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特許7493874精製食用油脂の製造方法、食用油脂の曝光臭改善方法、及び精製食用油脂
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  • 特許-精製食用油脂の製造方法、食用油脂の曝光臭改善方法、及び精製食用油脂 図1
  • 特許-精製食用油脂の製造方法、食用油脂の曝光臭改善方法、及び精製食用油脂 図2
  • 特許-精製食用油脂の製造方法、食用油脂の曝光臭改善方法、及び精製食用油脂 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-24
(45)【発行日】2024-06-03
(54)【発明の名称】精製食用油脂の製造方法、食用油脂の曝光臭改善方法、及び精製食用油脂
(51)【国際特許分類】
   A23D 9/02 20060101AFI20240527BHJP
   A23D 9/00 20060101ALI20240527BHJP
   C11B 3/12 20060101ALI20240527BHJP
   C11B 3/08 20060101ALI20240527BHJP
【FI】
A23D9/02
A23D9/00 506
C11B3/12
C11B3/08
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020054351
(22)【出願日】2020-03-25
(65)【公開番号】P2021153406
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2022-12-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000227009
【氏名又は名称】日清オイリオグループ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】豊島 尊
(72)【発明者】
【氏名】辻野 祥伍
(72)【発明者】
【氏名】生稲 淳一
(72)【発明者】
【氏名】青柳 寛司
【審査官】安田 周史
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-193776(JP,A)
【文献】特許第7180031(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D 9/02
A23D 9/00
C11B 3/12
C11B 3/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
精製食用油脂の製造方法において、油脂をオゾンに接触させる工程を経て、120~230℃、10~50000Paで脱臭する工程を経る、精製食用油脂の製造方法。
【請求項2】
前記油脂をオゾンに接触させる工程が、油脂とオゾンを1分以上接触させるものである、請求項1に記載の精製食用油脂の製造方法。
【請求項3】
前記油脂が大豆油を10~100質量%含有する、請求項1又は2に記載の精製食用油脂の製造方法。
【請求項4】
精製食用油脂が、曝光臭が改善されたものである、請求項1~3のいずれか一項に記載の精製食用油脂の製造方法。
【請求項5】
油脂をオゾンに接触させ、120~230℃で脱臭することを特徴とする、精製食用油脂の曝光臭改善方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、精製食用油脂の製造方法、食用油脂の曝光臭改善方法、及び精製食用油脂に関する。
【背景技術】
【0002】
食用油脂は、酸化により風味劣化を生じることが知られている。酸化は、高温化あるいは光により進むものと考えられるが、光の有無により油脂の風味の質が異なることから、曝光による風味劣化は、その他の油脂の酸化劣化とは原因物質・メカニズム等が異なると認識されている。食用油脂は、透明の容器で流通・販売しており、その際に、光に曝されやすい。また、食用油脂を用いた揚げ物、炒め物等の加熱調理品や、食用油脂配合品のドレッシング、マヨネーズ等も流通、販売の過程で光に曝され、食用油脂由来の風味劣化を生じる。特に大豆油においては、曝光による風味劣化が酷く、その改善が求められていた。
【0003】
例えば、特許文献1には、アラキドン酸等を含む明所保存臭の改善された大豆油含有油脂組成物が提案されている。また、特許文献2には、大豆油等を低温で蒸留することにより曝光臭を改善させる方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許6175003号公報
【文献】特開2015-193776号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の方法では、曝光臭改善効果を有する添加剤(アラキドン酸含有油脂)が残存するため、添加したアラキドン酸含有油脂の風味の影響を受け、食用油本来の風味と異なる風味を有する問題があった。また、特許文献2の方法より、更なる改善を求める要望もあった。
【0006】
そこで、本発明は、更なる曝光臭が改善された精製食用油脂及びその製造方法、精製食用油の曝光臭改善方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を達成するために、下記の[1]~[6]を提供する。上記課題を解決する本発明の要旨構成は、以下の通りである。
[1] 精製食用油脂の製造方法において、油脂をオゾンに接触させる工程を経て、120~230℃で脱臭する工程を経る、精製食用油脂の製造方法。
[2] 前記油脂をオゾンに接触させる工程が、油脂とオゾンを1分以上接触させるものである、[1]の精製食用油脂の製造方法。
[3] 前記油脂が大豆油を10~100質量%含有する、[1]又は[2]の精製食用油脂の製造方法。
[4] 精製食用油脂が、曝光臭が改善されたものである、[1]~[3]のいずれかの精製食用油脂の製造方法。
[5] 油脂をオゾンに接触させ、120~230℃で脱臭することを特徴とする、精製食用油脂の曝光臭改善方法。
[6] [1]~[4]のいずれかの精製食用油脂の製造方法で得られた精製食用油脂。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、簡便な処理で、曝光臭が改善される精製食用油脂の製造方法、及び精製食用油脂の曝光臭改善方法を提供することができる。また、本発明で得られた精製食用油脂は曝光下で長期に保管されても、不快な風味の発生が抑えられる。そのため、本発明で得られた精製食用油脂、及び精製食用油脂で製造された加工食品(加熱調理品、マヨネーズ、ドレッシング等)も、油脂に由来する曝光臭が改善される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】オゾンに接触させた未蒸留油脂(曝光品)の揮発成分の比較を示すグラフである。
図2】オゾンに接触させた蒸留油脂(未曝光品)の揮発成分の比較を示すグラフである。
図3】オゾンに接触させた蒸留油脂(曝光品)の揮発成分の比較を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明者らは、油脂をオゾンに接触させ、120~230℃で脱臭した精製食用油脂が、従来の精製食用油脂に比べて曝光臭の発生が抑えられていることを見出した。これらの知見に基づき、本発明の精製食用油の製造方法、及び精製食用油の曝光臭改善方法を完成するに至った。
【0011】
以下、本願発明の精製食用油の製造方法、及び精製食用油の曝光臭改善方法について、詳説する。なお、本発明の実施の形態において、A(数値)~B(数値)は、A以上B以下を意味する。
【0012】
<精製食用油脂の製造方法>
本発明の精製食用油脂の製造方法において、油脂をオゾンに接触させる工程を経て、蒸留工程を経る。高温での単純な蒸留のみでは、曝光臭の改善が見られないので、油脂をオゾンに接触させる工程あるいは油脂をオゾンに接触させた後の蒸留工程で、曝光臭の原因物質が分解し、蒸留除去されるものと考えられる。
(油脂)
本発明で用いる油脂は、通常の油脂を主成分として含む。通常の油脂は、動植物油脂及びその水素添加油、分別油、エステル交換油などを単独あるいは組み合わせて用いることができる。動植物油脂としては、例えば、大豆油、なたね油、ハイオレイックなたね油、ひまわり油、ハイオレイックひまわり油、オリーブ油、サフラワー油、ハイオレイックサフラワー油、コーン油、綿実油、米油、ゴマ油、グレープシード油、落花生油、牛脂、乳脂、魚油、ヤシ油、パーム油、パーム核油などが挙げられる。一般的に油脂は、曝光により風味劣化を生じるが、固形油脂は白濁するので、曝光の影響が弱くなる。そのため、流通時、あるいは保管時(例えば、10~40℃)に液状である油脂が好ましい。また、特に大豆油が含有されている油脂は、曝光臭の影響を受けやすく、本発明の効果を得やすい。そのため、油脂中に大豆油を10~100質量%含有する油脂を用いることが好ましく、油脂中に大豆油を50~100質量%含有する油脂を用いることがより好ましい。特に限定するものではないが、ヨウ素価110~140の大豆油や高オレイン酸品種の大豆油(ヨウ素価80~90)を用いることもできる。なお、ヨウ素価は、日本油化学会制定「基準油脂分析試験法 2.3.4.1-1996 ヨウ素価(ウィイス-シクロヘキサン法)に準拠して測定することができる。
【0013】
油脂は、未精製の油脂、精製工程を経た油脂を用いることができる。精製工程を経た油脂としては、通常の油脂の精製で用いられる、脱ガム工程、脱酸工程、脱色工程、脱ロウ工程、脱臭工程等のいずれか、又は全部を経た油脂を用いることができる。
【0014】
(油脂をオゾンに接触させる工程)
本発明において、油脂をオゾンに接触させる工程を有する。この工程により、曝光臭の原因物質が分解あるいは蒸留で分解しやすい化合物に変化すると考えられる。オゾンは、酸素原子3個から構成される気体であり、オゾン気体を油脂に接触させるか、オゾンを含有する水を油脂と撹拌することで接触させることもできる。オゾンを接触させた後に、オゾン以外の成分を除去する必要がないことから、オゾン気体を油脂に接触させることが好ましい。オゾン気体を油脂に接触させる方法としては、脱気された油脂をオゾン気体と接触させる方法、及び/又は、油脂中にオゾン気体をバブリングさせることで接触させる方法を用いることができる。なお、オゾンの発生装置は、特に限定するものではないが、空気中あるいは酸素中での紫外線照射、または空気中あるいは酸素中での無声放電など高いエネルギーを持つ電子と酸素分子の衝突によって発生させるものを利用することができる。また、市販の水や食品等の殺菌、脱臭、脱色に用いるものを利用することができる。
【0015】
油脂とオゾンとの接触は、長いほど曝光臭改善効果が高く、1分以上であることが好ましく、2分~24時間であることがより好ましい。油脂とオゾンを3分~6時間接触させることがさらに好ましく、油脂とオゾンを10分~2時間接触させることがことさら好ましい。また、接触温度は、オゾンと油脂を接触させるため、油脂が液状である温度であればよく、―10℃以上であることが好ましく、5℃以上であることがより好ましい。また、接触温度は、高くなると油脂の酸化反応が促進され、反応のコントロールが難しくなるので、接触温度は180℃以下が好ましく、100℃以下がより好ましい。接触温度は10~60℃がさらに好ましく、10~40℃が最も好ましい。
【0016】
オゾン量は、油脂にオゾンが溶存できればよく、油脂に対してオゾンが接触時間の間に0.0022質量%以上供給されていることが好ましく、油脂に対してオゾンが0.006質量%以上供給されていることがより好ましく、油脂に対してオゾンが0.005~0.65質量%供給されていることがさらに好ましく、油脂に対してオゾンが0.006~0.65質量%供給されていることが最も好ましい。
【0017】
油脂とオゾンとの接触において、油脂中の水分量は影響を受けない。
【0018】
(脱臭工程)
本発明は、油脂をオゾンに接触させる工程の後に、120~230℃で脱臭する脱臭工程を有する。
【0019】
曝光臭の原因物質は、リノール酸のような脂肪酸やフラン酸等との提案がなされているものの、不明である。しかし、いずれも、オゾンとの反応で、分解あるいは脱臭工程で分解しやすい化合物に変化していると考えられるので、これらが蒸留除去できる条件で脱臭する。なお、油脂の過酸化物はフライ温度で分解するが、減圧あるいは水蒸気蒸留であれば、沸点が低下するので、120℃以上でも除去することが可能である。本発明において、脱臭工程は、減圧水蒸気蒸留を用いることが好ましい。
【0020】
なお、本発明において、脱臭時の温度を低温で行うことで、特許文献2に示されるような曝光臭改善効果も相乗的に効果を発揮するため、脱臭温度は120~230℃であることが好ましく、160~230℃、あるいは160~225℃がより好ましく、180~230℃あるいは280~255℃がさらに好ましく、200~255℃がことさらに好ましい。
【0021】
脱臭時の圧力は、大気圧でも行うことはできるが、好ましくは、減圧条件下であり、真空に近いいほど良い。50000Pa以下が好ましく、8000Pa以下がより好ましく、800Pa以下がさらに好ましい、なお、減圧条件は真空に近いほどよいため特に下限値はないが、蒸気の吹込みあるいは設備的な制約から10Pa以上で行われることが多い。圧力は10~1000Paが好ましく、100~800Paがより好ましく、200~600Paがさらに好ましい。
【0022】
脱臭時に水蒸気を吹き込む場合、水蒸気量は油脂量に対して0.5~10質量%であることが好ましく、1~5質量%であることがより好ましい。
【0023】
脱臭時間は、15分以上行えば十分であり、15~180分が好ましく、30~120分がより好ましい。
【0024】
前述の(油脂にオゾンを接触させる工程)は、油脂の精製における脱臭工程の前に行い、その後、脱臭工程を行うが、(油脂をオゾンに接触させる工程)と脱臭工程の間に、他の工程を行ってもよい。他の工程としては、例えば、脱ガム工程、脱酸工程、脱色工程、脱ロウ工程、分別工程、ブレンド工程等が挙げられる。
【0025】
<食用油脂の曝光臭改善方法>
本発明の食用油脂の曝光臭改善方法は、油脂をオゾンに接触させ、120~230℃で脱臭することを特徴とする。油脂、油脂をオゾンに接触させる条件、蒸留する条件等は、前述の<精製食用油脂の製造方法>に記載の通りである。
【0026】
<精製食用油脂>
本発明の精製食用油脂は、油脂をオゾンに接触させ、さらに120~230℃で脱臭を行うことで、曝光した際に発生する曝光臭が低減されている。油脂、油脂をオゾンに接触させる条件、脱臭する条件等は、前述の<精製食用油脂の製造方法>に記載の通りである。例えば、大豆油の場合、同処理を行った精製大豆油は、同処理を行わない精製大豆油に比べて、臭い成分である2,3-オクタンジオンやメチルナノジオンが低減する。油脂中に上記オゾンに接触させ、さらに蒸留を行う処理を行った大豆油を油脂中に10~100質量%含有する精製油脂が好ましく、前述の処理を行った大豆油を油脂中に50~100質量%含有する精製油脂がより好ましい。
【実施例
【0027】
以下、本発明について、実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0028】
試験1
<サンプル>
以下のとおり、脱臭処理を経た蒸留油脂1と、オゾン処理と脱臭処理を経た蒸留油脂2~6を得た。
[未蒸留油脂1、蒸留油脂1]
大豆脱色油を未蒸留油脂1とした。大豆脱色油(未蒸留油脂1)1.2kgを脱臭(255℃、533Pa,60分、水蒸気量 油脂に対して2.7%)し、蒸留油脂1を得た。
[未蒸留油脂2、蒸留油脂2]
大豆脱色油(未蒸留油脂1)1.5kgに、室温で、オゾン発生器(GL-3188A:Shenzhen Guanglei Electonic Co.,Ltd製、オゾン発生量400mg/h)で発生させたオゾンを、微孔を有するガラス管から0.25分吹き込み、未蒸留油脂2を得た。
さらに、未蒸留油脂2 1.2kgを脱臭(255℃、533Pa,60分、水蒸気量 油脂に対して2.7%)し、蒸留油脂2を得た。
[未蒸留油脂3、蒸留油脂3]
大豆脱色油(未蒸留油脂1)1.5kgに、室温で、オゾン発生器(GL-3188A:Shenzhen Guanglei Electonic Co.,Ltd製、オゾン発生量400mg/h)で発生させたオゾンを、微孔を有するガラス管から3分吹き込み、未蒸留油脂3を得た。
さらに、未蒸留油脂3 1.2kgを脱臭(255℃、533Pa,60分、水蒸気量 油脂に対して2.7%)し、蒸留油脂3を得た。
[未蒸留油脂4、蒸留油脂4]
大豆脱色油(未蒸留油脂1)1.5kgに、室温で、オゾン発生器(GL-3188A:Shenzhen Guanglei Electonic Co.,Ltd製、オゾン発生量400mg/h)で発生させたオゾンを、微孔を有するガラス管から15分吹き込み、未蒸留油脂4を得た。
さらに、未蒸留油脂4 1.2kgを脱臭(255℃、533Pa,60分、水蒸気量 油脂に対して2.7%)し、蒸留油脂4を得た。
[未蒸留油脂5、蒸留油脂5]
大豆脱色油(未蒸留油脂1)1.5kgに、室温で、オゾン発生器(GL-3188A:Shenzhen Guanglei Electonic Co.,Ltd製、オゾン発生量400mg/h)で発生させたオゾンを、微孔を有するガラス管から60分吹き込み、未蒸留油脂5を得た。
さらに、未蒸留油脂5 1.2kgを脱臭(255℃、533Pa,60分、水蒸気量 油脂に対して2.7%)し、蒸留油脂5を得た。
[未蒸留油脂6、蒸留油脂6]
大豆脱色油(未蒸留油脂1)1.5kgに、室温で、オゾン発生器(GL-3188A:Shenzhen Guanglei Electonic Co.,Ltd製、オゾン発生量400mg/h)で発生させたオゾンを、微孔を有するガラス管から180分吹き込み、未蒸留油脂6を得た。
さらに、未蒸留油脂6 1.2kgを脱臭(255℃、533Pa,60分、水蒸気量 油脂に対して2.7%)し、蒸留油脂6を得た。
【0029】
<曝光試験1-1>
300mlのエルレンマイヤーフラスコに、蒸留油脂1~4を各200g入れ、蛍光灯で曝光(1000lux、70時間)させた。曝光臭を評価した。結果を表1に示す。
【0030】
[曝光臭の評価]
油脂40gを、100mlのビーカーに入れて、専門パネル15名で120℃に加熱した時の臭いを評価し、平均点を表1に示した。なお、評価は、蒸留油脂1の曝光品の加熱臭を10点とし、曝光臭を有していない蒸留油脂1の未曝光品を0点として評価した。
【0031】
【表1】
※は有意差あり(p<0.01)
【0032】
表1から、オゾン処理品を行うことで、曝光臭が改善されることが確認された。特に、蒸留油脂3、4は有意な効果を有することがわかった。
【0033】
<曝光試験1-2>
300mlのエルレンマイヤーフラスコに、各油脂を各200g入れ、蛍光灯で曝光(1000lux、70時間)させた。各サンプルの揮発成分(臭い成分:2-ペンチルフラン、2,3-オクタンジオン、3-メチルノナジオン)を分析した。なお、評価は、未蒸留油脂1、4~6を曝光させたもの(図1)、蒸留油脂1、4~6を曝光させてないもの(図2)、蒸留油脂1、4~6を曝光させたもの(図3)で比較した。
【0034】
[油脂中のにおい成分量の分析]
曝光を受けた各油脂10~50mgを150μLのマイクロバイアルに採取する。マイクロバイアルをATEX用のガラスインサートに入れ、キャップをする。下記のTDU・CIS条件で揮発成分を発生させ、揮発成分を下記のGC-MS分析条件にて分析した。GC-MSで得られたクロマトグラフィーの油脂1mg当たりの2-ペンチルフラン、3-メチルノナジオン、2,3-オクタンジオンの各エリア面積値(Area/mg)を図1~3で比較した。
<TDU・CIS条件>
He:50mL/min 250℃ 10minで加温し揮発成分を溶出させ、マイナス50℃に冷却したTenax TAに吸着させる。10min後、CIS4を12℃/secで250℃まで加温し、揮発成分を発生させた。
【0035】
<TDU・CIS条件>
He:50mL/min 250℃ 10minで加温し揮発成分を溶出させ、マイナス50℃に冷却したTenax TAに吸着させる。10min後、CIS4を12℃/secで250℃まで加温し、揮発成分を発生させた。
<GC-MS分析条件>
GC-MS装置:GC-MSDシステム(アジレントテクノロジー社製)
カラム:DB-WAX(60m×φ0.25mm×0.5μm)
キャリアガス:ヘリウム
カラム温度:35℃(5分間保持)→4℃/分→180℃→6℃/分→250℃(5分間保持)
MS検出器:スキャン分析(m/z=99、71、170)
イオン源:230℃
四重極:150℃
エミッション電圧:70eV
【0036】
図1~3から以下のことが確認できる。
曝光を受けていない油脂は、2-ペンチルフランが検出されるものの、3-メチルノナジオンや2,3-オクタンジオンが検出されていない(図2)。さらに、図3において、2-ペンチルフランは、同レベルで検出しており、各サンプルの曝光臭の差異にあまり寄与していないと考えられる。
図2図3を比較すると、曝光することで3-メチルノナジオンや2,3-オクタンジオンの揮発成分が増加することがわかり、これらの成分が曝光臭の成分と考えられる。
また、オゾンと接触させ、蒸留することで、3-メチルノナジオンや2.3-オクタンジオン等の曝光臭の成分が減少しており、曝光臭低減効果があることが確認できる(図3)。
なお、図1に示されるように、オゾンと接触しただけで蒸留を経ていない油脂は、3-メチルノナジオンに差がみられるものの、2,3-オクタンジオンの減少がみられず、曝光による臭い成分の改善は見込めない(図1)。
【0037】
試験2
<サンプル>
以下のとおり、脱臭処理を経た蒸留油脂7と、オゾン処理と脱臭処理を経た蒸留油脂8を得た。
[未蒸留油脂7、蒸留油脂7]
大豆脱色油(試験1の未蒸留油脂1とは異なるロットサンプル)を未蒸留油脂7とした。大豆脱色油(未蒸留油脂7)1.2kgを脱臭(255℃、533Pa,60分、水蒸気量 油脂に対して2.7%)し、蒸留油脂7を得た。
[未蒸留油脂8、蒸留油脂8]
大豆脱色油(未蒸留油脂7)1.5kgとイオン交換水1.5kgをトールビーカーに入れ、室温でオゾン発生器(OZSD-1200D:荏原実業株式会社製:オゾン濃度2g/m、流量0.005m/分、オゾン発生量600mg/h)で発生させたオゾンを、(イオン交換水の底辺に設置されている)微孔を有するガラス管からで60分間吹き込み、未蒸留油脂8を得た。なお、油脂1kgあたりのオゾン負荷量は400mg/kgであった。
さらに、未蒸留油脂8 1.2kgを脱臭(255℃、533Pa,60分、水蒸気量 油脂に対して2.7%)し、蒸留油脂8を得た。
【0038】
<曝光試験2>
300mlのエルレンマイヤーフラスコに、各油脂を各200g入れ、蛍光灯で曝光(1000lux、108時間)させた。曝光処理の前後の各サンプルの揮発成分(臭い成分:2,3-オクタンジオン、3-メチルノナジオン)を前述の[油脂中のにおい成分量の分析]と同様に分析した。各エリア面積値(Area/mg)の結果を表2に示した。
【0039】
【表2】
【0040】
表2から以下のことが確認できる。
含水条件でオゾンと接触させて、蒸留しても、前述の試験1と同様に曝光後の3-メチルノナジオンや2.3-オクタンジオン等の曝光臭の成分が減少しており、曝光臭低減効果があることが確認できる。
【0041】
試験3
<サンプル>
以下のとおり、脱臭処理を経た蒸留油脂9と、オゾン処理と脱臭処理を経た蒸留油脂10~11を得た。
[未蒸留油脂9、蒸留油脂9]
大豆脱色油(試験1、2の未蒸留油脂1、7とは異なるロットサンプル)を未蒸留油脂9とした。大豆脱色油(未蒸留油脂9)1.2kgを脱臭(255℃、533Pa,60分、水蒸気量 油脂に対して2.7%)し、蒸留油脂9を得た。
[未蒸留油脂10、蒸留油脂10]
大豆脱色油(未蒸留油脂9)1.5kgに、90℃で、オゾン発生器(OZSD-1200D:荏原実業株式会社製:オゾン濃度2g/m、流量0.005m/分、オゾン発生量600mg/h)で発生させたオゾンを、微孔を有するガラス管から5分間吹き込み、未蒸留油脂10を得た。なお、油脂1kgあたりのオゾン負荷量は3.3mg/kgであった。
さらに、未蒸留油脂10 1.2kgを脱臭(255℃、533Pa,60分、水蒸気量 油脂に対して2.7%)し、蒸留油脂10を得た。
[未蒸留油脂11、蒸留油脂11]
大豆脱色油(未蒸留油脂9)1.5kgに、110℃で、オゾン発生器((OZSD-1200D:荏原実業株式会社製:オゾン濃度2g/m、流量0.005m/分、オゾン発生量600mg/h)で発生させたオゾンを、微孔を有するガラス管から5分間吹き込み、未蒸留油脂11を得た。なお、油脂1kgあたりのオゾン負荷量は3.3mg/kgであった。
さらに、未蒸留油脂11 1.2kgを脱臭(255℃、533Pa,60分、水蒸気量 油脂に対して2.7%)し、蒸留油脂11を得た。
【0042】
<曝光試験3>
ガラス瓶(スクリュー管瓶No.8:株式会社マルエム製)に、各油脂を各50g入れ、蛍光灯で曝光(1000lux、108時間)させた。曝光処理の前後の各サンプルの揮発成分(臭い成分:2,3-オクタンジオン、3-メチルノナジオン)を前述の[油脂中のにおい成分量の分析]と同様に分析した。各エリア面積値(Area/mg)の結果を表3に示した。
【0043】
【表3】
【0044】
表3から以下のことが確認できる。
90℃又は110℃オゾン処理を5分間行っても、曝光後の3-メチルノナジオンや2,3-オクタンジオンの揮発成分の増加が抑えられ、曝光臭低減効果があることがわかる。
【0045】
試験4
<サンプル>
以下のとおり、脱臭処理を経た蒸留油脂12と、オゾン処理と脱臭処理を経た蒸留油脂13~14を得た。
[未蒸留油脂12、蒸留油脂12]
大豆脱酸油(未蒸留油脂12-a)1.5kgに脱色処理(110℃、20分間、活性白土 対油0.8質量%)を行い、大豆脱色油(未蒸留油脂12-b)を得た。未蒸留油脂12-bを脱臭(255℃、533Pa,60分、水蒸気量 油脂に対して2.7%)し、蒸留油脂12を得た。
[未蒸留油脂13、蒸留油脂13]
大豆脱酸油(未蒸留油脂12-a)3.54kgに、室温で、オゾン発生器(OZSD-1200D:荏原実業株式会社製:オゾン濃度2g/m、流量0.005m/分、オゾン発生量600mg/h)で発生させたオゾンを、微孔を有するガラス管から283分間吹き込み、オゾン処理を行った。オゾン処理後に、脱色処理(110℃、20分間、活性白土 対油0.8質量%)を行い、大豆脱色油(未蒸留油脂13)を得た。なお、油脂1kgあたりのオゾン負荷量は807mg/kgであった。
さらに、未蒸留油脂13 1.2kgを脱臭(255℃、533Pa,60分、水蒸気量 油脂に対して2.7%)し、蒸留油脂13を得た。
[蒸留油脂14]
未蒸留油脂13 1.2kgを脱臭(220℃、533Pa,60分、水蒸気量 油脂に対して2.7%)し、蒸留油脂14を得た。
【0046】
<曝光試験4>
ガラス瓶(スクリュー管瓶No.8:株式会社マルエム製)に、各油脂を各50g入れ、蛍光灯で曝光(1000lux、120時間)させた。曝光処理の前後の各サンプルの揮発成分(臭い成分:2,3-オクタンジオン、3-メチルノナジオン)を前述の[油脂中のにおい成分量の分析]と同様に分析した。各エリア面積値(Area/mg)の結果を表3に示した。
【0047】
【表4】
【0048】
表4から以下のことが確認できる。
脱色工程の前の脱酸工程後にオゾン処理を行っても、3-メチルノナジオンや2,3-オクタンジオン等の揮発成分の増加を抑えることができ、曝光臭低減効果を有する。また、オゾン処理後の脱臭工程は、温度が低い方が、より3-メチルノナジオンや2,3-オクタンジオンの揮発成分の増加が抑えられるので、曝光臭低減効果を有することがわかる。
【0049】
試験1~4の結果から、オゾン処理及びその後の蒸留処理により、ロットが異なる油脂において、曝光による3-メチルノナジオンや2,3-オクタンジオン等の揮発成分の増加を抑えることができ、曝光臭の改善効果があることがわかる。また、オゾン処理は、脱酸油(脱色工程の前)、あるいは脱色油でもよく、蒸留温度は低い方が高い効果がある。
図1
図2
図3