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  • 特許-距離測定装置及び距離測定方法 図1
  • 特許-距離測定装置及び距離測定方法 図2
  • 特許-距離測定装置及び距離測定方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-24
(45)【発行日】2024-06-03
(54)【発明の名称】距離測定装置及び距離測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01S 17/36 20060101AFI20240527BHJP
【FI】
G01S17/36
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020139983
(22)【出願日】2020-08-21
(65)【公開番号】P2022035564
(43)【公開日】2022-03-04
【審査請求日】2023-05-11
(73)【特許権者】
【識別番号】504132881
【氏名又は名称】国立大学法人東京農工大学
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【弁理士】
【氏名又は名称】布施 行夫
(72)【発明者】
【氏名】田中 洋介
【審査官】山下 雅人
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-096610(JP,A)
【文献】特開2001-324563(JP,A)
【文献】国際公開第2015/087564(WO,A1)
【文献】特開2019-215165(JP,A)
【文献】特開2007-205949(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0100823(US,A1)
【文献】国際公開第2007/086357(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/48 - 7/51
G01S17/00 -17/95
G01C 3/06 - 3/08
G01B 9/00 -11/30
G01D 5/26
G01D 5/353
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに異なる波長のレーザー光であって同一の周波数 の変調信号に基づき強度変調されたレーザー光を発生する第1光発生部及び第2光発生部と、
前記第1光発生部及び前記第2光発生部に周波数f 変調信号を出力する信号発生器と、
前記第1光発生部からのレーザー光が測定対象で反射した戻り光と、前記第2光発生部からのレーザー光を合波する合波器と、
前記合波器からの光を受光し二光子吸収応答により発生する二光子吸収電流を出力する光検出器と、
前記光検出器からの二光子吸収電流を周波数f でロックイン検出して強度相関信号を出力するロックインアンプと、
前記信号発生器を制御し、前記ロックインアンプからの強度相関信号に基づき前記測定対象までの距離を算出する制御部とを含み、
前記信号発生器は、
前記第1光発生部に周波数f の正弦波の変調信号を出力し、
前記第2光発生部は、
前記レーザー光として周波数f の変調信号に基づき強度変調されたパルス光を発生し、
前記制御部は、
前記信号発生器を制御して周波数f を掃引し、周波数f を掃引したときに周期的に変化する前記強度相関信号の周期に基づいて前記測定対象までの距離を算出する、距離測定装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記信号発生器は、
前記第2光発生部に前記変調信号として周波数f パルス信号を出力する、距離測定装置。
【請求項3】
請求項1において、
前記第2光発生部は、
周波数f の変調信号に基づき強度変調されたパルスレーザー光を発生するパルスレーザー光源を備える、距離測定装置。
【請求項4】
互いに異なる波長のレーザー光であって同一の周波数 の変調信号に基づき強度変調されたレーザー光を第1光発生部及び第2光発生部により発生する光発生ステップと、
信号発生器により前記第1光発生部及び前記第2光発生部に周波数f 変調信号を出力する信号発生ステップと、
前記第1光発生部からのレーザー光が測定対象で反射した戻り光と、前記第2光発生部からのレーザー光を合波器により合波する合波ステップと、
前記合波器からの光を光検出器により受光し二光子吸収応答により発生する二光子吸収電流を出力する光検出ステップと、
前記光検出器からの二光子吸収電流をロックインアンプにより周波数f でロックイン検出して強度相関信号を出力するロックイン検出ステップと、
前記信号発生器を制御し、前記ロックインアンプからの強度相関信号に基づき前記測定対象までの距離を算出する制御ステップとを含み、
前記信号発生器は、
前記第1光発生部に周波数f の正弦波の変調信号を出力し、
前記第2光発生部は、
前記レーザー光として周波数f の変調信号に基づき強度変調されたパルス光を発生し、
前記制御ステップでは、
前記信号発生器を制御して周波数f を掃引し、周波数f を掃引したときに周期的に変化する前記強度相関信号の周期に基づいて前記測定対象までの距離を算出する、距離測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、距離測定装置及び距離測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、強度変調されたプローブ光を発生し、測定対象で反射した戻り光と強度変調された参照光との強度相関をとって強度相関信号を取得し、取得した強度相関信号に基づいて測定対象までの距離を測定する手法が知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-215165号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の手法では、正弦波によって強度変調をしたプローブ光と参照光を利用するため、良好な信号対雑音比を得るためには、プローブ光、参照光の平均光パワーを上げて変調振幅を拡大する必要がある。しかし、プローブ光のパワーを上げすぎると、特に光ファイバの場合、後方散乱光である誘導ブリルアン散乱が発生し、遠方までプローブ光を伝送することができなくなるという問題があった。また、参照光のパワーを上げすぎると、機器の損傷を招く他、そもそも大出力の光増幅器が必要になる等の問題があった。そのため、長手方向に複数存在する反射点までの距離が測れる上記手法においても光パワーの面で測定点数に限界があった。
【0005】
本発明は、以上のような課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、平均光パワーを抑えつつ信号対雑音比を向上させることが可能な距離測定装置等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明は、互いに異なる波長のレーザー光であって同一の周波数で強度変調されたレーザー光を発生する第1光発生部及び第2光発生部と、前記第1光発生部及び前記第2光発生部に変調信号を出力する信号発生器と、前記第1光発生部からのレーザー光が測定対象で反射した戻り光と、前記第2光発生部からのレーザー光を合波する合波器と、前記合波器からの光を受光し二光子吸収応答により強度相関信号を出力する光検出器と、前記信号発生器を制御し、前記光検出器からの強度相関信号に基づき前記測定対象までの距離を算出する制御部とを含み、前記第2光発生部は、前記レーザー光としてパルス光を発生する距離測定装置に関する。
【0007】
また、本発明は、互いに異なる波長のレーザー光であって同一の周波数で強度変調されたレーザー光を第1光発生部及び第2光発生部により発生する光発生ステップと、信号発生器により前記第1光発生部及び前記第2光発生部に変調信号を出力する信号発生ステップと、前記第1光発生部からのレーザー光が測定対象で反射した戻り光と、前記第2光発生部からのレーザー光を合波器により合波する合波ステップと、前記合波器からの光を光検出器により受光し二光子吸収応答により強度相関信号を出力する光検出ステップと、前記信号発生器を制御し、前記光検出器からの強度相関信号に基づき前記測定対象までの距離を算出する制御ステップとを含み、前記光発生ステップでは、前記信号発生器からの変調信号に基づき強度変調されたレーザー光を第1光発生部及び第2光発生部により発生し、前記第2光発生部は、前記レーザー光としてパルス光を発生する距離測定方法に関する
【0008】
本発明によれば、参照光(第2光発生部が発生するレーザー光)としてパルス光を用いることで、平均光パワーを抑えつつ信号対雑音比を向上させることができる。
【0009】
(2)また本発明に係る距離測定装置及び距離測定方法では、前記信号発生器は、前記第2光発生部に前記変調信号としてパルス信号を出力してもよい。
【0010】
(3)また本発明に係る距離測定装置及び距離測定方法では、前記第2光発生部は、パルスレーザー光源を備えてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施形態に係る距離測定装置の構成の一例を示す図。
図2】本実施形態の手法により距離を測定する実験で得られたフーリエスペクトルを示す図。
図3】本実施形態に係る距離測定装置の構成の他の例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本実施形態について説明する。なお、以下に説明する本実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また本実施形態で説明される構成の全てが、本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0013】
図1は、第1の実施形態に係る距離測定装置の構成の一例を示す図である。距離測定装置1は、第1光発生部として機能するレーザー光源10及び強度変調器11と、第2光発生部として機能するレーザー光源12及び強度変調器13と、信号発生器20と、光検出器30と、演算処理部(プロセッサー)及び記憶部を有する制御部40とを含む。図1に示す例では、プローブ光路となる5kmの光ファイバの先端に測定対象となる反射点R(ミラー)を配置している。
【0014】
強度変調器11は、レーザー光源10からのレーザー光を変調周波数fの正弦波で強度変調して、変調周波数fで強度変調されたレーザー光(プローブ光)を発生し、強度変調器13は、レーザー光源12からのレーザー光を変調周波数fのパルス波で強度変調して、変調周波数fで強度変調されたパルスレーザー光(参照光)を発生する。受光素子の二光子吸収応答を利用した計測では光電界干渉は雑音となるため、レーザー光源10,12としては、互いに波長が僅かに異なる単一モードレーザー光源を用いる。ここでは、レーザー光源10の波長を1550nmとし、レーザー光源12の波長を1552nmとした。図1に示す例では、第1及び第2光発生部をレーザー光源と強度変調器で構成する場合について説明するが、変調信号をレーザー光源10,12に出力してレーザー光を強度変調する直接変調方式(変調信号に基づき駆動電流を強度変調することでレーザー光源の出力強度を直接変調する方式)を採用してもよい。
【0015】
信号発生器20は、制御部40からの制御信号に基づき、強度変調器11に変調周波数fの正弦波の変調信号を出力し、強度変調器13に変調周波数fのパルス波の変調信号(パルス信号)を出力する。また、信号発生器20は、ロックインアンプ70に周波数fの参照信号を出力する。強度変調器11は、信号発生器20からの変調信号に基づきレーザー光源10からのレーザー光を強度変調してプローブ光を発生し、強度変調器13は、信号発生器20からの変調信号に基づきレーザー光源12からのレーザー光を強度変調して参照光を発生する。
【0016】
第1光発生部(レーザー光源10、強度変調器11)から出射されたプローブ光は、光
サーキュレータ60を通過して反射点Rに至る。反射点Rで反射したプローブ光(戻り光)は、光サーキュレータ60を通過して光カプラ61(合波器)で参照光と合波され、レンズ62で集光されて光検出器30に入射する。一方、第2光発生部(レーザー光源12、強度変調器13)から出射された参照光は、光増幅器50(EDFA)で増幅された(平均光パワーが調整された)後、光カプラ61でプローブ光と合波され、レンズ62で集光されて光検出器30に入射する。なお、光サーキュレータ60、光カプラ61に代えて、ハーフミラーを用いてもよい。
【0017】
光検出器30は、光カプラ61からの光(プローブ光(戻り光)と参照光が合波された)を受光する。ここでは、光検出器30の受光素子として、Si-APD(Avalanche Photo Diode)を用いる。Si-APDに波長1.5μm帯の高強度光を入射すると、二光子吸収応答により入射光強度(戻り光と参照光の強度の和)の二乗平均に比例した電流(二光子吸収電流)が発生するため、これを利用することで高速に強度相関信号を得られる。光検出器30からの信号は、ロックインアンプ70により周波数fでロックイン検出(同期検波)される。ロックインアンプ70の出力信号は、図示しないAD変換器によりデジタルデータに変換され、制御部40に出力される。
【0018】
制御部40は、信号発生器20を制御し、また、ロックインアンプ70の出力信号に基づいて反射点Rまでの距離(反射点Rで反射したプローブ光と参照光の伝搬距離差)を算出する。より詳細には、制御部40は、信号発生器20を制御して変調周波数fを一定の周波数間隔で離散的に掃引し、変調周波数fを掃引したときに周期的に変化する強度相関信号(出力信号)の周期に基づいて反射点Rまでの距離を算出する。
【0019】
ここで、プローブ光の光検出器30の受光面における強度pは、以下の式(1)で表され、参照光の光検出器30の受光面における強度rは、以下の式(2)で表される。
【0020】
【数1】
ここで、Iはプローブ光の光検出器30の受光面における係数であり、Iは参照光の光検出器30の受光面における係数であり、tは時間であり、nは光が伝搬する媒質の屈折率であり、ΔLは反射点Rで反射したプローブ光と参照光の伝搬距離差(プローブ光路と参照光路の伝搬光路長差)、すなわち、反射点Rまでの往復距離であり、cは光速であり、δはデルタ関数である。図1に示す例では、プローブ光路となる光ファイバ長が5km(往復10km)、光ファイバの屈折率nが1.5であるから、nΔL=15kmとなる。
【0021】
>>Iのとき、光検出器30から出力される二光子吸収電流iTPAは、以下の式(3)で表される。
【0022】
【数2】
<<Iのとき、二光子吸収電流を周波数fでロックイン検出すると、検出される信号iは、以下の式(4)で表される。ただし、2aI cos[2πf(t-nΔL/c)]の項は無視した。
【0023】
【数3】
式(4)より、変調周波数fを掃引して得られた出力信号(余弦波状に変化する波形)のフーリエスペクトルピークからnΔLが求められることがわかる。すなわち、当該出力信号をフーリエ変換して得られるスペクトルにおけるピーク位置がnΔLに対応する。また、式(4)より、信号がI倍になることがわかる。また、平均光パワーはτI/T(τはパルス時間幅、Tはパルス繰り返し周期)であり、平均光パワーのT/τ倍の信号増幅が可能なことがわかる。
【0024】
図1に示す例においてnΔLを測定する実験を行った。この実験では、変調周波数fを500kHz~1500kHzの範囲にわたり2.5kHz間隔で掃引した。この掃引範囲は空間分解能300mを与える。また、強度変調器13に供給するパルス波の変調信号のパルス時間幅を25.5nsに設定した。従って、参照光のピークパワーは平均光パワーの26倍以上になる。
【0025】
図2に、本実験で得られたフーリエスペクトルを示す。図2に示すように15km付近にピークが現れており、本実施形態の手法により光ファイバに対応する距離測定ができていることが示された。
【0026】
本実施形態の手法によれば、参照光としてパルス光を用いることで、パルス光のピーク強度の分だけ信号を増幅することができるため、平均光パワーを抑えつつ信号対雑音比を向上させることができる。平均光パワーを抑えることで、光源の駆動電力の負担を抑制し、光源パワーの負担を軽減することができ、また、高い光パワーによる光学機器の損傷の危険もないという効果もある。
【0027】
上記例では、第2光発生部の強度変調器13にパルス波の変調信号を供給することで参照光をパルス光とする場合について説明したが、第2光発生部の光源をパルスレーザー光源とすることで参照光をパルス光とするようにしてもよい。図3に示す例では、第2光発生部の光源として、モード同期ファイバリング型パルスレーザー光源を用いている。モード同期ファイバリング型パルスレーザー光源は、ファイバリング14と、強度変調器13と、光増幅器15とを備える。強度変調器13には変調周波数fmの変調信号が供給され、モード同期ファイバリング型パルスレーザー光源は、変調周波数fで強度変調されたパルスレーザー光(参照光)を発生する。この構成では、パルス時間幅を1ns程度にすることも可能であり、上述の実験と変調周波数fの条件が同じであれば、参照光のピー
クパワーを平均光パワーの650倍以上にすることができる。
【0028】
本発明に係る距離測定装置は、光ファイバ回折格子(FBG:Fiber Bragg Grating)を用いた多点型FBGセンサに適用することができる。多点型FBGセンサは、構造物の健全性診断に用いられるが、測定点数は10点程度が一般的である。本発明の手法でピークパワーの高い参照光を利用することで、測定可能な点数を一桁増やすことも可能になる。
【0029】
また本発明に係る距離測定装置は、マルチコア光ファイバとFBGを用いた曲げセンサに適用することができる。当該センサでは、プローブ光をN個のコアに分け、戻り光を同じ光ファイバに戻すので、少なくとも光パワーが1/Nに減衰してしまう。本発明の手法を用いれば、その影響を抑制でき、コアへの光入力の制御に光スイッチ等を用いることなく、多点同時曲げセンシングを実現することができる。
【0030】
なお、本発明は、上述の実施の形態に限定されるものではなく、種々の変更が可能である。本発明は、実施の形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0031】
1…距離測定装置、10,12…レーザー光源、11,13…強度変調器、14…ファイバリング、15…光増幅器、20…信号発生器、30…光検出器、40…制御部、50…光増幅器、60…光サーキュレータ、61…光カプラ、62…レンズ、70…ロックインアンプ、R…反射点(測定対象)
図1
図2
図3