IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

<>
  • -スパッタ装置 図1
  • -スパッタ装置 図2
  • -スパッタ装置 図3
  • -スパッタ装置 図4
  • -スパッタ装置 図5
  • -スパッタ装置 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-27
(45)【発行日】2024-06-04
(54)【発明の名称】スパッタ装置
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/35 20060101AFI20240528BHJP
【FI】
C23C14/35 C
C23C14/35 B
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2021206142
(22)【出願日】2021-12-20
(65)【公開番号】P2023091411
(43)【公開日】2023-06-30
【審査請求日】2022-11-04
(73)【特許権者】
【識別番号】591065413
【氏名又は名称】キヤノントッキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松本 行生
(72)【発明者】
【氏名】内田 敏治
(72)【発明者】
【氏名】菅原 洋紀
(72)【発明者】
【氏名】佐野 愛弓
【審査官】▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/058812(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/028010(WO,A1)
【文献】特開2021-143353(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/35
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板へ向けてスパッタ粒子を飛散するターゲットと、
前記ターゲットからのスパッタ粒子の主飛散方向が前記基板の法線方向から該法線方向と直交する所定方向に角度θだけ傾斜した斜入射方向となるように配置され、前記ターゲットの表面に磁場を形成する磁石と、
前記所定方向に延設されたガイドレールと、該ガイドレールに案内されて前記所定方向に移動可能なスライダと、該スライダに搭載され前記ターゲットを支持する支持台と、を含み、前記ターゲット及び前記磁石を前記基板に対して前記所定方向に往路と復路とで往復するように移動する移動手段と、
前記移動手段による前記ターゲット及び前記磁石の移動の方向が、前記往路における前記移動の方向である往路方向から前記復路における前記移動の方向である復路方向へ変更されたことに応じて、前記主飛散方向が前記往路の際の第一の斜入射方向から前記第一の斜入射方向と前記法線方向に対して反対の方向である、前記復路の際の第二の斜入射方向に変更されるように、前記法線方向に対する前記磁石の向きを切り替える切替手段と、を備える、
ことを特徴とするスパッタ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパッタ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機ELディスプレイ等の製造において、スパッタ装置により基板に成膜を行う技術が知られている。こうしたスパッタ装置として、膜厚の均一化や基板の下地層へのダメージの低減等を行うために、基板に対するスパッタ粒子の主飛散方向を傾斜させたり、ターゲットと基板との間に遮蔽部材を設けたスパッタ装置が知られている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-090083号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
成膜面に凹凸を有する基板では、凹凸の側面へのスパッタ粒子の堆積量が少なくなる傾向にあり、膜厚の均一化の点で改善の余地がある。
【0005】
本発明は、膜厚の均一化を図る技術を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、
基板へ向けてスパッタ粒子を飛散するターゲットと、
前記ターゲットからのスパッタ粒子の主飛散方向が前記基板の法線方向から該法線方向と直交する所定方向に角度θだけ傾斜した斜入射方向となるように配置され、前記ターゲットの表面に磁場を形成する磁石と、
前記所定方向に延設されたガイドレールと、該ガイドレールに案内されて前記所定方向に移動可能なスライダと、該スライダに搭載され前記ターゲットを支持する支持台と、を含み、前記ターゲット及び前記磁石を前記基板に対して前記所定方向に往路と復路とで往復するように移動する移動手段と、
前記移動手段による前記ターゲット及び前記磁石の移動の方向が、前記往路における前記移動の方向である往路方向から前記復路における前記移動の方向である復路方向へ変更されたことに応じて、前記主飛散方向が前記往路の際の第一の斜入射方向から前記第一の斜入射方向と前記法線方向に対して反対の方向である、前記復路の際の第二の斜入射方向に変更されるように、前記法線方向に対する前記磁石の向きを切り替える切替手段と、を備える、
ことを特徴とするスパッタ装置が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、膜厚の均一化を図る技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】(A)及び(B)は本発明の一実施形態に係るスパッタ装置の模式図。
図2】(A)及び(B)は成膜動作の説明図。
図3】(A)及び(B)は本発明の別の実施形態に係るスパッタ装置の模式図。
図4】(A)及び(B)は成膜動作の説明図。
図5】(A)及び(B)は更に別の実施形態に係るスパッタ装置の成膜動作の説明図。
図6】(A)~(C)は平板状ターゲットの例を示す図、(D)は基板と、ターゲットとの相対移動の他の例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。尚、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。実施形態には複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが発明に必須のものとは限らず、また、複数の特徴は任意に組み合わせられてもよい。さらに、添付図面においては、同一若しくは同様の構成に同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0010】
<第一実施形態>
<スパッタ装置の構成>
図1(A)及び図1(B)は本発明の一実施形態に係るスパッタ装置1の模式図であり、図1(A)はスパッタ装置1を側方から見た図、図1(B)はスパッタ装置1を上方から見た図である。各図において矢印Zは上下方向(重力方向)を示し、矢印X及び矢印Yは互いに直交する水平方向を示す。
【0011】
スパッタ装置1は、基板100に対して膜を形成する成膜装置であり、例えば表示装置(フラットパネルディスプレイなど)や薄膜太陽電池、有機光電変換素子(有機薄膜撮像素子)等の電子デバイスや、光学部材等を製造する製造装置に適用可能であり、特に、有機ELパネルを製造する製造装置に適用可能である。有機ELパネルの製造に適用される場合、例えば、基板100の下面には予め有機膜が成膜され、スパッタ装置1は有機膜の上に電極膜をスパッタリングによって成膜する。
【0012】
スパッタ装置1は、箱型の真空チャンバ2を有する。真空チャンバ2は不図示の真空ポンプに接続され、真空ポンプによる排気によって内部空間が減圧可能である。真空チャンバ2の内部空間にはアルゴンなどの不活性ガスがガス供給ユニット3によって供給される。
【0013】
スパッタ装置1は、真空チャンバ2内で基板を搬送する移動ユニット4を備える。移動ユニット4は一対のガイドレール4aと、一対のガイドレール4aに支持されて移動するキャリア5とを備える。各ガイドレール4aはX方向に延設され、一対のガイドレール4aはY方向に離間している。移動ユニット4は、リニアモータや、ボールねじ機構等の駆動機構を有しており、その駆動力によって一対のガイドレール4aに沿ってキャリア5を図1(B)で実線と破線で示すようにX方向に往復させる。実線の位置から破線の位置へ向かう移動の経路を往路と呼び、その反対に破線の位置から実線の位置に向かう移動の経路を復路と呼ぶ。
【0014】
キャリア5は基板100を保持する保持部5aを有している。基板100はゲート2aから真空チャンバ2内に搬送され、キャリア5に保持される。キャリア5の移動によって基板100は、その幅方向をY方向として真空チャンバ2内を水平姿勢でX方向に往復する。往復の過程で、基板100の下面にはターゲット6から飛散するスパッタ粒子が堆積し、成膜される。成膜済みの基板100はゲート2aから真空チャンバ2外へ搬出される。
【0015】
ターゲット6は、本実施形態の場合、Y方向の回転中心線C1の周りに回転自在な回転ターゲットである。ターゲット6は一対の支持台10に支持されている。一方の支持台10にはモータ11が設けられており、ターゲット6はモータ11を駆動源としてモータ11の駆動力によって回転する。
【0016】
ターゲット6は円筒形状を有しており、その内周面にはカソード電極7が設けられており、電圧印加ユニット8により電圧が印加されてカソード電位に維持され、放電する。また、本実施形態のスパッタ装置1はマグネトロンスパッタ装置であり、ターゲット6の内部空間の上部には、ターゲット6の表面に磁場を形成する磁石9が配置されている。
【0017】
磁石9は、Y方向に延びる中心磁石9aと、中心磁石9aを取り囲む周辺磁石9bと、ヨーク9cとを備える。周辺磁石9bは、中心磁石9aと平行にY方向に延びる一対の直線部と、一対の直線部のY方向の両端部をそれぞれ接続する接続部とを有した環状の磁石であり、図1(A)等においては周辺磁石9bの一対の直線部の断面が図示され、図1(B)には磁石9の平面視形状が図示されている。
【0018】
中心磁石9aと周辺磁石9bとは逆極性で、中心磁石9aの着磁方向は中央基準線N0の方向となっている。中央基準線NOは、中心磁石9aの磁極上の幅方向中央部(図1(A)の姿勢ではX方向中央部)を通り、ターゲット6の表面に対して直交方向(ターゲット6の径方向)に延びる直線である。図1(A)の姿勢では、中央基準線NOはZ方向に延び、ターゲット6の回転中心線C1を通る線であり、基板100の搬送面に対して直交している。周辺磁石32の着磁方向は、中心磁石9aと平行に延びており、中心磁石9aと周辺磁石9bの内端とが、ヨーク9cによって連結されている。これにより、ターゲット6の表面近傍の磁場は、中心磁石9aの磁極から、周辺磁石9bの直線部へ向けてループ状に戻る磁力線を有する。この磁場によって、電子が捕捉され、ターゲット6の表面近傍にプラズマを集中させ、スパッタリングの効率が高められる。
【0019】
スパッタ装置1は切替ユニット12を備える。切替ユニット12は、駆動源であるモータ13と、回転軸14とを含む。モータ13は他方の支持台10に内蔵されており、不図示の伝達機構(例えば歯車機構)を介して回転軸14を回転させる。回転軸14は、ターゲット6の回転中心線C1と同軸上でY方向に延設され、一対の支持台10に回転自在に支持されている。磁石9は回転軸14に連結されており、回転軸14の回転によって回動してそのZ‐X平面上での向きが切り替わる。
【0020】
スパッタ装置1は制御ユニット15を備えている。制御ユニット15は、少なくとも一つのプロセッサ、少なくとも一つの記憶デバイス、及び、センサやアクチュエータとのデータの入出力を行うインタフェースを含み、スパッタ装置1を制御する。記憶デバイスは例えばRAM、ROM等のメモリである。プロセッサは記憶デバイスに記憶されたプログラムを実行し、モータ11、13や移動ユニット4の駆動制御等を行う。
【0021】
<成膜動作>
図2(A)及び図2(B)を参照してスパッタ装置1の成膜動作について説明する。基板100を移動ユニット4によって連続的に移動させつつ、ターゲット6からスパッタ粒子Pを基板100へ飛散させて基板100の下面に堆積し、成膜する。図2(A)は基板100の往路移動時の成膜動作を示しており、基板100はX方向(M1方向)に移動される。図2(B)は基板100の復路移動時の成膜動作を示しており、基板100はX方向で逆方向(M2方向)に移動される。成膜中、モータ11が駆動され、ターゲット6は例えば矢印R1方向(時計回り)に連続的に回転(自転)する。
【0022】
図2(A)及び図2(B)に図示されているターゲット6の表面近傍の楕円のループLは、プラズマが集中する部分を模式的に示す。ターゲット6の表面の法線方向の磁束密度成分が零の点からスパッタ粒子が集中的に飛散することが知られている。この点は、中心磁石31と周辺磁石32の直線部の間に位置する。図1(A)のように中央基準線N0が基板100の法線方向Z1(本実施形態の場合、Z方向)を指向している場合で、ターゲット6から放出されるスパッタ粒子が搬送面に堆積するとした場合の単位時間当たりの堆積量である成膜レートの分布は、中央基準線N0付近をピークとして、X方向の一方側、他方側にレートが低下する山形の分布となる。したがって、中央基準線N0の方向をスパッタ粒子の主飛散方向と呼ぶことができる。
【0023】
図2(A)及び図2(B)に示すように成膜面である基板100の下面が凹凸を有する場合、仮に図1(A)のように主飛散方向が基板100の法線方向を指向していると、凹凸の下面の膜厚が厚くなり、凹凸の側面の膜厚が薄くなる傾向にある。本実施形態では、磁石9の向きによって、主飛散方向を基板100の法線方向Z1に対して傾斜した斜入射方向とすることで、凹凸の側面へのスパッタ粒子Pの堆積を促し、膜厚の均一化を図る。
【0024】
図2(A)に示すように、基板100がM1方向に移動する間、主飛散方向が法線方向Z1に対してX方向に+θだけ傾斜した斜入射方向D1となるように切替ユニット12によって磁石9の向きを設定する。これにより、基板100の凹凸の側面のうち、M1方向で前側(図で右側に相当)の側面への成膜が促進される。
【0025】
基板100が往路から復路への切り替え地点に到達すると、図2(B)に示すように、基板100の移動方向がM1方向から反対のM2方向に切り替えられる。また、主飛散方向が法線方向Z1に対してX方向に-θだけ傾斜した斜入射方向D2となるように切替ユニット12によって磁石9の向きを切り替える。図2(A)と図2(B)とでは斜入射方向D1、D2がZ1方向に対して反対の関係にある。基板100がM2方向に移動する間、主飛散方向が法線方向Z1に対してX方向に-θだけ傾斜していることにより、基板100の凹凸の側面のうち、M2方向で前側(図で左側に相当)の側面への成膜が促進される。基板100の往復によって、基板100の凹凸に対してより均一な膜厚を形成できる
このようにして、本実施形態では基板100に対するスパッタ粒子Pの主飛散方向を斜入射方向D1、D2とし、かつ、基板100の移動方向の変更に応じて異なる斜入射方向D1、D2とすることで、凹凸に対してより均一な膜厚を形成できる。なお、本実施形態では、往路の場合の傾斜角度+θと、復路の場合の傾斜角度-θとで角度θを共通としたが、異なっていてもよく、換言すると、斜入射方向D1とD2とが法線方向Z1に対して対称でなくてもよい。
【0026】
<第二実施形態>
図3(A)及び図3(B)は本発明の別の実施形態に係るスパッタ装置1の模式図であり、図3(A)はスパッタ装置1を側方から見た図、図3(B)はスパッタ装置1を上方から見た図である。第二実施形態のスパッタ装置1について、第一実施形態のスパッタ装置1と異なる構成について説明する。
【0027】
本実施形態のスパッタ装置1は遮蔽ユニット16を備える。遮蔽ユニット16は、成膜時に基板100に対するスパッタ粒子の飛散範囲を構造的に規制する防着ユニットである。遮蔽ユニット16はターゲット6を囲むように配置された固定遮蔽部材17と、可動遮蔽部材18とを備える。固定遮蔽部材17は天部に開口部17aが形成された箱状の部材であり、可動遮蔽部材18は開口部17aを部分的に開閉する平板状の部材である。
【0028】
開口部17a及び可動遮蔽部材18は、基板100とターゲット6との間に位置し、ターゲット6から放出されるスパッタ粒子は開口部17aを通過して基板100に到達する。したがって、開口部17aのうち、可動遮蔽部材18に閉鎖されていない部分は飛散許容範囲であり、可動遮蔽部材18に閉鎖されている部分は飛散規制範囲である。
【0029】
可動遮蔽部材18は、X方向にスライド自在に設けられ、その駆動源であるモータ13’の駆動力によって移動する。モータ13’の駆動力は、不図示の伝達機構を介して可動遮蔽部材18に伝達される。伝達機構は例えばボールねじ機構、ラック―ピニオン機構である。モータ13’は切替ユニット12の駆動源を兼ねる。モータ13’の駆動力は不図示の伝達機構を介して回転軸14に伝達される。伝達機構は例えば歯車機構である。
【0030】
本実施形態では、切替ユニット12と遮蔽ユニット16は、モータ13’を駆動源として共用している。共用することで、コストダウンを図ると共に、磁石9の向きの切り替えと、可動遮蔽部材18の移動とを連動することができる。しかし、切替ユニット12と遮蔽ユニット16とで個別に駆動源を設け、これらが独立して作動する構成であってもよい。
【0031】
可動遮蔽部材18は、アノード電位に維持される。カソード電極7のカソード電位は例えば、200V~400V程度である。可動遮蔽部材18をアノード電位(例えばアース電位。真空チャンバ2の壁部と同電位。)に維持することで、スパッタ粒子が可動遮蔽部材18に付着し易くなり、可動遮蔽部材18による基板100に対する飛散範囲の規制効果を向上できる。
【0032】
図4(A)及び図4(B)を参照して本実施形態のスパッタ装置1の成膜動作について説明する。
【0033】
図4(A)に示すように、基板100がM1方向に移動する間、第一実施形態と同様に主飛散方向が斜入射方向D1となるように切替ユニット12によって磁石9の向きを設定する。遮蔽ユニット16の可動遮蔽部材18は、開口部17の一部を覆い、飛散許容範囲17a’を形成する。飛散許容範囲17a’は、開口部17と斜入射方向D1とが交差する部位を含む範囲であり、中央基準線N0に対してM1方向で前側の範囲を狭く、後側の範囲を広くした範囲である。これにより、基板100に対してその法線方向に近い方向で飛散するスパッタ粒子が可動遮蔽部材18に付着し、基板100への到達を妨げることができる。また、基板100の凹凸の側面へのスパッタ粒子の堆積率を増やすことができる。
【0034】
基板100が往路から復路への切り替え地点に到達すると、図4(B)に示すように、基板100の移動方向がM1方向から反対のM2方向に切り替えられる。第一実施形態と同様に、主飛散方向が斜入射方向D2となるように切替ユニット12によって磁石9の向きを切り替える。遮蔽ユニット16は、可動遮蔽部材18を移動することでスパッタ粒子の飛散許容範囲17a’を切り替える。切替ユニット12と遮蔽ユニット16とは駆動源であるモータ13’を共用しているため、モータ13’を駆動することで、切替ユニット12による磁石9の向きの切り替えと遮蔽ユニット16による飛散許容範囲17a’の切り替えとを連動させて同時に行うことができる。
【0035】
切替後の飛散許容範囲17a’は、開口部17と斜入射方向D2とが交差する部位を含む範囲であり、中央基準線N0に対してM2方向で前側の範囲を狭く、後側の範囲を広くした範囲である。これにより、基板100に対してその法線方向に近い方向で飛散するスパッタ粒子が可動遮蔽部材18に付着し、基板100への到達を妨げることができる。基板100の凹凸の側面へのスパッタ粒子の堆積率を増やすことができる。基板100の往復によって、基板100の凹凸に対してより均一な膜厚を形成できる。
【0036】
可動遮蔽部材18は、その移動の前後で法線方向Z1に対して対称な位置に移動する。可動遮蔽部材18の移動の前後で飛散許容範囲17a’は位置が異なるがその大きさは同じである。しかし、可動遮蔽部材18の移動の前後で、飛散許容範囲17a’の大きさが異なってもよいし、法線方向Z1に対して非対称な位置であってもよい。
【0037】
このようにして、本実施形態では基板100に対するスパッタ粒子Pの主飛散方向を斜入射方向D1、D2とし、また、可動遮蔽部材18でスパッタ粒子の飛散範囲を規制し、かつ、基板100の移動方向の変更に応じて異なる斜入射方向D1、D2とし、また、飛散許容範囲17a’を切り替えたことで、凹凸に対してより均一な膜厚を形成できる。
【0038】
<第三実施形態>
第二実施形態では、基板100の移動方向の変更に応じて磁石9の向きを切り替え、スパッタ粒子Pの主飛散方向を切り替えたが、磁石9の向きを固定とし、遮蔽ユニット16による飛散許容範囲17a’の切り替えのみを行ってもよい。図5(A)及び図5(B)は本実施形態における成膜動作の説明図である。
【0039】
本実施形態では、切替ユニット12を設けておらず、磁石9の中央基準線N0はZ方向を指向している。スパッタ粒子の主飛散方向は基板100の法線方向であるが、飛散許容範囲17a’の切り替えによって、基板100に対して法線方向に入射するスパッタ粒子を遮蔽し、斜入射するスパッタ粒子を通過させる。
【0040】
図5(A)に示すように、基板100がM1方向に移動する間、遮蔽ユニット16の可動遮蔽部材18は、開口部17の一部を覆い、飛散許容範囲17a’を形成する。可動遮蔽部材18は、中央基準線N0上を含む、ターゲット6の真上からM1方向前側の範囲を覆っており、飛散許容範囲17a’は中央基準線N0から、M1方向後側に離間した範囲である。飛散許容範囲17a’から斜入射方向D1にスパッタ粒子が飛散し、基板100の下面に堆積する。これにより、基板100の凹凸の側面のうち、M1方向で前側(図で右側に相当)の側面への成膜が促進される。
【0041】
基板100が往路から復路への切り替え地点に到達すると、図5(B)に示すように、基板100の移動方向がM1方向から反対のM2方向に切り替えられる。遮蔽ユニット16は、可動遮蔽部材18を移動することでスパッタ粒子の飛散許容範囲17a’を切り替える。
【0042】
切替後の飛散許容範囲17a’は、可動遮蔽部材18は、中央基準線N0上を含む、ターゲット6の真上からM2方向前側の範囲を覆っており、飛散許容範囲17a’は中央基準線N0から、M2方向後側に離間した範囲である。飛散許容範囲17a’から斜入射方向D2にスパッタ粒子が飛散し、基板100の下面に堆積する。これにより、基板100の凹凸の側面のうち、M2方向で前側(図で左側に相当)の側面への成膜が促進される。
【0043】
可動遮蔽部材18は、その移動の前後で、中央基準線N0に対して対称な位置に移動する。可動遮蔽部材18の移動の前後で飛散許容範囲17a’は位置が異なるがその大きさは同じである。しかし、可動遮蔽部材18の移動の前後で、飛散許容範囲17a’の大きさが異なってもよいし、法線方向Z1に対して非対称な位置であってもよい。
【0044】
このようにして、本実施形態では、可動遮蔽部材18でスパッタ粒子の飛散範囲を規制することで、基板100に対してスパッタ粒子Pを斜入射方向D1、D2に飛散させる。基板100の往復によって、基板100の凹凸に対してより均一な膜厚を形成できる。
【0045】
<第四実施形態>
第一実施形態では、ターゲット6として回転ターゲット6を例示したが、平板ターゲットを用いてもよい。図6(A)はその一例を示す。図示の例では回転ターゲット6に代えて平板ターゲット19が設けられている。磁石9の構成は第一実施形態と基本的に同じである。図6(B)及び図6(C)に例示するように、回転軸14の回転によって、磁石6と共に平板ターゲット19の向きを切り替えることで主飛散方向を切り替えることができる。
【0046】
また、上記各実施形態では、ターゲットの上方の基板にスパッタ粒子を放出する構成を例示したが、ターゲットの下方の基板にスパッタ粒子を放出する構成であってもよい。
【0047】
<第五実施形態>
上記各実施形態では、成膜時に、基板100とターゲット6とを相対的に移動するユニットとして、基板100をX方向に移動する移動ユニット4を例示したが、ターゲット6を移動してもよい。図6(D)はその一例を示す。
【0048】
図示の移動ユニット21は、X方向に延設されたガイドレール22と、ガイドレール22に案内されてX方向に移動可能なスライダ23とを備える。一対の支持台10はスライダ23に搭載されている。移動ユニット21は、リニアモータや、ボールねじ機構等の駆動機構を有しており、その駆動力によって一対のガイドレール22に沿ってスライダ23を実線位置と破線位置との間でX方向に往復させる。基板100は成膜中、その位置が停止されている。スライダ23を移動させつつ、ターゲット6からスパッタ粒子を放出して基板100に対する成膜を行う。
【0049】
ターゲット6の往路方向M11の移動と、復路方向M12との移動とで磁石9の向きを切り替えて主飛散方向を切り替えることができる。
【0050】
第二実施形態や第三実施形態のように遮蔽ユニット16を用いた構成においても、スライダ23に遮蔽ユニット16を搭載することで、成膜中、基板100を停止し、ターゲット6及び遮蔽ユニット16を移動して成膜動作を行うことができる。この場合も往路方向M11の移動と、復路方向M12との移動とで可動遮蔽部材18の位置を変更して飛散許容範囲17a’の位置を切り替えることができる。
【0051】
<他の実施形態>
本発明は、上述の実施形態の1以上の機能を実現するプログラムを、ネットワーク又は記憶媒体を介してシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサがプログラムを読出し実行する処理でも実現可能である。また、1以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC)によっても実現可能である。
【0052】
発明は上記実施形態に制限されるものではなく、発明の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。従って、発明の範囲を公にするために請求項を添付する。
【符号の説明】
【0053】
1 スパッタ装置、6 ターゲット、9 磁石、16 遮蔽ユニット、100 基板
図1
図2
図3
図4
図5
図6