(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-27
(45)【発行日】2024-06-04
(54)【発明の名称】光配向用液晶配向剤、液晶配向膜、および液晶表示素子
(51)【国際特許分類】
G02F 1/1337 20060101AFI20240528BHJP
C08G 73/12 20060101ALI20240528BHJP
【FI】
G02F1/1337 525
C08G73/12
(21)【出願番号】P 2020067646
(22)【出願日】2020-04-03
【審査請求日】2023-02-16
(31)【優先権主張番号】P 2019085955
(32)【優先日】2019-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】311002067
【氏名又は名称】JNC株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】596032100
【氏名又は名称】JNC石油化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 剛史
(72)【発明者】
【氏名】白石 協子
(72)【発明者】
【氏名】小関 洋平
【審査官】磯崎 忠昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-076009(JP,A)
【文献】国際公開第2016/129506(WO,A1)
【文献】特開2016-145957(JP,A)
【文献】特開2014-199446(JP,A)
【文献】特開2019-049700(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/1337
C08G 73/12
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミック酸およびその誘導体から選ばれる少なくとも1つの重合体を含む光配向用液晶配向剤であって;
前記ポリアミック酸およびその誘導体は、テトラカルボン酸二無水物およびその誘導体から選ばれる少なくとも1つと、ジアミンを含み、ジヒドラジドを含んでもよい原料モノマーの反応生成物であり、
前記ジアミンの少なくとも1つが、下記式(1)で表される構造を有し、
前記原料モノマーが、下記式(V-4)で表される光反応性構造を有する化合物を含み、
前記式(1)で表される構造を有するジアミンの前記原料モノマーにおける含有量が、前記原料モノマーに含まれるジアミンとジヒドラジドの合計量に対して1~15モル%である、光配向用液晶配向剤;
【化1】
【化2】
式(1)において、Aはそれぞれ独立して炭素数1~3のアルキレンであり;
*は結合手であることを示し;
式(V-4)において、
結合位置が固定されていない結合手は、その結合手が掛かる環のいずれかの水素と置き換わって炭素に結合しており;
R
1およびR
2はそれぞれ独立して水素、式(P1-1)または式(P1-2)で表される基を表し;
R
1
およびR
2
の少なくとも1つは、式(P1-1)または式(P1-2)で表される基であり;
【化3】
式(P1-1)および式(P1-2)において、R
6a~R
8aはそれぞれ独立して水素、置換もしくは無置換のアルキル、置換もしくは無置換のアルカノイル、置換もしくは無置換のアルコキシカルボニル、または置換もしくは無置換のアリールカルボニルであり;
R
6a~R
8aは互いに同一であっても異なっていてもよく;
*は、式(V-4)におけるベンゼン環への結合位置を表す。
【請求項2】
前記原料モノマーが、さらに下記式(V-2)または下記式(VII-1)で表される前記光反応性構造を有する化合物を含む、請求項1に記載の光配向用液晶配向剤;
【化4】
式(V-2)および(VII-1)において、結合位置が固定されていない結合手は、その結合手が掛かる環のいずれかの水素と置き換わって炭素に結合しており;
式(V-2)において、R
6はそれぞれ独立して-CH
3、-OCH
3、-CF
3、-COOCH
3であり;
aはそれぞれ独立して0~2の整数であり;
式(VII-1)において、R
4およびR
6はそれぞれ独立して炭素数1~20の直鎖アルキレン、-COO-、-OCO-、-NHCO-、-CONH-、-N(CH
3)CO-、-CON(CH
3)-、または単結合であり;
R
4およびR
6において、直鎖アルキレンの-CH
2-の1つまたは隣接しない2つは-O-で置き換えられてもよく;
R
5およびR
7はそれぞれ独立して単環式炭化水素環、縮合多環式炭化水素環、複素環、または単結合である。
【請求項3】
前記原料モノマーが、前記式(VII-1)で表される光反応性構造を有する化合物を含む、請求項2に記載の光配向用液晶配向剤。
【請求項4】
前記式(1)で表される構造を有するジアミンが、下記式(2)~下記式(5)のいずれかで表されるジアミンの少なくとも1つである、請求項1~3のいずれか1項に記載の光配向用液晶配向剤。
【化5】
式(2)~式(5)において、Aはそれぞれ独立して炭素数1~3のアルキレンであり;
結合位置が固定されていない結合手は、その結合手が掛かる環の水素と置換して炭素に結合している。
【請求項5】
前記原料モノマーが、下記式(PAN-1)で表されるテトラカルボン酸二無水物と下記式(AN-4-17)で表されるテトラカルボン酸二無水物の誘導体を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の光配向用液晶配向剤。
【化6】
式(AN-4-17)において、mは1~12の整数である。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の光配向用液晶配向剤によって形成された液晶配向膜。
【請求項7】
請求項6に記載の液晶配向膜を有する液晶表示素子。
【請求項8】
請求項6に記載の液晶配向膜を有する横電界駆動型液晶表示素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光配向用液晶配向剤、液晶配向膜、および液晶表示素子に関する。
【背景技術】
【0002】
パソコンのモニター、液晶テレビ、ビデオカメラのビューファインダー、投写型ディスプレイ、車載モニター、タブレット、スマートフォン等の様々な表示装置、さらには、光プリンターヘッド、光フーリエ変換素子、ライトバルブ等のオプトエレクトロニクス関連素子等、今日製品化されて一般に流通している液晶表示素子は、ネマティック液晶を用いた表示素子が主流である。ネマティック液晶表示素子の表示方式は、TN(Twisted Nematic)モード、STN(Super Twisted Nematic)モードがよく知られている。近年、これらのモードの問題点の1つである視野角の狭さを改善するために、光学補償フィルムを用いたTN型液晶表示素子、垂直配向と突起構造物の技術を併用したMVA(Multi-domain Vertical Alignment)モード、あるいは横電界方式のIPS(In-Plane Switching)モード、FFS(Fringe Field Switching)モード等が提案され、実用化されている。
【0003】
液晶表示素子の技術の発展は、単にこれらの駆動方式や素子構造の改良のみならず、素子に使用される構成部材の改良によっても達成されている。液晶表示素子に使用される構成部材のなかでも、特に液晶配向膜は表示品位に係わる重要な材料の1つであり、液晶表示素子の高品質化に伴い、液晶配向膜の性能を向上させる事が重要になってきている。
【0004】
液晶配向膜は、液晶配向剤より形成される。現在、主として用いられている液晶配向剤は、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステルまたは可溶性のポリイミドを有機溶剤に溶解させた溶液(ワニス)である。この溶液を基板に塗布した後、加熱等の手段により成膜してポリイミド系液晶配向膜を形成する。製膜後、必要に応じ前述の表示モードに適する配向処理が施される。
【0005】
工業的には、簡便で大面積の高速処理が可能なラビング法が、配向処理法として広く用いられている。ラビング法は、ナイロン、レーヨン、ポリエステル等の繊維を植毛した布を用いて液晶配向膜の表面を一方向に擦る処理であり、これによって液晶分子の一様な配向を得ることが可能になる。しかし、ラビング法では、ラビング削れやラビング傷が生じ、表示品位を低下させるという問題がある。
【0006】
ラビング法に代わる配向処理法として注目されているのが、光を照射して配向処理を施す光配向処理法である。光配向処理法には光分解法、光異性化法、光二量化法、光架橋法等多くの配向機構が提案されている(例えば、非特許文献1、特許文献1および2を参照。)。光配向法はラビング法に比べて配向の均一性が高く、また非接触の配向処理法であるため膜に傷が付かず、発塵や静電気等の液晶表示素子の表示不良を発生させる原因を低減できる等の利点がある。
【0007】
これまで、ポリアミック酸構造中に光異性化や光二量化などを起こす光反応性基を有する光配向膜の検討が行われてきた(例えば、特許文献1~6を参照。)。中でも、特許文献3~4に記載されている光異性化の技術を応用することで、該光配向膜はアンカリングエネルギーが大きく、配向性が良好で、かつ電圧保持率など電気特性が良好な液晶表示素子を与えることがわかった。しかしながら、パネル技術の進歩の伴い、より配向性が良好な配向膜が求められている。
【0008】
その一方で、近年、タブレット型液晶表示素子やスマートフォンの普及により、額縁が狭く表示画面の大きな液晶表示素子の開発が進められている。ここで、狭額縁化して表示領域を広くするためには、基板の端まで液晶配向膜を印刷して、その液晶配向膜上にシール剤を塗布する必要が生じる。
このような状況から、シール剤との密着性が高い液晶配向膜が求められるようになっており、そのための研究開発として、ポリアミック酸およびその重合体の原料モノマーに極性基を持つ化合物を用いることで、液晶配向膜のシール剤との密着性を向上させる検討が行われている。例えば、特許文献7~9では、特定のテトラカルボン酸二無水物またはジアミンを使用することによって、液晶配向膜とシール剤との密着性を向上させた液晶表示素子が提案されている。
しかしながら、狭額縁化への要望はさらに高まっており、シール剤との密着性がより良好な液晶配向膜が求められている。
【0009】
また近年、液晶表示素子においては、バックライトの輝度が上がっており、光によるVHR(電圧保持率)の低下が問題となっている(例えば、特許文献7、10を参照。)。そのため、長時間の使用においてもVHRの低下が少ない、良好なVHR信頼性を与える液晶配向膜も求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開平9-297313号公報
【文献】特開平10-251646号公報
【文献】特開2005-275364号公報
【文献】特開2009-069493号公報
【文献】特開2008-233713号公報
【文献】国際公開2013/157463号
【文献】特開2017-198975号公報
【文献】特再公表2016-043230号公報
【文献】特開2018-106096号公報
【文献】特開2017-203980号公報
【非特許文献】
【0011】
【文献】液晶、第3巻、第4号、262ページ、1999年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、シール剤との密着性が高く、また、液晶表示素子の残像特性およびVHR信頼性を改善できる液晶配向膜を提供すること、さらに、そのような液晶配向膜を形成することができる光配向用液晶配向剤を提供することである。また、液晶配向膜とシール剤との密着性が高く、残像特性およびVHR信頼性に優れた液晶表示素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは鋭意検討の結果、NH基の左右にアルキレンが結合した構造を有するジアミンを光配向用液晶配向剤の原料モノマーに使用することにより、シール剤との密着性が高い液晶配向膜が形成されることを見出した。さらに、その液晶配向膜を適用した液晶表示素子において、良好な残像特性と高いVHR信頼性が得られ、高い表示品位が実現することを見出した。本発明はこうした知見に基づいて完成したものである。本発明は以下の構成からなる。
[1] ポリアミック酸およびその誘導体から選ばれる少なくとも1つの重合体を含む光配向用液晶配向剤であって;前記ポリアミック酸およびその誘導体は、テトラカルボン酸二無水物およびその誘導体から選ばれる少なくとも1つと、ジアミンを含み、ジヒドラジドを含んでもよい原料モノマーの反応生成物であり、前記ジアミンの少なくとも1つが、下記式(1)で表される構造を有し、前記原料モノマーの少なくとも1つが、下記式(II)~下記式(VII)のいずれかで表される光反応性構造を有する化合物であり、前記式(1)で表される構造を有するジアミンの前記原料モノマーにおける含有量が、前記原料モノマーに含まれるジアミンとジヒドラジドの合計量に対して1~15モル%である、光配向用液晶配向剤;
【化1】
【化2】
式(1)において、Aはそれぞれ独立して炭素数1~3のアルキレンであり;
*は結合手であることを示し;
式(II)~式(V)において、R
2およびR
3はそれぞれ独立して-NH
2を有する1価の有機基または-CO-O-CO-を有する1価の有機基であり;
式(IV)において、R
4は2価の有機基であり;
式(VI)において、R
5はそれぞれ独立して-NH
2もしくは-CO-O-CO-を有する芳香環であり;そして、
式(VII)において、R
6およびR
7はそれぞれ独立して-NH
2を有する1価の有機基であり;
R
8およびR
9はそれぞれ独立して水素または炭素数1~10のアルキルであり;
結合位置が固定されていない結合手は、その結合手が掛かるベンゼン環のいずれかの水素と置き換わって炭素に結合しており、ベンゼン環のその他の水素は、置換基で置換されていてもよい。
[2] 前記光反応性構造を有する化合物が、下記式(V-2)、下記式(V-4)または下記式(VII-1)で表される化合物の少なくとも1つである、[1]に記載の光配向用液晶配向剤;
【化3】
式(V-2)、(V-4)、(VII-1)において、結合位置が固定されていない結合手は、その結合手が掛かる環のいずれかの水素と置き換わって炭素に結合しており;
式(V-2)において、R
6はそれぞれ独立して-CH
3、-OCH
3、-CF
3、-COOCH
3であり;
aはそれぞれ独立して0~2の整数であり;
式(V-4)において、R
1およびR
2はそれぞれ独立して水素、式(P1-1)または式(P1-2)で表される基を表し;
R
1およびR
2の少なくとも1つは、式(P1-1)または式(P1-2)で表される基であり;
式(VII-1)において、R
4およびR
6はそれぞれ独立して炭素数1~20の直鎖アルキレン、-COO-、-OCO-、-NHCO-、-CONH-、-N(CH
3)CO-、-CON(CH
3)-、または単結合であり;
R
4およびR
6において、直鎖アルキレンの-CH
2-の1つまたは隣接しない2つは-O-で置き換えられてもよく;
R
5およびR
7はそれぞれ独立して単環式炭化水素環、縮合多環式炭化水素環、複素環、または単結合であり;
【化4】
式(P1-1)および式(P1-2)において、R
6a~R
8aはそれぞれ独立して水素、置換もしくは無置換のアルキル、置換もしくは無置換のアルカノイル、置換もしくは無置換のアルコキシカルボニル、または置換もしくは無置換のアリールカルボニルであり;
R
6a~R
8aは互いに同一であっても異なっていてもよく;
*は、式(V-2)におけるベンゼン環への結合位置を表す。
[3] 前記光反応性構造を有する化合物が、前記式(V-4)または前記式(VII-1)で表される化合物の少なくとも1つである、[2]に記載の光配向用液晶配向剤。
[4] 前記式(1)で表される構造を有するジアミンが、下記式(2)~下記式(5)のいずれかで表されるジアミンの少なくとも1つである、[1]~[3]のいずれか1項に記載の光配向用液晶配向剤。
【化5】
式(2)~式(5)において、Aはそれぞれ独立して炭素数1~3のアルキレンであり;
結合位置が固定されていない結合手は、その結合手が掛かる環の水素と置換して炭素に結合している。
[5] 前記原料モノマーが、下記式(PAN-1)で表されるテトラカルボン酸二無水物と下記式(AN-4-17)で表されるテトラカルボン酸二無水物の誘導体を含む、[1]~[4]のいずれか1項に記載の光配向用液晶配向剤。
【化6】
式(AN-4-17)において、mは1~12の整数である。
[6] [1]~[5]のいずれか1項に記載の光配向用液晶配向剤によって形成された液晶配向膜。
[7] [6]に記載の液晶配向膜を有する液晶表示素子。
[8] [6]に記載の液晶配向膜を有する横電界駆動型液晶表示素子。
【発明の効果】
【0014】
本発明の光配向用液晶配向剤によって形成された液晶配向膜は、シール剤との密着性が高い。また、この液晶配向膜を液晶表示素子に適用することにより、残像特性およびVHR信頼性が改善され、高い表示品位を実現しうる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
光配向用液晶配向剤
本発明における「光配向用液晶配向剤」とは、その膜を基板上に形成したとき、偏光を照射することで異方性を付与することができる液晶配向剤を意味し、本明細書中では単に「液晶配向剤」ということがある。本発明の光配向用液晶配向剤(液晶配向剤)は液晶配向膜の形成に用いられるものである。
本発明の光配向用液晶配向剤は、ポリアミック酸およびその誘導体から選ばれる少なくとも1つの重合体を含む。ここで、ポリアミック酸およびその誘導体は、テトラカルボン酸二無水物およびその誘導体から選ばれる少なくとも1つと、ジアミンを含み、ジヒドラジドを含んでもよい原料モノマーの反応生成物であり、そのジアミンの少なくとも1つは、下記式(1)で表される構造を有し、その原料モノマーの少なくとも1つは、下記式(II)~下記式(VII)のいずれかで表される光反応性構造を有する化合物である。そして、式(1)で表される構造を有するジアミンの原料モノマーにおける含有量は、原料モノマーに含まれるジアミンとジヒドラジドの合計量に対して1~15モル%である。
以下の説明では、本発明における「光配向用液晶配向剤」を「液晶配向剤」ということがある。
原料モノマーにおいて、ジヒドラジドは必要に応じて用いられるモノマー成分である。すなわち、原料モノマーは、テトラカルボン酸二無水物およびその誘導体から選ばれる少なくとも1つと、ジアミンを含み、ジヒドラジドを含まないものであってもよいし、テトラカルボン酸二無水物およびその誘導体から選ばれる少なくとも1つと、ジアミンと、ジヒドラジドの全てを含んでいてもよい。ここで、原料モノマーがジヒドラジドを含まないとき、上記の式(1)で表される構造を有するジアミンの含有量「1~15モル%」は、ジアミンの全量(全モル数)に対する割合であることとし、原料モノマーがジヒドラジドを含むとき、上記の式(1)で表される構造を有するジアミンの含有量「1~15モル%」は、ジアミンとジヒドラジドの合計量(合計モル数)に対する割合であることとする。
また、本発明における「テトラカルボン酸二無水物およびその誘導体」は、テトラカルボン酸二無水物と、2つの-CO-O-CO-が4価の有機基に結合した構造を有する化合物の両方を含む。ここで、「4価の有機基」は、有機化合物の構造から4つの水素原子を除いた残基のことをいう。本明細書中では、「テトラカルボン酸二無水物およびその誘導体」を「テトラカルボン酸二無水物類」と総称することがある。
また、本発明における「光反応性構造」とは、下記式(II)~下記式(VII)で表される構造のうち、末端基(R2、R3、R5~R7)を除いた部分のことをいう。本明細書中では、「光反応性構造を有する」ことを「感光性」、「光反応性構造を有しない」ことを「非感光性」ということがある。
【0016】
【0017】
式(1)において、Aはそれぞれ独立して炭素数1~3のアルキレンであり;
*は結合手であることを示し;
式(II)~式(V)において、R2およびR3はそれぞれ独立して-NH2を有する1価の有機基または-CO-O-CO-を有する1価の有機基であり;
式(IV)において、R4は2価の有機基であり;
式(VI)において、R5はそれぞれ独立して-NH2もしくは-CO-O-CO-を有する芳香環であり;そして、
式(VII)において、R6およびR7はそれぞれ独立して-NH2を有する1価の有機基であり;
R8およびR9はそれぞれ独立して水素または炭素数1~10のアルキルであり;
結合位置が固定されていない結合手(R6およびR7の結合手)は、その結合手が掛かるベンゼン環のいずれかの水素と置き換わって炭素に結合しており、ベンゼン環のその他の水素は、置換基で置換されていてもよい。
【0018】
本発明の光配向用液晶配向剤から形成された液晶配向膜は、式(1)で表される構造を有するジアミンを所定の含有量で原料モノマーに含むことにより、シール剤に対して良好な密着性を示し、また、液晶表示素子に良好な残像特性と高いVHR信頼性を付与しうる。液晶配向膜がこうした効果を奏するのは、以下のメカニズムによるものと推測される。
すなわち、本発明の光配向用液晶配向剤を用いて形成された液晶配向膜は、ジアミンに由来するNH基(式(1)におけるNH基)が、シール剤中のエポキシ等と結合することで、シール剤との密着性を得ていると考えられる。そして、特にNH基の左右がアルキレン(式(1)におけるA)であることにより、NH基の求核性が高まり、エポキシとより高い反応性を示す。これにより、液晶配向膜は、シール剤に対して優れた密着性を示すと考えられる。
また、式(1)で表される構造は、ポリアミック酸およびその誘導体に柔軟な構造を付与する。一方、式(II)~式(VII)で表される化合物に由来する光反応性構造は、光配向処理により光化学反応を起こして、該光反応性構造を含む構成単位を特定の方向に配向させることにより、ポリアミック酸およびその誘導体の塗膜に異方性を付与する。この塗膜を加熱してイミド化させることで液晶配向膜が形成されるが、このとき、式(1)で表される構造は柔軟であるため、加熱工程において、特定の方向を向いた構成単位に沿って配向し易く、ポリアミック酸およびその誘導体(ポリマー)の異方性を増幅することができる。このように、配向膜を形成するポリマーがより一定の方向に配向して、異方性が大きい状態を、膜の配向性が高いまたは良いと表現することがある。この膜の配向性の良さが、液晶表示素子の残像特性やコントラストの改善に寄与すると考えられる。
そして、式(1)で表される構造を有するジアミンは、シール剤に対する密着性を改善する効果が高く、且つ、ポリマーの異方性を増幅する作用を有するため、ジアミンとジヒドラジドの合計量に対する割合を1~15モル%として原料モノマーに含有させることにより、シール剤に対する密着性を十分に改善しつつ、感光性ジアミンなどの、式(1)で表される構造を有するジアミン以外のジアミンの配合量も十分に確保して、その構成単位による配向性を効果的に増幅することができる。そのため、式(1)で表される構造を有するジアミンを所定の含有量で液晶配向膜の原料モノマーに含有させることにより、液晶配向膜とシール剤の密着性と、残像特性およびコントラストが両立した液晶表示素子を実現することができる。式(1)で表される構造を有するジアミンの割合が15モル%を超えると、他のモノマー成分の含有量が制限されてポリマーの配向性が低くなるために、式(1)で表される構造の異方性増幅作用が十分に働かなくなると考えられ、素子の残像特性およびコントラストが低くなる。
【0019】
以下において、本発明で用いる原料モノマー、ポリアミック酸およびその誘導体、並びに、必要に応じて用いられる液晶配向剤のその他の成分について説明する。
[原料モノマー]
原料モノマーは、ポリアミック酸およびその誘導体の原料となるモノマーの組成物であり、テトラカルボン酸二無水物およびその誘導体(テトラカルボン酸二無水物類)から選ばれる少なくとも1つと、ジアミンを含む。原料モノマーは、テトラカルボン酸二無水物類とジアミンのみから構成されていてもよいし、さらに、その他のモノマーを含んでいてもよい。その他のモノマーとしてジヒドラジド、モノアミン、イソシアネート化合物等を挙げることができる。
原料モノマーに用いるジアミンの少なくとも1つは、上記の式(1)で表される構造を有するものである。原料モノマーに用いるジアミンは、式(1)で表される構造を有するジアミンのみであってもよいし、さらに、その他のジアミンを含んでいてもよい。その他のジアミンは、式(II)~式(VII)のいずれかで表される化合物としての、感光性ジアミンであってもよいし、式(1)で表される構造を有するジアミン以外の非感光性ジアミンであってもよいし、その両方であってもよい。
原料モノマーに用いるテトラカルボン酸二無水物類は、特に制限されず、上記の式(II)~式(VII)のいずれかで表される化合物としての、感光性テトラカルボン酸二無水物類であってもよいし、非感光性テトラカルボン酸二無水物類であってもよいし、その両方であってもよい。
ただし、原料モノマーの少なくとも1つは、式(II)~式(VII)のいずれかで表される化合物(感光性化合物)である。原料モノマーが含む感光性化合物は、式(II)~式(VII)のいずれかで表される感光性ジアミンのみであってもよいし、式(II)~式(VII)のいずれかで表される感光性テトラカルボン酸二無水物類のみであってもよいし、その両方であってもよい。
以下において、原料モノマーに用いられる式(1)で表される構造を有するジアミン、式(II)~式(VII)のいずれかで表される化合物(感光性テトラカルボン酸二無水物類、感光性ジアミン)、非感光性テトラカルボン酸二無水物類、式(1)で表される構造を有するジアミン以外の非感光性ジアミンおよびジヒドラジド、並びに、その他のモノマーについて説明する。
【0020】
(式(1)で表される構造を有するジアミン)
原料モノマーが含む式(1)で表される構造を有するジアミンは、1種類であっても2種類以上であってもよい。
式(1)で表される構造を有するジアミンとして、例えば下記式(2)~式(5)のいずれかで表されるジアミンを挙げることができる。
【0021】
【0022】
式(2)~式(5)において、Aはそれぞれ独立して炭素数1~3のアルキレンである。結合位置が固定されていないNH2の結合手は、その結合手が掛かるベンゼン環のいずれかの水素と置き換わって炭素と結合する。結合手のベンゼン環における結合位置は特に限定されず、水素と置換可能な位置であればいずれでもよい。
【0023】
式(2)~式(5)のいずれかで表されるジアミンの具体例を以下に挙げる。
【化9】
【化10】
【0024】
これらの中でも、保管時、重合体製造時の取り扱い易さから、式(2-2)、式(3-1)~式(3-5)、式(5-1)で表される化合物が好ましく、式(2-2)、式(3-1)で表される化合物がさらに好ましい。
【0025】
(式(II)~式(VII)のいずれかで表される化合物:感光性テトラカルボン酸二無水物類、感光性ジアミン)
本発明に用いられる光反応性構造を有する化合物について説明する。
本発明のポリアミック酸およびその誘導体は、原料モノマーに、上記の式(II)~式(VII)から選ばれる少なくとも1つの、光異性化または光二量化可能な光反応性構造を有する化合物を使用することで、光配向性液晶配向剤とすることができる。原料モノマーが含む光反応性構造を有する化合物は、1種類であっても2種類以上であってもよい。
【0026】
光反応性構造を有するテトラカルボン酸二無水物類(感光性テトラカルボン酸二無水物類)または光反応性構造を有するジアミン(感光性ジアミン)として、下記式(II-1)、式(II-2)、式(III-1)、式(III-2)、式(IV-1)~式(IV-3)、式(V-1)~式(V-4)、式(VI-1)、式(VI-2)、および式(VII-1)のいずれかで表される化合物の群から選ばれる少なくとも1つを好適に用いることができる。
【化11】
【化12】
上記各式において、結合位置が固定されていない基は、その基の結合手が掛かる環のいずれかの水素と置き換わって炭素に結合する。式(IV-3)において、rは1から10の整数である。式(V-2)において、R
6はそれぞれ独立して-CH
3、-OCH
3、-CF
3、-COOCH
3であり、aはそれぞれ独立して0~2の整数である。式(V-3)において、環Aおよび環Bはそれぞれ独立して、単環式炭化水素環、縮合多環式炭化水素環および複素環から選ばれる少なくとも1つであり、R
11は、炭素数1~20の直鎖アルキレン、-COO-、-OCO-、-NHCO-、-CONH-、-N(CH
3)CO-、または-CON(CH
3)-であり、R
12は、炭素数1~20の直鎖アルキレン、-COO-、-OCO-、-NHCO-、-CONH-、-N(CH
3)CO-、または-CON(CH
3)-であり、R
11およびR
12において、直鎖アルキレンの-CH
2-の1つまたは2つは-O-で置換されてもよく、R
7~R
10は、それぞれ独立して、-F、-CH
3、-OCH
3、-CF
3、または-OHであり、そして、b~eは、それぞれ独立して、0~4の整数である。式(V-4)において、R
1およびR
2は、それぞれ独立して、水素、式(P1-1)または式(P1-2)で表される基を表し、R
1およびR
2の少なくとも1つは、式(P1-1)または式(P1-2)で表される基である。式(VII-1)において、R
4およびR
6は、それぞれ独立して炭素数1~20の直鎖アルキレン、-COO-、-OCO-、-NHCO-、-CONH-、-N(CH
3)CO-、-CON(CH
3)-、または単結合であり、R
4およびR
6において、直鎖アルキレンの-CH
2-の1つまたは隣接しない2つは-O-で置き換えられてもよく、R
5およびR
7は、独立して、単環式炭化水素環、縮合多環式炭化水素環、複素環、または単結合である。
式(V-3)の、環Aおよび環B、ならびに式(VII-1)のR
5およびR
7における単環式炭化水素環は脂環であっても芳香環であってもよい。単環式炭化水素環の炭素数は6~12であることが好ましく、6~10であることがより好ましく、6~8であることがさらに好ましい。単環式炭化水素環の具体例として、ベンゼン環、シクロヘキサン環、シクロヘキセン環を挙げることができる。
式(V-3)の、環Aおよび環B、ならびに式(VII-1)のR
5およびR
7における縮合多環式炭化水素環の炭素数は10~26であることが好ましく、10~18であることがより好ましく、10~14であることがさらに好ましい。縮合多環式炭化水素環の具体例として、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環を挙げることができる。
式(V-3)の、環Aおよび環B、ならびに式(VII-1)のR
5およびR
7における複素環は脂環であっても芳香環であってもよい。複素環の炭素数は1~26であることが好ましく、3~14であることがより好ましく、3~8であることがさらに好ましい。複素環が環員として含む複素原子として、窒素原子、酸素原子、硫黄原子を挙げることができる。複素環の具体例として、ピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環、ピリダジン環、インドール環、オキサゾール環を挙げることができる。
【0027】
【0028】
式(P1-1)および式(P1-2)において、R6a~R8aは、それぞれ独立して、水素原子、置換もしくは無置換のアルキル、置換もしくは無置換のアルカノイル、置換もしくは無置換のアルコキシカルボニル、または置換もしくは無置換のアリールカルボニルを表す。R6a~R8aは互いに同一であっても異なっていてもよい。*は、式(V-4)におけるベンゼン環への結合位置を表す。
【0029】
式(P1-1)において、R6aにおけるアルキルは、直鎖状、分枝状、環状のいずれであってもよい。アルキルの好ましい炭素数は1~10であり、より好ましくは1~6であり、さらに好ましくは1~4であり、さらにより好ましくは1~3である。アルキルの具体例として、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、tert-ペンチル、1-メチルブチル、1-エチルプロピル、ヘキシル、イソヘキシル、1-メチルペンチル、1-エチルブチル等を例示することができる。
【0030】
R6aにおけるアルカノイルは、直鎖状、分枝状、環状のいずれであってもよい。アルカノイルの好ましい炭素数は1~10であり、より好ましくは1~6であり、さらに好ましくは1~2であり、さらにより好ましくは1である。アルカノイルの具体例として、メタノイル、エタノイル、プロパノイル、イソプロパノイル、ブタノイル、イソブタノイル、sec-ブタノイル、tert-ブタノイル、ペンタノイル、イソペンタノイル、ネオペンタノイル、tert-ペンタノイル、1-メチルブタノイル、1-エチルプロパノイル、ヘキサノイル、イソヘキサノイル、1-メチルペンタノイル、1-エチルブタノイル等を例示することができる。
【0031】
R6aにおけるアルコキシカルボニルは、直鎖状、分枝状、環状のいずれであってもよい。アルコキシカルボニルの好ましい炭素数は1~10であり、より好ましくは1~6であり、さらに好ましくは1~3であり、さらにより好ましくは2である。アルコキシカルボニルの具体例として、メチルオキシカルボニル、エチルオキシカルボニル、プロピルオキシカルボニル、イソプロピルオキシカルボニル、ブチルオキシカルボニル、イソブチルオキシカルボニル、sec-ブチルオキシカルボニル、tert-ブチルオキシカルボニル、ペンチルオキシカルボニル、イソペンチルオキシカルボニル、ネオペンチルオキシカルボニル、tert-ペンチルオキシカルボニル、1-メチルブチルオキシカルボニル、1-エチルプロピルオキシカルボニル、ヘキシルオキシカルボニル、イソヘキシルオキシカルボニル、1-メチルペンチルオキシカルボニル、1-エチルブチルオキシカルボニル等を例示することができる。
R6aにおけるアリールカルボニルのアリールは、単環であっても縮合環であってもよい。アリールの好ましい炭素数は6~22であり、より好ましくは6~14であり、さらに好ましくは6~10である。アリールの具体例として、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル等を例示することができる。アリールカルボニルの具体例として、フェニルカルボニル、1-ナフチルカルボニル等を例示することができる。R6aにおけるアルキル、アルカノイル、アルコキシカルボニルおよびアリールカルボニルは、それぞれ置換基で置換されていてもよい。置換基として、水酸基、アミノ、ハロゲノ等を挙げることができる。
【0032】
これらのうちで、最終的に製造される液晶配向膜の性能を良好にできる点から、R6aはメチル、エチル、プロピル、水素、メタノイル、フェニルであることが好ましい。
【0033】
式(P1-2)において、R7aおよびR8aにおけるアルキル、アルカノイル、アルコキシカルボニル、アリールカルボニルおよびこれらの基に置換しうる置換基の説明と好ましい範囲、具体例については、上記の式(P1-1)のR6aにおけるアルキル、アルカノイル、アルコキシカルボニル、アリールカルボニルおよびこれらの基に置換しうる置換基についての説明と好ましい範囲、具体例を参照することができる。
【0034】
上記式(V-1)、式(V-2)、式(V-4)および式(VI-2)で表される化合物は、液晶分子をより均一に配向させることより、特に好適に用いることができる。式(V-2)および式(V-4)においては、2つのアミノ基の結合位置がいずれもアゾ基に対するパラ位である化合物が好ましく、式(VI-2)においては、2つのアミノ基の結合位置がいずれもエテニレン基に対するパラ位である化合物が好ましい。さらに式(V-2)においては、a=0の化合物が好ましく、式(V-4)においては、R
1が水素原子、R
2が上記式(P1-1)である化合物が好ましい。
また、式(V-4)で表される化合物は、透明性の高い配向膜が得られる点、得られた液晶表示素子のVHR信頼性がより向上する点から有用である。
すなわち、式(V-4)で表される化合物は、当該化合物を含む原料組成物を反応させてポリマーとした場合、そのポリマーを含む液晶配向剤の塗膜を焼成して配向膜を形成する焼成工程において、熱による環化反応を起こす。これにより、アゾベンゼン構造が消失または減少することで、アゾベンゼン構造に由来する400nm付近の光の吸収が抑えられる。よって、式(V-4)で表される化合物を液晶配向剤の原料モノマーに用いることにより、得られる液晶配向膜の透明性がより高いものとなる。また、感光性部位であるアゾベンゼン構造が消失または減少することで、液晶配向膜の光に対する安定性が高まる。その結果、得られる液晶表示素子のVHR信頼性が向上すると考えられる。
例えば、式(V-4)において、R
1が水素原子、R
2が上記式(P1-1)または上記式(P1-2)で表される構造を有する化合物においては、以下の反応スキームに示すように熱による環化反応を起こして、アゾベンゼン構造が消失する。
【化14】
【0035】
式(II-1)~式(VII-1)に示す光反応性構造を持つテトラカルボン酸二無水物類もしくはジアミンは下記式(II-1-1)~式(VII-1-2)で具体的に表すことができる。また、その他の光反応性構造を持つジアミンとして、式(VIII-1)、式(VIII-2)で表されるジアミンを挙げることができる。
【化15】
式(IV-3-1)において、rは1~10の整数である。
【0036】
【0037】
【0038】
【0039】
【0040】
【0041】
【0042】
液晶分子をより一様に配向させることを重視する場合には、式(V-1-1)、式(V-2-1)、式(V-2-4)~式(V-2-11)および式(V-3-1)~式(V-3-8)、式(V-4-1)、式(V-4-2)、式(VII-1-1)および式(VII-1-2)で表される化合物を用いるのが好ましい。中でも、液晶配向膜を形成した際により大きな異方性を発現することから、式(V-2-1)、式(V-4-1)、式(V-4-2)、式(VII-1-1)および式(VII-1-2)で表される化合物をより好適に用いることができる。
透過率を向上させることを重視する場合には、式(V-2-4)~式(V-2-11)、式(V-4-1)、式(V-4-2)、式(V-3-1)~式(V-3-8)、式(VII-1-1)および式(VII-1-2)で表される化合物を用いるのが好ましい。中でも、式(V-4-1)、式(V-4-2)、式(VII-1-1)および式(VII-1-2)で表される化合物をより好適に用いることができる。
VHRの低下を低減させることを重視する場合には、式(V-4-1)および式(V-4-2)で表される化合物を用いるのが好ましい。
【0043】
(非感光性テトラカルボン酸二無水物類)
原料モノマーは、テトラカルボン酸二無水物類として非感光性テトラカルボン酸二無水物類を含んでいてもよい。非感光性テトラカルボン酸二無水物類は、公知のテトラカルボン酸二無水物類から制限されることなく選択することができる。このようなテトラカルボン酸二無水物類は、芳香環に直接ジカルボン酸無水物が結合した芳香族系(複素芳香環系を含む)、および芳香環に直接ジカルボン酸無水物が結合していない脂肪族系(複素環系を含む)の何れの群に属するものであってもよい。
【0044】
このようなテトラカルボン酸二無水物類の例として、特開2016-029447号公報や国際公開2016/104514号パンフレットなどに記載のテトラカルボン酸二無水物類を挙げることができる。例えば、以下に示す脂肪族系テトラカルボン酸二無水物、芳香族系テトラカルボン酸二無水物を挙げることができる。
【化23】
式(AN-1-2)および式(AN-4-17)において、mは1~12の整数である。
【0045】
【0046】
上記テトラカルボン酸二無水物類において、各特性を向上させる好適な材料について述べる。
【0047】
液晶の配向性を向上させることを重視する場合には、式(AN-1-2)、式(AN-1-13)、式(AN-3-2)、式(AN-4-17)、および式(AN-4-29)で表される化合物がより好ましく、式(AN-1-2)においては、m=4または8が好ましく、式(AN-4-17)においては、m=4、または8が好ましく、m=8がより好ましい。
【0048】
液晶表示素子の透過率を向上させることを重視する場合には、式(AN-1-1)、式(AN-1-2)、式(AN-3-1)、式(AN-4-30)、式(AN-5-1)、式(AN-6-1)、式(AN-7-1)、式(AN-7-2)、式(AN-10-1)、式(AN-16-1)、式(AN-16-3)、式(AN-16-4)および式(PAN-1)で表される化合物が好ましい。
【0049】
液晶表示素子の電圧保持率(以下、VHRと略記することがある。)を向上させることを重視する場合には、式(AN-1-1)、式(AN-1-2)、式(AN-3-1)、式(AN-4-17)、式(AN-4-30)、式(AN-7-2)、式(AN-10-1)、式(AN-16-1)、式(AN-16-3)、式(AN-16-4)、および式(PAN-1)で表される化合物が好ましく、式(AN-1-2)においては、m=4または8が好ましく、式(AN-4-17)においては、m=4、または8が好ましく、m=8がより好ましい。
【0050】
液晶配向膜の体積抵抗値を低下させることにより、配向膜中の残留電荷(残留DC)の緩和速度を向上させることが、焼き付きを防ぐ方法の1つとして有効である。この目的を重視する場合には、式(AN-1-13)、式(AN-3-2)、式(AN-4-21)、式(AN-4-29)で表される化合物が好ましい。
【0051】
また、これらの化合物のうち、特に式(AN-4-17)で表される化合物と式(PAN-1)で表される化合物を併用すると、配向性とシール剤との密着性に優れた液晶配向膜が得やすいことから、これらの化合物を併用することが好ましい。
【0052】
(その他の非感光性ジアミンおよびジヒドラジド)
原料モノマーは、ジアミンとして、式(1)で表される構造を有するジアミンおよび式(II)~式(VII)で表される化合物のいずれにも包含されない、非感光性ジアミン(以下、「その他の非感光性ジアミン」という)を含んでいてもよい。また、原料モノマーは、ジアミンおよびテトラカルボン酸二無水物類の他に、ジヒドラジドを含んでいてもよい。その他の非感光性ジアミンおよびジヒドラジドは、公知のジアミンおよびジヒドラジドから制限されることなく選択することができる。
【0053】
ジアミンはその構造によって2種類に分けることができる。即ち、2つのアミノ基を結ぶ骨格を主鎖として見たときに、主鎖から分岐する基、即ち側鎖基を有するジアミンと側鎖基を持たないジアミンである。この側鎖基はプレチルト角を大きくする効果を有する基である。このような効果を有する側鎖基は炭素数3以上の基である必要があり、具体的な例として炭素数3以上のアルキル、炭素数3以上のアルコキシ、炭素数3以上のアルコキシアルキル、およびステロイド骨格を有する基を挙げることができる。1つ以上の環を有する基であって、その末端の環が置換基として炭素数1以上のアルキル、炭素数1以上のアルコキシおよび炭素数2以上のアルコキシアルキルのいずれか1つを有する基も側鎖基としての効果を有する。以下の説明では、このような側鎖基を有するジアミンを側鎖型ジアミンと称することがある。そして、このような側鎖基を持たないジアミンを非側鎖型ジアミンと称することがある。
【0054】
非側鎖型ジアミンと側鎖型ジアミンを適切に使い分けることにより、それぞれに必要なプレチルト角に対応することができる。側鎖型ジアミンは、本発明の特性を損なわない程度に併用するのが好ましい。また側鎖型ジアミンおよび非側鎖型ジアミンについて、液晶に対する垂直配向性、電圧保持率、焼き付き特性および配向性を向上させる目的で取捨選択して使用することが好ましい。
【0055】
このようなジアミンおよびジヒドラジドの例として、特開2016-029447号公報や国際公開2016/104514号パンフレットなどに記載のジアミンおよびジヒドラジドを挙げることができる。例を以下に示す。
【化25】
式(DI-1-9)においてvは1~6の整数である。
【化26】
【化27】
式(DI-5-1)および式(DI-5-12)において、mは1~12の整数であり、式(DI-5-30)において、kは1~5の整数である。
【化28】
式(DI-7-3)において、mは1~12の整数であり、nは独立して1または2である。
【化29】
式(DIH-1-2)において、mは1~12の整数である。
【化30】
式(DI-31-12)および式(DI-31-13)において、R
36は炭素数4~30のアルキルであり、好ましくは炭素数6~25のアルキルである。式(DI-31-22)において、R
39は水素、-F、炭素数1~30のアルキル、炭素数1~30のアルコキシ、-CN、-OCH
2F、-OCHF
2または-OCF
3であり、好ましくは炭素数3~25のアルキル、または炭素数3~25のアルコキシである。式(DI-34-1)~式(DI-34-3)において、R
40は水素または炭素数1~20のアルキル、好ましくは水素または炭素数1~10のアルキルである。式(DI-34-4)、式(DI-34-5)および式(DI-34-7)において、R
41は水素または炭素数1~12のアルキルである。
【0056】
上記ジアミンおよびジヒドラジドにおいて、各特性を向上させる好適な材料について述べる。
【0057】
液晶の配向性をさらに向上させることを重視する場合には、式(DI-5-1)、式(DI-5-5)、式(DI-5-9)、式(DI-5-12)、式(DI-7-3)、および式(DI-11-2)で表される化合物を用いるのが好ましい。式(DI-5-1)においては、m=2、4または6が好ましく、m=4がより好ましい。式(DI-5-12)においては、m=2~6が好ましく、m=2、5がより好ましい。
【0058】
透過率を向上させることを重視する場合には、式(DI-2-1)、式(DI-5-1)、および式(DI-7-3)で表されるジアミンを用いるのが好ましく、式(DI-2-1)で表される化合物がより好ましい。式(DI-5-1)においては、m=2、4または6のが好ましく、m=4がより好ましい。式(DI-7-3)においては、m=2または3、n=1または2が好ましく、m=3、n=1がより好ましい。
【0059】
液晶表示素子のVHRを向上させることを重視する場合には、式(DI-1-9)、式(DI-2-1)、式(DI-4-1)、式(DI-4-2)、式(DI-4-10)、式(DI-4-15)、式(DI-4-22)、式(DI-5-1)、式(DI-5-28)、式(DI-5-30)、および式(DI-13-1)で表される化合物を用いるのが好ましく、式(DI-2-1)、式(DI-5-1)、および式(DI-13-1)で表されるジアミンがより好ましい。式(DI-5-1)においては、m=1が好ましい。式(DI-5-30)においては、k=2が好ましい。
【0060】
液晶配向膜の体積抵抗値を低下させることにより、配向膜中の残留電荷(残留DC)の緩和速度を向上させることが、焼き付きを防ぐ方法の1つとして有効である。この目的を重視する場合には、式(DI-4-1)、式(DI-4-2)、式(DI-4-10)、式(DI-4-15)、式(DI-5-1)、式(DI-5-12)、式(DI-5-28)、式(DI-4-20)、式(DI-4-21)および式(DI-16-1)で表される化合物を用いるのが好ましく、式(DI-4-1)および式(DI-5-1)で表される化合物がより好ましい。式(DI-5-1)において、m=2、4または6が好ましく、m=4がより好ましい。式(DI-5-12)においては、m=2~6が好ましく、m=5がより好ましい。
【0061】
(原料モノマーにおけるモノマーの配合比)
【0062】
本発明の好ましい形態として、式(1)で表される構造を有するジアミンおよび光反応性構造を有する(感光性)ジアミンを併用する形態が挙げられる。また、本発明では、各種特性を向上させるために、光反応性構造を有さない(非感光性)ジアミンとして、式(1)で表される構造を有するジアミンと、式(1)で表される構造を有するジアミンに包含されない非感光性ジアミンを併用することができる。したがって、本発明のより好ましい形態として、式(1)で表される構造を有するジアミン、感光性ジアミン、および式(1)で表される構造を有するジアミン以外の非感光性ジアミンを併用する形態がある。
【0063】
光反応性構造を有さない(非感光性)ジアミンおよび光反応性構造を有する(感光性)ジアミンを併用する態様においては、配向膜の光に対する感度の低下を防ぐために、原料モノマーにおける感光性ジアミンの含有量は、ジアミンの全量に対して20~97モル%が好ましく、50~97モル%がより好ましく、85~97モル%がさらに好ましい。また、光に対する感度、残像特性等、前述した諸般の特性を改善するために感光性ジアミンを2つ以上併用してもよい。
式(1)で表される構造を有するジアミンの使用量が多い程、液晶配向膜とシール剤との密着性が良くなるが、感光性ジアミンと併用する場合には、より良好な残像特性のために、ある程度感光性ジアミンの使用量を確保することが好ましい。また、各種特性を向上させるために、式(1)で表される構造を有するジアミン以外の非感光性ジアミンを併用する形態もある。すなわち、各モノマーの配合比は、シール剤との密着性と配向性やその他の各種特性が良好に保たれるように調整することが大事である。そのような点から、本発明では、原料モノマーにおける式(1)で表される構造を有するジアミンの含有量を、ジアミンとジヒドラジドの合計量に対して1~15モル%に規定する。ただし、ここで言う「ジアミンとジヒドラジドの合計量」は、原料モノマーにジヒドラジドを含まない場合には「ジアミンの全量」に相当する。原料モノマーにおける式(1)で表される構造を有するジアミンの含有量は、ジアミンとジヒドラジドの合計量に対して3~15モル%がより好ましく、3~10モル%が特に好ましい。
【0064】
(テトラカルボン酸二無水物類、ジアミンおよびジヒドラジド以外のモノマー)
原料モノマーは、さらに、テトラカルボン酸二無水物類、ジアミンおよびジヒドラジド以外のモノマーを含んでいてもよい。そのようなモノマーとして、モノアミンやモノイソシアネート化合物を挙げることができる。
具体的には、各ジアミンにおいて、ジアミンに対するモノアミンの比率が40モル%以下の範囲で、ジアミンの一部がモノアミンに置き換えられていてもよい。このような置き換えは、ポリアミック酸を生成する際の重合反応のターミネーションを起こすことができ、それ以上の重合反応の進行を抑えることができる。このため、このような置き換えによって、得られるポリマー(ポリアミック酸、ポリアミック酸エステルまたはポリイミド)の分子量を容易に制御することができ、例えば本発明の効果が損なわれることなく液晶配向剤の塗布特性を改善することができる。モノアミンに置き換えられるジアミンは、本発明の効果が損なわれなければ、1種でも2種以上でもよい。前記モノアミンとしては、例えばアニリン、4-ヒドロキシアニリン、シクロヘキシルアミン、n-ブチルアミン、n-ペンチルアミン、n-ヘキシルアミン、n-ヘプチルアミン、n-オクチルアミン、n-ノニルアミン、n-デシルアミン、n-ウンデシルアミン、n-ドデシルアミン、n-トリデシルアミン、n-テトラデシルアミン、n-ペンタデシルアミン、n-ヘキサデシルアミン、n-ヘプタデシルアミン、n-オクタデシルアミン、およびn-エイコシルアミンが挙げられる。
【0065】
また、モノイソシアネート化合物を原料モノマーに含むことによって、得られるポリアミック酸またはその誘導体の末端が修飾され、分子量が調節される。この末端修飾型のポリアミック酸またはその誘導体を用いることにより、例えば本発明の効果が損なわれることなく液晶配向剤の塗布特性を改善することができる。原料モノマー中のモノイソシアネート化合物の含有量は、原料モノマー中のジアミンおよびテトラカルボン酸二無水物類の総量に対して1~10モル%であることが、前記の観点から好ましい。前記モノイソシアネート化合物としては、例えばフェニルイソシアネート、およびナフチルイソシアネートが挙げられる。
【0066】
[ポリアミック酸およびその誘導体]
本発明の液晶配向剤は、上記の原料モノマーの反応生成物である、ポリアミック酸およびその誘導体から選ばれる少なくとも1つの重合体を含む。液晶配向剤は、ポリアミック酸およびその誘導体から選ばれる重合体の1つのみを含んでいてもよいし、2つ以上を含んでいてもよい。原料モノマーの説明については、[原料モノマー]の欄の記載を参照することができる。原料モノマーの重合反応においては、原料の選択以外に特別な条件は必要でなく、通常のポリアミック酸合成における条件をそのまま適用することができる。使用する溶剤については後述する。
【0067】
ここで、ポリアミック酸は、例えば下記の式(DI)で表されるジアミンと式(AN)で表されるテトラカルボン酸二無水物類との重合反応により合成されるポリマーであり、式(PAA)で表される繰り返し単位を有する。ポリアミック酸を脱水閉環することで、式(PI)で表される繰り返し単位を有するポリイミド液晶配向膜を形成することができる。ここで、ジアミンとして、式(1)で表される構造の結合位置*にアミノ基が連結した構造を有する化合物を用いることにより、式(1)で表される構造を容易に主鎖のX
2に導入することができる。ジアミンにおけるアミノ基は、式(1)で表される構造の結合位置*に直接結合していてもよいし、2価の連結基を介して連結していてもよい。また、式(II)~式(VII)で表される化合物を原料モノマーに用いることにより、その化合物がジアミンである場合には、主鎖のX
2に光反応性構造が導入され、その化合物がテトラカルボン酸二無水物類である場合には、主鎖のX
1に光反応性構造が導入される。
【化31】
【化32】
【0068】
式(AN)および式(PI)において、X1は4価の有機基であり、式(DI)および式(PI)において、X2は2価の有機基である。
【0069】
ポリアミック酸の誘導体とは、溶剤を含有する後述する液晶配向剤としたときに溶剤に溶解する成分であり、その液晶配向剤を後述する液晶配向膜としたときに、ポリイミドを主成分とする液晶配向膜を形成することができる成分である。このようなポリアミック酸の誘導体としては、例えば可溶性ポリイミド、ポリアミック酸エステル、およびポリアミック酸アミド等が挙げられ、より具体的には1)ポリアミック酸の全てのアミノとカルボキシルとが脱水閉環反応したポリイミド、2)部分的に脱水閉環反応した部分ポリイミド、3)ポリアミック酸のカルボキシルがエステルに変換されたポリアミック酸エステル、4)テトラカルボン酸二無水物化合物に含まれる酸二無水物の一部を有機ジカルボン酸に置き換えて反応させて得られるポリアミック酸-ポリアミドコポリマー、さらに5)該ポリアミック酸-ポリアミドコポリマーの一部または全部を脱水閉環反応させたポリアミドイミドが挙げられる。ポリアミック酸またはその誘導体は、1種の化合物であってもよいし、2種以上であってもよい。
【0070】
ポリイミドは、ポリアミック酸を溶媒中でイミドに転化させ、溶剤可溶性のポリイミドとして用いることができる。また、公知の脱水閉環触媒を使用して化学的に閉環する方法を用いることもできる。加熱による方法は、100~350℃、好ましくは120~300℃の任意の温度で行うことができる。化学的に閉環する方法は、例えば、ピリジンやトリエチルアミン等と、無水酢酸等との存在下で行うことができ、この際の温度は、-20~200℃の任意の温度を選択することができる。このようにして得られたポリイミド溶液は、そのまま使用することもでき、また、メタノール、エタノール及び水等の貧溶媒を加えてポリイミドを沈殿させ、これを単離してポリイミド粉末として、またはそのポリイミド粉末を適当な溶媒に再溶解させて使用することができる。
【0071】
ポリアミック酸エステルは、前述のポリアミック酸と水酸基含有化合物、ハロゲン化物、エポキシ基含有化合物等とを反応させることにより合成する方法や、酸二無水物から誘導されるテトラカルボン酸ジエステルまたはテトラカルボン酸ジエステルジクロライドとジアミンとを反応させる方法により、合成することができる。酸二無水物から誘導されるテトラカルボン酸ジエステルは例えば、酸二無水物を2当量のアルコールと反応させ開環させて得ることができ、テトラカルボン酸ジエステルジクロライドは、テトラカルボン酸ジエステルを2当量の塩素化剤(例えば塩化チオニルなど)と反応させることで得ることができる。なお、ポリアミック酸エステルは、アミック酸エステル構造のみを有していてもよく、アミック酸構造とアミック酸エステル構造とが併存する部分エステル化物であってもよい。ポリアミック酸エステルの繰り返し単位は式(PAE)で表され、例えば、式(DI)で表されるジアミンと式(TD)で表されるテトラカルボン酸ジエステルジクロライドとの重合反応により合成される。
【0072】
【0073】
式(TD)および式(PAE)において、X3は4価の有機基であり、式(DI)および式(PAE)において、X4は2価の有機基であり、式(PAE)および式(TD)において、R1はアルキルである。
なお、ポリアミック酸およびポリアミック酸エステルの合成においては、ジアミンの代わりにジヒドラジドを用いることもできる。
【0074】
液晶配向剤に用いるポリアミック酸およびその誘導体から選択される重合体は、重量平均分子量が7000~40000であることが好ましく、8000~35000であることがより好ましく、9000~20000であることがさらに好ましい。
重合体の重量平均分子量は、ポリスチレンを標準物質に用いるゲル浸透クロマトグラフィー法により測定することができる。具体的な測定条件については、実施例の欄の重量平均分子量の測定方法についての記載を参照することができる。
【0075】
[液晶配向剤のその他の成分]
本発明の液晶配向剤は、本発明で規定する所定のポリアミック酸およびその誘導体以外の成分(その他の成分)をさらに含有していてもよい。その他の成分は、1種であっても2種以上であってもよい。その他の成分として、例えば後述するその他の重合体や化合物、添加剤、溶剤などが挙げられる。
【0076】
(その他の重合体)
その他の重合体としては、式(1)で表される構造を有するジアミンを含まない原料モノマーを反応させて得られるポリアミック酸またはその誘導体(以下、“その他のポリアミック酸またはその誘導体”という。)、ポリエステル、ポリアミド、ポリシロキサン、セルロース誘導体、ポリアセタール、ポリスチレン誘導体、ポリ(スチレン-フェニルマレイミド)誘導体、ポリ(メタ)アクリレートなどを挙げる事ができる。1種であっても2種以上であってもよい。これらのうち、その他のポリアミック酸またはその誘導体およびポリシロキサンが好ましく、その他のポリアミック酸またはその誘導体がより好ましい。
【0077】
ブレンド系配向剤
本明細書中では、複数の重合体を併用する液晶配向剤のうち、2成分の重合体を用いる様態を、ブレンド系配向剤と称することがある。
このような2成分の重合体を用いる場合、例えば、一方には液晶配向能に優れた性能を有する重合体を選択し、他方には液晶表示素子の電気的特性を改善するのに優れた性能を有する重合体を選択する態様がある。この場合、それぞれの重合体の構造や分子量を制御することにより、これらの重合体を溶剤に溶解した液晶配向剤を、後述するように、基板に塗布し、予備乾燥を行って薄膜を形成する過程で、液晶配向能に優れた性能を有する重合体を薄膜の上層に、液晶表示素子の電気的特性を改善するのに優れた性能を有する重合体を薄膜の下層に偏析させることができる。これには、混在する重合体において、表面エネルギーの小さな重合体が上層に、表面エネルギーの大きな重合体が下層に分離する現象を応用することができる。このような層分離の確認は、形成された配向膜の表面エネルギーが、上層に偏析させることを意図した重合体のみを含有する液晶配向剤によって形成された膜の表面エネルギーと同じか、または近い値であることで確認することができる。
【0078】
層分離を発現させる方法として、上層に偏析させたい重合体の分子量を小さくすることも挙げられる。
【0079】
ポリアミック酸およびその誘導体同士の混合からなる液晶配向剤では、上層に偏析させたい重合体をポリイミドとすることで層分離を発現させることもできる。
【0080】
本発明の液晶配向剤をブレンド系配向剤として構成する場合、本発明で規定する所定のポリアミック酸またはその誘導体から選択される重合体と組み合わせるその他の重合体は、式(1)で表される構造および式(II)~式(VII)で表される構造を共に含まないモノマーから得られたポリアミック酸またはその誘導体であることが好ましい。所定のポリアミック酸またはその誘導体は、薄膜の上層と下層どちらに偏析させてもよいが、シール剤との密着性をより高めるためには、上層に偏析させることが好ましい。
所定のポリアミック酸またはその誘導体を、薄膜の上層に偏析させる場合、そのポリアミック酸またはその誘導体を合成するために用いられるテトラカルボン酸二無水物類としては、上記に例示した感光性テトラカルボン酸二無水物類および非感光性テトラカルボン酸二無水物類から選択することができる。
【0081】
薄膜の上層に偏析するポリアミック酸またはその誘導体を合成するために用いられるテトラカルボン酸二無水物類は、式(AN-1-1)、式(AN-4-17)、および式(PAN-1)で表される化合物が好ましく、式(AN-4-17)がより好ましい。式(AN-4-17)においては、m=4または8が好ましく、m=8がより好ましい。
【0082】
薄膜の上層に偏析するポリアミック酸またはその誘導体を合成するために用いられるジアミンおよびジヒドラジドとしては、上記に例示した式(1)で表される構造を有するジアミン、感光性ジアミン、式(1)で表される構造を有するジアミン以外の非感光性ジアミンおよびジヒドラジドから選択することができる。ただし、ジアミンの少なくとも1つは、式(1)で表される構造を有するジアミンである。また、テトラカルボン酸二無水物類およびジアミンの少なくとも1つは、式(II)~式(VII)のいずれかで表される感光性化合物である。
【0083】
薄膜の上層に偏析するポリアミック酸またはその誘導体を合成するために用いられるジアミンおよびジヒドラジドとしては、式(DI-4-1)、式(DI-5-1)、および式(DI-7-3)で表される化合物を用いるのが好ましい。中でも式(DI-5-1)において、m=1、2または4が好ましく、m=4がより好ましい。式(DI-7-3)においてはm=3、n=1が好ましい。
【0084】
薄膜の上層に偏析するポリアミック酸またはその誘導体を合成するために用いられる非感光性ジアミンは、ジアミンの全量中芳香族ジアミンを30モル%以上含むことが好ましく、50モル%以上含むことがより好ましい。
【0085】
前述の光反応性構造を有する酸二無水物およびジアミンは薄膜の上層に偏析するポリアミック酸またはその誘導体を合成するために好適に用いられる。
【0086】
薄膜の下層に偏析するポリアミック酸またはその誘導体を合成するために用いられるテトラカルボン酸二無水物類としては、上記に例示した公知のテトラカルボン酸二無水物類から制限されることなく選択することができる。
【0087】
薄膜の下層に偏析するポリアミック酸またはその誘導体を合成するために用いられるテトラカルボン酸二無水物類としては、式(AN-3-2)、式(AN-1-13)、式(AN-1-1)、式(PAN-1)および式(AN-4-21)で表される化合物が好ましく、式(AN-1-1)、および式(AN-3-2)がより好ましい。
【0088】
薄膜の下層に偏析するポリアミック酸またはその誘導体を合成するために用いられるテトラカルボン酸二無水物類は、テトラカルボン酸二無水物類の全量中芳香族テトラカルボン酸二無水物を10モル%以上含むことが好ましく、30モル%以上含むことがより好ましい。
【0089】
薄膜の下層に偏析するポリアミック酸またはその誘導体を合成するために用いられるジアミンおよびジヒドラジドとしては、上記に例示した公知のジアミンおよびジヒドラジドから制限されることなく選択することができる。
【0090】
薄膜の下層に偏析するポリアミック酸またはその誘導体を合成するために用いられるジアミンおよびジヒドラジドとしては、式(DI-4-1)、式(DI-4-2)、式(DI-4-10)、式(DI-4-18)、式(DI-4-19)、式(DI-5-9)、式(DI-5-28)、式(DI-5-30)、および式(DIH-2-1)で表される化合物が好ましい。中でも式(DI-5-30)において、k=2であるジアミンが好ましい。
【0091】
薄膜の下層に偏析するポリアミック酸またはその誘導体を合成するために用いられるジアミンは、芳香族ジアミンを、全ジアミンに対して、30モル%以上含むものである事が好ましく、50モル%以上含むものであることがより好ましい。
【0092】
薄膜の上層に偏析するポリアミック酸またはその誘導体、および薄膜の下層に偏析するポリアミック酸またはその誘導体は共に、それぞれ、本発明の液晶配向剤の必須成分であるポリアミック酸またはその誘導体の合成方法として下記に記載したところに準じて合成することができる。
【0093】
薄膜の上層に偏析するポリアミック酸またはその誘導体、および薄膜の下層に偏析するポリアミック酸またはその誘導体の合計量に対する薄膜の上層に偏析するポリアミック酸またはその誘導体の割合としては、5重量%~50重量%が好ましく、10重量%~40重量%がさらに好ましい。
【0094】
前記ポリシロキサンとしては、特開2009-036966号公報、特開2010-185001号公報、特開2011-102963号公報、特開2011-253175号公報、特開2012-159825号公報、国際公開2008/044644号パンフレット、国際公開2009/148099号パンフレット、国際公開2010/074261号パンフレット、国際公開2010/074264号パンフレット、国際公開2010/126108号パンフレット、国際公開2011/068123号パンフレット、国際公開2011/068127号パンフレット、国際公開2011/068128号パンフレット、国際公開2012/115157号パンフレット、国際公開2012/165354号パンフレット等に開示されているポリシロキサンをさらに含有することができる。
【0095】
(アルケニル置換ナジイミド化合物)
例えば、本発明の液晶配向剤は、液晶表示素子の電気特性を長期に安定させる目的から、アルケニル置換ナジイミド化合物をさらに含有していてもよい。アルケニル置換ナジイミド化合物は1種で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。アルケニル置換ナジイミド化合物の含有量は、上記の目的から、ポリアミック酸またはその誘導体に対して1~100重量%であることが好ましく、1~70重量%であることがより好ましく、1~50重量%であることがさらに好ましい。
【0096】
アルケニル置換ナジイミド化合物は、本発明で用いられるポリアミック酸またはその誘導体を溶解する溶剤に溶解させることができる化合物であることが好ましい。このようなアルケニル置換ナジイミド化合物として、例えば、特開2013-242526号公報等に開示されているアルケニル置換ナジイミド化合物を挙げることができる。好ましいアルケニル置換ナジイミド化合物としては、ビス{4-(アリルビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2,3-ジカルボキシイミド)フェニル}メタン、N,N’-m-キシリレン-ビス(アリルビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2,3-ジカルボキシイミド)、N,N’-ヘキサメチレン-ビス(アリルビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2,3-ジカルボキシイミド)が挙げられる。
【0097】
(ラジカル重合性不飽和二重結合を有する化合物)
例えば、本発明の液晶配向剤は、液晶表示素子の電気特性を長期に安定させる目的から、ラジカル重合性不飽和二重結合を有する化合物をさらに含有していてもよい。ラジカル重合性不飽和二重結合を有する化合物は1種の化合物であってもよいし、2種以上の化合物であってもよい。なお、ラジカル重合性不飽和二重結合を有する化合物にはアルケニル置換ナジイミド化合物は含まれない。ラジカル重合性不飽和二重結合を有する化合物の含有量は、上記の目的から、ポリアミック酸またはその誘導体に対して1~100重量%であることが好ましく、1~70重量%であることがより好ましく、1~50重量%であることがさらに好ましい。
【0098】
なお、アルケニル置換ナジイミド化合物に対するラジカル重合性不飽和二重結合を有する化合物の比率は、液晶表示素子のイオン密度を低減し、イオン密度の経時的な増加を抑制し、さらに残像の発生を抑制するために、ラジカル重合性不飽和二重結合を有する化合物/アルケニル置換ナジイミド化合物が重量比で0.1~10であることが好ましく、0.5~5であることがより好ましい。
【0099】
好ましいラジカル重合性不飽和二重結合を有する化合物としては、例えば、特開2013-242526号公報等に開示されているラジカル重合性不飽和二重結合を有する化合物を挙げることができる。
【0100】
(オキサジン化合物)
例えば、本発明の液晶配向剤は、液晶表示素子における電気特性を長期に安定させる目的から、オキサジン化合物をさらに含有していてもよい。オキサジン化合物は1種の化合物であってもよいし、2種以上の化合物であってもよい。オキサジン化合物の含有量は、上記の目的から、ポリアミック酸またはその誘導体に対して0.1~50重量%であることが好ましく、1~40重量%であることがより好ましく、1~20重量%であることがさらに好ましい。
【0101】
オキサジン化合物は、ポリアミック酸またはその誘導体を溶解させる溶媒に可溶であり、加えて、開環重合性を有するオキサジン化合物が好ましい。好ましいオキサジン化合物としては、例えば、式(OX-3-1)、式(OX-3-9)で表されるオキサジン化合物や、特開2013-242526号公報等に開示されているオキサジン化合物を挙げることができる。
【化34】
【0102】
(オキサゾリン化合物)
例えば、本発明の液晶配向剤は、液晶表示素子における電気特性を長期に安定させる目的から、オキサゾリン化合物をさらに含有していてもよい。オキサゾリン化合物はオキサゾリン構造を有する化合物である。オキサゾリン化合物は1種の化合物であってもよいし、2種以上の化合物であってもよい。オキサゾリン化合物の含有量は、上記の目的から、ポリアミック酸またはその誘導体に対して0.1~50重量%であることが好ましく、1~40重量%であることがより好ましく、1~20重量%であることがさらに好ましい。または、オキサゾリン化合物の含有量は、オキサゾリン化合物中のオキサゾリン構造をオキサゾリンに換算したときに、ポリアミック酸またはその誘導体に対して0.1~40重量%であることが、上記の目的から好ましい。
【0103】
オキサゾリン化合物としては、例えば、特開2013-242526号公報等に開示されているオキサゾリン化合物を挙げることできる。好ましいオキサゾリン化合物としては、1,3-ビス(4,5-ジヒドロ-2-オキサゾリル)ベンゼンが挙げられる。
【0104】
(エポキシ化合物)
例えば、本発明の液晶配向剤は、液晶表示素子における電気特性を長期に安定させる目的から、エポキシ化合物をさらに含有していてもよい。エポキシ化合物は1種の化合物であってもよいし、2種以上の化合物であってもよい。エポキシ化合物の含有量は、上記の目的から、ポリアミック酸またはその誘導体に対して0.1~50重量%であることが好ましく、1~40重量%であることがより好ましく、1~20重量%であることがさらに好ましい。
【0105】
エポキシ化合物としては、例えば、特開2013-242526号公報等に開示されているエポキシ化合物を挙げることができる。好ましいエポキシ化合物としては、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、(3,3’,4,4’-ジエポキシ)ビシクロヘキシルが挙げられる。
【0106】
(添加剤)
また例えば、本発明の液晶配向剤は各種添加剤をさらに含有していてもよい。各種添加剤としては、例えばポリアミック酸およびその誘導体以外の高分子化合物、および低分子化合物が挙げられ、それぞれの目的に応じて選択して使用することができる。
【0107】
例えば、前記高分子化合物としては、有機溶媒に可溶性の高分子化合物が挙げられる。このような高分子化合物を本発明の液晶配向剤に添加することは、形成される液晶配向膜の電気特性や配向性を制御する観点から好ましい。該高分子化合物としては、例えばポリアミド、ポリウレタン、ポリウレア、ポリエステル、ポリエポキサイド、ポリエステルポリオール、シリコーン変性ポリウレタン、およびシリコーン変性ポリエステルが挙げられる。
【0108】
また、前記低分子化合物としては、例えば1)塗布性の向上を望むときにはかかる目的に沿った界面活性剤、2)帯電防止の向上を必要とするときは帯電防止剤、3)基板との密着性の向上を望むときにはシランカップリング剤やチタン系のカップリング剤、また、4)低温でイミド化を進行させる場合はイミド化触媒、が挙げられる。
【0109】
シランカップリング剤としては、例えば、特開2013-242526号公報等に開示されているシランカップリング剤を挙げることができる。好ましいシランカップリング剤としては、3-アミノプロピルトリエトキシシランが挙げられる。また、イミド化触媒としては、特開2013-242526号公報等に開示されているイミド化触媒を挙げることができる。
【0110】
シランカップリング剤の添加量は、通常、ポリアミック酸またはその誘導体の総重量の0~20重量%であり、0.1~10重量%であることが好ましい。
【0111】
イミド化触媒の添加量は、通常、ポリアミック酸またはその誘導体のカルボニルに対して0.01~5当量であり、0.05~3当量であることが好ましい。
【0112】
その他の添加剤の添加量は、その用途に応じて異なるが、通常、ポリアミック酸またはその誘導体の総重量の0~100重量%であり、0.1~50重量%であることが好ましい。
【0113】
(溶剤)
また例えば、本発明の液晶配向剤は、液晶配向剤の塗布性や前記ポリアミック酸またはその誘導体の濃度の調整の観点から、溶剤をさらに含有していてもよい。前記溶剤は、高分子成分を溶解する能力を持った溶剤であれば格別制限なく適用可能である。前記溶剤は、ポリアミック酸、可溶性ポリイミド等の高分子成分の製造工程や用途面で通常使用されている溶剤を広く含み、使用目的に応じて、適宜選択できる。前記溶剤は1種でも2種以上の混合溶剤であってもよい。
【0114】
溶剤としては、前記ポリアミック酸またはその誘導体の親溶剤や、塗布性改善を目的とした他の溶剤が挙げられる。
【0115】
ポリアミック酸またはその誘導体に対し親溶剤である非プロトン性極性有機溶剤としては、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、ジメチルイミダゾリジノン、N-メチルカプロラクタム、N-メチルプロピオンアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、ジエチルアセトアミド、γ-ブチロラクトン等のラクトンが挙げられる。
【0116】
塗布性改善等を目的とした他の溶剤の例としては、乳酸アルキル、3-メチル-3-メトキシブタノール、テトラリン、イソホロン、フェニルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテル等のエチレングリコールモノアルキルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル等のジエチレングリコールモノアルキルエーテル、トリエチレングリコールモノアルキルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル等のプロピレングリコールモノアルキルエーテル、マロン酸ジエチル等のマロン酸ジアルキル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル等のジプロピレングリコールモノアルキルエーテル、これらのアセテート類等のエステル化合物、ジイソブチルケトンなどのケトン化合物が挙げられる。
【0117】
これらの中で、前記溶剤は、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルイミダゾリジノン、γ-ブチロラクトン、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、およびジイソブチルケトンが特に好ましい。
【0118】
[ポリアミック酸およびその誘導体から選択される重合体の濃度]
ポリアミック酸およびその誘導体から選択される重合体の、液晶配向剤中の濃度は0.1~40重量%であることが好ましい。この配向剤を基板に塗布するときには、膜厚の調整のために、含有されているポリアミック酸およびその誘導体を予め溶剤により希釈する操作が必要とされることがある。
【0119】
本発明の液晶配向剤における固形分濃度は特に限定されるものではなく、下記の種々の塗布法に合わせ最適な値を選べばよい。通常、塗布時のムラやピンホール等を抑えるため、ワニス重量に対し、好ましくは0.1~30重量%、より好ましくは1~10重量%である。
【0120】
[液晶配向剤の粘度]
本発明の液晶配向剤の粘度は、塗布する方法、ポリアミック酸またはその誘導体の濃度、使用するポリアミック酸またはその誘導体の種類、溶剤の種類と割合によって好ましい範囲が異なる。例えば、印刷機による塗布の場合、5~100mPa・sの範囲であると、十分な膜厚が得られ、印刷ムラが大きくなることを防ぐことができるため好ましく、10~80mPa・sであることがより好ましい。スピンコートによる塗布の場合は5~200mPa・s(より好ましくは10~100mPa・s)が適している。インクジェット塗布装置を用いて塗布する場合は5~50mPa・s(より好ましくは5~20mPa・s)が適している。液晶配向剤の粘度は回転粘度測定法により測定され、例えば回転粘度計(東機産業製TVE-20L型)を用いて測定(測定温度:25℃)される。
【0121】
液晶配向膜
次に、本発明の液晶配向膜について説明する。
本発明の液晶配向膜は、本発明の光配向用液晶配向剤によって形成されたものである。本発明の光配向用液晶配向剤の説明と好ましい範囲、具体例については、<光配向用液晶配向剤>の欄の記載を参照することができる。
本発明の液晶配向膜について詳細に説明する。本発明の液晶配向膜は、前述した本発明の液晶配向剤の塗膜を加熱することによって形成される膜である。本発明の液晶配向膜は、液晶配向剤から液晶配向膜を作製する通常の方法によって得ることができる。例えば本発明の液晶配向膜は、本発明の液晶配向剤の塗膜を形成する工程と、加熱乾燥する工程と、加熱焼成する工程を経ることによって得ることができる。本発明の液晶配向膜については、必要に応じて後述の通り、塗膜工程、加熱乾燥工程の後に光を照射して、または加熱焼成工程の後に光を照射して異方性を付与してもよい。
【0122】
塗膜は、通常の液晶配向膜の作製と同様に、液晶表示素子における基板に本発明の液晶配向剤を塗布することによって形成することができる。基板には、ITO(IndiumTinOxide)、IZO(In2O3-ZnO)、IGZO(In-Ga-ZnO4)電極等の電極やカラーフィルタ等が設けられていてもよいガラス製、窒化ケイ素製、アクリル製、ポリカーボネート製、ポリイミド製等の基板が挙げられる。
【0123】
液晶配向剤を基板に塗布する方法としてはスピンナー法、印刷法、ディッピング法、滴下法、インクジェット法等が一般に知られている。これらの方法は本発明においても同様に適用可能である。
【0124】
前記加熱乾燥工程は、オーブンまたは赤外炉の中で加熱処理する方法、ホットプレート上で加熱処理する方法等が一般に知られている。加熱乾燥工程は溶剤の蒸発が可能な範囲内の温度で実施することが好ましく、加熱焼成工程における温度に対して比較的低い温度で実施することがより好ましい。具体的には加熱乾燥温度は30℃~150℃の範囲であること、さらには50℃~120℃の範囲であることが好ましい。
【0125】
前記加熱焼成工程は、前記ポリアミック酸またはその誘導体が脱水・閉環反応を呈するのに必要な条件で行うことができる。前記塗膜の焼成は、オーブンまたは赤外炉の中で加熱処理する方法、ホットプレート上で加熱処理する方法等が一般に知られている。これらの方法も本発明において同様に適用可能である。一般に100~300℃程度の温度で1分間~3時間行うことが好ましく、120~280℃がより好ましく、150~250℃がさらに好ましい。また、異なる温度で複数回加熱焼成することができる。異なる温度に設定された複数の加熱装置を用いてもよいし、1台の加熱装置を用いて、異なる温度に順次変化させながら行ってもよい。異なる温度で2回加熱焼成を行う場合、1回目は90~180℃、2回目は185℃以上の温度で行うのが好ましい。また、低温度から高温へと温度を変化させて焼成することができる。温度を変化させて焼成を行なう場合、初期温度は90~180℃が好ましい。最終温度は185~300℃が好ましく、190~230℃がより好ましい。
【0126】
光配向法による本発明の液晶配向膜の形成方法について、詳細に説明する。光配向法を用いた本発明の液晶配向膜は、塗膜を加熱乾燥した後、放射線の直線偏光または無偏光を照射することにより、塗膜に異方性を付与し、その膜を加熱焼成することにより形成することができる。または、塗膜を加熱乾燥し、加熱焼成した後に、放射線の直線偏光または無偏光を照射することにより形成する事ができる。配向性の点から、放射線の照射工程は加熱焼成工程前に行うのが好ましい。
【0127】
さらに、液晶配向膜の液晶配向能を上げるために、塗膜を加熱しながら放射線の直線偏光または無偏光を照射することもできる。放射線の照射は、塗膜を加熱乾燥する工程、または加熱焼成する工程で行ってもよく、加熱乾燥工程と加熱焼成工程の間に行ってもよい。該工程における加熱乾燥温度は、30℃~150℃の範囲であること、さらには50℃~120℃の範囲であることが好ましい。また該工程における加熱焼成温度は、30℃~300℃の範囲であること、さらには50℃~250℃の範囲であることが好ましい。
【0128】
放射線としては、例えば150~800nmの波長の光を含む紫外線または可視光を用いることができるが、250~400nmの光を含む紫外線が好ましい。また、直線偏光または無偏光を用いることができる。これらの光は、前記塗膜に液晶配向能を付与することができる光であれば特に限定されないが、液晶に対して強い配向規制力を発現させたい場合、直線偏光が好ましい。
【0129】
本発明の液晶配向膜は、低エネルギーの光照射でも高い液晶配向能を示すことができる。前記放射線照射工程における直線偏光の照射量は0.05~20J/cm2であることが好ましく、0.5~10J/cm2がより好ましい。また直線偏光の波長は200~400nmであることが好ましく、250~400nmであることがより好ましい。直線偏光の膜表面に対する照射角度は特に限定されないが、液晶に対する強い配向規制力を発現させたい場合、膜表面に対してなるべく垂直であることが配向処理時間短縮の観点から好ましい。また、本発明の液晶配向膜は、直線偏光を照射することにより、直線偏光の偏光方向に対して垂直な方向に液晶を配向させることができる。
【0130】
放射線の直線偏光または無偏光を照射する工程に使用する光源には、超高圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、Deep UVランプ、ハロゲンランプ、メタルハライドランプ、ハイパワーメタルハライドランプ、キセノンランプ、水銀キセノンランプ、エキシマランプ、KrFエキシマレーザー、蛍光ランプ、LEDランプ、ナトリウムランプ、マイクロウェーブ励起無電極ランプ、などを制限なく用いることができる。
【0131】
本発明の液晶配向膜は、前述した工程以外の他の工程をさらに含む方法によって好適に得られる。例えば、本発明の液晶配向膜は焼成後の膜を洗浄液で洗浄する工程は必須としないが、他の工程の都合で洗浄工程を設けることができる。
【0132】
洗浄液による洗浄方法としては、ブラッシング、ジェットスプレー、蒸気洗浄または超音波洗浄等が挙げられる。これらの方法は単独で行ってもよいし、併用してもよい。洗浄液としては純水または、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール等の各種アルコール類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、塩化メチレン等のハロゲン系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類を用いることができるが、これらに限定されるものではない。もちろん、これらの洗浄液は十分に精製された不純物の少ないものが用いられる。このような洗浄方法は、本発明の液晶配向膜の形成における前記洗浄工程にも適用することができる。
【0133】
本発明の液晶配向膜の液晶配向能を高めるために、加熱焼成工程の前後に、熱や光によるアニール処理を用いることができる。該アニール処理において、アニール温度が30~180℃、好ましくは50~150℃であり、時間は1分~2時間が好ましい。また、アニール処理に使用するアニール光には、UVランプ、蛍光ランプ、LEDランプなどが挙げられる。光の照射量は0.3~10J/cm2であることが好ましい。
【0134】
本発明の液晶配向膜の膜厚は、特に限定されないが、10~300nmであることが好ましく、30~150nmであることがより好ましい。本発明の液晶配向膜の膜厚は、段差計やエリプソメータ等の公知の膜厚測定装置によって測定することができる。
【0135】
本発明の液晶配向膜は特に大きな配向の異方性を持つことを特徴とする。このような異方性の大きさは特開2005-275364号公報等に記載の偏光IRを用いた方法で評価する事ができる。また以下に示すようにエリプソメトリーを用いた方法によっても評価することができる。詳しくは、分光エリプソメータによって液晶配向膜のリタデーション値を測定することができる。膜のリタデーション値はポリマー主鎖の配向度に比例して大きくなる。すなわち、大きなリタデーション値を持つものは、大きな配向度を持ち、液晶配向膜として使用した場合、より大きな異方性を持つ配向膜が液晶組成物に対し大きな配向規制力を持つと考えられる。
【0136】
本発明の液晶配向膜は横電界方式の液晶表示素子に好適に用いることができる。横電界方式の液晶表示素子に用いる場合、Pt角が小さいほど、また液晶配向能が高いほど暗状態での黒表示レベルは高くなり、コントラストが向上する。Pt角は1.5°以下が望ましく、1.2°以下がより望ましい。
【0137】
本発明の液晶配向膜は、スマートフォン、タブレット、車載モニター、テレビ等、液晶ディスプレイ用の液晶組成物の配向制御に用いることができる。液晶ディスプレイ用の液晶組成物の配向用途以外に、光学補償材やその他すべての液晶材料の配向制御に用いることができる。また本発明の配向膜は大きな異方性を有するので、単独で光学補償材用途に使用することができる。
【0138】
液晶表示素子
本発明の液晶表示素子は、本発明の液晶配向膜を有するものである。
本発明の液晶配向膜の説明については、<液晶配向膜>の欄の記載を参照することができる。
本発明の液晶表示素子について詳細に説明する。本発明は、対向配置されている一対の基板と、前記一対の基板それぞれの対向している面の一方または両方に形成されている電極と、前記一対の基板それぞれの対向している面に形成された液晶配向膜と、前記一対の基板間に形成された液晶層とを有する液晶表示素子において、前記液晶配向膜が本発明の配向膜である液晶表示素子を提供する。
【0139】
前記電極は、基板の一面に形成される電極であれば特に限定されない。このような電極には、例えばITOや金属の蒸着膜等が挙げられる。また電極は、基板の一方の面の全面に形成されていてもよいし、例えばパターン化されている所望の形状に形成されていてもよい。電極の前記所望の形状には、例えば櫛型またはジグザグ構造等が挙げられる。電極は、一対の基板のうちの一方の基板に形成されていてもよいし、両方の基板に形成されていてもよい。電極の形成の形態は液晶表示素子の種類に応じて異なり、例えばIPS型液晶表示素子の場合は前記一対の基板の一方に電極が配置され、その他の液晶表示素子の場合は前記一対の基板の双方に電極が配置される。前記基板または電極の上に前記液晶配向膜が形成される。
【0140】
前記液晶層は、液晶配向膜が形成された面が対向している前記一対の基板によって液晶組成物が挟持される形で形成される。液晶層の形成では、微粒子や樹脂シート等の、前記一対の基板の間に介在して適当な間隔を形成するスペーサを必要に応じて用いることができる。
【0141】
液晶層の形成方法としては、例えば、真空注入法やODF(One Drop Fill)法を用いることができる。基板の張り合わせに用いられるシール剤としては、例えば、UV硬化型や熱硬化型のシール剤を用いることができる。シール剤の印刷には、例えば、スクリーン印刷法を用いることができる。
【0142】
液晶組成物には、特に制限はなく、誘電率異方性が正または負の各種の液晶組成物を用いることができる。誘電率異方性が正の好ましい液晶組成物には、特許3086228号公報、特許2635435号公報、特表平5-501735号公報、特開平8-157826号公報、特開平8-231960号公報、特開平9-241644号公報(EP885272A1)、特開平9-302346号公報(EP806466A1)、特開平8-199168号公報(EP722998A1)、特開平9-235552号公報、特開平9-255956号公報、特開平9-241643号公報(EP885271A1)、特開平10-204016号公報(EP844229A1)、特開平10-204436号公報、特開平10-231482号公報、特開2000-087040号公報、特開2001-48822号公報等に開示されている液晶組成物が挙げられる。
【0143】
前記負の誘電率異方性を有する液晶組成物の好ましい例として、特開昭57-114532号公報、特開平2-4725号公報、特開平4-224885号公報、特開平8-40953号公報、特開平8-104869号公報、特開平10-168076号公報、特開平10-168453号公報、特開平10-236989号公報、特開平10-236990号公報、特開平10-236992号公報、特開平10-236993号公報、特開平10-236994号公報、特開平10-237000号公報、特開平10-237004号公報、特開平10-237024号公報、特開平10-237035号公報、特開平10-237075号公報、特開平10-237076号公報、特開平10-237448号公報(EP967261A1)、特開平10-287874号公報、特開平10-287875号公報、特開平10-291945号公報、特開平11-029581号公報、特開平11-080049号公報、特開2000-256307号公報、特開2001-019965号公報、特開2001-072626号公報、特開2001-192657、特開2010-037428号公報、国際公開2011/024666号パンフレット、国際公開2010/072370号パンフレット、特表2010-537010号公報、特開2012-077201号公報、特開2009-084362号公報等に開示されている液晶組成物が挙げられる。誘電率異方性が正または負の液晶組成物に1種以上の光学活性化合物を添加して使用することも何ら差し支えない。
【0144】
また例えば、本発明の液晶表示素子に用いる液晶組成物は、例えば配向性を向上させる観点から、添加物をさらに添加してもよい。このような添加物は、光重合性モノマー、光学活性な化合物、酸化防止剤、紫外線吸収剤、色素、消泡剤、重合開始剤、重合禁止剤などである。好ましい光重合性モノマー、光学活性な化合物、酸化防止剤、紫外線吸収剤、色素、消泡剤、重合開始剤、重合禁止剤には、国際公開2015/146330号パンフレット等に開示されている化合物が挙げられる。
【0145】
PSA(polymer sustained alignment)モードの液晶表示素子に適合させるために重合可能な化合物を液晶組成物に混合することができる。重合可能な化合物の好ましい例はアクリレート、メタクリレート、ビニル化合物、ビニルオキシ化合物、プロペニルエーテル、エポキシ化合物(オキシラン、オキセタン)、ビニルケトンなどの重合可能な基を有する化合物である。好ましい化合物には、国際公開2015/146330号パンフレット等に開示されている化合物が挙げられる。
【実施例】
【0146】
以下、本発明を実施例により説明する。なお、実施例において用いる評価法および化合物は次の通りである。
【0147】
1.重量平均分子量(Mw)
ポリアミック酸の重量平均分子量は、2695セパレーションモジュール・2414示差屈折計(Waters製)を用いてGPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)法により測定し、ポリスチレン換算することにより求めた。得られたポリアミック酸をリン酸-DMF(N,N-ジメチルホルムアミド)混合溶液(リン酸/DMF=0.6/100:重量比)で、ポリアミック酸濃度が約2重量%になるように希釈した。カラムはHSPgel RT MB-M(Waters製)を使用し、前記混合溶液を展開剤として、カラム温度50℃、流速0.40mL/minの条件で測定を行った。標準ポリスチレンは東ソー(株)製TSK標準ポリスチレンを用いた。
2.シール密着性評価
後述するシール密着性測定用サンプルを島津製作所製の卓上形精密万能試験機AGS-X 500Nに上下基板の端を固定し、基板中央の上部から押し込みを行い、剥離する際の圧力(N)を測定した。そして、計測したシール剤の直径より見積もった面積(cm2)で圧力(N)除して、密着強度(N/cm2)を算出した。密着強度の数値が大きい程、高いシール剤との密着性を有していると言える。算出した密着強度を、基準となるポリマーの密着強度で除して、各ポリマーのシール密着性を比較した。
【0148】
3.評価・コントラストの評価
AC残像は国際公開2000/43833号パンフレットに記載の方法に従って測定した。
具体的には、作製した液晶セルの輝度-電圧特性(B-V特性)を測定し、これをストレス印加前の輝度-電圧特性:B(before)とした。次に、液晶セルに4.5V、60Hzの交流を20分間印加した後、1秒間ショートし、再び輝度-電圧特性(B-V特性)を測定した。これをストレス印加後の輝度-電圧特性:B(after)とした。ここでは、測定した各輝度-電圧特性の電圧1.3Vにおける輝度を用い、下記式にて輝度変化率ΔB(%)を求めた。ΔB(%)の値が小さいほど、AC残像の発生を抑制できること、すなわち液晶配向性が良好であることを意味する。ΔB(%)が3%未満であると、特に良好な液晶配向性と言える。
ΔB(%)={[B(after)-B(before)]/B(before)}×100
液晶配向性の評価の基準を下記に示す。
ΔB(%)が1.5%未満:1
ΔB(%)が1.5%以上2.0%未満:2
ΔB(%)が2.0%以上3.0%未満:3
ΔB(%)が3.0%以上6.0%未満:4
ΔB(%)が6.0%以上:5
また、ストレス印加前のB-V特性における最小輝度と最大輝度の比を用いてコントラスト(CR)を求めた。CRの値が大きいほど、明暗表示が鮮明であることを意味する。
CR=B(before)max/B(before)min
式において、B(before)maxはストレス印加前のB-V特性における最大輝度を示し、B(before)minはストレス印加前のB-V特性における最小輝度を示す。
コントラスト(CR)は下の基準で評価した。
CRが3500以上:◎
CRが3250以上3500未満:〇
CRが3000以上3250未満:△
CRが3000未満:×
【0149】
4.VHR信頼性評価
液晶表示素子の電圧保持率(VHR)は、「水嶋他、第14回液晶討論会予稿集p78(1988)」に記載の方法に従い、60℃で、波高±5Vの矩形波をセルに印加して測定した。電圧保持率は、印加した電圧がフレーム周期後どの程度保持されているかを示す指標であり、この値が100%であれば、全ての電荷が保持されていることを意味する。VHR信頼性は、上記セルをLEDバックライトに300時間暴露した後再度VHRを測定し、下記式を用いてVHR低下率を算出することで評価した。VHR低下率が小さいほど、製膜された配向膜の光ストレスに対する信頼性が高いことを意味する。
VHR低下率(%)=(暴露後VHR-初期VHR)÷初期VHR×100
式において、初期VHRはLEDバックライトに暴露する前のVHRを示し、暴露後VHRはLEDバックライトに300時間暴露した後のVHRを示す。
VHR信頼性は、以下の基準で評価した。
VHR低下率(%)が2%未満:◎
VHR低下率(%)が2%以上3%未満:〇
VHR低下率(%)3%以上6%未満:△
VHR低下率(%)6%以上:×
【0150】
本実施例で使用したテトラカルボン酸二無水物類、ジアミン、ジヒドラジドおよび溶剤を以下に示す。
<テトラカルボン酸二無水物類>
【化35】
【0151】
【0152】
<ジアミンおよびジヒドラジド>
式(1)で表される構造を有するジアミン
【化37】
【0153】
式(1)で表される構造を有するジアミン以外の非感光性ジアミンおよびジヒドラジド
【化38】
【化39】
【化40】
上記式中、Bocはt-ブトキシカルボニルを表し、e、k、m、vについては、表1~表3中に値を記載した。
【0154】
【0155】
<溶剤>
NMP: N-メチル-2-ピロリドン
BC: ブチルセロソルブ(エチレングリコールモノブチルエーテル)
GBL: γ-ブチロラクトン
【0156】
ワニスの調製
本実施例で使用したワニスは、下記の手順で調製した。ここで、ワニスの調製例1~28および調製例32~34で調製したワニスA1~A28およびワニスA29~A31は、式(II)~式(VII)で表される少なくとも1つの化合物(感光性ジアミン)を原料モノマーの一つに用いて反応させて得られたポリアミック酸の溶液である。また、このうちワニスA1~A16およびワニスA29~A31は、式(1)で表される構造を有するジアミンも原料モノマーに含む。ブレンド用ワニスの調製例29~31で調製したブレンド用ワニスB1~B3は、式(II)~式(VII)で表される化合物を原料に用いないで得られたポリアミック酸の溶液であり、ワニスA1~A28またはワニスA29~A31にブレンドして使用するものである。
【0157】
[ワニスの調製例1] ワニスA1の調製
攪拌翼、窒素導入管を装着した100mL3つ口フラスコに、式(V-4-2)で表される化合物2.116g、式(2-2)で表される化合物0.897gを入れ、N-メチル-2-ピロリドンを34.0g加え撹拌した。この溶液に、式(PAN-1)で表される化合物0.512gおよび式(AN-4-17)(m=8)で表される化合物2.475gを加え、12時間室温で攪拌させた。そこにN-メチル-2-ピロリドン30.0gおよびブチルセロソルブ30.0gを加え、溶質のポリマーの重量平均分子量が所望する重量平均分子量になるまで、その溶液を70℃で加熱攪拌して、溶質の重量平均分子量がおよそ9,000であり、樹脂分濃度が6重量%であるワニスA1を得た。
【0158】
[ワニスの調製例2~34] ワニスA2~A28、ワニスB1~B3、ワニスA29~A31の調製
ジアミンおよびテトラカルボン酸二無水物として用いる化合物を、表1に示すように変更したこと以外は、調製例1と同様にして樹脂分濃度が6重量%のワニスA2~A28を調製した。また、ジアミンおよびテトラカルボン酸二無水物として用いる化合物を、表2に示すように変更したこと以外は、調製例1と同様にしてワニスB1~B3を調製した。なお、ワニスB3ではジアミンの他にジヒドラジド(DIH-1-2)も添加している。ワニスB1~B3においては、ポリマーの重量平均分子量が50,000程度になるように加熱撹拌の条件を調整した。また、ジアミンおよびテトラカルボン酸二無水物として用いる化合物を、表3に示すように変更したこと以外は、調製例1と同様にして樹脂分濃度が6重量%のワニスA29~A31を調製した。生成したポリマーの重量平均分子量を表1および表2、表3に示す。なお、表1において、ジアミンとして2以上の化合物が掲載されている調製例では、その全ての化合物を合わせてジアミンとして使用したことを意味し、テトラカルボン酸二無水物として2以上の化合物が掲載されている調製例では、その全ての化合物を合わせてテトラカルボン酸二無水物として使用したことを意味する。角括弧内の数値は、配合比(モル%)を表し、空欄はその欄に対応する化合物を使用していないことを意味する。表2および表3においても、同様である。
【0159】
【0160】
【0161】
【0162】
シール剤との密着性評価
以下の実施例1~5、比較例1~11においては、ワニスA28から調製した比較配向剤11を基準として、シール密着性の評価を行った。
[実施例1]
ワニスA1を、4重量%になるようにNMP・BC混合溶液(NMP/BC=7/3重量比)で希釈、撹拌し、配向剤1を調製した。
同じ大きさのガラス基板を2枚用意した。1枚のガラス基板に、配向剤1をスピンナー法により塗布した。塗布後、基板を60℃で1分間加熱し、溶剤を蒸発させた後、ウシオ電機(株)製マルチライトML-501C/Bを用い、基板に対して鉛直方向から、偏光板を介して紫外線の直線偏光を照射した。この時の露光エネルギーは、ウシオ電機(株)製紫外線積算光量計UIT-150(受光器:UVD-S365)を用いて光量を測定し、波長365nmで2.0±0.1J/cm 2 になるよう、露光時間を調整した。150℃にて20分焼成した後、220℃にて20分間焼成処理を行い、膜厚およそ100nmの配向膜を形成した。
この基板の配向膜が形成している面に、5μmのビーズスペーサーを分散させたシール剤(協立化学製XN-1500T)を滴下した。次いで、配向剤を塗布していないガラス基板を用いて、基板の重なり幅が1cmになるようにかつシール剤を挟むように貼り合わせを行った。その際、貼り合わせ後のシール剤の直径が約3mmとなるようにシール剤滴下量を調整した。貼り合わせた2枚の基板をクリップにて固定した後、3J/cm2のUV照射、続いて120℃で1時間の加熱を行いシール剤を硬化させて、シール密着性評価用のサンプルを作製した。上記記載の評価方法にて密着強度を算出した。
ワニスA1の代わりにワニスA28を用いて比較配向剤11を調製し、同様の操作を行い、シール密着性評価用のサンプルを作製した。上記記載の評価方法にて密着強度を算出した。
ワニスA1から調製した配向剤1の密着強度を、ワニスA28から調製した比較配向剤11の密着強度で割り、比較配向剤11に対する密着強度の比率を算出した結果、比率は3.1であった。
【0163】
[実施例2]~[実施例5]、[比較例1]~[比較例11]
ワニスA1の代わりに、表4に示すワニスを使用した以外は、実施例1と同様にして配向剤2~5、比較配向剤1~11を調製し、シール剤に対する密着強度をそれぞれ測定した。その密着強度を、ワニスA28から調製した比較配向剤11の密着強度で割ることにより比率を算出した。使用したワニスおよび密着強度(比率)の測定結果を表4に示す。
【0164】
【0165】
式(1)の構造を持つジアミンを原料モノマーに用いた実施例1~5では、基準の配向剤(比較配向剤11)の約3倍まで密着強度が向上した。これに対して、NHをもつジアミンであっても、NHがベンゼン環やC=Oに連結しているジアミン(式(DI-5-28)、式(DI-5-29)、式(DI-5-33))を用いた場合(比較例1、3、5)には、密着強度の向上は2倍程度にとどまっていた。実施例1~5で大きな密着強度が得られたのは、式(1)の構造では、NHの左右がアルキレンであることにより、NHの求核性が高まって、液晶配向膜のシール剤との反応性がより高くなったためであると考えられる。なお、比較例8では、比較例1,3,5よりも高い密着強度が得られている。これは、配向膜形成の加熱時に、式(DI-20-3)のBocが熱で脱離してNHが生成され、式(1)で表される構造に変換されたためであると考えられる。
また、式(V-4-2)で表されるジアミンを用いた実施例3、式(V-2-1)で表されるジアミンを用いた実施例5で作成した各液晶配向膜について、分光光度計にて波長400nmでの透過率を測定した結果、それぞれ88%、72%であった。このことから、式(V-4)で表される化合物を、式(1)の構造を有するジアミンと併用することで、シール密着性向上に加えて、透過率も向上することがわかった。
【0166】
次に、以下の実施例6~21、比較例12~15において、ワニスA28とワニスB2から調製した比較配向剤15を基準として、シール密着性の評価を行った。
[実施例6]
ワニスA1とワニスB1を重量比4:6になるようにブレンドして、樹脂分濃度が6重量%のブレンドワニスを得た。さらに樹脂分濃度が4重量%になるようにNMP・BC混合溶液(NMP/BC=7/3重量比)で希釈、撹拌し、配向剤6を調製した。
この配向剤6を配向剤1の代わりに用いて、実施例1と同様にしてシール密着性評価用のサンプルを作製し、シール剤に対する密着強度を求めた。この配向剤6の密着強度について、同様にして測定した比較配向剤15の密着強度に対する比率を算出した結果、比率は3.3であった。
【0167】
[実施例7]~[実施例21]、[比較例12]~[比較例15]
ワニスA1とワニスB1の代わりに、表5に示すワニスとブレンド用ワニスを使用した以外は、実施例6と同様にして配向剤7~21、比較配向剤12~15を調製してシール剤に対する密着強度を測定し、比較配向剤15の密着強度に対する比率を算出した。使用したワニスおよびブレンド用ワニスと密着強度(比率)の測定結果を表5に示す。
【0168】
【0169】
ブレンド系配向剤においても、式(1)の構造を有するジアミンを使用した配向剤6~21では密着性の向上が見られた。具体的には、比較配向剤15の密着強度に対して2.0倍~3.3倍の密着強度が得られた。
【0170】
液晶配向膜の製造、並びに、AC残像特性、コントラストおよびVHR信頼性の評価
以下の実施例22~30、比較例16~19では、上記の各実施例および各比較例で調製した配向剤を用いて液晶配向膜を形成し、その液晶配向膜を用いた液晶セルについて、AC残像特性、コントラストおよびVHR信頼性を評価した。
[実施例22]
配向剤6を、FFS電極付きガラス基板およびカラムスペーサー付きガラス基板にスピンナー法により塗布した。塗布後、基板を60℃で1分間加熱し、溶剤を蒸発させた後、ウシオ電機(株)製マルチライトML-501C/Bを用い、基板に対して鉛直方向から、偏光板を介して紫外線の直線偏光を照射した。この時の露光エネルギーは、ウシオ電機(株)製紫外線積算光量計UIT-150(受光器:UVD-S365)を用いて光量を測定し、波長365nmで2.0±0.1J/cm 2 になるよう、露光時間を調整した。150℃にて20分焼成した後、220℃にて20分間焼成処理を行い、膜厚およそ100nmの配向膜を形成した。
次いで、これらの配向膜が形成された基板2枚を、液晶配向膜が形成されている面を対向させ、かつ、対向する液晶配向膜の間に液晶組成物を注入するための空隙を設けて貼り合わせた。この時、それぞれの液晶配向膜に照射された直線偏光の偏光方向が平行になるようにした。これらのセルにネガ型液晶組成物Aを注入し、セル厚7μmの液晶セル(液晶表示素子)を作製した。
【0171】
<ネガ型液晶組成物A>
【化42】
この液晶セルを用いて、上記記載の方法にてAC残像評価およびコントラスト(CR)評価を行った。その結果、AC残像評価は2、CR評価は〇であった。
次に、FFS電極付きガラス基板およびカラムスペーサー付きガラス基板の代わりに、IPS電極付きガラス基板およびカラムスペーサー付きガラス基板を用いた以外は同様にして、各配向剤による配向膜を形成し、VHR信頼性評価用の液晶セルを作製した。この液晶セルを用いて、上記記載の方法にてVHR信頼性評価を行った。評価結果は◎であった。
【0172】
[実施例23]~[実施例30]、[比較例16]~[比較例18]
配向剤6の代わりに、表6に示す配向剤を使用した以外は、実施例22と同様にして、
て液晶配向膜を形成し、その液晶配向膜を用いた液晶セルについて、AC残像評価、コントラスト(CR)評価、VHR信頼性評価を行った。使用した配向剤と評価結果を表6に示す。
【0173】
【0174】
実施例22~30においては、AC残像は評価1または2(AC残像3.0%以下)、CRも良好であり、VHR信頼性評価も◎または〇であった。一方、原料モノマーに式(DI-20-3)を含む比較配向剤12、13を用いた比較例16、17は、AC残像が評価2、VHR信頼性評価が〇であったものの、CRは極端に低い結果となった。これは、式(DI-20-3)のBocが脱離するために、配向膜の表面の均一性が低くなったためと考えられる。また、原料モノマーに式(DI-4-13)を含む比較配向剤14を用いた比較例18は、AC残像が評価4であり、実施例22~30に比べて劣るものであった。この結果は、式(1)におけるNHの左右のアルキレン(A)が、配向膜の配向性に有利に働くことを示唆するものである。さらに、ジアミンのうち非感光性ジアミンのみが異なる実施例24、28と比較例18の比較から、VHR信頼性も、式(1)の構造を持つジアミンを原料モノマーに用いた配向剤の方が、式(DI-4-13)を原料モノマーに用いた比較配向剤14よりも優れていることが示された。
【0175】
[実施例31]
ワニスA29とワニスB2を重量比4:6になるようにブレンドして、樹脂分濃度が6重量%のブレンドワニスを得た。さらに樹脂分濃度が4重量%になるようにNMP・BC混合溶液(NMP/BC=7/3重量比)で希釈、撹拌し、配向剤22を調製した。
この配向剤22を配向剤6の代わりに用いて、実施例6と同様にしてシール密着性評価用のサンプルを作製し、シール剤に対する密着強度を測定し、比較配向剤15の密着強度に対する比率を算出した。また、この配向剤22を配向剤6の代わりに用いて、実施例22と同様にしてAC残像評価およびコントラスト(CR)評価を行った。結果を実施例28の結果と共に表7に示す。
【0176】
[比較例19]および[比較例20]
ワニスA29の代わりに表7に示すワニスを用いてブレンド用ワニスB2と混合し、比較配向剤16,17を調製した。この比較配向剤16,17を配向剤22の代わりに用いて、実施例31と同様にしてシール剤に対する密着強度を測定し、比較配向剤15の密着強度に対する比率を算出した。また、比較配向剤16,17を配向剤22の代わりに用いて、実施例31と同様にしてAC残像評価およびコントラスト(CR)評価を行った。結果を表7に示す。
【0177】
【0178】
実施例28、31、比較例19、20で使用したワニスA12~A31は、原料モノマーにおける式(3-1)で表される構造を有するジアミンの含有量を、ジアミン全量に対して、それぞれ10、15、20、30モル%としたワニスである。この比較で示されるように、式(3-1)で表される構造を有するジアミンの含有量がジアミン全量に対して15モル%以下の実施例28、31では、シール密着性が高く、かつ残像特性、コントラストも高い。一方、式(3-1)で表される構造を有するジアミンの含有量を20モル%、30モル%とした比較例19、20では、式(3-1)で表される構造を有するジアミンの含有量を15モル%以下とした実施例28、31と比較して、残像およびコントラストが2段階と大きく低下している。このことから、各特性のバランスが取れた液晶配向剤を得るには、式(1)で表される構造を有するジアミンの含有量を15モル%以下とする必要があることが分かった。
【0179】
以上の結果から、本発明の配向剤から得られる配向膜はシール剤との密着性が高く、加えて、本発明の配向剤から得られる配向膜を具備した液晶表示素子は、残像特性、VHR信頼性にも優れることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0180】
本発明の液晶配向剤を使用すれば、シール剤との密着性が高く、かつ配向性が良好な液晶配向膜を形成することができ、信頼性および残像特性が良好な液晶表示素子を与えることができる。本発明の液晶配向剤は横電界型液晶表示素子に好適に適用することができる。