(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-24
(45)【発行日】2024-06-03
(54)【発明の名称】情報処理装置、情報処理方法および制御プログラム
(51)【国際特許分類】
G08G 1/00 20060101AFI20240527BHJP
【FI】
G08G1/00 J
(21)【出願番号】P 2022568301
(86)(22)【出願日】2021-12-08
(86)【国際出願番号】 JP2021045041
(87)【国際公開番号】W WO2022124323
(87)【国際公開日】2022-06-16
【審査請求日】2023-06-07
(31)【優先権主張番号】P 2020205408
(32)【優先日】2020-12-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】興梠 正克
【審査官】佐藤 吉信
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/010727(WO,A1)
【文献】特開2011-245285(JP,A)
【文献】国際公開第2006/135090(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に設けられたセンサによって該車両の路面走行中に計測された計測値を取得する取得部と、
取得された計測値に含まれる、x、yおよびz成分ごとの加速度値から、以下の式;
【数1】
N
FFT:FFTのタップ数
p(f
i)
2=px(f
i)
2+py(f
i)
2+pz(f
i)
2
px(f
i)、py(f
i)、pz(f
i):x、yおよびz成分ごとの加速度値からFFTで求められた周波数帯f
iのパワー値
f
0~f
n_m:DC成分とその近傍周波数帯
に基づいて、振動特徴量Pv(t)を算出する振動特徴量算出部と、
算出された振動特徴量Pv(t)と、以下の式;
Pv(t)=ρ・v(t)
2
v(t):車両の速度
ρ:路面の性状を表すパラメータである路面振動係数
に基づいて、前記路面振動係数ρを算出する路面振動係数算出部と、を備えている、情報処理装置。
【請求項2】
前記計測値が得られる単位時間Δtごとに、カルマンフィルタを用いて、前記車両のx方向に沿った移動速度v
fおよび加速度a
fを推定することにより、単位時間Δtごとの移動距離を特定する移動軌跡推定部をさらに備え、
前記移動軌跡推定部は、
前記カルマンフィルタの予測ステップにて、注目時点tから単位時間Δt前の時点t-1において推定した移動速度v
ft-1および加速度a
ft-1に基づいて、注目時点tの移動速度v
ftおよび加速度a
ftの予測値を求め、
前記カルマンフィルタの更新ステップにて、注目時点tにおいて観測された振動特徴量Pv(t)および加速度αf(t)に基づいて、観測誤差共分散行列
【数2】
を得て、該観測誤差共分散行列に基づいて、前記予測ステップにて予測した各予測値を修正することにより、注目時点tにおける、移動速度v
ftおよび加速度a
ftの推定値を求める、請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項3】
前記移動軌跡推定部は、
単位時間Δtごとに前記センサによって計測されたz軸の角速度値に基づいて、単位時間Δtごとにz軸回りの回転量を取得し、
注目時点tにおける、移動速度v
ftおよび加速度a
ftの推定値と、前記z軸回りの回転量とに基づいて、前記注目時点tから単位時間Δt後の時点t+1までの移動距離および移動方向を推定する、請求項2に記載の情報処理装置。
【請求項4】
前記移動軌跡推定部によって単位時間Δtごとに推定された移動距離および移動方向から特定される移動軌跡について、前記車両が走行した走行現場の座標系における初期条件としての初期位置および初期方位を決定することにより、前記車両の前記走行現場における移動経路を決定する位置決め部をさらに備え、
前記車両には、前記走行現場に配置された1または複数の発信機からの電波信号を受信する受信機が設けられており、
前記取得部は、前記受信機から出力される、発信元を識別する発信機IDと、電波信号の受信日時を示す受信日時情報と、受信時の信号強度を示す受信信号強度(RSSI)とを含む、受信履歴を取得し、
前記位置決め部は、
前記受信日時情報に基づいて、前記受信機が前記発信機から電波信号を受信した受信位置を前記移動軌跡上に特定し、
前記走行現場の座標系における前記発信機の位置から前記受信位置までの距離(d)と該受信位置におけるRSSIとから求まるコストが最小となるように、前記初期条件である、初期方位θ、走行現場の座標系におけるx方向の初期位置X
I、および、y方向の初期位置Y
Iを特定する、請求項3に記載の情報処理装置。
【請求項5】
前記位置決め部は、
前記移動軌跡を、特定した前記x方向の初期位置X
I、y方向の初期位置Y
I、および、初期方位θに基づいて、前記走行現場の座標系に確定移動経路としてプロットすることにより、前記走行現場の地図データを生成する、請求項4に記載の情報処理装置。
【請求項6】
車両に設けられたセンサによって該車両の路面走行中に計測された計測値を取得する取得部と、
取得された計測値に含まれる、x、yおよびz成分ごとの加速度値から、以下の式;
【数3】
N
FFT:FFTのタップ数
p(f
i)
2=px(f
i)
2+py(f
i)
2+pz(f
i)
2
px(f
i)、py(f
i)、pz(f
i):x、yおよびz成分ごとの加速度値からFFTで求められた周波数帯f
iのパワー値
f
0~f
n_m:DC成分とその近傍周波数帯
に基づいて、振動特徴量Pv(t)を算出する振動特徴量算出部と、
算出された振動特徴量Pv(t)と、以下の式;
Pv(t)=ρ・v(t)
2
v(t):車両の速度
ρ:路面の性状を表すパラメータである路面振動係数
と、あらかじめ定められた前記路面振動係数ρとに基づいて、前記v(t)を算出する移動速度算出部と、を備えている、情報処理装置。
【請求項7】
車両に設けられたセンサによって該車両の路面走行中に計測された計測値を取得する取得ステップと、
取得された計測値に含まれる、x、yおよびz成分ごとの加速度値から、以下の式;
【数4】
N
FFT:FFTのタップ数
p(f
i)
2=px(f
i)
2+py(f
i)
2+pz(f
i)
2
px(f
i)、py(f
i)、pz(f
i):x、yおよびz成分ごとの加速度値からFFTで求められた周波数帯f
iのパワー値
f
0~f
n_m:DC成分とその近傍周波数帯
に基づいて、振動特徴量Pv(t)を算出する振動特徴量算出ステップと、
算出された振動特徴量Pv(t)と、以下の式;
Pv(t)=ρ・v(t)
2
v(t):車両の速度
ρ:路面の性状を表すパラメータである路面振動係数
に基づいて、前記路面振動係数ρを算出する路面振動係数算出ステップと、を含む、情報処理方法。
【請求項8】
車両に設けられたセンサによって該車両の路面走行中に計測された計測値を取得する取得ステップと、
取得された計測値に含まれる、x、yおよびz成分ごとの加速度値から、以下の式;
【数5】
N
FFT:FFTのタップ数
p(f
i)
2=px(f
i)
2+py(f
i)
2+pz(f
i)
2
px(f
i)、py(f
i)、pz(f
i):x、yおよびz成分ごとの加速度値からFFTで求められた周波数帯f
iのパワー値
f
0~f
n_m:DC成分とその近傍周波数帯
に基づいて、振動特徴量Pv(t)を算出する振動特徴量算出ステップと、
算出された振動特徴量Pv(t)と、以下の式;
Pv(t)=ρ・v(t)
2
v(t):車両の速度
ρ:路面の性状を表すパラメータである路面振動係数
と、あらかじめ定められた前記路面振動係数ρとに基づいて、前記v(t)を算出する移動速度算出ステップと、を含む、情報処理方法。
【請求項9】
請求項1に記載の情報処理装置としてコンピュータを機能させるための制御プログラムであって、前記取得部、前記振動特徴量算出部および前記路面振動係数算出部としてコンピュータを機能させるための制御プログラム。
【請求項10】
請求項6に記載の情報処理装置としてコンピュータを機能させるための制御プログラムであって、前記取得部、前記振動特徴量算出部および前記移動速度算出部としてコンピュータを機能させるための制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両型移動体を測位する情報処理装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
車両型移動体(以下、車両)の屋内測位技術として、振動解析に基づいて移動速度を推定する試みが、すでに報告されている(非特許文献1)。本発明者らも、また、走行時に発生する振動に着目したデッドレコニング手法(VDR;Vibration-based Dead Reckoning)の研究開発を進めている(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】O. Heirich, A. Lehner, P. Robertson and T. Strang , “Measurement and Analysis of Train Motion and Railway Track Characteristics with Inertial Sensors”, In Proc. of 14th International IEEE Conference on Intelligent Transportation Systems, October 5-7, 2011.
【文献】興梠、一刈、蔵田:「車輪型移動体向け自律航法(VDR)に基づく測位手法とその評価」,HCGシンポジウム2018,C-2-5,2018
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
測位の対象となる車両には、種類または型式が極めて多様であるだけでなく、様々な路面上で走行することが想定される。そのため、VDRに基づく測位を実現するためには、車両について、走行時の振動と移動速度との関係を、路面ごとに校正することが望ましい。具体的には、車両について、路面性状ごとに、振動と移動速度との関係を規定するパラメータ(以下、路面振動係数ρ)を求められるようにしたい。
【0005】
本発明の一態様は、車両の走行時の振動と移動速度との関係を規定する路面振動係数を求めることが可能な情報処理装置を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の課題を解決するために、本発明の一態様に係る情報処理装置は、車両に設けられたセンサによって該車両の路面走行中に計測された計測値を取得する取得部と、取得された計測値に含まれる、x、yおよびz成分ごとの加速度値から、以下の式;
【0007】
【0008】
NFFT:FFTのタップ数
p(fi)2=px(fi)2+py(fi)2+pz(fi)2
px(fi)、py(fi)、pz(fi):x、yおよびz成分ごとの加速度値からFFTで求められた周波数帯fiのパワー値
f0~fn_m:DC成分とその近傍周波数帯
に基づいて、振動特徴量Pv(t)を算出する振動特徴量算出部と、
算出された振動特徴量Pv(t)と、以下の式;
Pv(t)=ρ・v(t)2
v(t):車両の速度
ρ:路面の性状を表すパラメータである路面振動係数
に基づいて、前記路面振動係数ρを算出する路面振動係数算出部と、を備えている。
【0009】
上述の課題を解決するために、本発明の一態様に係る情報処理装置は、車両に設けられたセンサによって該車両の路面走行中に計測された計測値を取得する取得部と、取得された計測値に含まれる、x、yおよびz成分ごとの加速度値から、以下の式;
【0010】
【0011】
NFFT:FFTのタップ数
p(fi)2=px(fi)2+py(fi)2+pz(fi)2
px(fi)、py(fi)、pz(fi):x、yおよびz成分ごとの加速度値からFFTで求められた周波数帯fiのパワー値
f0~fn_m:DC成分とその近傍周波数帯
に基づいて、振動特徴量Pv(t)を算出する振動特徴量算出部と、
算出された振動特徴量Pv(t)と、以下の式;
Pv(t)=ρ・v(t)2
v(t):車両の速度
ρ:路面の性状を表すパラメータである路面振動係数
と、あらかじめ定められた前記路面振動係数ρとに基づいて、前記v(t)を算出する移動速度算出部と、を備えている。
【0012】
上述の課題を解決するために、本発明の一態様に係る情報処理方法は、車両に設けられたセンサによって該車両の路面走行中に計測された計測値を取得する取得ステップと、取得された計測値に含まれる、x、yおよびz成分ごとの加速度値から、以下の式;
【0013】
【0014】
NFFT:FFTのタップ数
p(fi)2=px(fi)2+py(fi)2+pz(fi)2
px(fi)、py(fi)、pz(fi):x、yおよびz成分ごとの加速度値からFFTで求められた周波数帯fiのパワー値
f0~fn_m:DC成分とその近傍周波数帯
に基づいて、振動特徴量Pv(t)を算出する振動特徴量算出ステップと、
算出された振動特徴量Pv(t)と、以下の式;
Pv(t)=ρ・v(t)2
v(t):車両の速度
ρ:路面の性状を表すパラメータである路面振動係数
に基づいて、前記路面振動係数ρを算出する路面振動係数算出ステップと、を含む。
【0015】
上述の課題を解決するために、本発明の一態様に係る情報処理方法は、車両に設けられたセンサによって該車両の路面走行中に計測された計測値を取得する取得ステップと、取得された計測値に含まれる、x、yおよびz成分ごとの加速度値から、以下の式;
【0016】
【0017】
NFFT:FFTのタップ数
p(fi)2=px(fi)2+py(fi)2+pz(fi)2
px(fi)、py(fi)、pz(fi):x、yおよびz成分ごとの加速度値からFFTで求められた周波数帯fiのパワー値
f0~fn_m:DC成分とその近傍周波数帯
に基づいて、振動特徴量Pv(t)を算出する振動特徴量算出ステップと、
算出された振動特徴量Pv(t)と、以下の式;
Pv(t)=ρ・v(t)2
v(t):車両の速度
ρ:路面の性状を表すパラメータである路面振動係数
と、あらかじめ定められた前記路面振動係数ρとに基づいて、前記v(t)を算出する移動速度算出ステップと、を含む。
【0018】
本発明の各態様に係る情報処理装置は、コンピュータによって実現してもよく、この場合には、コンピュータを前記情報処理装置が備える各部(ソフトウェア要素)として動作させることにより前記情報処理装置をコンピュータにて実現させる情報処理装置の制御プログラム、およびそれを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体も、本発明の範疇に入る。
【発明の効果】
【0019】
本発明の一態様によれば、車両の走行時の振動と移動速度との関係を規定する路面振動係数を求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】情報処理装置の要部構成を示すブロック図である。
【
図2】車両測位システムの概略構成を示す図である。
【
図6】さらに他の車両の速度特性を示すグラフである。
【
図7】移動軌跡推定部がカルマンフィルタを用いて行う移動軌跡の推定方法を説明する図である。
【
図8】移動軌跡上にあるビーコンの受信位置と、ビーコンの位置との関係性を模式的に示す図である。
【
図9】コスト関数のパターンの一例を示すグラフである。
【
図10】情報処理装置が実行する処理の流れを示すフローチャートである。
【
図11】情報処理装置が実行する処理の流れを示すフローチャートである。
【
図12】評価実験を実施した実験環境の地図を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
〔実施形態1〕
以下、本発明の一実施形態について、詳細に説明する。
【0022】
<車両測位システムの概要>
図2は、車両測位システムの概略構成を示す図である。図示のとおり、車両測位システム100は、情報処理装置1と、車両2と、車両2に搭載されるセンサ3とを含む。センサ3は、一例として、慣性計測装置(IMU;inertial measurement unit)である。以下では、センサ3を、IMU3と表記する。
【0023】
車両2は、車両型の移動体であり、走行現場に設定されている走行路を走行する。なお、走行現場は、屋外か屋内かは問わない。本実施形態では、車両2は、例えば、自動車、フォークリフト、台車、自動運搬車(AGV;Automatic Guided Vehicle)などが想定されている。
【0024】
図3は、IMU3の座標系を定義する図である。本実施形態では、IMU3は、IMU3の座標系が車両2の座標系と一致するような取り付け姿勢にて、車両2に取り付けられているものとする。本実施形態では、車両2の移動方向をx方向(x軸)、車両2の左右方向をy方向(y軸)と定義し、xy平面に対して鉛直方向をz方向(z軸)と定義する。つまり、本実施形態では、車両2は、特定の移動方向(x方向)にのみ前進または後進する移動体である。
【0025】
IMU3は、3方向の加速度計と、3軸のジャイロとを備え、x、y、zの3方向それぞれの加速度と、x、y、zの3軸それぞれの角速度とを計測する。IMU3は、単位時間Δtごとに、3方向の加速度および3軸の角速度を計測する。そして、IMU3は、x方向加速度、y方向加速度、z方向加速度、x軸角速度、y軸角速度およびz軸角速度の6つの要素値からなる計測値を、これらが計測された日時を示すタイムスタンプとともに、出力する。
【0026】
車両測位システム100は、さらに、車両2に搭載される受信機4と、受信機4に受信させる電波を発信する発信機5とを含んでいてもよい。発信機5は、一例として、BLE(Bluetooth(登録商標) Low Energy)の仕様に対応したBLEビーコンである。以下では、発信機5を、ビーコン5と表記する。ビーコン5は、車両2が走行する路面が存在する走行現場に複数個配置される。以下では、個々のビーコン5を個別に特定する必要がある場合には、第1ビーコン51、第2ビーコン52、第3ビーコン53、・・・などと称する。車両2がビーコン5とある距離内に近づいたときに、受信機4は、ビーコン5から常時発信されている電波信号を受信する。
【0027】
受信機4は、車両2がビーコン5の電波検知圏内に入ると、ビーコン5からの電波を受信する。受信機4は、電波に含まれている、発信元のビーコン5を識別するためのビーコンIDと、電波の受信日時を示す受信日時情報と、受信時の信号強度を示す受信信号強度(RSSI)とを含む受信履歴を、受信の度に出力する。
【0028】
車両2は、不図示の通信装置を備えていてもよい。車両2の通信装置は、車両2が走行を終了した後、走行中にIMU3が計測した計測値群および受信機4が記録した受信履歴群を、通信ネットワークNWを介して、情報処理装置1に送信してもよい。他の例では、車両2には、着脱可能な記録媒体が備えられていてもよい。この場合、車両2が走行を終了した後、IMU3が計測した計測値群および受信機4が記録した受信履歴群を記録した記録媒体は、車両2から取り外され、読み取り可能に情報処理装置1に接続される。さらに他の例では、車両2の上述の不図示の通信装置は、車両2の走行中、リアルタイムに、IMU3が計測する計測値を逐次情報処理装置1に送信してもよいし、受信機4がビーコン5からの電波を受信する度に、受信履歴を情報処理装置1に送信してもよい。
【0029】
情報処理装置1は、IMU3から出力された計測値群を解析して、車両2が走行した路面の路面性状および車両2の速度を推定し、車両2の測位を行う。具体的には、情報処理装置1は、計測値群を解析することにより単位時間ごとの車両2の相対位置の集合から推定した移動軌跡を得る。その後、情報処理装置1は受信機4から出力された受信履歴群を利用して、推定した移動軌跡および路面性状について、走行現場の座標系における絶対位置を決定する。これにより、車両2の走行現場における走行経路、および、走行現場の路面性状を得ることができる。
【0030】
<情報処理装置の構成>
図1は、情報処理装置1の要部構成を示すブロック図である。情報処理装置1は、制御部10と、記憶部11と、通信部12とを備えている。制御部10は、情報処理装置1の各部を統括して制御する。記憶部11は、情報処理装置1が使用する各種データを記憶する。通信部12は、通信ネットワークNWを介して、車両2の不図示の通信装置、または、車両2に搭載されているIMU3および受信機4などの、他の装置と通信する。
【0031】
制御部10は、例えば、CPU(central processing unit)または専用プロセッサなどの制御装置により構成されてもよい。
図1を参照して後述する制御部10の各部は、CPUなどの制御装置が、ROM(read only memory)などで実現された記憶装置(記憶部11)に記憶されているプログラムをRAM(random access memory)などに読み出して実行することで実現できる。
【0032】
制御部10は、取得部21、振動特徴量算出部22、移動速度算出部23および路面振動係数算出部24を備えている。制御部10は、さらに、移動軌跡推定部25および位置決め部26を備えていてもよい。
【0033】
記憶部11には、計測値データベース41(以下、計測値DB41)および観測ベクトル42が記憶されている。記憶部11には、さらに、状態ベクトル43、移動軌跡44、受信履歴データベース45(以下、受信履歴DB45)および地図データ46が記憶されていてもよい。
【0034】
<処理概要>
取得部21は、通信部12を介して、IMU3によって計測された計測値をタイムスタンプとともに車両2から取得して、計測値DB41に保存する。計測値DB41には、6つの要素値からなる計測値の群が、タイムスタンプに示された計測日時ごとに時系列で登録される。
【0035】
振動特徴量算出部22は、振動特徴量Pv(t)を算出する。
【0036】
移動速度算出部23は、時点tにおける移動速度v(t)を算出する。
【0037】
路面振動係数算出部24は、車両2が走行した路面の性状に起因する車両2の振動強度を表す路面振動係数ρを算出する。
【0038】
移動軌跡推定部25は、カルマンフィルタを用いてΔtごとの速度を推定する。そして、移動軌跡推定部25は、推定した速度を用いてΔtごとの軌跡を作成し、それを連結して移動軌跡を作成する。
【0039】
位置決め部26は、ビーコン信号を使ってコストを最小化する初期条件(車両2の初期方位および初期位置)を特定し、確定移動経路を得て、車両2が走行した走行現場の地図データを作成する。
【0040】
なお、移動速度算出部23は、算出された振動特徴量Pv(t)と、以下の式;
Pv(t)=ρ・v(t)2
v(t):車両の速度
ρ:路面の性状を表すパラメータである路面振動係数
と、あらかじめ定められた前記路面振動係数ρとに基づいて、前記v(t)を算出することができる。
【0041】
以下では、移動軌跡推定部25によって推定される「移動軌跡」は、車両2の単位時間ごとの相対位置の集合で構成されており、走行現場の座標系における初期位置および初期方位が定まっていない軌跡を指す。この移動軌跡について、走行現場の座標系における初期位置および初期方位が定まって、走行現場の地図上にマッピングすることが可能な状態となった車両2の軌跡を「確定移動経路」と称し、これらを区別する。
【0042】
<処理詳細>
(振動特徴量に基づく移動速度および路面振動係数の算出)
振動特徴量算出部22は、取得された計測値に含まれる、x、yおよびz成分ごとの加速度値に基づいて、計測値が計測される時間間隔Δtごとに、振動特徴量Pv(t)を算出する。
【0043】
振動特徴量算出部22は、振動特徴量Pv(t)を、
【0044】
【0045】
・・・・式(1)
に基づいて算出する。
【0046】
ここで、NFFTはFFTのタップ数、p(fi)はFFTで求められる加速度成分の周波数帯fiでのパワーの総和である。振動特徴量算出部22は、p(fi)を、以下の式(2)から求める。
p(fi)2=px(fi)2+py(fi)2+pz(fi)2・・・式(2)
px(fi)、py(fi)、pz(fi)は、IMU3の座標系に分解された加速度のx、yおよびz方向の各成分からFFTで求められた周波数帯fiのパワー値である。
【0047】
また、式(1)から明らかなように、振動特徴量Pv(t)は、低い周波数成分の影響を強く受けるため、DC成分とその近傍周波数帯(f0~fn_m)を除外することが必要である。
【0048】
振動特徴量算出部22は、p(fi)の算出のために、IMU3の計測値を直接用いることができるが、算出の精度を高めるために、より好ましくは、鉛直方向(Z方向)と水平方向の成分(X方向およびY方向)に分解して、p(fi)を算出することが好ましい。鉛直方向の成分と、水平方向の成分との分解は、例えば、姿勢計測方法などと組み合わせて実現することが可能である。鉛直方向の成分と水平方向の成分との分解により、IMU3の計測値(加速度値および角速度値)を鉛直成分および水平成分に分解するために必要な回転行列を得ることができる。
【0049】
ここで、本発明者らは、振動特徴量Pv(t)が車両2の移動速度v(t)の2乗と線形相関性が高いことを実験的に確認した(
図4~
図6)。
【0050】
【0051】
図4~
図6は、いくつかのタイプの車両について、その速度特性を示すグラフである。
図4は、台車の速度特性を示すグラフである。
図5は、ハンドフォーク(トラスコ中山、型番:THP-20-511)の速度特性を示すグラフである。
図6は、電動フォークリフト(住友フォークリフト QuaPro-R、型番:61FBR135)の速度特性を示すグラフである。なお、振動特徴量の計算条件は、N
FFT=128、F
s=100[Hz]であり、DC~6Hzまでの周波数帯(f
0~f
n_m:DC成分とその近傍周波数帯)の成分をカットしている。
【0052】
各グラフにおいて、振動特徴量について、移動速度の2乗との間で高い線形相関性が示されている。
図4~
図6の各グラフから明らかであるように、運動機構または動力源がまったく異なる車両であっても、本開示の振動特徴量が示す速度の2乗との間の線形相関性はきわめて高い。
【0053】
そこで、路面振動係数算出部24は、振動特徴量Pv(t)と移動速度v(t)の2乗との比例係数を、路面振動係数ρとして算出する。
【0054】
さらに、振動特徴量算出部22は、算出した時点tにおける振動特徴量Pv(t)と、取得部21から取得された、時点tにおける移動方向(x方向)に沿った加速度値αf(t)とを組にして記憶部11に記憶する。詳細には、振動特徴量算出部22は、単位時間Δtごとに計測された計測値を、観測ベクトル42として記憶部11に記憶する。なお、詳細は後述するが、観測ベクトル42は、
【0055】
【0056】
・・・式(3)
と表現され得る。
【0057】
(VDR手法に基づく移動軌跡の推定)
移動軌跡推定部25は、上述した振動特徴量を観測に取り込んだカルマンフィルタを用いて、車両2の移動軌跡を推定する。
【0058】
移動軌跡推定部25は、単位時間Δtごとに、カルマンフィルタを用いて、車両2のx方向に沿った移動速度vfおよび加速度afを推定し、単位時間Δtごとの移動距離を特定する。次に、移動軌跡推定部25は、単位時間ΔtごとにIMU3によって計測されたz軸の角速度値に基づいて、単位時間Δtごとに、相対的なz軸上の回転量を得る。これにより、移動軌跡推定部25は、単位時間Δtごとに、前回の時点における車両2の位置からの相対位置を特定し、各相対位置に基づいて移動軌跡44を特定する。
【0059】
本実施形態では、移動軌跡推定部25が移動軌跡44の推定に用いるカルマンフィルタは、以下の状態ベクトル43と、観測ベクトル42とによって規定され得る。具体的には、状態ベクトル43は、移動方向に沿った速度vf(単位:[m/s])と、移動方向に沿った加速度af(単位:[m/s2])と、加速度出力に含まれるオフセット誤差ba(単位:[m/s2])とを要素とし、
【0060】
【0061】
・・・式(4)
と表現され得る。観測ベクトル42は、式(3)として示したとおりである。
【0062】
図7は、移動軌跡推定部25がカルマンフィルタを用いて行う移動軌跡44の推定方法を説明する図である。注目時点tnに関して、移動軌跡推定部25が実行する一巡の処理は、予測ステップと更新ステップとを含む。以下では、t2を注目時点として説明する。
【0063】
予測ステップでは、移動軌跡推定部25は、前回の時点t1における状態ベクトル43の各推定値St1(vf1、af1、ba1)に基づいて、注目時点t2における状態ベクトル43の各推定値を予測する。
【0064】
更新ステップでは、まず、移動軌跡推定部25は、注目時点t2において観測された観測ベクトル42の各観測値O(t2)=(Pv(t2)、αf(t2))に基づいて、観測誤差共分散行列を得る。そして、移動軌跡推定部25は、観測誤差共分散行列に基づいて、予測ステップにて予測した各値を修正して、最終的に、注目時点t2における状態ベクトル43の各推定値St2(vf2、af2、ba2)を得る。
【0065】
最後に、移動軌跡推定部25は、注目時点t2における移動速度vf2と、z軸の角速度とに基づいて、次の時点t3までに車両2がどの方向にどのくらいの距離を進むのかを決定する(矢印arr2)。この矢印arr2の終点は、次の時点t3における車両2の相対位置となる。
【0066】
上述の更新ステップについて、具体例を示すと以下のとおりである。
【0067】
まず、状態ベクトル43の更新方程式は、以下の式によって定義できる。
【0068】
【0069】
・・・式(5)
ここで、Δtをサンプル時間間隔[s]とおくと、Fは以下の式で表すことができる。
【0070】
【0071】
・・・式(6)
状態ベクトルに関する観測を、振動特徴量Pv(t)と加速度センサ出力を移動方向へマップしたαf(t)とすると、その観測ベクトルO(t)と状態ベクトルとの関係は、以下の観測方程式として表現できる。
【0072】
【0073】
・・・式(7)
式(7)の観測方程式に現れる関数h(x)は、非線形であるため、テイラー展開による線形化方法を用いて線形化する。すなわち、関数h(x)のヤコビアン行列を求めることで、以下の線形化された観測行列Hが得られる。これによって観測誤差共分散行列を更新する。
【0074】
【0075】
・・・式(8)
ただし、路面性状の変化によって式(7)の観測方程式に現れるρの値も変化する。そこで、大きな振動特徴量に関する観測誤差を異常値として捉えて、路面性状の変化と見なし、異常値となっている区間では観測を入力せず予測ステップのみでカルマンフィルタを更新することとする。
【0076】
例えば、
図7において、注目時点がt3であるとき、移動軌跡推定部25は、前回の時点t2の観測ベクトル42から得られるρ
t2の値と、注目時点t3の観測ベクトル42から得られるρ
t3の値とを比較する。ρの差が所定閾値以上である場合には、時点t2から時点t3までの区間において、路面性状に変化があったと判断できる。この場合、移動軌跡推定部25は、予測ステップにおいて、前回の時点t2における状態ベクトル43の各推定値に基づいて予測した予測結果を、観測ベクトル42に基づく修正を行わずにそのまま、時点t3の状態ベクトル43の各推定値S
t3(v
f3、a
f3、b
a3)として確定させる。
【0077】
移動軌跡推定部25は、計測期間に得られた計測値ごとに以上の処理を繰り返し、
図8に示すような移動軌跡44を得て、記憶部11に記憶する。移動軌跡44は、一定時間Δtごとの車両2の相対位置をつないで得られたものであり、車両2が移動した軌跡を示す。ここで、移動軌跡44は、走行現場の座標系における絶対位置が定まっていない。そこで、位置決め部26が、走行現場の座標系における移動軌跡44の絶対位置を決定する。具体的には、位置決め部26は、走行現場の座標系における移動軌跡44の初期位置(X
I、Y
I)と、初期方位θとを決定することにより、移動軌跡44の絶対位置を決定する。
【0078】
(ビーコン信号に基づく移動軌跡の位置決め)
BLEビーコンは、BLE通信を用いて電波信号を発信することに特化した通信装置であり、屋内測位ではよく用いられる。BLEビーコンからの電波はBLEビーコンからの距離の2乗に反比例してRSSIが弱まるため、複数個のBLEビーコンからのRSSIに基づいて、原理的には、受信機4つまり車両2の位置を推定できる。しかしながら、BLEで用いられる2.4GHz帯の信号は干渉または反射などの様々な要因により乱されるため、BLEビーコンのみに基づいて位置を特定することは一般的には困難である。
【0079】
そこで、位置決め部26は、移動軌跡44上に特定された受信位置におけるビーコン5のRSSIと、該受信位置からビーコン5までの距離dとから求まるコスト関数を最小化する移動軌跡44の初期位置(XI、YI)と、初期方位θとを解として求める。具体的には、位置決め部26は、VDRにおける誤差要因を、初期方位θ、走行現場の座標系におけるx方向の初期位置XI、y方向の初期位置YIおよび路面性状を表すパラメータとしての路面振動係数ρの4つのパラメータに分解して、各パラメータの条件を変化させる。
【0080】
本実施形態では、位置決め部26は、路面振動係数ρについては、観測誤差が大きい異常値と検知される区間についてのみ変化させることが好ましい。こうして路面振動係数ρを固定値とすることにより、位置決め部26は、4つのパラメータの組み合わせ数を大幅に削減し、低負荷処理にて、移動軌跡44の絶対位置を求めることが可能となる。
【0081】
図8は、移動軌跡44上にあるビーコン5の受信位置と、ビーコン5の位置との関係性を模式的に示す図である。
【0082】
図8に示すとおり、位置決め部26は、まず、移動軌跡44上に、車両2の受信機4がビーコン5から電波を受信した受信位置を特定する。移動軌跡44を構成する相対位置(矢印の始点)には、Δt間隔で計測された計測値のタイムスタンプ(時点t0、t1、t2、・・・)が関連付けられている。一方、受信履歴DB45に登録されている各受信履歴には、発信元のビーコン5のビーコンIDと、そのビーコン5から電波を受信したときの受信日時情報とが含まれている。そこで、位置決め部26は、タイムスタンプと受信日時情報との差として決定される走行時間に、始点における状態ベクトルの速度v
fを乗じた距離だけ移動した位置を、ビーコン5からの受信位置(x
i、y
i)として移動軌跡44上に特定することができる。
【0083】
図示の例では、受信位置は(xi、yi)、ビーコン5の位置は(xbi、ybi)で示されている。ここで、ビーコン5の位置(xbi、ybi)は既知である。また、各受信位置においては、RSSI(=ri)が得られている。位置決め部26は、受信位置(xi、yi)と、それに対応するビーコン5の位置(xbi、ybi)との間の距離diに基づいてコスト関数cost(ri、di)を決定し、その総和cを最小化するパラメータの組み合わせ(θ、XI、YI、ρ)を解とする。具体的には、位置決め部26は、以下の式;
【0084】
【0085】
・・・式(9)
に基づいて、移動軌跡44の初期方位θ、初期位置(XI、YI)および路面振動係数ρを決定する。
【0086】
ここで、RSSI(ri)および受信距離diに基づいてコストを決定するコスト関数は、後述するBLEビーコンの利用上の知見に基づいて設計することが好ましい。すなわち、RSSIが大きい場合には、そのことは、受信距離が短いことを意味しており、実際の受信距離が実は長いという可能性はない。しかし、RSSIが小さい場合には、そのことが、受信距離が長いことを意味しているとは限らない。人体などの障害物に電波が遮蔽されるなどして、実際の受信距離は短いのに、小さい値のRSSIが観測されたということがあり得るからである。
【0087】
そこで、位置決め部26は、上述のような制約を満たすコスト関数の一例として、
図9に示すコスト関数を採用することができる。
図9は、コスト関数のパターンの一例を示すグラフである。図示のとおり、観測されたRSSIが高いコスト関数ほど、コストが高く算出されるように上方に位置し、RSSIが高いにもかかわらず受信距離が所定距離以上である場合のコストが高く算出されるようにコスト関数を設定することができる。そして、位置決め部26は、ある受信位置に関してコストを算出するとき、該受信位置に対応するRSSIに応じてコスト関数を選択し、それに距離dをあてはめて、その受信位置でのコストを決定する。それを合計してひとつの初期位置についてコストを計算する。
【0088】
以上のとおり、位置決め部26は、移動軌跡44の、走行現場の座標系における絶対位置を決定することができる。つまり、位置決め部26は、移動軌跡44について、走行現場における初期位置および初期方位を決定して、車両2の走行現場における確定移動経路を得ることができる。さらに、位置決め部26は、移動軌跡44について求めた路面振動係数ρに基づいて、走行現場における、路面の粗さ、段差、突起、傾斜などを特定することができる。
【0089】
<処理フロー>
図10および
図11は、情報処理装置1が実行する処理の流れを示すフローチャートである。
【0090】
ステップS1(取得ステップ)では、取得部21は、IMU3および受信機4から、Δtごとの計測値を取得する。本実施形態では、一例として、車両2が走行現場のスタート地点からゴール地点まで走行した間の計測期間に計測された計測値の一群をまとめて取得する。
【0091】
ステップS2(振動特徴量算出ステップ)では、振動特徴量算出部22は、計測値に含まれるx、yおよびz成分ごとの加速度値から、振動特徴量Pv(t)を算出する。
【0092】
ステップS3では、移動速度算出部23は、移動速度v(t)を算出してもよい。
【0093】
ステップS4(路面振動係数算出ステップ)では、路面振動係数算出部24は、路面振動係数ρを算出する。そして、路面振動係数算出部24は、観測ベクトル42(Pv(t)、αf(t))を、計測値のタイムスタンプに関連付けて記憶部11に記憶する。
【0094】
ステップS2~S4は、Δtごとの計測値について繰り返して実行される。すべての計測値について、観測ベクトル42が記憶部11に記憶されると、処理は、次のステップS5に進む。次に、移動軌跡推定部25は、ステップS5~S13に示すように、移動軌跡44を推定する。
【0095】
ステップS5では、移動軌跡推定部25は、注目時点tの観測ベクトル42を記憶部11から読み出す。
【0096】
ステップS6では、移動軌跡推定部25は、注目時点tよりΔt1つ分前の時点(以下、前回の時点t-1)に関連付けられた状態ベクトル43に基づいて、注目時点tの状態を予測する。
【0097】
ステップS7では、移動軌跡推定部25は、前回の時点t-1における路面振動係数ρと、注目時点tにおける路面振動係数ρとを比較する。比較の結果、ρの差分が所定の閾値未満であれば、移動軌跡推定部25は、S8のNOからステップS9へ処理を進める。ρの差分が所定の閾値以上であれば、移動軌跡推定部25は、S8のYESからステップS11へ処理を進める。
【0098】
ステップS9では、移動軌跡推定部25は、前回の時点t-1から注目時点tまでの区間において、路面の性状に大きな変化はないと判定する。
【0099】
ステップS10では、移動軌跡推定部25は、S5で取得した注目時点tの観測ベクトル42に基づいてS6で予測した状態を修正することにより、注目時点tの状態ベクトル43を求める。
【0100】
ステップS11では、移動軌跡推定部25は、前回の時点t-1から注目時点tまでの区間において、路面の性状に大きな変化があったと判定する。ここで、移動軌跡推定部25は、注目時点tに対して、路面の性状に変化があったことを意味する異常値のラベルを付与してもよい。
【0101】
ステップS12では、移動軌跡推定部25は、注目時点tの観測ベクトル42を加味せずに、S6で予測した状態をそのまま注目時点tの状態ベクトル43として得る。
【0102】
なお、ステップS10またはS12において、移動軌跡推定部25は、次の時点t+1における車両2の相対位置を特定する。具体的には、移動軌跡推定部25は、注目時点tの計測値からz軸の角速度を取得する。移動軌跡推定部25は、取得した角速度と、ステップS10またはS12において確定させた注目時点tの状態ベクトル43に含まれている移動速度vftとに基づいて、注目時点tから、次の時点t+1までの間の移動距離と移動方向とを推定する。推定した移動距離と移動方向とで形成される矢印の終点は、次の時点t+1における車両2の相対位置となる。
【0103】
ステップS13では、移動軌跡推定部25は、計測期間のすべての計測値について解析を行い、計測期間のすべての時点について、状態ベクトル43および相対位置を得たか否かを判断する。すべての時点について解析が終了するまでは、移動軌跡推定部25は、S13のNOからS5に処理を戻し、S5~S13の処理を繰り返す。すべての時点について、状態ベクトル43および相対位置が得られた場合には、処理は、S13のYESから、S14に進められる。ここで、移動軌跡44は完成し、記憶部11に記憶される。
【0104】
ステップS14では、位置決め部26は、上述の計測期間における受信履歴を受信履歴DB45から読み出す。
【0105】
ステップS15では、位置決め部26は、受信履歴に含まれる受信日時情報に基づいて、各ビーコン5から信号を受信したときの車両2の受信位置を、移動軌跡44上に特定する。
【0106】
ステップS16では、位置決め部26は、ビーコン5の配置位置と受信位置との距離(d)を定義する。
【0107】
ステップS17では、位置決め部26は、距離(d)およびRSSI(r)のコストが最小となる、初期位置、初期方位および路面振動係数の各パラメータの組み合わせを特定する。
【0108】
ステップS18では、位置決め部26は、S17で特定した初期位置および初期方位に基づいて、走行現場の座標系に確定移動経路をマッピングし、S17で特定した路面振動係数に基づいて、路面性状の情報を走行現場の座標系にマッピングする。こうして、位置決め部26は、車両2の確定移動経路と、路面性状の情報とがマッピングされた地図データ46を生成し、記憶部11に記憶する。
【0109】
<適用例>
本開示の情報処理装置1および方法によれば、車両の移動速度の2乗と線形相関性の高い振動特徴量を算出することにより、路面の粗さを表す路面振動係数ρを求めることができる。
【0110】
さらに、例えば、BLE(Bluetooth Low Energy)ビーコンが設置された屋内環境を対象として、VDR技術とビーコンの受信履歴とを組み合わせて、コストを計算することにより、移動軌跡44の始点における路面振動係数ρを用いて後続の移動経路の路面振動係数ρを自動的に推定することができる。また、路面振動係数ρは路面の粗さを表すことが分かっている。走行現場のマップ上の路面振動係数ρを求めることは、実際に走行した車両2についての適正な路面振動係数ρを得るだけでなく、同じタイプの別の車両について適正な路面振動係数ρを得ることにも寄与する。
【0111】
その上、本開示の情報処理装置1および方法によれば、走行時に車両2が遭遇した段差、突起、傾斜または路面性状の急変などは、路面振動係数ρの局所的な異常値として検出される。そのため、異常値が検出された場所を走行現場の地図上へマップすることにより、車椅子や自律ロボットに対するバリアフリーマップの作成に寄与することが期待できる。
【0112】
また、路面振動係数の変化については、GPS(Global Positioning System)などの衛星測位と組み合わせることで簡便な計測が期待できるため、一般道または高速道路上の路面劣化の計測に応用できる可能性がある。
【実施例1】
【0113】
本発明の一実施例について以下に説明する。
図12に示す実験環境(33m×53mの実験室エリア)において評価実験を実施した。本環境中ではBLEビーコン(アプリックス社製)が
図12で正方形のマークで示されているように、計25個配置されている。
図12の太線(始点および終点は、星形のマーカで示されている)は、車両2としての電動車椅子(Whill社製)による移動経路の真値(移動距離:139.1m)であり、LiDARを用いて計測されたものである。本環境中には路面条件が異なるエリアが2種類(カーペット状の床面とつるつるした床面)あり、別途計測された実験により、路面振動係数ρは、約1.5倍だけ異なっていることが事前に分かっている。
【0114】
本評価実験では、初期方位を真値(=90度)と揃えた場合と、初期方位を未知として探索を開始した場合との二つの条件で測位精度を評価した。慣性計測装置として、専用のアプリケーションがインストールされたスマートフォン(Google Pixel 3XL、Android(登録商標) 9.0)を用いた。該専用のアプリケーションで取得された計測値群(計測周波数:100Hz)に基づいて、本開示の方法にしたがって、上述の電動車椅子の移動軌跡を推定した。これにより得られた推定結果と、LiDARにより取得された真値と比較して誤差を評価した。初期方位の探索条件は、1度刻みによる全方位検索とした。初期位置の探索条件は、0.25m刻みで最大±15mの範囲を検索することとした。路面振動係数の探索条件は、0.01刻みで0.25~2.0の範囲を検索することとした。また、BLEビーコンのRSSIが-90dBm以下となった受信データは、読み捨てることとした。
【0115】
評価実験の結果を
図13に示す。なお、本評価実験では、路面振動係数ρの異常値は、計4カ所で検出され、そのうちの3カ所は路面上の段差であり、残りの1カ所は路面性状の変化であった。また、自動的に推定された路面振動係数ρの誤差比は10%以内であった。
【0116】
本開示において、速度の2乗と線形相関性の高い振動特徴量が提案された。そして、振動特徴量に基づいて、拡張カルマンフィルタを用いた速度推定方法、移動軌跡推定方法が提案された。そして、BLEビーコンが配置された走行現場において、路面および車両について路面振動係数を自動で推定する方法が提案された。電動車椅子による走行評価実験により、本開示に提案された方法に基づいて得られた確定移動経路は、LiDARが計測した真値に対して、走行距離に比例して2~3%程度の累積誤差で抑えられることが示された。
【0117】
〔ソフトウェアによる実現例〕
情報処理装置1の制御ブロック(特に、取得部21、振動特徴量算出部22、移動速度算出部23、路面振動係数算出部24、移動軌跡推定部25および位置決め部26)は、集積回路(ICチップ)等に形成された論理回路(ハードウェア)によって実現してもよいし、ソフトウェアによって実現してもよい。
【0118】
後者の場合、情報処理装置1は、各機能を実現するソフトウェアであるプログラムの命令を実行するコンピュータを備えている。このコンピュータは、例えば1つ以上のプロセッサを備えていると共に、上記プログラムを記憶したコンピュータ読み取り可能な記録媒体を備えている。そして、上記コンピュータにおいて、上記プロセッサが上記プログラムを上記記録媒体から読み取って実行することにより、本発明の目的が達成される。上記プロセッサとしては、例えばCPU(Central Processing Unit)を用いることができる。上記記録媒体としては、「一時的でない有形の媒体」、例えば、ROM(Read Only Memory)等の他、テープ、ディスク、カード、半導体メモリ、プログラマブルな論理回路などを用いることができる。また、上記プログラムを展開するRAM(Random Access Memory)などをさらに備えていてもよい。また、上記プログラムは、該プログラムを伝送可能な任意の伝送媒体(通信ネットワークや放送波等)を介して上記コンピュータに供給されてもよい。なお、本発明の一態様は、上記プログラムが電子的な伝送によって具現化された、搬送波に埋め込まれたデータ信号の形態でも実現され得る。
【0119】
〔付記事項〕
本開示に係る情報処理装置1は、車両2に設けられたセンサ(IMU3)によって該車両の路面走行中に計測された計測値を取得する取得部21と、取得された計測値に含まれる、x、yおよびz成分ごとの加速度値から、以下の式;
【0120】
【0121】
NFFT:FFTのタップ数
p(fi)2=px(fi)2+py(fi)2+pz(fi)2
px(fi)、py(fi)、pz(fi):x、yおよびz成分ごとの加速度値からFFTで求められた周波数帯fiのパワー値
f0~fn_m:DC成分とその近傍周波数帯
に基づいて、振動特徴量Pv(t)を算出する振動特徴量算出部22と、
算出された振動特徴量Pv(t)と、以下の式;
Pv(t)=ρ・v(t)2
v(t):車両の速度
ρ:路面の性状を表すパラメータである路面振動係数
に基づいて、前記路面振動係数ρを算出する路面振動係数算出部24と、を備えている。
【0122】
上述の情報処理装置1は、前記計測値が得られる単位時間Δtごとに、カルマンフィルタを用いて、前記車両のx方向に沿った移動速度vfおよび加速度afを推定することにより、単位時間Δtごとの移動距離を特定する移動軌跡推定部25をさらに備え、前記移動軌跡推定部は、前記カルマンフィルタの予測ステップにて、注目時点tから単位時間Δt前の時点t-1において推定した移動速度vft-1および加速度aft-1に基づいて、注目時点tの移動速度vftおよび加速度aftの予測値を求め、前記カルマンフィルタの更新ステップにて、注目時点tにおいて観測された振動特徴量Pv(t)および加速度αf(t)に基づいて、観測誤差共分散行列
【0123】
【0124】
を得て、該観測誤差共分散行列に基づいて、前記予測ステップにて予測した各予測値を修正することにより、注目時点tにおける、移動速度vftおよび加速度aftの推定値を求めてもよい。
【0125】
上述の情報処理装置1において、前記移動軌跡推定部は、単位時間Δtごとに前記センサによって計測されたz軸の角速度値に基づいて、単位時間Δtごとにz軸回りの回転量を取得し、注目時点tにおける、移動速度vftおよび加速度aftの推定値と、前記z軸回りの回転量とに基づいて、前記注目時点tから単位時間Δt後の時点t+1までの移動距離および移動方向を推定してもよい。
【0126】
上述の情報処理装置1は、前記移動軌跡推定部によって単位時間Δtごとに推定された移動距離および移動方向から特定される移動軌跡44について、前記車両が走行した走行現場の座標系における初期条件としての初期位置および初期方位を決定することにより、前記車両の前記走行現場における移動経路を決定する位置決め部をさらに備え、前記車両には、前記走行現場に配置された1または複数の発信機からの電波信号を受信する受信機が設けられており、前記取得部は、前記受信機から出力される、発信元を識別する発信機IDと、電波信号の受信日時を示す受信日時情報と、受信時の信号強度を示す受信信号強度(RSSI)とを含む、受信履歴を取得し、前記位置決め部は、前記受信日時情報に基づいて、前記受信機が前記発信機から電波信号を受信した受信位置を前記移動軌跡上に特定し、前記走行現場の座標系における前記発信機の位置から前記受信位置までの距離(d)と該受信位置におけるRSSIとから求まるコストが最小となるように、前記初期条件である、初期方位θ、走行現場の座標系におけるx方向の初期位置XI、および、y方向の初期位置YIを特定してもよい。
【0127】
上述の情報処理装置1において、前記位置決め部は、前記移動軌跡を、特定した前記x方向の初期位置XI、y方向の初期位置YI、および、初期方位θに基づいて、前記走行現場の座標系に確定移動経路としてプロットすることにより、前記走行現場の地図データ46を生成してもよい。
【0128】
本開示に係る情報処理装置は、車両に設けられたセンサによって該車両の路面走行中に計測された計測値を取得する取得部と、取得された計測値に含まれる、x、yおよびz成分ごとの加速度値から、以下の式;
【0129】
【0130】
NFFT:FFTのタップ数
p(fi)2=px(fi)2+py(fi)2+pz(fi)2
px(fi)、py(fi)、pz(fi):x、yおよびz成分ごとの加速度値からFFTで求められた周波数帯fiのパワー値
f0~fn_m:DC成分とその近傍周波数帯
に基づいて、振動特徴量Pv(t)を算出する振動特徴量算出部と、
算出された振動特徴量Pv(t)と、以下の式;
Pv(t)=ρ・v(t)2
v(t):車両の速度
ρ:路面の性状を表すパラメータである路面振動係数
と、あらかじめ定められた前記路面振動係数ρとに基づいて、前記v(t)を算出する移動速度算出部23と、を備えている。
【0131】
本開示に係る情報処理方法は、車両に設けられたセンサによって該車両の路面走行中に計測された計測値を取得する取得ステップと、取得された計測値に含まれる、x、yおよびz成分ごとの加速度値から、以下の式;
【0132】
【0133】
NFFT:FFTのタップ数
p(fi)2=px(fi)2+py(fi)2+pz(fi)2
px(fi)、py(fi)、pz(fi):x、yおよびz成分ごとの加速度値からFFTで求められた周波数帯fiのパワー値
f0~fn_m:DC成分とその近傍周波数帯
に基づいて、振動特徴量Pv(t)を算出する振動特徴量算出ステップと、
算出された振動特徴量Pv(t)と、以下の式;
Pv(t)=ρ・v(t)2
v(t):車両の速度
ρ:路面の性状を表すパラメータである路面振動係数
に基づいて、前記路面振動係数ρを算出する路面振動係数算出ステップと、を含む。
【0134】
本開示に係る情報処理方法は、車両に設けられたセンサによって該車両の路面走行中に計測された計測値を取得する取得ステップと、取得された計測値に含まれる、x、yおよびz成分ごとの加速度値から、以下の式;
【0135】
【0136】
NFFT:FFTのタップ数
p(fi)2=px(fi)2+py(fi)2+pz(fi)2
px(fi)、py(fi)、pz(fi):x、yおよびz成分ごとの加速度値からFFTで求められた周波数帯fiのパワー値
f0~fn_m:DC成分とその近傍周波数帯
に基づいて、振動特徴量Pv(t)を算出する振動特徴量算出ステップと、算出された振動特徴量Pv(t)と、以下の式;
Pv(t)=ρ・v(t)2
v(t):車両の速度
ρ:路面の性状を表すパラメータである路面振動係数
と、あらかじめ定められた前記路面振動係数ρとに基づいて、前記v(t)を算出する移動速度算出ステップと、を含む。
【0137】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0138】
1 情報処理装置
2 車両
3 IMU(センサ)
4 受信機
5 BLEビーコン(発信機)
10 制御部
11 記憶部
12 通信部
21 取得部
22 振動特徴量算出部
23 移動速度算出部
24 路面振動係数算出部
25 移動軌跡推定部
100 車両測位システム