(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-28
(45)【発行日】2024-06-05
(54)【発明の名称】ケーキ類用生地及びケーキ類用組成物、並びに前記ケーキ類用生地又は前記ケーキ類用組成物を用いたケーキ類
(51)【国際特許分類】
A21D 2/18 20060101AFI20240529BHJP
A21D 13/00 20170101ALI20240529BHJP
A21D 13/44 20170101ALN20240529BHJP
【FI】
A21D2/18
A21D13/00
A21D13/44
(21)【出願番号】P 2019127105
(22)【出願日】2019-07-08
【審査請求日】2022-07-01
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000187079
【氏名又は名称】昭和産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112874
【氏名又は名称】渡邊 薫
(72)【発明者】
【氏名】黒田 貢二
(72)【発明者】
【氏名】松野 考佐
(72)【発明者】
【氏名】宮沢 いづみ
(72)【発明者】
【氏名】森 彰子
(72)【発明者】
【氏名】白石 詩織
【審査官】石田 傑
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/128873(WO,A1)
【文献】特開2017-093299(JP,A)
【文献】特開2019-135919(JP,A)
【文献】特開2015-195770(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A21D
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エーテル化澱粉と、
α化澱粉と、
小麦粉及び/又は米粉と、
を含有し、
前記エーテル化澱粉
/前記α化澱粉=3~10の割合で含有
し、
穀粉100質量部中に、前記エーテル化澱粉と、前記α化澱粉を、合計で20~60質量部含有する、バッター状のケーキ類用生地
(リン酸架橋澱粉を含む生地を除く)。
【請求項2】
粘度が、3000~30000mPa・sである、請求項1に記載のケーキ類用生地
(リン酸架橋澱粉を含む生地を除く)。
【請求項3】
比重が、0.5~1.0である、請求項1又は2に記載のケーキ類用生地
(リン酸架橋澱粉を含む生地を除く)。
【請求項4】
エーテル化澱粉と、
α化澱粉と、
小麦粉及び/又は米粉と、
膨張剤と、
を含有し、
前記エーテル化澱粉
/前記α化澱粉=3~10の割合で含有
し、
穀粉100質量部中に、前記エーテル化澱粉と、前記α化澱粉を、合計で20~60質量部含有する、バッター状の生地を加熱調理してなるケーキ類用組成物
(リン酸架橋澱粉を含む組成物を除く)。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか一項に記載のケーキ類用生地
(リン酸架橋澱粉を含む生地を除く)、又は、請求項4に記載のケーキ類用組成物
(リン酸架橋澱粉を含む組成物を除く)が用いられた、ケーキ類。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケーキ類用生地に関する。より詳しくは、もちもちした食感とふんわりした食感を両方備えるケーキ類を得るためのケーキ類用生地及びケーキ類用組成物、並びに前記ケーキ類用生地又は前記ケーキ類用組成物を用いたケーキ類に関する。
【背景技術】
【0002】
ケーキ類製品は、その種類やニーズに合わせて、様々な食感を有するものが存在する。例えば、和菓子のようにやわらかく、しっとりとしたもちもち感を有したケーキ類製品は、継続して市場ニーズがある。また、ふんわりとしたやわらかさが求められるケーキ類用製品もある。このように、様々な食感が求められる種々のケーキ類製品について、目的の食感を発揮するために、様々な技術が開発されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、小麦粉45~70重量部、α化小麦粉および/またはα化澱粉10~30重量部、エーテル化澱粉10~30重量部からなる澱粉系原料100重量部に対し、砂糖50~280重量部、食用油脂10~50重量部および膨剤5~10重量部を加えた混合物からなることを特徴とする焼菓子用プレミックスを用いることで、しっとりとしてもちもちした焼菓子を得る技術が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、タピオカ澱粉、ワキシー種由来の澱粉及びワキシー種由来の穀物粉からなる群から選択される1種又は2種以上を15~80質量%含有する原料粉と、酵素処理レシチン、酵素処理全卵及び酵素処理卵黄からなる群から選択される1種又は2種以上とを含むベーカリー食品用混合物を用いることで、もっちりした食感を有するベーカリー食品を得る技術が開示されている。
【0005】
また、特許文献3には、軟質系小麦を原料とする小麦粉であって、1)粗蛋白質量12質量%以下;2)粒径60μm以上の粗粉画分の含有割合が3質量%以上~20質量%未満;3)損傷澱粉量が3.2質量%以下;4)粒径60μm以上の粗粉画分の損傷澱粉量が1.4~2.2%、且つ粒径60μm未満の微粉画分の損傷澱粉量が2.4~3.5%;の物性及び粒度を有することを特徴とする菓子用小麦粉を用いることにより、ふんわりと柔らかで、しっとり感に優れ、口溶けが極めて良好な菓子類を得る技術が開示されている。
【0006】
また、特許文献4には、(A)α化澱粉及び(B)β澱粉を含む澱粉質を含み、更に(C)小麦蛋白質及び(D)油脂から選択される少なくとも一種を含む焼き菓子用組成物であって、(A)と(B)の合計質量に対し、(A)が3~10質量%、(B)が97~90質量%の範囲で含まれており、(A)と(B)の合計量100質量部に対し、(C)は40質量部以下であり、(D)は40質量部以下の範囲で含まれている、上記焼き菓子用組成物を用いることにより、外相はビスケット様に硬質でありながら、内相はスポンジ状の多孔質構造を有する、サクサク感に優れた焼き菓子を得る技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平08-038028号公報
【文献】特開2017-093299号公報
【文献】特開2018-027051号公報
【文献】特開2012-165741号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述の通り、ケーキ類製品について、目的の食感を発揮するために、様々な技術が開発されているが、従来の技術では、もちもちした食感を発揮させるためには、ふんわりした食感が損なわれる傾向にあり、逆に、ふんわりした食感を発揮されるためには、もちもちした食感が損なわれる傾向にあった。
【0009】
そこで、本技術では、もちもちした食感とふんわりした食感を両方備えるケーキ類を得るための技術を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明者らは、ケーキ類のもちもちした食感とふんわりした食感とを両立させる技術について鋭意研究を行った結果、特定の加工澱粉を、特定の比率で用いることにより、もちもちした食感とふんわりした食感を両方備えるケーキ類を得ることに成功し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
即ち、本技術では、まず、エステル化及び/又はエーテル化澱粉と、
α化澱粉と、
小麦粉及び/又は米粉と、
を含有し、
(前記エステル化および/又は前記エーテル化澱粉)/前記α化澱粉=3~10の割合で含有する、ケーキ類用生地を提供する。
本技術では、ケーキ類用生地の粘度を、3000~30000mPa・sとすることができる。
本技術では、ケーキ類用生地の比重を、0.5~1.0とすることができる。
【0012】
本技術では、次に、エステル化及び/又はエーテル化澱粉と、
α化澱粉と、
小麦粉及び/又は米粉と、
膨張剤と、
を含有し、
(前記エステル化および/又は前記エーテル化澱粉)/前記α化澱粉=3~10の割合で含有する、ケーキ類用組成物を提供する。
【0013】
本技術では、更に、本技術に係るケーキ類用生地又は本技術に係るケーキ類用組成物を用いた、ケーキ類を提供する。
【0014】
ここで、本技術に係る技術用語の定義付けを行う。
本技術において、「ケーキ類」とは、バッター状の生地を加熱調理してなる菓子をいう。例えば、スポンジケーキ、ブッセ、パウンドケーキ、ホットケーキ、パンケーキ、ワッフル、マフィン、蒸しパン、及びどら焼きやたい焼き等が挙げられる。
【0015】
本技術において、「穀粉」とは、小麦粉、デュラム小麦粉、ライ麦粉、大麦粉、米粉、大豆粉、オーツ粉、そば粉、ヒエ粉、アワ粉、トウモロコシ粉等の穀粉類(加熱処理したものを含む);澱粉類(加工澱粉類を含む)を含む概念である。即ち、本技術における「穀粉」は、エステル化及び/又はエーテル化澱粉、α化澱粉、及び小麦粉及び/又は米粉を包含し、更に、ケーキ類に一般的に用いることができる穀粉類及び澱粉類を包含する。
【発明の効果】
【0016】
本技術によれば、もちもちした食感とふんわりした食感を両方備えるケーキ類を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための好適な形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0018】
<ケーキ類用生地>
本技術に係るケーキ類用生地は、(1)エステル化及び/又はエーテル化澱粉と、(2)α化澱粉と、(3)小麦粉及び/又は米粉と、を含有する。以下、各成分及び特性について詳細に説明する。
【0019】
(1)エステル化及び/又はエーテル化澱粉
エステル化澱粉は、澱粉分子間のいくつかの水酸基が官能基でアセチル化されている加工澱粉である。馬鈴薯、餅種の馬鈴薯、甘藷、タピオカ、トウモロコシ、餅種のトウモロコシ、アミロース含有量の高いトウモロコシ、サゴ、小麦、ワキシー小麦、米、もち米、豆などを原料とした天然澱粉または前記原料を漂白処理した澱粉に対してアセチル化剤を用いて常法によりアセチル基を導入したものを単独または複数混合して使用することができる。本技術のエステル化澱粉としては、例えば、アセチル化リン酸架橋澱粉、アセチル化アジピン酸架橋澱粉等が挙げられる。また、本技術のエステル化澱粉は、粉末状、糊状など任意の状態で用いることができ、ケーキ類用組成物の取扱い易さの観点から、粉末状がより好ましい。
【0020】
エーテル化澱粉は、澱粉分子間のいくつかの水酸基が官能基でエーテル化されている加工澱粉である。馬鈴薯、餅種の馬鈴薯、甘藷、タピオカ、トウモロコシ、餅種のトウモロコシ、アミロース含有量の高いトウモロコシ、サゴ、小麦、ワキシー小麦、米、もち米、豆などを原料とした天然澱粉または前記原料を漂白処理した澱粉に対してエーテル化剤を用いて常法によりエーテル基を導入したものを単独または複数混合して使用することができる。本技術のエーテル化澱粉としては、例えば、ヒドロキシプロピル澱粉、ヒドロキシプロピルリン酸架橋澱粉等が挙げられる。また、本技術のエーテル化澱粉は、粉末状、糊状など任意の状態で用いることができ、ケーキ類用組成物の取扱い易さの観点から、粉末状がより好ましい。
【0021】
本技術では、ケーキ類用生地に用いるエステル化及び/又はエーテル化澱粉の含有量は、後述するα化澱粉との配合比を満たす限り特に限定されないが、ケーキ類用生地に用いる穀粉100質量部中に、20~75質量部含有させることが好ましく、25~65質量部含有させることがより好ましく、25~45質量部含有させることが更に好ましい。
【0022】
(2)α化澱粉
α化澱粉とは、水分とともに加熱することにより糊化した澱粉を、乾燥した澱粉である。馬鈴薯、餅種(以下、糯種またはワキシーともいう)の馬鈴薯、甘藷、タピオカ、トウモロコシ、餅種のトウモロコシ、アミロース含有量の高いトウモロコシ、サゴ、小麦、ワキシー小麦、米、もち米、豆などを原料とした天然澱粉、前記原料を漂白処理した澱粉、又はこれらの澱粉を加工処理した加工澱粉(エステル化澱粉、エーテル化澱粉等も含む)を常法によってα化したものを単独または複数混合して使用することができる。
【0023】
本技術では、ケーキ類用生地に用いるα化澱粉の含有量は、前述したエステル化及び/又はエーテル化澱粉との後述する配合比を満たす限り特に限定されないが、ケーキ類用生地に用いる穀粉100質量部中に、3~20質量部含有させることが好ましく、4~15質量部含有させることがより好ましく、4.5~10質量部含有させることが更に好ましい。
【0024】
本技術では、エステル化及び/又はエーテル化澱粉と、α化澱粉の配合比を、(前記エステル化および/又は前記エーテル化澱粉)/前記α化澱粉=3~10とすることを特徴とする。後述する実施例で示す通り、(前記エステル化および/又は前記エーテル化澱粉)/前記α化澱粉が3未満であると、ケーキ類のふんわりした食感が損なわれ、(前記エステル化および/又は前記エーテル化澱粉)/前記α化澱粉が10を超えると、ケーキ類のもちもちした食感が損なわれる。
【0025】
エステル化及び/又はエーテル化澱粉と、α化澱粉の配合比は、(前記エステル化および/又は前記エーテル化澱粉)/前記α化澱粉=3~10であれば、本技術の効果を発揮することができるが、好ましくは(前記エステル化および/又は前記エーテル化澱粉)/前記α化澱粉=3~6、より好ましくは(前記エステル化および/又は前記エーテル化澱粉)/前記α化澱粉=3.5~5.8である。
【0026】
また、本技術では、ケーキ類用生地に用いるエステル化及び/又はエーテル化澱粉と、α化澱粉の合計の含有量も、前述した配合比を満たす限り特に限定されないが、ケーキ類用生地に用いる穀粉100質量部中に、エステル化及び/又はエーテル化澱粉と、α化澱粉を、合計で、20~90質量部含有させることが好ましく、30~60質量部含有させることがより好ましく、30~50質量部含有させることが更に好ましい。
【0027】
(3)小麦粉及び/又は米粉
本技術で用いることができる小麦粉は、本技術の効果を損なわない限り特に限定されず、例えば、薄力粉、中力粉、準強力粉、強力粉、デュラムセモリナ、デュラム小麦粉などが挙げられ、これらから1種又は2種以上、自由に選択して用いることができる。また、本技術では、加熱処理された小麦粉を用いることも可能である。
【0028】
本技術で用いることができる米粉は、本技術の効果を損なわない限り特に限定されず、うるち米由来の米粉及びもち米由来の米粉のいずれも用いることができる。米の品種も特に限定されず、ジャポニカ米、インディカ米、ジャバニカ米等のいずれの品種でも用いることができる。また、低アミロース米、高アミロース米、超硬質米等を用いた米粉を用いることもできる。更に、本技術では、加熱処理された米粉を用いることも可能である。
【0029】
本技術では、ケーキ類用生地に用いる小麦粉及び/又は米粉の含有量は、本技術の効果を損なわない限り特に限定されないが、ケーキ類用生地に用いる穀粉100質量部中に、10~75質量部含有させることが好ましく、20~70質量部含有させることがより好ましく、40~70質量部含有させることが更に好ましい。
【0030】
(4)その他
本技術に係るケーキ類用生地は、前述した(1)エステル化及び/又はエーテル化澱粉、(2)α化澱粉、(3)小麦粉及び/又は米粉の他に、従来からケーキ類用生地に用いられている材料や食品添加物を1種又は2種以上、自由に組み合わせて用いることができる。例えば、ライ麦粉、大麦粉、大豆粉、オーツ粉、そば粉、ヒエ粉、アワ粉、トウモロコシ粉等の穀粉類(加熱処理したものを含む/小麦粉、米粉を除く);澱粉類(加工澱粉類を含む/エステル化澱粉、エーテル化澱粉、及びα化澱粉を除く);大豆蛋白質、小麦グルテン、卵粉末、脱脂粉乳等の蛋白素材;植物性油脂、動物性油脂、加工油脂、粉末油脂等の油脂類;食物繊維;澱粉分解物、デキストリン、ぶどう糖、ショ糖、オリゴ糖、マルトース、糖アルコール等の糖質類;食塩、炭酸カルシウム等の無機塩類;膨張剤、増粘剤、乳化剤、酵素製剤、pH調整剤、甘味料、香辛料、調味料、色素、香料等を適宜含有させることができる。
【0031】
(5)粘度
本技術に係るケーキ類用生地の粘度は、本技術の効果を損なわない限り自由に設定することができるが、3000~30000mPa・sに設定することが好ましい。生地の粘度を3000mPa・s以上とすることにより、もちもちした食感及びふんわりした食感を向上させることができる。また、生地の粘度を30000mPa・s以下とすることにより、ケーキ類製造時の作業性を向上させることができる。
【0032】
なお、本技術において、粘度は、下記の方法にて測定した粘度である。
B型粘度計(TVB-10形粘度計、東機産業株式会社製)を用いて、生地温度20℃、回転数12rpmで測定する。ロータは、粘度8000mPa・s未満の場合はM3、粘度8000mPa・s以上の場合はM4を使用して測定する。
【0033】
本技術に係るケーキ類用生地の粘度は、ケーキ類の種類に応じて、適宜調整することができる。例えば、スポンジケーキ、ブッセ、パウンドケーキ、マフィン、及び蒸しパンのようなケーキ類に、本技術に係るケーキ類用生地を用いる場合は、ケーキ類用生地の粘度を、6000~30000mPa・sに設定することがより好ましく、22000~27000mPa・sに設定することが更に好ましい。ケーキ類用生地の粘度をこの範囲に設定することで、スポンジケーキ、ブッセ、パウンドケーキ、マフィン、及び蒸しパンのようなケーキ類を製造する際の加熱焼成時に、緩やかに火抜けさせることができ、生地に水分を多く残し、しっとりした食感を付与し、更に、もちもちした食感及びふんわりした食感を向上させることができる。
【0034】
また、例えば、ホットケーキ、パンケーキ、ワッフル、及びどら焼きやたい焼きのようなケーキ類に、本技術に係るケーキ類用生地を用いる場合は、ケーキ類用生地の粘度を、3000~8000mPa・sに設定することがより好ましく、4000~7000mPa・sに設定することが更に好ましい。ケーキ類用生地の粘度をこの範囲に設定することで、短時間の焼成(例えば、3分以下)でも完全に糊化されるため、ホットケーキ、パンケーキ、ワッフル、及びどら焼きやたい焼きのようなケーキ類を製造する際の加熱焼成時の火通りを向上させることができ、また、製造時に生地が程よく広がるために、薄すぎたり厚すぎたりせずに製造されたケーキ類に程よい厚みを付与し、更に、もちもちした食感及びふんわりした食感を向上させることができる。
【0035】
(6)比重
本技術に係るケーキ類用生地の比重は、本技術の効果を損なわない限り自由に設定することができるが、0.5~1.0に設定することが好ましい。生地の比重を0.5以上とすることにより、もちもちした食感を向上させることができる。また、生地の粘度を1.0以下とすることにより、ふんわりした食感を向上させることができる。
【0036】
本技術に係るケーキ類用生地の比重は、ケーキ類の種類に応じて、適宜調整することができる。例えば、スポンジケーキのような、起泡させるケーキ類に、本技術に係るケーキ類用生地を用いる場合は、ケーキ類用生地の比重を、0.5~0.8に設定することがより好ましく、0.5~0.7に設定することが更に好ましい。一般的なスポンジケーキのように生地を起泡させるケーキ類の場合、その比重は0.3~0.6程度であるが、本技術では、ケーキ類用生地の比重を、前記範囲に設定することで、起泡したケーキ類特有のきめ細かい丸目を有しつつ、軽い口あたりのふんわりした食感に加えて、もちもちした食感をより向上させることができる。
【0037】
また、例えば、パウンドケーキ、マフィン、蒸しパン、ホットケーキ、パンケーキ、ワッフル、及びどら焼きやたい焼きのようなケーキ類に、本技術に係るケーキ類用生地を用いる場合は、ケーキ類用生地の比重を、0.7~1.0に設定することがより好ましい。ケーキ類用生地の比重をこの範囲に設定することで、製造時に生地が程よく広がるために、製造されたケーキ類に程よい厚みを付与し、更に、もちもちした食感及びふんわりした食感を向上させることができる。
【0038】
<ケーキ類用組成物>
本技術に係るケーキ類用組成物は、(1)エステル化及び/又はエーテル化澱粉と、(2)α化澱粉と、(3)小麦粉及び/又は米粉と、(4)膨張剤と、を含有する。なお、(1)エステル化及び/又はエーテル化澱粉、(2)α化澱粉、及び(3)小麦粉及び/又は米粉についての詳細は、前述したケーキ類用生地に用いる(1)エステル化及び/又はエーテル化澱粉、(2)α化澱粉、及び(3)小麦粉及び/又は米粉と同様であるため、ここでは説明を割愛する。
【0039】
(4)膨張剤
本技術に係るケーキ類用組成物に用いることができる膨張剤は、本技術の効果を損なわない限り特に限定されず、一般的なケーキ類に用いることができる膨張剤を1種又は2種以上自由に選択して用いることができる。例えば、ベーキングパウダーを用いることができる。ベーキングパウダーは、一般に、基材として炭酸水素ナトリウム、酸性剤として、酒石酸水素カリウム、第一リン酸カルシウム、第二リン酸カルシウム、酒石酸、焼ミョウバン、フマル酸、フマル酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、グルコノデルタラクトン等を含み、さらに賦形剤として澱粉、穀粉、セルロース等を含むものである。ベーキングパウダーとしては、速効タイプ、中間・持続タイプ、遅効タイプがあり、いずれのタイプを用いてもよく、1種単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0040】
本技術では、ケーキ類用組成物に用いる膨張剤の含有量は、本技術の効果を損なわない限り特に限定されないが、ケーキ類用組成物中に、0.5~8質量部含有させることが好ましく、1~6質量部含有させることがより好ましく、2~5質量部含有させることが更に好ましい。
【0041】
(5)その他
本技術に係るケーキ類用組成物は、前述した(1)エステル化及び/又はエーテル化澱粉、(2)α化澱粉、(3)小麦粉及び/又は米粉、(4)膨張剤の他に、従来からケーキ類用組成物に用いられている材料や食品添加物を1種又は2種以上、自由に組み合わせて用いることができる。例えば、ライ麦粉、大麦粉、大豆粉、オーツ粉、そば粉、ヒエ粉、アワ粉、トウモロコシ粉等の穀粉類(加熱処理したものを含む/小麦粉、米粉を除く);澱粉類(加工澱粉類を含む/エステル化澱粉、エーテル化澱粉、及びα化澱粉を除く);大豆蛋白質、小麦グルテン、卵粉末、脱脂粉乳等の蛋白素材;植物性油脂、動物性油脂、加工油脂、粉末油脂等の油脂類;食物繊維;澱粉分解物、デキストリン、ぶどう糖、ショ糖、オリゴ糖、マルトース等の糖質類;食塩、炭酸カルシウム等の無機塩類;増粘剤、乳化剤、酵素製剤、pH調整剤、甘味料、香辛料、調味料、色素、香料等を適宜含有させることができる。
【0042】
本技術に係るケーキ類用組成物は、少なくとも前述した(1)エステル化及び/又はエーテル化澱粉、(2)α化澱粉、(3)小麦粉及び/又は米粉、(4)膨張剤と、前記材料や食品添加物とを混合して得られるケーキ類用のミックスとして流通させる形態を採用することができる。
【0043】
<ケーキ類>
本技術に係るケーキ類は、前述したケーキ類用生地、又は、前述したケーキ類用組成物を用いることを特徴とする。本技術に係るケーキ類は、前述したケーキ類用生地、又は、前述したケーキ類用組成物を用いているため、もちもちした食感とふんわりした食感を両方備えることを特徴とする。
【0044】
本技術に係るケーキ類の具体例としては、スポンジケーキ、ブッセ、パウンドケーキ、ホットケーキ、パンケーキ、ワッフル、マフィン、蒸しパン、及びどら焼きやたい焼き等が挙げられる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。なお、以下に説明する実施例は、本発明の代表的な実施例の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0046】
なお、各表中の加工澱粉の商品名、製造元は以下の通りである。
*1:SF-α(昭和産業株式会社製)
*2:マツノリンM(松谷化学工業株式会社製)
*3:アルファワキシースターチ(Y)(株式会社Jオイルミルズ製)
*4:松谷ゆり8(松谷化学工業株式会社製)
*5:SF-1450(昭和産業株式会社製)
*6:SF-2900(昭和産業株式会社製)
*7:パインべークCC(松谷化学工業株式会社製)
【0047】
<実験例1>
実験例1では、ケーキ類の一例としてパンケーキを製造した際の、エステル化及び/又はエーテル化澱粉と、α化澱粉と、の配合比の違いや、生地の粘度の違いによる、食感への影響を調べた。
【0048】
(1)ケーキ類用生地の調製
下記表1に示す材料を用いて、ケーキ類用生地を製造した。具体的には、まず表1に示す組成物100質量部、水60質量部、及びグラニュー糖60質量部をミキサーボウルに入れ、ホイッパーを用いて均一になるまで混合した。次いで、水20質量部と、全卵50質量部とを加え、均一になるまで混合して、生地を調製した。
【0049】
(2)ケーキ類用生地の比重及び粘度の測定
調製した各ケーキ類用生地について、下記の方法を用いて、比重及び粘度を測定した。
【0050】
[比重]
100cc容量の容器に、生地を摺り切りいっぱい入れ、生地重量を測定し、生地重量を100ccで除して生地比重を算出した。
【0051】
[粘度]
B型粘度計(TVB-10形粘度計、東機産業株式会社製)を用いて、生地温度20℃、回転数12rpmで測定した。ロータは、粘度8000mPa・s未満の場合はM3、粘度8000mPa・s以上の場合はM4を使用した。
【0052】
(3)ケーキ類の製造
前記で調製した各生地30gを、180℃に加熱したホットプレートで2分間焼成後、反転してさらに20秒焼成して、パンケーキを製造した。
【0053】
(4)評価
製造した各パンケーキのもちもちした食感(もちもち感)及びふんわりした食感(ふんわり感)について、下記の評価基準に基づいて、訓練を受けた専門のパネル5名で合議の上、評点を決定した。
【0054】
[食感(もちもち感)](点)
5 もちもちした食感が非常に強く、粉っぽさを全く感じない
4 もちもちした食感が強く、粉っぽさを感じない
3 もちもちした食感がやや強く、粉っぽさを感じない
2 もちもちした食感がやや弱く、やや粉っぽい
1 もちもちした食感が弱く、粉っぽい
【0055】
[食感(ふんわり感)](点)
5 ふんわりした食感が非常に強い
4 ふんわりした食感が強い
3 ふんわりした食感がやや強い
2 ふんわりした食感がやや弱い
1 ふんわりした食感が弱い
【0056】
(5)結果
食感についての評価結果を下記表1に示す。
【0057】
【0058】
(6)考察
表1に示す通り、(エステル化および/又はエーテル化澱粉)/α化澱粉穀粉が3~10の実施例1~12は、もちもちした食感及びふんわりした食感のいずれの評価も良好であった。一方、(エステル化および/又はエーテル化澱粉)/α化澱粉穀粉が3未満の比較例1は、もちもちした食感及びふんわりした食感のいずれの評価も低かった。また、(エステル化および/又はエーテル化澱粉)/α化澱粉が10を超える比較例2は、ふんわりした食感は有するものの、もちもちした食感の評価が低かった。
【0059】
また、生地の粘度が3000mPa・s未満の比較例3に比べ、生地の粘度が3000~8000mPa・sの範囲の実施例1~12の方が、もちもちした食感及びふんわりした食感のいずれの評価も良好であった。
【0060】
<実験例2>
実験例2では、ケーキ類の一例としてスポンジケーキを製造した際の、エステル化及び/又はエーテル化澱粉と、α化澱粉と、の配合比の違いや、生地の比重の違いによる、食感への影響を調べた。
【0061】
(1)ケーキ類用生地の調製
下記表2に示す材料を用いて、ケーキ類用生地を製造した。具体的には、表2に示す組成物100質量部、グラニュー糖100質量部、全卵170質量部、起泡性乳化油脂9質量部、及び水20質量部をミキサーボウルに入れ、ホイッパーを用いて均一になるまで混合して、生地を調製した。
【0062】
(2)ケーキ類用生地の比重及び粘度の測定
調製した各ケーキ類用生地について、前記実験例1と同様の方法を用いて、比重及び粘度を測定した。
【0063】
(3)ケーキ類の製造
前記で調製した各生地350gを6号型に入れ、180℃に加熱したオーブンで35分間焼成して、スポンジケーキを製造した。
【0064】
(4)評価
製造した各スポンジケーキのもちもちした食感及びふんわりした食感について、前記実験例1と同様の評価基準に基づいて、評価を行った。
【0065】
(5)結果
食感についての評価結果を下記表2に示す。
【0066】
【0067】
(6)考察
表2に示す通り、(エステル化および/又はエーテル化澱粉)/α化澱粉穀粉が3~10の実施例13~21は、もちもちした食感及びふんわりした食感のいずれの評価も良好であった。一方、(エステル化および/又はエーテル化澱粉)/α化澱粉穀粉が3未満の比較例4は、もちもちした食感は有するものの、ふんわりした食感の評価が低かった。また、(エステル化および/又はエーテル化澱粉)/α化澱粉が10を超える比較例5は、もちもちした食感及びふんわりした食感のいずれの評価も低かった。
【0068】
実施例の中で比較すると、生地の比重が0.5未満の比較例6に比べ、生地の比重が0.5~0.8の範囲の実施例13~21の方が、もちもちした食感の評価が良好であった。