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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-28
(45)【発行日】2024-06-05
(54)【発明の名称】酸触媒及び酸触媒の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 31/34 20060101AFI20240529BHJP
   C08K 3/24 20060101ALI20240529BHJP
   C08K 3/32 20060101ALI20240529BHJP
   C08L 33/14 20060101ALI20240529BHJP
【FI】
B01J31/34 Z
C08K3/24
C08K3/32
C08L33/14
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020148044
(22)【出願日】2020-09-03
(65)【公開番号】P2022042595
(43)【公開日】2022-03-15
【審査請求日】2023-06-20
(73)【特許権者】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100138955
【弁理士】
【氏名又は名称】末次 渉
(72)【発明者】
【氏名】後藤 健彦
(72)【発明者】
【氏名】定金 正洋
【審査官】磯部 香
(56)【参考文献】
【文献】特開昭59-025387(JP,A)
【文献】国際公開第2013/191130(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/071101(WO,A1)
【文献】特開2017-014322(JP,A)
【文献】特開2008-069335(JP,A)
【文献】NEUMANN et al.,Solvent-Anchored Supported Liquid Phase Catalysis: Polyoxometalate-Catalyzed Oxidations,Angewandte Chemie International Edition,1997年09月01日,Vol.36, No.16,p.1738-1740
【文献】ZHENG et al.,Poly(ethylene glycol) nanocomposites of sub-nanometer metal oxide clusters for dynamic semi-solid proton conductive electrolytes,Chem. Sci.,2019年,Vol.10,p.7333-7339
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 31/34
C08K 3/24
C08K 3/32
C08L 33/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオキソメタレート/高分子複合体を含有する酸触媒であって、
前記ポリオキソメタレート/高分子複合体は、
非イオン性のエーテル系高分子化合物と、
水溶性のポリオキソメタレートと、を含み、
前記ポリオキソメタレートに結合するプロトンと前記エーテル系高分子化合物のエーテル基の酸素との水素結合により、前記エーテル系高分子化合物と前記ポリオキソメタレートとが複合化しており
前記酸触媒は水に不溶であり、使用後に分離回収することにより再利用が可能である、
ことを特徴とする酸触媒
【請求項2】
前記ポリオキソメタレートの含有率が55wt%以下である、
ことを特徴とする請求項1に記載の酸触媒
【請求項3】
ポリオキソメタレート/高分子複合体を含有する酸触媒の製造方法であって、
エーテル基を有するモノマーを含有する重合溶液と水溶性のポリオキソメタレートとを混合して前記モノマーを重合させ、
前記ポリオキソメタレートに結合するプロトンと前記エーテル基の酸素とが水素結合によって結合し、エーテル系高分子化合物と前記ポリオキソメタレートとを複合化させることで前記ポリオキソメタレート/高分子複合体を得る
ことを特徴とする酸触媒の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸触媒及び酸触媒の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオキソメタレートは、タングステンやモリブデン、バナジウム等の前周期遷移金属の酸素酸の自己縮合により生成するアニオン性金属酸化物クラスターである。ポリオキソメタレートは高い熱安定性、耐酸化性、強酸性、強酸化力、可逆的多電子酸化還元能等の特長をもつ。そのため、ポリオキソメタレートは、構造体、触媒、医薬、電子化学等、様々な分野で注目されている。
【0003】
ポリオキソメタレートは、なかでも触媒としての利用が広く検討されており、酸触媒・酸化触媒としてポリオキソメタレートを用いた反応系が工業プロセスとして実用化されている。
【0004】
一方で、ポリオキソメタレートは水溶性であるため、均一系触媒として使用すると、使用後の分離回収が困難であり、再利用は難しい。このため、シリカゲル、カチオン性の吸着剤、イオン交換樹脂、ゼオライト等を用いてポリオキソメタレートを固定化する手段が報じられている。シリカゲル等の担体へのポリオキソメタレートの固定化は、担体表面にポリオキソメタレートを吸着させて固定化している。ポリオキソメタレートの触媒として作用する活性点(酸点)の一部が固定化に使用されること、また、担体表面にポリオキソメタレートが凝集してしまうことから、触媒活性が低下してしまう。更に、水溶液中に介在させると表面のポリオキソメタレートが徐々に溶出してしまうことから、安定性にも難がある。
【0005】
また、非特許文献1では、ポリエチレングリコール溶液にリンタングステン酸を加えて乾燥することで、ポリオキソメタレート/高分子複合体が得られることが開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Zhao Zheng, Qianjie Zhou, Mu Li and Panchao Yin;“Poly(ethylene glycol) nanocomposites of subnanometer metal oxide clusters for dynamic semisolid proton conductive electrolytes”; Chem. Sci., 2019, 10, 7333-7339
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非特許文献1のポリオキソメタレート/高分子複合体では、ポリエチレングリコールの末端位置の水素を媒介にした相互作用により、ポリエチレングリコールとリンタングステン酸とが複合化しているが、これを水溶液中に介在させたときにポリエチレングリコールとリンタングステン酸とが安定に複合化状態を保ち得るか否か明らかでない。
【0008】
本発明は上記事項に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、水溶液中に介在させても複合化状態が安定に保たれ得る酸触媒及び酸触媒の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の観点に係る酸触媒は、
ポリオキソメタレート/高分子複合体を含有する酸触媒であって、
前記ポリオキソメタレート/高分子複合体は、
非イオン性のエーテル系高分子化合物と、
水溶性のポリオキソメタレートと、を含み、
前記ポリオキソメタレートに結合するプロトンと前記エーテル系高分子化合物のエーテル基の酸素との水素結合により、前記エーテル系高分子化合物と前記ポリオキソメタレートとが複合化しており
前記酸触媒は水に不溶であり、使用後に分離回収することにより再利用が可能である、
ことを特徴とする。
【0010】
また、前記ポリオキソメタレートの含有率が55wt%以下であることが好ましい。
【0011】
本発明の第2の観点に係る酸触媒の製造方法は、
ポリオキソメタレート/高分子複合体を含有する酸触媒の製造方法であって、
エーテル基を有するモノマーを含有する重合溶液と水溶性のポリオキソメタレートとを混合して前記モノマーを重合させ、
前記ポリオキソメタレートに結合するプロトンと前記エーテル基の酸素とが水素結合によって結合し、エーテル系高分子化合物と前記ポリオキソメタレートとを複合化させることで前記ポリオキソメタレート/高分子複合体を得る
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、水溶液中に介在させても複合化状態が安定に保たれ得る酸触媒及び酸触媒の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】ポリオキソメタレート/高分子複合体において、ポリオキソメタレートとエーテル系高分子化合物との結合状態を説明する図である。
図2】複合体のFTIRスペクトルを示す図である。
図3】リンタングステン酸の4種類の酸素原子を説明する図である。
図4】複合体のXRDスペクトルを示す図である。
図5】複合対中のPTA含有量を示すグラフである。
図6】複合体の呈色反応の結果を示す写真であり、(a)がチモールブルー水溶液、(b)がTEGMAゲルを添加したチモールブルー水溶液、(c)が20wt%PTA複合体を添加したチモールブルー水溶液、(d)が40wt%PTA複合体を添加したチモールブルー水溶液である。
図7】酢酸エチルの残存量を示すグラフである。
図8】酢酸エチルの反応率を示すグラフである。
図9】屈折率の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本実施の形態に係るポリオキソメタレート/高分子複合体は、非イオン性のエーテル系高分子化合物と、水溶性のポリオキソメタレートと、を含んでいる。そして、ポリオキソメタレートのプロトン(H)を介してエーテル系高分子化合物とポリオキソメタレートとが水素結合により複合化した状態である。
【0016】
例として、ポリオキソメタレートがリンタングステン酸、エーテル系高分子化合物がトリエチレングリコールモノメチルエーテルメタクリレートをモノマーとして得られたものである場合の結合状態を図1に示している。ポリオキソメタレートに結合するプロトン(H)を介して、エーテル系高分子化合物のエーテル基の酸素との相互作用、即ち、水素結合によって化学的に結合することによって、エーテル系高分子化合物とポリオキソメタレートとが複合化している。
【0017】
上記のポリオキソメタレート/高分子複合体は、エーテル基を有するモノマーを含有する重合溶液を調製し、この重合溶液にポリオキソメタレートを介在させ、重合反応を行うことで得ることができる。なお、重合溶液の調製、重合反応は公知の手法により行い得る。
【0018】
用いるポリオキソメタレートは水溶性であれば特に制限されず、ケギン型、ドーソン型、アンダーソン型などいずれのポリオキソメタレートであってもよい。また、ポリオキソメタレートを構成する遷移金属として、モリブデン、バナジウム、タングステン、チタン、アルミニウム、ニオブ、タンタル、クロム等が挙げられる。また、一種類の遷移金属から構成されるポリオキソメタレートであっても、複数種のオキソ酸から構成されるヘテロポリオキソメタレートであってもよい。ポリオキソメタレートの具体例として、例えば、リンタングステン酸、リンモリブデン酸、ケイモリブデン酸、リンタングストモリブデン酸、タングストケイ酸等が挙げられる。
【0019】
用いるモノマーは、エーテル基を有する非イオン性のエーテル系モノマーであれば特に制限されない。エーテル基を有するモノマーとして、例えば、式1で表されるものが挙げられる。式1中、Rは、水素又はメチル基、Rはメチル基又はエチル基、nは1~9の整数を表す。式1で表される具体例として、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアクリレート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアクリレート、トリエチレングリコールモノメチルエーテルアクリレート、オリゴエチレングリコールモノメチルエーテルアクリレート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルメタクリレート、トリエチレングリコールモノメチルエーテルメタクリレート、オリゴエチレングリコールモノメチルエーテルメタクリレート等が挙げられる。
【0020】
【化1】
【0021】
また、架橋剤を添加して重合させてもよく、架橋剤を用いる場合、架橋剤がエーテル基を有していれば、主モノマーはエーテル基を有していなくてもよい。エーテル基を有する架橋剤として、例えば、式2で表されるものが挙げられる。式2中、Rは、水素又はメチル基、nは1~9の整数を表す。式2で表される具体例として、例えば、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート等が挙げられる。
【0022】
【化2】
【0023】
ポリオキソメタレート/高分子複合体中のポリオキソメタレートの含有量は、高いほど触媒活性等の観点から望ましく、30wt%以上、より好ましくは40wt%以上であることが好ましい。また、後述の実験結果から55wt%以下であることが好ましい。
【0024】
ポリオキソメタレート/高分子複合体は、熱安定性、耐酸化性、酸化力等に優れたポリオキソメタレートを含有しているため、ポリオキソメタレート/高分子複合体は、酸触媒、酸化触媒等、種々の触媒として有用である。
【0025】
ポリオキソメタレート/高分子複合体は、水に不溶であるため、水溶液中においてもポリオキソメタレートが脱離せず、安定して複合化状態が維持される。このため、水溶液中でポリオキソメタレート/高分子複合体を使用した後、濾過等の固液分離によってポリオキソメタレート/高分子複合体の回収が容易である。したがって、ポリオキソメタレート/高分子複合体は不均一系触媒として利用可能であり、使用後も分離回収して再利用することができる。
【0026】
また、ポリオキソメタレート/高分子複合体は、水に不溶であることから、水溶液中に触媒として介在させた後、所望のタイミングで水溶液中から取り出すことによって、反応を停止させることもでき、反応の制御も容易に行い得る。
【0027】
また、ポリオキソメタレート/高分子複合体では、ポリオキソメタレートと高分子ポリオキソメタレートとの結合部位に、触媒活性を発揮する部位は使われないため、ポリオキソメタレート本来の触媒活性が高く保たれる。
【0028】
また、ポリオキソメタレート/高分子複合体では、ポリオキソメタレート同士との間にエーテル系高分子化合物が介在することから、ポリオキソメタレート/高分子複合体中において、ポリオキソメタレートは凝集せずに、分散して存在している。したがって、ポリオキソメタレートの比表面積が高く保たれ、触媒活性が向上する。
【0029】
更には、ポリオキソメタレート/高分子複合体では、高分子中にポリオキソメタレートが均一に分散していることから、エーテル系高分子化合物が光の透過を損なわない場合、ポリオキソメタレートの含有量を変化させることによって、屈折率を容易に調整できる。このため、ポリオキソメタレート/高分子複合体は光学レンズ等への応用も可能である。
【実施例
【0030】
(ポリオキソメタレート/高分子複合体の合成)
ポリオキソメタレートとしてリンタングステン酸(HPW1240;PTA)、モノマーとしてトリエチレングリコールモノメチルエーテルメタクリレート(TEGMA)、及び、架橋剤としてトリエチレングリコールジメタクリレート(TEGDMA)の混合溶液を内径6mmのチューブに入れ、更に、開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を加えてラジカル重合を開始させた。45℃で24時間重合を行い、ポリオキソメタレート/高分子複合体を得た。
【0031】
複合体は、表1の組成に示すように、PTAの配合量を0wt%、10wt%、20wt%、40wt%、60wt%、80wt%として複数合成した。これらの複合体をそれぞれTEGMAゲル、10wtPTA複合体、20wtPTA複合体、40wtPTA複合体、60wtPTA複合体、80wtPTA複合体と記す。
【0032】
【表1】
【0033】
(FTIR分析)
合成したそれぞれの複合体について、FTIR分析を行った。複合体のFTIRスペクトルを図2に示す。PTAに現れる796cm-1(W-Oc-W)のピークが複合体では820cm-1にシフトしている。これは、複合体内部において、PTAがW-Oc-Wの酸素とTEGMA分子のエーテル構造の酸素間でのプロトン(H)を介した相互作用、即ち水素結合によって、PTAがTEGMAに担持されたことを示している。
【0034】
なお、PTAのW-Oc-Wとは、図3に示すように、PTAを構成する4種類の酸素原子のうちOcで表される位置にある酸素原子のことである。Ocの酸素原子は、ObやOdの酸素原子に比べて、エネルギーの関係でプロトン(H)が吸着しやすく、相互作用後は酸素原子とタングステン原子とのなす角度が変わる。このため、FTIRスペクトルにおいて、796cm-1から820cm-1にピークがシフトして現れている。一方、Oa(1080cm-1)、Ob(888cm-1)、Od(978cm-1)のピークは複合体になってもシフトしておらず、この位置の酸素原子は相互作用に使われていない。
【0035】
(XRD分析)
合成したそれぞれの複合体について、XRD分析を行った。複合体のXRDスペクトルを図4に示す。複合体においては、PTA結晶で見られるピークがほぼ見られない。したがって、複合体中においては、PTAは、凝集して結晶を作ることがなく、複合体中に均一に分散していることがわかる。
【0036】
(熱重量分析)
合成したそれぞれの複合体について、熱重量分析を行い、粒子含有率(複合体中のPTAの重量割合)を測定した。この測定は、合成後の未洗浄の複合体、合成後に洗浄を1回行った複合体、洗浄を2回行った複合体について、それぞれ行った。なお、洗浄は、蒸留水に複合体を入れて24時間(25℃)攪拌することで行った。
【0037】
その結果を図5に示す。10wt%PTA複合体、20wt%PTA複合体、40wt%PTA複合体では、洗浄してもPTAの含有量の低下は見られなかった。一方、60wt%PTA複合体、80wt%PTA複合体については、洗浄を行うことでPTAの含有量がそれぞれ50wt%、55wt%程度にまで低下している。エーテル系高分子化合物に対するPTAの配合割合が高い場合、結合サイトとなるエーテル基が飽和し、PTAが十分に結合しなかったものと考えられる。これらのことから、コストや効率等の観点から、複合体中のPTAの含有量は55wt%以下、又は、50wt%以下とすることが望ましい。
【0038】
(呈色実験)
チモールブルーを添加した水溶液に、TEGMAゲル、20wt%PTA複合体、40wt%PTA複合体をそれぞれ入れ、呈色反応を行った。その結果を図6に示す。図6において、(a)がチモールブルー水溶液、(b)がTEGMAゲルを添加したチモールブルー水溶液、(c)が20wt%PTA複合体を添加したチモールブルー水溶液、(d)が40wt%PTA複合体を添加したチモールブルー水溶液である。
【0039】
TEGMAゲルでは呈色しなかった一方、20wt%PTA複合体、40wt%PTA複合体がピンク色に呈色した。しかし、いずれも水溶液の色に変化はなかった。プロトンがPTAとTEGMAとの相互作用に関与し、20wt%PTA複合体、40wt%PTA複合体からプロトンは水溶液に漏出しなかったことを示しており、20wt%PTA複合体、40wt%PTA複合体はPTAを保持した状態を水中でも安定して維持できている。
【0040】
(酢酸エチルの加水分解実験1)
5wt%の酢酸エチル水溶液(3mL)に、触媒として40%PTA複合体を0.05g添加した。25℃の反応温度を維持し、攪拌しながら酢酸エチルを酢酸とエタノールに分解し、24時間毎に未反応の酢酸エチルの残存量を定量した。
【0041】
また、比較例として、TEGMAゲル(0.03g)、及び、PTA単体(0.02g)を酢酸エチル水溶液に添加した例についても上記と同様に行った。
【0042】
その結果を図7に示す。TEGMAゲルのみの添加では、酢酸エチルの加水分解は全く進んでいないが、40%PTA複合体を添加した場合では、酢酸エチルの加水分解が進行している。そして、40%PTA複合体の添加による分解反応は、同量のPTA単体を添加した場合よりも顕著に進行していることがわかる。これは、40%PTA複合体においては、高分子中にPTAを高濃度に含有していること、且つ、PTAが高分子中に凝集せずに分散していることから、酢酸エチルの拡散速度の低下を補って、反応率が向上したものと言える。
【0043】
(酢酸エチルの加水分解実験2)
5wt%の酢酸エチル水溶液(3mL)を3つ準備し、未洗浄の40%PTA複合体(0.05g)をそれぞれの酢酸エチル水溶液に添加し、上記と同様にして酢酸エチルの分解を行った。1つについては24時間後に、また、1つについては48時間後に酢酸エチル水溶液から40%PTA複合体を取り除いた。残りの1つについては、40%PTA複合体を取り除かずに行った。
【0044】
また、合成後に2回洗浄した40wt%PTA複合体を用い、上記と同様に行った。なお、40wt%PTA複合体の洗浄は、蒸留水に入れて24時間(25℃)攪拌することを2回行った。
【0045】
その結果を図8に示す。合成直後の40wt%PTA複合体と合成後に2回洗浄を行った40wt%PTA複合体とで、酢酸エチルの反応率にはほとんど違いは現れなかった。すなわち、複合体を洗浄しても、複合体からのPTAの脱離はほぼなかったことを示している。また、酢酸エチル水溶液から複合体を取り除いた後では、酢酸エチルの反応はほとんど進行しておらず、PTAが反応溶液中に漏出していないことを示している。したがって、反応溶液から複合体を容易に取り除くことができ、その後の反応を停止させることができ、反応制御を容易に行えることを立証した。
【0046】
(屈折率の測定)
PTAの含有率が異なる複数種のTEGMAモノマー溶液を調製し、屈折率を測定した。そして、その分散液を用いて重合し、PTAを含有するPTA複合体(厚み1mm)を作製し、屈折率を測定した。その結果を図9に示す。
【0047】
TEGMAモノマー溶液の屈折率よりもPTA複合体の屈折率の方が高く、ともにPTA含有率の上昇に従って、屈折率が増加しており、PTA複合体中に、PTAが均一に分散していることがわかる。
そして、PTA複合体は、光の透過を妨げないこと、重金属であるタングステン酸が複合化されることから、高分子の屈折率を制御でき、光学レンズへの応用も可能であることがわかった。
【0048】
(架橋剤のエーテル基の有無)
モノマーとして、エーテル基を有さない2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(AMPS)を用い、そして、架橋剤にエーテル基を有さないN,N’-メチレンビス(アクリルアミド)(MBAA)、また、エーテル基を有するジエチレングリコールジメタクリレート(DGDMA)を用い、表2に示す組成にて、複合体(MBAA複合体、DGDMA複合体)を合成した。
【0049】
【表2】
【0050】
合成したそれぞれの複合体をメタノールで24時間洗浄して未反応物を除去し、室温で乾燥させた。そして、それぞれの複合体中のPTAの含有量を熱重量分析により定量した。
【0051】
更に、メタノール洗浄後の乾燥状態の複合体0.1gを20mLの蒸留水に入れ、4時間攪拌して洗浄した。そして、複合体中のPTA含有量を定量した。その結果を表3に示す。
【0052】
【表3】
【0053】
モノマー及び架橋剤の双方がエーテル基を有さないMBAA複合体に比べ、架橋剤のみがエーテル基を有するDGDMA複合体では、PTAの含有率が優位に高い。高分子中の架橋剤の割合は20%程度であるが、架橋剤がエーテル基を有していることで、PTAが高分子中に保持できることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
ポリオキソメタレート/高分子複合体は、水溶液中に介在させてもポリオキソメタレートが脱離せず安定性に優れるため、種々の水溶液中での反応における酸触媒、酸化触媒等の触媒として利用可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9