IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 信越化学工業株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-28
(45)【発行日】2024-06-05
(54)【発明の名称】電子材料保護用コーティング剤
(51)【国際特許分類】
   C09D 183/16 20060101AFI20240529BHJP
   C09D 183/14 20060101ALI20240529BHJP
【FI】
C09D183/16
C09D183/14
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020172957
(22)【出願日】2020-10-14
(65)【公開番号】P2022064372
(43)【公開日】2022-04-26
【審査請求日】2022-10-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(72)【発明者】
【氏名】兼子 達朗
【審査官】河村 明希乃
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-233716(JP,A)
【文献】特開2001-319927(JP,A)
【文献】特開2010-177647(JP,A)
【文献】特開2012-181334(JP,A)
【文献】特開2016-147967(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0004421(US,A1)
【文献】特開2020-083674(JP,A)
【文献】国際公開第93/002472(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-201/10
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記(A-1)および(A-2)からなる異なる構造を有する2種類のポリシラザン化合物の混合物、及び
(A-1)下記式(1)
【化1】
(式中、R炭素数1~6の脂肪族炭化水素基、炭素数6~12の芳香族炭化水素基、炭素数1~6のアルコキシ基から選ばれる基である)
で示される繰り返し単位からなり、重量平均分子量が3,000~50,000の範囲内であるポリシラザン化合物、
(A-2)下記式(2)
【化2】
(式中、R炭素数1~6の脂肪族炭化水素基、炭素数6~12の芳香族炭化水素基、炭素数1~6のアルコキシ基から選ばれる基であり、Rは炭素数1~6の脂肪族炭化水素基、炭素数6~12の芳香族炭化水素基、炭素数1~6のアルコキシ基から選ばれる基である)
で示される繰り返し単位からなるポリシラザン化合物、
(B)有機溶剤
を含む電子材料保護用コーティング剤であり、前記(A-1)成分と前記(A-2)成分との混合比率が、質量比で7/3~3/7の範囲を満たすものであることを特徴とする電子材料保護用コーティング剤。
【請求項2】
前記(A)成分と前記(B)成分との混合比が0.1/99.9~20/80を満たすものであることを特徴とする請求項1に記載の電子材料保護用コーティング剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子材料保護用コーティング剤に関する。
【背景技術】
【0002】
コンデンサーやインダクターなどを始めとする多くの電子部品は電流を流すことを前提とされているため、部品を構成する部材のほとんどに金属が用いられている。これは電気抵抗値がプラスチックなどの有機樹脂やセラミックスに比べて格段に小さいため、電流を流した際に生じる発熱などによる電気的なエネルギーの損失が少ないためである。しかし、金属材料の多くは使用環境中の水分や硫化物などと反応して酸化や硫化などの化学反応を引き起こす。この時に生成する金属酸化物や金属硫化物などは元の金属と比べて電子材料として使用する際に重要な電気特性などの諸々の性質が悪化し不良の原因となる。また、酸化や硫化により発生する錆などが成長し導電部材間を電気的に繋いでしまうマイグレーションの原因ともなり得る。マイグレーションが発生すると電流を流した際にショートし、マイグレーションを起こした電子部品単体のみならず電子機器全体の故障に繋がるため非常に深刻な問題となる。
【0003】
これらの問題を解決するために電子部品の表面をコーティングにより保護することが一般的な対策である。コーティングの目的は使用する部材の種類や用途によって異なるが、ガスバリア層の導入による酸化、硫化の防止や絶縁層の導入によるショートの防止が主となる。従来は有機樹脂やシリコーン樹脂などによるコーティングが用いられているが、有機樹脂は耐熱性が低いため電子部品を機器に実装する際のリフロー工程で分解や変質が起こりコーティングの役割を果たせなくなってしまう問題がある。また、シリコーン樹脂は耐熱性こそ有機樹脂に勝るもののガスバリア性が不十分であることからコーティングとしての特性を満たすことは難しい。そこで、ガスバリア性能と耐熱性能を両立した手法として耐腐食性の金属やセラミックスなどの無機材質による蒸着、スパッタリングなどが挙げられる。しかし、これらの手法は処理に時間かがかるだけでなくコスト的にも非常に高価であるためハイグレード品や特殊用途にしか適用できないのが実情である。
【0004】
一方、無機材質で比較的容易に処理可能な手法としてガラス膜によるコーティングがある。これはガラス前駆体を含む溶液を電子部品の保護したい部分に直接塗布し、硬化処理を施すことでガラス質のコーティングを行う手法である。この手法は蒸着やスパッタリングなどの無機材質の処理方法に比べて短時間かつ低コストで処理できるため量産に向いている。しかしながら、一般的なガラス前駆体としてはテトラエトキシシラン(TEOS)などに代表されるケイ素アルコキシドが使用されるが、ガラス質のコーティング膜を得るためには300℃程度の加熱処理が必要であり、電子部品の種類によっては各種特性の低下につながる恐れがある。触媒を添加することでより低温による硬化も可能であるが、溶媒や硬化時に多量に発生する水やアルコールが膜内に残存してしまうため膜質が悪くガスバリア性能は期待できない。
【0005】
そこで、TEOSによるゾル-ゲルガラスのように溶液で簡便に塗工でき、なおかつガスバリア性に優れた手法としてポリシラザンを使用することが考案されている(例えば、特許文献1)。特に無機ポリシラザンと呼ばれるペルヒドロポリシラザン(PHPS)は硬化後に有機基を含まないシリカガラス膜となり、脱離成分である水素とアンモニアも全て常温常圧で気体であるため系内に残存しにくいことから、ガスバリア性能は低温で製膜したゾル-ゲルガラスに比べて格段に高い。その一方で、非常に緻密な構造が原因となり耐クラック性に乏しく、PHPSポリマー自身の硬化収縮で発生する残存応力により1μm程度の膜厚ですらクラックが生じる場合がある。また、硬化時にクラックが発生しない場合でも電子部品の実装時のリフロー工程や電子機器への通電による発熱によりクラックが生じる。これはガラスコーティングを施した電子部品とガラスコーティング間の線膨張率差が原因である。特に電気伝導率が高く安価な銅が電子部品の部材としてよく使用されるが、銅は金属の中でも線膨張率が大きいため線膨張率の小さいシリカガラスとの差は大きく不良が起こりやすい。この問題を解決するためにポリシラザンを変性することでガラス膜内に有機基を導入し耐クラック性を向上させる手法が提案されているが肝心のガスバリア性が低下するため両方の特性を満たすようにバランスをとることは難しい(例えば、特許文献2)。また、ポリシラザンと有機樹脂などを混合しガスバリア性と耐クラック性を両立させた手法も提案されているが、リフロー工程などの高温負荷がかかる状況は想定されておらず、耐熱性に課題が残る(例えば、特許文献3)。
【0006】
上記の問題を解決するため、簡便にコーティングが可能で高いガスバリア性と耐クラック性を有し、なおかつ、リフロー工程後も十分なガスバリア性能を保つことができるコーティング剤の提供が待たれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2011-245625号公報
【文献】特開2002-293941号公報
【文献】特開2017-039825号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、ガスバリア性が高く、硬化時や高温時にクラックが発生しにくいとともに、溶液で簡便に塗工可能な電子材料保護用のコーティング剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記目的を達成するためになされたものであり、下記に示すような特徴を有するコーティング剤を提供するものである。
【0010】
本発明では、(A)下記(A-1)および(A-2)からなる異なる構造を有する2種類のポリシラザン化合物の混合物、及び
(A-1)下記式(1)
【化1】
(式中、Rは水素原子、または炭素数1~6の脂肪族炭化水素基、炭素数6~12の芳香族炭化水素基、炭素数1~6のアルコキシ基から選ばれる基である)
で示される繰り返し単位からなり、重量平均分子量が3,000~50,000の範囲内であるポリシラザン化合物、
(A-2)下記式(2)
【化2】
(式中、Rは水素原子、または炭素数1~6の脂肪族炭化水素基、炭素数6~12の芳香族炭化水素基、炭素数1~6のアルコキシ基から選ばれる基であり、Rは炭素数1~6の脂肪族炭化水素基、炭素数6~12の芳香族炭化水素基、炭素数1~6のアルコキシ基から選ばれる基である)
で示される繰り返し単位からなるポリシラザン化合物、
(B)有機溶剤
を含む電子材料保護用コーティング剤であり、前記(A-1)成分と前記(A-2)成分との混合比率が、質量比で7/3~3/7の範囲を満たすものである電子材料保護用コーティング剤を提供する。
【0011】
このような電子材料保護用コーティング剤であれば、ガスバリア性が高く、硬化時や高温時にクラックが発生しにくいとともに、溶液で簡便に塗工可能なものとなる。
【0012】
また、本発明では、前記(A)成分と前記(B)成分との混合比が0.1/99.9~20/80を満たすものである電子材料保護用コーティング剤が好ましい。
【0013】
このような電子材料保護用コーティング剤であれば、保存安定性や塗工性等が良好となり、一度に塗工できる厚みも厚くなるため好ましい。
【0014】
また、本発明では、前記Rが、炭素数1~6の脂肪族炭化水素基、炭素数6~12の芳香族炭化水素基、炭素数1~6のアルコキシ基から選ばれる基であり、かつ、前記Rが、炭素数1~6の脂肪族炭化水素基、炭素数6~12の芳香族炭化水素基、炭素数1~6のアルコキシ基から選ばれる基である電子材料保護用コーティング剤が好ましい。
【0015】
このような電子材料保護用コーティング剤であれば、本発明の効果を向上させることができる。
【0016】
また、本発明では、前記(A-1)成分が、ペルヒドロポリシラザンである電子材料保護用コーティング剤が好ましい。
【0017】
このような電子材料保護用コーティング剤であれば、硬化後の膜特性を向上させることができる。
【0018】
また、本発明では、前記(A-2)成分が、モノメチルポリシラザンである電子材料保護用コーティング剤が好ましい。
【0019】
このような電子材料保護用コーティング剤であれば、硬化後の膜特性と耐クラック性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0020】
上記のように、本発明の電子材料保護用コーティング剤は少なくとも2種類のポリシラザンと有機溶剤を含んだポリシラザン含有組成物であって、硬化後のガスバリア性が高いことで部材の酸化や硫化を防ぎ、硬化時や高温時にもクラックが発生しにくい塗膜の形成が可能である。そのため従来よりも高ガスバリア性と耐クラック性の両立が可能なコーティング剤を得ることができる。特にリフロー工程後もガスバリア特性を維持することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
上述のように、ガスバリア性が高く、硬化時や高温時にクラックが発生しにくいとともに、溶液で簡便に塗工可能な電子材料保護用のコーティング剤の開発が求められていた。
【0022】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討を重ねた結果、異なる構造を有する2種類のポリシラザン化合物の混合物を含み、その混合比率が、質量比で7/3~3/7の範囲を満たすものである電子材料保護用コーティング剤であれば、ガスバリア性が高く、硬化時や高温時にクラックが発生しにくいとともに、溶液で簡便に塗工可能であることを見出し、本発明を完成させた。
【0023】
即ち、本発明は、(A)下記(A-1)および(A-2)からなる異なる構造を有する2種類のポリシラザン化合物の混合物、及び
(A-1)下記式(1)
【化3】
(式中、Rは水素原子、または炭素数1~6の脂肪族炭化水素基、炭素数6~12の芳香族炭化水素基、炭素数1~6のアルコキシ基から選ばれる基である)
で示される繰り返し単位からなり、重量平均分子量が3,000~50,000の範囲内であるポリシラザン化合物、
(A-2)下記式(2)
【化4】
(式中、Rは水素原子、または炭素数1~6の脂肪族炭化水素基、炭素数6~12の芳香族炭化水素基、炭素数1~6のアルコキシ基から選ばれる基であり、Rは炭素数1~6の脂肪族炭化水素基、炭素数6~12の芳香族炭化水素基、炭素数1~6のアルコキシ基から選ばれる基である)
で示される繰り返し単位からなるポリシラザン化合物、
(B)有機溶剤
を含む電子材料保護用コーティング剤であり、前記(A-1)成分と前記(A-2)成分との混合比率が、質量比で7/3~3/7の範囲を満たすものである電子材料保護用コーティング剤である。
【0024】
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0025】
(A)ポリシラザン化合物
本発明の電子材料保護用コーティング剤で用いるポリシラザン化合物は、異なる構造を有する2種以上のポリシラザン化合物の混合物を用いることを特徴とする。
【0026】
異なる構造を有するポリシラザン化合物をそれぞれ(A-1)および(A-2)とするとそれぞれ下記の式(1)および(2)で表される。
(A-1)下記式(1)
【化5】
(式中、Rは水素原子、または炭素数1~6の脂肪族炭化水素基、炭素数6~12の芳香族炭化水素基、炭素数1~6のアルコキシ基から選ばれる基である)
【0027】
ポリシラザン化合物(A-1)は上記の式(1)で示される繰り返し単位からなり、重量平均分子量が3,000~50,000の範囲内であるポリシラザン化合物である。例えば無機ポリシラザンであるペルヒドロポリシラザンもしくはメチルポリシラザン、フェニルポリシラザン、ビニルポリシラザン、メトキシポリシラザン、エトキシポリシラザンなどの変性ポリシラザン、ポリシラザンと化学的に反応し架橋構造を生成するヒドロキシル基、ビニル基、アミノ基、シリル基などの反応基を有する炭化水素化合物、環状飽和炭化水素化合物、環状不飽和炭化水素化合物、飽和複素環化合物、不飽和複素環化合物およびシリコーン化合物などの化合物と化学的に架橋された架橋ポリシラザンなどが挙げられる。(A-1)成分として選定されたポリシラザンは1分子中にケイ素原子に直接結合した水素原子を少なくとも1つ以上含む必要がある。中でも、硬化後の膜特性の観点からペルヒドロポリシラザンであることが更に好ましい。
【0028】
(A-2)下記式(2)
【化6】
(式中Rは水素原子、または炭素数1~6の脂肪族炭化水素基、炭素数6~12の芳香族炭化水素基、炭素数1~6のアルコキシ基から選ばれる基であり、Rは炭素数1~6の脂肪族炭化水素基、炭素数6~12の芳香族炭化水素基、炭素数1~6のアルコキシ基から選ばれる基である)
【0029】
ポリシラザン化合物(A-2)は上記の式(2)で示される繰り返し単位からなるポリシラザン化合物である。例えばモノメチルポリシラザンもしくはジメチルポリシラザン、フェニルポリシラザン、ビニルポリシラザン、メトキシポリシラザン、エトキシポリシラザンなどの変性ポリシラザン、ポリシラザンと化学的に反応し架橋構造を生成するヒドロキシル基、ビニル基、アミノ基、シリル基などの反応基を有する炭化水素化合物、環状飽和炭化水素化合物、環状不飽和炭化水素化合物、飽和複素環化合物、不飽和複素環化合物およびシリコーン化合物などの化合物と化学的に架橋された架橋ポリシラザンなどが挙げられる。中でも、硬化後の膜特性と耐クラック性の観点からモノメチルポリシラザンであることが好ましい。
【0030】
本発明ではガスバリア性を発現させるための(A-1)成分と耐クラック性を発現させるための(A-2)成分が適切な比率で配合されることが重要である。具体的には(A-1)成分と(A-2)成分の混合比率が質量比で7/3~3/7の範囲を満たす必要がある。この範囲外であると、片方のポリシラザンの特性が強く反映されてしまい、2種類のポリシラザンの特性がバランスよく発現しない。
【0031】
この比率よりも(A-1)成分が多いと硬化時やリフロー工程でコーティング膜にクラックが入る恐れがある。また、(A-2)成分が多いとコーティング膜のガスバリア性能が不十分である。
【0032】
また、ガスバリア性を発現させる(A-1)成分の重量平均分子量は3,000~50,000の範囲内である必要があり、5,000~10,000の範囲内であることがより好ましい。重量平均分子量が3,000より小さいと、硬化収縮が大きくなり膜内に残存応力が残りやすくクラックが発生しやすい。また、加熱硬化時に揮発する低分子も多く、膜質が悪化しやすくガスバリア性能が低下する恐れがある。一方、重量平均分子量が50,000より大きいと、(A-2)成分による応力緩和効果が得られにくく、リフロー時にクラックが入りやすくなる。なお、重量平均分子量の測定はGPC装置を用いて下記の方法で行った。
[測定条件]
展開溶媒:テトラヒドロフラン(THF)
流量:0.6mL/min
検出器:UV検出器
カラム:TSK Guardcolumn SuperH-L
TSKgel SuperMultipore HZ-M
(4.6mmI.D.×15cm×4)
(いずれも東ソー社製)
カラム温度:40℃
試料注入量:20μL(濃度0.5重量%のTHF溶液)
【0033】
また、前記Rが、炭素数1~6の脂肪族炭化水素基、炭素数6~12の芳香族炭化水素基、炭素数1~6のアルコキシ基から選ばれる基であり、かつ、前記Rが、炭素数1~6の脂肪族炭化水素基、炭素数6~12の芳香族炭化水素基、炭素数1~6のアルコキシ基から選ばれる基であることが好ましい。
【0034】
(B)有機溶剤
本発明で使用する有機溶剤は使用するポリシラザン化合物を溶解するものであれば特に制約はないが、電子材料に使用することから水を含有しやすいものや高沸点溶剤、不揮発性の溶剤などの使用は避ける方が好ましい。
【0035】
具体的な有機溶剤の例としては、例えばn-ヘキサン、n-オクタン、n-ノナンなどのアルカン化合物、1-オクテン、1-ノネン、1-デセンなどのアルケン化合物、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサンなどのシクロアルカン化合物、酢酸n-プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸n-ブチル、酢酸イソブチル、酢酸イソアミル、カプロン酸エチルなどのエステル化合物、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテルなどのエーテル化合物などが挙げられる。その中でもポリシラザンの溶解性や無機材質、有機材質への濡れ性などの観点からジブチルエーテルや酢酸イソアミルが特に好ましい。
【0036】
前記ポリシラザン化合物と有機溶剤との混合比は、質量比で、0.1/99.9~20/80の範囲であり、好ましくは1/99~20/80であり、より好ましくは2.5/97.5~20/80の範囲である。この範囲内であれば、保存安定性や塗工性等が良好となり、一度に塗工できる厚みも厚くなるため好ましい。
【0037】
[その他の添加物]
本発明の電子材料保護用コーティング剤にはポリシラザン化合物と有機溶剤の他にも硬化触媒やフィラーなどの添加物を含んでいても良い。例えば、マグネシウム、アルミニウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、亜鉛、ガリウム、ジルコニウム、ニオブ、パラジウム、白金などの金属元素を含む均一もしくは不均一金属触媒、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、テトラメチルエチレンジアミン、などの脂肪族アミン類、メチルアミノエタノール、ジメチルアミノエタノールなどの脂肪族アミノアルコール類、アニリン、フェニルエチルアミン、トルイジンなどの芳香族アミン類、ピロリジン、ピペリジン、ピペラジン、ピロール、ピラゾール、イミダゾール、ピリジン、ピリダジン、ピリミジンピラジンなどの複素環式アミン類などのアミン触媒、ヒュームドシリカ、ヒュームド二酸化チタン、ヒュームドアルミナ等の補強性無機充填材、溶融シリカ、アルミナ、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、二酸化チタン、酸化第二鉄、酸化亜鉛等の非補強性無機充填材、ヒドロシリル基、アルケニル基、アルコキシシリル基、エポキシ基から選ばれる官能性基を少なくとも2種、好ましくは2種又は3種含有するオルガノシロキサンオリゴマー、オルガノオキシシリル変性イソシアヌレート化合物およびその加水分解縮合物などの接着助剤、ジメチルシリコーンやフェニルシリコーンなどのシリコーンオイルなどが挙げられ必要な特性に応じて任意の割合で添加できる。
【0038】
本発明の電子材料保護用コーティング剤を塗布する方法としては、例えば、チャンバードクターコーター、一本ロールキスコーター、リバースキスコーター、バーコーター、リバースロールコーター、正回転ロールコーター、ブレードコーター、ナイフコーターなどのロールコート法やスピンコート法、ディスペンス法、ディップ法、スプレー法、転写法、スリットコート法等が挙げられる。
【0039】
塗布対象となる基材としては電子材料自体やその周辺部材として使用されるものであれば特に制約はない。例えばシリコーン基板、ガラス基板、金属基板、樹脂基板、樹脂フィルム等が挙げられ、必要であれば半導体素子を形成する過程での半導体膜や回路などの設けられた基板などに塗布されてもよい。塗膜の厚さは、基材との線膨張率差や晒される温度により異なるが、一般的には、硬化膜厚で、100~50,000nm、好ましくは500~10,000nmとされる。
【0040】
こうしてコーティング剤の塗布によりポリシラザン樹脂塗膜を形成した後、該塗膜の硬化のため塗膜を加熱・乾燥処理することが好ましい。この工程は、塗膜中に含まれる溶媒の完全除去と、ポリシラザンからポリシロキサン結合への交換反応を促進するための硬化反応を目的とするものである。
【0041】
加熱・乾燥温度は通常室温(25℃)~300℃、好ましくは70℃~200℃の範囲内である。加熱・乾燥工程の好ましい処理方法として、加熱処理や水蒸気加熱処理、UV処理が挙げられる。ペルヒドロポリシラザンを硬化する場合はエキシマ光処理などの方法もあるが、有機基を含むポリシラザンが含まれる場合は有機基がエキシマ光のエネルギーにより切断され、硬化膜の硬度が増してしまう恐れがある。有機基の含有量は耐クラック性に大きく影響するため設計値とのギャップが生まれクラックや剥離などの不良を引き起こす原因となるためエキシマ光による硬化は避けた方が良い。
【実施例
【0042】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、下記の例で部は質量部を示す。
【0043】
[実施例1]
重量平均分子量が6,500であるペルヒドロポリシラザン7部、重量平均分子量が1,100であるモノメチルポリシラザン3部および溶剤としてジブチルエーテル90部を混合し、ポリシラザンのジブチルエーテル溶液を調製した。調製した溶液に最外層が銅ペースト処理された5mm×2mm×1.5mmHサイズのコンデンサーをディッピングし、大気中100℃、10分間乾燥することでポリシラザン塗膜を得た。次に、このコンデンサーを大気中150℃で48h加熱し、ポリシラザン塗膜を硬化させてガラス質コーティングを施した。
【0044】
[実施例2]
重量平均分子量が6,500であるペルヒドロポリシラザン5部、重量平均分子量が1,100であるモノメチルポリシラザン5部および溶剤としてジブチルエーテル90部を混合し、ポリシラザンのジブチルエーテル溶液を調製した。調製した溶液に最外層が銅ペースト処理された5mm×2mm×1.5mmHサイズのコンデンサーをディッピングし、大気中100℃、10分間乾燥することでポリシラザン塗膜を得た。次に、このコンデンサーを大気中150℃で48h加熱し、ポリシラザン塗膜を硬化させてガラス質コーティングを施した。
【0045】
[実施例3]
重量平均分子量が6,500であるペルヒドロポリシラザン3部、重量平均分子量が1,100であるモノメチルポリシラザン7部および溶剤としてジブチルエーテル90部を混合し、ポリシラザンのジブチルエーテル溶液を調製した。調製した溶液に最外層が銅ペースト処理された5mm×2mm×1.5mmHサイズのコンデンサーをディッピングし、大気中100℃、10分間乾燥することでポリシラザン塗膜を得た。次に、このコンデンサーを大気中150℃で48h加熱し、ポリシラザン塗膜を硬化させてガラス質コーティングを施した。
【0046】
[比較例1]
重量平均分子量が6,500であるペルヒドロポリシラザン10部および溶剤としてジブチルエーテル90部を混合し、ポリシラザンのジブチルエーテル溶液を調製した。調製した溶液に最外層が銅ペースト処理された5mm×2mm×1.5mmHサイズのコンデンサーをディッピングし、大気中100℃、10分間乾燥することでポリシラザン塗膜を得た。次に、このコンデンサーを大気中150℃で48h加熱し、ポリシラザン塗膜を硬化させてガラス質コーティングを施した。
【0047】
[比較例2]
重量平均分子量が6,500であるペルヒドロポリシラザン2部および溶剤としてジブチルエーテル98部を混合し、ポリシラザンのジブチルエーテル溶液を調製した。調製した溶液に最外層が銅ペースト処理された5mm×2mm×1.5mmHサイズのコンデンサーをディッピングし、大気中100℃、10分間乾燥することでポリシラザン塗膜を得た。次に、このコンデンサーを大気中150℃で48h加熱し、ポリシラザン塗膜を硬化させてガラス質コーティングを施した。
【0048】
[比較例3]
重量平均分子量が1,100であるモノメチルポリシラザン10部および溶剤としてジブチルエーテル90部を混合し、ポリシラザンのジブチルエーテル溶液を調製した。調製した溶液に最外層が銅ペースト処理された5mm×2mm×1.5mmHサイズのコンデンサーをディッピングし、大気中100℃、10分間乾燥することでポリシラザン塗膜を得た。次に、このコンデンサーを大気中150℃で48h加熱し、ポリシラザン塗膜を硬化させてガラス質コーティングを施した。
【0049】
[比較例4]
重量平均分子量が6,500であるペルヒドロポリシラザン9部、重量平均分子量が1,100であるモノメチルポリシラザン1部および溶剤としてジブチルエーテル90部を混合し、ポリシラザンのジブチルエーテル溶液を調製した。調製した溶液に最外層が銅ペースト処理された5mm×2mm×1.5mmHサイズのコンデンサーをディッピングし、大気中100℃、10分間乾燥することでポリシラザン塗膜を得た。次に、このコンデンサーを大気中150℃で48h加熱し、ポリシラザン塗膜を硬化させてガラス質コーティングを施した。
【0050】
[比較例5]
重量平均分子量が6,500であるペルヒドロポリシラザン1部、重量平均分子量が1,100であるモノメチルポリシラザン9部および溶剤としてジブチルエーテル90部を混合し、ポリシラザンのジブチルエーテル溶液を調製した。調製した溶液に最外層が銅ペースト処理された5mm×2mm×1.5mmHサイズのコンデンサーをディッピングし、大気中100℃、10分間乾燥することでポリシラザン塗膜を得た。次に、このコンデンサーを大気中150℃で48h加熱し、ポリシラザン塗膜を硬化させてガラス質コーティングを施した。
【0051】
[比較例6]
重量平均分子量が1,800であるペルヒドロポリシラザン5部、重量平均分子量が1,100であるモノメチルポリシラザン5部および溶剤としてジブチルエーテル90部を混合し、ポリシラザンのジブチルエーテル溶液を調製した。調製した溶液に最外層が銅ペースト処理された5mm×2mm×1.5mmHサイズのコンデンサーをディッピングし、大気中100℃、10分間乾燥することでポリシラザン塗膜を得た。次に、このコンデンサーを大気中150℃で48h加熱し、ポリシラザン塗膜を硬化させてガラス質コーティングを施した。
【0052】
[比較例7]
重量平均分子量が54,000であるペルヒドロポリシラザン5部、重量平均分子量が1,100であるモノメチルポリシラザン5部および溶剤としてジブチルエーテル90部を混合し、ポリシラザンのジブチルエーテル溶液を調製した。調製した溶液に最外層が銅ペースト処理された5mm×2mm×1.5mmHサイズのコンデンサーをディッピングし、大気中100℃、10分間乾燥することでポリシラザン塗膜を得た。次に、このコンデンサーを大気中150℃で48h加熱し、ポリシラザン塗膜を硬化させてガラス質コーティングを施した。
【0053】
[参考例1]
最外層が銅ペースト処理された5mm×2mm×1.5mmHサイズのコンデンサーを用意した。
【0054】
[リフロー試験]
実施例、比較例および参考例で作製したコンデンサーサンプルに対し株式会社タムラ製作所社製リフロー装置を用いてリフロー試験を行った。リフロー条件は150℃、200℃、220℃、260℃、265℃と段階的に加熱された距離2mの炉内を速度0.35m/分のコンベアで1回通過させた。その後、外観を確認した。
【0055】
[硫化試験]
硫化試験は実施例、比較例および参考例で作製したコンデンサーサンプルに対し上記のリフロー試験を行った後に実施した。試験方法は、それぞれ硫黄粉末と共に密閉容器に入れ、対流式乾燥機で80℃、100時間加熱した後に銅ペースト部分の変化を顕微鏡で観察した。
【0056】
実施例、比較例および参考例をまとめたものを表1に示す。なお、外観上で特に問題がない場合は〇、それ以外は不良モードを記載した。
【表1】
【0057】
実施例および比較例のうち、比較例1、6を除く全てのサンプルで硬化後にクラックや剥離などの外観不良は発生しなかった。比較例1、6で硬化後にクラックが発生した原因はコーティング膜の耐クラック性が乏しく、硬化収縮による応力に耐えきれなかったためと考えられる。また、比較例1、2、4、6および7ではリフロー試験後にコーティング膜にクラックや剥離が確認された。これはコンデンサーとコーティング膜の線膨張差が原因であると推測される。一方、実施例1~3および比較例3、5ではリフロー後もコーティング膜に不良は発生しなかった。リフロー試験後に硫化試験を行うと比較例および参考例のすべてのサンプルで銅ペースト部分の硫化による黒変が確認された。クラックや剥離が生じたサンプルについてはコーティングがガスバリア膜として機能しないため当然の結果である。比較例3、5についてはコーティング膜に不良は生じなかったがコーティング膜自体のガスバリア性が不十分であったことが示唆される。これらのことから本発明のコーティング膜は電子材料部品に必須な耐リフロー性を有し、かつ、高い耐硫化性能を示すことが言える。
【0058】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。