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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-28
(45)【発行日】2024-06-05
(54)【発明の名称】ポリイミド系樹脂の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 73/10 20060101AFI20240529BHJP
【FI】
C08G73/10
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019220592
(22)【出願日】2019-12-05
(65)【公開番号】P2020105495
(43)【公開日】2020-07-09
【審査請求日】2022-11-08
(31)【優先権主張番号】P 2018243601
(32)【優先日】2018-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【弁理士】
【氏名又は名称】森住 憲一
(72)【発明者】
【氏名】大久保 絵美
(72)【発明者】
【氏名】西山 奈津美
(72)【発明者】
【氏名】宮本 皓史
【審査官】佐藤 貴浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-151818(JP,A)
【文献】特開2019-143124(JP,A)
【文献】特開2007-231224(JP,A)
【文献】特開2017-186285(JP,A)
【文献】特開2017-008276(JP,A)
【文献】特開2006-182854(JP,A)
【文献】特開昭57-212230(JP,A)
【文献】特開平08-059832(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G73/00-73/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジアミン化合物と3つ以上のカルボニル基を有するカルボン酸化合物とを反応させるステップ(A)を含む中間体(K)を得る工程(I)、
工程(I)の後に反応系の粘度Aを測定する工程(II)、及び
該粘度Aと、該反応系の目標粘度範囲とを比較し、粘度Aが目標粘度範囲であるか否かを確認する工程(III)
を含
前記工程(III)において、粘度Aが目標粘度範囲でない場合に、粘度を目標範囲内に調整する工程(IV)を含み、
前記目標粘度範囲が、目標粘度に対して0.8~1.5倍の粘度範囲であり、前記粘度Aの範囲が2.4~14.2Pa・sである、ポリイミド系樹脂の製造方法。
【請求項2】
工程(I)において、ステップ(A)の後、さらにジカルボン酸化合物を反応させるステップ(B)を含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
工程(III)において、粘度Aが目標粘度範囲未満である場合、粘度を上げて目標粘度範囲に調整する工程(IV’)を含む、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
工程(III)において、粘度Aが目標粘度範囲を超えている場合、粘度を下げて目標粘度範囲に調整する工程(IV”)を含む、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項5】
工程(IV’)において、反応系にジアミン化合物を添加して粘度Aを上げる、請求項に記載の製造方法。
【請求項6】
工程(IV”)において、中間体(K)を分解して粘度Aを下げる、請求項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フレキシブル表示装置等の材料として使用されるポリイミド系樹脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置や有機EL表示装置等の表示装置は、携帯電話やスマートウォッチといった種々の用途に広く活用されている。このような表示装置の前面板としてガラスが用いられてきたが、ガラスは非常に剛直であり、割れやすいため、フレキシブル表示装置の前面板材料としての利用は難しい。ガラスに代わる材料の一つとして、ポリイミド系樹脂があり、該ポリイミド系樹脂を用いた光学フィルムが検討されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-203984号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような光学フィルムに使用されるポリイミド系樹脂は、特定の機械的特性や光学特性を担保するために、特定の分子量に制御する必要がある。しかし、本発明者の検討によれば、原因は不明であるが、何らかの要因により、分子量を制御できず、目標とする分子量又はそれに近い分子量のポリイミド系樹脂を安定して得られない場合があることがわかった。
【0005】
従って、本発明の目的は、分子量を制御できるポリイミド系樹脂の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、ポリイミド系樹脂の製造方法において、中間体(K)を得る工程(I)の後に、反応系の粘度Aを測定する工程(II)、及び、粘度Aと、目標分子量に対応する反応系の目標粘度範囲とを比較し、粘度Aが目標粘度範囲であるか否かを確認する工程(III)を含むと、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
[1]ジアミン化合物と3つ以上のカルボニル基を有するカルボン酸化合物とを反応させるステップ(A)を含む中間体(K)を得る工程(I)、
工程(I)の後に反応系の粘度Aを測定する工程(II)、及び
該粘度Aと、該反応系の目標粘度範囲とを比較し、粘度Aが目標粘度範囲であるか否かを確認する工程(III)
を含む、ポリイミド系樹脂の製造方法。
[2]工程(I)において、ステップ(A)の後、さらにジカルボン酸化合物を反応させるステップ(B)を含む、[1]に記載の製造方法。
[3]工程(III)において、粘度Aが目標粘度範囲でない場合に、粘度を目標範囲内に調整する工程(IV)を含む、[1]又は[2]に記載の製造方法。
[4]工程(III)において、粘度Aが目標粘度範囲未満である場合、粘度を上げて目標粘度範囲に調整する工程(IV’)を含む、[1]~[3]のいずれかに記載の製造方法。[5]工程(III)において、粘度Aが目標粘度範囲を超えている場合、粘度を下げて目標粘度範囲に調整する工程(IV”)を含む、[1]~[3]のいずれかに記載の製造方法。
[6]工程(IV’)において、ジアミン化合物を添加して粘度Aを上げる、[4]に記載の製造方法。
[7]工程(IV”)において、中間体(K)を分解して粘度Aを下げる、[5]に記載の製造方法。
[8]前記目標粘度範囲は、目標粘度に対して0.8~1.5倍の粘度範囲である、[1]~[7]のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の製造方法によれば、ポリイミド系樹脂の分子量を制御することができ、目標とする分子量又はそれに近い分子量のポリイミド系樹脂を安定して得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の製造方法は、ジアミン化合物と3つ以上のカルボニル基を有するカルボン酸化合物とを反応させるステップ(A)を含む中間体(K)を得る工程(I)、工程(I)の後に反応系の粘度Aを測定する工程(II)、及び該粘度Aと、該反応系の目標粘度範囲とを比較し、粘度Aが目標粘度範囲であるか否かを確認する工程(III)を含む。本明細書において、反応系とは、原料や中間体等を反応させている相をいい、溶媒を含む場合には反応溶液を示す。本発明の製造方法により得られるポリイミド系樹脂は、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂前駆体、又はポリアミドイミド樹脂前駆体を意味する。なお、ポリイミド樹脂前駆体、及びポリアミドイミド樹脂前駆体を総称してポリイミド系樹脂前駆体という場合がある。ポリイミド樹脂は、イミド基を含む繰り返し構造単位を含む重合体であり、例えば、ジアミン化合物由来の繰り返し構造単位と、例えばテトラカルボン酸化合物由来の繰り返し構造単位等である3つ以上のカルボニル基を有するカルボン酸化合物由来の繰り返し構造単位とを含む樹脂である。ポリアミドイミド樹脂は、イミド基を含む繰り返し構造単位とアミド基を含む繰り返し構造単位との両方を含む重合体であり、例えば、ジアミン化合物由来の繰り返し構造単位と、例えばトリカルボン酸化合物由来の繰り返し構造単位等である3つ以上のカルボニル基を有するカルボン酸化合物由来の繰り返し構造単位とを含む樹脂や、ジアミン化合物由来の繰り返し構造単位と、例えばテトラカルボン酸化合物由来の繰り返し構造単位等である3つ以上のカルボニル基を有するカルボン酸化合物由来の繰り返し構造単位と、ジカルボン酸化合物由来の繰り返し構造単位とを含む樹脂である。ポリイミド樹脂前駆体は、イミド化によりポリイミド樹脂を製造する前の前駆体を示し、ポリアミドイミド樹脂前駆体は、イミド化によりポリアミドイミド樹脂を製造する前の前駆体を示す。なお、本明細書において、「繰り返し構造単位」を「構成単位」ということがある。
【0010】
<工程(I)>
工程(I)は、ジアミン化合物と3つ以上のカルボニル基を有するカルボン酸化合物とを反応させるステップ(A)を含む中間体(K)を得る工程である。
【0011】
(ステップA)
ステップAで使用するジアミン化合物としては、例えば、非環式又は環式脂肪族ジアミン等の脂肪族ジアミン、芳香族ジアミン、又はこれらの混合物が挙げられる。なお、本実施態様において「芳香族ジアミン」とは、アミノ基が芳香環に直接結合しているジアミンを表し、その構造の一部に脂肪族基又はその他の置換基を含んでいてもよい。この芳香環は単環でも縮合環でもよく、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環及びフルオレン環等が例示されるが、これらに限定されない。また「脂肪族ジアミン」とは、アミノ基が脂肪族基に直接結合しているジアミンを表し、その構造の一部に芳香環、又はその他の置換基を含んでいてもよい。ジアミン化合物は単独又は二種以上組合せて使用できる。
【0012】
本発明の一実施態様において、ジアミン化合物は、例えば、式(1)
【化1】
で表される化合物(以下、ジアミン化合物(1)と称する場合がある)を含むことが好ましい。ジアミン化合物を二種以上使用する場合、ジアミン化合物(1)のXの種類が互いに異なる二種以上のジアミン化合物を用いてよい。
【0013】
式(1)において、Xは、互いに独立に、2価の有機基を表し、好ましくは炭素数4~40の2価の有機基、より好ましくは環状構造を有する炭素数4~40の2価の有機基を表す。環状構造としては、脂環、芳香環、ヘテロ環構造が挙げられる。前記有機基は、有機基中の水素原子が炭化水素基又はフッ素置換された炭化水素基で置換されていてもよく、その場合、炭化水素基及びフッ素置換された炭化水素基の炭素数は好ましくは1~8である。Xとしては、式(10)、式(11)、式(12)、式(13)、式(14)、式(15)、式(16)、式(17)及び式(18)で表される基;それらの式(10)~式(18)で表される基中の水素原子がメチル基、フルオロ基、クロロ基又はトリフルオロメチル基で置換された基;並びに炭素数6以下の鎖式炭化水素基が例示される。
【0014】
【化2】
【0015】
式(10)~式(18)中、*は結合手を表し、
、V及びVは、互いに独立に、単結合、-O-、-S-、-CH-、-CH-CH-、-CH(CH)-、-C(CH-、-C(CF-、-SO-、-CO-又は-N(Q)-を表す。ここで、Qはハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~12の1価の炭化水素基を表す。
1つの例は、V及びVが単結合、-O-又は-S-であり、かつ、Vが-CH-、-C(CH-、-C(CF-又は-SO-である。VとVとの各環に対する結合位置、及び、VとVとの各環に対する結合位置は、それぞれ、各環に対して、好ましくはメタ位又はパラ位、より好ましくはパラ位である。ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~12の1価の炭化水素基としては、式(3)において上記に例示のものが挙げられる。
【0016】
式(10)~式(18)で表される基の中でも、ポリイミド系樹脂を含んでなるフィルムの弾性率、耐屈曲性及び表面硬度を向上しやすい観点から、式(13)、式(14)、式(15)、式(16)及び式(17)で表される基が好ましく、式(14)、式(15)及び式(16)で表される基がより好ましい。また、V、V及びVは、ポリイミド系樹脂を含んでなるフィルムの弾性率、柔軟性、耐屈曲性及び表面硬度を向上しやすい観点から、互いに独立に、単結合、-O-又は-S-であることが好ましく、単結合又は-O-であることがより好ましい。
【0017】
本発明の好適な実施態様において、式(1)中のXは、式(2):
【化3】
[式(2)中、R~Rは、互いに独立に、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、又は炭素数6~12のアリール基を表し、R~Rに含まれる水素原子は、互いに独立に、ハロゲン原子で置換されていてもよく、
*は結合手を表す]
で表される基である。ジアミン化合物として、式(1)中のXが式(2)で表される基である化合物を含むと、ポリイミド系樹脂を含んでなるフィルムは、高い弾性率、耐屈曲性及び光学特性を発現しやすい。
【0018】
式(2)において、R、R、R、R、R、R、R及びRは、互いに独立に、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基又は炭素数6~12のアリール基を表す。
炭素数1~6のアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、2-メチル-ブチル基、3-メチルブチル基、2-エチル-プロピル基、n-ヘキシル基等が挙げられる。
炭素数1~6のアルコキシ基としては、例えばメトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、tert-ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基等が挙げられる。
炭素数6~12のアリール基としては、例えばフェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、ビフェニル基等が挙げられる。
~Rは、互いに独立に、好ましくは水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を表し、より好ましくは水素原子又は炭素数1~3のアルキル基を表し、ここで、R~Rに含まれる水素原子は、互いに独立に、ハロゲン原子で置換されていてもよい。ハロゲン原子としては、例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。R~Rは、互いに独立に、ポリイミド系樹脂を含んでなるフィルムの表面硬度、光学特性、弾性率及び耐屈曲性を向上しやすい観点から、さらに好ましくは水素原子、メチル基、フルオロ基、クロロ基又はトリフルオロメチル基であり、とりわけ好ましくはR、R、R、R、R、及びRが水素原子、R及びRが水素原子、メチル基、フルオロ基、クロロ基又はトリフルオロメチル基であり、とりわけより好ましくはR及びRがメチル基又はトリフルオロメチル基である。
【0019】
本発明の好適な実施態様において、式(2)は、式(2’):
【化4】
で表される。ジアミン化合物として、式(2)中のXが式(2’)で表される基である化合物を含むと、ポリイミド系樹脂を含んでなるフィルムは、ヘイズ及び黄色度を低減しやすく、光学特性を向上しやすい。また、フッ素元素を含有する骨格により、ポリイミド系樹脂の溶媒への溶解性が向上され、樹脂ワニスの粘度を低く抑制しやすい。
【0020】
具体的には、脂肪族ジアミンとしては、例えば、ヘキサメチレンジアミン等の非環式脂肪族ジアミン、並びに1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、ノルボルナンジアミン及び4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタン等の環式脂肪族ジアミン等が挙げられる。これらは単独で又は二種以上を組合せて用いることができる。
【0021】
芳香族ジアミンとしては、例えばp-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、2,4-トルエンジアミン、m-キシリレンジアミン、p-キシリレンジアミン、1,5-ジアミノナフタレン、2,6-ジアミノナフタレン等の、芳香環を1つ有する芳香族ジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルプロパン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,3’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2’-ジメチルベンジジン、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノジフェニル(TFMBと記載することがある)、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-アミノ-3-メチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-アミノ-3-クロロフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-アミノ-3-フルオロフェニル)フルオレン等の、芳香環を2つ以上有する芳香族ジアミンが挙げられる。これらは単独又は2種以上を組合せて使用できる。
【0022】
芳香族ジアミンとしては、好ましくは4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルプロパン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,3’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2’-ジメチルベンジジン、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノジフェニル(TFMB)、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニルであり、より好ましくは4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルプロパン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2’-ジメチルベンジジン、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノジフェニル(TFMB)、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニルである。これらは単独又は二種以上を組合せて使用できる。
【0023】
上記ジアミン化合物の中でも、ポリイミド系樹脂を含んでなるフィルムの高表面硬度、高透明性、高弾性率、高柔軟性、高耐屈曲性及び低着色性の観点からは、ビフェニル構造を有する芳香族ジアミンからなる群から選ばれる1種以上を用いることが好ましい。2,2’-ジメチルベンジジン、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル及び4,4’-ジアミノジフェニルエーテルからなる群から選ばれる1種以上を用いることがより好ましく、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノジフェニル(TFMB)を用いることがさらに好ましい。
【0024】
ステップAで使用するジアミン化合物のうち、式(1)中のXが式(2)で表される基であるジアミン化合物、例えば式(1)中のXが式(2’)で表される基であるジアミン化合物の割合は、ステップAで使用するジアミン化合物の総モル量に対して、好ましくは30モル%以上、より好ましくは50モル%以上、さらに好ましくは70モル%以上、とりわけ好ましくは80モル%以上であり、好ましくは100モル%以下である。式(1)中のXが式(2)で表される基であるジアミン化合物の割合が上記範囲であると、ポリイミド系樹脂を含んでなるフィルムは、フッ素元素を含有する骨格により樹脂の溶媒への溶解性を向上し、樹脂ワニスの粘度を低く抑制することができ、またフィルムの黄色度やヘイズ等を低減でき、光学特性を向上しやすい。なお、式(1)中のXが式(2)で表される基であるジアミン化合物の割合等は、原料の仕込み比から算出してもよい。
【0025】
ステップAで使用する3つ以上のカルボニル基を有するカルボン酸化合物は、好ましくはトリカルボン酸化合物又はテトラカルボン酸化合物であり、より好ましくはテトラカルボン酸化合物である。
【0026】
テトラカルボン酸化合物は、テトラカルボン酸又はテトラカルボン酸誘導体を示す。テトラカルボン酸誘導体としては、テトラカルボン酸の無水物及び酸クロリド等が挙げられ、好ましくはテトラカルボン酸の二無水物が挙げられる。
テトラカルボン酸化合物としては、例えば芳香族テトラカルボン酸及びその無水物、好ましくはその二無水物等の芳香族テトラカルボン酸化合物;脂肪族テトラカルボン酸及びその無水物、好ましくはその二無水物等の脂肪族テトラカルボン酸化合物等が挙げられる。これらのテトラカルボン酸化合物は単独又は二種以上組合せて使用できる。
【0027】
本発明の一実施態様において、テトラカルボン酸化合物は、好ましくはテトラカルボン酸二無水物である。テトラカルボン酸二無水物としては、例えば式(3)
【化5】
で表される化合物(以下、テトラカルボン酸化合物(3)と称する場合がある)であることが好ましい。テトラカルボン酸化合物は単独又は二種以上組合せて使用でき、テトラカルボン酸化合物を二種以上使用する場合、テトラカルボン酸化合物(3)のYの種類が互いに異なる二種以上のテトラカルボン酸化合物を用いてもよい。
【0028】
式(3)において、Yは、互いに独立に、4価の有機基を表し、好ましくは炭素数4~40の4価の有機基を表し、より好ましくは環状構造を有する炭素数4~40の4価の有機基を表す。環状構造としては、脂環、芳香環、ヘテロ環構造が挙げられる。前記有機基は、有機基中の水素原子が炭化水素基又はフッ素置換された炭化水素基で置換されていてもよい有機基であり、その場合、炭化水素基及びフッ素置換された炭化水素基の炭素数は好ましくは1~8である。Yとしては、以下の式(20)、式(21)、式(22)、式(23)、式(24)、式(25)、式(26)、式(27)、式(28)及び式(29)で表される基;それらの式(20)~式(29)で表される基中の水素原子がメチル基、フルオロ基、クロロ基又はトリフルオロメチル基で置換された基;並びに4価の炭素数6以下の鎖式炭化水素基が例示される。
【化6】
【0029】
式(20)~式(29)中、*は結合手を表し、
は、単結合、-O-、-CH-、-CH-CH-、-CH(CH)-、-C(CH-、-C(CF-、-Ar-、-SO-、-CO-、-O-Ar-O-、-Ar-O-Ar-、-Ar-CH-Ar-、-Ar-C(CH-Ar-又は-Ar-SO-Ar-を表す。Arは、水素原子がフッ素原子で置換されていてもよい炭素数6~20のアリーレン基を表し、具体例としてはフェニレン基が挙げられる。
【0030】
式(20)~式(29)で表される基の中でも、フィルムの弾性率、耐屈曲性及び表面硬度を向上しやすい観点から、式(26)、式(28)又は式(29)で表される基が好ましく、式(26)で表される基がより好ましい。また、Wは、光学フィルムの弾性率、耐屈曲性及び表面硬度を向上しやすく、また光学特性を向上しやすい観点から、単結合、-O-、-CH-、-CH-CH-、-CH(CH)-、-C(CH-又は-C(CF-で表される基が好ましく、単結合、-O-、-CH-、-CH(CH)-、-C(CH-又は-C(CF-で表される基がより好ましく、単結合、-C(CH-又は-C(CF-で表される基がさらに好ましい。
【0031】
本発明の好適な実施態様において、式(3)中のYは、式(4)
【化7】
[式(4)中、R~R16は、互いに独立に、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基又は炭素数6~12のアリール基を表し、R~R16に含まれる水素原子は、互いに独立に、ハロゲン原子で置換されていてもよく、*は結合手を表す]
で表される基である。テトラカルボン酸化合物として、式(3)中のYが式(4)で表される基である化合物を含むと、ポリイミド系樹脂を含んでなるフィルムの弾性率、光学特性、耐屈曲性及び表面硬度を向上しやすい。また、樹脂の溶媒への溶解性が向上され、樹脂ワニスの粘度を低く抑制することができ、フィルムの製造が容易となる。
【0032】
式(4)において、好ましくはR、R10、R11、R12、R13、R14、R15及びR16は、互いに独立に、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基又は炭素数6~12のアリール基を表す。炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基又は炭素数6~12のアリール基としては、式(2)における炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基又は炭素数6~12のアリール基として上記に例示のものが挙げられる。R~R16は、互いに独立に、好ましくは水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を表し、より好ましくは水素原子又は炭素数1~3のアルキル基を表し、ここで、R~R16に含まれる水素原子は、互いに独立に、ハロゲン原子で置換されていてもよい。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。R~R16は、互いに独立に、ポリイミド系樹脂を含んでなるフィルムの弾性率、光学特性、耐屈曲性及び表面硬度を向上しやすい観点から、さらに好ましくは水素原子、メチル基、フルオロ基、クロロ基又はトリフルオロメチル基であり、さらにより好ましくはR、R10、R11、R12、R13及びR14が水素原子、R15及びR16が水素原子、メチル基、フルオロ基、クロロ基又はトリフルオロメチル基であり、とりわけ好ましくはR15及びR16がメチル基又はトリフルオロメチル基である。
【0033】
本発明の好適な実施態様において、式(4)は、式(4’):
【化8】
で表される。テトラカルボン酸化合物として、式(4)中のYが式(4’)で表される基である化合物を含むと、ポリイミド系樹脂を含んでなるフィルムは、弾性率、光学特性、耐屈曲性及び表面硬度を高めやすい。また、フッ素元素を含有する骨格により樹脂の溶媒への溶解性が向上され、樹脂ワニスの粘度を低く抑制することができ、フィルムの製造が容易となる。
【0034】
芳香族テトラカルボン酸二無水物の具体例としては、非縮合多環式の芳香族テトラカルボン酸二無水物、単環式の芳香族テトラカルボン酸二無水物及び縮合多環式の芳香族テトラカルボン酸二無水物が挙げられる。非縮合多環式の芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、例えば4,4’-オキシジフタル酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシフェニル)プロパン二無水物、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物(6FDAと記載することがある)、1,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、4,4’-(p-フェニレンジオキシ)ジフタル酸二無水物、4,4’-(m-フェニレンジオキシ)ジフタル酸二無水物が挙げられる。また、単環式の芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、例えば1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸二無水物が挙げられ、縮合多環式の芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、例えば2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物が挙げられる。
【0035】
これらの中でも、好ましくは4,4’-オキシジフタル酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシフェニル)プロパン二無水物、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物(6FDA)、1,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、4,4’-(p-フェニレンジオキシ)ジフタル酸二無水物及び4,4’-(m-フェニレンジオキシ)ジフタル酸二無水物が挙げられ、より好ましくは4,4’-オキシジフタル酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物(6FDA)、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物及び4,4’-(p-フェニレンジオキシ)ジフタル酸二無水物が挙げられる。これらは単独又は二種以上を組合せて使用できる。
【0036】
脂肪族テトラカルボン酸二無水物としては、環式又は非環式の脂肪族テトラカルボン酸二無水物が挙げられる。環式脂肪族テトラカルボン酸二無水物とは、脂環式炭化水素構造を有するテトラカルボン酸二無水物であり、その具体例としては、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物等のシクロアルカンテトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、ジシクロヘキシル-3,3’,4,4’-テトラカルボン酸二無水物及びこれらの位置異性体が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組合せて用いることができる。非環式脂肪族テトラカルボン酸二無水物の具体例としては、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸二無水物、及び1,2,3,4-ペンタンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上を組合せて用いることができる。また、環式脂肪族テトラカルボン酸二無水物及び非環式脂肪族テトラカルボン酸二無水物を組合せて用いてもよい。
【0037】
上記テトラカルボン酸二無水物の中でも、光学フィルムの高表面硬度、高透明性、高柔軟性、高弾性率、高屈曲耐性及び低着色性の観点から、4,4’-オキシジフタル酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物、並びにこれらの混合物が好ましく、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物及び4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物、並びにこれらの混合物がより好ましく、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物(6FDA)がさらに好ましい。
【0038】
ステップAで使用するテトラカルボン酸化合物のうち、式(3)中のYが式(4)で表される基であるテトラカルボン酸化合物、例えば式(3)中のYが式(4’)で表される基であるテトラカルボン酸化合物の割合は、ステップAで使用するテトラカルボン酸化合物の総モル量に対して、好ましくは30モル%以上、より好ましくは50モル%以上、さらに好ましくは70モル%以上、とりわけ好ましくは80モル%以上であり、好ましくは100モル%以下である。式(3)中のYが式(4)で表される基であるテトラカルボン酸化合物の割合が上記範囲内であると、ポリイミド系樹脂を含んでなるフィルムは、弾性率、光学特性、耐屈曲性及び表面硬度を高めやすい。また、フッ素元素を含有する骨格により樹脂の溶媒への溶解性が向上され、樹脂ワニスの粘度を低く抑制することができ、フィルムの製造が容易となる。なお、式(3)中のYが式(4)で表される基であるテトラカルボン酸化合物の割合等は、原料の仕込み比から算出してもよい。
【0039】
また、テトラカルボン酸化合物としては、テトラカルボン酸二無水物が好ましいが、テトラカルボン酸一無水物を使用してもよい。テトラカルボン酸一無水物としては、式(5)
【化9】
で表される化合物(以下、テトラカルボン酸化合物(5)と称する場合がある)等が挙げられる。テトラカルボン酸化合物(5)は単独又は二種以上組合せて使用でき、テトラカルボン酸化合物(5)を二種以上使用する場合、テトラカルボン酸化合物(5)のYの種類が互いに異なる二種以上のテトラカルボン酸化合物(5)を用いてもよい。
【0040】
式(5)において、Yは4価の有機基であり、好ましくは有機基中の水素原子が炭化水素基又はフッ素置換された炭化水素基で置換されていてもよい有機基である。Yとしては、式(20)、式(21)、式(22)、式(23)、式(24)、式(25)、式(26)、式(27)、式(28)又は式(29)で表される基、それらの式(20)~式(29)で表される基中の水素原子がメチル基、フルオロ基、クロロ基又はトリフルオロメチル基で置換された基、並びに4価の炭素数6以下の鎖式炭化水素基が挙げられる。また、R17及びR18は、互いに独立に、-OH、-OMe、-OEt、-OPr、-OBu又は-Clであり、好ましくは-Clである。
【0041】
トリカルボン酸化合物は、トリカルボン酸又はトリカルボン酸誘導体を示し、トリカルボン酸誘導体としては、例えばトリカルボン酸の酸クロリド、無水物及びエステル体などが挙げられる。
【0042】
本発明の一実施態様において、トリカルボン酸化合物としては、例えば式(8)
【化10】
で表される化合物(以下、トリカルボン酸化合物(8)と称する場合がある)等が挙げられる。トリカルボン酸化合物は単独又は二種以上組合せて使用でき、トリカルボン酸化合物を二種以上使用する場合、トリカルボン酸化合物(8)のYの種類が互いに異なる二種以上のトリカルボン酸化合物(8)を用いてもよい。式(8)中、R34は、-OH、-OMe、-OEt、-OPr、-OBu又は-Clであり、好ましくは-Clである。
【0043】
式(8)において、Yは3価の有機基であり、好ましくは有機基中の水素原子が炭化水素基又はフッ素置換された炭化水素基で置換されていてもよい有機基である。Yとしては、式(20)、式(21)、式(22)、式(23)、式(24)、式(25)、式(26)、式(27)、式(28)又は式(29)で表される基の結合手のいずれか1つが水素原子に置き換わった基、並びに3価の炭素数6以下の鎖式炭化水素基が例示される。
【0044】
トリカルボン酸化合物としては、芳香族トリカルボン酸、脂肪族トリカルボン酸及びそれらの誘導体(例えば、酸クロリド、酸無水物等)が挙げられ、その具体例としては、1,3,5-ベンゼントリカルボン酸及びその酸クロリド、1,2,4-ベンゼントリカルボン酸の無水物;2,3,6-ナフタレントリカルボン酸-2,3-無水物;フタル酸無水物と安息香酸とが単結合、-O-、-CH-、-C(CH-、-C(CF-、-SO-又はフェニレン基で連結された化合物が挙げられる。これらのトリカルボン酸化合物は単独又は二種以上組合せて使用できる。
【0045】
本発明の一実施態様において、工程(I)(ステップ(A))で反応させる3つ以上のカルボニル基を有するカルボン酸化合物の使用量は、所望とするポリイミド系樹脂における構成単位の比率に応じて適宜選択でき、工程(I)(ステップ(A))で反応させるジアミン化合物の総量を100モルとしたときに、好ましくは1モル以上、より好ましくは5モル以上、さらに好ましくは10モル以上であり、好ましくは150モル以下、より好ましくは100モル以下、さらに好ましくは80モル以下、とりわけ好ましくは50モル以下である。3つ以上のカルボニル基を有するカルボン酸化合物の使用量が上記範囲内であると、ポリイミド系樹脂の分子量を制御しやすい。また、ポリイミド系樹脂を含んでなるフィルムの耐屈曲性を向上しやすい。なお、本発明の製造方法が工程(IV’)を含む場合、工程(I)で反応させる3つ以上のカルボニル基を有するカルボン酸化合物の使用量は、工程(I)及び工程(IV’)で反応させるジアミン化合物の総量を基準とすることができる。
【0046】
本発明の製造方法が工程(IV’)を含む場合、工程(I)(ステップ(A))で反応させるジアミン化合物の使用量は、工程(I)及び工程(IV’)で反応させるジアミン化合物の総量を100モルとしたときに、好ましくは80モル以上、より好ましくは85モル以上、さらに好ましくは90モル以上、さらにより好ましくは95モル以上、とりわけ好ましくは98モル以上であり、好ましくは99.99モル以下である。工程(I)で反応させるジアミン化合物の使用量が上記の範囲内であると、ポリイミド系樹脂の分子量を制御しやすく、また、ポリイミド系樹脂を含んでなるフィルムの耐屈曲性をより向上しやすい。
【0047】
工程(I)における反応は、反応に不活性な溶媒中で行うことが好ましい。溶媒としては、反応に影響を与えない限り特に限定されないが、例えば、水、メタノール、エタノール、エチレングリコール、イソプロピルアルコール、プロピレングリコール、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールブチルエーテル、1-メトキシ-2-プロパノール、2-ブトキシエタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のアルコール系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル、エチレングリコールメチルエーテルアセテート、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、乳酸エチル等のエステル系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、2-ヘプタノン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素溶媒;エチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素溶媒;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素溶媒;アセトニトリル等のニトリル系溶媒;テトラヒドロフラン及びジメトキシエタン等のエーテル系溶媒;クロロホルム及びクロロベンゼン等の塩素含有溶媒;N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド等のアミド系溶媒;ジメチルスルホン、ジメチルスルホキシド、スルホラン等の含硫黄系溶媒;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート系溶媒;及びそれらの組合せなどが挙げられる。これらの中でも、ジアミン化合物及び3つ以上のカルボニル基を有するカルボン酸化合物、好ましくはテトラカルボン酸化合物の溶解性が良好であり、ポリイミド系樹脂の分子量を制御しやすい観点から、アミド系溶媒を好適に使用できる。
【0048】
溶媒の使用量は、ジアミン化合物と3つ以上のカルボニル基を有するカルボン酸化合物との総量1質量部に対して、好ましくは0.5~30質量部、より好ましくは1~20質量部、さらに好ましくは5~15質量部である。溶媒の含有量が上記の範囲内であると、反応系の粘度を制御する観点から有利であり、ポリイミド系樹脂の分子量を制御しやすい。
【0049】
溶媒を使用する場合、ジアミン化合物及び3つ以上のカルボニル基を有するカルボン酸化合物のいずれか一方を、溶媒に溶解させた溶液に、他方を添加して撹拌等することで反応させてもよいし、ジアミン化合物と3つ以上のカルボニル基を有するカルボン酸化合物とを別々に溶媒に溶解させて溶液を得た後、それらの溶液を混合及び撹拌等することで反応させてもよいし、溶媒に対して、両方を一緒に添加して撹拌等することで反応させてもよい。
【0050】
ステップ(A)の反応温度は、特に限定されないが、例えば-5~100℃、好ましくは0~50℃、より好ましくは5~30℃であってよい。反応時間は、例えば1分~72時間、好ましくは10分~24時間、より好ましくは30分~10時間であってよい。また、反応は空気中又は例えば窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気で撹拌しながら行ってよく、常圧下、加圧下又は減圧下で行ってもよい。好ましい実施態様では、常圧及び/又は前記不活性ガス雰囲気下、撹拌しながら行う。
【0051】
工程(I)がステップ(A)で構成されている場合、得られる中間体(K)は、ジアミン化合物由来の構成単位と、3つ以上のカルボニル基を有するカルボン酸化合物由来の構成単位とを有する。本発明の好ましい態様では、中間体(K)は、ジアミン化合物(1)とテトラカルボン酸化合物(3)とが反応して得られる式(A)で表される繰り返し構造単位を含む。
【化11】
[式(A)中、Gは式(3)中のYと同じであり、
は式(1)中のXと同じである]
【0052】
ジアミン化合物(1)及び/又はテトラカルボン酸化合物(3)が二種以上ある場合、中間体(K)は、式(A)で表される繰り返し構造単位を二種以上有する。なお、ジアミン化合物由来の構成単位とテトラカルボン酸化合物由来の構成単位とを有する中間体(K)を中間体(K-1)ということがある。
【0053】
本発明の一実施態様において、工程(I)は、ステップ(A)の後、さらにジカルボン酸化合物を反応させるステップ(B)を含んでいてもよい。
【0054】
(ステップB)
ステップ(B)で使用するジカルボン酸化合物は、ジカルボン酸又はジカルボン酸誘導体を示し、ジカルボン酸誘導体としては、例えば該ジカルボン酸の酸クロリドやエステル体などが挙げられる。本発明の一実施態様において、ジカルボン酸化合物としては、例えば、式(6)
【化12】
で表される化合物(以下、ジカルボン酸化合物(6)と称する場合がある)であることが好ましい。ジカルボン酸化合物は単独又は二種以上組合せて使用でき、ジカルボン酸化合物を二種以上使用する場合、ジカルボン酸化合物(6)のWの種類が互いに異なる二種以上のジカルボン酸化合物(6)を用いてよい。式(6)中、R19及びR20は、互いに独立に、-OH、-OMe、-OEt、-OPr、-OBu又は-Clであり、好ましくは-Clである。
【0055】
式(6)において、Wは2価の有機基であり、好ましくは炭素数1~8の炭化水素基又はフッ素置換された炭素数1~8の炭化水素基で置換されていてもよい、炭素数4~40の2価の有機基であり、より好ましくは炭素数1~8の炭化水素基又はフッ素置換された炭素数1~8の炭化水素基で置換されていてもよい、環状構造を有する炭素数4~40の2価の有機基である。環状構造としては、脂環、芳香環、ヘテロ環構造が挙げられる。Wの有機基として、式(20)、式(21)、式(22)、式(23)、式(24)、式(25)、式(26)、式(27)、式(28)及び式(29)で表される基の結合手のうち、隣接しない2つが水素原子に置き換わった基及び炭素数6以下の2価の鎖式炭化水素基が例示される。ポリイミド系樹脂を含んでなるフィルムの黄色度を抑制(YI値を低減)しやすい観点から、式(20)~式(28)で表される基、及び、チオフェン環骨格を有する基が好ましい。
【0056】
Wの有機基としては、式(20’)、式(21’)、式(22’)、式(23’)、式(24’)、式(25’)、式(26’)、式(27’)、式(28’)及び式(29’):
【化13】
[式(20’)~式(29’)中、W及び*は、式(20)~式(29)において定義する通りである]
で表される2価の有機基がより好ましい。なお、式(20)~式(29)及び式(20’)~式(29’)における環上の水素原子は、炭素数1~8の炭化水素基、フッ素置換された炭素数1~8の炭化水素基、炭素数1~6のアルコキシ基、又はフッ素置換された炭素数1~6のアルコキシ基で置換されていてもよい。
【0057】
ジカルボン酸化合物が、式(6)中のWが上記の式(20’)~式(29’)のいずれかで表される化合物を含む場合、特に式(6)中のWが後述する式(6a)で表される化合物を含む場合、ジカルボン酸化合物は、式(6)中のWが式(6a)で表される化合物に加えて、次の式(d1):
【化14】
[式(d1)中、Rは、互いに独立に、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基又は炭素数6~12のアリール基を表し、
は、R又は-C(=O)Rを表し、
は、互いに独立に、-OH、-OMe、-OEt、-OPr、-OBu又は-Clを表し、
*は結合手を表す]
で表される化合物(以下、化合物(d1)ということがある)をさらに含むことが、ワニスの成膜性を高めやすく、ポリイミド系樹脂を含んでなるフィルムの均一性を高めやすい観点から好ましい。
【0058】
において、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基及び炭素数6~12のアリール基としては、それぞれ、式(2)における炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基又は炭素数6~12のアリール基として例示のものが挙げられる。化合物(d1)としては、具体的には、R及びRがいずれも水素原子である化合物、Rがいずれも水素原子であり、Rが-C(=O)Rである化合物等が挙げられる。
【0059】
本発明におけるジカルボン酸化合物は、式(6)中のWとして複数種のWを含んでよく、複数種のWは、互いに同一であっても異なっていてもよい。特に、ポリイミド系樹脂を含んでなるフィルムの光学特性、弾性率及び耐屈曲性を高めやすい観点から、式(6)中のWが好ましくは式(6a):
【化15】
[式(6a)中、R及びRは、互いに独立に、ハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、又は炭素数6~12のアリール基を表し、R及びRに含まれる水素原子は、互いに独立に、ハロゲン原子で置換されていてもよく、
A及び*は、それぞれ式(7b)中のA及び*と同じであり、
mは0~4の整数であり、
tは0~4の整数であり、
uは0~4の整数である]
で表され、より好ましくは式(7a):
【化16】
[式(7a)中、R21~R24は、互いに独立に、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基又は炭素数6~12のアリール基を表し、R21~R24に含まれる水素原子は、互いに独立に、ハロゲン原子で置換されていてもよく、
m2は1~4の整数であり、
*は結合手を表す]
で表される基である。ジカルボン酸化合物として、式(6)中のWが式(7a)で表される基である化合物を含むと、ポリイミド系樹脂を含んでなるフィルムが優れた弾性率、耐屈曲性及び光学特性を発現しやすい。なお、式(6)中のWが式(7a)で表される基である化合物及び式(6)中のWが式(6a)で表される基である化合物を、それぞれジカルボン酸化合物(7a)及びジカルボン酸化合物(6a)ということがある。
【0060】
式(6a)において、各ベンゼン環の結合手は、-A-を基準に、オルト位、メタ位又はパラ位のいずれに結合していてもよく、好ましくはメタ位又はパラ位に結合していてもよい。R及びRは、互いに独立に、ハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、又は炭素数6~12のアリール基を表す。式(6a)中のt及びuは0であることが好ましいが、t及び/又はuが1以上である場合、R及びRは、互いに独立に、好ましくは炭素数1~6のアルキル基を表し、より好ましくは炭素数1~3のアルキル基を表す。式(6a)中のR及びRにおいて、ハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基及び炭素数6~12のアリール基としては、それぞれ、式(2)におけるハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基又は炭素数6~12のアリール基として例示のものが挙げられる。
【0061】
式(6a)中のt及びuは、互いに独立に、0~4の整数であり、好ましくは0~2の整数、より好ましくは0又は1、さらに好ましくは0である。
【0062】
式(6a)において、mは、0~4の範囲の整数であり、mがこの範囲内であると、ポリイミド系樹脂を含んでなるフィルムの耐屈曲性や弾性率が良好である。また、式(6a)において、mは、好ましくは0~3の範囲の整数、より好ましくは0~2の範囲の整数、さらに好ましくは0又は1、とりわけ好ましくは0である。mがこの範囲内であると、ポリイミド系樹脂を含んでなるフィルムの耐屈曲性や弾性率が良好であると同時に、原料の入手性が比較的良好である。mが0である式(6a)で表される化合物は、例えばテレフタル酸又はイソフタル酸又はこれらの誘導体であり、該化合物は、式(6a)中のmが0及びuが0である化合物であることが好ましい。また、ジカルボン酸化合物は、式(6)中のWが式(6a)で表される化合物を1種又は2種類以上含んでいてもよく、ポリイミド系樹脂を含んでなるフィルムの弾性率及び耐屈曲性の向上、黄色度(YI値)低減の観点から、mの値が異なる2種類以上の、好ましくはmの値の異なる2種類の化合物を含んでいてもよい。
【0063】
ポリイミド系樹脂を含んでなるフィルムの弾性率及び耐屈曲性の向上、黄色度(YI値)低減の観点から、式(6a)中のmが0である式(6a)で表される化合物を含むことが好ましく、該化合物に加えてmが1である式(6a)で表される化合物をさらに含むことがより好ましい。
【0064】
式(7a)において、R21、R22、R23及びR24は、互いに独立に、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基又は炭素数6~12のアリール基を表す。炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基又は炭素数6~12のアリール基としては、式(2)における炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基又は炭素数6~12のアリール基として上記に例示のものが挙げられる。ポリイミド系樹脂を含んでなるフィルムの表面硬度、柔軟性及び耐屈曲性を向上しやすい観点から、R21~R24は、互いに独立に、好ましくは水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を表し、より好ましくは水素原子又は炭素数1~3のアルキル基を表し、さらに好ましくは水素原子を表す。ここで、R21~R24に含まれる水素原子は、互いに独立に、ハロゲン原子で置換されていてもよい。
【0065】
式(7a)において、ポリイミド系樹脂を含んでなるフィルムの耐屈曲性及び弾性率を高めやすい観点から、m2は、好ましくは1~3の整数、より好ましくは1又は2、さらに好ましくは1である。R21~R24が全て水素原子であると、ポリイミド系樹脂を含んでなるフィルムの弾性率及び耐屈曲性向上の点で有利である。
【0066】
本発明の好適な実施態様において、ポリイミド系樹脂を含んでなるフィルムが良好な耐屈曲性を発現しやすい観点から、ジカルボン酸化合物は、2つ以上の芳香族炭化水素環が単結合又は芳香族基を除く二価の基で連結された芳香族ジカルボン酸化合物を含む。芳香族炭化水素環としては、例えばベンゼン環等の単環式炭化水素環;ナフタレン等の縮合二環式炭化水素環、ビフェニル等の環集合炭化水素環等の多環式炭化水素環が挙げられ、好ましくはベンゼン環である。
【0067】
具体的には、2つ以上の芳香族炭化水素環が単結合又は芳香族基を除く二価の基で連結された芳香族ジカルボン酸化合物は、式(6)において、Wが、式(7b)
【化17】
[式(7b)中、R25~R32は、互いに独立に、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基又は炭素数6~12のアリール基を表し、R25~R32に含まれる水素原子は、互いに独立にハロゲン原子で置換されていてもよく、
Aは、互いに独立に、単結合、-O-、-CH-、-CH-CH-、-CH(CH)-、-C(CH-、-C(CF-、-SO-、-S-、-CO-又は-N(R33)-を表し、
33は水素原子、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~12の1価の炭化水素基を表し、
は1~4の整数であり、
*は結合手を表す]
で表される基である化合物である。ジカルボン酸化合物として、式(6)中のWが式(7b)で表される基である化合物を含むと、ポリイミド系樹脂を含んでなるフィルムが優れた弾性率、耐屈曲性及び光学特性を発現しやすい。なお、式(6)中のWが式(7b)で表される基である化合物をジカルボン酸化合物(7b)ということがある。
【0068】
式(7b)及び式(6a)において、Aは、互いに独立に、単結合、-O-、-CH-、-CH-CH-、-CH(CH)-、-C(CH-、-C(CF-、-SO-、-S-、-CO-又は-N(R33)-を表し、ポリイミド系樹脂を含んでなるフィルムの弾性率及び耐屈曲性を向上しやすい観点から、好ましくは-O-又は-S-、より好ましくは-O-を表す。炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基又は炭素数6~12のアリール基としては、式(2)における炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基又は炭素数6~12のアリール基として上記に例示のものが挙げられる。ポリイミド系樹脂を含んでなるフィルムの表面硬度、柔軟性及び耐屈曲性を向上しやすい観点から、R25~R32は、互いに独立に、好ましくは水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を表し、より好ましくは水素原子又は炭素数1~3のアルキル基を表し、さらに好ましくは水素原子を表す。ここで、R25~R32に含まれる水素原子は、互いに独立に、ハロゲン原子で置換されていてもよい。R33は水素原子、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~12の1価の炭化水素基を表す。炭素数1~12の1価の炭化水素基としては、例えばメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、2-メチル-ブチル基、3-メチルブチル基、2-エチル-プロピル基、n-ヘキシル、n-ヘプチル基、n-オクチル基、tert-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基等が挙げられ、これらはハロゲン原子で置換されていてもよい。前記ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などが挙げられる。mが2~4である場合、Aは同一であっても異なっていてもよい。
【0069】
式(7b)において、mは、1~4の整数であり、mがこの範囲であると、ポリイミド系樹脂を含んでなるフィルムの耐屈曲性や弾性率が良好になりやすい。また、式(7b)において、mは、好ましくは1~3の整数、より好ましくは1又は2、さらに好ましくは1であり、mがこの範囲内であると、光学フィルムの耐屈曲性や弾性率が良好になりやすい。
【0070】
ポリイミド系樹脂を含んでなるフィルムの弾性率及び耐屈曲性の向上、黄色度(YI値)低減の観点から、ステップ(B)におけるジカルボン酸化合物として、ジカルボン酸化合物(7a)又は(7b)を使用することが好ましく、ジカルボン酸化合物(7a)と、ジカルボン酸化合物(7b)とを併用することがより好ましい。
【0071】
本発明のより好適な実施態様において、式(7a)は式(7a’):
【化18】
で表される。また、式(7b)は式(7b’):
【化19】
で表される。ジカルボン酸化合物として、式(6)中のWが式(7a’)で表される基である化合物又は式(7b’)で表される基である化合物、又は、これらの両方を使用すると、弾性率及び耐屈曲性がより向上されたフィルムが得られやすい。
【0072】
ジカルボン酸化合物としては、芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸及びそれらの類縁の酸クロリド化合物、酸無水物等が挙げられ、2種以上を組合せて用いてもよい。より具体的には、テレフタル酸;イソフタル酸;ナフタレンジカルボン酸;4,4’-ビフェニルジカルボン酸;3,3’-ビフェニルジカルボン酸;炭素数8以下である鎖式炭化水素、のジカルボン酸化合物及び2つの安息香酸が単結合、-CH-、-C(CH-、-C(CF-、-SO-又はフェニレン基で連結された化合物並びに、それらの酸クロリド化合物が挙げられる。これらのジカルボン酸化合物の中でも、ポリイミド系樹脂を含んでなるフィルムの弾性率及び耐屈曲性を向上しやすい観点から、4,4’-オキシビス安息香酸、テレフタル酸又はそれらの酸クロリドが好ましく、上記の通り、4,4’-オキシビス(ベンゾイルクロリド)及びテレフタロイルクロリドがより好ましく、4,4’-オキシビス(ベンゾイルクロリド)とテレフタロイルクロリドとを組合せて用いることがさらに好ましい。
【0073】
工程(I)がステップ(B)を含む場合、ステップ(A)で得られた中間体(K-1)を単離してステップ(B)に供してもよいが、通常、単離せずに連続してステップ(B)を行う。
【0074】
本発明の好適な実施態様において、工程(I)(ステップ(B))で反応させるジカルボン酸化合物の使用量は、所望とするポリイミド系樹脂の構成単位の比率に応じて適宜選択でき、例えば、工程(I)(ステップ(A))で反応させるジアミン化合物の総量を100モルとしたときに、好ましくは5モル以上、より好ましくは20モル以上、さらに好ましくは30モル以上、さらにより好ましくは40モル以上、とりわけ好ましくは50モル以上、とりわけより好ましくは60モル以上であり、好ましくは95モル以下、より好ましくは90モル以下、さらに好ましくは85モル以下、とりわけ好ましくは80モル以下である。ジカルボン酸化合物の使用量が上記範囲内であると、ポリイミド系樹脂の分子量を制御しやすい。また、ポリイミド系樹脂を含んでなる光学フィルムの弾性率及び耐屈曲性を向上しやすい。なお、本発明の製造方法が工程(IV’)を含む場合、工程(I)で反応させるジカルボン酸化合物の使用量は、工程(I)及び工程(IV’)で反応させるジアミン化合物の総量を基準とすることができる。
【0075】
本発明の好適な実施態様において、工程(I)(ステップ(B))で使用するジカルボン酸化合物のうち、ジカルボン酸化合物(6a)の割合は、工程(I)で使用するジカルボン酸化合物の総モル量に対して、好ましくは30モル%以上、より好ましくは50モル%以上、さらに好ましくは70モル%以上、とりわけ好ましくは80モル%以上であり、好ましくは100モル%以下である。ジカルボン酸化合物(6a)の割合が上記範囲内であると、ポリイミド系樹脂の分子量を制御する観点から有利である。また、ポリイミド系樹脂を含んでなるフィルムは、弾性率、光学特性、耐屈曲性及び表面硬度を高めやすい。さらに、フッ素元素を含有する骨格により樹脂の溶媒への溶解性が向上され、樹脂ワニスの粘度を低く抑制することができ、フィルムの製造が容易となる。なお、ジカルボン酸化合物(6a)の割合は、原料の仕込み比から算出してもよい。
【0076】
本発明の好適な実施態様において、工程(I)(ステップ(B))で使用するジカルボン酸化合物のうち、ジカルボン酸化合物(7a)と(7b)との合計割合は、工程(I)で使用するジカルボン酸化合物の総モル量に対して、好ましくは30モル%以上、より好ましくは50モル%以上、さらに好ましくは70モル%以上、とりわけ好ましくは80モル%以上であり、好ましくは100モル%以下である。ジカルボン酸化合物(7a)と(7b)との合計割合が上記範囲内であると、ポリイミド系樹脂の分子量を制御する観点から有利である。また、ポリイミド系樹脂を含んでなるフィルムは、弾性率、光学特性、耐屈曲性及び表面硬度を高めやすい。さらに、フッ素元素を含有する骨格により樹脂の溶媒への溶解性が向上され、樹脂ワニスの粘度を低く抑制することができ、フィルムの製造が容易となる。なお、ジカルボン酸化合物(7a)と(7b)との合計割合は、原料の仕込み比から算出してもよい。
【0077】
本発明の好適な実施態様において、ジカルボン酸化合物として、ジカルボン酸化合物(7a)と(7b)とを併用することが好ましい。ジカルボン酸化合物(7b)の使用量は、ジカルボン酸化合物(7a)1モルに対して、好ましくは0.01モル以上、より好ましくは0.05モル以上、さらに好ましくは0.1モル以上であり、好ましくは20モル以下、より好ましくは15モル以下、さらに好ましくは10モル以下、さらにより好ましくは1モル以下、とりわけ好ましくは0.5モル以下、とりわけより好ましくは0.3モル以下である。ジカルボン酸化合物(7b)の使用量が上記範囲内であると、ポリイミド系樹脂の分子量を制御する観点から有利であり、また、成膜後のフィルムが耐屈曲性と弾性率を両立しやすい。
【0078】
本発明の一実施態様において、ステップ(B)では、溶媒をさらに添加してもよい。ステップ(B)で溶媒を添加することにより、反応系の急激な粘度上昇を抑制し、均一に撹拌可能な状態を長く維持することができる。そのため、十分に重合反応を進行することができ、ポリイミド系樹脂の分子量を増加させやすく、また分子量を制御する観点からも有利である。添加する溶媒としては、例えば、(ステップ(A))の項に例示されたものが挙げられ、これらの溶媒は単独又は二種以上組合せて使用できる。溶解性が良く、ポリイミド系樹脂の分子量を増加又は制御しやすい観点からは、アミド系溶媒を好適に使用できる。ステップ(B)で添加する溶媒は、ステップ(A)で使用する溶媒と異なっていてもよいが、分子量を増加又は制御しやすい観点から、同一であることが好ましい。溶媒は、一度に添加してもよく、複数回にわけて分割添加してもよい。
【0079】
ステップ(B)で添加する溶媒の使用量は、ステップ(B)で使用するジカルボン酸化合物1質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは5質量部以上、さらに好ましくは10質量部以上、とりわけ好ましくは20質量部以上であり、好ましくは300質量部以下、より好ましくは200質量部以下、さらに好ましくは100質量部以下、とりわけ好ましくは50質量部以下である。ステップ(B)で添加する溶媒の使用量が上記範囲内であると、ポリイミド系樹脂の分子量を増加又は制御しやすい。
【0080】
ステップ(B)では、ジカルボン酸化合物を一括添加してもよいし、分割添加してもよい。分割添加すると、反応系の急激な粘度上昇を抑制しやすく、均一に撹拌可能な状態を長く維持しやすい。そのため、重合反応を進行しやすく、得られるポリイミド系樹脂の分子量を増加させやすい。また、ポリイミド系樹脂の分子量を制御する観点からも有利である。
【0081】
ステップ(B)において、ジカルボン酸化合物を分割添加する際の分割回数は、反応スケールや原料の種類等により適宜選択でき、好ましくは2~20回、より好ましくは2~10回、さらに好ましくは2~6回である。分割回数が上記範囲であると、ポリイミド系樹脂の分子量を増加させやすい。また、ポリイミド系樹脂の分子量を制御する観点からも有利である。
【0082】
ジカルボン酸化合物は、均等な量に分割して添加してもよく、不均等な量に分割して添加してもよい。各添加の間の時間(以下、添加間隔という場合がある)は、全て同一であっても異なっていてもよい。また、ジカルボン酸化合物を二種類以上添加する場合、用語「分割添加」は、全てのジカルボン酸化合物の合計量を分割して添加することを意味し、各ジカルボン酸化合物の分割の仕方は特に限定されないが、例えば各ジカルボン酸化合物を別々に一括又は分割添加してもよいし、各ジカルボン酸化合物を一緒に分割添加してもよいし、これらの組合せであってもよい。
【0083】
本発明の一実施態様において、ジカルボン酸化合物が二種類(以下、それぞれ第1ジカルボン酸化合物、第2ジカルボン酸化合物と称する)である場合、例えば、第1ジカルボン酸化合物を一括添加し、第2ジカルボン酸化合物を一括添加してもよいし、第1ジカルボン酸化合物と第2ジカルボン酸化合物を別々に分割添加してもよいし、第1ジカルボン酸化合物と第2ジカルボン酸化合物を一緒に分割添加してもよいし、一緒に分割添加した後、残りを別々に又は一方の残りを添加してもよいし、別々に分割添加した後、残りを一緒に又は一方の残りを添加してもよい。ポリイミド系樹脂の高分子量化の観点から、第1ジカルボン酸化合物と第2ジカルボン酸化合物を一緒に分割添加する、又は一緒に分割添加後、一方の残りを添加することが好ましい。
【0084】
ステップ(B)において、溶媒をさらに添加する場合、溶媒は、ジカルボン酸化合物と一緒に添加してもよいし、ジカルボン酸とは別々に添加してもよいし、ジカルボン酸を分割添加する場合には、これらの組合せであってもよい。
【0085】
ステップ(B)の反応温度は、特に限定されないが、例えば-5~100℃、好ましくは0~50℃、より好ましくは5~30℃であってよい。反応時間は、例えば1分~72時間、好ましくは10分~24時間、より好ましくは30分~10時間であってよい。また、反応は空気中又は例えば窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気で撹拌しながら行ってよく、常圧下、加圧下又は減圧下で行ってもよい。好ましい態様では、常圧及び/又は前記不活性ガス雰囲気下、撹拌しながら行う。
【0086】
ステップ(B)において、ジカルボン酸化合物を添加後、所定時間撹拌等して反応させることで、中間体(K)が得られる。
【0087】
工程(I)がステップ(A)及び(B)で構成されている場合、中間体(K)は、ジアミン化合物由来の構成単位と、3つ以上のカルボニル基を有するカルボン酸化合物由来の構成単位と、ジカルボン酸化合物由来の構成単位とを有する。本発明の好ましい態様では、中間体(K)は、ジアミン化合物(1)とテトラカルボン酸化合物(3)とが反応して得られる式(A)で表される繰り返し構造単位と、ジアミン化合物(A)とジカルボン酸化合物(6)とが反応して得られる式(B)で表される繰り返し構造単位とを含む。
【化20】
[式(A)及び式(B)中、Gは式(6)中のWと同じであり、
は式(3)中のYと同じであり、
及びXは、それぞれ式(1)中のXと同じであり、X及びXは同一であっても異なっていてもよい]
【0088】
ジアミン化合物(1)、テトラカルボン酸化合物(3)及びジカルボン酸化合物(5)から選択される少なくとも1つが二種以上ある場合、中間体(K)は、式(A)で表される繰り返し構造単位及び/又は式(B)で表される繰り返し構造単位を二種以上有する。なお、ジアミン化合物由来の構成単位と、テトラカルボン酸化合物由来の構成単位と、ジカルボン酸化合物とを有する中間体(K)を中間体(K-2)という場合がある。
【0089】
ポリイミド系樹脂を製造する場合、中間体(K)を単離した後、後述の工程(II)に供してもよいが、製造効率の観点から、単離せずに直接工程(II)に供する。
【0090】
<工程(II)>
工程(II)は、工程(I)の後に反応系の粘度Aを測定する工程である。反応系の粘度Aの測定方法は、特に限定されないが、例えば、反応溶液から極少量液をとり、該液の粘度を粘度計で測定する方法や、例えば、反応容器等の反応系中に取り付けたインライン粘度計で測定する方法、反応系中に取り付けた攪拌翼のモーター電流値やトルク計から得られるトルク値から算出される撹拌動力から逆算する方法などであってもよい。なお、反応系の粘度Aは、一定の温度で測定することができ、測定時における樹脂の熱分解を抑制し、適切な粘度を測定するという観点からは、低温で測定することが好ましく、例えば5~20℃、好ましくは5~15℃で測定することがより好ましい。反応系の粘度Aは、例えば実施例に記載の方法により測定できる。
【0091】
<工程(III)>
工程(III)は、粘度Aと、該反応系の目標粘度範囲とを比較し、粘度Aが目標粘度範囲であるか否かを確認する工程である。
【0092】
本発明の製造方法では、目標とする分子量を反応系の粘度に換算し、換算した粘度前後の目標粘度範囲に反応系の粘度を調整することで、ポリイミド系樹脂の分子量を制御できる。より詳細には、目標とする分子量に対応する目標粘度を予め決定し、該目標粘度に基づき、目標粘度前後の目標粘度範囲を設定する。なお、目標粘度は、測定温度や、被測定液の濃度など、実際の反応系と同じ条件に基づいて設定される。工程(III)において、反応系の粘度Aと、反応系の目標粘度範囲とを比較し、粘度Aが目標粘度範囲でない場合には、工程(IV)において粘度を目標粘度範囲内に調整する。これにより、ポリイミド系樹脂の分子量を制御でき、目標とする分子量又はそれに近い分子量のポリイミド系樹脂を安定して得ることができる。
【0093】
目標とする分子量(以下、目標分子量ということがある)を反応系の粘度に換算する方法としては、特に限定されず、慣用の方法、例えば所望とする分子量の樹脂の粘度を測定する方法や、樹脂の分子量と、反応系の粘度との相関を示す検量線を作成する方法等が挙げられる。
【0094】
目標粘度は、目標分子量、原料の種類及び量、並びに反応系(反応溶液)の溶媒の種類及び量などに応じて異なるため、特に限定されないが、本発明の一実施態様においては、例えば0.1~50Pa・s、好ましくは0.5~20Pa・s、より好ましくは1.0~10Pa・sである。目標粘度が上記範囲であると、反応系を十分に撹拌でき、重合反応が進行しやすいため、分子量を制御しやすい。
【0095】
目標分子量に対応する目標粘度を決定した後、該目標粘度に基づき、目標粘度範囲を設定する。目標粘度範囲は、目標分子量を基準に許容とする分子量範囲に対応する粘度範囲を適宜設定すればよく、特に限定されないが、例えば目標粘度に対して、好ましくは0.8倍以上、より好ましくは0.85倍以上であり、好ましくは1.5倍以下、より好ましくは1.3倍以下、さらに好ましくは1.1倍以下である。目標粘度範囲が上記の範囲であると、ポリイミド系樹脂の分子量を有効に制御でき、目標とする分子量又はそれに近い分子量のポリイミド系樹脂が得られやすい。
【0096】
反応系の初期粘度は、目標分子量、原料の種類及び量、並びに反応系(反応溶液)の溶媒の種類及び量などに応じて異なるため、特に限定されないが、本発明の一実施態様においては、例えば目標粘度を1Pa・sとしたときに、好ましくは0.05Pa・s以上、より好ましくは0.1Pa・s以上、さらに好ましくは0.2Pa・s以上、とりわけ好ましくは0.3Pa・s以上であり、好ましくは30Pa・s以下、より好ましくは15Pa・s以下、さらに好ましくは10Pa・s以下、とりわけ好ましくは5Pa・s以下である。反応系の初期粘度が上記範囲であると、反応系の粘度を目標粘度範囲に調整しやすい。
【0097】
工程(III)において、粘度Aが目標粘度範囲である場合は、工程(IV)に供する必要はなく、ポリイミド樹脂前駆体若しくはポリアミドイミド樹脂前駆体を精製するか、又は、イミド化工程(V)に供して、ポリイミド樹脂又はポリアミドイミド樹脂を得てもよい。工程(III)において、粘度Aが目標粘度範囲でない場合は、工程(IV)に供する。
【0098】
<工程(IV)>
工程(IV)は、工程(III)において粘度Aが目標粘度範囲でない場合に、粘度Aを目標範囲内に調整する工程である。粘度Aが目標粘度範囲未満である場合、粘度を上げて目標粘度範囲に調整し(工程(IV’)と称する)、粘度Aが目標粘度範囲を超えている場合、粘度を下げて目標粘度範囲に調整する(工程(IV”)と称する)ことが好ましい。
【0099】
<工程(IV’)>
工程(IV’)は、工程(III)において、粘度Aが目標粘度範囲未満である場合、反応系の粘度を上げて目標粘度範囲に調整する工程である。工程(IV’)において、反応系の粘度Aを上げる方法は、特に限定されないが、反応系にジアミン化合物を添加して粘度Aを上げる方法などが好ましい。反応系にジアミン化合物を添加すると、中間体(K)とジアミン化合物とが反応して中間体(K)の分子量が増加することで粘度Aが上昇する。この方法を用いると、容易に反応系の粘度を目標粘度範囲に調整することができる。
ジアミン化合物としては、ステップ(A)で反応させるジアミン化合物として上記に例示のものが挙げられる。ジアミン化合物は単独又は二種以上組合せて使用できる。
【0100】
工程(IV’)で反応させるジアミン化合物のうち、式(1)中のXが式(2)で表される基であるジアミン化合物、例えば式(1)中のXが式(2’)で表される基であるジアミン化合物の割合は、工程(IV’)で使用するジアミン化合物の総モル量に対して、好ましくは30モル%以上、より好ましくは50モル%以上、さらに好ましくは70モル%以上、とりわけ好ましくは80モル%以上であり、好ましくは100モル%以下である。式(1)中のXが式(2)で表される基であるジアミン化合物の割合が上記範囲内であると、ポリイミド系樹脂を含んでなるフィルムは、フッ素元素を含有する骨格により樹脂の溶媒への溶解性を向上し、ポリイミド系樹脂ワニスの粘度を低く抑制することができ、またフィルムの黄色度やヘイズ等を低減でき、光学特性を向上しやすい。なお、式(1)中のXが式(2)で表される基であるジアミン化合物の割合等は、原料の仕込み比から算出してもよい。
【0101】
本発明の一実施態様において、中間体(K)の分子量を増加させやすく、またポリイミド系樹脂を含んでなるフィルムの耐屈曲性が良好となりやすい観点から、工程(I)で反応させるジアミン化合物と工程(IV’)で反応させるジアミン化合物は、少なくとも1種が同じ化合物であることが好ましい。工程(I)で反応させるジアミン化合物を、ジアミン化合物(I)とし、工程(IV’)で反応させるジアミン化合物をジアミン化合物(IV’)とすると、「少なくとも1種が同じ化合物」とは、ジアミン化合物(I)が1種類、かつジアミン化合物(IV’)が1種類である場合は、これらのジアミン化合物(I)及び(IV’)が同じであることを意味し、ジアミン化合物(I)が1種類、かつジアミン化合物(IV’)が2種類以上である場合は、ジアミン化合物(IV’)のうち、1種類以上がジアミン化合物(I)と同じであることを意味する。また、ジアミン化合物(I)が2種類以上、かつジアミン化合物(IV’)が1種類である場合は、ジアミン化合物(I)のうち、1種類以上がジアミン化合物(IV’)と同じであることを意味し、ジアミン化合物(I)が2種類以上、かつジアミン化合物(IV’)が2種類以上である場合は、互いに1種類以上が同じであることを意味する。より好適な実施態様においては、中間体(K)の分子量を増加させやすく、またポリイミド系樹脂を含んでなるフィルムの耐屈曲性をより向上しやすい観点から、工程(I)で反応させるジアミン化合物と工程(IV’)で反応させるジアミン化合物は、全て同じであることが好ましい。
【0102】
工程(IV’)では、ジアミン化合物を一回又は複数回添加することで、粘度Aを目標粘度範囲に調整してもよい。例えば、一回の添加で目標粘度範囲まで粘度Aが上昇しなかった場合、再度一回又は複数回の添加で目標粘度範囲内に粘度Aを調整してもよい。
【0103】
また、工程(IV’)では、溶媒をさらに添加してもよい。溶媒をさらに添加する場合、ジアミン化合物と一緒に添加してもよいし、ジアミン化合物と別々に添加してもよいし、ジアミン化合物を複数回添加する場合には、これらの組合せであってもよい。
【0104】
添加する溶媒としては、例えば、(ステップ(A))の項に例示されたものが挙げられ、これらの溶媒は単独又は二種以上組合せて使用できる。溶媒を添加する場合、ステップ(A)で使用される溶媒と同一であっても異なっていてもよいが、ポリイミド系樹脂の分子量を増加させやすい観点から、ステップ(A)で使用される溶媒と同一であることが好ましい。溶媒は一度に添加してもよく、複数回にわけて分割添加してもよい。
【0105】
工程(IV’)で反応させるジアミン化合物の量を増やすほど、中間体(K)の分子量が増加する傾向にある。本発明の一実施態様では、粘度Aと目標粘度範囲との差に応じて、ジアミン化合物の添加量を適宜調整し、目標粘度範囲に調整することができる。なお、ジアミンの添加量は、例えば添加量に対する粘度変化の程度を、予め実験により求めておくことで決定してもよい。
【0106】
本発明の一実施態様において、工程(IV’)で反応させるジアミン化合物の使用量は、反応系の粘度Aと目標粘度範囲との差に応じて適宜選択できるが、例えば、工程(I)及び工程(IV’)で反応させるジアミン化合物の総量を100モルとしたときに、好ましくは0.01モル以上であり、好ましくは20モル以下、より好ましくは15モル以下、さらに好ましくは10モル以下、さらにより好ましくは5モル以下、とりわけ好ましくは2モル以下である。工程(IV’)で反応させるジアミン化合物の使用量が上記の範囲内であると、ポリイミド系樹脂の分子量を増加させやすいため、分子量を目標粘度範囲に調整しやすく、また、ポリイミド系樹脂を含んでなるフィルムの耐屈曲性を向上しやすい。
【0107】
本発明の一実施態様において、工程(I)及び工程(IV’)で反応させるジアミン化合物の総量は、工程(I)で反応させる3つ以上のカルボニル基を有するカルボン酸化合物を100モルとしたときに、好ましくは10~1,000モル、より好ましくは50.0~150モル、さらに好ましくは80.0~120モル、さらにより好ましくは90.0~110モル、とりわけ好ましくは95.0~100モル、とりわけより好ましくは97.0~99.9モル、とりわけさらに好ましくは98.0~99.9モルである。工程(I)及び工程(IV’)で反応させるジアミン化合物の総量が上記範囲であると、ポリイミド系樹脂の分子量を制御しやすく、また、ポリイミド系樹脂を含んでなるフィルムの耐屈曲性をより向上しやすい。なお、該カルボン酸化合物とは、工程(I)で用いられるジカルボン酸化合物、テトラカルボン酸化合物、及びトリカルボン酸化合物を含むカルボン酸化合物を意味する。
【0108】
工程(IV’)の反応温度は、特に限定されないが、例えば-5~100℃、好ましくは0~50℃、より好ましくは5~30℃であってよい。反応時間は、例えば1分~72時間、好ましくは10分~24時間、より好ましくは30分~10時間であってよい。また、反応は空気中又は例えば窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気で撹拌しながら行ってよく、常圧下、加圧下又は減圧下で行ってもよい。好ましい実施態様では、常圧及び/又は前記不活性ガス雰囲気下、撹拌しながら行う。
【0109】
本発明の一実施態様では、工程(IV’)で粘度を上げる処理を行った後、再度工程(II)で反応系の粘度Aを測定し、次いで工程(III)で粘度Aが目標粘度範囲であるか否かを確認し、粘度Aが目標粘度範囲未満である場合は、再度工程(IV’)を繰り返し行い、粘度Aを目標粘度範囲に調整してもよい。
【0110】
<工程(IV”)>
工程(IV”)は、粘度Aが目標粘度範囲を超えている場合、反応系の粘度を下げて目標粘度範囲に調整する工程である。工程(IV”)において、反応系の粘度Aを下げる方法としては、特に限定されないが、中間体(K)を分解して粘度Aを下げる方法などが好ましい。分解反応により中間体(K)を分解させる方法を使用すると、中間体(K)の分子量を低減できるため、反応系の粘度を目標粘度範囲に調整しやすい。
【0111】
中間体(K)を分解させる方法としては、特に限定されないが、例えば反応系を加熱する方法(熱分解する方法)、無機酸の存在下で撹拌等する方法、又はこれらの組合せなどが挙げられる。これらの方法を使用すると、中間体(K)の分子量を有効に低減することができ、反応系の粘度を目標粘度範囲により調整しやすい。
【0112】
反応系を加熱する方法では、加熱温度が高いほど分解反応が進行し、中間体(K)の分子量が低減されるため、反応系の粘度Aが低下する傾向にある。本発明の一実施態様では、粘度Aと目標粘度範囲との差に応じて、加熱温度を適宜調整することで、粘度Aを目標粘度範囲に調整することができる。なお、該加熱温度は、例えば温度に対する分解反応の程度を、予め実験により求めておくことで決定してもよい。
【0113】
反応系を加熱する方法において、反応系の加熱温度は、反応系の粘度Aと目標粘度範囲との差に応じて適宜選択でき、好ましくは30℃以上、より好ましくは35℃以上であり、好ましくは80℃以下、より好ましくは60℃以下である。反応の加熱温度が上記範囲であると、反応系の粘度Aを目標粘度範囲に調整しやすい。
加熱時間は、加熱温度等に応じて適宜選択でき、例えば1分~72時間、好ましくは10分~24時間、より好ましくは30分~12時間であってよい。なお、工程(I)における原料モノマーが反応系に残存していた場合、加熱を開始してから、所定時間、反応系の粘度が増加することがあるが、その場合でも所定時間経過後、粘度は減少していく。
【0114】
無機酸の存在下で撹拌等する方法において、無機酸の種類や量は、粘度Aと目標粘度範囲との差に応じて適宜選択できる。無機酸の量が多いほど、反応系の粘度が低減される傾向にある。無機酸としては、例えば、硝酸、塩酸、硫酸、リン酸などが挙げられ、これらの中でも塩酸が好ましい。反応系に無機酸が存在すると、分解反応をより進行しやすいため、粘度Aを目標粘度範囲に調整しやすい。
【0115】
無機酸の量は、工程(I)で使用するジアミン化合物中のアミノ基1モルに対して、好ましくは0.1~10モル、より好ましくは0.3~5モル、さらに好ましくは0.5~1モルである。無機酸の量が上記範囲内であると、分解反応をより進行しやすいため、粘度Aを目標粘度範囲に調整しやすい。なお、工程(IV”)の前に工程(IV’)を行う場合、無機酸の量は、工程(I)及び工程(IV’)で使用するジアミン化合物の総量を基準とすることができる。
【0116】
無機酸の存在下で撹拌等する方法において、撹拌時間は、例えば、上記加熱時間と同様の範囲から選択できる。
【0117】
分解反応は空気中又は不活性ガス雰囲気(例えば窒素、アルゴン等)で撹拌しながら行ってよく、常圧下、加圧下又は減圧下で行ってもよい。好ましい実施態様では、常圧及び/又は不活性ガス雰囲気下、撹拌しながら行う。
【0118】
本発明の一実施態様では、工程(IV”)で粘度を下げる処理を行った後、再度工程(II)で反応系の粘度Aを測定し、次いで工程(III)で粘度Aが目標粘度範囲であるか否かを確認して目標粘度範囲を超えている場合は、再度工程(IV”)を繰り返し行い、粘度Aを目標粘度範囲に調整してもよい。ここで、本発明の好適な実施態様において、工程(IV”)で中間体(K)を分解して粘度Aを下げた後、工程(II)の測定及び工程(III)の確認により粘度Aが目標粘度範囲となったときは、続いて分解反応を停止する処理を行う必要がある。本明細書においては、工程(IV”)に分解反応を停止する工程を包含することとし、分解反応を停止する工程を工程(IV”-2)と表す。
【0119】
<工程(IV”-2)>
工程(IV”-2)は、中間体(K)を分解する分解反応を停止する工程である。分解反応を停止する方法としては、特に限定されないが、例えば反応系に塩基を添加する方法、反応系の温度を冷却する方法、又はこれらの組合せなどが挙げられる。
【0120】
本発明の一実施態様では、反応系に塩基を添加することで分解反応を停止してもよい。例えば塩酸等の無機酸を利用して分解反応を行った場合に、塩基の添加により塩酸を中和して分解反応を停止することができる。塩基としては、有機塩基、無機塩基が使用でき、両者を併用してもよい。反応系との相溶性の観点からアミンが好ましい。アミンとしては、例えば、メチルアミン、エチルアミン、n-プロピルアミン、イソプロピルアミン、n-ブチルアミン、tert-ブチルアミン、n-オクチルアミン、n-デシルアミン、アニリン、エチレンジアミンなどの第1級アミン;ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジ-n-プロピルアミン、ジイソプロピルアミン、ジ-n-ブチルアミン、ジ-tert-ブチルアミン、ジ-n-オクチルアミン、ジ-n-デシルアミン、ピロリジン、ヘキサメチルジシラザン、ジフェニルアミンなどの第2級アミン;トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリ-n-プロピルアミン、トリ-n-ブチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、トリ-n-オクチルアミン、トリ-n-デシルアミン、トリフェニルアミン、N,N-ジメチルアニリン、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン、N-メチルピロリジン、4-ジメチルアミノピリジンなどの第3級アミンが挙げられ、これらの中でも、分解反応を有効に停止しやすい観点から、ジイソプロピルエチルアミン等の第3級アミンが好ましい。アミンは単独又は二種以上組合せて使用できる。また、無機塩基としては、アルカリ金属塩基やアルカリ土類金属塩基などが使用でき、溶媒への溶解性の観点からアルカリ金属塩基が好ましい。アルカリ金属塩基としては、例えば水酸化リチウム、炭酸リチウム、炭酸水素リチウム、リチウムメトキシド、リチウムエトキシド、リチウムイソプロポキシド、リチウム-tert-ブトキシド、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウムイソプロポキシド、ナトリウム-tertブトキシド、水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド、カリウムイソプロポキシド、カリウム-t-ブトキシド、水酸化セシウム、炭酸セシウム、炭酸水素セシウム、セシウムメトキシド、セシウムエトキシド、セシウムイソプロポキシド、セシウム-tert-ブトキシドなどが好ましく、その内、単独又は二種以上組合せて使用できる。
【0121】
本発明の一実施態様では、冷却等により反応系の温度を低下させることで、分解反応を停止してもよい。例えば、反応系の温度を好ましくは20℃以下、より好ましくは15℃以下、さらに好ましくは10℃以下に調整することで、反応系の分解反応を有効に停止できる。また、反応系の温度を低下させる時間は、例えば1分~72時間、好ましくは10分~24時間、より好ましくは30分~12時間であってもよい。
【0122】
分解反応を停止する工程は、空気中又は例えば窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気で撹拌しながら行ってよく、常圧下、加圧下又は減圧下で行ってもよい。好ましい実施態様では、常圧及び/又は前記不活性ガス雰囲気下、撹拌しながら行う。
【0123】
本発明の製造方法では、工程(II)、工程(III)、工程(IV’)、及び工程(IV”)を任意に組合せることができる。例えば、工程(II)及び工程(III)により粘度Aが目標粘度範囲未満であったため、工程(IV’)で粘度を上げる処理を行ったが、再度の工程(II)及び工程(III)により、粘度Aが目標粘度範囲を超えていることが確認された場合、さらに工程(IV”)で粘度を下げる処理を行うことで、粘度Aを目標粘度範囲に調整することができる(以下の工程順3に相当)。以下に、粘度Aを目標粘度範囲内に調整するときの工程順の例を示すが、これらに限定されない。
1.工程(II)→工程(III)→工程(IV’)→工程(II)→工程(III)
2.工程(II)→工程(III)→工程(IV”)→工程(II)→工程(III)
3.工程(II)→工程(III)→工程(IV’)→工程(II)→工程(III)→工程(IV”)→工程(II)→工程(III)
4.工程(II)→工程(III)→工程(IV”)→工程(II)→工程(III)→工程(IV’)→工程(II)→工程(III)
5.工程(II)→工程(III)→工程(IV’)→工程(II)→工程(III)→工程(IV’)→工程(II)→工程(III)
6.工程(II)→工程(III)→工程(IV”)→工程(II)→工程(III)→工程(IV”)→工程(II)→工程(III)
7.工程(II)→工程(III)→工程(IV’)→工程(IV”)→工程(II)→工程(III)
8.工程(II)→工程(III)→工程(IV”)→工程(IV’)→工程(II)→工程(III)
【0124】
なお、例えば上記工程順2における工程(IV”)が中間体(K)を分解して粘度Aを下げる工程である場合、分解反応を停止するための工程(IV”-2)を行うことが好ましいため、工程順は、工程(II)→工程(III)→工程(IV”)→工程(II)→工程(III)→工程(IV”-2)となる。
【0125】
本発明の一実施態様において、工程(I)直後の中間体(K)の分子量及び反応系の粘度(初期粘度ということがある)は、工程(I)で反応させるカルボン酸化合物に対するジアミン化合物の比率を調整することにより制御できる。例えば、工程(I)で反応させるカルボン酸化合物に対するジアミン化合物のモル比率を1:1から小さくしていくほど、工程(I)直後の中間体(K)の分子量及び初期粘度は小さくなる傾向がある。逆に、ジアミン化合物のモル比率を1:1に近づけていくほど、工程(I)直後の中間体(K)の分子量及び初期粘度は大きくなる傾向がある。
【0126】
本発明の一実施態様においては、反応系の粘度Aを下げるよりも、反応系の粘度Aを上げる方が、処理が簡便であり、かつ反応系の粘度を制御しやすいことから、反応系の粘度Aを上げる工程(IV’)を使用して粘度Aを目標粘度範囲に調整することがより好ましい。例えば、反応系の粘度Aが目標粘度範囲未満になるように、工程(I)において反応させるカルボン酸化合物に対するジアミン化合物の割合を若干小さくしておき、工程(IV’)においてジアミン化合物をさらに添加し、反応系の粘度Aを目標粘度範囲に調整してもよい。
【0127】
本発明の一実施態様において、工程(IV)を行わずに、工程(I)~工程(III)により粘度Aを目標粘度範囲に調整できた場合、中間体(K)に分子量を変化させるための処理が行われないため、中間体(K)はポリイミド系樹脂前駆体に相当する。一方、本発明の製造方法が工程(IV)を含む場合、ポリイミド系樹脂前駆体は、中間体(K)の分子量を変化させる処理、例えばジアミンの添加反応や分解反応により得られる樹脂である。なお、ポリイミド系樹脂前駆体は、イミド化する前の樹脂、すなわち、目標粘度範囲に調整し終えた状態の樹脂であり、目標粘度範囲に調整する途中の樹脂は中間体(K)に含まれる。
【0128】
ポリイミド系樹脂前駆体のうち、ポリイミド樹脂前駆体は、ジアミン化合物由来の構成単位と3つ以上のカルボニル基を有するカルボン酸化合物由来の構成単位とを少なくとも有し、好ましい態様では、式(A)で表される構成単位を含む。また、ポリアミドイミド前駆体は、ジアミン化合物由来の構成単位と3つ以上のカルボニル基を有するカルボン酸化合物由来の構成単位とジカルボン酸化合物由来の構成単位とを少なくとも有し、好ましい態様では、式(A)で表される構成単位と式(B)で表される構成単位とを含む。なお、ポリイミド樹脂前駆体又はポリアミドイミド前駆体は、その樹脂前駆体を含む反応液に多量の水やメタノール等を加え、該樹脂前駆体を析出させ、濾過、濃縮、乾燥等を行うことにより単離できる。
【0129】
ポリイミド樹脂又はポリアミドイミド樹脂を製造する場合、ポリイミド樹脂前駆体又はポリアミドイミド樹脂前駆体を単離した後、後述の工程(V)に供してもよいが、製造効率の観点から、単離せずに、直接、工程(V)に供することが好ましい。
【0130】
<工程(V)>
工程(V)は、イミド化触媒の存在下、ポリイミド系樹脂前駆体をイミド化する工程である。例えば、式(A)で表される構成単位を含むポリイミド樹脂前駆体を工程(V)に供することにより、式(A)で表される構成単位部分がイミド化され(閉環され)、式(C)で表される構成単位を含むポリイミド樹脂を得ることができる。また、例えば、式(A)で表される構成単位と式(B)で表される構成単位とを含むポリアミドイミド前駆体を工程(V)に供することにより、ポリアミドイミド前駆体の構成単位のうち、式(A)で表される構成単位部分が閉環されてイミド化され、式(C)で表される構成単位と式(B)で表される構成単位とを含むポリアミドイミド樹脂を得ることができる。
【0131】
【化21】
[式(B)及び式(C)中、Gは式(3)中のYと同じであり、
は式(6)中のWと同じであり、
及びXは、それぞれ式(1)中のXと同じであり、X及びXは同一であっても異なっていてもよい]
【0132】
イミド化触媒としては、例えばトリプロピルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、ジブチルプロピルアミン、エチルジブチルアミン等の脂肪族アミン;N-エチルピペリジン、N-プロピルピペリジン、N-ブチルピロリジン、N-ブチルピペリジン、及びN-プロピルヘキサヒドロアゼピン等の脂環式アミン(単環式);アザビシクロ[2.2.1]ヘプタン、アザビシクロ[3.2.1]オクタン、アザビシクロ[2.2.2]オクタン、及びアザビシクロ[3.2.2]ノナン等の脂環式アミン(多環式);並びにピリジン、2-メチルピリジン(2-ピコリン)、3-メチルピリジン(3-ピコリン)、4-メチルピリジン(4-ピコリン)、2-エチルピリジン、3-エチルピリジン、4-エチルピリジン、2,4-ジメチルピリジン、2,4,6-トリメチルピリジン、3,4-シクロペンテノピリジン、5,6,7,8-テトラヒドロイソキノリン、及びイソキノリン等の芳香族アミンが挙げられる。これらのイミド化触媒は単独又は二種以上組合せて使用できる。
【0133】
イミド化触媒の使用量は、ステップ(A)で使用される3つ以上のカルボニル基を有するカルボン酸化合物1モルに対して、好ましくは0.1~10モル、より好ましくは1~5モルである。
【0134】
工程(V)では、イミド化反応を促進しやすい観点から、イミド化触媒とともに、酸無水物を用いることが好ましい。酸無水物は、イミド化反応に用いられる慣用の酸無水物等が挙げられ、その具体例としては、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸等の脂肪族酸無水物、フタル酸等の芳香族酸無水物などが挙げられる。
【0135】
酸無水物を使用する場合、酸無水物の使用量は、3つ以上のカルボニル基を有するカルボン酸化合物1モルに対して、好ましくは0.5~25モル、より好ましくは1~20モル、さらに好ましくは1~15モルである。
【0136】
工程(V)の反応温度は、特に限定されないが、例えば-5~100℃、好ましくは0~90℃、より好ましくは5~80℃であってよい。反応時間は、例えば1分~72時間、好ましくは10分~24時間、より好ましくは30分~10時間であってよい。また、反応は空気中又は例えば窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気で撹拌しながら行ってよく、常圧下、加圧下又は減圧下で行ってもよい。好ましい態様では、常圧及び/又は前記不活性ガス雰囲気下、撹拌しながら行う。
【0137】
工程(V)で得られたポリイミド系樹脂は、慣用の方法、例えば、濾過、濃縮、抽出、晶析、再結晶、カラムクロマトグラフィーなどの分離手段や、これらを組合せた分離手段、例えば分離精製などにより単離してもよく、好ましい態様では、ポリイミド系樹脂を含む反応液に、多量の水やメタノール等を加え、ポリイミド系樹脂を析出させ、濃縮、濾過、乾燥等を行うことにより単離することができる。
【0138】
[ポリイミド系樹脂]
本発明の製造方法では、ポリイミド系樹脂の分子量を制御でき、目標とする分子量又はそれに近い分子量を有するポリイミド系樹脂を得ることができる。また、本発明の製造方法では、反応系の粘度を基に、目標分子量に調整するため、操作が簡便かつ容易であり、効率的に目標とする分子量又はそれに近い分子量を有するポリイミド系樹脂を製造できる。
ポリイミド系樹脂の重量平均分子量は、目標として設定する目標分子量に応じて適宜選択されるため、特に限定されないが、本発明の一実施態様においては、標準ポリスチレン換算で、好ましくは150,000以上、より好ましくは200,000以上、さらに好ましくは250,000以上、とりわけ好ましくは300,000以上であり、好ましくは1,000,000以下、より好ましくは800,000以下、さらに好ましくは700,000以下、とりわけ好ましくは500,000以下である。重量平均分子量が、上記の下限以上であると、ポリイミド系樹脂を含んでなるフィルムの弾性率、耐屈曲性及び表面硬度を向上しやすく、また、上記の上限以下であると、ポリイミド系樹脂ワニスのゲル化を抑制しやすく、フィルムの光学特性を向上しやすい。なお、重量平均分子量は、例えばGPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)測定を行い、標準ポリスチレン換算によって求めることができ、例えば実施例に記載の方法により求めることができる。
【0139】
ポリイミド系樹脂をN,N-ジメチルアセトアミドに濃度10質量%で溶解させたときの25℃における粘度は、好ましくは1,000mPa・s以上、より好ましくは5,000mPa・s以上、さらに好ましくは10,000mPa・s以上、とりわけ好ましくは20,000mPa・s以上であり、好ましくは70,000mPa・s以下、より好ましくは60,000mPa・s以下、さらに好ましくは50,000mPa・s以下、とりわけ好ましくは40,000mPa・s以下である。ポリイミド系樹脂の粘度が上記の下限以上であると、分子間の相互作用が大きくなり、耐屈曲性及び機械的強度を向上しやすく、上記の上限値以下であると、成膜性が良好となり、均一な膜を形成しやすい。なお、粘度は、ブルックフィールド粘度計により測定できる。
【0140】
本発明の製造方法により得られるポリイミド系樹脂のうち、ポリイミド樹脂は、ジアミン化合物由来の構成単位と3つ以上のカルボニル基を有するカルボン酸化合物由来の構成単位とを少なくとも有し、好適な態様では、式(C)で表される繰り返し構造単位を含む。また、ポリアミドイミド樹脂は、ジアミン化合物由来の構成単位と3つ以上のカルボニル基を有するカルボン酸化合物由来の構成単位とジカルボン酸化合物由来の構成単位とを少なくとも有し、好適な態様では、式(C)で表される繰り返し構造単位と式(B)で表される繰り返し構造単位とを含む。ポリイミド系樹脂は、ジアミン化合物由来の構成単位とトリカルボン酸化合物由来の構成単位からなってもよく、前記好適な態様において、さらにトリカルボン酸化合物由来の構成単位を含むものでもよい。テトラカルボン酸化合物由来の構成単位とトリカルボン酸化合物由来の構成単位を含むポリイミド系樹脂は、例えばステップ(A)でテトラカルボン酸化合物と一緒又は別々にトリカルボン酸化合物を添加してもよいし、ステップ(B)でジカルボン酸化合物と一緒又は別々にトリカルボン酸化合物を添加して製造してもよい。
【0141】
本発明の一実施態様において、ジアミン化合物(1)由来の構成単位及びテトラカルボン酸化合物(3)由来の構成単位を少なくとも有するポリイミド樹脂は、式(C)で表される繰り返し構成単位を含む。また、ジアミン化合物(1)由来の構成単位と、テトラカルボン酸化合物(3)由来の構成単位及びトリカルボン酸化合物(8)由来の構成単位からなる群から選ばれる少なくとも1種の構成単位と、ジカルボン酸化合物(6)由来の構成単位とを少なくとも有するポリアミドイミド樹脂は、式(B)で表される繰り返し構造単位と、式(C)で表される繰り返し構造単位及び式(D)で表される繰り返し構造単位からなる群から選ばれる少なくとも1種の構造単位とを含む。
【化22】
[式(D)中、Gは、式(8)中のYと同じであり、
は式(1)中のXと同じである]
【0142】
本発明の一実施態様において、ジアミン化合物(1)由来の構成単位と、テトラカルボン酸化合物(3)由来の構成単位及びテトラカルボン酸化合物(5)由来の構成単位からなる群から選ばれる少なくとも1種の構成単位と、ジカルボン酸化合物(6)由来の構成単位とを少なくとも有するポリアミドイミド樹脂は、式(B)で表される繰り返し構造単位と、式(C)で表される繰り返し構造単位及び式(E)で表される繰り返し構造単位からなる群から選ばれる少なくとも1種の構造単位とを含む。
【化23】
[式(E)中、Gは、式(5)中のYと同じであり、
は式(1)中のXと同じであり、
18は式(5)中のR18と同じである]
【0143】
本発明の好適な実施態様では、本発明の製造方法により得られるポリイミド系樹脂で形成されたフィルムは、優れた耐屈曲性及び光学特性を有するため、表示装置、特にフレキシブル表示装置の前面版(以下、ウインドウフィルムと称することがある)として好適に使用できる。該前面板は、フレキシブル表示装置の表示素子を保護する機能を有する。表示装置としては、テレビ、スマートフォン、携帯電話、カーナビゲーション、タブレットPC、携帯ゲーム機、電子ペーパー、インジケーター、掲示板、時計、及びスマートウォッチ等のウェアラブルデバイス等が挙げられる。フレキシブルディスプレイとしては、フレキシブル特性を有する表示装置、例えばテレビ、スマートフォン、携帯電話、スマートウォッチ等が挙げられる。
【実施例
【0144】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。例中の「%」及び「部」は、特記ない限り、質量%及び質量部を意味する。まず測定方法について説明する。
【0145】
<重量平均分子量の測定>
ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いて測定を行った。測定試料の調製方法および測定条件は下記の通りである。
(1)試料調整方法
ポリイミド系樹脂を20mg秤りとり、10mLのDMF溶離液(10mmol/L臭化リチウム溶液)を加え、完全に溶解させた。この溶液をクロマトディスク(孔径0.45μm)にてろ過し、試料溶液とした。
(2)測定条件
装置:HLC-8020GPC
カラム:ガードカラム+TSKgelα-M(300mm×7.8mm径)×2本+α-2500(300mm×7.8mm径)×1本
溶離液:DMF(10mmol/Lの臭化リチウム添加)
流量:1.0mL/分
検出器:RI検出器
カラム温度:40℃
注入量:100μL
分子量標準:標準ポリスチレン
【0146】
<反応溶液の粘度測定>
(1)測定サンプル
反応溶液からサンプリングを行い、測定サンプルを以下の条件で測定した。
(2)測定条件
装置名 :LVDV-II+Pro(ブルックフィールド社製)
測定温度 :10℃
スピンドル :CPE-52
サンプル量 :0.6mL
ローター回転速度 :0.3rpm
【0147】
[実施例1]
〔目標値〕
重量平均分子量の目標値(以下、目標分子量と称することがある)を370,000として、ポリイミド系樹脂の合成を行った。この場合の中間体(K)を含む溶液の目標粘度は3.1Pa・sであり、目標粘度範囲は2.7~4.4Pa・sである。
〔工程I〕
十分に乾燥させた撹拌機と温度計を備える反応容器に、窒素を導通させ、容器内を窒素で置換した。反応容器内を10℃に冷却し、ジメチルアセトアミド(DMAc)1907.2部を反応容器に入れ、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(TFMB)111.38部と4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物(6FDA)46.82部を加え、3時間撹拌した。
次いで、4,4’-オキシビス(ベンゾイルクロリド)(OBBC)10.37部とテレフタロイルクロリド(TPC)38.54部を加え、撹拌した。生成した反応液にDMAcを1907.2部、TPC4.28部を加え、更に10℃で1時間撹拌した。
〔工程II〕溶液をサンプリングし、粘度を測定したところ、2.4Pa・sであった。
〔工程III〕目標粘度範囲と比較し、目標粘度範囲を下回っていることを確認した。
〔工程IV’〕さらにTFMB0.56部加え、2時間攪拌した。
〔工程II〕溶液をサンプリングし、粘度を測定したところ3.9Pa・sであった。
〔工程III〕測定した粘度が目標粘度範囲に入っていることを確認し、次の工程に進んだ。
〔工程V〕
ジイソプロピルエチルアミン31.80部、及び無水酢酸75.32部を加え、10℃に保ったまま30分間撹拌した後、4-ピコリン22.90部を加え、反応容器を75℃に昇温し、さらに3時間撹拌し、反応液を得た。反応液を冷却し、40℃以下に下がったところで、メタノール1147.1部を加えた。撹拌機と温度計を備える反応容器に、窒素を導通させ、容器内を窒素で置換した。20℃で攪拌しながら反応容器内に上記反応液を入れた。次いで、メタノール4575.1部を滴下し、次いでイオン交換水2861.7部を滴下し、白色固体を析出させた。析出した白色固体を遠心ろ過により捕集し、メタノールで洗浄することにより、ポリイミド系樹脂を含むウェットケーキを得た。得られたウェットケーキを減圧下、78℃で乾燥させることによりポリイミド系樹脂の粉体を得た。得られたポリイミド系樹脂の重量平均分子量は373,000であった。
【0148】
[実施例2]
〔目標値〕
目標分子量、目標粘度、及び目標粘度範囲は実施例1と同じである。
〔工程I〕用いたTFMBの量を111.94部としたこと以外は、実施例1の工程Iと同様の操作を行った。
〔工程II〕溶液をサンプリングし、粘度を測定したところ、14.2Pa・sであった。
〔工程III〕目標粘度範囲と比較し、目標粘度範囲を上回っていることを確認した。
〔工程IV”〕溶液の温度を50℃に設定し、8.5時間保持した。
〔工程II〕溶液をサンプリングし、粘度を測定したところ、4.4Pa・sであった。
〔工程III〕測定した粘度が目標粘度範囲に入っていることを確認した。
〔工程IV”-2〕ジイソプロピルエチルアミン31.80部を添加し、溶液の温度を10℃に下げた。
〔工程V〕
次いで、無水酢酸75.32部を加え、10℃に保ったまま30分間撹拌した後、4-ピコリン22.90部を加え、反応容器を75℃に昇温し、さらに3時間撹拌し、反応液を得た。反応液を冷却し、40℃以下に下がったところで、メタノール1147.1部を加えた。撹拌機と温度計を備える反応容器に、窒素を導通させ、容器内を窒素で置換した。20℃で攪拌しながら反応容器内に上記反応液を入れた。次いで、メタノール4575.1部を滴下し、次いでイオン交換水2861.7部を滴下し、白色固体を析出させた。析出した白色固体を遠心ろ過により捕集し、メタノールで洗浄することにより、ポリイミド系樹脂を含むウェットケーキを得た。得られたウェットケーキを減圧下、78℃で乾燥させることによりポリイミド系樹脂の粉体を得た。得られたポリイミド系樹脂の重量平均分子量は375,000であった。
【0149】
[実施例3]
〔目標値〕
目標分子量、目標粘度、及び目標粘度範囲は実施例1と同じである。
〔工程I〕用いたTFMBの量を111.60質量部としたこと以外は、実施例1の工程Iと同様の操作を行った。
〔工程II〕溶液をサンプリングし、粘度を測定したところ、4.1Pa・sであった。
〔工程III〕測定した粘度が目標粘度範囲に入っていることを確認した後、次の〔工程V〕に進んだ。
〔工程V〕
では実施例1と同様の操作を行った。得られたポリイミド系樹脂の重量平均分子量は378,000であった。
【0150】
[実施例4]
〔目標値〕
重量平均分子量の目標値(目標分子量)を470,000として、ポリイミド系樹脂の合成を行った。この場合の中間体(K)を含む溶液の目標粘度は7.5Pa・sであり、目標粘度範囲は6.1~8.2Pa・sである。
〔工程I〕用いたTFMBの量を110.26部としたこと以外は、実施例1の工程Iと同様の操作を行った。
〔工程II〕溶液をサンプリングし、粘度を測定したところ、2.6Pa・sであった。
〔工程III〕目標粘度範囲と比較し、目標粘度範囲を下回っていることを確認した。
〔工程IV’〕さらにTFMB1.679部加え、2時間攪拌した。
〔工程II〕溶液をサンプリングし、粘度を測定したところ、7.7Pa・sであった。
〔工程III〕測定した粘度が目標粘度範囲に入っていることを確認した後、次の〔工程V〕に進んだ。
〔工程V〕では実施例1と同様の操作を行った。得られたポリイミド系樹脂の重量平均分子量は467,000であった。
【0151】
[実施例5]
〔目標値〕
重量平均分子量の目標値(目標分子量)を440,000として、ポリイミド系樹脂の合成を行った。この場合の中間体(K)を含む溶液の目標粘度は5.8Pa・sであり、目標粘度範囲は4.8~5.9Pa・sである。
〔工程I〕用いたTFMBの量を111.60部としたこと以外は、実施例1の工程Iと同様の操作を行った。
〔工程II〕溶液をサンプリングし、粘度を測定したところ、3.0Pa・sであった。
〔工程III〕目標粘度範囲と比較し、目標粘度範囲を下回っていることを確認した。
〔工程IV’〕さらにTFMB0.224部加え、2時間攪拌した。
〔工程II〕溶液をサンプリングし、粘度を測定したところ、6.0Pa・sであった。
〔工程III〕目標粘度範囲と比較し、目標粘度範囲を上回っていることを確認した。
〔工程IV”〕溶液の温度を40℃に設定し、6時間保持した。
〔工程II〕溶液をサンプリングし、粘度を測定したところ、5.0Pa・sであった。
〔工程III〕測定した粘度が目標粘度範囲に入っていることを確認した後、次の〔工程IV”-2〕及び〔工程V〕に進んだ。〔工程IV”-2〕及び〔工程V〕では実施例2と同様の操作を行った。得られたポリイミド系樹脂の重量平均分子量は436,000であった。
【0152】
[比較例1]
〔目標値〕
重量平均分子量の目標値(目標分子量)を370,000として、ポリイミド系樹脂の合成を行った。
〔工程I〕用いたTFMBの量を111.37部としたこと以外は、実施例1の工程Iと同様の操作を行った。
〔工程II〕及び〔III〕実施しなかった。
その後の〔工程V〕では実施例1と同様の操作を行い、ポリイミド系樹脂を得た。
上記操作を3回繰り返し、ポリイミド系樹脂を3ロット作製した。これらの重量平均分子量を測定したところ、325,000、387,000、456,000となり分子量が安定しなかった。
【0153】
表1に、実施例及び比較例における目標分子量、目標粘度、目標粘度範囲、反応溶液の初期粘度、粘度の調整操作(補正操作)、調整(補正)後の粘度、及びポリイミド系樹脂の重量平均分子量を示す。
【表1】
【0154】
表1に示されるように、目標粘度範囲を設定し、該目標粘度範囲に反応系の粘度を調整して得られた実施例1~5のポリイミド系樹脂は、目標分子量に近い分子量を有している。これに対して、反応系の粘度を調整せずに得られた比較例1のポリイミド系樹脂は、分子量にバラツキが生じている。従って、本発明の製造方法は、ポリイミド系樹脂の分子量を制御できることがわかった。