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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-27
(45)【発行日】2024-06-04
(54)【発明の名称】がん及び神経変性疾患の検出方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/53 20060101AFI20240528BHJP
   G01N 33/543 20060101ALI20240528BHJP
   C12Q 1/04 20060101ALI20240528BHJP
   C07K 16/28 20060101ALN20240528BHJP
   C07K 14/47 20060101ALN20240528BHJP
【FI】
G01N33/53 S ZNA
G01N33/543 501A
C12Q1/04
C07K16/28
C07K14/47
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020099734
(22)【出願日】2020-06-09
(65)【公開番号】P2021012189
(43)【公開日】2021-02-04
【審査請求日】2023-05-11
(31)【優先権主張番号】P 2019124875
(32)【優先日】2019-07-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業(CREST)「レクチン工学を基礎としたエクソソーム糖鎖解析技術の開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【弁護士】
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】100119183
【弁理士】
【氏名又は名称】松任谷 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【弁理士】
【氏名又は名称】梅田 慎介
(72)【発明者】
【氏名】舘野 浩章
【審査官】海野 佳子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/099925(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0203014(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0049435(US,A1)
【文献】国際公開第2018/094120(WO,A1)
【文献】Huiying Xu et al.,Magnetic-Based Microfluidic Device for On-Chip Isolation and Detection of Tumor-Derived Exosomes,Analytical Chemistry,2018年,vol.90, no.22,pp.13451-13458,https://doi.org/10.1021/acs.analchem.8b03272,DOI:10.1021/acs.analchem.8b03272
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象における神経変性疾患を検出する方法であって、
対象から採取された血液試料中の、Tim4結合性であり、かつ、CD9、CD41、CD61及びCD63からなる群から選択されるいずれか1以上が陽性である細胞外小胞の量を測定する手順と、
細胞外小胞量が所定の閾値以上である場合に、対象における神経変性疾患を検出する手順と、
を含む方法。
【請求項2】
前記細胞外小胞は、CD9、CD41、CD61及びCD63がいずれも陽性である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記神経変性疾患が、アルツハイマー病、うつ又は統合失調症である、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
対象における神経変性疾患を検出する方法であって、
対象から採取された、血液試料を、第一のプローブが固相化された支持体表面に接触させる手順と、
第二のプローブを、支持体表面に接触させる手順と、
第一のプローブと第二のプローブを含んでなる複合体の量を測定する手順と、
測定値が所定の閾値以上である場合に、対象における神経変性を検出する手順と、を含み、
第一のプローブがTim4であり、第二のプローブが抗CD9抗体、抗CD41抗体、抗CD61抗体及び抗CD63抗体からなる群より選択される、方法。
【請求項5】
経変性疾患の診断キットであって、
支持体表面に固相化される第一のプローブと、
第二のプローブと、を含んでなり、
第一のプローブがTim4であり、第二のプローブが抗CD9抗体、抗CD41抗体、抗CD61抗体及び抗CD63抗体からなる群より選択される、キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象におけるがん及び神経変性疾患の検出方法及び診断キットに関する。より詳しくは、対象から採取された血液試料中の細胞外小胞の量を指標としてがん及び神経変性疾患を検出する方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
血中に出現する疾患特異的な細胞外小胞(エクソソーム)の検出による診断技術が開発されている。例えば、非特許文献1には、血中のCD147/CD9陽性エクソソームの検出によ
る大腸がんの診断技術が報告されている。また、非特許文献2は、前立腺特異的エクソソームを報告している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】"Ultra-sensitive liquid biopsy of circulating extracellular vesicles using ExoScreen", Nature Communications, 2014, 5: 3591
【文献】"Isolation of prostate cancer-related exosomes", Anticancer Res. 2014, 34, 3419-3423
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、血中エクソソームの検出に基づく新規診断技術を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題解決のため、本発明は、以下の[1]-[13]を提供する。
[1] 対象におけるがん又は神経変性疾患を検出する方法であって、
対象から採取された血液試料中の、Tim4結合性であり、かつ、CD9、CD41、CD61及びCD63からなる群から選択されるいずれか1以上が陽性である細胞外小胞の量を測定する手順と、
細胞外小胞量が所定の閾値以上である場合に、対象におけるがん又は神経変性疾患を検出する手順と、
を含む方法。
[2] 前記細胞外小胞は、CD9、CD41、CD61及びCD63がいずれも陽性である、[1]の方法。
[3] 前記神経変性疾患が、アルツハイマー病、うつ又は統合失調症である、[1]又は[2]の方法。
[4] 前記がんが、結腸がん、膀胱がん、乳がん、非小細胞肺がん、胃がん、膵管腺がん、非ホジキンリンパ腫、子宮頸がん、直腸腺がん、肝細胞がん、甲状腺がん、前立腺がん、子宮体がん、食道がん、卵巣がん、胆管がん、膵がん、黒色腫及び慢性骨髄性白血病からなる群から選択される1以上である、[1]又は[2]の方法。
【0006】
[5] 対象におけるがん又は神経変性疾患を検出する方法であって、
対象から採取された血液試料を、第一のプローブが固相化された支持体表面に接触させる手順と、
第二のプローブを、支持体表面に接触させる手順と、
第一のプローブと第二のプローブを含んでなる複合体の量を測定する手順と、
測定値が所定の閾値以上である場合に、対象におけるがん又は神経変性を検出する手順と、を含み、
第一のプローブ及び第二のプローブが、Tim4、抗CD9抗体、抗CD41抗体、抗CD61抗体、抗CD63抗体、TxLC1レクチン及びDSAレクチンからなる群よりそれぞれ選択される、方法。
[6] 前記神経変性疾患が、アルツハイマー病、うつ又は統合失調症である、[5]の方法。
[7] 前記がんが、結腸がん、膀胱がん、乳がん、非小細胞肺がん、胃がん、膵管腺がん、非ホジキンリンパ腫、子宮頸がん、直腸腺がん、肝細胞がん、甲状腺がん、前立腺がん、子宮体がん、食道がん、卵巣がん、胆管がん、膵がん、黒色腫及び慢性骨髄性白血病からなる群から選択される1以上である、[5]又は[6]の方法。
【0007】
[8] がん又は神経変性疾患の診断キットであって、
支持体表面に固相化される第一のプローブと、
第二のプローブと、を含んでなり、
第一のプローブ及び第二のプローブが、Tim4、抗CD9抗体、抗CD41抗体、抗CD61抗体、抗CD63抗体、TxLC1レクチン及びDSAレクチンからなる群よりそれぞれ選択される、キット。
[9] 前記神経変性疾患が、アルツハイマー病、うつ又は統合失調症である、[5]のキット。
[10] 前記がんが、結腸がん、膀胱がん、乳がん、非小細胞肺がん、胃がん、膵管腺がん、非ホジキンリンパ腫、子宮頸がん、直腸腺がん、肝細胞がん、甲状腺がん、前立腺がん、子宮体がん、食道がん、卵巣がん、胆管がん、膵がん、黒色腫及び慢性骨髄性白血病からなる群から選択される1以上である、[5]又は[6]のキット。
【0008】
[11] Tim4結合性であり、かつ、CD9、CD41、CD61及びCD63からなる群から選択されるいずれか1以上が陽性である細胞外小胞の、対象におけるがん又は神経変性疾患を検出するための使用。
[12] Tim4、抗CD9抗体、抗CD41抗体、抗CD61抗体、抗CD63抗体、TxLC1レクチン又はDSAレクチンの、対象におけるがん又は神経変性疾患を検出するための使用。
[13] Tim4、抗CD9抗体、抗CD41抗体、抗CD61抗体、抗CD63抗体、TxLC1レクチン又はDSAレクチンの、対象におけるがん又は神経変性疾患の診断キットの製造のための使用。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、血中エクソソームの検出に基づく新規診断技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】アルツハイマー病、うつ及び統合失調症の患者の血清中のTim4結合性、かつ、CD9陽性、CD41陽性、CD61陽性又はCD63陽性のエクソソームをウェスタンブロットで検出した結果を示す図である。「HD」は健常者を示す。
図2】がん患者の血清中のTim4結合性かつCD9陽性のエクソソームをウェスタンブロットで検出した結果を示す図である。
図3】がん患者の血清中のTim4結合性かつCD61陽性のエクソソームをウェスタンブロットで検出した結果を示す図である。
図4】アルツハイマー病、うつ、統合失調症及び膵管腺がんの患者の血清中のTim4結合性、かつ、CD9陽性、CD41陽性、CD61陽性又はCD63陽性のエクソソームをフローサイトメトリーで検出した結果を示す図である。「normal」は健常者、「ALZ」はアルツハイマー病患者、「Dp」はうつ患者、「Sch」は統合失調症患者を示す。
図5】Tim4-抗CD9抗体サンドイッチELISAにより、健常者、神経変性疾患患者及びがん患者の血清中のTim4結合性かつCD9陽性のエクソソームを定量した結果を示すグラフである。「normal」は健常者を示す。
図6】Tim4-抗CD41抗体サンドイッチELISAにより、健常者、神経変性疾患患者及びがん患者の血清中のTim4結合性かつCD41陽性のエクソソームを定量した結果を示すグラフである。「normal」は健常者を示す。
図7】Tim4-抗CD61抗体サンドイッチELISAにより、健常者、神経変性疾患患者及びがん患者の血清中のTim4結合性かつCD61陽性のエクソソームを定量した結果を示すグラフである。「normal」は健常者を示す。
図8】Tim4-抗CD63抗体サンドイッチELISAにより、健常者、神経変性疾患患者及びがん患者の血清中のTim4結合性かつCD63陽性のエクソソームを定量した結果を示すグラフである。「normal」は健常者を示す。
図9】Tim4-抗CD63抗体サンドイッチELISAにより、健常者及び各種神経変性疾患患者の血清中のTim4結合性かつCD63陽性のエクソソームを定量した結果を示すグラフである。「normal」は健常者を示す。
図10】抗CD41抗体-TxLC1レクチンサンドイッチELISAにより、健常者、神経変性疾患患者及びがん患者の血清中のTim4結合性かつCD41陽性のエクソソームを定量した結果を示すグラフである。「normal」は健常者を示す。
図11】抗CD41抗体-DSAレクチンサンドイッチELISAにより、健常者、神経変性疾患患者及びがん患者の血清中のTim4結合性かつCD41陽性のエクソソームを定量した結果を示すグラフである。「normal」は健常者を示す。
図12】抗CD41抗体-DSAレクチンサンドイッチELISAにより、血清中のTim4結合性かつCD41陽性のエクソソームを定量した結果を示すグラフである。(A)は健常者と各種神経変性疾患患者の結果を、(B)は健常者とアルツハイマー病患者の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための好適な形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0012】
1.がん又は神経変性疾患の検出方法
本発明に係るがん又は神経変性疾患の検出方法は、以下の手順(1)及び(2)を含む。
(1)対象から採取された血液試料中の、Tim4結合性であり、かつ、CD9、CD41、CD61及びCD63からなる群から選択されるいずれか1以上が陽性である細胞外小胞の量を測定する手順。
(2)細胞外小胞量が所定の閾値以上である場合に、対象におけるがん又は神経変性疾患を検出する手順。
以下、細胞外小胞を「エクソソーム」とも称し、Tim4結合性であり、かつ、CD9、CD41、CD61及びCD63からなる群から選択されるいずれか1以上が陽性である細胞外小胞を「マーカーエクソソーム」とも称する。
【0013】
1-1.測定手順
対象は、特に限定されず、ヒトを含む哺乳類あるいは鳥類であり、好ましくはヒトである。
血液試料は、全血、血清及び血漿であってよく、好ましくは血清である。
【0014】
マーカーエクソソームの量の測定は、血液試料からエクソソームを分離した後に行っても、分離を行うことなく行ってもよい。エクソソームの分離は、従来公知の手法によって行えばよく、例えばエクソソーム結合性分子を固相化した磁気ビーズを用いた手法を採用できる。エクソソーム結合性分子を固相化した磁気ビーズとしては、Tim4(T-cell immunoglobulin domain and mucin domain-containing protein 4)を固相化した磁気ビーズが市販されている(MagCaptureTM Exosome Isolation Kit PS、富士フイルム和光純薬
、293-77601)。磁気ビーズには、エクソソーム結合性分子として、Tim4に替えて、抗CD9抗体、抗CD41抗体、抗CD61抗体、抗CD63抗体、TxLC1レクチン及びDSAレクチンのいずれか1以上を固相化してもよい。
【0015】
マーカーエクソソームの量の測定は、従来公知の手法によって行えばよく、例えばウェスタンブロット、ELISA及びフローサイトメトリー等を採用できる。
ELISAは、一般的に以下の手順によって行うことができる。
(A)対象から採取された血液試料を、第一のプローブ(捕捉プローブ)が固相化された支持体表面に接触させ、捕捉プローブとマーカーエクソソームを含んでなる複合体を形成させる手順。
(B)第二のプローブ(検出プローブ)を、支持体表面に接触させて、捕捉プローブとマーカーエクソソームと検出プローブとを含んでなる複合体を形成させる手順。
(C)第一のプローブとマーカーエクソソームと第二のプローブとを含んでなる複合体の量を測定する手順。
【0016】
本発明において、捕捉プローブには、Tim4、抗CD9抗体、抗CD41抗体、抗CD61抗体、抗CD63抗体、TxLC1レクチン及びDSAレクチンから選択されるいずれか一以上が用いられる。また、検出プローブにも、Tim4、抗CD9抗体、抗CD41抗体、抗CD61抗体、抗CD63抗体、TxLC1レクチン(配列番号1)及びDSAレクチン(配列番号2)から選択されるいずれか一以上を用いることができる。
捕捉プローブと検出プローブには、互いに異なるものを用いることが好ましい。
特に限定されないが、例えば、捕捉プローブにTim4を、検出プローブに抗CD9抗体、抗CD41抗体、抗CD61抗体及び抗CD63抗体のいずれかを用いることができる。あるいは、捕捉プローブに抗CD41抗体を、検出プローブにTxLC1レクチン及びDSAレクチンを用いることができる。
【0017】
捕捉プローブが固相化される支持体は、特に限定されないが、プラスチック製のマイクロウェルプレートが好適に用いられ得る。捕捉プローブを固相化したマイクロウェルプレートとして、Tim4を固相化したマイクロウェルプレートが市販されている(Tim4-Fc固定化プレート、富士フイルム和光純薬)。
【0018】
血液試料を支持体表面に接触させ、捕捉プローブとマーカーエクソソームを含んでなる複合体を形成させる。その後、必要に応じて支持体表面を洗浄した後、検出プローブを支持体表面に接触させ、捕捉プローブとマーカーエクソソームと検出プローブとを含んでなる複合体を形成させる。この後、必要に応じて支持体表面の洗浄をさらに行ってもよい。
【0019】
捕捉プローブとマーカーエクソソームと検出プローブとを含んでなる複合体の量は、検出プローブに標識された物質からの信号に基づいて光学的に測定することができる。あるいは、検出プローブが抗体である場合には、複合体中の検出抗体にさらに2次抗体を結合させて、この2次抗体に標識された物質からの信号に基づいて、複合体の量を測定してもよい。
標識物質には、従来公知の酵素や蛍光タンパク質を用いればよく、例えばペルオキシダーゼを用いることができる。
また、2次抗体には、検出プローブに用いられる抗体の由来動物種に応じて、当該動物種のイムノグロブリンに対する抗体が用いられる。
【0020】
1-2.検出手順
捕捉プローブとマーカーエクソソームと検出プローブとを含んでなる複合体の量(すなわち、マーカーエクソソームの量)が所定の閾値以上である場合、対象におけるがん又は神経変性疾患が検出される。
マーカーエクソソームは、Tim4結合性であり、かつ、CD9、CD41、CD61及びCD63からなる群から選択されるいずれか1以上が陽性である。マーカーエクソソームは、CD9、CD41、CD61及びCD63からなる群から選択されるいずれか2以上が陽性であることが好ましく、より好ましくは3以上、さらに好ましくは全てが陽性である。
【0021】
神経変性疾患は、アルツハイマー病、うつ又は統合失調症であり、睡眠障害、双極性障害、てんかん、発達障害、PTSD、摂食障害及び適応障害が含まれ得る。神経変性疾患は、特に好ましくはアルツハイマー病である。
【0022】
がんは、結腸がん、膀胱がん、乳がん、非小細胞肺がん、胃がん、膵管腺がん、非ホジキンリンパ腫、子宮頸がん、直腸腺がん、肝細胞がん、甲状腺がん、前立腺がん、子宮体がん、食道がん、卵巣がん、胆管がん、膵がん、黒色腫及び慢性骨髄性白血病からなる群から選択される1以上である。
【0023】
閾値は、血液試料のマーカーエクソソームの量に基づいて健常者と患者とを区別可能な値として、検出系毎及び具体的な疾患毎に適宜設定され得るものである。
例えば閾値は、健常者の血液試料中のマーカーエクソソーム量の平均値、中央値又は最頻値の1.5倍、1.8倍、2倍、3倍、4倍、5倍、好ましくは6倍、7倍、8倍、9倍、10倍、より好ましくは20倍、30倍、40倍、50倍である。あるいは、閾値は、健常者の血液試料中のマーカーエクソソーム量の最大値、又はその1.1倍、1.2倍、1.3倍、1.4倍、1.5倍、2倍、好ましくは3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、より好ましくは8倍、9倍、10倍、20倍である。
より具体的には、検出系として捕捉プローブにTim4を、検出プローブに抗CD63抗体を用いたELISA(Tim4-抗CD63抗体サンドイッチELISA)を用いる場合、健常者のマーカーエクソソームの量は545-2800 ng/mLであり、がん又は神経変性疾患のマーカーエクソソームの量はいずれも4400 ng/mL以上を示した。したがって、閾値は、例えば健常者の最大値の1.5倍である4200 ng/ml、好ましくは1.8倍である5040 ng/ml、より好ましくは2倍である5600 ng/mlに設定され得る。
検出系として捕捉プローブにTim4を、検出プローブに抗CD9抗体を用いたELISA(Tim4-抗CD9抗体サンドイッチELISA)を用いる場合、健常者のマーカーエクソソームの量は20,100 ng/mL未満であった。したがって、閾値は、例えば20,100 ng/mLである。
【0024】
また、検出系として捕捉プローブにTim4を、検出プローブに抗CD41抗体を用いたELISA(Tim4-抗CD41抗体サンドイッチELISA)を用いた場合、ELISAでの吸光強度(OD450/620)は、健常者で0.24未満であった。したがって、閾値は、例えば吸光強度で0.24である。
検出系として捕捉プローブにTim4を、検出プローブに抗CD61抗体を用いたELISA(Tim4-抗CD61抗体サンドイッチELISA)を用いた場合、ELISAでの吸光強度(OD450/620)は、健常者で0.4未満であった。したがって、閾値は、例えば吸光強度で0.4である。
検出系として捕捉プローブに抗CD41抗体を、検出プローブにTxLC1レクチンを用いたELISA(抗CD41抗体-TxLC1レクチンサンドイッチELISA)を用いた場合、ELISAでの吸光強度(OD450/620)は、健常者で0.18未満であった。したがって、閾値は、例えば吸光強度で0.18である。
検出系として捕捉プローブに抗CD41抗体を、検出プローブにDSAレクチンを用いたELISA(抗CD41抗体-DSAレクチンサンドイッチELISA)を用いた場合、ELISAでの吸光強度(OD450/620)は、健常者で0.06未満であった。したがって、閾値は、例えば吸光強度で0.06である。
【0025】
2.がん又は神経変性疾患の診断キット
本発明は、上述した、第一のプローブ(捕捉プローブ)と、第二のプローブ(検出プローブ)と、を含んでなるがん又は神経変性疾患の診断キットをも提供する。
本発明に係る診断キットには、捕捉プローブと検出プローブに加えて、捕捉プローブが固相化される支持体、検出プローブ(抗体)に結合させる標識2次抗体及び標識物質(酵素)の基質などが含まれていてもよい。
【実施例
【0026】
1.材料と方法
[血清および細胞外小胞]
健常者及び患者の血清は、BioreclamationIVTから購入した。
T-cell immunoglobulin domain and mucin domain-containing protein 4(Tim4)タンパク質を固相化した磁気ビーズを用いて、血清から細胞外小胞を分離した。細胞外小胞の分離は、キット(MagCaptureTM Exosome Isolation Kit PS、富士フイルム和光純薬、293-77601)に添付の指示書に従って行った。分離した細胞外小胞は、吸着防止剤(Exocap Ultracentrifugation Storage Booster、MBLサイエンス、MEK-USB)を添加して-80℃で保存した。
【0027】
[フローサイトメトリー]
細胞外小胞を結合したTim4磁気ビーズを、それぞれ蛍光標識した抗CD9抗体(Invitrogen、10626D)、抗CD41抗体(R&D、MAB7616)、抗CD61抗体(R&D、MAB2266)及び抗CD63抗体(富士フイルム和光純薬、297-79201、又は、コスモバイオ、SHI-EXO-MO2)で染色し、フローサイトメトリー(CytoFLEX, Beckman)により検出した。フローサイトメトリーによる検出は、市販のキット(PS Captur Exosome Flow Cytometry Kit, 富士フイルム和光純薬)を用いて、キット添付の指示書に従って行った。
【0028】
[ウェスタンブロット]
細胞外小胞0.15 μg/laneを5-20%グラジエントゲル(DRC、NTH-671HP)で電気泳動後、PVDF膜(BIO-RAD、162-0176)にブロットした。1次抗体を4℃一晩、さらにペルオキシダーゼ標識2次抗体を室温1時間反応させた後、Western Lighting Plus(PerkinElmer、NEL104001EA)を用いて検出を行った。
【0029】
[Tim4-抗体サンドイッチELISA]
1%BSAを添加した反応/洗浄液(富士フイルム和光純薬)で100倍希釈した血清100 μL/wellをTim4-Fc固定化プレート(富士フイルム和光純薬)にアプライした。約500 rpmで攪拌しながら室温2時間反応させた。
反応/洗浄液で洗浄後、1%BSAを添加した反応/洗浄液で希釈した1次抗体を100 μL/wellアプライした。約500 rpmで攪拌しながら室温1時間反応させた。
反応/洗浄液で洗浄後、1%BSAを添加した反応/洗浄液で希釈したペルオキシダーゼ標識2次抗体100 μL/wellをアプライした。室温1時間反応させた。2次抗体には、Peroxidase-conjugated Affinipure Goat Anti-Mouse IgG (H+L) (JIR、115-035-003)又はPeroxidase-conjugated AffiniPure Donkey Anti-Goat IgG (H+L) (JIR、705-035-003)を用いた。
反応/洗浄液で洗浄後、TMB Solution(富士フイルム和光純薬)100 μL/wellをアプライした。室温30分反応させた。
Stop Solution(富士フイルム和光純薬)100 μL/wellをアプライして、励起/検出波長450/620 nmで測定した。
【0030】
[抗CD41抗体-レクチンサンドイッチELISA]
アビジンプレート(住友ベークライト)にビオチン化抗CD41抗体(1 μg/mL)50 μL/wellをアプライした。室温1時間インキュベートした。
PBS/0.1% Tween20で洗浄後、100倍希釈した血清50 μL/wellをアプライした。室温1時間反応させた。
PBS/0.1% Tween20で洗浄後、ペルオキシダーゼ標識したTxLC1レクチン(1 μg/mL)又はDSAレクチン(2 μg/mL)50 uLをアプライした。室温1時間反応させた。
PBS/0.1% Tween20で洗浄後、TMB Solution(富士フイルム和光純薬製)50 μL/wellをアプライした。室温30分反応させた。
1N HCL 50 μLで反応を停止させ、励起/検出波長450/620 nmで測定した。
【0031】
2.結果
[ウェスタンブロットによる細胞外小胞の検出]
Tim4磁気ビーズを用いて血清から分離した細胞外小胞に対して、抗CD9抗体(Invitrogen、10626D)、抗CD41抗体(R&D、MAB7616)、抗CD61抗体(R&D、MAB2266)及び抗CD63抗体(富士フイルム和光純薬、297-79201、又は、コスモバイオ、SHI-EXO-MO2)を一次抗体に用いてウェスタンブロットを行った。また、細胞外小胞を結合したTim4磁気ビーズを、蛍光標識した上記抗体で染色し、フローサイトメトリーにより検出した。
結果を図1-4に示す。
アルツハイマー病、うつ及び統合失調症の患者の血清において、Tim4結合性であり、かつ、CD9陽性、CD41陽性、CD61陽性又はCD63陽性である細胞外小胞(マーカーエクソソーム)が、健常者の血清に比して高いレベルで検出された(図1、4参照)。
さらに、上記細胞外小胞は、各種がんの患者血清でも検出された(図2-4参照)。
この結果から、血清中のTim4結合性であり、かつ、CD9陽性、CD41陽性、CD61陽性又はCD63陽性である細胞外小胞が、アルツハイマー病、うつ及び統合失調症等の特定の疾患のマーカーとなり得ることが明らかとなった。
【0032】
[Tim4-抗体サンドイッチELISAによる細胞外小胞の検出]
抗CD9抗体(Invitrogen、10626D)、抗CD41抗体(R&D、MAB7616)、抗CD61抗体(R&D、MAB2266)及び抗CD63抗体(富士フイルム和光純薬、297-79201、又はコスモバイオ、SHI-EXO-MO2)を一次抗体に用いてサンドイッチELISAを行った。
結果を図5-8に示す。
Tim4結合性であり、かつ、CD9陽性、CD41陽性、CD61陽性又はCD63陽性である細胞外小胞が、がん、アルツハイマー病、うつ及び統合失調症の患者血清において、健常者の血清に比して高いレベルで検出された。
【0033】
CD9、CD41、CD61、CD63及びCD81に対する一次抗体をそれぞれ用いたELISAで得られた検出強度間の相関係数を「表1」に示す。CD9、CD41、CD61及びCD63に対する抗体によるELISAで得られた検出強度は互いに高い相関(相関係数>0.7)を示した。一方、CD81に対する抗体(コスモバイオ、SHI-EXO-MO3)によるELISAで得られた検出強度には、このような相関は認められなかった。この結果から、CD9、CD41、CD61及びCD63に対する抗体をそれぞれ用いたELISAで検出されているエクソソームは、CD9+/CD41+/CD61+/CD63+のエクソソームであることが示唆された。
【0034】
【表1】
【0035】
[種々の神経変性疾患における検討]
アルツハイマー病、うつ及び統合失調症以外の神経変性疾患の患者血清についてもTim4-CD63抗体サンドイッチELISAによる検討を行った。
結果を図9に示す。
睡眠障害、双極性障害、てんかん、発達障害、PTSD、摂食障害及び適応障害の患者血清においても、Tim4結合性であり、かつ、CD9陽性、CD41陽性、CD61陽性又はCD63陽性である細胞外小胞が検出され、該細胞外小胞がこれらの神経変性疾患のマーカーにもなり得ることが明らかとなった。
【0036】
[抗CD41抗体-レクチンサンドイッチELISAによる細胞外小胞の検出]
健常者、神経変性疾患患者及びがん患者の血清に対して、抗CD41抗体と、TxLC1レクチン又はDSAレクチンと、を用いてサンドイッチELISAを行った。
結果を図10及び図11に示す。
TxLC1レクチン及びDSAレクチンを用いても、マーカーエクソソームを、がん、アルツハイマー病、うつ及び統合失調症の患者血清中で検出できることが明らかになった。
【0037】
さらに、神経変性疾患患者について、アルツハイマー病、うつ及び統合失調症の患者の検体数を増やすとともに、睡眠障害、双極性障害、てんかん、発達障害、PTSD、摂食障害及び適応障害の患者を加えて、同様に血清に対するサンドイッチELISAを行った。
結果を図12に示す。
アルツハイマー病、うつ、統合失調症睡眠障害、双極性障害、てんかん、発達障害、PTSD、摂食障害及び適応障害の患者血清においても、Tim4結合性であり、かつ、CD9陽性、CD41陽性、CD61陽性又はCD63陽性である細胞外小胞が検出され、該細胞外小胞がこれらの神経変性疾患のマーカーにもなり得ることが明らかとなった(図12(A)参照)。
特にアルツハイマー病患者血清では、健常者血清に比してマーカーエクソソームの量が有意に高かった(図12(B)参照)。アルツハイマー病患者では、血清中のマーカーエクソソームの量が吸光強度(主波長450nm, 副波長620nm)で約0.5を超える患者が多く認められ、吸光強度の最大値は1.83であった。一方、健常者血清中のマーカーエクソソームの量は吸光強度で最大で0.11までの範囲であった。したがって、アルツハイマー病患者と健常者を鑑別するための閾値は、吸光強度で1.1を超える値、あるいは0.11-0.5の範囲内の値(例えば、0.2、0.3又は0.4)に設定され得ることが明らかとなった。
【0038】
各アルツハイマー病患者の性、年齢、人種及び認知症スクリーニング検査結果(Mini Mental State Examination: MMSEスコア)を「表2」に示す。一般に軽度とされるスコア26-20の患者においてもマーカーエクソソーム量の顕著な上昇が認められたことから、マーカーエクソソームがアルツハイマー病の早期診断のために有用である可能性が示された。
【0039】
【表2】
【配列表フリーテキスト】
【0040】
配列番号1:TxLC1レクチンのアミノ酸配列
配列番号2:DSAレクチンのアミノ酸配列
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
【配列表】
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