(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-27
(45)【発行日】2024-06-04
(54)【発明の名称】シリコンウェーハの製造方法
(51)【国際特許分類】
C30B 29/06 20060101AFI20240528BHJP
C23C 16/02 20060101ALI20240528BHJP
C23C 16/24 20060101ALI20240528BHJP
C30B 25/16 20060101ALI20240528BHJP
C30B 25/20 20060101ALI20240528BHJP
H01L 21/205 20060101ALI20240528BHJP
【FI】
C30B29/06 504F
C23C16/02
C23C16/24
C30B25/16
C30B25/20
H01L21/205
(21)【出願番号】P 2020026332
(22)【出願日】2020-02-19
【審査請求日】2023-01-23
(73)【特許権者】
【識別番号】312007423
【氏名又は名称】グローバルウェーハズ・ジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【氏名又は名称】木下 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100187506
【氏名又は名称】澤田 優子
(72)【発明者】
【氏名】仙田 剛士
(72)【発明者】
【氏名】成松 真吾
【審査官】宮脇 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-186449(JP,A)
【文献】特開2019-142733(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/06
C30B 25/20
C30B 25/16
C23C 16/00-16/56
H01L 21/205
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チョクラルスキー法により育成されたSi単結晶インゴットから製造された基板が、
ドーパントがリン(P)であり、抵抗率が1.05mΩcm以下で調整され、固溶酸素濃度が0.9×10
18atoms/cm
3以下で調整され、且つ、この単結晶成長において、引上速度を0.5mm/min以上、1.0mm/min以下とし、さらに磁場印加を2000以上4000Gauss以下とし、引き上げ炉内に水冷体を設置して、成長した結晶を強制的に冷却することによって、結晶中にPが凝集して形成される欠陥の実体がSi-P欠陥である欠陥を含み、
この基板表面にSi単結晶エピタキシャル膜が設けられた、シリコンウェーハの製造方法であって、
前記基板を鏡面加工する鏡面加工工程と、
前記鏡面加工工程後、前記基板を700℃以上850℃未満の一定温度で、30分以上120分以下保持し、その後、昇温した後に、1100℃以上1250℃以下の一定温度で30分以上120分以下保持し、この後の降温時の700℃以下、450℃以上のウェーハの体験時間を10分未満とし、且つ、この一連の炉内雰囲気を、H
2およびArからなる混合ガスとした熱処理工程と、
前記熱処理工程後、H
2
(水素)、HCl(塩化水素)、およびSi-H-Clの混合ガスで、表面Siを50nm以上150nm以下エッチングで除去する表面清浄化処理工程と、
前記
表面清浄化処理工程の後、Si単結晶エピタキシャル膜を
成膜温度1100℃以上1150℃以下、かつその成膜速度3.5μm/分以上6.0μm/分以下で、1.3μm以上10.0μm以下の厚さで成膜するエピタキシャル膜成膜工程と、
を備えることを特徴とするシリコンウェーハの製造方法。
【請求項2】
Si-P欠陥の最大辺長さが100nm未満、かつその密度が1×10
12/cm
3未満であることを特徴とする
請求項1に記載のシリコンウェーハの製造方法。
【請求項3】
熱処理工程における炉内雰囲気を、昇温時の700℃以上850℃未満はH
2分圧80~50%のAr希釈ガスとし、その後の850℃以上はH
2分圧0.01~20%のAr希釈ガスとする、ことを特徴とする
請求項1に記載のシリコンウェーハの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコンウェーハの製造方法に関し、特に、ドーパントがリン(P)であり、抵抗率が1.05mΩcm以下で調整され、固溶酸素濃度が0.9×1018atoms/cm3以下で調整された基板上に、Si単結晶エピタキシャル膜を成膜するシリコンウェーハの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パワーMOS用エピウェーハの基板抵抗率は、最も進んだウェーハでは1mΩcm以下である。この基板抵抗率を低下させるためには、ドーパント濃度を増加させる必要がある。そのため、nタイプドーパント種は砒素やアンチモンから比較的揮発性の低い燐(P)へと移行しており、その濃度は約1×1020atoms/cc程度となっている。
【0003】
このように、ドーパント濃度を増加してエピタキシャル膜を成長させると、特許文献1~3に記載されているように、積層欠陥(スタッキングフォルト、以下、SFともいう)がエピタキシャル膜に発生する。特に、抵抗率1.1mΩcm以下の基板において、SFが発生しやすかった。
このSF原因となる結晶欠陥は、特許文献1~3において、Pと酸素(O)のクラスター欠陥と推察されると報告されており、また結晶成長、そしてその後の熱処理やエピ成長での抑制技術が報告されている。
【0004】
具体的には、高濃度にリンがドープされたシリコンウェーハには、リンと酸素のクラスター(微小析出物)が形成される。この後、シリコンウェーハ表面に存在する自然酸化膜除去を目的に、水素ガス雰囲気下で熱処理(以下、「水素ベーク処理」という)が施されると、水素ガスによるエッチング作用と、シリコンウェーハの最表層とクラスターとのエッチング速度の違いから、クラスターが選択的にエッチングされ微小ピットとなる
この微小ピットが形成されたシリコンウェーハに対してエピタキシャル成長を行うと、微小ピットが起源となってエピタキシャル膜内にSFとなって発生すると推察されることが報告されている。
【0005】
そして、特許文献1には、CZ法により製造された単結晶インゴットから切り出されたシリコンウェーハの裏面に酸化膜を形成する裏面酸化膜形成工程と、前記シリコンウェーハの外周部に存在する前記酸化膜を除去する裏面酸化膜除去工程と、前記裏面酸化膜除去工程後の前記シリコンウェーハに対し、アルゴンガス雰囲気下において1200℃以上1220℃以下の温度で熱処理を行うアルゴンアニール工程と、前記アルゴンアニール工程後の前記シリコンウェーハに対し、水素ガス雰囲気下において1050℃以上1200℃以下の温度で30秒以上300秒以下の熱処理を行う水素ベーク工程と、前記水素ベーク工程後の前記シリコンウェーハの表面にエピタキシャル膜を成長させるエピタキシャル膜成長工程とを有するエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法が示され、エピタキシャル膜のSFを抑制できることが示されている。
【0006】
また、特許文献2においても、特許文献1と同様に、エピタキシャルシリコンウェーハの製造方法が示され、エピタキシャル膜のSFを抑制できることが示されている。
更に、特許文献3には、単結晶の抵抗率が0.9mΩ・cm以下となるように、シリコン融液に赤リンを添加したドーパント添加融液に、種子結晶を接触させた後に引き上げることで、長さが550mm以下の直胴部を形成する直胴部形成工程と、前記直胴部の下端に長さが100mm以上かつ140mm以下のテール部を形成するテール部形成工程と、前記直胴部の上端の温度が590℃以上の状態で、前記単結晶を前記ドーパント添加融液から切り離す切り離し工程とを行う、単結晶の製造方法が示され、SFに起因するLPD(Light Point Defect(ライト・ポイント・デフェクト))の発生が抑制されたエピタキシャルシリコンウェーハを得ることができることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第5845143号公報
【文献】特許第6477210号公報
【文献】特許第5892232号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、特許文献1~3に示されたエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法、単結晶の製造方法を用いても、要求を満たすような充分なSF低減効果を得ることができなかった。
固溶酸素濃度を充分低減して、リンと酸素のクラスター(微小析出物)を低減しても、このSFの抑制が困難であった。
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために、エピタキシャル膜におけるSFの抑制を鋭意、研究した。その結果、本発明者らは、エピタキシャル膜におけるSFの原因がPおよびSiから形成される、P凝集欠陥(Si-P欠陥)であることを見出した。
また、P凝集欠陥(Si-P欠陥)は、その内部に内在的な余剰Si面(SF)を有し(参考文献4および5)、これがエピタキシャル膜の成膜前の基板表面での結晶歪みとなり、その後のエピタキシャル膜の成膜で、エピタキシャル膜(エピ層)を伝播するSFになることが判明した。
このSi-P欠陥とは、参考文献4および5に示す通り、Siと数atomic%のPを含有する板状欠陥である。Pは原子位置ではなく格子間に存在し、また余剰Si(外部SF)も含まれる。欠陥周囲の抵抗率から推定されるP濃度は0.2 atomic%程度であり、局所的にPが凝集し、かつ結晶歪みを有する。
【0010】
上記参考文献4、5、は下記の通りである。
参考文献4:29th International Conference on Defectsin Semiconductors, Atomic structures of grown-in Si-P precipitates inred-phosphorus heavily doped CZ-Si crystals (TuP-16)
参考文献5:第78回 応用物理学会秋季学術講演会 赤燐高ドープCZ-Si結晶におけるSi-P析出物の構造解析 (7p-PB6-6)
【0011】
そしてまた、本発明者らは、SFの成長(サイズ)は、Si単結晶の引き上げ時の低温体験時間に依存することを知見した。即ち、P凝集欠陥(Si-P欠陥)起因のSFを抑制するためには、特許文献1~3に記載された技術では困難であり、結晶成長、熱処理、エピタキシャル膜の成長等、全てのプロセスを適正化する必要があることを知見し、本発明を完成するに至った。
【0012】
本発明は、P凝集欠陥(Si-P欠陥)を抑制し、エピタキシャル膜におけるSFを抑制することができる、シリコンウェーハの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するためになされた、本発明にかかるシリコンウェーハの製造方法は、チョクラルスキー法により育成されたSi単結晶インゴットから製造された基板が、ドーパントがリン(P)であり、抵抗率が1.05mΩcm以下で調整され、固溶酸素濃度が0.9×1018atoms/cm3以下で調整され、且つ、この単結晶成長において、引上速度を0.5mm/min以上、1.0mm/min以下とし、さらに磁場印加を2000以上4000Gauss以下とし、引き上げ炉内に水冷体を設置して、成長した結晶を強制的に冷却することによって、結晶中にPが凝集して形成される欠陥の実体がSi-P欠陥である欠陥を含み、この基板表面にSi単結晶エピタキシャル膜が設けられた、シリコンウェーハの製造方法であって、前記基板を鏡面加工する鏡面加工工程と、前記鏡面加工工程後、前記基板を700℃以上850℃未満の一定温度で、30分以上120分以下保持し、その後、昇温した後に、1100℃以上1250℃以下の一定温度で30分以上120分以下保持し、この後の降温時の700℃以下、450℃以上のウェーハの体験時間を10分未満とし、且つ、この一連の炉内雰囲気を、H2およびArからなる混合ガスとした熱処理工程と、前記熱処理工程後、H
2
(水素)、HCl(塩化水素)、およびSi-H-Clの混合ガスで、表面Siを50nm以上150nm以下エッチングで除去する表面清浄化処理工程と、前記表面清浄化処理工程の後、Si単結晶エピタキシャル膜を成膜温度1100℃以上1150℃以下、かつその成膜速度3.5μm/分以上6.0μm/分以下で、1.3μm以上10.0μm以下の厚さで成膜するエピタキシャル膜成膜工程と、を備えることを特徴としている。
【0014】
このように、本発明にかかるシリコンウェーハの製造方法は、結晶成長、熱処理のプロセスにおいて、P凝集欠陥(Si-P欠陥)を抑制することができるため、エピタキシャル膜におけるSFを抑制することができる。
【0015】
具体的には、本発明にかかる基板は、ドーパントがリン(P)であり、これによる抵抗率が1.05mΩcm以下で調整され、固溶酸素濃度が0.9×1018atoms/cm3以下で調整された基板である。
そして、その基板の製造において、引上速度を0.5mm/min以上、1.0mm/min以下とし、さらに磁場印加を2000以上4000Gauss以下とし、引き上げ炉内に水冷体を設置して、成長した結晶を強制的に冷却することによって、P凝集欠陥(Si-P欠陥)のサイズおよび密度の増加が抑制された基板が製造される。この製造条件は、結晶成長においては、600℃以上700℃以下の通過時間がSi-P欠陥の成長を促進する温度領域となるため、この通過時間を短縮するための条件となる。
【0016】
そして、このようにして製造された前記基板を、700℃以上850℃以下の一定温度で、30分以上120分以下保持する。700℃以上で熱処理を行うと、ウェーハ裏面に形成されるSi酸化膜から不純物、水分や酸素が離脱する。一方、Si基板表面は850℃以上の温度で反応する。そのため、850℃以上の温度で熱処理すると、Si酸化膜から離脱した不純物等により、ウェーハ表面粗さが悪化する。
【0017】
本発明では、700℃以上850℃以下の温度範囲で一定時間保持することで、Si酸化膜からの不純物等の離脱による、ウェーハ表面粗さの悪化を抑制する。ウェーハ表面粗さ増加は850℃以上で発生するため、700℃以上850℃以下の温度でSi酸化膜を十分高密度化し、かつその脱離ガスを処理炉内より排出することで、この問題を回避できる。また、Si-P欠陥内のPの分解および拡散促進もなされ、Si-P欠陥の収縮および密度減少の効果も存在する。
また、前記温度範囲での基板の保持時間は、30分以上120分以下である。
尚、この保持時間が30分未満の場合には、Si酸化膜の高密度化が不十分となり好ましくなく、また保持時間が120分を越える場合には、生産性低下となり、好ましくない。
【0018】
更に、本発明では、前記基板を700℃以上850℃以下の一定温度で、30分以上120分以下保持した後、昇温し、1100℃以上1250℃以下の一定温度で30分以上120分以下保持する。
このように、1100℃以上1250℃以下の一定温度で30分以上120分以下保持するのはSi-P欠陥の歪みを修正するためであり、Si-P欠陥の歪みの修正により、エピタキシャル膜成膜時におけるSFの発生が抑制される。
【0019】
また、その後、前記基板を降温し、700℃以下、450℃以上のウェーハの体験時間を10分未満とする。このように、700℃以下、450℃以上の温度範囲の通過時間を短くすることにより、P凝集欠陥(Si-P欠陥)を抑制することができる。
【0020】
また、上記した一連の基板の熱処理における炉内雰囲気を、H2およびArからなる混合ガスとしている。
このように、H2およびArからなる混合ガスを用いて、シリコンウェーハの熱処理が行われるため、Si-P欠陥の消滅が促進され好ましい。
【0021】
更に、前記熱処理工程の後、Si単結晶エピタキシャル膜を1.3μm以上10.0μm以下の厚さで成膜される。このエピタキシャル膜の膜厚は一般的な膜厚であり、Si単結晶エピタキシャル膜を1.3μm未満では、デバイスプロセスでの電気耐圧を維持できず、また10.0μmを越える場合には、エピウェーハのコスト増加となるため、好ましくない。
【0022】
以上のように、本発明にあっては、結晶成長、熱処理のプロセスにおいて、P凝集欠陥(Si-P欠陥)を抑制することによって、最終的にエピタキシャル膜におけるSFを抑制することができる。
【0023】
ここで、Si-P欠陥の最大辺長さが100nm未満、かつその密度が1×1012/cm3未満であることが望ましい。
Si-P欠陥の最大辺長さが100nm以上の場合に、Si-P欠陥がエピタキシャル膜成膜工程の後、SF(LPD:Light Point Defect(ライト・ポイント・デフェクト))として顕在化する。しかもSi-P欠陥の密度が1×1012/cm3以上の場合には、SF(LPD)が多く残存し、デバイスプロセスでの電気特性に影響を与えるため、好ましくない。
【0024】
また、熱処理工程における炉内雰囲気を、700℃以上850℃未満はH2分圧80~50%のAr希釈ガスとし、その後の850℃以上はH2分圧0.01~20%のAr希釈ガスとすることが望ましい。
700℃以上850℃未満は、H2分圧80~50%のAr希釈ガスとしたのは、Si酸化膜の高密度化をH2で促進し、かつH2による物理的なSi酸化膜エッチングを抑制するためであり、またその後の850℃以上はH2分圧0.01~20%のAr希釈ガスとしたのは、Si-P欠陥消滅を促進しつつ、同様にH2による物理的なSi酸化膜エッチングを抑制するためである。
【0025】
また、エピタキシャル膜成膜工程前の基板に対して、表面清浄化処理を行う表面清浄化処理工程を含み、前記表面清浄化処理工程では、H2(水素)、HCl(塩化水素)、およびSi-H-Clの混合ガスで、表面Siを50nm以上150nm以下エッチングで除去することが望ましい。
このように、基板の表面清浄化処理を行うことにより、エピタキシャル膜成膜工程後のSFをより低減することができる。このとき、HCl(塩化水素)ガスでの欠陥除去が有効であり、H2(水素)およびHCl(塩化水素)の混合ガスによる、欠陥除去が好ましい。
H2(水素)、HCl(塩化水素)、およびSi-H-Clの混合ガスによるため、最初はH2およびHCl混合ガスにおけるHCl分圧をある一定値とし、その後これを減少することでH2ベークでの表面形状再構成も行い、その後、HCl分圧を減少しつつ、かつSi-H-Clガスを導入しても良い。
ただし、欠陥残存深さは概ね100nm以下であり、その生産性などを考慮すると、表面Siを50nm以上150nm以下のエッチングが適切である。
【0026】
また、Si成膜温度を1100℃以上1150℃以下、かつその速度を3.5μm/分以上6.0μm/分以下の成膜速度で成膜することが望ましい。
【0027】
また、熱処理前の鏡面ウェーハに対し、酸溶液もしくは酸雰囲気でその表面酸化膜を除去する酸化膜除去工程を含むことが望ましい。
Si基板表面の清浄化はもちろん、Si-Pの欠陥消滅にも表面自然酸化膜を除去する必要があるため、酸化膜除去工程を含むことが望ましい。
【0028】
また、鏡面加工前の前記基板のスライス角度が、主表面方位に対して0.1°以上0.4°以下の範囲であることが望ましい。
前記基板のスライス角度は、エピタキシャル膜の成膜時のSFの成長と消滅に影響を与える。スライス角度は前記主表面方位に対して0.1°以上0.4°以下の範囲とすることにより、エピタキシャル膜の成膜中にSFをより消滅させることができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、P凝集欠陥(Si-P欠陥)を抑制し、エピタキシャル膜におけるSFを抑制することができる、シリコンウェーハの製造方法を提供することを目的とする。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】
図1は、本発明にかかるシリコンウェーハの製造方法の実施形態のフローチャートを示す図である。
【
図2】
図2は、
図1に続く、本発明にかかるシリコンウェーハの製造方法の実施形態のフローチャートを示す図である。
【
図3】
図3は、LPDのSi成膜温度および成長速度依存性を示す図である。
【
図4】
図4は、Si-P欠陥と引き上げ速度の関係を示す図である。
【
図5】
図5は、LPDの数とSi除去量の関係を示す図である。
【
図6】
図6は、LPDの数と、650℃~900℃における保持時間の関係を示す図である。
【
図7】
図7は、LPDの数と1050℃~1270℃における熱処理における保持時間の関係を示す図である。
【
図8】
図8は、LPDの数と700℃~450℃の体験時間の関係を示す図である。
【
図9】
図9は、水冷体を備える引上げ装置の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明にかかるシリコンウェーハの製造方法の実施形態について、
図1、
図2、
図9に基づいて説明する。尚、以下に示す実施形態は一例を示すものであって、本発明はこの実施形態に制限されるものではない。
図1に示すように、チョクラルスキー法によりSi単結晶を成長させ、Si単結晶インゴットを製作する(ステップS1)。このSi単結晶成長において、ドーパントはリン(P)であり、引上速度を0.5mm/min以上、1.0mm/min以下とし、さらに2000以上4000Gauss以下の磁場を印加して、Si単結晶の引上げが行われる。
【0032】
引上速度を0.5mm/min以上、1.0mm/min以下としたのは以下の理由による。
低抵抗領域での結晶が、セル成長する組成的過冷却現象を抑制するためには、G(融液温度勾配)/V(引上速度)を大きくする必要がある。
即ち、V(引上速度)を小さくすることにより、組成的過冷却現象を抑制することができるが、引上速度を減少させた場合、700℃以下(600℃~700℃以下の温度範囲)の通過時間が長くなり、P凝集欠陥(Si-P欠陥)を抑制することができない。
このため、「引き上げ炉内に水冷体を設置して結晶を強制的に冷却し、かつ引上速度を0.5mm/min以上、1.0mm/min以下とし、さらに磁場印加を2000以上4000Gauss以下で行う」ことで、温度勾配Gを大きくし、組成的過冷却現象を抑制すると共に、P凝集欠陥(Si-P欠陥)を抑制する。
【0033】
具体的には、引上速度を0.5mm/min未満の場合には、P凝集欠陥(Si-P欠陥)を抑制することができず、引上速度が1.0mm/minを越える場合には、組成的過冷却現象を抑制することができないため、好ましくない。
【0034】
そして、引上げ炉内に水冷体を設置して、成長したSi単結晶を強制的に冷却して形成する。例えば、
図9に示すように、引上げ装置1の引上げ炉2の上部と遮蔽板4との間に円筒状の水冷体3を設置することにより、引上げ中のシリコン単結晶5を強制的に冷却することで、700℃以下600℃以上の滞在時間を短縮することができる。尚、図中、符号6は石英ガラスルツボ、符号7はヒータ、符号8は磁場印加部、符号9はシリコン単結晶5を引上げるワイヤーである。
このように、水冷体によって、成長したSi単結晶を強制的に冷却して、600℃未満の温度に冷却する。即ち、700℃以
下、600℃以上のウェーハの体験時間を短くすることにより、
図4に示すように、P凝集欠陥(Si-P欠陥)を抑制することができる。
【0035】
そして、Si単結晶インゴットを、スライス角度が主表面方位に対して0.1°以上0.4°以下の範囲となるようにスライスし、基板を製作する(ステップS2)。
前記基板のスライス角度は、エピタキシャル膜の成膜時のSFの成長と消滅に影響を与える。主表面方位はSi(100)であり、スライス角度は前記主表面方位に対して0.1°以上0.4°以下の範囲である。
即ち、スライス角度は前記主表面方位に対して0.1°以上0.4°以下の範囲とすることにより、SFの欠陥消滅にはエピタキシャル膜の成膜中にSi原子が移動をおこなうパスとなるSiステップ幅が形成される。このSiステップ幅が形成されることにより、Si原子が移動することができ、Si原子歪みが除去され、SFを消滅させることができる。
【0036】
そして、このようにして製作された基板は、抵抗率が1.05mΩcm以下、固溶酸素濃度が0.9×1018atoms/cm3以下、結晶中にPが凝集して形成される欠陥の実体がSi-P欠陥である欠陥を含んでいる(ステップS3)。
抵抗率が1.05mΩcm以下、固溶酸素濃度が0.9×1018atoms/cm3以下の基板は、社会的に求められている基板である。しかも、上記した基板の製作方法(ステップS1、S2)によっても、Si-P欠陥は抑制されるものの、残存し、Si-P欠陥を含んでいる。
尚、前記抵抗率、前記固溶酸素濃度は、ドーパント濃度、引上速度、磁場強度を調整することによって得ることができる。
【0037】
このようにして製作された基板のSi-P欠陥は、最大辺長さが100nm未満、かつその密度が1×1012/cm3未満であることが望ましい。
Si-P欠陥の最大辺長さが100nm以上の場合に、Si-P欠陥がエピタキシャル膜成膜工程の後、SF(LPD)として顕在化する。またSi-P欠陥の密度が1×1012/cm3以上の場合においてもSF(LPD)が残存することとなる。
よって、Si-P欠陥の最大辺長さが100nm未満であることが好ましく、またSi-P欠陥の密度が1×1012/cm3未満であることが望ましく、このように調整された結晶成長をおこなうことが好ましい。
【0038】
次に、基板の裏面にSi酸化膜を形成する(ステップS4)。
パワーMOSFETでは、一般的にウェーハ裏面にSi酸化膜が形成される。このSi酸化膜は、例えば500℃未満の低温CVDにより形成される。
この裏面酸化膜は、エピタキシャル膜の成膜時におけるオートドープを抑制するためのものである。一般的には、減圧下、および400~500℃の範囲で、300~800nmの厚さで成膜される。
【0039】
続いて、前記基板のおもて面に、鏡面加工が施される(ステップS5)。
この鏡面研磨は、研磨布等による機械的な効果、そしてスラリー等での化学的な効果でなされるのが一般的である。尚、この鏡面研磨で、直接的にSi-P欠陥が減少することはない。しかしながら、鏡面研磨でより表面粗さを低減することで、その後の熱処理でSi-P欠陥を消滅しやすい状態にすることができる。
【0040】
次に、
図2に示すように、前記おもて面が鏡面加工された基板に対し、酸溶液もしくは酸雰囲気でその表面酸化膜を除去する(ステップS6)。
Si
基板表面の清浄化はもちろん、Si-Pの欠陥消滅にも表面自然酸化膜を除去する必要があるため、酸化膜除去工程を含むことが望ましい。薬液でこれをおこなう場合の一例を挙げれば、使用薬液HF、純水で希釈されたHF濃度は0.1~5%、処理時間は30~120秒が好ましい。
【0041】
続いて、
図2に示すように、前記基板を700℃以上850℃未満の一定温度で、30分以上120分以下保持する、熱処理を行う(ステップS7)。
前記したSi酸化膜は、約700℃以上で緻密化がなされる。その際、Si酸化膜から脱離する不純物、水分や酸素が存在する。一方、Si基板表面は850℃以上で反応し、
この850℃以上で前記脱離があると、ウェーハ表面粗さが増加する。尚、700℃以上850℃未満の温度において、Si-P欠陥内のPの分解および拡散促進もなされるが、温度帯が低いため、Si-P欠陥の増大や密度増加は起きない。
そのため、前記脱離反応を前記温度範囲、即ち、700℃以上850℃未満の一定温度とすることにより、Si酸化膜から不純物、水分や酸素を外方拡散できると共に、ウェーハ表面粗さの増大を抑制できる。
【0042】
また、前記温度範囲での基板の保持時間は、30分以上120分以下である。
尚、この保持時間が30分未満の場合には、外方拡散が促進できず好ましくなく、また保持時間が120分を越える場合には、生産性低下となり、好ましくない。
【0043】
また、この熱処理の炉内雰囲気を、H2およびArからなる混合ガスで行う。H2分圧80~50%のAr希釈ガスとしたのは、Si酸化膜の高密度化をH2で促進し、かつH2による物理的なSi酸化膜エッチングを抑制するためである。
【0044】
続いて、昇温した後に、基板を1100℃以上1250℃以下の一定温度で30分以上120分以下保持する(ステップS8)。尚、この熱処理の炉内雰囲気も、ステップS7と同様に、H2およびArからなる混合ガスである。
このように、1100℃以上1250℃以下の一定温度で30分以上120分以下保持することにより、Si-P欠陥の歪みを修正することができる。その結果、エピタキシャル膜のSF欠陥が抑制される。
尚、1100℃未満、また30分未満では、Si-P欠陥の歪みを修正することができず、1250℃を越える温度、また120分を超える時間では、基板が変形するため、好ましくない。
【0045】
更に、この後、700℃未満、450℃以上のウェーハの体験時間を10分未満とするように、降温する(ステップS9)。
尚、この熱処理の炉内雰囲気も、ステップS6と同様に、H2およびArからなる混合ガスである。
このように、450℃以上700℃未満の通過時間を短くすることにより、P凝集欠陥(Si-P欠陥)を抑制することができる。
【0046】
また、上記熱処理工程における炉内雰囲気(H2およびArからなる混合ガス)を、700℃以上850℃未満の場合には、H2分圧80~50%のAr希釈ガスとし、700℃未満および850℃以上の場合には、H2分圧0.01~20%のAr希釈ガスとすることが望ましい。
700℃以上850℃未満は、H2分圧80~50%のAr希釈ガスとしたのは、Si酸化膜の高密度化をH2で促進し、かつH2による物理的なSi酸化膜エッチングを抑制するためであり、またその後の850℃以上はH2分圧0.01~20%のAr希釈ガスとしたのは、Si酸化膜の高密度化をH2で促進し、かつH2による物理的なSi酸化膜エッチングを抑制するためである。
【0047】
また、エピタキシャル膜成膜工程前の基板に対して、表面清浄化処理を行う(ステップS10)。
この表面清浄化処理工程では、H2(水素)およびHCl(塩化水素)およびSi-H-Clの混合ガスで、表面Siを50nm以上150nm以下エッチングで除去する。
このような処理をおこなうことで、Si-P欠陥の歪みを物理的に除去し、かつ基板の表面清浄化処理を行うことにより、エピタキシャル膜成膜工程後のSFをより低減することができる。このとき、HCl(塩化水素)ガスでの欠陥除去が有効であり、H2(水素)およびHCl(塩化水素)の混合ガスによる、欠陥除去が好ましい。
ただし、欠陥残存深さは概ね100nm以下であり、その生産性などを考慮すると、表面Siを50nm以上150nm以下のエッチングが適切である。
【0048】
H2(水素)、HCl(塩化水素)、およびSi-H-Clの混合ガスによるため、最初はH2およびHCl混合ガスにおけるHCl分圧をある一定値とし、その後これを減少することでH2ベークでの表面形状再構成もおこない、その後、HCl分圧を変更しつつ、かつSi-H-Clガスを導入しても良い。
【0049】
続いて、Si単結晶エピタキシャル膜を1.3μm以上10.0μm以下の厚さで成膜する。Si成膜温度を1100℃以上1150℃以下、かつその速度を3.5μm/分以上6.0μm/分以下の成膜速度で成膜する(ステップS11)。
【0050】
研究の結果、SF低減に適切な、Si単結晶エピタキシャル膜の成長速度および温度の組み合わせがあることが判明した。
図3に示すように、Si成膜温度を1100℃以上1150℃以下、かつその速度を3.5μm/分以上、6.0μm/分以下とすることによって、LPDを抑制することができることが判明した。
尚、エピタキシャル膜を1.3μm以上10.0μm以下の厚さで成膜するのは、Si単結晶エピタキシャル膜を1.3μm未満では、デバイスプロセスでの電気耐圧を維持できず、また10.0μmを越える場合には、エピウェーハのコスト増加となるため好ましくないためである。
【0051】
Si成膜は、表面の原子ステップ上をSi原子が移動することにより、Si成膜がなされる。この過程で、Si-P欠陥起因のSi原子の配列の乱れを、このSi原子移動で修正することにより、SFを抑制することができる。
したがって、Si成膜とこの修正とを両立するためには、Si成膜温度を1100℃以上1150℃以下、かつその速度を3.5μm/分以上、6.0μm/分以下の条件が必要である。
【実施例】
【0052】
以下、本発明を実施例及び比較例に基づいてさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例等により制限されるものではない。
【0053】
(実験1)
Si単結晶の引上げ速度の変化、磁場強度の変化、水冷体の強制冷却の有無によって、基板に生じるSi-P欠陥サイズと密度を検証した。
ドーパントがリン(P)であり、抵抗率が1.05mΩcm以下で調整され、固溶酸素濃度が0.9×1018atoms/cm3以下になるようにSi単結晶を引き上げた。
この単結晶成長において、引上速度を0.3mm/min~1.4mm/minと変えた。また磁場印加を3000Gaussとした。また、引き上げ炉内に水冷体を設置した場合と、設置しない場合で、Si-P欠陥の最大辺長さを調べるとともに、Si-P欠陥密度を調べた。
【0054】
この結果を
図4に示す。尚、Si-P欠陥サイズは透過電子顕微鏡により測定し、また密度は、透過電子顕微鏡での欠陥観察とし、その観察領域からSi-P欠陥密度を算出した。その結果、水冷体を設置した場合と、設置しない場合のいずれの場合についても、Si-P欠陥の最大辺長さは100nm未満であった。
【0055】
また、水冷体を設置しない場合、引上げ速度を増大させることで、密度は減少する傾向で、約0.7mm/min以上で、1×1012/cm3以下となる。ただし、そこからの減少率は非常に小さい。
一方、水冷体を設置した場合、引上げ速度を0.5mm/min以上とすることで、密度は1×1012/cm3以下となった。引上げ速度を1mm/minより大きくしても、その速度の増大につれて、密度は減少傾向だが、効果が小さく、また生産性の低下になるため、1mm/min以下の引き上げ速度が好ましい。
【0056】
(実験2)
基板の表面のSi除去量と、Si-P欠陥によるSF(LPD)について検証した。検証手法はKLA-Tencor社製のSurfScan SP1によるLPD数とした。
この実験2は、
図2のステップS10においてなされる、エピタキシャル膜成膜前のHClでのSi表層除去量を変化させた場合のSF(LPD)抑制効果を確認するための実験である。
【0057】
まず、抵抗率が1.05mΩcm以下、固溶酸素濃度が0.9×1018atoms/cm3以下、Si-P欠陥は、最大辺長さが100nm未満、かつその密度が1×1012/cm3未満の基板の裏面にSi酸化膜を形成する。このSi酸化膜は、400から450℃の範囲で、500nmの厚さで成膜した。
【0058】
続いて、前記基板のおもて面に、鏡面加工を施した。鏡面加工の除去量は15μmとした。このおもて面が鏡面加工された基板に対し、800℃で120分、1200℃で60分の処理を縦型拡散炉にておこなった。
尚、この際の熱処理の炉内雰囲気を、H2およびArからなる混合ガス(H2分圧60%のAr希釈ガス)とした。また、700℃未満、450℃以上のウェーハの体験時間を8分とした。
【0059】
そして、この基板に対して、Si単結晶エピタキシャル膜を、膜厚4.0μm、成膜速度4.0μm/分および1150℃で成膜した。この成膜前のHClでのSi表層除去量を、最大500nmまで変化させた。この際のHCl分圧は0.5%とした。
そして、この基板の上のLPD(65nm)の個数を測定した。その結果を、
図5に示す。この
図5において、縦軸のeaは個数を表している。尚、LPD(65nm)は、主表面に存在する、標準粒子相当サイズで65nm以上の散乱強度を有するLPDを測定することを意味する。
【0060】
図5からわかるように、基板表面のSi除去を行わない場合には、LPD(65nm)の個数が1万個であるのに対して、基板の表面のSi除去量を50nm~150nmとした場合には、LPD(65nm)の個数が100個~200個であることが判明した。
【0061】
(実験3)
この実験3は、
図2のステップS7に示される、基板を700℃以上850℃未満の一定温度で30分以上120分以下保持することによって、ウェーハ表面粗さ増加を低減し、これにより発生するウェーハ表面ピット(LPD)も抑制、そしてSi-P欠陥消滅促進に関して、検証実験を行った。
【0062】
抵抗率が1.05mΩcm以下、固溶酸素濃度が0.9×1018atoms/cm3以下、Si-P欠陥は、最大辺長さが100nm未満、かつその密度が1×1012/cm3未満の基板の裏面にSi酸化膜を形成する。このSi酸化膜は、400から450℃の範囲で、500nmの厚さで成膜した。
続いて、前記基板のおもて面に、鏡面加工を施した。鏡面加工の除去量は15μmとした。このおもて面が鏡面加工された基板に対し、1200℃および60分の処理を縦型拡散炉にておこなった。尚、この際の熱処理の炉内雰囲気を、H2およびArからなる混合ガス(H2分圧1%のAr希釈ガス)とした。
【0063】
前記1200℃および60分の熱処理の昇温時に、基板を650℃、700℃、800℃、850℃、900℃の温度で、15分、30分、120分、180分保持する、熱処理を行った。尚、この際の熱処理の炉内雰囲気を、H2およびArからなる混合ガス(H2分圧60%のAr希釈ガス)とした。
【0064】
また、降温時における、700℃未満、450℃以上のウェーハの体験時間を8分とした。
そして、この基板に対して、Si単結晶エピタキシャル膜を、膜厚4.0μm、成膜速度4.0μm/分、および1150℃で成膜した。
この成膜前のHClでのSi表層除去量を、100nmとした。この際のHCl分圧は0.5%とした。
【0065】
検証手法はKLA-Tencor社製のSurfScan SP1によるLPD数とした。その結果を
図6に示す。
図6に示されるように、LPD数は30分で概ね一定値になることが分かった。生産性を考慮すると、保持時間は、30分から120分が好ましいことが確認された。
また、650℃、または900℃で保持した場合のLPD数の悪化は、この温度で保持したために、ウェーハ裏面のSi酸化膜から不純物、水分、酸素が
脱離して、ウェーハ表面粗さを増加させ、またこれによるピットが発生し、エピ後にもLPDとして残存したためと考えられる。したがって、基板の熱処理温度は、700℃~850℃の温度が好ましい。
【0066】
(実験4)
この実験4は、
図2のステップS8に示される、基板を1100℃以上1250℃以下の一定温度で30分以上120分以下保持することにより、Si-P欠陥の歪みを修正することができることが認められることを、検証実験した。
【0067】
まず、抵抗率が1.05mΩcm以下、固溶酸素濃度が0.9×1018atoms/cm3以下、Si-P欠陥は、最大辺長さが100nm未満、かつその密度が1×1012/cm3未満の基板の裏面にSi酸化膜を形成する。このSi酸化膜は、400から450℃の範囲で、500nmの厚さで成膜した。
続いて、前記基板のおもて面に、鏡面加工を施した。鏡面加工の除去量は15μmとした。
【0068】
そして、このおもて面が鏡面加工された基板に対し、1050℃、1100℃、1200℃、1250℃、1270℃での処理を15分、30分、120分、180分縦型拡散炉にて行った。尚、この1050℃、1100℃、1200℃、1250℃、1270℃での処理前の昇温時に、基板を800℃および120分保持する、熱処理を行った。
この際の熱処理の炉内雰囲気を、H2およびArからなる混合ガス(H2分圧1%のAr希釈ガス)とした。また、降温時における、700℃未満、450℃以上のウェーハの体験時間を8分とした。
そして、この基板に対して、Si単結晶エピタキシャル膜の成膜前に、HClでSi表層を100nm除去した。この際のHCl分圧は0.5%とした。この際の温度は1180℃とした。
その後、Si単結晶エピタキシャル膜を、膜厚4.0μm、成膜速度4.0μm/分および1150℃で成膜した。
【0069】
検証手法はKLA-Tencor社製のSurfScan SP1によるLPD数とした。その結果を
図7に示す。
図7に示されるように、LPD数は30分で概ね一定値になることが分かった。生産性を考慮すると、保持時間は、30分から120分が好ましいことが確認された。また、
図7に示されるように、温度増加でLPD減少するが、スリップや生産性の問題があり、好ましくは1100~1250℃である。
【0070】
(実験5)
この実験5は、
図2のステップS9に示される、450℃以上700℃未満の通過時間を10分と短くすることにより、Pの再凝集欠陥(Si-P欠陥)を抑制することができることが認められることを、検証実験した。
【0071】
まず、抵抗率が1.05mΩcm以下、固溶酸素濃度が0.9×1018atoms/cm3以下、Si-P欠陥は、最大辺長さが100nm未満、かつその密度が1×1012/cm3未満の基板の裏面にSi酸化膜を形成する。このSi酸化膜は、400から450℃の範囲で、500nmの厚さで成膜した。
続いて、前記基板のおもて面に、鏡面加工を施した。鏡面加工の除去量は15μmとした。
【0072】
続いて、このおもて面が鏡面加工された基板に対し、1200℃の温度で、60分保持する熱処理をおこなった。尚、熱処理の炉内雰囲気を、H2およびArからなる混合ガス(H2分圧1%のAr希釈ガス)とした。
この1200℃の温度で、60分保持する熱処理前の昇温時に、基板を800℃および120分保持する、熱処理を行った。尚、この際の熱処理の炉内雰囲気を、H2およびArからなる混合ガス(H2分圧60%のAr希釈ガス)とした。
【0073】
上記熱処理終了後の、炉出し温度を700℃に設定し、ここからの炉出し時速度を変化させた。一般大気に露出したSiウェーハをサーモグラフィーで温度測定し、700℃保持された時間と足しあわせ、体験時間を算出した。これにより、700℃未満、450℃以上のウェーハの体験時間を3分、5分、8分、10分、12分、15分、20分と変えた。
【0074】
そして、この基板に対して、Si単結晶エピタキシャル膜の成膜前に、HClでSi表層を100nm除去した。この際のHCl分圧は0.5%とした。この際の温度は1180℃とした。
その後、Si単結晶エピタキシャル膜を、膜厚4.0μmおよび1150℃で成膜した。その結果を
図8に示す。
【0075】
図8に示すように、700℃未
満、450℃以上のウェーハの体験時間を10分未満とするように降温することにより、LPD数が100個以下になり、Pの再凝集欠陥(Si-P欠陥)を抑制することができることが認められた。
【0076】
(実験6)
この実験6は、
図2のステップS11に示される、Si成膜温度を1100℃以上1150℃以下、かつその速度を3.5μm/分以上6.0μm/分以下の成膜速度で成膜し、エピタキシャル膜を1.3μm以上10.0μm以下の厚さで成膜することが、P凝集欠陥(Si-P欠陥)を抑制することができることを、検証実験した。
【0077】
まず、抵抗率が1.05mΩcm以下、固溶酸素濃度が0.9×1018atoms/cm3以下、Si-P欠陥は、最大辺長さが100nm未満、かつその密度が1×1012/cm3未満の基板の裏面にSi酸化膜を形成する。このSi酸化膜は、400から450℃の範囲で、500nmの厚さで成膜した。
続いて、前記基板のおもて面に、鏡面加工を施した。鏡面加工の除去量は15μmとした。このおもて面が鏡面加工された基板に対し、1200℃および60分の処理を縦型拡散炉にておこなった。尚、この際の熱処理の炉内雰囲気を、H2およびArからなる混合ガス(H2分圧1%のAr希釈ガス)とした。
【0078】
この1200℃および60分の処理前の昇温時に、基板を800℃の温度で、120分保持する、熱処理を行った。尚、この際の熱処理の炉内雰囲気を、H2およびArからなる混合ガス(H2分圧60%のAr希釈ガス)とした。
そして、この処理の降温について、700℃未満、450℃以上のウェーハの体験時間を8分とした。
【0079】
その後、この基板に対して、エピ成長前に、HClでのSi表層除去量を100nmで行った。この際のHCl分圧は0.5%、温度は1180℃とした。
そして、この基板に対して、成膜温度1100℃、1125℃、1150℃で、成膜速度を変化させて、Si成膜した。その速度は2.4μm/分、3.8μm/分、4μm/分、5
μm/分、6.4μm/分と変えて、成膜した。Siエピ成膜膜厚は、4μmとした。
そして、KLA-Tencor社製のSurfScan SP1によるLPD数を測定した。その結果を
図3に示す。
【0080】
図3に示すように、Si成膜温度を1100℃以上1150℃以下、かつその速度を3.5μm/分以上、6.0μm/分以下とすることによって、LPDを抑制することができることが判明した。尚、Si成膜温度が1200℃では、基板にスリップ等の問題が顕在化するため、Si成膜温度を1100℃以上1150℃以下とするのが好ましい。