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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-28
(45)【発行日】2024-06-05
(54)【発明の名称】クレーンおよびその浸水防止方法
(51)【国際特許分類】
   B66C 9/10 20060101AFI20240529BHJP
   B66C 13/52 20060101ALI20240529BHJP
【FI】
B66C9/10
B66C13/52 Z
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020049817
(22)【出願日】2020-03-19
(65)【公開番号】P2021147195
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2022-12-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000005902
【氏名又は名称】株式会社三井E&S
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】乾 龍馬
【審査官】山田 拓実
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-060602(JP,A)
【文献】特開昭56-055643(JP,A)
【文献】米国特許第05428256(US,A)
【文献】特開2018-141353(JP,A)
【文献】特開2019-157985(JP,A)
【文献】特開2005-299322(JP,A)
【文献】特開2018-014291(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106230164(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66C 9/00-17/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪と、前記車輪に固定された車軸と、前記車軸に回転力を付与するモータ装置とを有する走行装置を備えたクレーンにおいて、
少なくとも前記モータ装置のモータハウジングの上部および側部の外側を水密に覆う防水性カバーを備え、
前記走行装置が、前記車軸と前記モータ装置との間に介在して前記モータ装置の回転を前記車軸に伝達する減速機と、前記車軸を軸受けする軸受部とを有し、
前記防水性カバーにより、前記モータハウジングと、前記減速機のケーシングと、前記車輪の前記減速機側に配置された前記軸受部と前記減速機との間に延在する車軸の一部分と、が覆われていることを特徴とするクレーン。
【請求項2】
前記走行装置は、前記車輪、前記車軸、前記減速機、および前記モータ装置を有して構成されるユニットが、前記クレーンの走行方向に間隔をあけて複数組配置された構成であり、
前記防水性カバーが、前記走行方向に隣り合う複数の前記ケーシングのそれぞれの面垂直方向が前記車軸の軸方向を向いた一端面に接合されて複数の前記ケーシングどうしを連結する連結板部を有している請求項1に記載のクレーン。
【請求項3】
前記軸受部に、前記防水性カバーが固定されている請求項1または2に記載のクレーン。
【請求項4】
前記防水性カバーが、前記走行装置に対して着脱可能な構成である請求項1~3のいずれか1項に記載のクレーン。
【請求項5】
前記防水性カバーが、互いに着脱可能な複数の分割体で構成されている請求項1~4のいずれか1項に記載のクレーン。
【請求項6】
前記防水性カバーが、開閉可能な蓋部を有している請求項1~5のいずれか1項に記載のクレーン。
【請求項7】
前記防水性カバーの底部に開口が設けられている請求項1~6のいずれか1項に記載のクレーン。
【請求項8】
前記防水性カバーの内側の圧力を調整する圧力調整機構を備えている請求項1~7のいずれか1項に記載のクレーン。
【請求項9】
前記防水性カバーの内部に進入した水を前記防水性カバーの外部に排出する排水機構を備えている請求項1~8のいずれか1項に記載のクレーン。
【請求項10】
車輪と、前記車輪に固定された車軸と、前記車軸に回転力を付与するモータ装置とを有する走行装置を備えたクレーンの少なくとも前記モータ装置のモータハウジングの上部および側部の外側を防水性カバーで水密に覆うクレーンの浸水防止方法において、
前記モータハウジングと、前記車軸と前記モータ装置との間に介在して前記モータ装置の回転を前記車軸に伝達する減速機のケーシングと、前記車輪の前記減速機側に配置されていて前記車軸を軸受けする軸受部と前記減速機との間に延在する車軸の一部分とを、前記防水性カバーにより覆うことを特徴とするクレーンの浸水防止方法。
【請求項11】
前記モータ装置の浸水に備えた対策時には、前記防水性カバーを前記クレーンに装着した状態にし、対策時ではない平常時には、前記防水性カバーの一部または全部を前記クレーンから取り外した状態にする請求項10に記載のクレーンの浸水防止方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、港湾で荷役作業を行うクレーンおよびその浸水防止方法に関し、より詳細には、台風や発達した低気圧による高潮発生時であっても、走行装置を構成するモータ装置の浸水を防止できるクレーンおよびその浸水防止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
港湾で荷役作業を行うクレーンは、クレーンを走行させるための複数の走行装置を備えている。走行装置は、車輪と、車輪に固定された車軸と、車軸に回転力を付与するモータ装置と、車軸とモータ装置との間に介在する減速機とを有して構成されている。従来では、走行装置を構成するモータ装置のモータハウジングや減速機のケーシングが、外気に露出した状態で設置されていた(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-235300号公報
【文献】特開昭56-32097号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、台風や発達した低気圧による高潮発生時に、クレーンが走行する地面にまで水が浸入する場合がある。走行装置を構成するモータ装置が浸水して故障すると、モータ装置を部品単位まで分解して清掃、再組み立て又は交換を行う必要があるため、クレーンを復帰させるまでに多くの労力と時間を要する。従来では、モータ装置の設置位置まで水位が上がることは稀であったが、地球温暖化や異常気象により、高潮発生時にモータ装置の設置位置まで水位が上がるリスクが高まっていくと考えられる。それ故、走行装置を構成するモータ装置の浸水を防ぐ対策が必要となる。
【0005】
浸水によるモータ装置の故障を防ぐ方法としては、例えば、特許文献2に記載の水中モータのように、走行装置を構成するモータ装置として防水性能が高い水中モータを採用することも考えられるが、水中モータは比較的高価であるため、クレーンの走行装置に水中モータを採用することは現実的ではない。
【0006】
本発明の目的は、台風や発達した低気圧による高潮発生時であっても、走行装置を構成するモータ装置の浸水を防止できるクレーンおよびその浸水防止方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記のような目的を達成するための本発明のクレーンは、車輪と、前記車輪に固定された車軸と、前記車軸に回転力を付与するモータ装置とを有する走行装置を備えたクレーンにおいて、少なくとも前記モータ装置のモータハウジングの上部および側部の外側を水密に覆う防水性カバーを備え、前記走行装置が、前記車軸と前記モータ装置との間に介在して前記モータ装置の回転を前記車軸に伝達する減速機と、前記車軸を軸受けする軸受部とを有し、前記防水性カバーにより、前記モータハウジングと、前記減速機のケーシングと、前記車輪の前記減速機側に配置された前記軸受部と前記減速機との間に延在する車軸の一部分と、が覆われていることを特徴とする。
【0008】
上記のような目的を達成するための本発明のクレーンの浸水防止方法は、車輪と、前記車輪に固定された車軸と、前記車軸に回転力を付与するモータ装置とを有する走行装置を備えたクレーンの少なくとも前記モータ装置のモータハウジングの上部および側部の外側を防水性カバーで水密に覆うクレーンの浸水防止方法において、前記モータハウジングと、前記車軸と前記モータ装置との間に介在して前記モータ装置の回転を前記車軸に伝達する減速機のケーシングと、前記車輪の前記減速機側に配置されていて前記車軸を軸受けする軸受部と前記減速機との間に延在する車軸の一部分とを、前記防水性カバーにより覆うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、走行装置を構成するモータ装置の少なくとも上部および側部の外側を水密に覆う防水性カバーを設けることで、台風や発達した低気圧による高潮発生時に、モータ装置の設置位置まで水位が上がった場合にも、防水性カバーによってモータ装置の浸水を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明に係る実施形態のクレーンを側面視で模式的に例示する説明図である。
図2図1のA―A断面矢視図である。
図3図1のB矢視図である。
図4】本発明に係る別の実施形態のクレーンを側面視で模式的に例示する説明図である。
図5図4のC矢視図である。
図6図4のD-D断面矢視図である。
図7】本発明に係るさらに別の実施形態のクレーンを側面視で模式的に例示する説明図である。
図8図7のE-E断面矢視図である。
図9図7のF-F断面矢視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明のクレーンおよびその浸水防止方法を図に示した実施形態に基づいて説明する。
【0012】
図1に示すように、本発明に係る実施形態のクレーン1は、港湾で荷役作業を行うレールマウント式のクレーンやタイヤ式のクレーンである。図中のX方向はクレーン1の横行方向X、Y方向は横行方向Xと水平方向において直交するクレーン1の走行方向Y、Z方向は上下方向Zを示している。
【0013】
クレーン1は、クレーン1を走行させるための複数の走行装置2を備えている。走行装置2は、車輪5と、車輪5に固定された車軸6と、車軸6に回転力を付与するモータ装置7とを有して構成されている。この実施形態の走行装置2は、さらに、車軸5とモータ装置7との間に介在してモータ装置7の回転を車軸6に伝達する減速機8を有している。車輪5、車軸6、モータ装置7、および減速機8は、走行装置2を構成する支持体3に設置されている。
【0014】
この実施形態の支持体3は、イコライザ3aと、イコライザ3aにボギーピン3bを介して傾動可能に連結されたボギー3cとを有して構成されている。ボギー3cの内側の下部に走行方向Yに並んで一対の車輪5が配置されている。この実施形態の車輪5は、レールR上を走行する金属製の車輪で構成されているが、車輪5は地面を走行するゴムタイヤ等で構成することもできる。
【0015】
図2に例示するように、車輪5の横行方向Xの一方側と他方側にそれぞれ、ボギー3cの下部に固定された軸受部4(ベアリングハウジング)が設けられている。車軸6は、車輪5に横行方向Xに挿通された状態で車輪5から両端部が横行方向Xに突出していて、一対の軸受部4に軸支されている。車軸6の横行方向Xの一方側の端部は一方側に配置された軸受部4から一方側に突出していて、その車軸6の一方側の端部に減速機8が接続されている。減速機8の上にモータ装置7が配置され、減速機8とモータ装置7とが接続されている。
【0016】
この実施形態では、モータ装置7と減速機8が車軸6の軸回りに回転することを防ぐために、支持体3に対してモータ装置7および減速機7を固定するトルクアーム9が設けられている。この実施形態では、支持体3(ボギー3c)と減速機8のケーシング8aとをトルクアーム9で連結しているが、例えば、支持体3とモータ装置7のモータハウジング7aとをトルクアーム9で連結した構成にすることもできる。図3に例示するように、この実施形態の走行装置1では、1つのボギー3cに対して、車輪5、車軸6、モータ装置7、および減速機8を有するユニットが走行方向Yに離間して2組設置されている。
【0017】
本発明に係る実施形態のクレーン1は、モータ装置7の浸水を防止する防水性カバー10を備えていることが大きな特徴である。防水性カバー10を形成する部材は特に限定されないが、例えば、金属や樹脂などの防水性を有する硬質の部材で形成するとよい。防水性カバー10は、少なくともモータ装置7のモータハウジング7aの上部および側部の外側を水密に覆う構成とする。
【0018】
図2および図3に例示するように、この実施形態の防水性カバー10は、上面を有する円筒形状に形成されていて、モータハウジング7aの上部および側部の外側と、減速機8のケーシング8aのトルクアーム9が連結されている位置よりも上側の部分の外側と、を水密に覆う構成になっている。即ち、防水性カバー10によって水密に囲われた防水性カバー10の内側の内空部ISにモータ装置7の全体と減速機8の上部が収容された状態になっている。この実施形態では、防水性カバー10の底部10cに、防水性カバー10の内空部ISと外気と連通させる開口10dが設けられている。防水性カバー10の側部10bの下端部は下側に向かうにつれて周方向外側へ広がる逆テーパー状に形成されている。
【0019】
この実施形態の防水性カバー10は、固定部材12を介して支持体3(イコライザ3a)に着脱可能に固定されている。防水性カバー10と固定部材12との接合部分は水密にシーリングされている。この実施形態では、防水性カバー10の上部に、防水性カバー10の内側の圧力を調整する圧力調整機構14が設けられている。防水性カバー10と圧力調整機構14との連結部分は水密にシーリングされている。
【0020】
なお、防水性カバー10は、円筒形状に限らず、角筒形状などの他の形状にすることもできる。また、防水性カバー10の側部10bの下端部は、例えばテーパー状に形成してもよいし、逆テーパー状やテーパー状に形成されていない寸胴な形状にしてもよい。固定部材12の連結位置や、圧力調整機構14の設置位置はこの実施形態に限定されず、他の位置にすることもできる。
【0021】
本発明のクレーン1の浸水防止方法では、台風や発達した低気圧による高潮が発生することが予測されるモータ装置7の浸水に備えた対策時には、防水性カバー10によって、少なくともモータ装置7のモータハウジング7aの上部および側部の外側を水密に覆った状態にする。
【0022】
このように、本発明によれば、走行装置2を構成するモータ装置7のモータハウジング7aの少なくとも上部および側部の外側を防水性カバー10で水密に覆った状態にすることで、台風や発達した低気圧による高潮発生時に、モータ装置7の設置位置まで水位WLが上がった場合にも、防水性カバー10によってモータ装置7の浸水を防止できる。
【0023】
この実施形態のように、防水性カバー10の底部に開口10dが設けられており、防水性カバー10がモータ装置7の底部の下側を覆わない構成にした場合にも、防水性カバー10によって形成された内空部ISにモータ装置7と空気が収容された状態となる。そのため、図2に例示するように、防水性カバー10の下端部よりも高い位置まで水位WLが上がった場合にも、防水性カバー10によって内空部ISに空気が閉じ込められた状態となり、内空部ISに水が進入し難い状態になる。それ故、モータ装置7の設置位置まで水位WLが上がった場合にも、内空部ISに収容されているモータ装置7の浸水を防止できる。
【0024】
この実施形態のように、防水性カバー10の側部10bの下端部を下側に向かうにつれて周方向外側へ広がる逆テーパー状に形成すると、内空部ISに収容されている空気が防水性カバー10の外側へより漏れ出し難くなるので、モータ装置7の浸水を防止するにはより有利になる。
【0025】
この実施形態のように、防水性カバー10の内側の圧力を調整する圧力調整機構14を備えた構成にすると、圧力調整機構14によって防水性カバー10の内側の圧力(気圧)を高めることで、防水性カバー10の内側に水がさらに浸入し難くなる。そのため、モータ装置7の浸水を防止するにはより一層有利になる。
【0026】
防水性カバー10の底部10cに開口10dを設けた構成にすると、高潮が発生していない平常時に、開口10dを通じて防水性カバー10の内側の空気が入れ替わるので、モータ装置7が発する熱が防水性カバー10の内側に籠り難くなる。それ故、防水性カバー10の底部10cが塞がれている場合に比して、クレーン1が走行する際のモータ装置7の温度上昇を抑制するには有利になる。また、開口10dを通じて防水性カバー10の内側の空気が入れ替わるので、防水性カバー10の内側に結露が生じ難くなる。
【0027】
この実施形態のように、防水性カバー10を走行装置2に対して着脱可能な構成にすると、対策時ではない平常時には防水性カバー10を走行装置2から取り外しておくことで、クレーン1が走行する際のモータ装置7の温度上昇を抑制するには有利になる。
【0028】
この実施形態のように、防水性カバー10をクレーン1に対して着脱可能な構成にし、かつ、防水性カバー10の底部10cに開口10dを設けた構成にすると、走行装置2に防水性カバー10を設置する作業と、走行装置2から防水性カバー10を取り外す作業とが容易になり、非常に利便性が高くなる。この実施形態では、モータ装置7の上方からモータ装置7に被せるように防水性カバー10を設置し、防水性カバー10を固定部材12によって支持体3に固定することで、走行装置2に防水性カバー10を容易に設置できる。また、固定部材12による支持体3に対する防水性カバー10の固定を解除して、防水性カバー10を上方に移動させることで、走行装置2から防水性カバー10を容易に取り外すことができる。
【0029】
防水性カバー10の底部10cに開口10dを設ける場合には、例えば、防水性カバー10の下端部に、防水性カバー10と減速機8の側面との間の隙間を塞ぐ膜部材を設けた構成にすることもできる。膜部材によって防水性カバー10と減速機8の側面との間の隙間を塞ぐことで、防水性カバー10の内側の空気が防水性カバー10の外側により漏れ難くなるので、モータ装置7の浸水を防止するには有利になる。前述した膜部材は例えば、ゴムや樹脂などの弾性部材で形成するとよい。
【0030】
図4図6に本発明に係る別の実施形態のクレーン1を例示する。この実施形態では、防水性カバー10の構成が、図1図3に例示した実施形態と異なっている。その他の構成は図1図3に例示した実施形態と同じである。
【0031】
図4図6に例示するように、この実施形態の防水性カバー10は、モータ装置7と、減速機8と、車輪5の減速機8側に配置された軸受部4と減速機8との間に延在する車軸6の一部分と、を覆う構成になっている。この防水性カバー10は、モータ装置7と減速機8の外側を囲う上下方向Zに延在する箱状部を有しており、その箱状部の下側の側部に、車輪5の減速機8側に配置された軸受部4と減速機8との間に延在する車軸6の一部分の外側を囲う管状部が連結された構造になっている。箱状部と管状部は連通していて、一体化している。管状部の内周面と車軸6の外周面は離間していて、防水性カバー10が車軸6の回転を阻害しない構成になっている。
【0032】
防水性カバー10の管状部の軸受部4側の端部にはフランジ部が形成されていて、そのフランジ部が軸受部4に接合されることで、軸受部4に防水性カバー10が固定されている。支持体3に対向する防水性カバー10の側部10bには、トルクアーム9が挿通する挿通孔10eが設けられている。防水性カバー10の挿通孔10eの外縁とトルクアーム9の外周面との間の隙間は水密にシーリングされている。この実施形態では、防水性カバー10の底部10cに開口10dは設けられておらず、防水性カバー10と軸受部4により、防水性カバー10の内側に密閉された内空部ISが形成されている。
【0033】
図5に例示するように、この実施形態では、防水性カバー10に開閉可能な蓋部10fが設けられている。この実施形態では、蓋部10fを防水性カバー10の上部10aに設けているが、蓋部10fを防水性カバー10の側部10bや底部10cなどに設けることもできる。蓋部10fを開いた状態では、蓋部10fを開けることで生じる開口により、防水性カバー10の内側の内空部ISと外気とが連通した状態となる。蓋部10fを閉じた状態では、開口が蓋部10fによって水密に塞がれた状態となる。
【0034】
この実施形態のように、防水性カバー10が、モータ装置7と、減速機8と、車輪5の減速機8側に配置された軸受部4と減速機8との間に延在する車軸6の一部分とを覆う構成にすると、防水性カバー10の内側に水がより浸入し難くなるので、モータ装置7の浸水を防ぐにはより有利になる。さらに、減速機8の浸水を防止できるので、減速機8の故障を回避するにも有利になる。この実施形態では、それぞれの防水性カバー10が、1組のモータ装置7、減速機8、および車軸6を覆う構成にしているが、例えば、防水性カバー10が、同じボギー3cに設けられている複数組のモータ装置7、減速機8、および車軸6を覆う構成にすることもできる。
【0035】
防水性カバー10に開閉可能な蓋部10fを設けると、走行装置2に防水性カバー10を常設する場合にも、平常時には蓋部10fを開けた状態にしておくことで、防水性カバー10の内側の空気が入れ替わり、モータ装置7が発する熱が防水性カバー10の内側に籠り難くなる。それ故、クレーン1が走行する際のモータ装置7の温度上昇を抑制するには有利になる。また、防水性カバー10の内側で結露が発生し難くなる。さらに、蓋部10fを設けることで、モータ装置7や減速機8の点検やメンテナンスを行い易くなる。
【0036】
図7図9に本発明に係るさらに別の実施形態のクレーン1を例示する。この実施形態では、防水性カバー10の構成が、図4図6に例示した実施形態と異なっている。また、この実施形態では、トルクアーム9が設けられていない。その他の構成は図4図6に例示した実施形態と同じである。
【0037】
図7に例示するように、この実施形態では、防水性カバー10が、同じボギー3cに設けられている走行方向Yに隣り合う2組の、モータ装置7、減速機8、および、車輪5の減速機8側に配置された軸受部4と減速機8との間に延在する車軸6の一部分を覆う構成になっている。
【0038】
図8に例示するように、この実施形態ではさらに、防水性カバー10が、走行方向Yに隣り合う2つの減速機8どうしを連結する連結板部10gを有している。連結板部10gは、2つの減速機8のそれぞれの面垂直方向(板面に対して垂直な方向)が車軸5の軸方向(横行方向X)を向いた一端面に接合されている。この実施形態では、防水性カバー10の連結板部10gによって2つの減速機8どうしが連結されることで、それぞれの減速機8の支持体3に対する回転が防止される構成となっている。
【0039】
各々の減速機8の一端面と連結板部10gは、複数の着脱可能な接合部材13によって互いに当接した状態で接合されている。接合部材13としては、ボルトやナット、ネジ、ビス等が例示できる。図7に例示するように、複数の接合部材13は、横行方向Xに見て、それぞれの車軸6の軸心を中心とする円上に等間隔に配置するとよい。連結板部10gと減速機8との接合方法は接合部材13による接合に限定されず、連結板部10gと減速機8とを接着材や溶接等によって接合した構成にすることもできる。
【0040】
図9に例示するように、この実施形態の防水性カバー10は、互いに着脱可能な2つの分割体11A、11Bを組み合わせて構成されている。この実施形態では、モータ装置7の外側を覆う上側の分割体11Aと、減速機8および車軸6を覆う下側の分割体11Bとに分離可能な構造になっている。下側の分割体11Bに設けられている連結板部10gが減速機8の一端面に接合されていて、下側の分割体11Bの管状部の端部に設けられたフランジ部が軸受部4に接合されている。下側の分割体11Bの上端部に上側の分割体11Aの下端部が外嵌めされた状態で、下側の分割体11Bに対して上側の分割体11Aが連結具で着脱可能に連結されている。
【0041】
平常時には下側の分割体11Bから上側の分割体11Aを取り外すことで、モータ装置7が外気に露出した状態となる。浸水に備えた対策時には上側の分割体11Aを取り付けて、2つの分割体11A、11Bを連結した状態にすることで、分割体11A、11Bどうしの連結部分が水密にシーリングされ、防水性カバー10により、モータ装置7、減速機8、および車軸6が水密に覆われた状態となる。
【0042】
この実施形態では、さらに、防水性カバー10の内側に進入した水を防水性カバー10の外部に排出する排水機構15が設けられている。排水機構15は例えば、排水ポンプなどで構成される。この実施形態では、排水機構15を防水性カバー10の底部10cに配置し、防水性カバー10の底部10cに排水口が設けられている。排水機構15の配置や排水口の位置は他の位置に配置することもできる。
【0043】
この実施形態のように、面垂直方向が横行方向Xを向いた連結板部10gによって走行方向Yに隣り合う複数の減速機8の一端面どうしを連結する構成にすると、図7の太い矢印で示すように、複数の減速機8から連結板部10gに伝達される車軸6の回転方向の荷重(モーメント)Mどうしが連結板部10gの複数の減速機8どうしの間の領域で反対方向に作用して打ち消し合う。それ故、連結板部10gにより各々の減速機8が回り止めされ、各々の減速機8およびモータ装置7を正常に動作させることができる。各々の減速機8から連結板部10gに伝達される車軸6の回転方向の荷重Mは、連結板部10gの減速機8どうしの間の領域で反対方向に作用されて相殺されるので、連結板部10gに大きな負荷がかかることもない。
【0044】
防水性カバー10が連結板部10gを有する構成にすることで、減速機8と支持体3とを連結するトルクアーム9を設ける必要がなくなり、防水性カバー10にトルクアーム9が挿通する挿通孔10eを設ける必要がなくなる。それ故、防水性カバー10の水密性を高くするには有利になる。
【0045】
この実施形態のように、複数の接合部材13を、横行方向Xに見て、それぞれの車軸6の軸心を中心とする円上に等間隔に配置すると、車軸6の回転方向の荷重Mを連結板部10gにバランスよく伝達させることができる。それ故、減速機8から伝達される荷重Mが連結板部10gの局所に集中することを回避することができ、防水性カバー10の変形や破損を回避するには有利になる。
【0046】
この実施形態では、複数の減速機8の各々の車輪5の反対側に向いた一端面に連結板部10gを接合した場合を例示したが、複数の減速機8の各々の車輪5の側に向いた他端面に連結板部10gを接合した構成にすることもできる。また、連結板部10gによって2つの減速機8を連結した場合を例示したが、例えば、連結板部10gによって3つ以上の減速機8を連結した構成にすることもできる。連結板部10gによって3つ以上の減速機8を連結する場合にも、2つの減速機8を連結した場合と同様に、それぞれの減速機8から連結板部10gに伝達される車軸6の回転方向の荷重Mはそれぞれ打ち消し合う。それ故、2つの減速機8を連結する場合と同様に、連結板部10gに大きな負荷が掛かることなく、支持体3に対するそれぞれの減速機8およびモータ装置7の回転を防止できる。
【0047】
この実施形態のように、防水性カバー10を互いに着脱可能な複数の分割体11A、11Bで構成すると、平常時には一部の分割体11Aを走行装置2から取り外しておくことで、モータ装置7を外気に露出した状態にできる。それ故、クレーン1が走行する際のモータ装置7の温度上昇を抑制するには有利になる。また、防水性カバー10の内側で結露が発生し難くなり、モータ装置7や減速機8の点検やメンテナンスを行い易くなる。この実施形態では、防水性カバー10を2つの分割体11A、11Bで構成しているが、防水性カバー10を3つ以上の分割体で構成することもできる。また、防水性カバー10の分割位置や連結構造はこの実施形態に限定されず、異なる構成にすることもできる。
【0048】
この実施形態のように、排水機構15を設けると、万が一漏水などによって防水性カバー10の内側に水が浸入した場合にも、その浸入した水を排水機構15によって防水性カバー10の外部に排出することが可能となる。それ故、防水性カバー10の内側に水が溜まることを抑制して、モータ装置7の浸水をより確実に防止することができる。
【0049】
なお、図1図3図4図6図7図9でそれぞれ例示した実施形態の防水性カバー10の構成は、それぞれ適宜組み合わせることができる。即ち、例えば、図4図6に例示した実施形態の防水性カバー10を複数の分割体11A、11Bで構成することもできる。本発明における防水性カバー10は、少なくともモータ装置7の上部および側部の外側を水密に覆う構成であれば、他にも様々な構成にすることもできる。
【0050】
本発明における走行装置1は、車輪5、車軸6、およびモータ装置7を有する構成であれば上記で例示した実施形態に限定されず、他にも様々な構成にすることができる。例えば、1つのボギー3cに対して、車輪5、車軸6、モータ装置7、および減速機8を有するユニットが1組或いは3組以上設置されている構成にすることもできる。また、例えば、走行装置1に減速機8を設けずに、車軸6の一方側の端部にモータ装置7が接続されている構成にすることもできる。また、例えば、車軸6の他方側の端部にブレーキ装置を接続した構成にすることもできる。
【符号の説明】
【0051】
1 クレーン
2 走行装置
3 支持体
3a イコライザ
3b ボギーピン
3c ボギー
4 軸受部
5 車輪
6 車軸
7 モータ装置
7a モータハウジング
8 減速機
8a ケーシング
9 トルクアーム
10 防水性カバー
10a 上部
10b 側部
10c 底部
10d 開口
10e 挿通孔
10f 蓋部
10g 連結板部
11A、11B 分割体
12 固定部材
13 接合部材
14 圧力調整機構
15 排水機構
R レール
IS 内空部
M 荷重(モーメント)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9