(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-24
(45)【発行日】2024-06-03
(54)【発明の名称】ペットフード
(51)【国際特許分類】
A23K 50/40 20160101AFI20240527BHJP
A23K 20/147 20160101ALI20240527BHJP
A23K 10/30 20160101ALI20240527BHJP
【FI】
A23K50/40
A23K20/147
A23K10/30
(21)【出願番号】P 2019227639
(22)【出願日】2019-12-17
【審査請求日】2022-10-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000115108
【氏名又は名称】ユニ・チャーム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100126882
【氏名又は名称】五十嵐 光永
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】迫田 順哉
(72)【発明者】
【氏名】吉賀 史里
(72)【発明者】
【氏名】阪口 智子
【審査官】大澤 元成
(56)【参考文献】
【文献】特表2005-534341(JP,A)
【文献】特開2014-193143(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23K 10/00-50/90
A23L 33/00-33/29
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筋肉量の喪失を軽減しつつ、体重管理をするために用いられる体重管理用ペットフードであって、
水分含有量が25%未満であり、
ペットフード全量に対して、タンパク質含有量が乾物換算で20質量%以上であり、かつ、分離大豆タンパクの含有量が乾物換算で5~30質量%であ
り、
ペットフード全量に対して、トリプシンインヒビターが乾物換算で1.0TIU/mg以下であるペットフード。
【請求項2】
前記ペットフード全量に対して、脂質含有量が乾物換算で5.5~30.0質量%である請求項1に記載のペットフード。
【請求項3】
給餌後6時間以内のバリンの血中濃度の最大値が、給餌前の135%以上である、請求項1
または2に記載のペットフード。
【請求項4】
給餌後6時間以内のロイシンの血中濃度の最大値が、給餌前の150%以上である、請求項1~
3のいずれか一項に記載のペットフード。
【請求項5】
給餌後6時間以内のイソロイシンの血中濃度の最大値が、給餌前の125%以上である、請求項1~
4のいずれか一項に記載のペットフード。
【請求項6】
給餌後6時間以内のBCAAの血中濃度の最大値が、給餌前の135%以上である、請求項1~
5のいずれか一項に記載のペットフード。
【請求項7】
給餌後6時間以内の必須アミノ酸総量の血中濃度の最大値が、給餌前の125%以上である、請求項1~
6のいずれか一項に記載のペットフード。
【請求項8】
給餌後6時間以内のアルギニンの血中濃度の最大値が、給餌前の120%以上である、請求項1~
7のいずれか一項に記載のペットフード。
【請求項9】
給餌後6時間以内のリジンの血中濃度の最大値が、給餌前の105%以上である、請求項1~
8のいずれか一項に記載のペットフード。
【請求項10】
給餌後6時間以内のメチオニンの血中濃度の最大値が、給餌前の135%以上である、請求項1~
9のいずれか一項に記載のペットフード。
【請求項11】
給餌後6時間以内のシスチンの血中濃度の最大値が、給餌前の140%以上である、請求項1~
10のいずれか一項に記載のペットフード。
【請求項12】
給餌後6時間以内のスレオニンの血中濃度の最大値が、給餌前の120%以上である、請求項1~
11のいずれか一項に記載のペットフード。
【請求項13】
給餌後6時間以内のフェニルアラニンの血中濃度の最大値が、給餌前の130%以上である、請求項1~
12のいずれか一項に記載のペットフード。
【請求項14】
給餌後6時間以内のチロシンの血中濃度の最大値が、給餌前の155%以上である、請求項1~
13のいずれか一項に記載のペットフード。
【請求項15】
給餌後6時間以内のトリプトファンの血中濃度の最大値が、給餌前の135%以上である、請求項1~
14のいずれか一項に記載のペットフード。
【請求項16】
給餌後6時間以内のオルニチンの血中濃度の最大値が、給餌前の195%以上である、請求項1~
15のいずれか一項に記載のペットフード。
【請求項17】
給餌後6時間以内のグルタミンの血中濃度の最大値が、給餌前の105%以上である、請求項1~
16のいずれか一項に記載のペットフード。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペットフードに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ペットの肥満が問題になっている。肥満は、消費エネルギーよりも摂取エネルギーの方が過剰となり、体脂肪が過剰に蓄積した身体状況のことである。体脂肪が過剰に蓄積することによって、糖尿病、高血圧症、高脂血症、動脈硬化等の各種疾患を引き起こすおそれがある。
従って、ペットの健康維持のためには、体脂肪量を適切にコントロールして肥満を予防又は解消することが重要である。また、ペットの体脂肪量を減少させる際には、ペットの筋肉量の減少を防ぐことが重要である。
【0003】
体重の減量を目的として、ペットフードの給餌量(摂取量)を減らした場合、それに伴ってタンパク質の給餌量(摂取量)も減少するため、体脂肪量と共に筋肉量も減少してしまうおそれがある。その一方で、摂取カロリーを抑えるために、ペットフード中の脂質量を減量し、ペットフード中のタンパク質量を増量すると、タンパク質源原料にはリンが多く含まれるため、腎臓に対して負担となる等の栄養バランス上の問題があった。また、ペットフード中のタンパク質量を維持しつつ、ペットフード中の脂肪量や炭水化物量を減らすと、総合栄養食のペットフードとしては、栄養バランスが悪くなる。また、ペットフード中のタンパク質量を維持しつつ、ペットフード中の脂質量を減らし、食物繊維量を増やすと、嗜好性の低下などから長期継続が困難という問題があった。
【0004】
特許文献1には、脱脂大豆を含み、筋肉量の減少を抑えつつ減量効果を有する、水分含量が25~55質量%のセミモイストタイプのペットフードが開示されている。
また、特許文献2には、脂肪燃焼アミノ酸を添加することによりペットの肥満を防止できるペットフードが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-052287号公報
【文献】特開2005-040059号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示されているペットフードのように、精製されていない植物原料(脱脂大豆)を使用すると、植物に天然に含まれるプロテアーゼインヒビターにより、タンパク質の消化が阻害される。そのため、特許文献1に開示されているペットフードを給餌されたペットは、タンパク質を構成するアミノ酸を効率的に体内に吸収することができず、体タンパク質(筋肉)に再形成するためのアミノ酸の摂取量が減少するおそれがあった。
【0007】
また、特許文献2に開示されているペットフードに添加しているアミノ酸そのものは、食品添加物の一種である。そのため、アミノ酸そのものを添加したペットフードは、食品添加物を含むペットフードとなり、ペットフードを購入する需要者に対しての安全面や健康面のイメージがあまり良くなく、高い訴求力が望めなかった。また、特許文献2に開示されているイヌ用ペットフードは、アミノ酸のうち、アラニン、プロリン、リジン、アルギニンの単体又は混合したものを添加しているのみであり、体重管理時の筋肉量の喪失を軽減するためには、イヌの必須アミノ酸量が不十分となるおそれがあるため、筋肉量を維持することが出来ない、すなわち、筋肉量を喪失する可能性があった。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、植物由来のタンパク質源原料を含むことで、体脂肪量を減少させつつ筋肉量の喪失を軽減することができる体重管理用ペットフードを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の態様を包含する。
(1)筋肉量の喪失を軽減しつつ、体重管理をするために用いられる体重管理用ペットフードであって、水分含有量が25%未満であり、ペットフード全量に対して、タンパク質含有量が乾物換算で20質量%以上であり、かつ、分離大豆タンパクの含有量が乾物換算で5~30質量%であるペットフード。
(2)前記ペットフード全量に対して、脂質含有量が乾物換算で5.5~30.0質量%である(1)に記載のペットフード。
(3)前記ペットフード全量に対して、トリプシンインヒビターが乾物換算で1.3TIU/mg以下である(1)または(2)に記載のペットフード。
(4)給餌後6時間以内のバリンの血中濃度の最大値が、給餌前の135%以上である、(1)~(3)のいずれかに記載のペットフード。
(5)給餌後6時間以内のロイシンの血中濃度の最大値が、給餌前の150%以上である、(1)~(4)のいずれかに記載のペットフード。
(6)給餌後6時間以内のイソロイシンの血中濃度の最大値が、給餌前の125%以上である、(1)~(5)のいずれかに記載のペットフード。
(7)給餌後6時間以内のBCAAの血中濃度の最大値が、給餌前の135%以上である、(1)~(6)のいずれかに記載のペットフード。
(8)給餌後6時間以内の必須アミノ酸総量の血中濃度の最大値が、給餌前の125%以上である、(1)~(7)のいずれかに記載のペットフード 。
(9)給餌後6時間以内のアルギニンの血中濃度の最大値が、給餌前の120%以上である、(1)~(8)のいずれかに記載のペットフード。
(10)給餌後6時間以内のリジンの血中濃度の最大値が、給餌前の105%以上である、(1)~(9)のいずれかに記載のペットフード。
(11)給餌後6時間以内のメチオニンの血中濃度の最大値が、給餌前の135%以上である、(1)~(10)のいずれかに記載のペットフード。
(12)給餌後6時間以内のシスチンの血中濃度の最大値が、給餌前の140%以上である、(1)~(11)のいずれかに記載のペットフード。
(13)給餌後6時間以内のスレオニンの血中濃度の最大値が、給餌前の120%以上である、(1)~(12)のいずれかに記載のペットフード。
(14)給餌後6時間以内のフェニルアラニンの血中濃度の最大値が、給餌前の130%以上である、(1)~(13)のいずれかに記載のペットフード。
(15)給餌後6時間以内のチロシンの血中濃度の最大値が、給餌前の155%以上である、(1)~(14)のいずれかに記載のペットフード。
(16)給餌後6時間以内のトリプトファンの血中濃度の最大値が、給餌前の135%以上である、(1)~(15)のいずれかに記載のペットフード。
(17)給餌後6時間以内のオルニチンの血中濃度の最大値が、給餌前の195%以上である、(1)~(16)のいずれかに記載のペットフード。
(18)給餌後6時間以内のグルタミンの血中濃度の最大値が、給餌前の105%以上である、(1)~(17)のいずれかに記載のペットフード。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、植物性タンパク質源原料を含みながら、筋肉量の喪失を軽減しつつ、体重管理をすることができるペットフードを提供することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例の評価2(血中のアミノ酸量の評価)に関する結果を示すグラフである。
【
図2】実施例の評価2(血中のアミノ酸量の評価)に関する結果を示すグラフである。
【
図3】実施例の評価2(血中のアミノ酸量の評価)に関する結果を示すグラフである。
【
図4】実施例の評価2(血中のアミノ酸量の評価)に関する結果を示すグラフである。
【
図5】実施例の評価2(血中のアミノ酸量の評価)に関する結果を示すグラフである。
【
図6】実施例の評価2(血中のアミノ酸量の評価)に関する結果を示すグラフである。
【
図7】実施例の評価2(血中のアミノ酸量の評価)に関する結果を示すグラフである。
【
図8】実施例の評価2(血中のアミノ酸量の評価)に関する結果を示すグラフである。
【
図9】実施例の評価2(血中のアミノ酸量の評価)に関する結果を示すグラフである。
【
図10】実施例の評価2(血中のアミノ酸量の評価)に関する結果を示すグラフである。
【
図11】実施例の評価2(血中のアミノ酸量の評価)に関する結果を示すグラフである。
【
図12】実施例の評価2(血中のアミノ酸量の評価)に関する結果を示すグラフである。
【
図13】実施例の評価2(血中のアミノ酸量の評価)に関する結果を示すグラフである。
【
図14】実施例の評価2(血中のアミノ酸量の評価)に関する結果を示すグラフである。
【
図15】実施例の評価2(血中のアミノ酸量の評価)に関する結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書において、「ペット」とは人に飼育されている動物をいう。より狭義の意味では、ペットは飼い主に愛玩される動物である。また、「ペットフード」とは、ペット用の飼料をいう。本発明にかかるペットフードを「動物用飼料」又は「動物の餌」として販売することが可能である。本発明のペットフードは、種々の動物によって食されるが、ネコおよびイヌによって好まれ、特にイヌに好まれる。ペットフードは、通常の食事として与えられる総合栄養食、おやつとして与えられる間食、疾患を有するペットに対して用いられる特定の成分を有する療法食、その他目的食に分類できるが、本発明のペットフードは、総合栄養食であることが適当である。
【0013】
本明細書において、「除脂肪体重量」とは、ペットの全体重から、体脂肪量を差し引いた、体重に関する指標のことをいい、以下の計算式で求める。また、個体の全体重を100%として、100%から体脂肪率を除算すると、「除脂肪体重率」を求めることができる。
除脂肪体重量(kg)=全体重(kg)-体脂肪量(kg)
体脂肪率(%)=100×体脂肪量(kg)/全体重(kg)
除脂肪体重率(%)=100%-体脂肪率(%)
【0014】
<ペットフード>
本実施形態に係るペットフードは、筋肉量の喪失を軽減しつつ、体重管理をするために用いられる体重管理用ペットフードであって、水分含有量が25%未満であり、ペットフード全量に対して、タンパク質含有量が乾物換算で20質量%以上であり、かつ、分離大豆タンパクの含有量が乾物換算で5~30質量%であるペットフードである。
【0015】
≪体重管理≫
本実施形態に係るペットフードは、筋肉量の喪失を軽減しつつ、体重管理をするために用いられる体重管理用ペットフードである。
本実施形態に係るペットフードは、体脂肪量を減少させるだけでなく、筋肉量の喪失の軽減を図ることができるペットフードである。言い換えれば、体脂肪率を低下させつつ、除脂肪体重率を維持することができるペットフードである。これにより、飼育者は、ペットに対する日々のペットフードの給餌により、ペットの体重管理をすることができる。
【0016】
≪水分含有量≫
本実施形態に係るペットフードは、水分含有量が25%未満である。
ペットフードの水分量による分類としては、水分量が10%程度であるドライフード、15~35%程度であるソフトフード、及び水分量が80%程度であるウエットフードに大別される。
本実施形態に係るペットフードの水分含有量が25%未満であることにより、ペットフードの保存期間が比較的長くなり、また、ペットフードの匂いを抑えることができるため、飼育者にとって、ペットフードの取り扱いが容易となる。
本実施形態に係るペットフードの水分含有量は、20%未満が好ましく、15%未満がより好ましく、10%未満がさらに好ましい。
【0017】
≪タンパク質含有量≫
本実施形態に係るペットフードは、ペットフード全量に対して、タンパク質含有量が乾物換算で20質量%以上である。当該構成を有することにより、総合栄養食としてのペットフードの栄養素を満たしつつ、筋肉合成に必要なタンパク質をより多くペットに給餌することができる。本実施形態に係るペットフードは、ペットフード全量に対して、タンパク質含有量が乾物換算で24質量%以上であることが好ましく、タンパク質含有量が乾物換算で31質量%以上であることがさらに好ましい。
タンパク質源原料は、動物由来の動物性タンパク質源原料と、植物由来の植物性タンパク質源原料とに大別され、ペットフード中のタンパク質は、これらの原料に由来する。
動物性タンパク質源原料は、具体的に、チキンミール、ポークミール、および、ビーフミール等が挙げられる。動物性タンパク質源原料は、不可食部(ミネラルを多く含む骨、内臓等)を加熱処理し、脱脂後、乾燥、粉末にするため、タンパク質源原料としての調節が難しい。
植物性タンパク質源原料は、具体的に、分離大豆タンパク、脱脂大豆、コーングルテンミール、小麦グルテン等が挙げられる。
【0018】
≪分離大豆タンパク≫
分離大豆タンパクとは、大豆を脱脂した後、水で抽出して得た豆乳に酸を加えるとホエーとカードが出来るが、カード部分を遠心分離またはフィルターで分別し、中和、乾燥、粉砕したものである。分離大豆タンパクは、濃縮大豆タンパクに比べてタンパク質含量が高い。分離大豆タンパクは、99.9%がタンパク質成分であり、タンパク質の消化阻害因子であるプロテアーゼインヒビターをほとんど含まない。分離大豆タンパクは、製品の原材料表示には、「大豆タンパク」として表示され、その他の大豆製品(脱脂大豆を含む)とは原材料表示の名称が異なる。「大豆タンパク」は、動物由来のタンパクにアミノ酸バランスが似ているが、動物性タンパク質源原料よりもミネラル含有が少なく、油脂含量がほぼ無いので、栄養設計を組みやすい。
【0019】
分離大豆タンパクは、プロテアーゼインヒビターをほとんど含まないため、ペットフード中に含まれるタンパク質の消化が阻害されない。
【0020】
本実施形態は、分離大豆タンパクの含有量の下限値が、乾物換算で5質量%以上であることが好ましい。分離大豆タンパクの含有量の下限値は、乾物換算で10質量%以上であることがより好ましく、乾物換算で12質量%以上であることがさらに好ましい。分離大豆タンパクの含有量の上限値は、乾物換算で30質量以下%であることが好ましい。分離大豆タンパクの含有量の上限値は、乾物換算で25質量%以下であることがより好ましく、乾物換算で20質量%以下であることがさらに好ましい。当該構成により、アミノ酸バランスの調整が出来る。
【0021】
本実施形態に係るペットフードにおいて、βコングリシニンの含有量は、乾物換算で5質量%~10質量%であることが好ましく、乾物換算で7.0質量%~10質量%であることがより好ましく、乾物換算で8.0質量%~10.0質量%であることがさらに好ましい。βコングリシニンの含有量が、前記範囲の下限値以上であると、タンパク質の消化率が向上しやすくなり、アミノ酸として体内への吸収が優位に進む。
【0022】
βコングリシニンは、大豆タンパク質を構成する3つのタンパク質の一つである。大豆タンパク質は、グリシニン、βコングリシン、LP(脂質と会合しているタンパク質)の3つから成り、βコングリシニンの含有量により、大豆タンパク質の含有量を算出することが出来る。
例えば、大豆タンパク質が約100%(99.9%)である分離大豆タンパクを分析すると、βコングリシニンが約40%含まれていることが明らかになっている。大豆の機能と科学.2012.pp.31.(著:小野伴忠、下山田真、村本光二)において、分離大豆タンパクは、7Sタンパク質(βコングリシニン+γコングリシニン+塩基性7Sグロブリン)の含量が41%、2Sタンパク質(αコングリシニン)が16%、11Sタンパク質(グリシニン)が31%、15Sタンパク質が3%含まれているという報告がある。また、電気泳動による分析では、βコングリシニン含量は、分離大豆タンパクの全質量に対し、27.8%含まれることが分かっている。
【0023】
≪脂質含有量≫
本実施形態に係るペットフードは、ペットフード全量に対して、脂質含有量が乾物換算で5.5~30.0質量%であることが好ましい。
当該構成を有することにより、療法食のように、ペットフードの脂質含有量を減らすことなく、ペットの体重を減少させることが出来る。また、当該構成を有することにより、除脂肪体重量の減少を軽減しながら、ペットの体重および体脂肪を減少させる事が出来る。
【0024】
本実施形態に係るペットフードは、ペットフード全量に対して、脂質含有量が乾物換算で5.5~20.0質量%であることがより好ましく、5.5~15.0質量%であることがさらに好ましい。
【0025】
≪トリプシンインヒビター≫
本実施形態に係るペットフードは、ペットフード全量に対して、トリプシンインヒビターが乾物換算で1.3TIU/mg以下であることが好ましい。
トリプシンインヒビターは、タンパク質を分解する酵素(タンパク質分解酵素)を阻害する因子の1つであり、タンパク質を構成するアミノ酸の消化率を左右する因子である。具体的に、口腔から摂取したタンパク質は、タンパク質分解酵素によって、体内に吸収可能なアミノ酸やペプチドに分解され、体内に吸収される。体内に吸収されたアミノ酸やペプチドは、筋肉に合成されたり、血中のヘモグロビンやホルモンのもとになったりする。そのため、タンパク質の分解酵素を阻害する因子であるトリプシンインヒビターの含有量が少なければ、タンパク質からアミノ酸またはペプチドへの分解が阻害されないため、タンパク質の消化率が高まる。タンパク質の消化率が高い事によって、筋肉合成に必要なアミノ酸をより多く体内に吸収することが出来るため、筋肉量の喪失を軽減しつつ、体重管理をしやすくなる。
上述の通り、分離大豆タンパクは、トリプシンインヒビターをほとんど含まない。そのため、本実施形態に係るペットフードのペットフード全量に含まれるトリプシンインヒビターの大部分は、分離大豆タンパク以外の植物性原料由来のものである。
トリプシンインヒビターは、ペットフード全量に対して、乾物換算で1.2TIU/mg以下であることがより好ましく、1.0TIU/mg以下であることがさらに好ましい。
【0026】
≪必須アミノ酸≫
必須アミノ酸とは、体内で生合成することが出来ないアミノ酸のことをいい、動物の種によって多少異なる。
例えば、イヌの必須アミノ酸は、アルギニン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、シスチン、フェニルアラニン、チロシン、スレオニン、トリプトファン、バリンである。
例えば、ネコの必須アミノ酸は、アルギニン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、シスチン、フェニルアラニン、チロシン、スレオニン、トリプトファン、バリン、タウリンである。
【0027】
本実施形態に係るペットフードは、給餌後所定時間後の各必須アミノ酸の血中濃度が上昇する傾向がある。そのため、本実施形態に係るペットフードは、筋肉量の喪失の軽減効果に資するアミノ酸の血中濃度を上昇させるだけでなく、他の必須アミノ酸の血中濃度も上昇し、ペットの健康に資することができる。
なお、各必須アミノ酸の血中濃度は、ペットフードを給餌する個体によっても大きく異なる場合もある。そのため、本実施形態において、給餌後の各必須アミノ酸の血中濃度は、例えば以下の手順により測定することが好ましい。
(手順1):複数の試験個体について、本実施形態に係るペットフードの給餌を開始する前に採血し、給餌前の血中のアミノ酸量を測定する。
(手順2):本実施形態に係るペットフードを各試験個体に給餌する。
なお、給餌量(g/日)は、以下の計算式(1)により、個体ごとに算出することができる。
給餌量=DER/ペットフードの代謝エネルギー(kcal/g) …式(1)
DER(一日当たりのエネルギー要求量(kcal/日))は、以下の式(2)により求めた。係数「110」は、FEDIAF Nutritional Guidelines 2017(Table VII-6.(p.62)、Table VII-7.(p.63))で紹介されている、3~7歳の犬のMER値として採用した。
DER=110×kgBW0.75 …式(2)
なお、血中のアミノ酸量を評価する場合における給餌期間は特に限定されないが、例えば1~2週間試験個体に給餌することにより、本実施形態に係るペットフードが血中のアミノ酸量に与える影響についてより正確に評価することができる。
(手順3):ペットフード給餌後30分~1時間刻みで採血を行い、各個体の血中のアミノ酸量を測定する。
各アミノ酸の血中濃度は、例えば、本実施形態に係るペットの給餌前の各アミノ酸の血中濃度を100%とした値とし、全試験個体の平均値で評価することができる。
【0028】
本実施形態に係るペットフードは、給餌後6時間以内の必須アミノ酸総量の血中濃度の最大値が、給餌前の125%以上であることが好ましく、130%以上であることがより好ましく、135%以上であることが更に好ましく、140%以上であることが更に好ましく、145%以上であることが特に好ましい。必須アミノ酸は体内で合成できないため、当該構成を有することにより、筋合成をする際の材料となる必須アミノ酸を十分量供給することが出来る。
【0029】
本実施形態に係るペットフードは、給餌後6時間以内のバリンの血中濃度の最大値が、給餌前の135%以上であることが好ましく、140%以上であることがより好ましく、145%以上であることが更に好ましく、150%以上であることが更に好ましく、155%以上であることが特に好ましい。
イヌおよびネコの必須アミノ酸であるバリンは、筋肉強化、疲労回復に効果がある。
【0030】
本実施形態に係るペットフードは、給餌後6時間以内のロイシンの血中濃度の最大値が、給餌前の150%以上であることが好ましく、155%以上であることがより好ましく、160%以上であることが更に好ましく、165%以上であることが更に好ましく、170%以上であることが特に好ましい。
イヌおよびネコの必須アミノ酸であるロイシンは、筋合成(タンパク質の合成)を助ける。
【0031】
本実施形態に係るペットフードは、給餌後6時間以内のイソロイシンの血中濃度の最大値が、給餌前の125%以上であることが好ましく、130%以上であることがより好ましく、135%以上であることが更に好ましく、140%以上であることが更に好ましく、145%以上であることが特に好ましい。
イヌおよびネコの必須アミノ酸であるイソロイシンは、筋合成(タンパク質の合成)を助ける。
【0032】
本実施形態に係るペットフードは、給餌後6時間以内のBCAAの血中濃度の最大値が、給餌前の135%以上であることが好ましく、140%以上がより好ましく、145%以上が更に好ましく、150%以上が更に好ましく、155%以上が特に好ましい。
「BCAA」とは、バリン、ロイシン、およびイソロイシンからなり、運動時のエネルギー源として利用され、筋肉のタンパク質に多く含まれる。
【0033】
本実施形態に係るペットフードは、給餌後6時間以内のアルギニンの血中濃度の最大値が、給餌前の120%以上であることが好ましく、125%以上であることがより好ましく、130%以上であることが更に好ましく、135%以上であることが更に好ましく、140%以上であることが特に好ましい。
アルギニンは、イヌおよびネコの必須アミノ酸である。イヌのアルギニン欠乏症としては、接食低下・深刻な嘔吐・高アンモニア血症・過剰な流涎・筋肉の振戦等が報告されている。ネコのアルギニン欠乏症としては、深刻な高アンモニア血症が報告されており、啼鳴・嘔吐・流涎・多動・感覚過敏・運動失調・強直性痙攣・摂食拒絶等が報告されており、最悪の場合は、死に至る。
【0034】
本実施形態に係るペットフードは、給餌後6時間以内のリジンの血中濃度の最大値が、給餌前の105%以上であることが好ましく、110%以上であることがより好ましく、115%以上であることが更に好ましく、120%以上であることが更に好ましく、125%以上であることが特に好ましい。
本実施形態に係るペットフードは、給餌後6時間以内のメチオニンの血中濃度の最大値が、給餌前の135%以上であることが好ましく、140%以上であることがより好ましく、145%以上であることが更に好ましく、150%以上であることが更に好ましく、155%以上であることが特に好ましい。
イヌおよびネコの必須アミノ酸であるリジンおよびメチオニンは、共にカルニチンの生合成に寄与する。カルニチンには、L体とD体の2つの光学異性体が存在するが、L体のL-カルニチンは、生体内で脂質を燃焼してエネルギーを産生する脂質代謝の際に、脂肪酸を燃焼の場であるミトコンドリア内部に運搬する役割を担う。
【0035】
本実施形態に係るペットフードは、給餌後6時間以内のシスチンの血中濃度の最大値が、給餌前の140%以上であることが好ましく、145%以上であることがより好ましく、150%以上であることが更に好ましく、155%以上であることが更に好ましく、160%以上であることが特に好ましい。
イヌおよびネコの必須アミノ酸であるシスチンは、硫黄を含むアミノ酸であり、被毛の発育に必要不可欠である。シスチンは、システイン分子が2つ結合した構造を有する。システインは、メチオニンから合成することが出来るが、システイン分子を有するシスチンが十分に供給されていると、メチオニンはシステイン合成以外の機能を果たすことができる。
【0036】
本実施形態に係るペットフードは、給餌後6時間以内のスレオニンの血中濃度の最大値が、給餌前の120%以上であることが好ましく、125%以上であることがより好ましく、130%以上であることが更に好ましく、135%以上であることが更に好ましく、140%以上であることが特に好ましい。
本実施形態に係るペットフードは、給餌後6時間以内のフェニルアラニンの血中濃度の最大値が、給餌前の130%以上であることが好ましく、135%以上であることがより好ましく、140%以上であることが更に好ましく、145%以上であることが更に好ましく、150%以上であることが特に好ましい。
本実施形態に係るペットフードは、給餌後6時間以内のチロシンの血中濃度の最大値が、給餌前の155%以上であることが好ましく、160%以上であることがより好ましく、165%以上であることが更に好ましく、170%以上であることが更に好ましく、175%以上であることが特に好ましい。
本実施形態に係るペットフードは、給餌後6時間以内のトリプトファンの血中濃度の最大値が、給餌前の135%以上であることが好ましく、140%以上であることがより好ましく、145%以上であることが更に好ましく、150%以上であることが更に好ましく、155%以上であることが特に好ましい。
イヌおよびネコの必須アミノ酸であるスレオニン、フェニルアラニン、チロシンおよびトリプトファンの血中濃度が上記構成を満たすことにより、タンパク質の生合成が優位に進むので、ペットの筋肉量の喪失を軽減することができ、飼育者はペットの体重管理を容易にすることができる。
【0037】
本実施形態に係るペットフードは、給餌後6時間以内のオルニチンの血中濃度の最大値が、給餌前の195%以上であることが好ましく、200%以上であることがより好ましく、205%以上であることが更に好ましく、210%以上であることが更に好ましく、215%以上であることが特に好ましい。
オルニチンは、高タンパク摂取時の解毒作用をもつアミノ酸であるため、上記構成を有することにより、体内のアミノ酸量を調節することができる。
【0038】
本実施形態に係るペットフードは、給餌後6時間以内のグルタミンの血中濃度の最大値が、給餌前の105%以上であることが好ましく、110%以上であることがより好ましく、113%以上であることが更に好ましい。
L-グルタミンは、加熱不安定であり、グルタミン酸およびアンモニアに分解される。アンモニアはイヌおよびネコを始めとする動物にとっては有毒物質である。そのため、L-グルタミンを人工的に作成するよりも、タンパク質源原料由来のタンパク質が、体内で分解されて生成するL-グルタミンが好ましい。
【0039】
本実施形態に係るペットフードは、栄養食基準を満たす総合栄養食であれば、原材料の配合は特に限定されない。ペットフードとして、フード粒の栄養組成を満たし、良好な成形性が得られるように原材料の配合を設定することが好ましい。本実施形態に係るペットフードは、イヌ用ペットフードとしてより好ましく使用することが出来る。
【0040】
[原料]
本実施形態に係るペットフードは上記の構成を満たすものであればよく、原料は限定されない。ペットフードの製造において公知の原料を用いることができる。
粉体原料の例としては穀類(トウモロコシ、小麦、米、大麦、燕麦、ライ麦等)、豆類(脱脂大豆、丸大豆等)、デンプン類(小麦デンプン、トウモロコシデンプン、米デンプン、馬鈴薯デンプン、タピオカデンプン、甘藷デンプン、サゴデンプン等)、植物性タンパク質源原料(コーングルテンミール、小麦グルテン等)、肉類(鶏肉、牛肉、豚肉、鹿肉、ミール類(チキンミール、ポークミール、ビーフミール、これらの混合ミール)等)、魚介類(魚肉、ミール類(フィッシュミール)等)、野菜類、粉状の添加物(ビタミン類、ミネラル類、アミノ酸、フレーバー原料、繊維、着色料、嗜好剤等)が挙げられる。
ミール類とは肉類または魚介類を圧縮させ細かく砕いた粉体を意味する。
嗜好剤としては、動物原料エキス、植物原料エキス、酵母エキス(ビール酵母エキス、パン酵母エキス、トルラ酵母エキス)、酵母(ビール酵母、パン酵母、トルラ酵母等)の乾燥物等が挙げられる。
【0041】
原料の配合は特に限定されない。得ようとするフード粒の栄養組成を満たすとともに、良好な成形性が得られるように設定することが好ましい。
配合例としては、穀類40~75質量%、肉類10~25質量%、魚介類5~15質量%、ビタミン・ミネラル類2~5質量%、油脂類2~20質量%、残りはその他の成分、合計100質量%が挙げられる。
【0042】
粉体原料に添加する液体原料として、必要に応じて水、油脂類、液糖、嗜好剤溶液、香料、着色剤等の液体原料を用いることができる。また膨化粒の乾燥後に、油脂類、調味料、嗜好剤、香料等を含む液体原料(コーティング剤)をコーティングしてもよい。
油脂類は植物性油脂でもよく、動物性油脂(鶏油、豚脂(ラード)、牛脂(ヘット)、乳性脂肪等)でもよい。コーティング剤は動物性油脂を含むことが好ましく、特に牛脂を含むことが好ましい。
【0043】
[形状・大きさ]
本実施形態に係るペットフードを構成するフード粒の形状は、ペットが食するのに好適な形状であればよく、特に制限されない。例えば球状、多角体状、柱状、ドーナッツ状、板状、楕円体状(碁石状)、クローバー状等、あらゆる形状が適用可能である。また、フード粒の大きさは、ペットが一口で頬張れる小粒形状であってもよいし、ペットが複数回にわたって噛り付くことができる大粒形状であってもよい。
例えば、フード粒の大きさは最短径及び最長径が、共に3~30mmであることが好ましく、共に6~16.5mmであることがより好ましく、共に7~13mmであることがさらに好ましい。
【0044】
<ペットフードの製造方法>
本実施形態に係るペットフードを製造する方法は、公知の方法を用いることができ、上述の本実施形態の構成を満たせば、特に限定されない。公知の方法としては、下記、造粒工程、乾燥工程、コーティング工程の順でペットフードを製造する方法がある。
【0045】
[造粒工程]
造粒工程は、原料混合物を造粒して粒を得る工程である。
造粒工程としては、原料を混合して原料混合物とし、該原料混合物を粒状に成形(造粒)する方法等が挙げられる。
造粒工程とし、具体的には、エクストルーダーを用いて粒(膨化粒)を製造する方法が挙げられる。
エクストルーダーを用いて粒を製造する方法は、例えば「小動物の臨床栄養学 第5版」(Michael S. Hand、Craig D. Thatcher, Rebecca L. Remillard, Philip Roudebusg、Bruce J. Novotny 編集、Mark Morris Associates 発行;2014年;p.209~p.215)に記載されている方法が適用できる。
【0046】
[乾燥工程]
乾燥工程は、上記造粒工程により、得られた粒を乾燥する工程である。
粒を乾燥する方法としては、自然に乾燥させる方法、温風を吹き付けて乾燥させる方法、減圧して乾燥させる方法、フリーズドライで乾燥させる方法等の公知の方法が挙げられる。これらの乾燥方法の中でも、温風を吹き付けて乾燥させる方法が、プロテアーゼインヒビターを失活させ、タンパク質消化率を高める観点で好ましい。
【0047】
[コーティング工程]
コーティング工程は、上記乾燥工程により、得たれたフード粒を粗牛脂、調味料又は香料等を含むコーティング剤でコーティングする工程である。
フード粒をコーティングする方法は、特に限定されず、例えば、真空コート法を用いることができる。真空コート法は、加温した粒と油脂等を接触又は付着させた状態で、減圧する方法である。前記コーティング剤は、液状であっても粉末状であってもよい。前記コーティングによりペットの嗜好性(食いつき)を向上させることが出来る。
【実施例】
【0048】
<実施例1~2および比較例1~2>
(ペットフードの製造)
表1に示す配合で、総合栄養食ペットフードを構成する原料を混合した。得られた原料混合物をエクストルーダーに投入し、混練しながら100~140℃で、1~5分間の加熱処理を施してデンプン成分をアルファ化し、エクストルーダーの出口で粒状に押出造粒すると同時に膨化させ、膨化粒を得た。得られた膨化粒は、乾燥機を用いて、125℃で15分間の乾燥処理を行い、各例のペットフードを得た。
【0049】
【0050】
比較例1及び2に用いた「植物性タンパク質源原料」は、コーングルテンミールおよび脱脂大豆であり、比較例1及び2のペットフードは、分離大豆タンパクを含まなかった。比較例1及び2に使用したコーングルテンミールおよび脱脂大豆には、食物繊維が多く含まれるため、実施例1及び2のペットフード中に含まれる食物繊維量と、比較例1及び2のペットフード中に含まれる食物繊維量とが、同等になるよう、実施例1及び2にセルロースを追加した。
表1の「その他成分」は、動物原料エキス、植物原料エキス、酵母エキス等の嗜好剤に由来する成分であった。
【0051】
表2に、実施例1~2及び比較例1~2のペットフードの一般成分分析結果を示す。
【0052】
【0053】
(評価1:体重管理評価)
実施例1のペットフードを実施例個体No.1~7の7頭の4~7歳のビーグル犬に、減量期、調整期および維持期の3つの連続する期間で、所定の給餌量を給餌した。
【0054】
BCSは、個体のあご、くび周り、肋骨、おなか、腰回り、しっぽの脂肪のつき方やくびれが出来ているかを獣医が目視および触診等で確認して、肥満度を表す指標であり、9段階評価で評価した。FEDIAF(欧州ペットフード工業会連合)では、BCSは、1が「Emaciated(異常に痩せ過ぎ)」、2が「Very thin(非常に痩せている)」、3が「Thin(痩せている)」、4が「Slightly underweight(やや痩せている)」、5が「Ideal(理想体重(普通))」、6が「Slightly overweight(やや過体重)」、7が「Overweight(過体重)」、8が「Obese(肥満)」、9が「Grossly Obese(超肥満)」と評価される。
【0055】
実施例個体No.1~7の平均BCSは、試験開始日において、7.0の「Overweight(過体重)」と評価された個体群を用いた。
試験期間において、実施例1のペットフードを給餌した実施例個体No.1~7の飼育環境は同じであった。また、Actiwatch mini(CamNtech製)で24時間活動量を数値化した結果、活動量は同じであった。
【0056】
<給餌量>
給餌量(g/日)は、以下の計算式(1)により、個体ごとに算出した。
給餌量=DER/ペットフードの代謝エネルギー(kcal/g) …式(1)
DER(一日当たりのエネルギー要求量(kcal/日))は、以下の式(2)により、減量期、調整期および維持期のそれぞれの期間ごとに定めた後述する係数αと、kg換算の体重(kgBW)の0.75乗と、を乗算して求めた。後述する係数αは、FEDIAF Nutritional Guidelines 2017(Table VII-6.(p.67)で紹介されている値を用いた。
DER=α×kgBW0.75 …式(2)
【0057】
≪減量期≫
減量期は、試験開始日(0日目)~84日目(1週目開始日~12週最終日)の期間とした。
減量期におけるペットフードの給餌量は、上記式(2)の係数αを「70」に設定し、上記式(1)で計算した。
【0058】
≪調整期≫
調整期は、試験開始日から85日目~119日目(13週目開始日~17週目最終日)の期間とした。
調整期におけるペットフードの給餌量は、上記式(2)の係数αを個体毎に設定し、上記式(1)で計算した。
減量期と維持期の間に、係数αを個体毎に設定した「調整期」を設けた理由は、減量期最終日(84日目)に生じたBCSのばらつきが無くなるように、全ての個体のBCSを4~5に調節することで、調整期後の維持期での評価の変化を明確にするためであった。
【0059】
≪維持期≫
維持期は、試験開始日から120日目~209日目(17週目開始日~29週目最終日)の期間とした。
維持期におけるペットフードの給餌量は、上記式(2)の係数αを「95」に設定し、上記式(1)で計算した。
【0060】
<体重管理評価>
体重管理の評価として、体重、体脂肪率、除脂肪体重率、LBM/Fatを用いた。体重および体脂肪率の測定日は、試験開始日(0日目)、試験開始日から28日目、56日目、84日目、119日目、147日目、175日目、および203日目とした。除脂肪体重率およびLBM/Fatは、体重および体脂肪率の上記測定日における測定値に基づいて算出した。
【0061】
≪体重≫
個体の被毛を含めた全体重を、GP100K(株式会社 エー・アンド・デイ製)を用いて測定し、体重(kg)とした。
【0062】
≪体脂肪率≫
体脂肪率は、生体インピーダンス法を採用している「ヘルスラボ犬用体脂肪率計」を用いて測定した。
【0063】
≪除脂肪体重率≫
除脂肪体重率は、個体の上記体重を100%として、100%から上記体脂肪率を除算して算出した。
除脂肪体重率(%)=100%-体脂肪率(%)
除脂肪体重率が高いと、体脂肪率が低くなるため、除脂肪体重率の値は高い方が良い。
【0064】
≪LBM/Fat≫
LBM/Fatは、除脂肪体重(Lean Body Mass(LBM))を体脂肪量(Fat)で割った値とした。除脂肪体重(LBM)は、上記体重に上記除脂肪体重率を掛け合わせて算出し、体脂肪量(Fat)は、上記体重に上記体脂肪率を掛け合わせて算出した。
【0065】
体重に関する評価は、表3に、体脂肪率に関する評価は、表4に、除脂肪体重率に関する評価は、表5に、LBM/Fatに関する評価は、表6に記載する。
【0066】
【0067】
【0068】
【0069】
【0070】
表3~6より、実施例1のペットフードを、期間毎に所定の量を給餌すると、ペットの筋肉量(除脂肪体重)の喪失を軽減しつつ、体脂肪量(体脂肪率)を減少できることが明らかとなった。
【0071】
(評価2:血中アミノ酸量の評価)
個体No.11~18の8頭の5~6歳のビーグル犬を用いて血中のアミノ酸量を測定した。
血中のアミノ酸量の評価は、クール1とクール2に分けて、クロスオーバー試験を行った。クール1は、1日目~7日目の7日間とし、個体No.11~14の4頭には、実施例2のペットフードを与え、個体No.15~18の4頭には、比較例2のペットフードを与えた。クール2は、8日目~14日目の7日間とし、個体No.11~14の4頭には、比較例2のペットフードを与え、個体No.15~18の4頭には、実施例2のペットフードを与えた。
【0072】
<給餌量>
給餌量(g/日)は、以下の計算式(1)により、個体ごとに算出した。
給餌量=DER/ペットフードの代謝エネルギー(kcal/g) …式(1)
DER(一日当たりのエネルギー要求量(kcal/日))は、以下の式(2)により求めた。係数「110」は、FEDIAF Nutritional Guidelines 2017(Table VII-6.(p.62)、Table VII-7.(p.63))で紹介されている、3~7歳の犬のMER値として採用した。
DER=110×kgBW0.75 …式(2)
【0073】
<血中のアミノ酸量>
クール1の最終日である7日目と、クール2の最終日である14日目に、所定の時間で個体No.11~18の採血を行い、個体No.11~18の血中のアミノ酸量を測定した。
採血を行った所定の時間は、ペットフード給餌直前、ペットフード給餌後30分経過時、1時間経過時、2時間経過時、4時間経過時、6時間経過時の、計6回である。「ペットフード給餌後」とは、個体が、給餌したペットフードを全て食べ終えた時点から測定した。例えば、「ペットフード給餌後30分経過時」は、個体が、給餌したペットフードを全て食べ終えた時点から30分経過した時に採血を行った。
【0074】
血中のアミノ酸量は、アミノ酸の中でも、バリン、ロイシン、イソロイシン、BCAA(バリン、ロイシン、イソロイシンの総量)、アルギニン、リジン、メチオニン、シスチン、スレオニン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、オルニチン、グルタミン、必須アミノ酸(アルギニン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、シスチン、フェニルアラニン、チロシン、スレオニン、トリプトファン、バリンの総量)を測定した。ペットフード給餌直前に採血した血中に含まれる各種アミノ酸量を100%とし、ペットフード給餌後30分経過時、1時間経過時、2時間経過時、4時間経過時、6時間経過時に採血した血中の各種アミノ酸量(表中[ ]内で示す)の増減率を表7~30に示す。
例えば、表11中の「[バリン]実施例個体11」は、クール1で実施例2のペットフードを給餌した個体No.11のことを示し、「[バリン]実施例個体15」は、クール2で実施例2のペットフードを給餌した個体No.15のことを示す。表12中の「[バリン]比較例個体11」は、クール2で比較例2のペットフードを給餌した個体No.11のことを示し、「[バリン]比較例個体15」は、クール1で比較例2のペットフードを給餌した個体No.15のことを示す。下記表中のその他の表示についても同様である。
また、実施例個体群および比較例個体群のそれぞれの平均値の増減を可視化するために、
図1~15には、血中の各種アミノ酸量(図中[ ]内で示す)をグラフとして示す。
図1~15のグラフにおいて、実線は、実施例個体群の平均値を示し、破線は、比較例個体群の平均値を示す。
【0075】
【0076】
【0077】
【0078】
【0079】
【0080】
【0081】
【0082】
【0083】
【0084】
【0085】
【0086】
【0087】
【0088】
【0089】
【0090】
【0091】
【0092】
【0093】
【0094】
【0095】
【0096】
【0097】
【0098】
【0099】
【0100】
【0101】
【0102】
【0103】
【0104】
【0105】
上記表7~36に示す結果から、実施例2のペットフードは、筋合成をする際の材料となるアミノ酸を十分量供給することが出来ていることがわかった。
【0106】
本発明によれば、植物性タンパク質源原料を含みながら、筋肉量の喪失を軽減しつつ、体重管理をすることができるペットフードを提供することが出来る。
【0107】
以上、本発明の好ましい実施例を説明したが、本発明はこれら実施例に限定されることはない。本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。