(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-28
(45)【発行日】2024-06-05
(54)【発明の名称】家庭用パンミックス
(51)【国際特許分類】
A21D 6/00 20060101AFI20240529BHJP
A21D 2/14 20060101ALI20240529BHJP
A21D 2/26 20060101ALI20240529BHJP
【FI】
A21D6/00
A21D2/14
A21D2/26
(21)【出願番号】P 2021535450
(86)(22)【出願日】2020-07-31
(86)【国際出願番号】 JP2020029375
(87)【国際公開番号】W WO2021020545
(87)【国際公開日】2021-02-04
【審査請求日】2022-12-19
(31)【優先権主張番号】P 2019142356
(32)【優先日】2019-08-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】398012306
【氏名又は名称】株式会社日清製粉ウェルナ
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福田 真人
(72)【発明者】
【氏名】野田 葵
【審査官】戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-092474(JP,A)
【文献】特開2007-014253(JP,A)
【文献】Cereal Chem.,2017年,vol.94, no.2,pp.185-189
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A21D 2/00-17/00
FSTA/CAplus/AGRICOLA/BIOSIS/
MEDLINE/EMBASE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Google
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミックスの全質量中、強力粉を50質量%以上、グルテンを5~20質量%、食物繊維含量70質量%以上の難消化性澱粉含有素材を15~25質量%で含有することを特徴と
し、
前記グルテンが小麦粉から取り出されたものである、家庭用パンミックス。
【請求項2】
さらに乳化剤を0.001~0.1質量%含有する請求項1に記載の家庭用パンミックス。
【請求項3】
ストレート法のパン製造法で用いられるものである、請求項1又は2に記載の家庭用パンミックス。
【請求項4】
ホームベーカリー装置で用いられるものである、請求項1~3のいずれか1項に記載の家庭用パンミックス。
【請求項5】
前記グルテンを8~18質量%含有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の家庭用パンミックス。
【請求項6】
前記難消化性澱粉含有素材を17~23質量%含有する、請求項5に記載の家庭用パンミックス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、家庭においてストレート法でパンを製造する場合や、ホームベーカリー装置を用いてパンを製造する場合に、糖質を低減しながらも外観及び食感が良好なパンを製造することができるパンミックスに関する。
【背景技術】
【0002】
パンは、パン専門店で製造されたものや、工場で大量に製造されて小売店で流通するものを購入し、食する場合が多い。一方で、家庭内でもオーブン等を使用してパンを製造することはできるが、家庭内で消費する比較的少量を製造するには煩雑な準備が必要となる。このため、数名で食する程度の量のパンを、ほぼ全自動で製造することができるホームベーカリー装置も市販されている。パンの製造方法は、大きくストレート法と中種法に分かれている。ストレート法は、パン原料をすべて混捏して生地を製造し、これを発酵後に焼成する方法であり、原料の風味を活かしたパンが製造できる。中種法は、まず原料の一部で生地を製造し発酵させ、その後、残りの原料を加えて再度混捏して生地を製造し、発酵と焼成を行う方法であり、柔らかくしっとりとしたパンを製造することができる。一般的に、中種法は製造に時間がかかるため、家庭内ではほとんど行われず、工場での製造に用いられている。またストレート法は、すべての工程を3~6時間程度で完了できるため、家庭でパンを製造する場合や、ホームベーカリー装置で製パンする場合に主に用いられている。
【0003】
近年、糖質を制限する健康法が注目されている。糖質は、脂質及び蛋白質と並ぶ3大栄養素の1つであるが、糖質は体内に吸収された後、一部が脂質となって蓄積されて体脂肪増加の一因となり、また糖質を多量に摂取して血糖値が上昇すると、糖尿病のリスク要因となる場合がある。小麦粉は、現代の食生活に欠かせないものであるが、糖質である澱粉をおよそ80%含んでおり、小麦粉の使用を制限せざるを得ない場合がある。また近年は、健康志向の高まりを背景に、食生活に糖質制限を積極的に採り入れる動きが活発化しており、糖質を制限する療法やダイエット法等が数多く提唱されている。小麦粉を主原料とするパンも例外ではなく、低糖質で糖質制限に適したパンに対するニーズが高まっている。
【0004】
低糖質を謳う小麦粉食品として、通常の小麦粉食品における糖質を、ヒトの消化酵素で消化され難い食物繊維に置き換えたものが知られており、この食物繊維としては、難消化性澱粉、難消化性デキストリン、イヌリン等が用いられている。しかしながら、小麦粉食品に食物繊維を含有させると、小麦粉食品の低糖質化が図られる一方で、小麦粉食品本来の食感、食味、風味等が低下し、食品としての美味しさが損なわれるという問題がある。この問題を解決するべく種々の提案がなされている。
【0005】
例えば特許文献1には、難消化性澱粉を40質量%以上含む食品用素材、グルテン及び大豆由来食品用素材を含む、製パン用組成物が記載されている。また特許文献2には、膨潤抑制澱粉及び膨潤非抑制澱粉を配合してなるベーカリー食品用小麦粉代替物が記載され、当該膨潤抑制澱粉は食物繊維を多く含んでいることが記載されている。また特許文献3には、イヌリンを主成分とする水溶性食物繊維粉末に対して、ふすま、ぬか、おからから選ばれる不溶性食物繊維を2~20倍量配合するダイエット食品が記載されている。
【0006】
本発明者らは、家庭で行われるストレート法のパン製造や、ホームベーカリー装置を用いたパン製造において、食物繊維が高められたパンを製造することができるパン用ミックスについて研究を行った。すると、特にストレート法による製パン法においては、食物繊維によりボソついた風味の悪いものになるとともに、パンがよく膨らまなくなるため、得られるパンが小さく、硬くて喫食しにくいものになってしまうという問題に直面した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2017-23048号公報
【文献】US2008095909A1
【文献】US2009202674A1
【発明の概要】
【0008】
本発明の課題は、食物繊維を含有し、通常のパンに比較して糖質が30%程度以上少なく、低糖質且つ低カロリーでありながらも、通常のパン用小麦粉と同様に、家庭内でストレート法やホームベーカリー装置でパンを製造することができる、家庭用パンミックスを提供することである。
【0009】
本発明は、強力粉を50質量%以上、グルテンを5~20質量%、食物繊維含量70質量%以上の難消化性澱粉含有素材を15~25質量%で含有することを特徴とする、家庭用パンミックスである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の家庭用パンミックスは、強力粉を50質量%以上、グルテンを5~20質量%、食物繊維含量70質量%以上の難消化性澱粉を15~25質量%で含有する。
【0011】
本発明で用いる強力粉は、通常のパン製造に用いられる、硬質小麦品種に由来する強力小麦粉、準強力小麦粉又はこれらの混合小麦粉である。本発明の家庭用パンミックスにおける強力粉の含有量は、該ミックスの全質量(乾燥質量、以下同様)中、50質量%以上であり、好ましくは55~72質量%、さらに好ましくは60~70質量%である。家庭用パンミックスにおける強力粉の含有量が50質量%未満では、パンのしっとりとした食感と口溶け感が低下して、ぼそついた食感が強くなる。
【0012】
本発明で用いる強力粉は、通常の未処理の小麦粉のまま用いるのが好ましい。小麦粉には、油脂加工や熱処理などの加工処理を行った小麦粉も存在するが、イーストによる発酵が未熟となったり、ふくらみが悪くなることがあるため、このような加工処理を行った小麦粉は用いないのが好ましい。
【0013】
本発明で用いるグルテンは、小麦に含まれる蛋白質であるグリアジンとグルテニンとが混合した蛋白である。小麦粉に加水後混捏して生地を調製し、該生地を流水又は多量の水の中でよく揉むと、澱粉が洗い流されてグルテンが残る。また工業的には、小麦粉から澱粉を取り出した残渣から得ることができる。本発明のグルテンは上記のようにして製造したものを利用してもよく、市販のものを利用してもよい。
尚、小麦粉に含まれた状態のグルテンは、小麦に含まれる澱粉等と複合体の状態にあり、上記のように取り出されたグルテンと小麦粉の状態のグルテンとでは、パン生地を形成する際の挙動が異なる。そのため、本発明で用いるグルテンは、小麦粉中のグルテンとは別に含有量が規定されている。
【0014】
本発明の家庭用パンミックスにおけるグルテンの含有量は、該ミックスの全質量中、5~20質量%であり、好ましくは8~18質量%、さらに好ましくは12~16質量%である。家庭用パンミックスにおけるグルテンの含有量が5質量%未満では、パンのふくらみが悪く、ぼそぼそした食感になるおそれがあり、また20質量%を超えると、パンが硬い食感になるおそれがある。
【0015】
本発明ではさらに、難消化性澱粉含有素材を用いる。本発明で用いる難消化性澱粉含有素材は、難消化性澱粉を主として(好ましくは75質量%以上)含有する食品素材であり、難消化性澱粉以外に、消化性成分等のその他の成分を含んでいる場合がある。本発明で用いる難消化性澱粉含有素材は、そのようなその他の成分を含んでいるものであっても構わない。その他の成分は、通常、難消化性澱粉の精製の際に避け難い不純物である。
【0016】
難消化性澱粉は、消化酵素で消化され難い性質を有する澱粉であり、食物繊維の一種である。尚、本発明でいう食物繊維とは、ヒトの消化酵素で消化されない食品成分である。
澱粉は、ブドウ糖がα(1、4)結合、α(1、6)結合で多数結合した高分子であり、生物由来の澱粉は一般的には消化酵素で分解される。しかしながら、生物由来であっても、一部又は全体に特定の構造を有する澱粉や、化学的に修飾を受けた澱粉は、消化酵素に抵抗性を示すようになる。
【0017】
本発明で用いる難消化性澱粉含有素材は、食物繊維含量が70質量%以上、好ましくは75質量%以上である。本発明でいう「食物繊維含量」は、AOAC985.29をベースとした酵素-重量法(プロスキー法)によって定量される値であり、プロスキー法をベースとした市販の測定キット、例えば食物繊維測定キット(和光純薬工業)等を利用して測定することができる。本発明でいう「食物繊維含量」は、難消化性澱粉含有素材に含まれる全ての食物繊維の含有量である。つまり、本発明で用いる難消化性澱粉含有素材は、難消化性澱粉を含めた全ての食物繊維の含有量が70質量%以上であればよく、それによって、本発明において目的とする効果(低糖質且つ低カロリーのパンの提供)を発揮することができる。尤も、難消化性澱粉含有素材は、典型的には、含有されている食物繊維の大部分あるいは全部が難消化性澱粉であるので、通常は、前記の「食物繊維含量が70質量%以上」は「難消化性澱粉含量が70質量%以上」に言い換えることができる。例えば、難消化性澱粉含有素材として、後述する市販の難消化性澱粉を使用した場合は、このような言い換えをしても差し支えない。
【0018】
一般に、難消化性澱粉は、下記RS1~RS4の4種類に分類される。
RS1は、澱粉それ自体は消化されやすいものの、外皮等により物理的に保護されているために、消化酵素が作用できずに消化抵抗性を示す難消化性澱粉であり、主に全粒粉、種子、マメ類等に含まれる。
RS2は、澱粉粒の特殊な結晶構造に起因して消化抵抗性を示す難消化性澱粉(生澱粉)であり、低水分条件で湿熱処理を行った馬鈴薯澱粉や、未熟バナナ澱粉を例示できる。又ハイアミロース澱粉も、直鎖構造のアミロースが多く、RS2に分類される。
RS3は、澱粉の老化により消化酵素が作用しにくい構造に変化したために消化抵抗性を示す難消化性澱粉であり、加熱により一旦糊化(α化)させた後、冷却して得られる老化澱粉(β化澱粉)を例示できる。
RS4は、高度に化学修飾されたことにより消化抵抗性を示す難消化性澱粉であり、強い架橋処理が施された架橋澱粉、エーテル化及び/又はエステル化された澱粉を例示できる。
【0019】
本発明では、RS1~RS4のいずれの難消化性澱粉も用いることができる。好ましくは、RS2又はRS4(特にRS4)に分類される難消化性澱粉を含有し且つ食物繊維含量が70質量%以上の難消化性澱粉含有素材を用いる。
【0020】
前記難消化性澱粉は、天然の澱粉(未加工の澱粉)でも加工澱粉でも構わない。尤も、一般に、天然の難消化性澱粉を含有する難消化性澱粉含有素材は「食物繊維含量」が高くても30質量%未満に留まるものがほとんどであり、本発明で用いるには必ずしも好適ではない場合が多い。これに対し例えば、RS2の難消化性澱粉を含有し湿熱処理等の熱処理が施された難消化性澱粉含有素材は、熱処理によって「食物繊維含量」が高められており、本発明で用いるのに好ましい。具体的には例えば、澱粉中のアミロース含量が70質量%のハイアミロースコーンスターチは、熱処理前の未加工の状態では「食物繊維含量」が20質量%程度に過ぎないが、湿熱処理が施されると60質量%程度になる。
【0021】
また本発明において、難消化性澱粉含有素材としては、市販されている商品を用いることができる。例えば、RS2の難消化性澱粉を含有する商品の例として、日食ロードスター(日本食品化工製)、ハイメイズ1043(日本エヌエスシー製)、Actistar 11700(カーギルジャパン製)が挙げられる。RS4の難消化性澱粉を含有する商品の例として、パインスターチRT(松谷化学工業製)、ノベロース(イングレディオン製)、ファイバージムRW(松谷化学工業製)、Actistar RT 75330(カーギルジャパン製)が挙げられる。尚、これらの商品は、一般に「難消化性澱粉」と称して販売されているが、本発明でいう「難消化性澱粉含有素材」に該当するものであり、食物繊維含量が70質量%以上である。
【0022】
本発明の家庭用パンミックスにおける難消化性澱粉含有素材の含有量は、該ミックスの全質量中、15~25質量%であり、好ましくは17~24質量%、さらに好ましくは19~23質量%である。家庭用パンミックスにおける難消化性澱粉含有素材の含有量が15質量%未満では、期待される難消化性澱粉の低糖質且つ低カロリーといった保健機能が得られないおそれがある。また、家庭用パンミックスにおける難消化性澱粉含有素材の含有量が25質量%を超えると、パンのふくらみが悪く、ぼそぼそした食感になるおそれがある。
【0023】
本発明の家庭用パンミックスは、上記した各成分(強力粉、グルテン、難消化性澱粉)に加えてさらに、乳化剤を含有してもよい。家庭用パンミックスに乳化剤を含有させることで、パンの膨らみが増し、口溶け感をより向上し、ぼそついた食感をより低下させることができる。本発明で用いる乳化剤としては、食用に供することができるものであればいずれでもよく、レシチン、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル等が例示できる。これらの中では、レシチン又はショ糖脂肪酸エステルを使用することが好ましい。本発明の家庭用パンミックスにおける乳化剤の含有量は、該ミックスの全質量中、好ましくは0.001~0.1質量%、より好ましくは0.001~0.02質量%であり、より一層好ましくは0.002~0.01質量%である。
【0024】
本発明の家庭用パンミックスは、パンの製造に通常用いられるその他の原材料、例えば、強力粉以外の穀粉類、難消化性澱粉以外の澱粉類、糖類、油脂類、粉乳、色素、香料、食塩、膨張剤、乾燥卵、増粘剤、卵殻カルシウム、酵素、呈味剤、香辛料等を、所望されるパンの品質等に応じて適宜含有してもよい。これらの他の原材料の含有量は、家庭用パンミックスの全質量中、好ましくは0~30質量%程度、さらに好ましくは0~20質量%程度である。
【0025】
本発明の家庭用パンミックスは、前述した各成分を適宜混合することによって得られる。本発明の家庭用パンミックスの形態は特に限定されないが、通常、常温常圧下で粉末、顆粒状等である。
【0026】
本発明の家庭用パンミックスは、パン類の製造に用いることができる。パン類とは、生地を発酵させたものを加熱(例えば、焼成、蒸し、揚げ等)して得られる食品をいう。パン類としては、例えば、食パン(角型食パン、イギリスパン等)、ロールパン、菓子パン(あんパン、クリームパン等)や総菜パン(カレーパン等)、フランスパン、クロワッサン、デニッシュ、ピザ、イーストドーナツなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0027】
本発明の家庭用パンミックスは、通常の強力粉と同様に用いることができる。従って、本発明の家庭用パンミックスを用いて、上述した各種のパン類を製造するにあたっては、本発明の家庭用パンミックスは通常の強力粉と同様に取り扱えばよい。
【0028】
パンの製造法は大きくストレート法と中種法に分かれるところ、本発明の家庭用パンミックスは、ストレート法によるパンの製造に適している。一般に、ストレート法は、パン原料をすべて混捏して生地を製造し、これを発酵後に焼成する方法であり、原料の風味を活かしたパンが製造でき、また、すべての工程を3~6時間程度で完了できるため、家庭でパンを製造する場合や、ホームベーカリー装置で製パンする場合に適した製パン法である。本発明の家庭用パンミックスを用いてストレート法にてパンを製造すれば、低糖質且つ低カロリーでありながら、食感及び外観も十分に満足できるパンを、家庭でも容易に製造することができる。また、本発明の家庭用パンミックスをホームベーカリー装置と共に用いれば、そのようなパンを家庭にてより一層容易に製造することができる。尚、ホームベーカリー装置としては、市販されているものを特に制限なく使用することができる。
【0029】
本発明の家庭用パンミックスは、通常の強力粉と同様に用いて、通常の強力粉を用いた場合と同等又はそれ以上の品質のパン類を製造することができ、しかも糖質が低減されているため、糖質を制限する食事、栄養療法、ダイエット法に最適である。
【実施例】
【0030】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0031】
以下の実施例及び比較例において使用した原料の詳細は下記の通りである。
・難消化性澱粉含有素材A:「パインスターチRT」松谷化学工業製、食物繊維含量75質量%
・難消化性澱粉含有素材B:「ノベロース」イングレディオン製、食物繊維含量90質量%
・不溶性食物繊維(セルロース)含有素材:「セオラス」旭化成製、食物繊維含量95質量%
・グルテン:「スーパーグル」日本コロイド製
・強力粉:「カメリヤ」日清フーズ製
・薄力粉:「フラワー」日清フーズ製
・乳化剤:レシチン「ベイシスLP-20」日清オイリオ社製、ショ糖脂肪酸エステル「リョートーシュガーエステル」三菱化学フーズ社製
・タピオカ澱粉「マツノリンMー22」松谷化学工業社製
・卵白粉:「乾燥卵白Rタイプ」全農・キューピー・エッグステーション社製
【0032】
〔実施例1~20及び比較例1~11〕
下記表1~4に示す配合で原材料を適宜混合・攪拌して、家庭用パンミックスを製造した。
【0033】
〔試験例1〕糖質量の評価
得られた実施例及び比較例の家庭用パンミックスの糖質量を、計算により求めた。具体的には、各原料の糖質含有量を「日本食品標準成分表2015年版 七訂」により求め、参考例の強力粉の糖質量を100としたときの実施例及び比較例の家庭用パンミックスの糖質量を百分率で表した。その結果を表1~4に示す。
【0034】
〔試験例2〕パンの製造及び評価
各実施例及び比較例の家庭用パンミックスを用いて、ホームベーカリー装置(「SD-BM103」、パナソニック製)にて下記手順で製造した。
室温約20℃で、パンミックス250g、砂糖17g、食塩5g、脱脂粉乳6g及びバター10gをパンケースに投入し、最後に15℃の水180gを投入した。別途、イースト容器にドライイースト2.8gをセットし、食パンコース(焼き色:標準)にてスタートした。
パンが焼きあがったらケースから取り出し、パンの高さを測定し、下記の評価基準で外観を評価した。各実施例及び比較例についてパンの製造及び外観の評価を10回行った(n=10)。それらの評価点の平均値を表1~4に示す。
さらにパンを2分割し、10名の専門パネラーにより、下記の評価基準で食感を評価した。その結果を10名の専門パネラーの評価点の平均値として下記表1~4に示す。
尚、下記の評価基準における参考例は、別途、パンミックスに代えて強力粉を使用した以外は上述と同様の手順で製造したパンを指す。
【0035】
<外観の評価基準>
5点:参考例に対して95%以上の高さがあり、上部はきれいな山形で非常に良好。
4点:参考例に対して80%以上95%未満の高さがあり、上部はきれいな山形で良好。
3点:参考例に対して60%以上80%未満の高さがあり、上部にやや変形があるが、概ね満足できる。
2点:参考例に対して60%未満の高さしかなく、上部に大きな変形があり不良。
1点:生地からほとんど膨らみが見られず、極めて不良。
<食感の評価基準>
5点:参考例と同等の風味があり、口当たりと口溶けもよく、極めて良好。
4点:参考例と同等の風味があり、口当たりと口溶けはわずかに劣るが、良好。
3点:参考例に対してやや風味が劣り、口当たりと口溶けもやや劣るが、概ね満足できる。
2点:参考例に対して風味が劣り、口当たりと口溶けも劣り、不良。
1点:参考例に対して風味が大きく劣り、口当たりと口溶けもかなり劣り、極めて不良。
【0036】
【0037】
強力粉の一部を難消化性澱粉含有素材で置き換えた比較例2では、参考例から外観及び食感が大きく低下した。強力粉の一部をグルテンで置き換えた比較例1では、参考例からの外観低下は小さかったが、食感はやはり低下した。これらの比較例に対し、難消化性澱粉含有素材とグルテンとを組み合わせて使用した実施例1では、参考例に比べて、外観が十分満足し得るレベルに維持され、しかも驚くべきことに、難消化性澱粉含有素材又はグルテンの単独使用では低下を抑えられなかった食感も、十分満足し得るレベルに維持され、さらには糖質量も70%まで低減することができた。
尚、難消化性澱粉と同じ不溶性食物繊維の一種であるセルロースをグルテンと組み合わせて使用しても(比較例3)、参考例から外観及び食感のいずれも大きく低下し、このことから、不溶性食物繊維の中でも難消化性澱粉がグルテンと組み合わせるのに適していることが分かる。また、難消化性澱粉に代えて通常の澱粉をグルテンと組み合わせると(比較例4)、外観及び食感は満足し得るレベルであるが、糖質量はあまり低減できない。また、難消化性澱粉及びグルテンを薄力粉と組み合わせても(比較例5)、糖質量は低減できるが、外観及び食感が大きく低下する。
【0038】
【0039】
【0040】
【0041】
実施例のパンミックスを用いて得られたパンは、参考例と比較して、ほとんどの場合に30%程度(すべての場合において少なくとも20%)糖質量を低減しながら、外観及び食感も満足し得るレベルに維持されていた。一方、比較例のパンミックスを用いて得られたパンは、糖質量の低減ができないか、外観及び/又は食感の評価が低かった。
尚、難消化性澱粉含有素材の含有量を検討した実施例3~8(表2)及びグルテンの含有量を検討した実施例9~14(表3)では、いずれの実施例でも糖質量がほぼ同等となるようにするため、一部の実施例でパンの評価に影響がない卵白粉を使用した。強力粉の含有量を検討した実施例15~20(表4)では、実施例1の配合を基準とし、実施例1の配合から強力粉を増量する場合にはグルテンを減量し、実施例1の配合から強力粉を減量する場合には代わりに卵白粉を加えた。
【0042】
〔実施例21~26〕
表5に示す配合で乳化剤も使用して家庭用パンミックスを製造した。これらのパンミックスについて、試験例1と同様にして糖質量を求めた。またこれらのパンミックスを用いて、試験例2と同様にしてパンを製造し、パンの外観及び食感を評価した。それらの結果を表5に示す。なお表5には実施例1の結果を再掲する。
【0043】
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明によれば、食物繊維を含有し、通常のパンに比較して糖質が30%程度以上少なく、低糖質且つ低カロリーでありながらも、通常のパン用小麦粉と同様に、家庭内でストレート法やホームベーカリー装置でパンを製造することができる、家庭用パンミックスを提供することができる。