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特許7494096ワークピースの研磨監視方法および研磨監視装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-24
(45)【発行日】2024-06-03
(54)【発明の名称】ワークピースの研磨監視方法および研磨監視装置
(51)【国際特許分類】
   B24B 37/013 20120101AFI20240527BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20240527BHJP
   B24B 49/12 20060101ALI20240527BHJP
【FI】
B24B37/013
H01L21/304 622S
B24B49/12
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020200761
(22)【出願日】2020-12-03
(65)【公開番号】P2022088758
(43)【公開日】2022-06-15
【審査請求日】2023-03-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000000239
【氏名又は名称】株式会社荏原製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100118500
【弁理士】
【氏名又は名称】廣澤 哲也
(74)【代理人】
【氏名又は名称】渡邉 勇
(74)【代理人】
【識別番号】100174089
【弁理士】
【氏名又は名称】郷戸 学
(74)【代理人】
【識別番号】100186749
【弁理士】
【氏名又は名称】金沢 充博
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 夕貴
(72)【発明者】
【氏名】塩川 陽一
(72)【発明者】
【氏名】廣尾 康正
【審査官】山村 和人
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-156503(JP,A)
【文献】特開2005-161418(JP,A)
【文献】特開昭60-030578(JP,A)
【文献】特開2014-066982(JP,A)
【文献】特開2013-080453(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 37/00 - 37/34
H01L 21/304
B24B 49/00 - 49/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークピースの研磨を監視する方法であって、
ワークピースの研磨中に前記ワークピースに光を照射し、
前記ワークピースからの反射光のスペクトルを生成し、
所定の時間当たりの前記スペクトルの変化量を算出し、
前記スペクトルの変化量が所定の除外条件を満たすときに、前記スペクトルの変化量を補正し、
前記除外条件を満たさない前記スペクトルの変化量および前記補正されたスペクトルの変化量を研磨時間に沿って積算してスペクトル累積変化量を算出することを含み、
前記除外条件は、
前記スペクトルの変化量が固定しきい値よりも大きいこと、
現在のスペクトルの変化量と、前記ワークピースの研磨中に既に得られたスペクトルの複数の変化量の平均値との差が変動しきい値よりも大きいこと、
前記スペクトルの変化量が、過去に得られたスペクトルの複数の変化量の正規分布の平均値から±Xσの範囲外にあること(Xは予め定められた係数である)、および
前記スペクトルの変化量が、スミルノフ・グラブス検定により外れ値と判定されること、
のうちのいずれかであり
前記固定しきい値は、過去に得られたスペクトルの変化量のデータに基づいて決定された固定値であり、
前記変動しきい値は、予め定められた割合だけ前記平均値からずれた値であり、
前記正規分布の平均値の算定に使用される、過去に得られたスペクトルの複数の変化量は、前記ワークピースと同じ構造を持つ少なくとも1つのワークピースを研磨しているときに得られたスペクトルの複数の変化量であるか、または前記ワークピースの研磨中に既に得られたスペクトルの複数の変化量であり、
前記スミルノフ・グラブス検定において使用されるサンプルデータは、前記ワークピースと同じ構造を持つ少なくとも1つのワークピースを研磨しているときに得られたスペクトルの複数の変化量であるか、または前記ワークピースの研磨中に既に得られたスペクトルの複数の変化量である、方法。
【請求項2】
前記スペクトルの変化量を補正する工程は、前記スペクトルの変化量を外挿または内挿により補正する工程である、請求項に記載の方法。
【請求項3】
前記外挿による補正は、研磨時間に沿って並ぶスペクトルの複数の変化量を使用し、前記内挿による補正は、前記ワークピース上に並ぶ複数の測定点で取得されたスペクトルの複数の変化量を使用する、請求項に記載の方法。
【請求項4】
前記スペクトルの変化量を補正する工程は、
(I)前記除外条件を満たすスペクトルの変化量を、前記除外条件を満たさないスペクトルの変化量に置き換える工程、
(II)前記除外条件を満たすスペクトルの変化量を、前記ワークピースの研磨中に既に得られたスペクトルの複数の変化量の平均値に置き換える工程、
(III)前記除外条件を満たすスペクトルの変化量を、前記ワークピース上の隣接する複数の測定点で得られたスペクトルの複数の変化量の平均値に置き換える工程、
(IV)前記ワークピースの研磨中に既に得られたスペクトルの複数の変化量から近似式を生成し、前記除外条件を満たすスペクトルの変化量を、前記近似式で求められる値に置き換える工程、
のいずれかである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記(I)において、前記除外条件を満たさないスペクトルの変化量は、前記ワークピースの研磨中に、前記除外条件を満たすスペクトルの変化量が取得される直前に取得された直近のスペクトルの変化量であり、
前記(II)において、前記ワークピースの研磨中に既に得られたスペクトルの複数の変化量は、前記除外条件を満たさないスペクトルの複数の変化量であり、
前記(III)において、前記ワークピース上の隣接する複数の測定点は、前記除外条件を満たすスペクトルの変化量が取得された前記ワークピース上の測定点に隣接する複数の測定点であり、
前記(IV)において、前記近似式は、前記除外条件を満たさないスペクトルの複数の変化量と、対応する複数の研磨時間とによって特定される座標系上の複数のデータ点から決定される式である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
ワークピースの研磨監視装置であって、
ワークピースの研磨中に前記ワークピースに光を照射し、前記ワークピースからの反射光を受ける光学センサヘッドと、
前記反射光の強度を波長ごとに測定する分光器と、
プログラムが格納された記憶装置および前記プログラムに含まれる命令に従って演算を実行する演算装置を有するデータ処理部を備え、
前記データ処理部は、
前記反射光の強度の測定データから前記反射光のスペクトルを生成し、
所定の時間当たりの前記スペクトルの変化量を算出し、
前記スペクトルの変化量が所定の除外条件を満たすときに、前記スペクトルの変化量を補正し、
前記除外条件を満たさない前記スペクトルの変化量および前記補正されたスペクトルの変化量を研磨時間に沿って積算してスペクトル累積変化量を算出するように構成されており、
前記除外条件は、
前記スペクトルの変化量が固定しきい値よりも大きいこと、
現在のスペクトルの変化量と、前記ワークピースの研磨中に既に得られたスペクトルの複数の変化量の平均値との差が変動しきい値よりも大きいこと、
前記スペクトルの変化量が、過去に得られたスペクトルの複数の変化量の正規分布の平均値から±Xσの範囲外にあること(Xは予め定められた係数である)、および
前記スペクトルの変化量が、スミルノフ・グラブス検定により外れ値と判定されること、
のうちのいずれかであり、
前記固定しきい値は、過去に得られたスペクトルの変化量のデータに基づいて決定された固定値であり、
前記変動しきい値は、予め定められた割合だけ前記平均値からずれた値であり、
前記正規分布の平均値の算定に使用される、過去に得られたスペクトルの複数の変化量は、前記ワークピースと同じ構造を持つ少なくとも1つのワークピースを研磨しているときに得られたスペクトルの複数の変化量であるか、または前記ワークピースの研磨中に既に得られたスペクトルの複数の変化量であり、
前記スミルノフ・グラブス検定において使用されるサンプルデータは、前記ワークピースと同じ構造を持つ少なくとも1つのワークピースを研磨しているときに得られたスペクトルの複数の変化量であるか、または前記ワークピースの研磨中に既に得られたスペクトルの複数の変化量である、研磨監視装置。
【請求項7】
前記データ処理部は、前記スペクトルの変化量を外挿または内挿により補正するように構成されている、請求項に記載の研磨監視装置。
【請求項8】
前記データ処理部は、前記外挿による補正を、研磨時間に沿って並ぶスペクトルの複数の変化量を使用して実行し、前記内挿による補正を、前記ワークピース上に並ぶ複数の測定点で取得されたスペクトルの複数の変化量を使用して実行するように構成されている、請求項7に記載の研磨監視装置。
【請求項9】
前記データ処理部は、
(I)前記除外条件を満たすスペクトルの変化量を、前記除外条件を満たさないスペクトルの変化量に置き換える動作、
(II)前記除外条件を満たすスペクトルの変化量を、前記ワークピースの研磨中に既に得られたスペクトルの複数の変化量の平均値に置き換える動作、
(III)前記除外条件を満たすスペクトルの変化量を、前記ワークピース上の隣接する複数の測定点で得られたスペクトルの複数の変化量の平均値に置き換える動作、
(IV)前記ワークピースの研磨中に既に得られたスペクトルの複数の変化量から近似式を生成し、前記除外条件を満たすスペクトルの変化量を、前記近似式で求められる値に置き換える動作、
のいずれかの動作を実行することにより、前記除外条件を満たす前記スペクトルの変化量を補正するように構成されている、請求項6に記載の研磨監視装置。
【請求項10】
前記(I)において、前記除外条件を満たさないスペクトルの変化量は、前記ワークピースの研磨中に、前記除外条件を満たすスペクトルの変化量が取得される直前に取得された直近のスペクトルの変化量であり、
前記(II)において、前記ワークピースの研磨中に既に得られたスペクトルの複数の変化量は、前記除外条件を満たさないスペクトルの複数の変化量であり、
前記(III)において、前記ワークピース上の隣接する複数の測定点は、前記除外条件を満たすスペクトルの変化量が取得された前記ワークピース上の測定点に隣接する複数の測定点であり、
前記(IV)において、前記近似式は、前記除外条件を満たさないスペクトルの複数の変化量と、対応する複数の研磨時間とによって特定される座標系上の複数のデータ点から決定される式である、請求項9に記載の研磨監視装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェーハ、基板、パネルなどのワークピースを研磨する方法および装置に関し、特にワークピースからの反射光に含まれる光学情報に基づいてワークピースの研磨を監視する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造工程では、シリコンウェーハ上に種々の材料が膜状に繰り返し形成され、積層構造を形成する。この積層構造を形成するためには、最上層の表面を平坦にする技術が重要となっている。このような平坦化の一手段として、化学機械研磨(CMP)が使用されている。
【0003】
化学機械研磨(CMP)は研磨装置によって実行される。この種の研磨装置は、一般に、研磨パッドを支持する研磨テーブルと、ワークピース(例えば、膜を有するウェーハ)を保持する研磨ヘッドと、研磨液(例えばスラリー)を研磨パッド上に供給する研磨液供給ノズルとを備える。ワークピースを研磨するときは、研磨液供給ノズルから研磨液を研磨パッド上に供給しながら、研磨ヘッドによりワークピースの表面を研磨パッドに押し付ける。研磨ヘッドと研磨テーブルをそれぞれ回転させてワークピースと研磨パッドとを相対移動させることにより、ワークピースの表面を形成する被研磨層を研磨する。
【0004】
絶縁膜やシリコン層などの被研磨層の厚さを測定するために、研磨装置は、一般に、光学式膜厚測定装置を備える。この光学式膜厚測定装置は、光源から発せられた光をワークピースの表面に導き、ワークピースからの反射光のスペクトルを解析することで、ワークピースの被研磨層の厚さを決定するように構成される。
【0005】
特許文献1は、反射光のスペクトルの変化量に基づいて膜厚を決定する技術を開示する。図8は、スペクトルの変化量と研磨時間との関係を示すグラフである。スペクトルの変化量は、単位時間当たりのスペクトルの形状の変化量である。反射光のスペクトルは被研磨層の厚さに従って変化する。したがって、反射光のスペクトルの変化量は、単位時間当たりの被研磨層の除去量に相当する。
【0006】
図9は、スペクトルの変化量を研磨時間に沿って積算して得られるスペクトル累積変化量を示すグラフである。図9から分かるように、スペクトル累積変化量は、研磨時間とともに概ね単調に増加する。したがって、スペクトル累積変化量から、被研磨層の研磨量(すなわち、現在の厚さまたは現在の除去量)を決定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2015-156503号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、図10に示すように、ワークピースの表面に形成されているパターンの影響や、研磨環境(例えばスラリー)等の影響により、スペクトルの変化量に局所的なノイズが印加されることがある。このため、図11に示すように、スペクトルの累積変化量は、単調増加しないことがあり、結果として、被研磨層の研磨量の誤推定を引き起こす可能性がある。
【0009】
そこで、本発明は、ワークピースの表面に形成されているパターンや、研磨環境(例えばスラリー)等の影響を排除して、ワークピースの研磨を正確に監視することができる方法および装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
一態様では、ワークピースの研磨を監視する方法であって、ワークピースの研磨中に前記ワークピースに光を照射し、前記ワークピースからの反射光のスペクトルを生成し、所定の時間当たりの前記スペクトルの変化量を算出し、前記スペクトルの変化量が所定の除外条件を満たすときに、前記スペクトルの変化量を補正し、前記除外条件を満たさない前記スペクトルの変化量および前記補正されたスペクトルの変化量を研磨時間に沿って積算してスペクトル累積変化量を算出する、方法が提供される。
【0011】
一態様では、前記除外条件は、前記スペクトルの変化量がしきい値よりも大きいこと、現在のスペクトルの変化量と、前記ワークピースの研磨中に既に得られたスペクトルの複数の変化量の平均値との差がしきい値よりも大きいこと、前記スペクトルの変化量が、過去に得られたスペクトルの複数の変化量の正規分布の平均値から±Xσの範囲外にあること(Xは予め定められた係数である)、および前記スペクトルの変化量が、スミルノフ・グラブス検定により外れ値と判定されること、のうちのいずれかである。
【0012】
一態様では、前記スペクトルの変化量を補正する工程は、前記スペクトルの変化量を外挿または内挿により補正する工程である。
一態様では、前記外挿による補正は、研磨時間に沿って並ぶスペクトルの複数の変化量を使用し、前記内挿による補正は、前記ワークピース上に並ぶ複数の測定点で取得されたスペクトルの複数の変化量を使用する。
【0013】
一態様では、ワークピースの研磨監視装置であって、ワークピースの研磨中に前記ワークピースに光を照射し、前記ワークピースからの反射光を受ける光学センサヘッドと、前記反射光の強度を波長ごとに測定する分光器と、プログラムが格納された記憶装置および前記プログラムに含まれる命令に従って演算を実行する演算装置を有するデータ処理部を備え、前記データ処理部は、前記反射光の強度の測定データから前記反射光のスペクトルを生成し、所定の時間当たりの前記スペクトルの変化量を算出し、前記スペクトルの変化量が所定の除外条件を満たすときに、前記スペクトルの変化量を補正し、前記除外条件を満たさない前記スペクトルの変化量および前記補正されたスペクトルの変化量を研磨時間に沿って積算してスペクトル累積変化量を算出するように構成されている、研磨監視装置が提供される。
【0014】
一態様では、前記除外条件は、前記スペクトルの変化量がしきい値よりも大きいこと、現在のスペクトルの変化量と、前記ワークピースの研磨中に既に得られたスペクトルの複数の変化量の平均値との差がしきい値よりも大きいこと、前記スペクトルの変化量が、過去に得られたスペクトルの複数の変化量の正規分布の平均値から±Xσの範囲外にあること(Xは予め定められた係数である)、および前記スペクトルの変化量が、スミルノフ・グラブス検定により外れ値と判定されること、のうちのいずれかである。
【0015】
一態様では、前記データ処理部は、前記スペクトルの変化量を外挿または内挿により補正するように構成されている。
一態様では、前記データ処理部は、前記外挿による補正を、研磨時間に沿って並ぶスペクトルの複数の変化量を使用して実行し、前記内挿による補正を、前記ワークピース上に並ぶ複数の測定点で取得されたスペクトルの複数の変化量を使用して実行するように構成されている。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、除外条件を満たす(すなわちノイズを含む)スペクトルの変化量は補正され、ワークピースの研磨を正確に監視することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】研磨装置の一実施形態を示す模式図である。
図2】データ処理部によって生成されたスペクトルの一例を示す図である。
図3】単位時間の間に変化したスペクトルを示す図である。
図4】ワークピースを研磨している間のスペクトル変化量の研磨時間に沿った変化を示すグラフである。
図5】スペクトルの変化量を研磨時間に沿って積算して得られるスペクトル累積変化量を示すグラフである。
図6図6(a)は、ノイズを含むスペクトルの変化量が除去されたグラフであり、図6(b)は、除去により欠落したスペクトルの変化量が、ノイズの含まないスペクトルの変化量に置き換えられたグラフである。
図7】ワークピースの研磨中に得られたスペクトルの複数の変化量から生成された近似式を示す図である。
図8】スペクトルの変化量と研磨時間との関係を示すグラフである。
図9】スペクトルの変化量を研磨時間に沿って積算して得られるスペクトル累積変化量を示すグラフである。
図10】局所的なノイズを含むスペクトルの変化量と研磨時間との関係を示すグラフである。
図11図10に示すスペクトルの変化量を積算して得られるスペクトル累積変化量と研磨時間との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、研磨装置の一実施形態を示す模式図である。図1に示すように、研磨装置は、研磨パッド2を支持する研磨テーブル3と、被研磨層を有するウェーハ、基板、またはパネルなどのワークピースWを研磨パッド2に押し付ける研磨ヘッド1と、研磨テーブル3を回転させるテーブルモータ6と、研磨パッド2上にスラリーなどの研磨液を供給するための研磨液供給ノズル5を備えている。研磨パッド2の上面は、ワークピースWを研磨する研磨面2aを構成する。
【0019】
研磨ヘッド1はヘッドシャフト10に連結されており、ヘッドシャフト10は図示しない研磨ヘッドモータに連結されている。研磨ヘッドモータは、研磨ヘッド1をヘッドシャフト10とともに矢印で示す方向に回転させる。研磨テーブル3はテーブルモータ6に連結されており、テーブルモータ6は研磨テーブル3および研磨パッド2を矢印で示す方向に回転させるように構成されている。
【0020】
ワークピースWは次のようにして研磨される。研磨テーブル3および研磨ヘッド1を図1の矢印で示す方向に回転させながら、研磨液供給ノズル5から研磨液が研磨テーブル3上の研磨パッド2の研磨面2aに供給される。ワークピースWは研磨ヘッド1によって回転されながら、研磨パッド2上に研磨液が存在した状態でワークピースWは研磨ヘッド1によって研磨パッド2の研磨面2aに押し付けられる。ワークピースWの露出面を構成する被研磨層は、研磨液の化学的作用と、研磨液に含まれる砥粒および研磨パッド2の機械的作用により研磨される。ワークピースWの被研磨層の例としては、絶縁膜、シリコン層が挙げられるが、これに限定されない。
【0021】
研磨装置は、ワークピースWの研磨を監視する光学式研磨監視装置40を備えている。光学式研磨監視装置40は、光を発する光源44と、分光器47と、光源44および分光器47に光学的に連結された光学センサヘッド7と、分光器47に連結されたデータ処理部49を備えている。光学センサヘッド7、光源44、および分光器47は研磨テーブル3に取り付けられており、研磨テーブル3および研磨パッド2とともに一体に回転する。光学センサヘッド7の位置は、研磨テーブル3および研磨パッド2が一回転するたびに研磨パッド2上のワークピースWを横切る位置である。
【0022】
データ処理部49は、後述するスペクトルの生成およびワークピースWの研磨監視を実行するためのプログラムが格納された記憶装置49aと、プログラムに含まれる命令に従って演算を実行する演算装置49bを備えている。データ処理部49は、少なくとも1台のコンピュータから構成される。記憶装置49aは、RAMなどの主記憶装置と、ハードディスクドライブ(HDD)、ソリッドステートドライブ(SSD)などの補助記憶装置を備えている。演算装置49bの例としては、CPU(中央処理装置)、GPU(グラフィックプロセッシングユニット)が挙げられる。ただし、データ処理部49の具体的構成はこれらの例に限定されない。
【0023】
光源44から発せられた光は、光学センサヘッド7に伝送され、光学センサヘッド7からワークピースWに導かれる。光はワークピースWで反射し、ワークピースWからの反射光は光学センサヘッド7によって受けられ、分光器47に送られる。分光器47は反射光を波長に従って分解し、各波長での反射光の強度を測定する。反射光の強度測定データは、データ処理部49に送られる。
【0024】
データ処理部49は、反射光の強度測定データから反射光のスペクトルを生成するように構成されている。反射光のスペクトルは、反射光の波長と強度との関係を示す線グラフ(すなわち分光波形)として表される。反射光の強度は、反射率または相対反射率などの相対値として表わすこともできる。
【0025】
図2は、データ処理部49によって生成されたスペクトルの一例を示す図である。スペクトルは、光の波長と強度との関係を示す線グラフ(すなわち分光波形)として表される。図2において、横軸はワークピースWからの反射光の波長を表わし、縦軸は反射光の強度から導かれる相対反射率を表わす。相対反射率とは、反射光の強度を示す指標であり、光の強度と所定の基準強度との比である。各波長において光の強度(実測強度)を所定の基準強度で割ることにより、装置の光学系や光源固有の強度のばらつきなどの不要なノイズを実測強度から除去することができる。
【0026】
基準強度は、各波長について予め測定された光の強度であり、相対反射率は各波長において算出される。具体的には、各波長での光の強度(実測強度)を、対応する基準強度で割り算することにより相対反射率が求められる。基準強度は、例えば、光学センサヘッド7から発せられた光の強度を直接測定するか、または光学センサヘッド7から鏡に光を照射し、鏡からの反射光の強度を測定することによって得られる。あるいは、基準強度は、膜が形成されていないシリコン基板(ベア基板)を研磨パッド2上で水の存在下で水研磨しているとき、または上記シリコン基板(ベア基板)が研磨パッド2上に置かれているときに、分光器47により測定されたシリコン基板からの反射光の強度としてもよい。
【0027】
実際の研磨では、実測強度からダークレベル(光を遮断した条件下で得られた背景強度)を引き算して補正実測強度を求め、さらに基準強度から上記ダークレベルを引き算して補正基準強度を求め、そして、補正実測強度を補正基準強度で割り算することにより、相対反射率が求められる。具体的には、相対反射率R(λ)は、次の式(1)を用いて求めることができる。
【数1】
ここで、λはワークピースWからの反射光の波長であり、E(λ)は波長λでの強度であり、B(λ)は波長λでの基準強度であり、D(λ)は光を遮断した条件下で測定された波長λでの背景強度(ダークレベル)である。
【0028】
光学センサヘッド7は、研磨テーブル3が一回転するたびに、ワークピースWを横切りながら、ワークピースW上の複数の測定点に光を導き、これら複数の測定点からの反射光を受ける。反射光は分光器47に送られる。分光器47は各測定点からの反射光を波長に従って分解し、各波長での反射光の強度を測定する。反射光の強度測定データは、データ処理部49に送られ、データ処理部49は反射光の強度測定データから図2に示すようなスペクトルを生成する。図2に示す例では、反射光のスペクトルは、相対反射率と反射光の波長との関係を示す分光波形であるが、反射光のスペクトルは、反射光の強度自体と、反射光の波長との関係を示す分光波形であってもよい。
【0029】
反射光のスペクトルは、ワークピースWの被研磨層の厚さに従って変化する。そこで、データ処理部49は、反射光のスペクトルから、次のようにしてワークピースWの研磨を監視する。データ処理部49は、次の式(2)を用いて、単位時間当たりのスペクトル変化量ΔS(t)を算定する。
【数2】
ここで、λは反射光の波長であり、λ1,λ2は監視対象とするスペクトルの波長範囲を指定する最小波長および最大波長であり、tは研磨時間であり、Δtは所定の単位時間であり、R(λ,t)は、波長λ、時間tのときの相対反射率(反射光の強度)である。Δtとしては、例えば、研磨テーブルがp回転(pは小さな自然数(例えば1))するのに要する時間とすることができる。
【0030】
図3は、単位時間Δtの間に変化したスペクトルを示す図である。上記式(2)によって算出されるスペクトル変化量ΔS(t)は、2つの異なる時点で取得された2つのスペクトルによって囲まれる領域(ハッチングで示す)に相当する。この領域の面積は、単位時間Δt当たりに変化した被研磨層の厚さに相当する。したがって、研磨中にスペクトル変化量ΔS(t)を積算することにより、被研磨層の厚さの変化を捉えられることが期待される。
【0031】
図4は、ワークピースWを研磨している間のスペクトル変化量ΔS(t)の研磨時間に沿った変化を示すグラフである。図4に示すように、スペクトル変化量ΔS(t)は、周期的に変動するが、スペクトル変化量ΔS(t)の平均レベルはほぼ一定である。データ処理部49は、次の式(3)を用いて、スペクトル変化量ΔS(t)の研磨時間に沿った累積値であるスペクトル累積変化量を算定する。
【数3】
ここで、t0は膜厚変化の監視を開始する時間である。
【0032】
図5は、上記式(3)を用いて算出したスペクトル累積変化量A(t)を示すグラフである。上述のように、スペクトル変化量が周期的に変動するため、変動による平均レベルからの誤差はほとんど累積されない。したがって、図5に示すように、スペクトル累積変化量A(t)は、研磨時間とともにほぼ直線的に増加する。スペクトル累積変化量A(t)は、ワークピースWの研磨量(すなわち被研磨層の除去量)に相当する。上述したデータ処理部49は、スペクトル累積変化量をワークピースWの研磨中に算出し、スペクトル累積変化量に基づいてワークピースWの研磨の進捗を監視する。さらにデータ処理部49は、スペクトル累積変化量からワークピースWの研磨終点を決定してもよい。研磨終点は、スペクトル累積変化量が所定の目標値に達した時点とすることができる。
【0033】
図10を参照して説明したように、ワークピースWの表面に形成されているパターンの影響や、研磨環境(例えばスラリー)等の影響により、スペクトルの変化量に局所的なノイズが印加されることがある。このようなノイズは、ワークピースWの研磨の正確な監視を妨げてしまう。
【0034】
そこで、データ処理部49は、ノイズが加わったスペクトルの変化量を補正するように構成されている。すなわち、データ処理部49は、図6(a)に示すように、ノイズを含むスペクトルの変化量を除去し、図6(b)に示すように、除去により欠落したスペクトルの変化量を、ノイズの含まないスペクトルの変化量に置き換えるように構成されている。より具体的には、データ処理部49は、スペクトルの変化量が所定の除外条件を満たすときに、スペクトルの変化量を補正し、除外条件を満たさないスペクトルの変化量および上記補正されたスペクトルの変化量を研磨時間に沿って積算してスペクトル累積変化量を算出するように構成されている。
【0035】
所定の除外条件とは、算出されたスペクトルの変化量にノイズが含まれていることを決定するための条件である。所定の除外条件には以下の具体例が挙げられる。
(i)スペクトルの変化量がしきい値よりも大きいこと
(ii)現在のスペクトルの変化量と、ワークピースWの研磨中に既に得られたスペクトルの複数の変化量の平均値との差がしきい値よりも大きいこと
(iii)スペクトルの変化量が、過去に得られたスペクトルの複数の変化量の正規分布の平均値から±Xσの範囲外にあること(Xは予め定められた係数である)
(iv)スペクトルの変化量が、スミルノフ・グラブス検定により外れ値と判定されること
【0036】
上記(i)に関して、しきい値は予め設定された固定値であり、過去に得られたスペクトルの変化量のデータに基づいて決定される。例えば、過去に得られたスペクトルの変化量のデータを、ノイズを含まないスペクトルの変化量のグループと、ノイズを含むスペクトルの変化量のグループに有意に分けることができる値がしきい値とされる。
【0037】
上記(ii)に関して、ワークピースWの研磨中に既に得られたスペクトルの複数の変化量は、例えば、現在のスペクトルの変化量を含まない、直近のN個のスペクトルの変化量である。個数Nは予め設定された値である。現在のスペクトルの変化量と、既に得られたスペクトルの複数の変化量の平均値との差がしきい値よりも大きいとき、現在のスペクトルの変化量はノイズを含む可能性が高い。このしきい値は、固定値であってもよい。またはしきい値は、上記平均値に従って変動する値であってもよい。例えば、しきい値は、予め定められた割合(%)だけ上記平均値からずれた値であってもよい。
【0038】
上記(iii)に関して、過去に得られたスペクトルの複数の変化量は、ワークピースWと同じ構造を持つ少なくとも1つのワークピースを研磨しているときに得られたスペクトルの複数の変化量であってもよいし、またはワークピースWの研磨中に既に得られたスペクトルの複数の変化量であってもよい。
【0039】
上記(iv)に関して、スミルノフ・グラブス検定において使用されるサンプルデータは、ワークピースWと同じ構造を持つ少なくとも1つのワークピースを研磨しているときに得られたスペクトルの複数の変化量であってもよいし、またはワークピースWの研磨中に既に得られたスペクトルの複数の変化量であってもよい。
【0040】
上述した除外条件(i)~(iv)のいずれかを満たすスペクトルの変化量は、ノイズを含むと推定される。そこで、データ処理部49は、ワークピースWの研磨中に算定したスペクトルの変化量が上記複数の除外条件のうちのいずれかを満たすときに、そのスペクトルの変化量を補正する。このスペクトルの変化量の補正は、ノイズを除去する処理である。除外条件は、上記除外条件(i)~(iv)から予め選択された1つであってもよい。
【0041】
一実施形態では、データ処理部49は、除外条件を満たすスペクトルの変化量を、外挿または内挿により補正する。より具体的には、データ処理部49は、除外条件を満たす(すなわちノイズを含む)スペクトルの変化量を除外し、除外されたスペクトルの変化量に対応する、除外条件を満たさない(すなわちノイズを含まない)スペクトルの変化量を外挿または内挿により求める。外挿による補正は、研磨時間に沿って並ぶスペクトルの複数の変化量を使用し、内挿による補正は、ワークピースW上に並ぶ複数の測定点で取得されたスペクトルの複数の変化量を使用する。
【0042】
データ処理部49は、除外条件を満たすスペクトルの変化量を、次のうちのいずれかの動作を実行することにより、補正するように構成されている。
(I)除外条件を満たす(すなわちノイズを含む)スペクトルの変化量を、除外条件を満たさない(すなわちノイズを含まない)スペクトルの変化量に置き換える動作
(II)除外条件を満たすスペクトルの変化量を、ワークピースWの研磨中に既に得られたスペクトルの複数の変化量の平均値に置き換える動作
(III)除外条件を満たすスペクトルの変化量を、ワークピースW上の隣接する複数の測定点で得られたスペクトルの複数の変化量の平均値に置き換える動作
(IV)ワークピースWの研磨中に既に得られたスペクトルの複数の変化量から近似式を生成し、除外条件を満たすスペクトルの変化量を、前記近似式で求められる値に置き換える動作
【0043】
上記(I)に関して、除外条件を満たさない(すなわちノイズを含まない)スペクトルの変化量は、ワークピースWの研磨中に既に得られたスペクトルの変化量である。一実施形態では、除外条件を満たさない(すなわちノイズを含まない)スペクトルの変化量は、除外条件を満たすスペクトルの変化量が取得される直前に取得された直近のスペクトルの変化量である。
【0044】
上記(II)に関して、ワークピースWの研磨中に既に得られたスペクトルの複数の変化量は、除外条件を満たさない(すなわちノイズを含まない)スペクトルの複数の変化量である。一実施形態では、ワークピースWの研磨中に既に得られたスペクトルの複数の変化量は、現在のスペクトルの変化量を含まない、直近のM個のスペクトルの変化量である。個数Mは予め設定された値である。
【0045】
上記(III)に関して、ワークピースW上の隣接する測定点とは、除外条件を満たすスペクトルの変化量が取得されたワークピースW上の測定点に隣接する複数の測定点である。上述したように、光学センサヘッド7は、研磨テーブル3が一回転するたびに、ワークピースWを横切りながら、ワークピースW上の複数の測定点に光を導き、これら複数の測定点からの反射光を受ける。ワークピースW上の隣接する測定点は、例えば、除外条件を満たす(すなわちノイズを含む)スペクトルの変化量が取得された測定点の両側に位置する複数の測定点であってもよい。隣接する各測定点で取得されたスペクトルの変化量は、除外条件を満たさない(すなわちノイズを含まない)スペクトルの変化量である。
【0046】
上記(IV)に関して、近似式は、図7に示すように、スペクトルの変化量と研磨時間を表す座標軸を持つ座標系上の式である。近似式は、研磨時間を変数に持つ。近似式は、除外条件を満たさない(すなわちノイズを含まない)スペクトルの複数の変化量と、対応する複数の研磨時間とによって特定される座標系上の複数のデータ点から決定される。近似式は、多項式によって表されてもよい。近似式の求め方は特に限定されない。データ処理部49は、ワークピースWの研磨中に近似式を生成し、除外条件を満たす(すなわちノイズを含む)スペクトルの変化量が取得された研磨時間を近似式に入力することにより、スペクトルの変化量を補正することができる。
【0047】
データ処理部49は、除外条件を満たさない(すなわちノイズを含まない)スペクトルの変化量および上記補正されたスペクトルの変化量を研磨時間に沿って積算してスペクトル累積変化量を算出し、スペクトル累積変化量に基づいてワークピースWの研磨量を監視する。スペクトル累積変化量は、ノイズを含まないスペクトルの変化量の累積値であるので、データ処理部49はワークピースWの研磨量を正確に監視することができる。
【0048】
上述した実施形態は、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が本発明を実施できることを目的として記載されたものである。上記実施形態の種々の変形例は、当業者であれば当然になしうることであり、本発明の技術的思想は他の実施形態にも適用しうる。したがって、本発明は、記載された実施形態に限定されることはなく、特許請求の範囲によって定義される技術的思想に従った最も広い範囲に解釈されるものである。
【符号の説明】
【0049】
1 研磨ヘッド
2 研磨パッド
2a 研磨面
3 研磨テーブル
5 研磨液供給ノズル
6 テーブルモータ
7 光学センサヘッド
10 ヘッドシャフト
40 光学式研磨監視装置
44 光源
47 分光器
49 データ処理部
49a 記憶装置
49b 演算装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11