】
適応能力評価計算部305は、成功率Sと、再現性評価値と、効率性評価値とに基づいて適応能力評価値Aを以下の式8のように算出する(ステップS205)。
【0075】
【0076】
この適応能力評価値Aが、物体特性、環境特性及び運動特性に係わるいずれか1つの条件が変化した場合におけるユーザ20の適応能力の指標となる。
【0077】
適応能力評価装置10は、開始時に受信した指示に含まれる情報に基づいて他の条件で目標とする運動を実行する必要があるかどうか判定する(ステップS106)。適応能力評価装置10は、様々に条件を変更することにより、その条件下でのユーザ20の適応能力を取得することが可能である。物体特性、環境特性及び運動特性に関して他の条件で目標とする運動を実行する必要があると判定した場合、適応能力評価装置10は、ステップS101に戻る。ここで、例えば、物体特性を様々に変化させれば、物体特性が変化した場合のユーザ20の適応能力評価値A(物体)を取得することが可能である。同様に、環境特性又は運動特性を様々に変化させれば、環境特性又は運動特性が変化した場合のユーザ20の適応能力評価値A(環境)又は適応能力評価値A(運動)を取得することが可能である。さらに、物体特性、環境特性及び運動特性を様々に変化させてユーザ20の適応能力を取得することができるのは勿論である。また、ステップS106において、適応能力評価装置10は、他の条件で目標とする運動を実行する必要がないと判定した場合、処理を終了する。なお、適応能力評価装置10は、この処理で得られた適応能力評価値Aをユーザ20又は適応能力評価装置10の管理者に出力装置1072を介して提示しても良い。
【0078】
[作用効果]
上記実施形態によれば、条件を様々に設定することで目標とする運動の状況を変化させた場合の、その状況変化に対するユーザ20の適応能力を正しく評価することが可能になる。
【0079】
[他の実施形態]
なお、この発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【0080】
例えば、目標とする運動を実行する毎に条件を変更するようにしたが、任意回数実行する毎に条件を変更するようにしても良い。N回の実行の途中で1回だけ条件を変更するものであっても構わない。
【0081】
また、前記実施形態に記載した手法は、計算機(コンピュータ)に実行させることができるプログラム(ソフトウェア手段)として、例えば磁気ディスク(フロッピー(登録商標)ディスク、ハードディスク等)、光ディスク(CD-ROM、DVD、MO等)、半導体メモリ(ROM、RAM、フラッシュメモリ等)等の記録媒体に格納し、また通信媒体により伝送して頒布することもできる。なお、媒体側に格納されるプログラムには、計算機に実行させるソフトウェア手段(実行プログラムのみならずテーブル、データ構造も含む)を計算機内に構成させる設定プログラムをも含む。本装置を実現する計算機は、記録媒体に記録されたプログラムを読み込み、また場合により設定プログラムによりソフトウェア手段を構築し、このソフトウェア手段によって動作が制御されることにより上述した処理を実行する。なお、本明細書で言う記録媒体は、頒布用に限らず、計算機内部或いはネットワークを介して接続される機器に設けられた磁気ディスク、半導体メモリ等の記憶媒体を含むものである。
【0082】
要するに、この発明は上記実施形態に限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々に変形することが可能である。また、各実施形態は可能な限り適宜組み合わせて実施してもよく、その場合組み合わせた効果が得られる。さらに、上記実施形態には種々の段階の発明が含まれており、開示される複数の構成要件における適当な組み合わせにより種々の発明が抽出され得る。
【符号の説明】
【0083】
10…適応能力評価装置
11…バーチャルリアリティ装置
20…ユーザ
101…プロセッサ
102…プログラムメモリ
103…データメモリ
104…通信インタフェース
105…入出力インタフェース
106…バス
107…ユーザインタフェース装置
1071…入力装置
1072…出力装置
108…センサ
301…条件制御部
302…計測部
303…運動内容評価計算部
304…目標運動判定部
305…適応能力評価計算部
306…物体特性制御部
307…環境特性制御部
308…運動特性制御部
309…運動計測部
310…視線計測部
311…再現性評価計算部
312…効率性評価計算部
313…目標運動成功判定部
314…目標運動成功率計算部