(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-24
(45)【発行日】2024-06-03
(54)【発明の名称】圧電素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
H10N 30/02 20230101AFI20240527BHJP
H10N 30/30 20230101ALI20240527BHJP
H04R 17/02 20060101ALI20240527BHJP
B81C 1/00 20060101ALI20240527BHJP
【FI】
H10N30/02
H10N30/30
H04R17/02
B81C1/00
(21)【出願番号】P 2020091514
(22)【出願日】2020-05-26
【審査請求日】2023-03-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000191238
【氏名又は名称】日清紡マイクロデバイス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】口地 博行
【審査官】渡邊 佑紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-137297(JP,A)
【文献】特開2018-048925(JP,A)
【文献】特開2017-210000(JP,A)
【文献】特開2015-047726(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0021410(US,A1)
【文献】特開2020-136385(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 30/02
H10N 30/30
H04R 17/02
B81C 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スリットにより分離された振動板と、前記スリットの開口部の少なくとも一部を覆う伸縮膜とを備えた圧電素子の製造方法であって、
前記振動板を構成する圧電膜と該圧電膜を挟んで配置された一対の電極との組を備えた圧電素子形成領域を複数備えた支持基板を用意する工程と、
前記支持基板の一部を除去して、前記圧電素子形成領域のそれぞれにキャビティを形成する工程と、
前記スリットにより分離された前記振動板を形成した後、前記キャビティ内の前記スリットの開口部にそれぞれ選択的
に液状樹脂を塗布し、前記スリットを塞ぐ前記液状樹脂から前記伸縮膜を形成する工程と、
前記支持基板を個片化し、複数の前記圧電素子を形成する工程と、
を含むことを特徴とする圧電素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電素子の製造方法に関し、特に高感度、低雑音となる圧電型MEMSマイクロフォン等に利用可能な圧電素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な圧電素子は、
図5に示すように所望の形状のスリット1を圧電膜に形成し、支持基板にキャビティを形成することで片持ち梁構造の振動板2を形成する。
図5(a)では四角形の2枚の振動板2を、
図5(b)では三角形の4枚の振動板2をそれぞれ形成している。この種の圧電素子は、例えば特許文献1に開示されている。
【0003】
図6は一般的な圧電素子の断面図である。
図6に示すようにシリコン基板からなる支持基板3上に絶縁膜4を介して多層構造の圧電膜5a、5bが支持固定され、圧電膜5aは電極6aと電極6bにより、圧電膜5bは電極6bと電極6cによりそれぞれ挟み込まれた構造となっている。支持基板3にはキャビティ7が形成されており、スリット1により区画、分離された圧電膜および電極は、一端が支持基板3に固定され、他端が開放端となる振動板2を構成している。
【0004】
このような圧電素子では、振動板2が音響圧力等を受けると圧電膜5aが歪み、その内部に分極が起こり、電極6aに接続する配線金属8aと、電極6bに接続する配線電極8bから電圧信号を取り出すことが可能となる。同様に圧電膜5bが歪むとその内部に分極が起こり、電極6cに接続する配線金属8aと、電極6bに接続する配線金属8bから電圧信号を取り出すことが可能となる。
【0005】
ところでこのような片持ち梁構造の振動板(圧電膜)は、残留応力が開放されると反りが生じ、スリット1の開口幅が広がってしまう。このような反りによりスリット1の開口幅が設計値以上となった状態の圧電素子をマイクロフォンとして使用すると、音響抵抗が低下し、低周波感度の低下等特性劣化を招いてしまう。
【0006】
そこで、本願出願人は
図7に示すように振動板2上に薄膜9を積層形成した圧電素子を提案した(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第5936154号公報
【文献】特開2018-137297号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本願出願人が先に提案した圧電素子は、薄膜9を備える構造とすることで圧電膜の残留応力に起因するスリット1の開口幅の広がりと、それに伴う特性劣化を抑制することができる。しかしながら、その製造工程においては、スリット1を形成した後、そのスリット1に連通するように薄膜9の開口を形成するため、製造工程のばらつき(位置合わせのずれ)を考慮して薄膜9の開口幅をスリット1の開口幅より広く形成する必要があり、音響抵抗の低下や低周波感度の低下等の特性劣化を完全に抑制することができなかった。本発明はこのような課題を解決し、高感度で信号雑音比を改善した圧電素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本願請求項1に係る発明は、スリットにより分離された振動板と、前記スリットの開口部の少なくとも一部を覆う伸縮膜とを備えた圧電素子の製造方法であって、前記振動板を構成する圧電膜と該圧電膜を挟んで配置された一対の電極との組を備えた圧電素子形成領域を複数備えた支持基板を用意する工程と、前記支持基板の一部を除去して、前記圧電素子形成領域のそれぞれにキャビティを形成する工程と、前記スリットにより分離された前記振動板を形成した後、前記キャビティ内の前記スリットの開口部にそれぞれ選択的に液状樹脂を塗布し、前記スリットを塞ぐ前記液状樹脂から前記伸縮膜を形成する工程と、前記支持基板を個片化し、複数の前記圧電素子を形成する工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の圧電素子の製造方法は、キャビティ内に伸縮膜となる液状樹脂を塗布して乾燥等するだけでスリットの開口部を塞ぐ伸縮膜を形成することができ、非常に簡便に伸縮膜を形成することができる。またスリットの一部に伸縮膜を形成しない領域を残すことも容易に制御でき、圧電素子の特性制御が容易となる。
【0011】
特に本発明では、振動板を形成した後、スリットの開口部を塞ぐように伸縮膜を形成することができるので、伸縮膜が振動板から応力を受けることがない。その結果、振動板と伸縮膜とを確実に接着することができるとともに、伸縮膜の伸縮性を十分に利用することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の圧電素子の製造方法を説明する図である。
【
図2】本発明の圧電素子の製造方法を説明する図である。
【
図3】本発明の圧電素子の製造方法を説明する図である。
【
図4】本発明の別の圧電素子の形成方法を説明する図である。
【
図7】本願出願人が先に開示した圧電素子を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の圧電素子の製造方法によると、圧電素子のスリットを伸縮膜で塞ぐことができ、特性劣化のない圧電素子を形成することができる。伸縮膜は、スリットを形成した後にスリット上に伸縮膜となる液状樹脂を滴下して乾燥させる等の簡便な方法で形成することができる。以下、本発明の実施例について詳細に説明する。
【実施例1】
【0014】
本発明の第1の実施例について説明する。本発明の圧電素子の製造方法は、先に従来例で説明した
図5に示すような所望の形状のスリット1を形成して、片持ち梁構造の振動板を備えた圧電素子の製造方法となる。
【0015】
シリコン基板からなる集合基板としての支持基板3に、複数の圧電素子を形成する。以下、3個の圧電素子を同時に形成する場合について説明する。支持基板3上に、
図6に示すように絶縁膜を介した多層構造の圧電膜と、圧電膜それぞれの電極と、各電極に接続する配線金属を形成する。圧電膜は、スリット1により区画、分離されており、支持基板3にキャビティ7を形成することで、一端が支持基板3に固定され、他端が開放端となる振動板2を形成することができる。
図1に示す例では、個片化のためのスクライブラインとなる支持基板3上の圧電膜等を除去した形状としている。
【0016】
振動板2が支持板10の表面に接触するように、支持板10上に支持基板3を載置する。このように載置すると、支持基板3の重さによって振動板2の反りが緩和される場合もある。このような状態で液状樹脂12を滴下し、伸縮膜を形成すると、伸縮膜と振動板2との間に応力が発生する場合がある。この応力が圧電素子の特性劣化に寄与しない場合には、
図2に示す状態で、各キャビティ7の底面にディスペンサー11から液状樹脂12を滴下する。液状樹脂12の粘度を適宜設定することで、液状樹脂12の一部がスリット1に入り込みスリット1が塞がれる。一方、伸縮膜と振動板2との間の応力が圧電素子の特性劣化に寄与するほど大きい場合は、支持板10は集合基板となる支持基板3の周辺部のみに接触するようにして、振動板2が支持板10に接触しないようにすればよい。
【0017】
滴下する液状樹脂は、例えばポリウレタン樹脂と有機溶剤を含む混合液を所望の粘度となるように調整して用意する。必要な添加剤を混合することも可能である。液状樹脂に含まれる有機溶剤は、所望の乾燥工程等により蒸発させることで、ポリウレタン樹脂からなる伸縮膜13によりスリット1を覆う構造とすることができる。
【0018】
液状樹脂12をキャビティ7内のスリット1を塞ぐように塗布する方法は、
図2に示すディスペンサー11から液状樹脂を滴下する方法の代わりに、周知の方法を採用することができる。ポリウレタン樹脂を含む比較的粘度の高い液状樹脂を塗布する方法としては、ジェットディスペンサーにより塗布することで、所望の量の液状樹脂を所望の場所に塗布することができ好ましい。
【0019】
それぞれの圧電素子の全てのスリット1を伸縮膜13で覆うことは必ずしも必須ではない。スリット1の端部をベントホールとして残すこともできる。この場合は、塗布する液状樹脂の粘度と量を調整することで、液状樹脂で塞がないスリット1の長さを制御することが可能である。
【0020】
その後、スリット1を伸縮膜13で覆った圧電素子の支持基板3をスクライブ用の支持テープ14に貼り付け、スクライブライン15に沿ってレーザー光を照射し、支持テープ14を拡げることで、
図3に示すように個々の圧電素子に個片化することができる。
【0021】
このようにポリウレタン樹脂からなる伸縮膜13でスリット1を塞いだ圧電素子は、伸縮膜13により振動板2の振動が妨げられることはなく、十分な出力信号を得ることができる。
【実施例2】
【0022】
次に第2の実施例について説明する。上記第1の実施例では
図2に示すように、液状樹脂12が振動板2の全面を覆うように滴下されていた。しかしながら液状樹脂12は、例えば
図4に示すようにスリット1上に選択的に滴下してもよい。この場合、滴下した液状樹脂12の粘度を高くし、所望の位置に確実に液状樹脂12を形成するため、ジェットディスペンサーを用いるのが好ましい。スリット1の一部をベントホールとして残す場合には、このように粘度の高い液状樹脂12を用いて、スリット1上に選択的に伸縮膜を形成する方法が、ベントホールの面積を制御する上で好適となる。また2液式の液状樹脂をジェットディスペンサーにより塗布し、振動板2上で反応させるようにすることも可能である。
【0023】
このように本発明により形成された圧電素子は、スリット1を伸縮膜13で塞ぐ構成となっているため、マイクロフォンとして使用した場合、音響抵抗の低下や低周波感度の低下等の特性劣化が抑制でき、特性の優れたマイクロフォンを提供することが可能となる。また必要に応じてスリット1の一部を伸縮膜13で塞がずに残し、ベントホールとして機能させることも容易となる。
【0024】
なお本発明は上記実施例に限定されず、種々変更可能である。例えば、液状樹脂は、ポリウレタン樹脂の他、周知樹脂を用いることができる。液状樹脂の種類によっては液状樹脂から伸縮性樹脂を形成する際、加熱温度、時間、湿度等の雰囲気条件を適宜選定することになる。
【符号の説明】
【0025】
1:スリット、2:振動板、3:支持基板、4:絶縁膜、5a、5b:圧電膜、6a、6b:電極、7:キャビティ、8a、8b:配線金属、9:薄膜、10:支持板、11:ディスペンサー、12:液状樹脂、13:伸縮膜、14:支持テープ、15:スクライブライン