(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-27
(45)【発行日】2024-06-04
(54)【発明の名称】医療器具および医療装置
(51)【国際特許分類】
A61M 39/02 20060101AFI20240528BHJP
【FI】
A61M39/02 100
(21)【出願番号】P 2021024856
(22)【出願日】2021-02-19
(62)【分割の表示】P 2020073803の分割
【原出願日】2020-04-17
【審査請求日】2022-12-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114292
【氏名又は名称】来間 清志
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(72)【発明者】
【氏名】樋村 敦司
(72)【発明者】
【氏名】八木 健
(72)【発明者】
【氏名】奈良 一孝
(72)【発明者】
【氏名】末松 克輝
(72)【発明者】
【氏名】荒井 恒憲
【審査官】中村 一雄
(56)【参考文献】
【文献】独国特許出願公開第102015122016(DE,A1)
【文献】特表2020-509793(JP,A)
【文献】国際公開第2020/046791(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0381203(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2018-0135257(KR,A)
【文献】特表2008-522762(JP,A)
【文献】特開平03-090168(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 39/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口部を有し、薬液を保持する容器と、前記開口部を閉塞する軟質部と、を備え、体内に植え込まれて用いられる医療器具であって、
外部から伝送された電力を受電する受電部と、
前記受電部で受電した電力により光を出射する発光部とを備え、
前記発光部は、中心波長が600〔nm〕以上1100〔nm〕以下の前記光を出射する第1発光部、および、中心波長が400〔nm〕以上480〔nm〕以下の前記光を出射する第2発光部の一方または双方を有
し、
前記発光部は、少なくとも前記第2発光部を備え、
前記第2発光部から出射される前記光の放射照射量の範囲は、照射対象部位において、32~125〔J/cm
2
〕である、
医療器具。
【請求項2】
前記第2発光部による照射時間tは、前記光の放射照射量Eが前記照射対象部位において32~125〔J/cm
2
〕の範囲内であって、放射照度Iが7~12〔mW/cm
2
〕の範囲内であって、下記から算出される時間である請求項1に記載の医療器具。
E〔J/cm
2
〕=I〔W/cm
2
〕×t〔s〕
【請求項3】
前記発光部は、前記軟質部の周囲に配置され、少なくとも前記軟質部の上面を照射するように構成される請求項1
又は2に記載の医療器具。
【請求項4】
前記発光部は、前記容器の胴部の周囲または底部の周囲に配置され、少なくとも前記容器の内部および前記軟質部を照射するように構成される請求項1に記載の医療器具。
【請求項5】
前記発光部は、少なくとも前記第1発光部を備え、
前記第1発光部から出射される前記光の放射照射量の範囲は、
前記照射対象部位において、1.0~60.0〔J/cm
2〕である請求項1から
4のいずれか一項に記載の医療器具。
【請求項6】
前記第1発光部による照射時間tは、放射照射量Eが前記照射対象部位において1.0~60.0〔J/cm
2〕の範囲内であって、放射照度Iが4~500〔mW/cm
2〕の範囲内であって、下記式から算出される時間である請求項
5に記載の医療器具。
E〔J/cm
2〕=I〔W/cm
2〕×t〔s〕
【請求項7】
前記発光部は、少なくとも前記第1発光部を備え、
前記第1発光部は、中心波長が620〔nm〕、660〔nm〕、680〔nm〕、760〔nm〕または820〔nm〕の前記光を出射する構成である請求項1から
6のいずれか一項に記載の医療器具。
【請求項8】
前記光は、可視光である請求項1から
7のいずれか一項に記載の医療器具。
【請求項9】
請求項1から
8のいずれか一項に記載の医療器具と、
所定の電力を伝送する送電装置とを備え、
前記医療器具の
前記受電部は、前記送電装置から伝送された電力を受電する構成である医療装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、被検体の体内に植え込まれて用いられる医療器具、および、当該医療器具を備える医療装置に関する。
【背景技術】
【0002】
医療器具において、体内に薬液を投入するために、体内に本体部が植え込まれる体内植込型の医療装置が用いられている(例えば、特許文献1)。この医療器具は、薬液の投入のために頻繁に注射をしなければならない患者への負担を軽減させるものである。医療器具は、本体部に注射針が挿通される軟質部を有している。この軟質部は、例えば、シリコーンゴム等から形成されて成る。そして、医療器具は、軟質部を通じて薬液容器に薬液が注入される。薬液は、カテーテルを通じて血管に輸送される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したように、この医療器具は、患者の体内に植え込まれたあと、定期的に注射針を穿刺して薬液を注入する必要がある。注射針を穿刺することでこの医療器具を覆っている皮膚、および軟質部を含む医療器具内部等に細菌が繁殖して感染症が生じることがあり、その抑制が望まれている。
【0005】
本発明は、感染症抑制を図ることができる医療器具、および、当該医療器具を備える医療装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本開示に係る医療器具は、開口部を有し、薬液を保持する容器と、前記開口部を閉塞する軟質部と、を備え、体内に植え込まれて用いられる医療器具であって、外部から伝送された電力を受電する受電部と、前記受電部で受電した電力により光を出射する発光部とを備え、前記発光部は、中心波長が600〔nm〕以上1100〔nm〕以下の前記光を出射する第1発光部、および、中心波長が400〔nm〕以上480〔nm〕以下の前記光を出射する第2発光部の少なくとも一方を有する。
【0007】
また、本開示に係る医療装置は、上記開示において、前記発光部は、前記軟質部の周囲に配置され、少なくとも前記軟質部の上面を照射するように構成される。
【0008】
また、本開示に係る医療器具は、上記開示において、前記発光部は、前記容器の胴部の周囲または底部の周囲に配置され、少なくとも前記容器の内部および前記軟質部を照射するように構成される。
【0009】
また、本開示に係る医療器具は、上記開示において、前記発光部は、少なくとも前記第1発光部を備え、前記第1発光部から出射される前記光の放射照射量の範囲は、照射対象部位において、1.0~60.0〔J/cm2〕である。
【0010】
また、本開示に係る医療器具は、上記開示において、前記発光部は、少なくとも前記第1発光部を備え、前記第1発光部は、中心波長が620〔nm〕、660〔nm〕、680〔nm〕、760〔nm〕または820〔nm〕の前記光を出射する構成である。
【0011】
また、本開示に係る医療器具は、上記開示において、前記発光部は、少なくとも前記第2発光部を備え、前記第2発光部から出射される前記光の放射照射量の範囲は、照射対象部位において、32~125〔J/cm2〕である。
【0012】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本開示に係る医療装置は、上述したいずれか一つの医療器具と、所定の電力を伝送する送電装置とを備え、前記医療器具の受電部は、前記送電装置から伝送された電力を受電する構成である。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、主に感染症抑制を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】医療装置の概略構成を模式的に示す図である。
【
図2】
図2は、医療器具の側断面を模式的に示す図である。
【
図3】
図3は、医療器具の上面を模式的に示す図である。
【
図4】
図4は、医療器具の側断面を模式的に示す図である。
【
図5】
図5は、受電部と発光部の構成例を示す図である。
【
図6】
図6は、第1配置例にかかる医療器具の側断面を模式的に示す図である。
【
図7】
図7は、第2配置例にかかる医療器具の側断面を模式的に示す図である。
【
図8】
図8は、第2配置例にかかる容器の外観構成を模式的に示す図である。
【
図9】
図9は、第3配置例にかかる医療器具の側断面を模式的に示す図である。
【
図10】
図10は、第4配置例にかかる医療器具の側断面を模式的に示す図である。
【
図11】
図11は、第4配置にかかる容器の外観構成を模式的に示す図である。
【
図12】
図12は、第5配置例にかかる医療器具の側断面を模式的に示す図である。
【
図13】
図13は、第5配置例にかかる容器の外観構成を模式的に示す図である。
【
図14】
図14は、第6配置例にかかる医療器具の側断面を模式的に示す図である。
【
図15】
図15は、第7配置例にかかる医療器具の側断面を模式的に示す図である。
【
図16】
図16は、第8配置例にかかる医療器具の側断面を模式的に示す図である。
【
図17】
図17は、第9配置例にかかる医療器具の側断面を模式的に示す図である。
【
図18】
図18は、第10配置例にかかる医療器具の側断面を模式的に示す図である。
【
図19】
図19は、第11配置例にかかる医療器具の側断面を模式的に示す図である。
【
図20】
図20は、第11配置例にかかる医療器具の上面を模式的に示す図である。
【
図21】
図21は、第12配置例にかかる医療器具の側断面を模式的に示す図である。
【
図22】
図22は、第12配置例にかかる医療器具の上面を模式的に示す図である。
【
図23】
図23は、第13配置例にかかる医療器具の側断面を模式的に示す図である。
【
図24】
図24は、第13配置例にかかる医療器具の上面を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本開示を実施するための形態を図面とともに詳細に説明する。なお、以下の実施の形態により本開示が限定されるものでない。また、以下の説明において参照する各図は、本開示の内容を理解でき得る程度に形状、大きさ、および位置関係を概略的に示してあるに過ぎない。即ち、本開示は、各図で例示された形状、大きさ、および位置関係のみに限定されるものでない。さらに、以下の説明では、人および動物を含む被検体の生体内に植え込まれて用いられる医療器具、および、当該医療器具を備える医療装置の構成と動作について詳細に説明する。
【0016】
図1は、医療器具10が患者の体内に植え込まれたときの様子を模式的に示しており、医療装置1の構成を模式的に示す図である。医療装置1は、医療器具10と、送電装置20とを備える。医療器具10は、例えば、皮下植込型ポート(CVポート)と称されるものであり、軟質部により開口部が閉塞され、薬液を保持する容器を備え、体内に植え込まれて用いられる器具である。
図1では、医療器具10が患者の生体B1内に植え込まれている様子を模式的に示している。
【0017】
(医療器具について)
ここで医療器具10の構成と動作について説明する。医療器具10は、注射針31が挿通される軟質部13と、注射針31により注入された薬液を保持する容器12とを備える。なお、本実施例では、注射針31が挿通される軟質部13の表面を医療器具10の上面と称し、その上面に対向する面を医療器具10の底面と称し、上面と底面をつなぐ面を医療器具10の側面と称する。
【0018】
図2は、医療器具10の側断面を模式的に示す図である。
図3は、医療器具10の上面を模式的に示す図である。医療器具10は、主に、
図2に示すように、本体部11と、開口部12aを有し、薬液を保持する容器12と、容器12の開口部12aを閉塞する軟質部13とを備える。また、医療器具10は、カテーテルCが接続され、カテーテルCを介して容器12内の液体を血管B(静脈)に注入する注入部(カテーテルポート)14を備える。
【0019】
本体部11は、例えば、エポキシ樹脂等により構成される筐体である。容器12は、薬液を一時的に貯留するタンクである。容器12は、体外側に円状をなす開口部12aを有する。
図2では、開口部12aは、軟質部13により閉塞されている様子を示している。容器12は、全体が金属製で構成されてもよいし、全体が樹脂で構成されてもよいし、底部のみが金属製で構成(底部以外は樹脂で構成)されてもよい。
【0020】
軟質部13は、セプタムと称されるものである。軟質部13は、容器12の開口部12aを閉塞する。軟質部13は、例えば、シリコーンゴムにより構成された軟質な蓋体(シリコーン隔膜)であり、本体部11からも露出する態様で設けてある。また、軟質部13は、円柱状をなしているが、これ以外の形状としてもよい。軟質部13は、本体部11が生体B1内に埋め込まれたあとに、被検体の体表より薬液注入(輸液)のための注射針31が挿通可能な部分である。なお、
図1では、医療器具10の外形を模式的に示しており、本体部11の形状、容器12の形状などは、様々な形状が考えられる。注射針31は、例えば、ヒューバー針である。軟質部13に挿通した後、注射針31の先端部から薬液などが容器12内に注入される。
【0021】
また、医療器具10は、受電部15と、発光部16とを備える。受電部15は、外部(送電装置20)から伝送された電力を受電する。発光部16は、例えば、LED(light emitting diode)であり、受電部15で受電した電力により光を出射する。また、発光部16は、中心波長が600〔nm〕以上1100〔nm〕以下の光を出射する第1発光部16a、および、中心波長が400〔nm〕以上480〔nm〕以下の光を出射する第2発光部16bの少なくとも一方を有する。つまり、発光部16は、第1発光部16aのみから構成される場合と、第2発光部16bのみから構成される場合と、第1発光部16aおよび第2発光部16bから構成される場合がある。なお、本実施例では、「発光部16」と表現した場合、第1発光部16aまたは第2発光部16bを示す。なお、上述した長波長側の範囲(600〔nm〕以上1100〔nm〕以下)および短波長側の範囲(400〔nm〕以上480〔nm〕以下)は、発明者等が鋭意努力してそれぞれ特定した。
【0022】
発光部16は、軟質部13の周囲に配置され、少なくとも軟質部13の上面を照射する構成である。例えば、発光部16は、軟質部13の周囲に所定の間隔で円環状に配置される。具体的には、3個の発光部16が用いられる場合、各発光部16は、
図3に示すように、約120度間隔で円環状に軟質部13の周囲に配置される。発光部16は、軟質部13の上面を照射するように、軟質部13の中心に向かって所定角度だけ傾いて配置されてもよい。なお、発光部16の個数や配置される位置や角度などは、適宜変更することができる。
【0023】
このようにして、医療器具10は、発光部16が軟質部13の周囲に配置されることにより、少なくとも軟質部13の上面を照射することができ、軟質部13の上面に対して後述するように感染症抑制を図ることができる。
【0024】
また、発光部16は、容器12の胴部12bの周囲または底部12cの周囲に配置され、少なくとも容器12の内部および軟質部13を照射する構成でもよい。
図4は、医療器具10の側断面を模式的に示す図である。具体的には、
図4は、発光部16が容器12の底部12cの周囲に配置される例を模式的に示している。
【0025】
このようにして、医療器具10は、発光部16が容器12の胴部12bの周囲または底部12cの周囲に配置されることにより、少なくとも容器12の内部および軟質部13を照射することができ、容器12の内部および軟質部13に対する感染症抑制を図ることができる。
【0026】
図2では、発光部16による照射部位(範囲)A1が、皮膚下部(軟質部13の表面)のみを対象としているように模式的に示しているが、発光部16による照射部位(範囲)は、この領域に限定されない。詳細な構成については後述するが、発光部16が配置される位置、角度、および発光部16の個数などを変更することにより、様々な部位を照射することができる。様々な部位とは、皮膚下部(軟質部13の表面)のみを含めて、例えば、以下の部位が考えられる。
1.皮膚全層(表皮、真皮を含む)のみ
2.皮膚全層および皮膚下部(軟質部13の表面)
3.皮膚全層および軟質部13の全層
4.皮膚全層、軟質部13の全層、容器12の全層(容器12の全体)
5.皮膚全層、軟質部13の全層、容器12の全層、注入部14の全体
【0027】
また、第1発光部16aから出射される光の放射照射量(radiant exposure)E1の範囲は、人体への影響と作業効率の観点から、照射対象部位において、例えば、1.0~60.0〔J/cm2〕とすることができる。ここで、放射照射量について説明する。放射照射量Eは、(1)式に示すように、照明(照射)の放射照度(irradiance)Iと、照射時間tとにより算出される。放射照度とは、単位面積当りに入射する放射束(radiant flux)をいう。
E〔J/cm2〕=I〔W/cm2〕×t〔s〕 ・・・(1)
【0028】
例えば、放射照度Iが「4.5×10-3〔W/cm2〕」、照射時間tが約「1100〔s〕」の場合、放射照射量E1は、「4.95〔J/cm2〕」である。また、放射照度Iが「10×10-3〔W/cm2〕」、照射時間tが約「550〔s〕」の場合、放射照射量E1は、「5.5〔J/cm2〕」である。なお、放射照度Iの範囲は、4~500〔mW/cm2〕とすることができる。放射照度Iは、例えば、分光放射照度計(JIS C 1609-1:2006 一般形AA級照度計)を用いて測定することができる。
【0029】
また、放射照射量E1の範囲は、1.0~60.0〔J/cm2〕とすることができ、好ましくは、1.0~20.0〔J/cm2〕であり、さらに好ましくは、2.0~8.8〔J/cm2〕である。
【0030】
また、第1発光部16aは、中心波長が620〔nm〕、660〔nm〕、680〔nm〕、760〔nm〕または820〔nm〕の波長の光を出射する構成である。なお、中心波長がX±10〔nm〕の範囲である場合、中心波長はX〔nm〕とみなすことができる。また、上述した中心波長は、一例であり、この波長に限定されない。
【0031】
また、第2発光部16bから出射される光の放射照射量E2の範囲は、照射対象部位において、32~125〔J/cm2〕とすることができる。具体的には、例えば、放射照射量E2は、125〔J/cm2〕であり、好ましくは、62〔J/cm2〕であり、さらに好ましくは、32〔J/cm2〕である。
【0032】
例えば、放射照度Iが「8.74×10-3〔W/cm2〕」、照射時間tが約「3600〔s〕」の場合、放射照射量E2は、「31.46〔J/cm2〕」である。また、放射照度Iが「8.6×10-3〔W/cm2〕」、照射時間tが約「7200〔s〕」の場合、放射照射量E2は、「61.92〔J/cm2〕」である。なお、放射照度Iの範囲は、7~12〔mW/cm2〕とすることができる。
【0033】
ここで、第1発光部16aから出射される光の効果(感染症抑制)について説明する。赤色領域または近赤外領域の光を、生体に熱作用が生じ無い程度の放射照度および放射照射量で照射したときに生じる生体効果をPhotobiomodulation(PBM)と呼ぶ。PBMでは、照射光は、細胞の呼吸代謝機構内の酵素に吸収されると言われ、細胞、生体組織の状況によって種々の効果が発現する。
【0034】
また、PBMを行うことにより、感染した創の治癒や抗炎症作用(anti-inflammatory effect)などの種々の効果が報告されている。これらは、代表的なPBM効果として知られている。本明細書では、これらの効果をまとめて、感染症抑制と称する。また、PBM照射条件およびメカニズムについては、以下の論文が参酌される。
T Walski et al.,“The effect of red-to-near-infrared(R/NIR) irradiation on inflammatory processes,”Int J Rad Biol,Vol.95,No.9,p.1326-1336,2019.)
【0035】
つぎに、第2発光部16bから出射される光の効果(感染症抑制)について説明する。光(青色光)の照射により、病原微生物(黄色ブドウ球菌など)の除菌に効果があることが、以下の論文に報告されている。
Yucheng Wang, Ying Wang,Yuguang Wang,Clinton K.Murray,Michael R.Hamblin,David C.Hooper,Tianhong Dai、“Antimicrobial blue light inactivation of pathogenic microbes”,Drug Resistance Updates Vol. 33-35, P. 1-22 (2017).
【0036】
また、生体組織での有効深度(距離)は、1〔mm〕未満であると考えられる。よって、第2発光部16bは、(照射表面以外の)生体組織の除菌には向かず、容器12の表面や注入部14の表面などの除菌や、透明な部分の除菌などに用いることが考えられる。
【0037】
(送電装置について)
送電装置20の構成と動作について説明する。送電装置20は、所定の電力を伝送する。送電装置20は、第2コイル21と電源部22とを備える。第2コイル21は、所定径(例えば、後述する軟質部の外径程度)の円環状をなし、電源部22から供給された電力に応じた磁束を発生する。医療器具10の受電部15は、送電装置20から送電された電力を受電する構成である。
【0038】
(受電部について)
受電部15は、
図2に示すように、第1コイル15aと、受電回路15bとで構成される。第1コイル15aは、送電装置20から送電された電力を受電する。受電回路15bは、第1コイル15aにおいて発生した電力(誘導起電力)を利用して、発光部16を発光させる。
【0039】
発光部16が1個で構成される例を示しているが、発光部16の数は1個に限定されず、2個以上でもよい。
【0040】
また、
図2では、発光部16と受電部15とが一組で構成される例を示しているが、発光部16と、受電部15とは一組で構成されなくてもよい。
図5は、1個の受電部15と、2個の発光部16_1、16_2で構成される例を示す図である。受電部15は、軟質部13の周辺に配置される。軟質部13の周辺とは、軟質部13が配置されている近くの本体部11の内部または表面である。このようにして、受電部15が軟質部13の周辺に配置されることにより、医療器具10が体内に植え込まれたときに、皮膚B2に近い場所に受電部15が位置するので、受電部15は、送電装置20から送電された電力を感度よく受電することができる。
【0041】
また、発光部16_1は、容器12の胴部12bの周囲に配置される。発光部16_2は、容器12の底部12cの周囲に配置される。なお、発光部16_1、16_2の配置される位置は、上述以外でもよい。
【0042】
このような構成の場合、医療器具10は、受電部15により受電した電力により、発光部16_1と発光部16_2をそれぞれ発光させるので、様々な領域(例えば、軟質部13の全層および容器12の全層など)を照射でき、様々な領域に対する感染症抑制を図ることができる。なお、受電部15は、発光部16_1と発光部16_2とを同時に発光させてもよいし、時間差をつけて発光させてもよい。また、発光部16_1と発光部16_2とは、同じ中心波長もよいし、異なる中心波長でもよい。例えば、発光部16_1は、第1発光部16aであり、発光部16_2は、第2発光部16bであってもよい。また、発光部16_1は、第2発光部16bであり、発光部16_2は、第1発光部16aであってもよい。
【0043】
また、医療器具10は、所定の時期(例えば、注射針31により薬液を容器12に注入する前などの時期)に送電装置20から送電された電力により発光部16を発光させ、その光により所定箇所(例えば、軟質部13の上面)を照射することにより、照射箇所について抗炎症作用による感染症抑制を図ることができる。
【0044】
(抗炎症作用の原理について)
ここで、抗炎症作用の原理について説明する。感染に関する最も一般的な細菌である黄色ブドウ球菌に対して、生体内で所定の波長(例えば、660〔nm〕)の光を用いたPBMを行うことによって、黄色ブドウ球菌の増殖抑制効果があること報告されている。黄色ブドウ球菌の呼吸代謝を抑制するとともに、生体内の細菌排除を行う好中球の貪食、殺菌作用を亢進する効果があると考えられている。
【0045】
好中球は、一般的に、細菌を貪食して取り込み、ROS、H2O2などをNADPH酸化酵素の働きで産生して殺菌する。さらに産生したH2O2と塩酸イオンから次亜塩素酸を発生させ殺菌する。
【0046】
[機構1]660〔nm〕の波長の光を用いたPBMによって、好中球からの酸化物放出が増加する。よって、好中球の殺菌効果が亢進する。
【0047】
[機構2]PBMを行うと、黄色ブドウ球菌の呼吸代謝経路に影響を与えて、活性を低下させる。この結果、黄色ブドウ球菌は酸化ストレスに弱くなる。よって、上記の好中球の出すROS、H2O2の効果が高まる。
【0048】
黄色ブドウ球菌の呼吸経路の最終酵素二種を(別法で)不活性化すると、PBMと同様の酸化耐性低下が見られ、さらにその状態でPBMを追加してもそれ以上効果は高まらない。
【0049】
以上より、660〔nm〕の波長の光を照射することにより、黄色ブドウ球菌の呼吸代謝が阻害され、酸化耐性になると考えられる。
【0050】
ここで、細菌に感染したラットの傷口に対して、685〔nm〕の波長の光を用いたPBMを行ったところ、抗炎症作用を確認した旨が下記論文にて報告されている。
Acta Cir▲u▼rgica Brasileira, Vol. 31, No. 8, P. 489-504 (2016).
【0051】
また、660〔nm〕の波長の光を用いたPBMを行ことにより、好中球からの酸化物放出を増加させ、貪食能力を亢進させることを確認した旨が下記論文に報告されている。
Journal of Biomedical Optics, Vol. 9, No. 11-12, P. 1180-1188 (2016).
【0052】
また、660〔nm〕の波長の光を用いたPBMにより、黄色ブドウ球菌の酸化耐性を低下させる効果があることを確認した旨が下記論文に報告されている。
Oxidative Medicine and Cellular Longevity, Vol. 2018, ID 6510519 (11pages) (2018).
【0053】
上述のように、赤色光によるPBMは、好中球(血液成分)が抗炎症作用(除菌)を起こすと言える。なお、好中球が無い場所では、PBMで黄色ブドウ球菌の好気性代謝が阻害されるが、これだけでも増殖が抑制されるという効果の報告がある(例えば、下記論文)。
Lasers in Medical Science, Vol. 31, No. 3, P. 549-556 (2016).
【0054】
また、好中球が存在しない環境での積極的な除菌は、青色光(例えば、465〔nm〕の波長の光)を照射することが効果的とする報告もある(例えば、下記論文)。
Lasers in Medical Science, Vol. 34, No. 9, P. 1799-1805 (2019).
Veterinary Dermatology, Vol. 28, No. 9, P. 463-e106 (2017).
【0055】
(マーカー機能について)
また、上述したように、送電装置20(第2コイル21)の近接に応じて、体内に植え込まれている医療器具10発光部16が発光する。この発光は、体外から視認することも可能である。また、この発光している場所には、軟質部13の上面が位置している。
【0056】
よって、注射針31により薬液を容器12に注入するときに、送電装置20を利用して発光部16を発光させることにより、この発光部分を目印にして注射針31を挿通することができる(マーカー機能)。これにより、医療器具10の軟質部13の位置を発光部16の光により確認して、軟質部13に確実に注射針31を挿通することができる。
【0057】
(発光部の第1配置例について)
ここで、発光部16の第1配置例について説明する。
図6は、第1配置例にかかる医療器具10の側断面を模式的に示す図である。なお、
図6では、説明の便宜上、発光部16から出射される光(光線)を模式的に示している。実際には、発光部16から出射される光は、所定の広がり(全放射束)をもって出射される。放射束とは、ある面を単位時間あたりに通過する放射エネルギーを表す光の単位である。全放射束とは、光源である発光部16から全ての方向に放射される光の放射エネルギーの総量をいう。
【0058】
容器12は、全体が樹脂で構成されている。発光部16は、容器12の底部12cの縁の周囲に配置される。具体的には、容器12の底部12cの縁の周囲に120度間隔で3個の発光部16が配置される。発光部16から出射した光が容器12全体で散乱され、軟質部13の下面から入射して、軟質部13を通過して上方へ向かうように、発光部16の取り付け位置や角度が決定される。例えば、容器12の内壁を適切な粗さで形成することにより、発光部16から出射した光を容器12全体に散乱させる構成が考えられる。なお、発光部16の数は、3個に限定されない。
【0059】
このような構成によれば、医療器具10は、軟質部13の全層、容器12の全層および皮膚全層などを発光部16から出射された光で照射することができ、軟質部13の全層、容器12の全層および皮膚全層に対する感染症抑制を図ることができる。また、第1配置例によれば、医療器具10は、発光部16から出射された光が皮膚B2を透過するので、外部から軟質部13の位置を把握させることができ、容器12に薬液を注入する際の注射針31の穿刺作業を補助することができる。
【0060】
(発光部の第2配置例について)
図7は、第2配置例にかかる医療器具の側断面を模式的に示す図である。
図8は、容器12の外観構成を模式的に示す図である。容器12は、全体が金属製で構成されている。また、容器12は、
図7に示すように、底部12cの周囲に約120度間隔で3つの孔部12dが形成されている。なお、孔部12dの数は、3つに限定されない。また、孔部12dは、胴部12bの周囲に形成されてもよい。各孔部12dには、発光部16が配置される。なお、
図8に示す例では、容器12の高さ方向の寸法(すなわち、底部12cから容器12の側面の上端までの高さ)をhとしたとき、孔部12dから底部12cまでの高さは、h/3より小さくなっている。
【0061】
発光部16から出射した光は、金属製の容器12の内部で反射し、軟質部13の下面から軟質部13の全層および皮膚全層などに達する。
【0062】
このような構成によれば、医療器具10は、軟質部13の全層、容器12の全層および皮膚全層などを発光部16から出射された光で照射することができ、軟質部13の全層、容器12の全層および皮膚全層などに対する感染症抑制を図ることができる。また、第2配置例によれば、医療器具10は、発光部16から出射された光が皮膚B2を透過するので、外部から軟質部13の位置を把握させることができ、容器12に薬液を注入する際の注射針31の穿刺作業を補助することができる。また、第2配置例においては、容器12の全体が金属製で構成されているので、容器12の側面から光が漏れず、軟質部13の方向に向かう反射が多くなる。これにより、軟質部13から放出される光強度が強くなるため、穿刺位置で抗炎症作用をより向上させることができるとともに、軟質部13上面側の外部から軟質部13の位置をより正確に把握させることができる。なお、孔部12dは、容器12の底面に設けられていてもよい。この構成の場合、発光部16は、容器12の孔部12dの位置(底面)から上方に向かって光を照射する。また、容器12は、側面のみ金属製で構成され、底面が樹脂で構成されてもよい。
【0063】
(発光部の第3配置例について)
図9は、第3配置例にかかる医療器具10の側断面を模式的に示す図である。容器12は、底部12cが金属製で構成され、底部12c以外の胴部12bが樹脂で構成されている。発光部16は、容器12の底部12cの周囲に配置される。具体的には、容器12の底部12cの周囲に120度間隔で3個の発光部16が配置される。発光部16から出射した光が容器12全体で散乱され、軟質部13の下面から入射して、軟質部13の全層および皮膚全層などに達するように、発光部16の取り付け位置や角度が決定される。また、容器12の内壁を適切な粗さで形成することにより、発光部16から出射した光を容器12全体に散乱させる構成が考えられる。なお、発光部16の数は、3個に限定されない。
【0064】
このような構成によれば、医療器具10は、軟質部13の全層、容器12の全層および皮膚全層などを発光部16から出射された光で照射することができ、軟質部13の全層、容器12の全層および皮膚全層などに対する感染症抑制を図ることができる。また、第3配置例によれば、医療器具10は、発光部16から出射された光が皮膚B2を透過するので、外部から軟質部13の位置を把握させることができ、容器12に薬液を注入する際の注射針31の穿刺作業を補助することができる。
【0065】
(発光部の第4配置例について)
図10は、第4配置例にかかる医療器具10の側断面を模式的に示す図である。
図11は、第4配置にかかる容器12の外観構成を模式的に示す図である。容器12は、全体が金属製で構成されている。また、第4配置例では、孔部12dが形成されている位置が第2配置例と異なっている。具体的には、容器12は、
図11に示すように、胴部12bの中央付近の周囲に約120度間隔で3つの孔部12dが形成されている。なお、孔部12dの数は、3つに限定されない。各孔部12dには、発光部16が配置される。なお、
図11の例では、容器12の高さ方向の寸法をhとしたとき、孔部12dから底部12cまでの高さは、h/3以上であり、かつ、2h/3より小さくなっている。
【0066】
発光部16から出射した光は、金属製の容器12の内部で反射し、軟質部13の下面から軟質部13の全層および皮膚全層などに達する。
【0067】
このような構成によれば、医療器具10は、軟質部13の全層、容器12の全層および皮膚全層などを発光部16から出射された光で照射することができ、軟質部13の全層、容器12の全層および皮膚全層などに対する感染症抑制を図ることができる。また、第4配置例によれば、医療器具10は、発光部16から出射された光が皮膚B2を透過するので、外部から軟質部13の位置を把握させることができ、容器12に薬液を注入する際の注射針31の穿刺作業を補助することができる。また、第4配置例においては、容器12の全体が金属製で構成されているので、容器12の側面から光が漏れず、軟質部13の方向に向かう反射が多くなる。これにより、軟質部13から放出される光強度が強くなるため、穿刺位置で抗炎症作用をより向上させることができるとともに、軟質部13上面側の外部から軟質部13の位置をより正確に把握させることができる。また、容器12は、側面のみ金属製で構成され、底面が樹脂で構成されてもよい。
【0068】
(発光部の第5配置例について)
図12は、第5配置例にかかる医療器具10の側断面を模式的に示す図である。
図13は、第5配置例にかかる容器12の外観構成を模式的に示す図である。容器12は、全体が金属製で構成されている。また、第5配置例では、孔部12dが形成されている位置が第2配置例および第4配置例と異なっている。具体的には、容器12は、
図13に示すように、胴部12bの上部付近の周囲に約120度間隔で3つの孔部12dが形成されている。なお、孔部12dの数は、3つに限定されない。各孔部12dには、発光部16が配置される。なお、発光部16を各孔部12dに配置する際の発光部16の発光面の向き(傾き)は、下向き方向(容器12の底部12cの方向)や水平方向が考えられる。発光部16の発光面の向きが水平方向に配置される場合には、軟質部13に対する光の照射度が向上する利点がある。なお、
図13に示す例では、容器12の縦方向の寸法をhとしたとき、孔部12dから底部12cまでの高さは、2h/3以上であり、かつhより小さくなっている。
【0069】
発光部16から出射した光は、金属製の容器12の内部で反射し、軟質部13の下面から軟質部13の全層および皮膚全層などに達する。
【0070】
このような構成によれば、医療器具10は、軟質部13の全層、容器12の全層および皮膚全層などを発光部16から出射された光で照射することができ、軟質部13の全層、容器12の全層および皮膚全層などに対する感染症抑制を図ることができる。また、第5配置例によれば、医療器具10は、発光部16から出射された光が皮膚B2を透過するので、外部から軟質部13の位置を把握させることができ、容器12に薬液を注入する際の注射針31の穿刺作業を補助することができる。また、第5配置例においては、容器12の全体が金属製で構成されているので、容器12の側面から光が漏れず、軟質部13の方向に向かう反射が多くなる。これにより、軟質部13から放出される光強度が強くなるため、穿刺位置で抗炎症作用をより向上させることができるとともに、軟質部13上面側の外部から軟質部13の位置をより正確に把握させることができる。また、容器12は、側面のみ金属製で構成され、底面が樹脂で構成されてもよい。
【0071】
(発光部の第6配置例について)
図14は、第6配置例にかかる医療器具10の側断面を模式的に示す図である。容器12は、全体が金属製で構成されている。また、第5配置例では、容器12に孔部12dが形成されていない。発光部16は、軟質部13の周囲に約120度間隔で3個配置されている。なお、発光部16の数は、3個に限定されない。
【0072】
発光部16から出射した光は、金属製の容器12の内部で反射し、軟質部13の下面から軟質部13の全層および皮膚全層などに達する。
【0073】
このような構成によれば、医療器具10は、軟質部13の全層、容器12の全層および皮膚全層などを発光部16から出射された光で照射することができ、軟質部13の全層、容器12の全層および皮膚全層などに対する感染症抑制を図ることができる。とくに、第6配置例によれば、医療器具10は、軟質部13への光の照射度を向上することができるので、軟質部13の全層に対する感染症抑制を向上することができる。また、第6配置例によれば、医療器具10は、発光部16から出射された光が皮膚B2を透過するので、外部から軟質部13の位置を把握させることができ、容器12に薬液を注入する際の注射針31の穿刺作業を補助することができる。また、第6配置例においては、発光部16が軟質部13の周囲において軟質部13を照射するように配置されているため、軟質部13によって光が効率的に拡散されることで、抗炎症作用をより向上させることができるとともに、軟質部13上面側の外部から軟質部13の位置をより正確に把握させることができる。
【0074】
(発光部の第7配置例について)
図15は、第7配置例にかかる医療器具10の側断面を模式的に示す図である。容器12は、底部12cが金属製で構成され、底部12c以外の胴部12bが樹脂で構成されている。第7配置例では、発光部16が配置される位置が第3配置例と異なっている。発光部16は、容器12の胴部12bの中央付近の周囲に配置される。具体的には、容器12の胴部12bの中央付近の周囲に120度間隔で3個の発光部16が配置される。発光部16から出射した光が容器12全体で散乱され、軟質部13の下面から入射して、軟質部13の全層および皮膚全層などに達するように、発光部16の取り付け位置や角度が決定される。また、容器12の内壁を適切な粗さで形成することにより、発光部16から出射した光を容器12全体に散乱させる構成が考えられる。なお、発光部16の数は、3個に限定されない。
【0075】
このような構成によれば、医療器具10は、軟質部13の全層、容器12の全層および皮膚全層などを発光部16から出射された光で照射することができ、軟質部13の全層、容器12の全層および皮膚全層などに対する感染症抑制を図ることができる。また、第7配置例によれば、医療器具10は、発光部16から出射された光が皮膚B2を透過するので、外部から軟質部13の位置を把握させることができ、容器12に薬液を注入する際の注射針31の穿刺作業を補助することができる。
【0076】
(発光部の第8配置例について)
図16は、第8配置例にかかる医療器具10の側断面を模式的に示す図である。容器12は、底部12cが金属製で構成され、底部12c以外の胴部12bが樹脂で構成されている。第8配置例では、発光部16が配置される位置が第3配置例および第7実施例と異なっている。発光部16は、容器12の胴部12bの上部付近の周囲に配置される。具体的には、容器12の胴部12bの上部付近の周囲に120度間隔で3個の発光部16が配置される。発光部16から出射した光が容器12全体で散乱され、軟質部13の下面から入射して、軟質部13の全層および皮膚全層などに達するように、発光部16の取り付け位置や角度が決定される。また、容器12の内壁を適切な粗さで形成することにより、発光部16から出射した光を容器12全体に散乱させる構成が考えられる。なお、発光部16の数は、3個に限定されない。
【0077】
このような構成によれば、医療器具10は、軟質部13の全層、容器12の全層および皮膚全層などを発光部16から出射された光で照射することができ、軟質部13の全層、容器12の全層および皮膚全層などに対する感染症抑制を図ることができる。また、第8配置例によれば、医療器具10は、発光部16から出射された光が皮膚B2を透過するので、外部から軟質部13の位置を把握させることができ、容器12に薬液を注入する際の注射針31の穿刺作業を補助することができる。
【0078】
(発光部の第9配置例について)
図17は、第9配置例にかかる医療器具10の側断面を模式的に示す図である。容器12は、全体が樹脂で構成されている。第9配置例では、発光部16が配置される位置と発光部16の個数が第1配置例と異なっている。発光部16は、容器12の底部12cの縁の周囲と、胴部12bの周囲に配置される。具体的には、容器12の胴部12bの縁の周囲に120度間隔で3個の発光部16が配置される。また、容器12の胴部12bの周囲に120度間隔で3個の発光部16が配置される。
【0079】
発光部16から出射した光が容器12全体で散乱され、軟質部13の下面から入射して、軟質部13の全層に達するように、それぞれの発光部16の取り付け位置や角度が決定される。例えば、容器12の内壁を適切な粗さで形成することにより、それぞれの発光部16から出射した光を容器12全体に散乱させる構成が考えられる。なお、発光部16の数は、6個に限定されない。
【0080】
このような構成によれば、医療器具10は、軟質部13の全層、容器12の全層および皮膚全層などを発光部16から出射された光で照射することができ、軟質部13の全層、容器12の全層および皮膚全層に対する感染症抑制を図ることができる。
【0081】
なお、第9配置例では、容器12の全体が樹脂で構成されているものとして説明したが、この構成に限定されず、容器12は、全体が金属製で構成されてもよいし、底部が金属製で構成(底部以外は樹脂で構成)されていてもよい。
【0082】
また、第9配置例によれば、医療器具10は、発光部16から出射された光が皮膚B2を透過するので、外部から軟質部13の位置を把握させることができ、容器12に薬液を注入する際の注射針31の穿刺作業を補助することができる。
【0083】
(発光部の第10配置例について)
図18は、第10配置例にかかる医療器具10の側断面を模式的に示す図である。容器12は、全体が樹脂で構成されている。第10配置例では、発光部16が配置される位置と発光部16の個数が第1配置例および第9配置例と異なっている。発光部16は、容器12の底部12cの縁の周囲と、胴部12bの中央付近の周囲と、胴部12bの上部付近の周囲に配置される。具体的には、容器12の胴部12bの縁の周囲に120度間隔で3個の発光部16が配置される。また、容器12の胴部12bの中央付近の周囲に120度間隔で3個の発光部16が配置される。また、容器12の胴部12bの上部付近の周囲に120度間隔で3個の発光部16が配置される。
【0084】
発光部16から出射した光が容器12全体で散乱され、軟質部13の下面から入射して、軟質部13の全層に達するように、それぞれの発光部16の取り付け位置や角度が決定される。例えば、容器12の内壁を適切な粗さで形成することにより、それぞれの発光部16から出射した光を容器12全体に散乱させる構成が考えられる。なお、発光部16の数は、9個に限定されない。
【0085】
このような構成によれば、医療器具10は、軟質部13の全層、容器12の全層および皮膚全層などを発光部16から出射された光で照射することができ、軟質部13の全層、容器12の全層および皮膚全層に対する感染症抑制を図ることができる。
【0086】
なお、第10配置例では、容器12の全体が樹脂で構成されているものとして説明したが、この構成に限定されず、容器12は、全体が金属製で構成されてもよいし、底部が金属製で構成(底部以外は樹脂で構成)されていてもよい。
【0087】
また、第10配置例によれば、医療器具10は、発光部16から出射された光が皮膚B2を透過するので、外部から軟質部13の位置を把握させることができ、容器12に薬液を注入する際の注射針31の穿刺作業を補助することができる。
【0088】
(発光部の第11配置例について)
図19は、第11配置例にかかる医療器具10の側断面を模式的に示す図である。
図20は、第11配置例にかかる医療器具10の上面を模式的に示す図である。容器12は、全体が樹脂で構成されている。第11配置例では、発光部16が配置される位置が第1配置例と異なっている。発光部16は、12の胴部12bのから本体部11の先端側11aに向かって、生体と接触しない本体部11の内部の任意の位置に配置される。本体部11の先端側11aは、注入部14が形成されていない側である。先端側11aは、他の場所とは異なり、発光部16を自由な位置に配置する余裕がある。
【0089】
例えば、各発光部16は、
図20に示すように、それぞれの中心部(中心軸)が所定の方向を向くように配置される。中心部(中心軸)とは、発光部16が最も強く光る部分のことである。所定の方向とは、容器12の所定の場所(例えば、中心)を通る方向、または、軟質部13の所定の場所(例えば、中心)を通る方向のことである。なお、発光部16の数は、3個に限定されない。
【0090】
また、容器12の内壁を適切な粗さで形成することにより、それぞれの発光部16から出射した光を容器12全体に散乱させる構成が考えられる。
【0091】
このような構成によれば、医療器具10は、軟質部13の全層、容器12の全層および皮膚全層などを発光部16から出射された光で照射することができ、軟質部13の全層、容器12の全層および皮膚全層に対する感染症抑制を図ることができる。また、第11配置例によれば、医療器具10は、発光部16から出射された光が皮膚B2を透過するので、外部から軟質部13の位置を把握させることができ、容器12に薬液を注入する際の注射針31の穿刺作業を補助することができる。
【0092】
(発光部の第12配置例について)
図21は、第12配置例にかかる医療器具10の側断面を模式的に示す図である。
図22は、第12配置例にかかる医療器具10の上面を模式的に示す図である。容器12は、全体が樹脂で構成されている。
【0093】
医療器具10は、光ファイバ17を備える。光ファイバ17は、様々な形状に自由に屈曲することができ、
図21に示すように、軟質部13および容器12の周囲に巻きつけられている。また、光ファイバ17の一端部に発光部16の発光面を結合する。ここで、発光部16と光ファイバ17との結合方法は、低損失な結合であればよく、突き合わせ結合、レンズ結合などがあり、特に限定しない。また、光ファイバ17は、側面方向に発光する素材または構造であり、例えば、拡散光ファイバである。
【0094】
このような構成によれば、医療器具10は、発光部16から出射された光を利用して光ファイバ17全体を発光させるため、軟質部13の全層および容器12の全層などを光ファイバ17からの発光により照射することができ、軟質部13の全層および容器12の全層などに対する感染症抑制を図ることができる。また、第12配置例によれば、医療器具10は、軟質部13の周囲に巻きつけられている光ファイバ17の側面から発せられた光が皮膚B2を透過するので、外部から軟質部13の位置を把握させることができ、容器12に薬液を注入する際の注射針31の穿刺作業を補助することができる。
【0095】
(発光部の第13配置例について)
医療器具10は、マーカー機能に寄与する発光部16cと、感染症抑制に寄与する発光部16dとを備える構成でもよい。以下に、発光部の第13配置例について説明する。
図23は、第13配置例にかかる医療器具10の側断面を模式的に示す図である。
図24は、第13配置例にかかる医療器具10の上面を模式的に示す図である。容器12は、全体が樹脂で構成されている。
【0096】
発光部16cは、軟質部13の周囲に配置される。具体的には、発光部16cは、3個で構成され、軟質部13の周囲に約120度間隔で配置される。なお、発光部16cの個数は、3個に限定されない。
【0097】
発光部16cは、送電装置20(第2コイル21)の近接に応じて発光する。発光部16cから出射された光は、皮膚B2を通して体外から視認することが可能である。三箇所で発光している場所の中心付近には、軟質部13の上面が位置している。よって、第13配置例によれば、医療器具10は、発光部16cから出射された光が皮膚B2を透過するので、外部から軟質部13の位置を把握させることができ、容器12に薬液を注入する際の注射針31の穿刺作業を補助することができる。
【0098】
また、発光部16dは、容器12の底部12cの周囲に配置される。具体的には、発光部16dは、3個で構成され、容器12の底部12cの周囲に約120度間隔で配置される。なお、発光部16dの個数は、3個に限定されない。発光部16dから出射された光は、軟質部13の全層、容器12の全層および皮膚全層などを照射するので、軟質部13の全層、容器12の全層および皮膚全層に対する感染症抑制を図ることができる。
【0099】
よって、第13配置例によれば、医療器具10は、発光部16cと発光部16dを備えることにより、注射針31を穿刺して、容器12に薬液を注入する際のマーカー機能を発揮することができ、また、注射針31を穿刺するときの衛生面などを含めた感染症抑制を図ることができる。
【0100】
また、容器12に薬液を注入する処置は、数分程度で完了するが、感染症抑制を図るための光の照射は、発光部16dから出射される光の中心波長や放射照度の大きさにもよるが、5分~1時間を要する。例えば、医療器具10は、送電装置20から伝送された電力を受電し、感染症抑制のために発光部16dによる発光を開始(感染症抑制の開始)し、所定の時間が経過した後、発光部16cによる発光を行って、軟質部13の位置を特定し、容器12に薬液を注入する処置を行ってもよい。また、医療器具10は、内部に二次電池を備える構成でもよい。医療器具10は、送電装置20から受電した電力を内部の二次電池に充電する。医療器具10は、送電装置20から伝送された電力を受電し、発光部16c、16dを発光し、発光部16dにより感染症抑制を行いながら、発光部16cにより軟質部13の位置を特定し、注射針31を穿刺する。医療器具10は、注射針31の穿刺の終了後に送電装置20から伝送された電力を停止させ、二次電池の電力により発光部16dの発光を継続し、感染症抑制を行う。また、二次電池に充電した後に送電装置20から伝送される電力を停止させる構成でもよい。この構成の場合、医療器具10は、二次電池の電力により発光部16c、16dを発光し、発光部16dにより感染症抑制を行いながら、発光部16cにより軟質部13の位置を特定し、注射針31を穿刺する。よって、医療器具10は、二次電池の電力により発光部16cを発光させながら注射針31を穿刺することができるので、送電装置20が配置されている場所に制限されることなく注射針31を穿刺することができる。
【0101】
また、
図24に示すように、注入部14に光を照射するように、注入部14に対向する位置に発光部16dの一つを配置することが好ましい。
図24中のA2は、発光部16dから出射された光(青色光)の照射部位(範囲)A2を示す。このようにして、医療器具10は、注入部14全体に発光部16dから出射された光(青色光)を照射することにより、カテーテルCの入り口である注入部14に対する感染症抑制を図ることができる。
【0102】
(発光部から照射される光について)
以下では、中心波長が600〔nm〕から1100〔nm〕の光を赤色光と称する。また、中心波長が400〔nm〕から480〔nm〕の光を青色光と称する。
【0103】
皮膚層および軟質部13の上部に赤色光を照射することにより、これらに対する抗炎症作用の効果が期待できる。これは、赤色光による照射は、黄色ブドウ球菌に直接影響を与えるか、または、好中球の作用亢進が考えられるからである。
【0104】
また、軟質部13の内部、容器12、注入部14に赤色光を照射することにより、これらに対する抗菌効果が期待できる。これは、赤色光による照射は、黄色ブドウ球菌に直接影響を与えると考えられるからである。
【0105】
また、軟質部13の内部、容器12、注入部14に青色光を照射することにより、これらに対するより積極的な抗菌効果が期待できる。
【0106】
また、上述では、医療器具10に配置した発光部16からの光の照射について説明したが、この構成(生体B1内から光の照射する構成)に限定されず、生体B1外からも光の照射を行う構成でもよい。
【0107】
以上、本願の実施の形態のいくつかを図面に基づいて詳細に説明したが、これらは例示であり、本発明の開示の欄に記載の態様を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変形、改良を施した他の形態で本発明を実施することが可能である。とくに、上述した、発光部16が配置される位置、発光部16の個数、発光部16の照射時間、発光部16の中心波長などは、一例であり、これに限定されない。
【符号の説明】
【0108】
1 医療装置
10 医療器具
11 本体部
11a 先端側
12a 開口部
12b 胴部
12c 底部
12d 孔部
13 軟質部(セプタム)
14 注入部(カテーテルポート)
15 受電部
15a 第1コイル
15b 受電回路
16,16_1,16_2 発光部
16a 第1発光部
16b 第2発光部
17 光ファイバ
20 送電装置
31 注射針