(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-28
(45)【発行日】2024-06-05
(54)【発明の名称】カーボンナノファイバ糸神経足場
(51)【国際特許分類】
A61F 2/02 20060101AFI20240529BHJP
A61L 27/08 20060101ALI20240529BHJP
A61L 27/44 20060101ALI20240529BHJP
【FI】
A61F2/02
A61L27/08
A61L27/44 100
(21)【出願番号】P 2020549666
(86)(22)【出願日】2019-03-15
(86)【国際出願番号】 US2019022515
(87)【国際公開番号】W WO2019178504
(87)【国際公開日】2019-09-19
【審査請求日】2022-03-11
(32)【優先日】2018-03-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2018-11-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】519164079
【氏名又は名称】リンテック・オヴ・アメリカ,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100170379
【氏名又は名称】徳本 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100180231
【氏名又は名称】水島 亜希子
(74)【代理人】
【氏名又は名称】有原 幸一
(73)【特許権者】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【氏名又は名称】森本 聡二
(72)【発明者】
【氏名】兒玉 祥
(72)【発明者】
【氏名】石川 正和
(72)【発明者】
【氏名】リマ,マルシオ・ディー
【審査官】沼田 規好
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2012/0221025(US,A1)
【文献】特開2004-243125(JP,A)
【文献】国際公開第2016/192733(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2015-0007576(KR,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0028204(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2017-0132994(KR,A)
【文献】中国特許出願公開第103127548(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第104739473(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/02
A61L 27/08
A61L 27/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の端部と、前記第1の端部の反対側の第2の端部とを有する管であって、この管は、第1の直径を有する内部領域を規定し、生体適合性材料を含む、管と、
前記管の前記内部領域の中に配置され、前記管の前記第1の端部から前記管の前記第2の端部に延びるナノファイバ糸の束と
備える神経足場であって、
前記ナノファイバ糸の束の複数のナノファイバ糸が、隣り合ったナノファイバ糸間に、複数の間質スペースを規定し、これら複数の間質スペースが、前記管の前記第1の端部から前記管の前記第2の端部までの少なくとも1つの連続した経路を形成
し、
前記ナノファイバ糸が仮撚りナノファイバ糸であ
り、
前記ナノファイバ糸がカーボンナノチューブから構成されている、神経足場。
【請求項2】
前記ナノファイバ糸がシングルプライの仮撚りナノファイバ糸である、請求項1に記載の神経足場。
【請求項3】
前記ナノファイバ糸の表面が、前記ナノファイバ糸の表面の上または下に1μmより大きい表面トポグラフィ特徴を有するものではない、請求項1に記載の神経足場。
【請求項4】
前記ナノファイバ糸の表面が、前記ナノファイバ糸の表面の上または下に0.1μm未満の表面トポグラフィ特徴を有する、請求項1に記載の神経足場。
【請求項5】
前記複数の間質スペースにおける間質スペースを規定する隣り合ったナノファイバ糸間の平均距離が、5μm~15μmである、請求項1に記載の神経足場。
【請求項6】
前記複数の間質スペースにおける間質スペースを規定する隣り合ったナノファイバ糸間の平均距離が、5μm~12μmである、請求項1に記載の神経足場。
【請求項7】
前記複数のナノファイバ糸の質量が、前記神経足場の総質量の2質量%~10質量%である、請求項1に記載の神経足場。
【請求項8】
前記複数のナノファイバ糸の質量が、前記神経足場の総質量の5質量%~20質量%である、請求項1に記載の神経足場。
【請求項9】
前記複数のナノファイバ糸の質量が、前記神経足場の総質量の15質量%~60質量%である、請求項1に記載の神経足場。
【請求項10】
前記複数のナノファイバ糸が、1000~8000のナノファイバ糸を含む、請求項1に記載の神経足場。
【請求項11】
前記複数のナノファイバ糸におけるナノファイバ糸が、5μm~30μmの直径を有する、請求項1に記載の神経足場。
【請求項12】
前記糸が、前記管の体積の1~5%、1~10%、1~20%、1~30%、1~40%、または、1~50%を占める、請求項1に記載の神経足場。
【請求項13】
前記管が、ポリマーから構成されている、請求項1に記載の神経足場。
【請求項14】
前記ナノファイバ糸が、カーボンナノチューブ
のみから構成されている、請求項
1に記載の神経足場。
【請求項15】
隣り合ったナノファイバ糸間の複数の間質スペースには、ポリマーが含まれ、前記ポリマーが、前記ナノファイバ糸を隔てる、請求項1に記載の神経足場。
【請求項16】
前記ポリマーが、コラーゲンを含む、請求項
15に記載の神経足場。
【請求項17】
前記ポリマーが、ゼラチンを含む、請求項
15に記載の神経足場。
【請求項18】
前記ナノファイバ糸が、タンパク質を含む、請求項1に記載の神経足場。
【請求項19】
前記タンパク質が、成長因子を含む、請求項
18に記載の神経足場。
【請求項20】
前記成長因子が、血管内皮成長因子、神経成長因子、肝細胞成長因子、または、フィブリン基質ジェルの少なくとも1つである、請求項
19に記載の神経足場。
【請求項21】
前記管の前記内部領域の前記第1の直径が、約1.5mm~約15mmの範囲である、請求項1に記載の神経足場。
【請求項22】
前記管に対する前記ナノファイバ糸の束の最大重量比が、約0.65~約1である、請求項1に記載の神経足場。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般的に、カーボンナノファイバに関する。具体的には、本開示は、カーボンナノファイバ糸(yarn)の神経足場(nerve scaffold)の製造に関する。
【背景技術】
【0002】
神経損傷は治療が難しい疾患である。詳細には、神経を切断すると、神経の再成長は、神経機能の回復の制限、持続的な神経痛(神経障害と呼ばれることもある)等につながる可能性がある。他の種類の組織とは異なり、切断された神経の両端を縫い合わせるだけでは、神経の完全な回復及び治癒を促すのには不十分であることが多い。神経再生を改善するために、いくつかの実験技術が開発された。これらの技術には、切断された神経の末端を管で接続することや、身体が神経線維を再生するために使用できる細胞(シュワン細胞)を提供することが含まれることが多い。
【発明の概要】
【0003】
例1(Example 1)は、第1の端部と、前記第1の端部の反対側の第2の端部とを有する管であって、この管は、第1の直径を有する内部領域を規定し、生体適合性材料を含む、管と、前記管の前記内部領域の中に配置され、前記管の前記第1の端部から前記管の前記第2の端部に延びるナノファイバ糸の束と備える神経足場であって、前記ナノファイバ糸の束の複数のナノファイバ糸は、隣り合ったナノファイバ糸間に、複数の間質スペースを規定し、これら複数の間質スペースは、前記管の前記第1の端部から前記管の前記第2の端部までの少なくとも1つの連続した経路を形成する。
【0004】
例2(Example 2)は、例1の主題を含み、ナノファイバ糸は、仮撚りナノファイバ糸である。
【0005】
例3(Example 3)は、例1または例2の主題を含み、ナノファイバ糸は、シングルプライの仮撚りナノファイバ糸である。
【0006】
例4(Example 4)は、先行する例のいずれかの主題を含み、ナノファイバ糸の表面は、ナノファイバ糸の表面の上または下に1μmを超える表面トポグラフィ特徴を有するものではない。
【0007】
例5(Example 5)は、先行する例のいずれかの主題を含み、ナノファイバ糸の表面は、ナノファイバ糸の表面の上または下に0.1μm未満の表面トポグラフィ特徴を有する。
【0008】
例6(Example 6)は、先行する例のいずれかの主題を含み、複数の間質スペースの間質スペースを規定する近接したナノファイバ糸間の平均距離は、5μm~15μmである。
【0009】
例7(Example 7)は、先行する例のいずれかの主題を含み、複数の間質スペースの間質スペースを規定する近接したナノファイバ糸間の平均距離は、5μm~12μmである。
【0010】
例8(Example 8)は、先行する例のいずれかの主題を含み、複数のナノファイバ糸の質量は、神経足場の総質量の2質量%~10質量%である。
【0011】
例9(Example 9)は、例1~7のいずれかの主題を含み、複数のナノファイバ糸の質量は、神経足場の総質量の5質量%~20質量%である。
【0012】
例10(Example 10)は、例1~7のいずれかの主題を含み、複数のナノファイバ糸の質量は、神経足場の総質量の15質量%~60質量%である。
【0013】
例11(Example 11)は、先行する例のいずれかの主題を含み、複数のナノファイバ糸は、1000~8000のナノファイバ糸を含む。
【0014】
例12(Example 12)は、先行する例のいずれかの主題を含み、複数のナノファイバ糸のナノファイバ糸は、5μm~30μmの直径を有する。
【0015】
例13(Example 13)は、先行する例のいずれかの主題を含み、糸は、管の体積の1~5%、1~10%、1~20%、1~30%、1~40%、または、1~50%を占める。
【0016】
例14(Example 14)は、先行する例のいずれかの主題を含み、管は、ポリマーから構成される。
【0017】
例15(Example 15)は、先行する例のいずれかの主題を含み、ナノファイバ糸は、カーボンナノチューブから構成される。
【0018】
例16(Example 16)は、先行する例のいずれかの主題を含み、ナノファイバ糸は、基本的にカーボンナノチューブから構成される。
【0019】
例17(Example 17)は、先行する例のいずれかの主題を含み、隣り合ったナノファイバ糸間の複数の間質スペースには、ポリマーが含まれ、このポリマーは、ナノファイバ糸を隔てる(separate)。
【0020】
例18(Example 18)は、例17の主題を含み、ポリマーは、コラーゲンを含む。
【0021】
例19(Example 19)は、例17の主題を含み、ポリマーは、ゼラチンを含む。
【0022】
例20(Example 20)は、先行する例のいずれかの主題を含み、ナノファイバ糸は、タンパク質を含む。
【0023】
例21(Example 21)は、例20の主題を含み、タンパク質は、成長因子を含む。
【0024】
例22(Example 22)は、例21の主題を含み、成長因子は、血管内皮成長因子、神経成長因子、肝細胞成長因子、または、フィブリン基質ジェルの少なくとも1つである。
【0025】
例23(Example 23)は、先行する例のいずれかの主題を含み、管の内部領域の第1の直径は、約1.5mm~約15mmの範囲である。
【0026】
例24(Example 24)は、先行する例のいずれかの主題を含み、管に対するナノファイバ糸の束の最大重量比は、約0.65~約1である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】管状神経足場と接続された切断された神経線維の概略図である。
【
図2】管状神経足場と接続された切断された神経線維の概略図であり、神経線維は、2つの切断された神経部分の間で再成長している。
【
図3】本開示の例における、カーボンナノファイバ神経足場を示す。
【
図4A】本開示の例における、
図3に示すカーボンナノファイバ神経足場の一部分の拡大図を示す。
【
図4B】本開示の例における、
図4Aに示すカーボンナノファイバ神経足場の一部分の拡大図を示す。
【
図5A】本開示の例における、
図3に示すカーボンナノファイバ神経足場の分解図である。
【
図5B】本開示の例における、カーボンナノファイバ神経足場で使用されるシングルプライ仮撚りナノファイバの走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。
【
図6】本開示の例における、神経足場の総質量に対して65%質量のナノファイバを有するカーボンナノファイバ神経足場の組織学的標本の光学顕微鏡画像である。
【
図7】本開示の例における、神経足場の総質量に対して65%質量のナノファイバを有するカーボンナノファイバ神経足場の組織学的標本の光学顕微鏡画像である。
【
図8A】本開示のカーボンナノファイバ神経足場を使用して再生された神経と比較するための対照試料として使用される健康な神経の筋電図である。
【
図8B】本開示のカーボンナノファイバ神経足場を使用して再生された神経と比較するための対照試料として使用される健康な神経の組織学的断面の光学画像である。
【
図8C】神経フィラメント及び神経細胞核を示す
図8Bの組織学的断面の一部分の拡大図である。
【
図9A】本開示の例における、神経足場の総質量に対して2質量%のナノファイバ糸を有するカーボンナノファイバ神経足場を使用して再生された切断された神経線維の筋電図である。
【
図9B】本開示の例における、
図9Aで電気的に分析された、神経足場の総質量に対して2質量%のナノファイバ糸を有するカーボンナノファイバ神経足場を使用して再生された神経線維の組織学的断面の光学画像である。
【
図9C】本開示の例における、足場のカーボンナノファイバ糸と接触している神経フィラメント及び神経核を示す
図9Bの組織学的断面の一部分の拡大図である。
【
図10A】本開示の例における、神経足場の総質量に対する5質量%のナノファイバ糸を有するカーボンナノファイバ神経足場を使用して再生された切断された神経線維の筋電図である。
【
図10B】本開示の例における、
図10Aで電気的に分析された、5質量%のナノファイバ糸を有するカーボンナノファイバ神経足場を使用して再生された神経線維の組織学的断面の光学画像である。
【
図11A】本開示の例における、神経足場の総質量に対する10質量%ナノファイバ糸を有するカーボンナノファイバ神経足場を使用して再生された切断された神経線維の筋電図である。
【
図11B】本開示の例における、
図11Aで電気的に分析された、10質量%のナノファイバ糸を有するカーボンナノファイバ神経足場を使用して再生された神経線維の組織学的断面の光学画像である。
【
図11C】本開示の例における、カーボンナノファイバ糸と接触している神経フィラメント及び神経細胞核を示す
図11Bの組織学的断面の一部分の拡大図である。
【
図12】実施形態における、神経足場を製造するための例示的な方法の方法フロー図である。
【
図13】一実施形態における、ローラ上にナノファイバ糸の整列されたセグメントの束を形成し、束を管内に配置するための例示的な方法の概略図である。
【
図14】一実施形態における、ローラ上にナノファイバ糸の整列されたセグメントの束を形成し、束を管内に配置するための例示的な方法の概略図である。
【
図15】一実施形態における、ローラ上にナノファイバ糸の整列されたセグメントの束を形成し、束を管内に配置するための例示的な方法の概略図である。
【
図16】一実施形態における、ローラ上にナノファイバ糸の整列されたセグメントの束を形成し、束を管内に配置するための例示的な方法の概略図である。
【
図17】一実施形態における、ローラ上にナノファイバ糸の整列されたセグメントの束を形成し、束を管内に配置するための例示的な方法の概略図である。
【
図18】一実施形態における、ローラ上にナノファイバ糸の整列されたセグメントの束を形成し、束を管内に配置するための例示的な方法の概略図である。
【
図19】一実施形態における、ローラ上にナノファイバ糸の整列されたセグメントの束を形成し、束を管内に配置するための例示的な方法の概略図である。
【
図20】一実施形態における、ローラ上にナノファイバ糸の整列されたセグメントの束を形成し、束を管内に配置するための例示的な方法の概略図である。
【
図21】一実施形態における、ローラ上にナノファイバ糸の整列されたセグメントの束を形成し、束を管内に配置するための例示的な方法の概略図である。
【
図22】一実施形態における、ローラ上にナノファイバ糸の整列されたセグメントの束を形成し、束を管内に配置するための例示的な方法の概略図である。
【
図23】一実施形態における、ローラ上にナノファイバ糸の整列されたセグメントの束を形成し、束を管内に配置するための例示的な方法の概略図である。
【
図24】一実施形態における、ローラ上にナノファイバ糸の整列されたセグメントの束を形成し、束を管内に配置するための例示的な方法の概略図である。
【
図25】一実施形態における、ローラ上にナノファイバ糸の整列されたセグメントの束を形成し、束を管内に配置するための例示的な方法の概略図である。
【
図26】一実施形態における、基材上のナノファイバの例示的なフォレストの顕微鏡写真である。
【
図27】一実施形態における、ナノファイバの成長のための例示的な反応器の概略図である。
【
図28】一実施形態における、シートの相対的な寸法を特定し、シートの表面に平行な平面で端から端まで整列したシート内のナノファイバを概略的に示すナノファイバシートの概略図である。
【
図29】一実施形態における、
図28に概略的に示すように、ナノファイバが端から端まで整列するナノファイバフォレストから横方向に引き出されているナノファイバシートの画像であるSEM顕微鏡写真である。
【0028】
図面は、例示目的のためだけに、本開示の様々な実施形態を示す。多くの変形、構成、及び他の実施形態は、以下の詳細な説明から明らかになる。さらに、認識されるように、図面は、必ずしも縮尺どおりに描かれているわけではなく、記載した実施形態を図示する特定の構成に限定することも意図していない。例えば、一部の図は、概して、直線、直角、及び滑面を示すが、開示される技術の実際の実施態様は、完全ではない直線及び直角を有してよく、一部の特徴は、製造プロセスの現実世界の制限を考慮して、表面トポグラフィを有してよい、または、非平滑であってよい。要するに、図面は、単に例示的な構造を示すために提供される。
【発明を実施するための形態】
【0029】
[概要]
神経断裂は、神経と神経鞘が切断される神経損傷である。これは、神経が制御する筋肉の感覚の喪失と麻痺を引き起こす。一般に、神経は医学的介入なしでは回復しない。神経断裂の症状はオピオイドと抗炎症薬で治療でき、神経と神経に関連する機能の回復は手術で支援できる。神経の回復を促進する外科的方法には、神経末端の縫合、神経移植片の移植、または「神経足場」の埋め込みが含まれる。
【0030】
神経の両端を縫合すると欠点が生じる可能性がある。例えば、神経の両端を縫合すると、縫合された神経内に緊張が生じる。この緊張は、再成長を阻害し、瘢痕化の可能性を高め得る、また、神経機能をあまり改善しない場合がある。同様に、神経移植片の使用にも欠点がある。例えば、生きているドナーから(または、自家移植の場合、患者のドナー部位から)神経の一部を除去してレシピエント(または、自家移植の場合、レシピエント部位)に提供すると、ドナーは、除去した神経が以前、働いていた身体の部分で感覚喪失または神経腫痛を経験する。
【0031】
切断された神経の再成長を促進するための中空神経足場の使用は、継続的な研究課題である。足場は、神経の末端に縫合される生体適合性の管である。一部の例では、足場は神経線維を再成長させるためのガイドとして機能する複数の小さなチャネルを備え、他の例では、足場は単一の内部チャンバを規定する単なる中空管である。内部構成に関係なく、足場の目的は、神経線維の再成長を促進して筋肉機能の回復を助ける環境を作り出すことである。
【0032】
中空管神経足場の後者のシナリオは、
図1に概略的に示されている。この例では、神経セグメント100A及び100Bは互いに切断されている。中空管神経足場104は、切断された神経セグメント100A及び100Bの向かい合う末端にかかるように配置され、神経線維の再成長を促進する。
【0033】
例示的な神経足場104等のいくつかのタイプの神経足場の1つの欠点は、再成長した神経線維が再成長中に張力を受けることである。これにより、神経線維が、ある場所で収縮することから、神経機能の低下、神経痛、または他の望ましくない結果を引き起こす可能性がある。例えば、
図2に示すように、神経セグメント200A及び200Bは、切断され、中空管神経足場204を介して再接続されている。神経足場204は、縫合糸206A、206B、206C、及び206Dによって神経セグメント200A及び200Bに取り付けられている。図に示すように、再生された神経線維208は、神経セグメント200A及び200Bの向かい合う面の間に狭窄がある砂時計形状を有する。再生された神経線維208内のこの狭窄は、上述した望ましくない結果の一部または全てを引き起こす可能性がある。
【0034】
したがって、本明細書に記載する一部の例によれば、本開示は、生体適合性材料から製造された管状のアウターハウジングを備えた神経足場であって、アウターハウジングの中に複数のカーボンナノファイバ糸が配置されている神経足場について記載する。これら複数のカーボンナノファイバ糸は、隣り合った糸が、平均的な神経線維の直径にほぼ対応する距離をもって隔てられており、神経線維が再成長できる表面を提供している。近接するカーボンナノファイバ糸によって個々の神経線維を支持(support)できるため(部分的には、ナノファイバ糸間のこの適切な空間の隔たりによって)、再成長中に神経線維に引張応力がかかる可能性を低くする。本開示の一部の例では、再生された神経線維に対する引張応力の大きさは、カーボンナノファイバ糸を含まない神経足場を使用して再生された神経線維と比較して、低減される。少なくともこれらの理由により、本開示の実施形態を神経足場として使用するとき、神経痛または神経機能低下などの望ましくない結果の可能性が低減される。
【0035】
[神経足場の例]
上記のように、本開示の一部の例では、神経足場は、カーボンナノファイバ及び/またはカーボンナノチューブから製造された複数の糸を含む。本開示は主にカーボンナノファイバに言及するが、カーボンナノチューブは同じ有利な特徴の多くを共有し、「カーボンナノファイバ」の総称に含まれることは認識されよう。カーボンナノファイバ、より具体的にはカーボンナノファイバ糸は、導電性と生体適合性があるので、本明細書に記載する例示的な神経足場の構成要素として使用すると有益である。例えば、カーボンナノファイバが足場の構成要素として(例えば、上記の管状構成要素内で)使用されるとき、隣接するカーボンナノファイバ糸間に経路が規定できる。神経線維は、これらの経路内で成長(同等に「再生」とも呼ばれる)することができる。カーボンナノファイバ糸はまた、切断された神経のあるセグメントから切断された神経の別のセグメントへの導電経路を提供することができる。導電経路の存在は神経の成長を向上させることができ、また、再生された神経に一般的に期待される以上に神経機能を改善することができる。一部の例では、神経足場内でのカーボンナノファイバ糸の使用は、再生された神経の神経機能を、切断損傷の前の同じ神経の神経機能に近づけることができると考えられている。一部の例では、カーボンナノファイバ、特にシングルプライの仮撚りカーボンナノファイバ糸は、トポグラフィ的に滑らかでナノポーラスな支持表面を提供でき、その表面上で、神経線維が成長して、低引張応力の神経線維の再成長を促進できる。
【0036】
本開示の神経足場の一例が、
図3に概略的に示されている。神経足場300は、管304及び複数のナノファイバ糸308を含む。神経足場300の利点は、複数のナノファイバ糸の間に、複数のナノファイバ糸によって規定されたギャップまたは経路を提供することを含む。これらのギャップは、神経の成長を促進するような構成及び寸法にされており、切断された神経のセグメント間に電気接続を提供できる。
【0037】
管304は、いくつかの機能のいずれかを実行することができる。一部の例では、管304は、神経線維が再成長できる領域を周囲の環境から隔てる。これは、再成長する神経の成長率や連続性を低下させ得る物理的損傷やその他の摂動から再成長する神経線維を保護するのに役立ち得る。管304はまた、本明細書に記載されるように、神経線維の再成長を促進する密度及び配置を有するようにカーボンナノファイバ糸を配置及び構成することができるスペースを規定する。
【0038】
管304は生体適合性材料及び/または生体吸収性材料から製造することができる。これらの材料の例にはシリコンが含まれるが、これには剛性ではなくコンプライアントであるという追加の利点がある。このコンプライアンスは、(
図2に示すように)縫合による近接する神経セグメントへの管304の端部の取り付けを容易にする。管304に使用できる生体適合性材料の他の例には、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリ(テトラフルオロエチレン)、ポリエチレン、ポリグリコリド、ポリカプロラクタム、ポリ(乳酸-コ-グリコール酸)、ポリ乳酸、ポリ(セバシン酸グリセロール)、ポリシアル酸、ポリエチレングリコール、ポリウレタン、コラーゲン、キトサン、絹、アルギン酸塩等が含まれるが、これらに限定されない。別の組の実施形態では、管は、カーボンナノチューブ等の炭素で作製することができる。一部の実施形態では、管304は、血管及び骨格筋を含む生物学的材料で作成することができる。特定の実施形態では、カーボンナノチューブ管とカーボンナノチューブ糸の両方を一緒に使用して、神経再生を促進することができる。
【0039】
上記のように、複数のナノファイバ糸308は、実撚りのマルチプライ及びシングルプライのナノファイバ糸、無撚りのマルチプライ及びシングルプライのナノファイバ糸、並びに仮撚りのマルチプライ及びシングルプライのナノファイバ糸を含むことができる。複数のナノファイバ糸308を管304内に配置して、再生された神経線維が成長できるファイバ間スペースの構造を規定することができる。ナノファイバ糸は、神経線維が成長でき、再成長する神経線維の機械的支持もできる滑らかでナノポーラスな表面を提供する。この機械的支持により、再成長中の神経線維及び全体として再生中の神経は、神経障害痛を引き起こしたり、神経線維の成長に悪影響を及ぼしたりする可能性のある引張応力または圧縮応力を経験する可能性が低くなる。
【0040】
複数のナノファイバ糸308(その製造は、
図12~15に関連して以下に記載する)は、
図3に示すように、管304内に配置することができる。
図3のナノファイバ糸は、互いに平行であり、管304内に均一に分布しているように示されているが、これは、単に例示の便宜のためであることは認識されよう。むしろ、ナノファイバ糸は、管304によって規定される容積の一部を占め、互いに実質的に整列するが、必ずしも互いに正確に平行でないように、複数のナノファイバ糸308に集められる。多くの実施形態では、複数のナノファイバ糸308内のナノファイバ糸のこの大まかな整列は、神経線維の断面直径にほぼ対応する経路(ギャップ及び/またはスペースとも呼ばれる)をナノファイバ糸間に規定するのに十分である。これは一般に直径5μm~10μmで、一部の例では8μm~10μmである。ナノファイバ糸が互いに交差または不整列な場合でも、管304の長さに沿って少なくとも部分的に連続した(すなわち、管304の長さに沿って10%より大きいまたは20%より大きい)直径5μm~10μmの範囲のスペースがあれば、上記の張力を最小限に抑えて神経の再生を促進するのに十分である。
【0041】
図4A及び4Bは、本開示のカーボンナノファイバ糸神経足場300の例を形成するための管内のナノファイバ糸のこの有益な構成を示す。
図4A及び4Bの両方を同時に参照すると、説明が容易になる。これらの図に示されているように、複数のナノファイバ糸308のナノファイバ糸の断面直径は、管304の断面に類似して(+/-10°内で)配向されている。同様に、管304の長さ及び複数のナノファイバ糸308のナノファイバ糸の長さは、ほぼ同じ方向に整列している(複数のナノファイバ糸のミクロン及び/またはナノメートルスケールでの配向の変化は許容する)。
【0042】
ナノファイバ糸のこの配向の1つの結果として、上記のように、ナノファイバ糸間に再生時に神経線維が成長するスペースが規定される。隣接するナノファイバによって規定されるスペースの例は、拡大
図4Bに示されている。図に示すように、複数の近接するナノファイバ糸は、α1、α2、及びα3で表される距離だけ互いに離れている。神経の成長を促進するために、少なくとも一部のナノファイバ糸の間のスペースの幅α1、α2、及びα3は、5μm~10μm、5μm~12μm、5μm~8μm、5μm~10μm、及び8μm~10μmの範囲のいずれかであってよい。神経線維は一般に直径が約8μm(+/-10%)であるため、幅α1、α2、及びα3を有するナノファイバ糸間のスペースは、神経線維の再成長を支持するような寸法と構成にされる。上記範囲α1、α2、及びα3より大きい幅は、一部の例では、神経線維への引張応力を低減するように、再成長中の神経線維を適切に支持することができる。したがって、場合によっては、ナノファイバ糸間のスペースは、20μm未満、15μm未満、12μm未満、10μm未満、または8μm未満であってよい。前述のα1、α2、及びα3の範囲よりも狭い幅では、一部の例で、神経線維が複数のナノファイバ糸を通して成長するのを妨げ得る、または神経線維と、神経線維と接触している隣接するナノファイバ糸との間に圧縮力が存在する物理的に制約された環境で神経線維が成長し得る。これは神経機能の制限及び/または神経障害痛につながり得る。場合によっては、ナノファイバ糸間のスペースは、1μmより大きい、2μmより大きい、3μmより大きい、5μmより大きい、または7μmより大きくてよい。
【0043】
一部の例では、複数のナノファイバ糸308の個々のナノファイバ糸は、仮撚り、シングルプライのナノファイバ糸である。ナノファイバ糸を仮撚りすることができる技術は、ここに引用することによってその全体が本明細書の記載の一部をなすものとする米国特許出願番号第15/844,756号に記載されている。理論に縛られることを望まないが、場合によっては、シングルプライナノファイバ糸、特に仮撚りナノファイバ糸の比較的滑らかでナノポーラスの表面が、神経線維の再成長が促進される表面を提供すると考えられている。この滑らかな表面としては、全体としてナノファイバ糸の表面の上または下に100nmを超えるいかなる特徴も有さない表面トポグラフィがある。
【0044】
図5Aは、管304と複数のナノファイバ糸308とを含む神経足場300の分解図を示す。図に示すように、管304は、長さL1及び内径D1を有する。長さL1は、切断された神経の向かい合う面の間のギャップのサイズに部分的に従った寸法にされる。一部の例では、長さL1は、1mm~2cm、1mm~1cm、1mm~0.5mm、1cm~2cm、1.5cm~2cm、5mm~1.5cmのいずれかの範囲であってよい。内径D1は、
図2に示すように、管304が神経の切断された末端にかかるように配置され、縫合または他の方法で神経の末端に接続できるような寸法にされる。一部の例では、内径D1は、1mm~40mm、1mm~5mm、3mm~10mm、1mm~15mm、10mm~30mm、15mm~40mmの範囲のいずれかであってよい。
【0045】
図に示すように、複数のナノファイバ糸308は、長さL2及び外径D2を有する。長さL2は、切断された神経の向かい合う面の間のギャップのサイズ及び管304の長さL1に部分的に従った寸法にされる。一部の例では、管304の十分な材料が管304に縫合される神経セグメントの末端に重なることができるように、長さL2が長さL1以下であるのが望ましい。一部の例では、長さL2は、神経セグメントの向かい合う面に接触する(言い換えると、切断された神経を架橋する)、または、切断された神経セグメントの各面から5μm以内であると十分である。一部の例では、長さL2は、1mm~2cm、1mm~1cm、1mm~0.5mm、1cm~2cm、1.5cm~2cm、5mm~1.5cmの範囲のいずれかであってよい。
【0046】
複数のナノファイバ糸308の外径D2は、複数のナノファイバ糸308が管304内に配置できるような寸法及び構成にされる。一部の例では、外径D2は、管304の内径D1より2%~10%小さい。複数のナノファイバ糸308の外径D2が管304の内径D1よりもわずかに小さい寸法であるとき、複数のナノファイバ糸308は、管304によって規定されるスペースに挿入されるのに十分に小さいが、隣接する管304内面との締まりばめ(interference fit)を形成するのに十分に大きい。この締まりばめにより、複数のナノファイバ糸308が管304内にしっかりと留まり、意図せずに滑って外れることがない。場合によっては、ナノファイバ糸の束をより小さな直径に圧縮して、より簡単に管に通すことができる。管に入ると、束は管の全内径まで拡張可能であってよい。さらに、このような寸法にされた複数のナノファイバ糸308は、内径D1と一致し、長さL1に垂直な管304の断面全体に分布することができる。複数のナノファイバ糸308を管304の長さ及び断面直径の両方にわたって分布させることによって、神経線維が成長することができる多くの間質(interstitial)スペースを提供する。
【0047】
一部の実施形態では、近接したナノファイバ糸間の間質スペースは、神経線維の成長を支持するために1つまたは複数のポリマーマトリックスを含むことができる。一部の例では、ポリマーマトリックスは、コラーゲン、ゼラチン、またはフィブリンの1つまたは複数であってよい。他の一部の例では、ポリマーマトリックスは、グリコサミノグリカンの1つまたは複数であってよい。
【0048】
一部の実施形態では、近接したナノファイバ糸間の間質スペースはまた、1つまたは複数のタンパク質または成長因子を含み得る。一部の例では、タンパク質または成長因子は、血管内皮成長因子(VEGF)、神経成長因子(NGF)、肝細胞成長因子(HGF)、またはフィブリンマトリックスゲルのうちの少なくとも1つであってよい。1つの特定の例では、間質スペースは神経成長因子を含む。
【0049】
さらに別の実施形態では、近接したナノファイバ糸間の間質スペースは、1つまたは複数のタンパク質と組み合わせて1つまたは複数のポリマーマトリックスを含むことができる。特定の例では、間質スペースは、神経成長因子と組み合わせたコラーゲンを含む。
【0050】
一部の例では、上に示した、複数のナノファイバ糸308の隣り合ったナノファイバ糸間の適切な間隔は、神経足場の総質量(すなわち、管プラス複数のカーボンナノファイバ糸の質量)に対するカーボンナノファイバ糸質量のパーセンテージとして間接的に測定することができる。このカーボンナノファイバ神経足場の総質量に対するカーボンナノファイバ糸質量のパーセンテージは、簡潔にするために、本明細書では、場合によって「充填密度」と記載される。一部の例では、本開示のカーボンナノファイバ糸神経足場内における神経線維の成長は、2%未満、2%~5%、2%~10%の範囲のいずれかの充填密度で十分であることが分かった(
図6、7、9A~11Cの文脈で以下に記載されるように、神経信号伝達時間及び再成長した神経線維形態という点で)。管内の糸の密度は、断面積ベースでも測定できる。例えば、管の断面積(内径)に対する束308の糸の累積断面積の比は、1%より大きい、5%より大きい、10%より大きい、20%より大きい、30%より大きい、40%より大きい、50%より大きい、75%未満、65%未満、50%未満、40%未満、30%未満、20%未満、10%未満、5%未満、または、3%未満であってよい。
【0051】
充填密度は巨視的な測定値であるが、充填密度は複数のナノファイバ308の個々のナノファイバ間のスペースの平均直径を予測できることが実験的に分かっている。これにより、神経線維の成長を促進するように構成されるように、複数のナノファイバ糸308を容易に測定することが可能になる。例えば、2%~10%の範囲のシングルプライの仮撚りナノファイバ糸の充填密度は、以下でより詳細に記載するように、直径8μm~10μmの繊維間スペースがあることが分かっている。上記のように、多くの神経線維の断面直径はこの範囲にある。したがって、2%~10%のナノファイバ糸充填密度を有する本開示のカーボンナノファイバ糸神経足場は、空の管の場に比べて神経線維への引張応力を低減するように、多くの異なるタイプの神経線維の再成長を促進するように構成される。また、本開示のカーボンナノファイバ糸神経足場は、神経線維よりも小さい断面直径を有するギャップから神経線維にかかる圧縮応力を低減する。
【0052】
他の例では、充填密度は、1%~40%、2%~35%、2%~65%のいずれかの範囲にあってよい。しかしながら、高すぎる充填密度(例えば、65%超)は、隣り合ったナノファイバ糸間のスペースが、神経線維が成長するには小さすぎる(例えば、5μm未満、2μm未満)ものとなることは認識されよう。同様に、低い充填密度(一部の例では、5%未満であることが分かっている)は、隣り合ったナノファイバ糸間のスペースが、再成長時に、ナノファイバ糸を物理的に支持する構造を提供するには大きすぎるものとなる。これは、上記のように、線維に引張応力をもたらす可能性がある。
【0053】
一部の例では、個々のナノファイバ糸自体の外径に応じて、
図5Bの文脈で以下に記載するように、1000~8000のシングルプライの仮撚りナノファイバ糸は、15mmの断面直径を有する管304について上記の充填密度を形成するように構成することができることが分かっている。
【0054】
また、カーボンナノファイバ糸が均一で整列しているほど、神経の成長が促進されることが実験的に観察されている。実験結果を以下に示す。
【0055】
図5Bは、本開示のシングルプライの仮撚りナノファイバ糸の走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示す。上記のように、仮撚り技術は、ここに引用することによってその全体が本明細書の記載の一部をなすものとする米国特許出願第15/844,756号に記載されている。一部の例では、
図5Bに示されるもの等、本開示のカーボンナノファイバ神経足場で使用されるシングルプライの仮撚りナノファイバ糸は、5μm~40μm、5μm~30μm、5μm~20μm、10μm~30μm、50μm~40μm、25μm~35μm、40μm未満、30μm未満、20μm未満、5μmを超える、10μmを超える、または20μmを超えるのいずれかの範囲の断面直径(
図5Aの場合では、両方向矢印によって示される糸の縦軸に対して垂直)を有することができる。
図5Bに示すナノファイバ糸の特定の例では、断面直径は約15μmである。さらに、上記のように、本開示の実施形態の1つの利点は、ナノファイバ糸が、神経線維が成長できる滑らかな表面を提供することである。
図5Bに示すナノファイバ糸は、糸の表面の平均位置の上または下に1μm未満(及び、一部の例では0.1μm未満)の表面トポグラフィの特徴を有するような糸である(平均位置は、糸の長さにわたる糸の外周から測定され、統計的に有意なサンプリングから計算される)。
【0056】
[実験結果]
図6~
図11Cは、本開示の様々な実験例を示す。
図6から
図8Cは、
図9から
図11Cに示された実施形態の参照として機能することができる様々な実施形態を示す。例えば、
図6は、切断された神経線維の組織学的断面を示す。この例では、65%のカーボンナノファイバ糸の充填密度(シングルプライ、仮撚り)を有する本開示の神経足場を用いて再生が試みられた。複数の糸(または一本の糸の複数の整列されたセグメント)は、直径が14.5μmであった。約8000の糸セグメントが一つの束となっていた。
図6に示す断面において、10倍の倍率で撮影すると、遠位端及び近位端から介在する(より暗い)カーボンナノファイバ糸への神経線維の再成長が制限されていることが分かる。実際は、
図6の囲み領域の400倍の拡大図である
図7に示されている。65%を超える充填密度を有する複数のナノファイバ糸への神経線維の再生は、切断された近位神経表面から遠くまで伸びていない。また、再生中の神経線維が近位端から遠位端まで連続した線維を形成することもないため、切断された神経の近位端と遠位端の間の神経学的接続を再確立できない。
図6及び7は、カーボンナノファイバ糸の適切な充填密度、すなわち、再成長中に神経線維を支持するのに十分な密度であるが、切断された神経の末端を再接続できる再成長を阻害するほど高くはない密度、を有する本開示の神経足場を選択することの重要性を示す。
【0057】
図8A~8Cは、本明細書に記載の実施形態の別の基準となる点を示すものであって、切断されておらず、また、いかなる種類の神経足場を使用して再生されたものでもない健康な神経である。
図8Aはこの健康な神経の筋電図である。一般に、遠位潜時と振幅という2つの測定値が筋電図を使用して取得される。これらは一緒に、刺激に応答して神経を通る電気信号の伝播速度とその信号強度をそれぞれ特徴付ける。
図8Aに示すグラフは健康な神経に対応し、その神経の断面が
図8B及び8Cに示される。切断後、神経足場に縫合された3つの別個の健康なラットの坐骨神経からの筋電図の結果の要約を、以下の表1にまとめる。
【0058】
図8Bの画像は、40倍の光学倍率で撮影され、
図8Cの画像は、40倍を超える光学倍率で撮影された。
図8Cは、細胞核を有する神経線維フィラメントの連続性を単に示すために提供されている。
【0059】
図9A、9B、及び9Cは、2%の充填密度を有する本開示の神経足場を使用して再生された切断された神経に対応する。
図9Aは、40倍の光学倍率で撮影した、この実施形態の一例の筋電図の例である。
図9Bは、40倍の光学倍率で撮影した組織学的断面である。
図9Cは、40倍を超える光学倍率で撮影した
図9Bの断面の一部の拡大画像である。
【0060】
図9Aに対応する筋電図は、以下の表1にまとめられた遠位潜時及び振幅を有する。特に
図6及び
図7とは対照的に、
図9B及び
図9Cは、切断された神経の両端を接続する再生された神経線維(神経フィラメント及び神経細胞の核を含む)を示す。神経の右端部分と神経の中央部分の間の神経のギャップは、断面とプロセスのアーチファクトであり、再生された神経の不連続性を示すものではない。さらに、
図9Cの拡大図に見られるように、神経フィラメント及び神経細胞核は、上記のように、カーボンナノチューブ糸と密接に接触している。カーボンナノファイバに近接した神経フィラメントと核の両方の存在は、機能している再生神経を示唆している。これは、機能している神経の核と神経線維を欠いている主に瘢痕組織である再生組織とは対照的である。再生神経の神経機能は、表1の文脈で以下で説明する筋電図の結果によっても示される。この試料の結果は、以下で説明する筋電図の結果を含み、本開示の神経足場によって提供される神経再生と神経機能の回復の利点を示す。
【0061】
図10A及び10Bは、5%充填密度を有する本開示の神経足場を使用して再生した切断された神経に対応する。
図10Aは、図示の実施形態の例示的な筋電図である。
図10Bは、40倍の光学倍率で撮影された組織学的断面である。
図9A~9Cに示される例と同様に、筋電図データ及び画像自体が、以前に切断された神経末端間の神経機能を再確立するように、カーボンナノファイバ糸と密接に接触する神経フィラメント及び神経細胞核の再成長を示す。
【0062】
図11A、11B、及び11Cは、10%の充填密度で、本開示の神経足場を使用して再生した切断された神経に対応する。
図11Aは、この実施形態の一例の筋電図の例である。
図11Bは、40倍の光学倍率で撮影された組織学的断面である。
図11Cは、40倍の光学倍率で撮影された
図9Bの断面の一部の画像である。
【0063】
前述の例と同様に、
図11A~11Cは、カーボンナノチューブ糸と密接に接触している神経線維、及び以前に切断された神経末端間の連続的な神経経路を示している。
【0064】
前述の実験例の筋電図データは、以下の表1にまとめられている。表に示すように、本開示の2%、5%、及び10%の充填密度の実施形態はそれぞれ、基準の役割をする健康な神経の2.5倍以内の遠位潜時及び振幅を生み出した。実際、2%充填密度の例示的な実施形態に対してテストされた3つのサンプルの1つは、健康な神経と同等の遠位潜時及び振幅を生み出した。
【表1】
【0065】
[方法]
図12は、本開示の実施形態を製造することができる例示的な方法を示す。
図13~
図25は、
図12に示される例示的な方法の製造の様々な段階の図を示す。
図12と
図13~
図25とを同時に参照すると、説明が容易になる。
【0066】
方法1200は、上記のように、管への挿入時に、管内で拡張し、神経の再成長を促進するファイバ間の間隔を有するような複数のナノファイバの束を集める例示的な方法である。
【0067】
方法1200は、
図13に示すように、少なくとも2つの接着剤ストリップ(strip)1304A及び1304B(まとめて1304)をローラ1308上に配置するステップ(1204)を含む。接着剤ストリップ1304及びローラ1308は、上記のように、神経の再生を容易にするためにファイバ間の間隔を提供しながら、任意の所望の直径の管を満たすように拡張する量及び構成で、複数のナノファイバを束ねる利便性を向上させる。この束ねは、直径Dのローラ1308を(
図13の矢印で示される)方向に回転させながら、1つまたは複数のナノファイバ糸1316をローラ1308の周りに巻き付けることにより達成される。
【0068】
2つの接着剤ストリップ1304は、以下に記載するように、束の2つの領域を固定し、それにより、処理中に束を操作する能力を向上させる。2つのストリップ1304は、互いに離れていて、それらの間にギャップ1312を規定し得る。ストリップの寸法は、ローラのサイズや集められるナノファイバ糸の量(ローラの周りの糸の巻き数とローラの直径に比例する)を含む多くの因子に基づいて変化し得る。一部の実施形態では、ストリップの長さは、約1mm~約1000mmの(または糸の直径及びローラの回転数に応じてより高い)範囲にあってよく、一方、ストリップの幅は、約5mm~100mmの範囲にあってよい。一例では、直径14.5mmの糸をローラ1308に55mm~65mmの接着剤ストリップの長さにわたるように4000回巻き、最終的にナノファイバ糸の8000の整列されたセグメントと65%の充填密度を有する神経足場を作製した。別の例では、直径14.5mmの糸がローラ1308に1.0mm~1.2mmの接着剤ストリップの長さにわたるように80回巻き付けられ、最終的にナノファイバ糸の190の整列されたセグメントと2%の充電密度を有する神経足場を作製した。
【0069】
2つの接着剤ストリップ1304には、任意の種類の接着剤を使用することができる。例えば、接着剤1304は、接着テープの使用、または接着剤でコーティングされたバッキング材の様々な組み合わせのいずれかの上の接着剤の使用を含むことができる。一実施形態では、接着剤ストリップは、粘着テープであってよい。粘着テープは、紙、プラスチックフィルム、布、または金属箔等のバッキング材にコーティングされた粘着剤を含む。粘着剤は、熱を加えたり溶剤を活性化したりせずに、圧力を加えることによって表面に付着する。別の例では、接着剤1304は、ローラ1308上または介在する基材(ポリマーフィルム等)上に配置される「非キャリア接着剤」層を含むことができる。非キャリア接着剤層は、ポリマーバッキング上に配置されず、任意の表面(例えば、ローラ1308上に配置された可撓性基材)に直接適用できる自己支持性接着剤のストリップである。
【0070】
ギャップ1312は、2つのストリップ1304によって(及びそれらの間に)規定されるスペースである。ギャップ1312は、ストリップ1304への接着によってナノファイバの端部が固定されている間に、ローラの周りに巻かれたナノファイバをローラから切断及び除去できる場所を提供する。このようにして、束はまとめて便利に扱うことができる。これにより、切断されたナノファイバ糸をさらにナノファイバ糸の束に処理して、神経の修復/再成長のための足場に使用できるようにする。ギャップ1312は、糸を接着剤から分離しない間、刃/切断技術を収容するのに十分でなければならない。一部の実施形態では、ギャップ1312は、1mm~50mmの範囲であってよい。一部の例では、2つのストリップによって規定されるようなギャップは不要であり、接着剤の単一のストリップを代わりに使用できることは認識されよう。ナノファイバの端部が接着剤ストリップの2つの部分に固定されている状態で、接着剤ストリップは(ストリップ上に接着されたナノファイバと共に)2つの部分に切断され、ローラから取り外すことができる。
【0071】
ローラ1308は、整列したナノファイバ糸の束を巻き付けることができる円形または楕円形の円筒の断面であってよい。ローラのサイズは、その直径Dによって規定される。直径Dは、集められるナノファイバ糸の束の長さの決定に使用される因子である。直径Dが大きいローラの例では、(切断後に)長いナノファイバ糸の束が生成され、直径Dが小さいローラの他の例では、(切断後に)短いナノファイバ糸の束が生成される。一部の実施形態では、直径Dは、約10cm~3mの範囲であってよい。
【0072】
束におけるナノファイバの体積は、ローラ1308の周りのナノファイバ糸の回転数の関数であってよい。糸の各回転は、ローラの円周の関数である糸の直線距離に対応する。ナノファイバ糸の回転数が多いローラは、ナノファイバが多い束を生成し、ナノファイバ糸の回転数が少ない同じサイズのローラは、ナノファイバの数が少ない束を生成する。一部の実施形態では、ローラの周りのナノファイバ糸の巻き数は、10~100,000であってよい。一実施形態では、ナノファイバ糸の巻数は、2000~4000である。
【0073】
2つの接着剤ストリップがローラ1308上に配置されると(1204)、(例えば、
図13の矢印で示されるように)ローラを回転させることにより、ナノファイバ糸をローラの周りに巻き付けることができる(1208)。ナノファイバ1316は、2つの接着剤ストリップと接触するようにローラの一部に巻き付けることができる。上記のように、接着剤ストリップは、ローラ1308からのナノファイバの束の取り外しを容易にする。
【0074】
一部の実施形態では、ナノファイバ糸は、糸に張力をかけながらローラの周りに巻き付けることができる。巻き付け中に糸の張力を維持すると、ローラ上のナノファイバ糸の整列が向上する。一部の例では、ローラをより遅い速度で回転させることにより、ナノファイバの整列をさらに改善することもできる。束内のナノファイバの体積はまた、巻き付け中の糸の張力の関数であってよい。張力がかかった状態でローラに巻き付けられた糸は、張力がほとんどまたは全くない状態でローラに巻き付けられた糸よりも、束の体積が少なくなる可能性がある。張力が低いまたは無いと整列しにくくなり、より多くのスペースを占め得るからである。一部の例では、糸がローラ上に巻かれるときに糸にかかる張力を維持するボビンを使用することにより、ナノファイバ糸に張力をかけることができる。他の一部の例では、ガイドは、ナノファイバ糸に張力を提供するように構成することができる、または、張力は、プーリーシステムを使用して加えることができる。加えられる張力は、ナノファイバ糸間の整列を引き起こすほど十分に大きく、糸の極限引張強度未満であってよい。
【0075】
図14を参照すると、ナノファイバ糸がローラの周りに巻き付けられると(1208)、ナノファイバ糸の整列されたセグメントの束1404が、ローラ1308上に形成される(1212)。ナノファイバ糸の束1404は、2つの端部が2つの接着剤ストリップ1304に固定されている整列したナノファイバ糸の集まりである。上記のように、束の長さはローラ1308の円周に比例し、束の体積と束内の糸のセグメント数は、ナノファイバ糸がローラに巻き付けられる回数に比例する。望ましい束1404の長さは、製造される神経足場のサイズ、修復される神経損傷の大きさ、及び再生される神経の切断された末端間のギャップの長さ等の因子によって影響を受ける場合がある。束1404の体積は、管の直径(以下で説明)、ナノファイバで充填される管の体積百分率、及び各束が管内に配置される(1228)前に折り畳まれる回数等の因子によって影響を受ける場合がある。
【0076】
ナノファイバ糸の束1404がローラ1308の周りに形成される(1212)と、糸の束は、ギャップ1312で分ける(1216)または切断される。この分けるとは、
図15の矢印1504によって示されている。束の端部は、互いにさらに離されて(1216)、束の線形構成を形成することができる。2つの接着剤ストリップの代わりに単一の広い接着剤ストリップが使用される例では、広い接着剤ストリップは、ストリップに固定されたナノファイバ糸の束と共に切断され、端部が分離される。
【0077】
精密刃、レーザ等を含む、ナノファイバ糸の束1404を切断するために様々な技術を適用することができる。ナノファイバ糸の束1404は、ナノファイバ糸が2つの接着剤ストリップ1304に固定されたままで切断される。(2つの接着剤ストリップの代わりに)単一の広い接着剤ストリップが使用される実施形態では、単一の切断技術または2つの異なる切断技術を適用して、接着剤のストリップ及びナノファイバ糸の束1404を切断することができる。
【0078】
図16に示すように、1216で分けられると、ナノファイバ糸の束1404は、ローラ1308から取り外される(1220)。
【0079】
ナノファイバ糸の束1404をローラ1308から取り外した(1220)後、束1404は、その元の長さの半分(または他の何らかのサブユニット)に折り畳むことができる(1224)。ナノファイバ糸の束1404の折り畳み(1224)は、2つの端部(この例では接着剤ストリップ1304A、1304Bに対応する)を
図17の矢印1704A及び1704Bで示すように持ってくることによって、達成することができる。
【0080】
図18に示すように、ナノファイバの束1404を半分に折り畳むことにより、ナノファイバ糸が折り畳まれた束1804が作製される。折り畳まれた束1804は、単位長さ当たりのナノファイバ糸の数が、束1404と比較して2倍になる。ナノファイバ糸の折り畳まれた束1804は、互いに重ねられた2つの接着剤ストリップによって規定された第1の端部1808と、接着剤ストリップの支持の無いナノファイバ糸の折り畳まれた束によって規定された第2の端部1812との2つの端部を含む。
【0081】
ナノファイバ糸の束1404が折り畳まれると(1224)、折り畳まれた束1804は、ナノファイバ糸の束を管1916内に配置するようにさらに処理することができる。折り畳まれた束1804を管に配置する(1228)ために、束の第2の端部1812は、(矢印1912A及び1912Bによって示されるように)ナノファイバ糸がより狭い群に集結するように括ってもよい。
図19~
図21に示すように、全てのナノファイバ糸を集結させることにより、折り畳まれた束1904を、管1916を通して引っ張り、管1916内に配置し、または管1916内に通すことができる。
図19に示すように、針またはフック1908の使用を含むがこれに限定されない多くの方法で括ることができる。
【0082】
上記のように、例示的な中空管神経足場1916は、ナノファイバ糸の束1904を受け入れるように構成された円筒形または楕円形または多角形の管の断面であってよく、ナノファイバ糸の束は、神経の再生を促進するためのファイバ間の間隔を提供しながらも、拡張して管1916を満たす。
【0083】
図20は、ナノファイバ糸の束1904が中に配置されている(1228)例示的な管1916の斜視図である。束1904を管1916内に配置する(1228)と、束1904の2つの端部を管2004の外側に残しながら、束1904の中央部分を管内に封入することになる。
図21は、ナノファイバ糸の束1904を封入する管1916の断面図である。ナノファイバ糸は、管1916内に整列され、留まることが示されている。
【0084】
図22~
図25に示すように、ナノファイバ糸の束1904が管1916内に配置されると(1228)、管の両側で束1904の2つの端部が(矢印2204A及び2204Bで示すように)切断され、新しく解放された端部による管の断面を満たすようにナノファイバの束が拡張する(1232)。
図23及び
図25は、管全体に均一に分布したナノファイバを封入する管1916の断面図である。
【0085】
[ナノファイバフォレスト]
本明細書で使用される場合、用語「ナノファイバ」は、1μm未満の直径を有するファイバを意味する。本明細書の実施形態は主にカーボンナノチューブから製造されたものとして記載されるが、グラフェン、ミクロンもしくはナノスケールのグラファイトファイバ及び/またはプレート等の他の炭素同素体、並びに、窒化ホウ素等のナノスケールファイバの他の組成物が、以下に記載する技術を使用して高密度になり得ることは認識されよう。本明細書で使用される場合、用語「ナノファイバ」及び「カーボンナノチューブ」は、炭素原子が一緒に結合して円筒構造を形成する単層カーボンナノチューブ及び/または多層カーボンナノチューブの両方を含む。一部の実施形態では、本明細書で言及されるカーボンナノチューブは、4~10の層を有する。本明細書で使用される場合、「ナノファイバシート」または単に「シート」は、引き抜き加工(ここに引用することによってその全体が本明細書の記載の一部をなすものとする国際公開第2007/015710号に記載されている)によって、シートのナノファイバの縦軸がシートの主面に対して垂直ではなく、シートの主面に対して平行になる(すなわち、「フォレスト」と称されることが多い堆積されたままのシートの形態になる)ように整列されたナノファイバのシートを指す。これは、それぞれ、
図28及び29に示される。
【0086】
カーボンナノチューブの寸法は、使用される生産方法に依存して大きく変わり得る。例えば、カーボンナノチューブの直径は0.4nm~100nmであってよく、その長さは10μm~55.5cmを超える範囲であってよい。カーボンナノチューブはまた、132,000,000:1以上の非常に高いアスペクト比(長さと直径との比)を有することが可能である。広範な寸法可能性を考慮すると、カーボンナノチューブの特性は、高度に調節可能または「調整可能」である。カーボンナノチューブの多くの興味深い特性が確認されているが、実際の適用でカーボンナノチューブの特性を利用するには、カーボンナノチューブの特徴を維持または向上することを可能にするスケーラブルで制御可能な生産方法が必要である。
【0087】
カーボンナノチューブはその特異構造により、カーボンナノチューブを特定用途に適合させる特定の機械的、電気的、化学的、熱的、及び光学的特性を有する。特に、カーボンナノチューブは優れた導電性、高い機械的強度、良好な熱安定性を示し、また、疎水性である。これらの特性に加えて、カーボンナノチューブはまた、有用な光学特性を示し得る。例えば、カーボンナノチューブは、狭く選択された波長で光を放出または検出するために、発光ダイオード(LED)及び光検出器で使用されてよい。カーボンナノチューブはまた、光子輸送及び/またはフォノン輸送に有用であることを証明し得る。
【0088】
本主題の開示の様々な実施形態に従って、ナノファイバ(カーボンナノチューブを含むが、カーボンナノチューブに限らない)は、「フォレスト」と本明細書で称される構成を含む様々な構成で配置することができる。本明細書で使用される場合、ナノファイバまたはカーボンナノチューブの「フォレスト」は、基材上で互いに実質的に平行に配置されたほぼ等しい寸法を有するナノファイバの配列を指す。
図26は、基材上のナノファイバの例示的なフォレストを示す。基材は任意の形状であってよいが、一部の実施形態では、基材は、フォレストが集められる平面を有する。
図26で分かるように、フォレスト内のナノファイバは、高さ及び/または直径がほぼ等しくてよい。
【0089】
本明細書に開示されるナノファイバフォレストは、比較的密であってよい。詳細には、開示のナノファイバフォレストは、少なくとも10億ナノファイバ/cm2の密度を有してよい。一部の特定の実施形態では、本明細書に記載のナノファイバフォレストは、100億/cm2と300億/cm2の間の密度を有してよい。他の例では、本明細書に記載のナノファイバフォレストは、900億ナノファイバ/cm2の範囲の密度を有してよい。フォレストは高密度または低密度の領域を含んでよく、特定の領域はナノファイバが無い場合がある。フォレスト内のナノファイバはまた、ファイバ間接続を示してよい。例えば、ナノファイバフォレスト内の隣り合ったナノファイバは、ファンデルワールス力によって相互に引き付けられてよい。いずれにせよ、フォレスト内のナノファイバの密度は、本明細書に記載する技術を適用することによって増加させることができる。
【0090】
ナノファイバフォレストを製造する方法は、例えば、ここに引用することによってその全体が本明細書の記載の一部をなすものとする国際公開第2007/015710号に記載されている。
【0091】
様々な方法が、ナノファイバ前駆体フォレストを生成するために使用できる。例えば、一部の実施形態では、ナノファイバは、
図27に概略的に示されている高温炉内で成長させてよい。一部の実施形態では、触媒が、基材上に堆積され、反応器に載置され、次に、反応器に供給される燃料化合物に暴露されてよい。基材は800℃またはさらに1000℃よりも高い温度に耐えることができ、不活性物質であってよい。基材は、下にあるシリコン(Si)ウェハ上に配置されたステンレス鋼またはアルミニウムを含んでよいが、他のセラミック基材(例えば、アルミナ、ジルコニア、SiO2、ガラスセラミック)をSiウェハの代わりに使用してよい。前駆体フォレストのナノファイバがカーボンナノチューブである例では、アセチレン等の炭素系化合物を燃料化合物として使用してよい。反応器に導入された後、次に、燃料化合物(複数可)は触媒上に蓄積し始めてよく、基材から上方に成長することにより集合して、ナノファイバのフォレストを形成してよい。反応器はまた、燃料化合物(複数可)及びキャリアガスが反応器に供給され得るガス入口と、消費された燃料化合物及びキャリアガスが反応器から放出され得るガス出口とを含んでよい。キャリアガスの例は、水素、アルゴン、及びヘリウムを含む。これらのガス、具体的には、水素はまた、ナノファイバフォレストの成長を促進するために反応器に導入されてよい。さらに、ナノファイバに組み込まれる予定のドーパントがガス流に加えられてよい。
【0092】
多層ナノファイバフォレストを製造するために使用されるプロセスでは、1つのナノファイバフォレストが基材上に形成され、その後、第1のナノファイバフォレストと接触して第2のナノファイバフォレストが成長する。多層ナノファイバフォレストは、第1のナノファイバフォレストを基材上に形成し、触媒を第1のナノファイバフォレスト上に堆積させ、次に、追加の燃料化合物を反応器に導入し、第1のナノファイバフォレスト上に配置された触媒から第2のナノファイバフォレストの成長を促進すること等による、多くの適切な方法によって形成することができる。適用される成長方法、触媒の種類、及び触媒の場所に応じて、第2のナノファイバ層は第1のナノファイバ層の上に成長し得る、または、例えば水素ガス等で触媒をリフレッシュした後、基材上で直接成長することによって、第1のナノファイバ層の下で成長する。いずれにせよ、第2のナノファイバフォレストは、第1のナノファイバフォレストのナノファイバとほぼ端から端まで整列することができるが、第1のフォレストと第2のフォレストとの間で容易に検出可能な界面がある。多層ナノファイバフォレストは、任意の数のフォレストを含んでよい。例えば、多層前駆体フォレストは、2、3、4、5、またはそれよりも多いフォレストを含んでよい。
【0093】
[ナノファイバシート]
フォレスト構成での配置に加えて、本出願のナノファイバはシート構成で配置されてもよい。本明細書で使用する場合、「ナノファイバシート」、「ナノチューブシート」、または単に「シート」という用語は、ナノファイバが平面内で端から端まで整列するナノファイバの配置を指す。ナノファイバシートの例の図を寸法のラベルを付して
図28に示す。一部の実施形態では、シートは、シートの厚さの100倍を超える長さ及び/または幅を有する。一部の実施形態では、長さ、幅、または、その両方が、シートの平均厚さの10
3、10
6、または、10
9倍を超える。ナノファイバシートは、例えば、約5nm~30μmの厚さ、ならびに意図する用途に適した任意の長さ及び幅を有することができる。一部の実施形態では、ナノファイバシートは、1cm~10メートルの長さ及び1cm~1メートルの幅を有してよい。これらの長さは、単に例示のために提供されている。ナノファイバシートの長さと幅は、ナノチューブ、フォレスト、またはナノファイバシートの物理的または化学的特性ではなく、製造装置の構成によって制約される。例えば、連続プロセスで任意の長さのシートを作成できる。これらのシートは、製造時にロールに巻き付けることができる。
【0094】
図28で分かるように、ナノファイバが端から端まで整列される軸は、ナノファイバ整列の方向と呼ばれる。一部の実施形態では、ナノファイバ整列の方向は、ナノファイバシート全体にわたって連続的であってよい。ナノファイバは必ずしも互いに完全に平行ではなく、ナノファイバの整列の方向は、ナノファイバの整列の方向の平均的または一般的な尺度であると理解されている。
【0095】
ナノファイバシートは、シートを製造することができる任意のタイプの適切なプロセスを使用してアセンブルされてよい。一部の例示的な実施形態では、ナノファイバシートは、ナノファイバフォレストから引き出されてよい。ナノファイバフォレストから引き出されているナノファイバシートの例が
図29に示されている。
【0096】
図29で分かるように、ナノファイバはナノファイバフォレストから横方向に引き出され、次に端から端まで整列させてナノファイバシートを形成してよい。ナノファイバシートがナノファイバフォレストから引き出される実施形態では、フォレストの寸法を制御して、特定の寸法を有するナノファイバシートを形成してよい。例えば、ナノファイバシートの幅は、シートが引き出されたナノファイバフォレストの幅とほぼ等しくてよい。さらに、シートの長さは、例えば、所望のシートの長さが達成されたときに引き出しプロセスを終了することによって制御することができる。
【0097】
ナノファイバシートには、様々な用途に利用できる多くの特性がある。例えば、ナノファイバシートは、調整可能な不透明度、高い機械的強度及び柔軟性、熱伝導性及び電気伝導性を有してよく、そしてまた疎水性を示してよい。シート内のナノファイバの高度な整列を考えると、ナノファイバシートは非常に薄い場合がある。一部の例では、ナノファイバシートは約10nm厚さのオーダーであり(通常の測定許容誤差内で測定)、ほぼ2次元になる。他の例では、ナノファイバシートの厚さは、200nmまたは300nmに達し得る。したがって、ナノファイバシートは、コンポーネントに最小限の追加の厚さを追加する場合がある。
【0098】
ナノファイバフォレストと同様に、ナノファイバシート内のナノファイバは、シートのナノファイバの表面に化学基または元素を追加することにより、処理剤によって機能化されてよく、ナノファイバのみとは異なる化学的活性を提供する。ナノファイバシートの機能化は、既に機能化されたナノファイバに対して行うことができる、または、まだ機能化されていないナノファイバに対して行うこともできる。機能化は、CVD、及び様々なドーピング技術を含むが、これらに限定されない本明細書に記載される任意の技術を使用して行うことができる。
【0099】
ナノファイバフォレストから引き出されたナノファイバシートは、高い純度も有してよく、場合によっては、ナノファイバシートの90%を超える、95%を超える、または99%を超える重量パーセントがナノファイバに起因する。同様に、ナノファイバシートは、90%を超える、95%を超える、99%を超える、または99.9%を超える炭素重量を含んでよい。
【0100】
[他の考察]
本開示の実施形態の前述の記載は、例示の目的で提示されており、網羅的であること、または請求項を開示された正確な形式に限定することを意図していない。当業者は、上記の開示を考慮して、多くの修正及び変形が可能であることを認識することができる。
【0101】
本明細書で使用される言葉は、主に読みやすさ及び指示の目的のために選択されており、その言葉は、本発明の主題を記述または制限するために選択されていない場合がある。したがって、本開示の範囲は、この「発明を実施する形態」によってではなく、本明細書に基づく出願において生じるあらゆる請求項によって制限されることが意図される。したがって、本実施形態の開示は、以下の「特許請求の範囲」に記載されている本発明の範囲の制限ではなく、例示を意図している。