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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-27
(45)【発行日】2024-06-04
(54)【発明の名称】重合体及びセメント混和剤
(51)【国際特許分類】
   C08F 216/18 20060101AFI20240528BHJP
   C08F 220/04 20060101ALI20240528BHJP
   C04B 24/26 20060101ALI20240528BHJP
   C04B 28/04 20060101ALI20240528BHJP
   C07C 33/025 20060101ALI20240528BHJP
   C08F 290/06 20060101ALI20240528BHJP
   C04B 103/30 20060101ALN20240528BHJP
【FI】
C08F216/18
C08F220/04
C04B24/26 B
C04B24/26 E
C04B28/04
C07C33/025
C08F290/06
C04B103:30
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2023101518
(22)【出願日】2023-06-21
(62)【分割の表示】P 2019210381の分割
【原出願日】2019-11-21
(65)【公開番号】P2023134481
(43)【公開日】2023-09-27
【審査請求日】2023-06-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(72)【発明者】
【氏名】▲鶴▼田 拓大
(72)【発明者】
【氏名】細野 貴裕
(72)【発明者】
【氏名】千田 浩介
【審査官】赤澤 高之
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 290/06
C08F 216/12
C08F 220/04
C08G 65/28
C04B 24/26
C04B 28/02
C07C 43/178
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(II)に由来する構造単位及び下記一般式(III)に由来する構造単位を含む重合体。
【化1】
[一般式(II)中、R、R及びRはそれぞれ独立して水素原子又はメチル基を表し、Mは水素原子、一価の金属原子、二価の金属原子及びアンモニウムからなる群より選ばれる少なくとも1つを表す。]
【化2】
[一般式(III)中、R及びRはそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を表し、R及びRはそれぞれ独立して炭素数2~18のアルキレン基を表す。lは0~4の任意の整数を表し、mは1~200の任意の整数を表す。]
【請求項2】
一般式(II)中、Mが水素原子、一価の金属原子及び二価の金属原子からなる群より選ばれる少なくとも1つである、請求項1に記載の重合体。
【請求項3】
一般式(III)中、R及びRが水素原子、R及びRはエチレン基であり、lが2である、請求項1又は2に記載の重合体。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の重合体を含む、セメント混和剤。
【請求項5】
請求項4に記載のセメント混和剤を含む、セメント組成物。
【請求項6】
請求項5に記載のセメント組成物を硬化してなる、コンクリート。
【請求項7】
下記一般式(V)で表される化合物。
【化3】
[一般式(V)中、R及びRはそれぞれ独立して炭素数2~18のアルキレン基を表す。lは0~4の任意の整数を表し、mは1~200の任意の整数を表す。]
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合体並びにセメント混和剤に関する。より詳しくは、セメントペースト、モルタル、コンクリート等のセメント組成物に好適に用いることができる重合体及びこれを含むセメント混和剤に関する。
【背景技術】
【0002】
セメント混和剤はセメントペースト、モルタル、コンクリート等のセメント組成物を減水して流動性を高めるために用いられる。セメント混和剤には減水性能の他、建築物の施工時の作業性や、硬化物の強度・耐久性等の品質も同時に求められるため、現在も各種検討がされている。
【0003】
セメント混和剤として、従来はナフタレン系等の減水剤が使用されていたが、一方で(ポリ)オキシアルキレン鎖を含有するポリカルボン酸系減水剤が提案されている。(ポリ)オキシアルキレン鎖は、その立体反発によりセメント粒子を分散させる分散基として作用するため、セメント組成物の流動性を改善する上で有効である。
【0004】
(ポリ)オキシアルキレン鎖を含有するポリカルボン酸系減水剤として、例えば、メタリルアルコールや3-メチル-3-ブテン-1-オールの水酸基部分に、エチレンオキシド等を作用させて得たポリカルボン酸系減水剤が報告されている(特許文献1及び2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-157761号公報
【文献】特開2014-166948号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記(ポリ)オキシアルキレン鎖を含有するポリカルボン酸系減水剤は、対応する単量体中に1つの(ポリ)オキシアルキレン鎖を有する。しかしながら、セメント混和剤の減水性能やセメント組成物の流動性などの品質を制御する目的で、これらの重合体を用いる場合、(ポリ)オキシアルキレン鎖の含有量は、単量体に含まれる(ポリ)オキシアルキレン基の重合度に依拠するため、この重合度を制御する以外に方法はない。そのため、これら重合体を含むセメント混和剤を用いたセメント組成物の設計・配合の自由度は小さく、セメント組成物の流動性等の性能改善にも限界がある。
【0007】
本発明は前記の課題を鑑みてなされたものであって、セメント混和剤に適した水溶性の重合体、減水性能に優れるセメント混和剤、流動性に優れるセメント組成物、及びセメント組成物を硬化してなるセメントを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意検討した結果、分子中に2以上の(ポリ)オキシアルキレン鎖を有する化合物を単量体とする重合体を用いることにより、セメント混和剤の減水性能を高めることができて、さらにそのセメント減水剤をセメント組成物に用いることにより、セメント組成物の流動性を改善することを見出し、当該知見に基づいてさらに検討を重ねて本発明を完成させた。
【0009】
本発明は、下記[1]~[11]を提供する。
[1]下記一般式(I)に由来する構造単位及び下記一般式(II)に由来する構造単位を含む重合体。
【化1】
[一般式(I)中、R、R、R及びRはそれぞれ独立して水素原子、メチル基又はエチル基を表し、Rは炭素数2~18のアルキレン基を表す。nは0~3の任意の整数を表し、oは1~200の任意の整数を表し、pは1~3の任意の整数を表す。]
【化2】
[一般式(II)中、R、R及びRはそれぞれ独立して水素原子又はメチル基を表し、Mは水素原子、一価の金属原子、二価の金属原子及びアンモニウムからなる群より選ばれる少なくとも1つを表す。]
[2]一般式(II)に由来する構造単位及び下記一般式(III)に由来する構造単位を含む重合体。
【化3】
[一般式(III)中、R及びRはそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を表し、R及びRはそれぞれ独立して炭素数2~18のアルキレン基を表す。lは0~4の任意の整数を表し、mは1~200の任意の整数を表す。]
[3]さらに一般式(III)に由来する構造単位を含む、[1]に記載の重合体。
[4]一般式(II)中、Mが水素原子、一価の金属原子及び二価の金属原子からなる群より選ばれる少なくとも1つである、[1]~[3]のいずれかに記載の重合体。
[5]一般式(I)中、R、R及びRが水素原子であり、Rがメチル基であり、Rがエチレン基であり、nが1であり、pが2又は3である、[1]、[3]、[4]のいずれかに記載の重合体。
[6]一般式(III)中、R及びRが水素原子、R及びRはエチレン基であり、lが2である、[2]~[5]のいずれかに記載の重合体。
[7][1]~[6]のいずれかに記載の重合体を含む、セメント混和剤。
[8][7]に記載のセメント混和剤を含む、セメント組成物。
[9][8]に記載のセメント組成物を硬化してなる、コンクリート。
[10]下記一般式(IV)で表される化合物。
【化4】
[一般式(IV)中、oは1~200の任意の整数を表し、pは2又は3である。]
[11]下記一般式(V)で表される化合物。
【化5】
[一般式(V)中、R及びRはそれぞれ独立して炭素数2~18のアルキレン基を表す。lは0~4の任意の整数を表し、mは1~200の任意の整数を表す。]
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、セメント混和剤に適した水溶性の重合体、減水性能に優れるセメント混和剤、流動性に優れるセメント組成物及びセメント組成物を硬化してなるコンクリートが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[重合体]
本発明は、下記一般式(I)に由来する構造単位及び下記一般式(II)に由来する構造単位を含む重合体であり、この重合体は特に水への溶解性に優れ、セメント組成物に対し優れた混和性を有する。
【0012】
【化6】
【0013】
【化7】
【0014】
一般式(I)中、R、R、R及びRはそれぞれ独立して水素原子、メチル基又はエチル基を表し、Rは炭素数2~18のアルキレン基を表す。nは0~3の任意の整数を表し、oは1~200の任意の整数を表し、pは1~3の任意の整数を表す。
【0015】
一般式(I)において、炭素数2~18のアルキレン基としては、エチレン基、n-プロピレン基、n-ブチレン基、n-ペンチレン基、n-へキシレン基、n-ヘプチレン基、n-オクチレン基、n-ノニレン基、n-デシレン基等の直鎖状のアルキレン基、2-メチルプロピレン基、2-メチルへキシレン基、テトラメチルエチレン基等の分岐鎖状のアルキレン基等が挙げられ、これらは1種又は2種以上を含んでいてもよい。
【0016】
一般式(I)において、oはオキシアルキレン基(RO)の平均付加モル数である。前記平均付加モル数は1~200であり、好ましくは1~80であり、より好ましくは4~70であり、さらに好ましくは4~70であり、特に好ましくは4~60である。oが1未満であると、十分なセメント分散性能が発揮されず好ましくない。一方、oが200を超えると、セメント組成物としたときに粘性が高くなり、取り扱いにくくなる傾向である。なお、本明細書において「平均付加モル数」とは、一般式(I)及び後述する一般式(III)の各成分1モル中において付加しているオキシアルキレン基のモル数の相加平均値を意味する。また、oが2以上の数である場合、一般式(I)におけるROで表されるオキシアルキレン基は同一の化合物中に2個以上必須に存在するが、2個以上の複数のオキシアルキレン基を有する際、それぞれはランダム、ブロック、交互等のいずれの形態を有していてもよい。
【0017】
一般式(I)において、水への溶解性が良好で、重合時の二重結合部分の反応性を保ちつつ1分子で2つのオキシアルキレン基を導入できる観点から、R、R及びRが水素原子であり、Rがメチル基であり、Rがエチレン基であり、nが1であり、pが2又は3であることが好ましい。
【0018】
一般式(I)に由来する構造単位を重合体に導入するためには、下記一般式(IV)で表される化合物を用いることが好ましい。この化合物を用いることにより、容積効率に優れ生産性の向上が可能であり、重合時の二重結合部分の反応性を保ちつつ1分子で2つのオキシアルキレン基を導入できる。
【0019】
【化8】
【0020】
一般式(IV)中、oは1~200の任意の整数を表し、pは2又は3である。
【0021】
一般式(II)中、R、R及びRはそれぞれ独立して水素原子又はメチル基を表し、Mは水素原子、一価の金属原子、二価の金属原子及びアンモニウムからなる群より選ばれる1つを表す。すなわち、一般式(II)はイオン対を形成している。
【0022】
一般式(II)において、一価の金属原子としては、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属原子等が挙げられ、二価金属原子としては、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属原子等が挙げられる。
【0023】
一般式(II)において、アンモニウムは窒素原子を含む分子状の1価の陽イオンであり、水素原子を含んでいてもよい。かかるアンモニウムとしては、例えば、メチルアンモニウム、エチルアンモニウム、ジメチルアンモニウム、ジエチルアンモニウム、トリメチルアンモニウム、トリエチルアンモニウムなどのアルキルアンモニウム;エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、ヒドロキシエチルジイソプロパノールアミン、ジヒドロキシエチルイソプロパノールアミン、テトラキス(2-ヒドロキシプロピル)エチレンジアミン、ペンタキス(2-ヒドロキシプロピル)ジエチレントリアミンなどのアルカノールアンモニウムなどが挙げられる。
【0024】
一般式(II)において、入手容易性の観点から、Mは、水素原子、一価の金属原子及び二価の金属原子からなる群より選ばれる1つであることが好ましく、水素原子又はナトリウムであることがより好ましい。
【0025】
一般式(II)で表される不飽和カルボン酸系単量体の具体例として、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸ナトリウム、メタクリル酸ナトリウム、アクリル酸アンモニウム、メタクリル酸アンモニウム等が挙げられ、これらの2種以上が併用されてもよい。
【0026】
前記不飽和カルボン酸系単量体としては、(メタ)アクリル酸が好ましく用いられ、メタクリル酸が最も好ましく用いられる。これらの化合物は、市販されている化合物を用いてもよい。
【0027】
本発明は、前記一般式(II)に由来する構造単位及び下記一般式(III)に由来する構造単位を含む重合体であり、この重合体は特に水への溶解性に優れ、セメント組成物に対し優れた混和性を有する。
【0028】
【化9】
【0029】
一般式(III)中、R及びRはそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を表し、R及びRはそれぞれ独立して炭素数2~18のアルキレン基を表す。lは0~4の任意の整数を表し、mは1~200の任意の整数を表す。
【0030】
本発明において、一般式(II)の例示と好ましい態様は、前記一般式(I)に由来する構造単位及び下記一般式(II)に由来する構造単位を含む重合体のものと同じである。
【0031】
一般式(III)において、炭素数1~6のアルキルとしては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基が挙げられる。
【0032】
一般式(III)において、炭素数2~18のアルキレン基としては、エチレン基、n-プロピレン基、n-ブチレン基、n-ペンチレン基、n-へキシレン基、n-ヘプチレン基、n-オクチレン基、n-ノニレン基、n-デシレン基等の直鎖状のアルキレン基、2-メチルプロピレン基、2-メチルへキシレン基、テトラメチルエチレン基等の分岐鎖状のアルキレン基等が挙げられ、これらは1種又は2種以上を含んでいてもよい。
【0033】
一般式(III)及び後述する一般式(V)において、mはオキシアルキレン基(RO及びRO)の平均付加モル数である。前記平均付加モル数は1~200の数であり、好ましくは1~80の数であり、より好ましくは4~70の数であり、さらに好ましくは4~70の数であり、よりさらに好ましくは4~60の数である。mが1未満であると、十分なセメント分散性能が発揮されず好ましくない。一方、mが200を超えると、セメント組成物としたときに粘性が高くなり、取り扱いにくくなる傾向である。RO及びROで表されるオキシアルキレン基のそれぞれはランダム付加、ブロック付加、交互付加等のいずれの付加形態を有していてもよい。
【0034】
一般式(III)において、十分な重合性を有し、かつ1分子で2つのオキシアルキレン基を導入する観点から、R及びRは、それぞれ独立して水素原子又は炭素数1~6のアルキル基が好ましく、それぞれ独立して水素原子又は炭素数1~4のアルキル基がより好ましく、それぞれ独立して水素原子又は炭素数1~2のアルキル基がさらに好ましく、水素原子がよりさらに好ましい。
【0035】
一般式(III)において、原料の入手容易性の観点から、R及びRが水素原子、R及びRはエチレン基であり、lが2であることが好ましい。
【0036】
一般式(III)に由来する構造単位を重合体に導入するためには、下記一般式(V)で表される化合物を用いることが好ましい。この化合物を用いることにより、十分な重合性を有しながらも、1分子につき2つのオキシアルキレン基を導入することができ、オキシアルキレン基密度が高い重合体が得られる。
【0037】
【化10】
【0038】
一般式(V)中、R及びRはそれぞれ独立して炭素数2~18のアルキレン基を表す。lは0~4の任意の整数を表し、mは1~200の任意の整数を表す。
【0039】
一般式(I)又は一般式(III)で表される単量体は、種々の方法で製造することができるが、代表的な製造方法は、次に示すとおりである。
2-(1-メチルエテニル)-1,3-プロパンジオールや、3-メチレン-1,5-ペンタンジオール等の炭素数2~10のアルケニル基を有する不飽和ジオール類に、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等のアルカリ触媒や、三フッ化ホウ素、四塩化スズ等の酸触媒の存在下、炭素数2~18のアルキレンオキシドを1~100モル付加することにより、一般式(I)又は一般式(III)で表される単量体を得ることができる。
【0040】
本発明の重合体は、一般式(I)及び(II)に加え、さらに(III)に由来する構造単位を含んでもよい、これらの構造単位を含むことにより、水溶性に優れた重合体が得られる。
【0041】
本発明の重合体は、一般式(I)又は一般式(III)で表される単量体、及び一般式(II)で表される不飽和カルボン酸系単量体を必須として含む成分を共重合して製造することができるが、製造方法としてはこれに限定されない。例えば、不飽和(ポリ)オキシアルキレン鎖を含有する単量体の代わりに、アルキレンオキシドを付加する前の単量体、すなわち2-(1-メチルエテニル)-1,3-プロパンジオール等の不飽和アルコールを用い、これを重合開始剤の存在下で不飽和カルボン酸系単量体と共重合させ、さらに必要に応じ、これらの単量体と共重合可能なその他の単量体を更に共重合させ、その後、アルキレンオキシドを平均1~200モル付加する方法によっても得ることができる。上記共重合反応は、通常の重合開始剤を用いて行うことができ、溶媒中での重合や塊状重合等の方法により行うことができる。
【0042】
上記溶媒中での重合は連続式でも回分式でも行うことが可能で、その際使用される溶媒としては、水;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等の低級アルコール;ベンゼン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、ノルマルヘキサン等の芳香族又は脂肪族炭化水素;酢酸エチル等のエステル化合物;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン化合物が好ましい。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。原料単量体及び得られる重合体の溶解性並びに上記重合体の使用時の溶解性から、水及び炭素原子数1~4の低級アルコールよりなる群から選ばれた少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0043】
水溶液重合を行う場合は、ラジカル重合開始剤として、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩;過酸化水素;2,2′-アゾビス-2-メチルプロピオンアミジン塩酸塩等のアゾアミジン化合物、2,2′-アゾビス-2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン塩酸塩等の環状アゾアミジン化合物、2-カルバモイルアゾイソブチロニトリル等のアゾニトリル化合物等の水溶性アゾ系開始剤等が使用され、この際、亜硫酸水素ナトリウム等のアルカリ金属亜硫酸塩、メタ二亜硫酸塩、次亜燐酸ナトリウム、モール塩等のFe(II)塩、ヒドロキシメタンスルフィン酸ナトリウム二水和物、ヒドロキシルアミン塩酸塩、チオ尿素、L-アスコルビン酸(塩)、エリソルビン酸(塩)等の促進剤を併用することもできる。なお、水溶性の重合開始剤として過酸化水素を用いる場合は、L-アスコルビン酸(塩)等の促進剤と組み合わせて用いることが好ましい。
【0044】
また、低級アルコール、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素、エステル化合物又はケトン化合物を溶媒とする重合には、ベンゾイルパーオキシドやラウロイルパーオキシド等のパーオキシド;クメンハイドロパーオキシド等のハイドロパーオキシド;アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物等が重合開始剤として用いられる。この際アミン化合物等の促進剤を併用することもできる。更に、水-低級アルコール混合溶剤を用いる場合には、上述した種々の重合開始剤又は重合開始剤と促進剤との組み合わせの中から適宜選択して用いることができる。重合温度は、用いる溶媒や重合開始剤により適宜定められるが、通常0~120℃で行われる。
【0045】
上記塊状重合は、重合開始剤としてベンゾイルパーオキシドやラウロイルパーオキシド等のパーオキシド;クメンハイドロパーオキシド等のハイドロパーオキシド;アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物等を用い、50~200℃の温度で行われる。
【0046】
各単量体の反応容器への投入方法は特に限定されず、全量を反応容器に初期に一括投入する方法、全量を反応容器に分割若しくは連続投入する方法、一部を反応容器に初期に投入、残りを反応容器に分割若しくは連続投入する方法のいずれでも構わない。好ましい投入方法として、具体的には、下記の(1)~(4)の方法が挙げられる。
(1)単量体の全部を反応容器に連続投入する方法。
(2)不飽和(ポリ)オキシアルキレン鎖を含有する単量体の全部を反応容器に初期に投入し、その他の単量体の全部を反応容器に連続投入する方法。
(3)不飽和(ポリ)オキシアルキレン鎖を含有する単量体の一部を反応容器に初期に投入し、不飽和(ポリ)オキシアルキレン鎖を含有する単量体の残りとその他の単量体の全部を反応容器に連続投入する方法。
(4)不飽和(ポリ)オキシアルキレン鎖を含有する単量体の一部とその他の単量体の一部を反応容器に初期に投入し、不飽和(ポリ)オキシアルキレン鎖を含有する単量体の残りとその他の単量体の残りをそれぞれ反応容器に交互に数回に分けて分割投入する方法。更に、反応途中で各単量体の反応容器への投入速度を連続的又は段階的に変えることにより各単量体の単位時間当りの投入質量比を連続的又は段階的に変化させて、共重合体中の各構成単位の比率が異なる共重合体の混合物を重合反応中に合成するようにしてもよい。なお、ラジカル重合開始剤は反応容器に初めから仕込んでもよく、反応容器へ滴下してもよく、また目的に応じてこれらを組み合わせてもよい。
【0047】
得られる重合体の分子量調節のために、連鎖移動剤を併用することもできる。連鎖移動剤としては、メルカプトエタノール、チオグリセロール、チオグリコール酸、3-メルカプトプロピオン酸、チオリンゴ酸、2-メルカプトエタンスルホン酸等のチオール系連鎖移動剤;イソプロピルアルコール等の2級アルコール;亜リン酸、次亜リン酸及びその塩(次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カリウム等)、亜硫酸、亜硫酸水素、亜二チオン酸、メタ重亜硫酸及びその塩(亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、亜二チオン酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム等)の低級酸化物及びその塩;等の公知の親水性連鎖移動剤を用いることができる。更に、疎水性連鎖移動剤を用いると、セメント組成物の粘性改善に有効である。疎水性連鎖移動剤としては、ブタンチオール、オクタンチオール、デカンチオール、ドデカンチオール、ヘキサデカンチオール、オクタデカンチオール、シクロヘキシルメルカプタン、チオフェノール、チオグリコール酸オクチル、3-メルカプトプロピオン酸オクチル等の炭素原子数3以上の炭化水素基を有するチオール系連鎖移動剤を用いることが好ましい。2種類以上の連鎖移動剤の併用も可能であり、親水性連鎖移動剤と疎水性連鎖移動剤とを組み合わせて用いてもよい。更に、重合体の分子量調整のためには、上記その他の共重合可能な単量体として、(メタ)アリルスルホン酸(塩)類等の連鎖移動性の高い単量体を用いることも有効である。
【0048】
上記重合において、所定の分子量の重合体を再現性よく得るには、重合反応を安定に進行させることが必要であることから、溶液重合する場合には、使用する溶媒の25℃における溶存酸素濃度を5ppm以下とすることが好ましい。より好ましくは0.01~4ppm 、更に好ましくは0.01~2ppm、最も好ましくは0.01~1ppmである。なお、溶媒に単量体を添加後、窒素置換等を行う場合には、単量体をも含んだ系の溶存酸素濃度を上記範囲内とすることが好ましい。
【0049】
上記溶媒の溶存酸素濃度の調整は、重合反応槽で行ってもよく、予め溶存酸素量を調整したものを用いてもよく、溶媒中の酸素を追い出す方法としては、下記の(1)~(5)の方法が好適である。
(1)溶媒を入れた密閉容器内に窒素等の不活性ガスを加圧充填後、密閉容器内の圧力を下げることで溶媒中の酸素の分圧を低くする。窒素気流下で、密閉容器内の圧力を下げてもよい。
(2)溶媒を入れた容器内の気相部分を窒素等の不活性ガスで置換したまま液相部分を長時間攪拌する。
(3)容器内に入れた溶媒に窒素等の不活性ガスを長時間バブリングする。
(4)溶媒を一旦沸騰させた後、窒素等の不活性ガス雰囲気下で冷却する。
(5)配管の途中に静止型混合機(スタティックミキサー)を設置し、溶媒を重合反応槽に移送する配管内で窒素等の不活性ガスを混合する。
【0050】
上述のようにして得られた各重合体は、そのままセメント混和剤に配合して用いることができるが、必要に応じて、更にアルカリ性物質で中和して用いてもよい。アルカリ性物質としては、一価金属又は二価金属の水酸化物や炭酸塩等の無機塩;アンモニア;有機アミンが好適である。また、反応終了後、必要ならば濃度調整を行うこともできる。なお、不飽和カルボン酸系単量体(一般式(II))を単量体成分として用いずに、対応する不飽和カルボン酸エステル系単量体を用いて共重合反応を行った後、pHを調整することによって、不飽和カルボン酸エステル系単量体に由来する構成単位のエステル結合部分を部分的に加水分解させて、不飽和カルボン酸系単量体に由来する構造(たとえば一般式(II))を重合体に導入することもできる。
【0051】
[セメント混和剤]
本発明のセメント混和剤は、本発明の重合体を含むことにより、減水性能に優れるものとなる。さらに必要に応じて、アルケニル基を有しない非重合性の(ポリ)アルキレングリコールを含有していてもよく、本発明の重合体をアルカリ性物質で中和し、重合体塩として用いてもよい。このようなアルカリ性物質としては、一価金属及び二価金属の水酸化物、塩化物及び炭素塩等の無機物;アンモニア;有機アミン等が好ましいものとして挙げられる。
【0052】
また、本発明の重合体をセメント混和剤として用いる際、重合体の重量平均分子量(Mw)としては、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下、「GPC」という)によるポリスチレン換算で500~500,000、特に5,000~300,000の範囲とすることが好ましい。重量平均分子量が500未満では、セメント混和剤としての減水性能が低下するため好ましくない。一方、重量平均分子量が500,000を超えると、セメント混和剤としての減水性能、スランプロス防止能が低下するために好ましくない。
【0053】
また、本発明の重合体は、単独で、又は2種以上の混合物としてそのままセメント混和剤として使用することができる。また、本発明の重合体を主成分とし、他の公知のセメント混和剤と組み合わせて使用することもできる。このような公知のセメント混和剤としては、例えば従来のセメント分散剤、空気連行剤、セメント湿潤剤、膨張材、防水剤、遅延剤、急結剤、水溶性高分子物質、増粘剤、凝集剤、乾燥収縮低減剤、強度増進剤、硬化促進剤、消泡剤等を挙げることできる。
【0054】
なお、公知のセメント分散剤を用いる場合、本発明の重合体(塩)と公知のセメント分散剤との配合質量比は、それぞれ固形分換算での重量割合(重量%)として、1/99~99/1が好ましく、5/95~95/5がより好ましく、10/90~90/10がさらに好ましい。
【0055】
上記併用する公知のセメント分散剤としては、例えば、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物等のポリアルキルアリールスルホン酸塩系;メラミンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物等のメラミンホルマリン樹脂スルホン酸塩系;アミノアリールスルホン酸-フェノール-ホルムアルデヒド縮合物等の芳香族アミノスルホン酸塩系;リグニンスルホン酸塩、変成リグニンスルホン酸塩等のリグニンスルホン酸塩系;ポリスチレンスルホン酸塩系等の分子中にスルホン酸基を有する各種スルホン酸系分散剤などのセメント分散剤が挙げられる。
【0056】
また、消泡剤としては、以下の(1)~(2)に例示するような公知の消泡剤が好適である。
(1)オキシアルキレン系消泡剤:(ポリ)オキシエチレン(ポリ)オキシプロピレン付加物等のポリオキシアルキレン類;ジエチレングリコールヘプチルエーテル等のポリオキシアルキレンアルキルエーテル類;ポリオキシアルキレンアセチレンエーテル類;(ポリ)オキシアルキレン脂肪酸エステル類;ポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル類;ポリオキシアルキレンアルキル(アリール)エーテル硫酸エステル塩類;ポリオキシアルキレンアルキルリン酸エステル類;ポリオキシプロピレンポリオキシエチレンラウリルアミン(プロピレンオキシド1~20モル付加、エチレンオキシド1~20モル付加物等)、アルキレンオキシドを付加させた硬化牛脂から得られる脂肪酸由来のアミン(プロピレンオキシド1~20モル付加、エチレンオキシド1~20モル付加物等)等のポリオキシアルキレンアルキルアミン類;ポリオキシアルキレンアミド等。
(2)オキシアルキレン系以外の消泡剤:鉱油系、油脂系、脂肪酸系、脂肪酸エステル系、アルコール系、アミド系、リン酸エステル系、金属石鹸系、シリコーン系等の消泡剤。
【0057】
本発明に係るセメント混和剤は、ポルトランドセメント、ビーライト高含有セメント、アルミナセメント、各種混合セメント等の水硬セメント、あるいは、石膏などのセメント以外の水硬材料などに用いることができる。
【0058】
本発明のセメント混和剤は、各種水硬性材料、すなわち、セメントや、石膏等のセメント以外の水硬性材料に用いることができる。そして、水硬性材料と水と本発明のセメント混和剤とを含有し、更に必要に応じて細骨材(砂等)や粗骨材(砕石等)を含む水硬性組成物としては、セメントペースト、モルタル、コンクリート、プラスターが好適である。
【0059】
[セメント組成物]
上記水硬性組成物の中では、水硬性材料としてセメントを使用するセメント組成物が最も一般的であり、そのようなセメント組成物は、本発明のセメント混和剤、セメント及び水を必須成分として含むことになる。このようなセメント組成物もまた、本発明の1つである。
【0060】
本発明のセメント組成物において使用されるセメントとしては、ポルトランドセメント(普通、早強、超早強、中庸熱、耐硫酸塩及びそれぞれの低アルカリ形)、各種混合セメント(高炉セメント、シリカセメント、フライアッシュセメント)、白色ポルトランドセメント、アルミナセメント、超速硬セメント(1クリンカー速硬性セメント、2クリンカー速硬性セメント、リン酸マグネシウムセメント)、グラウト用セメント、油井セメント、低発熱セメント(低発熱型高炉セメント、フライアッシュ混合低発熱型高炉セメント、ビーライト高含有セメント)、超高強度セメント、セメント系固化材、エコセメント(都市ごみ焼却灰、下水汚泥焼却灰の一種以上を原料として製造されたセメント)が好適であり、更に、高炉スラグ、フライアッシュ、シンダーアッシュ、クリンカーアッシュ、ハスクアッシュ、シリカヒューム、シリカ粉末、石灰石粉末等の微粉体や石膏を添加してもよい。また、骨材としては、砂利、砕石、水砕スラグ、再生骨材等以外に、珪石質、粘土質、ジルコン質、ハイアルミナ質、炭化珪素質、黒鉛質、クロム質、クロマグ質、マグネシア質等の耐火骨材が使用可能である。
【0061】
本発明のセメント組成物における、その1mあたりの単位水量、セメント、フライアッシュ及びスラグ(これらを合わせて以降、「B」とも表す。)の合計使用量、並びに、水/B比としては、単位水量100~185kg/m、使用B量250~800kg/m、水/B比(質量比)=0.1~0.7とすることが好ましく、より好ましくは、単位水量120~175kg/m、使用B量270~800kg/m、水/B比(質量比)=0.2~0.65であり、貧配合~富配合まで幅広く使用可能であり、単位B量の多い高強度コンクリート、単位B量が300kg/m以下の貧配合コンクリートのいずれにも有効である。
【0062】
本発明のセメント組成物における本発明のセメント混和剤の配合割合としては、例えば、水硬セメントを用いるモルタルやコンクリート等に使用する場合には、セメント、フライアッシュ及びスラグの合計質量に対して0.01~5.0%とすることが好ましい。この添加により、単位水量の低減、強度の増大、耐久性の向上等の各種の好ましい諸効果がもたらされる。上記配合割合が0.01%未満では性能的に不充分となるおそれがあり、逆に5.0%を超える多量を使用しても、その効果は実質上頭打ちとなり経済性の面からも不利となるおそれがある。より好ましくは0.02%以上であり、また、2.0%以下であり、更に好ましくは0.05%以上であり、また、1.0%以下であり、このような比率の量を添加すればよい。また、配合割合の好適範囲としては、より好ましくは0.02~2.0%であり、更に好ましくは0.05~1.0%である。
【0063】
本発明のセメント混和剤は、従来のセメント分散剤として用いられているものと併用することが可能であり、複数のセメント分散剤との併用も可能である。なお、従来のセメント分散剤を用いる場合、本発明のセメント混和剤と該セメント分散剤との配合質量比は、該セメント分散剤の種類、配合及び試験条件等の違いにより一義的には決められないが、1~99/99~1が好ましく、5~95/95~5がより好ましく、10~90/90~10が更に好ましい。
【0064】
[コンクリート]
本発明のセメント組成物はまた、レディーミクストコンクリート、コンクリート2次製品(プレキャストコンクリート)用のコンクリート、遠心成形コンクリート、振動締め固めコンクリート、蒸気養生コンクリート、吹付けコンクリート等に有効であり、更に、中流動コンクリート(スランプ値が22~25cmのコンクリート)、高流動コンクリート(スランプ値が25cm以上で、スランプフロー値が50~70cmのコンクリート)、自己充填性コンクリート、セルフレベリング材等の高い流動性を要求されるモルタルやコンクリートにも有効である。
【実施例
【0065】
以下に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0066】
製造例、実施例及び比較例で用いた各種材料を以下に示す。
・2-(1-メチルエテニル)-1,3-プロパンジオール:純度91%、J.AM.CHEM.Soc.,104,555(1984)に記載の製造方法などで製造することができる。
・3-メチレン-1,5-ペンタンジオール:純度95%、国際公開2018/143104号に記載の製造方法などにより製造することができる。
・3-メチル-3-ブテン-1-オール:株式会社クラレ製、純度98%
・エチレンオキシド:株式会社日本触媒製
・水酸化ナトリウム:和光純薬株式会社製
・過酸化水素水溶液:和光純薬株式会社製
・アクリル酸:和光純薬株式会社製
・L-アスコルビン酸:和光純薬株式会社製
・3-メルカプトプロピオン酸:東京化成工業株式会社製
【0067】
各例において、H-NMR、GPC、HPLC分析は以下の条件にて実施した。
[GPC分析条件]
分析機器:GPC-8020(東ソー株式会社製)
検出器:RI-8020(東ソー株式会社製)
使用カラム:Shodex GPC KF-802、KF-802.5、KF-803L、KF-G(ガードカラム)(昭和電工株式会社製)
分析条件
展開液:THF
流量:0.9mL/min
カラム温度:40℃
サンプル注入量:30μL
解析:GPC-modelII(東ソー株式会社製)
H-NMR分析]
分析機器:ULTRA SHIELD 400 PLUS(Bruker社製)
溶媒:重クロロホルム
室温下、積算回数120回
オキシアルキレン基の付加数:
製造した単量体のうち、不飽和アルコールとオキシアルキレン基に由来する各成分の積分比からモル比を求め、各成分の分子量をもとに質量比に換算することにより、オキシアルキレンの付加数を求めた。
[HPLC分析]
分析機器:Nexera X2(株式会社島津製作所製)
使用カラム:Mightysil RP-18(長さ250mm、内径4.6mm、粒子径5μm)(関東化学株式会社製)
検出器:SPD-M30A(株式会社島津製作所製)
展開液:水600g、メタノール400g、リン酸0.8gを混合した溶液
分析条件:流量1.0mL/min
カラム温度:40℃
サンプル注入量:100μL
【0068】
[製造例1](I-A)
温度計、攪拌機、窒素及びエチレンオキシド導入管を備えたSUS製高圧反応器に、不飽和アルコールとして(2-(1-メチルエテニル)-1,3-プロパンジオール)30g、触媒として水酸化ナトリウム0.5gを仕込み、攪拌下で反応容器内を窒素置換し、内温100℃に昇温した。その後、100℃を保持したままエチレンオキシド910gを6時間かけて反応器内に導入し、その後2時間加熱攪拌を行った後、反応を終了し、下記式(I-A)で表される単量体を得た。H-NMRの測定結果を以下に示す。
【0069】
【化11】
【0070】
H NMR(400MHz、CDCl)δ1.8ppm(CH=C(C )-)、2.6ppm(CH=C(CH)C-)、3.5~3.9ppm(オキシアルキレン基)、4.8~4.9ppm(C =C(CH)-)。3.5~3.9ppmと4.8~4.9ppmの位置の積分比を取ると312となる。オキシアルキレン基は4プロトン分、OH鎖が2つ存在することから、原料の不飽和アルコールに平均80モルのエチレンオキシドが付加していた。
【0071】
[製造例2](III-A)
不飽和アルコールとして2-(1-メチルエテニル)-1,3-プロパンジオールの代わりに3-メチレン-1,5-ペンタンジオール30gを使用したこと、触媒として水酸化ナトリウムの使用量を0.3g、エチレンオキシドの使用量を600gに変更した以外は、製造例1と同様の手順にて、下記(III-A)で表される単量体を得た。
【0072】
【化12】
【0073】
H NMR(400MHz、CDCl)δ2.4ppm(CH=C(C -)-)、3.5~3.9ppm(オキシアルキレン基)、4.8ppm(C =C(CH-)。3.5~3.9ppmと4.8ppmの位置の積分比を取ると209となる。オキシアルキレン基は4プロトン分、OH鎖が2つ存在することから、原料の不飽和アルコール一分子に対し、平均50モルのエチレンオキシドが付加していた。
【0074】
[製造例3]
不飽和アルコールとして3-メチル-3-ブテン-1-オール50g、触媒として水酸化ナトリウムを0.7g、エチレンオキシドを1304g使用した以外は、製造例1と同様の手順にて、下記(IV-A)で表される単量体を得た。
【0075】
【化13】
【0076】
H NMR(400MHz、CDCl)δ1.8ppm(CH=C(C )-)、2.4ppm(CH=C(CH)C -)、3.5~3.9ppm(オキシアルキレン基)、4.7~4.8ppm(C =C(CH-)。3.5~3.9ppmと4.7~4.8ppmの位置の積分比を取ると202となる。オキシアルキレン基は4プロトン分、OH鎖が1つ存在することから、これらの積分比から、原料の不飽和アルコールに平均50モルのエチレンオキシドが付加していた。
【0077】
製造例1~製造例3で得た単量体の25℃及び50℃における性状と水への溶解性を評価した。結果を表1に示す。
【0078】
【表1】
【0079】
表1から製造例1又は製造例2で得た単量体は、製造例3で得た単量体と比べて、25℃における水への溶解量が多く、50℃においては任意の割合で水と混合することがわかる。この結果から、製造例1又は製造例2の単量体を用いた重合体は、従来使用されていた製造例3の単量体を用いた重合体よりも、水への溶解性に優れることが容易に推測できる。したがって、これら水への溶解性に優れる重合体をセメント混和剤として用いることにより、セメント混和剤を作成する際の水量を減らすことができ、このセメント混和剤を用いたセメント組成物は容積効率に優れ、生産性が高いことが示唆される。
【0080】
続いて、製造例1、製造例2及び製造例3を参考にして得た単量体を用いて重合体を製造し、得られた重合体をセメント混和剤として評価した。なお、条件を揃えるために、各実施例のイオン交換水は同量とした。
【0081】
[実施例1]
温度計、撹拌機、滴下ロート、窒素導入管及び還流冷却器を備えたガラス製反応容器を窒素置換し、イオン交換水29.3g、製造例1で得た単量体98.7gを仕込み、60℃に昇温する。そこへ4%過酸化水素水溶液4.8gを加えた。次に、アクリル酸8.2gをイオン交換水1.6gで希釈した水溶液を4時間かけて滴下した。同時に、イオン交換水31.8gにL-アスコルビン酸0.12g及び3-メルカプトプロピオン酸0.12gを溶解させた水溶液を4.5時間かけて滴下した。滴下終了後、1時間攪拌を続け重合反応を終了した。その後、重合反応温度以下の温度で、水酸化ナトリウム30%水溶液を用いて反応溶液をpH6.5に中和し、重量平均分子量(Mw)が30000のポリカルボン酸系共重合体の水溶液を得た。HPLC分析により、この時の単量体の転化率は47%、アクリル酸転化率は99.9%以上であった。得られた水溶液は、有効成分濃度が10.0%となるように希釈水を加えて調整した。
ここで、上記有効成分濃度とは、重合性モノマーである不飽和カルボン酸系単量体と製造例の単量体の各々の反応率を用いて算出される有効成分割合に固形分をかけた値であり、下記式で定義される値とする。下記の単量体の使用量とは、重合の際に用いた各単量体の使用量である。また、固形分とは実施例で得たポリカルボン酸系共重合体の水溶液を減圧留去し乾燥させたものである。
有効成分濃度=[(a+b)/(A+B)]×NV
上記式中の略号は以下の通りである。
A:不飽和カルボン酸系単量体の使用量
B:製造例の単量体の使用量
a:不飽和カルボン酸系単量体の使用量×転化率
b:製造例の単量体の使用量×転化率
NV:固形分
【0082】
[実施例2]
製造例1で得た単量体98.7gの代わりに、2-(1-メチルエテニル)-1,3-プロパンジオール1モルに対し、平均100モルのエチレンオキシドが付加した単量体(すなわち、製造例2の単量体に対し、2倍量のエチレンオキシドを含む単量体)98.7gを用いた以外は、実施例1と同様にして、重量平均分子量(Mw)が26700のポリカルボン酸系共重合体の水溶液を得た。HPLC分析により、この時の単量体の転化率は49%、アクリル酸転化率は99.9%以上であった。得られた水溶液は、有効成分濃度が10.0%となるように希釈水を加えて調整した。
【0083】
[比較例1]
製造例1で得た単量体98.7gの代わりに、製造例3で得た単量体98.7gを用いた以外は、実施例1と同様にして、重量平均分子量(Mw)が25500のポリカルボン酸系共重合体の水溶液を得た。HPLC分析により、この時の単量体の転化率は58%、アクリル酸転化率は99.9%以上であった。得られた水溶液は、有効成分濃度が10.0%となるように希釈水を加えて調整した。
【0084】
次に、実施例1、実施例2並びに比較例1で製造した共重合体の水溶液を用いて、セメント混和剤(Ad)を調整し、このセメント混和剤を用いたセメントの物性測定を行った。
【0085】
セメント(C)は、太平洋セメント株式会社製普通ポルトランドセメント(密度 3.16g/cm)を使用した。細骨材(S)は、静岡県大井川水系陸砂(表乾密度 2.66g/cm)を使用した。粗骨材(G)は、東京都青梅市産砂岩砕石2005(表乾密度 2.66g/cm)を使用した。練混ぜ水(W)は、神奈川県茅ケ崎市上水道水を使用した。試験に使用した骨材は、細骨材の表面水率を1%以下に、粗骨材が表面乾燥飽水状態となるよう調整した。なお、使用する材料は全て20℃の恒温恒湿室で保管し、使用直前に取り出して使用した。スランプフローは、JIS A 1150:2014「コンクリートのスランプフロー試験方法」によった。スランプは、JIS A 1101:2014「コンクリートのスランプ試験方法」によった。
コンクリートの練混ぜは、容量55Lの強制練りミキサパン形を用い、下記に示す手順によって行った。なお、コンクリートの練混ぜ量は30Lとした。
細骨材(半分量)、セメント、細骨材(半分量)を加え10秒後空練後、水、混和剤を添加する。練混ぜを30秒行い掻き落とし、粗骨材を加えさらに練混ぜ90秒行った後、排出・測定した。
【0086】
コンクリートの配合比率を下記に示した。
【表2】
【0087】
60分後のフロー値を、初期0分でのフロー値で割った値として定義される保持率を指標とし、保持性を下記評価基準に基づいて評価した。保持率の値が高いほど保持性に優れることを意味する。
保持性評価基準
評価A:保持率が50%以上
評価X:保持率が25%以上50%未満
【0088】
【表3】
【0089】
実施例3及び実施例4は従来のセメント混和剤である比較例2と比較して、フロー保持率として高い値を示すことが分かる。