(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-27
(45)【発行日】2024-06-04
(54)【発明の名称】歯車及びロボット
(51)【国際特許分類】
F16H 55/17 20060101AFI20240528BHJP
F16H 55/06 20060101ALI20240528BHJP
C08L 81/02 20060101ALI20240528BHJP
【FI】
F16H55/17 Z
F16H55/06
C08L81/02
(21)【出願番号】P 2024504905
(86)(22)【出願日】2023-03-13
(86)【国際出願番号】 JP2023009697
(87)【国際公開番号】W WO2024004284
(87)【国際公開日】2024-01-04
【審査請求日】2024-01-25
(31)【優先権主張番号】P 2022105065
(32)【優先日】2022-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177426
【氏名又は名称】粟野 晴夫
(74)【代理人】
【識別番号】100141601
【氏名又は名称】貴志 浩充
(74)【代理人】
【識別番号】100176728
【氏名又は名称】北村 慎吾
(72)【発明者】
【氏名】黒川 隆平
(72)【発明者】
【氏名】倉田 地人
(72)【発明者】
【氏名】高橋 良尚
(72)【発明者】
【氏名】森 耕太郎
【審査官】前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-276191(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 55/17
F16H 55/06
C08L 81/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸又は軸を取り付けるための軸穴が形成された中心部と、
複数の歯が形成された外周部と、
前記中心部と前記外周部とを接続する接続部であって、複数枚の羽根が形成された接続部と
を備える歯車であって、
前記接続部は、前記歯車の周方向において隣り合う羽根同士の間に、前記接続部の径方向全体で前記歯車の軸方向に貫通している貫通穴が形成されている歯車。
【請求項2】
軸又は軸を取り付けるための軸穴が形成された中心部と、
複数の歯が形成された外周部と、
前記中心部と前記外周部とを接続する接続部であって、複数枚の羽根が形成された接続部と
を備える歯車であって、
前記複数枚の羽根は、
前記歯車の周方向に沿って並べられた1群の羽根を含み、
前記歯車の径方向において前記1群の羽根よりも外側で、前記歯車の周方向に沿って並べられた他の1群以上の羽根を更に含み、
前記歯車の軸方向の一端側で、前記歯車の周方向において各羽根に共通の向きで前記歯車の径方向に対して斜めにせり上がっている歯車。
【請求項3】
前記複数枚の羽根は、前記歯車の軸方向の他端側で、前記歯車の周方向において前記歯車の軸方向の一端側とは逆の向きで前記歯車の径方向に対して斜めにせり上がっている請求項
2に記載の歯車。
【請求項4】
前記他の1群以上の羽根は、前記1群の羽根と直接接続されている請求項
2に記載の歯車。
【請求項5】
前記他の1群以上の羽根は、それぞれ前記1群の羽根とは周方向位置がずれている請求項
2に記載の歯車。
【請求項6】
ポリアリーレンスルフィド樹脂で形成された請求項1から請求項
5のいずれか1項に記載の歯車。
【請求項7】
請求項1から請求項
5のいずれか1項に記載の歯車を備えるロボット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、歯車及びロボットに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、樹脂製歯車が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の歯車は、耐熱性に課題があり、冷却する必要がある。しかし、歯車を冷却する部品によってコスト及び重量が増加するという課題がある。
【0005】
本開示の目的は、コスト又は重量の増加を抑えつつ歯車を冷却できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下に本開示の幾つかの態様を示す。
[態様1]
軸又は軸を取り付けるための軸穴が形成された中心部と、
複数の歯が形成された外周部と、
前記中心部と前記外周部とを接続する接続部であって、複数枚の羽根が形成された接続部と
を備える歯車。
[態様2]
前記複数枚の羽根は、前記歯車の軸方向の一端側で、前記歯車の周方向において各羽根に共通の向きで前記歯車の径方向に対して斜めにせり上がっている態様1の歯車。
[態様3]
前記複数枚の羽根は、前記歯車の軸方向の他端側で、前記歯車の周方向において前記歯車の軸方向の一端側とは逆の向きで前記歯車の径方向に対して斜めにせり上がっている態様2の歯車。
[態様4]
前記複数枚の羽根は、前記歯車の径方向における両端がそれぞれ前記中心部及び前記外周部に直接接続している態様1から態様3のいずれか1態様の歯車。
[態様5]
前記接続部は、前記歯車の周方向において隣り合う羽根同士の間に貫通穴が形成されている態様1から態様4のいずれか1態様の歯車。
[態様6]
前記複数枚の羽根は、前記歯車の周方向に沿って並べられた1群の羽根を含む態様1から態様5のいずれか1態様の歯車。
[態様7]
前記複数枚の羽根は、前記歯車の径方向において前記1群の羽根よりも外側で、前記歯車の周方向に沿って並べられた他の1群以上の羽根を更に含む態様6の歯車。
[態様8]
ポリアリーレンスルフィド樹脂で形成された態様1から態様7のいずれか1態様の歯車。
[態様9]
態様1から態様8のいずれか1態様の歯車を備えるロボット。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、コスト又は重量の増加を抑えつつ歯車を冷却できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本開示の実施形態に係る歯車の斜視図である。
【
図2】本開示の実施形態に係る歯車の平面図である。
【
図3】本開示の実施形態に係る歯車の側面図である。
【
図4】本開示の実施形態に係る歯車の底面図である。
【
図5】本開示の実施形態の変形例に係る歯車の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の一実施形態について、図を参照して説明する。
【0010】
各図中、同一又は相当する部分には、同一符号を付している。本実施形態の説明において、同一又は相当する部分については、説明を適宜省略又は簡略化する。
【0011】
図1から
図4を参照して、本実施形態に係る歯車10の構成を説明する。
【0012】
各図中、歯車10の上面及び底面と平行な面をXY平面、歯車10の中心軸と平行な軸をZ軸とする。説明の便宜上、歯車10の
図2及び
図4に示す面を、それぞれ上面及び底面としているが、逆に底面及び上面とみなしてもよいし、正面及び背面、若しくは逆に背面及び正面とみなしてもよいし、又は側面及び反対の側面とみなしてもよい。同様に、歯車10の
図3に示す面を側面としているが、別の面とみなしてもよい。
【0013】
歯車10は、本実施形態では樹脂で形成されているが、金属で形成されていてもよい。樹脂としては、任意の樹脂が使用されてよいが、本実施形態では、ポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂などのポリアリーレンスルフィド(PAS)樹脂が使用されている。
【0014】
歯車10は、中心部20と、外周部30と、中心部20と外周部30とを接続する接続部40とを備える。中心部20には、軸を取り付けるための軸穴21が形成されている。外周部30には、複数の歯31が形成されている。接続部40には、複数枚の羽根が形成されている。羽根の枚数は、任意の数でよいが、本実施形態では6枚である。すなわち、接続部40には、複数枚の羽根として、6枚の羽根41A,41B,41C,41D,41E,41Fが形成されている。
【0015】
このような構成により、歯車10の回転時には、複数枚の羽根によって歯車10の近傍の気体又は流体が攪拌輸送され、自動的に冷却効果が得られる。そのため、歯車10のかみ合いによる摩擦熱又は駆動モータの発熱に起因して歯車10の近傍の温度が上昇することを回避しやすくなる。その結果、材料の劣化、又は熱膨張による歯車10のバックラッシュ若しくは強度低下を防止しやすくなる。
【0016】
本実施形態によれば、冷却のために歯車10とは別個の冷却部品を設ける必要がなくなる。その結果、歯車10を使用する製品のコスト削減、軽量化、又は省電力などの省エネルギーを実現しやすくなる。
【0017】
歯車10の回転数の増減と発熱量の増減との間には相関がある。本実施形態では、回転数の増減に応じて、各羽根の回転数が増減すれば、冷却能力も自動的に増減されるため、発熱量を検知又は推定して冷却能力の増減を調整する機構を設ける必要もなくなる。
【0018】
歯車10は、任意の種類の歯車でよいが、本実施形態では平歯車であり、中心部20が円筒状のハブ、外周部30が環状のリム、接続部40がハブとリムとを接続するウェブになっている。本実施形態の一変形例として、歯車10は、軸一体型の歯車でもよく、そのような場合、中心部20には、軸穴21の代わりに、軸が形成される。
【0019】
羽根41A,41B,41C,41D,41E,41Fは、歯車10の軸方向の一端側で、歯車10の周方向において各羽根に共通の向きで歯車10の径方向に対して斜めにせり上がっている。そのため、歯車10の回転時には、羽根41A,41B,41C,41D,41E,41Fによって歯車10の軸方向の一端側の気体又は流体が攪拌され、自動的に冷却効果を得られる。
【0020】
本実施形態では、羽根41A,41B,41C,41D,41E,41Fは、歯車10の軸方向の他端側でも、歯車10の周方向において各羽根に共通の向きで歯車10の径方向に対して斜めにせり上がっている。具体的には、羽根41A,41B,41C,41D,41E,41Fは、歯車10の軸方向の他端側で、歯車10の周方向において歯車10の軸方向の一端側とは逆の向きで歯車10の径方向に対して斜めにせり上がっている。そのため、歯車10の回転時には、羽根41A,41B,41C,41D,41E,41Fによって歯車10の軸方向の他端側の気体又は流体が攪拌され、自動的に冷却効果を得られる。
【0021】
図3に示すように、羽根41A,41B,41C,41D,41E,41Fは、歯車10の軸方向の一端側で、外周部30の端面32よりも高い位置まで突き出している。そのため、歯車10の回転時には、羽根41A,41B,41C,41D,41E,41Fによって歯車10の軸方向の一端側の気体又は流体が十分に攪拌され、所望の冷却効果を得られる。本実施形態では、羽根41A,41B,41C,41D,41E,41Fは、歯車10の軸方向の一端側で、中心部20の端面22よりも高い位置まで更に突き出している。すなわち、各羽根の、リムの端面32よりも軸方向に突き出した部分の高さ寸法D3は、ハブの端面22とリムの端面32との高さ位置の差D1よりも大きい。各羽根の、リムの端面32よりも軸方向に突き出した部分の高さ寸法D3は、好ましくはリムの厚さ寸法D0よりも小さく、本実施形態ではリムの厚さ寸法D0の半分未満である。
【0022】
図3に示すように、羽根41A,41B,41C,41D,41E,41Fは、歯車10の軸方向の他端側でも、外周部30の端面33よりも高い位置まで突き出している。そのため、歯車10の回転時には、羽根41A,41B,41C,41D,41E,41Fによって歯車10の軸方向の他端側の気体又は流体が十分に攪拌され、所望の冷却効果を得られる。本実施形態では、羽根41A,41B,41C,41D,41E,41Fは、歯車10の軸方向の他端側で、中心部20の端面23よりも高い位置まで更に突き出している。すなわち、各羽根の、リムの端面33よりも軸方向に突き出した部分の高さ寸法D4は、ハブの端面23とリムの端面33との高さ位置の差D2よりも大きい。各羽根の、リムの端面33よりも軸方向に突き出した部分の高さ寸法D4は、好ましくはリムの厚さ寸法D0よりも小さく、本実施形態ではリムの厚さ寸法D0の半分未満である。
【0023】
羽根41A,41B,41C,41D,41E,41Fは、歯車10の軸方向の一端側で、必ずしも外周部30の端面32よりも高い位置まで突き出していなければならないわけではなく、外周部30の端面32と同じ高さ、又は外周部30の端面32よりも低い位置でも一定の冷却効果を奏する。羽根41A,41B,41C,41D,41E,41Fは、歯車10の軸方向の他端側でも、必ずしも外周部30の端面33よりも高い位置まで突き出していなければならないわけではなく、外周部30の端面32と同じ高さ、又は外周部30の端面32よりも低い位置でも一定の冷却効果を奏する。
【0024】
本実施形態では、羽根41A,41B,41C,41D,41E,41Fは、歯車10の径方向における両端がそれぞれ中心部20及び外周部30に直接接続している。そのため、接続部40の限られた領域内でも所望の冷却能力を得るための羽根サイズを適用することができる。
【0025】
必須ではないが、本実施形態では、接続部40の、歯車10の周方向において隣り合う羽根同士の間に貫通穴が形成されている。具体的には、
図2及び
図4に示すように、接続部40の羽根41A,41Bの間、羽根41B,41Cの間、羽根41C,41Dの間、羽根41D,41Eの間、羽根41E,41Fの間、及び羽根41F,41Aの間には、それぞれ貫通穴42A,42B,42C,42D,42E,42Fが形成されている。そのため、歯車10の軸方向の一端側の気体又は流体が歯車10の軸方向の他端側に流れ込むことが可能であり、その逆も可能である。よって、冷却能力が向上する。
【0026】
接続部40の複数枚の羽根は、本実施形態では、歯車10の周方向に沿って並べられた1群の羽根のみを含んでいるが、本実施形態の一変形例として、
図5に示すように、歯車10の径方向において当該1群の羽根よりも外側で、歯車10の周方向に沿って並べられた他の1群以上の羽根を更に含んでいてもよい。具体的には、
図1に示した例では、1群の羽根として、6枚の羽根41A,41B,41C,41D,41E,41Fが周方向に沿って並んでいるが、
図5に示した例のように、6枚の羽根41A,41B,41C,41D,41E,41Fよりも径方向外側で、他の1群の羽根として、6枚の羽根43A,43B,43C,43D,43E,43Fが周方向に沿って並んでいてもよい。外側の羽根43A,43B,43C,43D,43E,43Fは、内側の羽根41A,41B,41C,41D,41E,41Fと直接接続されていてもよいが、この変形例では、内側の羽根41A,41B,41C,41D,41E,41Fと環状のブリッジ44を介して接続されている。外側の羽根43A,43B,43C,43D,43E,43Fは、それぞれ内側の羽根41A,41B,41C,41D,41E,41Fと周方向位置が揃っていてもよいが、この変形例では、それぞれ内側の羽根41A,41B,41C,41D,41E,41Fとは周方向位置がずれている。具体的には、外側の羽根43A,43B,43C,43D,43E,43Fは、それぞれ周方向において内側の羽根41A,41Bの間、内側の羽根41B,41Cの間、内側の羽根41C,41Dの間、内側の羽根41D,41Eの間、内側の羽根41E,41Fの間、及び内側の羽根41F,41Aの間に位置するように形成されている。この変形例では、2群の羽根が群ごとに周方向に沿って並んでいるが、別の変形例として、3群以上の羽根が群ごとに周方向に沿って並んでいてもよい。
【0027】
歯車10は、例えば、ロボット用ギヤに適用することができる。すなわち、本実施形態によれば、歯車10を備えるロボットを提供することができる。ロボットは、例えば、介護用ロボット、海洋ごみ回収ロボット、又は医療用手術ロボットである。歯車10は、ドローンプロペラ駆動用ギヤに適用されてもよい。
【0028】
本実施形態では、樹脂が歯車10の成形に用いられる。よって、本実施形態に係る歯車10は、樹脂の成形品に相当する。
【0029】
本実施形態で用いられる樹脂としては、熱可塑性樹脂が好ましい。当該熱可塑性樹脂は特に制限されることは無いが、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリブテン等のポリオレフィン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂;ナイロン-6やナイロン6,6等のポリアミド系樹脂又は芳香族ポリアミド樹脂;熱可塑性ポリイミド樹脂;ポリアミドイミド系樹脂;ポリスチレン、シンジオタクチックポリスチレン、アクリロニトリル-スチレン共重合体樹脂又はアクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体樹脂等のポリスチレン系樹脂;ポリフェニレンスルフィド等のポリアリーレンスルフィド系樹脂;ポリフェニレンエーテル系樹脂;ポリウレタン系樹脂;ポリ乳酸;ポリエーテルエーテルケトン系樹脂;ポリエーテルイミド系樹脂;ポリケトン系樹脂;非晶性ポリアリレートや液晶性ポリアリレート等のポリアリレート系樹脂;液晶ポリエステル系樹脂等が挙げられる。
【0030】
これらの中でも、本実施形態で用いられる熱可塑性樹脂としては、耐熱性、機械的特性等に優れる、いわゆるエンジニアリングプラスチック又はスーパーエンジニアリングプラスチックスである、熱可塑性ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリアリーレンスルフィド系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリケトン系樹脂、ポリアリレート系樹脂及び液晶性ポリエステル樹脂が好ましく、耐薬品性、耐熱性及び機械的特性の観点から、ポリアリーレンスルフィド系樹脂がより好ましく、さらにポリアリーレンスルフィド系樹脂(以下「PAS樹脂」とも言う)の中でも特に、ポリフェニレンスルフィド(以下「PPS樹脂」とも言う)樹脂が好ましい。
【0031】
本実施形態において、上記樹脂を単独で使用しても、あるいは上記樹脂を複数混合したポリマーアロイの形態で使用してもよい。また、本実施形態に係る樹脂は、必要により後述の任意の添加成分(フィラー、着色剤、帯電防止剤、酸化防止剤、耐熱安定剤、紫外線安定剤、紫外線吸収剤、発泡剤、難燃剤、難燃助剤、防錆剤、カップリング剤、シランカップリング剤、熱可塑性エラストマー又は合成樹脂)を含有する組成物の形態であってもよい。
【0032】
ポリアリーレンスルフィド樹脂は、芳香族環と硫黄原子とが結合した構造を繰り返し単位とする樹脂構造を有するものであり、具体的には、下記一般式(1)で表される構造部位と、必要に応じてさらに下記一般式(2)で表される3官能性の構造部位と、を繰り返し単位とする樹脂である。
【0033】
【化1】
式(1)中、R
1及びR
2は、それぞれ独立して水素原子、炭素原子数1~4の範囲のアルキル基、ニトロ基、アミノ基、フェニル基、メトキシ基、エトキシ基を表す。
【0034】
【化2】
式(2)で表される3官能性の構造部位は、他の構造部位との合計モル数に対して0.001~3モル%の範囲が好ましく、特に0.01~1モル%の範囲であることが好ましい。
【0035】
ここで、上記一般式(1)で表される構造部位は、特に該式中のR1及びR2は、上記PAS樹脂の機械的強度の点から水素原子であることが好ましく、その場合、下記式(3)で表されるパラ位で結合するもの、及び下記式(4)で表されるメタ位で結合するものが挙げられる。
【0036】
【化3】
これらの中でも、特に繰り返し単位中の芳香族環に対する硫黄原子の結合は上記一般式(3)で表されるパラ位で結合した構造であることが上記PAS樹脂の耐熱性や結晶性の面で好ましい。
【0037】
また、上記PAS樹脂は、上記一般式(1)や(2)で表される構造部位のみならず、下記の構造式(5)~(8)で表される構造部位を、上記一般式(1)と一般式(2)で表される構造部位との合計の30モル%以下で含んでいてもよい。
【0038】
【化4】
特に本実施形態では上記一般式(5)~(8)で表される構造部位は10モル%以下であることが、PAS樹脂の耐熱性、機械的強度の点から好ましい。上記PAS樹脂中に、上記一般式(5)~(8)で表される構造部位を含む場合、それらの結合様式としては、ランダム共重合体、ブロック共重合体の何れであってもよい。
【0039】
また、上記PAS樹脂は、その分子構造中に、ナフチルスルフィド結合などを有していてもよいが、他の構造部位との合計モル数に対して、3モル%以下が好ましく、特に1モル%以下であることが好ましい。
【0040】
また、PAS樹脂の物性は、本実施形態の効果を損ねない限り特に限定されないが、以下の通りである。
【0041】
(溶融粘度)
PAS樹脂の溶融粘度は特に限定されないが、流動性および機械的強度のバランスが良好となることから、300℃で測定した溶融粘度(V6)が、好ましくは2Pa・s以上の範囲であり、好ましくは1000Pa・s以下の範囲、より好ましくは500Pa・s以下の範囲であり、さらに好ましくは200Pa・s以下の範囲である。ただし、溶融粘度(V6)の測定は、ポリアリーレンスルフィド樹脂を島津製作所製フローテスター、CFT-500Dを用いて行い、300℃、荷重:1.96×106Pa、L/D=10(mm)/1(mm)にて、6分間保持した後に測定した溶融粘度の測定値とする。
【0042】
(非ニュートン指数)
PAS樹脂の非ニュートン指数は特に限定されないが、0.90以上から、2.00以下の範囲であることが好ましい。リニア型ポリアリーレンスルフィド樹脂を用いる場合には、非ニュートン指数が、好ましくは0.90以上の範囲、より好ましくは0.95以上の範囲から、好ましくは1.50以下の範囲、より好ましくは1.20以下の範囲である。このようなポリアリーレンスルフィド樹脂は機械的物性、流動性、耐磨耗性に優れる。ただし、本実施形態において非ニュートン指数(N値)は、キャピログラフを用いて融点+20℃、オリフィス長(L)とオリフィス径(D)の比、L/D=40の条件下で、剪断速度(SR)及び剪断応力(SS)を測定し、下記式を用いて算出した値である。非ニュートン指数(N値)が1に近いほど線状に近い構造であり、非ニュートン指数(N値)が高いほど分岐が進んだ構造であることを示す。
【0043】
【数1】
ただし、SRは剪断速度(秒
-1)、SSは剪断応力(ダイン/cm
2)、そしてKは定数を示す。
【0044】
本実施形態で用いられる樹脂は、必要に応じて、充填剤を任意成分として含有することができる。これら充填剤としては本実施形態の効果を損なうものでなければ公知慣用の材料を用いることもでき、例えば、繊維状のものや、粒状や板状などの非繊維状のものなど、さまざまな形状の充填剤等が挙げられる。具体的には、ガラス繊維、炭素繊維、シランガラス繊維、セラミック繊維、アラミド繊維、金属繊維、チタン酸カリウム、炭化珪素、珪酸カルシウム、ワラストナイト等の繊維、天然繊維等の繊維状充填剤が使用でき、またガラスビーズ、ガラスフレーク、硫酸バリウム、クレー、パイロフィライト、ベントナイト、セリサイト、マイカ、雲母、タルク、アタパルジャイト、フェライト、珪酸カルシウム、炭酸カルシウム、ガラスビーズ、ゼオライト、ミルドファイバー、硫酸カルシウム等の非繊維状充填剤も使用できる。
【0045】
本実施形態において充填剤は必須成分ではなく、配合する場合、その含有量は本実施形態の効果を損ねなければ特に限定されるものではない。充填剤の配合量としては、例えば、樹脂100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは10質量部以上から、好ましくは600質量部以下、より好ましくは200質量部以下の範囲である。かかる範囲において、樹脂が良好な機械的強度と成形性を示すため好ましい。
【0046】
本実施形態で用いられる樹脂は、必要に応じて、シランカップリング剤を任意成分として配合することができる。シランカップリング剤としては、本実施形態の効果を損ねなければ特に限定されないが、カルボキシ基と反応する官能基、例えば、エポキシ基、イソシアナト基、アミノ基または水酸基を有するシランカップリング剤が好ましいものとして挙げられる。このようなシランカップリング剤としては、例えば、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシ基含有アルコキシシラン化合物、γ-イソシアナトプロピルトリメトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルトリエトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルメチルジメトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルメチルジエトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルエチルジメトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルエチルジエトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルトリクロロシラン等のイソシアナト基含有アルコキシシラン化合物、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノ基含有アルコキシシラン化合物、γ-ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-ヒドロキシプロピルトリエトキシシラン等の水酸基含有アルコキシシラン化合物が挙げられる。本実施形態においてシランカップリング剤は必須成分ではないが、配合する場合、その配合量は、本実施形態の効果を損ねなければその添加量は特に限定されないが、樹脂100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上から、好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下までの範囲である。かかる範囲において、樹脂が良好な耐コロナ性と成形性、特に離形性を有し、かつ成形品がエポキシ樹脂と優れた接着性を呈しつつ、さらに機械的強度が向上するため好ましい。
【0047】
本実施形態で用いられる樹脂は、必要に応じて、熱可塑性エラストマーを任意成分として含有することができる。熱可塑性エラストマーとしては、ポリオレフィン系エラストマー、弗素系エラストマーまたはシリコーン系エラストマーが挙げられ、このうちポリオレフィン系エラストマーが好ましいものとして挙げられる。これらのエラストマーを添加する場合、その配合量は、本実施形態の効果を損ねなければ特に限定されないが、樹脂(A)100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上から、好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下までの範囲である。かかる範囲において、得られる樹脂の耐衝撃性が向上するため好ましい。
【0048】
例えば、上記ポリオレフィン系エラストマーは、α-オレフィンの単独重合体、または2以上のα-オレフィンの共重合体、1または2以上のα-オレフィンと、官能基を有するビニル重合性化合物との共重合体が挙げられる。この際、上記α-オレフィンとしては、エチレン、プロピレン、1-ブテン等の炭素原子数が2以上から8以下までの範囲のα-オレフィンが挙げられる。また、上記官能基としては、カルボキシ基、酸無水物基(-C(=O)OC(=O)-)、エポキシ基、アミノ基、水酸基、メルカプト基、イソシアネート基、オキサゾリン基等が挙げられる。そして、上記官能基を有するビニル重合性化合物としては、酢酸ビニル;(メタ)アクリル酸等のα,β-不飽和カルボン酸;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル等のα,β-不飽和カルボン酸のアルキルエステル;アイオノマー等のα,β-不飽和カルボン酸の金属塩(金属としてはナトリウムなどのアルカリ金属、カルシウムなどのアルカリ土類金属、亜鉛等);グリシジルメタクリレート等のα,β-不飽和カルボン酸のグリシジルエステル等;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等のα,β-不飽和ジカルボン酸;上記α,β-不飽和ジカルボン酸の誘導体(モノエステル、ジエステル、酸無水物)等の1種または2種以上が挙げられる。上述の熱可塑性エラストマーは、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0049】
更に、本実施形態で用いられる樹脂は、上記成分に加えて、さらに用途に応じて、適宜、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリスルフォン樹脂、ポリエーテルスルフォン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリアリーレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ四弗化エチレン樹脂、ポリ二弗化エチレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、液晶ポリマー等の合成樹脂(以下、単に合成樹脂という)を任意成分として配合することができる。本実施形態において上記合成樹脂は必須成分ではないが、配合する場合、その配合の割合は本実施形態の効果を損ねなければ特に限定されるものではなく、また、それぞれの目的に応じて異なり、一概に規定することはできないが、本実施形態に係る樹脂中に配合する合成樹脂の割合として、例えば樹脂100質量部に対し5質量部以上の範囲であり、15質量部以下の範囲の程度が挙げられる。換言すれば、樹脂(A)と合成樹脂との合計に対して樹脂(A)の割合は質量基準で、好ましくは(100/115)以上の範囲であり、より好ましくは(100/105)以上の範囲である。
【0050】
また本実施形態で用いられる樹脂は、その他にも着色剤、帯電防止剤、酸化防止剤、耐熱安定剤、紫外線安定剤、紫外線吸収剤、発泡剤、難燃剤、難燃助剤、防錆剤、およびカップリング剤等の公知慣用の添加剤を必要に応じ、任意成分として含有してもよい。これらの添加剤は必須成分ではなく、例えば、樹脂100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上の範囲であり、好ましくは1000質量部以下の範囲で、本実施形態の効果を損なわないよう目的や用途に応じて適宜調整して用いればよい。
【0051】
本実施形態で用いられる樹脂の製造方法について、以下、詳述する。
【0052】
本実施形態で用いられる樹脂は、各必須成分、および必要に応じてその他の任意成分を配合してなる。本実施形態に用いる樹脂を製造する方法としては、特に限定されないが、必須成分と必要に応じて任意成分を配合して、溶融混錬する方法、より詳しくは、必要に応じてタンブラーまたはヘンシェルミキサー等で均一に乾式混合し、次いで、二軸押出機に投入して溶融混練する方法が挙げられる。
【0053】
溶融混錬は、樹脂温度が樹脂の融点以上となる温度範囲、好ましくは該融点+10℃以上となる温度範囲、より好ましくは該融点+10℃以上、さらに好ましくは該融点+20℃以上から、好ましくは該融点+100℃以下、より好ましくは該融点+50℃以下までの範囲の温度に加熱して行うことができる。
【0054】
上記溶融混練機としては分散性や生産性の観点から二軸混練押出機が好ましく、例えば、樹脂成分の吐出量5~500(kg/hr)の範囲と、スクリュー回転数50~500(rpm)の範囲とを適宜調整しながら溶融混練することが好ましく、それらの比率(吐出量/スクリュー回転数)が0.02~5(kg/hr/rpm)の範囲となる条件下に溶融混練することがさらに好ましい。また、溶融混練機への各成分の添加、混合は同時に行ってもよいし、分割して行っても良い。例えば、上記成分のうち、添加剤を添加する場合は、上記二軸混練押出機のサイドフィーダーから該押出機内に投入することが分散性の観点から好ましい。かかるサイドフィーダーの位置は、上記二軸混練押出機のスクリュー全長に対する、該押出機樹脂投入部(トップフィーダー)から該サイドフィーダーまでの距離の比率が、0.1以上であることが好ましく、0.3以上であることがより好ましい。また、かかる比率は0.9以下であることが好ましく、0.7以下であることがより好ましい。
【0055】
このように溶融混練して得られる本実施形態に係る樹脂は、上記必須成分と、必要に応じて加える任意成分およびそれらの由来成分を含む溶融混合物であり、該溶融混練後に、公知の方法、例えば、溶融状態の樹脂をストランド状に押出成形した後、ペレット、チップ、顆粒、粉末などの形態に加工してから、必要に応じて100~150℃の温度範囲で予備乾燥を施すことが好ましい。
【0056】
本実施形態の成形品は樹脂を成形してなる。また、本実施形態の成形品の製造方法は、上記樹脂を溶融成形する工程を有する。以下、詳述する。
【0057】
本実施形態で用いられる樹脂は、射出成形、ガスインジェクション成形、圧縮成形、コンポジット、シート、パイプなどの押出成形、引抜成形、ブロー成形、トランスファー成形など各種成形に供することが可能であるが、特に離形性にも優れるため射出成形用途に適している。射出成形にて成形する場合、各種成形条件は特に限定されず、通常一般的な方法にて成形することができる。例えば、射出成形機内で、樹脂温度が樹脂の融点以上の温度範囲、好ましくは該融点+10℃以上の温度範囲、より好ましくは融点+10℃~融点+100℃の温度範囲、さらに好ましくは融点+20~融点+50℃の温度範囲で上記樹脂を溶融する工程を経た後、樹脂吐出口よりを金型内に注入して成形すればよい。その際、金型温度も公知の温度範囲、例えば、室温(23℃)~300℃、好ましくは120~180℃に設定すればよい。
【0058】
本開示は上述の実施形態に限定されるものではない。本開示の趣旨を逸脱しない範囲での変更が可能である。
【符号の説明】
【0059】
10 歯車
20 中心部
21 軸穴
22,23 端面
30 外周部
31 歯
32,33 端面
40 接続部
41A,41B,41C,41D,41E,41F,43A,43B,43C,43D,43E,43F 羽根
42A,42B,42C,42D,42E,42F 貫通穴
44 ブリッジ