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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-27
(45)【発行日】2024-06-04
(54)【発明の名称】造形用金属粉末およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 1/065 20220101AFI20240528BHJP
   B22F 3/16 20060101ALI20240528BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20240528BHJP
   B33Y 70/00 20200101ALI20240528BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20240528BHJP
   B22F 3/105 20060101ALI20240528BHJP
   C22C 19/05 20060101ALN20240528BHJP
   C22C 38/00 20060101ALN20240528BHJP
   C22C 30/00 20060101ALN20240528BHJP
【FI】
B22F1/065
B22F3/16
B22F1/00 M
B22F1/00 T
B33Y70/00
B33Y10/00
B22F3/105
C22C19/05 Z
C22C38/00 304
C22C30/00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020113716
(22)【出願日】2020-07-01
(65)【公開番号】P2022022667
(43)【公開日】2022-02-07
【審査請求日】2023-05-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(72)【発明者】
【氏名】福澤 範英
(72)【発明者】
【氏名】坂卷 功一
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 和也
(72)【発明者】
【氏名】中村 清美
【審査官】岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-193763(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/06
B22F 1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円形度が0.80未満である粒子の数の、粒子の総数に対する比率が10%超40%以下であり、
JIS Z 2502に準拠して測定した流動度が30秒/50g以下である造形用金属粉末。
【請求項2】
流動補助剤を10質量ppm未満含む請求項1に記載の造形用金属粉末。
【請求項3】
円形度が0.80未満である粒子の数の、粒子の総数に対する比率が10%超である金属粉末を得る分級工程と、
JIS Z 2502に準拠して測定した流動度が30秒/50gより大きい場合に、前記金属粉末に流動補助剤を添加する添加工程を実施し、
前記流動度が30秒/50g以下の場合に、造形用金属粉末の製造が終了したと判断する判断工程
を含む造形用金属粉末の製造方法。
【請求項4】
円形度が0.80未満である粒子の数の、粒子の総数に対する比率が40%以下である請求項に記載の造形用金属粉末の製造方法。
【請求項5】
前記添加工程で、前記流動補助剤を10質量ppm未満添加する請求項または請求項に記載の造形用金属粉末の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、粉末床溶融結合法や指向性エネルギー堆積法といった、金属粉末をニアネットシェイプにする三次元積層造形法に用いる造形用金属粉末およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
三次元積層造形法に用いる造形用金属粉末において、その粉末の表面状態によっては、造形時に、安定して必要量の粉末を供給することができない場合があり、造形物の内部に欠陥を生じさせ、強度が低下するという問題があった。
【0003】
この問題点を解決するために、造形用金属粉末の円形度を大きくする、すなわち球形の粒子を多数含む粉末とすることで、流動性や充填性といった取り扱い性を向上させ、得られる造形物を高強度化することが可能な造形用金属粉末が、例えば、特許文献1で提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-102229号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1は、造形用金属粉末の流動性を向上させ、造形物の強度を向上させるという点で有利ではある。一方、特許文献1の造形用金属粉末は、高い円形度を有する粉末とするために、粉末の集合体の中から円形度の低い粉末を排除しなければならず、分級における工数増加や歩留低下に伴い、製造コストが上がる場合があった。
本発明の目的は、粉末の集合体において、それらの円形度が低い粒子の数の、粒子の総数に対する比率が高くとも流動性に優れ、三次元積層造形法に適した造形用金属粉末を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記の課題を解決するため、次のように構成される。
本発明の造形用粉末は、円形度が0.80未満である粒子の数の、粒子の総数に対する比率が10%超であり、JIS Z 2502に準拠して測定した流動度が30秒/50g以下である。
【0007】
本発明の造形用金属粉末は、円形度が0.80未満である粒子の数の、粒子の総数に対する比率が40%以下であることが好ましい。
【0008】
本発明の造形用金属粉末は、流動補助剤を10質量ppm未満含むことが好ましい。
【0009】
本発明の造形用金属粉末は、円形度が0.80未満である粒子の数の、粒子の総数に対する比率が10%超である金属粉末を得る分級工程と、
JIS Z 2502に準拠して測定した流動度が30秒/50gより大きい場合に、前記金属粉末に流動補助剤を添加する添加工程を実施し、
前記流動度が30秒/50g以下の場合に、造形用金属粉末の製造が終了したと判断する判断工程
を含む製造方法で得ることができる。
【0010】
本発明の造形用金属粉末の製造方法では、円形度が0.80未満である粒子の数の、粒子の総数に対する比率を40%以下にすることが好ましい。
【0011】
前記添加工程では、前記流動補助剤を10質量ppm未満添加することが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の造形用金属粉末は、粉末の集合体において、それらの円形度が低い粒子の数の、粒子の総数に対する比率が高くとも、流動性に優れる粉末を提供することができ、三次元積層造形法に有用な技術となる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の造形用金属粉末は、円形度が0.80未満である粒子の数の、粒子の総数に対する比率が10%超である。ここで、本発明でいう円形度は、下記の数式によって算出される。
[円形度]=4π[粒子の投影面積]/[粒子の周囲長]
ここで、粒子の投影面積および周囲長の測定は、例えば、画像分析装置を用いることができる。
【0014】
高い円形度を有する、すなわち真球に近い金属粉末を製造するためには、製造した金属粉末の集合体から、円形度の低い粉末を分級して排除する必要があり、工数の増加や歩留の低下という問題が生じる。本発明においては、円形度が0.80未満である粒子の数を粒子の総数に対する比率を大きくする、具体的には、粒子の総数に対する比率を10%超にすることで、分級における工数増加や歩留低下を抑制することができる。
尚、造形用金属粉末の円形度が過度に低い場合、すなわち円形度が0.80未満の粒子が多すぎると、粉末床溶融結合法において、充填性を低下させ、造形物中の内部欠陥が増加され、得られる造形物の強度特性を誘発させる。このため、本発明の実施形態にかかる造形用金属粉末は、円形度が0.80未満である粒子の数の、粒子の総数に対する比率が40%以下であることが好ましい。あるいは、本発明の実施形態にかかる造形用金属粉末は、円形度が0.50未満である粒子を含まないことが好ましい。
【0015】
本発明の造形用金属粉末は、JIS Z 2502に準拠して測定した流動度が30秒/50g以下である。ここで、本発明でいう流動度は、標準寸法で作製された漏斗のオリフィスを50gの金属粉末が通過する時間で定義する。
本発明の造形用金属粉末は、その用途から、流動することが前提とされ、流動度測定において流動しない粉末は除外される。そして、本発明の実施形態にかかる造形用金属粉末は、造形時に造形装置に安定して必要量の粉末を供給する観点から、流動度は25秒/50g以下が好ましく、20秒/50g以下がより好ましい。
【0016】
本発明の実施形態にかかる造形用金属粉末は、造形用金属粉末間の摩擦を軽減し、流動性を改良する目的で流動補助剤を10質量ppm以下の範囲で添加することが好ましい。そして、本発明で適用可能な流動補助剤は、例えば、平均粒径が1μm未満の無機物、金属、樹脂材料等で形成される粉末の状態で添加することが好ましい。また、流動補助剤の材質や粒径は、造形用金属粉末の材質や粒径に応じて適宜選択することができる。中でも、得られる造形物の強度や耐熱性を向上させる観点から、造形用金属粉末の材質よりも融点が高いアルミナやシリカの粉末を用いることが好ましい。
また、流動補助剤は、添加量が多すぎると、流動補助剤自体が凝集してしまい、得られる造形物の疲労破壊等の起点となり、強度特性に悪影響を与える場合がある。このため、本発明の実施形態にかかる造形用金属粉末への流動補助剤の添加量は、8質量ppm未満がより好ましい。
【0017】
本発明の実施形態にかかる造形用粉末は、体積基準の累積粒度分布の50%粒径(以下、「D50」という。)が10~250μmであることが好ましい。ここで、本発明でいうD50は、JIS Z 8825で規定される、レーザー回折散乱法による測定値で表される。
レーザービームを用いた粉末床溶融結合法に使用される造形用金属粉末は、熱源となるレーザービームにより粉末を溶融させる一方で、熱影響の範囲を極力狭めるために溶融しづらい粗大な粉末を除去する必要がある。また、粉末の敷設性を確保するための最適な流動性を得るために、付着性の高い微細な粉末も除去する必要がある。このため、本発明の造形用金属粉末を粉末床溶融結合法に適用する場合は、D50を10~53μmの範囲に調整することが好ましい。
【0018】
また、レーザービームを用いた指向性エネルギー堆積法に使用される造形用金属粉末は、熱源となるレーザービームによって粉末を溶融させるために、溶融しづらい粗大な粉末を除去する必要がある。また、粉末を熱源へ供給する際の粉塵飛散を予防し、且つ粉末を容易に搬送可能とする流動性を確保する目的で微細な粉末も除去する必要がある。このため、本発明の造形用金属粉末を指向性エネルギー堆積法に適用する場合は、D50を53~106μmの範囲に調整することが好ましい。
さらに、本発明の造形用金属粉末を、熱源として電子ビームやプラズマを用いる三次元積層造形法に適用する場合は、より粗大な金属粒子を用いて造形することが可能となるため、D50は75~250μmにすることが好ましい。
【0019】
以下に、本発明の造形用金属粉末を得るための製造方法について説明する。
本発明の造形用金属粉末は、例えば、ガスアトマイズ法や水アトマイズ法、ディスクアトマイズ法、プラズマアトマイズ法、回転電極法等によって製造することができる。
ガスアトマイズ法は、所望の組成となるように準備した溶解原料を高周波誘導加熱により、その融点以上に加熱、溶融させた後、細孔を経由して流出させた溶融金属に対して、アルゴンガスや窒素ガス等の不活性ガスを噴射することにより溶融金属を微細に粉砕し、急冷凝固させることによって粉末を得る方法である。
【0020】
また、ガスアトマイズ法は、スクラップ金属や金属粗原料等を溶解原料に使用することが可能であり、予め所望の組成および形状の原料を準備する必要があるプラズマアトマイズ法や回転電極法等と比較して、安価に製造することが可能となる。このため、本発明の実施形態にかかる造形用金属粉末の製造に好適である。
【0021】
本発明の造形用金属粉末は、円形度が0.80未満である粒子の数の、粒子の総数に対する比率が10%超である金属粉末を得る分級工程と、JIS Z 2502に準拠して測定した流動度が30秒/50gより大きい場合に、前記金属粉末に流動補助剤を添加する添加工程を実施し、前記流動度が30秒/50g以下の場合に、金属粉末の製造が終了したと判断する判断工程を含む製造方法によって得ることができる。
【0022】
分級工程においては、積層造形法に適さない粗大粒子や微細粒子を除去する。具体的には、ガスアトマイズ等で得た金属粉末について円形度の測定を行ない、円形度が0.80未満である粒子の数の、粒子の総数に対する比率が10%を超えるように分級を行なう。
尚、造形用金属粉末の円形度が過度に低い場合、具体的には、円形度が0.80未満の粒子が多すぎると、粉末床溶融結合法において、充填性を低下させ、造形物中の内部欠陥が増加され、得られる造形物の強度特性を誘発させる。このため、本発明の実施形態にかかる造形用金属粉末の製造方法では、円形度が0.80未満である粒子の数の、粒子の総数に対する比率が40%以下であることが好ましい。あるいは、本発明の実施形態にかかる造形用金属粉末の製造方法では、円形度が0.50未満である粒子を含まないことが好ましい。
そして、分級工程では、ふるいを用いた分級や気流分級などを選択することができる。
【0023】
本発明では、分級工程で得た金属粉末に対して、JIS Z 2502に準拠した方法で流動度を測定する。この流動度の測定で、30秒/50g以下の流動度が得られていれば、この時点で造形用金属粉末の製造が終了したと判断する。
【0024】
一方、分級工程で得た金属粉末において、流動度が30秒/50gより大きい場合は、金属粉末に流動補助剤を添加する添加工程を行なう。この添加工程では、流動補助剤が合計で10質量ppm未満となるように、任意の分量を添加し混合することが好ましい。
そして、再度、金属粉末に対して、JIS Z 2502に準拠した方法で流動度を測定する。この流動度の測定で、30秒/50g以下の流動度が得られていれば、この時点で造形用金属粉末の製造が終了したと判断する。
【実施例
【0025】
表1に示すA~Dの成分組成を狙い、各金属粗原料を準備し、これらを高周波誘導溶解炉に装入して溶融させ、溶融金属をアルゴンガスによって粉砕することで、各ガスアトマイズ粉末を得た。
【0026】
【表1】
【0027】
得られた各ガスアトマイズ粉末に対して、金属メッシュ篩および風力分級機を用いた分級を行なった。そして、分級後の各アトマイズ粉末のD50および円形度をそれぞれ測定した。尚、円形度は、Malvern Instruments製の粒子画像分析装置(Morphologi G3)を用いて測定した。
分級後の各アトマイズ粉末について、JIS Z 2502に準拠した流動度の測定を行なった。そして、流動度が30秒/50g以下のガスアトマイズ粉末については、造形用金属粉末の製造が終了したと判断した。
【0028】
一方、流動度が30秒/50gより大きいガスアトマイズ粉末については、流動補助剤として平均粒径が1μm以下のシリカ粉末を添加した。そして、再度JIS Z 2502に準拠した方法で流動度を測定した。
【0029】
上記で得た本発明例および比較例となる造形用金属粉末の諸特性を表2に示す。
表2の結果より、比較例となる造形用金属粉末は、円形度が0.80未満である粒子の数が10%以下であっても流動しない粉末があった。
これに対して、本発明となる造形用金属粉末は、円形度が0.80未満である粒子の数が10%を超えていても、良好な流動性が確保できていることから、積層造形に好適であることが確認できた。
【0030】
【表2】