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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-27
(45)【発行日】2024-06-04
(54)【発明の名称】ポリエステル
(51)【国際特許分類】
   C08G 63/183 20060101AFI20240528BHJP
   C08L 67/02 20060101ALI20240528BHJP
【FI】
C08G63/183
C08L67/02
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019143880
(22)【出願日】2019-08-05
(65)【公開番号】P2021024951
(43)【公開日】2021-02-22
【審査請求日】2022-07-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】阿武 秀二
【審査官】中村 英司
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-247348(JP,A)
【文献】特開2003-183369(JP,A)
【文献】特開2019-123775(JP,A)
【文献】特開2001-288283(JP,A)
【文献】特開平04-235036(JP,A)
【文献】特開2007-063307(JP,A)
【文献】国際公開第2010/010669(WO,A1)
【文献】特開平02-064146(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0030202(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 63/183
C08L 67/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
テレフタル酸単位及びダイマー酸単位を含むジカルボン酸単位と、ポリアルキレングリコール単位及びエチレングリコール単位を含むジオール単位とを主構成単位として含むポリエステルであって、
該ポリエステル中のダイマー酸単位の含有量が8.7重量%以上16.5重量%以下で、
ポリアルキレングリコール単位の含有量が1.5重量%以上10重量%以下であり、
前記ポリアルキレングリコールが重量平均分子量3000以下のポリエチレングリコールであり(ただし、ジエチレングリコールを除く)、
且つジカルボン酸単位やジオール単位と異なる構成単位を含まない
ポリエステルであり、
前記ジカルボン酸単位がイソフタル酸単位を含み、前記ポリエステル中のイソフタル酸単位の含有量が1重量%以上10重量%以下であるポリエステル。
【請求項2】
ダイマー酸単位とイソフタル酸単位とを含むポリエチレンテレフタレートと、ポリアルキレングリコール単位を含むポリブチレンテレフタレートとを溶融混練する請求項1に記載のポリエステルの製造方法。
【請求項3】
ダイマー酸単位とイソフタル酸単位とを含むポリエチレンテレフタレートと、ポリアルキレングリコール単位を含むポリエチレンテレフタレートとを溶融混練する請求項1に記載のポリエステルの製造方法。
【請求項4】
ダイマー酸単位とイソフタル酸単位とを含むポリエチレンテレフタレートと、ポリアルキレングリコール単位を含むポリブチレンテレフタレートと、ダイマー酸単位及びポリアルキレングリコール単位を含まないポリエチレンテレフタレートとを溶融混練する請求項1に記載のポリエステルの製造方法。
【請求項5】
テレフタル酸単位及びダイマー酸単位を含むジカルボン酸単位と、ポリアルキレングリコール単位及びエチレングリコール単位を含むジオール単位とを主構成単位として含むポリエステルの製造方法であって、
該ポリエステル中のダイマー酸単位の含有量が8.7重量%以上16.5重量%以下で、
ポリアルキレングリコール単位の含有量が1.5重量%以上10重量%以下であり、
前記ポリアルキレングリコールが数平均分子量2000以下のポリテトラメチレングリコールであり、
且つジカルボン酸単位やジオール単位と異なる構成単位を含まないポリエステルの製造方法であって、
ダイマー酸単位を含むポリエチレンテレフタレートと、ポリアルキレングリコール単位を含むポリブチレンテレフタレートと、ダイマー酸単位及びポリアルキレングリコール単位を含まないポリエチレンテレフタレートとを溶融混練するポリエステルの製造方法。
【請求項6】
テレフタル酸単位及びダイマー酸単位を含むジカルボン酸単位と、ポリアルキレングリコール単位及びエチレングリコール単位を含むジオール単位とを主構成単位として含むポリエステルの製造方法であって、
該ポリエステル中のダイマー酸単位の含有量が8.7重量%以上16.5重量%以下で、
ポリアルキレングリコール単位の含有量が1.5重量%以上10重量%以下であり、
前記ポリアルキレングリコールが数平均分子量2000以下のポリテトラメチレングリコールであり、
且つジカルボン酸単位やジオール単位と異なる構成単位を含まないポリエステルの製造方法であって、
ダイマー酸単位を含むポリブチレンテレフタレートと、ポリアルキレングリコール単位を含むポリエチレンテレフタレートとを溶融混練するポリエステルの製造方法。
【請求項7】
テレフタル酸単位及びダイマー酸単位を含むジカルボン酸単位と、ポリアルキレングリコール単位及びエチレングリコール単位を含むジオール単位とを主構成単位として含むポリエステルの製造方法であって、
該ポリエステル中のダイマー酸単位の含有量が8.7重量%以上16.5重量%以下で、
ポリアルキレングリコール単位の含有量が1.5重量%以上10重量%以下であり、
前記ポリアルキレングリコールが数平均分子量2000以下のポリテトラメチレングリコールであり、
且つジカルボン酸単位やジオール単位と異なる構成単位を含まないポリエステルの製造方法であって、
ダイマー酸単位を含むポリブチレンテレフタレートと、ポリアルキレングリコール単位を含むポリエチレンテレフタレートと、ダイマー酸単位及びポリアルキレングリコール単位を含まないポリエチレンテレフタレートとを溶融混練するポリエステルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステルに関する。詳しくは、容器などの成形品やフィルム等に好適な、経時白濁耐性と再利用適性に優れたポリエステルに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル、例えばポリエチレンテレフタレートは、機械的強度、化学的安定性、ガスバリア性、保香性、衛生性等に優れ、また容器などの成形品を回収、洗浄粉砕し再度溶融成形することが可能であるため、環境面でも優れたリサイクル可能な包装容器等として広く用いられている。しかし、ポリエステルは柔軟性が劣るため、その改良が求められてきた。
【0003】
特許文献1には、ジオール成分としてポリアルキレングリコールを共重合したポリエステルが、特許文献2には、ジカルボン酸成分としてダイマー酸を共重合したポリエステルが、柔軟性を改良したポリエステルとして提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2003-261660号公報
【文献】特開2018- 24754号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、これら従前知られたポリエステルでは、必要とされる柔軟性を得るために、柔軟成分であるダイマー酸やポリアルキレングリコールの共重合量を多くすると、以下のような問題が起こる。
(1) 得られた成形品を粉砕し再度溶融成形した際に、再度成形して得られた成形品(以下、「再利用成形品」と称す場合がある。)の透明性が悪化するため再利用適性に劣る。
(2) 得られた成形品の保管中、特に常温よりも高い温度で保管した場合に、経時により白濁が生じ、透明性が低下する。
【0006】
本発明は上記問題点を解決するためになされたものである。
すなわち、本発明は、柔軟性と透明性に優れた成形品を得ることができると共に、保管中の透明性の低下の問題もなく、得られた成形品を回収して粉砕後再度溶融成形した際も透明な成形品を得ることができ、優れた再利用適性を有するポリエステルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、ジカルボン酸単位としてテレフタル酸単位と特定量のダイマー酸単位を含み、ジオール単位としてエチレングリコール単位と特定量のポリアルキレングリコール単位を含むポリエステルが、高い柔軟性と透明性を維持し、再利用成形品の透明性にも優れることを見出し、本発明に至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下を要旨とする。
【0009】
[1] テレフタル酸単位及びダイマー酸単位を含むジカルボン酸単位と、ポリアルキレングリコール単位及びエチレングリコール単位を含むジオール単位とを主構成単位として含むポリエステルであって、該ポリエステル中のダイマー酸単位の含有量が5重量%以上20重量%以下で、ポリアルキレングリコール単位の含有量が1重量%以上12重量%以下であるポリエステル。
【0010】
[2] 前記ポリアルキレングリコールが数平均分子量2000以下のポリテトラメチレングリコールである[1]に記載のポリエステル。
【0011】
[3] 前記ポリアルキレングリコールが重量平均分子量3000以下のポリエチレングリコールである[1]に記載のポリエステル。
【0012】
[4] 前記ジカルボン酸単位がイソフタル酸単位を含み、前記ポリエステル中のイソフタル酸単位の含有量が1重量%以上10重量%以下である[1]から[3]のいずれかに記載のポリエステル。
【0013】
[5] ダイマー酸単位を含むポリエチレンテレフタレートと、ポリアルキレングリコール単位を含むポリブチレンテレフタレートとを溶融混練して得られる[1]から[4]のいずれかに記載のポリエステル。
【0014】
[6] ダイマー酸単位を含むポリエチレンテレフタレートと、ポリアルキレングリコール単位を含むポリエチレンテレフタレートとを溶融混練して得られる[1]から[4]のいずれかに記載のポリエステル。
【0015】
[7] ダイマー酸単位を含むポリエチレンテレフタレートと、ポリアルキレングリコール単位を含むポリブチレンテレフタレートと、ダイマー酸単位及びポリアルキレングリコール単位を含まないポリエチレンテレフタレートとを溶融混練して得られる[1]から[4]のいずれかに記載のポリエステル。
【0016】
[8] ダイマー酸単位を含むポリブチレンテレフタレートと、ポリアルキレングリコール単位を含むポリエチレンテレフタレートとを溶融混練して得られる[1]から[4]のいずれかに記載のポリエステル。
【0017】
[9] ダイマー酸単位を含むポリブチレンテレフタレートと、ポリアルキレングリコール単位を含むポリエチレンテレフタレートと、ダイマー酸単位及びポリアルキレングリコール単位を含まないポリエチレンテレフタレートとを溶融混練して得られる[1]から[4]のいずれかに記載のポリエステル。
【0018】
[10]ダイマー酸単位及びポリアルキレングリコール単位を含まないポリエチレンテレフタレートと、ダイマー酸単位及びポリアルキレングリコール単位を含むポリエステルとを溶融混練して得られる[1]から[4]のいずれかに記載のポリエステル。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、柔軟性と透明性に優れた成形品を得ることができ、保管中の透明性の低下の問題もなく、また、得られた成形品を溶融混練して再利用する際、再度成形して得られた成形品の透明性に影響を及ぼさない優れた再利用適性を有するポリエステルを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に本発明を実施するための最良の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の代表例であり、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。
【0021】
〔ポリエステル〕
本発明のポリエステルは、テレフタル酸単位及びダイマー酸単位を含むジカルボン酸単位と、ポリアルキレングリコール単位及びエチレングリコール単位を含むジオール単位とを主構成単位として含むポリエステルであって、該ポリエステル中のダイマー酸単位の含有量が5重量%以上20重量%以下で、ポリアルキレングリコール単位の含有量が1重量%以上12重量%以下であることを特徴とする。
なお、本発明のポリエステルにおいて、柔軟成分であるダイマー酸単位とポリアルキレングリコール単位との合計の含有量は17重量%以上23重量%以下、特に18重量%以上22重量%以下であることが好ましい。
【0022】
本発明において、「単位」とは、ポリエステルの製造原料として用いた化合物(単量体)に由来してポリエステル中に導入された繰り返し単位を指し、例えば、テレフタル酸単位とは、テレフタル酸又はそのエステル形成性誘導体(以下、これらを「テレフタル酸成分」と称し、同様にジカルボン酸単位導入に用いるジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体についても「ジカルボン酸成分」と称す場合がある。)に由来してポリエステルに導入された単位をさす。ダイマー酸単位、ジカルボン酸単位、イソフタル酸単位についても同様である。
一方、ポリアルキレングリコール単位は、ポリエステルの製造原料として用いたポリアルキレングリコールに由来してポリエステルに導入された繰り返し単位を指し、エチレングリコール単位、ジオール単位についても同様である。
また、「主構成単位」とは、ポリエステルを構成する全構成単位中の60重量%以上、特に70~100重量%を占める繰り返し単位を指す。
ポリエステル中の各ジカルボン酸単位及び各ジオール単位等の構成単位は、H-NMRスペクトルを測定することにより定量することができる。
【0023】
[ジカルボン酸単位]
本発明のポリエステルを構成するジカルボン酸単位は、テレフタル酸単位及びダイマー酸単位を含み、ポリエステル中のダイマー酸単位の含有量が5重量%以上20重量%以下であることを特徴とする。本発明に係るジカルボン酸単位は、テレフタル酸及びダイマー酸以外のジカルボン酸単位としてイソフタル酸単位等を含有していてもよい。
【0024】
<テレフタル酸単位>
本発明のポリエステル中のテレフタル酸単位の含有量には特に制限はないが、54重量%以上62重量%以下であることが好ましく、特に55重量%以上61重量%以下であることが好ましい。ポリエステル中のテレフタル酸単位の含有量が少なすぎると耐熱性に劣る可能性がある。一方、ポリエステル中のテレフタル酸単位の含有量が多すぎると相対的にダイマー酸単位の含有量が少なくなって柔軟性に劣る場合がある。
【0025】
ポリエステルにテレフタル酸単位を導入するために用いる製造原料としてのテレフタル酸成分としては、テレフタル酸及びその炭素数1~4程度のアルキル基を有するエステルやハロゲン化物が挙げられる。これらのテレフタル酸成分は、1種のみを用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0026】
<ダイマー酸単位>
本発明のポリエステル中のダイマー酸単位の含有量は5重量%以上20重量%以下で、6重量%以上19重量%以下であることが好ましい。ポリエステル中のダイマー酸単位の含有量が少なすぎるとポリエステルの柔軟性が低下する可能性がある。一方、ポリエステル中のダイマー酸単位の含有量が多すぎると再利用成形品の透明性が悪化する場合がある。
【0027】
本発明におけるダイマー酸とは、炭素数16以上の不飽和脂肪族カルボン酸の二量体又はその水添物をいう。このダイマー酸は、例えば、大豆油や菜種油、牛脂、トール油などの非石油原料から抽出された炭素数16以上の不飽和カルボン酸(例えば、リノール酸やオレイン酸を主成分とする不飽和脂肪族カルボン酸)の混合物を二量体化又はそれを水添して得ることができる。このような製法を用いてダイマー酸を得ると、不純物として、過剰に反応した三量体、未反応物である不飽和脂肪族カルボン酸が含有される。該不純物はポリエステルにおいてはブリードアウトやゲル化の原因となるため、可能な限り少ないことが好ましい。
また、ダイマー酸は不飽和結合を含み、そのまま使用すると重合中に分岐反応が進行したり、得られるポリエステルの色調を悪化させる可能性があることから、ポリエステルにダイマー酸単位を導入するために用いる製造原料としてのダイマー酸成分は、水添されたものであることが好ましい。
ポリエステルの製造原料としてのダイマー酸成分は、1種のみを用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0028】
<イソフタル酸単位>
本発明のポリエステルがテレフタル酸単位とダイマー酸単位以外のジカルボン酸単位としてイソフタル酸単位を含む場合、ポリエステル中のイソフタル酸単位の含有量は1重量%以上10重量%以下であることが好ましく、1重量%以上8重量%以下であることがより好ましい。ポリエステル中のイソフタル酸単位の含有量が上記下限以上であればポリエステルの透明性が良好となる傾向がある。一方、ポリエステル中のイソフタル酸単位の含有量が上記上限以下であれば、得られる成形品の柔軟性や耐衝撃性が良好となる傾向がある。
【0029】
ポリエステルにイソフタル酸単位を導入するために用いる製造原料としてのイソフタル酸成分としては、イソフタル酸及びその炭素数1~4程度のアルキル基を有するエステルやハロゲン化物が挙げられる。これらのイソフタル酸成分は、1種のみを用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0030】
<その他のジカルボン酸単位>
本発明のポリエステルは、本発明の効果を妨げない範囲において、例えばポリエステル中の含有量として10重量%以下の範囲において、テレフタル酸単位、ダイマー酸単位及びイソフタル酸単位以外の他のジカルボン酸単位を含んでいてもよい。ポリエステルに他のジカルボン酸単位を導入するために用いる製造原料としての他のジカルボン酸成分としては、例えば、フタル酸、スルホイソフタル酸ナトリウム、フェニレンジオキシジカルボン酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルケトンジカルボン酸、4,4’-ジフェノキシエタンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルスルホンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸等の脂環式ジカルボン酸、及び、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカジカルボン酸、ドデカジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸、並びにこれらの炭素数1~4程度のアルキル基を有するエステル、及びハロゲン化物等が挙げられる。これらは、1種のみを用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0031】
[ジオール単位]
本発明のポリエステルを構成するジオール単位は、ポリアルキレングリコール単位及びエチレングリコール単位を含み、ポリエステル中のポリアルキレングリコール単位の含有量が1重量%以上12重量%以下であることを特徴とする。本発明に係るジオール単位は、ポリアルキレングリコール単位及びエチレングリコール単位以外のジオール単位としてジエチレングリコール単位や1,4-シクロヘキサンジメタノール単位等を含有していてもよい。
【0032】
<ポリアルキレングリコール単位>
本発明のポリエステル中のポリアルキレングリコール単位の含有量は、1重量%以上12重量%以下、好ましくは2重量%以上11重量%以下である。ポリエステル中のポリアルキレングリコール単位の含有量が少なすぎると柔軟性が不十分となり、多すぎると得られる成形品が保管中に白濁したり、再利用成形品の透明性が悪化したりする場合がある。
【0033】
ポリアルキレングリコールとしては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコールブロック共重合体、ポリテトラメチレングリコール、ポリヘキサメチレングリコール等が挙げられるが、これらのうち、樹脂の透明性と柔軟性の観点から、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコールが好ましい。
【0034】
ポリエチレングリコールとしては、重量平均分子量が3000以下のポリエチレングリコールが好ましい。
また、ポリテトラメチレングリコールとしては、重量平均分子量2000以下のポリテトラメチレングリコールが好ましい。
ポリアルキレングリコールの分子量が上記上限以下であれば、白濁を防止して透明なポリエステルを得ることができる。ただし、ポリアルキレングリコールの分子量が小さすぎるとポリエステルの融点が低くなりすぎるため、ポリエチレングリコールであれば、その重量平均分子量は500以上であることが好ましく、より好ましくは1000以上2000以下である。また、ポリテトラメチレングリコールであれば、その数平均分子量は500以上であることが好ましく、より好ましくは800以上1500以下である。
ここで、ポリエチレングリコールの重量平均分子量、ポリテトラメチレングリコールの数平均分子量はサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)での値である。
【0035】
これらのポリアルキレングリコールは、1種のみを用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0036】
<エチレングリコール単位>
本発明のポリエステル中のエチレングリコール単位の含有量は特に制限はないが、10重量%以上22重量%以下であることが好ましい。ポリエステル中のエチレングリコール単位の含有量が上記範囲内であれば、熱安定性、透明性、柔軟性等に優れたポリエステルを得ることができる。
【0037】
<ジエチレングリコール単位及び1,4-シクロヘキサンジメタノール単位>
本発明のポリエステルはエチレングリコール単位及びポリアルキレングリコール単位以外のジオール単位として、ジエチレングリコール単位及び/又は1,4-シクロヘキサンジメタノール単位を含んでいてもよい。
【0038】
本発明のポリエステルがジエチレングリコール単位を含む場合、ポリエステル中のジエチレングリコール単位の含有量は0.5重量%以上5重量%以下が好ましく、0.5重量%以上4重量%以下がより好ましい。ポリエステル中のジエチレングリコール単位の含有量がこの範囲であることよりポリエステルの熱安定性が良好となり、透明性が向上する傾向にある。
【0039】
本発明のポリエステルが1,4-シクロヘキサンジメタノール単位を含む場合、ポリエステル中の1,4-シクロヘキサンジメタノール単位の含有量は1重量%以上10重量%以下が好ましく、2重量%以上8重量%以下がより好ましい。ポリエステル中の1,4-シクロヘキサンジメタノール単位の含有量がこの範囲であることよりポリエステルの熱安定性が良好となり、得られる成形品の保管中の白濁に対しても耐白濁性に優れる傾向がある。
【0040】
なお、ポリエステル中のジエチレングリコール単位量を制御する方法としては、ポリエステル製造時に原料として使用するジエチレングリコール量を調整する方法が挙げられる。
また、ポリエステル中のジエチレングリコール単位は、ポリエステル製造時に原料として使用するエチレングリコール2分子が脱水結合し、ジエチレングリコールとなって、ポリエステル中にジエチレングリコール単位として組み込まれる場合もある。この場合の制御方法として、例えば、原料として使用するジカルボン酸成分に対する、原料として使用するエチレングリコールを含むジオール成分の仕込みモル比を上げるとエチレングリコールの2分子化は促進されジエチレングリコール量は増加する傾向となる場合がある。また、水酸化ナトリウム等の金属水酸化物やテトラエチルアンモニウムヒドロキシド等のアルカリ成分存在下でエステル化反応を行うと、エチレングリコールの2分子化が抑制されジエチレングリコール単位量は低下する傾向となる。
【0041】
<その他のジオール単位>
本発明のポリエステルは、本発明の効果を妨げない範囲において、例えば、ポリエステル中に10重量%以下の割合で、上記のエチレングリコール単位、ポリアルキレングリコール単位、ジエチレングリコール単位、1,4-シクロヘキサンジメタノール単位以外の他のジオール単位を含んでいてもよい。
【0042】
ポリエステルに他のジオール単位を導入するための製造原料としての他のジオール成分としては、例えば、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール(1,4-ブタンジオール)、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、オクタメチレングリコール、デカメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、2-エチル-2-ブチル-1,3-プロパンジオール、等の脂肪族ジオール、1,2-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,1-シクロヘキサンジメチロール、2,5-ノルボルナンジメチロール等の脂環式ジオール、及び、キシリレングリコール、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、2,2-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4’-β-ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4-β-ヒドロキシエトキシフェニル)スルホン酸等の芳香族ジオール、並びに、2,2-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)プロパンのエチレンオキサイド付加物又はプロピレンオキサイド付加物、ダイマージオール等が挙げられる。これらは、1種のみを用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0043】
これらのうち、テトラメチレングリコール(1,4-ブタンジオール)は、樹脂ペレット製造時の融着防止の観点から好ましい。本発明のポリエステルが1,4-ブタンジオール単位を含む場合、ポリエステル中の1,4-ブタンジオール単位の含有量は1重量%以上10重量%以下であることが好ましい。
【0044】
[その他の構成単位]
本発明のポリエステルは、ジカルボン酸単位及びジオール単位以外のその他の構成単位を10重量%以下の範囲で含有していてもよい。
ポリエステルにその他の構成単位を導入するための製造原料としてのその他の構成成分としては、特に制限はないが、例えば、グリコール酸、p-ヒドロキシ安息香酸、p-β-ヒドロキシエトキシ安息香酸などのヒドロキシカルボン酸やアルコキシカルボン酸、及び、ステアリルアルコール、ヘネイコサノール、オクタコサノール、ベンジルアルコール、ステアリン酸、ベヘン酸、安息香酸、t-ブチル安息香酸、ベンゾイル安息香酸などの単官能成分、トリカルバリル酸、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、ナフタレンテトラカルボン酸、没食子酸、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセロール、ペンタエリスリトール、シュガーエステルなどの三官能以上の多官能成分等が挙げられる。これらは、1種のみを用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0045】
[固有粘度]
本発明のポリエステルの固有粘度(IV)は0.40dL/g~1.20dL/gであることが好ましく、より好ましくは0.45dL/g~1.15dL/g、更に好ましくは0.48dL/g~1.10dL/gである。固有粘度が上記範囲内であると生産性を悪化させずに、成形加工性に優れたポリエステルとすることが可能となる。
【0046】
ポリエステルの固有粘度は後掲の実施例の項に記載の方法で測定される。
ポリエステルの固有粘度は後述のポリエステルの製造方法において、例えば触媒や助剤の添加量の最適化や、重縮合時の温度、圧力、反応時間を最適な範囲に調節することにより上記好適範囲内に調整することができる。
【0047】
〔ポリエステルの製造方法〕
本発明のポリエステルは、テレフタル酸単位を導入するための製造原料としてのテレフタル酸及びそのエステル形成性誘導体等のテレフタル酸成分、ダイマー酸単位を導入するための製造原料としてのダイマー酸成分、必要に応じて更にイソフタル酸単位を導入するための製造原料としてのイソフタル酸及びそのエステル形成性誘導体等のイソフタル酸成分を含むジカルボン酸成分と、ポリアルキレングリコール、エチレングリコール及び必要に応じてさらにジエチレングリコールや1,4-ブタンジオール等を含むジオール成分とを製造原料として用い、これらのジカルボン酸成分とジオール成分とのエステル化又はエステル交換反応により直接、テレフタル酸単位、ダイマー酸単位、ポリアルキレングリコール単位及びエチレングリコール単位を含むポリエステルとして製造することもできるが、反応性や各構成単位の含有量制御の容易性等を考慮した場合、以下の通り、本発明のポリエステルの必須構成単位の一部を含むポリエステルを複数種用い、これらを溶融混練して本発明のポリエステルを得ることが好ましい。
【0048】
(1) ダイマー酸単位を含むポリエチレンテレフタレート(ダイマー酸単位とテレフタル酸単位とエチレングリコール単位とを含むポリエステル。以下「ポリエステルI」と称す場合がある。)と、ポリアルキレングリコール単位を含むポリブチレンテレフタレート(ポリアルキレングリコール単位とテレフタル酸単位と1,4-ブタンジオール単位を含むポリエステル。以下、「ポリエステルII」と称す場合がある。)とを溶融混練する。
(2) ダイマー酸単位を含むポリエチレンテレフタレート(ポリエステルI)と、ポリアルキレングリコール単位を含むポリブチレンテレフタレート(ポリエステルII)と、ダイマー酸単位及びポリアルキレングリコール単位を含まないポリエチレンテレフタレート(テレフタル酸単位とエチレングリコール単位を含むポリエステル。以下、「ポリエステルIII」と称す場合がある。)とを溶融混練する。
(3) ダイマー酸単位を含むポリブチレンテレフタレート(ダイマー酸単位とテレフタル酸単位と1,4-ブタンジオール単位を含むポリエステル。以下、「ポリエステルIV」と称す場合がある。)と、ポリアルキレングリコール単位を含むポリエチレンテレフタレート(テレフタル酸単位とポリアルキレングリコール単位とエチレングリコール単位を含むポリエステル。以下、「ポリエステルV」と称す場合がある。)とを溶融混練する。
(4) ダイマー酸単位を含むポリブチレンテレフタレート(ポリエステルIV)と、ポリアルキレングリコール単位を含むポリエチレンテレフタレート(ポリエステルV)と、ダイマー酸単位及びポリアルキレングリコール単位を含まないポリエチレンテレフタレート(ポリエステルIII)とを溶融混練する。
(5) ダイマー酸単位及びポリアルキレングリコール単位を含まないポリエチレンテレフタレート(ポリエステルIII)と、ダイマー酸単位及びポリアルキレングリコール単位を含むポリエステル(以下、「ポリエステルVI」と称す場合がある。)とを溶融混練する。
(6) ダイマー酸単位を含むポリエチレンテレフタレート(ポリエステルI)と、ポリアルキレングリコール単位を含むポリエチレンテレフタレート(ポリエステルV)とを溶融混練する。
【0049】
上記(1)~(6)の方法は2種以上を組み合わせて用いてもよい。いずれの場合においても、ポリエステルI~VIのうち2種以上を所定のダイマー酸単位含有量及びポリアルキレングリコール単位含有量となるように用いて溶融混練することにより、容易に本発明のポリエステルを製造することができる。
【0050】
上記ポリエステルI~VIの物性や製法は特に限定されず、これらを溶融混練して本発明のポリエステルを得ることができればよい。
【0051】
本発明のポリエステルの製造方法は特に制限されるものではなく、通常の方法を適用することができる。例えば、テレフタル酸又はそのエステル形成性誘導体、イソフタル酸又はそのエステル形成性誘導体を含むジカルボン酸成分と、エチレングリコール、好ましくはジエチレングリコールを含むジオール成分とを、所定割合で攪拌下に混合して原料スラリーとする工程、次いで、該原料スラリーを常圧又は加圧下で加熱して、エステル化反応させ工ポリエステル低重合体(以下「オリゴマー」と称する場合がある。)とする工程、次いで、得られたオリゴマーにダイマー酸又はそのエステル形成性誘導体とポリアルキレングリコールを添加し、エステル交換触媒等の存在下に、漸次減圧するとともに、加熱して、溶融重縮合反応させポリエステルを得る工程、必要に応じて得られたポリエステルを更に固相重縮合反応する工程を経て製造することができる。
【0052】
尚、ダイマー酸又はそのエステル形成性誘導体やポリアルキレングリコールは原料スラリーに添加する方法、オリゴマーに添加する方法のいずれの方法も適用することができる。
【0053】
エステル交換触媒としては、例えば、三酸化二アンチモン等のアンチモン化合物;二酸化ゲルマニウム、四酸化ゲルマニウム等のゲルマニウム化合物;テトラメチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラブチルチタネート等のチタンアルコラート、テトラフェニルチタネート等のチタンフェノラート等のチタン化合物;ジブチルスズオキサイド、メチルフェニルスズオキサイド、テトラエチルスズ、ヘキサエチルジスズオキサイド、シクロヘキサヘキシルジスズオキサイド、ジドデシルスズオキサイド、トリエチルスズハイドロオキサイド、トリフェニルスズハイドロオキサイド、トリイソブチルスズアセテート、ジブチルスズジアセテート、ジフェニルスズジラウレート、モノブチルスズトリクロライド、トリブチルスズクロライド、ジブチルスズサルファイド、ブチルヒドロキシスズオキサイド、メチルスタンノン酸、エチルスタンノン酸、ブチルスタンノン酸等のスズ化合物;酢酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、マグネシウムアルコキサイド、燐酸水素マグネシウム等のマグネシウム化合物、酢酸カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、カルシウムアルコキサイド、燐酸水素カルシウム等のカルシウム化合物等が挙げられる。尚、これらの触媒は、単独でも2種以上混合して使用することもできる。
【0054】
また、ポリエステルの製造時、エステル交換触媒と共に安定剤を併用することが好まい。安定剤としては、正リン酸、ポリリン酸、及び、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリ-n-ブチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリス(トリエチレングリコール)ホスフェート、エチルジエチルホスホノアセテート、メチルアシッドホスフェート、エチルアシッドホスフェート、イソプロピルアシッドホスフェート、ブチルアシッドホスフェート、モノブチルホスフェート、ジブチルホスフェート、ジオクチルホスフェート、トリエチレングリコールアシッドホスフェート等の5価のリン化合物、亜リン酸、次亜リン酸、及びジエチルホスファイト、トリスドデシルホスファイト、トリスノニルデシルホスファイト、トリフェニルホスファイト等の3価のリン化合物等が挙げられる。これらの中、3価のリン化合物は5価のリン化合物よりも一般に還元性が強く、重縮合触媒として添加した金属化合物が還元されて析出し、異物を発生する原因となる場合があるので、5価のリン化合物の方が好ましい。
【0055】
溶融重縮合反応における反応圧力は絶対圧力で0.001kPa~1.33kPaであることがこのましい。また、反応温度は220℃~280℃であることが好ましく、230℃~260℃であることがより好ましい。
固相重縮合反応は減圧下または不活性ガス雰囲気下で行われ、反応温度は180℃~220℃であることが好ましい。固相重縮合反応の反応時間は5時間~100時間であることが好ましい。
前記溶融重縮合反応条件、固相重縮合反応条件とすることにより所望の固有粘度を有するポリエステルとすることが可能となる。
【0056】
前述のポリエステルI~VIのうちの2種以上を用いて本発明のポリエステルを製造する場合、各ポリエステルを溶融状態のまま混練してペレット化してもよく、各ポリエステルをペレット状にした後、2種以上のポリエステルペレットを乾式混合し、更に溶融混練してもよい。各ポリエステルペレットは予め溶融混練した後成形に供してもよく、成形機内で溶融混練して成形してもよい。溶融混練時の温度は通常240~300℃程度である。
【0057】
本発明のポリエステルは、その用途に応じて更に結晶核剤、酸化防止剤、着色防止剤、顔料、染料、紫外線吸収剤、離型剤、易滑剤、難燃剤、帯電防止剤、無機及び/又は有機粒子等を配合することができる。
【0058】
〔ポリエステルの用途〕
本発明のポリエステルは、柔軟性に優れ、透明性が良好であり、成形品の経時による白濁が少なく、成形品を粉砕し再利用した場合も透明性に影響がないことより、中身の視認性と再利用適性が求められる食品容器や複雑な形状の製品表面を保護するためのシートやフィルムとして有用である。
例えば、食品容器としては、本発明のポリエステルを射出成形により、プリフォームとし、該プリフォームを延伸ブロー成形、又は、押出成形によってパリソンとし、該パリソンをブロー成形することにより、ボトルやチューブ等の容器とすることができる。このような容器は、醤油、ソース、みりん、ドレッシング、マヨネーズ等の液状調味料等の容器として有用である。
また、本発明のポリエステルを押出成形によってシートとし、該シートを真空成形などにより所望の形状に賦形させた容器や、該シートを二軸延伸によりフィルム等とし、食品包装材や製品表面の保護フィルムとして利用することが可能である。
【実施例
【0059】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0060】
[測定・評価方法]
以下の実施例及び比較例で製造したポリエステル及びその成形品の物性ないし特性の測定、評価方法は以下の通りである。
【0061】
<固有粘度(IV)>
試料約0.25gを、フェノール/1,1,2,2-テトラクロロエタン(重量比1/1)の混合溶媒約25mLに、濃度が1.00g/dLとなるように溶解させた後、30℃まで冷却し、30℃において全自動溶液粘度計(センテック社製「DT553」)にて、試料溶液の落下秒数、溶媒のみの落下秒数それぞれを測定し、以下の式により、固有粘度(IV)を算出した。
IV=((1+4Kηsp0.5-1)/(2KC)
ここで、ηsp=η/η-1であり、ηは試料溶液の落下秒数、ηは溶媒のみの落下秒数、Cは試料溶液濃度(g/dL)、Kはハギンズの定数である。Kは0.33を採用した。なお試料の溶解条件は、110℃で30分間とした。
ここで、固有粘度は成形板試料を用いて測定したが、成形前のポリエステルを用いることもでき、ほぼ同等の測定値を得ることができる。
【0062】
<ポリエステル中の各ジカルボン酸単位及び各ジオール単位の定量>
ポリエステル(ペレット又はその混合物)約20mgを重クロロホルム/重ヘキサフルオロイソプロパノール(重量比7/3)の混合溶媒0.75mLに溶解させ、重ピリジン25μLを添加して試料溶液とした。該試料溶液を外径5mmのNMR試料管に入れ、核磁気共鳴装置(Bruker社製「AVANCE400」)を用い、室温でH-NMRスペクトルを測定し、ポリエステル中の各ジカルボン酸単位及びジオール単位の割合を求めた。
【0063】
<成形直後の成形板ヘーズ>
ポリエステルペレットを60℃で72時間真空乾燥機にて乾燥し、射出成形機(日精樹脂工業製「FE80S12ASE」)を用いて以下の条件で成形板(以下、「成形板試料」と称す。)を射出成形した。
成形温度:260℃(シリンダー設定)
金型温度:20℃(チラー水設定温度)
成形板重量:50g(平板部、ランナー部、スプルー部を含んだ全重量)
金型内への充填時間:1秒
保圧時間:14秒
冷却時間:60秒
成形板寸法:厚み2mm、110mm×110mm(ランナー・スプルー含まず)
この成形板試料のヘーズをヘーズメーター(日本電色工業社製「NDH-300A」)にて測定した。
後掲の表1では、この測定値を「成形直後のヘーズ」として記載する。
【0064】
<40℃、24時間保管後の成形板ヘーズ>
温度設定を40℃、流入窒素量を20L/分としたイナートオーブン(エスペック社製「IPHH-201M」)中に置いた表面が鏡面仕上げされた厚さ3mmのステンレス製の板上に、上記の成形板試料を水平に置き、24時間保管後に取り出して、ヘーズをヘーズメーター(日本電色工業社製「NDH-300A」)にて測定した。
後掲の表1では、この測定値を「経時後のヘーズ」として記載する。
【0065】
<引張弾性率>
成形板試料より、幅10mm、長さ100mmの短冊状試験片を切り出し、チャック間50mm、引張速度50mm/分、試験片温度23℃で引張試験を実施した。応力が増加開始した時点からの伸びが3%以内で応力と伸びの傾きが一定である弾性領域における傾き(応力変化量/伸び変化量)を引張弾性率とした。
この引張弾性率は、柔軟性の観点から300MPa以下であることが好ましく、柔軟性と形状保持性の両立の観点から100~300MPaの範囲であることが好ましい。
【0066】
<再利用成形板のヘーズ>
成形板試料を、粉砕機((株)ホーライ製V形粉砕機「V-360」、スクリーン穴直径8mm)を用いて粉砕し、粉砕品300gと三菱ケミカルインドネシア社製ポリエチレンテレフタレート樹脂ペレット「BK2180」2700gとをステンレス缶の中に入れてよく混合し、混合物を60℃で72時間真空乾燥機にて乾燥し、射出成形機(日精樹脂工業製「FE80S12ASE」)を用いて以下の条件で成形板(以下、「再利用成形板」と称す。)を射出成形した。
成形温度:280℃(シリンダー設定)
金型温度:20℃(チラー水設定温度)
成形板重量:50g(平板部、ランナー部、スプルー部を含んだ全重量)
金型内への充填時間:1秒
保圧時間:14秒
冷却時間:60秒
成形板寸法:厚み2mm、110mm×110mm(ランナー・スプルー含まず)
この再利用成形板のヘーズをヘーズメーター(日本電色工業社製「NDH-300A」)にて測定した。
【0067】
[ポリエステルの製造]
以下の実施例及び比較例で溶融混練に供したポリエステルは以下の方法で製造した。
【0068】
<ポリエステルA:ダイマー酸単位を含むポリエチレンテレフタレートの製造>
テレフタル酸、イソフタル酸は重合後のポリエステル中にそれぞれ58.5重量%、3.5重量%となる量、エチレングリコールはテレフタル酸とイソフタル酸の合計量に対しモル比で1.2倍となる量を攪拌装置、昇温装置及び留出液分離塔を備えたエステル化反応槽に仕込み、温度250℃、圧力0.90kg/cmにてエステル化反応を4時間行った。次に、温度250℃、常圧下で4時間エステル化反応を行ない、ポリエステル低重合体(オリゴマー)を得た。
【0069】
次いで、該オリゴマーを、留出管を備えた攪拌機付き重縮合反応槽へ移送し、炭素数36の水添ダイマー酸(クローダジャパン製「Pripol1009」)を重合後のポリエステル中に17.5重量%となる量添加し、さらに触媒として二酸化ゲルマニウムのエチレングリコール溶液を、安定剤として正リン酸のエチレングリコール溶液を添加した。
【0070】
該重縮合反応槽内温度を280℃に保ちながら、2時間かけて圧力を0.13kPaに減圧し、次いで、同圧力にて3時間反応を行った後、反応系を常圧に戻し、反応を終了した。
得られたポリエステルを該重縮合反応槽の底部からストランドとして抜き出し、水中を潜らせた後、カッターで該ストランドをカットすることによりポリエステルAのペレットを得た。
【0071】
<ポリエステルB:ポリテトラメチレングリコール単位を含むポリブチレンテレフタレートの製造>
攪拌装置、窒素導入口、加熱装置、温度計、留出管を備えたエステル交換反応槽に、ジメチルテレフタレート64.1重量部、1,4-ブタンジオール36.8重量部、フッ素含有量190重量ppmのポリテトラメチレングリコール(三菱ケミカル社製、数平均分子量1000)30重量部、触媒としてテトラブチルチタネートを金属チタン換算で、生成するポリマーに対して33ppmとなるように1,4-ブタンジオール溶液として添加した。次いで、槽内液温を150℃に60分保持した後90分かけて210℃まで昇温し210℃で30分保持した。この間、生成するメタノールを留出させつつ、合計180分エステル交換反応を行った。
【0072】
エステル交換反応終了の15分前に、酢酸マグネシウム・四水塩をマグネシウムを1,4-ブタンジオールに溶解して添加し、さらにヒンダードフェノール系酸化防止剤(チバ・ガイギー(株)製「Irganox 1010」)を1,4-ブタンジオールのスラリーとして加え、引き続き、テトラブチルチタネートを1,4-ブタンジオールの溶液として添加した後、攪拌装置、窒素導入口、加熱装置、温度計、留出管、減圧用排気口を備えた重縮合反応槽に移送し減圧を付加して、重縮合反応を行った。
【0073】
重縮合反応は槽内圧力を常圧から0.4KPaまで85分かけて徐々に減圧し、0.4KPa以下で継続した。反応温度は減圧開始から15分間210℃に保持し、以後、この反応の最高温度240℃まで45分間で昇温し、この温度で1時間保持し、その後最終温度235℃となるようにコントロールした。最終温度は235℃である。所定の撹拌トルク(IV=1.20dL/gに相当)に到達した時点で反応を終了した。重縮合反応に要した時間は150分であった(重縮合反応時間は減圧開始から窒素で復圧までの時間とした。)。
【0074】
次に槽内を減圧状態から窒素で復圧し、次いでポリマー抜出しのため加圧状態にした。抜出しの際の口金の熱媒温度を230℃としてポリマーを口金からストランド状に抜き出し、次いで冷却水槽内でストランドを冷却した後、該ストランドをカッターでカットすることによりポリエステルBのペレットを得た。
【0075】
<ポリエステルC:ポリエチレングリコール単位を含むポリエチレンテレフタレートの製造>
テレフタル酸を重合後のポリエステル中に61重量%となる量、エチレングリコールはテレフタル酸に対しモル比で1.2倍となる量を攪拌装置、昇温装置及び留出液分離塔を備えたエステル化反応槽に仕込み、温度250℃、圧力0.90kg/cmにてエステル化反応を4時間行った。次に、温度250℃、常圧下で4時間エステル化反応を行ない、ポリエステル低重合体(オリゴマー)を得た。
【0076】
次いで、該オリゴマーを、留出管を備えた攪拌機付き重縮合反応槽へ移送し、重量平均分子量が2000であるポリエチレングリコールのエチレングリコール溶液をポリエチレングリコールが重合後のポリエステル中に20重量%となる量添加し、さらに触媒として二酸化ゲルマニウムのエチレングリコール溶液を、安定剤として正リン酸のエチレングリコール溶液を添加した。さらに生成するポリマーに対して0.35重量部となる、ヒンダードフェノール系酸化防止剤(チバ・ガイギー(株)製「Irganox1330」)をエチレングリコール溶液で添加した。また重合時の発泡を抑えるためシリコンオイル(信越化学製「KF-54」)のエチレングリコール溶液を添加した。
【0077】
該重縮合反応槽内温度を280℃に保ちながら、2時間かけて圧力を0.13kPaに減圧し、次いで、同圧力にて3時間反応を行い、反応系を常圧に戻し反応を終了した。得られたポリエステルを該重縮合反応槽の底部からストランドとして抜き出し、水中を潜らせた後、カッターで該ストランドをカットすることによりポリエステルCのペレットを得た。
【0078】
<ポリエステルD:ダイマー酸単位を含むポリエチレンテレフタレートの製造>
ダイマー酸(クローダジャパン製「Pripol1009」)を重合後のポリエステル中に23.5重量%となる量添加した以外はポリエステルAの製造と同様に実施して、ポリエステルDのペレットを得た。
【0079】
<ポリエステルE:ダイマー酸単位及びポリアルキレングリコール単位を含まないポリエチレンテレフタレートの製造>
テレフタル酸を重合後のポリエステル中に77重量%となる量、エチレングリコールをテレフタル酸に対しモル比で1.2倍となる量用い、攪拌装置、昇温装置及び留出液分離塔を備えたエステル化反応槽に仕込み、温度280℃、圧力0.90kg/cmにてエステル化反応を4時間行った。次に、温度280℃、常圧下で4時間エステル化反応を行ない、ポリエステル低重合体(オリゴマー)を得た。
次いで、該オリゴマーを、留出管を備えた攪拌機付き重縮合反応槽へ移送し、触媒として二酸化ゲルマニウムのエチレングリコール溶液を、安定剤として正リン酸のエチレングリコール溶液を添加した。
【0080】
該重縮合反応槽内温度を280℃に保ちながら、2時間かけて圧力を0.13kPaに減圧し、次いで、同圧力にて3時間反応を行った後、反応系を常圧に戻し、反応を終了した。
得られたポリエステルを該重縮合反応槽の底部からストランドとして抜き出し、水中を潜らせた後、カッターで該ストランドをカットすることによりポリエステルEのペレットを得た。
【0081】
[実施例及び比較例]
<実施例1>
ポリエステルAペレット2.4kgとポリエステルBペレット0.6kgをステンレス製容器内で混合した混合ペレットを用い、前述の方法にて各種の測定及び評価を行い、結果を表1にまとめた。
【0082】
<実施例2>
ポリエステルAペレット2.85kgとポリエステルBペレット0.15kgをステンレス製容器内で混合した混合ペレットを用い、前述の方法にて各種の測定及び評価を行い、結果を表1にまとめた。
【0083】
<実施例3>
ポリエステルAペレット2.25kgとポリエステルCペレット0.75kgをステンレス製容器内で混合した混合ペレットを用い、前述の方法にて各種の測定及び評価を行い、結果を表1にまとめた。
【0084】
<実施例4>
ポリエステルAペレット1.50kgとポリエステルCペレット1.50kgをステンレス製容器内で混合した混合ペレットを用い、前述の方法にて各種の測定及び評価を行い、結果を表1にまとめた。
【0085】
<比較例1>
ポリエステルAペレット3.00kgのみを用い、前述の方法にて各種の測定及び評価を行い、結果を表1にまとめた。
【0086】
<比較例2>
ポリエステルDペレット3.00kgのみを用い、前述の方法にて各種の測定及び評価を行い、結果を表1にまとめた。
【0087】
<比較例3>
ポリエステルEペレット3.00kgのみを用い、前述の方法にて各種の測定及び評価を行い、結果を表1にまとめた。
【0088】
<比較例4>
ポリエステルBペレット3.00kgのみを用い、前述の方法にて各種の測定及び評価を行い、結果を表1にまとめた。
【0089】
<比較例5>
ポリエステルCペレット3.00kgのみを用い、前述の方法にて各種の測定及び評価を行い、結果を表1にまとめた。
【0090】
<比較例6>
ポリエステルAペレット1.50kgとポリエステルBペレット1.50kgをステンレス製容器内で混合した混合ペレットを用い、前述の方法にて各種の測定及び評価を行い、結果を表1にまとめた。
【0091】
表1中、各構成単位の略号は以下の通りである。
TPA:テレフタル酸
IPA:イソフタル酸
EG:エチレングリコール
DEG:ジエチレングリコール
PTMG:ポリテトラメチレングリコール
PEG:ポリエチレングリコール
BG:1,4-ブタンジオール
【0092】
【表1】
【0093】
表1より次のことが明らかである。
ジカルボン酸単位としてテレフタル酸単位と特定量のダイマー酸単位を含み、ジオール単位としてエチレングリコール単位と特定量のポリアルキレングリコール単位を含む本発明のポリエステルは、実施例1~4に示されているように、柔軟性に優れ、成形品の透明性が良好で、成形品が経時により白濁することもなく、成形品を粉砕し市販のポリエチレンテレフタレート樹脂と混合使用した際の再利用成形品の透明性も良好で再利用適性に優れている。
【0094】
これに対し、比較例1~6のポリエステルは、柔軟性・透明性・経時後の透明性・成形品再利用時の透明性のいずれかが劣っている。
即ち、ダイマー酸単位のみを含みポリアルキレングリコール単位を含まない比較例1,2のうち、ダイマー酸単位の含有量が少ない比較例1では柔軟性が劣り、ダイマー酸単位を多くした比較例2では成形品再利用時の透明性が著しく低下する。
ダイマー酸単位もポリアルキレングリコール単位も含まない比較例3は柔軟性が著しく劣る。
ポリアルキレングリコール単位のみを含みダイマー酸単位を含まない比較例4,5のうち、ポリアルキレングリコール単位含有量の多い比較例4では、すべての条件において透明性が著しく劣る。比較例5は、成形直後の透明性や成形品再利用時の透明性は良好であるが、経時後の透明性が白濁により著しく劣る。
比較例6は、ダイマー酸単位とポリアルキレングリコール単位を共に含むが、ポリアルキレングリコール単位の含有量が多いため、成形直後の透明性、経時後の透明性、成形品再利用時の透明性のすべてに劣る。
【0095】
以上より、本発明のポリエステルは、柔軟性に優れ、透明性が良好であり、成形品の経時による白濁が少なく、成形品を粉砕し再利用した場合も透明性に影響がないことより、中身の視認性と再利用適性が求められる食品容器や複雑な形状の製品表面を保護するためのシートやフィルムとして有用であることが分かる。