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  • 特許-水系の微生物汚染抑制方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-27
(45)【発行日】2024-06-04
(54)【発明の名称】水系の微生物汚染抑制方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/50 20230101AFI20240528BHJP
   C02F 1/76 20230101ALI20240528BHJP
【FI】
C02F1/50 510C
C02F1/76 A
C02F1/50 520A
C02F1/50 531J
C02F1/50 531L
C02F1/50 531M
C02F1/50 531N
C02F1/50 531P
C02F1/50 532C
C02F1/50 532E
C02F1/50 532J
C02F1/50 560E
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2023569360
(86)(22)【出願日】2022-12-15
(86)【国際出願番号】 JP2022046153
(87)【国際公開番号】W WO2023120350
(87)【国際公開日】2023-06-29
【審査請求日】2024-02-07
(31)【優先権主張番号】P 2021205981
(32)【優先日】2021-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】大塚 雄太
(72)【発明者】
【氏名】進邦 周子
(72)【発明者】
【氏名】中川 剛
(72)【発明者】
【氏名】高橋 淳一
(72)【発明者】
【氏名】早川 邦洋
【審査官】相田 元
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-176799(JP,A)
【文献】特開2019-122943(JP,A)
【文献】特開2020-131134(JP,A)
【文献】特開2018-183751(JP,A)
【文献】特開2020-81939(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/50
C02F 1/76
C02F 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
還元剤が添加され、還元剤を含有する水系に、塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物とからなり、該塩素系酸化剤の有効塩素換算量1モルに対する該スルファミン酸化合物の割合が1~1.5モルである安定化塩素系酸化剤、及び/又は、臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物とからなり、該臭素系酸化剤の有効塩素換算量1モルに対する該スルファミン酸化合物の割合が1~1.5モルである安定化臭素系酸化剤を添加して、該水系における微生物汚染を抑制する方法において、
前記水系の還元剤濃度が0.01mg/L-Cl 以上、5mg/L-Cl 以下であり、
該水系の該還元剤濃度に対する該安定化塩素系酸化剤及び/又は安定化臭素系酸化剤の添加濃度がモル比で2.5~10倍となるように該水系に添加することを特徴とする水系の微生物汚染抑制方法。
【請求項2】
前記水系が逆浸透膜給水系であることを特徴とする請求項1に記載の水系の微生物汚染抑制方法。
【請求項3】
前記還元剤が重亜硫酸ナトリウムであることを特徴とする請求項1又は2に記載の水系の微生物汚染抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水系の微生物汚染抑制方法に関する。本発明の水系の微生物汚染抑制方法は、例えば、逆浸透(RO)膜給水系に適用して、系内のスライムを抑制して逆浸透膜のファウリングを防止する方法として有用である。
【背景技術】
【0002】
海水淡水化プラントや排水回収プラントでは、電解質や中低分子の有機成分を効率的に除去することができるRO膜装置が広く用いられている。RO膜装置を含む水処理装置では、通常、RO膜装置の前段に圧力濾過装置、重力濾過装置、凝集沈澱処理装置、加圧浮上濾過装置、浸漬膜装置、膜式前処理装置などの前処理装置が設けられる。被処理水はこれらの前処理装置により前処理された後RO膜装置に供給されてRO膜分離処理される。
【0003】
このような水処理装置においては、被処理水中に含まれる微生物が、装置配管内や膜面で増殖してスライムを形成し、系内の微生物繁殖による臭気発生、RO膜の透過水量低下といった障害を引き起こすことがある。
【0004】
微生物による汚染を防止するためには、被処理水に殺菌剤を常時又は間欠的に添加し、被処理水又は装置内を殺菌しながら処理する方法が一般的である。殺菌剤としては、安価であり取り扱いも比較的容易であることから、次亜塩素酸ナトリウムなどの塩素系酸化剤が用いられている。しかし、RO膜は一般的にポリアミド系高分子膜のような耐塩素性を持たない膜であるため、塩素系酸化剤を添加すると、塩素系酸化剤由来の遊離塩素による酸化劣化をうけ、除去率が低下してしまう。
【0005】
そこで、塩素系酸化剤を水処理装置の上流側で添加し、RO膜装置の入口側で、重亜硫酸ナトリウム(SBS)等の還元剤を添加して残留する遊離塩素を還元除去し、この還元剤添加後は、還元剤の添加点からRO膜装置の入口までの配管やRO膜面での微生物汚染を抑制するために、クロラミンやクロロスルファミン酸ナトリウムといった安定化塩素系酸化剤や安定化臭素系酸化剤、又はイソチアゾロン系化合物などの微生物増殖を抑制するスライムコントロール剤を添加することが知られている(特許文献1~3)。
【0006】
その中でも安定化塩素系酸化剤や安定化臭素系酸化剤は、微生物汚染を抑制できることから幅広く用いられてきた。安定化塩素系酸化剤や安定化臭素系酸化剤では、その抑制効果が現れやすい水系と現れにくい水系があった。
【0007】
RO膜の前段で遊離塩素を還元するために一般的に添加されている還元剤の重亜硫酸ナトリウム(SBS)は、膜劣化を確実に防止するために通常過剰量添加されているが、過剰のSBSは、重金属と反応して膜にダメージを与えることが知られている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平1-104310号公報
【文献】特開平1-135506号公報
【文献】特開2006-263510号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】Water Solutions“FilmTecTM Reverse Osmosis Membranes Technical Manual”Form No.45-DO1504-en,Rev.7,February 2021[インターネット]<https://www.dupont.com/content/dam/dupont/amer/us/en/water-solutions/public/documents/en/45-D01504-en.pdf#page64>69ページ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、重亜硫酸ナトリウム等の還元剤が添加され、残留還元剤を含む水系において、塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物とからなる安定化塩素系酸化剤、及び/又は、臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物からなる安定化臭素系酸化剤の添加による微生物汚染の抑制効果を安定かつ効果的に得ることができる水系の微生物汚染抑制方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、スルファミン酸比率(塩素系酸化剤の有効塩素量及び/又は臭素系酸化剤の有効塩素換算量に対するスルファミン酸化合物の割合)の低い安定化塩素系酸化剤及び/又は安定化臭素系酸化剤を添加することにより、上記課題を解決することができることを見出した。
【0012】
本発明は、以下を要旨とする。
【0013】
[1] 還元剤を含有する水系における微生物汚染を抑制する方法において、塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物とからなり、該塩素系酸化剤の有効塩素1モルに対する該スルファミン酸化合物の割合が1~1.5モルである安定化塩素系酸化剤、及び/又は、臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物とからなり、該臭素系酸化剤の有効塩素換算量1モルに対する該スルファミン酸化合物の割合が1~1.5モルである安定化臭素系酸化剤を、該水系の該還元剤濃度に対する該安定化塩素系酸化剤及び/又は安定化臭素系酸化剤の添加濃度がモル比で2.5倍以上となるように該水系に添加することを特徴とする水系の微生物汚染抑制方法。
【0014】
[2] 前記水系が逆浸透膜給水系であることを特徴とする[1]に記載の水系の微生物汚染抑制方法。
【0015】
[3] 前記水系の還元剤濃度が0.01mg/L-Cl以上であることを特徴とする[1]又は[2]に記載の水系の微生物汚染抑制方法。
【0016】
[4] 前記還元剤が重亜硫酸ナトリウムであることを特徴とする[1]ないし[3]のいずれかに記載の水系の微生物汚染抑制方法。
【0017】
[5] 前記水系の前記還元剤濃度に対する前記安定化塩素系酸化剤及び/又は安定化臭素系酸化剤の添加濃度がモル比で2.5~10倍となるように前記水系に添加することを特徴とする[1]ないし[4]のいずれかに記載の水系の微生物汚染抑制方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、重亜硫酸ナトリウム等の還元剤が添加され、残留還元剤を含む水系において、安定化塩素系酸化剤及び/又は安定化臭素系酸化剤の添加により安定かつ効果的に微生物汚染を抑制することができる。
また、重亜硫酸ナトリウム等の還元剤と重金属との反応による膜劣化も防止することができ、円滑かつ良好な水処理を行える。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、実施例1及び比較例1の結果を示すグラフである。
図2図2は、試験例2の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に本発明の水系の微生物汚染抑制方法の実施の形態を詳細に説明する。
【0021】
本発明の実施形態に係る水系の微生物汚染抑制方法は、還元剤を含有する水系における微生物汚染を抑制する方法において、塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物とからなり、該塩素系酸化剤の有効塩素1モルに対する該スルファミン酸化合物の割合(以下、「スルファミン酸比率」と称す場合がある。)が1~1.5モルである安定化塩素系酸化剤、及び/又は、臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物とからなり、該臭素系酸化剤の有効塩素換算量1モルに対する該スルファミン酸化合物の割合が1~1.5モルである安定化臭素系酸化剤を、該水系の該還元剤濃度に対する該安定化塩素系酸化剤及び/又は安定化臭素系酸化剤の添加濃度がモル比で2.5倍以上となるように該水系に添加することを特徴とする。
【0022】
<メカニズム>
本発明者は、従来技術の課題を解決すべく検討した結果、以下の通り、水系に含まれる還元剤が安定化塩素系酸化剤や安定化臭素系酸化剤の微生物汚染抑制効果に影響を与えていることを知見した。
【0023】
水中の重亜硫酸ナトリウム(SBS)等の還元剤は後段で添加される安定化塩素系酸化剤及び安定化臭素系酸化剤をも還元する。この反応により、塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物とからなる安定化塩素系酸化剤、及び/又は、臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物とからなる安定化臭素系酸化剤は、スルファミン酸を放出する。この反応において、残留還元剤濃度が高いほど、系内での有効塩素に対するスルファミン酸の比率は高くなる。スルファミン酸の比率が高くなると平衡関係から、成分としての反応性は下がる。
【0024】
しかし、スルファミン酸比率の低い安定化塩素系酸化剤及び/又は安定化臭素系酸化剤を用いることにより、重亜硫酸ナトリウム等の還元剤に還元されてもなお微生物汚染効抑制果を保つことができる。また、重亜硫酸ナトリウム等の還元剤と重金属の反応による膜劣化も防止することができる。
【0025】
<還元剤を含む水系>
本発明における処理対象水系は、還元剤を含む水系であればよく特に制限はない。本発明は、前述の通り、RO膜装置を含む水処理装置において、前段で塩素系酸化剤が添加された後、RO膜の酸化劣化防止のために、重亜硫酸ナトリウム(SBS)等の還元剤が塩素系酸化剤に対して過剰に添加されることで還元剤が残留する(還元剤を含む)水系であって、その後の配管とRO膜の微生物汚染の抑制のために安定化塩素系酸化剤及び/又は安定化臭素系酸化剤が添加される水系、即ち、RO膜給水系に有効に適用される。
【0026】
水系に含まれる還元剤としては、重亜硫酸ナトリウム(SBS)が代表的であるが、その他チオ硫酸ナトリウム等であってもよい。
【0027】
この残留還元剤を含む水系中の還元剤濃度は、0.01mg/L-Cl以上であることが、本発明による効果を有効に得る上で好ましく、この濃度は、より好ましくは0.1mg/L-Cl以上である。一方、還元剤濃度が過度に高いと後段で添加される安定化塩素系酸化剤及び/又は安定化臭素系酸化剤がその分還元され、必要添加量が高くなり処理コスト増をまねく。このため、処理対象水系の還元剤濃度は5mg/L-Cl以下、特に2mg/L-Cl以下であることが好ましい。なお、本発明において還元剤濃度は遊離塩素換算した濃度、すなわち、当該濃度の還元剤が還元することのできる遊離塩素の濃度(mg/L-Cl)として記載した。
【0028】
処理対象水系のpHには特に制限はなく、2~12の範囲であればよい。
【0029】
<安定化塩素系酸化剤・安定化臭素系酸化剤>
本発明で用いる安定化塩素系酸化剤は、塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物とからなるものである。
本発明で用いる安定化臭素系酸化剤は、臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物とからなるものである。
【0030】
安定化塩素系酸化剤で用いる塩素系酸化剤に特に制限はなく、例えば、塩素ガス、二酸化塩素、次亜塩素酸又はその塩、亜塩素酸又はその塩、塩素酸又はその塩、過塩素酸又はその塩、塩素化イソシアヌル酸又はその塩などを挙げることができる。これらのうち、塩形のものの具体例としては、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウムなどの次亜塩素酸アルカリ金属塩;次亜塩素酸カルシウム、次亜塩素酸バリウムなどの次亜塩素酸アルカリ土類金属塩;亜塩素酸ナトリウム、亜塩素酸カリウムなどの亜塩素酸アルカリ金属塩;亜塩素酸バリウムなどの亜塩素酸アルカリ土類金属塩;亜塩素酸ニッケルなどの他の亜塩素酸金属塩;塩素酸アンモニウム;塩素酸ナトリウム、塩素酸カリウムなどの塩素酸アルカリ金属塩;塩素酸カルシウム、塩素酸バリウムなどの塩素酸アルカリ土類金属塩などを挙げることができる。これらの塩素系酸化剤は、1種を単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いても良い。これらの中で、次亜塩素酸塩は取り扱いが容易なので、好適に用いることができる。
【0031】
本発明で用いる臭素系酸化剤に特に制限はなく、例えば、液体臭素、塩化臭素、臭素酸又はその塩、次亜臭素酸又はその塩などを挙げることができる。これらの臭素系酸化剤は、1種を単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0032】
スルファミン酸化合物としては、下記一般式[1]で表される化合物又はその塩が挙げられる。
【0033】
【化1】
【0034】
一般式[1]において、R及びRは、各々独立に、水素原子又は炭素数1~8の炭化水素基である。
【0035】
このようなスルファミン酸化合物としては、例えば、RとRがともに水素原子であるスルファミン酸のほかに、N-メチルスルファミン酸、N,N-ジメチルスルファミン酸、N-フェニルスルファミン酸などを挙げることができる。本発明に用いるスルファミン酸化合物のうち、前記化合物の塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩;カルシウム塩、ストロンチウム塩、バリウム塩などのアルカリ土類金属塩;マンガン塩、銅塩、亜鉛塩、鉄塩、コバルト塩、ニッケル塩などの他の金属塩;アンモニウム塩;及びグアニジン塩などを挙げることができ、具体的には、スルファミン酸ナトリウム、スルファミン酸カリウム、スルファミン酸カルシウム、スルファミン酸ストロンチウム、スルファミン酸バリウム、スルファミン酸鉄、スルファミン酸亜鉛などを挙げることができる。スルファミン酸及びこれらのスルファミン酸塩は、1種を単独で用いることもでき、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0036】
次亜塩素酸塩等の塩素系酸化剤及び/又は臭素系酸化剤とスルファミン酸塩等のスルファミン酸化合物を混合すると、これらが結合して、クロロスルファミン酸塩を形成して安定化し、従来のクロラミンのようなpHによる解離性の差、それによる遊離塩素及び/又は遊離臭素濃度の変動を生じることなく、水中で安定した遊離塩素及び/又は遊離臭素濃度を保つことが可能となる。
【0037】
一般的に、塩素系酸化剤及び/又は臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物との割合としては、塩素系酸化剤及び/又は臭素系酸化剤の有効塩素に換算した有効塩素量の1モルあたりスルファミン酸化合物を1.0~5.0モルとすることが好ましく、1.0~2.5モルとすることがより好ましい。
しかし、スルファミン酸比率の低い安定化塩素系酸化剤及び/又は安定化臭素系酸化剤を用いる本発明では、スルファミン酸比率が1~1.5モル、好ましくは1~1.4モルの安定化塩素系酸化剤及び/又は安定化臭素系酸化剤を用いる。この場合、スルファミン酸比率が1.5モルを超えると本発明による微生物汚染抑制効果を十分に得ることができない。スルファミン酸比率が1モル未満であると製造時にスルファミン酸の分解を招く。
【0038】
塩素系酸化剤及び/又は臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物とは、混合水溶液として添加されてもよく、別々に添加されてもよい。
【0039】
本発明に係る安定化塩素系酸化剤及び/又は安定化臭素系酸化剤は、その効果を損なうことのない範囲において、塩素系酸化剤及び/又は臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物以外の他の成分を含有していても良い。他の成分としては、アルカリ剤、アゾール類、アニオン性ポリマー、ホスホン酸類等が挙げられる。
アルカリ剤は、安定化塩素系酸化剤及び/又は安定化臭素系酸化剤中の塩素系酸化剤及び/又は臭素系酸化剤を安定化させるために用いられる。アルカリ剤としては、通常、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が用いられる。
【0040】
<安定化塩素系酸化剤及び/又は安定化臭素系酸化剤の添加量・添加形態>
スルファミン酸比率の低い安定化塩素系酸化剤及び/又は安定化臭素系酸化剤を添加する本発明では、安定化塩素系酸化剤及び/又は安定化臭素系酸化剤は、水系の還元剤濃度に対する安定化塩素系酸化剤及び/又は安定化臭素系酸化剤の添加濃度がモル比で2.5倍以上となるように添加する。
安定化塩素系酸化剤及び/又は安定化臭素系酸化剤の添加量が上記下限以上であれば良好な微生物汚染抑制効果を得ることができる。安定化塩素系酸化剤及び/又は安定化臭素系酸化剤の添加量は多い程微生物汚染抑制効果の面では好ましいが、一方で薬品コストが嵩む。このため、安定化塩素系酸化剤及び/又は安定化臭素系酸化剤の添加量は水系の還元剤濃度に対してモル比で2.5~10倍、特に2.5~5倍となるように添加することが好ましい。
【実施例
【0041】
以下に実施例、比較例及び試験例を挙げて本発明の効果を示す。
【0042】
以下において用いた薬品1,2の配合組成は下記表1の通りである。
【0043】
【表1】
【0044】
[実施例1,比較例1]
安定化塩素系酸化剤のスルファミン酸比率(HNSO/Clモル比)による微生物汚染の抑制効果の差異を調べる実験を行った。
微生物汚染抑制効果は、非特許文献1にある膜ファウリングシミュレータを用い、差圧(流路における圧力損失)上昇の程度に基づいて評価した。
【0045】
原水(被処理水)には、基質を添加して、微生物によるバイオファウリング効果を促進させた。具体的には、原水に、基質として、クエン酸:1.2mg/L as C、塩化アンモニウム:0.6mg/L as N、リン酸二水素ナトリウム:0.2mg/L as Pになるように添加したものを被処理水とした。
原水のpHは7~8.5であった。
【0046】
安定化塩素系酸化剤(薬品1又は薬品2)は常時添加量が0.6mg/L-Clとなるように原水に添加した。また、通水1.5日目からは、上記被処理水に、被処理水中の還元剤濃度が0.1mg/L-Clとなるように更に重亜硫酸ナトリウム(SBS)を添加したものを用いた(安定化塩素系酸化剤/SBSモル比=6倍)。
安定化塩素系酸化剤としては、実施例1では薬品1を、比較例1では薬品2を用いた。
結果を図1に示す。
【0047】
図1より次のことが分かる。
両条件とも重亜硫酸ナトリウムが添加されるまでは差圧上昇を抑制できていたが、重亜硫酸ナトリウムを添加した後の挙動として、比較例1では差圧上昇を抑えられていないのに対して、実施例1では効果的に差圧を抑制できた。
スルファミン酸比率が高い薬品2は、重亜硫酸ナトリウムの添加により微生物汚染の抑制効果を失いやすい。これに対して、スルファミン酸比率が低い薬品1は、重亜硫酸ナトリウムの添加があっても微生物汚染の抑制効果を維持しやすいことが示された。
【0048】
[試験例1]
サンプル水中で種々濃度の重亜硫酸ナトリウム(SBS)と混合した薬品1を2時間曝露して水中のATP(アデノシン三リン酸)の変化を観察した。ATPは生物のエネルギー通貨とも呼ばれ、微生物量を示す指標として用いられる。薬品の処理条件は表2の通りであり、いずれも重亜硫酸ナトリウムとの反応後の残留塩素濃度が1mg/L-Clになるように調整した(ただし、条件1はSBS無添加)。
サンプル水は栗田工業社 クリタ開発センター内の排水回収系プラントのMF,UF処理水を用いた。
ATPはHygiena社製ATP測定キットEnSure及び、Aquasnap FreeとAquasnap Totalを用いた。なお、ATPは微生物の活性をとらえるために、Totalの値からFreeの値を引いた数字を用いた。
結果を表3に示す。
【0049】
【表2】
【0050】
【表3】
【0051】
条件1と条件2では効果的にATP濃度を下げられているのに対して、条件3と条件4ではATPの減少幅が小さくなった。条件3のSBS量に対しては微生物汚染の抑制効果が低いが、条件2であればSBSが添加されていたとしても十分な微生物汚染の抑制効果がある。これより、還元剤に対する安定化塩素系酸化剤の添加濃度がモル比で2.5倍以上であることが微生物汚染の抑制効果において好ましいことが分かる。
【0052】
[試験例2]
脱塩素野木町水水中で種々濃度の重亜硫酸ナトリウム(SBS)と混合した薬品1の酸化還元電位(ORP)を観察した。試験例1と同様にすべて重亜硫酸ナトリウムとの反応後の残留塩素濃度が1mg/L-Clになるように調整した。重亜硫酸ナトリウムに対する薬品1の塩素換算の添加量比で整理した結果を下記表4及び図2に示す。
【0053】
【表4】
試験例1の条件1のようにSBSを添加していない時のORP値は495mVであるため、SBSに対する薬品1の塩素換算添加量のモル比が2.5倍以上であれば、十分な酸化ポテンシャルを有し、有効に微生物汚染を抑えることができることが示唆された。
【0054】
本発明を特定の態様を用いて詳細に説明したが、本発明の意図と範囲を離れることなく様々な変更が可能であることは当業者に明らかである。
本出願は、2021年12月20日付で出願された日本特許出願2021-205981に基づいており、その全体が引用により援用される。

図1
図2