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特許7494456ビフェニレン誘導体、有機半導体層、及び有機薄膜トランジスタ
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  • 特許-ビフェニレン誘導体、有機半導体層、及び有機薄膜トランジスタ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-27
(45)【発行日】2024-06-04
(54)【発明の名称】ビフェニレン誘導体、有機半導体層、及び有機薄膜トランジスタ
(51)【国際特許分類】
   H10K 85/60 20230101AFI20240528BHJP
   C07D 495/04 20060101ALI20240528BHJP
   H10K 10/46 20230101ALI20240528BHJP
   H10K 71/10 20230101ALI20240528BHJP
   H10K 77/10 20230101ALI20240528BHJP
【FI】
H10K85/60
C07D495/04 101
H10K10/46
H10K71/10
H10K77/10
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019176786
(22)【出願日】2019-09-27
(65)【公開番号】P2020057787
(43)【公開日】2020-04-09
【審査請求日】2022-08-22
(31)【優先権主張番号】P 2018185915
(32)【優先日】2018-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】上田 さおり
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 真人
(72)【発明者】
【氏名】宮下 真人
【審査官】内村 駿介
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-195361(JP,A)
【文献】特開2015-195362(JP,A)
【文献】国際公開第2018/061820(WO,A1)
【文献】特開2006-156980(JP,A)
【文献】特開2009-227652(JP,A)
【文献】特開2007-197400(JP,A)
【文献】国際公開第2018/061821(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/061819(WO,A1)
【文献】特開2006-328006(JP,A)
【文献】特開2007-208032(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106165105(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10K 85/60
H10K 10/40
H10K 71/10
H01L 29/786
H01L 21/336
C07D 495/04
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示されることを特徴とするビフェニレン誘導体。
【化1】
[(ここで、Aは共有結合を示し、R~Rの隣接する二つからなる組合せの内の1組、及びR~Rの隣接する二つからなる組合せの内の1組が下記一般式(2)を構成し、4~5員環を形成する。下記一般式(2)を構成しなかったR~Rは、それぞれ独立して、水素、ハロゲン、炭素数1~20のアルキル基、炭素数2~20のアルケニル基、炭素数2~20のアルキニル基、または炭素数4~26のアリール基からなる群の1種を示し、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、またはアリール基の水素はフッ素で置換されていてもよい。)
【化2】
(ここで、Xは共有結合、酸素、硫黄、セレンからなる群の1種を示し、YはCR13又は窒素を示す。nは1または2を示す。 は炭素数1~20のフッ素置換アルキル基、4位に置換基を有する炭素数5~26のヘテロアリール-2-基からなる群の一つ、R 13 は、水素、フッ素、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基からなる群の一つである。)
【請求項2】
nが1であることを特徴とする請求項1に記載のビフェニレン誘導体。
【請求項3】
YがCR13であることを特徴とする請求項1に記載のビフェニレン誘導体。
【請求項4】
Xが硫黄であることを特徴とする請求項1乃至3いずれか一項に記載のビフェニレン誘導体。
【請求項5】
が炭素数1~20のフッ素置換アルキル基、4位に置換基を有する炭素数5~26のヘテロアリール-2-基からなる群の一つである請求項1乃至4いずれか一項に記載のビフェニレン誘導体。
【請求項6】
請求項1乃至5いずれか一項に記載のビフェニレン誘導体を含有することを特徴とする有機半導体層形成用溶液。
【請求項7】
請求項6に記載の有機半導体層形成用溶液を用いてなることを特徴とする有機半導体層。
【請求項8】
請求項7に記載の有機半導体層を含んでなることを特徴とする有機薄膜トランジスタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機半導体材料等の電子材料への展開が可能な新規なビフェニレン誘導体、これを用いた有機半導体層、及び有機薄膜トランジスタに関するものであり、特に移動度及び溶解性に優れることから様々なデバイス作製プロセスに適用可能な新規なビフェニレン誘導体、これを用いた有機半導体層、及び有機薄膜トランジスタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機薄膜トランジスタに代表される有機半導体デバイスは、省エネルギー、低コスト及びフレキシブルといった無機半導体デバイスにはない特徴を有することから近年注目されている。この有機半導体デバイスは、有機半導体層、基板、絶縁層、電極等の数種類の材料から構成され、中でも電荷のキャリア移動を担う有機半導体層は該デバイスの中心的な役割を有している。そして、有機半導体デバイス性能は、この有機半導体層を構成する有機半導体材料のキャリア移動度により左右されることから、高キャリア移動度を与える有機半導体材料の出現が所望されている。
【0003】
有機半導体層を作製する方法としては、高温真空下、有機材料を気化させて実施する真空蒸着法、有機材料を適当な溶媒に溶解させその溶液を塗布する塗布法等の方法が一般的に知られている。このうち、塗布法は、高温高真空条件を用いることなく印刷技術を用いても実施することができる。従って、デバイス作製の大幅な製造コストの削減を図ることが期待でき、経済的に好ましいプロセスである。
【0004】
このような塗布法に使用される有機半導体材料は、デバイス作製のプロセス上の観点から、0.1cm/V・sec以上のキャリア移動度、及び室温での溶解度が0.1重量%以上を持つことが好ましい。
【0005】
ここで、一般的に、縮合環系の棒状の分子長軸を有する低分子半導体は、高分子半導体と比べて結晶性が高いため高キャリア移動度を発現しやすいことが知られている。しかし、縮合環数が5以下の場合低融点となる課題があり、一方、縮合環数が6以上の場合低溶解性となる課題があり、高キャリア移動度、高耐熱性、及び適当な溶解性を兼ね合わせた低分子系の有機半導体材料は殆ど知られていないのが現状である。
【0006】
現在、低分子系材料としては、2,7-ジアルキル置換ベンゾチエノベンゾチオフェン(縮合4環)(例えば、特許文献1参照及び非特許文献1参照)、6,6’-ジアルキルジナフトチエノチオフェン(縮合6環)(例えば、特許文献2参照)、ターフェニレン誘導体(例えば、特許文献3参照)等が提案されている。
【0007】
しかし、特許文献1及び非特許文献1に記載されたジアルキル置換ベンゾチエノベンゾチオフェンの場合、130℃以上に加熱するとトランジスタ動作が失われるという問題があった。
【0008】
特許文献2に記載の6,6’-ジアルキルジナフトチエノチオフェンは、60℃での溶解度が0.08g/L以下(0.01重量%以下、トルエン)と低い課題があった。
【0009】
さらに特許文献3に記載のターフェニレン誘導体は、ベンゼン環とシクロブテン環からなる直線性の高い縮合環骨格を有するため、溶解度が低下する課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】WO2008/047896号公報
【文献】WO2010/098372号公報
【文献】WO2006/109569号公報
【非特許文献】
【0011】
【文献】ジャーナル オブ アメリカン ケミカル ソサエティー、2007年、129巻、15732~15733頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、高キャリア移動度、高耐熱性、適当な溶解性を兼ね備え、かつ、130℃以上の雰囲気に曝されてもトランジスタ動作性能が低下しない新規な塗布型の有機半導体材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討の結果、新規なビフェニレン誘導体が高キャリア移動度を与えると共に、高耐熱性、適当な溶解性を兼ね備え、かつ、熱処理後においても移動度を保持し、スイッチ特性が著しく向上する有機半導体材料となることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0014】
即ち、本発明は、下記一般式(1)で示されることを特徴とするビフェニレン誘導体、有機半導体層、それを用いてなる有機薄膜トランジスタに関するものである。
【0015】
【化1】
[(ここで、Aは共有結合、酸素、硫黄、セレンからなる群の一つを示し、R~Rの隣接する二つからなる組合せの内の1組、及びR~Rの隣接する二つからなる組合せの内の1組が下記一般式(2)を構成し、4~6員環を形成する。下記一般式(2)を構成しなかったR~Rは、それぞれ独立して、水素、ハロゲン、炭素数1~20のアルキル基、炭素数2~20のアルケニル基、炭素数2~20のアルキニル基、または炭素数4~26のアリール基からなる群の一種を示し、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、またはアリール基の水素はフッ素で置換されていてもよい。)
【0016】
【化2】
(ここで、Xは共有結合、酸素、硫黄、セレン、CR10=CR11、又はNR12からなる群の一つを示し、YはCR13又は窒素を示す。nは1または2を示す。R~R13は、それぞれ独立して、水素、ハロゲン、炭素数1~20のフッ素置換アルキル基、炭素数2~20のアルケニル基、炭素数2~20のアルキニル基、4位に置換基を有する炭素数5~26のヘテロアリール-2-基からなる群の一つを示し、R~R13のうち少なくとも1つが、炭素数1~20のフッ素置換アルキル基または4位に置換基を有する炭素数4~26のヘテロアリール-2-基であり、アルケニル基、アルキニル基、またはヘテロアリール-2-基の4位の置換基の水素はフッ素で置換されていてもよい。)]
【0017】
上記一般式(1)において、Aは、共有結合、酸素、硫黄、セレンを示し、高移動度を
示すビフェニレン誘導体となることから、共有結合、酸素、硫黄が好ましい。上記一般式(1)において、R~Rにおけるハロゲンは、例えば、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素からなる群の一つを示し、安定であることからフッ素が好ましい。
【0018】
上記一般式(1)において、R~Rにおける炭素数1~20のアルキル基は、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、n-ペンチル基、イソバレリル基、n-ヘキシル基、イソヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ドデシル基、n-テトラデシル基、n-オクタデシル基、2-エチルヘキシル基、3-エチルヘプチル基、3-エチルデシル、2-ヘキシルデシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等の直鎖、分岐、又は環状アルキル基からなる群の一つが挙げられる。そして、その中でも特に高移動度及び高溶解性を示すビフェニレン誘導体となることから、炭素数1~14のアルキル基が好ましく、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ドデシル基、n-テトラデシル基である炭素数1~14の直鎖アルキル基からなる群の一つがさらに好ましい。
なお、該炭素数1~20のアルキル基は、少なくとも一つ以上の水素をフッ素に置換することができる。
【0019】
上記一般式(1)において、R~Rにおける炭素数2~20のアルケニル基は、例えば、エテニル基、n-プロペニル基、n-ブテニル基、2-メチルプロペニル基、n-ペンテニル基、2-メチルブテニル基、n-ヘキセニル基、2-メチルペンテニル基、n-ヘプテニル基、n-オクテニル基、2-エチルヘキセニル基、n-ノネル基、2-エチルヘプテニル基、n-デセニル基、n-ドデセニル基、シクロペンテニル-1-基、シクロヘキセニル-1-基、シクロヘプテニル-1-基からなる群の一つが挙げられる。
なお、該炭素数2~20のアルケニル基は、少なくとも一つ以上の水素をフッ素に置換することができる。
【0020】
上記一般式(1)において、R~Rにおける炭素数2~20のアルキニル基は、例えば、エチニル基、n-プロピニル基、n-ブチニル基、n-ペンチニル基、n-ヘキシニル基、n-ヘプチニル基、n-オクチニル基、n-ノニニル基、n-デシニル基、n-ドデシニル基からなる群の一つが挙げられる。
なお、該炭素数2~20のアルキニル基は、少なくとも一つ以上の水素をフッ素に置換することができる。
【0021】
上記一般式(1)において、R~Rにおける炭素数4~26のアリール基は、炭素数4~24のヘテロアリール基を含む。例えば、フェニル基;p-トリル基、p-(n-ヘキシル)フェニル基、p-(n-オクチル)フェニル基、p-(2-エチルヘキシル)フェニル基等のアルキル置換フェニル基;2-フリル基、2-チエニル基;5-フルオロ-2-フリル基、5-メチル-2-フリル基、5-エチル-2-フリル基、5-(n-プロピル)-2-フリル基、5-(n-ブチル)-2-フリル基、5-(n-ペンチル)-2-フリル基、5-(n-ヘキシル)-2-フリル基、5-(n-オクチル)-2-フリル基、5-(2-エチルヘキシル)-2-フリル基、5-フルオロ-2-チエニル基、5-メチル-2-チエニル基、5-エチル-2-チエニル基、5-(n-プロピル)-2-チエニル基、5-(n-ブチル)-2-チエニル基、5-(n-ペンチル)-2-チエニル基、5-(n-ヘキシル)-2-チエニル基、5-(n-オクチル)-2-チエニル基、5-(2-エチルヘキシル)-2-チエニル基等のアルキル置換ヘテロアリール基からなる群の一つを挙げることができる。
なお、該炭素数4~26のアリール基は、少なくとも一つ以上の水素をフッ素に置換することができる。
【0022】
上記一般式(1)において、一般式(2)を構成しなかったR~Rとしては、高移動度のため、水素、ハロゲン、炭素数1~20のアルキル基からなる群の一つが好ましく、水素、フッ素、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基からなる群の一つがさらに好ましく、水素が特に好ましい。
【0023】
上記一般式(1)におけるR~Rの隣接する二つからなる組合せの内の1組、及びR~Rの隣接する二つからなる組合せの内の1組が一般式(2)を構成し、4~6員環を形成することができるが、4~6員環の具体例としてはシクロブテン環、チオフェン環、フラン環、セレノフェン環、チアゾール環、オキサゾール環、ピロール環、イミダゾール環、ベンゼン環、ピリジン環からなる群の一つを挙げることができ、高移動度のため、シクロブテン環、チオフェン環、フラン環、セレノフェン環、ベンゼンからなる群の一つ環が好ましい。
【0024】
一般式(1)においてR~R、及びR~Rの隣接する二つからなる組合せの内、高移動度のため、RとR及びRとR、RとR及びRとR、またはRとR及びRとRが一般式(2)を構成することが好ましい。
【0025】
一般式(2)のXは共有結合、酸素、硫黄、セレン、CR10=CR11、又はNR12からなる群の一つを示し、YはCR13又は窒素を示す。高移動度のため、Xは共有結合、酸素、硫黄、セレン、又はCR10=CR11からなる群の一つを示し、かつYがCR13であることが好ましく、Xが共有結合、酸素、硫黄、又はセレンからなる群の一つを示し、かつYがCR13であることがさらに好ましい。
ここで、RとR及びRとRが一般式(2)を構成する場合は、高溶解性のため、Xは酸素、硫黄、セレンからなる群の一つが好ましい。
【0026】
一般式(2)において、nは1または2を示す。nが2の場合は下記の一般式(3)のいずれか一つを意味する。高溶解性のため、nは1であることが好ましい。
【0027】
【化3】
【0028】
一般式(2)において、R~R13は、それぞれ独立して、水素、ハロゲン、炭素数1~20のフッ素置換アルキル基、炭素数2~20のアルケニル基、炭素数2~20のアルキニル基、4位に置換基を有する炭素数5~26のヘテロアリール-2-基からなる群の一つを示し、R~R13のうち少なくとも1つが、炭素数1~20のフッ素置換アルキル基または4位に置換基を有する炭素数4~26のヘテロアリール-2-基を示し、高溶解性のため、Rはハロゲン、炭素数1~20のフッ素置換アルキル基、炭素数2~20のアルケニル基、炭素数2~20のアルキニル基、4位に置換基を有する炭素数5~26のヘテロアリール-2-基からなる群の一つであることが好ましい。また、高移動度及び高溶解性のため、R10~R13が、水素、フッ素、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基からなる群の一つであることが好ましい。高移動度のため、水素が特に好ましい。
【0029】
~R13のハロゲン、炭素数2~20のアルケニル基、炭素数2~20のアルキニル基の例は、上記R~Rで示した基を挙げることができる。該炭素数2~20のアルケニル基、炭素数2~20のアルキニル基、及び4位に置換基を有する炭素数5~26のヘテロアリール-2-基は、少なくとも一つ以上の水素をフッ素に置換することができる。
【0030】
一般式(2)における、R~R13の炭素数1~20のフッ素置換アルキル基は、例えば、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、ヘプタフルオロプロピル基、ノナフルオロブチル基、ヘンデカフルオロペンチル基、トリデカフルオロヘキシル基、ペンタデカフルオロヘプチル基、ヘプタデカフルオロオクチル基、ノナデカフルオロノニル基、ヘンイコサフルオロデシル基、トリイコサフルオロヘンデシル基、ペンタイコサフルオロドデシル基を挙げることができ、高溶解性のため、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、ヘプタフルオロプロピル基、ノナフルオロブチル基、ヘンデカフルオロペンチル基、トリデカフルオロヘキシル基、ペンタデカフルオロヘプチル基、ヘプタデカフルオロオクチル基からなる群の一つが好ましい。
【0031】
一般式(2)における、R~R13の4位に置換基を有する炭素数5~26のヘテロアリール-2-基は、例えば、4-ヘキシル-2-チエノ基、4-ヘプチル-2-チエノ基、4-オクチル-2-チエノ基、4-ノニル-2-チエノ基、4-デシル-2-チエノ基、4-オクチル-2-フラノ基、4-トリデカフルオロヘキシル-2-チエノ基からなる群の一つを挙げることができ、高溶解性のため、4-ヘキシル-2-チエノ基、4-ヘプチル-2-チエノ基、4-オクチル-2-チエノ基、4-ノニル-2-チエノ基、4-デシル-2-チエノ基からなる群の一つが好ましい。
【0032】
一般式(2)において、R~R13としては、高移動度のため、水素、ハロゲン、炭素数1~20のフッ素置換アルキル基、4位に置換基を有する炭素数5~26のヘテロアリール-2-基が好ましく、水素、フッ素、ノナフルオロブチル基、ヘンデカフルオロペンチル基、トリデカフルオロヘキシル基、ペンタデカフルオロヘプチル基、ヘプタデカフルオロオクチル基、4-ヘキシル-2-チエノ基、4-ヘプチル-2-チエノ基、4-オクチル-2-チエノ基、4-ノニル-2-チエノ基、4-デシル-2-チエノ基からなる群の一つがさらに好ましい。
【0033】
一般式(2)において、R~R13としては、高移動度及び高溶解性のため、Rが炭素数1~20のフッ素置換アルキル基、4位に置換基を有する炭素数5~26のヘテロアリール-2-基からなる群の一つ、R10~R13が、水素、フッ素、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基からなる群の一つであることが好ましい。R10~R13は、高移動度のため、水素が特に好ましい。
【0034】
本発明のビフェニレン誘導体のより好ましい具体的な骨格は、下記一般式(1-1)~(1-22)からなる群の少なくとも一つで示される。これらの中でもこれらの中でも高溶解性の観点から(1-1)~(1-10)が好ましく、高移動度の観点から、分子長軸を有する一般式(1-1)~(1-5)からなる群の一つが好ましく、点対称構造の一般式(1-1)~(1-3)からなる群の一つがさらに好ましい。
【0035】
【化4】
(ここで、R~Rは、一般式(1)におけるR~Rと同意義を示し、X、Y、及びR~R13は、一般式(2)におけるX、Y、及びR~R13と同意義を示す。)
【0036】
【化5】
(ここで、R~Rは、一般式(1)におけるR~Rと同意義を示し、X、Y、及びR~R13は、一般式(2)におけるX、Y、及びR~R13と同意義を示す。)
本発明のビフェニレン誘導体の具体的例示としては、以下のものを挙げることができる。
【0037】
【化6】
【0038】
【化7】
【0039】
【化8】
【0040】
【化9】
【0041】
本発明のビフェニレン誘導体の製造方法としては、該ビフェニレン誘導体を製造することが可能であれば如何なる製造方法を用いることも可能である。
【0042】
本発明のビフェニレン誘導体の製造方法としては、例えば、一般式(1)のAが共有結合、R、R、R、Rが水素で、一般式(2)のnが1、Xが硫黄で、かつYが炭素、Rが4-アルキルチエノ-2-基、R13が水素である一般式(1)のビフェニレン誘導体(1-1a)は、下記A1~G1の工程を経る方法により製造することができる。
【0043】
(A1工程);パラジウム触媒の存在下、1-ブロモ-4-フルオロ-2-ヨードベンゼンから誘導された1-ブロモ-4-フルオロフェニル-2-亜鉛クロライドと、2-ブロモ-4-フルオロ-1-ヨードベンゼンから2,2’-ジブロモ-4,5’-ジフルオロビフェニルを製造する工程。
(B1工程);A1工程により得られた2,2’-ジブロモ-4,5’-ジフルオロビフェニルをブチルリチウムでジリチウム塩とし、塩化銅(II)で分子内環化することによる2,6-ジフルオロビフェニレンを製造する工程。
(C1工程);B1工程により得られた2,6-ジフルオロビフェニレンをリチウムジイソプロピルアミド(以後、LDAと略す。)処理/ヨウ素化で2,6-ジフルオロ-1,5-ジハロビフェニレンを製造する工程。
(D1工程);パラジウム/銅触媒の存在下、C1工程により得られた2,6-ジフルオロ-1,5-ジハロビフェニレンとトリメチルシリルアセチレンの薗頭カップリングにより2,6-ジフルオロ-1,5-ビス(トリメチルシリルエチニル)ビフェニレンを製造する工程。
(E1工程);D1工程により得られた2,6-ジフルオロ-1,5-ビス(トリメチルシリルエチニル)ビフェニレンと硫化ナトリウムを反応に供し、ビフェニレン誘導体(無置換体)を製造する工程。
(F1工程);E1工程により得られたビフェニレン誘導体(無置換体)からブチルリチウム処理/ブロモ化で2,7-ジブロモジチエノビフェニレンを製造する工程。
(G1工程);F1工程により得られた2,7-ジブロモジチエノビフェニレンと2-トリメチルスタニル-4-アルキルチオフェンをパラジウムカップリングによりビフェニレン誘導体(1-1a)を製造する工程。
【0044】
以下、A1~G1の各工程の詳細を以下に示す。
【0045】
該A1工程は、パラジウム触媒の存在下、1-ブロモ-4-フルオロ-2-ヨードベンゼンから誘導された1-ブロモ-4-フルオロフェニル-2-亜鉛クロライドと、2-ブロモ-4-フルオロ-1-ヨードベンゼンのクロスカップリングから2,2’-ジブロモ-4,5’-ジフルオロビフェニルを製造する工程である。
1-ブロモ-4-フルオロフェニル-2-亜鉛クロライドは、例えば、エチルマグネシウムクロライド、イソプロピルマグネシウムブロマイド等の有機金属試薬を用い、1-ブロモ-4-フルオロ-2-ヨードベンゼンのヨウ素をマグネシウムハライドに交換後(1-ブロモ-4-フルオロフェニル-2-マグネシウムハライドの調製)、塩化亜鉛と金属交換することで調製することができる。また、該有機金属試薬の代わりにマグネシウム金属を用いることも可能である。
1-ブロモ-4-フルオロフェニル-2-マグネシウムハライドを調製する条件としては、例えば、テトラヒドロフラン(以後、THFと記す。)又はジエチルエーテル等の溶媒中、-80℃~20℃の温度範囲内で実施することができる。該マグネシウム塩(1-ブロモ-4-フルオロフェニル-2-マグネシウムハライド)の溶液に塩化亜鉛を反応させることで1-ブロモ-4-フルオロフェニル-2-亜鉛クロライドを調製することができる。塩化亜鉛はそのままの状態でもよいし、THFまたはジエチルエーテル溶液であってもかまわない。該マグネシウム塩と塩化亜鉛との反応の温度としては、-80℃~30℃の範囲内で実施できる。
A1工程におけるパラジウム触媒としては、例えば、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム等を挙げることができ、反応温度としては、20℃~80℃の範囲を挙げることができる。
【0046】
該B1工程は、A1工程により得られた2,2’-ジブロモ-4,5’-ジフルオロビフェニルを2当量以上のブチルリチウムでジリチウム塩とし、塩化銅(II)で分子内環化することによる2,6-ジフルオロビフェニレンを製造する工程である。
該ジリチウム塩を調製する条件としては、例えば、2~3当量のn-ブチルリチウム又はtert-ブチルリチウムを用い、THF又はジエチルエーテル等の溶媒中、-80℃~20℃の温度範囲で実施することができる。
塩化銅(II)は該ジリチウム塩に対し1~3当量使用し、分子内環化反応は-80℃~30℃の温度範囲で実施することができる。なお、塩化銅(II)の代わりに臭化銅(II)を用いることもできる。
【0047】
該C1工程は、B1工程により得られた2,6-ジフルオロビフェニレンをLDAと反応させ1位と5位にジリチウム塩を発生させた後、ハロゲン化することで2,6-ジフルオロ-1,5-ジハロビフェニレンを製造する工程である。
LDAと反応させる条件としては、例えば、2~4当量のLDAを用い、THF又はジエチルエーテル等の溶媒中、-80℃~20℃の温度範囲で実施することができる。該ジリチウム塩とハロゲン化剤の反応は、-80℃~30℃の範囲で実施することができる。
LDAの代わりに、n-ブチルリチウム、n-ブチルリチウム/テトラメチルエチレンジアミンを用いることができ、ハロゲン化剤としては、ヨウ素、1-クロロ-2-ヨードエタン、N-ヨードスクシンイミド、ブロモトリクロロメタン、テトラブロモメタン、1,2-ジブロモテトラクロロエタン、N-ブロモスクシンイミド(以後、NBSと略す。)、N-フルオルベンゼンスルホンイミド等のハロゲン化剤を用いることができる。
【0048】
該D1工程は、パラジウム触媒及び銅触媒の存在下、C1工程により得られた2,6-ジフルオロ-1,5-ジハロビフェニレンとトリメチルシリルアセチレンの薗頭カップリングにより2,6-ジフルオロ-1,5-ビス(トリメチルシリルエチニル)ビフェニレンを製造する工程である。
その際のパラジウム触媒としては、例えば、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム等が挙げられ、銅触媒としてはヨウ化銅(I)、臭化銅(I)、塩化銅(I)等を挙げることができる。また、薗頭カップリングでは、トリエチルアミン、ジイソプロピルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、ピペリジン、ピリジン等の溶媒中、20℃~80℃の温度範囲で実施することができる。なお、溶媒としてトルエン、THF等を添加しても良い。
D1工程におけるアルキニル化合物としては、Rを有するアルキニル化合物を用いて(1-1a)を合成することもできる。例えば、ヘプタデカフルオロ-1-デシン等を使用することで、後のE1工程で(1-1a)の合成を完了することもできる。
【0049】
該E1工程は、D1工程により得られた2,6-ジフルオロ-1,5-ビス(トリメチルシリルエチニル)ビフェニレンと硫化ナトリウムの反応により無置換体を製造する工程である。
該反応は、例えば、ジメチルスルホフォキシド(以後、DMSOと略す。)、N,N-ジメチルホルムアミド(以後、DMFと略す。)、N-メチルピロリドン(以後、NMPと略す。)等の溶媒中、40~200℃の温度範囲で実施することができる。
なお、該工程は、2-ハロアルキニルベンゼンからベンゾチオフェン環を合成する公知の反応条件を用いて実施することもできる(例えば、オーガニック レターズ、2009年、11巻、2473~2475頁)。
【0050】
該F1工程は、E1工程により得られたビフェニレン誘導体(無置換体)からブチルリチウム処理/ブロモ化でビフェニレン誘導体のジブロモ体を製造する工程である。
該反応は、ブチルリチウムで末端チオフェン環の2位プロトンを引き抜いたのち、例えば、ジブロモテトラクロロエタンを添加し、ジブロモ化することができる。
【0051】
該G1工程は、F1工程により得られた2,7-ジブロモジチエノビフェニレンと2-トリメチルスタニル-4-アルキルチオフェンをパラジウムカップリングによりビフェニレン誘導体(1-1a)を製造する工程である。
該反応は、塩化リチウムおよびパラジウム触媒存在下、例えば2-トリメチルスタニル-4-オクチルチオフェンと加熱撹拌することでビフェニレン誘導体(1-1a)を製造することができる。
【0052】
そして、反応工程数が少ないことから好ましいより具体的な製造方法を以下の反応スキームに示す。
【0053】
【化10】
【0054】
一方、本発明で用いられる一般式(1)のビフェニレン誘導体の内、Aが共有結合、R、R、R、Rが水素で、一般式(2)のnが1、Xが硫黄で、Yが炭素、R13が水素、Rが4-アルキルチエニル-2-基である一般式(1)のビフェニレン誘導体(1-2a)は、下記A2~F2の工程を経る方法により製造することができる。
【0055】
(A2工程);パラジウム触媒の存在下、1-ブロモ-3-フルオロ-2-ヨードベンゼンから誘導された1-ブロモ-3-フルオロフェニル-2-亜鉛クロライドと、2-ブロモ-1-フルオロ-3-ヨードベンゼンから2,2’-ジブロモ-3,6’-ジフルオロビフェニルを製造する工程。
(B2工程);A2工程により得られた2,2’-ジブロモ-3,6’-ジフルオロビフェニルをブチルリチウムでジリチオ化し、N-フルオロベンゼンスルホンイミドと反応させることによる1,5-ジフルオロビフェニレンを製造する工程。
(C2工程);B2工程により得られた1,5-ジフルオロビフェニレンを硫化ナトリウムと反応させ、ジチオールとし、さらに2-ブロモアセトアルデヒドジメチルアセタールと反応させてビフェニレン-1,5-ビス(チオアセトアルデヒドジメチルアセタール)を製造する工程。
(D2工程);C2工程で得られたビフェニレン-1,5-ビス(チオアセトアルデヒドジメチルアセタール)をりん酸触媒で環化し、ジチエノビフェニレンの無置換体を製造する工程。
(E2工程);D2工程により得られたビフェニレン誘導体(無置換体)からブチルリチウム処理/ブロモ化で2,7-ジブロモジチエノビフェニレンを製造する工程。
(F2工程);E2工程により得られた2,7-ジブロモジチエノビフェニレンと2-トリメチルスタニル-4-アルキルチオフェンをパラジウムカップリングによりビフェニレン誘導体(1-2a)を製造する工程。
【0056】
以下、A2~F2の各工程の詳細を以下に示す。
【0057】
該A2~F2工程は、A2工程で、1-ブロモ-3-フルオロ-2-ヨードベンゼン及び2-ブロモ-1-フルオロ-3-ヨードベンゼンを用いること以外は、上記A1~G1工程の試薬及び反応条件等を用いて、(1-2a)で示されるビフェニレン誘導体を製造することができる。
【0058】
各工程の詳細を以下に示す。
【0059】
B2工程は、例えば、A2工程により得られた2,2’-ジブロモ-3,6’-ジフルオロビフェニルを2当量以上のブチルリチウムでジリチオ化し、ベンザインを発生させて分子内環化し、N-フルオロベンゼンスルホンイミドでフッ素化することによる1,5-ジフルオロビフェニレンを製造する工程である。
該ジリチオ化の条件としては、例えば、2~3当量のn-ブチルリチウム又はtert-ブチルリチウムを用い、THF又はジエチルエーテル等の溶媒中、-80℃~20℃の温度範囲で実施することができる。N-フルオロベンゼンスルホンイミドによるフッ素化は、THF又はジエチルエーテル等の溶媒中、-80℃~20℃の温度範囲で実施することができる。
【0060】
C2工程は、例えば、1,5-ジフルオロビフェニレンを、DMF,NMP等の溶媒中、90℃~150℃で2~6当量の硫化ナトリウム(水和物)と反応させることでビフェニレン-1,5-ジチオールのジナトリウム塩とし、さらに2-ブロモアセトアルデヒドジメチルアセタールを添加し、90℃~150℃で処理する。
【0061】
D2工程は、例えば、C2工程により得られたビフェニレン-1,5-ビス(チオアセトアルデヒドジメチルアセタール)を5~500wt%のりん酸、ポリりん酸等の触媒下、キシレン、クロロベンゼン等の溶媒中、110~140℃で行う。これにより、ビフェニレン誘導体の無置換体を製造することができる。
【0062】
F2工程とG2工程は、それぞれF1工程、G1工程と同様の反応である。
【0063】
そして、反応工程数が少ないことから好ましいより具体的な製造方法を以下の反応スキームに示す。
【0064】
【化11】
【0065】
さらに、本発明で用いられる一般式(1)のビフェニレン誘導体の内、Aが共有結合、R、R、R、Rが水素で、一般式(2)のnが1、Xが硫黄で、Yが炭素、Rが4-アルキルチエニル-2-基、R13が水素である一般式(1-3)のビフェニレン誘導体(1-3a)は、上記A1及びB1工程で得られた2,6-ジフルオロビフェニレンを原料に下記C3~G3の工程を経る方法により製造することができる。
【0066】
(C3工程);B1工程により得られた2,6-ジフルオロビフェニレンをハロゲン化し、3,7-ジフルオロ-2,6-ジハロビフェニレンを製造する工程。
(D3工程);パラジウム/銅触媒の存在下、C3工程により得られた3,7-ジフルオロ-2,6-ジハロビフェニレンとトリメチルシリルアセチレンの薗頭カップリングにより3,7-ジフルオロ-2,6-ビス(トリメチルシリルエチニル)ビフェニレンを製造する工程。
(E3工程);D3工程により得られた3,7-ジフルオロ-2,6-ビス(トリメチルシリルエチニル)ビフェニレンと硫化ナトリウムを反応に供し、無置換体を製造する工程。
(F3工程);E3工程により得られたビフェニレン誘導体(無置換体)からブチルリチウム処理/ブロモ化で2,7-ジブロモジチエノビフェニレンを製造する工程。
(G3工程);F3工程により得られた2,7-ジブロモジチエノビフェニレンと2-トリメチルスタニル-4-アルキルチオフェンのパラジウムカップリングによりビフェニレン誘導体(1-3a)を製造する工程。
【0067】
該反応工程におけるC3工程は、例えば、B1工程により得られた2,6-ジフルオロビフェニレンを、ハロゲン化剤と反応させ3位と7位をハロゲン化することで3,7-ジフルオロ-2,6-ジハロビフェニレンを製造する工程である。
ハロゲン化剤と反応させる条件としては、例えば、2~4当量のハロゲン化剤を用い、DMF、NMP、DMSO等の溶媒中、20℃~70℃の温度範囲内で実施することができる。
ハロゲン化剤としては、NBS、臭素、ヨウ素、N-ヨードスクシンイミド等のハロゲン化剤を用いることができる。
【0068】
該D3乃至G3工程は、D3工程で、3,7-ジフルオロ-2,6-ジハロビフェニレンを用いること以外は、上記D1乃至G1工程の試薬及び反応条件等を用いて、(1-3a)で示されるビフェニレン誘導体を製造することができる。
【0069】
そして、反応工程数が少ないことから好ましいより具体的な製造方法を以下の反応スキームに示す。
【0070】
【化12】
【0071】
本発明のビフェニレン誘導体は、適当な溶媒に溶解させることで該ビフェニレン誘導体を含有する有機半導体層形成用溶液とすることができる。該溶媒としては、一般式(1)で示されるビフェニレン誘導体を溶解することが可能な溶媒であれば如何なる溶媒を使用してもよく、有機半導体層を形成する際、溶媒の乾燥速度を好適なものとすることができることから、常圧での沸点が100℃以上である有機溶媒が好ましい。
【0072】
本発明で用いることが可能な溶媒として、特に制限はなく、例えば、トルエン、メシチレン、o-キシレン、イソプロピルベンゼン、ペンチルベンゼン、シクロヘキシルベンゼン、1,2,4-トリメチルベンゼン、テトラリン、インダン等の芳香族炭化水素類;アニソール、2-メチルアニソール、3-メチルアニソール、2,3-ジメチルアニソール、3,4-ジメチルアニソール、2,6-ジメチルアニソール、エチルフェニルエーテル、ブチルフェニルエーテル、1,2-メチレンジオキシベンゼン、1,2-エチレンジオキシベンゼン等の芳香族エーテル類;クロロベンゼン、1,2-ジクロロベンゼン、1,3-ジクロロベンゼン、1,4-ジクロロベンゼン、1,2-ジフルオロベンゼン、1,3-ジフルオロベンゼン、1,4-ジフルオロベンゼン等の芳香族ハロゲン化合物;チオフェン、3-クロロチオフェン、2-クロロチオフェン、3-メチルチオフェン、2-メチルチオフェン、ベンゾチオフェン、2-メチルベンゾチオフェン、2,3-ジヒドロベンゾチオフェン、フラン、3-メチルフラン、2-メチルフラン、2,5-ジメチルフラン、ベンゾフラン、2-メチルベンゾフラン、2,3-ジヒドロベンゾフラン、チアゾール、オキサゾール、ベンゾチアゾール、ベンゾオキサゾール、ピリジン等のヘテロ芳香族類;ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、デカリン等の飽和炭化水素類;ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジアセテート、ジプロピレングリコールメチル-n-プロピルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテルアセテート、1,4-ブタンジオールジアセテート、1,3-ブチレングリコールジアセテート、1,3-ブチレングリコールジアセテート、1,6-ヘキサンジオールジアセテート、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート等のグリコール類;フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、テレフタル酸ジメチル、酢酸フェニル、シクロヘキサノールアセテート、3-メトキシブチルアセテート、テトラヒドロフルフリルアセテート、テトラヒドロフルフリルプロピオネート、γ-ブチロラクトン等のエステル類;THF、2-メトキシメチルテトラヒドロフラン等の環状エーテルからなる群の少なくとも1種などを挙げられることができ、その中でも適度な乾燥速度を持つことから、好ましくはトルエン、o-キシレン、メシチレン、1,2,4-トリメチルベンゼン、テトラリン、インダン、オクタン、ノナン、デカン、アニソール、2-メチルアニソール、3-メチルアニソール、2,3-ジメチルアニソール、3,4-ジメチルアニソール、2,6-ジメチルアニソール、エチルフェニルエーテル、ブチルフェニルエーテル、1,2-メチレンジオキシベンゼン、1,2-エチレンジオキシベンゼン、クロロベンゼン、1,2-ジクロロベンゼン、1,3-ジクロロベンゼン、1,4-ジクロロベンゼン、3-メチルチオフェン、ベンゾチアゾールからなる群の少なくとも1種であり、さらに好ましくは、トルエン、o-キシレン、メシチレン、テトラリン、インダン、オクタン、ノナン、デカン、アニソール、2-メチルアニソール、3-メチルアニソール、2,3-ジメチルアニソール、3,4-ジメチルアニソール、2,6-ジメチルアニソールからなる群の少なくとも1種である。
【0073】
なお、本発明で用いる溶媒は、1種類の溶媒を単独で使用、または沸点、極性、溶解度パラメーターなど性質の異なる溶媒を2種類以上混合して使用することが可能である。
【0074】
一般式(1)で示されるビフェニレン誘導体を溶媒に混合溶解する際の温度としては、溶解を促進させる目的のため、0~80℃の温度範囲で行うことが好ましく、10~60℃の温度範囲で行うことが更に好ましい。
また、一般式(1)で示されるビフェニレン誘導体を有機溶媒に溶解混合する時間は、均一溶液を得るため、1分~1時間で溶解することが好ましい。
本発明では本発明の有機半導体層形成用溶液における一般式(1)で示されるビフェニレン誘導体の濃度が0.1~10.0重量%の範囲であると、取り扱い容易になり、有機半導体層を形成する際の効率により優れるものとなる。また、有機半導体層形成用溶液の粘度が0.3~10mPa・sの範囲であると、より好適な塗工性を発現するものとなる。
【0075】
なお該溶液は、該ビフェニレン誘導体自体が適度の凝集性を有することから比較的に低温で調製することが可能、且つ耐酸化性があることから、塗布法による有機薄膜の製造に好適に適用できる。即ち、雰囲気から空気を除く必要がないことから塗布工程を簡略化することができる。さらに該溶液は、例えば、ポリスチレン、ポリ(α-メチルスチレン)、ポリ(4-メチルスチレン)、ポリ(1-ビニルナフタレン)、ポリ(2-ビニルナフタレン)、ポリ(スチレン-ブロック-ブタジエン-ブロック-スチレン)、ポリ(スチレン-ブロック-イソプレン-ブロック-スチレン)、ポリ(ビニルトルエン)、ポリ(スチレン-コ-2,4-ジメチルスチレン)、ポリ(クロロスチレン)、ポリ(スチレン-コ-α-メチルスチレン)、ポリ(スチレン-コ-ブタジエン)、ポリ(エチレン-コ-ノルボルネン)、ポリフェニレンエーテル、ポリカーボネート、ポリカルバゾール、ポリトリアリールアミン、ポリ(9,9-ジオクチルフルオレン-コ-ジメチルトリアリールアミン)、ポリ(N-ビニルカルバゾール)、ポリメタクリル酸メチル、ポリ(スチレン-コ-メタクリル酸メチル)、ポリメタクリル酸エチル、ポリメタクリル酸n-プロピル、ポリメタクリル酸イソプロピル、ポリメタクリル酸n-ブチル、ポリメタクリル酸フェニル、ポリアクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル、ポリアクリル酸n-プロピルからなる群の少なくとも1種を挙げることができ、好ましくはポリスチレン、ポリ(α-メチルスチレン)、ポリ(エチレン-コ-ノルボルネン)、ポリメタクリル酸メチルからなる群の少なくとも1種のポリマーをバインダーとして存在させることもできる。これらのポリマーバインダーの濃度は、適度な溶液の粘度のため、0.001~10.0重量%であることが好ましい。
【0076】
該ポリマーバインダーのガラス転移温度(Tg)は、電子デバイス製造時のプロセス温度への対応により好適であることから105℃以上であることが好ましく、120℃以上であることがさらに好ましく、150℃以上であることが特に好ましい。
【0077】
また、該ポリマーの分子量は、よりキャリア移動度の大きい有機薄膜トランジスタを得るのに好適であるため、5,000~1,000,000であることが好ましく、10,000~500,000がさらに好ましく、20,000~100,000が特に好ましい。なお、本発明において、ポリマーの分子量はポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)をいうものである。
【0078】
該ポリマーは、一般的なポリマーバインダーとしての効果を有し、得られる有機半導体層の成膜性を向上させるものであり、絶縁性ポリマー及び半導体性ポリマーも用いることができる。
【0079】
該半導体性ポリマーとしては、例えば、ポリトリアリールアミン、ポリ( 9 , 9 - ジオクチルフルオレン- コ- ジメチルトリアリールアミン)の少なくともいずれかを挙げることができる。
【0080】
本発明でポリマーバインダーとして用いることが可能なポリマーの具体的な例としては、上記で挙げたポリマー以外に、例えば、極性環状ポリオレフィン類、ポリスルホン類、アクリロニトリル-スチレン共重合体、メチルメタクリレート-スチレン共重合体類からなる群の少なくとも1種を挙げることができる。
【0081】
該極性環状ポリオレフィン類はより具体的には下記一般式(4)で示されるポリマーがさらに好ましい。
【0082】
【化13】
(ここで、R14 ~R16は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~20のアルキル基、炭素数6~20のアリール基、炭素数2~20のアルキルオキシカルボニル基、炭素数7~20のアリールオキシカルボニル基、シアノ基、ニトロ基、炭素数1~20のアルコキシ基、炭素数6~20のアリールオキシ基、ヒドロキシル基、アミノ基、又は炭素数1~20のアルキルアミノ基からなる群の1種を示し、Xは、ハロゲン原子、炭素数2~20のアルキルオキシカルボニル基、炭素数7~20のアリールオキシカルボニル基、シアノ基、ニトロ基、炭素数1~20のアルコキシ基、炭素数6~20のアリールオキシ基、ヒドロキシル基、アミノ基、又は炭素数1~20のアルキルアミノ基からなる群の1種を示す。pは20~5,000の整数を示し、q及びrはそれぞれ独立して0~2の整数を示す。実線と点線からなる結合は、単結合又は2重結合を示す。)
一般式(4)におけるR14 ~R16は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~20のアルキル基、炭素数6~20のアリール基、炭素数2~20のアルキルオキシカルボニル基、炭素数7~20のアリールオキシカルボニル基、シアノ基、ニトロ基、炭素数1~20のアルコキシ基、炭素数6~20のアリールオキシ基、ヒドロキシル基、アミノ基、又は炭素数1~20のアルキルアミノ基からなる群の1種を示し、高耐熱性のため、水素原子、炭素数1~20のアルキル基からなる群の1種が好ましい。
【0083】
14 ~R16における炭素数1~20のアルキル基は、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、n-ペンチル基等の直鎖又は分岐アルキル基からなる群の1種が挙げられる。炭素数6~20のアリール基は、例えば、フェニル基、p-トリル基、p-(n-ヘキシル)フェニル基、p-(n-オクチル)フェニル基、p-(2-エチルヘキシル)フェニル基からなる群の1種が挙げられる。炭素数2~20のアルキルオキシカルボニル基は、例えば、メチルオキシカルボニル基、エチルオキシカルボニル基、n-プロピルオキシカルボニル基からなる群の1種が挙げられる。炭素数7~20のアリールオキシカルボニル基は、例えば、フェノキシカルボニル基、4-メチルフェノキシカルボニル基のいずれかが挙げられる。炭素数1~20のアルコキシ基は、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基からなる群の1種が挙げられる。炭素数6~20のアリールオキシ基は、例えば、フェノキシ基、4-メチルフェノキシの少なくといずれかが挙げられる。炭素数1~20のアルキルアミノ基は、例えば、メチルアミノ基、エチルアミノ基、n-プロピルアミノ基からなる群の少なくとも1種が挙げられる。そして、その中でも高耐熱性のため、置換基R14はメチル基、エチル基、n-プロピル基からなる群の1種であることが好ましく、置換基R15及びR16は水素原子であることが好ましい。
【0084】
一般式(4)におけるXは、ハロゲン原子、炭素数2~20のアルキルオキシカルボニル基、炭素数7~20のアリールオキシカルボニル基、シアノ基、ニトロ基、炭素数1~20のアルコキシ基、炭素数6~20のアリールオキシ基、ヒドロキシル基、アミノ基、又は炭素数1~20のアルキルアミノ基からなる群の1種を示す。
【0085】
置換基Xにおける炭素数2~20のアルキルオキシカルボニル基は、例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n-プロポキシカルボニル基、n-ブトキシカルボニル基、n-ヘキシロキシカルボニル基、シクロヘキシロキシカルボニル基からなる群の1種等が挙げられ、炭素数7~20のアリールオキシカルボニル基は、例えば、フェノキシカルボニル基、4-メチルフェノキシカルボニル基、2,4-ジメチルフェニキシカルボニル基、4-エチルフェノキシカルボニル基からなる群の1種が挙げられる。炭素数1~20のアルコキシ基は、例えば、メトキシ基、エトキシ基のいずれかが挙げられる。炭素数6~20のアリールオキシ基は、例えば、フェノキシ基、4-メチルフェノキシのいずれかが挙げられる。炭素数1~20のアルキルアミノ基は、例えば、メチルアミノ基、エチルアミノ基、n-プロピルアミノ基からなる群の1種が挙げられる。高溶解性及び高耐熱性のため、炭素数2~20のアルキルオキシカルボニル基であることが好ましい。
pは20~5,000の整数を示し、よりキャリア移動度の大きい有機薄膜トランジスタを得るのに好適であるため、好ましくは40~2,000である。qは0~2の整数を示し、好ましくは1である。rは0~2の整数を示し、好ましくは0または1である。さらに好ましくは0である。
実線と点線からなる結合は単結合又は2重結合を示し、熱的安定性のため、好ましくは単結合である。
【0086】
本発明でポリマーバインダーとして用いられるポリスルホン類はポリスルホン構造を有していれば特に制限がなく、より具体的には下記ポリスルホン1~5で示されるポリスルホン類が挙げられる。
【0087】
【化14】
(ここで、置換基R17~R20は、それぞれ独立して、炭素数1~20のアルキル基を示し、sは10~20,000の整数を示す。)
置換基R17~R20における炭素数1~20のアルキル基は、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、イソヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ドデシル基、n-テトラデシル基、n-オクタデシル基、2-エチルヘキシル基、3-エチルヘプチル基、3-エチルデシル基、2-ヘキシルデシル基等の直鎖又は分岐アルキル基からなる群の少なくとも1種が挙げられる。
sは10~20,000の整数を示し、好ましくは10~10,000の整数である。
【0088】
本発明でポリマーバインダーとして用いられるアクリロニトリル-スチレン共重合体は、アクリロニトリルとスチレンの任意の比率の共重合体であり、良好な電気特性を示し、バイアスストレスをかけた時の閾値電圧の変化がより小さいものになるなど信頼性が向上することから、アクリロニトリルとスチレン重量比で10:90~50:50の比率であることが好ましく、20:80~40:60であることがさらに好ましい。
【0089】
本発明でポリマーバインダーとして用いられるメチルメタクリレート-スチレン共重合体は、メチルメタクリレートとスチレンの任意の比率の共重合体であり、良好な電気特性を示し、バイアスストレスをかけた時の閾値電圧の変化がより小さいものになるなど信頼性が向上することから、メチルメタクリレートとスチレンのモル比で1:99~90:10であることが好ましく、1:99~70:30であることがさらに好ましい。
【0090】
本発明でポリマーバインダーとして用いられるポリマーは、表面処理剤により表面エネルギーを調整したものを用いることができる。表面処理剤としては、シランカップリング剤を用いることができ、その具体例としては、例えば、1,1,1,3,3,3-ヘキサメチルジシラザン、フェニルトリメトキシシラン、オクチルトリクロロシラン、β-フェネチルトリクロロシラン、β-フェネチルトリメトキシシランからなる群の少なくとも1種を挙げることができる。なお、本発明で用いるポリマーは、1種類のポリマーを単独で使用、または2種類以上のポリマーの混合物として使用することが可能である。更に、異なる分子量のポリマーを混合して使用することも可能である。
【0091】
本発明の有機半導体層形成用溶液を用いて有機半導体層を形成する際の塗布方法としては、有機半導体層を形成可能な方法であれば特に制限はなく、例えば、スピンコート、ドロップキャスト、ディップコート、キャストコート等の簡易塗工法;ディスペンサー、インクジェット、スリットコート、ブレードコート、フレキソ印刷、スクリーン印刷、グラビア印刷、オフセット印刷からなる群の少なくとも1種の印刷法を挙げることができ、中でも容易に効率よく有機半導体層とすることが可能となることから、スピンコート、ドロップキャスト、インクジェットからなる群の少なくとも1種であることが好ましい。
【0092】
本発明の有機半導体層形成用溶液を塗布後、溶媒を乾燥除去することにより、該有機半導体層形成用溶液を用いてなる有機半導体層を形成することが可能である。
【0093】
塗布した有機半導体層から溶媒を乾燥除去する際、乾燥する条件に特に制限はなく、例えば、常圧下、又は減圧下で溶媒の乾燥除去を行うことが可能である。
【0094】
塗布した有機半導体層から有機溶媒を乾燥除去する温度に特に制限はないが効率よく塗布した有機半導体層から有機溶媒を乾燥除去することができ、有機半導体層を形成することが可能であるため、10~150℃の温度範囲で行うことが好ましい。
【0095】
塗布した有機半導体層から有機溶媒を乾燥除去する際、除去する有機溶媒の気化速度を調節することで、一般式(1)で示されるビフェニレン誘導体体の結晶成長を制御することが可能である。
【0096】
本発明の有機半導体層形成用溶液により形成される有機半導体層の膜厚に制限はなく、良好なキャリア移動が得られることから、1nm~1μmの範囲であることが好ましく、10nm~300nmの範囲であることが更に好ましい。
【0097】
また、得られる有機半導体層は、有機半導体層を形成後、40~180℃でアニール処理を行ってもよい。
【0098】
本発明の有機半導体層形成用溶液より形成される有機半導体層は、該有機半導体層を含んでなる有機半導体デバイス、特に該有機半導体層を含んでなる有機薄膜トランジスタとして使用することが可能である。
【0099】
有機薄膜トランジスタは、基板上に、ソース電極及びドレイン電極を付設した有機半導体層とゲート電極とを絶縁層を介し積層することにより得ることができ、該有機半導体層に本発明の有機半導体層形成用溶液により形成した有機半導体層を用いることにより、優れた半導体・電気特性を発現する有機薄膜トランジスタとすることが可能である。
【0100】
図1に一般的な有機薄膜トランジスタの断面形状による構造を示す。ここで、(A)は、ボトムゲート-トップコンタクト型、(B)は、ボトムゲート-ボトムコンタクト型、(C)は、トップゲート-トップコンタクト型、(D)は、トップゲート-ボトムコンタクト型の有機薄膜トランジスタであり、1は有機半導体層、2は基板、3はゲート電極、4はゲート絶縁層、5はソース電極、6はドレイン電極を示し、本発明の有機半導体層形成用溶液より形成される有機半導体層は、いずれの有機薄膜トランジスタにも適用することが可能である。
【0101】
本発明に係る基板としては特に制限はなく、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリメチルメタクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、環状ポリオレフィン、フッ素化環状ポリオレフィン、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリビニルフェノール、ポリビニルアルコール、ポリ(ジイソプロピルフマレート)、ポリ(ジエチルフマレート)、ポリ(ジイソプロピルマレエート)、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、セルローストリアセテート等のプラスチック基板;ガラス、石英、酸化アルミニウム、シリコン、ハイドープシリコン、酸化シリコン、二酸化タンタル、五酸化タンタル、インジウム錫酸化物等の無機材料基板;金、銅、クロム、チタン、アルミニウム等の金属基板等からなる群の少なくとも1種を挙げることができる。なお、ハイドープシリコンを基板に用いた場合、その基板はゲート電極を兼ねることができる。
【0102】
本発明に係るゲート電極としては特に制限はなく、例えば、アルミニウム、金、銀、銅、ハイドープシリコン、スズ酸化物、酸化インジウム、インジウムスズ酸化物、クロム、チタン、タンタル、グラフェン、カーボンナノチューブ等の無機材料;ドープされた導電性高分子(例えばPEDOT-PSS)等の有機材料からなる群の少なくとも1種を挙げることができる。
【0103】
また、上記の無機材料は、金属のナノ粒子インクとしても差し支えなく使用することができる。この場合の溶媒は、適度の分散性のため、水、メタノール、エタノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール等の極性溶媒;ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ドデカン、テトラデカン等の炭素数6~14の脂肪族炭化水素溶媒;トルエン、キシレン、メシチレン、エチルベンゼン、ペンチルベンゼン、ヘキシルベンゼン、オクチルベンゼン、シクロヘキシルベンゼン、テトラリン、インダン、アニソール、1,2-ジメトキシベンゼン、1,3-ジメトキシベンゼン、1,2-ジメチルアニソール、2,3-ジメチルアニソール、3,4-ジメチルアニソール等の炭素数7~14の芳香族炭化水素溶媒からなる群の少なくとも1種であることが好ましい。該ナノ粒子インクを塗布後、導電性向上のため、80℃~200℃の温度範囲でアニール処理することが好ましい。
【0104】
本発明に係るゲート絶縁層としては特に制限はなく、例えば、酸化シリコン、窒化シリコン、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化チタン、二酸化タンタル、五酸化タンタル、インジウム錫酸化物、酸化スズ、酸化バナジウム、チタン酸バリウム、チタン酸ビスマス等の無機材料;ポリメチルメタクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリイミド、ポリアミド酸ポリカーボネート、ポリビニルフェノール、ポリビニルアルコール、ポリ(ジイソプロピルフマレート)、ポリ(ジエチルフマレート)、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリけい皮酸エチル、ポリけい皮酸メチル、ポリクロトン酸エチル、ポリエーテルスルホン、ポリプロピレン-コ-1-ブテン、ポリイソブチレン、ポリプロピレン、ポリシクロペンタン、ポリシクロヘキサン、ポリシクロヘキサン-エチレン共重合体、ポリフッ素化シクロペンタン、ポリフッ素化シクロヘキサン、ポリフッ素化シクロヘキサン-エチレン共重合体、BCB樹脂(商品名:サイクロテン、ダウ・ケミカル社製)、Cytop(商標)、Teflon(商標)、パリレンC等のパリレン(商標)類のポリマー絶縁材料からなる群の少なくとも1種を挙げることができ、製法が簡便であることから、塗布法が適用できるポリマー絶縁材料(ポリマーゲート絶縁層)であることが好ましい。
【0105】
該ポリマー材料を溶解させるに用いる溶媒としては特に制限がなく、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ドデカン、テトラデカン等の炭素数6~14の脂肪族炭化水素溶媒;THF、1,2-ジメトキシエタン、ジオキサン等のエーテル系溶媒;エタノール、イソプロピルアルコール、1-ブタノール、2-ブタノール、2-エチルヘキサノール、テトラヒドロフルフリルアルコール等のアルコール系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジイソプロピルケトン、アセトフェノン等のケトン系溶媒;酢酸エチル、γ-ブチロラクトン、シクロヘキサノールアセテート、3-メトキシブチルアセテート、テトラヒドロフルフリルアセテート、テトラヒドロフルフリルプロピオネート等のエステル系溶媒;DMF、NMP等のアミド系溶媒;ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジアセテート、ジプロピレングリコールメチル-n-プロピルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテルアセテート、1,4-ブタンジオールジアセテート、1,3-ブチレングリコールジアセテート、1,6-ヘキサンジオールジアセテート、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート等のグリコール系溶媒;パーフルオロヘキサン、パーフルオロオクタン、2-(ペンタフルオロエチル)ヘキサン、3-(ペンタフルオロエチル)ヘプタン等のフッ素化溶媒等からなる群の少なくとも1種が挙げられる。
【0106】
該ポリマー絶縁材料の濃度は、例えば、20~40℃の温度において0.1~10.0重量%である。当該濃度において得られる絶縁層の膜厚に制限はなく、耐絶縁性の観点から、好ましくは100nm~1μm、さらに好ましくは150nm~900nmである。
【0107】
そして、これらのゲート絶縁層の表面は、例えば、オクタデシルトリクロロシラン、デシルトリクロロシラン、デシルトリメトキシシラン、オクチルトリクロロシラン、オクタデシルトリメトキシシラン、β-フェネチルトリクロロシラン、β-フェネチルトリメトキシシラン、フェニルトリクロロシラン、フェニルトリメトキシシラン等のシラン類;オクタデシルホスホン酸、デシルホスホン酸、オクチルホスホン酸等のホスホン酸類;ヘキサメチルジシラザン等のシリルアミン類で修飾処理したものからなる群の少なくとも1種であっても使用することができる。一般的にゲート絶縁層の表面処理を行うことにより、有機半導体材料の結晶粒径の増大及び分子配向の向上のため、キャリア移動度、電流オン・オフ比の向上、及び閾値電圧の低下という好ましい結果が得られる。
【0108】
本発明の有機薄膜トランジスタのソース電極及びドレイン電極の材料としては特に制限がなく、ゲート電極と同様の材料を用いることができ、ゲート電極の材料と同じであっても異なっていてもよく、異種材料を積層してもよい。また、キャリアの注入効率を上げるために、これらの電極材料に表面処理を実施することもできる。表面処理に用いる表明処理剤としては、例えば、ベンゼンチオール、ペンタフルオロベンゼンチオール、4-フルオロベンゼンチオール、4-メトキシベンゼンチオール等からなる群の少なくとも1種を挙げることができる。
【0109】
本発明の有機薄膜トランジスタは、速い動作性のため、キャリア移動度が、0.20cm/V・sec以上であることが好ましい。また、高いスイッチ特性のため、電流オン・オフ比が、1.0×10以上であることが好ましい。
【0110】
本発明の有機薄膜トランジスタは、電子ペーパー、有機ELディスプレイ、液晶ディスプレイ、ICタグ(RFIDタグ)、圧力センサー、バイオセンサー等のトランジスタの有機半導体層用途;有機ELディスプレイ材料;有機半導体レーザー材料;有機薄膜太陽電池材料;フォトニック結晶材料等の電子材料に利用することができ、一般式(1)で示されるビフェニレン誘導体が結晶性の薄膜となるため、有機薄膜トランジスタの半導体層用途として用いられることが好ましい。
【発明の効果】
【0111】
本発明の新規なビフェニレン誘導体は、高いキャリア移動度を与えると共に高耐熱性及び適当な溶解性を持っている。従って、塗布で優れた半導体特性を発現する有機薄膜トランジスタを提供することが可能となり、その効果は極めて高いものである。
【図面の簡単な説明】
【0112】
図1】;有機薄膜トランジスタの断面形状による構造を示す図である。
【実施例
【0113】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0114】
生成物の同定にはH NMRスペクトル、ガスクロマトグラフィー-マススペクトル(GCMS)、及び液体クロマトグラフィー-マススペクトル(LCMS)分析を用いた。
H NMRスペクトル分析>
装置;日本電子製、(商品名)Delta V5(400MHz)
測定温度;23℃(温度指定がない場合)
<ガスクロマトグラフィー-マススペクトル分析>
装置;パーキンエルマー製、(商品名)オートシステムXL(MS部;ターボマスゴールド)(合成例1、2、4、6)
装置;島津製作所製、(商品名)QP-2010 Ultra(合成例9、11)
カラム;J&Wサイエンティフィック社製、(商品名)DB-1,30m。
MSイオン化;電子衝突(EI)法(70エレクトロンボルト)
【0115】
反応の進行の確認等は薄層クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー(GC)、液体クロマトグラフィー(LC)分析を用いた。ビフェニレン誘導体の純度測定についても液体クロマトグラフィー分析を用いた実施した。
<薄層クロマトグラフィー分析>
メルク社の薄層クロマトグラフィー用PLCシリカゲル60F254 0.5mmを使用し、展開溶媒として、ヘキサン又は/及びトルエンを用いた。
<ガスクロマトグラフィー分析>
装置;島津製作所製、(商品名)GC2014
カラム;アジレント社製、(商品名)DB-1,30m
<液体クロマトグラフィー分析>
装置;東ソー製(コントローラー;PX-8020、ポンプ;CCPM-II、デガッサー;SD-8022)
カラム;東ソー製、(商品名)ODS-100V、5μm、4.6mm×250mm
カラム温度;33℃
溶離液;ジクロロメタン:アセトニトリル=2:8(容積比)
流速;1.0ml/分
検出器;UV(東ソー製、(商品名)UV-8020、波長;254nm)。
【0116】
ビフェニレン誘導体の融点測定はDSC(示差走査熱量計)を用いた。
<DSC測定>
装置;エスアイアイナノテクノロジー社製、型式;DSC6220
昇降温速度;10℃/min
走査範囲;-10℃~300℃
【0117】
合成例1(2,2’-ジブロモ-4,5’-ジフルオロビフェニルの合成)(A1工程)
窒素雰囲気下、100mlシュレンク反応容器に、1-ブロモ-4-フルオロ-2-ヨードベンゼン(東京化成工業)3.95g(13.1mmol)及びTHF(脱水グレード)15mlを添加した。この溶液を0℃に冷却し、エチルマグネシウムクロライド(シグマ-アルドリッチ、2.0M)のTHF溶液6.8ml(13.6mmol)を滴下した。この混合物を0℃で15分間熟成し、1-ブロモ-4-フルオロフェニル-2-マグネシウムクロライドを調製した。
一方、窒素雰囲気下、別の100mlシュレンク反応容器に、塩化亜鉛(和光純薬工業)2.42g(17.7mmol)及びTHF(脱水グレード)19mlを添加し、0℃に冷却した。この得られた白色微スラリー溶液中に、先に調製した1-ブロモ-4-フルオロフェニル-2-マグネシウムクロライド溶液をテフロン(登録商標)キャヌラーを用いて滴下し、さらにTHF(脱水グレード)2mlを用いて100mlシュレンク反応容器及びテフロン(登録商標)キャヌラーを洗浄しながら投入した。得られた混合物を室温まで徐々に昇温しながら攪拌した。生成した1-ブロモ-4-フルオロフェニル-2-亜鉛クロライドのスラリー液に、2-ブロモ-4-フルオロ-1-ヨードベンゼン(東京化成工業)3.18g(10.5mmol)及び触媒としてテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(東京化成工業)115mg(0.0995mmol、2-ブロモ-4-フルオロ-1-ヨードベンゼンに対し0.948モル%)を添加した。50℃で7時間反応を実施した後、容器を水冷し1M塩酸を添加することで反応を停止させた。トルエン及び食塩水を添加し、有機相を分相し、有機相を食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。減圧濃縮し、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製した(溶媒:ヘキサン)。2,2’-ジブロモ-4,5’-ジフルオロビフェニルの無色オイル3.48gを得た(収
率94%)。
MS m/z: 350(M+2、51%)、348(M、100%)、346(M-2、53)。
H NMR(CDCl):δ=7.62(dd,J=8.7Hz,5.4Hz,1H),7.43(dd,J=8.2Hz,2.3Hz,1H),7.27~7.19(m,1H),7.11(dt,J=8.2Hz,2.7Hz,1H),7.04~6.96(m,2H)。
【0118】
合成例2 (2,6-ジフルオロビフェニレンの合成)(B1工程)
窒素雰囲気下、100mlシュレンク反応容器に、合成例1で合成した2,2’-ジブロモ-4,5’-ジフルオロビフェニル3.30g(9.48mmol)及びTHF(脱水グレード)160mlを添加した。この混合物を-78℃に冷却し、n-ブチルリチウム(関東化学、1.6M)のヘキサン溶液12.5ml(20.0mmol)を滴下した。この混合物を-78℃で1時間熟成した。ここへ、-78℃下で、塩化銅(II)(和光純薬工業製)3.75g(27.9mmol)を投入した。得られた混合物を室温まで徐々に昇温しながら攪拌した。反応混合物に1M塩酸を添加後、トルエンを添加し分相した。有機相を食塩水で2回洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。有機相を減圧濃縮し、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製した(溶媒;ヘキサン)。2,6-ジフルオロビフェニレンの淡黄色固体1.48gを得た(収率91%)。
MS m/z: 188(M、100%)。
H NMR(CDCl):δ=6.56(dd,J=11Hz,4.0Hz,2H),6.42~6.35(m,4H)。
【0119】
合成例3 (2,6-ジフルオロ-1,5-ジヨードビフェニレンの合成)(C1工程)
窒素雰囲気下、300mlシュレンク反応容器に、ジイソプロピルアミン2.08mg(20.5mmol)及びTHF(脱水グレード)60mlを添加した。この混合物を-55℃に冷却し、n-ブチルリチウム(関東化学、1.6M)のヘキサン溶液12ml(19.2mmol)を滴下し、LDAを調製した。この混合物を-78℃に冷却し、ここへ、合成例2で合成した2,6-ジフルオロビフェニレン1.47g(7.81mmol)を少しずつ投入し、-78℃~-65℃で2時間攪拌した。得られた混合物を-78℃とし、ヨウ素5.02g(19.8mmol)及びTHF(脱水グレード)20mlからなる溶液を滴下した。得られた混合物を室温まで徐々に昇温しながら攪拌した。反応混合物0℃に冷却後、水及びトルエンを添加し、分相した。水相をトルエン抽出し、合わせた有機相を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し(溶媒;ヘキサン)、さらにヘキサン/トルエンから再結晶を行い、2,6-ジフルオロ-1,5-ジヨードビフェニレンの黄色結晶769mgを得た(収率22%)。GC分析より純度は98.9%であった。
H NMR(CDCl):δ=6.68(dd,J=7.3Hz,3.6Hz,2H),6.44(dd,J=9.6Hz,7.3Hz,2H)。
【0120】
合成例4 (2,6-ジフルオロ-1,5-ビス(トリメチルシリルエチニル)ビフェニレンの合成)(D1工程)
窒素雰囲気下、100mlシュレンク反応容器に、合成例3で合成した2,6-ジフルオロ-1,5-ジヨードビフェニレン752mg(1.71mmol)、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(和光純薬工業)24.7mg(0.0352mol)、ヨウ化銅(I)(和光純薬工業)14.5mg(0.0761mmol)、トルエン10ml、及びトリエチルアミン15mlを添加した。さらにトリメチルシリルアセチレン(東京化成)506mg(5.15mmol)を添加した。この混合物を25℃で3.5時間反応を実施した。得られた反応混合物にトルエン及び水を添加し、分相後、有機相を水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。有機相を減圧濃縮し、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製した(溶媒;ヘキサン)。2,6-ジフルオロ-1,5-ビス(トリメチルシリルエチニル)ビフェニレンの黄色固体641mgを得た(収率99%)。GC分析より純度は95.6%であった。
H NMR(CDCl):δ=6.60-6.57(q,J=4.1Hz,2H),6.46-6.41(dd,J=7.32Hz,2H),0.26(s,18H)。
【0121】
合成例5 (無置換ジチエノビフェニレンの合成(E1工程)
窒素雰囲気下、200mlナスフラスコに、合成例4で合成した2,6-ジフルオロ-1,5-ビス(トリメチルシリルエチニル)ビフェニレン458mg(1.20mmol)、硫化ナトリウム・9水和物(和光純薬工業)1.01g(4.19mmol)、及びDMSO(和光純薬工業)15mlを添加した。混合物を70℃に加熱し、5時間攪拌した。得られた反応混合物を0℃に冷却後、水及びジクロロメタンを添加した。分相後、有機相を水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。有機相を減圧濃縮し、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し(溶媒;ヘキサン/ジクロロメタン)、黄色固体161mgを得た(収率51%)。LC分析より純度は83.5%であった。
MS m/z: 264(M、100%)
H NMR(CDCl):δ=7.30(d,J=6.0Hz,2H),7.18(d,J=7.8Hz,2H),6.94(d,J=5.5Hz,2H),6.65(d,J=7.3Hz,2H)。
【0122】
合成例6 (2,7-ジブロモジチエノビフェニレンの合成)(F1工程)
窒素雰囲気下、100mlシュレンク反応容器に、合成例5で合成した無置換ジチエノビフェニレン160mg(0.61mmol)及びTHF(脱水グレード)20mlを添加した。ここへ、-83℃下、n-ブチルリチウム(関東化学、1.6M)のヘキサン溶液1.5ml(2.40mmol)を投入し、25℃で15分撹拌した後、再度-78℃に冷却した。ここへジブロモテトラクロロエタン852mg(2.61mmol)及びTHF(脱水グレード)5mlからなる溶液を滴下した。5.5時間攪拌後、水及びトルエンを添加し、分相した。有機相を水で2回洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧濃縮した。得られた残渣をメタノール、ヘキサンで洗浄し、2,7-ジブロモジチエノビフェニレンの黄色固体164mgを得た(収率64%)。
H NMR(CDCl):δ=7.02(dd,J=7.32Hz,0.92Hz,2H),6.96(d,J=0.88Hz,2H),6.59(d,J=7.32Hz,2H)。
【0123】
実施例1 (ビフェニレン誘導体(1-1a、R=4-オクチルチエニル-2―基)化合物1の合成)(G1工程)
窒素雰囲気下、50mlシュレンク反応容器に、合成例6で合成した2,7-ジブロモジチエノビフェニレン55mg(0.13mmol)、DMF3mL、0.5M 塩化リチウムのTHF溶液0.8mL(0.40mmol)、ジャーナル オブ アメリカン ケミカル ソサイエティ1998,120(30)、7643に記載の方法をもとに合成した2-トリメチルスタニル-4-n-オクチルチオフェン127mg、および触媒としてテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(東京化成工業)11.7mg(0.01mmol)を添加し、100℃で3時間撹拌した。氷冷下、1M フッ化カリウム水溶液を添加し、終夜撹拌した。反応液を吸引濾過し、残渣を水、メタノールで洗浄した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製した(溶媒;ヘキサン/トルエン=10/0~10/5)。ビフェニレン誘導体(1-1a、化合物1)の黄色固体50mgを得た(収率59%)。
H NMR(CDCl3):δ=7.11(d,J=1.40Hz,2H),7.08(dd,J=3.90、0.92Hz,2H),6.98(d,J=0.92Hz,2H),6.90(d,J=1.36Hz,2H),6.63(d,J=7.32Hz,2H),2.60(t,J=7.76Hz,4H),1.68-1.62(m,4H),1.37-1.26(m,20H),0.89(t,J=6.84Hz,6H)。
【0124】
合成例7 (2-ブロモ-1-フルオロ-3-ヨードベンゼンの合成)
窒素雰囲気下、500mlシュレンク反応容器に、ジイソプロピルアミン5.76g(56.9mmol)及びTHF(脱水グレード)115.0mlを添加した。この溶液を-50℃に冷却し、n-ブチルリチウム(東京化成工業、1.6M)のヘキサン溶液34.0ml(54.4mmol)を滴下し、LDAを調製した。この混合物を-78℃に冷却し、1-フルオロ-3-ヨードベンゼン(東京化成工業)11.5g(51.8mmol)を添加し、-78℃で2時間保持した。ここへ、-78℃下、テトラブロモメタン(東京化成工業)34.4g(103.6mmol)をTHF(脱水グレード)160.0mlに溶解した溶液を滴下し、室温まで徐々に昇温した。得られた反応混合物に水及びトルエンを添加し、分相した。有機相を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し(溶媒:ヘキサン)。メタノール(和光純薬工業)3.0gを加え、50℃に昇温して再結晶することで2-ブロモ-1-フルオロ-3-ヨードベンゼンの白色固体7.43gを得た(収率43.3%)。
MS m/z: 302(M+2、75%)、300(M、78%)、175(M+2-I、38%)、173(M-I、39%)、94(M-BrI、100%)。
H NMR(CDCl):δ=7.68~7.64(m,1H),7.12~7.08(m,1H),7.05~7.00(m,1H)
【0125】
合成例8 (2,2’-ジブロモ-3,6’-ジフルオロビフェニルの合成)(A2工程)
窒素雰囲気下、200mlシュレンク反応容器に、1-ブロモ-3-フルオロ-2-ヨードベンゼン(東京化成工業)4.89g(16.3mmol)及びTHF(脱水グレード)50.0mlを添加した。この溶液を0℃に冷却し、エチルマグネシウムクロライド(シグマ-アルドリッチ、2.0M)のTHF溶液8.4ml(19.8mmol)を滴下した。この混合物を0℃で20分間熟成し、1-ブロモ-3-フルオロフェニル-2-マグネシウムクロライドを調製した。
一方、窒素雰囲気下、別の300mlシュレンク反応容器に、塩化亜鉛(和光純薬工業)3.28g(24.1mmol)及びTHF(脱水グレード)30mlを添加し、0℃に冷却した。この得られた白色微スラリー溶液中に、先に調製した1-ブロモ-3-フルオロフェニル-2-マグネシウムクロライド溶液をテフロン(登録商標)キャヌラーを用いて滴下し、さらにTHF(脱水グレード)2mlを用いて100mlシュレンク反応容器及びテフロン(登録商標)キャヌラーを洗浄しながら投入した。得られた混合物を室温まで徐々に昇温しながら攪拌した。生成した1-ブロモ-3-フルオロフェニル-2-亜鉛クロライドのスラリー液に、合成例9で合成した2-ブロモ-1-フルオロ-3-ヨードベンゼン3.51g(11.7mmol)及び触媒としてテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(東京化成工業)1.40g(1.2mmol、2-ブロモ-1-フルオロ-3-ヨードベンゼンに対し10モル%)を添加した。60℃で3時間反応を実施した後、容器を水冷し1M塩酸を添加することで反応を停止させた。トルエンを添加し、有機相を分相し、有機相を無水硫酸ナトリウムで乾燥した。減圧濃縮し、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製した(溶媒:ヘキサン)。2,2’-ジブロモ-3,6’-ジフルオロビフェニルの無色固体2.90gを得た(収率71.3%)。
H NMR(CDCl):δ=7.50(d,J=8.2Hz,1H),7.42~7.36(m,1H),7.33~7.26(m,1H),7.23~7.18(m,1H),7.17~7.12(m,1H),7.05~6.96(d,J=7.3Hz,1H)。
【0126】
合成例9 (1,5-ジフルオロビフェニレンの合成)(B2工程)
窒素雰囲気下、100mlシュレンク反応容器に、合成例8で合成した2,2’-ジブロモ-3,6’-ジフルオロビフェニル395.5mg(1.1mmol)及びTHF(脱水グレード)20mlを添加した。この混合物を-78℃に冷却し、n-ブチルリチウム(関東化学、1.6M)のヘキサン溶液2.9ml(4.6mmol)を滴下した。この混合物を-78℃で1時間熟成した後、-40℃に10分かけて昇温し1時間熟成させた。ここへ、N-フルオロベンゼンスルホンイミド(東京化成工業)1.50g(4.8mmol)を投入した。得られた混合物を室温まで徐々に昇温しながら攪拌した。反応混合物に1M塩酸を添加後、トルエンを添加し分相した。有機相を無水硫酸ナトリウムで乾燥した。有機相を減圧濃縮し、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製した(溶媒;ヘキサン)。1,5-ジフルオロビフェニレンの淡黄色固体130.0mgを得た(収率51.7%)。
MS m/z: 188(M、100%)、168(M-HF、15%)94(M-CF、15%)。
H NMR(CDCl):δ=6.80(ddd,2H)δ=6.56~6.50(m,4H)。
【0127】
合成例10 (ビフェニレン-1,5-ビス(チオアセトアルデヒドジメチルアセタール)の合成(C2工程)
窒素雰囲気下、100mlシュレンク反応容器に、合成例9で合成した1,5-ジフルオロビフェニレン57.6mg(0.31mmol)、硫化ナトリウム・9水和物(和光純薬工業)398.0mg(1.65mmol)、及びNMP(和光純薬工業)4mlを添加した。混合物を110℃で、6時間攪拌した。得られた反応混合物に2-ブロモアセトアルデヒドジメチルアセタール(東京化成工業)578.2mg(3.42mmol)を添加し、100℃で、3時間加熱攪拌した。得られた反応混合物を室温に冷却後、水及びトルエンを添加した。分相後、有機相を無水硫酸ナトリウムで乾燥した。有機相を減圧濃縮し、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製した(溶媒;ヘキサン/酢酸エチル=10/1~10/2)。さらに低沸分を減圧除去し、ビフェニレン-1,5-ビス(チオアセトアルデヒドジメチルアセタール)の黄色固体65.4mgを得た(収率64.7%)。
H NMR(CDCl):δ=6.70(d,J=5.5Hz,2H),6.69(d,J=1.4Hz,2H),6.54(dd,J=5.5Hz,1.4Hz,2H),4.53(t,J=5.9Hz,2H),3.38(s,12H),3.10(d,J=5.9,Hz,4H)。
【0128】
合成例11 (無置換ジチエノビフェニレンの合成)(D2工程)
窒素雰囲気下、50mlシュレンク反応容器に、合成例10で合成したビフェニレン-1,5-ビス(チオアセトアルデヒドジメチルアセタール)57.7mg(0.15mmol)、ポリリン酸(和光純薬工業)109.4mg、及びクロロベンゼン(和光純薬工業)4mlを添加した。混合物を130℃で、5時間攪拌した。得られた反応混合物を室温に冷却後、水及びトルエンを添加した。分相後、有機相を水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。有機相を減圧濃縮し、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製した(溶媒;ヘキサン/酢酸エチル=10/1~10/2)、ジチエノビフェニレン誘導体の黄色固体22.5mgを得た(収率55%)。
【0129】
合成例12 (2,7-ジブロモジチエノビフェニレンの合成)(F2工程)
窒素雰囲気下、50mlシュレンク反応容器に、合成例11で合成した無置換ジチエノビフェニレン22mg(0.083mmol)及びTHF(脱水グレード)3mlを添加した。ここへ、-83℃下、n-ブチルリチウム(関東化学、1.6M)のヘキサン溶液0.21ml(0.33mmol)を投入し、25℃で15分撹拌した後、再度-78℃に冷却した。ここへジブロモテトラクロロエタン117mg(0.36mmol)及びTHF(脱水グレード)2mlからなる溶液を滴下した。5.5時間攪拌後、水及びトルエンを添加し、分相した。有機相を水で2回洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧濃縮した。得られた残渣をメタノール、ヘキサンで洗浄し、2,7-ジブロモジチエノビフェニレンの黄色固体21mgを得た(収率60%)。
H NMR(CDCl):δ=7.07(d,J=7.5Hz,2H),7.05(s,2H),6.64(d,J=7.5Hz,2H)。
【0130】
実施例2 (ビフェニレン誘導体(1-2a、R=4-オクチルチエニル-2―基、化合物2)の合成)(G2工程)
窒素雰囲気下、50mlシュレンク反応容器に、合成例12で合成した2,7-ジブロモジチエノビフェニレン21mg(0.050mmol)、DMF3mL、0.5M 塩化リチウムのTHF溶液0.4mL(0.20mmol)、実施例1と同様の方法にて合成した2-トリメチルスタニル-4-n-オクチルチオフェン120mg、および触媒としてテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(東京化成工業)5.0mg(0.005mmol)を添加し、100℃で3時間撹拌した。氷冷下、1M フッ化カリウム水溶液を添加し、終夜撹拌した。反応液を吸引濾過し、残渣を水、メタノールで洗浄した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製した(溶媒;ヘキサン/トルエン=10/0~10/5)。ビフェニレン誘導体(1-2a、化合物2)の黄色固体20mgを得た(収率61%)。
【0131】
実施例3 (有機半導体層形成用溶液の作製)
空気下、10mlサンプル管に、実施例1、2で合成した化合物1、2各0.87mg及びトルエン(和光純薬工業、ピュアーグレード)434mgを添加し、50℃に加熱溶解後、室温下(25℃)に放冷し、有機半導体層形成用溶液を調製した。25℃で10時間後も溶液状態を維持しており(化合物の濃度は0.20重量%)、ドロップキャスト及びインクジェットによる製膜に適した化合物であることを確認した。
【0132】
実施例4 (有機半導体層及び有機薄膜トランジスタの作製)
実施例3で得られた有機半導体層形成用溶液を用い、トップゲート-ボトムコンタクト型のp型有機薄膜トランジスタを作製した。各構成部材の材質及び成膜方法を表1に示した。
【0133】
【表1】
【0134】
まずは、実施例3で得られた有機半導体層形成用溶液をシリンジに充填し、0.2μmのフィルターを通した溶液を、空気下、ドロップキャストした。室温下(25℃)で自然乾燥して薄膜を作製した。
該有機半導体層にチャネル長50μm、チャネル幅500μmのシャドウマスクを置き、金を真空蒸着することでソース及びドレイン電極を形成し、ボトムゲート-トップコンタクト型のp型有機薄膜トランジスタを作製した。
作製した有機薄膜トランジスタの電気物性を半導体パラメーターアナライザー(ケースレー4200SCS)を用いて、ドレイン電圧(Vd=-50V)で、ゲート電圧(Vg)を+5~-70Vまで1V刻みで走査し、伝達特性の評価を行った。さらにこの有機薄膜トランジスタを130℃で15分間アニール処理した後の電気物性を測定した。電気物性結果を表2に示した。熱処理による性能の低下はほとんど見られなかった。
【0135】
【表2】
【0136】
比較例1
(有機半導体層形成用溶液の作製)
空気下、10mlサンプル管に、2,7-ジオクチルベンゾチエノベンゾチオフェン(シグマ-アルドリッチ)を用い、実施例3と同様の方法により、有機半導体層形成用溶液を調製した。25℃で10時間後も溶液状態を維持しており(0.20重量%)、ドロップキャスト及びインクジェットによる製膜に適した化合物であることを確認した。
【0137】
(有機半導体層及び有機薄膜トランジスタの作製)
該有機半導体層形成用溶液を用い、実施例4と同様の方法により、膜厚60nmの2,7-ジオクチルベンゾチエノベンゾチオフェンの薄膜を作製し、ボトムゲート-トップコンタクト型のp型有機薄膜トランジスタを作製した。
該トランジスタ素子の伝達特性の評価を行った結果、正孔のキャリア移動度は0.01cm/V・sec、電流オン・オフ比は3.0×10であった。
さらにこの有機薄膜トランジスタを150℃で15分間アニール処理した後の電気物性を測定した。その結果、トランジスタ動作は得られず、熱処理による著しい性能の低下が見られた。顕微鏡観察から有機半導体層が加熱により破壊されていることが確認された。
【0138】
比較例2
(有機半導体層及び有機薄膜トランジスタの作製)
比較例1で作製した有機薄膜トランジスタを130℃で15分間アニール処理した以外は、比較例1と同様の操作を繰り返した。その結果、トランジスタ動作は得られず、熱処理による著しい性能の低下が見られた。顕微鏡観察から有機半導体層が加熱により破壊されていることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0139】
本発明のビフェニレン誘導体は、高いキャリア移動度を与えると共に、耐熱性及び溶解性に優れることから有機薄膜トランジスタに代表される半導体デバイス材料としての適用が期待できる。
【符号の説明】
【0140】
(A):ボトムゲート-トップコンタクト型有機薄膜トランジスタ
(B):ボトムゲート-ボトムコンタクト型有機薄膜トランジスタ
(C):トップゲート-トップコンタクト型有機薄膜トランジスタ
(D):トップゲート-ボトムコンタクト型有機薄膜トランジスタ
1:有機半導体層
2:基板
3:ゲート電極
4:ゲート絶縁層
5:ソース電極
6:ドレイン電極
図1