(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-27
(45)【発行日】2024-06-04
(54)【発明の名称】クリーニング方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/00 20060101AFI20240528BHJP
H01L 21/3065 20060101ALI20240528BHJP
【FI】
C23C14/00 B
H01L21/302 101H
(21)【出願番号】P 2020125051
(22)【出願日】2020-07-22
【審査請求日】2023-05-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】110000305
【氏名又は名称】弁理士法人青莪
(72)【発明者】
【氏名】山本 晃平
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健太
(72)【発明者】
【氏名】渡部 純
【審査官】篠原 法子
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-302565(JP,A)
【文献】特開平11-140675(JP,A)
【文献】特開2006-213969(JP,A)
【文献】米国特許第06221164(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00-14/58
C23C 16/00-16/56
H01L 21/205
H01L 21/31
H01L 21/365
H01L 21/469
H01L 21/86
H01L 21/302
H01L 21/3065
H01L 21/461
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空蒸着装置の真空チャンバ内にてその内部の残留イオンを除去するためのクリーニング方法であって、
真空チャンバ内
を大気雰囲気とした状態でこの真空チャンバ内に液体または固体の有機材料をセットした後、大気圧から有機材料の蒸気圧より低い所定圧力まで真空排気し、気化または昇華した有機材料を拡散させ
ることで真空チャンバの内壁面及びその内部に存する部品の表面に有機材料を付着させる工程と、
酸素ガスをプラズマ化して活性種を生成し、この生成した活性種を真空チャンバ内に導入する工程と、
活性種によって有機材料と残留イオンとの反応を促進しながら、有機材料と残留イオンとを反応させ、反応生成物として真空排気する
工程とを含み、
残留イオンが、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、亜硝酸イオン、硝酸イオン、リン酸イオン、亜硫酸イオン、硫酸イオン、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオンまたはアンモニウムイオンである場合に、有機材料として、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド及びヘキサンの中から選択される少なくとも1種類を用いることを特徴とするクリーニング方法。
【請求項2】
真空チャンバ内が大気圧から所定圧力まで真空排気されるまでの間に、有機材料を加熱する工程を更に含むことを特徴とする請求項1記載のクリーニング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クリーニング方法に関し、より詳しくは、所定の真空処理を施す真空処理装置の真空チャンバ内でその内部に残留する残留イオンを確実に除去するためのものに関する。
【背景技術】
【0002】
真空処理装置の真空チャンバ内で成膜処理やエッチング処理といった各種の真空処理を施すと、例えば成膜源から飛散した成膜材料やエッチング時の反応生成物(例えば、有機物やエッチング反応に由来するイオン:以下、これらを総称して「付着物」という)が真空チャンバの内壁面やその内部に存する部品の表面に付着する。このような付着物は、各種の真空処理を経て製造される製品(デバイス等)の寿命を短くすることが一般に知られている(例えば非特許文献1参照)。
【0003】
ここで、真空チャンバ内の付着物を除去するクリーニング方法は例えば特許文献1で知られている。このものでは、真空雰囲気の真空チャンバ内にクリーニングガス(例えば四フッ化炭素)を導入し、真空チャンバ内にプラズマを発生させ、プラズマ雰囲気中にてクリーニングガスと付着物とを反応させ、真空排気することで付着物を除去する。この従来例のクリーニング方法では、有機物やリン化合物といった付着物は除去できるものの、真空チャンバ内に残留する残留イオンを除去することができない。このため、結局、薬剤を用いた作業者による拭き取り作業で残留イオンを除去しているのが実情である。然し、このような拭き取り作業は、面倒であるばかりか、作業者の手が届かずに拭き取り作業ができない箇所があったり、拭き残しが生じたりして、残留イオンの除去が不十分になる場合がある。その上、作業者による拭き取り作業中に、何等かの原因で真空チャンバ内が再度汚染される虞もある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Hiroshi Fujimoto、外7名、「Influence of vacuum chamber impurities on the lifetime of organic light-emitting diodes」、Scientific Reports、Volume 6、Article number:38482 (2016)、2016年12月13日
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上の点に鑑み、真空処理装置の真空チャンバ内の残留イオンを確実に除去することができるクリーニング方法を提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、真空蒸着装置の真空チャンバ内にてその内部の残留イオンを除去するための本発明のクリーニング方法は、真空チャンバ内を大気雰囲気とした状態でこの真空チャンバ内に液体または固体の有機材料をセットした後、大気圧から有機材料の蒸気圧より低い所定圧力まで真空排気し、気化または昇華した有機材料を拡散させることで真空チャンバの内壁面及びその内部に存する部品の表面に有機材料を付着させる工程と、酸素ガスをプラズマ化して活性種を生成し、この生成した活性種を真空チャンバ内に導入する工程と、活性種によって有機材料と残留イオンとの反応を促進しながら、有機材料と残留イオンとを反応させ、反応生成物として真空排気する工程とを含み、残留イオンが、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、亜硝酸イオン、硝酸イオン、リン酸イオン、亜硫酸イオン、硫酸イオン、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオンまたはアンモニウムイオンである場合に、有機材料として、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド及びヘキサンの中から選択される少なくとも1種類を用いることを特徴とする。真空チャンバ内が大気圧から所定圧力まで真空排気されるまでの間に、有機材料を加熱する工程を更に含むようにしてもよい。
【0008】
以上によれば、例えば、大気雰囲気の真空チャンバ内に、所定量の液体または固体の有機材料をセットする。有機材料として液体のものを用いる場合には、噴霧器等により有機材料を真空チャンバ内全体に亘って散布するようにしてもよい。そして、真空チャンバ内を密閉した後、真空ポンプにより真空チャンバ内を大気圧から所定圧力まで真空排気する。すると、真空チャンバ内で有機材料が気化または昇華し、この気化または昇華したものが真空チャンバ内全体に亘って拡散する。このとき、使用する有機材料の蒸気圧によっては、真空チャンバ内に設けたヒータやランプ等により有機材料を加熱すれば、蒸気圧の高い有機材料を利用する場合でも、可及的速やかに有機材料を気化または昇華させて真空チャンバ内に拡散させることができる。なお、真空チャンバ内を所定圧力まで真空排気した状態で、例えば、真空チャンバ内に液状の有機材料を導入し、または、真空チャンバ内に連設された補助チャンバで予め気化または昇華させた有機材料を導入して、真空チャンバ内全体に亘って拡散させるようにしてもよい。
【0009】
次に、例えば、真空チャンバに連設したプラズマ発生チャンバにて酸素ガスをプラズマ化して、酸素ラジカルや酸素イオンといった活性種を生成し、これを真空チャンバ内に導入する。これにより、真空チャンバ内にプラズマ雰囲気が生成され、プラズマ雰囲気中の有機材料が真空チャンバ内に残留する残留イオンと反応し、反応生成物として真空ポンプへと真空排気される。このとき、酸素ラジカルや酸素イオンを発生させていることで、有機材料と残留イオンとの反応がより効率的に促進される。これにより、作業者の拭き取り作業に依らずに真空チャンバ内の残留イオンを除去することができる。しかも、気化または昇華したものが真空チャンバ内全体に亘って拡散されている(言い換えると、真空チャンバの内壁面やその内部に存する部品(特に、作業者の手が届き難い部品や箇所)の表面にも有機材料が付着している)ことで、真空チャンバ内から残留イオンを確実に除去することができ、その上、作業者が介在しないため、真空チャンバ内が再汚染されるといった不具合も生じない。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本実施形態のクリーニング方法が実施される真空処理装置の構成を説明する模式断面図。
【
図2】本実施形態のクリーニング方法により除去される残留イオンの反応機構を説明する概略図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、所定の真空処理を施す真空処理装置を真空蒸着装置Dmとし、その真空チャンバ1内の残留イオンを除去する場合を例に、本実施形態のクリーニング方法を説明する。以下においては、「上」、「下」といった方向を示す用語は
図1を基準として説明する。
【0012】
図1を参照して、Dmは、本発明のクリーニング方法を適用できる一例の真空蒸着装置である。真空蒸着装置Dmは、真空チャンバ1を備える。真空チャンバ1の底部には、排気管11を介して真空ポンプPが接続され、真空チャンバ1内を所定圧力(真空度)に真空排気して保持することができる。真空チャンバ1の上部には、基板搬送装置2が設けられる。基板搬送装置2は、成膜対象としての基板Swをその成膜面を下側に向けた姿勢で基板Swを保持するキャリア21を有し、図外の駆動装置によってキャリア21、ひいては基板Swを真空チャンバ1内の所定位置に順次移動することができる。基板搬送装置2としては、公知のものを利用できるため、これ以上の説明は省略する。真空チャンバ1内の所定位置にはまた、防着板31,32が設けられ、キャリア21が所定位置に搬送されると、防着板31,32とキャリア21とによって真空蒸着を行うための成膜室1aが画成されるようになっている。そして、成膜室1aに位置させて真空チャンバ1の底面には、成膜用の蒸着源4が設けられている。
【0013】
蒸着源4は、蒸着材料5を収容する収容箱41を有する。蒸着材料5としては、基板Swに成膜しようとする薄膜の種類に応じて、有機材料や金属材料が適宜選択され、顆粒状またはタブレット状のものが利用される。収容箱41内には、金属製の坩堝42が設けられ、坩堝42内に蒸着材料5が充填される。坩堝42と収容箱41の底壁との間には、坩堝42の外壁面をその全体に亘って覆うようにシースヒータ等の加熱手段43が設けられている。収容箱41の上面には、所定高さの筒体で構成される放出開口44が所定の間隔で複数本(本実施形態では、6本)列設されている。そして、各放出開口44からは、気化または昇華した蒸着材料51が所定の余弦則に従い放出される。真空チャンバ1の底面にはまた、クリーニング用の予備蒸発源6が設けられている。
【0014】
予備蒸発源6は、液体または固体の有機材料7が充填される坩堝61と、坩堝61内に充填された有機材料7を加熱するシースヒータ等の他の加熱手段62とを備え、真空チャンバ1内を密閉した後、真空ポンプPにより真空チャンバ1内を大気圧から所定圧力まで真空排気する際に有機材料7を積極的に加熱することができる。有機材料7としては、除去しようとする残留イオンの種類に応じて適宜選択される。例えば、真空チャンバ1内に残留する残留イオンとして、フッ化物イオン(F-)、塩化物イオン(Cl-)、臭化物イオン(Br-)、亜硝酸イオン(NO2
-)、硝酸イオン(NO3
-)、リン酸イオン(PO4
3-)、亜硫酸イオン(SO3
2-)、硫酸イオン(SO4
2-)、リチウムイオン(Li+)、ナトリウムイオン(Na+)、カリウムイオン(K+)、マグネシウムイオン(Mg2+)カルシウムイオン(Ca2+)、アンモニウムイオン(NH4
+)が想定されるような場合、有機材料7としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトン、ジメチルエーテル(DME)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヘキサンの中から少なくとも1種類を含むものが選択される。
【0015】
また、真空チャンバ1には、連通菅12を介してプラズマ発生チャンバ8が連設されている。プラズマ発生チャンバ8には、酸素ガスを導入するガス管81が接続され、マスフローコントローラ81aを介して、流量制御された酸素ガスをプラズマ発生チャンバ8内に導入することができる。プラズマ発生チャンバ8にはまた、マイクロ波キャビティ82が設けられている。このマイクロ波キャビティ82から発振されたマイクロ波が、導波管83及び石英窓84を介してプラズマ発生チャンバ8内に導入されることで、プラズマ発生チャンバ8内に導入された酸素ガスがプラズマ化されて、酸素ラジカルや酸素イオンといった活性種が生成される。そして、プラズマ発生チャンバ8内で生成した活性種は、連通管12を介して真空チャンバ1内へ導入されるようになっている。以下、上記真空蒸着装置Dmの真空チャンバ1内のクリーニング方法について説明する。
【0016】
真空チャンバ1を大気雰囲気とした状態で予備蒸発源6に、所定量の液状または固体の有機材料7をセットし、真空チャンバ1内を密閉した後、真空ポンプPにより真空チャンバ1内を真空排気すると共に、シースヒータ62により有機材料7を加熱する。すると、真空チャンバ1内で、有機材料7が気化または昇華され、この気化または昇華した有機材料7が真空チャンバ1内でその全体に亘って拡散される。そして、プラズマ発生チャンバ8に、酸素ガスを導入し、酸素ガスをプラズマ化して酸素ラジカルや酸素イオンといった活性種を生成し、これを真空チャンバ1内に導入する。これにより、真空チャンバ1内にプラズマ雰囲気が生成され、プラズマ雰囲気中の有機材料7が真空チャンバ1内に残留する残留イオンと反応し、反応生成物として真空ポンプPへと真空排気される。このとき、酸素ラジカルや酸素イオンを発生させていることで、有機材料7と残留イオンとの反応がより効率的に促進される。これにより、作業者の拭き取り作業に依らずに真空チャンバ1内の残留イオンを除去することができる。しかも、気化または昇華した有機材料7が真空チャンバ1内全体に亘って拡散されている(言い換えると、真空チャンバ1の内壁面やその内部に存する部品(例えば、防着板31,32等の作業者の手が届き難い部品や箇所)の表面にも有機材料7が付着している)ことで、真空チャンバ1内から残留イオンを確実に除去することができ、その上、作業者が介在しないため、真空チャンバ1内が再汚染されるといった不具合も生じない。
【0017】
上記効果を確認するため、上記真空蒸着装置Dmを用いて次の評価を行った。即ち、有機材料7としてアセトンを用い、真空チャンバ1内を所定圧力まで真空排気してアセトンを気化させた。このとき、クリーニング時間を短縮するために、他の加熱手段62でアセトンを積極的に加熱するようにしてもよい。これに併せて、プラズマ発生チャンバ8内に50sccmの流量で酸素ガスを導入しながら、マイクロ波を導入して酸素ガスをプラズマ化し、これを真空チャンバ1内に導入した。この状態で1時間保持し、プラズマ雰囲気中のアセトンと真空チャンバ1内に残留する残留イオン(例えば硫酸イオン等)と反応させ、反応生成物を真空排気した。この場合、例えば、硫酸イオンは、
図2に示す反応機構により、アセトンと反応することで分解されて除去される。そして、事前に規定量の硫酸イオンを散布した真空チャンバ1内の硫酸イオンのクリーニング前後の減少量率をイオンクロマトグラフィーにより評価した。これによれば、硫酸イオンの減少量率は、-66.4%であった。因みに、上記従来例の拭き取り作業では、作業者にも依るが、クリーニング前後の硫酸イオンの減少量率は精々-50%程度であり、本発明のクリーニング方法を利用すれば、真空チャンバ1内から硫酸イオンをより確実に除去できることが判る。
【0018】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態のものに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限り、種々の変形が可能である。上記実施形態では、真空処理装置として真空蒸着装置Dmを例に説明したが、これに限定されるものではない。真空処理装置の真空チャンバ内で成膜処理やエッチング処理といった各種の真空処理を施す際に、真空チャンバ内に残留する残留イオンを除去する必要があれば、スパッタリング装置、プラズマ重合装置や蒸着重合装置等の真空処理装置にも、本発明のクリーニング方法を適用することができる。
【0019】
また、上記実施形態では、真空チャンバ1内にプラズマ雰囲気を生成するために、連通菅12を介してプラズマ発生チャンバ8を連設したものを例に説明したが、これに限定されるものではなく、真空チャンバ1内にプラズマ雰囲気を生成できるものであれば、その形態は問わない。例えば、スパッタリング装置やプラズマ重合装置のように真空チャンバ1内にプラズマ雰囲気を形成するための部品や要素が既に備えられているような場合には、これを利用することもできる。
【0020】
更に、上記実施形態では、真空ポンプPにより真空チャンバ1内を真空排気すると共に、シースヒータ62により有機材料7を加熱するものを例に説明したが、蒸気圧の低い有機材料7を利用する場合には、有機材料7を加熱せず、真空チャンバ1内の真空排気だけで有機材料7を気化または昇華させてもよい。また、液状の有機材料7を用いる場合には、噴霧器等により有機材料7を真空チャンバ1内全体に亘って散布するようにしてもよく、真空チャンバ1内を所定圧力まで真空排気した状態で、例えば、真空チャンバ1内に液状の有機材料7を導入し、または、真空チャンバ1内に連設された補助チャンバで予め気化または昇華させた有機材料7を導入して、真空チャンバ1内全体に亘って拡散させるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0021】
Dm…真空蒸着装置(真空処理装置)、1…真空チャンバ、7…有機材料。