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特許7495076ポリマー成形体への目的分子の選択的な結合方法、およびそれを用いた目的分子結合型ポリマー成形体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-27
(45)【発行日】2024-06-04
(54)【発明の名称】ポリマー成形体への目的分子の選択的な結合方法、およびそれを用いた目的分子結合型ポリマー成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 7/00 20060101AFI20240528BHJP
【FI】
C08J7/00 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019569644
(86)(22)【出願日】2019-02-05
(86)【国際出願番号】 JP2019004063
(87)【国際公開番号】W WO2019151535
(87)【国際公開日】2019-08-08
【審査請求日】2022-01-13
(31)【優先権主張番号】P 2018018598
(32)【優先日】2018-02-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000100539
【氏名又は名称】アース製薬株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100115255
【弁理士】
【氏名又は名称】辻丸 光一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100154081
【弁理士】
【氏名又は名称】伊佐治 創
(74)【代理人】
【識別番号】100194515
【弁理士】
【氏名又は名称】南野 研人
(72)【発明者】
【氏名】高森 清人
(72)【発明者】
【氏名】大久保 敬
(72)【発明者】
【氏名】淺原 時泰
(72)【発明者】
【氏名】井上 豪
【審査官】山本 晋也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第89/010208(WO,A1)
【文献】特開2000-109584(JP,A)
【文献】特開2016-056363(JP,A)
【文献】特表2007-530715(JP,A)
【文献】国際公開第2018/110710(WO,A1)
【文献】特開平06-340759(JP,A)
【文献】国際公開第2017/104798(WO,A1)
【文献】特開2005-253305(JP,A)
【文献】特開2010-216964(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J
B29C
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素-水素結合を有するポリマーを含むポリマー成形体と、二酸化塩素ラジカルとを含む反応系において、
前記二酸化塩素ラジカルに光照射することにより、前記ポリマー成形体の表面を改変する前処理工程と、
前記前処理後のポリマー成形体に目的分子を接触させることで、前記ポリマー成形体の選択表面に、前記目的分子を結合させる結合工程とを含み、
前記選択表面は、前記ポリマー成形体の露出表面において選択した任意の領域であり、
前記露出表面は、前記ポリマー成形体の外形を形成する表面、または、前記ポリマー成形体の内部において、露出した面であり、
前記前処理工程において、
前記二酸化塩素ラジカルの存在下、前記ポリマー成形体の表面における前記選択表面に対して選択的に光照射することにより、または、前記ポリマー成形体の表面における前記選択表面以外の表面をマスキングした状態で、前記二酸化塩素ラジカルに対して光照射することにより、前記選択表面の前記炭素-水素結合を改変することを特徴とするポリマー成形体への選択的な目的分子の結合方法。
【請求項2】
前記目的分子が、発色分子、蛍光分子、生体由来分子、薬効分子、触媒分子、香料分子、吸着質分子、金属コロイド分子、および金属錯体分子からなる群から選択された少なくとも一つの機能分子である、請求項1記載の結合方法。
【請求項3】
前記結合工程において、前記前処理工程後の前記選択表面に、直接、前記目的分子を結合させる、請求項1または2記載の結合方法。
【請求項4】
前記結合工程において、前記前処理工程後の前記選択表面に、リンカー分子を介して、前記目的分子を結合させる、請求項1または2記載の結合方法。
【請求項5】
前記前処理工程において、前記ポリマー成形体の前記選択表面を酸化し、
前記結合工程において、前記前処理工程後の前記選択表面における酸化部位に、前記目的分子を接触させる、請求項1から4のいずれか一項に記載の結合方法。
【請求項6】
ポリマー成形体に目的分子を結合させる結合工程を含み、
前記結合工程における結合方法が、請求項1から5のいずれか一項に記載の結合方法であることを特徴とする目的分子結合型ポリマー成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマー成形体への目的分子の選択的な結合方法、およびそれを用いた目的分子結合型ポリマー成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
様々な産業において、ポリマーを用いた製品が製造されている。中でも、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、およびポリスチレンは、5大汎用樹脂として、盛んに製造され、成形体の原料として使用されている。そして、ポリマー成形体には、例えば、その用途に応じた所望の機能をさらに付与するために、成形後、その表面への改変処理が試みられている。改変処理によれば、例えば、ポリマーが本来有する耐久性等を維持したまま、接着性の向上、撥水性の制御、化学修飾等が可能になると考えられる。
【0003】
前記改変処理としては、例えば、コロナ放電処理、プラズマ放電処理、グラフト化処理等が知られている。しかしながら、これらの改変処理は、いずれも物理的な処理方法であり、ここ10年あまり、大きな技術の進展はない状態である。
【0004】
他方、化学的な処理方法としては、重金属酸化剤を用いる方法が知られている。しかし、この方法では、大量の重金属酸化剤を使用するため、毒性、処理コスト、環境面等の問題がある。
【0005】
また、これらの方法では、例えば、ポリマー成形体に対して、所望の領域に対する選択的な改変を行うことは困難である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、ポリマー成形体を改変し、目的分子を結合させる新たな方法を提供することを目的とし、より具体的には、前記ポリマー成形体の表面において、選択的に前記目的分子を結合させる新たな方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明のポリマー成形体への選択的な目的分子の結合方法は、
ポリマー成形体と化合物ラジカルとを含む反応系において、前記化合物ラジカルに光照射することにより、前記ポリマー成形体の選択表面を改変する前処理工程と、
前記前処理後のポリマー成形体に目的分子を接触させることで、前記ポリマー成形体の前記選択表面に、前記目的分子を結合させる結合工程とを含み、
前記前処理工程において、
前記化合物ラジカルの存在下、前記ポリマー成形体の表面における選択表面に対して選択的に光照射することにより、または、前記ポリマー成形体の表面における選択表面以外の表面をマスキングした状態で、前記化合物ラジカルに対して光照射することにより、前記選択表面を改変し、前記化合物ラジカルが、15族元素および16族元素からなる群から選択された一つの元素と、17族元素とを含むラジカルであることを特徴とする。
【0008】
本発明の目的分子結合型ポリマー成形体の製造方法は、
ポリマー成形体に目的分子を結合させる結合工程を含み、
前記結合工程における結合方法が、前記本発明の結合方法であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の目的分子の結合方法によれば、まず、前記前処理工程における前記ポリマー成形体の選択的な処理によって、容易に前記ポリマー成形体に選択的な改変を行うことができる。これにより、前記ポリマー成形体の表面のうち前記選択表面を、他の非選択表面とは異なる反応性に改質できる。このため、本発明によれば、前記前処理後のポリマー成形体の表面における前記選択表面と前記非選択表面との反応性の違いを利用して、前記結合工程において、前記選択表面に、前記目的分子を選択的に結合させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、二酸化塩素ラジカル(ClO )に光照射した場合についての、UCAM-B3LYP/6-311+G(d,p) def2TZV計算結果による予測の一例である。
図2図2は、本発明の目的分子の結合方法における前処理工程の一例を模式的に示す図である。
図3図3は、実施例A1のIRの結果を示すグラフである。
図4図4は、実施例A1における二酸化塩素ラジカルの発生を示すEPRの結果を示すグラフである。
図5図5は、実施例B1における前処理工程の状態を模式的に示す断面図である。
図6図6は、実施例B1のIRの結果を示すグラフである。
図7図7は、実施例B2のIRの結果を示すグラフである。
図8図8は、実施例B2のXPSの結果を示すグラフである。
図9図9は、実施例B3のIRの結果を示すグラフである。
図10図10は、実施例B4のIRの結果を示すグラフである。
図11図11は、実施例B5のIRの結果を示すグラフである。
図12図12は、実施例B6のIRの結果を示すグラフである。
図13図13は、実施例1における反応容器とプレートとの概略を示す図面である。
図14図14は、実施例1における着色結果を示す写真である。
図15図15は、実施例2における着色結果を示す写真である。
図16図16は、実施例3における着色結果を示す写真である。
図17図17は、実施例4における着色結果を示す写真である。
図18図18は、実施例5における着色結果を示す写真である。
図19図19は、実施例8における反応系の概略を示す断面図である。
図20図20は、実施例8のXPSの結果を示すグラフである。
図21図21は、実施例9のXPSの結果を示すグラフである。
図22図22は、実施例9のXPSの結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の目的分子の結合方法は、例えば、前記目的分子が、発色分子、蛍光分子、生体由来分子、薬効分子、触媒分子、塗料分子、香料分子、吸着質分子、金属コロイド分子、金属錯体分子、電荷調節分子、および親和性調節分子からなる群から選択された少なくとも一つの機能分子である。
【0012】
本発明の目的分子の結合方法は、例えば、前記生体由来分子が、抗体、成長因子、増殖因子、および接着因子からなる群から選択された少なくとも一つである。
【0013】
本発明の目的分子の結合方法は、例えば、前記結合工程において、前記前処理工程後の前記ポリマー成形体に、直接、前記目的分子を結合させる。
【0014】
本発明の目的分子の結合方法は、例えば、前記結合工程において、前記前処理工程後の前記ポリマー成形体に、リンカー分子を介して、前記目的分子を結合させる。
【0015】
本発明の目的分子の結合方法は、例えば、前記15族元素が、NおよびPの少なくとも一方であり、前記16族元素が、O、S、Se、およびTeからなる群から選択された少なくとも一つであり、前記17族元素が、F、Cl、Br、およびIからなる群から選択された少なくとも一つである。本発明において、15族、16族、および17族は、周期律表の族である。
【0016】
本発明の目的分子の結合方法は、例えば、前記化合物ラジカルが、酸化物ラジカルである。
【0017】
本発明の目的分子の結合方法は、例えば、前記化合物ラジカルが、前記17族元素の酸化物ラジカルである。
【0018】
本発明の目的分子の結合方法は、例えば、前記化合物ラジカルが、二酸化塩素ラジカルである。
【0019】
本発明の目的分子の結合方法は、例えば、前記前処理工程において、前記ポリマー成形体の選択表面を酸化し、前記反応工程において、前記ポリマー成形体における酸化された酸化部位に、前記目的分子を結合させる。
【0020】
本発明の目的分子の結合方法は、例えば、前記ポリマー成形体が、シート、フィルム、プレート、チューブ、パイプ、棒、ビーズ、およびブロックからなる群から選択された少なくとも一つである。
【0021】
本発明の目的分子の結合方法は、例えば、前記ポリマー成形体が、炭素-水素結合を有するポリマーを含む。
【0022】
本発明の目的分子の結合方法は、例えば、前記ポリマーが、ポリオレフィンである。
【0023】
以下、本発明について、例をあげて、さらに具体的に説明する。ただし、本発明は、以下の説明により限定されない。
【0024】
本発明のポリマー成形体への選択的な目的分子の結合方法は、前述のように、ポリマー成形体と化合物ラジカルとを含む反応系において、前記化合物ラジカルに光照射することにより、前記ポリマー成形体の選択表面を改変する前処理工程と、前記前処理後のポリマー成形体に目的分子を接触させることで、前記ポリマー成形体の前記選択表面に、前記目的分子を結合させる結合工程とを含み、前記化合物ラジカルの存在下、前記ポリマー成形体の表面における選択表面に対して選択的に光照射することにより、または、前記ポリマー成形体の表面における選択表面以外の表面をマスキングした状態で、前記化合物ラジカルに対して光照射することにより、前記選択表面を改変し、前記化合物ラジカルが、15族元素および16族元素からなる群から選択された一つの元素と、17族元素とを含むラジカルであることを特徴とする。
【0025】
(1) ポリマー成形体
本発明における処理対象は、前述のように、前記ポリマー成形体である。前記ポリマー成形体は、例えば、ポリマーを成形することにより固体化されたものである。
【0026】
前記ポリマー成形体について、その成形方法、形状等は、何ら制限されない。前記成形方法は、特に制限されず、例えば、圧縮成形、トランスファ成形、押出成形、カレンダー成形、インフレーション成形、ブロー成形、真空成形、射出成形等、公知の方法があげられる。前記ポリマー成形体の形状は、特に制限されず、例えば、シート、フィルム、プレート、チューブ、パイプ、棒、ビーズ、ブロック等があげられる。前記ポリマー成形体は、例えば、非多孔体でもよく、多孔体でもよく、不織布でもよく、織布でもよい。
【0027】
前記前処理工程における前記化合物ラジカル存在下での光照射により、前記ポリマー成形体の選択表面を構成するポリマーが改変できる。前記ポリマーにおいて、前記前処理工程により改変された部位を、以下、「改変部位」ともいい、前記ポリマーにおける改変された部位の基を、以下、「改変官能基」ともいう。
【0028】
前記選択表面を構成するポリマーは、例えば、前記前処理工程によって、側鎖が改変されてもよいし、前記主鎖(直鎖)が改変されてもよい。前記主鎖の改変は、例えば、前記主鎖の末端の改変でもよいし、前記主鎖の内部の改変でもよい。前記改変(変化ともいう)は、例えば、前記側鎖または前記主鎖への、前記化合物ラジカルに由来する15族元素、16族元素、および17族元素等の導入である。このように、前記ポリマー成形体の前記選択表面は、前記側鎖および前記主鎖への前記元素の導入によって、改変される。前記主鎖は、例えば、炭素原子および/またはヘテロ原子の連鎖であり、前記側鎖は、例えば、前記主鎖を構成する炭素原子またはヘテロ原子に連結した、前記主鎖から枝分かれした鎖(分岐鎖)である。
【0029】
前記ポリマー成形体に含まれるポリマーは、特に制限されず、例えば、一種類でもよいし、二種類以上の混合物であってもよい。前記ポリマーは、例えば、ポリマーアロイ、ポリマーコンパウンドでもよい。
【0030】
前記ポリマーは、例えば、ホモポリマーでも、コポリマーでもよい。前記コポリマーの場合、例えば、繰り返し単位(モノマー)は、2種類以上である。
【0031】
前記ポリマーは、例えば、室温以上の融点を有するポリマー、室温以上のガラス転移温度を有する重合体があげられる。前記ポリマーは、例えば、結晶化度が相対的に高いものでもよい。前記ポリマーが前記融点条件の場合、その結晶化度は、例えば、20%以上、30%以上、35%以上である。前記ポリマーは、例えば、加熱による溶融後、形状を整え、冷却するというような、公知の成形方法で成形体を得ることができる。
【0032】
前記ポリマーは、例えば、炭素と水素とを含み、且つ、炭素-水素結合を有するポリマーがあげられる。炭素-水素結合を有するポリマーの場合、本発明の目的分子の結合方法によれば、例えば、前記ポリマー成形体の前記選択表面において、前記ポリマーの前記炭素-水素結合が改変される。前記ポリマーの具体例としては、特に制限されず、例えば、ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリ乳酸、ポリヒドロキシ酪酸、シリコーン系ポリマー、天然ゴム、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ポリカーボネート(PC)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、非晶ポリアリレート等のポリアリレート(PAR)、ポリエーテルスルホン酸(PES)、ポリパラフェニレンビニレン(PPV)、ポリチオフェン(PT)、ポリフルオレン(PF)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、液晶ポリマー(LCP)、ポリパラフェニレン(PPP)、PEDOT/PSS、ポリアニリン/PSS等があげられる。
【0033】
前記ポリオレフィンは、例えば、炭素数2~20のオレフィンの重合体(ポリオレフィン)があげられる。前記ポリオレフィンは、例えば、低密度ポリエチレンおよび高密度ポリエチレン等のポリエチレン(PE)、ならびにポリプロピレン(PP)等があげられる。前記ポリオレフィンは、例えば、共重合体でもよい。
【0034】
前記側鎖が改変されるポリマーとしては、例えば、前記側鎖として、炭化水素基またはその誘導体基を有するポリマーがあげられる。本発明において、「炭化水素基またはその誘導体基を、その側鎖に有するポリマー」を、以下、形式的に「ポリマーA」とも呼ぶ。
【0035】
前記側鎖が改変されるポリマーAの具体例としては、特に制限されず、例えば、前記ポリオレフィン(例えば、低密度ポリエチレンおよび高密度ポリエチレン等のポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP))、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリ乳酸、ポリヒドロキシ酪酸、シリコーン系ポリマー、天然ゴム、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ポリカーボネート(PC)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、非晶ポリアリレート等のポリアリレート(PAR)、ポリエーテルスルホン酸(PES)、ポリパラフェニレンビニレン(PPV)、ポリチオフェン(PT)、ポリフルオレン(PF)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、液晶ポリマー(LCP)、ポリパラフェニレン(PPP)、PEDOT/PSS、ポリアニリン/PSS等があげられる。
【0036】
前記ポリマーAは、例えば、ホモポリマーでも、コポリマーでもよい。ホモポリマーの場合、例えば、直鎖を形成する繰り返し単位(モノマー)は、側鎖を有する。コポリマーの場合、例えば、直鎖を形成する各繰り返し単位(各モノマー)は、例えば、少なくとも1種類のモノマーが側鎖を有してもよいし、2種類以上のモノマーが側鎖を有してもよい。
【0037】
前記ポリマーAの側鎖である前記炭化水素基またはその誘導体基は、特に限定されず、例えば、下記炭化水素またはその誘導体の1価基である。前記炭化水素は、例えば、非芳香族でも芳香族でもよく、飽和でも不飽和でもよい。具体的には、前記炭化水素は、例えば、直鎖状または分枝状の飽和または不飽和の炭化水素(例えば、直鎖状または分枝状のアルカン、直鎖状または分枝状のアルケン、直鎖状または分枝状のアルキン等)でもよい。また、前記炭化水素は、例えば、非芳香族の環状構造を含む、飽和または不飽和の炭化水素(例えば、シクロアルカン、シクロアルケン等)でもよい。また、前記炭化水素は、芳香族炭化水素でもよい。また、前記炭化水素は、その構造中に、例えば、芳香族または非芳香族の環を、それぞれ1または複数有してもよいし、有さなくてもよい。前記炭化水素は、その構造中に、例えば、直鎖状または分枝状の飽和または不飽和炭化水素の炭化水素基を、それぞれ1または複数有してもよいし、有さなくてもよい。前記不飽和炭化水素は、例えば、カルボニル基(-C(=O)-)を有するケトン、エステル、アミド等でもよい。前記炭化水素の炭素数は、特に制限されず、例えば、1~40、1~32、1~24、1~18、1~12、1~6、1~2でもよく、前記炭化水素が、不飽和炭化水素の場合、炭素数は、例えば、2~40、2~32、2~24、2~18、2~12、2~6でもよい。前記炭化水素の具体例としては、例えば、メタン、エタン、プロパン、n-ブタン、2-メチルプロパン、n-ペンタン、n-ヘキサン、エチレン、プロピレン、1,3-ブタジエン、アセチレン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、メチルシクロヘキサン、シクロヘキセン、ベンゼン、トルエン、o-キシレン、m-キシレン、p-キシレン、メシチレン、デュレン、ビフェニル、ナフタレン、1-メチルナフタレン、2-メチルナフタレン、アントラセン、フェナントレン、ピレン、スチレン等があげられる。
【0038】
前記炭化水素の「誘導体」は、例えば、ヘテロ元素(炭素および水素以外の元素)を含む有機化合物である。前記ヘテロ元素は、特に限定されず、例えば、酸素(O)、窒素(N)、硫黄(S)、ハロゲン等があげられる。前記ハロゲンは、例えば、フッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)等があげられる。前記誘導体は、例えば、炭化水素基と、任意の置換基または原子団とが結合した構造の有機化合物でもよい。前記誘導体は、例えば、複数の炭化水素基が任意の原子団により結合された構造の化合物でもよく、さらに、前記炭化水素基が任意の1または複数の置換基により置換されていてもよく、置換されていなくてもよい。前記炭化水素基は、特に限定されず、例えば、前記炭化水素から誘導される1価または2価以上の基があげられる。前記炭化水素基は、例えば、その炭素原子の1または2以上が、ヘテロ原子に置き換わっていてもよい。具体的には、例えば、フェニル基の1つの炭素原子(およびそれに結合した水素原子)が窒素原子に置き換わっていることで、ピリジル基を形成していても良い。また、前記置換基または原子団は、特に限定されず、例えば、ヒドロキシ基、ハロゲン基(フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基等)、アルコキシ基、アリールオキシ基(例えば、フェノキシ基等)、カルボキシ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基(例えば、フェノキシカルボニル基等)、メルカプト基、アルキルチオ基、アリールチオ基(例えば、フェニルチオ基等)、置換基を有するアミノ基または置換基を有さないアミノ基(例えば、アミノ基、アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基等)、エーテル結合(-O-)、エステル結合(-CO-O-)、チオエーテル結合(-S-)等があげられる。
【0039】
つぎに、主鎖の末端が改変されるポリマーとしては、例えば、末端の基として、炭化水素基またはその誘導体基を有するポリマーがあげられる。本発明において、「炭化水素基またはその誘導体基を、その末端に有するポリマー」を、以下、形式的に「ポリマーB」とも呼ぶ。
【0040】
前記ポリマーBは、例えば、ホモポリマーでも、コポリマーでもよい。ホモポリマーの場合、例えば、直鎖を形成する繰り返し単位(モノマー)は、側鎖を有してもよいし、側鎖を有さなくてもよい。コポリマーの場合、例えば、直鎖を形成する各繰り返し単位(各モノマー)は、例えば、側鎖を有してもよいし、側鎖を有さなくてもよく、また、例えば、少なくとも1種類のモノマーが側鎖を有してもよいし、2種類以上のモノマーが側鎖を有してもよい。前記ポリマーBにおいて、前記側鎖は、例えば、前記ポリマーAと同様の側鎖でもよいし、それ以外の側鎖でもよい。
【0041】
前記ポリマーBの末端基である前記炭化水素基またはその誘導体基は、特に制限されず、前記ポリマーAと同様の基が列挙できる。
【0042】
つぎに、前記主鎖の内部が改変されるポリマーとしては、例えば、前記内部に、炭化水素基またはその誘導体基を有するポリマーがあげられる。本発明において、「炭化水素基またはその誘導体基を、その主鎖の内部に有するポリマー」を、以下、形式的に「ポリマーC」とも呼ぶ。
【0043】
前記ポリマーCの具体例としては、例えば、炭素数2~20のオレフィンの重合体(ポリオレフィン)があげられる。前記ポリオレフィンは、例えば、低密度ポリエチレンおよび高密度ポリエチレン等のポリエチレン(PE)、ならびにポリプロピレン(PP)等があげられる。前記ポリオレフィンは、例えば、共重合体でもよい。
【0044】
前記ポリマーCは、例えば、ホモポリマーでも、コポリマーでもよい。ホモポリマーの場合、例えば、直鎖を形成する繰り返し単位(モノマー)は、側鎖を有してもよいし、側鎖を有さなくてもよい。コポリマーの場合、例えば、直鎖を形成する各繰り返し単位(各モノマー)は、例えば、側鎖を有してもよいし、側鎖を有さなくてもよく、また、例えば、少なくとも1種類のモノマーが側鎖を有してもよいし、2種類以上のモノマーが側鎖を有してもよい。前記ポリマーBにおいて、前記側鎖は、例えば、前記ポリマーAと同様の側鎖でもよいし、それ以外の側鎖でもよい。
【0045】
前記ポリマーCの内部の前記炭化水素基またはその誘導体基は、特に制限されず、例えば、炭化水素またはその誘導体の二価基である。前記炭化水素は、例えば、不飽和炭化水素であり、前記ポリマーAにおける記載を援用できる。
【0046】
本発明において、鎖状化合物(例えば、アルカン、不飽和脂肪族炭化水素等)または鎖状化合物から誘導される鎖状置換基(例えば、アルキル基、不飽和脂肪族炭化水素基等の炭化水素基)は、例えば、直鎖状でも分枝状でもよく、その炭素数は、特に限定されず、例えば、1~40、1~32、1~24、1~18、1~12、1~6、または1~2でもよく、不飽和炭化水素基の場合、炭素数は、例えば、2~40、2~32、2~24、2~18、2~12、2~6でもよい。本発明において、環状の化合物(例えば、環状飽和炭化水素、非芳香族環状不飽和炭化水素、芳香族炭化水素、ヘテロ芳香族化合物等)または環状の化合物から誘導される環状の基(例えば、環状飽和炭化水素基、非芳香族環状不飽和炭化水素基、アリール基、ヘテロアリール基等)の環員数(環を構成する原子の数)は、特に限定されず、例えば、5~32、5~24、6~18、6~12、または6~10でもよい。また、置換基等に異性体が存在する場合、例えば、異性体の種類は、特に制限されず、具体例として、単に「ナフチル基」という場合は、例えば、1-ナフチル基でも2-ナフチル基でもよい。
【0047】
また、本発明において、異性体は、特に制限されず、例えば、互変異性体または立体異性体(例えば、幾何異性体、配座異性体および光学異性体等)等である。また、本発明において、塩とは、特に制限されず、例えば、酸付加塩でも、塩基付加塩でもよい。前記酸付加塩を形成する酸は、例えば、無機酸でも有機酸でもよく、前記塩基付加塩を形成する塩基は、例えば、無機塩基でも有機塩基でもよい。前記無機酸は、特に限定されず、例えば、硫酸、リン酸、フッ化水素酸、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、次亜フッ素酸、次亜塩素酸、次亜臭素酸、次亜ヨウ素酸、亜フッ素酸、亜塩素酸、亜臭素酸、亜ヨウ素酸、フッ素酸、塩素酸、臭素酸、ヨウ素酸、過フッ素酸、過塩素酸、過臭素酸、および過ヨウ素酸等があげられる。前記有機酸は、特に限定されず、例えば、p-トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、シュウ酸、p-ブロモベンゼンスルホン酸、炭酸、コハク酸、クエン酸、安息香酸および酢酸等があげられる。前記無機塩基は、特に限定されず、例えば、水酸化アンモニウム、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、炭酸塩および炭酸水素塩等があげられ、より具体的には、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、水酸化カルシウムおよび炭酸カルシウム等があげられる。前記有機塩基は、特に限定されず、例えば、エタノールアミン、トリエチルアミンおよびトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン等があげられる。
【0048】
本発明において、前記ポリマーは、例えば、前記ポリマーA、ポリマーBおよびポリマーCのいずれか一種類のみを含んでもよいし、二種類以上を含んでもよいし、三種類全てを含んでもよい。また、前記ポリマーとして、例えば、前記ポリマーA、前記ポリマーBおよび前記ポリマーCのうち少なくとも一種類とその他のポリマーとを含んでもよい。前記その他のポリマーは、何ら制限されない。
【0049】
(2)化合物ラジカル
前記化合物ラジカルは、前述のように、15族元素および16族元素の少なくとも一方と、17族元素とを含むラジカルである。本発明において、前記化合物ラジカルは、例えば、いずれか一種類を使用してもよいし、二種類以上を併用してもよい。本発明において、前記化合物ラジカルは、例えば、前記ポリマー成形体におけるポリマーの種類、反応条件等に応じて、適宜選択できる。
【0050】
前記15族元素は、例えば、N、またはPであり、前記16族元素は、例えば、O、S、Se、またはTeであり、前記17族元素は、例えば、ハロゲンであり、F、Cl、Br、またはIがあげられる。前記15族元素と前記16族元素の中では、例えば、前記16族元素が好ましく、前記16族元素の中では、例えば、酸素、硫黄が好ましい。前記化合物ラジカルは、前記16族元素として酸素を含む酸化物ラジカルが好ましく、具体的には、ハロゲンの酸化物ラジカルが好ましい。前記ハロゲンの酸化物ラジカルは、例えば、F(二フッ化酸素ラジカル)、F (二フッ化二酸素ラジカル)、ClO (二酸化塩素ラジカル)、BrO (二酸化臭素ラジカル)、I5 (酸化ヨウ素(V))等があげられる。これらの中でも、コスト、取扱い易さ、反応性、安全性等の観点から、二酸化塩素ラジカルが好ましい。前記化合物ラジカルは、例えば、後述するように、前記化合物ラジカルの発生源(ラジカル生成源)から生成させてもよい。
【0051】
前記前処理工程において、酸素原子(O)を含む前記化合物ラジカル(前記酸化物ラジカル)を使用した場合、前記ポリマー成形体の前記選択表面において、前記ポリマーは、酸素原子の導入により酸化される。具体例として、前記ポリマーが前記炭素-水素結合を有する場合、例えば、前記炭素-水素結合に酸素原子が導入される。また、硫黄原子(S)を含む前記化合物ラジカル(硫化物ラジカル)を使用した場合、前記ポリマー成形体の前記選択表面において、前記ポリマーは、硫黄原子の導入により硫化される。また、ハロゲンを含む前記化合物ラジカルを使用した場合、前記ポリマー成形体の前記選択表面において、前記ポリマーは、ハロゲン原子の導入によりハロゲン化される。ハロゲン原子と酸素原子とを含む前記ハロゲンの酸化物ラジカルを使用した場合、前記ポリマー成形体の前記選択表面において、前記ポリマーは、ハロゲン原子の導入によりハロゲン化され、且つ、酸素原子の導入により酸化される。
【0052】
本発明における前処理工程は、例えば、前記ポリマー成形体と前記化合物ラジカルとを含む反応系を用いて行える。前記化合物ラジカルは、例えば、前記反応系において生成させてもよいし、別途生成させた前記化合物ラジカルを、前記反応系に導入してもよい。前記前処理工程に使用する前記化合物ラジカルの生成方法は、特に制限されない。前記化合物ラジカルの生成に関しては、後述する。
【0053】
(3)前処理工程の反応系
前記前処理工程において、前記化合物ハロゲンを含む反応系は、例えば、気相を含む気体反応系でもよいし、液相を含む液体反応系でもよい。前記ポリマー成形体は、前記反応系中に配置される。前記反応系中において、前記ポリマー成形体は、例えば、処理の効率の点から、前記反応系中に固定することが好ましい。
【0054】
(3-1)気体反応系
前記反応系が前記気体反応系の場合、例えば、前記気相が前記化合物ラジカルを含んでいればよい。前記気相の種類は、特に制限されず、空気、窒素、希ガス、酸素等である。
【0055】
本発明において、前記化合物ラジカルは、例えば、前記気体反応系に対して、前記前処理工程前に導入してもよいし、前記前処理工程と同時に導入してもよい。前記気体反応系への前記化合物ラジカルの導入は、例えば、前記化合物ラジカルを含むガスを、前記気相に導入することによって行うことができる。また、前記気体反応系への前記化合物ラジカルの導入は、例えば、後述するように、液相のラジカル生成用反応系で発生させた前記化合物ラジカルを、前記気相に移行させることで導入してもよい。
【0056】
具体例として、前記化合物ラジカルが前記二酸化塩素ラジカルの場合、例えば、前記気相に、二酸化塩素ガスを導入することによって、前記気相中に前記二酸化塩素ラジカルを存在させることができる。また、前記二酸化塩素ラジカルは、例えば、電気化学的方法により、前記気相中に発生させることもできる。
【0057】
また、前記気相は、前記原料(炭化水素またはその誘導体)および前記化合物ラジカル以外の他の成分を含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。前記他の成分としては、特に限定されず、例えば、酸素(O)等が挙げられる。
【0058】
前記化合物ラジカルは、例えば、後述する化合物ラジカル生成工程において、前記化合物ラジカルの発生源から生成させ、前記気相に導入してもよい。
【0059】
(3-2)液体反応系
前記反応系が液体反応系の場合、例えば、前記液相が前記化合物ラジカルを含んでいればよい。前記液相は、例えば、有機溶媒の相(有機相)を含む。前記液体反応系は、例えば、前記有機相のみを含む一相反応系でもよいし、前記有機相と水相とを含む二相反応系でもよい。また、前記有機相は、例えば、1相でもよいし、2相以上でもよい。
【0060】
前記有機溶媒は、特に限定されない。前記有機溶媒は、例えば、1種類のみ用いてもよいし、複数種類を併用してもよい。前記有機溶媒は、例えば、炭化水素溶媒、ハロゲン化溶媒、フルオラス溶媒等があげられる。前記液体反応系が前記二相反応系の場合、前記有機溶媒は、例えば、前記二相系を形成し得る溶媒、すなわち、前記水相を構成する後述する水性溶媒と分離する溶媒、前記水性溶媒に難溶性または非溶性の溶媒が好ましい。
【0061】
前記炭化水素溶媒は、特に限定されず、例えば、芳香族系が好ましく、具体例としては、例えば、n-ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、o-キシレン、m-キシレン、p-キシレン等があげられる。前記炭化水素溶媒は、例えば、芳香族系の炭化水素溶媒が好ましい。
【0062】
「ハロゲン化溶媒」は、例えば、炭化水素の水素原子の全てまたは大部分が、ハロゲンに置換された溶媒をいう。前記ハロゲン化溶媒は、例えば、炭化水素の水素原子数の50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、または90%以上が、ハロゲンに置換された溶媒でもよい。前記ハロゲン化溶媒は、特に限定されず、例えば、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、四臭化炭素、および後述するフルオラス溶媒等があげられる。
【0063】
「フルオラス溶媒」は、前記ハロゲン化溶媒の1種であり、例えば、炭化水素の水素原子の全てまたは大部分がフッ素原子に置換された溶媒をいう。前記フルオラス溶媒は、例えば、炭化水素の水素原子数の50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、または90%以上がフッ素原子に置換された溶媒でもよい。前記フルオラス溶媒は、水と混和しにくいため、例えば、前記二相反応系の形成に適している。本発明において、前記フルオラス溶媒は、例えば、それ自体の反応性が低いため、前記前処理工程における副反応を、より抑制または防止できる。また、前記前処理工程の液体反応系として、例えば、後述する前記化合物ラジカルの生成用反応系をそのまま使用する場合、前記化合物ラジカルの生成における副反応を抑制できる。前記副反応は、例えば、前記溶媒の酸化反応、前記ラジカルによる前記溶媒の水素引き抜き反応またはハロゲン化反応(例えば、塩素化反応)、および、前記原料化合物由来のラジカルと前記溶媒との反応等があげられる。
【0064】
前記フルオラス溶媒の例は、例えば、下記化学式(F1)~(F6)で表される溶媒等があげられ、中でも、例えば、下記式(F1)におけるn=4のパーフルオロヘキサンCF(CFCF等が好ましい。
【0065】
【化F1】
【0066】
【化F2】
【0067】
【化F3】
【0068】
【化F4】
【0069】
【化F5】
【0070】
【化F6】
【0071】
前記有機溶媒の沸点は、特に限定されない。前記有機溶媒は、例えば、前記前処理工程の温度条件によって、適宜選択可能である。前記前処理工程において、例えば、反応温度を高温に設定する場合、前記有機溶媒として、高沸点溶媒を選択できる。本発明における前記前処理工程は、例えば、後述するように、加熱が必須ではなく、例えば、常温常圧で行なうことができる。そのような場合、前記有機溶媒は、例えば、高沸点溶媒である必要はなく、取扱い易さの観点から、沸点があまり高くない溶媒が使用できる。
【0072】
前記有機相は、例えば、前記化合物ラジカルおよび前記有機溶媒のみを含んでもよいし、さらに、他の成分を含んでもよい。前記他の成分は、特に限定されず、例えば、後述するようなブレーンステッド酸、ルイス酸、および酸素(O)等があげられる。前記有機相において、前記他の成分は、例えば、前記有機溶媒に溶解した状態でもよいし、溶解していない状態でもよい。後者の場合、前記他の成分は、例えば、前記有機溶媒に、分散された状態でもよいし、沈殿した状態でもよい。
【0073】
前記有機相は、前述のように、前記化合物ラジカルを含む。前記化合物ラジカルは、例えば、前記有機相において生成させることで含ませてもよいし、前記有機相以外で生成させ、前記有機相により抽出することによって、前記有機相に含ませることもできる。すなわち、後者において、前記液体反応系が有機相のみを含む一相反応系の場合、例えば、前記液体反応系である前記有機相以外で、別途、前記化合物ラジカルを生成させ、生成した前記化合物ラジカルを前記有機相により抽出し、抽出した前記化合物ラジカルを含む前記有機相を、前記反応系として、前記前処理工程に供することができる。前記化合物ラジカルの生成は、例えば、後述するように、別途準備した水相中で行うことができる。他方、前記液体反応系が、前記有機相と前記水相とを含む二相系反応系の場合、例えば、前記水相において、前記化合物ラジカルを生成させ、生成した化合物ラジカルを、前記有機相において前記水相から抽出し、前記水相と前記化合物ラジカルを含む有機相とを、前記二相反応系として、前記前処理工程に供することもできる。
【0074】
前記水相は、例えば、水性溶媒の相である。前記水性溶媒は、例えば、前記有機相で使用する溶媒と分離する溶媒である。前記水性溶媒は、例えば、HO、DO等の水があげられる。
【0075】
前記水相は、例えば、後述するように、ルイス酸、ブレーンステッド酸、ラジカル発生源等の任意の成分を含んでもよい。前記水相において、これらの任意の成分は、例えば、前記水性溶媒に溶解した状態でもよいし、溶解していない状態でもよい。後者の場合、前記任意の成分は、例えば、前記水性溶媒に、分散された状態でもよいし、沈殿した状態でもよい。
【0076】
(4)目的分子
前記結合工程において、前記前処理後のポリマー成形体に結合させる目的分子は、特に制限されない。本発明では、前述のように、前記前処理工程により、前記ポリマー成形体の表面における選択表面を、他の非選択表面とは異なる反応性に改質でき、その反応性の違いを利用することによって、前記結合工程において、前記選択表面に、前記目的分子を選択的に結合させることができる。このように、本発明は、前記前処理工程において選択的な改変を行うことが特徴であるため、改変した前記選択表面に結合させる目的分子は、特に制限されない。前記目的分子は、目的物質ともいう。
【0077】
前記目的分子は、例えば、何かしらの機能を示す機能分子でもよいし、機能を有さない分子でもよいし、機能が不明な分子でもよい。前記機能分子は、例えば、発色分子、蛍光分子、生体由来分子、薬効分子、触媒分子、塗料分子、香料分子、吸着質分子、金属コロイド分子、金属錯体分子、電荷調節分子、親和性調節分子等があげられる。前記発色分子は、例えば、染料、色素等であり、具体例として、トルイジンブルー、ローダミンB、ブリリアントグリーン、クリスタルバイオレット、ローダミン6G、メチルオレンジ、メチルレッド等があげられる。前記蛍光分子は、例えば、NBD-PZ(4-Nitro-7-piperazino benzofurazan)、FITC、ピレン等があげられる。前記生体由来分子は、例えば、生体に存在する分子およびその類縁体等であり、具体例として、抗体、成長因子、増殖因子、接着因子等があげられる。また、前記薬効分子は、薬効を示す分子であればよく、特に制限されず、例えば、医薬品における有効成分等があげられる。前記電荷調節分子は、例えば、プラス電荷に富むプラス電荷分子、マイナス電荷に富むマイナス電荷分子等があげられ、前記プラス電荷分子としては、具体例として、ポリリジン等のカチオン性ポリマー分子等が例示できる。前記親和性調節分子は、例えば、親水性分子、疎水性分子等があげられ、前記親水性分子は、例えば、親水性ポリマー等が例示できる。
【0078】
また、前記結合工程における前記目的分子は、例えば、さらなる目的分子に対して結合反応性を示す分子でもよい。この場合、例えば、前者の目的分子を、第1目的分子といい、後者のさらなる目的分子を、第2目的分子ともいう。この形態においては、例えば、前記ポリマー成形体に前記第2目的分子を結合させる場合、まず、前記ポリマー成形体の改変された前記選択表面に対して、前記第1目的分子を結合させ、さらに、前記選択表面に結合した前記第1目的分子に前記第2目的分子を接触させることにより、前記選択表面に、前記第1目的分子を介して前記第2目的分子を結合させることができる。前記選択表面における改変された部位の基(改変官能基)に対して、前記第2目的分子よりも前記第1目的分子の方が結合反応性に優れる場合等、例えば、このように、前記選択表面に前記第1目的分子を結合させた後、さらに前記第2目的分子を結合させることが好ましい。前記第1目的分子と前記第2目的分子とは、例えば、結合反応性を有する組み合わせであればよい。
【0079】
前記第1目的分子と前記第2目的分子との組み合わせは、特に制限されない。前記第1目的分子は、例えば、前記改変官能基の種類および前記第2目的分子の種類に応じて、要否を決定でき、また、その種類も、前記改変官能基の種類および前記第2目的分子の種類に応じて、適宜設定できる。前記第2目的分子が、例えば、アミノ酸、ペプチド、またはタンパク質の場合、前記第1目的分子により導入される官能基は、例えば、エポキシドおよびイミド等が例示でき、前記官能基の導入に使用される前記第2分子は、例えば、エポキシドについてはエピクロロヒドリン等、イミドについては、N-ヒドロキシこはく酸イミド(NHS)等が例示できる。
【0080】
つぎに、本発明の各工程について説明する。以下、前記目的分子として、前記機能分子を例として説明するが、これには制限されない。前記機能分子としての記載は、前記目的分子と読み替え可能である。
【0081】
(5) 前処理工程
本発明における前記前処理工程は、前記ポリマー成形体と前記化合物ラジカルとを含む反応系において、前記化合物ラジカルに光照射することにより、前記ポリマー成形体の表面を改変する前処理工程であり、具体的には、以下の第1形態または第2形態があげられる。前記前処理工程の第1形態は、前記化合物ラジカルの存在下、前記ポリマー成形体の表面における選択表面に対して選択的に光照射することにより、前記選択表面を改変する形態であり、第2形態は、前記ポリマー成形体の表面における選択表面以外の表面をマスキングした状態で、前記化合物ラジカルに対して光照射することにより、前記選択表面を改変する形態である。
【0082】
前記前処理工程によって、前記ポリマー成形体の前記選択表面のポリマーを、選択的に改変できる。前記前処理工程では、例えば、前記化合物ラジカルの量、光照射の時間等の調整により、前記ポリマーの改変の程度を調整できる。このため、例えば、過剰な酸化等が原因となる前記ポリマーの分解も、防止でき、例えば、前記ポリマーが本来有する特性を損なうことも回避できる。
【0083】
前記化合物ラジカルの存在下で、光照射を行うと、前記化合物ラジカルからの反応性物質の生成により、ポリマーが改変されると考えられる。ここで、まず、前記化合物ラジカル存在下での光照射によって前記ポリマーが改変される原理について、以下に説明する。前記化合物ラジカル存在下で光照射すると、光照射された前記化合物ラジカルは、例えば、図1のようになると予測される。図1は、前記化合物ラジカルの一例として、前記酸化物ラジカルである二酸化塩素ラジカル(ClO )を示す。図1は、UCAM-B3LYP/6-311+G(d,p) def2TZVによる計算結果である。図1において、左側は、光照射前の二酸化塩素ラジカル(ClO )分子の状態を表し、右側は、光照射後の状態を表す。図1に示すとおり、光照射前は、塩素原子Clに2つの酸素原子Oがそれぞれ結合し、Cl-Oの結合長は、1.502Å(0.1502nm)である。これに対し、光照射後は、一方の酸素原子Oのみが、塩素原子Clに結合し、Cl-Oの結合長は、2.516Å(0.2516nm)となり、他方の酸素原子は、前記一方の酸素原子に結合した状態となる。これにより、Cl-O結合が切断されて、塩素ラジカル(Cl)および酸素分子(O)が発生すると考えられる。そして、前記ポリマーに対して、前記塩素ラジカルは、水素引き抜き剤として働き、前記酸素分子は、酸化剤として働く。具体的に、前記塩素ラジカルは、例えば、前記ポリマーの末端、側鎖または主鎖の内部から水素を引き抜いて、前記ポリマー由来のラジカルを発生させ、さらに、前記酸素分子が、前記ポリマー由来のラジカルを酸化して、前記末端、側鎖または主鎖の内部を酸化すると考えられる。図1は、計算結果による予測の一例であり、本発明を何ら限定しない。
【0084】
前記ポリマーの側鎖がアルキル基(R)の場合、前記側鎖のアルキル基の末端の炭素は、酸化により、例えば、ヒドロキシメチル基(-CHOH)、ホルミル基(-CHO)、およびカルボキシル基(-COOH)のいずれかとなる。
【0085】
具体例として、前記ポリマーの側鎖がメチル基の場合、メチル基(-CH)は、例えば、ヒドロキシメチル基(-CHOH)、ホルミル基(-CHO)、およびカルボキシル基(-COOH)の少なくともいずれかに酸化される。これは、以下のメカニズムが推測される。すなわち、光照射によって、前記化合物ラジカル(例えば、二酸化塩素ラジカル)から、前記17族元素のラジカル(例えば、塩素ラジカル(Cl))と、前記15族元素または前記16族元素の分子(例えば、酸素分子O)が発生する。そして、前記ポリマーのメチル基(-CH)は、前記17族元素のラジカル(例えば、塩素ラジカル(Cl))が水素引き抜き剤として働きメチルラジカル(-CH )となり、つぎに、前記15族元素または前記16族元素の分子(例えば、酸素分子O)が酸化剤として働きヒドロキシメチル基(-CHOH)となる。また、ヒドロキシメチル基(-CHOH)は、さらなる酸化で、ホルミル基(-CHO)、またはカルボキシル基(-COOH)になる。前記ポリマーがポリプロピレン(PP)の場合、例えば、下記式のような酸化が可能である。
【0086】
【化1】
【0087】
前記前処理工程において、前記ポリマーの側鎖がエチル基の場合、エチル基(-CHCH)は、例えば、ヒドロキシエチル基(-CHCHOH)、アセトアルデヒド基(-CHCHO)、カルボキシメチル基(-CHCOOH)、アセチル基(-COCH)に酸化される。
【0088】
前記前処理工程において、光照射の条件は、特に制限されない。照射光の波長は、特に限定されず、下限は、例えば、200nm以上であり、上限は、例えば、800nm以下であり、光照射時間は、特に限定されず、下限は、例えば、1分以上であり、上限は、例えば、1000時間であり、反応温度は、特に限定されず、下限は、例えば、0℃以上であり、上限は、例えば、100℃以下、40℃以下であり、範囲は、例えば、0~100℃、0~40℃である。反応時の雰囲気圧は、特に限定されず、下限は、例えば、0.1MPa以上であり、上限は、例えば、100MPa以下、10MPa以下、0.5MPa以下、であり、範囲は、例えば、0.1~100MPa、0.1~10MPa、0.1~0.5MPaである。前記前処理工程の反応条件としては、例えば、温度0~40℃、圧力0.1~0.5MPaが例示できる。本発明によれば、例えば、加熱、加圧、減圧等を行うことなく、常温(室温)および常圧(大気圧)下で、前記前処理工程またはそれを含めた全ての工程を行なうこともできる。「室温」とは、特に限定されず、例えば、5~35℃である。このため、前記ポリマーが、例えば、耐熱性が低いポリマーを含んでいても、適用可能である。また、本発明によれば、例えば、不活性ガス置換等を行うことなく、大気中で、前記反応工程またはそれを含めた全ての工程を行なうこともできる。
【0089】
前記光照射の光源は、特に限定されず、例えば、太陽光等の自然光に含まれる可視光が利用できる。前記自然光を利用すれば、例えば、励起を簡便に行うことができる。また、前記光源として、例えば、前記自然光に代えて、または前記自然光に加え、キセノンランプ、ハロゲンランプ、蛍光灯、水銀ランプ等の光源を使用することもできる。前記光照射においては、例えば、さらに、必要波長以外の波長をカットするフィルターを適宜用いてもよい。
【0090】
前記反応系は、例えば、前記液体反応系でもよいし、前記気体反応系でもよい。前記反応系が前記液体反応系の場合、例えば、前記化合物ラジカルを含む前記液体反応系中に前記ポリマー成形体を浸漬させ、前述のように、選択的に光照射する。
【0091】
前記液体反応系は、前述のように、例えば、前記有機相のみからなる一相反応系でもよいし、前記有機相と前記水相とを含む二相反応系でもよい。前者の場合、例えば、前記有機相に光照射し、後者の場合、例えば、前記有機相のみに光照射してもよいし、前記有機相と前記水相の両方に光照射してもよい。
【0092】
前記反応系が前記液体反応系の場合、光照射は、例えば、前記液体反応系に酸素が溶解した状態で行うことが好ましい。前記液体反応系が前記一相系の場合、例えば、前記有機相に酸素が溶解しており、前記液体反応系が前記二相系の場合、例えば、前記有機相および前記水相の少なくとも一方に酸素が溶解しており、好ましくは、前記水相に酸素が溶解している。前記条件での光照射としては、具体例として、例えば、前記液体反応系を空気または酸素ガスに接触させながら光照射する方法、前記液体反応系に空気または酸素ガスを導入しながら光照射する方法等があげられる。前者の方法は、例えば、前述のように前記液体反応系を撹拌することによって、行うことができる。後者の方法は、例えば、前記液体反応系にチューブ等の先端を差し込み、前記チューブを介して、空気または酸素を送り込むこと等によって、行うことができる。前記液体反応系が酸素を含むことにより、例えば、前記ポリマーの改変をさらに促進できる。
【0093】
前記反応系は、例えば、前記容器中に収容されている。前記容器の形状および材質は、特に制限されない。前記前処理工程において、前記容器の外から光照射を行う場合、前記容器は、例えば、光透過性部材、透明性部材で形成されていることが好ましい。前記部材は、例えば、ガラス、樹脂等があげられる。
【0094】
前記容器は、例えば、1つのチャンバでもよいし、2つ以上のチャンバを有してもよい。後者の場合、例えば、チャンバ間は連通しており、一方のチャンバを、前記化合物ラジカルを生成するチャンバとし、他方のチャンバを、前記前処理工程を施すチャンバとしてもよい。前記反応系が前記気体反応系の場合、例えば、一方のチャンバにおいて、後述するように化合物ラジカルを生成させ、生成した化合物ラジカルを他方のチャンバに導出し、前記他方のチャンバにおいて、前記前処理工程を前記ポリマー成形体に施してもよい。また、前記一方のチャンバにおいて、前記化合物ラジカルを生成させ、さらに、光照射によって、前記化合物ラジカルから前記反応性物質を生成させ、生成した前記反応性物質を他方のチャンバに導出し、前記他方のチャンバにおいて、前記ポリマー成形体の改質を行ってもよい。
【0095】
本発明の前記前処理工程において、前記ポリマー成形体の表面は、前記ポリマー成形体における露出した表面であり、前記選択表面は、前記ポリマー成形体の露出表面において選択した任意の領域である。なお、ここで露出表面とは、マスキングを行っていない状態における、前記ポリマー成形体の露出表面である。具体例として、前記ポリマー成形体の露出表面は、例えば、前記ポリマー成形体の外形を形成する表面(つまり、前記ポリマー成形体の外部に対して露出した表面)でもよいし、前記ポリマー成形体の内部において、露出した面(つまり、前記ポリマー成形体の内部空間を形成する表面であって、前記ポリマー成形体の外部と連通する表面)でもよい。後者としては、例えば、前記多孔質体における内部の空隙を形成する表面、チューブ、パイプ等の中空を形成する表面等である。後述するように、前記ポリマー成形体に対してマスキングを行った上で、光照射を行う場合は、前記ポリマー成形体の露出表面における前記選択表面を除く領域に、前記マスキングを行い、光照射が行われる。
【0096】
つぎに、前記前処理工程の第1形態について、説明する。前記第1形態は、前述のように、前記ポリマー成形体の表面における選択表面に対して選択的に光照射することにより、前記選択表面を改変する形態である。前記第1形態は、例えば、後述する第2形態と異なり、前記ポリマー成形体の表面に対するマスキングの有無にかかわらず、前記選択表面に対する選択的な改変を行うことができる。
【0097】
前述のように、前記化合物ラジカルに対する光照射によって前記反応性物質(例えば、前記水素引き抜き剤および前記酸化剤)が発生して、前記ポリマーが改変すると考えられる。このため、例えば、前記ポリマー成形体の表面における選択表面に対してのみ、選択的に、前記反応性物質が接触するような状態となるように、光照射を行うことで、前記ポリマー成形体の表面におけるマスキングの有無にかかわらず、前記ポリマー成形体の選択表面を、選択的に改質することが可能である。
【0098】
前記第1形態においては、選択的な光照射として、例えば、ピンポイントでの光照射が可能な、YAGレーザー光、Tiサファイアレーザー(フェムト秒レーザー)、窒素レーザー、エキシマーレーザー、LEDレーザー等の手段を使用することが好ましい。
【0099】
また、前記第1形態は、例えば、光源の光照射面に対するマスキングを行った状態で、光照射を行ってもよい。この場合、例えば、前記ポリマー成形体の選択表面の形状に対応するように、前記光源の光照射面に対して、所望の形状の光照射となるようなマスキングを行い、光照射を行えばよい。具体的に、例えば、前記ポリマー成形体の表面において、星形の選択表面の改質を行うと想定した場合、前記光源の光照射面に対して、星形の空洞を有するマスキング部材を配置し、前記ポリマー成形体に光照射を行う。これによって、前記ポリマー成形体の表面において、星型の光照射が施されるため、光照射された選択表面が、選択的に改質される。前記マスキング部材は、例えば、前記光源の光照射面に直接配置してもよいし、前記光源の光照射面と、前記容器との間に配置してもよい。また、前記容器の壁面において、例えば、前記選択表面の形状に対応する領域は、光透過性部材で形成され、それ以外の領域にマスキング部材が配置されたり、それ以外の領域が光非透過性部材で形成されてもよい。
【0100】
つぎに、前記前処理工程の第2形態について、説明する。前記第2形態は、前述のように、前記ポリマー成形体の表面における選択表面以外の表面をマスキングした状態で、前記化合物ラジカルに対して光照射することにより、前記選択表面を改変する形態である。前記第2形態は、前記ポリマー成形体の露出表面に対してマスキングを行うことによって、前記化合物ラジカルへの光照射によって生成する反応性物質(例えば、前記水素引き抜き剤および前記酸化剤)を、マスキングされていない前記選択表面のみに接触させることができる。これにより、前記選択表面を選択的に改変することができる。
【0101】
前記第2形態は、前記ポリマー成形体の選択表面以外の表面をマスキングしていればよく、光照射の方法は、特に制限されない。ここで、前記ポリマー成形体の露出表面において、前記マスキングを行う領域は、例えば、前記露出表面のうち、前記選択表面を除く全領域でもよいし、前記選択表面を除く任意の領域でもよい。前記第2形態は、前記露出表面のうち、前記選択表面を除く全領域をマスキングすることが好ましいが、前記露出表面のうち、例えば、マスキングがなくても光照射が到達しない領域や、光照射によって前記化合物ラジカルから生成する前記反応性物質が接触しない領域については、マスキングを行わなくてもよい。
【0102】
前記第2形態において、前記光照射は、前記反応系に含まれる前記化合物ラジカルに対して行われればよく、例えば、前記光照射は、前記選択表面に到達してもよいし、到達しなくてもよい。すなわち、前者の場合(すなわち、前記光照射が前記選択表面に到達される場合)、前記選択表面に光照射され、且つ、前記選択表面において、前記光照射によって前記化合物ラジカルから反応性物質が生成され、前記選択表面を改質できる。また、後者の場合であっても、前記光照射は前記選択表面に到達しないが、前記光照射によって前記化合物ラジカルから反応性物質が生成され、これが前記選択表面に接触することで、前記選択表面を改質できる。
【0103】
前記マスキングに使用するマスキング部材は、特に制限されない。前記マスキング部材としては、前者の形態の場合、例えば、光源から照射される光が、前記非選択表面に到達するのを妨げることができるものが好ましい。前記マスキング部材は、例えば、遮光部材があげられ、具体例として、例えば、光を反射する部材、光を吸収する部材等があげられる。また、前記マスキング部材としては、後者の形態の場合、例えば、前記化合物ラジカルから光照射によって生成される反応性物質と、前記ポリマー成形体の選択表面との反応を防ぐことができるものが好ましい。前記マスキング剤は、例えば、前記ポリマー成形体の選択表面が、前記反応性物質に接触しないように、物理的に接触を防ぐ部材であればよく、前記ポリマー成形体の表面に配置できる一般的なマスキング部材があげられる。前記マスキング部材は、例えば、前記ポリマー成形体に直接固定化することでマスキングすることが好ましい。
【0104】
前記第2形態において、前記反応系が前記液体反応系の場合、例えば、前記ポリマー成形体の非選択表面に前記マスキング部材を固定化した状態で、前記ポリマー成形体を、容器内の前記液体反応系中に浸漬させ、光照射を行うことができる。また、例えば、前記ポリマー成形体を、容器内の前記液体反応系中に浸漬させ、光源と前記容器との間に前記マスキング部材を配置し、光照射を行うことができる。
【0105】
前記反応系が前記気体反応系の場合、例えば、前記容器として、前述のような、2つの連通するチャンバを有する容器を使用することが好ましい。この場合、一方のチャンバに、後述する前記化合物ラジカルを生成するラジカル生成用反応系(液体反応系)を入れ、他方のチャンバに、マスキングした前記ポリマー成形体をいれておく。前記両チャンバは、例えば、前記ラジカル生成用反応系よりも上の部分で、両者間を気体が通過するように連通している。つぎに、前記一方のチャンバにおいて、前記ラジカル生成用反応系により前記化合物ラジカルを生成させ、前記ラジカル生成用反応系の上部の気相に、前記化合物ラジカルを移動させる。そして、この一方のチャンバにおける上記の気相に光照射することで、前記化合物ラジカルから前記反応性物質を生成させる。前記容器は、前述のように連通していることから、前記一方のチャンバで発生した前記反応性物質は、連通する他方のチャンバに移動する。前記他方のチャンバに配置されている前記ポリマー成形体は、マスキングされていることから、前記反応性物質は、前記ポリマー成形体のマスキングされていない前記選択表面のみと接触する。これにより、前記ポリマー成形体の前記選択表面が改質できる。この形態によれば、前記他方のチャンバにおいて、前記ポリマー成形体は、例えば、液体に浸漬することなく改質を行える。このため、前記前処理後の前記ポリマー成形体を、例えば、拭いたり、乾燥させる等の処理を行うことなく、続く、前記結合工程に供することができる。
【0106】
前記前処理工程によれば、前記化合物ラジカルの存在下での光照射という極めて簡便な方法で、前記17族元素のラジカル(例えば、塩素原子ラジカルCl)および前記15族元素または前記16族元素の分子(例えば、酸素分子O)を発生させ、前記ポリマーに対する反応(例えば、酸化反応)を行い、選択的な前記ポリマーの改変を行える。そして、例えば、常温および常圧等の極めて温和な条件下でも、そのような簡便な方法で、前記選択表面のポリマーを効率よく改変できる。
【0107】
前記前処理工程によれば、例えば、有毒な重金属触媒等を用いずに、前記ポリマー成形体の前記選択表面におけるポリマーの改変を行うことができる。このため、前述のように、例えば、極めて温和な条件下で反応が行えることと併せ、環境への負荷がきわめて小さい方法で、前記ポリマーを効率よく改変できる。
【0108】
ポリマーの酸化方法として、従来、パーオキサイドを用いて、PEやPP等のポリマーに対して、マレイン酸またはアクリル酸等の化合物を付加する方法が知られている。しかしながら、これらの化合物は、PE、PPの架橋反応や分解反応等を伴うため、数重量%程度での導入にとどまり、実用化においては導入率が低い。これに対して、本発明によれば、前記従来の方法よりも、相対的に、前記ポリマーの改変部位の含有率を、相対的に向上することもできる。
【0109】
(6)結合工程
本発明における前記結合工程は、前記前処理後のポリマー成形体に前記目的分子を接触させることで、前記ポリマー成形体の選択表面に前記目的分子を結合させる工程である。前述のように、前記前処理工程により、前記ポリマー成形体の表面のうち前記選択表面は、他の非選択表面とは異なる反応性に改質される。このため、前記結合工程によれば、例えば、前記選択表面と前記非選択表面との反応性の違いを利用することで、前記前処理後のポリマー成形体に前記目的分子を接触させれば、前記選択表面に前記目的分子を選択的に結合させることができる。本発明において、前記結合の種類は、特に制限されず、例えば、塩形成のようなイオン結合、共有結合、π結合、水素結合、ファンデルワールス力、配位結合等が例示できる。
【0110】
前記前処理後のポリマー成形体と前記目的分子との接触による両者の反応は、特に制限されない。前述のように、本発明は、前記前処理工程による前記選択表面と前記非選択表面との反応性の違いを利用することが特徴であるため、例えば、前記前処理工程による改変形態と、所望の目的分子の種類とによって、前記両者の接触による結合の反応機構は、適宜設定できる。
【0111】
前記結合工程における反応系は、特に制限されない。前記反応系としては、例えば、前記前処理工程で使用した反応系を使用してもよいし、前記目的分子に応じた反応系を使用してもよい。前記反応系としては、例えば、有機相または水相があげられ、有機溶媒および水系溶媒は、例えば、前述と同様である。
【0112】
前記目的分子が、前記ポリマー成形体の選択表面における前記改変部位の改変官能基に対して反応性を有する分子の場合、例えば、前記ポリマー成形体と前記目的分子とを接触させることで、前記ポリマー成形体の選択表面に前記目的分子を、直接結合させることができる。具体例として、前記前処理工程において、前記化合物ラジカルが前記酸化物ラジカルであり、前記ポリマー成形体の選択表面が酸化される場合を例示にあげる。この場合、前記目的分子が、酸素原子を有する官能基と反応性を有する分子であれば、例えば、前記ポリマー成形体と前記目的分子とを直接反応させることで、前記選択表面の前記官能基に前記目的分子を結合できる。前記目的分子としては、例えば、酸素原子を有する前記官能基と反応性を示すアミノ基を有する目的分子があげられ、具体例としては、例えば、抗体等のアミノ基を有するタンパク質、アミノ基を有する発色分子および蛍光分子等が例示できる。前記選択表面の酸化による官能基としては、例えば、前述のような、ヒドロキシメチル基(-CHOH)、ホルミル基(-CHO)、およびカルボキシル基(-COOH)等が例示できる。なお、例示であって、本発明は、これには制限されない。
【0113】
一方、前記目的分子が、前記ポリマー成形体の選択表面における前記改変部位の改変官能基に対して反応性を有さない分子、反応性が弱い分子の場合、例えば、前記目的分子を前記第2分子として、前記ポリマー成形体に、前記第1分子であるリンカー分子を介して、前記目的分子を結合させることができる。この場合、前記リンカー分子(前記第1目的分子)としては、例えば、前記ポリマー成形体の選択表面における前記改変部位の改変官能基に対して反応性を有し、且つ、前記目的分子(前記第2目的分子)に対して反応性を有する分子が使用できる。この場合、本発明は、例えば、前記前処理工程後のポリマー成形体に前記リンカー分子を反応させて、前記ポリマー成形体の選択表面に前記リンカー分子を結合させる工程を含む。このリンカー分子の結合工程は、例えば、前記前処理工程と前記第2目的分子の結合工程との間に行ってもよいし、前記第2目的分子の結合工程と同時に行ってもよい。
【0114】
(7)化合物ラジカル生成工程
本発明において、前記前処理工程に使用する前記化合物ラジカルは、例えば、前述のように、前記前処理工程の反応系に、前記化合物ラジカルを含むガスを導入してもよいし、液相のラジカル生成用反応系で発生させた前記化合物ラジカルを、前記前処理工程の反応系に移行させることで導入してもよい。後者の場合、本発明は、例えば、さらに、前記化合物ラジカルを生成させる化合物ラジカル生成工程を含んでもよい。本発明は、前記前処理工程において前記化合物ラジカルを使用することが特徴であって、その生成方法等については、何ら制限されない。
【0115】
本発明において、前記化合物ラジカル生成工程は、例えば、前記前処理工程の前に行ってもよく、前記前処理工程と同時に行ってもよい。前記化合物ラジカルの生成方法は、特に制限されない。
【0116】
前記化合物ラジカル生成工程は、例えば、ラジカル生成用反応系を使用して、前記化合物ラジカルを発生させてもよい。前記ラジカル生成用反応系は、例えば、前記化合物ラジカルを生成させた後、そのまま、前記前処理工程における前記液体反応系として使用することもできる。以下、前記ラジカル生成用反応系を、前記前処理工程における前記液体反応系として利用する形態を示すが、これには制限されない。
【0117】
前記反応系が水相を含む液体反応系である場合、例えば、前記水相が、前記化合物ラジカルの発生源を含み、前記化合物ラジカル生成工程において、前記化合物ラジカルの発生源から前記化合物ラジカルを生成させてもよい。前記水相は、例えば、前記化合物ラジカルの発生源を含む水性溶媒の相であり、前記水性溶媒は、前述と同様である。前記水相で発生した前記化合物ラジカルが疎水性の場合、例えば、前記ラジカル生成用反応系を前記有機相と前記水相とを含む二相反応系とすることで、前記化合物ラジカルを前記有機相に移行できる。また、前述のように、前記前処理工程を前記気体反応系で行う場合、前記化合物ラジカルの生成用反応系は、例えば、水相のみでもよいし、水相と有機相との二相反応系のいずれでもよい。前記化合物ラジカルが疎水性の場合、例えば、前記水相で発生した前記化合物物ラジカルは、直接、前記気相に移行できることから、前記生成用反応系は、前記水相のみでもよい。
【0118】
前記化合物ラジカルの発生源は、特に制限されず、例えば、前記化合物ラジカルの種類によって、適宜選択できる。前記化合物ラジカルの発生源は、例えば、1種類のみを用いてもよく、複数種類を併用してもよい。
【0119】
前記化合物ラジカルが前記16族元素と前記17族元素とを含むラジカルの場合、前記化合物ラジカルとしては、例えば、前記ハロゲンの酸化物ラジカルがあげられる。この場合、前記発生源は、例えば、前記化合物ラジカルに対応する、前記16族元素と前記17族元素とを含む化合物があげられる。具体例として、例えば、亜ハロゲン酸(HXO)またはその塩があげられる。前記亜ハロゲン酸の塩は、特に限定されず、例えば、金属塩があげられる。前記金属塩は、例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、希土類塩等があげられる。前記化合物ラジカルが前記二酸化塩素ラジカルの場合、その発生源は、特に限定されず、例えば、亜塩素酸(HClO)またはその塩であり、具体的には、例えば、亜塩素酸ナトリウム(NaClO)、亜塩素酸リチウム(LiClO)、亜塩素酸カリウム(KClO)、亜塩素酸マグネシウム(Mg(ClO)、亜塩素酸カルシウム(Ca(ClO)等があげられる。これらの中でも、コスト、取扱い易さ等の観点から、亜塩素酸ナトリウム(NaClO)が好ましい。なお、例えば、他の化合物ラジカルの発生源についても、同様の方法が採用できる。具体的な他の発生源としては、例えば、亜臭素酸ナトリウム等の臭素酸塩類、亜要素酸ナトリウム等の亜ヨウ素酸塩類等があげられる。他の発生源としては、例えば、亜臭素酸ナトリウム等の臭素酸塩類、亜要素酸ナトリウム等の亜ヨウ素酸塩類等があげられる。前記化合物ラジカルの発生源は、特に制限されず、例えば、前記化合物ラジカルの種類によって、適宜選択できる。前記化合物ラジカルの発生源は、例えば、1種類のみを用いてもよく、複数種類を併用してもよい。以下、前記化合物ラジカルがハロゲン酸化物である例をあげて説明するが、これには制限されない。
【0120】
前記水相において、前記発生源の濃度は、特に限定されない。前記発生源が前記化合物の場合、その濃度は、前記化合物イオン濃度に換算した場合、例えば、下限が0.0001mol/L以上であり、上限が、1mol/L以下であり、また、その濃度は、前記化合物イオンのモル数に換算した場合、例えば、下限が、前記原料のモル数の1/100000倍以上であり、上限が、1000倍以下である。前記発生源が亜ハロゲン酸または亜ハロゲン酸塩(例えば、亜塩素酸または亜塩素酸塩)の場合、その濃度は、亜ハロゲン酸イオン(例えば、亜塩素酸イオン(ClO ))濃度に換算した場合、例えば、下限が0.0001mol/L以上であり、上限が、1mol/L以下である。また、前記発生源の濃度は、亜ハロゲン酸イオン(例えば、亜塩素酸イオン(ClO ))のモル数に換算した場合、例えば、下限が、前記原料のモル数の1/100000倍以上であり、上限が、1000倍以下である。他の発生源についても、例えば、前記濃度が援用できる。
【0121】
前記水相は、例えば、さらに、ルイス酸およびブレーンステッド酸の少なくとも一方を含んでもよい。前記水相は、例えば、前記ルイス酸および前記ブレーンステッド酸の一方のみを含んでもよいし、両方を含んでもよいし、1つの物質が、前記ルイス酸および前記ブレーンステッド酸の両方を兼ねていてもよい。前記ルイス酸または前記ブレーンステッド酸は、1種類のみを用いてもよいし、複数種類を併用してもよい。本発明において、「ルイス酸」は、例えば、前記化合物ラジカルの発生源に対してルイス酸として働く物質をいう。
【0122】
前記水相において、前記ルイス酸および前記ブレーンステッド酸の少なくとも一方の濃度は、特に限定されず、例えば、前記改変対象のポリマーの種類等に応じて、適宜設定できる。前記濃度は、例えば、下限が0.0001mol/L以上であり、上限が1mol/L以下である。
【0123】
前記ルイス酸は、特に制限されず、例えば、有機物質でもよく、無機物質でもよい。前記有機物質は、例えば、アンモニウムイオン、有機酸(例えば、カルボン酸)等があげられる。前記無機物質は、例えば、金属イオン、非金属イオンがあげられ、いずれか一方を含んでもよいし、両方を含んでいてもよい。前記金属イオンは、例えば、典型金属イオン、遷移金属イオンがあげられ、いずれか一方を含んでもよいし、両方を含んでもよい。前記無機物質は、例えば、アルカリ土類金属イオン(例えば、Ca2+等)、希土類イオン、Mg2+、Sc3+、Li、Fe2+、Fe3+、Al3+、ケイ酸イオン、およびホウ酸イオン等があげられ、いずれか一種類を含んでもよいし、二種類以上を含んでもよい。前記アルカリ土類金属イオンは、例えば、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、またはラジウム等のイオンがあげられ、具体的には、例えば、Ca2+、Sr2+、Ba2+、およびRa2+があげられる。「希土類」は、スカンジウム21Scおよびイットリウム39Yの2元素、ならびに、ランタン57Laからルテチウム71Luまでの15元素(ランタノイド)の計17元素の総称である。希土類イオンは、例えば、前記17元素のそれぞれに対する3価の陽イオンがあげられる。前記ルイス酸のカウンターイオンは、特に制限されず、例えば、トリフルオロメタンスルホン酸イオン(CFSO 、またはOTfとも表記する)、トリフルオロ酢酸イオン(CFCOO)、酢酸イオン、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、硫酸イオン、硫酸水素イオン、亜硫酸イオン、硝酸イオン、亜硝酸イオン、リン酸イオン、亜リン酸イオン等があげられる。前記ルイス酸は、例えば、スカンジウムトリフレート(Sc(OTf))等でもよい。
【0124】
前記ルイス酸(カウンターイオンも含む)は、例えば、AlCl、AlMeCl、AlMeCl、BF、BPh、BMe、TiCl、SiF、SiCl等があげられ、いずれか一種類でもよいし、二種類以上を含んでもよい。「Ph」は、フェニル基を表し、「Me」は、メチル基を表す。
【0125】
前記ルイス酸のルイス酸性度は、特に制限されず、例えば、0.4eV以上である。前記ルイス酸性度の上限値は、特に限定されず、例えば、20eV以下である。前記ルイス酸性度は、例えば、Ohkubo, K.; Fukuzumi, S. Chem. Eur. J., 2000, 6, 4532、J. AM. CHEM. SOC. 2002, 124, 10270-10271、またはJ. Org. Chem. 2003, 68, 4720-4726に記載の方法により測定でき、具体的には、下記の方法により測定できる。
【0126】
(ルイス酸性度の測定方法)
下記化学反応式(1a)に示すコバルトテトラフェニルポルフィリン(CoTPP)飽和Oおよびルイス酸性度の測定対象物(例えば、金属等のカチオンであり、下記化学反応式(1a)ではMn+で表される)を含むアセトニトリル(MeCN)について、室温において、紫外可視吸収スペクトル変化の測定をする。得られた反応速度定数(kcat)から、ルイス酸性度の指標であるΔE値(eV)を算出できる。kcatの値は、相対的に大きいほど、相対的に強いルイス酸性度を示す。また、有機化合物のルイス酸性度は、例えば、量子化学計算によって算出される最低空軌道(LUMO)のエネルギー準位から見積もることもできる。前記エネルギー順位は、正側に大きい値であるほど強いルイス酸性度を示す。
【0127】
【数1a】
【0128】
前記ブレーンステッド酸は、特に限定されず、例えば、無機酸でもよいし、有機酸でもよく、具体例として、例えば、トリフルオロメタンスルホン酸、トリフルオロ酢酸、酢酸、フッ化水素酸、塩化水素酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、亜硫酸、硝酸、亜硝酸、リン酸、亜リン酸等があげられる。前記ブレーンステッド酸の酸解離定数pKは、例えば、10以下である。前記pKの下限値は、特に限定されず、例えば、-10以上である。
【0129】
前記水相は、例えば、前記化合物イオンとブレーンステッド酸とを含み、例えば、前記化合物とブレーンステッド酸(例えば、塩酸)とが水性溶媒に溶解した水相であることが好ましい。具体例として、前記化合物ラジカルが二酸化塩素ラジカルの場合、前記水相は、例えば、亜塩素酸イオン(ClO )とブレーンステッド酸とを含み、例えば、前記亜塩素酸ナトリウム(NaClO)とブレーンステッド酸(例えば塩酸)とが水性溶媒に溶解した水相であることが好ましい。
【0130】
前記水相において、例えば、前記ルイス酸、前記ブレーンステッド酸、前記ラジカル発生源等は、前記水性溶媒に溶解した状態でもよいし、溶解していない状態でもよい。後者の場合、これらは、例えば、水性溶媒に、分散した状態でもよいし、沈殿した状態でもよい。
【0131】
前記水相は、例えば、酸素(O)が溶解した状態であることが好ましい。前記水相への前記酸素(O)の溶解は、特に制限されず、例えば、前記化合物ラジカルの発生前でもよいし、発生後でもよく、また、前記前処理工程前または前記前処理工程中でもよい。具体例としては、例えば、前記化合物ラジカルの発生源、前記ルイス酸、前記ブレーンステッド酸等を加える前または加えた後、前記水相および前記有機相の少なくとも一方に、空気または酸素ガスを吹き込むことにより、酸素を溶解させてもよい。前記水相および前記有機相の少なくとも一方は、例えば、酸素(O)で飽和させてもよい。前記水相および前記有機相の少なくとも一方が酸素を含むことによって、例えば、前記前処理工程において、前記ポリマーの改変をより促進できる。
【0132】
前記化合物ラジカル生成工程は、特に限定されず、例えば、前記水性溶媒に前記化合物ラジカルの発生源を含有させることによって、前記化合物イオン(例えば、亜塩素酸イオン)から前記化合物ラジカル(例えば、二酸化塩素ラジカル)を自然発生させることができる。前記水相は、例えば、前記発生源が前記水性溶媒に溶解していることが好ましく、また、静置させることが好ましい。前記化合物ラジカル生成工程において、前記水相は、例えば、さらに、前記ルイス酸およびブレーンステッド酸の少なくとも一方を共存させることによって、前記化合物ラジカルの発生を、さらに促進できる。前記化合物ラジカル生成工程は、例えば、前記水相に光照射を施すことで、前記化合物ラジカルを発生させることもできるが、光照射せずに、例えば、単に静置するのみでも、前記化合物ラジカルを発生させることができる。前記反応系における前記水相中の前記発生源から発生した前記化合物ラジカルは、水に難溶であるため、前記反応系における前記有機相中に溶解する。
【0133】
前記水相において、前記化合物イオンから前記化合物ラジカルが発生するメカニズムは、例えば、下記スキーム1のように推測される。下記スキームでは、前記化合物イオンとして亜塩素酸イオン、前記化合物ラジカルとして二酸化塩素ラジカルを、具体例としてあげる。下記スキーム1は、推測されるメカニズムの一例であり、本発明をなんら限定しない。下記スキーム1において、第1の(上段の)反応式は、亜塩素酸イオン(ClO )の不均化反応であり、水相にルイス酸およびブレーンステッド酸の少なくとも一方が存在することで、平衡が右側に移動しやすくなると考えられる。下記スキーム1において、第2の(中段の)反応式は、二量化反応であり、前記第1の反応式で生成した次亜塩素酸イオン(ClO)と亜塩素酸イオンとが反応して、二酸化二塩素(Cl)を生成する。この反応は、水相にプロトンHが多いほど、すなわち酸性であるほど、進行しやすいと考えられる。下記スキーム1において、第3の(下段の)反応式は、ラジカル生成である。この反応では、前記第2の反応式で生成した二酸化二塩素が、亜塩素酸イオンと反応して、二酸化塩素ラジカルを生成する。
【0134】
【化S1】
【0135】
前記反応系が前記液体反応系であり、前記有機相と前記水相とを含む二相反応系である場合、前述のようにして、前記化合物ラジカルを発生させた後、前記液体反応系を、そのまま前記前処理工程に供すればよい。すなわち、前記化合物ラジカルを発生させた前記液体反応系について、さらに、光照射を行うことによって、前記ポリマー成形体を改変する前記前処理工程を行うこともできる。この場合、例えば、前記液体反応系に光照射を行うことで、前記化合物ラジカル生成工程と前記前処理工程とを連続的に行うこともできる。本発明において、前記二相反応系で、前記化合物ラジカル生成工程と前記前処理工程とを行うことにより、例えば、より良い反応効率が得られる。
【0136】
他方、前記前処理工程における前記反応系が、前記液体反応系であり、前記有機相のみを含む一相反応系である場合、例えば、前記方法により前記水相で前記化合物ラジカルを発生させ、発生した前記化合物ラジカルを前記有機相に溶解(抽出)させた後、前記水相を除去し、前記化合物ラジカルを含む前記有機相を、前記一相反応系として、前記前処理工程に供すればよい。
【0137】
図2に、前記二相反応系を用いた、前記化合物ラジカル生成工程および前記前処理工程の一例を模式的に示す。図2において、前記化合物ラジカルとして前記二酸化塩素ラジカル、前記ポリマーとして前記成形体を、具体例として示すが、本発明は、これらの例には、何ら制限されない。図2において、前記マスキング部材は省略する。図2に示すとおり、前記反応系は、反応容器中において、水層(前記水相)と有機層(前記有機相)との二層が分離し、互いに界面のみで接触している。上層が、水層(前記水相)2であり、下層が、有機層(前記有機相)1である。図2は、断面図であるが、見やすさのために、水層2および有機層1のハッチは、省略している。図2に示すとおり、水層(水相)2中の亜塩素酸イオン(ClO )が酸と反応して、二酸化塩素ラジカル(ClO )が発生する。二酸化塩素ラジカル(ClO )は、水に難溶であるため、有機層1に溶解する。つぎに、二酸化塩素ラジカル(ClO )を含む有機層1に光照射し、光エネルギーhν(hはプランク定数、νは光の振動数)を与えることで、有機層1中の二酸化塩素ラジカル(ClO )が分解して、塩素ラジカル(Cl)および酸素分子(O)が発生する。これにより、有機層(有機相)1中のポリマー成形体が酸化され、表面が改変される。図2は例示であって、本発明をなんら限定しない。
【0138】
図2では、水層2が上層で、有機層1が下層であるが、例えば、有機層1の方が、密度(比重)が低い場合は、有機層1が上層になる。前記ポリマー成形体は、例えば、上層の有機層中に配置されるように、前記反応容器中において固定化してもよい。この場合、前記ポリマー成形体を固定する固定部は、例えば、前記反応容器中に設けてもよいし、前記反応容器の外部に設けてもよい。後者の場合、例えば、外部から前記ポリマー成形体を吊るし、前記有機層中に浸漬させる形態等があげられる。
【0139】
図2では、前記二相反応系を例示したが、本発明の製造方法において、前記前処理工程は、有機相のみの一相反応系で行ってもよい。この場合、例えば、前記化合物ラジカルの発生源を含む水相を別途準備し、前記水相で前記化合物ラジカルを生成させた後、前記水相に前記有機相を混合し、前記水相の前記化合物ラジカルを前記有機相に溶解(抽出)させる。そして、前記水相と前記有機相とを分離し、前記有機相を回収し、前記ポリマー成形体を配置し、これを一相反応系として、単独で、前記化合物ラジカルの存在下、選択的な前記光照射による前記前処理工程を行なう。
【0140】
(8)目的分子結合型ポリマー成形体およびその製造方法
本発明の目的分子結合型ポリマー成形体の製造方法は、ポリマー成形体に目的分子を結合させる結合工程を含み、前記結合工程における結合方法が、前記本発明の結合方法であることを特徴とする。本発明の製造方法によれば、前記本発明の目的分子の結合方法を用いることで、前記ポリマー成形体に選択的に前記目的分子が結合した、目的分子結合型ポリマー成形体が得られる。
【0141】
本発明によれば、目的に応じて、結合させる目的分子を選択することで、目的に応じた前記目的分子結合型ポリマー成形体を得ることができる。本発明により得られる前記目的分子結合型ポリマー成形体の利用分野は、特に制限されず、例えば、再生医療の分野、細胞培養の分野等があげられる。細胞培養の分野においては、例えば、iPS細胞等の細胞の培養部品等があげられる。また、医療、バイオ、バイオマテリアル等の分野においては、例えば、デリバリー材料、除放材料、イオン透過膜等があげられる。前記目的分子結合型ポリマー成形体の利用分野は、この他に、例えば、有機EL(エレクトロルミネッセンス)、カメラ、ムービー、CDまたはDVD等のプレーヤ、投射型テレビ等のテレビ、コンタクトレンズ、眼鏡、血液分析セル等のセル、LEDレンズ等のカバー等の光学的な分野があげられる。また、前記分野としては、例えば、再生医療の分野等もあげられる。
【0142】
以下に、前記前処理後のポリマー成形体に対する前記目的分子の結合形態について、具体例をあげるが、本発明は、これには制限されない。
【0143】
(i) ポリイオンコンプレックス形成
本発明によれば、前記ポリマー成形体の選択表面における前記改変官能基を、水酸基およびカルボキシ基のような酸素改変官能基とすることができる。この場合、前記前処理後のポリマー成形体において、前記選択表面は、アニオン(-)となるため、例えば、カチオンを有する親水性のポリマーを接触させるのみで、前記前処理後のポリマー成形体の前記選択表面において、電荷による、ポリイオンコンプレックスを形成できる。前記ポリマー成形体の表面を、選択的に親水化することが困難であったが、本発明によれば、前記前処理を施した上で、前記目的分子である親水性ポリマーを接触するのみで、容易に選択的な親水化が可能になる。
【0144】
具体例としては、例えば、前記ポリマー成形体の選択表面について、前記前処理工程を施すことによって、前記選択表面を酸化した後、前記前処理後のポリマー成形体を、カチオンポリマー水溶液に浸漬する。浸漬後、前記ポリマー成形体を水洗し、乾燥させることで、前記選択表面に前記カチオンポリマーが結合した、前記目的分子結合型ポリマー成形体を得ることができる。前記ポリマー成形体は、例えば、ポリプロピレン(PP)成形体等が例示でき、前記カチオンポリマーとしては、例えば、ポリエチレンイミン等が例示でき、その分子量は、例えば、10,000である。前記カチオンポリマー水溶液の濃度は、例えば、0.1%(w/v)であり、浸漬時は、例えば、5分間の超音波処理等を併用することが好ましい。このように、前記ポリマー成形体に前記前処理工程を施し、さらに、カチオンポリマーの結合処理を行うことによって、前記ポリマー成形体の選択表面は、親水性を向上できる。このような親水化によって、例えば、前記目的分子結合型ポリマー成形体は、例えば、電池のセパレータ、おむつ等の分野にも利用できる。
【0145】
(ii) アミンカップリング
本発明によれば、前記ポリマー成形体の選択表面における前記改変官能基を、カルボキシ基のような酸素改変官能基とすることができる。このため、前記改変官能基に対して、アミン化合物を接触させることで、アミンをカップリングすることができる。前記アミン化合物(R-NH)は、特に制限されず、例えば、プロパルギルアミン、3-アジドプロピルアミン、アミノ酸、フッ素コーティングの原料となるウンデカフルオロヘキシルアミン等があげられる。
【0146】
具体例としては、例えば、前記ポリマー成形体の選択表面について、前記前処理工程を施すことによって、前記選択表面を酸化した後、前記前処理後のポリマー成形体を、容器に入れ、ジクロロメタンを添加した後、0℃に冷却し、さらに、アミンを添加する。そして、1時間、室温で撹拌した後、DCC(ジシクロヘキシルカルボジイミド)を添加して、室温で一晩撹拌する。処理後の前記ポリマー成形体を、ジクロロメタンで洗浄し、乾燥させることで、前記選択表面にアミンがカップリングにより導入された、前記目的分子結合型ポリマー成形体を得ることができる。前記ポリマー成形体は、例えば、ポリプロピレン(PP)成形体等が例示できる。
【0147】
(iii) 求核置換反応
本発明によれば、前記ポリマー成形体の選択表面における前記改変官能基を、アルコールのような酸素改変官能基とすることができる。このため、前記改変官能基に対して、求核置換反応を示す目的分子を接触させることで、前記目的分子を結合させることができる。前記目的分子(R-X)は、例えば、トリデカフルオロヘキシルヨージド、ブロモエタンスルホン酸ナトリウム等があげられる。
【0148】
具体例としては、例えば、前記ポリマー成形体の選択表面について、前記前処理工程を施すことによって、前記選択表面を酸化した後、前記前処理後のポリマー成形体を、容器に入れ、アセトニトリルを添加する。そして、前記容器に、さらに、基質となるハライドと炭酸カリウムとを添加し、70℃で3時間、撹拌しながら反応を行う。そして、処理後の前記ポリマー成形体を、エーテルで洗浄し、乾燥させることで、前記選択表面のアルコールの水酸基に対して、Hに代えて、目的分子の基(R-)が結合した、前記目的分子結合型ポリマー成形体を得ることができる。前記ポリマー成形体は、例えば、ポリプロピレン(PP)成形体等が例示できる。
【0149】
なお、本発明において、前述したポリマー成形体への選択的な機能物質の結合方法は、本発明の第1の結合方法ともいう。本発明は、前記第1の結合方法には限定されず、例えば、以下に示す第2の結合方法であってもよい。前記第2の結合方法は、すなわち、前記ポリマー成形体への前記目的分子の結合方法であり、前記ポリマー成形体の表面に、前記化合物ラジカルの存在下、光照射する前処理工程と、前記前処理後のポリマー成形体に目的分子を反応させることで、前記ポリマー成形体の表面に前記目的分子を結合させる結合工程とを含み、前記化合物ラジカルが、15族元素および16族元素からなる群から選択された一つの元素と、17族元素とを含むラジカルであることを特徴とする。すなわち、前記第2の結合方法は、前記ポリマー成形体に前記目的分子を結合させるにあたって、前記前処理工程において、前記ポリマー成形体の表面に、選択的に光照射を行うだけでなく、全表面に光照射を行う形態を含む。前記第2の結合方法によれば、前記前処理による、改変による前記改変官能基の存在によって、前記前処理を施していない状態よりも、前記前処理後のポリマー成形体の表面に、前記目的分子を結合させやすい状態とすることができる。
【実施例
【0150】
以下、本発明の実施例について説明する。ただし、本発明は、以下の実施例には限定されない。
【0151】
[実施例1]
ポリプロピレン(PP)プレートの表面に、選択的にトルイジンブルーを結合させた。
【0152】
反応容器である透明のシャーレに、フルオラス溶媒(CF(CFCF)10mLと、水(HO)20mLと、亜塩素酸ナトリウム(NaClO)200mgと、35%塩酸(HCl)200μLとを入れ、5分間撹拌した。前記反応容器を静置し、下から、前記フルオラス溶媒の有機相、水相、気相に分離させた。前記有機相が黄色に着色することをもって、前記水相で発生したClOラジカルが前記有機相に移動したことを確認した。つぎに、前記反応容器中に、PPプレート(アズワン社、品番2-9221-01)を投入した。前記PPプレートの大きさは、長さ50mm×幅30mm×厚み1mmとした。前記反応容器に、前記PPプレートを投入した状態の概略図を、図13(A)に示す。反応容器5内において、有機相1、水相2、気相3は、この順序で分離され、PPプレート4は、有機相1に浸漬している状態とした。
【0153】
そして、前記反応容器の上部に蓋をした。透明台の下に、上方向に向くように光源を配置し、前記透明台の上に、マスキング部材として3枚の黒い長方形の紙を、一定間隔をあけて配置した。そして、前記マスキング部材の上に、前記反応容器を配置した。図13(B)に、PPプレート4と、反応容器5と、マスキング部材6との位置関係を示す。図13(B)は、反応容器5を上から見た平面図である。そして、前記透明台の下の光源から、前記透明台の上の前記反応容器に向かって、光照射を行った。前記反応容器の下には、前記マスキング部材が配置されているため、前記反応容器中のPPプレートの下面には、前記マスキング部材が配置されていない箇所にのみ、光が照射される。前記光源と前記PPプレートとの距離は、20cmとした。前記光源は、波長365nmのLEDランプ(バイオフォトニクス社)を使用した。前記光照射は、大気中、前記反応容器内に加圧および減圧を行なわず、室温(約25℃)条件下で行った。そして、光照射開始から30分後に、前記反応容器中の前記有機相において、ClOラジカル由来の黄色の着色が消失したことをもって、反応終了とした。
【0154】
つぎに、青色染料の0.05%トルイジンブルー水溶液(50mL)を調製し、そこで、ClOラジカルによって酸化処理したPPプレートを投入した。室温で1分間、超音波処理を行った後、前記PPプレートを取り出し、水で洗浄した。
【0155】
得られた前記PPプレートの写真を、図14に示す。図14に示すように、PPプレート4は、前記マスキング部材を配置していない箇所7にのみ、トルイジンブルーが結合されたことが確認できた。前記PPプレートの全表面に前記トルイジンブルー水溶液を接触させたにも関わらず、前記マスキング部材が配置されなかった領域のみに、トルイジンブルーの結合が確認できた。このことから、ClOラジカルの存在下、マスキングによって選択的に光照射することで、前記マスキング部材が配置されなかった領域のみが酸化されたことがわかる。
【0156】
[実施例2]
ポリプロピレン(PP)粒子の表面にNBDを結合させた。
【0157】
反応容器である透明のサンプル瓶に、フルオラス溶媒(CF(CFCF)2mLと、水(HO)3mLと、亜塩素酸ナトリウム(NaClO)100mgと、35%塩酸(HCl)20μLとを入れ、5分間撹拌した。前記反応容器を静置し、下から、前記フルオラス溶媒の有機相、水相、気相に分離させた。つぎに、前記反応容器中に、PP粒子(三井化学社)を投入した。そして、前記反応容器の上部に蓋をして、前記反応容器に向かって、光源から光照射を行った。前記光源と前記反応容器の側面との距離は、25cmとした。前記光源は、波長365nmのLEDランプ(バイオフォトニクス社)を使用した。前記光照射は、大気中、前記反応容器内に加圧および減圧を行なわず、室温(約25℃)条件下で行った。そして、光照射開始から15分後に、前記反応容器中の前記有機相において、ClOラジカル由来の黄色の着色が消失したことをもって、反応終了とした。
【0158】
つぎに、蛍光分子の10mmol/L NBD-PZのアセトニトリル溶液(5mL:A液)、および140mmol/l 2,2’-Dipyridyl Disulfideとトリフェニルホスフィン(PPh3)とを含む混合アセトニトリル溶液(5mL:B液)を、それぞれ調製した。前記A液と前記B液とを等量ずつ混合した混合溶液に、前記PP粒子を投下した。室温で1分間、超音波処理を行った後、前記PP粒子を濾過により取り出し、アセトニトリル、アセトンの順で洗浄した。なお、参照例として、同じPP粒子について、前記ClOラジカル存在下での光照射(前処理)を行わず、同様に蛍光分子NBD-PZで処理した。
【0159】
得られた前記PP粒子の写真を、図15に示す。図15において、(A)は、前処理を行っていない参照例のPP粒子であり、(B)は、前処理と蛍光分子処理を行ったPP粒子である。前処理を行っていないPP粒子は、白色であるのに対して、前処理を行ったPP粒子は、オレンジ色を呈した。いずれも蛍光分子処理を行ったが、前処理を行ったPP粒子のみが、オレンジ色を呈したことから、前記前処理によって酸化され、これによって、前記蛍光分子との結合が可能となったことがわかる。
【0160】
[実施例3]
ポリプロピレン(PP)フィルムの表面にブリリアントグリーンまたはクリスタルバイオレットを結合させた。
【0161】
長さ40mm×幅30mm×厚み1mmのPPフィルム(アズワン社、品番2-9221-01)を使用し、前記マスキング部材を未使用とした以外は、前記実施例1と同様にして、ClOラジカル存在下での光照射による前処理を行った。
【0162】
0.05%トルイジンブルー水溶液に代えて、色素の1%ブリリアントグリーン水溶液(5mL)または1%クリスタルバイオレット水溶液を使用した以外は、前記実施例1と同様にして、処理を行った。
【0163】
得られた前記PPフィルムの写真を、図16に示す。図16において、上が、ブリリアントグリーンで処理した結果、下が、クリスタルバイオレットで処理した結果であり、(A)は、前処理を行っていない参照例であり、(B)は、前処理と色素処理を行ったPPフィルムである。前処理を行っていないPPフィルムは、ほぼ透明であるのに対して、前処理を行ったPPフィルムは、ブリリアントグリーンの場合はグリーン色を呈し、クリスタルバイオレットの場合はピンク色を呈した。いずれも色素処理を行ったが、前処理を行ったPPフィルムのみが、色味を呈したことから、前記前処理によって酸化され、これによって、前記色素との結合が可能となったことがわかる。
【0164】
[実施例4]
高密度ポリエチレン(PE)の略円柱体の表面にトルイジンブルーを結合させた。
【0165】
前記PP粒子に代えて、高密度ポリエチレンペレットの略円柱体(三井提供品)を使用し、前記実施例2と同様にして、前処理を行った。そして、50mmol/L NaOHと5%トルイジンブルーとの混合水溶液(50mL)を使用した以外は、前記実施例1と同様にして、前処理を行った。
【0166】
得られた前記略円柱体の写真を、図17に示す。図17において、(A)は、前処理を行っていない参照例であり、(B)は、前処理と色素処理を行った略円柱体である。前処理を行っていない略円柱体は、白濁色であるのに対して、前処理を行ったPEペレットは、紫色を呈した。いずれも色素処理を行ったが、前処理を行った略円柱体のみが、色味を呈したことから、前記前処理によって酸化され、これによって、前記色素との結合が可能となったことがわかる。
【0167】
[実施例5]
ポリプロピレン(PP)プレートの表面に、選択的にローダミン6Gを結合させた。
【0168】
PPプレート(アズワン社、品番2-9221-01)の大きさは、長さ30mm×幅30mm×厚み1mmを使用し、反応容器であるシャーレの下に、前記マスキング部材として、銀杏をモチーフとする大阪大学の校章を切り抜いた黒色の紙を使用した以外は、前記実施例1と同様に、前処理を行った。
【0169】
そして、前記トルイジンブルー水溶液に代えて、5%ローダミン6G水溶液(20mL)を使用する以外は、前記PPフィルムについて、前記実施例1と同様により結合処理を行った。そして、前記PPプレートについて自然光下での着色と、暗黒条件下での励起光(365nm)照射による、蛍光の発生を確認した。
【0170】
これらの結果を、図18に示す。図18において、(A)は、自然光下のPPプレートの写真であり、(B)は、励起光照射下でのPPプレートの写真である。図18(A)に示すように、透明の前記PPプレートにおいて、前記モチーフがピンク色を呈しており、また、図18(B)に示すように、励起光照射により、前記PPプレートにおいて、前記モチーフがオレンジ色の蛍光を呈した。前記PPプレートの全表面に前記ローダミン6G水溶液を接触させたにも関わらず、前記マスキング部材における切り抜いたモチーフの領域のみに、ローダミン6Gの結合が確認できた。このことから、ClOラジカルの存在下、マスキングによって選択的に光照射することで、前記マスキング部材が配置されなかった領域のみが酸化されたことがわかる。
【0171】
[実施例6]
PPプレートに前処理を行った後、リンカー分子としてスクシンイミドを導入し、さらに、タンパク質の結合を行った。
【0172】
PPプレート(アズワン社、品番2-9221-01)を使用し、前記マスキング部材を使用しなかった以外は、前記実施例1と同様にして、前処理を行った。この前処理によって、PPプレートの表面において、PPの側鎖における、カルボニル基とヒドロキシ基の導入が、IRにより確認された。前記PPプレートの大きさは、長さ30mm×幅30mm×厚み1mmとした。
【0173】
前記前処理後のPPプレートに対して、1-(3-ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミド塩酸塩(EDC)とN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)を用いて、官能基へのスクシンイミドの導入を行った。スクシンイミドの導入には、金属基板表面のカルボキシル基へのスクシンイミド導入に使用される市販キット(Amine Coupling Kit、同仁化学研究所製)を用いた。以下に、酸化されたPP(PP_Ox)とEDCとNHSとの反応スキームを、以下に示す。
【化S2】
【0174】
スクシンイミドを導入した前記PPプレートに、タンパク質を反応させ、前記タンパク質の結合を確認した。前記タンパク質として、蛍光物質で標識したアルブミンまたは細胞接着因子のフィブロネクチンを使用した。
【0175】
蛍光物質(FITC)で標識したアルブミンは、以下のようにして、前記PPプレートに結合させた。前記標識化アルブミンを、濃度20μg/mlとなるように、0.05%Tween200を含有する1×PBSに溶解した。このタンパク質溶液20μLを、前記PPプレートにおけるスクシンイミドが導入された表面において、0.05cmの領域に、滴下した。前記PPプレートを、室温で2時間静置した後、PBSで洗浄を行い、前記PPプレートの表面を、蛍光顕微鏡で確認した。
【0176】
フィブロネクチンは、以下のようにして、前記PPプレートに結合させた。フィブロネクチンを、濃度20μg/mlとなるように、0.05%Tween200を含有する1×PBSに溶解した。このタンパク質溶液20μLを、前記PPプレートにおけるスクシンイミドが導入された表面において、0.05cmの領域に、滴下した。そして、前記PPプレートを、室温で2時間静置した後、さらに、1%スキムミルクを含有するPBS溶液50μLを滴下した。前記PPプレートを、室温で15分静置し、PBSで洗浄を行った。そして、前記PPプレートに対し、蛍光物質(ALEXA FLUOR 647)で標識した抗フィブロネクチン抗体の溶液20μLを滴下し、室温で2時間静置した。前記抗フィブロネクチン抗体溶液は、前記抗体を濃度10μg/mLとなるように、0.05%Tween20を含有する1×PBSに溶解して調製した。静置後、前記PPプレートをPBSで洗浄し、前記PPプレートの表面を、蛍光顕微鏡で確認した。
【0177】
その結果、前記PPプレートが蛍光を発したことから、前記PPプレートに前記標識化アルブミンが結合したこと、前記PPプレートに前記フィブロネクチンが結合したことが確認された。
【0178】
[実施例7]
PS(ポリスチレン)シャーレに前処理を行った後、リンカー分子としてスクシンイミドを導入し、さらに、タンパク質の結合を行った。
【0179】
(1)前処理後のイミド化PSシャーレへのタンパク質の結合
PSシャーレ(IWAKI社、直径35mm無処理ディッシュ、品番3000-035)を使用し、前記マスキング部材を使用しなかった以外は、前記実施例1と同様にして、前処理を行った。この前処理によって、前記PSシャーレの内部底面において、PSの側鎖における、ヒドロキシ基の導入が、XPSにより確認された。
【0180】
前記前処理後のPSシャーレに対して、炭酸ジ(N-スクシンイミジル)(DSC)とトリエチルアミン(TEA)を用いて、前記前処理による改変官能基へのスクシンイミドの導入を行った。以下に、酸化されたPS(PS_Ox)とDSCとの反応スキームを示す。
【化S3】
【0181】
スクシンイミドを導入した前記PSシャーレに、前記実施例6と同様にして、前記蛍光物質で標識したアルブミンまたは前記細胞接着因子のフィブロネクチンを反応させ、それらの結合を、蛍光顕微鏡で確認した。また、参照例として、前処理を行うことなく、直接、タンパク質と反応させたPSシャーレ、前処理したPSシャーレに、スクシンイミド導入を行わずに、タンパク質と反応させたPSシャーレについても、同様に、蛍光顕微鏡で確認を行った。
【0182】
その結果、前処理を行っていないPSシャーレ、前処理を行い且つスクシンイミド導入を行っていないPSシャーレについて、蛍光は確認されなかったのに対して、前処理を行い且つスクシンイミド導入を行ったPSシャーレは、前記タンパク質をアプライした領域において、蛍光が確認された。この結果から、PSシャーレに前処理を行うことで表面が改変され、改変領域にリンカーとなるスクシンイミド導入を行うことで、前記タンパク質を結合できることがわかった。
【0183】
(2)前処理後のエポキシ化PSシャーレへのタンパク質の結合
PSシャーレ(IWAKI社、直径35mm無処理ディッシュ、品番3000-035)を使用し、前記マスキング部材を使用しなかった以外は、前記実施例1と同様にして、前処理を行った。この前処理によって、前記PSシャーレの内部底面において、PSの側鎖における、ヒドロキシ基の導入が、XPSにより確認された。
【0184】
前記前処理後のPSシャーレに対して、エピクロロヒドリン(EP)と水酸化ナトリウム(NaOH)を用いて、前記前処理による改変官能基をエポキシ化した。以下に、酸化されたPS(PS_Ox)とEPとの反応スキームを示す。
【化S4】
【0185】
エポキシ化した前記PSシャーレに、前記実施例6と同様にして、前記蛍光物質で標識したアルブミンまたは前記細胞接着因子のフィブロネクチンを反応させ、それらの結合を、蛍光顕微鏡で確認した。なお、フィブロネクチンの検出には、蛍光物質として、FITCを使用した。また、参照例として、前処理を行うことなく、直接、タンパク質と反応させたPSシャーレ、前処理したPSシャーレに、エポキシ化せずに、タンパク質と反応させたPSシャーレについても、同様に、蛍光顕微鏡で確認を行った。
【0186】
その結果、前処理を行っていないPSシャーレ、前処理を行い且つエポキシ化していないPSシャーレについて、蛍光は確認されなかったのに対して、前処理を行い且つエポキシ化したPSシャーレは、前記タンパク質をアプライした領域において、蛍光が確認された。この結果から、PSシャーレに前処理を行うことで表面が改変され、改変領域にリンカーとなるエポキシ化を行うことで、前記タンパク質を結合できることがわかった。
【0187】
[実施例8]
PPプレートに前処理を行った後、第1目的分子(リンカー分子)としてイミド基を導入し、さらに、タンパク質の結合を行った。なお、前記前処理工程において、マスキング部材を使用することによる選択的な改変は、前記実施例1等により確認済であるため、本実施例においては、選択的な光照射を行うことなく、イミド基の導入およびタンパク質の結合を確認した。
【0188】
(1)前処理
前記プレートは、前記実施例1と同じPPプレートを使用した。図19に示す容器6を準備した。容器6は、光透過性のガラス製であり、第1チャンバ61と第2チャンバ62と流路63と、蓋部(図示せず)を含み、第1チャンバ61と第2チャンバ62とが流路63を介して連通された構造とした。そして、第2チャンバ62に、プレート8(前記PPプレート)を収容し、第1チャンバ61に、二酸化塩素ラジカルを発生させる液体反応系7として、水(HO)20mLと、亜塩素酸ナトリウム(NaClO)200mgと、35%塩酸(HCl)200μLとの混合液を入れ、第1チャンバ61および第2チャンバ62の上方の開口部に蓋部を取り付け、容器6の内部を密閉した。そして、室温で15分間放置することによって、第1チャンバ61において、前記液体反応系より二酸化塩素ラジカルを発生させた後、第1チャンバ61に光照射を行った。光照射の光源は、波長365nmのLEDランプ(バイオフォトニクス社)を使用し、前記光源と前記第1チャンバ61との距離は、20cmとした。前記光照射は、大気中、容器6内に加圧および減圧を行なわず、室温(約25℃)条件下で、10分間行った。
【0189】
前記前処理後のPPプレートについて、後述する実施例B2と同様にして、XPSを行った結果、実施例B2と同様に、酸素原子の比率の向上、および酸素官能基としてカルボキシ基(-COOH)の導入が確認された。
【0190】
(2)イミド化
容器6から前記前処理後のPPプレートを取出した。そして、前記実施例6と同様にして、前記前処理後のPPプレートに対して、1-(3-ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミド塩酸塩(EDC)とN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)を用いて、前記PPプレートの前記官能基へのスクシンイミドの導入を行った。前記導入処理後の前記PPプレートについて、XPSスペクトルにより、イミド化反応を確認した。この結果を図20に示す。図20は、前記PPプレートのXPSスペクトルを示すグラフであり、(A)が、C1sの結果、(B)が、N1sの結果である。図20の結果から、前記PPプレートへのイミドの導入が確認できた。
【0191】
(3)タンパク質の結合
前記イミド化PPプレートに、前記実施例6と同様に、タンパク質として、蛍光物質で標識したアルブミンまたは細胞接着因子のフィブロネクチンを反応させ、前記タンパク質の結合を確認した。前記イミドPPプレートに対するタンパク質の結合処理および検出の方法および条件は、前記実施例6と同様とした。その結果、前記イミド処理後の前記PPプレートが蛍光を発したことから、前記イミド処理後のPPプレートに、前記標識化アルブミンが結合したこと、前記PPプレートに前記フィブロネクチンが結合したことが確認された。
【0192】
[実施例9]
PSシャーレに前処理を行った後、第1目的分子(リンカー分子)としてイミド基またはエポキシ基を導入し、さらに、タンパク質の結合を行った。なお、前記前処理工程において、マスキング部材を使用することによる選択的な改変は、前記実施例1等により確認済であるため、本実施例においては、選択的な光照射を行うことなく、イミド基またはエポキシ基の導入およびタンパク質の結合を確認した。
【0193】
(1)前処理
前記プレートは、実施例7と同じPSシャーレを使用した。そして、前記実施例8と同様にして、図19に示す容器6を用いて前処理を行った。前記前処理後のPSシャーレについて、後述する実施例B2と同様にして、XPSを行った。この結果を、図21に示す。図8において、(A1)は、前処理前のPSシャーレに関する、XPSによるワイドスキャン分析(XPS_wide)の結果であり、(A2)は、前処理後のPSプレートに関する、XPSによるワイドスキャン分析(XPS_wide)の結果であり、(B1)は、前処理前のPSシャーレに関する、XPSによる炭素1sのナロースキャン分析(XPS_C 1s)の結果であり、(B2)は、前処理後のPSシャーレに関する、XPSによる炭素1sのナロースキャン分析(XPS_C 1s)の結果である。図21に示すように、前処理を行う前のPSシャーレと比較して、前処理後のPSシャーレは、酸素原子の比率の向上、および酸素官能基として水酸基(-OH)の導入が確認された。
【0194】
(2)イミド化およびエポキシ化
容器6から前記前処理後のPSシャーレを取出し、前記実施例7と同様にして、イミド化およびエポキシ化を行った。そして、イミド化処理したPSシャーレについては、XPSを行ってイミド化を確認した。この結果を図22に示す。図22は、前記PSシャーレのXPSスペクトルを示すグラフであり、(A)が、C1sの結果、(B)が、N1sの結果である。図22の結果から、前記PPシャーレへのイミドの導入が確認できた。また、エポキシ化処理したPSシャーレについては、フェノールフタレイン呈色を行った結果、呈色反応が検出されたことから、エポキシ基の導入が確認できた。
【0195】
(3)タンパク質の結合
前記イミド化PSシャーレおよび前記エポキシ化PSシャーレに、前記実施例6と同様に、タンパク質として、蛍光物質で標識したアルブミンまたは細胞接着因子のフィブロネクチンを反応させ、前記タンパク質の結合を確認した。前記シャーレに対するタンパク質の結合処理および検出の方法および条件は、前記実施例6と同様とした。その結果、前記イミド化PSシャーレおよび前記エポキシ化PSシャーレが蛍光を発したことから、前記イミド化PSシャーレおよび前記エポキシ化PSシャーレに、前記標識化アルブミンおよび前記フィブロネクチンが、それぞれ結合したことが確認された。
【0196】
[実施例10]
白色のポリプロピレン(PP)不織布(製品名:オイル吸着パッド、株式会社モノタロウ、品番:MOEP2020)に前処理を行った後、第1目的分子として金属錯体分子を結合させた。なお、前記前処理工程において、マスキング部材を使用することによる選択的な改変は、前記実施例1等により確認済であるため、本実施例においては、選択的な光照射を行うことなく、前記金属錯体分子の結合を確認した。
【0197】
PPプレートに代えて、前記PP不繊布を用いた以外は前記実施例8と同様にして、前記PP不織布に前処理を行い、さらに、前記金属錯体として、色素分子であるカチオン性金属錯体ルテニウムトリスビピリジン錯体(トリス(2,2'-ビピリジル)ルテニウム(II)クロリド六水和物、Cas No.: 50525-27-4、東京化成工業株式会社)を結合させた。具体的には、前記カチオン性金属錯体を10mmol/Lの濃度で含有するメタノール溶液に、前記前処理後のPP不織布を浸漬させ、室温で60分間反応させた。そして、反応後、前記PP不織布をメタノールで洗浄し、自然乾燥させた。また、比較例として、前記前処理を行っていないPP不織布について、同様に、前記金属錯体分子を反応させた。
【0198】
その結果、前処理を行っていないPP不織布は、前記メタノール洗浄後も白色であり、前記金属錯体分子は結合しなかった。これに対して、前記前処理を行ったPP不繊布は、前記メタノール洗浄後のPP不繊布に、前記金属錯体(ルテニウムトリスビピリジン錯体)由来の赤色が残ったことから、前記金属錯体分子の結合が確認された。
【0199】
[実施例11]
前記ルテニウムトリスビピリジン錯体に代えて、鉄(II)イオン(塩化鉄(II)四水和物、FeCl2・4H2O、Cas No.: 13478-10-9、富士フイルム和光純薬株式会社)を用いた以外は、実施例10と同様にして、前記PP不繊布に対する目的分子(金属イオン分子)の結合を確認した。具体的には、前記鉄(II)イオンを10mmol/Lの濃度で含有する水溶液に、前記前処理後のPP不織布を浸漬させ、室温で60分間反応させた。そして、反応後、前記PP不織布を純水で洗浄し、自然乾燥させた。また、比較例として、前記前処理を行っていないPP不織布について、同様に、前記鉄(II)イオンを反応させた。
【0200】
その結果、前処理を行っていないPP不繊布は、前記純水による洗浄後も白色であり、前記金属イオン分子は結合しなかった。これに対して、前記前処理を行ったPP不繊布は、前記純水洗浄後のPP不繊布に、前記金属イオン(鉄(II)イオン)由来の橙色が残ったことから、前記金属イオン分子の結合が確認された。
【0201】
以下の実施例において、液体反応系または気体反応系を用いた前処理によって、各種ポリマーについて酸化が行えることを確認した。
【0202】
[実施例A]
実施例Aとして、液体反応系を用いて前処理工程を行った。
【0203】
[実施例A1]
有機相として、フルオラス溶媒(CF(CFCF)を使用した。一方、前記二酸化ラジカルの発生源である亜塩素酸ナトリウム(NaClO)と、酸であるHClを、水性溶媒(DO、Dは重水素)に溶かし、得られた水溶液を酸素ガス(O)で飽和させ、水相を調製した。前記水相において、亜塩素酸ナトリウムの終濃度は、500mmol/Lとし、HClの終濃度は、500mmol/Lとした。前記水相25mLと前記有機相25mLとを、同一の反応容器中に入れ、接触させて二相反応系とした。前記二相反応系において、前記フルオラス溶媒の有機相は、下層であり、前記水相は、上層となった。そして、前記反応容器中に、ポリプロピレンフィルム(カネカ社製)を投入した。前記フィルムは、前記下層の有機相に沈んだ状態となった。前記フィルムの大きさは、長さ20mm×幅20mm×厚み0.1mmであった。そして、大気中、前記二相反応系に、加圧および減圧を行なわず、室温(約25℃)条件下、波長λ>290nmのキセノンランプ(ウシオ社製 500W、パイレックス(登録商標)ガラスフィルター装着)で、3時間、光照射した。光照射は、前記有機相の上部から、前記有機相中の前記フィルムの上側の全表面に行った。
【0204】
そして、光照射後、前記フィルムにおける光照射した表面について、IRを行った。また、比較例として、光照射前に、前記フィルムについて、予め、同様にIRを行った。この結果を、図3に示す。図3において、(A)は光照射前の結果であり、(B)は光照射後の結果である。
【0205】
図3(B)に示すように、光照射によって、光照射前の図3(A)には見られなかった水酸基(-OH)、およびカルボキシル基(-COOH)に含まれるカルボニル基(-C(=O)-)を示すピークが確認できた。この結果から、ポリプロピレンフィルムにおいて、ポリマーの側鎖のメチル基がヒドロキシメチル基(-CHOH)およびカルボキシ基(-COOH)に酸化され、前記フィルムの表面が改変されていることが確認された。飽和炭化水素基の中でもメチル基は極めて反応性が低い基であることから、他の飽和炭化水素基(エチル基、プロピル基、フェニル基等)についても、酸化が可能であることは明らかである。
【0206】
なお、前記実施例1では、二相反応系で、二酸化塩素ラジカルを発生させ、さらにポリマーフィルムの酸化を行った。前記反応系における二酸化塩素ラジカルの発生は、EPR(電子スピン共鳴)により確認済みである。前記EPRの結果を、図4に示す。
【0207】
[実施例B]
実施例Bとして、気相反応系を用いた改変処理を行った。
【0208】
[実施例B1]
フルオラス溶媒(CF(CFCF)4mLと、水(HO)2mLと、亜塩素酸ナトリウム(NaClO)90mgと、35%塩酸(HCl)20μLとを、同一の反応容器に入れ、5分間撹拌した。前記反応容器を静置し、下から、フルオラス溶媒の有機相、水相、気相に分離させた。そして、前記有機相が黄色になったこと、さらに、前記気相に白色ガスが発生したことを確認した。二酸化塩素ラジカルは、前記水相で発生し、より安定な前記有機相(フルオラス溶媒)に溶解する。つまり、前記有機相の黄色変化は、二酸化塩素ラジカルの発生を意味することから、本実施例において、二酸化塩素ラジカルの発生が確認できた。そして、二酸化塩素ラジカルは、前記有機相への溶解が限界量を超えると、前記気相へと、白色ガスとして流出する。つまり、前記気相における白色ガスの発生は、前記気相における二酸化塩素ラジカルの存在を意味することから、本実施例において、前記気相において二酸化塩素ラジカルが存在することを確認できた。
【0209】
つぎに、前記反応容器中に、ポリエチレンプレート(品番:2-9217-01、アズワン社)を投入した。前記ポリエチレンプレートの大きさは、長さ50mm×幅15mm×厚み1mmとした。前記反応容器に、前記ポリエチレンプレートを投入した状態の概略図を、図5に示す。図5に示すように、反応容器4内において、有機相1、水相2、気相3は、この順序で分離され、ポリエチレンプレート5は、下部が有機相1に浸漬し、上部が気相3に暴露された状態とした。そして、前記反応容器は、その上部に蓋をすることなく、開放系とし、大気中、前記反応容器内に加圧および減圧を行なわず、室温(約25℃)条件下、波長λ>290nmのキセノンランプ(ウシオ社製 500W、パイレックス(登録商標)ガラスフィルター装着)で、光照射した。前記光照射の間、前記気相には、たえず白色ガスが発生し、二酸化塩素ラジカルが、前記水相にて発生し、前記有機相への溶解の限界量を超え、前記気相に流出していることが確認された。前記ポリエチレンプレートへの光照射は、前記反応容器内の前記気相に暴露された前記ポリエチレンプレートの表面に対して行った。具体的には、前記ポリエチレンプレートの表面に対して、25cmの距離から、前記表面に垂直となるように平行光を照射した。そして、光照射開始から30分後に、前記有機相の黄色の着色が消失したことをもって、反応終了とした。
【0210】
そして、前記光照射後、前記ポリエチレンプレートにおける光照射した表面について、赤外分光法(Infrared Spectroscopy:IR)を行った。また、比較例として、光照射前に、前記ポリエチレンプレートについて、予め、同様にIRを行った。IRは、製品名:FT/IR-4700(日本分光株式会社製)を使用した。この結果を、図6に示す。図6において、(A)は光照射前の結果であり、(B)は光照射後の結果である。
【0211】
図6(B)に示すように、光照射によって、光照射前の図6(A)には見られなかったカルボキシ基(-COOH)を示すピーク(1700cm-1付近)が確認できた。この結果から、前記ポリエチレンプレートにおいて、ポリエチレンのC-H結合(2900cm-1付近)が、カルボキシ基(1700cm-1付近)に酸化され、前記ポリエチレンプレートの表面が改変されていることが確認された。
【0212】
[実施例B2]
前記ポリエチレンに代えて、ポリプロピレンを使用した以外は、前記実施例B1と同様にして、気相反応系を用いた改変処理を行った。
【0213】
(1)ポリプロピレンフィルム
前記ポリエチレンプレートに代えて、ポリプロピレンフィルムを使用した。前記ポリプロピレンフィルムは、ポリプロピレンペレット(製品名:プライムポリプロ(登録商標)、プライムポリマー株式会社製)3gを、160℃、20MPaの条件で、10分間ヒートプレスして成形した。前記ポリプロピレンフィルムは、長さ50mm×幅15mm×厚み0.3mmの大きさに裁断して使用した。そして、前記光照射後、前記ポリプロピレンフィルムにおける光照射した表面について、実施例B1と同様にしてIRを行った。また、比較例として、光照射前に、前記ポリプロピレンフィルムについて、予め、同様にIRを行った。この結果を、図7に示す。図7において、(A)は光照射前の結果であり、(B)は光照射後の結果である。
【0214】
図7(B)に示すように、光照射によって、光照射前の図7(A)には見られなかったカルボキシ基(-COOH)を示すピーク(1700cm-1付近)が確認できた。この結果から、前記ポリプロピレンフィルムにおいて、ポリプロピレンの側鎖のメチル基(-CH)(2900cm-1付近)、およびポリプロピレンの主鎖に含まれるC-H結合(2900cm-1付近)が、カルボキシ基(-COOH)(1700cm-1付近)に酸化され、前記ポリプロピレンフィルムの表面が改変されていることが確認された。
【0215】
さらに、前記光照射後のポリプロピレンフィルムについて、X線光電子分光法(X-ray Photoelectron Spectroscopy:XPS)を行った。また、比較例として、光照射前に、前記フィルムについて、予め、同様にXPSを行った。この結果を、図8に示す。図8において、(A1)は光照射前の、XPSによるワイドスキャン分析(XPS_wide)の結果であり、(A2)は、光照射前の、XPSによる炭素1sのナロースキャン分析(XPS_C 1s)の結果であり、(B1)は光照射後の、XPSによるワイドスキャン分析(XPS_wide)の結果であり、(B2)は、光照射後の、XPSによる炭素1sのナロースキャン分析(XPS_C 1s)の結果である。
【0216】
図8(B1)に示すように、光照射によって、光照射前の図8(A1)と比較して、酸素1s由来のピーク比の増大が確認できた。この結果から、ポリプロピレンフィルムの表面が酸化されたことが確認された。また、図8(B2)に示すように、光照射によって、光照射前の図8(A2)には見られなかったカルボキシ基(-COOH)に由来する289eV付近のピークが確認できた。この結果から、前記ポリプロピレンフィルムにおいて、前記ポリプロピレンフィルムの表面が酸化されたことが確認された。
【0217】
(2)ポリプロピレンペレット
つぎに、前記ポリプロピレンフィルムの成型に使用した前記ポリプロピレンペレットについて、以下のようにして、改変処理を行った。フルオラス溶媒(CF(CFCF)20mLと、水(HO)20mLと、亜塩素酸ナトリウム(NaClO)200mgと、35%塩酸(HCl)200μLとを、同一の反応容器に入れ、5分間撹拌した。前記反応容器を静置し、下から、フルオラス溶媒の有機相、水相、気相に分離させた。そして、前記有機相が黄色になったことにより、二酸化塩素ラジカルの発生を確認した。
【0218】
つぎに、前記反応容器中に、ポリプロピレンペレット(製品名:プライムポリプロ(登録商標)、プライムポリマー株式会社製)3gを投入した。前記ポリプロピレンペレットの形状は、粒状であり、大きさは、直径2~3mm程度であった。前記反応容器中で、前記ポリプロピレンペレットは、前記有機相に沈んだ状態となった。そして、前記反応容器は、その上部に蓋をすることなく、開放系とし、大気中、前記反応容器内に加圧および減圧を行なわず、室温(約25℃)条件下、マグネチックスターラーにより撹拌しながら、波長λ>290nmのキセノンランプ(ウシオ社製 500W、パイレックス(登録商標)ガラスフィルター装着)で、光照射した。具体的には、前記反応容器の側面に対して25cm離れた距離から照射した。そして、光照射開始から30分後に、前記有機相の黄色の着色が消失したことをもって、反応終了とした。原理上、前記ペレットの片面には光が照射されているので、その表面の50%以上の面積が改変されているとみなすことができる。
【0219】
前記改変処理後の改変ポリプロピレンペレットについて、十分に乾燥した後、前記XPS測定を行い、改変により導入された元素を確認した。
【0220】
XPS測定条件を改めて記載する。市販装置(製品名AXIS-NOVA、KmtoS社製)を使用し、測定条件は、X線源として、単色化 AIKa (1486.6ev)を使用し、分析領域は、300μm×700μm(設定値)とした。
【0221】
この測定結果から、常法に基づき、前記改変プロピレンペレットに含まれる元素の組成率(元素%)算出し、16族元素の組成率[Cα]と17族元素の組成率[Cβ]との比を求めた結果、[Cα]/[Cβ]=5.5/0.9=6.1であった。
【0222】
[実施例B3]
前記ポリエチレンプレートに代えて、ポリメチルメタクリレート(PMMA)プレートを使用した以外は、前記実施例B1と同様にして、気相反応系を用いた改変処理を行った。
【0223】
前記PMMAプレート(品番:2-9208-01、アズワン社)は、長さ50mm×幅15mm×厚み1mmのものを使用した。そして、前記光照射後、前記PMMAプレートにおける光照射した表面について、実施例B1と同様にしてIRを行った。また、比較例として、光照射前に、前記PMMAプレートについて、予め、同様にIRを行った。この結果を、図9に示す。図9において、(A)は光照射前の結果であり、(B)は光照射後の結果である。
【0224】
図9に示すように、光照射前の図9(A)と比較して、光照射後の図9(B)では、矢印で示すように、1700cm-1付近が幅広くせり上がっており、肩ピークのブロード化が確認できた。前記ピークは、エステル基(-COOR)、カルボキシ基(-COOH)等に含まれるカルボニル基(-C(=O)-)に対応する。この結果から、前記PMMAプレートにおいて、PMMAの側鎖のメチル基(-CH)等に含まれるC-H結合が、カルボキシ基(-COOH)に酸化され、前記PMMAプレートの表面が改変されていることが確認された。
【0225】
[実施例B4]
前記ポリエチレンプレートに代えて、ポリジメチルシロキサン(PDMS)フィルムを使用した以外は、前記実施例B1と同様にして、気相反応系を用いた改変処理を行った。
【0226】
前記PDMSフィルム(製品名:Sylgard 184、東レ・ダウコーニング社製)は、長さ40mm×幅15mm×厚み1mmのものを使用した。前記光照射後、前記PDMSフィルムにおける光照射した表面について、前記実施例B1と同様にしてIRを行った。また、比較例として、光照射前に、前記PDMSフィルムについて、予め、同様にIRを行った。この結果を、図10に示す。図10において、(A)は光照射前の結果であり、(B)は光照射後の結果である。
【0227】
図10に示すように、光照射前の図10(A)では、1700cm-1付近のピークが見らなかったのに対して、光照射後の図10(B)では、1700cm-1付近のピークが確認できた。前記ピークは、カルボキシ基(-COOH)に対応する。この結果から、前記PDMSフィルムにおいて、PDMSの側鎖のメチル基(-CH)(2900cm-1付近のピーク)およびPDMSの主鎖のC-H結合(2900cm-1付近のピーク)が、カルボキシ基(-COOH)(1700cm-1付近のピーク)に酸化され、前記PDMSフィルムの表面が改変されていることが確認された。
【0228】
[実施例B5]
前記ポリエチレンプレートに代えて、ポリカーボネート(PC)プレートを使用した以外は、前記実施例B1と同様にして、気相反応系を用いた改変処理を行った。
【0229】
前記ポリカーボネート(PC)プレート(品番:2-9226-01、アズワン社)は、長さ50mm×幅15mm×厚み1mmのものを使用した。前記光照射後、前記PCプレートにおける光照射した表面について、前記実施例B1と同様にしてIRを行った。また、比較例として、光照射前に、前記PCプレートについて、予め、同様にIRを行った。この結果を、図11に示す。図11において、(A)は光照射前の結果であり、(B)は光照射後の結果である。
【0230】
図11に示すように、光照射前の図11(A)と比較して、光照射後の図11(B)では、矢印で示すように、1700cm-1付近が幅広くせり上がっており、肩ピークのブロード化が確認できた。前記ピークは、カーボネート基(-O-(C=O)-O-)、カルボキシ基(-COOH)等に含まれるカルボニル基(-C(=O)-)に対応する。この結果から、前記PCプレートにおいて、PCの側鎖のメチル基(-CH)等に含まれるC-H結合が、カルボキシ基(-COOH)に酸化され、前記PCプレートの表面が改変されていることが確認された。
【0231】
[実施例B6]
前記ポリエチレンプレートに代えて、液晶ポリマー(LCP)プレートを使用した以外は、前記実施例B1と同様にして、気相反応系を用いた改変処理を行った。
【0232】
前記LCPプレート(製品名:6030g-mf、上野製薬株式会社製)は、長さ50mm×幅15mm×厚み1mmのものを使用した。前記光照射後、前記LCPプレートにおける光照射した表面について、実施例B1と同様にしてIRを行った。また、比較例として、光照射前に、前記LCPプレートについて、予め、同様にIRを行った。この結果を、図12に示す。図12において、(A)は光照射前の結果であり、(B)は光照射後の結果である。
【0233】
図12に示すように、光照射前の図12(A)と比較して、光照射後の図12(B)では、矢印で示すように、1700cm-1付近が幅広くせり上がっており、肩ピークのブロード化が確認できた。前記ピークは、エステル基(-COOR)、カルボキシ基(-COOH)等に含まれるカルボニル基(-C(=O)-)に対応する。この結果から、前記LCPプレートにおいて、LCPに含まれるC-H結合が、カルボキシ基(-COOH)に酸化され、前記LCPプレートの表面が改変されていることが確認された。
【0234】
以上、実施形態を参照して本発明を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本発明のスコープ内で当業者が理解しうる様々な変更をできる。
【0235】
この出願は、2018年2月5日に出願された日本出願特願2018-018598を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【産業上の利用可能性】
【0236】
以上のように、本発明の目的分子の結合方法によれば、まず、前記前処理工程において、前記ポリマー成形体の選択表面に、前記化合物ラジカルの存在下、光照射するのみで、容易に、前記ポリマー成形体に選択的な改変を行うことができる。これにより、前記ポリマー成形体の表面のうち前記選択表面を、他の非選択表面とは異なる反応性に改質できる。このため、本発明によれば、前記前処理後のポリマー成形体の表面における前記選択表面と前記非選択表面との反応性の違いを利用して、前記結合工程において、前記選択表面に、前記目的分子を選択的に結合させることができる。
【符号の説明】
【0237】
1 有機層(有機相)
2 水層(水相)
3 気相
4 反応容器
5 プレート
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22