(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-27
(45)【発行日】2024-06-04
(54)【発明の名称】光硬化性樹脂組成物、硬化物、立体造形物、及び鋳型の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08F 290/06 20060101AFI20240528BHJP
B22C 7/02 20060101ALI20240528BHJP
B22C 9/04 20060101ALI20240528BHJP
B29C 64/314 20170101ALI20240528BHJP
C08F 2/50 20060101ALI20240528BHJP
【FI】
C08F290/06
B22C7/02 101
B22C9/04 N
B29C64/314
C08F2/50
(21)【出願番号】P 2024500525
(86)(22)【出願日】2022-10-20
(86)【国際出願番号】 JP2022039038
(87)【国際公開番号】W WO2023166781
(87)【国際公開日】2023-09-07
【審査請求日】2024-01-09
(31)【優先権主張番号】P 2022032511
(32)【優先日】2022-03-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【氏名又は名称】大野 孝幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100214673
【氏名又は名称】菅谷 英史
(74)【代理人】
【識別番号】100186646
【氏名又は名称】丹羽 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】井川 高輔
(72)【発明者】
【氏名】西澤 茂年
【審査官】藤原 研司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/020006(WO,A1)
【文献】特開2013-082924(JP,A)
【文献】特開2007-186603(JP,A)
【文献】特開2015-169934(JP,A)
【文献】特開2008-260812(JP,A)
【文献】特開2016-002703(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第111234120(CN,A)
【文献】国際公開第2017/033427(WO,A1)
【文献】特開2019-119748(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F
B22C
B29C
B33Y
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光重合開始剤(A)及び多官能(メタ)アクリレート(B)を含有し、
前記光重合開始剤(A)の含有量が、多官能(メタ)アクリレート(B)100質量部に対して10質量部超~30質量部の範囲であり、
前記光重合開始剤(A)は、350nm以上の波長範囲に少なくとも1つの極大吸収波長を有する第1の光重合開始剤(A-1)、及び350nm以上の波長範囲に極大吸収波長を有さず、350nm未満の波長範囲に極大吸収波長を有する第2の光重合開始剤(A-2)を少なくとも含有し、
前記第1の光重合開始剤(A-1)に対する前記第2の光重合開始剤(A-2)の配合割合[(A-1)/(A-2)]は1/100~8/10の範囲であり、
前記多官能(メタ)アクリレート(B)は、分子中にポリオキシアルキレン基及びビスフェノール構造を有する化合物(B-1)を少なくとも含有し、
前記多官能(メタ)アクリレート(B)100質量部中の前記化合物(B-1)の配合量は、40~90質量部であり、
前記化合物(B-1)は、
下記式(I):
【化1】
で表され、R
1は水素原子又はメチル基を示し、同一分子中の複数のR
1は同一でも異なっていてもよく、m及びnはそれぞれ独立に1以上の整数を示し、m+nが2~40である、変性ビスフェノ-ルAジ(メタ)アクリレートである立体光造形用光硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
前記第1の光重合開始剤(A-1)は、アシルホスフィンオキシド、ビスアシルホスフィンオキシド、チタノセン化合物、O-アシルオキシム化合物、及びチオキサントン化合物からなる群より選択される少なくとも1種である請求項1に記載の光硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
前記第2の光重合開始剤(A-2)は、アルキルフェノン化合物、α-ジケトン化合物、及びヨ-ドニウム塩からなる群より選択される少なくとも1種である請求項1に記載の光硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
前記多官能(メタ)アクリレート(B)は、分子中にポリオキシアルキレン基を構造中に有する化合物を少なくとも含有する請求項1に記載の光硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
前記多官能(メタ)アクリレート(B)は、分子内に1つ以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物(B-2)をさらに含有する請求項
1に記載の光硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
非金属有機顔料(C)をさらに含有する請求項1に記載の光硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1~
6のいずれか一項に記載の光硬化性樹脂組成物を光硬化させた硬化物。
【請求項8】
請求項
7に記載の硬化物からなる立体造形物。
【請求項9】
請求項
8に記載の立体造形物を埋没材で一部または全部埋没させる工程(1)、
前記埋没材を硬化または固化させる工程(2)、
前記立体造形物を溶融除去、分解除去、及び/または焼却除去させる工程(3)を有することを特徴とする鋳型の製造方法。
【請求項10】
請求項
9に記載の製造方法で得られた鋳型に金属材料を流し込み、前記金属材料を固化させる工程(4)を有することを特徴とする金属鋳造物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光硬化性樹脂組成物、硬化物、立体造形物、及び鋳型の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属材料の成形品を製造する際に、一般的に機械加工や鋳造などの方法が用いられている。その中でも、鋳造法は、複雑な形状を有する金属部品や金属製品を製造することができる。
前記鋳造法としては、ワックスや樹脂で鋳造物の原型モデルを作成、埋没材に埋没し、埋没材が硬化した後、原型モデル及び埋没材を加熱することにより、原型モデルを溶融、分解あるいは焼成除去することで埋没材内に空隙を形成し、この空隙を鋳型として溶融した金属を注入し鋳造するロストワックス法等が知られている。これらロストワックス法は、宝飾や歯科技工の分野で用いられている。
【0003】
近年、ロストワックス法の原型モデルを、3Dプリンタを用いて光硬化性樹脂組成物で形成することが提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の光硬化性樹脂組成物は、光照射時の硬化速度が遅く造形しにくい、又は硬化速度が速すぎることから、少量の露光でも硬化するため扱いにくく、且つ造形精度が低下する等の問題があった。
さらに、その組成物で形成された原型モデルは、硬度が低いため形状維持できない、高温加熱時の消失性が不十分で、埋没材内にスス等の残渣が残り鋳造品の表面が劣化する、あるいは原型モデルと埋没材の膨張率の違いから埋没材にクラックや割れが生じるといった問題が存在した。
【0006】
本発明は、造形精度に優れた光硬化性樹脂組成物、及び硬度が高く、高温加熱時の消失性、及び鋳造性に優れた造形物を提供することを課題とする。
【0007】
本明細書において「鋳造性に優れる」とは、本発明の造形物を原型モデルとして用いて鋳型を製造した場合に、鋳型外部及び内部にひび割れや亀裂がなく、鋳型内部に立体造形物の残渣、煤がなく、鋳型への立体造形物の転写性が良好である状態をいう。
【課題を解決するための手段】
【0008】
これらの問題に対し、本発明者らは光重合開始剤(A)及び多官能(メタ)アクリレート(B)を含有し、光重合開始剤(A)の含有量が、多官能(メタ)アクリレート(B)100質量部に対して10質量部超~30質量部の範囲であることを特徴とする光硬化性樹脂組成物は硬化速度が適度に速く造形精度に優れ、その樹脂組成物を硬化させて得られる造形物は、硬度が高く、高温加熱時の消失性、及び鋳造性に優れることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は以下の態様を包含するものである。
(1)光重合開始剤(A)及び多官能(メタ)アクリレート(B)を含有し、
前記光重合開始剤(A)の含有量が、多官能(メタ)アクリレート(B)100質量部に対して10質量部超~30質量部の範囲であることを特徴とする光硬化性樹脂組成物。
(2)前記光重合開始剤(A)は、350nm以上の波長範囲に少なくとも1つの極大吸収波長を有する第1の光重合開始剤(A-1)、及び350nm以上の波長範囲に極大吸収波長を有さず、350nm未満の波長範囲に極大吸収波長を有する第2の光重合開始剤(A-2)を少なくとも含有する(1)に記載の光硬化性樹脂組成物。
(3)前記第1の光重合開始剤(A-1)は、アシルホスフィンオキシド、ビスアシルホスフィンオキシド、チタノセン化合物、O-アシルオキシム化合物、及びチオキサントン化合物からなる群より選択される少なくとも1種である請求項2に記載の光硬化性樹脂組成物。
(4)前記第2の光重合開始剤(A-2)は、アルキルフェノン化合物、α-ジケトン化合物、及びヨ-ドニウム塩からなる群より選択される少なくとも1種である(2)又は(3)に記載の光硬化性樹脂組成物。
(5)前記第1の光重合開始剤(A-1)に対する前記第2の光重合開始剤(A-2)の配合割合[(A-1)/(A-2)]は1/100~8/10の範囲である(2)~(4)のいずれかに記載の光硬化性樹脂組成物。
(6)前記多官能(メタ)アクリレート(B)は、分子中にポリオキシアルキレン基を構造中に有する化合物を少なくとも含有する(1)~(5)のいずれかに記載の光硬化性樹脂組成物。
(7)前記多官能(メタ)アクリレート(B)は、分子中にポリオキシアルキレン基及びビスフェノール構造を有する化合物(B-1)を少なくとも含有し、
前記化合物(B-1)は、
下記式(I):
【化1】
で表され、R
1は水素原子又はメチル基を示し、同一分子中の複数のR
1は同一でも異なっていてもよく、m及びnはそれぞれ独立に1以上の整数を示し、m+nが2~40である、変性ビスフェノ-ルAジ(メタ)アクリレートである(6)に記載の光硬化性樹脂組成物。
(8)前記多官能(メタ)アクリレート(B)は、分子内に1つ以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物(B-2)をさらに含有する(6)又は(7)に記載の光硬化性樹脂組成物。
(9)前記多官能(メタ)アクリレート(B)100質量部中の前記化合物(B-1)の配合量は、40~90質量部である(9)に記載の光硬化性樹脂組成物。
(10)非金属有機顔料(C)をさらに含有する(1)~(9)のいずれかに記載の光硬化性樹脂組成物。
(11)立体光造形用の(1)~(10)のいずれかに記載の光硬化性樹脂組成物。
(12)(1)~(11)のいずれかに記載の光硬化性樹脂組成物を光硬化させた硬化物。
(13)(12)に記載の硬化物からなる立体造形物。
(14)(13)に記載の立体造形物を埋没材で一部または全部埋没させる工程(1)、
前記埋没材を硬化または固化させる工程(2)、
前記立体造形物を溶融除去、分解除去、及び/または焼却除去させる工程(3)を有することを特徴とする鋳型の製造方法。
(15)(14)に記載の製造方法で得られた鋳型に金属材料を流し込み、前記金属材料を固化させる工程(4)を有することを特徴とする金属鋳造物の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、造形精度に優れた光硬化性樹脂組成物、及び硬度が高く、高温加熱時の消失性、鋳造性に優れる造形物を提供することができる。したがって、鋳型作成時においては、原型モデルの造形がしやすく、原型モデルの形状を維持でき、原型モデル加熱時の残渣が低減され、鋳型にクラックや割れが発生するのを防ぐことができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明のいくつかの実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。なお、以後本明細書における質量%は光硬化性樹脂組成物全体を100質量%とした場合の割合を意味する。
本発明において、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートとメタクリレートの一方又は両方をいい、「(メタ)アクリロイル基」とは、アクリロイル基とメタクリロイル基の一方又は両方をいう。
【0012】
[(A)成分]
本発明において用いる光重合開始剤(A)(本明細書では、単に(A)成分ともいう)としては、紫外線や電子線等の照射によりラジカル、カチオン、或いはアニオンを発生する化学種、又はこれらの混合物であればよく、本発明の効果が得られる範囲において特に制限されるものではない。
【0013】
さらに、本発明における光重合開始剤(A)の含有量は、多官能(メタ)アクリレート(B)100質量部に対して3~50質量部の範囲であることが好ましく、5~40質量部の範囲であることが好ましく、10質量部超、30質量部以下の範囲であることが最も好ましい。これらの範囲とすることで、硬化速度を適度に速めることで造形精度を向上させ、高温加熱時の膨張を抑制しつつ、消失性を向上できる。したがって、立体造形し易く、鋳型形成時のクラックや割れを防ぎ、スス残りを少なくでき、鋳造性に優れる。
【0014】
本発明においては、光重合開始剤(A)が、350nm以上の波長範囲に少なくとも1つの極大吸収波長を有する第1の光重合開始剤(A-1)を含有することが好ましい。そうすることで、紫外線(特に350~450nm付近の波長光)照射時に(メタ)アクリレート化合物との反応性に優れ、硬化速度が速まり造形精度が良好となる。したがって、三次元立体造形し易くなる。
【0015】
前記第1の光重合開始剤(A-1)としては、アシルホスフィンオキシド、ビスアシルホスフィンオキシド、チタノセン化合物、O-アシルオキシム化合物、及びチオキサントン化合物からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、具体的には、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、ビス(2,4-シクロペンタジエニル)ビス[2,6-ジフルオロ-3-(1-ピリル)フェニル]チタン(IV)、1-[4-(フェニルチオ)フェニル]オクタン-1,2-ジオン=2-(O-ベンゾイルオキシム)、2,4-ジエチルチオキサントン等が挙げられる。これらの中でも、(メタ)アクリレート化合物との反応性に優れ、分子量が大きく複雑な構造を有する化合物や、分子内に金属原子を含む化合物と比べて燃成時のスス残りを減らせることから、リン化合物が好ましく、具体的には、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシドが好ましい。また、これらの化合物は、単独で用いることも2種以上を併用することもできる。
【0016】
光重合開始剤(A)は、350nm以上の波長範囲に極大吸収波長を有さず、350nm未満の波長範囲に極大吸収波長を有する第2の光重合開始剤(A-2)をさらに含有することが好ましい。
第2の光重合開始剤(A-2)は、紫外線(特に350~450nm付近の波長光)照射後にも未反応のまま造形物に多く残存する。そのため、造形物を加熱した際にラジカル、カチオン或いはアニオンを発生させ、未反応の(メタ)アクリレート化合物と反応して一部硬化が進む可能性が考えられる。したがって、第2の光重合開始剤(A-2)を配合することで、高温加熱時の膨張が抑制でき、鋳型作成時には鋳型にクラックや割れが発生するのを防ぐことができる。すなわち、鋳造性に優れる。
【0017】
前記第2の光重合開始剤(A-2)としては、アルキルフェノン化合物、α-ジケトン化合物、及びヨ-ドニウム塩からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、具体的には、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、2-ヒドロキシ-1-(4-(4-(2-ヒドロキシ-2-メチルプロピニル)ベンジル)フェニル)-2-メチルプロパン-1-オン、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルフォリノプロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)-1-ブタノン、2-ジメチルアミノ-2-(4-メチルベンジル)-1-(4-モルフォリン-4-イル-フェニル)-ブタン-1-オン、ベンゾイルギ酸メチル、ビス(2-フェニル-2-オキソ酢酸)オキシビスエチレン、市販品のヨ-ドニウム塩(例えば、商品名「Omnicat250」、IGM社製)等が挙げられる。これらの中でも入手容易性及び高温加熱時の消失性向上の観点から、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルフォリノプロパン-1-オン、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノンがより好ましい。また、これらの化合物は、単独で用いることも2種以上を併用することもできる。
【0018】
以上より、第1の光重合開始剤(A-1)の添加は硬化速度を速め、第2の光重合開始剤(A-2)の添加は高温加熱時の造形物の膨張を抑制できる。さらに第1の光重合開始剤(A-1)及び第2の光重合開始剤(A-2)は高温加熱時の消失性向上にも寄与する。
一方、第1の光重合開始剤(A-1)の配合量が多すぎる場合、硬化速度が過剰に速まることにより造形精度が低下する等の問題も発生する。
したがって、硬化速度を適度に調整し造形精度を向上させつつ、高温加熱時の消失性を向上させ、膨張を抑制できることから、前記第1の光重合開始剤(A-1)に対する前記第2の光重合開始剤(A-2)の配合割合[(A-1)/(A-2)]は1/100~1/1の範囲であることが好ましく、1/100~9/10であることがより好ましく、1/100~8/10の範囲であることが特に好ましい。
【0019】
[(B)成分]
本発明の組成物は、多官能(メタ)アクリレート(B)(本明細書では、単に(B)成分ともいう)をさらに含有する。高い反応速度及び造形精度が得られ易く、三次元光造形し易い観点から、(B)成分はアクリロイル基を有することが好ましい。一方、メタクリロイル基は、アクリロイル基に比べて炭素-炭素二重結合のα位の立体障害が大きく、ポリマーの解重合が起こり易く、高温加熱時の消失性が高いという点では、(B)成分はメタクリロイル基を有することが好ましい。
【0020】
(B)成分として具体的には、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、グリセリンのプロピレンオキシド変性トリ(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-アクリロイロキシプロピル(メタ)アクリレート、トリス(ヒドロキシエチル)イソシアヌル酸ジ(メタ)アクリレート、3,9-ビス[1,1-ジメチル-2-(メタ)アクリロイルオキシエチル]-2,4,8,10-テトラオキソスピロ[5.5]ウンデカン、ジオキサングリコールジ(メタ)アクリレート、(EO)或いは(PO)変性ビスフェノ-ルAジ(メタ)アクリレート、(EO)或いは(PO)変性ビスフェノ-ルEジ(メタ)アクリレート、(EO)或いは(PO)変性ビスフェノ-ルFジ(メタ)アクリレート、(EO)或いは(PO)変性ビスビスフェノ-ルSジ(メタ)アクリレート、(EO)或いは(PO)変性4,4‘-オキシジビスフェノ-ルジ(メタ)アクリレート等の2官能(メタ)アクリレート;
【0021】
EO変性グリセロールトリ(メタ)アクリレート、PO変性グリセロールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリト-ルトリ(メタ)アクリレート、EO変性リン酸トリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、HPA変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、(EO)或いは(PO)変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリト-ルトリ(メタ)アクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート等の3官能(メタ)アクリレート;
【0022】
ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリト-ルエトキシテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリト-ルテトラ(メタ)アクリレート等の4官能(メタ)アクリレート;
【0023】
ジペンタエリスリト-ルヒドロキシペンタ(メタ)アクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリト-ルペンタ(メタ)アクリレート等の5官能(メタ)アクリレート;
【0024】
ジペンタエリスリト-ルヘキサ(メタ)アクリレート等の6官能(メタ)アクリレートを用いることができる。これらは単独で用いてもよく、また、硬化性や粘度等を調節するために適宜混合して用いてもよい。
【0025】
(B)成分は、形成される立体造形物を高温加熱した際に分解が起こりやすく、水や二酸化炭素を発生させスス残りを少なくできることから、分子中に酸素原子が複数含まれている化合物を含有することが好ましい。中でも、ポリオキシアルキレン基を構造中に有する化合物を含有することが好ましい。
【0026】
(B)成分は、分子中にポリオキシアルキレン基及びビスフェノール構造を有する化合物(B-1)を含有することが特に好ましい。ビスフェノール構造を有することで硬化速度が速まり、造形精度が向上し、三次元立体造形し易くなる。
【0027】
本発明に用いる前記化合物(B-1)として、具体的には、
下記式(I):
【化2】
で表され、R
1は水素原子又はメチル基を示し、同一分子中の複数のR
1は同一でも異なっていてもよく、m及びnはそれぞれ独立に1以上の整数を示す。
【0028】
前記化合物(B-1)において、式(I)におけるm+n(変性量)が2以上であると、焼成時のスス残りを低減できる。同様の観点から、m+nは4以上、又は6以上であってもよい。さらに、m+nは40以下であればよく、30以下であることが好ましい。そうすることで、m+nが40を超える場合に比べて、形成される立体造形物の強靭性及び強度が向上する。
また多官能(メタ)アクリレート(B)が、m+nの異なる式(I)の変性ビスフェノ-ルAジ(メタ)アクリレートを複数種含む場合、それらの平均が2~40であればよい。
【0029】
式(I)で表される化合物(B-1)が、分子内にメタクリロイル基を有する場合は、アクリロイル基を有する場合に比べて焼成時のスス残りが少なくできる。一方、スス残りの低減よりも硬化速度及び造形精度の向上を優先する場合には、アクリロイル基を有する化合物(B-1)を使用しても構わない。
【0030】
本発明で用いる化合物(B-1)としては、例えば市販品としてMIRAMER M240、MIRAMER M241、MIRAMER M244、MIRAMER M249、MIRAMER M2100、MIRAMER M2101、MIRAMER M2200、MIRAMER M2300、MIRAMER M2301(いずれも製品名。Miwon Specialty Chemical社製)等の名称で販売される紫外線硬化樹脂を用いることができる。
【0031】
多官能(メタ)アクリレート(B)は、本発明の効果が得られる範囲において、化合物(B-1)以外の光重合性成分を含有しても構わない。例えば、分子内に1つ以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物(B-2)をさらに含有しても構わない。
【0032】
本発明で使用する化合物(B-2)は、焼成時の残渣を減らせることから、水素原子、炭素原子、酸素原子のみを含有する化合物であることが好ましく、アルコールと(メタ)アクリル酸が脱水縮合して得られる(メタ)アクリレート化合物であることが特に好ましい。
化合物(B-2)としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,2-プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、シクロヘキサンジメチロール、1,4-シクロヘキサンジオール、トリシクロデカンジメチロール等のアルコールと(メタ)アクリル酸の反応生成物が使用できる。これら化合物は単独で用いることも2種以上を併用することもできる。中でも、立体造形物の硬度向上の観点から、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート又はポリプロピレングリコールのジ(メタ)アクリレートが好ましく、焼成時のスス残り低減の観点からネオペンチルグリコールジメタクリレート又はポリプロピレングリコールのジメタクリレートがより好ましい。
【0033】
本発明で用いる化合物(B-2)としては、例えば市販品としてMIRAMER M213、MIRAMER M220、MIRAMER M221、MIRAMER M222、MIRAMER M231、MIRAMER M232、MIRAMER M233、MIRAMER M235、MIRAMER M270、MIRAMER M280、MIRAMER M281、MIRAMER M282、MIRAMER M283、MIRAMER M284、MIRAMER M286、MIRAMER M2040、MIRAMER M2053(いずれも製品名。Miwon Specialty Chemical社製)、NKエステル A-200、NKエステル A-400、NKエステル A-600、NKエステル A-1000、NKエステル APG-100、NKエステル APG-200、NKエステル APG-400、NKエステル APG-700、NKエステル APMG-65、NKエステル 2G、NKエステル 3G、NKエステル 4G、NKエステル 9G、NKエステル 14G、NKエステル 23G、NKエステル 3PG、NKエステル 9PG(いずれも製品名。新中村化学工業社製)の名称で販売される化合物を用いることができる。
【0034】
本発明における多官能(メタ)アクリレート(B)が、化合物(B-1)及び化合物(B-2)の両方を含有する場合、化合物(B-1)の配合量は、多官能(メタ)アクリレート(B)100質量部に対して、10質量部以上99質量部以下の範囲であることが好ましく、25質量部以上95質量部以下の範囲であることがより好ましく、40質量部以上90質量部以下の範囲であることが特に好ましい。これら範囲とすることで、硬化速度が適度に速まることで造形精度が向上し、焼成時の残渣が減少する。
化合物(B-2)の配合量は、多官能(メタ)アクリレート(B)100質量部に対して、5質量部以上80質量部以下の範囲であることが好ましく、8質量部以上65質量部以下の範囲であることがより好ましく、10質量部以上50質量部以下の範囲であることが特に好ましい。これらの範囲とすることで、硬化物の硬度が高まる。
【0035】
前記光硬化性樹脂組成物の製造方法としては、特に制限されず、どのような方法で製造してもよい。
【0036】
本発明の光硬化性樹脂組成物は、必要に応じて、光増感剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、重合禁止剤、シリコン系添加剤、フッ素系添加剤、シランカップリング剤、リン酸エステル化合物、有機フィラー、無機フィラー、レオロジ-コントロール剤、脱泡剤、着色剤等の各種添加剤を含有することもできる。
【0037】
前記光増感剤としては、例えば、脂肪族アミン、芳香族アミン等のアミン化合物、o-トリルチオ尿素等の尿素化合物、ナトリウムジエチルジチオホスフェート、s-ベンジルイソチウロニウム-p-トルエンスルホネ-ト等の硫黄化合物などが挙げられる。
【0038】
前記紫外線吸収剤としては、例えば、2-[4-{(2-ヒドロキシ-3-ドデシルオキシプロピル)オキシ}-2-ヒドロキシフェニル]-4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン、2-[4-{(2-ヒドロキシ-3-トリデシルオキシプロピル)オキシ}-2-ヒドロキシフェニル]-4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン等のトリアジン誘導体、2-(2’-キサンテンカルボキシ-5’-メチルフェニル)ベンゾトリアゾ-ル、2-(2’-o-ニトロベンジロキシ-5’-メチルフェニル)ベンゾトリアゾ-ル、2-キサンテンカルボキシ-4-ドデシロキシベンゾフェノン、2-o-ニトロベンジロキシ-4-ドデシロキシベンゾフェノン等が挙げられる。これらの紫外線吸収剤は、単独で用いることも2種以上を併用することもできる。
【0039】
前記酸化防止剤としては、例えば、ヒンダ-ドフェノ-ル系酸化防止剤、ヒンダ-ドアミン系酸化防止剤、有機硫黄系酸化防止剤、リン酸エステル系酸化防止剤等が挙げられる。これらの酸化防止剤は、単独で用いることも2種以上を併用することもできる。
【0040】
前記重合禁止剤としては、例えば、ハイドロキノン、メトキノン、ジ-t-ブチルハイドロキノン、p-メトキシフェノ-ル、ブチルヒドロキシトルエン、ニトロソアミン塩等が挙げられる。
【0041】
前記シリコン系添加剤としては、例えば、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、環状ジメチルポリシロキサン、メチルハイドロゲンポリシロキサン、ポリエ-テル変性ジメチルポリシロキサン共重合体、ポリエステル変性ジメチルポリシロキサン共重合体、フッ素変性ジメチルポリシロキサン共重合体、アミノ変性ジメチルポリシロキサン共重合体等のアルキル基やフェニル基を有するポリオールガノシロキサン、ポリエ-テル変性アクリル基を有するポリジメチルシロキサン、ポリエステル変性アクリル基を有するポリジメチルシロキサンなどが挙げられる。これらのシリコン系添加剤は、単独で用いることも2種以上を併用することもできる。
【0042】
前記フッ素系添加剤としては、例えば、DIC株式会社製「メガフェース」シリーズ等が挙げられる。これらのフッ素系添加剤は、単独で用いることも2種以上を併用することもできる。
【0043】
前記シランカップリング剤としては、例えば、ビニルトリクロールシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル・ブチリデン)プロピルアミン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(ビニルベンジル)-2-アミノエチル-3-アミノプロピルトリメトキシシランの塩酸塩、特殊アミノシラン、3-ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3-クロロプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、3-イソシアネ-トプロピルトリエトキシシラン、アリルトリクロロシラン、アリルトリエトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、ジエトキシメチルビニルシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(2-メトキシエトキシ)シラン等のビニル系のシランカップリング剤;
【0044】
ジエトキシ(グリシジルオキシプロピル)メチルシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等のエポキシ系のシランカップリング剤;
【0045】
p-スチリルトリメトキシシラン等のスチレン系のシランカップリング剤;
【0046】
3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン等の(メタ)アクリロキシ系のシランカップリング剤;
【0047】
N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノ系のシランカップリング剤;
【0048】
3-ウレイドプロピルトリエトキシシラン等のウレイド系のシランカップリング剤;
【0049】
3-クロロプロピルトリメトキシシラン等のクロロプロピル系のシランカップリング剤;
【0050】
3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキンシラン等のメルカプト系のシランカップリング剤;
【0051】
ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルファイド等のスルフィド系のシランカップリング剤;
【0052】
3-イソシアネ-トプロピルトリエトキシシラン等のイソシアネ-ト系のシランカップリング剤などが挙げられる。これらのシランカップリング剤は、単独で用いることも2種以上を併用することもできる。
【0053】
前記リン酸エステル化合物としては、例えば、分子構造中に(メタ)アクリロイル基を有するものが挙げられ、市販品としては、例えば、日本化薬株式会社製「カヤマ-PM-2」、「カヤマ-PM-21」、共栄社化学株式会社製「ライトエステルP-1M」、「ライトエステルP-2M」、「ライトアクリレートP-1A(N)」、SOLVAY社製「SIPOMER PAM 100」、「SIPOMER PAM 200」、「SIPOMER PAM 300」、「SIPOMER PAM 4000」、大阪有機化学工業社製「ビスコ-ト#3PA」、「ビスコ-ト#3PMA」、第一工業製薬社製「ニュ-フロンティア S-23A」;分子構造中にアリルエ-テル基を有するリン酸エステル化合物であるSOLVAY社製「SIPOMER PAM 5000」等が挙げられる。
【0054】
前記有機フィラーとしては、例えば、セルロ-ス、リグニン、及びセルロ-スナノファイバ-等の植物由来の溶剤不溶性物質、ポリメタクリル酸メチルビーズ、ポリカーボネートビーズ、ポリスチレンビーズ、ポリアクリルスチレンビーズ、シリコ-ンビーズ、ガラスビーズ、アクリルビーズ、ベンゾグアナミン系樹脂ビーズ、メラミン系樹脂ビーズ、ポリオレフィン系樹脂ビーズ、ポリエステル系樹脂ビーズ、ポリアミド樹脂ビーズ、ポリイミド系樹脂ビーズ、ポリフッ化エチレン樹脂ビーズ、ポリエチレン樹脂ビーズ等の有機ビーズなどが挙げられる。これらの有機フィラーは、単独で用いることも2種以上を併用することもできる。
【0055】
前記無機フィラーとしては、例えば、シリカ、アルミナ、ジルコニア、チタニア、チタン酸バリウム、三酸化アンチモン等の無機微粒子などが挙げられる。これらの無機フィラーは、単独で用いることも2種以上を併用することもできる。また、前記無機機微粒子の平均粒径は、95~250nmの範囲であることが好ましく、特に100~180nmの範囲であることがより好ましい。
【0056】
前記無機微粒子を含有する場合には、分散補助剤を用いることができる。前記分散補助剤としては、例えば、イソプロピルアシッドホスフェート、トリイソデシルホスファイト、エチレンオキサイド変性リン酸ジメタクリレート等のリン酸エステル化合物等が挙げられる。これらの分散補助剤は、単独で用いることも2種以上を併用することもできる。また、前記分散補助剤の市販品としては、例えば、日本化薬株式会社製「カヤマ-PM-21」、「カヤマ-PM-2」、共栄社化学株式会社製「ライトエステルP-2M」等が挙げられる。
【0057】
前記レオロジ-コントロール剤としては、例えば、楠本化成株式会社製「ディスパロン6900」等のアマイド・ワックス類;ビッグ・ケミー社製「BYK410」等の尿素系レオロジーコントロール剤類;楠本化成株式会社製「ディスパロン4200」等のポリエチレン・ワックス;イ-ストマン・ケミーカル・プロダクツ社製「CAB-381-2」、「CAB 32101」等のセルロース・アセテート・ブチレートなどが挙げられる。
【0058】
前記脱泡剤としては、例えば、フッ素或いは、硅素原子を含んだオリゴマー、または高級脂肪酸、アクリル重合体等のオリゴマー等が挙げられる。
【0059】
前記着色剤としては、例えば、顔料、染料等が挙げられる。
【0060】
前記顔料としては、公知慣用の無機顔料や有機顔料を使用することができる。
【0061】
前記無機顔料としては、例えば、酸化チタン、アンチモンレッド、ベンガラ、カドミウムレッド、カドミウムイエロ-、コバルトブル-、紺青、群青、カ-ボンブラック、黒鉛等が挙げられる。
【0062】
前記有機顔料としては、例えば、キナクリドン顔料、キナクリドンキノン顔料、ジオキサジン顔料、フタロシアニン顔料、アントラピリミジン顔料、アンサンスロン顔料、インダンスロン顔料、フラバンスロン顔料、ペリレン顔料、ジケトピロロピロール顔料、ペリノン顔料、キノフタロン顔料、アントラキノン顔料、チオインジゴ顔料、ベンツイミダゾロン顔料、アゾ顔料等が挙げられる。これらの顔料は、単独で用いることも2種以上を併用することもできる。
【0063】
前記染料としては、例えば、モノアゾ・ジスアゾ等のアゾ染料、金属錯塩染料、ナフト-ル染料、アントラキノン染料、インジゴ染料、カ-ボニウム染料、キノイミン染料、シアニン染料、キノリン染料、ニトロ染料、ニトロソ染料、ベンゾキノン染料、ナフトキノン染料、ナフタルイミド染料、ペリノン染料、フタロシアニン染料、トリアリルメタン系染料等が挙げられる。これらの染料は、単独で用いることも2種以上を併用することもできる。
【0064】
上述の着色剤の中でも、焼成時の残渣を減らす観点から、非金属有機顔料(C)(以下、単に(C)成分ともいう)であることがより好ましい。具体的には、キナクリドン顔料、キナクリドンキノン顔料、ジオキサジン顔料、アゾ顔料等が特に好ましい。
【0065】
本発明の組成物における着色剤の含有量は、(B)成分100質量部に対して0.001~5質量部の範囲であることが好ましく、0.001~1質量部の範囲であることがさらに好ましく、0.001~0.5質量部の範囲であることが特に好ましい。これらの範囲とすることで、視認性を高めつつ、造形物の焼成時の残渣の生成を抑制できる。
【0066】
本発明の硬化物は、前記光硬化性樹脂組成物を硬化してなるものである。
【0067】
本発明の硬化物は、前記光硬化性樹脂組成物に、紫外線を照射することで得ることができ、紫外線による硬化反応を効率よく行うため、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気下で照射してもよく、空気雰囲気下で照射してもよい。
【0068】
紫外線発生源としては、実用性、経済性の面から紫外線ランプが一般的に用いられている。具体的には、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、キセノンランプ、ガリウムランプ、メタルハライドランプ、太陽光、LED等が挙げられる。これらの中でも、長時間に渡り、安定した照度が得られることから、LEDを光源とすることが好ましい。
【0069】
前記紫外線の波長は、本発明の光硬化性樹脂組成物を硬化出来る波長であれば特に限定されるものではなく、1~450nmの範囲で適宜選択することができる。
【0070】
なお、前記紫外線の照射は、一段階で行ってもよいし、二段階以上に分けて行ってもよい。
【0071】
本発明の立体造形物は、公知の光学的立体造形法により作成することができる。
【0072】
前記光学的立体造形法としては、例えば、ステレオリソグラフィ-(SLA)方式、デジタルライトプロセッシング(DLP)方式、液晶ディスプレイ方式(LCD)方式、インクジェット方式が挙げられる。
【0073】
前記ステレオリソグラフィ-(SLA)方式とは、液状の光硬化性樹脂組成物の槽に紫外線を点で照射し、造形ステ-ジを移動させながら一層ずつ硬化して立体造形を行う方式である。
【0074】
前記デジタルライトプロセッシング(DLP)方式、液晶ディスプレイ方式(LCD)方式とは、液状の紫外線硬化性樹脂組成物の槽に紫外線を面で照射し、造形ステ-ジを移動させながら一層ずつ硬化して立体造形を行う方式である。
【0075】
前記インクジェット光造形法とは、光硬化性樹脂組成物の微小液滴を、ノズルから所定の形状パタ-ンを描画するよう吐出してから、紫外線を照射して硬化薄膜を形成する方法である。
【0076】
これらの光学的立体造形法のなかでも、面による高速造形が可能なことからDLP方式が好ましい。
【0077】
前記DLP方式の立体造形方法としては、DLP方式の光造形システムを用いた方法であれば特に制限されないが、その造形条件としては、立体造形物の造形精度が良好となることから、光造形の積層ピッチが0.01~0.2mmの範囲であり、照射波長が350~410nmの範囲であり、光強度が0.5~50mW/cm2の範囲であり、1層当たりの積算光量が1~100mJ/cm2の範囲であることを要し、なかでも、より一層立体造形物の造形精度が良好となることから、光造形の積層ピッチが、0.02~0.1mmの範囲であり、照射波長が、380~410nmの範囲であり、光強度が、5~15mW/cm2の範囲であり、1層当たりの積算光量が、5~80mJ/cm2の範囲であることが好ましい。
【0078】
本発明の立体造形物は、優れた鋳造性を有することから、前記立体造形物の焼成時の残存率が、窒素雰囲気下、400℃の条件において62%以下であることが好ましく、57%以下であることがより好ましく、50%以下であることが特に好ましい。なお、本発明において、焼成時の残存率は、熱重量示差熱測定(TG-DTA)での[(400℃における重量)/(25℃における初期重量)]で算出した値である。
【0079】
本発明の立体造形物は、例えば、歯科材料、自動車部品、航空・宇宙関連部品、電気電子部品、建材、インテリア、宝飾、医療材料等に用いることができる。
【0080】
前記医療材料としては、例えば、歯科治療用のサ-ジカルガイド、仮歯、ブリッジ、歯列矯正器具等の歯科用の硬質レジン材料が挙げられる。
【0081】
また、本発明の立体造形物は、優れた硬度及び鋳造性を有することから、前記立体造形物を用いた鋳型の製造にも好適である。
【0082】
前記鋳型の製造方法としては、例えば、本発明の立体造形物を埋没材で一部または全部を埋没させる工程(1)、前記埋没材を硬化または固化させる工程(2)、前記立体造形物を、溶融除去、分解除去、及び/または焼却除去させる工程(3)を有する方法等が挙げられる。
【0083】
前記埋没材としては、例えば、石膏系埋没材、リン酸塩系埋没材等が挙げられ、前記石膏系埋没材としては、例えば、シリカ埋没材、石英埋没材、クリストバライト埋没材等が挙げられる。
【0084】
前記工程(1)としては、本発明の立体造形物を埋没材で一部または全部を埋没させる工程である。この際、前記埋没材は、適量の水と練和させることが好ましい。混水比が多すぎると硬化時間が長くなり、少なすぎると流動性が悪くなり埋没材の流し込みが困難となる。また、前記立体造形物に界面活性剤を塗布すると埋没材が良く濡れてなじむため、鋳造物の表面に粗が出にくくなり好ましい。さらに、前記立体造形物を埋没する際は、鋳造物表面に気泡が付着しないように埋没することが好ましい。
【0085】
前記工程(2)としては、前記埋没材を硬化または固化させる工程である。前記埋没材として、石膏系埋没材を用いる場合、埋没材を固化させる温度は、200~400℃の範囲が好ましく、立体造形物を埋没後10~60分程度静置して固化させることが好ましい。
【0086】
前記工程(3)としては、前記立体造形物を、溶融除去、分解除去、及び/または焼却除去させる工程である。前記立体造形物を焼却除去する場合、焼成温度は、400~1000℃の範囲が好ましく、600~800℃の範囲がより好ましい。
【0087】
また、前記工程(1)~(3)を経て得られた鋳型に、金属材料を流し込み、前記金属材料を固化させて(工程(4))金属鋳造物を得ることができる。これにより、前記立体造形物の原型に対応する金属鋳造物を製造することが可能となる。
【実施例】
【0088】
以下、実施例を挙げて本発明についてさらに具体的に説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。(以下、各成分の量に関して記載される「部」は、「質量部」を意味する。)
【0089】
(実施例1)
攪拌機を備えた容器に、ビスフェノ-ルAエチレンオキサイド変性(10モル付加)ジメタクリレート80質量部と、ネオペンチルグリコールジメタクリレート20質量部と、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド(IGM社製の商品名「Omnirad 819」)2質量部と、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(IGM社製の商品名「Omnirad 184」)10質量部を配合し、液温度60℃に制御しながら1時間攪拌混合し、均一に溶解することで、光硬化性樹脂組成物(1)を得た。
【0090】
(実施例2~14、比較例1~5)
表1~3に示した組成に変更した以外は、実施例1と同様にして光硬化性樹脂組成物(2)~(14)、(R1)~(R5)を得た。
【0091】
上記調整した光硬化性樹脂組成物(1)~(14)、(R1)~(R5)について以下の工程で立体造形物のサンプルを作成し、各試験を行った。
【0092】
(サンプルの作成)
光硬化性樹脂組成物(1)~(14)、(R1)~(R5)それぞれについて、面露光方式(DLP)の光造形システム(ASIGA社製「MAX」)を用いて、各評価ごとに所定の形状の立体造形物を形成した。
光造形の積層ピッチは0.05~0.1mm、照射波長400~410nm、照度8mW/cm2、光照射時間は1層当たり0.5~7秒とした。上記各条件で形成された立体造形物を、エタノ-ル中で超音波洗浄した。続いて高圧水銀ランプを用いて、立体造形物の表面及び裏面に積算光量が1000~2000mJ/cm2になるように光照射して、後硬化させてサンプルを作成した。
【0093】
[硬さ(ショア-D硬度)の評価方法]
JIS K 6253-3:2012「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム-硬さの求め方-第3部:デュロメ-タ硬さ」に記載された測定方法に準じて、サンプルの硬度(タイプDデュロメータ、GS-720R)の測定を行った。上記で得られたサンプル(形状は5mm×5mm×3mmの直方体)を用いて、3mmの厚み方向に同じ形状のサンプルを2つ積み重ねて厚み約6mmとして測定した。ただし、試験片に異物の混入したもの、気泡のあるもの、およびキズのあるものは用いなかった。下記の基準に基づいて評価し、〇のものを合格とする。
(評価基準)
〇(ショア-D硬度が60以上)
×(ショア-D硬度が60未満)
【0094】
[焼成時の立体造形物の残存率測定方法]
上記作成したサンプル(形状は5mm×5mm×3mmの直方体)を5~6mg片に粉砕したものを試験片とし、示差熱熱重量同時測定装置(TG-DTA:メトラ-トレド社製TGA/DSC1)を用い、窒素雰囲気下で25℃から600℃まで10℃/分で昇温させた時の質量を測定し、400℃における残存率を[(400℃における重量)/(25℃における初期重量)]から算出した。この値が小さいほど高温加熱時の消失性に優れるものとし、下記の基準に基づいて評価し、A又はBのものを合格とする。
(評価基準)
A:(残存率が57%未満)
B:(残存率が57%超以上、62%以下)
C:(残存率が62%超以上)
【0095】
[造形精度の測定方法]
光硬化性樹脂組成物(1)~(14)、(R1)~(R5)それぞれについて、面露光方式(DLP)の光造形システム(ASIGA社製「MAX」)を用いて、形状は、縦5mm×横5mm×厚み1.5mmのシート状となるよう立体造形物を形成した。
光造形の、積層ピッチは0.05mm、照射波長400~410nm、照度8mW/cm2、光照射時間は1層当たり6秒とした。形成された立体造形物を、エタノ-ル中で超音波洗浄した。続いて高圧水銀ランプを用いて、立体造形物の表面及び裏面に積算光量が1000~2000mJ/cm2になるように光照射し、後硬化させ、造形精度測定用サンプルを作成した。
得られた造形精度測定用サンプルの厚みをマイクロメーターにて計測した。厚みが1.5mmに近いほど造形精度に優れるものとし、下記の基準に基づいて評価し、A又はBのものを合格とする。
(評価基準)
A(厚み(1.5mm)の寸法誤差が0.1mm未満)
B(厚み(1.5mm)の寸法誤差が0.1mm以上0.15mm未満)
C(厚み(1.5mm)の寸法誤差が0.15mm以上)
【0096】
[鋳造性の評価方法]
クリストバライト埋没材(吉野石膏販売株式会社、サクラクイック30)と水を質量比100:33で混合した埋没材を用いて、上記で得られたサンプル(形状は
図1:直径15mmの半球、直径15mmの球、直径15mmのリングを直径5mmの円柱で接続したもの、全長42.5mm)を埋没させ、25℃で30分間静置し埋没材を固化させた。次いで、700℃に加熱した電気炉で1時間加熱し、前記サンプルを焼却することで鋳型を作成した。この際の鋳造性を、目視にて下記の基準に従い評価した。なお、鋳型の内部においては、鋳型を切断し、目視にて、ひび、亀裂の有無、立体造形物の残渣、煤の有無、鋳型への立体造形物の転写性の良・不良を判断したものであり、〇を合格とした。
(評価基準)
○:鋳型外部及び内部にひび割れや亀裂がなく、鋳型内部に立体造形物の残渣、煤がなく、鋳型への立体造形物の転写性が良好である。
×:鋳型外部のひび割れや亀裂、鋳型内部の立体造形物の残渣、煤残り、鋳型への立体造形物の転写不良の少なくとも1つを生じており、鋳型として使用不可である。
(
図1)
【0097】
上記各試験の評価結果を表1~3に記載する。
【0098】
【0099】
【0100】
【0101】
表1~3における略語は下記の通りである。
Omnirad819:ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、IGM社製、商品名「Omnirad819」、極大吸収波長:237nm、380nm
OmniradTPO:2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、IGM社製、商品名「OmniradTPO」、極大吸収波長:275nm、379nm
Omnirad184:1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、IGM社製、商品名「Omnirad184」、極大吸収波長:243nm、331nm
Omnirad907:2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルフォリノプロパン-1-オン、IGM社製、商品名「Omnirad907」、極大吸収波長:230nm、303nm
Omnirad651:2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、IGM社製、商品名「Omnirad651」、極大吸収波長:252nm、325nm
化合物1:ビスフェノ-ルAエチレンオキサイド変性(10モル付加)ジメタクリレート、Miwon Specialty Chemical社製、商品名「Miramer M2101」
化合物2:ビスフェノ-ルAエチレンオキサイド変性(4モル付加)ジメタクリレート、Miwon Specialty Chemical社製、商品名「Miramer M241」
化合物3:ビスフェノ-ルAエチレンオキサイド変性(30モル付加)ジメタクリレート、Miwon Specialty Chemical社製、商品名「Miramer M2301」
化合物4:ネオペンチルグリコールジメタクリレート、Miwon Specialty Chemical社製、商品名「Miramer M213」
化合物5:ポリプロピレングリコールジメタクリレート、新中村化学社製、商品名「NKエステル 9PG」
P.R.122:Pigment Red 122、DIC社製、商品名「FASTOGEN(登録商標)SUPER MAGENTA R」
【0102】
表1~3に示されるように、実施例1~14の光硬化性樹脂組成物は良好な造形精度を示し、立体造形物は、高硬度、及び高温加熱時における優れた消失性を示しつつ、鋳造性が良好となることが確認できた。
一方、光重合開始剤(A)を、(B)成分100質量部に対して、10質量部以下の割合で含有した比較例1~4から形成した立体造形物では、高温加熱時の消失性及び鋳造性が劣ることが確認できた。さらに、光重合開始剤(A)を、(B)成分100質量部に対して、30量部以上の割合で含有した比較例5を使用した立体造形物では硬度が低下し、鋳造性が悪化することが分かった。