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特許7495226磁気ディスク用アルミニウム合金基板及びその製造方法、並びに磁気ディスク用アルミニウム合金基板を用いた磁気ディスク
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-27
(45)【発行日】2024-06-04
(54)【発明の名称】磁気ディスク用アルミニウム合金基板及びその製造方法、並びに磁気ディスク用アルミニウム合金基板を用いた磁気ディスク
(51)【国際特許分類】
   G11B 5/73 20060101AFI20240528BHJP
   C22C 21/00 20060101ALI20240528BHJP
   C22C 21/10 20060101ALI20240528BHJP
   C22C 21/12 20060101ALI20240528BHJP
   G11B 5/84 20060101ALI20240528BHJP
【FI】
G11B5/73
C22C21/00 M
C22C21/10
C22C21/12
G11B5/84 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019228148
(22)【出願日】2019-12-18
(65)【公開番号】P2020102294
(43)【公開日】2020-07-02
【審査請求日】2022-07-26
(31)【優先権主張番号】P 2018238840
(32)【優先日】2018-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000107538
【氏名又は名称】株式会社UACJ
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(74)【代理人】
【識別番号】100143959
【弁理士】
【氏名又は名称】住吉 秀一
(72)【発明者】
【氏名】畠山 英之
(72)【発明者】
【氏名】戸田 貞行
(72)【発明者】
【氏名】藤井 康生
(72)【発明者】
【氏名】米光 誠
(72)【発明者】
【氏名】村田 拓哉
【審査官】川中 龍太
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/143177(WO,A1)
【文献】特開2012-099179(JP,A)
【文献】特開平11-269593(JP,A)
【文献】特開2011-179100(JP,A)
【文献】特開平06-084170(JP,A)
【文献】特開2000-212586(JP,A)
【文献】特開2018-032450(JP,A)
【文献】特開2018-059180(JP,A)
【文献】特開2013-218765(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B 5/62 - 5/82
G11B 5/84 - 5/858
C22C 21/00
C22C 21/10
C22C 21/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム(Al)と、鉄(Fe):0.4 ~3.0mass%と、銅(Cu):0.003~3.0mass%と、亜鉛(Zn):0.005~1.000mass%と、ケイ素(Si):0.1~0.4mass%、マグネシウム(Mg):0.1~0.4mass%、ニッケル(Ni):0.1~3.0mass%、クロム(Cr):0.01~1.00mass%、マンガン(Mn):0.1~3.0mass%及びジルコニウム(Zr):0.01~1.00mass%からなる群から選択される少なくとも1種の金属と、を含有するアルミニウム合金基材を用意する工程と、
用意された前記アルミニウム合金基材を研削加工する研削工程と、
を含む、めっき前に前記研削工程にて酸化膜厚の低減処理がされた前記酸化膜厚が100
nm以下である磁気ディスク用アルミニウム合金基板の製造方法であって、
前記研削工程にて、下記5つの研削加工の条件
(i)界面活性剤の割合が0.02~0.2mass%である研削液を用いる、
(ii)前記アルミニウム合金基材表面に加わる砥石からの応力を50~150gf/cmに調整する、
(iii)前記アルミニウム合金基材表面と砥石の相対速度を10~300m/mimに調整する、
(iv)粒度800~4000番の砥石を用いる、
(v)前記アルミニウム合金基材1枚あたりの研削液の流量を100~1000mL/mimに調整する、
のうち、少なくとも3つの条件を満たした状態で前記研削加工を行う、磁気ディスク用アルミニウム合金基板の製造方法。
【請求項2】
前記(i)界面活性剤の割合が0.02~0.2mass%である研削液を用いる条件を満たした状態で前記研削加工を行う請求項に記載の磁気ディスク用アルミニウム合金基板の製造方法。
【請求項3】
前記(ii)前記アルミニウム合金基材表面に加わる砥石からの応力を50~150gf/cmに調整する条件を満たした状態で前記研削加工を行う請求項に記載の磁気ディスク用アルミニウム合金基板の製造方法。
【請求項4】
前記(iii)前記アルミニウム合金基材表面と砥石の相対速度を10~300m/mimに調整する条件を満たした状態で前記研削加工を行う請求項に記載の磁気ディスク用アルミニウム合金基板の製造方法。
【請求項5】
前記(iv)粒度800~4000番の砥石を用いる条件を満たした状態で前記研削加工を行う請求項に記載の磁気ディスク用アルミニウム合金基板の製造方法。
【請求項6】
前記(v)前記アルミニウム合金基材1枚あたりの研削液の流量を100~1000mL/mimに調整する条件を満たした状態で前記研削加工を行う請求項に記載の磁気ディスク用アルミニウム合金基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高強度、且つ良好なフラッタリング特性を有する磁気ディスク用アルミニウム合金基板及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コンピュータの記憶装置に用いられる磁気ディスクは、良好なめっき性を有するとともに機械的特性や加工性に優れる基板を用いて製造される。例えば、JIS5086(Mg:3.5~4.5mass%、Fe:0.50mass%以下、Si:0.40mass%以下、Mn:0.20~0.70mass%、Cr:0.05~0.25mass%、Cu:0.10mass%以下、Ti:0.15mass%以下及びZn:0.25mass%以下を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなる)によるアルミニウム合金から形成した磁気ディスク用アルミニウム合金基板などから、磁気ディスクが製造される。
【0003】
磁気ディスクの製造方法としては、例えば、先ず、アルミニウム合金から円環状のアルミニウム合金基材を作製し、該アルミニウム合金基材に対して研削加工等の処理をしてアルミニウム合金基板を作製する。次に、得られたアルミニウム合金基板にめっきを施した後、該アルミニウム合金基板の表面に磁性体を付着させることで、磁気ディスクを製造することができる。
【0004】
例えば、前記JIS5086合金によるアルミニウム合金製磁気ディスクは以下の工程により製造される。まず、所定の化学成分としたアルミニウム合金を鋳造し、その鋳塊を熱間圧延し、次いで冷間圧延を施し、磁気ディスクとして必要な厚さを有する圧延材を作製する。この圧延材には、必要に応じて冷間圧延の途中等に焼鈍を施すことが好ましい。次に、この圧延材を円環状に打抜き、前記圧延工程により生じた歪み等を除去するため、円環状としたアルミニウム合金の圧延材を積層し、両端部の両面から加圧しつつ焼鈍を施して平坦化する加圧焼鈍を行って、円環状のアルミニウム合金基材が作製される。
【0005】
このようにして作製された円環状のアルミニウム合金基材に、切削加工、研削加工、脱脂、エッチング及びジンケート処理(Zn置換処理)を施して、磁気ディスク用アルミニウム合金基板を作製する。次いで、磁気ディスク用アルミニウム合金基板の下地処理として、硬質非磁性金属であるNi-Pを無電解めっきし、該めっき表面にポリッシングを施した後に、Ni-P無電解めっき表面に磁性体をスパッタリングしてアルミニウム合金製の磁気ディスクが製造される。
【0006】
また、アルミニウム合金製の磁気ディスクとして、最大長さが5μmを超える金属間化合物が1個/mm以下であり、かつ平均結晶粒径が20μm以下である磁気ディスクが提案されている(特許文献1)。特許文献1では、Ni-Pめっき性に優れ、微小うねりの発生が防止されることで、磁気ディスクの高密度化を図っている。
【0007】
ところで、近年、磁気ディスクには、マルチメディア等のニーズから、さらなる大容量化、高密度化、高速化が求められている。大容量化のため、記憶装置に搭載される磁気ディスクの枚数が増加しており、それに伴い磁気ディスクの薄肉化も求められている。しかしながら、磁気ディスク用アルミニウム合金基板を薄肉化すると機械的強度が低下してしまうため、アルミニウム合金基板の高強度化が求められている。
【0008】
また、磁気ディスクの大容量化に伴う薄肉化や高速化によって、磁気ディスクの剛性の低下や高速回転による流体力の増加に応じた励振力の増加により、ディスク・フラッタが発生し易くなる。ディスク・フラッタは、磁気ディスクを高速回転させると不安定な気流が磁気ディスク間に発生し、その気流により磁気ディスクの振動(フラッタリング)が発生することに起因する。このような現象は、アルミニウム合金基板の剛性が低いと磁気ディスクの振動が大きくなり、読み取り部であるヘッドがその変化に十分追従できないために発生するものと考えられる。フラッタリングが起きると、ヘッドの位置決め誤差が増加する。また、磁気ディスクの高密度化により、1ビット当たりの磁気領域が益々微小化されることになる。磁気領域の微細化に伴い、ヘッドの位置決め誤差のズレによる読み取りエラーが発生することがある。従って、ヘッドの位置決め誤差の主要因であるディスク・フラッタの防止が強く求められている。
【0009】
従来、磁気ディスク用アルミニウム合金基板の製造において、母材となるアルミニウム合金基材に対して上記研削加工を行うところ、ディスク・フラッタの発生を防止でき、且つ高強度化された磁気ディスク用アルミニウム合金基板の製造については、上記研削加工において、アルミニウム合金基材の表面粗さの低減とアルミニウム合金基材表面の酸化膜厚の低減に改善の余地があった。アルミニウム合金基材の表面粗さを低減することにより、アルミニウム合金基材上に形成されるめっき膜の表面平滑性が向上する。また、アルミニウム合金基材の酸化膜厚を低減することにより、めっき膜の表面平滑性が向上しつつ、アルミニウム合金基材とめっき膜間の密着性も向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2009-242843号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記事情に鑑み、本発明は、表面粗さと酸化膜厚が低減された、ディスク・フラッタの発生を防止でき且つ高強度化された磁気ディスク用アルミニウム合金基板、及び該磁気ディスク用アルミニウム合金基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の構成の要旨は、以下の通りである。
[1]アルミニウム(Al)と、鉄(Fe):0.4 ~3.0mass%と、銅(Cu):0.003~3.0mass%と、亜鉛(Zn):0.005~1.000mass%と、ケイ素(Si):0.1~0.4mass%、マグネシウム(Mg):0.1~0.4mass%、ニッケル(Ni):0.1~3.0mass%、クロム(Cr):0.01~1.00mass%、マンガン(Mn):0.1~3.0mass%及びジルコニウム(Zr):0.01~1.00mass%からなる群から選択される少なくとも1種の金属と、を含有するアルミニウム合金基材から形成された磁気ディスク用アルミニウム合金基板であり、
前記磁気ディスク用アルミニウム合金基板の酸化膜厚が100nm以下、表面粗さが1.0μm以下である磁気ディスク用アルミニウム合金基板。
[2]前記アルミニウム合金基材が、チタン(Ti)、ホウ素(B)及びバナジウム(V)からなる群から選択される少なくとも1種の添加金属をさらに含有し、チタン(Ti)、ホウ素(B)及びバナジウム(V)の含有量の合計が、0.005~0.500mass%である[1]に記載の磁気ディスク用アルミニウム合金基板。
[3]前記アルミニウム合金基材の残部が、アルミニウム(Al)及び不可避不純物からなる[1]または[2]に記載の磁気ディスク用アルミニウム合金基板。
[4][1]乃至[3]のいずれか1つに記載の磁気ディスク用アルミニウム合金基板を用いた磁気ディスク。
[5]アルミニウム(Al)と、鉄(Fe):0.4 ~3.0mass%と、銅(Cu):0.003~3.0mass%と、亜鉛(Zn):0.005~1.000mass%と、ケイ素(Si):0.1~0.4mass%、マグネシウム(Mg):0.1~0.4mass%、ニッケル(Ni):0.1~3.0mass%、クロム(Cr):0.01~1.00mass%、マンガン(Mn):0.1~3.0mass%及びジルコニウム(Zr):0.01~1.00mass%からなる群から選択される少なくとも1種の金属と、を含有するアルミニウム合金基材を用意する工程と、
用意された前記アルミニウム合金基材を研削加工する研削工程と、
を含む、磁気ディスク用アルミニウム合金基板の製造方法であって、
前記研削工程にて、下記5つの研削加工の条件
(i)界面活性剤の割合が0.02~0.2mass%である研削液を用いる、
(ii)前記アルミニウム合金基材表面に加わる砥石からの応力を50~150gf/cmに調整する、
(iii)前記アルミニウム合金基材表面と砥石の相対速度を10~300m/mimに調整する、
(iv)粒度800~4000番の砥石を用いる、
(v)前記アルミニウム合金基材1枚あたりの研削液の流量を100~1000mL/mimに調整する、
のうち、少なくとも3つの条件を満たした状態で前記研削加工を行う、磁気ディスク用アルミニウム合金基板の製造方法。
[6]前記(i)界面活性剤の割合が0.02~0.2mass%である研削液を用いる条件を満たした状態で前記研削加工を行う[5]に記載の磁気ディスク用アルミニウム合金基板の製造方法。
[7]前記(ii)前記アルミニウム合金基材表面に加わる砥石からの応力を50~150gf/cmに調整する条件を満たした状態で前記研削加工を行う[5]に記載の磁気ディスク用アルミニウム合金基板の製造方法。
[8]前記(iii)前記アルミニウム合金基材表面と砥石の相対速度を10~300m/mimに調整する条件を満たした状態で前記研削加工を行う[5]に記載の磁気ディスク用アルミニウム合金基板の製造方法。
[9]前記(iv)粒度800~4000番の砥石を用いる条件を満たした状態で前記研削加工を行う[5]に記載の磁気ディスク用アルミニウム合金基板の製造方法。
[10]前記(v)前記アルミニウム合金基材1枚あたりの研削液の流量を100~1000mL/mimに調整する条件を満たした状態で前記研削加工を行う[5]に記載の磁気ディスク用アルミニウム合金基板の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の磁気ディスク用アルミニウム合金基板の態様によれば、アルミニウム(Al)と、鉄(Fe):0.4 ~3.0mass%と、銅(Cu):0.003~3.0mass%と、亜鉛(Zn):0.005~1.000mass%と、ケイ素(Si):0.1~0.4mass%、マグネシウム(Mg):0.1~0.4mass%、ニッケル(Ni):0.1~3.0mass%、クロム(Cr):0.01~1.00mass%、マンガン(Mn):0.1~3.0mass%及びジルコニウム(Zr):0.01~1.00mass%からなる群から選択される少なくとも1種の金属と、を含有するアルミニウム合金基材から形成されることにより、ディスク・フラッタの発生を防止でき且つ高強度化された磁気ディスク用アルミニウム合金基板を得ることができる。また、前記アルミニウム合金基材から形成されることにより、磁気ディスク用アルミニウム合金基板表面に形成されるめっき膜の表面平滑性と磁気ディスク用アルミニウム合金基板に対する密着性の向上に寄与することができる。
【0014】
また、本発明の磁気ディスク用アルミニウム合金基板の態様によれば、酸化膜厚が100nm以下、表面粗さが1.0μm以下であることにより、磁気ディスク用アルミニウム合金基板の表面粗さと酸化膜厚が低減されて、磁気ディスク用アルミニウム合金基板表面に形成されるめっき膜の表面平滑性と密着性が向上する。
【0015】
本発明の磁気ディスク用アルミニウム合金基板の態様によれば、前記アルミニウム合金基材が、チタン(Ti)、ホウ素(B)及びバナジウム(V)からなる群から選択される少なくとも1種の添加金属をさらに含有し、チタン(Ti)、ホウ素(B)及びバナジウム(V)の含有量の合計が、0.005~0.500mass%であることにより、めっき性が向上し、磁気ディスク用アルミニウム合金基板におけるディスク・フラッタの防止特性と強度を均一化できる。
【0016】
本発明の磁気ディスク用アルミニウム合金基板の製造方法の態様によれば、上記条件(i)~条件(v)の5つの条件うち、少なくとも3つの条件を満たした状態でアルミニウム合金基材の研削加工を行うことにより、ディスク・フラッタの発生を防止でき且つ高強度化された磁気ディスク用アルミニウム合金基板であっても、その表面粗さと表面の酸化膜厚を低減させることができる。
【0017】
本発明の磁気ディスク用アルミニウム合金基板の製造方法の態様によれば、(i)界面活性剤の割合が0.02~0.2mass%である研削液を用いることにより、研削加工時に生じる研削屑の排出が円滑化されて研削速度が向上し、優れた研削効率を得ることに寄与する。
【0018】
本発明の磁気ディスク用アルミニウム合金基板の製造方法の態様によれば、(ii)前記アルミニウム合金基材表面に加わる砥石からの応力を50~150gf/cmに調整することにより、研削速度と磁気ディスク用アルミニウム合金基板の表面粗さの低減をバランスよく実現させることに寄与する。
【0019】
本発明の磁気ディスク用アルミニウム合金基板の製造方法の態様によれば、(iii)前記アルミニウム合金基材表面と砥石の相対速度を10~300m/mimに調整することにより、研削速度を向上させつつ、磁気ディスク用アルミニウム合金基板の表面粗さをより確実に低減することに寄与する。
【0020】
本発明の磁気ディスク用アルミニウム合金基板の製造方法の態様によれば、(iv)粒度800~4000番の砥石を用いることにより、研削速度を向上させつつ、磁気ディスク用アルミニウム合金基板の表面粗さをより確実に低減することに寄与する。
【0021】
本発明の磁気ディスク用アルミニウム合金基板の製造方法の態様によれば、(v)アルミニウム合金基材1枚あたりの研削液の流量を100~1000mL/mimに調整することにより、磁気ディスク用アルミニウム合金基板の表面粗さをより確実に低減することに寄与する。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明の磁気ディスク用アルミニウム合金基板について説明する。まず、磁気ディスク用アルミニウム合金基板の母材として用いられるアルミニウム合金基材について説明する。
【0023】
アルミニウム合金基材の組成は、アルミニウム(Al)と、鉄(Fe):0.4 ~3.0mass%と、銅(Cu):0.003~3.0mass%と、亜鉛(Zn):0.005~1.000mass%と、ケイ素(Si):0.1~0.4mass%、マグネシウム(Mg):0.1~0.4mass%、ニッケル(Ni):0.1~3.0mass%、クロム(Cr):0.01~1.00mass%、マンガン(Mn):0.1~3.0mass%及びジルコニウム(Zr):0.01~1.00mass%からなる群から選択される少なくとも1種の金属と、を含有する。上記金属成分について、以下に説明する。
【0024】
鉄(Fe)
Feは、アルミニウム合金基材の必須元素であり、主としてAl-Fe系金属間化合物粒子(Al-Fe系金属間化合物等)として、一部はアルミニウム合金基材のマトリックスに固溶して存在する。Feは、磁気ディスク用アルミニウム合金基板の強度とディスク・フラッタの防止(フラッタリング特性)効果を発揮する。このようなアルミニウム合金基材に振動を加えると、Al-Fe系金属間化合物粒子とマトリックスとの界面における粘性流動により振動エネルギーが速やかに吸収され、良好なフラッタリング特性が得られる。アルミニウム合金基材中のFe含有量が0.4mass%未満では、十分な強度とフラッタリング特性が得られない。一方で、Fe含有量が3.0mass%を超えると、粗大なAl-Fe系金属間化合物粒子が多数生成する。粗大なAl-Fe系金属間化合物粒子は、アルミニウム合金基材の研削加工時において大きな抵抗となり、研削速度を低下させ、また、アルミニウム合金基材表面に大きな窪みを発生させて、ディスク用アルミニウム合金基板の表面粗さが粗くなる。ディスク用アルミニウム合金基板の表面粗さが粗くなることにより、その後のめっき工程で形成されるめっき膜の表面平滑性及び密着性を低下させる。
【0025】
銅(Cu)
Cuは、アルミニウム合金基材の必須元素であり、ジンケート処理時のAl溶解量を減少させ、また、ジンケート皮膜を均一に、薄く、緻密に付着させることで、後工程であるめっき工程で形成されるめっき膜の表面平滑性及び密着性を向上させる。アルミニウム合金基材中のCu含有量が0.003mass%未満では、ジンケート皮膜が不均一となり、めっき膜の表面にピットが発生し、めっき膜の表面平滑性を低下させる。一方、アルミニウム合金基材中のCu含有量が3.0mass%を超えると、粗大なAl-Cu系金属間化合物粒子が多数生成する。粗大なAl-Cu系金属間化合物粒子は、アルミニウム合金基材のエッチング時、ジンケート処理時、切削加工時、研削加工時に脱落して、ディスク用アルミニウム合金基板表面に大きな窪みを発生させる。ディスク用アルミニウム合金基板表面に大きな窪みが生じると、後工程であるめっき工程で形成されるめっき膜の表面にピットが生じ、めっき膜の表面平滑性が低下し、めっき膜の密着性が低下する。そのため、アルミニウム合金基材中のCu含有量は、0.003~3.0mass%の範囲とする。Cu含有量は、好ましくは、0.005~0.4mass%の範囲である。
【0026】
亜鉛(Zn)
Znは、アルミニウム合金基材の必須元素であり、ジンケート処理時のAl溶解量を減少させ、また、ジンケート皮膜を均一に、薄く、緻密に付着させることで、後工程であるめっき工程で形成されるめっき膜の表面平滑性及び密着性を向上させる。アルミニウム合金基材中のZn含有量が0.005mass%未満では、ジンケート皮膜が不均一となり、めっき膜の表面にピットが発生し、めっき膜の表面平滑性を低下させる。一方、アルミニウム合金基材中のZn含有量が1.000mass%を超えても、ジンケート皮膜が不均一となり、めっき膜の表面にピットが発生し、めっき膜の表面平滑性を低下し、めっき膜の密着性が低下する。そのため、アルミニウム合金基材中のZn含有量は、0.005~1.000mass%の範囲とする。Zn含有量は好ましくは、0.100~0.700mass%の範囲である。
【0027】
ケイ素(Si)
Siは、アルミニウム合金基材の任意元素であり、主にAl-Fe系金属間化合物粒子(Si粒子、Mg-Si系金属間化合物等)として存在し、磁気ディスク用アルミニウム合金基板の強度とフラッタリング特性を向上させる効果を発揮する。このようなアルミニウム合金基材に振動を加えると、Al-Fe系金属間化合物粒子とマトリックスとの界面における粘性流動により振動エネルギーが速やかに吸収され、良好なフラッタリング特性が得られる。アルミニウム合金基材中のSi含有量が0.1mass%以上であることによって、磁気ディスク用アルミニウム合金基板の強度とフラッタリング特性をさらに向上させることができる。また、アルミニウム合金基材中のSi含有量が0.4mass%以下であることによって、粗大なAl-Fe系金属間化合物粒子が多数生成することを抑制する。粗大なAl-Fe系金属間化合物粒子の発生を抑制することで、アルミニウム合金基材のエッチング時、ジンケート処理時、切削加工時、研削加工時に該粒子が脱落して、磁気ディスク用アルミニウム合金基板表面に大きな窪みを発生させることを抑制できる。磁気ディスク用アルミニウム合金基板表面に大きな窪みが生じることを抑制することで、後工程であるめっき工程で形成されるめっき膜の表面にピットが生じ、めっき膜の表面平滑性が低下し、めっき膜の密着性が低下することを抑制できる。また、圧延工程における加工性の低下をより抑制することができる。そのため、アルミニウム合金基材中のSi含有量は、0.1~0.4mass%の範囲とするのが好ましく、0.1~0.3mass%の範囲とするのが特に好ましい。
【0028】
マグネシウム(Mg)
Mgは、アルミニウム合金基材の任意元素であり、マトリックス中に固溶して、またはAl-Fe系金属間化合物粒子(Mg-Si系金属間化合物等)として存在し、磁気ディスク用アルミニウム合金基板の強度とフラッタリング特性を向上させる効果を発揮する。アルミニウム合金基材中のMg含有量が0.1mass%以上であることによって、磁気ディスク用アルミニウム合金基板の強度とフラッタリング特性をさらに向上させることができる。また、アルミニウム合金中のMg含有量が0.4mass%以下であることによって、粗大なAl-Fe系金属間化合物粒子が多数生成することを抑制する。粗大なAl-Fe系金属間化合物粒子の発生を抑制することで、アルミニウム合金基材のエッチング時、ジンケート処理時、切削加工時、研削加工時に該粒子が脱落して、磁気ディスク用アルミニウム合金基板表面に大きな窪みを発生させることを抑制できる。磁気ディスク用アルミニウム合金基板表面に大きな窪みが生じることを抑制することで、後工程であるめっき工程で形成されるめっき膜の表面にピットが生じ、めっき膜の表面平滑性が低下し、めっき膜の密着性が低下することを抑制できる。また、圧延工程における加工性の低下をより抑制することができる。そのため、アルミニウム合金基材中のMg含有量は、0.1~0.4mass%の範囲とするのが好ましく、0.1~0.3mass%以下の範囲とするのが特に好ましい。
【0029】
ニッケル(Ni)
Niは、アルミニウム合金基材の任意元素であり、主としてAl-Fe系金属間化合物粒子(Al-Ni系金属間化合物等)として存在し、磁気ディスク用アルミニウム合金基板の強度とフラッタリング特性を向上させる効果を発揮する。このようなアルミニウム合金基材に振動を加えると、Al-Fe系金属間化合物粒子とマトリックスとの界面における粘性流動により振動エネルギーが速やかに吸収され、良好なフラッタリング特性が得られる。アルミニウム合金基材中のNi含有量が0.1mass%以上であることによって、磁気ディスク用アルミニウム合金基板の強度とフラッタリング特性をさらに向上させることができる。また、アルミニウム合金基材中のNi含有量が3.0mass%以下であることによって、粗大なAl-Ni系金属間化合物粒子が多数生成することを抑制する。粗大なAl-Ni系金属間化合物粒子の発生を抑制することで、アルミニウム合金基材のエッチング時、ジンケート処理時、切削加工時、研削加工時に該粒子が脱落して、磁気ディスク用アルミニウム合金基板表面に大きな窪みを発生させることを抑制できる。磁気ディスク用アルミニウム合金基板表面に大きな窪みが生じることを抑制することで、後工程であるめっき工程で形成されるめっき膜の表面にピットが生じ、めっき膜の表面平滑性が低下し、めっき膜の密着性が低下することを抑制できる。また、圧延工程における加工性の低下をより抑制することができる。そのため、アルミニウム合金基材中のNi含有量は、0.1~3.0mass%の範囲とするのが好ましく、0.1~1.0mass%の範囲とするのが特に好ましい。
【0030】
クロム(Cr)
Crは、アルミニウム合金基材の任意元素であり、主としてAl-Fe系金属間化合物粒子(Al-Cr系金属間化合物等)として存在し、磁気ディスク用アルミニウム合金基板の強度とフラッタリング特性を向上させる効果を発揮する。アルミニウム合金基材中のCr含有量が0.01mass%以上であることによって、磁気ディスク用アルミニウム合金基板の強度とフラッタリング特性をさらに向上させることができる。また、アルミニウム合金基材中のCr含有量が1.00mass%以下であることによって、粗大なAl-Cr系金属間化合物粒子が多数生成することを抑制する。粗大なAl-Cr系金属間化合物粒子の発生を抑制することで、アルミニウム合金基材のエッチング時、ジンケート処理時、切削加工時、研削加工時に該粒子が脱落して、磁気ディスク用アルミニウム合金基板表面に大きな窪みを発生させることを抑制できる。磁気ディスク用アルミニウム合金基板表面に大きな窪みが生じることを抑制することで、後工程であるめっき工程で形成されるめっき膜の表面にピットが生じ、めっき膜の表面平滑性が低下し、めっき膜の密着性が低下することを抑制できる。また、圧延工程における加工性の低下をより抑制することができる。そのため、アルミニウム合金基材中のCr含有量は、0.01~1.00mass%の範囲とするのが好ましく、0.10~0.50mass%の範囲とするのが特に好ましい。
【0031】
マンガン(Mn)
Mnは、アルミニウム合金基材の任意元素であり、主としてAl-Fe系金属間化合物粒子(Al-Mn系金属間化合物等)として存在し、磁気ディスク用アルミニウム合金基板の強度とフラッタリング特性を向上させる効果を発揮する。このようなアルミニウム合金基材に振動を加えると、Al-Fe系金属間化合物粒子とマトリックスとの界面における粘性流動により振動エネルギーが速やかに吸収され、良好なフラッタリング特性が得られる。アルミニウム合金基材中のMn含有量が0.1mass%以上であることによって、磁気ディスク用アルミニウム合金基板の強度とフラッタリング特性をさらに向上させることができる。また、アルミニウム合金基材中のMn含有量が3.0mass%以下であることによって、粗大なAl-Mn系金属間化合物粒子が多数生成することを抑制する。粗大なAl-Mn系金属間化合物粒子の発生を抑制することで、アルミニウム合金基材のエッチング時、ジンケート処理時、切削加工時、研削加工時に該粒子が脱落して、磁気ディスク用アルミニウム合金基板表面に大きな窪みを発生させることを抑制できる。磁気ディスク用アルミニウム合金基板表面に大きな窪みが生じることを抑制することで、後工程であるめっき工程で形成されるめっき膜の表面にピットが生じ、めっき膜の表面平滑性が低下し、めっき膜の密着性が低下することを抑制できる。また、圧延工程における加工性の低下をより抑制することができる。そのため、アルミニウム合金基材中のMn含有量は、0.1~3.0mass%の範囲とするのが好ましく、0.1~1.0mass%の範囲とするのが特に好ましい。
【0032】
ジルコニウム(Zr)
Zrは、アルミニウム合金基材の任意元素であり、主としてAl-Fe系金属間化合物粒子(Al-Zr系金属間化合物等)として存在し、磁気ディスク用アルミニウム合金基板の強度とフラッタリング特性を向上させる効果を発揮する。アルミニウム合金基材中のZr含有量が0.01mass%以上であることによって、磁気ディスク用アルミニウム合金基板の強度とフラッタリング特性をさらに向上させることができる。また、アルミニウム合金基材中のZr含有量が1.00mass%以下であることによって、粗大なAl-Zr系金属間化合物粒子が多数生成することを抑制する。粗大なAl-Zr系金属間化合物粒子の発生を抑制することで、アルミニウム合金基材のエッチング時、ジンケート処理時、切削加工時、研削加工時に該粒子が脱落して、磁気ディスク用アルミニウム合金基板表面に大きな窪みを発生させることを抑制できる。磁気ディスク用アルミニウム合金基板表面に大きな窪みが生じることを抑制することで、後工程であるめっき工程で形成されるめっき膜の表面にピットが生じ、めっき膜の表面平滑性が低下し、めっき膜の密着性が低下することを抑制できる。また、圧延工程における加工性の低下をより抑制することができる。そのため、アルミニウム合金基材中のZr含有量は、0.01~1.00mass%の範囲とするのが好ましく、0.10~0.50mass%の範囲とするのが特に好ましい。
【0033】
なお、アルミニウム合金基材には、必要に応じて、上記各種金属成分に加えて、さらに、チタン(Ti)、ホウ素(B)及びバナジウム(V)からなる群から選択される少なくとも1種の添加金属を含有していてもよい。
【0034】
Ti、B及びVは、アルミニウム合金基材の母材であるアルミニウム合金を鋳造する際に、その凝固過程において、Al-Fe系金属間化合物粒子(TiBなどのホウ化物、AlTi、Ti-V-B粒子等)を形成し、これらが結晶粒核となるため、結晶粒を微細化することが可能となる。その結果、めっき工程の際のめっき性が向上する。また、結晶粒が微細化することで、Al-Fe系金属間化合物粒子のサイズの不均一性を小さくし、磁気ディスク用アルミニウム合金基板中における強度とフラッタリング特性のばらつきを低減させることができる。Ti、B及びVの含有量の合計が0.005mass%未満では、上記の効果が得られにくい。一方、Ti、B及びVの含有量の合計が0.500mass%を超えても上記効果は飽和し、それ以上の顕著な効果が得られない。そのため、Ti、B及びVを添加する場合のTi、B及びVの含有量の合計は、0.005~0.500mass%の範囲とするのが好ましく、0.005~0.100mass%の範囲とするのが特に好ましい。なお、上記合計量とは、Ti、B及びVのいずれか1種のみを含有する場合には当該1種の含有量であり、いずれか2種を含有する場合には当該2種の合計量であり、3種全てを含有する場合には当該3種の合計量である。
【0035】
前記アルミニウム合金基材では、残部は、アルミニウム(Al)及び不可避不純物からなる。不可避的不純物としては、Ga、Snなどが挙げられ、各々0.10mass%未満、かつ合計で0.20mass%未満であれば、本発明で得られる磁気ディスク用アルミニウム合金基板としての特性は損なわれない。
【0036】
本発明の磁気ディスク用アルミニウム合金基板は、その表面に形成される酸化膜の厚さが100nm以下、表面粗さが1.0μm以下である。
【0037】
本明細書において、酸化膜の厚さとは、グロー放電発光分析装置にてガス圧400Paにして60秒間、磁気ディスク用アルミニウム合金基板の表面をスパッタした際の酸素の発光強度が最大値の半分に低減するまでの秒数に5を掛けた値(単位はnm)を意味する。酸化膜は、アルミニウム水和物の皮膜やアルミニウム酸化物の皮膜である。酸化膜の厚さが100nmであることにより、めっき膜の表面平滑性と密着性が向上する。一方で、酸化膜の厚さが100nmを超えると、めっき処理前の酸化膜除去の際に、磁気ディスク用アルミニウム合金基板の表面が荒れてしまうので、めっき膜の表面平滑性と密着性が低下する。酸化膜の厚さは100nm以下であれば、特に限定されず、薄いほど好ましいが、10nm以下が好ましく、5nm以下が特に好ましい。一方で、酸化膜の厚さの下限としては、例えば、1nmが挙げられる。
【0038】
本明細書において、磁気ディスク用アルミニウム合金基板の表面粗さとは、磁気ディスク用アルミニウム合金基板表面の任意の10箇所について、原子間力顕微鏡(AFM)にて10μm□の条件で算術平均粗さ(Ra)測定し、該10箇所の算術平均粗さの平均値を意味する。表面粗さは、磁気ディスク用アルミニウム合金基板表面の凹凸であり、算術平均粗さ(Ra)の上記平均値が1.0μm以下であることにより、めっき膜の表面平滑性と密着性を向上させることができる。上記表面粗さは1.0μm以下であれば、特に限定されないが、0.5μm以下が好ましく、0.3μm以下が特に好ましい。一方で、上記表面粗さの下限としては、例えば、0.01μmが挙げられる。
【0039】
次に、本発明の磁気ディスク用アルミニウム合金基板の製造方法について説明する。加圧焼鈍による平坦化処理を行った円環状のアルミニウム合金基材に、切削加工(切削工程)、研削加工(研削工程)、脱脂処理(脱脂工程)、エッチング処理(エッチング工程)及びジンケート処理(ジンケート工程)を実施することで、磁気ディスク用アルミニウム合金基板を製造することができる。
【0040】
このうち、アルミニウム合金基材に対する研削工程において、(i)界面活性剤の割合が0.02~0.2mass%である研削液を用いる、(ii)前記アルミニウム合金基材表面に加わる砥石からの応力を50~150gf/cmに調整する、(iii)前記アルミニウム合金基材表面と砥石の相対速度を10~300m/mimに調整する、(iv)粒度800~4000番の砥石を用いる、(v)前記アルミニウム合金基材1枚あたりの研削液の流量を100~1000mL/mimに調整する、の5つの条件のうち、少なくとも3つの条件を満たした状態で研削加工を行うことにより、フラッタリング特性を有し且つ高強度化された磁気ディスク用アルミニウム合金基板の製造にあたり、その表面粗さと表面の酸化膜厚を低減させることができる。その結果、酸化膜厚が100nm以下、表面粗さが1.0μm以下である磁気ディスク用アルミニウム合金基板を製造することができる。
【0041】
研削加工は、条件(i)~条件(v)のうち、少なくとも3つの条件を満たした状態で行えばよいが、少なくとも4つの条件を満たした状態で研削加工を行うことが好ましく、表面粗さをさらに低減させつつ、優れた研削速度を得る点から、5つ全ての条件を満たした状態で研削加工を行うことが特に好ましい。
【0042】
以下、条件(i)~条件(v)のそれぞれについて説明する。
【0043】
条件(i):界面活性剤の割合が0.02~0.2mass%である研削液を用いる。
界面活性剤は、研削加工によって生じる研削屑を排出するために用いられる。条件(i)は、研削加工時に生じる研削屑の排出が円滑化されて研削速度が向上し、優れた研削効率を得ることに寄与する。研削液中における界面活性剤の割合が0.02mass%より少ないと研削屑の排出が円滑化されず、研削速度の向上に寄与しない。一方で、界面活性剤の割合が0.2mass%を超えると、研削液の泡立ちが多くなり、円滑な研削加工に寄与しない。
【0044】
条件(ii):アルミニウム合金基材表面に加わる砥石からの応力を50~150gf/cmに調整する。
アルミニウム合金基材表面に加わる砥石からの応力によって、砥石がアルミニウム合金基材の表面を研削する。条件(ii)は、研削速度と磁気ディスク用アルミニウム合金基板の表面粗さの低減をバランスよく実現させることに寄与する。砥石からの応力が50gf/cmより小さいと、研削加工時に切り込みの深さが浅くなって研削速度の向上に寄与しない。一方で、砥石からの応力が150gf/cmを超えると、研削加工時の抵抗より砥石の振動が大きくなるので、研削された磁気ディスク用アルミニウム合金基板の表面粗さの低減に寄与しない。
【0045】
条件(iii):アルミニウム合金基材表面と砥石の相対速度を10~300m/mimに調整する。
前記相対速度によって、砥石がアルミニウム合金基材の表面を研削する。条件(iii)は、研削速度を向上させつつ、磁気ディスク用アルミニウム合金基板の表面粗さをより確実に低減することに寄与する。前記相対速度が10m/mimより小さいと、研削加工時に砥石の切り込みの深さが大きくなることで抵抗が大きくなり、結果、砥石が変動して表面粗さの低減に寄与しない。一方で、前記相対速度が300m/mimを超えると、砥石の切り込みの深さが浅くなることで抵抗が小さくなり、回転する砥石の安定性が低下し、結果、砥石が変動して表面粗さの低減に寄与しない。
【0046】
条件(iv):粒度800~4000番の砥石を用いる。
前記粒度は砥石に付着している砥粒の細かさを示している。条件(iv)は、研削速度を向上させつつ、磁気ディスク用アルミニウム合金基板の表面粗さをより確実に低減することに寄与する。粒度800番より粗いと、表面粗さの低減に寄与しない。一方で、粒度4000番より細かいと、研削速度の向上に寄与しない。
【0047】
条件(v):アルミニウム合金基材1枚あたりの研削液の流量を100~1000mL/mimに調整する。
前記研削液の流量は、研削加工中にアルミニウム合金基材と砥石の接触部に研削液を投入する量である。条件(v)は、磁気ディスク用アルミニウム合金基板の表面粗さをより確実に低減することに寄与する。研削液の流量が100mL/mimより少ないと、研削屑が円滑に排出されずに砥石に研削屑が残るので、研削屑で磁気ディスク用アルミニウム合金基板表面に傷をつけ、結果、表面粗さの低減に寄与しない。一方で、研削液の流量が1000mL/mimを超えると、研削量の消費が大きくなり、生産性に寄与しない。
【実施例
【0048】
次に、本発明の実施例を説明するが、本発明はその趣旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0049】
鉄(Fe):1.5mass%と、銅(Cu):0.01mass%と、亜鉛(Zn):0.4mass%を含む円環状のアルミニウム合金基材 (外径:96mm、孔部:25mm、厚さ:0.66mm)を用意した。前記アルミニウム合金基材に対し、9B型研削装置(スピードファム(株))を用いた研削加工を行った。条件(i)界面活性剤としてポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルを0.01、0.02、0.2、0.3mass%に調整された研削液を用いた。条件(ii)アルミニウム合金基材の表面に加わる力を20、50、150、200gf/cmに調整して研削加工を行った。条件(iii)研削時のアルミニウム合金基材表面と砥石の相対速度を5、10、300、500m/mimに調整した。条件(iv)砥石の粒度を400番、800番、4000番、6000番のPVA砥石とした。条件(v)アルミニウム合金基材1枚あたりの研削液の流量を20、100、1000ml/mimとした。
【0050】
評価項目とその測定方法は、以下の通りである。
(1)研削速度の測定方法
アルミニウム合金基材の厚さを45μm薄くする研削加工において、加工時間に対する研削加工量を研削速度として測定した。評価は下記の2段階で行った。
○:研削速度が5μm/mim超
×:研削速度が5μm/mim以下
【0051】
(2)表面粗さの測定方法
原子間力顕微鏡(AFM)にて、アルミニウム合金基材表面の任意の10箇所において、10μm□の条件で算術平均粗さ(Ra)測定し、10箇所のRaの平均値を算出し、該平均値を表面粗さとした。評価は下記の3段階で行った。
○:表面粗さが0.3μm以下
△:表面粗さが0.3μm超1.0μm以下
×:表面粗さが1.0μm超
【0052】
(3)酸化膜厚の測定方法
グロー放電発光分析装置((株)堀場製作所)にてガス圧を400Paにして60秒間、アルミニウム合金基材の表面をスパッタした際の酸素の発光強度が最大値の半分になるまでの秒数に5掛けた値(単位はnm)を酸化膜厚とした。評価は下記の2段階で行った。
○:酸化膜厚が100nm以下
×:酸化膜厚が100nm超
【0053】
上記研削試験条件と研削試験結果を下記表1に示す。
【0054】
【表1】
【0055】
上記表1から、研削加工の条件(i)~条件(v)の5つの条件うち、少なくとも3つの条件(実施例では4つの条件)を満たす実施例1~16では、表面粗さが1.0μm以下と、良好に表面粗さが低減され、また、酸化膜厚が100nm以下に低減できた。特に、研削加工の条件(i)~条件(v)の5条件全てを満たす実施例1~6では、表面粗さが0.3μm以下と、表面粗さをさらに低減でき、また、研削速度が5μm/mim超と研削速度が向上して、優れた研削効率を得ることができた。
【0056】
一方で、研削加工の条件(i)~条件(v)のうち、条件(i)のみを満たす比較例1では、表面粗さ、酸化膜厚ともに低減できず、また、良好な研削速度も得られなかった。また、研削加工の条件(i)~条件(v)のうち、2つの条件を満たす比較例2(比較例2では、条件(iii)と条件(iv))では、優れた研削速度は得られたものの、表面粗さ、酸化膜厚ともに低減できなかった。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明では、表面粗さと酸化膜厚が低減された、ディスク・フラッタの発生を防止でき且つ高強度化された磁気ディスク用アルミニウム合金基板を得ることができるので、特に、さらなる大容量化、高密度化、高速化が求められている磁気ディスクの分野で利用価値が高い。