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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-27
(45)【発行日】2024-06-04
(54)【発明の名称】芳香液
(51)【国際特許分類】
   A61L 9/01 20060101AFI20240528BHJP
   A61L 9/12 20060101ALI20240528BHJP
【FI】
A61L9/01 V
A61L9/12
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019233296
(22)【出願日】2019-12-24
(65)【公開番号】P2021101755
(43)【公開日】2021-07-15
【審査請求日】2022-11-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000186588
【氏名又は名称】小林製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【弁理士】
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】岩沢 佳尚
(72)【発明者】
【氏名】源治 万裕心
【審査官】佐々木 典子
(56)【参考文献】
【文献】特表2007-533322(JP,A)
【文献】特開2006-101834(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0022682(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0165391(US,A1)
【文献】特開2004-033253(JP,A)
【文献】国際公開第2018/220059(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 9/00- 9/22
A01M 1/00-99/00
A61M 21/00
B60H 3/00
F24F
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸液部材に含浸させて揮散され、使用中は吸液部材に芳香液の供給が行われない、かつ室内に設置して用いられる揮散器(ただし、ヒータを有するものを除く)で使用される芳香液であって、
香料を65~90重量%及び溶剤を10~35重量%含み、
下記試験条件で測定される144時間後残存率(R)が50%以下であり、且つ0~24時間の減量速度(V1)から120~144時間の減量速度(V2)を差し引いた値が1.000g/day以下である、芳香液。
<試験条件>
(1)皿の上に置いた直方形の吸液部材(フェルト;長さ40mm、幅18mm、厚み5mm、密度0.21g/cm3)に芳香液3.5mLを含浸させ、40℃の室内空間で静置する。
(2)静置開始時、静置開始から24時間後、120時間後、及び144時間後に、残存する芳香液の重量を求める。
(3)下記式に従って、144時間後残存率R、0~24時間の減量速度V1、及び120~144時間の減量速度V2を算出する。
R(%)=(静置開始から144時間後の芳香液の重量/静置開始時の芳香液の重量)×100
1(g/day)=静置開始時の芳香液の重量-静置開始から24時間後の芳香液の重量
2(g/day)=静置開始から120時間後の芳香液の重量-静置開始から144時間後の芳香液の重量
【請求項2】
前記溶剤が、20℃での蒸気圧が0.005~0.040kPaのパラフィン系炭化水素である、請求項1に記載の芳香液。
【請求項3】
自動車の室内用である、請求項1又は2に記載の芳香液。
【請求項4】
請求項1~のいずれかに記載の芳香液と、吸液部材と、通気孔を有する容器とを含み、
前記容器に、前記芳香液が含浸された前記吸液部材が収容されてなり、
前記芳香液が前記吸液部材に含浸されていない状態では存在していない、
室内に設置して用いられる揮散器(ただし、ヒータを有するものを除く)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸液部材に含浸させて揮散され、使用中は吸液部材に芳香液の供給が行われない揮散器で使用される芳香液であって、使用期間中の平均揮散速度が高く、しかも使用前期と使用後期で香りの強さに差が生じ難い芳香液に関する。また、本発明は、当該芳香液を使用した揮散器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車内や室内の臭気による不快感をなくし、快適な空間を生み出すために、香料を配合した芳香液が広く使用されている。
【0003】
従来、芳香液を揮散させる揮散器について、様々なタイプが開発されている。代表的な揮散器は、芳香液を容器に貯留し、貯留されている芳香液を吸い上げながら揮散させる吸液部材を有するタイプである。このようなタイプの揮散器は、使用中は、容器に貯留された芳香液が持続的に揮散部材に供給されるため、使用前期から後期において、放たれる香気は一定に維持され易くなっている。しかしながら、このようなタイプの揮散器は、容器中に芳香液が貯留されているため、自動車の室内に設置すると、悪路走行時の揺れ等によって容器内の芳香液がこぼれ易いという欠点がある。
【0004】
また、芳香液のこぼれを防止できる揮散器として、芳香液を収容する容器器の開口部を、気体が透過可能なメンブレンで覆い、当該メンブレンを介して芳香液を揮散させるタイプも提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、このようなタイプの揮散器では、メンブレンを介して揮散できる方向液の組成が制約されるため、使用者の幅広い嗜好に対応することができないという欠点がある。
【0005】
一方、容器内に芳香液を含浸させた吸液部材のみを収容し、使用中は吸液部材に芳香液の供給を行うことなく、芳香液を揮散させるタイプの揮散器がある。このようなタイプの揮散器は、全ての芳香液が吸液部材に含浸されているので、揺れ等によって容器内の芳香液がこぼれる心配がなく、自動車の室内用として好適な設計になっている。しかしながら、このようなタイプの揮散器では、使用時間の経過と共に芳香液の揮散速度が低下し易く、使用前期から後期に亘って香りの強さを一定に維持し難いという欠点がある。また、揮散し難い芳香液を使用すれば、使用前期から後期に亘って香りの強さをある程度一定にすることはできるが、却って使用期間中の平均揮散速度が遅くなり、その結果、香りの強さが弱くなって、使用期間全体で奏される芳香効果が不十分になる傾向が現れる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2014-94619号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、吸液部材に含浸させて揮散され、使用中は吸液部材に芳香液の供給が行われない揮散器で使用される芳香液であって、使用期間中の平均揮散速度が高く、使用前期と使用後期で香りの強さに差が生じ難い芳香液を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前記課題を解決すべく鋭意検討を行ったところ、香料及び溶剤を含み、後述する特定の試験条件において、144時間後残存率(R)が50%以下であり、且つ0~24時間の減量速度(V1)から120~144時間の減量速度(V2)を差し引いた値が1.000g/day以下を満たす芳香液は、吸液部材に含浸させ、使用中は吸液部材に芳香液の供給が行われない揮散器で揮散させると、使用期間中の平均揮散速度が高く、更には使用後期に香りの強さが減弱するのを抑制でき、使用前期と使用後期で香りの強さに差が生じ難くなることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて、更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0009】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. 吸液部材に含浸させて揮散され、使用中は吸液部材に芳香液の供給が行われない揮散器で使用される芳香液であって、
香料及び溶剤を含み、
下記試験条件で測定される144時間後残存率(R)が50%以下であり、且つ0~24時間の減量速度(V1)から120~144時間の減量速度(V2)を差し引いた値が1.000g/dayである、芳香液。
<試験条件>
(1)皿の上に置いた直方形の吸液部材(フェルト;長さ40mm、幅18mm、厚み5mm、密度0.21g/cm3)に芳香液3.5mLを含浸させ、40℃の室内空間で静置する。
(2)静置開始時、静置開始から24時間後、120時間後、及び144時間後に、残存する芳香液の重量を求める。
(3)下記式に従って、144時間後残存率R、0~24時間の減量速度V1、及び120~144時間の減量速度V2を算出する。
R(%)=(静置開始から144時間後の芳香液の重量/静置開始時の芳香液の重量)×100
1(g/day)=静置開始時の芳香液の重量-静置開始から24時間後の芳香液の重量
2(g/day)=静置開始から120時間後の芳香液の重量-静置開始から144時間後の芳香液の重量
項2. 前記溶剤が、20℃での蒸気圧が0.005~0.040kPaのパラフィン系炭化水素である、項1に記載の芳香液。
項3. 香料が20~90重量%、及び溶剤が10~80重量%含まれる、項1又は2に記載の芳香液。
項4. 自動車の室内用である、項1~3のいずれかに記載の芳香液。
項5. 項1~4のいずれかに記載の芳香液と、吸液部材と、通気孔を有する容器とを含み、
前記容器に、前記芳香液が含浸された前記吸液部材が収容されてなり、
前記芳香液が前記吸液部材に含浸されていない状態では存在していない、
揮散器。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、吸液部材に含浸させて揮散され、使用中は吸液部材に芳香液の供給が行われない揮散器で使用される芳香液において、使用期間中の平均揮散速度が高いので、単位時間当たりの香料の平均揮散量が高く、優れた芳香効果を奏することができる。また、本発明によれば、前記揮散器で使用される芳香液において、使用後期に香りの強さが減弱するのを抑制でき、使用前期と使用後期で香りの強さに差が生じ難くすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
1.芳香液
本発明の芳香液は、吸液部材に含浸させて揮散され、使用中は吸液部材に芳香液の供給が行われない揮散器で使用される芳香液であって、香料及び溶剤を含み、後述する特定の試験条件において、144時間後残存率(R)が50%以下であり、且つ0~24時間の減量速度(V1)から120~144時間の減量速度(V2)を差し引いた値が1.000g/day以下であることを特徴とする。以下、本発明の芳香液について詳述する。
【0012】
[芳香液の減量特性]
本発明の芳香液は、下記試験条件で測定される144時間後残存率(R)が50%以下、且つ0~24時間の減量速度(V1)から120~144時間の減量速度(V2)を差し引いた値(V1-V2)が1.000g/day以下を満たす。このような特性を有することによって、使用期間中の平均揮散速度が高く、しかも使用前期と使用後期で香りの強さに差が生じ難くすることが可能になる。
【0013】
使用期間中の平均揮散速度をより一層好適な範囲するという観点から、下記試験条件で測定される144時間後残存率(R)として、好ましくは0~80%、より好ましくは0~60%、更に好ましくは0~50%、特に好ましくは37~43%が挙げられる。
【0014】
また、使用前期と使用後期で香りの強さに差をより一層生じさせ難くするという観点から、値(V1-V2)として、好ましくは0.000~0.950g/day、より好ましくは0.500~0.950g/day、更に好ましくは0.750~0.900g/day、特に好ましくは0.800~0.900g/dayが挙げられる。
【0015】
0~24時間の減量速度(V1)については、前記144時間後残存率(R)及び値(V1-V2)が前述する範囲を満たすことを限度として、特に制限されないが、例えば、0.100~5.000g/day、好ましくは0.300~3.000g/day、より好ましくは0.300~2.000g/day、更に好ましくは0.850~1.000g/dayが挙げられる。
【0016】
120~144時間の減量速度(V2)については、前記144時間後残存率(R)及び値(V1-V2)が前述する範囲を満たすことを限度として、特に制限されないが、例えば、0.010~1.000g/day、好ましくは0.020~0.500g/day、より好ましくは0.050~0.100g/day、更に好ましくは0.075~0.100g/dayが挙げられる。
【0017】
144時間後残存率(R)、0~24時間の減量速度(V1)、及び120~144時間の減量速度(V2)は、以下の試験条件で測定される値である。
(1) 皿の上に置いた直方形の吸液部材(吸液性があるフェルト;長さ40mm、幅18mm、厚み5mm、密度0.21g/cm3)に芳香液3.5mLを含浸させ、40℃の室内空間で静置する。
(2) 静置開始時、静置開始から24時間後、120時間後、及び144時間後に、残存する芳香液の重量を求める。
(3) 下記式に従って、144時間後残存率R、0~24時間の減量速度V1、及び120~144時間の減量速度V2を算出する。
R(%)=(静置開始から144時間後の芳香液の重量/静置開始時の芳香液の重量)×100
1(g/day)=静置開始時の芳香液の重量-静置開始から24時間後の芳香液の重量
2(g/day)=静置開始から120時間後の芳香液の重量-静置開始から144時間後の芳香液の重量
【0018】
前記(1)において使用する吸液部材(フェルト)の素材については、特に制限されないが、好ましくは、ポリエチレンテレフタレート80重量%とレーヨン20重量%の複合繊維物が挙げられる。
【0019】
前記(1)において、芳香液を含浸させた吸液部材を静置する40℃の室内空間は、直射日光が当たらず、40℃に調整された屋内(例えば、10畳程度の部屋)であり、恒温機等の閉鎖系装置内ではない。
【0020】
また、前記(2)では、芳香液を含浸させる前に吸液部材を載せた状態の皿の重量A(吸液部材と皿の合計重量)を予め測定しておき、各測定タイミングで、芳香液を含浸させた吸液部材を載せた状態の皿の重量B(芳香液と吸液部材と皿の合計重量)の重量を測定し、重量Bから重量Aを差し引くことにより、残存する芳香液の重量を求めることができる。
【0021】
前述する減量特性は、芳香液に配合する香料の含有量、溶剤の種類や含有量等を適宜調節することによって充足させることができる。当業者であれば、達成すべき減量特性が決まっていれば、香料の含有量、溶剤の種類や含有量等を調節することにより、当該減量特性を満たす芳香液を調製することは可能である。
【0022】
[芳香液の組成]
本発明の芳香液には、香料及び溶剤が含まれる。
【0023】
本発明の芳香液に使用される香料については、天然香料、天然香料から分離された単品香料、合成された単品香料、これらの調合香料等のいずれの油性香料であってもよく、従来公知の香料を使用することができる。具体的には、単品香料として、炭化水素系香料、アルコール系香料、エーテル系香料、アルデヒド系香料、アセタール系香料、エステル系香料、ケトン系香料、カルボン酸系香料、ラクトン系香料、ムスク系香料、ニトリル系香料、硫黄含有香料等が挙げられる。また、天然香料としては、チュベローズ油、ムスクチンキ、カストリウムチンキ、シベットチンキ、アンバーグリスチンキ、ペパーミント油、ペリラ油、プチグレン油、パイン油、ローズ油、ローズマリー油、しょう脳油、芳油、クラリーセージ油、サンダルウッド油、スペアミント油、スパイクラベンダー油、スターアニス油、ラバンジン油、ラベンダー油、レモン油、レモングラス油、ライム油、ネロリ油、オークモス油、オコチア油、パチュリ油、タイム油、トンカ豆チンキ、テレピン油、ワニラ豆チンキ、バジル油、ナツメグ油、シトロネラ油、クローブ油、ボアドローズ油、カナンガ油、カルダモン油、カシア油、シダーウッド油、オレンジ油、マンダリン油、タンジェリン油、アニス油、ベイ油、コリアンダー油、エレミ油、ユーカリ油、フェンネル油、ガルバナム油、ゼラニウム油、ヒバ油、桧油、ジャスミン油、ベチバー油、ベルガモット油、イランイラン油、グレープフルーツ油、ゆず油等が挙げられる。これらの香料は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて調香して使用することもできる。
【0024】
本発明の芳香液における香料の含有量については、使用する香料の種類、呈させる香りの強さ等に応じて、前述する減量特性を満たす範囲で適宜設定すればよいが、例えば、10~90重量%、好ましくは30~80重量%、より好ましくは50~80重量%、更に好ましくは65~75重量%が挙げられる。
【0025】
本発明の芳香液に使用される溶剤については、前述する減量特性を充足させ得ることを限度として特に制限されないが、好適な溶剤として、20℃での蒸気圧が0.005~0.040kPa、好ましくは0.008~0.030kPa、より好ましくは0.009~0.020kPa、更に好ましくは0.010~0.013kPaのパラフィン系炭化水素が挙げられる。このようなパラフィン系炭化水素を使用することにより、前述する減量特性を好適に充足させることができ、使用前期から後期に亘って所望の強さの香りを効果的に維持させることが可能になる。
【0026】
また、前記蒸気圧の範囲を満たすパラフィン系炭化水素についは、更に常圧での初留点が218~257℃を満たしていることが望ましい。前記蒸気圧の範囲と共に、前記の初留点の範囲を充足するパラフィン系炭化水素を使用することによって、前述する減量特性をより一層好適に充足させることができ、使用前期から後期に亘って所望の強さの香りを格段効果的に維持させることが可能になる。
【0027】
前記蒸気圧の範囲を満たすパラフィン系炭化水素は、イソパラフィン又はノルマルパラフィンのいずれであってもよいが、好ましくはイソパラフィンが挙げられる。
【0028】
本発明の芳香液において、溶剤として前記蒸気圧の範囲を満たすパラフィン系炭化水素を使用する場合、当該パラフィン系炭化水素と共に他の溶剤が含まれていてもよいが、前述する減量特性を好適に充足させるという観点から、溶剤の総量100重量部当たり、前記蒸気圧の範囲を満たすパラフィン系炭化水素が40重量部以上、好ましくは60)重量部以上、より好ましくは80重量部以上、更に好ましくは90重量部以上、特に好ましくは100重量部を占めていることが挙げられる。
【0029】
本発明の芳香液における溶剤の含有量については、前述する減量特性を満たす範囲で適宜設定すればよいが、例えば、10~80重量%、好ましくは20~70重量%、より好ましくは20~50重量%、更に好ましくは25~35重量%が挙げられる。
【0030】
本発明の芳香液には、前述する成分の以外に、前述する減量特性を満たすことを限度として、他の添加剤を含有してもよい。このような他の添加剤としては、例えば、増粘剤、防腐剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、着色料等が挙げられる。
【0031】
[揮散器]
本発明の芳香液は、使用中は吸液部材に芳香液の供給が行われない揮散器を用いて、吸液部材に含浸させた状態で揮散させる態様で使用される。
【0032】
本発明の芳香液を含浸させて揮散させる吸液部材については、本発明の芳香液を吸液して揮散できることを限度として特に制限されないが、例えば、綿、植物繊維、パルプ等の天然繊維、レーヨン、ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート等の合成繊維、又はそれらの混合繊維等の繊維質材料;木片、籐、竹、ソラ等の木質材料;発泡ウレタンの樹脂製スポンジ材料等が挙げられる。また、揮散部材が繊維質材料で形成されている場合、吸液性があるフェルト又は不織布であることが好ましいが、織物、編物等であってもよい。揮散部材の形状については、特に制限されず、シート状、ブロック状、棒状、帯状、紐状等のいずれであってもよい。
【0033】
吸液部材の大きさについては、使用する空間に応じて適宜設定すればよいが、例えば、1~20cm3程度が挙げられる。特に、本発明の芳香液を自動車の室内用として使用する場合であれば、1~20cm3程度が好ましく、2~10cm3程度がより好ましく、4~8cm3程度が更に好ましい。
【0034】
本発明の芳香液を吸液部材に含浸させる量については、使用する吸液部材の種類に応じて適宜設定すればよいが、例えば、吸液部材1cm3当たり、吸液部材の含浸量が0.05~2ml、好ましくは0.1~1.0ml、より好ましくは0.3~0.7mlが挙げられる。
【0035】
本発明の芳香液を揮散させる揮散器は、本発明の芳香液が含浸された吸液部材が、開口部を有する容器に収容された構造であればよい。本発明の芳香液を揮散させる揮散器では、使用中(芳香液の揮散中)は吸液部材に芳香液の供給が行わないため、容器内の芳香液は、吸液部材に含浸されていない状態で貯留されておらず、吸液部材に含浸された状態でのみ存在する。
【0036】
[提供態様]
本発明の芳香液は、揮散器の構成部材となる容器及び吸液部材とセットにして提供してもよく、また、詰替用の芳香液として、単独で又は吸液部材とセットにして提供してもよい。
【0037】
[用途]
本発明の芳香液は、自動車の室内、居住空間(リビング、玄関、トイレ等)等の空間において芳香を付与するために使用される。本発明の芳香液は、揮散器内で全てが吸液部材に含浸された状態で存在し、振動や揺れ等があっても、揮散器からこぼれ出ることがないため、自動車の室内用として特に好適である。また、自動車内は温度変化が大きく、揮散器内に貯留させた薬液を吸液部材で吸い上げながら揮散させる芳香液の場合は、温度上昇の際に揮散器内のヘッドスペースの空気が膨張し、芳香液が噴出し周囲を汚すおそれがあるが、本発明の芳香液は、揮散器内で全てが吸液部材に含浸された状態で存在するため、揮散器外に芳香液が噴出することが殆どない。かかる点からも、本発明の芳香液は、自動車の室内用として好適といえる。
【0038】
2.揮散器
本発明の揮散器は、前記芳香液と、吸液部材と、開口部を有する容器とを含み、前記容器に、前記芳香液が含浸された前記吸液部材が収容されてなり、前記芳香液が前記液部材に含浸されていない状態では存在していないことを特徴とする。
【0039】
本発明の揮散器で使用される芳香液、吸液部材、及び容器等については、前記「1.芳香液」の欄に記載の通りである。
【実施例
【0040】
以下に、実施例等を挙げて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例及び比較例で使用した成分の特性、入手元等は、以下の通りである。
・香料:ローズ調の油性香料
・イソパラフィンA:商品名「アイソパーM」、エクソンモービル社製;20℃での蒸気圧が0.0115kPa、初留点が225℃
・ポリオキシエチレン(10)オクチルフェニルエーテル:商品名「ポリオキシエチレン(10)オクチルフェニルエーテル」、(富士フィルム和光純薬工業)株式会社;20℃での蒸気圧が0.001kPa
・イソパラフィンB:商品名「IPソルベント2835」、出光興産株式会社;20℃での蒸気圧が0.002kPa、初留点が277~353℃
・ジプロピレングリコールモノメチルエーテル::商品名「ダワノールDPM」、ザ・ダウ・ケミカル・カンパニー;25℃での蒸気圧が0.053kPa
・イソパラフィンC:商品名「アイソパーG」、(エクソンモービル社製)株式会社;20℃での蒸気圧が0.2049kPa、初留点が153~257℃
【0041】
試験例1
表1に示す芳香液を調製し、吸液部材に含浸させた状態での減量速度を測定した。具体的には、以下の試験条件で、144時間後残存率(R)、0~24時間の減量速度(V1)、及び120~144時間の減量速度(V2)を測定し、0~24時間の減量速度(V1)から120~144時間の減量速度(V2)を差し引いた値(V1-V2)を求めた。
(1) 皿の上に置いた直方形の吸液部材(吸液性があるフェルト;長さ40mm、幅18mm、厚み5mm、密度0.12g/m3、ポリエチレンテレフタレート80重量%とレーヨン20重量%の複合繊維物;商品名「E-6H」、米島フェルト産業株式会社製)に芳香液3.5mLを含浸させ、直射日光が当たらない室内(10畳程度の部屋)で40℃の温度条件で静置した。
(2) 静置開始時、静置開始から24時間後、120時間後、及び144時間後に、芳香液を含浸させた吸液部材を載せた皿の重量を測定し、皿と吸液部材(芳香液未含浸)の重量を差し引くことにより、吸液部材に含浸している芳香液の重量を求めた。
(3) 下記式に従って、144時間後残存率R、0~24時間の減量速度V1、及び120~144時間の減量速度V2を算出した。
R(%)=(静置開始から144時間後の芳香液の重量/静置開始時の芳香液の重量)×100
1(g/day)=静置開始時の芳香液の重量-静置開始から24時間後の芳香液の重量
2(g/day)=静置開始から120時間後の芳香液の重量-静置開始から144時間後の芳香液の重量
【0042】
また、前記試験において、試験開始時の香りの強さ、及び試験開始時と144時間後との香りの強さの差について、香りの評価について訓練された専門パネラー1名によって、以下の判定基準で評価させた。
【0043】
<試験開始時の香りの強さ>
○:香りを十分に感じる。
×:香りを感じるが、やや弱く物足りない。
【0044】
<試験開始時と144時間後との香りの強さの差>
○:144時間後の香りの強さが、試験開始時に比べてやや弱まっているが、試験開始時と144時間後では香りの強さに大きな差は感じられない。
×:144時間後の香りの強さが、試験開始時に比べて明らかに弱まっており、試験開始時と144時間後では香りの強さに大きな差が感じられる。
【0045】
結果を表1に示す。比較例1及び2の芳香液では、値(V1-V2)が1.000g/day以下であり、使用前期(24時間後まで)と使用後期(120時間後から144時間後まで)で芳香液の減量速度の差が小さく、使用後期に香りが弱くなるのを抑制できていたが、144時間後残存率(R)が50%を超えており、使用期間中の平均揮散速度(即ち、単位時間当たりの香料の平均揮散量)が低くなっていた。また、比較例3及び4の芳香液では、144時間後残存率(R)が50%以下であり、使用期間中の平均揮散速度は高かったが、値(V1-V2)が1.000g/dayを超えており、使用後期は、使用前期に比べて香りが弱くなる傾向が強く現れていた。これに対して、実施例1の芳香液では、144時間後残存率(R)が50%以下であり、使用期間中の平均揮散速度が高く、しかも値(V1-V2)が1.000g/day以下であり、使用前期と使用後期で芳香液の減量速度の差が小さく、使用後期に香りが弱くなるのを抑制できていた。
【0046】
【表1】