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特許7495266電池用セパレータの製造システムおよび製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-27
(45)【発行日】2024-06-04
(54)【発明の名称】電池用セパレータの製造システムおよび製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/449 20210101AFI20240528BHJP
   H01M 50/403 20210101ALI20240528BHJP
【FI】
H01M50/449
H01M50/403 D
H01M50/403 B
H01M50/403 F
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020071694
(22)【出願日】2020-04-13
(65)【公開番号】P2020177911
(43)【公開日】2020-10-29
【審査請求日】2023-03-20
(31)【優先権主張番号】P 2019079408
(32)【優先日】2019-04-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127498
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 和哉
(74)【代理人】
【識別番号】100146329
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 耕一郎
(72)【発明者】
【氏名】進 章彦
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 浩史
【審査官】渡部 朋也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2001/097957(WO,A1)
【文献】特表2004-519824(JP,A)
【文献】特表2020-535595(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/40-50/497
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材に塗工液を塗工し、前記基材表面に塗工膜を形成する塗工部と、
上記塗工膜を固化する固化部と、
少なくとも上記固化部において上記基材を搬送する搬送装置と、
上記固化部における上記基材の搬送方向の延伸率を制御する制御部とを備えている電池用セパレータの製造システム。
【請求項2】
上記固化部において搬送中の上記基材は、搬送方向の長さが、未搬送状態に比べて0.5%を超えて延伸されている請求項1に記載の電池用セパレータの製造システム。
【請求項3】
上記制御部は、
上記搬送装置により搬送される上記基材の張力を計測する張力計測部と、
上記張力計測部の計測結果に基づき上記搬送装置の駆動を制御する駆動制御部とを備えている請求項1または2に記載の電池用セパレータの製造システム。
【請求項4】
上記駆動制御部は、上記張力計測部の計測結果と、上記基材の膜厚と、に基づき上記搬送装置の駆動を制御する請求項3に記載の電池用セパレータの製造システム。
【請求項5】
上記搬送装置は、上記固化部の上流側及び下流側にそれぞれ駆動ローラーを備えており、
上記制御部は、各駆動ローラーの周速比を調整すべく、上記各駆動ローラーのうちの少なくとも一方の回転速度を制御する請求項1から4のいずれか1項に記載の電池用セパレータの製造システム。
【請求項6】
上記搬送装置は、上記塗工部においても上記基材を搬送し、
上記塗工部における上記基材も、上記延伸率の制御下にある請求項1から5のいずれか1項に記載の電池用セパレータの製造システム。
【請求項7】
基材に塗工液を塗工し、前記基材表面に塗工膜を形成する塗工部と、
上記塗工膜を固化する固化部と、
少なくとも上記固化部において上記基材を搬送する搬送装置とを備えており、
上記固化部において搬送中の上記基材は、搬送方向の長さが、未搬送状態に比べて0.5%を超えて延伸されている電池用セパレータの製造システム。
【請求項8】
基材に塗工液を塗工し、前記基材表面に塗工膜を形成する塗工工程と、
上記塗工膜を固化する固化工程と、
少なくとも上記固化工程において上記基材を搬送する搬送工程と、
上記固化工程における上記基材の搬送方向の延伸率を制御する制御工程とを含んでいる電池用セパレータの製造方法。
【請求項9】
上記固化工程において搬送中の上記基材は、搬送方向の長さが、未搬送状態に比べて0.5%を超えて延伸されている請求項8に記載の電池用セパレータの製造方法。
【請求項10】
上記制御工程は、
上記搬送工程にて搬送される上記基材の張力を計測する張力計測工程と、
上記張力計測工程による計測結果に基づき上記搬送工程による駆動を制御する駆動制御工程とを含んでいる請求項8または9に記載の電池用セパレータの製造方法。
【請求項11】
上記駆動制御工程は、上記張力計測工程による計測結果と、上記基材の膜厚と、に基づき上記搬送工程による駆動を制御する請求項10に記載の電池用セパレータの製造方法
【請求項12】
上記固化工程の上流側及び下流側にそれぞれ駆動ローラーを設け、
上記制御工程にて、各駆動ローラーの周速比を調整すべく、上記各駆動ローラーのうちの少なくとも一方の回転速度を制御する請求項8から11のいずれか1項に記載の電池用セパレータの製造方法。
【請求項13】
上記搬送工程にて、上記塗工工程においても上記基材を搬送し、
上記塗工工程における上記基材も、上記延伸率の制御下にある請求項8から12のいずれか1項に記載の電池用セパレータの製造方法。
【請求項14】
基材に塗工液を塗工し、前記基材表面に塗工膜を形成する塗工工程と、
上記塗工膜を固化する固化工程と、
少なくとも上記固化工程において上記基材を搬送する搬送工程とを含んでおり、
上記固化工程において搬送中の上記基材は、搬送方向の長さが、未搬送状態に比べて0.5%を超えて延伸されている電池用セパレータの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池用セパレータの製造システムおよび製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、(1)ポリフッ化ビニリデン系樹脂を含む塗工液を調整する塗工液調整工程と、(2)該塗工液を多孔質基材に塗工して、塗工層を形成する塗工工程と、(3)該塗工層を凝固液に接触させて、ポリフッ化ビニリデン系樹脂を固化させ、接着性多孔質層を備えた複合膜を得る凝固工程と、(4)該複合膜を水洗する水洗工程と、(5)該複合膜を乾燥する乾燥工程と、を行って、多孔質基材上に接着性多孔質層を形成する製膜法が開示されている。また、特許文献1には、接着性多孔質層のβ晶由来ピークの面積強度割合及び吸熱ピークの半値幅を制御する目的で、水洗工程又は乾燥工程の前後に延伸工程を設けてもよいことが開示されている。
【0003】
特許文献2には、(1)帯状基材の上面に塗布膜を形成し、上面側から気体を吹き付けて該塗布膜を乾燥させる構成と、(2)該塗布膜が乾燥するまで、該帯状基材の下面側にローラーを配置する構成と、が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-135111号公報(2017年08月03日公開)
【文献】再公表特許WO2015/194547号公報(2015年12月23日国際公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述のような従来技術は、透気度が安定した電池用セパレータを製造困難であるという問題がある。
【0006】
本発明は、透気度が安定した電池用セパレータを製造することができる電池用セパレータの製造システムおよび製造方法を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の一実施形態に係る電池用セパレータの製造システムは、基材に塗工液を塗工し、前記基材表面に塗工膜を形成する塗工部と、上記塗工膜を固化する固化部と、少なくとも上記固化部において上記基材を搬送する搬送装置と、上記固化部における上記基材の搬送方向の延伸率を制御する制御部とを備えている構成である。
【0008】
上記構成によれば、固化部における基材の搬送方向の延伸率を制御することにより、電池用セパレータの透気度を制御することが可能となる。固化部において塗工膜が固化する間、基材の搬送方向に基材が延伸する。基材の延伸に伴って、基材の各開口部が搬送方向に広がり、各開口部の開口面積が大きくなる。このため、基材の搬送方向の延伸率を制御することにより、当該開口部の開口面積を適切に制御することができる。従って、透気度が安定した電池用セパレータを製造することができる。
【0009】
本発明の一実施形態に係る電池用セパレータの製造システムでは、上記固化部において搬送中の上記基材は、搬送方向の長さが、未搬送状態に比べて0%を超えて、または0.5%を超えて延伸されている構成でもよい。この構成によれば、電池用セパレータの透気度を安定して十分小さくすることができるため、当該透気度を安定して好適にすることができる。透気度の安定した電池用セパレータを製造するという点では、基材の搬送方向の延伸率の上限はなく、例えば、延伸率は、20%以下、15%以下、10%以下、8%以下であってもよい。
【0010】
本発明の一実施形態に係る電池用セパレータの製造システムでは、上記制御部は、上記搬送装置により搬送される上記基材の張力を計測する張力計測部と、上記張力計測部の計測結果に基づき上記搬送装置の駆動を制御する駆動制御部とを備えている構成でもよい。この構成によれば、張力を制御することにより、延伸率を制御することができる。
【0011】
さらに、上記駆動制御部は、上記張力計測部の計測結果と、上記基材の膜厚と、に基づき上記搬送装置の駆動を制御してもよい。この構成によれば、基材の膜厚に応じて張力を制御することにより、延伸率を制御することができる。
【0012】
本発明の一実施形態に係る電池用セパレータの製造システムでは、上記搬送装置は、上記固化部の上流側及び下流側にそれぞれ駆動ローラーを備えており、上記制御部は、各駆動ローラーの周速比を調整すべく、上記各駆動ローラーのうちの少なくとも一方の回転速度を制御する構成でもよい。この構成によれば、各駆動ローラーの周速比を制御することにより、張力ひいては延伸率を制御することができる。
【0013】
本発明の一実施形態に係る電池用セパレータの製造システムでは、上記搬送装置は、上記塗工部においても上記基材を搬送し、上記塗工部における上記基材も、上記延伸率の制御下にある構成でもよい。この構成によれば、塗工部においても基材の延伸率を制御することができる。
【0014】
本発明の一実施形態に係る電池用セパレータの製造システムでは、基材に塗工液を塗工し、前記基材表面に塗工膜を形成する塗工部と、上記塗工膜を固化する固化部と、少なくとも上記固化部において上記基材を搬送する搬送装置とを備えており、上記固化部において搬送中の上記基材は、搬送方向の長さが、未搬送状態に比べて0%を超えて、または0.5%を超えて延伸されている構成でもよい。この構成によれば、電池用セパレータの透気度を安定して十分小さくすることができるため、当該透気度を安定して好適にすることができる。透気度の安定した電池用セパレータを製造するという点では、基材の搬送方向の延伸率の上限はなく、例えば、延伸率は、20%以下、15%以下、10%以下、8%以下であってもよい。
【0015】
本発明の一実施形態に係る電池用セパレータの製造システムでは、上記固化部において搬送中の上記基材は、搬送方向の長さが、未搬送状態に比べて7%未満、6.5%以下、または6%以下で延伸されている構成でもよい。延伸率が大き過ぎると、基材のネックインが起こることがある。この構成によれば、ネックインが起きた場合に基材の幅方向に基材がネックインを起こした状態が維持されることを防ぐことができる。これにより、透気度が安定した電池用セパレータの製造と、製造歩留まりの悪化や電池用セパレータの湾曲の抑制との両立を図ることができる。
【0016】
本発明の一実施形態に係る電池用セパレータの製造システムでは、上記固化部は、上記塗工膜に、貧溶媒物質を作用させることにより、上記塗工膜の固化を行い、上記貧溶媒物質は、上記塗工膜の固形分に対して貧溶媒として作用する物質である構成でもよい。
【0017】
本発明の一実施形態に係る電池用セパレータの製造システムでは、上記固化部は、上記塗工膜に水蒸気を作用させることにより、上記塗工膜の固化を行う構成でもよい。この構成によれば、水蒸気を用いることにより、上記の貧溶媒物質を容易に実現することができる。
【0018】
本発明の一実施形態に係る電池用セパレータの製造システムでは、上記固化部の外部の湿度を調整する調湿装置を備えており、上記固化部の湿度は、上記調湿装置による調整湿度よりも高い構成でもよい。固化部の外部においても、静電気対策等の理由によりある程度の湿度を保つ必要がある。この構成によれば、固化部内の湿度を固化部外の湿度よりも高くすることにより、塗工膜が、固化部内では固化されるが固化部外(特に塗工部内)では固化されにくい状態を形成することができる。
【0019】
上記の課題を解決するために、本発明の一実施形態に係る電池用セパレータの製造方法は、基材に塗工液を塗工し、前記基材表面に塗工膜を形成する塗工工程と、上記塗工膜を固化する固化工程と、少なくとも上記固化工程において上記基材を搬送する搬送工程と、上記固化工程における上記基材の搬送方向の延伸率を制御する制御工程とを含む方法であってよい。
【0020】
上記方法によれば、固化工程における基材の搬送方向の延伸率を制御することにより、電池用セパレータの透気度を制御することが可能となる。固化部において塗工膜が固化する間、基材の搬送方向に基材が延伸する。基材の延伸に伴って、基材の各開口部が搬送方向に広がり、各開口部の開口面積が大きくなる。このため、基材の搬送方向の延伸率を制御することにより、当該開口部の開口面積を適切に制御することができる。従って、透気度が安定した電池用セパレータを製造することができる。
【0021】
本発明の一実施形態に係る電池用セパレータの製造方法では、上記固化工程において搬送中の上記基材は、搬送方向の長さが、未搬送状態に比べて0%を超えて、または0.5%を超えて延伸されている方法でもよい。この方法によれば、電池用セパレータの透気度を安定して十分小さく安定させることができるため、当該透気度を安定して好適にすることができる。透気度の安定した電池用セパレータを製造するという点では、基材の搬送方向の延伸率の上限はなく、例えば、延伸率は、20%以下、15%以下、10%以下、8%以下であってもよい。
【0022】
本発明の一実施形態に係る電池用セパレータの製造方法では、上記制御工程は、上記搬送工程にて搬送される上記基材の張力を計測する張力計測工程と、上記張力計測工程による計測結果に基づき上記搬送工程による駆動を制御する駆動制御工程とを含んでいる方法でもよい。この方法によれば、張力を制御することにより、延伸率を制御することができる。
【0023】
さらに、上記駆動制御工程は、上記張力計測工程による計測結果と、上記基材の膜厚と、に基づき上記搬送工程による駆動を制御してもよい。この方法によれば、基材の膜厚に応じて張力を制御することにより、延伸率を制御することができる。
【0024】
本発明の一実施形態に係る電池用セパレータの製造方法では、上記固化工程の上流側及び下流側にそれぞれ駆動ローラーを設け、上記制御工程にて、各駆動ローラーの周速比を調整すべく、上記各駆動ローラーのうちの少なくとも一方の回転速度を制御する方法でもよい。この方法によれば、各駆動ローラーの周速比を制御することにより、張力ひいては延伸率を制御することができる。
【0025】
本発明の一実施形態に係る電池用セパレータの製造方法では、上記搬送工程にて、上記塗工工程においても上記基材を搬送し、上記塗工工程における上記基材も、上記延伸率の制御下にある方法でもよい。この方法によれば、塗工工程においても基材の延伸率を制御することができる。
【0026】
本発明の一実施形態に係る電池用セパレータの製造方法では、基材に塗工液を塗工し、前記基材表面に塗工膜を形成する塗工工程と、上記塗工膜を固化する固化工程と、少なくとも上記固化工程において上記基材を搬送する搬送工程とを含んでおり、上記固化工程において搬送中の上記基材は、搬送方向の長さが、未搬送状態に比べて0%を超えて、または0.5%を超えて延伸されている方法でもよい。この方法によれば、電池用セパレータの透気度を安定して十分小さく安定させることができるため、当該透気度を安定して好適にすることができる。透気度の安定した電池用セパレータを製造するという点では、基材の搬送方向の延伸率の上限はなく、例えば、延伸率は、20%以下、15%以下、10%以下、8%以下であってもよい。
【0027】
本発明の一実施形態に係る電池用セパレータの製造方法では、上記固化工程において搬送中の上記基材は、搬送方向の長さが、未搬送状態に比べて7%未満、6.5%以下、または6%以下で延伸されている方法でもよい。延伸率が大き過ぎると、基材のネックインが起こることがある。この方法によれば、ネックインが起きた場合に基材の幅方向に基材がネックインを起こした状態が維持されることを防ぐことができる。これにより、透気度が安定した電池用セパレータの製造と、製造歩留まりの悪化や電池用セパレータの湾曲の抑制との両立を図ることができる。
【0028】
本発明の一実施形態に係る電池用セパレータの製造方法では、上記固化工程にて、上記塗工膜に、貧溶媒物質を作用させることにより、上記塗工膜の固化を行い、上記貧溶媒物質は、上記塗工膜の固形分に対して貧溶媒として作用する物質である方法でもよい。
【0029】
本発明の一実施形態に係る電池用セパレータの製造方法では、上記固化工程にて、上記塗工膜に水蒸気を作用させることにより、上記塗工膜の固化を行う方法でもよい。この方法によれば、水蒸気を用いることにより、上記の貧溶媒物質を容易に実現することができる。
【0030】
本発明の一実施形態に係る電池用セパレータの製造方法では、少なくとも上記塗工工程における湿度を調整する調湿工程を含んでおり、上記固化工程における湿度は、上記調湿工程による調整湿度よりも高い方法でもよい。固化工程の外部においても、静電気対策等の理由によりある程度の湿度を保つ必要がある。この方法によれば、固化工程における湿度を塗工工程における湿度よりも高くすることにより、塗工膜が、固化工程では固化されるが塗工工程では固化されにくい状態を形成することができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明の一態様によれば、透気度が安定した電池用セパレータを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】機能層付セパレータの製造工程の概略を例示するフロー図である。
図2図2の(a)は、本発明の一実施形態に係る製造システムの構成例の一部を示す要部模式図であり、図2の(b)は、図2の(a)の法線での塗工フィルムおよびノズルの開口の断面図である。
図3図2に示した製造システムにおける駆動ローラーの駆動制御の一例を示すブロック図である。
図4】本発明の別の一実施形態に係る製造システムの構成例の一部を示す要部模式図である。
図5】本発明の幾つかの実施形態に係る固化部の一変形例の概略構成を示す模式図である。
図6】本発明の幾つかの実施形態に係る固化部の別の一変形例の概略構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
(機能層付セパレータの製造フロー)
機能層付セパレータの製造フローについて説明する。
【0034】
図1は、機能層付セパレータの製造工程の概略を例示するフロー図である。例示するフローは、機能層として全芳香族ポリアミド(アラミド樹脂)を用い、それを、基材としてのポリオレフィン系の多孔質フィルムに積層するフローである。なお、アラミド樹脂を含む機能層は、耐熱層付セパレータの耐熱層として機能する。
【0035】
アラミド樹脂による機能層を有する耐熱セパレータの製造工程には、(a)~(f)の各工程が含まれる。
【0036】
すなわち、順に(a)基材としてのセパレータ(フィルム)の巻出工程、(b)塗工液(機能材料)の塗工工程、(c)固化工程、(d)洗浄工程、(e)乾燥工程、(f)巻取工程が含まれる。また、上記(a)~(f)に加えて、(a)巻出工程の前に基材製造(成膜)工程が、また、(g)巻取工程の前または後にスリット工程が設けられる場合もある。
【0037】
以下、(b),(c)について説明する。
【0038】
(b)塗工液の塗工工程
(a)で巻き出した基材(フィルム)に塗工液を塗工し、該基材表面に塗工膜を形成する工程である。この工程によって、塗工フィルムを得る。
【0039】
具体的には、基材に、機能層用の塗工液として、アラミド樹脂のNMP(N-メチル-ピロリドン)溶液を塗工する。なお、機能層用の塗工液は上記のアラミド樹脂のNMP溶液に限定されない。例えば、機能層用の塗工液として、無機フィラーを含む塗工液(アルミナとポリフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体とNMPとを含む塗工液など)を塗工してもよい。
【0040】
塗工液を基材に塗工する方法は、均一にウェットコーティングできる方法であれば特に制限はなく、種々の方法を採用することができる。例えば、キャピラリーコート法、スリットダイコート法、スプレーコート法、ディップコート法、ローラーコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、グラビアコート法、バーコート法、ダイコート法などを採用することができる。
【0041】
機能層の厚さは塗工膜の厚み、又は、塗工液中の固形分濃度を調節することによって制御することができる。
【0042】
なお、機能層は、基材の片面だけに設けられてもよく、両面に設けられてもよい。
【0043】
(c)固化工程
固化工程は、(b)において形成した塗工膜を固化させる工程である。塗工液がアラミド樹脂のNMP溶液である場合には、例えば、塗工膜に水蒸気を与えることによって、塗工膜中の水の割合を増やすことができる。この結果、塗工膜のアラミド樹脂に対する貧溶媒化が進行するので、塗工膜からアラミド樹脂が析出し、塗工膜が固化する。
【0044】
このような機能層付セパレータの用途の1つが、電池用セパレータである。
【0045】
以下では、(b),(c)について詳しく説明する。
【0046】
〔実施形態1〕
以下、本発明の一実施形態について、図2図3を参照して説明する。
【0047】
図2の(a)は、本発明の実施形態1に係る製造システム1の構成例の一部を示す要部模式図であり、図2の(b)は、図2の(a)の法線Nでの塗工フィルムFおよびノズル33の開口33aの断面図である。
【0048】
図2の(a)に示すように、製造システム1(製造方法)は、フィルムfに塗工液を塗工し、フィルムfの表面に塗工膜を形成して、塗工フィルムFを得る塗工部20(塗工工程)を含む。塗工部20は、前述のように、塗工液を基材に均一にウェットコーティングできる方法であれば特に制限はなく、種々の方法を採用することができる。
【0049】
また、製造システム1は、塗工フィルムFの塗工膜を固化する固化部30(固化工程)を含む。固化部30について詳しくは後述する。
【0050】
また、製造システム1は、塗工部20、固化部30およびその他の工程部にわたり、被搬送物(フィルムfおよび塗工フィルムF)を搬送する搬送装置を含む。該搬送装置は、搬送ローラーR1~R7を含む複数の搬送ローラーと、エキスパンダローラーE1,E2を含む複数のエキスパンダローラーと、固化部30の上流側の第1駆動ローラーD1、固化部30の下流側の第2駆動ローラーD2とを含む複数の駆動ローラーと、各駆動ローラーを駆動する駆動機構とを含む。第1駆動ローラーD1は、搬送装置が固化部30の上流側に複数の駆動ローラーを含む場合、そのうちの固化部30に最も近い駆動ローラーである。第2駆動ローラーD2は、搬送装置が固化部30の下流側に複数の駆動ローラーを含む場合、そのうちの、固化部30に最も近い駆動ローラーである。
【0051】
本明細書における「エキスパンダローラー」は、搬送される被搬送物を拡張・拡幅する機能を有するローラーであり、これを被搬送物の搬送ローラーとして用いることで被搬送物に皺が生じることを防ぐことができる。また、少量の皺が発生したとしても、その皺を伸ばすことができる。
【0052】
本明細書における「駆動ローラー」は、被搬送物の搬送を駆動する機能を有するローラーであり、回転軸がモータなどの動力源を含む駆動機構に接続されている。また、駆動ローラーの周速の調整によって、搬送される塗工フィルムFの搬送方向の張力および/または延伸率を調整することができる。
【0053】
また、製造システム1は、第1駆動ローラーD1による被搬送物の搬送方向の張力を測定する第1張力計測部13(張力計測工程)と、第2駆動ローラーD2による被搬送物の搬送方向の張力を測定する第2張力計測部14(張力計測工程)と、を含む。第1張力計測部13は、第1駆動ローラーD1と搬送装置に含まれる複数の搬送ローラーおよび複数のエキスパンダローラーのうちの第1駆動ローラーD1の直前に位置するローラーとの間に位置し、第2張力計測部14は、第2駆動ローラーD2と、搬送装置に含まれる複数の搬送ローラーおよび複数のエキスパンダローラーのうちの第2駆動ローラーD2の直前に位置するローラーと、の間に位置する。図2に示す例においては、第1張力計測部13は、第1駆動ローラーD1とその直前のエキスパンダローラーE1との間に位置し、第2張力計測部14は、第2駆動ローラーD2とその直前の搬送ローラーR8との間に位置する。
【0054】
また、製造システム1は、空調装置12(調湿装置,調湿工程)によって温度および湿度が調整されているクリーンルーム内に設置されている。このため、固化部30の外部の温度および湿度は、空調装置12による調整温度および調整湿度に略維持されている。
【0055】
(固化部)
図2の(a)に示すように、固化部30は、スリット状の入口31aおよび出口31bが設けられたハウジング31と、ハウジング31内の空気を排出する排気口32が形成された排気部と、ハウジング31内に貧溶媒物質を供給する開口33a(供給口)が形成されたノズル33(貧溶媒物質供給部)と、を備える。
【0056】
本明細書において「貧溶媒物質」は、液体または気体を問わず、塗工膜の固形分に対して、塗工膜の非固形分と比較して貧溶媒として作用する物質を意味する。貧溶媒物質は、(1)塗工膜の固形分に対する貧溶媒を分散質として含む気体(いわゆる、エアロゾル)、または(2)その貧溶媒が気化された状態に相当する気体をハウジング31外の空気よりも高濃度に含む気体であることが好ましい。また、塗工膜の固形分に対する貧溶媒に、1種類の溶媒を用いても、複数種類の溶媒を組み合わせて用いてもよい。
【0057】
塗工液がアラミド樹脂のNMP溶液である場合、アラミド樹脂に対する貧溶媒として水(HO)を用い、貧溶媒物質が、霧または、ハウジング31外の空気よりも絶対湿度(g/m)が高い多湿空気であることが好ましい。液体の水を熱して水蒸気(気体の水)を生じさせることによって、このような霧または多湿空気を容易に実現することができる。なお、ハウジング31外のクリーンルーム内においても、静電気対策などを目的としてある程度の絶対湿度が保持されている。一例として、ハウジング31外のクリーンルーム内の空気は空調装置12によって、摂氏25度、相対湿度50%付近に維持されており、ハウジング31内に供給される貧溶媒物質は摂氏50度、相対湿度70%付近の高温多湿空気である。
【0058】
本明細書において「溶媒」は、そうではないと断っている場合を除いて、常温(摂氏20度)で液体の物質を意味する。「絶対湿度(g/m)」は、1立方メートルの空気中に含まれる気体の水(HO)の質量を意味する。「相対湿度(%)」は、空気の飽和水蒸気圧に対する該空気の実際の水蒸気圧の百分率を意味する。
【0059】
塗工膜が固化していない状態で、搬送ローラーが塗工フィルムFの塗工面に接触した場合、塗工膜が搬送ローラーに転着し、塗工膜が損傷する。このため、塗工部20と固化部30との間の搬送ローラーR1と、ハウジング31内の搬送ローラーR2~R7と、第1駆動ローラーD1とは、塗工フィルムFの非塗工面側に配置されている。塗工膜が固化した直後に接するエキスパンダローラーE2および第2駆動ローラーD2も塗工フィルムFの非塗工面側に配置されるのが好ましい。
【0060】
塗工膜が固化するとき塗工膜は収縮しようとするので、塗工膜の収縮力に抵抗するために、固化部30における搬送ローラーR2~R7は、塗工フィルムFの塗工面側に張り出す凸状搬送経路を形成するように配置されている。この配置によって、搬送ローラーR2~R7は、塗工フィルムFを抱えるので、搬送方向および幅方向の収縮に抵抗するように塗工フィルムFを加圧する加圧ローラーとして機能することができる。また、図示しないが、固化部における搬送ローラーR2~R7が形成する凸状搬送経路は、上向きまたは横向きに凸であってもよい。
【0061】
塗工膜は、塗工フィルムFが固化部30を通過する間に塗工膜中の固形分である樹脂が析出した結果、固化する。このため、搬送ローラーR8などの固化部30よりも下流側の搬送ローラーは塗工フィルムFの塗工面側に配置されることができる。塗工膜は固化しているため、搬送ローラーR8が当接しても損傷する虞が低いためである。
【0062】
排気部は、ハウジング31内をハウジング31外に対して陰圧に維持するように、ハウジング31内の空気を排気口32から排出する。これによって、貧溶媒物質がハウジング31外へ漏出して、固化部30以外(具体的には、塗工部20)で塗工膜が固化することを防止する。また、排気部を通じて、塗工膜から揮発したNMPなどの良溶媒を回収することができる。ハウジング31内の空気は、入口31aよりも出口31bから、塗工フィルムFに追従して漏出しやすい。このため、排気部の排気口32は入口31aよりも出口31bの近くに設けられている。排気口32は複数設けてもよい。
【0063】
ノズル33の開口33aは、塗工フィルムFに対して搬送ローラーR2~R7とは反対側の領域、すなわち、塗工フィルムFの塗工面側に配置されている。このため、ノズル33は貧溶媒物質を塗工膜に直接吹き付けることができるので、塗工膜に貧溶媒物質が作用しやすく、塗工膜からの樹脂の析出が効率的になる。すなわち、塗工膜の固化が効率的になる。なお、図示しないが、塗工フィルムFの非塗工面側に、ノズルを追加配置してもよい。
【0064】
ノズル33の開口33aは、図2の(b)に示すように、塗工フィルムFの幅方向に扁平した形状である。これによって、ノズル33は貧溶媒気体を幅方向に略均一に供給できるため、塗工フィルムFの幅方向における塗工膜からの樹脂の析出速度のバラツキを抑制することができる。すなわち、塗工膜の固化速度のバラツキを抑制することができる。
【0065】
ノズル33は、貧溶媒物質が塗工フィルムFの搬送方向の下流側よりも上流側へより多く流れるように、開口33aを向けている。貧溶媒物質が上流に向かって対向するように吹き出されることによって、塗工フィルムFの塗工面上(すなわち、塗工膜上)における貧溶媒物質の対流が促進され、塗工膜の固化がより効率的になる。この場合、貧溶媒物質をハウジング31内で均一に分布させて、固化のバラツキを抑制するために、ショートサーキットを避けるように排気部の排気口32を配置する。具体的には、排気部の排気口32を、ノズル33の開口33aに対して、塗工フィルムFの搬送方向の下流側に配置する。
【0066】
ノズル33は、開口33aから貧溶媒物質を吹き出す方向(供給方向)が、開口33aの最寄りの塗工フィルムFにおける法線Nの方向(法線方向)よりも接線Tの方向(接線方向)に近いように、開口33aを向けている。これによって、開口33aから供給された貧溶媒物質が塗工面付近でより均一に分布しやすくなり、塗工膜からの樹脂の析出のバラツキを抑制することができる。すなわち、塗工膜の固化のバラツキを抑制することができる。ここで、被搬送物の1点において、法線Nは、該点を通り、該点における被搬送物の搬送方向に直交し、かつ、該点における被搬送物の幅方向に直交する直線であり、接線Tは、該点を通り、該点における被搬送物の搬送方向に平行な直線である。なお、図示しないが、貧溶媒物質の対流の促進を目的として、ハウジング31内に風向調整部を設けても良い。風向調整部は、凸状搬送経路の少なくとも一部に沿った対向面を備えることが好ましい。
【0067】
(駆動ローラーの駆動制御の一例)
図3は、図2に示した製造システム1における駆動ローラーD1,D2の駆動制御の一例を示すブロック図である。
【0068】
図3に示すように例えば、製造システム1は、搬送装置40(搬送工程)の挙動を制御する制御部50(制御工程)を含む。制御部50は、第1張力計測部13、第2張力計測部14、第1駆動ローラーD1を駆動する第1モータM1、第2駆動ローラーD2を駆動する第2モータM2、および駆動制御部16(駆動制御工程)を備える。
【0069】
制御部50は、第1駆動ローラーD1と第2駆動ローラーD2との間の塗工フィルムFの搬送方向の張力および搬送方向の延伸率を制御する。本実施形態では、第1駆動ローラーD1と第2駆動ローラーD2との間には固化部30があるため、制御部50は、固化部30における張力および延伸率を制御する。
【0070】
駆動制御部16は、第1張力計測部13、第2張力計測部14、第1モータM1、および第2モータM2に接続されている。駆動制御部16は、集積回路(ICチップ)等に形成された論理回路(ハードウェア)によって実現してもよいし、プロセッサがプログラム(ソフトウェア)を実行することによって実現してもよい。
【0071】
駆動制御部16は、第1張力計測部13の計測結果と第2張力計測部14の計測結果とフィルムfの膜厚とを入力され、これらの計測結果および膜厚に基づきモータM1,M2の回転速度をフィードバック制御する。これによって駆動制御部16は、駆動ローラーD1,D2の周速比を制御して、固化部30における塗工フィルムFの搬送方向の張力および延伸率を制御する。なお、図示しないが、モータM1,M2の一方の回転速度が固定されており、他方の回転速度のみが駆動制御部16によってフィードバック制御されてもよい。
【0072】
(駆動ローラーの駆動制御の別の一例)
加えてまたは代わりに、駆動制御部16は、第1駆動ローラーD1の直径と第1モータM1の回転速度とに基づいて第1駆動ローラーD1の周速を算出し、同様に第2駆動ローラーD2の周速を算出し、第1駆動ローラーD1に対する第2駆動ローラーD2の周速比を算出してもよい。そして、駆動制御部16は、この周速比とフィルムfの膜厚とに基づきモータM1,M2の回転速度をフィードバック制御することによって、駆動ローラーD1,D2の周速比を制御して、固化部30における塗工フィルムFの搬送方向の張力および延伸率を制御できる。
【0073】
表1に示すように第2張力計測部14での張力を維持するようにモータM1,M2の回転速度をフィードバック制御して、本実施形態に係る製造システムで機能層付セパレータ(積層セパレータ)を製造した。
【0074】
【表1】

表1に示す「基材膜厚(μm)」は、各例に用いた基材(塗工膜を含まない)の膜厚を、張力が印加されていない未搬送状態で、端部以外の複数個所で測定し平均した値である。表1に示す張力(N/mm)は、第2張力計測部14で計測される張力であり、基材膜厚を考慮した張力(N/mm)は、前記張力を基材膜厚で除した値である。表1に示す延伸率(%)は、第2駆動ローラーD2の周速を第1駆動ローラーの周速で割った値である。表1に示す透気度(s/100ml)は、製造された積層セパレータの透気度である。
【0075】
(比較例1)
攪拌翼、温度計、窒素流入管および粉体添加口を有する、3リットルのセパラブルフラスコに、N-メチル-2-ピロリドン2200g、塩化カルシウム粉末151gを加えた。次いで、当該セパラブルフラスコの内容物を摂氏100度に昇温して、当該塩化カルシウム粉末を完全に溶解させた。次いで、当該セパラブルフラスコの内容物を室温に冷却した後に、パラフェニレンジアミン68.23gを加え完全に溶解させた。次いで、テレフタル酸ジクロライド124.97gをセパラブルフラスコに加え、摂氏20度において1時間撹拌した。これにより、ポリ(パラフェニレンテレフタルアミド)の6重量パーセント溶液を得た。
【0076】
得られたポリ(パラフェニレンテレフタルアミド)溶液100gに、NMP300gを加え、ポリ(パラフェニレンテレフタルアミド)の1.5重量パーセント溶液を得た。得られた1.5重量パーセント溶液にアルミナC(日本アエロジル社製)6g、アドバンスドアルミナAA-03(住友化学社製)6gを加え、240分間攪拌した。さらに炭酸カルシウム0.73gを加え、240分間攪拌し、塗工液を得た。
【0077】
厚み100μmのPET(Polyethylene terephthalate)フィルムの上に膜厚13.5μmのポリエチレン多孔質フィルムを固定し、バーコーターを用いて、前記ポリエチレン多孔質フィルムの表面に上記塗工液を塗工することによって、前記ポリエチレン多孔質フィルムの表面に塗工膜が形成された塗工フィルムを得た。得られた塗工フィルムを、50℃、相対湿度70%の雰囲気に置き、ポリ(パラフェニレンテレフタルアミド)(PPTA)を析出させ、塗工膜を固化させた。固化時のポリエチレン多孔質フィルムの延伸率は0%とし、固化時間は60秒間とした。PPTAが析出することで塗工膜が固化した塗工フィルムを、イオン交換水に浸漬した。その後、70℃のオーブンで乾燥し、積層セパレータを製造した。製造された積層セパレータの透気度は、349s/100mlだった。
【0078】
(実施例1)
搬送ローラーによって搬送されるポリエチレン多孔質フィルムの、前記搬送ローラーが接触する面とは反対側の表面に、バーコーターを用いて、比較例1と同一の塗工液を塗工することによって、前記ポリエチレン多孔質フィルムの表面に塗工膜が形成された塗工フィルムを得た。搬送ローラーによって搬送される膜塗工フィルムの、前記搬送ローラーが接触する面とは反対側の表面である、塗工膜が形成された面側に、50℃、相対湿度70%の多湿空気を吹き付けながら、塗工フィルムを搬送することで、PPTAを析出させ、塗工膜を固化させた。固化時のポリエチレン多孔質フィルム膜の延伸率は1.1%とし、前記多湿空気で満たされた固化雰囲気の通過時間は4.5秒とした。PPTAが固化することで塗布膜が固化した塗工フィルムを、イオン交換水に浸漬することで洗浄した後、乾燥して、積層セパレータを製造した。製造された積層セパレータの透気度は、294s/100mlだった。
【0079】
(実施例2)
固化時のポリエチレン多孔質フィルムの延伸率を2.4%に調整し、固化雰囲気の通過時間を5.0秒とした以外は、実施例1と同様の手順で積層セパレータを製造した。製造された積層セパレータの透気度は、265s/100mlだった。
【0080】
(実施例3)
ポリエチレン多孔質フィルムの膜厚を12μmとし、固化時のポリエチレン多孔質フィルムの延伸率を6.0%に調整した以外は、実施例1と同様な手順で積層セパレータを製造した。製造された積層セパレータの透気度は、272s/100mlだった。
【0081】
(実施例4)
固化時のポリエチレン多孔質フィルムの延伸率を7.0%に調整した以外は、実施例3と同様な手順で積層セパレータを製造した。製造された積層セパレータの透気度は、273s/100mlだった。
【0082】
表1に示すように、比較例1では、イオン透過性の指標である積層セパレータの透気度が300s/100mlを超えており、イオン透過性が低いことがわかる。一方、実施例1~実施例3では、積層セパレータの透気度が300s/ml未満と十分に低い。したがって、積層セパレータの透気度を好適にするためには、固化部30において搬送中の塗工フィルムFの搬送方向の長さが、未搬送状態に比べて0%を超えて延伸されることが好ましく、0.5%を超えて延伸されることがより好ましい。
【0083】
固化部30において基材に付与される搬送方向の張力は、0N/mmを超えておればよく、0.01N/mm以上、0.02N/mm以上、0.05N/mm以上、又は0.07N/mm以上であってもよい。固化部30において基材に付与される搬送方向の張力は、0.5N/mm以下であればよく、0.4N/mm以下、0.3N/mm以下、0.26N/mm以下又は0.25N/mm以下であってもよい。
【0084】
固化部30において基材に付与される搬送方向の、基材膜厚を考慮した張力は、0N/mmを超えておればよく、1N/mm以上、3N/mm以上、5N/mm以上又は7N/mm以上であってもよい。固化部30において基材に付与される搬送方向の、基材膜厚を考慮した張力は、50N/mm以下であればよく、40N/mm以下、30N/mm以下、25N/mm以下、22N/mm以下、又は21.5N/mm以下であってもよい。
【0085】
また、比較例1では、塗工膜の固化に60秒を要しているのに対し、実施例1~実施例3では、塗工膜の固化が5.0秒以下となっており、比較例1と比較して、塗工膜の固化を効率よく行うことができた。
【0086】
一方、実施例4では、実施例3と同等の安定した透気度の積層セパレータが得られた。ただし、第1駆動ローラーD1と第2駆動ローラーD2と間で塗工フィルムFの幅方向に多孔質フィルムがネックインを起こした。したがって、ネックインの発生を防止し、ネックインが発生した場合にネックインを起こした状態が維持されることを防止するために、固化部30において搬送中の塗工フィルムFの搬送方向の長さが、未搬送状態に比べて7%未満で延伸されるように、駆動制御部16はモータM1,M2の回転速度を制御することが好ましい。また、当該長さが6.5%以下で延伸されるように、駆動制御部16が制御することがより好ましい。また、当該長さが6%以下で延伸されるように、駆動制御部16が制御することがさらにより好ましい。ネックイン防止により、製造歩留まりの悪化や電池用セパレータの湾曲を抑制することができる。
【0087】
ここで「未搬送状態」は、第1駆動ローラーD1よりも下流側の被搬送物の状態を意味する。
【0088】
同様に、表2に示すように第2張力計測部14での張力を維持するようにモータM1,M2の回転速度をフィードバック制御して、本実施形態に係る製造システムで機能層付セパレータ(積層セパレータ)を製造した。
【0089】
【表2】

表2に示す各項目は、表1に示した各項目と同様であるので、説明を繰り返さない。
【0090】
(実施例5)
ポリエチレン多孔質フィルムの膜厚を10μmとし、固化時のポリエチレン多孔質フィルムの延伸率を2.7%に調整した以外は、実施例1と同様の手順で積層セパレータを製造した。製造された積層セパレータの透気度は、237s/100mlだった。
【0091】
(実施例6)
固化時のポリエチレン多孔質フィルムの延伸率を0.9%に調整した以外は、実施例5と同様の手順で積層セパレータを製造した。製造された積層セパレータの透気度は、244s/100mlだった。
【0092】
(実施例7)
固化時のポリエチレン多孔質フィルムの延伸率を4.5%に調整した以外は、実施例5と同様の手順で積層セパレータを製造した。製造された積層セパレータの透気度は、234s/100mlだった。
【0093】
(実施例8)
固化時のポリエチレン多孔質フィルムの延伸率を4.7%に調整した以外は、実施例5と同様の手順で積層セパレータを製造した。製造された積層セパレータの透気度は、255s/100mlだった。
【0094】
表2に示すように、基材膜厚が小さい場合でも安定した透気度の積層セパレータを製造することができる。
【0095】
〔実施形態2〕
本発明の他の実施形態について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0096】
図4は、本発明の実施形態2に係る製造システム2の構成例の一部を示す要部模式図である。
【0097】
図4に示すように、本実施形態2に係る製造システム2では、前述の実施形態1に係る製造システム1と異なり、(i)第1駆動ローラーD1が第1張力計測部13と共に、塗工部20よりも上流側に配置されており、(ii)固化部30に代えて固化部30Aを備える。また、搬送装置40は、塗工部20よりも上流側の搬送ローラーR9をさらに含む。
【0098】
この結果、本実施形態では、第1駆動ローラーD1と第2駆動ローラーD2との間には塗工部20および固化部30Aがあるため、駆動制御部16は、塗工部20および固化部30Aにおける張力および延伸率を制御する。このため、塗工部20で塗工されるフィルムfも、駆動制御部16による延伸率の制御下にある。
【0099】
また、図4に示すように、本実施形態2に係る固化部30Aでは、前述の実施形態1に係る固化部30と異なり、塗工面側のノズル33が複数配置されている。塗工面側のノズル33を複数配置することによって、塗工フィルムFの塗工面上(すなわち、塗工膜上)における貧溶媒物質の対流が促進され、塗工膜の固化がより効率的になる。また、非塗工面側のノズル35も配置されている。
【0100】
本実施形態2に係る製造システム2が、本実施形態2に係る固化部30Aに代えて、前述の実施形態1に係る固化部30を備えてもよい。前述の実施形態1に係る製造システム1が、前述の実施形態1に係る固化部30に代えて、本実施形態2に係る固化部30Aを備えてもよい。
【0101】
(固化部の変形例1)
図5は本発明の幾つかの実施形態に係る固化部の一変形例の概略構成を示す模式図である。前述した構成要素と同様の構成要素には同様の参照符号を付し、その詳細な説明は繰り返さない。図5の固化部30Bは、ハウジング31内に液体の貧溶媒物質を含む液体34が満たされており、その液体34中を塗工フィルムFが塗工膜と共に通過することで、塗工膜が固化する点において、前述した固化部30,30Aと異なる。この時、ハウジング31内にある搬送ローラーR2~R7は、少なくとも1つの搬送ローラーの一部が貧溶媒物質を含む液体34に浸かっていればよく、すべての搬送ローラーが液体34に浸かっていても良い。また、液体の貧溶媒物質は、1種類でもよく、複数の溶媒を組み合わせてもよい。
【0102】
固化部30Bにおいて、基材の搬送方向の延伸率を前述した固化部30,30Aと同様に制御することにより、固化部30,30Aと同様の効果を得ることができる。すなわち、製造システム1,2が、固化部30,30Aに代えて、本変形例1に係る固化部30Bを備えてもよい。
【0103】
(固化部の変形例2)
図6は本発明の幾つかの実施形態に係る固化部の別の一変形例の概略構成を示す模式図である。固化部30Cは、内部に熱風が供給される熱風部36および熱風部37を備え、かつ貧溶媒物質を使用しない点において、固化部30,30A,30Bと異なる。固化部30Cには塗工フィルムFが、搬送ローラーR10~R13によって熱風部36をこの順に通り抜けるように搬送され、搬送ローラーR14によって方向転換されて、搬送ローラーR15~R18によって別の熱風部37をこの順に通り抜けるように搬送される。このため、塗工フィルムFの塗工膜は、熱風部36および熱風部37の内部に供給された熱風により乾燥し、固化する。
【0104】
固化部30Cにおいて、基材の搬送方向の延伸率を前述した固化部30,30Aと同様に制御することにより、固化部30,30Aと同様の効果を得ることができる。すなわち、製造システム1,2が、固化部30,30Aに代えて、本変形例2に係る固化部30Cを備えてもよい。
【0105】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0106】
1,2 製造システム(製造方法)
12 空調装置(調湿装置,調湿工程)
13 第1張力計測部(張力計測部,張力計測工程)
14 第2張力計測部(張力計測部,張力計測工程)
16 駆動制御部
20 塗工部(塗工工程)
30、30A、30B、30C 固化部(固化工程)
32 排気口
33 ノズル(貧溶媒物質供給部)
33a 開口
40 搬送装置(搬送工程)
50 制御部(制御工程)
D1 第1駆動ローラー(駆動ローラー)
D2 第2駆動ローラー(駆動ローラー)
f フィルム(基材)
F 塗工フィルム
R1,R8,R9 搬送ローラー
R2~R7 搬送ローラー(加圧ローラー)
図1
図2
図3
図4
図5
図6