IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日立化成株式会社の特許一覧

特許7494670プライマー付き金属材、プライマー付き金属材の製造方法、接合体及び接合方法
<>
  • 特許-プライマー付き金属材、プライマー付き金属材の製造方法、接合体及び接合方法 図1
  • 特許-プライマー付き金属材、プライマー付き金属材の製造方法、接合体及び接合方法 図2
  • 特許-プライマー付き金属材、プライマー付き金属材の製造方法、接合体及び接合方法 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-27
(45)【発行日】2024-06-04
(54)【発明の名称】プライマー付き金属材、プライマー付き金属材の製造方法、接合体及び接合方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 15/082 20060101AFI20240528BHJP
   B29C 65/02 20060101ALI20240528BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20240528BHJP
【FI】
B32B15/082 B
B29C65/02
H05K1/03 630H
H05K1/03 610H
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2020153243
(22)【出願日】2020-09-11
(65)【公開番号】P2022047366
(43)【公開日】2022-03-24
【審査請求日】2023-08-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大谷 和男
(72)【発明者】
【氏名】高橋 信行
(72)【発明者】
【氏名】新林 良太
【審査官】芦原 ゆりか
(56)【参考文献】
【文献】特開平6-115000(JP,A)
【文献】国際公開第2020/149248(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/116879(WO,A1)
【文献】特開平10-193514(JP,A)
【文献】特開平10-305537(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B
B29C 65/00-65/82
C09D
C09J
C23C 24/00-30/00
C08J 5/12
H05K 1/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材と、前記金属材に積層された1層又は複数層のプライマー層を有し、
前記プライマー層の少なくとも1層が、現場重合型樹脂組成物を重合させてなる現場重合型樹脂組成物層であり、
前記現場重合型樹脂組成物が、下記(A-1)~(A-6)の少なくとも一種と、フッ素樹脂(B)を含む、プライマー付き金属材。
(A-1)2官能イソシアネート化合物とジオールの組み合わせ
(A-2)2官能イソシアネート化合物と2官能アミノ化合物の組み合わせ
(A-3)2官能イソシアネート化合物と2官能チオール化合物の組み合わせ
(A-4)2官能エポキシ化合物とジオールの組み合わせ
(A-5)2官能エポキシ化合物と2官能カルボキシ化合物の組み合わせ
(A-6)2官能エポキシ化合物と2官能チオール化合物の組み合わせ
【請求項2】
前記(A-1)~(A-6)及び前記フッ素樹脂(B)の合計質量に対する前記フッ素樹脂(B)の含有率が、5~80質量%である、請求項1に記載のプライマー付き金属材。
【請求項3】
前記フッ素樹脂(B)が、四フッ化エチレン樹脂(PTFE)である、請求項1又は2に記載のプライマー付き金属材。
【請求項4】
前記(A-1)及び/又は前記(A-4)のジオールがビスフェノールAFである、請求項1~3の何れかに記載のプライマー付き金属材。
【請求項5】
前記現場重合型樹脂組成物層が、前記現場重合型樹脂組成物を前記金属材の上で重合させてなる、請求項1~4の何れかに記載のプライマー付き金属材。
【請求項6】
前記金属材が、銅、アルミニウム、鉄から選ばれる1種以上からなる、請求項1~5の何れかに記載のプライマー付き金属材。
【請求項7】
下記(A-1)~(A-6)の少なくとも一種と、フッ素樹脂(B)を含む現場重合型樹脂組成物を溶剤に溶解した溶液を、金属材に塗布し、前記金属材の上で、前記現場重合型樹脂組成物を重合させる、プライマー付き金属材の製造方法。
(A-1)2官能イソシアネート化合物とジオールの組み合わせ
(A-2)2官能イソシアネート化合物と2官能アミノ化合物の組み合わせ
(A-3)2官能イソシアネート化合物と2官能チオール化合物の組み合わせ
(A-4)2官能エポキシ化合物とジオールの組み合わせ
(A-5)2官能エポキシ化合物と2官能カルボキシ化合物の組み合わせ
(A-6)2官能エポキシ化合物と2官能チオール化合物の組み合わせ
【請求項8】
前記金属材の表面にアミノ基、エポキシ基、メルカプト基、スチリル基、(メタ)アクリロイル基、イソシアナト基、及びアルケニル基からなる群より選ばれる1種以上の官能基を有する、請求項7に記載のプライマー付き金属材の製造方法。
【請求項9】
請求項1~6の何れかに記載のプライマー付き金属材と、フッ素材料を接合してなる、接合体。
【請求項10】
前記フッ素材料が、フッ素樹脂またはフッ素ゴムである、請求項9に記載の接合体。
【請求項11】
前記フッ素樹脂が、四フッ化エチレン樹脂(PTFE)である、請求項10に記載の接合体。
【請求項12】
前記プライマー付き金属材の金属材が銅である、請求項9~11の何れかに記載の接合体の、銅張りプリント基板としての使用。
【請求項13】
下記(A-1)~(A-6)の少なくとも一種と、フッ素樹脂(B)を含む現場重合型樹脂組成物を溶剤に溶解した溶液を、金属材に塗布し、前記金属材の上で、前記現場重合型樹脂組成物を重合させて現場重合型樹脂組成物層を形成し、
前記現場重合型樹脂組成物層にフッ素材料を溶着させる、接合方法。
(A-1)2官能イソシアネート化合物とジオールの組み合わせ
(A-2)2官能イソシアネート化合物と2官能アミノ化合物の組み合わせ
(A-3)2官能イソシアネート化合物と2官能チオール化合物の組み合わせ
(A-4)2官能エポキシ化合物とジオールの組み合わせ
(A-5)2官能エポキシ化合物と2官能カルボキシ化合物の組み合わせ
(A-6)2官能エポキシ化合物と2官能チオール化合物の組み合わせ
【請求項14】
前記フッ素樹脂(B)が、四フッ化エチレン樹脂(PTFE)である、請求項13に記載の接合方法。
【請求項15】
前記(A-1)及び/又は前記(A-4)のジオールがビスフェノールAFである、請求項13又は14に記載の接合方法。
【請求項16】
前記金属材が、銅、アルミニウム、鉄から選ばれる1種以上からなる、請求項13~15の何れかに記載の接合方法。
【請求項17】
前記金属材の表面にアミノ基、エポキシ基、メルカプト基、スチリル基、(メタ)アクリロイル基、イソシアナト基、及びアルケニル基からなる群より選ばれる1種以上の官能基を有する、請求項13~16の何れかに記載の接合方法。
【請求項18】
前記溶着が、超音波溶着法、振動溶着法、電磁誘導法、高周波法、レーザー法、熱プレス法、射出溶着法からなる群より選ばれる少なくとも1種の方法による、請求項13~17の何れかに記載の接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素材料と、金属材を接合して接合体を形成する用途に好適なプライマー付き金属材及びその製造方法に関する。
また本発明は、フッ素材料と、金属材を接合してなる接合体に関する。
また本発明は、フッ素材料と金属材の接合方法に関する。
本明細書において、フッ素材料とは、フッ素を含むポリマーからなる材を意味し、前記フッ素材料には、フッ素樹脂及び/又はフッ素ゴムが含まれる。
【背景技術】
【0002】
フッ素材料はその特徴ある物性から様々な分野で使用されている。例えば、高周波信号対応(ギガヘルツ(GHz)帯)デバイス用途等の分野において、高周波信号対応デバイスの構成要素の1つであるプリント配線基板(PCB)には、高周波信号対策が求められる。PCBにおける高周波信号対策とは、高周波信号を低い伝送損失で流すための対策といえる。伝送損失は、PCBを構成する導体(銅回路)由来の導体損失と、誘電体(絶縁材料)由来の誘電体損失からなる。
誘電体損失の対策としては、低誘電特性の材料の選択が有効であり、PCB用のプリント配線板(PWB)を構成する樹脂としてフッ素樹脂やポリフェニレンエーテル樹脂が有望とされている。
導体損失の対策としては、導体である銅表面の平滑化が有効である。しかし、導体(銅回路)の表面を平滑化することにより、フッ素樹脂やポリフェニレンエーテル樹脂からなる誘電体(絶縁材料)との接着性が低下するという課題があった。
【0003】
上記課題に関し、特許文献1には、低誘電特性を有する基材フィルムを用いた場合でも、高い接着性、耐はんだリフロー性を得ることができ、且つ、電気特性にも優れたフレキシブルプリント配線板用樹脂組成物として、水酸基当量が300~5500g/当量のフッ素樹脂と、イソシアネート化合物と、を含み、前記フッ素樹脂中のフッ素含有量が1~50質量%である、フレキシブルプリント配線板用樹脂組成物が開示されている。
また、特許文献2には、プリント配線板等の製造に適した難燃性樹脂組成物プリント配線板(PWB)等の製造に適した難燃性樹脂組成物として、ビスマレイミド、シクロホスファゼン系難燃剤、リン酸塩素系難燃剤からなる樹脂組成物にさらにフッ素樹脂フィラーを混合した樹脂組成物が開示されている。
また、特許文献3には、誘電特性、長期環境信頼性、耐熱性、銅箔への密着性が改善された樹脂硬化物又は成形体を与えることができる、新規な硬化性樹脂組成物として、特定の多官能ビニル芳香族共重合体(A)と熱可塑性樹脂(B)、及び/又は、熱硬化性架橋剤(C)を含む硬化性樹脂組成物であって、銅箔に対する90°ピール強度が、0.5kN/m以上の硬化性樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-245320号公報
【文献】特開2018-44065号公報
【文献】特開2019-178310号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし上記の何れの方法も、表面を平滑化した導体(銅回路)と低誘電特性誘電体(絶縁材料)の接合手段とした場合に、導体(銅回路)と低誘電特性誘電体(絶縁材料)との間の接合力は十分でなく、前記PCBにおける高周波信号対策の用途には適さない。
本発明は、かかる技術的背景に鑑みてなされたものであって、フッ素材料と金属材を十分な接合強度で接合できるプライマー付き金属材及びその関連技術の提供を課題とする。前記関連技術とは、前記プライマー付き金属材の製造方法、前記プライマー付き金属材を用いた接合体及び前記プライマー付き金属材を用いた接合方法、を意味する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、前記目的を達成するために、以下の手段を提供する。
【0007】
(プライマー付き金属材)
〔1〕 金属材と、前記金属材に積層された1層又は複数層のプライマー層を有し、前記プライマー層の少なくとも1層が、現場重合型樹脂組成物を重合させてなる現場重合型樹脂組成物層であり、前記現場重合型樹脂組成物が、下記(A-1)~(A-6)の少なくとも一種と、フッ素樹脂(B)を含む、プライマー付き金属材。
(A-1)2官能イソシアネート化合物とジオールの組み合わせ
(A-2)2官能イソシアネート化合物と2官能アミノ化合物の組み合わせ
(A-3)2官能イソシアネート化合物と2官能チオール化合物の組み合わせ
(A-4)2官能エポキシ化合物とジオールの組み合わせ
(A-5)2官能エポキシ化合物と2官能カルボキシ化合物の組み合わせ
(A-6)2官能エポキシ化合物と2官能チオール化合物の組み合わせ
〔2〕 前記(A-1)~(A-6)及び前記フッ素樹脂(B)の合計質量に対する前記フッ素樹脂(B)の含有率が、5~80質量%である、〔1〕に記載のプライマー付き金属材。
〔3〕 前記フッ素樹脂(B)が、四フッ化エチレン樹脂(PTFE)である、〔1〕又は〔2〕に記載のプライマー付き金属材。
〔4〕 前記(A-1)及び/又は前記(A-4)のジオールがビスフェノールAFである、〔1〕~〔3〕の何れかに記載のプライマー付き金属材。
〔5〕 前記現場重合型樹脂組成物層が、前記現場重合型樹脂組成物を前記金属材の上で重合させてなる、〔1〕~〔4〕の何れかに記載のプライマー付き金属材。
〔6〕 前記金属材が、銅、アルミニウム、鉄から選ばれる1種以上からなる、〔1〕~〔5〕の何れかに記載のプライマー付き金属材。
【0008】
(プライマー付き金属材の製造方法)
〔7〕 下記(A-1)~(A-6)の少なくとも一種と、フッ素樹脂(B)を含む現場重合型樹脂組成物を溶剤に溶解した溶液を、金属材に塗布し、前記金属材の上で、前記現場重合型樹脂組成物を重合させる、プライマー付き金属材の製造方法。
(A-1)2官能イソシアネート化合物とジオールの組み合わせ
(A-2)2官能イソシアネート化合物と2官能アミノ化合物の組み合わせ
(A-3)2官能イソシアネート化合物と2官能チオール化合物の組み合わせ
(A-4)2官能エポキシ化合物とジオールの組み合わせ
(A-5)2官能エポキシ化合物と2官能カルボキシ化合物の組み合わせ
(A-6)2官能エポキシ化合物と2官能チオール化合物の組み合わせ
〔8〕 前記金属材の表面にアミノ基、エポキシ基、メルカプト基、スチリル基、(メタ)アクリロイル基、イソシアナト基、及びアルケニル基からなる群より選ばれる1種以上の官能基を有する、〔7〕に記載のプライマー付き金属材の製造方法。
【0009】
(接合体及びその使用)
〔9〕 〔1〕~〔6〕の何れかに記載のプライマー付き金属材と、フッ素材料を接合してなる、接合体。
〔10〕 前記フッ素材料が、フッ素樹脂またはフッ素ゴムである、〔9〕に記載の接合体。
〔11〕 前記フッ素樹脂が、四フッ化エチレン樹脂(PTFE)である、〔10〕に記載の接合体。
〔12〕 前記プライマー付き金属材の金属材が銅である、〔9〕~〔11〕の何れかに記載の接合体の、銅張りプリント基板としての使用。
【0010】
(接合方法)
〔13〕 下記(A-1)~(A-6)の少なくとも一種と、フッ素樹脂(B)を含む現場重合型樹脂組成物を溶剤に溶解した溶液を、金属材に塗布し、前記金属材の上で、前記現場重合型樹脂組成物を重合させて現場重合型樹脂組成物層を形成し、
前記現場重合型樹脂組成物層にフッ素材料を溶着させる、接合方法。
(A-1)2官能イソシアネート化合物とジオールの組み合わせ
(A-2)2官能イソシアネート化合物と2官能アミノ化合物の組み合わせ
(A-3)2官能イソシアネート化合物と2官能チオール化合物の組み合わせ
(A-4)2官能エポキシ化合物とジオールの組み合わせ
(A-5)2官能エポキシ化合物と2官能カルボキシ化合物の組み合わせ
(A-6)2官能エポキシ化合物と2官能チオール化合物の組み合わせ
〔14〕 前記フッ素樹脂(B)が、四フッ化エチレン樹脂(PTFE)である、〔13〕に記載の接合方法。
〔15〕 前記(A-1)及び/又は前記(A-4)のジオールがビスフェノールAFである、〔13〕又は〔14〕に記載の接合方法。
〔16〕 前記金属材が、銅、アルミニウム、鉄から選ばれる1種以上からなる、〔13〕~〔15〕の何れかに記載の接合方法。
〔17〕 前記金属材の表面にアミノ基、エポキシ基、メルカプト基、スチリル基、(メタ)アクリロイル基、イソシアナト基、及びアルケニル基からなる群より選ばれる1種以上の官能基を有する、〔13〕~〔16〕の何れかに記載の接合方法。
〔18〕 前記溶着が、超音波溶着法、振動溶着法、電磁誘導法、高周波法、レーザー法、熱プレス法、射出溶着法からなる群より選ばれる少なくとも1種の方法による、〔13〕~〔17〕の何れかに記載の接合方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、フッ素材料と強固に接合できるプライマー付き金属材及びその関連技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】一実施形態におけるプライマー付き金属材の構成を示す説明図である。
図2】他の実施形態におけるプライマー付き金属材の構成を示す説明図である。
図3】一実施形態における接合体の構成を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のプライマー付き金属材及びその関連技術について詳述する。
【0014】
《プライマー付き金属材》
本発明の一実施形態に係るプライマー付き金属材1は、図1に示すように、金属材2と、前記金属材2に積層された1層又は複数層のプライマー層3とを有する積層体である。前記プライマー層3の少なくとも1層は、現場重合型組成物を重合させてなる現場重合型樹脂組成物層31であり、前記現場重合型樹脂組成物が、下記(A-1)~(A-6)の少なくとも一種と、フッ素樹脂(B)を含む。
(A-1)2官能イソシアネート化合物とジオールの組み合わせ
(A-2)2官能イソシアネート化合物と2官能アミノ化合物の組み合わせ
(A-3)2官能イソシアネート化合物と2官能チオール化合物の組み合わせ
(A-4)2官能エポキシ化合物とジオールの組み合わせ
(A-5)2官能エポキシ化合物と2官能カルボキシ化合物の組み合わせ
(A-6)2官能エポキシ化合物と2官能チオール化合物の組み合わせ
本発明において、現場重合型組成物とは、フッ素樹脂(B)の共存下で、特定の2官能の化合物の組み合わせを、現場、すなわち各種の材料上で、触媒存在下で重付加反応することにより、若しくは、特定の単官能のモノマーのラジカル重合反応により、熱可塑構造、すなわち、リニアポリマー構造を形成する組成物を意味する。現場重合型組成物は、重合すると架橋構造による3次元ネットワークを構成する熱硬化性樹脂とは異なり、架橋構造による3次元ネットワークを構成せず、熱可塑性を有する。
前記現場重合型樹脂組成物層31は、現場重合型フェノキシ樹脂を含む組成物から形成されてなる層であることが好ましい。現場重合型フェノキシ樹脂とは、熱可塑性エポキシ樹脂や、現場硬化型フェノキシ樹脂、現場硬化型エポキシ樹脂等とも呼ばれる樹脂であり、2官能エポキシ樹脂と2官能フェノール化合物とが触媒存在下で重付加反応することにより、熱可塑構造、すなわち、リニアポリマー構造を形成する。
【0015】
本発明において、プライマー層3とは、後述の図3に示すように、金属材2とフッ素材料5を接合一体化して接合体6を得る際に、金属材2とフッ素材料5との間に介在し、金属材2とフッ素材料5の接合強度を向上させる層を意味する。
【0016】
<金属材>
金属材を構成する金属の種類は特に限定されず、例えば、銅、アルミニウム、鉄、マグネシウム、チタン等が挙げられる。これらのうち、軽量性及び加工容易性等の観点から、アルミニウム及び/又は銅が、特に好適に用いられる。用途が、プリント配線板である場合は銅が特に好適である。
なお、本発明において、「アルミニウム」の語は、アルミニウム及びその合金を含む意味で用いられる。同様に、銅、アルミニウム、鉄、マグネシウム、チタンも、これらの単体及びその合金を含む意味で用いるものとする。
【0017】
〔表面処理〕
金属材2には、表面の汚染物の除去、及び/又は、アンカー効果を目的とした表面処理を施すことが好ましい。
【0018】
表面処理により、図1に示すように、金属材2の表面に微細な凹凸21を形成して粗面化させることができる。
【0019】
表面処理により、金属材2とプライマー層3との接着性を向上させることができる。
表面処理は、プライマー付き金属材と、その接合対象であるフッ素材料(以下、接合対象ともいう)との接合性の向上にも寄与し得る。
【0020】
表面処理としては、例えば、溶剤等による洗浄、脱脂処理、ブラスト処理、研磨処理、プラズマ処理、レーザー処理、エッチング処理、化成処理等が挙げられ、金属材2の表面に水酸基を発生させる表面処理が好ましい。これらの表面処理は、1種のみであってもよく、2種以上を施してもよい。これらの表面処理の具体的な方法としては、公知の方法を用いることができる。
【0021】
前記溶剤等による洗浄及び/又は前記脱脂処理としては、金属材2の表面を、アセトン、トルエン等の有機溶剤を用いて脱脂する等の処理が挙げられる。前記溶剤等による洗浄及び/又は前記脱脂処理は、他の表面処理の前に行うことが好ましい。
【0022】
前記ブラスト処理としては、例えば、ショットブラストやサンドブラスト等が挙げられる。
【0023】
前記研磨処理としては、例えば、研磨布を用いたバフ研磨や、研磨紙(サンドペーパー)を用いたロール研磨、電解研磨等が挙げられる。
【0024】
プラズマ処理とは、プラズマ処理高圧電源を用いて、電極と呼ばれるロッドから出るプラズマビームで材料表面を叩き、表面に存在する異物油膜を先ず洗浄し、素材に応じたガスエネルギーを投入することで表面分子を励起する方法であり、表面に水酸基や極性基を付与できる大気圧プラズマ処理方法等が挙げられる。
【0025】
レーザー処理とは、レーザー照射によって表面層のみを急速に加熱、冷却して,表面の特性を改善する技術で表面の粗面化に有効な方法である。公知のレーザー処理技術を使用することができる。
【0026】
前記エッチング処理としては、例えば、アルカリ法、リン酸-硫酸法、フッ化物法、クロム酸-硫酸法、塩化鉄法等の化学的エッチング処理、また、電解エッチング法等の電気化学的エッチング処理等が挙げられる。
金属材2がアルミニウムからなる場合のエッチング処理は、水酸化ナトリウム水溶液又は水酸化カリウム水溶液を用いたアルカリ法が好ましく、特に、水酸化ナトリウム水溶液を用いた苛性ソーダ法が好ましい。前記アルカリ法は、例えば、金属材2を濃度3~20質量%の水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムの水溶液に、20~70℃で1~15分間浸漬させることにより行うことができる。添加剤として、キレート剤、酸化剤、リン酸塩等を添加してもよい。前記浸漬後、5~20質量%の硝酸水溶液等で中和(脱スマット)し、水洗、乾燥を行うことが好ましい。
【0027】
前記化成処理とは、主として金属材2の表面に、化成皮膜を形成するものである。
【0028】
化成処理としては、例えば、ベーマイト処理やジルコニウム処理等が挙げられる。
ベーマイト処理では、金属材2を熱水処理することにより、金属材2の表面にベーマイト皮膜が形成される。反応促進剤として、アンモニアやトリエタノールアミン等を水に添加してもよい。例えば、金属材2を、濃度0.1~5.0質量%でトリエタノールアミンを含む90~100℃の熱水中に3秒~5分間浸漬して行うことが好ましい。
ジルコニウム処理では、金属材2を、例えば、リン酸ジルコニウム等のジルコニウム塩含有液に浸漬することにより、金属材2の表面にジルコニウム化合物の皮膜が形成される。例えば、金属材2を、ジルコニウム処理用の化成剤(例えば、日本パーカライジング株式会社製「パルコート3762」、同「パルコート3796」等)の45~70℃の液中に0.5~3分間浸漬して行うことが好ましい。前記ジルコニウム処理は、前記苛性ソーダ法によるエッチング処理後に行うことが好ましい。
【0029】
金属材2がアルミニウムからなる場合は、特に、エッチング処理及びベーマイト処理から選ばれる少なくとも1種の表面処理を含むことが好ましい。
【0030】
〔官能基付与処理〕
金属材2の表面に官能基を付与する官能基付与処理を施すこともできる。
【0031】
金属材2が、アルミニウム又は銅からなる場合、プライマー層3を積層する前に、前記表面処理に続いて、官能基付与処理を施すことが好ましい。
【0032】
官能基付与処理により、図2に示すように、金属材2とプライマー層3との間に、金属材2と前記プライマー層3に接して積層された一層又は複数層の官能基含有層4を形成することができる。
【0033】
官能基付与処理により官能基含有層4を形成した場合、該官能基含有層4が有する官能基が、金属材2の表面の水酸基、及びプライマー層3を構成する樹脂の有する官能基と、それぞれ反応して形成する化学結合により、金属材2とプライマー層3との接着性を向上させる効果が得られる。また、接合対象との接合性を向上させる効果も得られる。したがって、官能基含有層4における官能基としては、金属材2の表面の水酸基や、前記プライマー層3を構成する樹脂の有する官能基と、反応性を有する官能基であることが好ましい。当該反応性を有する官能基としては、アミノ基、エポキシ基、メルカプト基、スチリル基、(メタ)アクリロイル基、イソシアナト基、アルケニル基、カルボキシ基、水酸基、ビニル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、等が挙げられ、アミノ基、エポキシ基、メルカプト基、スチリル基、(メタ)アクリロイル基、イソシアナト基、アルケニル基であることが好ましい。
【0034】
官能基含有層4は、シランカップリング剤、イソシアネート化合物及びチオール化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種から導入された官能基を有する層であることが好ましい。
【0035】
官能基含有層4は、プライマー層3を形成する前に、金属材2の表面又は前記の表面処理を施した面を、シランカップリング剤、イソシアネート化合物及びチオール化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種で処理することにより形成することができる。
【0036】
前記シランカップリング剤、前記イソシアネート化合物又は前記チオール化合物により、官能基含有層4を形成する方法は、特に限定されるものではないが、例えば、スプレー塗布法、浸漬法等が挙げられる。具体的には、金属材2を、濃度5~50質量%のシランカップリング剤等の常温~100℃の溶液中に1分~5日間浸漬した後、常温~100℃で1分~5時間乾燥させる等の方法により行うことができる。
【0037】
(シランカップリング剤)
前記シランカップリング剤としては、例えば、ガラス繊維の表面処理等に用いられる公知のものを使用することができる。シランカップリング剤を加水分解させて生成したシラノール基、又はこれがオリゴマー化したシラノール基が、金属材2の表面処理された面に存在する水酸基と反応して結合することにより、プライマー層3や接合対象と化学結合可能な該シランカップリング剤の構造に基づく官能基を、金属材2に対して付与する(導入する)ことができる。
【0038】
前記シランカップリング剤としては、特に限定されるものではないが、アミノ基を有するシランカップリング剤としては、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。エポキシ基を有するシランカップリング剤としては、例えば、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。メルカプト基を有するシランカップリング剤としては3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、ジチオールトリアジンプルピルトリエトキシシラン等が挙げられる。(メタ)アクリロイル基を有するシランカップリング剤としては、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。また、その他の有効なシランカップリング剤として3-イソシアナトプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシラン等のビニル基を有するシランカップリング剤、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(ビニルベンジル)-2-アミノプロピルトリメトキシシランの塩酸塩、トリス-(トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート、3-ウレイドプロピルトリアルコキシシラン、が挙げられる。これらは、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0039】
(イソシアネート化合物)
前記イソシアネート化合物は、該イソシアネート化合物中のイソシアナト基が、金属材2の表面処理された面に存在する水酸基と反応して結合することにより、プライマー層3や接合対象と化学結合可能な該イソシアネート化合物の構造に基づく官能基を、金属材2に対して付与する(導入する)ことができる。
【0040】
前記イソシアネート化合物としては、特に限定されるものではないが、例えば、多官能イソシアネートであるジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、トリレンジイソシアネート(TDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)等の他、ラジカル反応性基を有するイソシアネート化合物である2-イソシアネートエチルメタクリレート(例えば、昭和電工株式会社製「カレンズMOI(登録商標)」)、2-イソシアネートエチルアクリレート(例えば、昭和電工株式会社製「カレンズAOI(登録商標)」、同「AOI-VM(登録商標)」)、1,1-(ビスアクリロイルオキシエチル)エチルイソシアネート(例えば、昭和電工株式会社製「カレンズBEI(登録商標)」)等が挙げられる。
【0041】
(チオール化合物)
前記チオール化合物は、該チオール化合物中のメルカプト基(チオール基)が、金属材2の表面処理された面に存在する水酸基と反応して結合することにより、プライマー層3や接合対象と化学結合可能な該チオール化合物の構造に基づく官能基を、金属材2に対して付与する(導入する)ことができる。
【0042】
前記チオール化合物としては、特に限定されるものではないが、例えば、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)(例えば、三菱化学株式会社製「QX40」、東レ・ファインケミカル株式会社製「QE-340M」)、エーテル系一級チオール(例えば、コグニス(Cognis)社製「カップキュア3-800」)、1,4-ビス(3-メルカプトブチリルオキシ)ブタン(例えば、昭和電工株式会社製「カレンズMT(登録商標) BD1」)、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトブチレート)(例えば、昭和電工株式会社製「カレンズMT(登録商標) PE1」)、1,3,5-トリス(3-メルカプトブチルオキシエチル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン(例えば、昭和電工株式会社製「カレンズMT(登録商標) NR1」)等が挙げられる。
【0043】
〔プライマー層の形成〕
金属材2に積層されているプライマー層3は、1層であっても、複数層であってもよい。
【0044】
プライマー層3の厚さは、金属材2及びフッ素材料5の種類や接合部分の接触面積等にもよるが、十分な接合強度を得るため、0.1μm~100μmであることが好ましい。より好ましくは0.5μm~80μmであり、更に好ましくは0.8μm~50μmである。プライマー層3が複数層からなる場合は、プライマー層3の厚さは、各層の厚さの合計の値とする。
【0045】
プライマー層3の各層は、該プライマー層3の溶着により得られる十分な接合強度を得られる範囲内において、必要に応じて、着色剤、酸化防止剤等の任意の添加剤を含んでいてもよい。
【0046】
〔現場重合型樹脂組成物層〕
プライマー層3の少なくとも1層が、現場重合型樹脂組成物を重合させてなる現場重合型樹脂組成物層31であり、前記現場重合型樹脂組成物が、下記(A-1)~(A-6)の少なくとも一種と、フッ素樹脂(B)を含む。現場重合型樹脂組成物層31は、前記現場重合型樹脂組成物を、金属材2の上で、重合させてなるものであることが好ましい。プライマー層3が複数層からなる場合、現場重合型樹脂組成物層31は、金属材2と接合する被接合材との十分な接合強度を得る観点から、金属材2側とは反対側の、プライマー層3の最表面、すなわち、図2における最上面となるように積層されていることが好ましい。
(A-1)2官能イソシアネート化合物とジオールの組み合わせ
(A-2)2官能イソシアネート化合物と2官能アミノ化合物の組み合わせ
(A-3)2官能イソシアネート化合物と2官能チオール化合物の組み合わせ
(A-4)2官能エポキシ化合物とジオールの組み合わせ
(A-5)2官能エポキシ化合物と2官能カルボキシ化合物の組み合わせ
(A-6)2官能エポキシ化合物と2官能チオール化合物の組み合わせ
【0047】
(A-1)~(A-6)における2種の2官能化合物の配合比は、両化合物の重付加反応の反応性を考慮して設定することができ、例えば、(A-1)の場合、イソシアネート化合物のイソシアネート基とジオールの水酸基とのモル当量比、すなわち、イソシアネート化合物のジオールに対するモル比が、0.7~1.5であることが好ましく、より好ましくは0.8~1.4、更に好ましくは0.9~1.3である。
(A-2)~(A-6)についても、前者の2官能化合物と後者の2官能化合物との配合比を、上述した(A-1)の場合と同様に設定することが好ましい。
【0048】
(2官能イソシアネート化合物)
(A-1)~(A-3)におけるイソシアネート化合物は、イソシアナト基を2個有する化合物であり、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネート、2,4-又は2,6-トリレンジイソシアネート(TDI)又はその混合物、p-フェニレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)等が挙げられる。これらは、1種単独で用いられても、2種以上が併用されてもよい。これらのうち、プライマー層の強度の観点から、TDI、MDIが好ましい。
【0049】
(ジオール)
(A-1)及び(A-4)におけるジオールは、水酸基を2個有する化合物であり、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、1,6-ヘキサンジオール等の脂肪族グリコール化合物;ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、ビスフェノールAF等の2官能フェノール化合物等が挙げられる。これらは、1種単独で用いられても、2種以上が併用されてもよい。これらのうち、プライマー層の強靭性の観点からは、プロピレングリコール、ジエチレングリコール等が好ましい。また、(A-4)において、2官能エポキシ化合物と組み合わせるジオール化合物としては、2官能フェノール化合物が好ましく、中でもフッ素含有のビスフェノールAFが特に好ましい。
【0050】
(2官能アミノ化合物)
(A-2)におけるジアミノ化合物2官能アミノ化合物は、アミノ基を2個有する化合物であり、例えば、エチレンジアミン、1,2-プロパンジアミン、1,3-プロパンジアミン、1,4-ジアミノブタン、1,6-ヘキサメチレンジアミン、2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジアミン、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン、イソホロンジアミン、ビス(4-アミノ-3-メチルシクロヘキシル)メタン、1,3-ジアミノシクロヘキサン、N-アミノエチルピペラジン等の脂肪族ジアミン化合物;ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルプロパン等の芳香族ジアミン化合物等が挙げられる。これらは、1種単独で用いられても、2種以上が併用されてもよい。これらのうち、プライマー層の強靭性の観点からは、1,3-プロパンジアミン、1,4-ジアミノブタン、1,6-ヘキサメチレンジアミン等が好ましい。
【0051】
(2官能チオール化合物)
(A3)及び(A6)における2官能チオール化合物は、メルカプト基を2個有する化合物であり、これらのうち、1種単独で用いられても、2種以上が併用されてもよい。前記2官能チオール化合物としては、例えば、第二級ジチオール化合物である1,4-ビス(3-メルカプトブチリルオキシ)ブタン(例えば、「カレンズMT(登録商標) BD1」(昭和電工株式会社製))等が挙げられる。
【0052】
(2官能エポキシ化合物)
(A-4)~(A-6)における2官能エポキシ化合物は、エポキシ基を2個有する化合物であり、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビフェノール型エポキシ樹脂、ナフタレン型2官能エポキシ樹脂等の芳香族エポキシ樹脂;1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル等の脂肪族エポキシ化合物等が挙げられる。これらは、1種単独で用いられても、2種以上が併用されてもよい。具体的な商品としては、「jER(登録商標) 828、834、1001、1004、1007、YX-4000」(いずれも三菱ケミカル株式会社製)等が挙げられる。
なお、現場重合型樹脂組成物に2官能エポキシ化合物が含まれている場合は、重付加反応のための触媒として、第三級アミン系触媒又はリン系触媒等が含まれていることが好ましい。
【0053】
(2官能カルボキシ化合物)
(A-5)における2官能カルボキシ化合物は、カルボキシ基を2つ有する化合物であり、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、マレイン酸、フマル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等が挙げられる。これらは、1種単独で用いられても、2種以上が併用されてもよい。これらのうち、プライマー層の強度や強靭性等の観点からは、イソフタル酸、テレフタル酸、アジピン酸が好ましい。
【0054】
(フッ素樹脂)
フッ素樹脂(B)は、例えば完全フッ素化樹脂である四フッ化エチレン樹脂(PTFE)、フッ素化樹脂共重合体であるペルフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体(FEP)、エチレン・四フッ化エチレン共重合体(ETFE)、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、六フッ化プロピレン-フッ化ビニリデン共重合体(FKM)、テトラフルオロエチレン-プロピレン共重合体(FEPM)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロビニルエーテル共重合体(FFKM)、部分フッ素化樹脂であるポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッカビニル(PVF)等が挙げられるが、MEKなどの溶剤に溶解または分散できるタイプが好ましい。中でも低分子量の四フッ化エチレン樹脂(PTFE)が好ましい。溶媒への溶解性の観点からは、フッ素樹脂(B)の重量平均分子量は10,000~80,000が好ましい。
【0055】
(A-1)~(A-6)の少なくとも一種と、フッ素樹脂(B)における具体的な化合物の組み合わせは、化合物同士の反応性や相溶性等を勘案して、適宜決めることができる。
(A-1)~(A-6)及びフッ素樹脂(B)の合計質量に対するフッ素樹脂(B)の含有率、すなわち、(フッ素樹脂(B)の質量/((A-1)~(A-6)の総質量+フッ素樹脂(B)の質量)×100)で求められる値が、5~80質量%、好ましくは20~60質量%、更に好ましくは40~60質量%である。前記フッ素樹脂(B)の含有率が80質量%を超えると金属との接合が難しくなる。
(A-1)~(A-6)の少なくとも一種と、フッ素樹脂(B)には、それぞれの混合における均一性、また、現場重合層を形成する際の塗布容易性等の観点から、溶剤が含まれていてもよい。前記溶剤としては、例えば、アセトンやトルエン等の汎用の揮発性溶剤が挙げられる。
(A-1)~(A-6)の少なくとも一種には、重付加反応のための触媒として、例えば、トリエチルアミン、2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール等の第三級アミン系触媒、トリフェニルホスフィン等のリン系触媒等が含まれていてもよい。
【0056】
<フッ素材料>
フッ素材料としては、公知のフッ素樹脂及び/又はフッ素ゴムを使用することができる。
フッ素樹脂は、フッ素を含むオレフィンを重合して得られる合成樹脂であり、例えば完全フッ素化樹脂である四フッ化エチレン樹脂(PTFE)、フッ素化樹脂共重合体であるペルフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体(FEP)、エチレン・四フッ化エチレン共重合体(ETFE)、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、六フッ化プロピレン-フッ化ビニリデン共重合体(FKM)、テトラフルオロエチレン-プロピレン共重合体(FEPM)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロビニルエーテル共重合体(FFKM)、部分フッ素化樹脂であるポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッカビニル(PVF)等が挙げられる。
フッ素ゴムはフッ素を組成のなかに含むゴム状弾性体であればよい。フッ化ビニリデン系(FKM)、テトラフルオロエチレン-プロピレン系(FEPM)、テトラフルオロエチレン-パープルオロビニルエーテル系(FFKM)等が挙げられる。代表的なものとして六フッ化系のフッ素ゴム(フッ化ビニリデンとヘキサフルオルプロピレンの共重合体)が挙げられる。
【0057】
フッ素材料の形状は、塊状物、フィルム、シート、FRPからなる群より選ばれる1種以上であることが好ましい。
【0058】
《プライマー付き金属材の製造方法》
本発明の一実施形態に係るプライマー付き金属材の製造方法は、前記(A-1)~(A-6)の少なくとも一種と、フッ素樹脂(B)を含む現場重合型樹脂組成物を溶剤に溶解した溶液を、金属材に塗布し、前記金属材の上で、前記現場重合型樹脂組成物を重合させてなる。
【0059】
《接合体》
図3に示すように、本発明の一実施形態に係る接合体は、プライマー付き金属材1の前記プライマー層3と、フッ素材料5を、溶着により接合させてなる。
溶着は、超音波溶着法、振動溶着法、電磁誘導法、高周波法、レーザー法、熱プレス法、射出溶着法からなる群より選ばれる少なくとも1種の方法であることが好ましい。
接合体の用途は特に限定されないが、例えば、プライマー付き銅と、フッ素材料を、溶着により接合させてなる、銅張りプリント基板を例示することができる。
【0060】
《接合方法》
本発明の一実施形態に係る接合方法は、金属材とフッ素材料を接合させる方法であり、前記(A-1)~(A-6)の少なくとも一種と、フッ素樹脂(B)を含む現場重合型樹脂組成物を溶剤に溶解した溶液を、金属材に塗布し、前記金属材の上で、前記現場重合型樹脂組成物を重合させて現場重合型樹脂組成物層を形成し、前記現場重合型樹脂組成物層にフッ素材料を溶着させてなる。
【実施例
【0061】
<実施例1-1、実施例1-2、実施例1-3>
[銅箔及びフッ素樹脂]
表1に示す「銅箔-1、銅箔-2、銅箔-3」及び「フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン。以下、PTFE)」を準備した。
【0062】
【表1】
【0063】
[表面処理]
表1に示す「銅箔-1、銅箔-2、銅箔-3」について、硫酸水(硫酸100g/水1L)に30秒間浸漬、水洗・乾燥して銅箔表面を洗浄したものと、前記の洗浄をしないものを準備した。
次に各銅箔表面に対してプラズマ処理(プラズマトリート社製 大気圧プラズマ処理機:FG5001、照射距離:15mm、送り速度5m/分)を行った。
【0064】
[官能基付与処理:シランカップリング剤による処理]
表面処理後の銅箔(銅箔-1、銅箔-2、銅箔-3)を、3-アミノプロピルトリメトキシシラン(信越シリコーン株式会社製 KBM-903;シランカップリング剤)0.5gを工業用エタノール100gに溶解せしめてなる70℃のシランカップリング剤溶液中に5分間浸漬した後、銅箔を取り出し、表面にアミノ基を付与した銅箔を作製した。
【0065】
[プライマー層の形成]
jER(登録商標)1007(三菱ケミカル株式会社製、2官能エポキシ化合物):32.29g、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン(ビスフェノールAF):2.68g、トリフェニルホスフィン:0.14g、ルブロンL-5F(ダイキン工業株式会社製、低分子量四フッ化エチレン樹脂(PTFE)):35gをメチルエチルケトン(MEK):130gに溶解し、現場重合型プライマー溶液Aを調製した。
前記現場重合型プライマー溶液Aを、表面にアミノ基を付与した銅箔(銅箔-1、銅箔-2、銅箔-3)に、乾燥後の厚さが1μmになるように塗布して40℃で1hr放置してMEKを揮発した後、150℃で1時間かけて現場重合型プライマーAを重合させ室温に戻して、表2-1に示す「プライマー付き銅箔-1、プライマー付き銅箔-2、プライマー付き銅箔-3」を作製した。
【0066】
【表2-1】
【0067】
[接合体の作製及び銅箔引き剥がし強さ]
「プライマー付き銅箔-1(10cm角)、プライマー付き銅箔-2(10cm角)、プライマー付き銅箔-3(10cm角)」のプライマー面と、PTFEフィルム(10cm角):XCH2868Dを重ねて、180℃、圧力:5MPaで10分プレス成形し、接合体を作製した。
次にJIS C 6481による銅箔引き剥がし強さ(N/mm)を測定した。結果を表3に示す。
【0068】
<比較例1-1、比較例1-2、比較例1-3>
[銅箔及びフッ素樹脂]
実施例1-1~1-3と同様に、表1に示す「銅箔-1、銅箔-2、銅箔-3」及び「フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン。以下、PTFE)」を準備した。
[表面処理]
実施例1-1~1-3と同様に、表面処理を行った。
[官能基付与処理:シランカップリング剤による処理]
実施例1-1~1-3と同様に、官能基付与処理を行った。
[プライマー層の形成]
jER(登録商標)1007(三菱ケミカル株式会社製、2官能エポキシ化合物):100g、ビスフェノールA:5.6g、トリフェニルホスフィン:0.4g、メチルエチルケトン(MEK):196gに溶解し、現場重合型プライマー溶液Bを調製した。
前記現場重合型プライマー溶液Bを、表面にアミノ基を付与した銅箔(銅箔-1、銅箔-2、銅箔-3)に、乾燥後の厚さが1μmになるように塗布して40℃で1hr放置してMEKを揮発した後、150℃で1時間かけて現場重合型プライマーを重合させ室温に戻して、表2-2に示す「プライマー付き銅箔-4、プライマー付き銅箔-5、プライマー付き銅箔-6」を作製した。
【0069】
【表2-2】
【0070】
[接合体の作製及び銅箔引き剥がし強さ]
「プライマー付き銅箔-4、プライマー付き銅箔-5、プライマー付き銅箔-6」のプライマー面と、PTFEフィルム(10cm角):XCH2868Dを重ねて、180℃、圧力:5MPaで10分プレス成形し、接合体を作製した。
次にJIS C 6481による銅箔引き剥がし強さ(N/mm)を測定した。結果を表3に示す。
【0071】
【表3】

【0072】
<実施例2-1、実施例2-2>
[金属及びフッ素ゴム材料]
表4に示す金属及びフッ素ゴム材料を準備した。
【0073】
【表4】
【0074】
[表面処理]
表4に示すステンレス、アルミニウムについて、プラズマ処理(プラズマトリート社製 大気圧プラズマ処理機:FG5001、照射距離:15mm、送り速度5m/分)を行った。
【0075】
[官能基付与処理:シランカップリング剤による処理]
表面処理後のステンレス及びアルミニウムを、3-アミノプロピルトリメトキシシラン(信越シリコーン株式会社製 KBM-903;シランカップリング剤)0.5gを工業用エタノール100gに溶解せしめてなる70℃のシランカップリング剤溶液中に、前記ステンレス、アルミニウムを5分間浸漬した後に取り出し、表面にアミノ基を付与したステンレス、アルミニウムを作製した。
【0076】
[プライマー層の形成]
実施例1-1~1-3と同様に、現場重合型プライマー溶液Aを調製した。
次に、表面にアミノ基を付与したステンレス及びアルミニウムに、乾燥後の厚さが20μmになるように塗布して40℃で1hr放置してMEKを揮発した後、150℃で1時間かけて現場重合型プライマーAを重合させ室温に戻して、表5-1に示す「プライマー付きステンレス-1、プライマー付きアルミニウム-1」を作製した。
【0077】
【表5-1】
【0078】
<比較例2-1、比較例2-2>
現場重合型プライマー溶液Bを使用する以外は実施例2-1~2-2と同様に、表5-2に示す「プライマー付きステンレス-2、プライマー付きアルミニウム-2」を作製した。
【0079】
【表5-2】
【0080】
[接合体の作製及び引張りせん断試験]
表5-1、表5-2に示す「プライマー付きステンレス-1、プライマー付きアルミニウム-1、プライマー付きステンレス-2、プライマー付きアルミニウム-2」のプライマー面とフッ素ゴムの端部の5mm×10mmを重ねてダブルクリップで挟み160℃の乾燥炉の中に10分間静置し、常温まで戻して「プライマー付きステンレス-1、プライマー付きアルミニウム-1、プライマー付きステンレス-2、プライマー付きアルミニウム-2」のそれぞれとフッ素ゴムの接合体を作製した。
次にISO19095 1-4に準拠して引張りせん断強度を測定した。結果を表6に示す。
【0081】
【表6】
【0082】
<実施例3-1、実施例3-2、比較例3-1、比較例3-2>
[接合体の作製及び引張りせん断試験]
表5-1、表5-2に示す「プライマー付きステンレス-1、プライマー付きアルミニウム-1、プライマー付きステンレス-2、プライマー付きアルミニウム-2」のプライマー面とフッ素樹脂:G110の端部の5mm×10mmを重ねてダブルクリップで挟み180℃の乾燥炉の中に10分間静置し、常温まで戻してプライマー付きステンレスとフッ素樹脂の接合体を作製した。
次にISO19095 1-4に準拠して引張りせん断強度を測定した。結果を表7に示す。
【0083】
【表7】
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明に係る接合体は、金属とフッ素樹脂やフッ素ゴムを組み合わせたもの、例えば、自動車、船舶、航空機、食品、薬品、医療品などの部品をはじめ、製造現場でも多く使用される電気部品、電子部品、食品機械部品、設備部品、医療・生体、医療機器部品、パッキン、ガスケット、Oリング、シーリング部品、チューブ、ホースなど、配管部品、ゴム栓、キャップ、ゴム紐、ゴムリング、ゴムシート、スポンジシート、マット、研究機器部品、キャスター部品、車輪、ダクト、額縁パッキン等に用いられるが、特にこれら例示の用途に限定されるものではない。
本発明に係る接合体のうち、樹脂に銅箔を接合して貼り合わせたものは、プリント配線基板(PCB)における高周波信号対策の用途に好適である。
【符号の説明】
【0085】
1 プライマー付き金属材
2 金属材
3 プライマー層
4 官能基含有層
5 フッ素材料
6 接合体
図1
図2
図3