(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-24
(45)【発行日】2024-06-03
(54)【発明の名称】ビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼンの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 29/76 20060101AFI20240527BHJP
C07C 33/26 20060101ALI20240527BHJP
【FI】
C07C29/76
C07C33/26
(21)【出願番号】P 2020002979
(22)【出願日】2020-01-10
【審査請求日】2022-10-31
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】小池 弘文
(72)【発明者】
【氏名】澤野 直人
(72)【発明者】
【氏名】吉井 政之
【審査官】水島 英一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-246512(JP,A)
【文献】II 基礎的化学技術-4章 化学合成技術,化学便覧 応用化学編 第6版,2003年,176ページ
【文献】7 平衡蒸気圧の測定,新実験化学講座2 基礎技術1 熱・圧力,1977年,336ページ
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 29/76
C07C 33/26
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも水を含む含水ビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼンを乾燥させる乾燥工程を含む、ビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼンの製造方法において、
前記含水ビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼンを、ビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼンが昇華しない条件であって、且つ、水の蒸気圧曲線より低圧側の条件にて乾燥させる乾燥工程を含
み、
前記乾燥工程は、前記含水ビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼンを、下記式(1)を充足する温度及び圧力であって、且つ、水の蒸気圧曲線より低圧側の温度及び圧力にて乾燥させる工程であり、
P ≧ 4×10
-21
×T
11
(1)
(式(1)中、Tは温度(単位:℃)であり、Pは圧力(単位:kPaA)である)
前記含水ビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼンが、1,3-ビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼンである、ビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼンの製造方法。
【請求項2】
前記含水ビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼンが、さらに有機溶媒を含む、請求項
1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記有機溶媒は、ジイソプロピルベンゼン、メチルイソブチルケトン、フェネチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ベンジルアルコール、及びフェニルエタノールから選択される少なくとも1種の有機溶媒である、請求項2に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼンの製造方法としては、例えば、特許文献1等に、ジイソプロピルベンゼンを原料として用い、ジヒドロキシベンゼン及びビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼンを同時に製造する方法が記載されている。特許文献1には、得られたビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼンを、晶析、濾過、及び乾燥の操作を用いて精製することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼンの製造においては、合成方法に因らず得られたビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼンに水が含まれるため、当該水を乾燥する乾燥工程が必須の工程となる。ところが、特許文献1記載の方法でビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼンの生産を行う際に、合成されたビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼンを乾燥する工程において、製造装置の配管が閉塞するという問題が発生することがあった。乾燥工程において配管が閉塞すれば、その都度閉塞物を除去するために、製造を止める必要があり、ビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼンの生産効率が低下するという問題がある。
【0005】
しかし、これまでは、その配管の閉塞の原因は、わからなかった。
【0006】
そこで、本発明の一態様は、ビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼンを乾燥する工程において、配管の閉塞を防止し、生産効率を向上させることができるビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼンの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、配管の閉塞は、ビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼンの昇華に起因するものであることを初めて見出した。そして、かかる知見に基づき、ビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼンが昇華しない条件であって、且つ、水の蒸気圧曲線より低圧側の条件にて乾燥させたところ、配管の閉塞を防止し、生産効率を向上させることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明は、以下の[1]~[5]に示す発明を含む。
【0008】
[1]少なくとも水を含む含水ビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼンを乾燥させる乾燥工程を含む、ビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼンの製造方法において、前記含水ビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼンを、ビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼンが昇華しない条件であって、且つ、水の蒸気圧曲線より低圧側の条件にて乾燥させる乾燥工程を含む、ビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼンの製造方法。
【0009】
[2]前記乾燥工程は、前記含水ビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼンを、下記式(1)を充足する温度及び圧力であって、且つ、水の蒸気圧曲線より低圧側の温度及び圧力にて乾燥させる、[1]に記載の製造方法。
P ≧ 4×10-21×T11 (1)
(式(1)中、Tは温度(単位:℃)であり、Pは圧力(単位:kPaA、絶対圧)である)
[3]前記含水ビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼンが、1,3-ビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼン、及び、1,4-ビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼンから選択される少なくともいずれかである、[1]又は[2]に記載の製造方法。
【0010】
[4]前記含水ビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼンが、さらに有機溶媒を含む、[1]~[3]のいずれかに記載の製造方法。
【0011】
[5]前記有機溶媒は、ジイソプロピルベンゼン、メチルイソブチルケトン、フェネチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ベンジルアルコール、及びフェニルエタノールから選択される少なくとも1種の有機溶媒である、[4]に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一実施形態に係るビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼンの製造方法は、得られたビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼンを乾燥する工程において、配管の閉塞を防止し、生産効率を向上させることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】ビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼンが昇華しない条件であって、且つ、水の蒸気圧曲線より低圧側の条件を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態に関して、詳細に説明する。なお、本明細書において、「A~B」とは、「A以上、B以下」であることを示している。
【0015】
本発明の一実施形態に係るビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼンの製造方法は、少なくとも水を含む含水ビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼンを乾燥させる乾燥工程を含む、ビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼンの製造方法であって、前記含水ビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼンを、ビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼンが昇華しない条件であって、且つ、水の蒸気圧曲線より低圧側の条件にて乾燥させる乾燥工程を含む。
【0016】
以下、本発明の一実施形態に係るビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼンの製造方法について、〔1.1〕 乾燥工程、〔1.2〕その他の工程の順に説明する。
【0017】
〔1.1〕乾燥工程
本発明の一実施形態に係るビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼンの製造方法は、少なくとも水を含む含水ビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼンを乾燥させる乾燥工程を含む、ビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼンの製造方法であって、前記含水ビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼンを、ビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼンが昇華しない条件であって、且つ、水の蒸気圧曲線より低圧側の条件にて乾燥させる乾燥工程を含む。
【0018】
本発明の一実施形態において、本乾燥工程にて乾燥される少なくとも水を含む含水ビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼンは、ビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼンを合成する工程で得られたビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼンであればよく、例えば、合成後の反応液からビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼンを分離及び/又は精製することにより得られた粗ビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼンであり得る。ビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼンを合成する工程で得られたビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼンは、合成反応において原料液に含有される水、還元剤を溶解させる水、還元反応により副生する水、洗浄工程、晶析工程及び分離工程において混入する水など、どのような方法によって合成された場合でも、水を含んでいることから、本発明の一実施形態に係るビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼンの製造方法は、どのような合成方法を用いる製造方法においても好適に用いることができる。
【0019】
本乾燥工程に供される含水ビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼンに含まれる水の量は特に限定されるものではないが、乾燥工程に供される含水ビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼンの質量に対して、好ましくは40質量%以下であり、より好ましくは20質量%以下であり、さらに好ましくは10質量%以下である。本乾燥工程に供される含水ビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼンに含まれる水の量が、40質量%以下であれば、乾燥時間が長時間となりすぎないため好ましい。下限は好ましくは1質量%である。
【0020】
本乾燥工程に供される含水ビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼンは、さらに有機溶媒を含んでいてもよい。ビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼンの合成、分離、及び精製においては、通常有機溶媒が使用される。したがって、本乾燥工程に供される含水ビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼンは、かかる有機溶媒を含みうる。前記有機溶媒としては、特に限定されるものではないが、例えば、炭化水素類、アルコール類、ケトン類、エーテル類等を挙げることができる。中でも、前記有機溶媒は、より好ましくは、ジイソプロピルベンゼン、メチルイソブチルケトン、フェネチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ベンジルアルコール、及びフェニルエタノールから選択される少なくとも1種の有機溶媒である。
【0021】
本乾燥工程に供される含水ビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼンに含まれる前記有機溶媒の量は特に限定されるものではないが、本乾燥工程に供される含水ビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼンの質量に対して、好ましくは40質量%以下であり、より好ましくは20質量%以下であり、さらに好ましくは10質量%以下である。本乾燥工程に供される含水ビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼンに含まれる前記有機溶媒の量が、40質量%以下であれば、乾燥時間が長時間となりすぎないため好ましい。下限は好ましくは1質量%である。
【0022】
本発明の一実施形態において、「乾燥させる」とは、乾燥後のビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼンに含まれる水の量を、乾燥前の含水ビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼンに含まれる水の量よりも減少させることをいう。乾燥後のビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼンに含まれる水の量は、乾燥後のビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼンの質量に対して、好ましくは1質量%未満である。
【0023】
また、本乾燥工程に供される含水ビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼンが、さらに有機溶媒を含んでいる場合、乾燥後のビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼンに含まれる前記有機溶媒の量は、乾燥後のビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼンの質量に対して、好ましくは1質量%未満である。
【0024】
本発明の一実施形態において、乾燥は、ビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼンが昇華しない条件であって、且つ、水の蒸気圧曲線より低圧側の条件にて行われる。ビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼンが昇華しない条件で乾燥を行うことにより、乾燥工程に配管が閉塞することを防止し、生産効率を向上させることができる。
【0025】
ここで、ビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼンが昇華しない条件とは、下記式(1)を充足する温度及び圧力の条件を意味する。
P ≧ 4×10-21×T11 (1)
ここで、式(1)中、Tは温度(単位:℃)であり、Pは圧力(単位:kPaA)である。
【0026】
本発明の一実施形態における乾燥工程では、前記含水ビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼンを、前記式(1)を充足する温度及び圧力であって、且つ、水の蒸気圧曲線より低圧側の温度及び圧力にて乾燥させる。水の蒸気圧曲線より低圧側の温度及び圧力にて乾燥させることにより、含水ビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼンに含まれる水を効率的に除去することができる。
【0027】
図1を参照して、ビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼンが昇華しない条件であって、且つ、水の蒸気圧曲線より低圧側の条件を説明する。
図1中、一点鎖線で示されている線が水の蒸気圧曲線であり、破線で示されている線がP = 4×10
-21×T
11を示す線である。すなわち、前記含水ビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼンを、ベンゼンが昇華しない条件であって、且つ、水の蒸気圧曲線より低圧側の温度及び圧力にて乾燥させるとは、
図1中、ハッチングにより示されている領域の圧力および温度にて乾燥させることである。
【0028】
本発明の一実施形態において、乾燥は、ビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼンが昇華しない条件であって、且つ、水の蒸気圧曲線より低圧側の条件にて行われればよいが、本発明の他の一実施形態において、前記条件に加えて、さらに、前記有機溶媒の蒸気圧曲線より低圧側の条件にて行われてもよい。より好ましくは、ビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼンが昇華しない条件であって、且つ、水の蒸気圧曲線より低圧側の条件に加えて、ジイソプロピルベンゼン、メチルイソブチルケトン、フェネチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ベンジルアルコール、及びフェニルエタノールから選択される少なくとも1種の有機溶媒の蒸気圧曲線より低圧側の条件にて行われてもよい。これにより、前記有機溶媒の除去の速度を速めることができる。
【0029】
前記含水ビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼンは、1,3-ビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼン、及び、1,4-ビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼンから選択される少なくともいずれかであればよい。より好ましくは、前記含水ビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼンは、1,3-ビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼンである。
【0030】
〔1.2〕その他の工程
本発明の一実施形態に係るビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼンの製造方法は、前記乾燥工程を含んでいればよいが、その他の工程として、例えば、ビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼンを合成する合成工程、及び得られたビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼンを精製する精製工程等を含み得る。
【0031】
(合成工程)
本発明の一実施形態において、前記合成工程は、ビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼンを合成する工程であれば、特に限定されるものではなくどのような経路で合成されるものであってもよい。
【0032】
前記合成工程はこれに限定されるものではないが、例えば、1-(ヒドロペルオキシイソプロピル)-3-(ヒドロキシイソプロピル)ベンゼン等の芳香族過酸化物類を、アルミナ担持遷移金属触媒の存在下で水素化することによりビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼンを含む反応液を得る工程であり得る。
【0033】
本発明の一実施形態において、アルミナ担持遷移金属触媒とは、遷移金属触媒がアルミナに担持されてなる触媒であればよく、前記遷移金属触媒は、パラジウム、ニッケル、及びプラチナから選ばれる少なくとも1つでありうる。アルミナ担体上の遷移金属触媒の担持濃度は、アルミナ担体の質量に対して通常0.01~20質量%である。
【0034】
本発明の一実施形態において、水素化の反応圧力は通常0~10MPa(ゲージ圧)である。また、反応温度は通常20~200℃であり、反応時間は通常1~300分である。反応方法としては、液相での固定床流通反応、又は撹拌槽スラリー反応などで実施できるが、活性、選択性及び触媒寿命などの点から粉体触媒を用いる撹拌槽スラリー反応が好適である。
【0035】
(精製工程)
本発明の一実施形態において、前記精製工程は、前記合成工程で得られたビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼンを含む反応液から、ビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼンを精製する工程である。精製の方法は特に限定されるものではないが、例えば、晶析操作及び濾過操作を含む方法、蒸留操作を含む方法、洗浄操作を含む方法、吸着操作を含む方法等を挙げることができる。晶析操作の前に蒸留により有機溶媒の一部を留去する濃縮操作を行ってもよい。
【0036】
晶析操作は、ビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼンを選択的に析出させる操作であり、例えばビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼンを含む反応液又はその濃縮液を、攪拌下の晶析槽で冷却しながら、ビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼンを選択的に析出させる。冷却の温度はこれに限定されるものではないが、例えば、25℃以下である。
【0037】
濾過操作は、ビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼンと有機溶媒とを分離する操作であり、減圧、加圧、遠心等があるが、操作性の観点から遠心濾過がより好ましい。
【0038】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例及び比較例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0040】
〔合成例1〕
メタジイソプロピルベンゼンの空気による酸化反応により、1-(ヒドロペルオキシイソプロピル)-3-(ヒドロキシイソプロピル)ベンゼン(以下、CHPOと称することがある)及び1,3-ビス(ヒドロペルオキシイソプロピル)ベンゼン(以下、DHPOと称することがある)を含有する酸化油を得た。得られた酸化油に対し、7質量%水酸化ナトリウム水溶液による抽出操作、次いで、メチルイソブチルケトンによる抽出操作を行い、CHPO及びDHPOを含有するメチルイソブチルケトン溶液(溶液I)を得た。
【0041】
アルミナ担持パラジウム触媒を触媒として存在させた反応器に、水素及び溶液Iを連続供給し、溶液I中のCHPO及びDHPOと水素とを反応させた。得られた液を金属製フィルターに通し、アルミナ担持遷移金属触媒と分離し、1,3-ビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼン及びメチルイソブチルケトンを含有する反応液を得た。
【0042】
得られた反応液から、濃縮操作によりメチルイソブチルケトンの一部を留去して濃縮液を得た。得られた濃縮液から、晶析操作、次いで、分離操作により、メチルイソブチルケトン及び水を含有する粗1,3-ビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼンを得た。
【0043】
〔実施例1~8、比較例1~4〕
湯浴および真空ポンプを備えたエバポレーターを用いて、合成例1により得られた粗1,3-ビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼンの乾燥を行った。
【0044】
乾燥は、エバポレーターのガラス製フラスコに、前記粗1,3-ビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼン80gを仕込み、ガラス製フラスコ内の圧力を一定圧力とした後、当該一定圧力下で、湯浴の温度を室温(25℃)から昇温し、所定温度にした。
【0045】
表1に、各実施例及び比較例における、ガラス製フラスコ内の圧力と、湯浴の前記所定温度を示す。湯浴の前記所定温度にて、昇華現象の有無を確認した。昇華現象の有無は、ガラス製フラスコ上部における1,3-ビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼンの固体の析出の有無により判断し、固体の析出が観察された場合を昇華現象あり、固体の析出が観察されなかった場合を昇華現象なしとした。結果を表1に示す。
【0046】
表1中、昇華現象が観察されなかった場合であって、続けて昇温した場合、その直後に昇華が確認され始めた点を、表1中、「なし(臨界点)」と記載した。
【0047】
【0048】
〔実施例9〕
湯浴および真空ポンプを備えたエバポレーターを用いて、合成例1により得られた粗1,3-ビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼンの乾燥を行った。乾燥前の粗1,3-ビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼンは、メチルイソブチケトン(表2中、「MIBK」と記載、表3においても同じ)を2.9質量%含んでいた。
【0049】
乾燥は、エバポレーターのガラス製フラスコに、合成例1により得られた粗1,3-ビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼン(表2中、1,3-ビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼンを「MDO」と記載、表3においても同じ)80gを仕込み、ガラス製フラスコ内の圧力と、湯浴の前記所定温度とをそれぞれ実施例2と同様にし、実施例1~4と同じ操作を行うことにより行った。実施例1~4と同様にして昇華現象を確認したところ、昇華現象はなかった。
【0050】
乾燥後、1,3-ビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼン(白色固体)75gが得られた。得られた白色固体が含有するメチルイソブチケトンは0.03質量%であった。結果を表2に示す。
【0051】
【0052】
〔実施例10〕
合成例1と同じ操作を行い、メチルイソブチルケトン及び水を含有する粗1,3-ビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼンを得た。
【0053】
得られた粗1,3-ビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼン100質量部を乾燥機に入れ、5.3kPaA下、乾燥機内の温度を54℃から80℃まで昇温し、更に、80℃下、4時間乾燥を行った。
【0054】
乾燥後、1,3-ビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼン(白色固体)97質量部が得られた。乾燥後の1,3-ビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼンに含有されるメチルイソブチケトンの量は0.004質量%であり、水の量は0.01質量%であった。
【0055】
〔実施例11〕
合成例1と同じ操作を行い、メチルイソブチルケトン及び水を含有する粗1,3-ビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼンを得た。
【0056】
得られた粗1,3-ビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼン100質量部を乾燥機に入れ、5.3kPaA下、乾燥機内の温度を56℃から80℃まで昇温し、更に、80℃下、4時間乾燥を行った。
【0057】
乾燥後、1,3-ビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼン(白色固体)98質量部が得られた。乾燥後の1,3-ビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼンに含有されるメチルイソブチケトンの量は0.02質量%であり、水の量は0.01質量%であった。
【0058】
【0059】
(まとめ)
表1に示されるように、粗含水ビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼンを、ビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼンが昇華しない条件であって、且つ、水の蒸気圧曲線より低圧側の条件にて乾燥させたときには、ガラス製フラスコ上部に1,3-ビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼンの固体は析出しなかった。また、表2及び表3に示されるように、前記条件にて乾燥を行うことにより、ガラス製フラスコ上部に1,3-ビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼンの固体が析出しないとともに、水及び有機溶媒を効率的に除去することができたことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の一実施形態に係る製造方法によれば、(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼンを乾燥する工程において、配管の閉塞を防止し、生産効率を向上させることができるという効果を奏する。よって、本発明は、ビス(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼンを製造する分野において有用である。