(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-27
(45)【発行日】2024-06-04
(54)【発明の名称】炭素繊維前駆体アクリル繊維、炭素繊維およびそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
D01F 9/22 20060101AFI20240528BHJP
D01F 6/18 20060101ALI20240528BHJP
【FI】
D01F9/22
D01F6/18 E
(21)【出願番号】P 2022178730
(22)【出願日】2022-11-08
(62)【分割の表示】P 2020218693の分割
【原出願日】2018-02-16
【審査請求日】2022-12-08
(31)【優先権主張番号】P 2017026727
(32)【優先日】2017-02-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】松山 直正
(72)【発明者】
【氏名】中村 祐太郎
(72)【発明者】
【氏名】廣田 憲史
(72)【発明者】
【氏名】松村 宏子
(72)【発明者】
【氏名】池田 勝彦
(72)【発明者】
【氏名】若林 巧己
(72)【発明者】
【氏名】大谷 忠
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 彰浩
(72)【発明者】
【氏名】平野 健司
(72)【発明者】
【氏名】畑山 明人
(72)【発明者】
【氏名】兼田 顕治
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 篤志
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-125701(JP,A)
【文献】特開2010-285710(JP,A)
【文献】特開2012-188766(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F1/00-6/96;9/00-9/04;9/08-9/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単繊維の長径/短径が1.11以上1.245以下であり、単繊維の凹み距離/短径が0.011以上0.018以下であり、ストランド強度が5700GPa以上5950GPa以下である炭素繊維。
【請求項2】
単繊維の長径/短径が1.20以下である請求項
1に記載の炭素繊維。
【請求項3】
前記単繊維の凹み距離/短径が0.0145以上である、請求項1
または2に記載の炭素繊維。
【請求項4】
前記単繊維の長径/短径が1.135以上である請求項1~
3のいずれか一項に記載の炭素繊維。
【請求項5】
単繊維の長径/短径が1.11以上1.2
0以下であり、単繊維の凹み距離/短径が0.011以上0.018以下である炭素繊維前駆体アクリル繊維。
【請求項6】
前記単繊維の凹み距離/短径が0.0145以上である、請求項
5に記載の炭素繊維前駆体アクリル繊維。
【請求項7】
前記単繊維の長径/短径が1.135以上である請求項
5または6に記載の炭素繊維前駆体アクリル繊維。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維前駆体アクリル繊維、炭素繊維およびそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種産業において様々な用途に利用される圧力容器は近年、その利用範囲がますます広
がっており、天然ガスを燃料とする自動車に搭載する圧力容器(CNGタンク)や水素ガ
スを燃料とする燃料電池車に搭載される圧力容器(CHGタンク)への展開も進んでいる
。自動車用の圧力容器は燃費改善のため、より軽量化することが市場には求められている
。
【0003】
炭素繊維を用いた圧力容器は、通常、炭素繊維の単繊維からなる束(以下、炭素繊維束
という場合がある。)にエポキシ樹脂などの樹脂を含浸させて、ライナーと呼ばれる金属
製や樹脂製の円筒状物に巻き付ける処理を行い、樹脂を加熱硬化することによって得られ
る。(以下、フィラメントワインディング法という場合がある。)
炭素繊維は、一般的に高い比強度及び比弾性率を有することが知られており、炭素繊維
を用いた圧力容器(以下、CFRP製タンクという場合がある。)は、金属製の圧力容器
と同程度の強度を持ちつつ、軽量である。
しかしながら、自動車用の圧力容器では、特にCHGタンクの分野では更なる高強度化
が求められている。
CFRP製タンクの高強度化には、使用する炭素繊維のストランド強度を高くする事に
加え、CFRP製タンクを構成する炭素繊維強化プラスチック(以下、CFRPという場
合がある。)中のボイドの生成を抑制すること、CFRP中の繊維体積含有率の斑を小さ
くすることが重要である。
【0004】
従来の技術で製造された炭素繊維は、炭素繊維束を構成する単繊維の表面に形成されて
いる皺が浅い程、炭素繊維束の集束性が高くなり、炭素繊維束への樹脂の含浸が不十分と
なり、CFRP中にボイドが形成されてしまう傾向があった。逆に単繊維の表面に形成さ
れている皺が深すぎると、炭素繊維束の集束性が不十分となり、樹脂の含浸が一定となら
ず、CFRP中の繊維体積含有率の斑が大きくなってしまう傾向があった。
また、炭素繊維束を構成する単繊維の断面形状が真円に近づくほど、単繊維同士の隙間
が小さくなり、炭素繊維束への樹脂の含浸が不十分となり、CFRP中にボイドが形成さ
れてしまう傾向があった。逆に単繊維の繊維軸方向の断面形状が真円から遠ざかるほど、
単繊維間の隙間のばらつきが大きくなってしまい、炭素繊維束への樹脂の含浸が一定とな
らず、CFRP中の繊維体積含有率の斑が大きくなってしまう傾向があった。
従って、CFRP製タンクの高強度化を達成するためには、ストランド強度が高いこと
に加え、単繊維の断面形状および単繊維の表面に形成されている皺を適切に制御した炭素
繊維が望まれている。
【0005】
特許文献1では、炭素繊維束を構成する単繊維の表面の表面凹凸構造を制御する事で、
樹脂との界面接着性を維持しつつ、応力集中による破壊靭性低下を抑制し、また、炭素繊
維束を構成する単繊維の断面形状をより真円に近づける事で、応力集中による破壊靭性低
下を抑制して、高い機械的特性を有する炭素繊維強化複合材料が得られると記載されてい
る。しかしながら、炭素繊維束を構成する単繊維の断面形状は真円に近く、単繊維の表面
の凹凸も浅い為、得られるCFRP製タンクはボイドが多くなる場合があり、ボイドが多
い場合には高い強度が得られにくい。
【0006】
また、特許文献2には、炭素繊維束の幅を均一な扁平形状とし、樹脂含浸後の繊維束の
幅変動を抑制することで、フィラメントワインディング法によるCFRP製タンクの製造
に適した炭素繊維束が得られると記載されている。そのために炭素繊維束を構成する単繊
維の断面形状および表面の算術平均粗さを制御している。しかし、使用している炭素繊維
束を構成する単繊維の断面形状が真円に近いため、単繊維同士が最密充填しやすくなって
おり、得られるCFRP製タンクはボイドが多い傾向となり、高い強度が得られにくい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2010-285710号公報
【文献】特開2012-154000号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、かかる課題を解決するためになされたものであり、炭素繊維束を構成する単
繊維の断面形状および単繊維の表面に形成されている皺を適切に制御することで、フィラ
メントワインディング法によってCFRP製タンクを製造する過程にて、熱硬化性樹脂を
炭素繊維束に含浸させる際に、気泡の生成を抑制でき、樹脂含有率の斑を小さくでき、C
FRP製タンクのCFRP内部のボイドを抑制して、CFRPの繊維体積含有率の斑を小
さくして、CFRP製タンクの高強度化が可能となる炭素繊維および炭素繊維束、その炭
素繊維および炭素繊維束の原料となる炭素繊維前駆体アクリル繊維および炭素繊維前駆体
アクリル繊維束と、それら炭素繊維前駆体アクリル繊維束および炭素繊維束の製造方法を
提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的は以下の方法によって解決される。
すなわち、本発明の第一の態様は、単繊維表面の中心線平均粗さRaが6.0nm以上
13nm以下であり、単繊維の長径/短径が1.11以上1.245以下である炭素繊維
である。
本発明の第一の態様である炭素繊維は、下記[1]~[3]の何れか1つ以上の構成を
具備することが好ましい。
[1] 単繊維の凹み距離/短径が0.011以上0.018以下である。
[2] 前記単繊維表面の中心線平均粗さRaが10nm以下であり、前記単繊維の長径
/短径が1.135以上である。
[3] 前記単繊維の凹み距離/短径が0.0145以上である。
【0010】
本発明の第二の態様は、単繊維表面の中心線平均粗さRaが18nm以上27nm以下
であり、単繊維の長径/短径が1.11以上1.245以下である炭素繊維前駆体アクリ
ル繊維である。
本発明の第二の態様である炭素繊維前駆体アクリル繊維は、下記[4]~[6]の何れ
か1つ以上の構成を具備することが好ましい。
[4] 単繊維の凹み距離/短径が0.011以上0.018以下である。
[5] 前記単繊維表面の中心線平均粗さRaが24nm以下であり、前記単繊維の長径
/短径が1.135以上である。
[6] 前記単繊維の凹み距離/短径が0.0145以上である。
【0011】
本発明の第三の態様は、下記1)~3)の工程を含み、且つ下記4)及び5)の条件を
満たす炭素繊維前駆体アクリル繊維束の製造方法である。
1)凝固液濃度が65質量%以上70質量%以下であり、凝固液温度が36℃以上40℃
以下である凝固液中に、アクリロニトリル系重合体溶液を紡糸口金から吐出し凝固させて
、凝固糸を得ると同時に、凝固糸にかかる張力を55mgf/フィラメント以上75mg
f/フィラメント以下に制御しながら引き取る工程。
2)前記1)工程にて引き取った凝固糸を空中にて1.00倍以上1.15倍以下の延伸
処理を施した後、50℃以上の水を用いた、4段以上7段以下からなる洗浄・延伸槽にて
2.4倍以上2.7倍以下の倍率範囲で延伸・洗浄を行い、さらに95℃以上の水を用い
た熱水槽にて0.97倍以上1.1倍以下の緩和又は延伸を行って延伸糸を得る工程。
3)前記2)工程で得られた延伸糸に油剤を付与して乾燥した後、130℃以上160℃
以下の加圧水蒸気雰囲気下で3.0倍以上4.5倍以下に延伸する工程。
4)前記1)工程の凝固糸を引き取ってから前記2)工程の延伸糸を得るまでの凝固糸の
合計延伸倍率は2.4倍以上2.7倍以下である。
5)前記1)工程の凝固糸を引き取ってから前記3)工程の加圧水蒸気雰囲気下での延伸
後までの合計延伸倍率は9.0倍以上12倍以下である。
【0012】
本発明の第四の態様は、下記4)~6)の工程を含む炭素繊維束の製造方法である。
4)本発明の第二態様の炭素繊維前駆体アクリル繊維から構成される炭素繊維前駆体アク
リル繊維束に対し、酸化性雰囲気中で200℃以上300℃以下に加熱し耐炎化繊維束と
する耐炎化工程。
5)前記耐炎化繊維束を非酸化性雰囲気中、550℃以上800℃以下で加熱し前炭素化
繊維束とする前炭素化工程。
6)前記前炭素化繊維束を非酸化性雰囲気中、1200℃以上3000℃以下で加熱し炭
素繊維束とする高温炭素化工程。
【発明の効果】
【0013】
本発明により炭素繊維の単繊維の断面形状および単繊維の表面に形成されている皺を適
切に制御することで、フィラメントワインディング法によってCFRP製タンクを製造す
る過程にて、熱硬化性樹脂を炭素繊維束に含浸させる際に、気泡の生成を抑制でき、繊維
含有率の斑を小さくでき、結果的にCFRP製タンクの高強度化が可能となる炭素繊維の
原料となる炭素繊維前駆体アクリル繊維と該炭素繊維が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、単繊維の長径及び短径の定義を説明するための概略図である。
【
図2】
図2は、単繊維の凹み距離の定義を説明するための概略図である。
【
図3】
図3は、実施例2の炭素繊維前駆体アクリル繊維束を構成する単繊維断面の電子顕微鏡撮影画像である。
【
図4】
図4は、比較例9の炭素繊維前駆体アクリル繊維束を構成する単繊維断面の電子顕微鏡撮影画像である。
【
図5】
図5は、比較例7の炭素繊維前駆体アクリル繊維断面の電子顕微鏡撮影画像である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の炭素繊維前駆体アクリル繊維は、単繊維表面の中心線平均粗さRaが18nm
以上27nm以下である。
本発明では、炭素繊維前駆体アクリル繊維の単繊維表面の中心線平均粗さRaを18n
m以上とすることで、該炭素繊維前駆体アクリル繊維から得られる炭素繊維の単繊維から
なる炭素繊維束が過剰に集束することを抑制でき、炭素繊維束に樹脂を含浸させやすくな
る。また、炭素繊維前駆体アクリル繊維の単繊維表面の中心線平均粗さRaを27nm以
下とすることで、該炭素繊維前駆体アクリル繊維から得られる炭素繊維の単繊維からなる
炭素繊維束の集束性が不足することを防止でき、炭素繊維束に樹脂を均一に含浸させやす
くなる。
CFRP製タンク高強度化の観点から、炭素繊維前駆体アクリル繊維の単繊維表面の中
心線平均粗さRaは24nm以下であることがより好ましい。なお、炭素繊維前駆体アク
リル繊維の単繊維表面の中心線平均粗さRaは実施例に記載の方法で測定することができ
る。
【0016】
本発明の炭素繊維前駆体アクリル繊維は、単繊維の長径/短径が1.11以上1.24
5以下である。本発明では、炭素繊維前駆体アクリル繊維の単繊維の長径/短径を1.1
1以上とすることで炭素繊維前駆体アクリル繊維の単繊維の束(以下、炭素繊維前駆体ア
クリル繊維束という場合がある。)を耐炎化および炭素化して得られる炭素繊維束を構成
する単繊維同士の隙間を十分確保する事が可能となり、炭素繊維束に樹脂を含浸させやす
くなる。また、炭素繊維前駆体アクリル繊維の単繊維の長径/短径を1.245以下とす
ることで耐炎化および炭素化して得られる炭素繊維の単繊維同士の隙間が過剰になること
を防ぎ、炭素繊維束に樹脂を均一に含浸させやすくなる。
CFRP製タンク高強度化の観点から、炭素繊維前駆体アクリル繊維の単繊維の長径/
短径は1.135以上であることがより好ましい。
炭素繊維前駆体アクリル繊維の単繊維の長径/短径とは、炭素繊維前駆体アクリル繊維
を構成する個々の単繊維の繊維軸方向に垂直な断面1に対して外接する矩形のうち面積が
最小の矩形2の、長辺の長さXと短辺の長さYとの比(X/Y)の平均値である。具体的
には、実施例に記載の方法で測定することができる(
図1参照)。
【0017】
本発明の炭素繊維前駆体アクリル繊維は、単繊維の凹み距離/短径が0.011以上0
.018以下であることが好ましい。
本発明では、炭素繊維前駆体アクリル繊維の単繊維の凹み距離/短径を0.011以上
とすることで、該炭素繊維前駆体アクリル繊維から得られる炭素繊維の単繊維同士の隙間
を十分確保する事が可能となり、炭素繊維束に樹脂を含浸させやすくなる。また、炭素繊
維前駆体アクリル繊維の単繊維の凹み距離/短径を0.018以下とすることで該炭素繊
維前駆体アクリル繊維から得られる炭素繊維の単繊維同士の隙間が過剰になることを防ぎ
、炭素繊維束に樹脂を均一に含浸させやすくなる。
CFRP製タンク高強度化の観点から、炭素繊維前駆体アクリル繊維の単繊維の凹み距
離/短径は0.0145以上であることがより好ましい。
炭素繊維前駆体アクリル繊維の単繊維の凹み/短径とは、炭素繊維前駆体アクリル繊維
を構成する個々の単繊維の繊維軸方向に垂直な断面1に対して外接する矩形のうち面積が
最小の矩形の短辺の長さY(
図1参照)と、同じ断面1について次の通り定義する凹み距
離Zとの逆比(Z/Y)の平均値である。具体的には、実施例に記載の方法で測定するこ
とができる。
凹み距離は、炭素繊維前駆体アクリル繊維を構成する個々の単繊維の繊維軸方向に垂直
な断面1に対して2点で接する直線3と繊維の断面1とで囲まれる空間(凹み)の面積が
最も大きくなる凹みの深さであり、凹みを囲む断面1の周上の点のうち直線3から最も離
れた点4と直線3との距離Zとして定義される(
図2参照)。
【0018】
本発明の炭素繊維前駆体アクリル繊維は、溶剤にアクリロニトリル系重合体が溶解した
アクリロニトリル系重合体溶液を紡糸して得られる。
本発明で用いられるアクリロニトリル系重合体は、アクリロニトリルを主な単量体とし
、これを重合して得られる重合体である。アクリロニトリル系重合体は、アクリロニトリ
ルのみから得られるホモポリマーであっても、主成分であるアクリロニトリルに加えて他
の単量体が共重合したコポリマーであってもよい。
【0019】
アクリロニトリル系重合体中のアクリロニトリル単位の含有量は、得られる炭素繊維束
に求める品質等を勘案して決定でき、例えば、90質量%以上99.5質量%以下である
ことが好ましく、96質量%以上99.5質量%以下であることがより好ましい。アクリ
ロニトリル単位の含有量が90質量%以上であれば、炭素繊維前駆体アクリル繊維を炭素
繊維に転換するための耐炎化および炭素化のそれぞれの工程で、単繊維同士の融着を招く
ことがなく、炭素繊維束のストランド強度低下を防ぐことができる。さらに、加熱ローラ
ーや加圧水蒸気による延伸等の処理において、単繊維間の接着を回避できる。アクリロニ
トリル単位の含有量が99.5質量%以下であれば、溶剤への溶解性が低下せず、アクリ
ロニトリル系重合体の析出・凝固を防止できるため、炭素繊維前駆体アクリル繊維を安定
して製造できる。
【0020】
アクリロニトリル系重合体中のアクリロニトリル以外の単量体単位としては、アクリロ
ニトリルと共重合可能なビニル系単量体から適宣選択することができ、アクリロニトリル
系重合体の親水性を向上させるビニル系単量体、耐炎化反応を促進するビニル系単量体が
好ましい。
アクリロニトリル系重合体を合成する方法はどのような重合方法であってもよく、重合
方法の相違によって本発明が制約されるものではない。
【0021】
アクリロニトリル系重合体溶液の溶剤にはジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシ
ド、ジメチルホルムアミド等の有機溶剤、塩化亜鉛、チオシアン酸ナトリウム等の無機化
合物の水溶液が挙げられる。中でもジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、およ
びジメチルホルムアミドはアクリロニトリル系重合体に対する溶解力が高い点から好まし
い。
【0022】
アクリロニトリル系重合体溶液の重合体濃度は、20質量%以上25質量%以下とする
ことが好ましい。より好ましくは21質量%以上24質量%以下である。重合体濃度を2
0質量%以上とすることで、凝固糸内部のボイドが減少するため、炭素繊維束のストラン
ド強度を高くすることができる。また、重合体濃度を25質量%以下とすることでアクリ
ロニトリル系重合体溶液は適度な粘度と流動性を保つことができるため、炭素繊維前駆体
アクリル繊維の製造が容易となる。
【0023】
炭素繊維前駆体アクリル繊維を得る紡糸方法としては、例えば、アクリロニトリル系重
合体溶液を紡糸口金(以下、ノズルという)より吐出する際に直接凝固液中に紡出して凝
固させる湿式紡糸法、空中に紡出して空中で凝固させる乾式紡糸法、一旦空中に紡出した
後凝固液中で凝固させる乾湿式紡糸法等がある。
本発明では、有機溶剤の濃度が65質量%以上70質量%以下、温度が33℃以上40
℃以下の有機溶剤水溶液を凝固液として、凝固液中にアクリロニトリル系重合体溶液を3
000以上、好ましくは12000以上、さらに好ましくは24000以上の吐出孔を有
するノズルより吐出して凝固させて凝固糸を得ることが好ましい。1個のノズルが有する
吐出孔の数は120000以下が好ましく、60000以下がさらに好ましい。
【0024】
凝固液である有機溶剤水溶液の有機溶剤の濃度(凝固液濃度ともいう)を65質量%以
上とすることで、炭素繊維前駆体アクリル繊維の単繊維の長径/短径および単繊維表面の
中心線平均粗さRaが大きくなりすぎることを防ぐことが可能となる。また、凝固液中の
有機溶剤水溶液の濃度を70質量%以下とすることで、得られる炭素繊維前駆体アクリル
繊維の単繊維の長径/短径および単繊維表面の中心線平均粗さRaが小さくなりすぎるこ
とを防ぐことが可能になる。炭素繊維前駆体アクリル繊維の単繊維の長径/短径および炭
素繊維前駆体アクリル繊維の単繊維表面の中心線平均粗さRaを制御するため、凝固液で
ある有機溶剤水溶液の有機溶剤の濃度を66質量%以上68質量%以下とすることがより
好ましい。
凝固液である有機溶剤水溶液の温度を33℃以上とすることで、得られる炭素繊維前駆
体アクリル繊維の単繊維の長径/短径および単繊維表面の中心線平均粗さRaが大きくな
りすぎることを防ぐことが可能になる。また、凝固液の有機溶剤水溶液の温度を40℃以
下とすることで、得られる炭素繊維前駆体アクリル繊維の単繊維の長径/短径および単繊
維表面の中心線平均粗さRaが小さくなりすぎることを防ぐことが可能になる。炭素繊維
前駆体アクリル繊維の単繊維の長径/短径および単繊維表面の中心線平均粗さRaを制御
するため、凝固液である有機溶剤水溶液の温度を36℃以上40℃以下とすることが好ま
しく、36℃以上39℃以下とすることがより好ましい。
【0025】
本発明では、凝固糸を凝固液より引き取る際の凝固糸にかかる張力(引取張力という)
を55mgf/フィラメント以上75mgf/フィラメント以下とすることが好ましい。
引取張力の測定方法は実施例記載の測定方法の通りである。
凝固糸を凝固液より引き取る際の引取張力を55mgf/フィラメント以上とすること
で、凝固液内にて凝固糸がばらけてしまい、引取不良になることを防止できる。加えて得
られる炭素繊維前駆体アクリル繊維の単繊維の長径/短径および単繊維表面の中心線平均
粗さRaが小さくなりすぎることを防ぐことが可能になる。
また、凝固糸を凝固液より引き取る際の引取張力を75mgf/フィラメント以下とす
ることで、得られる炭素繊維前駆体アクリル繊維の単繊維の長径/短径および単繊維表面
の中心線平均粗さRaが大きくなりすぎることを防ぐことが可能になる。
【0026】
炭素繊維前駆体アクリル繊維の単繊維の長径/短径および単繊維表面の中心線平均粗さ
Raの制御および炭素繊維前駆体アクリル繊維束の製造安定性の面から、凝固糸を凝固液
より引き取る際の引取張力を57fmg/フィラメント以上71mgf/フィラメント以
下とすることがより好ましい。
【0027】
引き取られた凝固糸は、凝固液を含んだ状態のまま、空中にて延伸を実施してもよい。
空中での延伸倍率は、1.00倍以上1.15倍以下とすることが好ましい。延伸倍率を
1.15倍以下とすることで、過剰な延伸を抑制できる。炭素繊維束のストランド強度を
高くし、CFRP製タンクの性能をより高くするという観点から、延伸倍率を1倍以上1
.05倍以下とすることがより好ましい。
【0028】
本発明では凝固糸を空中で延伸した後に続いて洗浄・延伸する。洗浄方法は脱溶剤出来
ればいかなる方法でもよい。たとえば、50℃以上100℃未満の範囲の温度に設定され
た多段洗浄・延伸槽にて、洗浄・延伸を行う。ここで、洗浄・延伸槽の段数は特に制限は
ないが、3段以上10段以下程度が適当である。4段以上7段以下が好ましい。延伸倍率
は、2.4倍以上2.8倍以下とすることが好ましい。
延伸倍率を2.4倍以上とすることで十分な分子配向性を持った炭素繊維前駆体アクリ
ル繊維を製造することが可能となり、結果的に炭素繊維束のストランド強度を高くするこ
とが可能となる。加えて、得られる炭素繊維前駆体アクリル繊維の単繊維表面の中心線平
均粗さRaが小さくなりすぎることを防ぐことが可能になる。また、延伸倍率を2.8倍
以下とすることで、延伸過剰によるフィブリル構造の破壊と炭素繊維前駆体アクリル繊維
の欠陥点形成を防ぐことが可能となり、結果的に炭素繊維束のストランド強度を高くする
ことが可能となる。加えて、得られる炭素繊維前駆体アクリル繊維の単繊維表面の中心線
平均粗さRaが大きくなりすぎることを防ぐことが可能になる。炭素繊維束のストランド
強度を高くし、CFRP製タンクの性能をより高くするという観点から、延伸倍率を2.
4倍以上2.7倍以下がより好ましく、2.5倍以上2.7倍以下とすることがさらに好
ましい。
【0029】
洗浄・延伸して得られた糸を95℃以上100℃未満の熱水中にて0.97倍以上1.
1倍以下に緩和または延伸して延伸糸を得ることが好ましい。0.97倍以上とすること
で繊維束のばらけによる引取不良を防止でき、前工程での延伸の歪みを緩和させることが
可能となる。また、1.1倍以下とすることで、過剰な延伸を抑制でき、フィブリル構造
の破壊と炭素繊維前駆体アクリル繊維の欠陥点形成を防ぐことが可能となる。炭素繊維の
高強度化及び炭素繊維前駆体アクリル繊維の製造安定性の面から、熱水中の延伸倍率は、
0.97倍以上1.05倍以下とすることがより好ましい。
【0030】
凝固糸を引き取ってから熱水中で延伸して延伸糸を得るまでの合計延伸倍率は2.4倍
以上2.9倍以下とすることが好ましい。2.4倍以上とすることで十分な配向を持った
炭素繊維前駆体アクリル繊維を製造することが可能となり、結果的に炭素繊維束のストラ
ンド強度を高くすることが可能となる。加えて、得られる炭素繊維前駆体アクリル繊維の
単繊維表面の中心線平均粗さRaが小さくなりすぎることを防ぐことが可能になる。また
、延伸倍率を2.9倍以下とすることで、延伸過剰によるフィブリル構造の破壊と炭素繊
維前駆体アクリル繊維の欠陥点形成を防ぐことが可能となる。加えて、得られる炭素繊維
前駆体アクリル繊維の単繊維表面の中心線平均粗さRaが大きくなりすぎることを防ぐこ
とが可能になる。炭素繊維束のストランド強度を高くし、CFRP製タンクの性能をより
高くするという観点から、凝固糸を引き取ってから95℃以上100℃未満の水中で延伸
して延伸糸を得るまでの合計延伸倍率を2.4倍以上2.7倍以下とすることがより好ま
しく、2.5倍以上2.7倍以下とすることがさらに好ましい。
【0031】
95℃以上100℃未満の水中にて延伸して得た延伸糸には油剤組成物を付与すること
が好ましい。油剤組成物は、炭素繊維前駆体アクリル繊維に求める機能等を勘案して決定
でき、例えば、シリコーン系油剤組成物が好ましく、必要に応じて、さらに酸化防止剤、
帯電防止剤、消泡剤、防腐剤、抗菌剤、浸透剤等の添加物を配合することができる。油剤
組成物を延伸糸に付与する方法としては、ローラー法、ガイド法、スプレー法、ディップ
法等、公知の方法を用いることができる。油剤組成物が付着した延伸糸は、続いて乾燥工
程にて乾燥し、乾燥繊維となる。この乾燥繊維を炭素繊維前駆体アクリル繊維として用い
ることもできる。
【0032】
乾燥工程は、従来公知の方法で延伸糸を乾燥でき、例えば、加熱ローラーによる乾燥が
好ましい乾燥方法として挙げられる。なお、加熱ローラーの数は1個であっても2個以上
であってもよい。
【0033】
乾燥繊維を加圧水蒸気雰囲気中にて延伸して炭素繊維前駆体アクリル繊維とすることも
できる。このとき、加圧水蒸気雰囲気の温度は130℃以上160℃以下とすることが好
ましい。また、加圧水蒸気雰囲気中での延伸倍率は3.0倍以上4.5倍以下とすること
が好ましい。
加圧水蒸気雰囲気の温度を130℃以上とすることで、乾燥繊維の可塑化が十分となり
、延伸倍率を高くしても破断せず、得られる炭素繊維前駆体アクリル繊維に含まれる毛羽
の量を低減させることが可能となり、結果的に耐炎化および炭素化して得られる炭素繊維
の品位が安定化する。また、加圧水蒸気雰囲気の温度を160℃以下とすることで、加圧
水蒸気雰囲気中での延伸中にて、酸化反応や分解反応を抑制することができるため、結果
的に得られる炭素繊維束のストランド強度低下を防ぐことが可能となる。
【0034】
加圧水蒸気雰囲気中での延伸倍率を3.0倍以上とすることで、得られる炭素繊維前駆
体アクリル繊維の分子配向性が向上され、得られる炭素繊維束のストランド強度は向上す
る。また、加圧水蒸気雰囲気中での延伸倍率を4.5倍以下とすることで、過剰な延伸を
抑制することができ、フィブリル構造の破壊と炭素繊維前駆体アクル繊維の欠陥点形成を
防ぐことが可能となる。
炭素繊維束のストランド高強度化と延伸安定性向上の観点から、加圧水蒸気雰囲気中で
の延伸倍率は3.3倍以上4.3倍以下とすることがより好ましい。
凝固糸を引き取ってから加圧水蒸気雰囲気中で延伸した後までの合計延伸倍率は9.0
倍以上12倍以下とすることが好ましい。9.0倍以上とすることで延伸不足による、炭
素繊維前駆体アクリル繊維の分子配向性の不足を防ぐことが可能となり、結果的に炭素繊
維束のストランド強度を高くすることが可能となる。また、合計延伸倍率を12倍以下と
することで、延伸過剰によるフィブリル構造の破壊と炭素繊維前駆体アクリル繊維の欠陥
点形成を防ぐことが可能となり、結果的に炭素繊維束のストランド強度を高くすることが
可能となる。炭素繊維束のストランド強度を高くするという観点から、合計延伸倍率を9
倍以上11倍以下とすることがより好ましい。
【0035】
乾燥繊維を延伸する雰囲気とする加圧水蒸気は加圧飽和水蒸気であることが好ましい。
乾燥後または加圧水蒸気雰囲気中にて延伸して得られた炭素繊維前駆体アクリル繊維は
、室温のロールに接触させる等の方法により、常温の状態まで冷却する。冷却した炭素繊
維前駆体アクリル繊維は、ワインダーでボビンに巻き取られ、或いはケンスに振込まれて
収納され、炭素繊維の製造に供される。
【0036】
以上より、本発明の炭素繊維前駆体アクリル繊維は、下記1)~3)の工程を含み、且
つ下記4)及び5)の条件を満たす方法により好ましく製造することができる。
1)凝固液濃度が65質量%以上70質量%以下であり、凝固液温度が36℃以上40℃
以下である凝固液中に、アクリロニトリル系重合体溶液を紡糸口金から吐出し凝固させて
、凝固糸を得ると同時に、凝固糸にかかる張力を55mgf/フィラメント以上75mg
f/フィラメント以下に制御しながら引き取る工程。
2)前記1)工程にて引き取った凝固糸を空中にて1.00倍以上1.15倍以下の延伸
処理を施した後、50℃以上の水を用いた、4段以上7段以下からなる洗浄・延伸槽にて
2.4倍以上2.7倍以下の倍率範囲で延伸・洗浄を行い、さらに95℃以上の水を用い
た熱水槽にて0.97倍以上1.1倍以下の緩和又は延伸を行って延伸糸を得る工程。
3)前記2)工程で延伸した後の延伸糸に油剤を付与して乾燥した後、130℃以上16
0℃以下の加圧水蒸気雰囲気下で3.0倍以上4.5倍以下に延伸する工程。
4)前記1)工程の凝固糸を引き取ってから前記2)工程の延伸糸を得るまでの凝固糸の
合計延伸倍率は2.4倍以上2.7倍以下である。
5)前記1)工程の凝固糸を凝固液より引き取ってから前記3)工程の加圧水蒸気雰囲気
下での延伸後までの合計延伸倍率は9.0倍以上12倍以下である。
【0037】
本発明の炭素繊維は前述の炭素繊維前駆体アクリル繊維を耐炎化および炭素化して得ら
れる。
本発明の炭素繊維は、単繊維表面の中心線平均粗さRaが6.0nm以上13nm以下
である。
本発明では、炭素繊維の単繊維表面の中心線平均粗さRaを6.0nm以上とすること
で、炭素繊維の単繊維からなる炭素繊維束が過剰に集束することを抑制でき、炭素繊維束
に樹脂を含浸させやすくなる。また、炭素繊維の単繊維表面の中心線平均粗さRaを13
nm以下とすることで、炭素繊維の単繊維からなる炭素繊維束の集束が不足することを防
止でき、炭素繊維束に樹脂を均一に含浸させやすくなる。
高い強度のCFRP製タンクを得る観点から、炭素繊維の単繊維表面の中心線平均粗さ
Raは10nm以下であることがより好ましい。なお、炭素繊維の単繊維表面の中心線平
均粗さRaは実施例に記載の方法で測定することができる。
【0038】
本発明の炭素繊維は、炭素繊維の単繊維の長径/短径が1.11以上1.245以下で
ある。本発明では、炭素繊維の単繊維の長径/短径を1.11以上とすることで炭素繊維
の単繊維同士の隙間を十分確保する事が可能となり、炭素繊維束に樹脂を含浸させやすく
なる。また、炭素繊維の単繊維の長径/短径を1.245以下とすることで炭素繊維の単
繊維同士の隙間が過剰になることを防ぎ、炭素繊維束に樹脂を均一に含浸させやすくなる
。
高い強度のCFRP製タンクを得る観点から、炭素繊維の単繊維の長径/短径は1.1
35以上であることがより好ましい。なお、炭素繊維の単繊維の長径/短径は、炭素繊維
前駆体アクリル繊維の単繊維の長径/短径と同様に定義され同様の方法で測定することが
できる。
【0039】
本発明の炭素繊維は、単繊維の凹み距離/短径が0.011以上0.018以下である
ことが好ましい。
本発明では、炭素繊維の単繊維の凹み距離/短径を0.011以上とすることで、炭素
繊維の単繊維同士の隙間を十分確保することが可能となり、炭素繊維束に樹脂を含浸させ
やすくなる。また、炭素繊維の単繊維の凹み距離/短径を0.018以下とすることで炭
素繊維の単繊維同士の隙間が過剰になることを防ぎ、炭素繊維束に樹脂を均一に含浸させ
やすくなる。
CFRP製タンク高強度化の観点から、炭素繊維の単繊維の凹み距離/短径は0.01
45以上であることがより好ましい。なお、炭素繊維の単繊維の凹み距離/短径は、炭素
繊維前駆体アクリル繊維の単繊維の凹み距離/短径と同様に定義され同様の方法で測定す
ることができる。
【0040】
炭素繊維は炭素繊維前駆体アクリル繊維を耐炎化および炭素化して得ることができる。
耐炎化および炭素化のそれぞれの条件は特に限定されないが、繊維内部にボイド等の構造
的欠陥が発生しにくい条件を設定するのが好ましい。耐炎化は、炭素繊維前駆体アクリル
繊維を酸化性雰囲気中で緊張あるいは延伸条件下で加熱し、耐炎化繊維とするものである
。耐炎化の方法は、例えば、熱風循環方式、多孔表面を有する固定熱板方式、加熱ロール
方式等が挙げられる。耐炎化の加熱温度は、例えば200℃以上300℃以下が好ましい
。耐炎化では、耐炎化繊維の密度が1.3g/cm3以上1.5g/cm3以下になるま
で処理することが好ましい。
【0041】
炭素化は、耐炎化で得られた耐炎化繊維を不活性ガス雰囲気下で加熱することにより、
炭素繊維を得るものである。炭素化は、前炭素化と高温炭素化とからなることが好ましい
。前炭素化は、最高温度550℃以上800℃以下の不活性ガス雰囲気中にて、緊張下で
耐炎化繊維を加熱し前炭素化繊維とする。この前炭素化により、炭素繊維の機械的特性を
向上させることができる。不活性ガスとしては、窒素、アルゴン、ヘリウム等、公知の不
活性ガスを採用できるが、経済性の面から窒素が望ましい。
高温炭素化は、前炭素化繊維を1200℃以上3000℃以下の不活性ガス雰囲気中に
通し、前炭素化繊維を加熱し炭素繊維とする。この高温炭素化により、炭素繊維の機械的
特性を向上させることができる。用いることができる不活性ガスは、前炭素化操作に採用
できる不活性ガスと同様である。
【0042】
以上より、本発明の炭素繊維は、下記7)~9)工程を含む方法により好ましく製造す
ることができる。
7)本発明の炭素繊維前駆体アクリル繊維から構成される炭素繊維前駆体アクリル繊維束
に対し、酸化性雰囲気中で200℃以上300℃以下に加熱し耐炎化繊維束とする耐炎化
工程。
8)前記耐炎化繊維束を非酸化性雰囲気中、550℃以上800℃以下で加熱し前炭素化
繊維束とする前炭素化工程。
9)前記前炭素化繊維束を非酸化性雰囲気中、1200℃以上3000℃以下で加熱し炭
素繊維束とする高温炭素化工程。
【0043】
得られた炭素繊維は、表面処理することが好ましい。表面処理方法としては、公知の方
法、即ち、電解酸化、薬剤酸化及び空気酸化などによる酸化処理が挙げられ、いずれでも
良い。電解酸化処理の後には、炭素繊維表面の電解質ならびに、電解酸化処理によって付
着した不純物を除去するための洗浄処理を行い、引き続き炭素繊維束を乾燥させる。乾燥
方法は、ロール乾燥、熱風乾燥および輻射熱乾燥など公知のいずれの技術も採用できる。
【0044】
次に、炭素繊維はサイジング処理をすることが好ましい。サイジング処理はサイジング
剤を有機溶剤に溶解させたものや、乳化剤などで水に分散させたエマルション液であるサ
イジング液を、炭素繊維に付与し、これを乾燥することによって行うことができる。なお
、炭素繊維へのサイジング剤の付着量の調節は、サイジング液のサイジング剤濃度の調整
や絞り量によるサイジング液の付着量の調整によって行なうことができる。炭素繊維へサ
イジング液の付着させる方法は、走行する炭素繊維束を等間隔に並列に配置しシート状に
してサイジング液に浸漬させる方法を用いることが生産性の観点から好ましい。
このようにして得られた炭素繊維は、ストランド強度が高いだけではなく、これを用い
て製造されたCFRP製タンクの強度も高いものとなる。
【実施例】
【0045】
以下、本発明について実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらに限定され
るものではない。
【0046】
[凝固糸引取張力]
ノズルから吐出、形成された凝固糸が、凝固液から出てから最初のガイドにかかる力か
ら凝固糸束を引き取る張力を測定し、フィラメント1本あたりに換算して凝固糸引取張力
を算出した。
【0047】
[単繊維の長径/短径]
内径1mmの塩化ビニル樹脂製のチューブ内に測定用の繊維束を通した後、これをナイ
フで輪切りにして試料を準備する。ついで、この試料を繊維断面が上を向くようにしてS
EM試料台に接着し、さらに金を約10nmの厚さにスパッタリングしてから、電子顕微
鏡(フィリップス社製、製品名:XL20走査型)により、加速電圧7.00kV、作動
距離31mmの条件で繊維断面を観察する。観察した単繊維断面のうち、ランダムに10
0本選び、それぞれに対して外接する最も面積の小さな矩形を求めその長辺の長さと短辺
の長さの比を求め、その100本分の平均値を繊維束の単繊維の長径/短径とした。
【0048】
[単繊維表面の中心線平均粗さRa]
測定用の繊維束の両端を、走査型プローブ顕微鏡装置付属のSPA400用金属製試料
台(20mm径)「エポリードサービス社製、品番:K-Y10200167」上にカー
ボンペーストで固定し、以下条件で測定する。
【0049】
〔走査型プローブ顕微鏡測定条件〕
装置:エスアイアイ・ナノテクノロジー社製、SPI4000プローブステーション、
SPA400(ユニット)
走査モード:ダイナミックフォースモード(DFM)(形状像測定)
探針:エスアイアイ・ナノテクノロジー社製 SI-DF-20
走査範囲:2μm×2μm
Rotation:90°
走査速度:1.0Hz、
ピクセル数:512×512
測定環境:室温、大気中
単繊維1本に対して、上記条件にて1画像を得て、得られた画像を走査型プローブ顕微
鏡付属の画像解析ソフト(SPIWin)を用い、以下条件にて画像解析を実施した。
【0050】
〔画像解析条件〕
得られた形状像に、〔フラット処理〕、〔メディアン8処理〕、〔三次傾き補正〕を行
い、曲面を平面にフィッティング補正した画像を得る。平面補正した画像の表面粗さ解析
より、中心線平均粗さRaを求める。
【0051】
〔フラット処理〕
リフト、振動、スキャナのクリープ等によってイメージデータに現れたZ軸方向の歪み
、うねりを除去する処理であり、走査型プローブ顕微鏡測定上の装置因によるデータのひ
ずみを除去する処理である。
【0052】
〔メディアン8処理〕
得られた形状像のZ軸データを3×3の範囲で全てメディアンフィルタで処理する。
【0053】
〔三次傾き補正〕
処理対象イメージの全データから最小二乗近似によって3次曲面を求めてフィッティン
グする。
繊維束の単繊維表面の中心線平均粗さRaの測定では1つの繊維束につき、単繊維を1
0本ランダムに採取し、それぞれについて走査型プローブ顕微鏡にて画像を得て解析し、
繊維表面の中心線平均粗さRaを測定する。得られたRaの10本分の平均値を、測定用
の繊維束の単繊維表面の中心線平均粗さRaとした。
【0054】
[単繊維の凹み距離/短径]
単繊維の長径/短径の測定と同様にして、ランダムに選んだ100本の単繊維の断面の
、それぞれに対して外接する最も面積の小さな矩形を求め、その短辺の長さを測定した。
さらに同じ断面に対して凹み距離(
図2参照)を測定した。こうして測定した凹み距離と
短辺の長さの比を算出し、算出した比の100本分の平均値を繊維束の単繊維の凹み距離
/短径とした。それぞれの単繊維について、その断面1に外接する最も面積の小さな矩形
2の長辺の一方が、断面1の凹み距離を定めるために求めた直線3と一致することが多い
(
図3、
図5)が、一致しない場合もある(
図2)。また、断面1の周が凸な曲線である
ために断面1に2点で接する直線を求めることができない場合(
図4)は凹み距離Zは0
であるとして扱った。
【0055】
[炭素繊維束のストランド強度]
炭素繊維束のストランド強度は、JIS-R-7608に規定されているエポキシ樹脂
含浸ストランド法に準じて測定した。なお、測定回数は10回とし、その平均値を評価の
対象とした。
【0056】
[圧力容器の破壊圧力]
フィラメントワインディング装置を用いて、炭素繊維束を、容量9リットルのアルミニ
ウム製ライナー(全長540mm、胴部長さ415mm、胴部外径163mm、胴部の中
央での肉厚3mm)に巻き付けた。使用したアルミニウム製のライナーは、JIS H
4040のA6061-T6に規定されるアルミニウム素材に熱処理を施した材料からな
るものである。炭素繊維束を、巻出しガイドロールを介して位置を調整し、続けてタッチ
ロールを使用してマトリックス樹脂を炭素繊維束へ定量供給、含浸させた後に、ライナー
へ巻きつけ、中間体容器を作製した。ライナーへの巻き付け方であるが、まず、胴部上に
ライナーの回転軸方向に対し88.6°をなすフープ層を形成し、ライナーの回転軸方向
に対し11.0°の角度でライナーの鏡部を補強するヘリカル層を積層した後、胴部上に
ライナーの回転軸方向に対し65.0°をなすフープ層を形成し、その後、ライナーの回
転軸方向に対し13.0°の角度でライナーの鏡部を補強するヘリカル層を積層し、再度
胴部上にライナーの回転軸方向に対し88.6°をなすフープ層を形成し、ライナーの回
転軸方向に対し11.0°の角度でライナーの鏡部を補強するヘリカル層を積層した。
得られた中間体容器をフィラメントワインディング装置から外し、加熱炉内に吊り下げ
て、炉内温度を2℃/分で110℃まで昇温した後110℃で2時間保持して硬化させた
。その後、炉内温度を1℃/分で60℃まで冷却し、CFRP製タンクを得た。
水圧破壊試験機にCFRP製タンクをセットし、CFRP製タンク内に水を満たした後
、昇圧速度15MPa/分でCFRP製タンクに水圧を負荷し、CFRP製タンクが破裂
したときの水圧を記録してCFRP製タンクの破壊圧力とした。
【0057】
実施例1
[アクリロニトリル系重合体溶液の製造]
アクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリル酸を、水中に投入し、過硫酸アンモニ
ウム-亜硫酸水素アンモニウムおよび硫酸鉄の存在下、水系懸濁重合により共重合し、ア
クリロニトリル単位/アクリルアミド単位/メタクリル酸単位=97/2/1(質量比)
からなるアクリロニトリル系重合体を得た。このアクリロニトリル系重合体をジメチルア
セトアミドに溶解し、21質量%のアクリロニトリル系重合体溶液を製造した。
【0058】
[炭素繊維前駆体アクリル繊維束の製造]
上記で得たアクリロニトリル系重合体溶液を、濃度67質量%、温度38℃のジメチル
アセトアミド水溶液からなる凝固液中に、孔径50μm、孔数30000の紡糸ノズルよ
り吐出し凝固糸を得ると同時に、凝固糸にかかる張力を70mgf/フィラメントに制御
しながら引き取った。
引き取った凝固糸を、空中で1.01倍に延伸し、続いて50℃から98℃の範囲の水
を用いた5段の延伸・洗浄槽を通して、2.60倍の延伸と洗浄を同時に行った後、98
℃の水を用いた熱水槽中で0.98倍の延伸(緩和)を実施して延伸糸を得た。得られた
延伸糸をアミノ変性シリコーン系油剤分散液中に浸漬し、140℃の加熱ローラーで緻密
化して乾燥繊維束を得た。このとき使用したアミノ変性シリコーン系油剤分散液は、アミ
ノ変性シリコーン(信越化学工業株式会社製、商品名:KF-865)85質量部に対し
、乳化剤(日光ケミカルズ株式会社製、商品名:NIKKOL BL-9EX)を15質
量部混合したものをゴーリンミキサー(エスエムテー株式会社製、商品名:圧力式ホモジ
ナイザーゴーリンタイプ)で乳化した後、水を加えて製造したものである。凝固糸を引き
取ってから熱水槽による処理後の延伸糸を得るまでの合計延伸倍率は2.57倍であった
。次いで、得られた乾燥繊維束を約150℃の加圧飽和蒸気雰囲気下にて3.50倍に延
伸し、単繊維繊度1.0dtexの炭素繊維前駆体アクリル繊維束を製造した。凝固糸を
引き取ってから加圧飽和水蒸気雰囲気下で延伸した後までの合計延伸倍率は9.01倍で
あった。
炭素繊維前駆体アクリル繊維束の紡糸条件を表1にまとめた。また得られた炭素繊維前
駆体アクリル繊維束の物性(単繊維の長径/短径、単繊維の凹み距離/短径および単繊維
表面の中心線平均粗さRa)を上記の方法に従って測定した。測定結果を表2に示す。
【0059】
[炭素繊維束の製造]
得られた炭素繊維前駆体アクリル繊維束を耐炎化炉に導入し、220~280℃に加熱
された空気を炭素繊維前駆体アクリル繊維束に吹き付けることによって、前駆体繊維束を
耐炎化して密度1.35g/cm3の耐炎繊維束を得た。伸張率は-4.0%とし、耐炎
化処理時間は70分とした。
次に耐炎化繊維束を窒素中300~700℃の温度勾配を有する第一炭素化炉を4.0
%の伸長を加えながら通過させた。第一炭素化炉での温度勾配は直線的になるように設定
し、処理時間は1.3分とした。更に窒素雰囲気中で1000~1600℃の温度勾配を
設定した第二炭素化炉を-4.5%の伸長を加えながら通過させ、炭素繊維束を得た。第
二炭素化炉での処理時間は1.3分とした。
引き続いて、重炭酸アンモニウム10質量%水溶液中を走行せしめ炭素繊維束を陽極と
して、被処理炭素繊維1g当たり30クーロンの電気量となる様に対極との間で通電処理
を行い、50℃の水で洗浄した後乾燥した。
次に、ハイドランN320(DIC社製)の水分散液を付与して乾燥して、サイジング
剤を0.8質量%付着させ、ボビンに巻きとった。
得られた炭素繊維束の物性(単繊維の長径/短径、単繊維の凹み距離/短径、単繊維表
面の中心線平均粗さRa、ストランド強度および得られた炭素繊維束を用いて製造した圧
力容器の破壊圧力)を上記の方法に従って測定した。測定結果を表2に示す。
【0060】
実施例2
炭素繊維前駆体アクリル繊維束の製造において、実施例1で用いたアクリロニトリル系
重合体溶液を、孔径45μmのノズルを使用し、凝固糸にかかる張力を60mgf/フィ
ラメントに制御しながら引き取り、加圧飽和水蒸気雰囲気下での延伸倍率を4.20倍と
した以外は実施例1と同様に実施した。凝固糸を引き取ってから熱水槽による処理後の延
伸糸を得るまでの合計延伸倍率は2.57倍、凝固糸を引き取ってから加圧飽和水蒸気雰
囲気下で延伸した後までの合計延伸倍率は10.8倍であった。
炭素繊維前駆体アクリル繊維束の紡糸条件を表1にまとめた。また得られた炭素繊維前
駆体アクリル繊維束の物性(単繊維の長径/短径、単繊維の凹み距離/短径および単繊維
表面の中心線平均粗さRa)、ならびに得られた炭素繊維束の物性(単繊維の長径/短径
、単繊維の凹み距離/短径、単繊維表面の中心線平均粗さRa、ストランド強度および得
られた炭素繊維束を用いて製造した圧力容器の破壊圧力)を上記の方法に従って測定した
。測定結果を表2に示す。
【0061】
実施例3
炭素繊維前駆体アクリル繊維束の製造において、実施例1で用いたアクリロニトリル系
重合体溶液を、凝固糸にかかる張力を72mgf/フィラメントに制御しながら引き取り
、加圧飽和水蒸気雰囲気下での延伸倍率を4.20倍とした以外は実施例1と同様に実施
した。凝固糸を引き取ってから熱水槽による処理後の延伸糸を得るまでの合計延伸倍率は
2.57倍、凝固糸を引き取ってから加圧飽和水蒸気雰囲気下で延伸した後までの合計延
伸倍率を10.8倍であった。
炭素繊維前駆体アクリル繊維束の紡糸条件を表1にまとめた。また得られた炭素繊維前
駆体アクリル繊維束の物性(単繊維の長径/短径、単繊維の凹み距離/短径および単繊維
表面の中心線平均粗さRa)、ならびに得られた炭素繊維束の物性(単繊維の長径/短径
、単繊維の凹み距離/短径、単繊維表面の中心線平均粗さRa、ストランド強度および得
られた炭素繊維束を用いて製造した圧力容器の破壊圧力)を上記の方法に従って測定した
。測定結果を表2に示す。
【0062】
実施例4
炭素繊維前駆体アクリル繊維束の製造において、凝固液であるジメチルアセトアミド水
溶液の濃度を69質量%とし、凝固糸にかかる張力を65mgf/フィラメントに制御し
た以外は実施例1と同様に実施した。
炭素繊維前駆体アクリル繊維束の紡糸条件を表1にまとめた。また得られた炭素繊維前
駆体アクリル繊維束の物性(単繊維の長径/短径、単繊維の凹み距離/短径および単繊維
表面の中心線平均粗さRa)、ならびに得られた炭素繊維束の物性(単繊維の長径/短径
、単繊維の凹み距離/短径、単繊維表面の中心線平均粗さRa、ストランド強度および得
られた炭素繊維束を用いて製造した圧力容器の破壊圧力)を上記の方法に従って測定した
。測定結果を表2に示す。
【0063】
参考例1
炭素繊維前駆体アクリル繊維の製造において、凝固液であるジメチルアセトアミド水溶
液の温度を35℃とし、凝固糸にかかる張力を74mgf/フィラメントに制御した以外
は実施例1と同様に実施した。
炭素繊維前駆体アクリル繊維束の紡糸条件を表1にまとめた。また得られた炭素繊維前
駆体アクリル繊維束の物性(単繊維の長径/短径、単繊維の凹み距離/短径および単繊維
表面の中心線平均粗さRa)、ならびに得られた炭素繊維束の物性(単繊維の長径/短径
、単繊維の凹み距離/短径、単繊維表面の中心線平均粗さRa、ストランド強度および得
られた炭素繊維束を用いて製造した圧力容器の破壊圧力)を上記の方法に従って測定した
。測定結果を表2に示す。
【0064】
参考例2
炭素繊維前駆体アクリル繊維束の製造において、延伸・洗浄槽での延伸倍率を2.80
倍としとした以外は実施例1と同様に実施した。凝固糸を引き取ってから熱水槽による処
理後の延伸糸を得るまでの合計延伸倍率は2.77倍、凝固糸を引き取ってから加圧飽和
水蒸気雰囲気下で延伸した後までの合計延伸倍率は9.70倍であった。
炭素繊維前駆体アクリル繊維束の紡糸条件を表1にまとめた。また得られた炭素繊維前
駆体アクリル繊維束の物性(単繊維の長径/短径、単繊維の凹み距離/短径および単繊維
表面の中心線平均粗さRa)、ならびに得られた炭素繊維束の物性(単繊維の長径/短径
、単繊維の凹み距離/短径、単繊維表面の中心線平均粗さRa、ストランド強度および得
られた炭素繊維束を用いて製造した圧力容器の破壊圧力)を上記の方法に従って測定した
。測定結果を表2に示す。
【0065】
比較例1
炭素繊維前駆体アクリル繊維束の製造において、実施例1で用いたアクリロニトリル系
重合体溶液を、濃度65質量%、温度30℃のジメチルアセトアミド水溶液からなる凝固
液中に、孔径75μm、孔数30000の紡糸ノズルより吐出し凝固糸を得ると同時に、
凝固糸にかかる張力を60mgf/フィラメントに制御しながら引き取った。引き取った
凝固糸は、空中での延伸を実施せず、ふたたび濃度を65質量%、温度を30℃のジメチ
ルアセトアミド水溶液中にて2.00倍で延伸した。それ以降は、延伸・洗浄槽での延伸
倍率を4.00倍、加圧飽和水蒸気雰囲気下での延伸倍率を2.00倍とした以外は実施
例1と同様に実施した。凝固糸を引き取ってから熱水槽による処理後の延伸糸を得るまで
の合計延伸倍率は7.84倍、凝固糸を引き取ってから加圧飽和水蒸気雰囲気下で延伸し
た後までの合計延伸倍率は15.7倍であった。
炭素繊維前駆体アクリル繊維束の紡糸条件を表1にまとめた。また得られた炭素繊維前
駆体アクリル繊維束の物性(単繊維の長径/短径、単繊維の凹み距離/短径および単繊維
表面の中心線平均粗さRa)、ならびに得られた炭素繊維束の物性(単繊維の長径/短径
、単繊維の凹み距離/短径、単繊維表面の中心線平均粗さRa、ストランド強度および得
られた炭素繊維束を用いて製造した圧力容器の破壊圧力)を上記の方法に従って測定した
。測定結果を表2に示す。
炭素繊維前駆体アクリル繊維束および炭素繊維束の単繊維の長径/短径はほぼ同等であ
ったが、単繊維の凹み距離/短径および単繊維表面の中心線平均粗さRaは実施例1と比
較して増加した。また、炭素繊維束のストランド強度も4400MPaとなり、圧力容器
の破壊圧力も80MPaと実施例1と比較して低い値となった。
【0066】
比較例2
炭素繊維前駆体アクリル繊維束の製造において、実施例1で用いたアクリロニトリル系
重合体溶液を、濃度60質量%、温度30℃のジメチルアセトアミド水溶液からなる凝固
液中に、孔径75μm、孔数30000の紡糸ノズルより吐出し凝固糸を得ると同時に、
凝固糸にかかる張力を95mgf/フィラメントに制御しながら引き取った。引き取った
凝固糸は、空中での延伸を実施せず、ふたたび濃度を60質量%、温度を30℃のジメチ
ルアセトアミド水溶液中にて1.20倍で延伸した。それ以降は、延伸・洗浄槽での延伸
倍率を4.00倍、加圧飽和水蒸気雰囲気下での延伸倍率を2.00倍とした以外は実施
例1と同様に実施した。凝固糸を引き取ってから熱水槽による処理後の延伸糸を得るまで
の合計延伸倍率は4.70倍、凝固糸を引き取ってから加圧飽和水蒸気雰囲気下で延伸し
た後までの合計延伸倍率は9.41倍であった。
炭素繊維前駆体アクリル繊維束の紡糸条件を表1にまとめた。また得られた炭素繊維前
駆体アクリル繊維束の物性(単繊維の長径/短径、単繊維の凹み距離/短径および単繊維
表面の中心線平均粗さRa)、ならびに得られた炭素繊維束の物性(単繊維の長径/短径
、単繊維の凹み距離/短径、単繊維表面の中心線平均粗さRa、ストランド強度および得
られた炭素繊維束を用いて製造した圧力容器の破壊圧力)を上記の方法に従って測定した
。測定結果を表2に示す。
炭素繊維前駆体アクリル繊維束および炭素繊維束の単繊維の長径/短径、単繊維の凹み
距離/短径および単繊維表面の中心線平均粗さRaは実施例1と比較して増加した。また
、炭素繊維束のストランド強度も4400MPaとなり、圧力容器の破壊圧力も80MP
aと実施例1と比較して低い値となった。
【0067】
比較例3
炭素繊維前駆体アクリル繊維束の製造において、実施例1で用いたアクリロニトリル系
重合体溶液を、凝固糸にかかる張力を74mgf/フィラメントに制御しながら引き取り
、空中での延伸倍率を1.05倍とし、延伸・洗浄槽での延伸倍率を3.00倍とした以
外は実施例1と同様に実施した。凝固糸を引き取ってから熱水槽による処理後の延伸糸を
得るまでの合計延伸倍率は3.09倍、凝固糸を引き取ってから加圧飽和水蒸気雰囲気下
で延伸した後までの合計延伸倍率は10.8倍であった。
炭素繊維前駆体アクリル繊維束の紡糸条件を表1にまとめた。また得られた炭素繊維前
駆体アクリル繊維束の物性(単繊維の長径/短径、単繊維の凹み距離/短径および単繊維
表面の中心線平均粗さRa)、ならびに得られた炭素繊維束の物性(単繊維の長径/短径
、単繊維の凹み距離/短径、単繊維表面の中心線平均粗さRa、ストランド強度および得
られた炭素繊維束を用いて製造した圧力容器の破壊圧力)を上記の方法に従って測定した
。測定結果を表2に示す。
炭素繊維前駆体アクリル繊維束および炭素繊維束の単繊維の長径/短径、単繊維の凹み
距離/短径および単繊維表面の中心線平均粗さRaは実施例1と比較して低下した。また
、炭素繊維束のストランド強度も5500MPaとなり、圧力容器の破壊圧力も110M
Paと実施例1と比較して低い値となった。
【0068】
比較例4
炭素繊維前駆体アクリル繊維束の製造において、空中での延伸倍率を1.20倍とし、
延伸・洗浄槽での延伸倍率を4.00倍とし、加圧飽和水蒸気雰囲気下での延伸倍率を2
.60倍とした以外は実施例1と同様に実施した。凝固糸を引き取ってから熱水槽による
処理後の延伸糸を得るまでの合計延伸倍率は4.70倍、凝固糸を引き取ってから加圧飽
和水蒸気雰囲気下で延伸した後までの合計延伸倍率は12.2倍であった。
炭素繊維前駆体アクリル繊維束の紡糸条件を表1にまとめた。また得られた炭素繊維前
駆体アクリル繊維束の物性(単繊維の長径/短径、単繊維の凹み距離/短径および単繊維
表面の中心線平均粗さRa)、ならびに得られた炭素繊維束の物性(単繊維の長径/短径
、単繊維の凹み距離/短径、単繊維表面の中心線平均粗さRa、ストランド強度および得
られた炭素繊維束を用いて製造した圧力容器の破壊圧力)を上記の方法に従って測定した
。測定結果を表2に示す。
炭素繊維前駆体アクリル繊維束および炭素繊維束の単繊維表面の中心線平均粗さRaは
実施例1とほぼ同等であったが、単繊維の長径/短径および単繊維の凹み距離/短径は実
施例1と比較して低下した。また、炭素繊維束のストランド強度も5350MPaとなり
、圧力容器の破壊圧力も110MPaと実施例1と比較して低い値となった。
【0069】
比較例5
炭素繊維前駆体アクリル繊維束の製造において、実施例1で用いたアクリロニトリル系
重合体溶液を、凝固糸にかかる張力を49mgf/フィラメントに制御しながら引き取っ
た後、引き取った凝固糸を空中にて1.05倍に延伸した上に、濃度を35質量%、温度
を55℃のジメチルアセトアミド水溶液中にて1.50倍に延伸した。それ以降は、延伸
・洗浄槽での延伸倍率を1.70倍とし、熱水槽での延伸倍率を2.00倍とした以外は
実施例1と同様に実施した。凝固糸を引き取ってから熱水槽による処理後の延伸糸を得る
までの合計延伸倍率は5.36倍、凝固糸を引き取ってから加圧飽和水蒸気雰囲気下で延
伸した後までの合計延伸倍率は18.7倍であった。
炭素繊維前駆体アクリル繊維束の紡糸条件を表1にまとめた。また得られた炭素繊維前
駆体アクリル繊維束の物性(単繊維の長径/短径、単繊維の凹み距離/短径および単繊維
表面の中心線平均粗さRa)、ならびに得られた炭素繊維束の物性(単繊維の長径/短径
、単繊維の凹み距離/短径、単繊維表面の中心線平均粗さRa、ストランド強度および得
られた炭素繊維束を用いて製造した圧力容器の破壊圧力)を上記の方法に従って測定した
。測定結果を表2に示す。
炭素繊維前駆体アクリル繊維束および炭素繊維束の単繊維の長径/短径、単繊維表面の
中心線平均粗さRaは実施例1と比較して低下した。また単繊維の凹みは認められなかっ
た(単繊維の凹み距離/短径=0.000)。炭素繊維束のストランド強度は6000M
Paと実施例1より向上したものの、圧力容器の破壊圧力は120MPaと実施例1と比
較して低い値となった。
【0070】
比較例6
炭素繊維前駆体アクリル繊維束の製造において、凝固液であるジメチルアセトアミド水
溶液の温度を30℃とし、凝固糸にかかる張力を85mgf/フィラメントに制御し、加
圧飽和水蒸気雰囲気下での延伸倍率を4.20倍とした以外は実施例1と同様に実施した
。凝固糸を引き取ってから熱水槽による処理後の延伸糸を得るまでの合計延伸倍率は2.
57倍、凝固糸を引き取ってから加圧飽和水蒸気雰囲気下で延伸した後までの合計延伸倍
率は10.8倍であった。
炭素繊維前駆体アクリル繊維束の紡糸条件を表1にまとめた。また得られた炭素繊維前
駆体アクリル繊維束の物性(単繊維の長径/短径、単繊維の凹み距離/短径および単繊維
表面の中心線平均粗さRa)、ならびに得られた炭素繊維束の物性(単繊維の長径/短径
、単繊維の凹み距離/短径、単繊維表面の中心線平均粗さRa、ストランド強度および得
られた炭素繊維束を用いて製造した圧力容器の破壊圧力)を上記の方法に従って測定した
。測定結果を表2に示す。
炭素繊維前駆体アクリル繊維束および炭素繊維束の単繊維の長径/短径、単繊維の凹み
距離/短径および単繊維表面の中心線平均粗さRaは実施例1と比較して増加した。炭素
繊維束のストランド強度は6000MPaと実施例1より向上したものの、圧力容器の破
壊圧力は123MPaと実施例1と比較して低い値となった。
【0071】
比較例7
炭素繊維前駆体アクリル繊維束の製造において、凝固液であるジメチルアセトアミド水
溶液の濃度を63質量%とし、凝固糸にかかる張力を88mgf/フィラメントに制御し
、加圧飽和水蒸気雰囲気下での延伸倍率を4.20倍とした以外は実施例1と同様に実施
した。凝固糸を引き取ってから熱水槽による処理後の延伸糸を得るまでの合計延伸倍率は
2.57倍、凝固糸を引き取ってから加圧飽和水蒸気雰囲気下で延伸した後までの合計延
伸倍率は10.8倍であった。
炭素繊維前駆体アクリル繊維束の紡糸条件を表1にまとめた。また得られた炭素繊維前
駆体アクリル繊維束の物性(単繊維の長径/短径、単繊維の凹み距離/短径および単繊維
表面の中心線平均粗さRa)、ならびに得られた炭素繊維束の物性(単繊維の長径/短径
、単繊維の凹み距離/短径、単繊維表面の中心線平均粗さRa、ストランド強度および得
られた炭素繊維束を用いて製造した圧力容器の破壊圧力)を上記の方法に従って測定した
。測定結果を表2に示す。
炭素繊維前駆体アクリル繊維束および炭素繊維束の単繊維の長径/短径、単繊維の凹み
距離/短径および単繊維表面の中心線平均粗さRaは実施例1と比較して増加した。炭素
繊維束のストランド強度は6000MPaと実施例1より向上したものの、圧力容器の破
壊圧力は122MPaと実施例1と比較して低い値となった。
【0072】
比較例8
炭素繊維前駆体アクリル繊維束の製造において、凝固液であるジメチルアセトアミド水
溶液の濃度を65質量%とし、凝固糸にかかる張力を68mgf/フィラメントに制御し
、空中での延伸を実施せず、延伸・洗浄槽での延伸倍率を3.40倍とし、加圧飽和水蒸
気雰囲気下での延伸倍率を2.00倍とした以外は実施例1と同様に実施した。凝固糸を
引き取ってから熱水槽による処理後の延伸糸を得るまでの合計延伸倍率は3.33倍、凝
固糸を引き取ってから加圧飽和水蒸気雰囲気下で延伸した後までの合計延伸倍率は6.6
6倍であった。
炭素繊維前駆体アクリル繊維束の紡糸条件を表1にまとめた。また得られた炭素繊維前
駆体アクリル繊維束の物性(単繊維の長径/短径、単繊維の凹み距離/短径および単繊維
表面の中心線平均粗さRa)、ならびに得られた炭素繊維束の物性(単繊維の長径/短径
、単繊維の凹み距離/短径、単繊維表面の中心線平均粗さRa、ストランド強度および得
られた炭素繊維束を用いて製造した圧力容器の破壊圧力)を上記の方法に従って測定した
。測定結果を表2に示す。
炭素繊維前駆体アクリル繊維束および炭素繊維束の単繊維の長径/短径および単繊維の
凹み距離/短径は実施例1と比較して低下し、単繊維表面の中心線平均粗さRaは実施例
1と比較して増加した。また、炭素繊維束のストランド強度は4600MPa、圧力容器
の破壊圧力は90MPaと実施例1と比較して低い値となった。
【0073】
比較例9
炭素繊維前駆体アクリル繊維束の製造において、実施例1で用いたアクリロニトリル系
重合体溶液を、凝固糸にかかる張力を45mgf/フィラメントに制御しながら引き取り
、空中での延伸倍率を1.30倍とし、延伸・洗浄槽での延伸倍率を2.00倍とし、熱
水槽での延伸倍率を1.00倍とし、加圧飽和水蒸気雰囲気下での延伸倍率を5.00倍
とした以外は実施例1と同様に実施した。凝固糸を引き取ってから熱水槽による処理後の
延伸糸を得るまでの合計延伸倍率は2.60倍、凝固糸を引き取ってから加圧飽和水蒸気
雰囲気下で延伸した後までの合計延伸倍率は13.0倍であった。
炭素繊維前駆体アクリル繊維束の紡糸条件を表1にまとめた。また得られた炭素繊維前
駆体アクリル繊維束の物性(単繊維の長径/短径、単繊維の凹み距離/短径および単繊維
表面の中心線平均粗さRa)、ならびに得られた炭素繊維束の物性(単繊維の長径/短径
、単繊維の凹み距離/短径、単繊維表面の中心線平均粗さRa、ストランド強度および得
られた炭素繊維束を用いて製造した圧力容器の破壊圧力)を上記の方法に従って測定した
。測定結果を表2に示す。
炭素繊維前駆体アクリル繊維束および炭素繊維束の単繊維の長径/短径および単繊維表
面の中心線平均粗さRaは実施例1と比較して低下した。また単繊維の凹みは認められな
かった(単繊維の凹み距離/短径=0.000)。また、炭素繊維束のストランド強度は
5400MPa、圧力容器の破壊圧力は110MPaと実施例1と比較して低い値となっ
た。
【0074】
比較例10
炭素繊維前駆体アクリル繊維束の製造において、凝固液中のジメチルアセトアミド水溶
液の濃度を75%とした以外は実施例1と同様に実施した。
結果、凝固液より引き取った凝固糸の単繊維同士が接着し、炭素繊維前駆体アクリル繊
維束を得ることが出来なかった。なお、炭素繊維前駆体アクリル繊維束の紡糸条件は表1
に記載のとおりである。
【0075】
実施例5
炭素繊維前駆体アクリル繊維束の製造において、凝固液であるジメチルアセトアミド水
溶液の濃度を68質量%とし、凝固糸にかかる張力を74mgf/フィラメントに制御し
、空中での延伸倍率を1.04倍とした以外は実施例1と同様に実施した。凝固糸を引き
取ってから熱水槽による処理後の延伸糸を得るまでの合計延伸倍率は2.65倍、凝固糸
を引き取ってから加圧飽和水蒸気雰囲気下で延伸した後までの合計延伸倍率は9.27倍
であった。
炭素繊維前駆体アクリル繊維束の紡糸条件を表1にまとめた。また得られた炭素繊維前
駆体アクリル繊維束の物性(単繊維の長径/短径、単繊維の凹み距離/短径および単繊維
表面の中心線平均粗さRa)、ならびに得られた炭素繊維束の物性(単繊維の長径/短径
、単繊維の凹み距離/短径、単繊維表面の中心線平均粗さRa、ストランド強度および得
られた炭素繊維束を用いて製造した圧力容器の破壊圧力)を上記の方法に従って測定した
。測定結果を表2に示す。
【0076】
実施例6
炭素繊維前駆体アクリル繊維束の製造において、実施例1で用いたアクリロニトリル系
重合体溶液を、凝固糸にかかる張力を74mgf/フィラメントに制御しながら引き取り
、延伸・洗浄槽での延伸倍率を2.50倍とし、加圧飽和水蒸気雰囲気下での延伸倍率を
3.80倍とした以外は実施例1と同様に実施した。凝固糸を引き取ってから熱水槽によ
る処理後の延伸糸を得るまでの合計延伸倍率は2.47倍、凝固糸を引き取ってから加圧
飽和水蒸気雰囲気下で延伸した後までの合計延伸倍率は9.40倍であった。
炭素繊維前駆体アクリル繊維束の紡糸条件を表1にまとめた。また得られた炭素繊維前
駆体アクリル繊維束の物性(単繊維の長径/短径、単繊維の凹み距離/短径および単繊維
表面の中心線平均粗さRa)、ならびに得られた炭素繊維束の物性(単繊維の長径/短径
、単繊維の凹み距離/短径、単繊維表面の中心線平均粗さRa、ストランド強度および得
られた炭素繊維束を用いて製造した圧力容器の破壊圧力)を上記の方法に従って測定した
。測定結果を表2に示す。
【0077】
実施例7
炭素繊維前駆体アクリル繊維束の製造において、凝固液であるジメチルアセトアミド水
溶液の濃度および温度をそれぞれ68質量%、39℃とし、凝固糸にかかる張力を60m
gf/フィラメントに制御し、空中での延伸倍率を1.04倍とし、加圧飽和水蒸気雰囲
気下での延伸倍率を3.40倍とした以外は実施例1と同様に実施した。凝固糸を引き取
ってから熱水槽による処理後の延伸糸を得るまでの合計延伸倍率は2.65倍、凝固糸を
引き取ってから加圧飽和水蒸気雰囲気下で延伸した後までの合計延伸倍率は9.01倍で
あった。
炭素繊維前駆体アクリル繊維束の紡糸条件を表1にまとめた。また得られた炭素繊維前
駆体アクリル繊維束の物性(単繊維の長径/短径、単繊維の凹み距離/短径および単繊維
表面の中心線平均粗さRa)、ならびに得られた炭素繊維束の物性(単繊維の長径/短径
、単繊維の凹み距離/短径、単繊維表面の中心線平均粗さRa、ストランド強度および得
られた炭素繊維束を用いて製造した圧力容器の破壊圧力)を上記の方法に従って測定した
。測定結果を表2に示す。
【0078】
実施例8
炭素繊維前駆体アクリル繊維束の製造において、凝固液であるジメチルアセトアミド水
溶液の濃度および温度をそれぞれ68質量%、39℃とし、空中での延伸倍率を1.04
倍とし、加圧飽和水蒸気雰囲気下での延伸倍率を3.40倍とした以外は実施例1と同様
に実施した。凝固糸を引き取ってから熱水槽による処理後の延伸糸を得るまでの合計延伸
倍率は2.65倍、凝固糸を引き取ってから加圧飽和水蒸気雰囲気下で延伸した後までの
合計延伸倍率は9.01倍であった。
炭素繊維前駆体アクリル繊維束の紡糸条件を表1にまとめた。また得られた炭素繊維前
駆体アクリル繊維束の物性(単繊維の長径/短径、単繊維の凹み距離/短径および単繊維
表面の中心線平均粗さRa)、ならびに得られた炭素繊維束の物性(単繊維の長径/短径
、単繊維の凹み距離/短径、単繊維表面の中心線平均粗さRa、ストランド強度および得
られた炭素繊維束を用いて製造した圧力容器の破壊圧力)を上記の方法に従って測定した
。測定結果を表2に示す。
【0079】
実施例9
炭素繊維前駆体アクリル繊維束の製造において、加圧飽和水蒸気雰囲気下での延伸倍率
を4.20倍とした以外は実施例1と同様に実施した。凝固糸を引き取ってから熱水槽に
よる処理後の延伸糸を得るまでの合計延伸倍率は2.57倍、凝固糸を引き取ってから加
圧飽和水蒸気雰囲気下で延伸した後までの合計延伸倍率は10.8倍であった。
炭素繊維前駆体アクリル繊維束の紡糸条件を表1にまとめた。また得られた炭素繊維前
駆体アクリル繊維束の物性(単繊維の長径/短径、単繊維の凹み距離/短径および単繊維
表面の中心線平均粗さRa)、ならびに得られた炭素繊維束の物性(単繊維の長径/短径
、単繊維の凹み距離/短径、単繊維表面の中心線平均粗さRa、ストランド強度および得
られた炭素繊維束を用いて製造した圧力容器の破壊圧力)を上記の方法に従って測定した
。測定結果を表2に示す。
【0080】
実施例10
炭素繊維前駆体アクリル繊維束の製造において、凝固液であるジメチルアセトアミド水
溶液の濃度および温度をそれぞれ68質量%、39℃とし、ノズルの孔径を60μmとし
、凝固糸にかかる張力を73mgf/フィラメントに制御し、空中での延伸倍率を1.0
7倍とし、延伸・洗浄槽での延伸倍率を2.50倍とした以外は実施例1と同様に実施し
た。凝固糸を引き取ってから熱水槽による処理後の延伸糸を得るまでの合計延伸倍率は2
.62倍、凝固糸を引き取ってから加圧飽和水蒸気雰囲気下で延伸した後までの合計延伸
倍率は9.18倍であった。
炭素繊維前駆体アクリル繊維束の紡糸条件を表1にまとめた。また得られた炭素繊維前
駆体アクリル繊維束の物性(単繊維の長径/短径、単繊維の凹み距離/短径および単繊維
表面の中心線平均粗さRa)、ならびに得られた炭素繊維束の物性(単繊維の長径/短径
、単繊維の凹み距離/短径、単繊維表面の中心線平均粗さRa、ストランド強度および得
られた炭素繊維束を用いて製造した圧力容器の破壊圧力)を上記の方法に従って測定した
。測定結果を表2に示す。
【0081】
実施例11
炭素繊維前駆体アクリル繊維束の製造において、凝固液であるジメチルアセトアミド水
溶液の濃度および温度をそれぞれ66質量%、39℃とし、凝固糸にかかる張力を74m
gf/フィラメントに制御し、空中での延伸倍率を1.04倍とし、加圧飽和水蒸気雰囲
気下での延伸倍率を3.40倍とした以外は実施例1と同様に実施した。凝固糸を引き取
ってから熱水槽による処理後の延伸糸を得るまでの合計延伸倍率は2.65倍、凝固糸を
引き取ってから加圧飽和水蒸気雰囲気下で延伸した後までの合計延伸倍率は9.01倍で
あった。
炭素繊維前駆体アクリル繊維束の紡糸条件を表1にまとめた。また得られた炭素繊維前
駆体アクリル繊維束の物性(単繊維の長径/短径、単繊維の凹み距離/短径および単繊維
表面の中心線平均粗さRa)、ならびに得られた炭素繊維束の物性(単繊維の長径/短径
、単繊維の凹み距離/短径、単繊維表面の中心線平均粗さRa、ストランド強度および得
られた炭素繊維束を用いて製造した圧力容器の破壊圧力)を上記の方法に従って測定した
。測定結果を表2に示す。
【0082】
比較例11
炭素繊維前駆体アクリル繊維束の製造において、凝固液であるジメチルアセトアミド水
溶液の温度を30℃とし、凝固糸にかかる張力を60mgf/フィラメントに制御し、加
圧飽和水蒸気雰囲気下での延伸倍率を4.20倍とした以外は実施例1と同様に実施した
。凝固糸を引き取ってから熱水槽による処理後の延伸糸を得るまでの合計延伸倍率は2.
57倍、凝固糸を引き取ってから加圧飽和水蒸気雰囲気下で延伸した後までの合計延伸倍
率は10.8倍であった。
炭素繊維前駆体アクリル繊維束の紡糸条件を表1にまとめた。また得られた炭素繊維前
駆体アクリル繊維束の物性(単繊維の長径/短径、単繊維の凹み距離/短径および単繊維
表面の中心線平均粗さRa)、ならびに得られた炭素繊維束の物性(単繊維の長径/短径
、単繊維の凹み距離/短径、単繊維表面の中心線平均粗さRa、ストランド強度および得
られた炭素繊維束を用いて製造した圧力容器の破壊圧力)を上記の方法に従って測定した
。測定結果を表2に示す。
炭素繊維前駆体アクリル繊維束および炭素繊維束の単繊維の長径/短径は実施例1とほ
ぼ同等(微増)であるが、単繊維の凹み距離/短径および単繊維表面の中心線平均粗さR
aは実施例1と比較して増加した。また、炭素繊維束のストランド強度は5600MPa
、圧力容器の破壊圧力は123MPaと実施例1と比較して低い値となった。
【0083】
比較例12
炭素繊維前駆体アクリル繊維束の製造において、凝固液であるジメチルアセトアミド水
溶液の温度を30℃とし、凝固糸にかかる張力を60mgf/フィラメントに制御し、延
伸・洗浄槽での延伸倍率を2.50倍とし加圧飽和水蒸気雰囲気下での延伸倍率を4.2
0倍とした以外は実施例1と同様に実施した。凝固糸を引き取ってから熱水槽による処理
後の延伸糸を得るまでの合計延伸倍率は2.47倍、凝固糸を引き取ってから加圧飽和水
蒸気雰囲気下で延伸した後までの合計延伸倍率は10.4倍であった。
炭素繊維前駆体アクリル繊維束の紡糸条件を表1にまとめた。また得られた炭素繊維前
駆体アクリル繊維束の物性(単繊維の長径/短径、単繊維の凹み距離/短径および単繊維
表面の中心線平均粗さRa)、ならびに得られた炭素繊維束の物性(単繊維の長径/短径
、単繊維の凹み距離/短径、単繊維表面の中心線平均粗さRa、ストランド強度および得
られた炭素繊維束を用いて製造した圧力容器の破壊圧力)を上記の方法に従って測定した
。測定結果を表2に示す。
炭素繊維前駆体アクリル繊維束および炭素繊維束の単繊維の長径/短径は実施例1とほ
ぼ同等(微増)であるが、単繊維の凹み距離/短径および単繊維表面の中心線平均粗さR
aは実施例1と比較して増加した。また、炭素繊維束のストランド強度は5700MPa
、圧力容器の破壊圧力も124MPaと実施例1と比較して低い値となった。
【0084】
比較例13
炭素繊維前駆体アクリル繊維束の製造において、凝固液であるジメチルアセトアミド水
溶液の濃度を65質量%とし、凝固糸にかかる張力を95mgf/フィラメントに制御し
、空中での延伸を実施せず、延伸・洗浄槽での延伸倍率を3.40倍とし、加圧飽和水蒸
気雰囲気下での延伸倍率を2.00倍とした以外は実施例1と同様に実施した。凝固糸を
引き取ってから熱水槽による処理後の延伸糸を得るまでの合計延伸倍率は3.33倍、凝
固糸を引き取ってから加圧飽和水蒸気雰囲気下で延伸した後までの合計延伸倍率は6.6
6倍であった。
炭素繊維前駆体アクリル繊維束の紡糸条件を表1にまとめた。また得られた炭素繊維前
駆体アクリル繊維束の物性(単繊維の長径/短径、単繊維の凹み距離/短径および単繊維
表面の中心線平均粗さRa)、ならびに得られた炭素繊維束の物性(単繊維の長径/短径
、単繊維の凹み距離/短径、単繊維表面の中心線平均粗さRa、ストランド強度および得
られた炭素繊維束を用いて製造した圧力容器の破壊圧力)を上記の方法に従って測定した
。測定結果を表2に示す。
炭素繊維前駆体アクリル繊維束および炭素繊維束の単繊維の長径/短径および単繊維の
凹み距離/短径は実施例1とほぼ同等(微減)であるが、単繊維表面の中心線平均粗さR
aは実施例1と比較して増加した。また、炭素繊維束のストランド強度は4400MPa
、圧力容器の破壊圧力は85MPaと実施例1と比較して低い値となった。
【0085】
比較例14
炭素繊維前駆体アクリル繊維束の製造において、凝固糸にかかる張力を65mgf/フ
ィラメントに制御し、空中での延伸倍率を1.20倍とし、延伸・洗浄槽での延伸倍率を
3.60倍とし、加圧飽和水蒸気雰囲気下での延伸倍率を2.60倍とした以外は実施例
1と同様に実施した。凝固糸を引き取ってから熱水槽による処理後の延伸糸を得るまでの
合計延伸倍率は4.23倍、凝固糸を引き取ってから加圧飽和水蒸気雰囲気下で延伸した
後までの合計延伸倍率は11.0倍であった。
炭素繊維前駆体アクリル繊維束の紡糸条件を表1にまとめた。また得られた炭素繊維前
駆体アクリル繊維束の物性(単繊維の長径/短径、単繊維の凹み距離/短径および単繊維
表面の中心線平均粗さRa)、ならびに得られた炭素繊維束の物性(単繊維の長径/短径
、単繊維の凹み距離/短径、単繊維表面の中心線平均粗さRa、ストランド強度および得
られた炭素繊維束を用いて製造した圧力容器の破壊圧力)を上記の方法に従って測定した
。測定結果を表2に示す。
炭素繊維前駆体アクリル繊維束および炭素繊維束の単繊維の長径/短径および単繊維の
凹み距離/短径は実施例1と比較して低下し、単繊維表面の中心線平均粗さRaは実施例
1とほぼ同等であった。また、炭素繊維束のストランド強度は5400MPa、圧力容器
の破壊圧力は115MPaと実施例1と比較して低い値となった。
【0086】
比較例15
炭素繊維前駆体アクリル繊維束の製造において、凝固糸にかかる張力を45mgf/フ
ィラメントに制御し、加圧飽和水蒸気雰囲気下での延伸倍率を4.20倍とした以外は実
施例1と同様に実施した。凝固糸を引き取ってから熱水槽による処理後の延伸糸を得るま
での合計延伸倍率は2.57倍、凝固糸を引き取ってから加圧飽和水蒸気雰囲気下で延伸
した後までの合計延伸倍率は10.8倍であった。
炭素繊維前駆体アクリル繊維束の紡糸条件を表1にまとめた。また得られた炭素繊維前
駆体アクリル繊維束の物性(単繊維の長径/短径、単繊維の凹み距離/短径および単繊維
表面の中心線平均粗さRa)、ならびに得られた炭素繊維束の物性(単繊維の長径/短径
、単繊維の凹み距離/短径、単繊維表面の中心線平均粗さRa、ストランド強度および得
られた炭素繊維束を用いて製造した圧力容器の破壊圧力)を上記の方法に従って測定した
。測定結果を表2に示す。
炭素繊維前駆体アクリル繊維束および炭素繊維束の単繊維の長径/短径および単繊維の
凹み距離/短径は実施例1とほぼ同等であったが、単繊維表面の中心線平均粗さRaは実
施例1と比較して低下した。また、炭素繊維束のストランド強度は5500MPa、圧力
容器の破壊圧力は123MPaと実施例1と比較して低い値となった。
【0087】
比較例16
炭素繊維前駆体アクリル繊維束の製造において、凝固糸にかかる張力を35mgf/フ
ィラメントに制御した以外は実施例1と同様に実施した。
炭素繊維前駆体アクリル繊維束の紡糸条件を表1にまとめた。また得られた炭素繊維前
駆体アクリル繊維束の物性(単繊維の長径/短径、単繊維の凹み距離/短径および単繊維
表面の中心線平均粗さRa)、ならびに得られた炭素繊維束の物性(単繊維の長径/短径
、単繊維の凹み距離/短径、単繊維表面の中心線平均粗さRa、ストランド強度および得
られた炭素繊維束を用いて製造した圧力容器の破壊圧力)を上記の方法に従って測定した
。測定結果を表2に示す。
炭素繊維前駆体アクリル繊維束および炭素繊維束の単繊維の長径/短径および単繊維の
凹み距離/短径は実施例1とほぼ同等であったが、単繊維表面の中心線平均粗さRaは実
施例1と比較して低下した。また、炭素繊維束のストランド強度は5700MPaと実施
例1と比較して低い値となった。
【0088】
【0089】
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明の炭素繊維前駆体アクリル繊維は、単繊維の断面形状が特徴的な長径/短径を有
しており、同様な長径/短径を有する断面形状を有する炭素繊維を得ることが出来る。こ
の炭素繊維からなる炭素繊維束は樹脂組成物の含浸が優れているので、高い強度のCFR
P製タンクを得るために有用である。
【符号の説明】
【0091】
1:単繊維の断面
2:面積最小の外接矩形
3:単繊維断面と2点で接する直線
4.直線3から最も離れた領域の周上の点
X:長径
Y:短径
Z:凹み距離