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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-27
(45)【発行日】2024-06-04
(54)【発明の名称】坩堝および単結晶製造装置
(51)【国際特許分類】
   C30B 23/02 20060101AFI20240528BHJP
   C30B 29/36 20060101ALI20240528BHJP
【FI】
C30B23/02
C30B29/36 A
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019236177
(22)【出願日】2019-12-26
(65)【公開番号】P2021104909
(43)【公開日】2021-07-26
【審査請求日】2022-10-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100137017
【弁理士】
【氏名又は名称】眞島 竜一郎
(72)【発明者】
【氏名】石田 虎太郎
【審査官】宮崎 園子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-197173(JP,A)
【文献】特開2015-086115(JP,A)
【文献】特開2011-144082(JP,A)
【文献】特開2017-105676(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 23/02
C30B 29/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に成長空間を有する本体部と、
前記本体部の上部の外側に配置された温度均熱化部材と、を有し、
前記温度均熱化部材は、径方向中心における前記上部からの高さが最も高く、端部における前記上部からの高さが最も低
前記温度均熱化部材は、前記上部からの高さが階段状に変化する階段部を有する、坩堝。
【請求項2】
内部に成長空間を有する本体部と、
前記本体部の上部の外側に配置された温度均熱化部材と、を有し、
前記温度均熱化部材は、径方向中心における前記上部からの高さが最も高く、端部における前記上部からの高さが最も低
前記温度均熱化部材は、表面が金属炭化物で被覆された黒鉛からなる、坩堝。
【請求項3】
内部に成長空間を有する本体部と、
前記本体部の上部の外側に配置された温度均熱化部材と、を有し、
前記温度均熱化部材は、径方向中心における前記上部からの高さが最も高く、端部における前記上部からの高さが最も低
前記温度均熱化部材は、前記上部と対向する天井部を有し、
前記温度均熱化部材の高さ方向の断面形状は、前記天井部の内側に空隙が形成された形状である、坩堝。
【請求項4】
前記温度均熱化部材は、前記上部からの高さが、前記端部から前記径方向中心にかけて徐々に変化する、請求項2または3に記載の坩堝。
【請求項5】
前記温度均熱化部材は、前記上部からの高さが階段状に変化する階段部を有する、請求項2に記載の坩堝。
【請求項6】
前記温度均熱化部材は、前記上部からの高さが連続的に変化するテーパー部を有する、請求項またはに記載の坩堝。
【請求項7】
前記温度均熱化部材の前記径方向中心における高さは、上方からの平面視における前記温度均熱化部材の中心から前記端部までの距離の1/5以上である、請求項1~6のいずれか一項に記載の坩堝。
【請求項8】
前記温度均熱化部材の内側は、黒鉛で埋めつくされている、請求項1に記載の坩堝。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載された坩堝と、
前記坩堝を覆う断熱材と、
前記断熱材を囲む加熱手段と、を有し、
前記断熱材は、前記温度均熱化部材の上方に上面を有し、
前記上面は、径方向中心に貫通孔が形成されている、単結晶製造装置。
【請求項10】
前記貫通孔を介して前記坩堝の温度を測定する、請求項9に記載の単結晶製造装置。
【請求項11】
前記貫通孔は、内径が5mm以上である、請求項9または10に記載の単結晶製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、坩堝および単結晶製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化珪素(SiC)は、シリコン(Si)に比べて絶縁破壊電界が1桁大きく、バンドギャップが3倍大きく、熱伝導率が3倍程度高い等の特性を有する。炭化珪素はこれらの特性を有することから、パワーデバイス、高周波デバイス、高温動作デバイス等への応用が期待されている。
【0003】
炭化珪素には、化学量論的には同じ組成でありながら、原子の積層の周期が(C軸方向にのみ)異なる多くの結晶多形(ポリタイプ)が存在する。代表的なポリタイプは、3C、4H、6Hなどであるが、特に4H-SiC単結晶はバンドギャップと飽和電子速度の特性が良いことなどから、光デバイスや電子デバイスの中心的な基板材料となっている。
【0004】
SiC単結晶を製造する方法の一つとして、昇華法が広く知られている。昇華法は、黒鉛製の坩堝内に配置した台座にSiC単結晶からなる種結晶を配置し、坩堝を加熱することで坩堝内の原料粉末から昇華した昇華ガスを種結晶に供給し、種結晶をより大きなSiC単結晶へ成長させる方法である。昇華法では、高品質なSiC単結晶を、効率的に結晶成長させることが求められている。
【0005】
例えば、特許文献1には、貫通孔を有する断熱材で坩堝を覆い、貫通孔を介してSiC原料の温度を断熱材の外側から測定するSiC単結晶製造装置が開示されている。特許文献1には、SiC原料の温度を実際に測定しながらSiC単結晶を成長することで、高品質なSiC単結晶を得られると記載されている。
【0006】
また、特許文献2には、蓋部を有する坩堝を、蓋部側に抜熱孔を有する断熱材で覆い、蓋部に装着した種結晶上にSiC単結晶を成長させる、SiC単結晶製造方法が開示されている。特許文献2には、抜熱孔を有する部材が蓋部と離間する方向に移動することで歩留りに優れ、高品質なSiC単結晶を製造することが可能であると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2018-39715号公報
【文献】特開2011-219287号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1及び2に記載の方法では、貫通孔や抜熱孔を形成することにより坩堝内に温度勾配が発生してしまう。特に特許文献2に記載の方法では、成長するSiC単結晶の結晶内部の径方向温度勾配が大きい。SiC単結晶の結晶内部の径方向温度勾配が大きいと、基底面転位に代表される欠陥密度が高くなる。また、その様なSiC単結晶をスライスしたSiCウェハに反りを誘発する。この現象は、製造するSiC単結晶が大口径の場合や長尺の場合に顕著である。
【0009】
本発明は、上記問題を鑑みてなされたものであり、所定の条件でSiC単結晶を製造した際に、結晶内部の径方向温度勾配を抑制することができる坩堝および単結晶製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を提供する。
【0011】
(1)本発明の第一の態様に係る坩堝は、内部に成長空間を有する本体部と、前記本体部の上部の外側に配置された温度均熱化部材と、を有し、前記温度均熱化部材は、径方向中心における前記上部からの高さが、端部における前記上部からの高さよりも高い。
【0012】
(2)上記態様に係る坩堝において、前記温度均熱化部材は、前記上部からの高さが、前記端部から径方向中心にかけて徐々に変化してもよい。
【0013】
(3)上記態様に係る坩堝において、前記温度均熱化部材は、前記上部からの高さが階段状に変化する階段部を有してもよい。
【0014】
(4)上記態様に係る坩堝において、前記温度均熱化部材は、前記上部からの高さが連続的に変化するテーパー部を有してもよい。
【0015】
(5)上記態様に係る坩堝において、前記温度均熱化部材は、表面が金属炭化物で被覆された黒鉛からなっていてもよい。
【0016】
(6)上記態様に係る坩堝において、前記温度均熱化部材の前記径方向中心における前記上部からの高さが、上方からの平面視における前記温度均熱化部材の中心から前記端部までの距離の1/5以上であってもよい。
【0017】
(7)上記態様に係る坩堝において、前記温度均熱化部材は、前記上部と対向する天井部を有し、前記温度均熱化部材の高さ方向の断面形状は、前記天井部の内側に空隙が形成された形状であってもよい。
【0018】
(8)上記態様に係る坩堝において、前記温度均熱化部材の内部は、黒鉛で埋め尽くされていてもよい。
【0019】
(9)本発明の第2の態様に係る単結晶製造装置は、上記態様に係る坩堝と、前記坩堝を覆う断熱材と、前記断熱材を囲む加熱手段と、を有し、前記断熱材は、前記温度均熱化部材の上方に上面を有し、前記上面は、径方向中心に貫通孔が形成されている。
【0020】
(10)上記態様に係る単結晶製造装置は、前記貫通孔を介して前記坩堝の温度を測定してもよい。
【0021】
(11)上記態様に係る単結晶製造装置において、前記貫通孔は、内径が5mm以上であってもよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明の単結晶製造装置によれば、所定の条件でSiC単結晶を製造した際に、結晶内部の径方向温度勾配を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の一実施形態に係る単結晶製造装置の断面模式図である。
図2】本発明の一実施形態に係る単結晶製造装置に用いられる温度均熱化部材の断面模式図の一例である。
図3】本発明の一実施形態に係る単結晶製造装置に用いられる温度均熱化部材の断面模式図の一例である。
図4】本発明の一実施形態にかかる単結晶製造装置の本体部の上部近傍の温度分布についてシミュレーションをした結果を示す図である。
図5】本発明の一実施形態にかかる単結晶製造装置の本体部の上部近傍の温度分布についてシミュレーションをした結果を示す図である。
図6】本発明の一実施形態にかかる単結晶製造装置の本体部の上部近傍の温度分布についてシミュレーションをした結果を示す図である。
図7】本発明の比較例にかかる単結晶製造装置の本体部の上部近傍の温度分布についてシミュレーションをした結果を示す図である。
図8】本発明の比較例にかかる単結晶製造装置の本体部の上部近傍の温度分布についてシミュレーションをした結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明について、図を適宜参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される材料、数、配置、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、本発明の効果を奏する範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0025】
[単結晶製造装置]
図1は、第1実施形態に係る単結晶製造装置100の構成を概略的に示した断面模式図である。単結晶製造装置100は、坩堝10と、坩堝10を覆う断熱材3と、断熱材3の周囲を囲む加熱手段4と、断熱材3の外部に配置された放射温度計5と、を有する。本実施形態に係る単結晶製造装置100は、加熱手段4により坩堝10を加熱し、昇華法により単結晶を成長する際に用いられる。図1では、単結晶製造装置100を用いてSiC単結晶Sを成長させる様子を示している。また、図1では理解を容易にするために、原料M、台座6、種結晶SD、成長中のSiC単結晶Sを同時に図示している。
【0026】
まず、方向について定義する。坩堝10内において原料Mから種結晶SDに向かう方向をz方向とする。z方向は、坩堝10の上下方向であり、種結晶SD側を上、原料M側を下とする。上下は必ずしも重力の方向と一致していなくてもよい。また、z方向に対して垂直で、坩堝10の中心から広がる方向を径方向とする。図1は、坩堝10の中心軸を通る任意の断面で切断した断面模式図である。
【0027】
<坩堝>
坩堝10は、任意の形状をした部材であるが、例えば、円柱形の部材である。坩堝10は、内部に成長空間Rを有する本体部2と本体部2の一面に、外側に向けて配置された温度均熱化部材1と、を有する。本体部2は、例えば、上部2aと下部2bとを有する。成長空間Rは、本体部に囲まれた空間のことをいう。上部2aと下部2bとは、それぞれさらに分割されていてもよい。上部2aと下部2bとは、原料Mが収容される側と種結晶SDが配置される側とに2つに分割された部分という意であって、坩堝10全体にそれぞれが占める割合は各部の機能を発揮できる限り、任意である。下部2bは、例えば、底部2baと側壁2bbとからなる。尚、本明細書では、上部2aと下部2bとは取り外し可能な例に限定されず、上部2aと下部2bとは一体となっていていてもよい。
【0028】
(本体部)
本体部2は、SiC単結晶Sを成長する際の高温に耐えることができる材料からなる。本体部2は、例えば、黒鉛、表面が高融点金属または金属炭化物で被覆された黒鉛である。黒鉛は、昇華温度が3550℃と極めて高く、SiC単結晶Sの成長時の高温にも耐えることができる。金属炭化物は、例えば、Ta、Nb、Wのいずれかの炭化物である。本体部2は、例えば、対称性の観点から円柱形の部材である。
【0029】
下部2bには、SiC単結晶S成長用の原料Mが収容される。原料Mは、例えば、粉末状のSiCである。原料Mに用いられるSiCは、例えば、3C、2H、4H、6H,15Rのいずれかの結晶構造を含む結晶である。原料Mの粒径は、例えば2000μm以下である。
【0030】
上部2aは、例えば本体部2の蓋部である。上部2aには、例えば台座6が取り付けられる。台座6は、径方向中心が本体部2の径方向中心と一致するように設置されることが対称性の観点から好ましい。台座6は、種結晶SDを設置する部分である。台座6は、成長空間R内に位置する。台座6としては、種結晶SDを設置することのできる任意の材料を用いることができる。台座6は、高温において安定で、かつ不純物ガスの発生の少ない材料を用いることが好ましい。具体的には例えば、黒鉛(グラファイト)、SiC、およびSiCもしくはTaCにより被覆された黒鉛(グラファイト)等を用いることが好ましい。台座6の径方向における大きさは、成長させるSiC単結晶Sの大きさに合わせて、任意に選択することができる。例えば、種結晶SDと径方向における大きさが一致するように設定することができる。
【0031】
種結晶SDは、例えば台座6に取り付けられる。種結晶SDは、成長空間Rにおいて、原料Mに対してz方向の位置に収容される。すなわち、成長空間Rにおいて、種結晶SDと原料Mとは対向する。成長空間Rにおいて、原料Mから昇華したガスが種結晶SDの表面に再結晶化する。
【0032】
種結晶SDの径方向における大きさは、成長させるSiC単結晶Sの大きさに合わせて任意に選択することができる。本実施形態の効果を好適に得るために、種結晶SDの径方向における大きさは、4インチ以上であることが好ましく、6インチ以上であることがより好ましい。本実施形態に係る単結晶製造装置100は、6インチ以上のSiC単結晶Sを成長する際に好ましく用いることができる。
尚、本実施形態は、種結晶SDが台座6を介して上部2aに設置される例に限定されず、例えば種結晶SDは上部2aに直接設置されてもよい。種結晶SDは、径方向中心が台座6の径方向中心と一致するように配置されることが、対称性の観点から好ましい。種結晶SDとしては、例えばSiC単結晶が用いられる。
【0033】
(温度均熱化部材)
温度均熱化部材1は、成長するSiC単結晶Sの温度を均熱化する部材である。温度均熱化部材1は、径方向中心1Cにおける上部2aからの高さ(z方向の高さ)hcが端部1Eにおける上部2aからの高さheよりも高い。尚、温度均熱化部材1は、内部に黒鉛が埋め尽くされている。そのため、温度均熱化部材1において、上部2aからの高さは、温度均熱化部材1の厚さである。以下、温度均熱化部材1の厚さについての特徴は、温度均熱化部材1の上部2aからの高さの特徴と捉えてもよい。温度均熱化部材1は、端部1Eから径方向中心1Cへ向かうに従い、上部2aからの高さが徐々に変化することが好ましく、上部2aからの高さが連続的に変化するテーパー部1tを有することがより好ましい。すなわち、温度均熱化部材1は、上部2aからの高さが端部1Eから径方向中心1Cにかけて連続的に変化することが好ましい。すなわち、温度均熱化部材1は、断面視形状が三角形の部材であることが好ましい。
尚、図1では、径方向において、温度均熱化部材1の径方向中心1Cと端部1Eに対応する位置に補助線が示されている。
【0034】
温度均熱化部材1は、径方向における大きさ(半径)wを任意に選択することができる。例えば、本体部2の内径の1/4倍以上1倍以下とすることができ、3/8倍以上7/8倍以下とすることが好ましく、1/2倍以上3/4倍以下とすることがより好ましい。尚、径方向における大きさとは、径方向中心1Cと端部1Eとの径方向における距離のことをいう。温度均熱化部材1の半径wが台座6の径と同じであることが好ましい。温度均熱化部材1のz方向における大きさ(径方向中心1Cにおける高さhc)は、本体部2および断熱材3の大きさに合わせて任意に選択することができる。温度均熱化部材1の径方向中心1Cでの、z方向における大きさは、温度均熱化部材1の径方向中心1Cから端部1Eまでの径方向における距離の1/5倍以上であることが好ましく、3/10倍以上であることがより好ましく、2/5以上であることがさらに好ましい。すなわち、図1に示すようにθを定義すると、tanθ=(温度均熱化部材1の中心1Cにおける高さhc)/(温度均熱化部材1の半径w)が1/5以上であることが好ましく、3/10以上であることがより好ましく、2/5以上であることがさらに好ましい。尚、温度均熱化部材1のz方向における大きさは、設置する台座6の径方向における大きさの1/5倍以上であることが好ましく、3/10倍以上であることがより好ましい。
【0035】
温度均熱化部材1は、例えば、黒鉛や、SiC焼結体、表面が高融点金属の炭化物で被覆された黒鉛等を用いることができる。温度均熱化部材1は、内部が黒鉛で埋めつくされていてもよい。成長空間Rで昇華したガスが、本体部2の外部に流出し、デポなどを発生させる恐れがある。しかしながら、温度均熱化部材1は、表面が高融点金属で被覆された黒鉛であることでデポの発生を抑制することができる。すなわち、温度均熱化部材1は表面が高融点金属の炭化物で被覆された黒鉛が用いられることで、SiC単結晶S成長中も機能が低下しづらく、交換の頻度が少なくて済む。
温度均熱化部材1と本体部2とは分離可能な構成であってもよいし、一体の構成であってもよい。
【0036】
貫通孔が形成された断熱材を単結晶製造装置に用いる場合、貫通孔を介して熱が外部に放射されることで、径方向における坩堝の温度分布が不均一になる場合がある。例えば、断熱材の上面における径方向中心に貫通孔が形成されている場合、坩堝の径方向中心が端部よりも低温になる。温度均熱化部材1は、本体部2からの放熱を抑制することができる。特に、温度均熱化部材1は、高さhcが高さheより高いため、本体部2の径方向端部と比べて径方向中心からの放熱を抑制することができる。すなわち、上部2aにおける径方向温度勾配を抑制することができる。
【0037】
<断熱材>
断熱材3は、例えば、上面30と側面32と下面33とを有する。上面30は、坩堝10の上方にある。側面32は、坩堝10の側面を覆い、上面30と垂直な方向に配置されている。下面33は、側面32と垂直な方向に配置され、上面30と対向する。
【0038】
断熱材3は、坩堝を安定的に高温状態に維持するための部材である。断熱材3は、坩堝10を必要な程度に安定的に高温状態に維持するよう、断熱材は適宜、厚さや熱伝導率を調整した材料を用いることができ、例えば、炭素繊維製の材料、黒鉛(グラファイト)などを用いることができる。断熱材3の側面32および下面33は、坩堝10に密接して配置されることが好ましい。
【0039】
上面30は、本体部2の上部2aと離間して配置される。上面30と上部2aとの間には、温度均熱化部材1が配置されている。上面30の形状は、任意に選択することができる。上面30は、例えば、上部2aと平行である。
【0040】
上面30には貫通孔3Hが配置されている。貫通孔3Hは、上面30の径方向中心に形成されていることが好ましく、z方向から平面視して本体部2の径方向中心が重なるように配置されていることがより好ましい。また、z方向から平面視して、貫通孔3Hと温度均熱化部材と本体部2と台座6とSiC種結晶SDとの径方向中心が重なるように配置されていることがさらに好ましい。
【0041】
貫通孔3Hは、原料と種結晶との間にz方向の温度勾配を付けるために設けられる。そのため、貫通孔3Hのサイズは、目的の温度勾配を得るために決められる。しかし、貫通孔3Hの内径が小さすぎると、SiC単結晶Sの成長中にデポなどが発生する恐れがあり、z方向の温度勾配が変化してしまう。また、測温窓としての役割を十分に果たすことができない。そのため、貫通孔3Hの大きさは、例えば内径が5mm以上であることが好ましく、10mm以上であることがより好ましく、20mm以上であることがさらに好ましい。貫通孔3Hの大きさが当該範囲に設定されていることで、貫通孔3Hにデポが発生した場合でも、SiC単結晶Sを成長するのに十分な時間だけ坩堝10の温度の測定を続けることができる。貫通孔3Hの大きさが小さすぎると、坩堝10の温度を測定することができない場合や、デポの発生により閉塞してしまう場合がある。
【0042】
<加熱手段>
加熱手段4は、坩堝10の周囲を囲むように配置されている。加熱手段4としては例えば、高周波加熱コイルを用いることができる。この場合、コイルに高周波電流を流し、誘導加熱により坩堝10を発熱させる。
【0043】
<放射温度計>
放射温度計5は、z方向から平面視して貫通孔3Hと重なるように、例えば断熱材3の外側に配置される。放射温度計5は、当該位置に配置されることで、貫通孔3Hを介してSiC単結晶Sの温度を測定することができる。放射温度計5で観測する温度は、厳密には、温度均熱化部材1の温度であるが、上部2a側に近い位置に配置されているため、測定した温度を基にSiC単結晶Sの結晶成長面の温度を推定することができる。放射温度計5は、上部2aに近い位置に配置されることで、下部2bに近い位置に配置される場合よりも正確にSiC単結晶Sの温度を推定することができる。
【0044】
以下に、単結晶製造装置100の作用を説明する。
先ず、図1に示すように成長空間R内に原料Mを収容する。そして、成長空間Rの原料Mと対向する位置に、台座6を介して種結晶SDを設置する。例えば、台座6にカーボン接着剤を塗布し、その上に種結晶SDを配置した後、種結晶SDの上に錘を載せ、加熱しながらカーボン接着剤を硬化する。種結晶SDに加わる圧力は、例えば、5g/cmである。加熱温度は、例えば、200℃である。加熱時間は、例えば、30分以上である。また、種結晶SDは、カーボン接着剤を用いて上部2aに接着してもよい。
【0045】
次いで、加熱手段4によって、原料Mを加熱する。原料Mは、加熱されると昇華する。昇華した原料ガスは、種結晶SDに向い、SiC単結晶Sが成長する。貫通孔3Hが形成されているため、z方向に温度勾配が形成され、SiC単結晶の成長が促進される。しかし、上部2aでは、本体部2の径方向中心ほど断熱されづらいため、昇華法によるSiC単結晶Sの製造中、径方向における温度均熱性が下がる傾向にある。本体部2の上部2aの径方向における温度均熱性が低下すると、成長するSiC単結晶Sの径方向における温度均熱性が低下してしまう。すなわち、貫通孔3Hが形成されていると、成長するSiC単結晶Sが受ける熱応力が大きくなり、SiC単結晶Sの品質が低下する場合がある。
しかしながら、本実施形態のSiC単結晶製造装置100では、上部2aの上に温度均熱化部材1が形成されている。そのため、本体部2の径方向における温度勾配が抑制されるように上部2aから熱が放出される。従って、上部2aの径方向における温度均熱性及びSiC単結晶Sの結晶内部の径方向温度均熱性が向上し、成長するSiC単結晶Sの品質を向上することができる。
【0046】
坩堝10は断熱材3によって断熱される。SiC単結晶Sの温度は、放射温度計5によって測定される。放射温度計5で測定されたSiC単結晶Sの温度を基に、加熱手段4の出力は適宜調整されてもよい。
【0047】
図2は、本実施形態に係る坩堝10および単結晶製造装置100に用いられる温度均熱化部材の変形例の一例を示す。本実施形態にかかる温度均熱化部材は、例えば、図2(a)に示すように温度均熱化部材21のうち周縁部21sが、径方向中心へ近づくに従い厚くなる構成であってもよい。周縁部21sは、例えば温度均熱化部材1の半径wの半分よりも外側の領域のことをいう。温度均熱化部材21は、端部21Eの近傍がテーパー部21tである。一方、径方向中心21Cの近傍は、温度均熱化部材の厚みが変化しない。尚、テーパー部21tの位置は、端部21Eの近傍に限定されず、径方向中心1Cの近傍や、径方向中心1Cと端部1Eとの中間の位置に形成されていてもよい。また、テーパー部21tの数は1つに限らず、複数であってもよい。
【0048】
また、図2(b)に示すように温度均熱化部材31のうち、z方向に露出する部分は、湾曲していてもよい。また、図2(c)に示すように、温度均熱化部材は、端部において厚みを有していてもよい。すなわち、温度均熱化部材41は、端部における厚みheが0でない。温度均熱化部材41は、径方向における端部41Eと径方向中心41Cとの間がテーパー部41tである。また、図2(d)に示すように、温度均熱化部材は階段状に厚みが変化する階段部を有する構成であってもよい。温度均熱化部材51が、階段状に厚みが変化する階段部51dを有する。階段部51dは、断面視形状が径方向における大きさの異なる矩形が重ねられた形状である。断面視形状が矩形である部分の数は、2つ以上である。階段部51dにおける段数およびそれぞれの矩形の厚さは任意に選択することができる。尚、階段部51dの段数は多い程、均等に熱を放出することができるため段数が多い程好ましい。尚、図2(a)~(d)に示す温度均熱化部材21、31、41、51において、厚さについての特徴は、上部2aからの高さの特徴と捉えてもよい。
【0049】
また、この他にも内部が空洞となっている温度均熱化部材であってもよい。図3(a)に示す温度均熱化部材61は、テーパー部61tと床部61bとを有する。温度均熱化部材61は、端部61Eと径方向中心61Cとの間がテーパー部61tである。テーパー部61tは、上部2aと対向する天井部である。床部61bは、上部2aと接する面である。温度均熱化部材61は、テーパー部61tと床部61bとで囲まれた内部が空洞C61の部材である。すなわち、温度均熱化部材61をz方向に切断した切断面において、温度均熱化部材61の形状は、テーパー部61tの内側に空隙が形成された形状である。テーパー部61tおよび床部61bの厚さは、例えば、1mm以上10mm以下にすることができ、2mm以上4mm以下にすることが好ましい。温度均熱化部材61は、例えば概形が円錐形の部材である。また、温度均熱化部材61は、三角錐、四角錘、等の多角形の錐体であってもよい。図3(b)に示す温度均熱化部材71は、テーパー部61tを有する。テーパー部61tは、上部2aと対向する天井部である。温度均熱化部材71は、温度均熱化部材61と比べて、床部61bを有さない点が相違する。温度均熱化部材61と同様な構成は、同様な符号を付し、説明を省略する。温度均熱化部材71は、テーパー部61tで挟まれた領域が空洞C71である。すなわち、温度均熱化部材71をz方向に切断した切断面において、温度均熱化部材71の形状は、テーパー部61tの内側に空洞が形成された形状である。温度均熱化部材71は、単結晶製造装置100に配置されると、テーパー部61tおよび上部2aに囲まれた領域が空洞となる。
【0050】
温度均熱化部材が、上記のいずれの変形例の場合においても、本実施形態にかかる単結晶製造装置100は、SiC単結晶Sの結晶内部の径方向温度勾配を抑制できる。特に、温度均熱化部材61や温度均熱化部材71のような、内部に空洞が形成された温度均熱化部材では、空洞内で熱が輻射する。その結果、径方向のSiC単結晶の径方向温度勾配をより抑制できる。
【0051】
図2(a)~(d)及び図3(a)~(b)に示す温度均熱化部材21、31、41、51、61、71には、径方向において、径方向中心21C、31C、41C、51C、61Cおよび、端部21E、31E、41E、51E、61Eに対応する位置に補助線が付されている。
図2(a)~(d)及び図3(a)~(b)に示す温度均熱化部材21、31、41、51、61、71において、tanθ=(温度均熱化部材の径方向中心21C、31C、41C、51Cにおける高さhc)/(温度均熱化部材1の半径w)が1/5以上であることが好ましく、3/10以上であることがより好ましく、2/5以上であることがさらに好ましい。
【0052】
貫通孔3Hは通常、z方向に温度勾配を形成するために備えるものであるが、本発明者は、貫通孔3Hが断熱材を有さない箇所であるため、熱が逃げることに着目し、本体部2の蓋部近傍の径方向の温度分布に与えている影響について鋭意検討した。その結果、本体部2の径方向中心と径方向中心の周辺とで大きな温度差があることがわかった。
【0053】
本実施形態にかかる単結晶製造装置100によれば、SiC単結晶Sの結晶内部の径方向温度勾配を抑制することができる。すなわち、SiC単結晶Sの成長中に、SiC単結晶が受ける径方向の熱応力を抑制することができる。結晶内部の径方向温度勾配が大きいと、基底面転位に代表される欠陥密度が高くなる。結晶内部の径方向温度勾配が大きい状態で成長させたSiC単結晶Sを用いて作成したSiCウェハには反りや割れが生じやすい。欠陥密度の増加、SiCウェハの反りや割れ等の事象の発生は、大口径や長尺なSiC単結晶ほど顕著である。すなわち、本実施形態にかかる単結晶製造装置100は、欠陥密度の増加、SiCウェハの反りや割れを抑制可能な、長尺で、大口径なSiC単結晶Sを成長することができる。すなわち、本実施形態にかかる単結晶製造装置100は、高品質なSiC単結晶Sを成長することができる。
【実施例
【0054】
<実施例1>
図1に示す構成をシミュレーションで再現し、昇華法によりSiC単結晶Sを成長した際に、上部2a近傍の温度分布を求めた。図4は、上部2a近傍の温度分布のシミュレーションを行った実施例1の結果を示す。薄い色の領域ほど高温であり、濃い色の領域ほど低温である。
このシミュレーションは、STR-Group Ltd社製の気相結晶成長解析ソフト「Virtual Reactor」を用いて行った。シミュレーションは、計算負荷を低減するために、円筒状坩堝の中心軸を通る任意の断面の半分(径方向の半分)の構造のみで行った。当該シミュレーションは、実際の実験結果と高い相関を有することが確認されている。
【0055】
シミュレーションで用いたモデルにおいて、温度均熱化部材の形状は、温度均熱化部材1のような形状である。すなわち、シミュレーションで用いたモデルにおいて、温度均熱化部材は断面視形状が三角形である。シミュレーションは、z方向から平面視して、本体部2と種結晶SDと台座6と温度均熱化部材1との径方向中心と貫通孔3Hと放射温度計5とが重なるように配置されている条件で行った。また、シミュレーションのその他の条件は、以下である。
【0056】
本体部外径:200mm
本体部内径:170mm
本体部厚み:15mm
本体部の輻射率:0.8(黒鉛相当)
種結晶の直径:150mm
SiC単結晶の直径:150mm
温度均熱化部材の底面の直径:150mm
温度均熱化部材の径方向中心における高さ:30mm
坩堝熱伝導率:40W/mK
隔離部材熱伝導率:1W/mK
原料熱伝導率:3W/mK
蓋部の中心温度:2100℃
(温度均熱化部材の径方向中心における高さ)/(温度均熱化部材の半径):2/5
【0057】
上記シミュレーションを行ったところ、成長空間Rに成長するSiC単結晶Sと種結晶SDとの界面において、径方向における中心と端部との温度差ΔTは、35.3℃であった。
【0058】
<実施例2>
実施例2は、実施例1の構成に対して、(温度均熱化部材の径方向中心における高さ)/(温度均熱化部材の半径)の条件を変更したシミュレーションである。
すなわち、実施例1のうち以下の条件を変更した。その他の条件は実施例1と同様にして行った。図5は、実施例2の条件で、上部2a近傍の温度分布のシミュレーションを行った結果である。
【0059】
温度均熱化部材の底面の直径:150mm
温度均熱化部材の径方向中心における高さ:14mm
(温度均熱化部材の中心における高さ)/(温度均熱化部材の半径):14/75
【0060】
上記シミュレーションを行ったところ、成長空間Rに成長するSiC単結晶Sと種結晶SDとの界面において、径方向における中心と端部との温度差ΔTは、41.5℃であった。
【0061】
<実施例3>
実施例3は、実施例1の構成に対して、温度均熱化部材を温度均熱化部材1のような形状から温度均熱化部材61のような形状に変更したシミュレーションである。
すなわち、実施例1のうち以下の条件を変更した。その他の条件は実施例1と同様にして行った。図6は、実施例3の条件で、上部2a近傍の温度分布のシミュレーションを行った結果である。
【0062】
温度均熱化部材の底面の直径:150mm
温度均熱化部材の径方向中心における高さ:30mm
(温度均熱化部材の径方向中心における高さ)/(温度均熱化部材の半径):2/5
温度均熱化部材のテーパー部の厚み:2mm
温度均熱化部材の床部の厚み:2mm
【0063】
上記シミュレーションを行ったところ、成長空間Rに成長するSiC単結晶Sと種結晶SDとの界面において、径方向における中心と端部との温度差ΔTは、29.5℃であった。
【0064】
<比較例1>
比較例1は、実施例1の構成に対して、温度均熱化部材1を配置しない構成を用いたシミュレーションである。その他の条件は実施例1と同様にした。比較例1の装置を用いた場合に上部2a近傍の温度分布を求めた。図7は、比較例1の条件で、上部2a近傍の温度分布のシミュレーションを行った結果である。
【0065】
上記シミュレーションを行ったところ、成長空間Rに成長するSiC単結晶Sと種結晶SDとの界面において、径方向における中心と端部との温度差ΔTは、51.6℃であった。
【0066】
実施例1と比較例1との結果から、温度均熱化部材1を上部2aに形成することでSiC単結晶の結晶内部の径方向温度勾配を抑制することが確認される。
【0067】
<比較例2>
比較例2は、実施例1の温度均熱化部材に対応する構成が相違する。比較例2において、実施例1の温度均熱化部材に対応する構成は、円柱形の部材である。その他の条件は、実施例1と同様の条件で行った。図8は、比較例2の条件で上部2a近傍の温度分布のシミュレーションを行った結果である。
【0068】
上記シミュレーションを行ったところ、成長空間Rに成長するSiC単結晶Sと種結晶SDとの界面において、径方向における中心と端部との温度差ΔTは、42.2℃であった。
実施例1と比較例2との結果から、温度均熱化部材1は、径方向中心における高さhcが端部における高さheよりも高い構成であることで、結晶内部の径方向温度勾配を抑制できることが確認される。
【0069】
以上、本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明は特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0070】
100 単結晶製造装置
1 温度均熱化部材
1t テーパー部
1C 径方向中心
1E 端部
10 坩堝
2 本体部
2a 上部
2b 下部
2ba 底部
2bb 側壁
3 断熱材
30 上面
32 側面
33 下面
3H 貫通孔
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8