(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-28
(45)【発行日】2024-06-05
(54)【発明の名称】キャピラリアレイ
(51)【国際特許分類】
G01N 21/64 20060101AFI20240529BHJP
【FI】
G01N21/64 Z
(21)【出願番号】P 2022569653
(86)(22)【出願日】2020-12-18
(86)【国際出願番号】 JP2020047369
(87)【国際公開番号】W WO2022130607
(87)【国際公開日】2022-06-23
【審査請求日】2023-04-11
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】穴沢 隆
(72)【発明者】
【氏名】伊名波 良仁
(72)【発明者】
【氏名】山本 周平
【審査官】吉田 将志
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-125901(JP,A)
【文献】特開2007-171214(JP,A)
【文献】特表2005-535895(JP,A)
【文献】特開2003-270149(JP,A)
【文献】特開平07-288088(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/64
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Nを2以上の整数として、
電気泳動分析に用いられるN本の分析キャピラリのレーザビームが一括照射されるレーザ照射部と、電気泳動分析に用いられないN±1本のレンズキャピラリの前記レーザビームが一括照射されるレーザ照射部が、交互に、同一の配列平面上に概ね配列されて構成されるキャピラリアレイにおいて、
前記レーザ照射部における前記N本の分析キャピラリ、および、前記レーザ照射部における前記N±1本のレンズキャピラリのそれぞれの、外半径をR、内半径をr、外部の媒体の屈折率をn
1、素材の屈折率をn
2とし、
前記レーザ照射部における前記N本の分析キャピラリの内部の媒体の屈折率をn
3とし、
前記レーザ照射部における前記N±1本のレンズキャピラリの内部の媒体の屈折率をn
4とするとき、
n
3<1.36
であ
り、R、r、n
1、n
2、n
3、およびn
4が
【数1】
を満足する、キャピラリアレイ。
【請求項2】
請求項1において、
n
3≦1.34
である、キャピラリアレイ。
【請求項3】
請求項1において、
前記N本の分析キャピラリそれぞれの透過率をT
A、前記N±1本のレンズキャピラリそれぞれの透過率をT
Bとし、
【数2】
とするとき、Nが奇数の場合は、
【数3】
を満足し、Nが偶数の場合は、
【数4】
を満足する、キャピラリアレイ。
【請求項4】
請求項1において、
前記N本の分析キャピラリそれぞれの透過率をT
A、前記N±1本のレンズキャピラリそれぞれの透過率をT
Bとし、
【数5】
とし、
【数6】
とし、Nが奇数の場合は、
【数7】
とし、Nが偶数の場合は、
【数8】
とするとき、
【数9】
を満足する、キャピラリアレイ。
【請求項5】
請求項4において、
【数10】
を満足する、キャピラリアレイ。
【請求項6】
請求項1において、
1.23≦n
1≦1.29
である、キャピラリアレイ。
【請求項7】
請求項6において、
1.24≦n
1≦1.28
である、キャピラリアレイ。
【請求項8】
請求項1において、
1.8≦R/r≦3.0
である、キャピラリアレイ。
【請求項9】
請求項8において、
2.0≦R/r≦2.8
である、キャピラリアレイ。
【請求項10】
請求項1において、
n
2=n
4=1.46±0.01
である、キャピラリアレイ。
【請求項11】
請求項1において、
1.33≦n
3<1.36
である、キャピラリアレイ。
【請求項12】
請求項1において、
1.33≦n
3<1.36の第1の分析モード、および
1.36≦n
3≦1.42の第2の分析モード
を含む複数の分析モードを有する、キャピラリアレイ。
【請求項13】
請求項1において、
N≧48
である、キャピラリアレイ。
【請求項14】
Nを2以上の整数として、
電気泳動分析に用いられるN本の分析キャピラリのレーザビームが一括照射されるレーザ照射部と、電気泳動分析に用いられないN±1本のレンズキャピラリの前記レーザビームが一括照射されるレーザ照射部が、交互に、同一の配列平面上に概ね配列されて構成されるキャピラリアレイにおいて、
前記レーザ照射部における前記N本の分析キャピラリ、および、前記レーザ照射部における前記N±1本のレンズキャピラリの、外半径をR、内半径をr、外部の媒体の屈折率をn
1、素材の屈折率をn
2とし、
前記レーザ照射部における前記N本の分析キャピラリの内部の媒体の屈折率をn
3とし、
前記レーザ照射部における前記N±1本のレンズキャピラリの内部の媒体の屈折率をn
4とするとき、
1.23≦n
1≦1.29、
n
2=n
4=1.46±0.01、
1.33≦n
3<1.36、
R/r≦3.5
を満足する、キャピラリアレイ。
【請求項15】
請求項14において、
1.24≦n
1≦1.28
である、キャピラリアレイ。
【請求項16】
請求項14において、
2.0≦R/r≦2.8
である、キャピラリアレイ。
【請求項17】
請求項14において、
N≧48
である、キャピラリアレイ。
【請求項18】
Nを2以上の整数として、
電気泳動分析に用いられるN本の分析キャピラリのレーザビームが一括照射されるレーザ照射部と、電気泳動分析に用いられないN±1本のレンズキャピラリの前記レーザビームが一括照射されるレーザ照射部が、交互に、同一の配列平面上に概ね配列するキャピラリアレイにおいて、
前記レーザ照射部における前記N本の分析キャピラリ、および、前記レーザ照射部における前記N±1本のレンズキャピラリの、外半径をR、内半径をr、外部の媒体の屈折率をn
1、素材の屈折率をn
2とし、
前記レーザ照射部における前記N本の分析キャピラリの内部の媒体の屈折率をn
3とし、
前記レーザ照射部における前記N±1本のレンズキャピラリの内部の媒体の屈折率をn
4とするとき、
1.23≦n
1≦1.29であり、
n
2=n
4=1.46±0.01であり、
R/r≦3.5である条件下で、
1.33≦n
3<1.36の第1の分析モード、および
1.36≦n
3≦1.42の第2の分析モード
を含む複数の分析モードを有する、キャピラリアレイ。
【請求項19】
請求項18において、
1.24≦n
1≦1.28
である、キャピラリアレイ。
【請求項20】
請求項18において、
2.0≦R/r≦2.8
である、キャピラリアレイ。
【請求項21】
請求項18において、
N≧48
である、キャピラリアレイ。
【請求項22】
Nを2以上の整数として、
電気泳動分析に用いられるN本の分析キャピラリのレーザビームが一括照射されるレーザ照射部と、電気泳動分析に用いられないN±1本のレンズキャピラリの前記レーザビームが一括照射されるレーザ照射部が、交互に、同一の配列平面上に概ね配列するキャピラリアレイにおいて、
前記N本の分析キャピラリの長さが、前記N±1本のレンズキャピラリの長さよりも長い、キャピラリアレイ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、キャピラリアレイに関する。
【背景技術】
【0002】
複数本の、石英ガラス製のキャピラリに、電解質溶液、あるいは高分子ゲルやポリマを含む電解質溶液等の電気泳動分離媒体を充填し、並列に電気泳動分析を行うキャピラリアレイ電気泳動装置が広く用いられている。従来の1本のキャピラリを用いるキャピラリ電気泳動装置と比較して、キャピラリアレイ電気泳動装置は分析スループットを向上することができるだけでなく、サンプルあたりの分析コストを低減することが可能である。最も広く用いられているキャピラリアレイ電気泳動装置は、Thermo Fisher Scientific社から販売されている3500シリーズジェネティックアナライザ、および3730シリーズジェネティックアナライザである。3500シリーズジェネティックアナライザでは8本または24本のキャピラリの並列電気泳動分析が可能であり、3730シリーズジェネティックアナライザでは48本または96本のキャピラリの並列電気泳動分析が可能である。いずれの場合も、複数本のキャピラリのレーザ照射部(キャピラリアレイにおいてレーザが照射される部分)が、ポリイミド被覆が除去された状態で同一平面上に配列されている。この同一平面を配列平面と呼び、複数のキャピラリの配列をキャピラリアレイと呼ぶ。キャピラリアレイがN本のキャピラリで構成されるとき、各キャピラリに1~Nのキャピラリ番号を端から配列順に付ける。電気泳動の最中に、レーザビームを配列平面の側方より導入することで、複数本のキャピラリが同時に照射され、これによって誘起される各キャピラリから発光蛍光が分光され、同時に検出される。レーザビームを配列平面の側方より入射して複数本のキャピラリを同時照射する方法はマルチフォーカス法と呼ばれ、特許文献1に詳しく説明されている。マルチフォーカス法では、各キャピラリを凸レンズとして作用させ、レーザビームを配列平面に沿って繰り返し集光させ、キャピラリアレイ中を進行させることによって、複数本のキャピラリの同時照射を可能としている。これにより、キャピラリ本数と同じ数のサンプルのDNAシーケンス、あるいはDNAフラグメント解析を並列に行うことができる。特許文献1に記されているように、複数本のキャピラリのレーザ照射部において、キャピラリの外半径をR(外径は2R)、内半径をr(内径は2r)、キャピラリの素材の屈折率をn2とし、キャピラリの外部の媒体の屈折率をn1、キャピラリの内部の媒体(分離媒体)の屈折率をn3、レーザビームの入射位置と配列平面の距離をx(≦r)とし、x=r/2とするとき、レーザビームが1本のキャピラリを透過する際の屈折角は、下記式(1)で表される。
【0003】
【0004】
各キャピラリは、Δθ>0のとき凹レンズ、Δθ<0のとき凸レンズとして作用する。Δθ<0となる条件にすることによって、マルチフォーカスが機能し、複数のキャピラリのレーザビームによる同時照射が可能となる。逆に、Δθ>0となる条件にすると、マルチフォーカスは機能せず、レーザビームが配列平面から発散するため、複数のキャピラリのレーザビームによる同時照射が不可能となる。一般に、キャピラリの素材は石英ガラスであり、n2=1.46で固定である。式(1)より、各キャピラリの凸レンズ作用を強める(凹レンズ作用を弱める)ためには、n1は小さい程、n3は大きい程、良いことが分かる。逆に、n1は大きい程、n3は小さい程、各キャピラリの凹レンズ作用が強まる。
【0005】
マルチフォーカスが機能する場合においても、キャピラリ外部の媒体とキャピラリの界面、およびキャピラリ内部の媒体とキャピラリの界面におけるレーザビームの反射ロスによって、レーザビームがキャピラリアレイ中を進行するのに従ってその強度が減衰し、得られる蛍光強度もそれに応じて減衰する。蛍光強度がキャピラリ間で大きく異なると、複数のサンプルを同等条件で分析することができなくなるため不都合である。(尚、後述の実施形態では信号強度の代表として蛍光強度を取り扱うが、蛍光強度以外の信号強度、例えば散乱強度や吸光度であっても良い。)そこで、3500シリーズジェネティックアナライザ、および3730シリーズジェネティックアナライザにおいては、1個のレーザ光源から発振されたレーザビームを2本に分割し、2本のレーザビームを配列平面の両側方から入射させ、それぞれについてマルチフォーカスが機能するようになされている。このようにすることによって、配列平面の一方から入射されたレーザビームの強度と、配列平面の他方から入射されたレーザビームの強度の合計が均一化されるようにされている。レーザビームを配列平面の一側方からのみ入射させる構成を片側照射と呼び、レーザビームを配列平面の両側方から入射させる構成を両側照射と呼ぶ。片側照射でも、両側照射でも、マルチフォーカスが機能するか、機能しないかは共通である。キャピラリアレイがN本のキャピラリで構成されるとき、片側照射の場合は、レーザビームを入射する側の端のキャピラリのキャピラリ番号nをn=1、レーザビームが出射する側の端のキャピラリのキャピラリ番号nをn=Nとする。両側照射の場合は、どちらか一方の端のキャピラリのキャピラリ番号nをn=1、反対側の端のキャピラリのキャピラリ番号をn=Nとする。
【0006】
同一キャピラリアレイ内の複数のキャピラリそれぞれの照射強度および蛍光強度のうち、最低の照射強度および蛍光強度は大きいほど良い。レーザ光源から発振したレーザビームの全強度が1本のキャピラリの内部に照射された場合に期待される蛍光強度を1とする場合、蛍光強度の最小値MIN(Minimum)が、MIN≧0.2であれば実用的な感度が得られることが経験的に分かっている。また、同一キャピラリアレイ内の複数のキャピラリの間の照射強度および蛍光強度のばらつきは小さいほど良い。蛍光強度の変動係数CV(Coefficient of Variation)が、CV≦20%、状況によってCV≦15%であれば、異なるサンプルを同等条件で分析可能となることが経験的に分かっている。これらをキャピラリアレイ電気泳動装置の実用性能と呼ぶ。本開示では、各キャピラリのレーザ照射部における蛍光体濃度が一定である場合を想定するため、蛍光強度とレーザ照射強度は同じ意味を持つ。
【0007】
3500シリーズジェネティックアナライザ、および3730シリーズジェネティックアナライザで行われるDNAシーケンス、あるいはDNAフラグメント解析では、サンプルに含まれるDNA断片が1本鎖状態で電気泳動分離されるようにするため、分離媒体に変性剤であるウレアが高濃度に含まれるポリマ溶液が用いられる。実際、3500シリーズジェネティックアナライザ、および3730シリーズジェネティックアナライザ用に販売されている分離媒体であるPOP-4、POP-6、およびPOP-7にはいずれも8 Mのウレアが含まれている。水の屈折率が1.33であるのに対して、8 Mのウレアが含まれる上記のポリマ溶液の屈折率はn3=1.41に上昇している。これは、各キャピラリの凸レンズ作用を強めることになり、マルチフォーカスに有利な条件になっている。
【0008】
特許文献1に基づく構成により、3500シリーズジェネティックアナライザでは、外径2R=323 μm、内径2r=50 μmの複数本のキャピラリのレーザ照射部が空気中に配置されている。つまり、n1=1.00である。このとき、上記式(1)より、Δθ=-1.3°となり、各キャピラリが凸レンズ作用を有することが分かる。このため、マルチフォーカスが機能して、8本または24本のキャピラリのレーザビームによる同時照射が可能となっている。しかしながら、当該構成では、キャピラリ外部の空気層と、キャピラリ(石英ガラス)の界面におけるレーザビームの反射ロスが大きいため、同時照射可能なキャピラリ本数が24本程度までになっている。
【0009】
そこで、特許文献2に示されている構成によって、同時照射可能なキャピラリ本数を増大させたのが3730シリーズジェネティックアナライザである。3730シリーズジェネティックアナライザでは、外径2R=126 μm、内径2r=50 μmの複数本のキャピラリのレーザ照射部が屈折率n1=1.29のフッ素溶液中に配置されている。このとき、上記式(1)より、Δθ=-0.69°となり、各キャピラリが凸レンズ作用を有し、マルチフォーカスが機能することが分かる。さらに、キャピラリ外部のフッ素溶液層と、キャピラリ(石英ガラス)の界面におけるレーザビームの反射ロスが低減されるため、同時照射可能なキャピラリ本数が増大する。このため、48本または96本のキャピラリのレーザビームによる同時照射が可能となっている。
【0010】
非特許文献1に示される構成は、同時照射可能なキャピラリ本数をさらに増大させるものである。当該構成では、外径2R=126 μm、内径2r=50 μmの複数本のキャピラリのレーザ照射部が屈折率n1=1.46のマッチング溶液中に配置されている。また、配列する複数のキャピラリの内、一端から奇数番目のキャピラリを分析用(以降、分析キャピラリ)とし、偶数番目のキャピラリをロッドレンズ(以降、レンズキャピラリ)として用いる。つまり、分析キャピラリとレンズキャピラリが交互に配列されている。分析キャピラリの内部の媒体(分離媒体)の屈折率をn3=1.41、レンズキャピラリの内部の媒体の屈折率をn4=1.53とする。キャピラリの素材はいずれも石英ガラスであり、屈折率n2=1.46である。また、キャピラリ外部のマッチング溶液層と、キャピラリ(石英ガラス)の界面におけるレーザビームの反射ロスがゼロになるため、同時照射可能なキャピラリ本数がさらに増大する。さらに、非特許文献1では、P.2874からP.2875に亘って、レーザビームによって同時照射可能な最大のキャピラリ本数の定義が記されている。片側照射で入射強度を100%とする場合に、レーザビームの強度が50%に減衰するまでのキャピラリ本数を2倍した本数が、同時照射可能な最大のキャピラリ本数としている。このキャピラリ本数を有するキャピラリアレイを両側照射した場合に、各キャピラリの照射強度が均一化されると期待されるためである。この定義に従うと、特許文献2の構成における最大キャピラリ本数は150本、非特許文献1の構成における最大キャピラリ本数は550本になるとしている。
【0011】
特許文献3においても、非特許文献1と同様に、キャピラリアレイ中で、分析キャピラリとレンズキャピラリが交互に配列されている。キャピラリアレイの端から順番に、分析キャピラリにのみキャピラリ番号n=1、2、…、Nを付与する。つまり、分析キャピラリとレンズキャピラリを併せたキャピラリの総本数は2×Nである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特許第3654290号公報
【文献】特許第5039156号公報
【文献】特許第3559648号公報
【非特許文献】
【0013】
【文献】Electrophoresis 2006, 27, 2869-2879
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
ここで、以上の公知技術において反射ロスを考慮した同時照射可能なキャピラリ本数、および実用性能の有無を評価する。このような評価は本開示で初めてなされるものである。反射ロスを考慮したレーザビームの透過率を近似評価するため、屈折率が異なる2種類の媒体の界面に入射するレーザビームの入射角を0°と仮定する。屈折率n1の媒体と屈折率n2の媒体の界面に入射角0°で光が入射するときの反射率はref={(n1-n2)/(n1+n2)}^2であり、透過率はtra=1-refである。これより、レーザビームがキャピラリ1本を透過する際の透過率Tは、下記式(2)で近似的に求められる。
【0015】
【0016】
上記の特許文献1に基づく3500シリーズジェネティックアナライザの条件では、T=93%と計算される。実際には、入射角が0°ではないレーザビームの成分が含まれ、それらの透過率は式(2)の値よりも若干小さな値になる。したがって、式(2)は理想的な透過率を示す。片側照射の場合、キャピラリ番号n=1のキャピラリに入射されるレーザ照射強度を1とすると、キャピラリ番号nのキャピラリのレーザ照射強度は、下記式(3)で表される。
【0017】
【0018】
つまり、上記の3500シリーズジェネティックアナライザで、キャピラリ本数がN=24のとき、キャピラリアレイの中のキャピラリを1本通過する毎にレーザ照射強度が93%に減衰し、n=24のキャピラリのレーザ照射強度は0.19に低下する。一方、両側照射の場合、キャピラリ番号n=1およびn=Nのキャピラリに入射されるレーザ照射強度をそれぞれ0.5とすると、キャピラリ番号nのキャピラリのレーザ照射強度は、下記式(4)で表される。
【0019】
【0020】
片側照射の場合と異なり、配列平面の両側から入射されたレーザビームの強度の減衰が相殺されるため、各キャピラリのレーザ照射強度の均一性が向上するとともに、最低のレーザ照射強度が増大される。ただし、キャピラリアレイの両端に配置されるキャピラリ(n=1およびn=N)のレーザ照射強度が最も高く、キャピラリアレイの中央に配置されるキャピラリ(Nが奇数の場合はn=(N+1)/2、Nが偶数の場合はn=N/2およびn=N/2+1)のレーザ照射強度が最も低くなる。すなわち、横軸n、縦軸L(n)でグラフ化すると下の凸の分布になる。上記の3500シリーズジェネティックアナライザの条件で、キャピラリ本数がN=24のとき、キャピラリアレイの両端に配置されるキャピラリ(n=1およびn=24)のレーザ照射強度が0.60、キャピラリアレイの中央に配置されるキャピラリ(n=12およびn=13)のレーザ照射強度が0.44になり、実用性能のMIN≧0.2が満たされる。また、24本のキャピラリのレーザ照射強度の変動係数が11%となり、実用性能のCV≦20%、およびCV≦15%が満たされる。
【0021】
ところが、上記の3500シリーズジェネティックアナライザの条件で、キャピラリ本数をN=48にすると、キャピラリアレイの両端に配置されるキャピラリ(n=1およびn=48)のレーザ照射強度が0.52、キャピラリアレイの中央に配置されるキャピラリ(n=24およびn=25)のレーザ照射強度が0.19になり、実用性能のMIN≧0.2が満たされなくなる。また、レーザ照射強度の変動係数が35%となり、実用性能のCV≦20%、およびCV≦15%がいずれも満たされなくなる。つまり、両側照射を採用しても、各キャピラリのレーザ照射強度の均一性が低下するとともに、最低のレーザ照射強度が低下するため、この条件によって48本のキャピラリの同時照射は困難である。
【0022】
特許文献2に基づく3730シリーズジェネティックアナライザ条件では、式(2)よりT=99%となり、3500シリーズジェネティックアナライザの条件と比較して大幅に透過率が向上している。また、式(4)でキャピラリ本数をN=48にすると、キャピラリアレイの両端に配置されるキャピラリ(n=1およびn=48)のレーザ照射強度が0.78、キャピラリアレイの中央に配置されるキャピラリ(n=24およびn=25)のレーザ照射強度が0.74になり、MIN≧0.2が満たされる。また、レーザ照射強度の変動係数が1%となり、実用性能のCV≦20%、およびCV≦15%が満たされる。さらに、式(4)でキャピラリ本数をN=96にすると、キャピラリアレイの両端に配置されるキャピラリ(n=1およびn=96)のレーザ照射強度が0.65、キャピラリアレイの中央に配置されるキャピラリ(n=48およびn=49)のレーザ照射強度が0.55になり、MIN≧0.2が満たされる。また、レーザ照射強度の変動係数が5%となり、実用性能のCV≦20%、およびCV≦15%が満たされる。このように、48本および96本のキャピラリのレーザ照射強度の均一性が向上するとともに、最低のレーザ照射強度が増大し、48本および96本のキャピラリの同時照射が可能になっている。
【0023】
特許文献3の構成を特許文献2および非特許文献1と比較するため、可能な範囲で条件を共通化する。特許文献3の構成では、外径2R=126 μm、内径2r=50 μmの複数本のキャピラリのレーザ照射部が屈折率がn1=1.33の水中に配置されている。分析キャピラリの内部の媒体(分離媒体)の屈折率をn3=1.41、レンズキャピラリの内部の媒体の屈折率をn4=1.46とする。キャピラリの素材はいずれも石英ガラスでありn2=1.46である。このとき、式(1)より、分析キャピラリ1本の屈折角はΔθA=+0.03°である一方、レンズキャピラリ1本の屈折角はΔθB=-2.1°となる。このとき、ΔθA+ΔθB=-2.07°となるため、分析キャピラリ1本とレンズキャピラリ1本の1組で凸レンズ作用を示し、マルチフォーカスが機能する。このように、ΔθA+ΔθBによってマルチフォーカスの機能の有無を評価する方法は本開示で見出されたものである。また、本条件では、式(2)より、分析キャピラリ1本の透過率はTA=99.5%となり、レンズキャピラリ1本の透過率はTB=99.6%である。したがって、分析キャピラリ1本とレンズキャピラリ1本の1組の透過率は、T=TA×TB=99.1%である。このとき、式(4)で分析キャピラリの本数をN=96にすると、キャピラリアレイの両端に配置される分析キャピラリ(n=1およびn=96)のレーザ照射強度が0.71、キャピラリアレイの中央に配置されるキャピラリ(n=48およびn=49)のレーザ照射強度が0.64になり、MIN≧0.2が満たされる。また、レーザ照射強度の変動係数が3%となり、実用性能のCV≦20%、およびCV≦15%が満たされる。
【0024】
また、以上の公知技術ではすべて、分離媒体に高濃度のウレアが含まれており、n3=1.41である。一方、1本のキャピラリを用いるキャピラリ電気泳動装置では、分離媒体に高濃度のウレアが含まれているとは限らず、様々な種類の分離媒体が用いられている。例えば、DNA断片を2本鎖状態で電気泳動分離させるための分離媒体にはウレアは含まれておらず、その屈折率は水と同じn3=1.33である。つまり、一般に、キャピラリ電気泳動で用いられる分離媒体の屈折率は1.33≦n3≦1.41の様々な値となり得る。近年、そのような様々な種類の分離媒体を用いた電気泳動分析を高スループット化、あるいは低コスト化するために、そのような様々な種類の分離媒体をキャピラリアレイ電気泳動装置で用いられるようにすることが求められている。
【0025】
しかしながら、上述の公知技術のいずれの構成においても、n3=1.33とすると、各キャピラリの凸レンズ作用は失われ、凹レンズ作用が強くなり、マルチフォーカスが機能しない。すなわち、複数のキャピラリを用いた並列な電気泳動分析は不可能になる。具体的には、次の通りである。
【0026】
特許文献1に基づく3500シリーズジェネティックアナライザにおいて、n3=1.33とすると、式(1)より、Δθ=+1.3°となり、各キャピラリが凹レンズ作用を有することが分かる。このため、マルチフォーカスが機能せず、8本または24本のキャピラリのレーザビームによる同時照射が不可能となっている。
【0027】
特許文献2に基づく3730シリーズジェネティックアナライザにおいて、n3=1.33とすると、式(1)より、Δθ=+2.9°となり、各キャピラリが凹レンズ作用を有することが分かる。このため、マルチフォーカスが機能せず、48本または96本のキャピラリのレーザビームによる同時照射が不可能となっている。
【0028】
非特許文献1に基づく構成において、n
3=1.33とすると、式(1)より、分析キャピラリ1本の屈折角はΔθ
A=+6.6°である一方、レンズキャピラリ1本の屈折角はΔθ
B=-3.0°となる。このとき、Δθ
A+Δθ
B=+3.6°となるため、分析キャピラリ1本とレンズキャピラリ1本の1組で凹レンズ作用を示し、マルチフォーカスが機能しない。なお、非特許文献1の構成においてn
3=1.41のときは、式(1)より、分析キャピラリ1本の屈折角はΔθ
A=+2.4°である一方、レンズキャピラリ1本の屈折角はΔθ
B=-3.0°となる。このとき、Δθ
A+Δθ
B=-0.6°となるため、分析キャピラリ1本とレンズキャピラリ1本の1組で凸レンズ作用を示し、マルチフォーカスが機能する。非特許文献1のP.2875において、n
3=1.33の場合にも非特許文献1の構成が有利に働く旨の記載がある。しかしながら、上述の非特許文献1における最大キャピラリ本数の定義に従うと、非特許文献1の
図11より、n
3=1.33の場合の最大キャピラリ本数は8本程度に過ぎない。したがって、n
3=1.33の場合には非特許文献1の構成は機能しない。
【0029】
特許文献3に基づく構成において、n3=1.33とすると、式(1)より、分析キャピラリ1本の屈折角はΔθA=+3.7°である一方、レンズキャピラリ1本の屈折角はΔθB=-2.1°となる。このとき、ΔθA+ΔθB=+1.6°となるため、分析キャピラリ1本とレンズキャピラリ1本の1組で凹レンズ作用を示し、マルチフォーカスが機能しない。このため、複数本のキャピラリのレーザビームによる同時照射が不可能である。
【0030】
本開示は、このような状況に鑑み、キャピラリアレイ電気泳動装置において1.33≦n3≦1.41の範囲の任意の屈折率を有する種々の分離媒体(もちろん、1.33≦n3≦1.41の範囲外の屈折率の分離媒体にも対応可能)を用いても電気泳動分析を可能にする技術を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0031】
上記課題を解決するために、本開示は、例えば、Nを2以上の整数として、電気泳動分析に用いられるN本の分析キャピラリのレーザビームが一括照射されるレーザ照射部と、電気泳動分析に用いられないN±1本のレンズキャピラリの前記レーザビームが一括照射されるレーザ照射部が、交互に、同一の配列平面上に概ね配列されて構成されるキャピラリアレイにおいて、前記レーザ照射部における前記N本の分析キャピラリ、および、前記レーザ照射部における前記N±1本のレンズキャピラリのそれぞれの、外半径をR、内半径をr、外部の媒体の屈折率をn1、素材の屈折率をn2とし、前記レーザ照射部における前記N本の分析キャピラリの内部の媒体の屈折率をn3とし、前記レーザ照射部における前記N±1本のレンズキャピラリの内部の媒体の屈折率をn4とするとき、n3<1.36であると仮定した場合に、R、r、n1、n2、およびn4が所定の関係を満足する、キャピラリアレイを提案する。
【0032】
本開示に関連する更なる特徴は、本明細書の記述、添付図面から明らかになるものである。また、本開示の態様は、要素及び多様な要素の組み合わせ及び以降の詳細な記述と添付される請求の範囲の様態により達成され実現される。
本明細書の記述は典型的な例示に過ぎず、本開示の請求の範囲又は適用例を如何なる意味に於いても限定するものではないことを理解する必要がある。
【発明の効果】
【0033】
本開示の技術によれば、キャピラリアレイ電気泳動装置において、1.33≦n3≦1.41の範囲の任意の屈折率を有する種々の分離媒体を用いた電気泳動分析を実施することが可能になる。特に、水の屈折率1.33と同じか、あるいはそれに近い低屈折率を有する分離媒体を用いたキャピラリ電気泳動分析が可能になる。これにより、分析スループットの向上、およびサンプルあたりの分析コストの低減が可能なキャピラリアレイ電気泳動装置のアプリケーションの幅を大幅に拡大することが可能となる。
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】キャピラリアレイ電気泳動装置の構成例を示す図である。
【
図2】キャピラリアレイ電気泳動装置の光学系の構成例を示す図である。
【
図3】センサと計算機の連携を示す構成例を示す図である。
【
図4】特許文献1に基づくキャピラリアレイの構成とレーザビーム光線追跡結果を示す図である。
【
図5】特許文献1に基づくキャピラリアレイの相対蛍光強度分布を示す図である。
【
図6】本開示のキャピラリアレイの構成とレーザビーム光線追跡結果を示す図である。
【
図7】本開示のキャピラリアレイの相対蛍光強度分布を示す図である。
【
図8】特許文献2に基づくキャピラリアレイの構成とレーザビーム光線追跡結果を示す図である。
【
図9】特許文献2に基づくキャピラリアレイの相対蛍光強度分布を示す図である。
【
図10】非特許文献1に基づくキャピラリアレイの
構成とレーザビーム光線追跡結果を示す図である。
【
図11】非特許文献1に基づくキャピラリアレイの相対蛍光強度分布を示す図である。
【
図12】特許文献3に基づくキャピラリアレイの構成とレーザビーム光線追跡結果を示す図である。
【
図13】特許文献3に基づくキャピラリアレイの相対蛍光強度分布を示す図である。
【
図14】本開示のキャピラリアレイの構成とレーザビーム光線追跡結果を示す図である。
【
図15】本開示のキャピラリアレイの相対蛍光強度分布を示す図である。
【
図16】本開示のキャピラリアレイの構成とレーザビーム光線追跡結果を示す図である。
【
図17】本開示のキャピラリアレイの相対蛍光強度分布を示す図である。
【
図18】本開示のキャピラリアレイの構成とレーザビーム光線追跡結果を示す図である。
【
図19】本開示のキャピラリアレイの相対蛍光強度分布を示す図である。
【
図20】本開示のキャピラリアレイの相対蛍光強度分布を示す図である。
【
図21】相対蛍光強度とその変動係数に対するキャピラリ外部屈折率の影響を説明するための図である。
【
図22】相対蛍光強度とその変動係数に対するキャピラリ外径の影響を説明するための図である。
【
図23】分析キャピラリとレンズキャピラリを交互配列したキャピラリアレイの構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本開示の技術は、複数のキャピラリを用いた電気泳動の最中に、複数のキャピラリにレーザビームを同時に照射し、各キャピラリからの発光蛍光を同時に検出することによって、複数のサンプルを同時に分析するキャピラリアレイ電気泳動装置に関する。
【0036】
(A)本開示の技術の概要
本開示は、主に、水の屈折率1.33と同等か、あるいは屈折率が1.36未満の低屈折率を有する分離媒体を用いることができるようにする技術を提案する。このような低屈折率の分離媒体を用いた場合、いずれの公知例(特許文献1から3、および非特許文献1)に開示の技術を用いてもマルチフォーカスが機能せず、複数のキャピラリのレーザビームによる同時照射が困難である。
【0037】
また、本開示は、上記のような低屈折率の分離媒体だけでなく、高屈折率の分離媒体、典型的には、屈折率が1.36以上、1.42以下の分離媒体を用いてもキャピラリ電気泳動分析をできるようにする技術も提案する。同時照射可能な最大のキャピラリ本数は多いほど良く、24本以上、状況によって48本以上とすることもできる。上述のように、同一キャピラリアレイ内の複数のキャピラリそれぞれの照射強度および蛍光強度のうち、最低の照射強度および蛍光強度は大きいほど良い。レーザ光源から発振したレーザビームの全強度が1本のキャピラリの内部に照射された場合に期待される蛍光強度を1とする場合、蛍光強度の最小値MIN(Minimum)が、MIN≧0.2であれば実用的な感度が得られることが経験的に分かっている。また、同一キャピラリアレイ内の複数のキャピラリの間の照射強度および蛍光強度のばらつきは小さいほど良い。照射強度および蛍光強度の変動係数CV(Coefficient of Variation)が、CV≦20%、状況に応じてCV≦15%であれば、異なるサンプルを同等条件で分析可能となることが経験的に分かっている。本開示は、このようなキャピラリアレイ電気泳動装置の実用性能を満たすことを目標とする。
【0038】
上記課題の下、鋭意検討した結果、キャピラリアレイにおける各キャピラリについて、キャピラリ外径が2R=126 μm、キャピラリ内径が2r=50 μm、キャピラリ外部が空気でありn1=1.00、キャピラリ素材が石英ガラスでありn2=1.46、キャピラリ内部が分離媒体でありn3=1.33とするとき、式(1)より、Δθ=-3.2°となるため、各キャピラリが凸レンズ作用を示し、マルチフォーカスが機能することが分かった。上記の特許文献1に基づく3500シリーズジェネティックアナライザにおいて、n3=1.33とする場合との違いは、キャピラリの外径2Rを323 μmから126 μmに低減したことである。これによって各キャピラリの凹レンズ作用が凸レンズ作用に変換されている。
【0039】
キャピラリ本数をN=24として、式(2)および式(4)に本条件を代入すると、キャピラリアレイの両端に配置されるキャピラリ(n=1およびn=24)のレーザ照射強度が0.59、キャピラリアレイの中央に配置されるキャピラリ(n=12およびn=13)のレーザ照射強度が0.42になり、実用性能のMIN≧0.2が満たされる。また、24本のキャピラリのレーザ照射強度の変動係数が12%となり、実用性能のCV≦20%、およびCV≦15%が満たされる。さらに検討すると、キャピラリの外径2Rが220 μm以下であれば、Δθ<0となり、凸レンズが作用することが分かった。キャピラリ内径が2r=50 μmの場合に限定せずに一般化すると、R/r≦4.4のとき、Δθ<0となり、凸レンズが作用することが分かった。n3=1.33の低屈折率の分離媒体は特許文献1では検討されていない。すなわち、上記は本開示の技術で初めて見出された条件である。
【0040】
また、キャピラリ外径が2R=126 μm、キャピラリ内径が2r=50 μmの場合、キャピラリ内部の分離媒体の屈折率がn3=1.34、1.35および1.36であるとき、式(1)より、Δθ=-3.5°、-3.8°、および-4.2°となり、やはり各キャピラリが凸レンズ作用を示し、マルチフォーカスが機能することが分かった。さらに検討すると、キャピラリの外径2Rがそれぞれ240 μm以下、264 μm以下および293 μm以下であれば、Δθ<0となり、凸レンズが作用することが分かった。一般化すると、それぞれR/r≦4.8、R/r≦5.3およびR/r≦5.9のとき、Δθ<0となり、凸レンズが作用することが分かった。すなわち、屈折率が1.36未満の低屈折率を有する分離媒体を用いる場合はR/r<5.9とすれば良いことが分かった。このような低屈折率の分離媒体は特許文献1では検討されていない。すなわち、上記は本開示の技術で初めて見出された条件である。
【0041】
一方、キャピラリ外径が2R=126 μm、キャピラリ内径が2r=50 μm、キャピラリ外部が空気でありn1=1.00、キャピラリ素材が石英ガラスでありn2=1.46、キャピラリ内部が分離媒体でありn3=1.33の条件で、キャピラリ本数をN=48とすると、式(2)および式(4)より、キャピラリアレイの両端に配置されるキャピラリ(n=1およびn=48)のレーザ照射強度が0.51、キャピラリアレイの中央に配置されるキャピラリ(n=24およびn=25)のレーザ照射強度が0.17になり、実用性能のMIN≧0.2が満たされなくなる。また、48本のキャピラリのレーザ照射強度の変動係数が38%となり、実用性能のCV≦20%、およびCV≦15%が両方とも満たされなくなる。したがって、本条件は48本以上のキャピラリの同時照射に適していない。
【0042】
そこで、低屈折率の分離媒体を用いながら、48本以上のキャピラリのレーザビームによる同時照射を可能とする新たな構成を考案した。非特許文献1および特許文献3に示される構成と同様に、分析キャピラリとレンズキャピラリを交互に配列してキャピラリアレイを構成する。ここで、分析キャピラリとレンズキャピラリは必ずしも同数本である必要はない。キャピラリアレイの両端を分析キャピラリとする場合は、Nを2以上の整数として、N本の分析キャピラリとN-1本のレンズキャピラリが交互配列されれば良い。キャピラリアレイの両端をレンズキャピラリとする場合は、N本の分析キャピラリとN+1本のレンズキャピラリが交互配列されれば良い。キャピラリ番号n=1、2、…、Nは分析キャピラリにのみ付与する。外径2R=126 μm、内径2r=50 μmの複数本のキャピラリのレーザ照射部が屈折率がn1=1.25のフッ素溶液中に配置されている。キャピラリ素材は石英ガラスでありn2=1.46、分析キャピラリ内部が分離媒体でありn3=1.33、レンズキャピラリ内部がマッチング溶液でありn4=1.46とする。このとき、式(1)より、分析キャピラリ1本の屈折角はΔθA=+2.0°である一方、レンズキャピラリ1本の屈折角はΔθB=-3.3°となる。このとき、ΔθA+ΔθB=-1.3°となるため、分析キャピラリ1本とレンズキャピラリ1本の1組で凸レンズ作用を示し、マルチフォーカスが機能する。また、本条件では、式(2)より、分析キャピラリ1本の透過率はTA=98.4%となり、レンズキャピラリ1本の透過率はTB=98.8%である。したがって、分析キャピラリ1本とレンズキャピラリ1本の1組の透過率は、T=TA×TB=97.2%である。このとき、式(4)で分析キャピラリの本数をN=48とすると、式(2)および式(4)より、キャピラリアレイの両端に配置されるキャピラリ(n=1およびn=48)のレーザ照射強度が0.63、キャピラリアレイの中央に配置されるキャピラリ(n=24およびn=25)のレーザ照射強度が0.51になり、実用性能のMIN≧0.2が満たされる。また、48本のキャピラリのレーザ照射強度の変動係数が7%となり、実用性能のCV≦20%、およびCV≦15%が両方とも満たされる。
【0043】
次に、キャピラリ本数をN=72とすると、式(2)および式(4)より、キャピラリアレイの両端に配置されるキャピラリ(n=1およびn=72)のレーザ照射強度が0.57、キャピラリアレイの中央に配置されるキャピラリ(n=36およびn=37)のレーザ照射強度が0.36になり、実用性能のMIN≧0.2が満たされる。また、72本のキャピラリのレーザ照射強度の変動係数が14%となり、実用性能のCV≦20%、およびCV≦15%が両方とも満たされる。さらに、キャピラリ本数をN=96とすると、式(2)および式(4)より、キャピラリアレイの両端に配置されるキャピラリ(n=1およびn=96)のレーザ照射強度が0.53、キャピラリアレイの中央に配置されるキャピラリ(n=48およびn=49)のレーザ照射強度が0.26になり、実用性能のMIN≧0.2が満たされる。また、96本のキャピラリのレーザ照射強度の変動係数が24%となり、実用性能のCV≦20%、およびCV≦15%は満たされなくなる。以上の条件において、n3=1.33をn3=1.41に戻すと、上記のすべての指標の性能が向上することは言うまでもない。本構成は、n3=1.41がn3=1.33に変更されていること以外に、特許文献2の構成とも、非特許文献1の構成とも、および特許文献3の構成とも大きく異なる。特許文献2では、レンズキャピラリが用いられていない上、キャピラリ外部の媒体の屈折率がn1=1.29であり、いずれも本開示の構成と異なる。また、非特許文献1では、キャピラリ外部の媒体の屈折率がn1=1.46であり、レンズキャピラリ内部が高屈折率の溶液でありn4=1.53であり、いずれも本開示の構成と異なる。さらに、特許文献3では、キャピラリ外部の媒体の屈折率がn1=1.33であり、本開示の構成と異なる。これらの相違は、以上に記した通り、本質的に異なる構造による異なる機能を示しており、単なる設計変更によるものではない。
【0044】
以下、本開示の各実施形態について詳細に説明する。尚、以下では各実施形態を別々に説明するが、各実施形態に示す技術は排他的なものではなく、適宜相互に組み合わせることができるものである。
【0045】
(B)第1の実施形態
<キャピラリアレイ電気泳動装置の構成例>
図1は、キャピラリアレイ電気泳動装置の構成例を示す図である。本キャピラリアレイ電気泳動装置では、従来のキャピラリアレイ電気泳動装置で行われているDNAシーケンスや1本鎖DNAフラグメント解析に加えて、2本鎖DNAフラグメント解析を実施する。本実施形態では、24本のキャピラリを用い(ただし、
図1では4本のキャピラリのみを示している)、まず、各キャピラリで異なるサンプルのDNAシーケンスを実施し、次に、各キャピラリで異なるサンプルの2本鎖DNAフラグメント解析を実施した。DNAシーケンスのサンプルには、4種類の塩基に対応した4種類の蛍光体で標識された、種々の長さの1本鎖DNA断片が含まれる。また、DNAシーケンスを行う際に各キャピラリに充填する電気泳動分離媒体は、変性剤として8 Mのウレアが含まれたポリマ溶液であり、その屈折率はn
3=1.41である。一方、2本鎖DNAフラグメント解析のサンプルには、2種類の蛍光体で標識された、種々の長さの2本鎖DNA断片が含まれる。片方の蛍光体で標識された2本鎖DNA断片はPCR産物であり、もう片方の蛍光体で標識された2本鎖DNA断片はサイズマーカーである。2本鎖DNAフラグメント解析を行う際に各キャピラリに充填する電気泳動分離媒体は、変性剤であるウレアが含まれていないポリマ溶液であり、その屈折率はn
3=1.33である。以下の(i)~(vi)の工程によって、1回の分析セッションを実行した。
【0046】
(i)まず、24本のキャピラリ1の試料注入端2を陰極側緩衝液6に浸し、試料溶出端3をポリマブロック9を介して陽極側緩衝液7に接続した。
【0047】
(ii)次に、ポリマブロック9のバルブ10を閉じ、ポリマブロック9に接続されたシリンジ11のピストンを押し下げることにより内部のポリマ溶液に加圧し、ポリマ溶液を各キャピラリ1の内部に、試料溶出端3から試料注入端2に向かって充填した。
【0048】
(iii)続いて、バルブ10を開け、各キャピラリ1に試料注入端2から異なるサンプルを電界注入した後、陰極4と陽極5の間に電源8により高電圧を印加することにより、キャピラリ電気泳動を開始した。複数種類の蛍光体で標識されたDNA断片は、試料注入端2から試料溶出端3に向かって電気泳動された。
【0049】
(iv)並行して、各キャピラリ1の、試料注入端2から一定距離電気泳動された位置をレーザ照射部14とし、レーザ光源12から発振されたレーザビーム13をレーザ照射部14にマルチフォーカス法によって一括照射した。ここで、レーザ照射部14近傍の各キャピラリ1の被覆を予め除去し、レーザ照射部14近傍の各キャピラリ1を配列平面上に配列し、レーザビーム13を、集光してから、上記の配列平面の側方より、配列平面に沿って入射した。
図1では簡単のため、レーザビーム13の片側照射を行っているように描かれているが、実際には、レーザビーム13を2分割して両側照射を行った。
【0050】
(v)そして、複数種類の蛍光体で標識されたDNA断片が、各キャピラリ1の内部を電気泳動され、レーザ照射部14を通過する際にレーザビーム13の照射によって標識蛍光体が励起され、蛍光を発光した。つまり、24個の発光点(レーザ照射部)から複数種類の蛍光体が蛍光発光し、電気泳動に伴い、それぞれの蛍光強度が時々刻々と変化した。
【0051】
(vi)最後に、各発光点から発光される蛍光を多色検出し、得られた時系列データを解析することによって、各キャピラリに注入されたサンプルの分析を行った。
【0052】
以上の(i)~(vi)の工程は、DNAシーケンスを行う場合と、2本鎖DNAフラグメント解析を行う場合で共通であるが、ポリマ溶液および緩衝溶液は適宜変更する。すなわち、本実施形態のキャピラリアレイ電気泳動装置は、例えば、2本鎖DNAフラグメント解析用の第1の分析モードおよびDNAシーケンス用の第2の分析モードを含む、条件が異なる複数の分析モードを切り替えて実行することができる。各分析モードでは、それぞれの目的に応じて電気泳動分析の条件を適宜変更することが有効である。変更が可能な電気泳動分析の条件として、キャピラリの制御温度、電気泳動時の電界強度、試料注入時の電界強度と試料注入時間、レーザ照射強度、センサの露光時間、等々がある。例えば、第1の分析モードではキャピラリを30℃に温度調節し、第2の分析モードではキャピラリを60℃に温度調節する等、各分析モードでキャピラリの制御温度を変化させることが有効である。なお、「第1の」および「第2の」という記載は、単に分析モードを区別するために便宜上付されているものであり、分析モードが実行される順番を示しているのではない。上記の例において、DNAフラグメント解析における電気泳動分離媒体の屈折率はn
3
=1.33であり、DNAシーケンスにおける電気泳動分離媒体の屈折率はn
3
=1.41である。したがって、第1の分析モードにおける電気泳動分離媒体の屈折率はn
3
<1.36であり、第2の分析モードにおける電気泳動分離媒体の屈折率はn
3
≧1.36である。場合に応じて、第1の分析モードにおける電気泳動分離媒体の屈折率は1.33≦n
3
<1.36とすることができ、第2の分析モードにおける電気泳動分離媒体の屈折率は1.36≦n
3
≦1.42とすることができる。また、(i)~(vi)の工程からなる分析セッションは複数回、繰り返すことができる。例えば、1回目の分析セッションではサンプル1~24を分析し、2回目の分析セッションではサンプル25~48を分析し、…、とすることによって、多数の異なるサンプルを分析することができる。この際、同じポリマ溶液および緩衝溶液を用いて、DNAシーケンスを繰り返しても良いし、途中で2本鎖DNAフラグメント解析に切り替えても良い。任意の分析セッションにおいて、任意のアプリケーションを選択できる。
【0053】
<蛍光検出を行う光学系の構成例>
図2は、キャピラリアレイ電気泳動装置の蛍光検出を行う光学系の構成例を示す断面図である。本光学系は、
図1のレーザ照射部14の奥側に位置している。
図1と同様に、
図2では4本のキャピラリアレイの片側照射が描かれているが、実際には24本キャピラリアレイの両側照射である。レーザビーム13のマルチフォーカスによる照射により、配列平面上に配列する各キャピラリ1を同時照射した。各キャピラリ1のレーザ照射部14はそれぞれ蛍光の発光点20となる。各発光点20からの発光蛍光21を、一括して、集光レンズ15によってコリメートし、レーザカットフィルタ16でレーザ光を遮断し、透過型回折格子17を透過させることで各キャピラリの中心軸方向に波長分散させ、結像レンズ18でセンサ19上に結像点22をそれぞれ結像させた。センサ19は、CCDやCMOS等のエリアセンサ、あるいはフォトダイオードアレイ等、複数の結像点22を同時計測できるものであれば良い。各結像点22は実際には
図2の奥行方向に波長分散されているが、
図2では各結像点22の単一波長部分が模式的に描かれている。
【0054】
このような光学系では、光学系の光軸23から離れるに従って集光効率が低下する。これは、
図2に示されている通り、光軸23から離れた発光点20からの発光蛍光21の集光角度が、光学系のケラレ効果によって、小さくなるためである。したがって、各発光点20から等強度の蛍光が発光されたとしても、発光点20が光軸23から離れるに従って、対応する結像点22の蛍光強度が低くなる。どの程度のケラレ効果が存在するか、すなわち、ケラレ効果に基づいた光学系補正係数は光学系によって決まり、計算または実験によって調べることが可能である。ケラレ効果に基づいた光学系補正係数によって、各発光点20における蛍光強度から各結像点22における蛍光強度を計算することができる。
【0055】
<データ解析および装置制御のためのシステム構成例>
図3は、センサと計算機の連携を示す構成例を示す図である。光学系はキャピラリアレイ電気泳動装置の一部であり、センサは光学系の一部である。計算機はキャピラリアレイ電気泳動装置と接続されている。計算機は、データ解析だけでなく、キャピラリアレイ電気泳動装置の制御も行う。入力部であるタッチパネル、キーボード、マウス等を通じて、データ解析の条件設定やキャピラリアレイ電気泳動装置制御の条件設定を行う。センサから出力される信号の時系列生データが順次メモリに格納される。また、HDDの内部にあるデータベースに格納されている解析パラメータ情報がメモリに格納される。CPUは、メモリに格納された解析パラメータ情報を用いて、メモリに格納された時系列生データを解析し、時系列解析データを導出し、順次メモリに格納すると同時に、表示部であるモニタに表示する。また、ネットワークインターフェースNIFを通じて解析結果をネットワーク上の情報と照合することができる。
【0056】
<従来(特許文献1)のキャピラリアレイの構成例>
図4(a)は、特許文献1に基づく3500シリーズジェネティックアナライザのキャピラリアレイの構成を示す断面図である。外径2R=323 μm、内径2r=50 μmの24本のキャピラリのレーザ照射部が間隔370 μmで同一平面上に配列している。キャピラリ外部は空気でありn
1=1.00、キャピラリ素材は石英ガラスでありn
2=1.46である。
【0057】
図4(b)は、上記条件下で、キャピラリ内部が高屈折率の分離媒体でありn
3=1.41の場合に、φ50 μmのレーザビームを左側から片側照射した際のレーザビーム光線追跡結果を示す図である。明らかにマルチフォーカスが機能しており、24本すべてのキャピラリの内部を効率良く照射できている。これは、式(1)によりΔθ=-1.3°となり、各キャピラリが凸レンズ作用を示すことに対応している。
【0058】
これに対して、
図4(c)は、上記条件下で、キャピラリ内部が低屈折率の分離媒体でありn
3=1.33の場合の同様のレーザビーム光線追跡結果を示す図である。明らかにマルチフォーカスが機能せず、レーザビームがキャピラリアレイから発散しており、キャピラリアレイ全体を効率良く照射できていない。これは、式(1)によりΔθ=+1.3°となり、各キャピラリが凹レンズ作用を示すことに対応している。
【0059】
<従来(特許文献1)のキャピラリアレイ構成による相対蛍光強度分布>
図5(a)は、
図4(b)および(c)に示される片側照射の結果を両側照射の場合に焼き直した場合についての、各キャピラリの相対蛍光強度を示す図である。キャピラリ番号は、
図4の一番左側のキャピラリを1とし、右側に向かって順番に付けた番号である。相対蛍光強度は、各キャピラリのレーザ照射部に一定濃度の蛍光体が存在すると仮定し、レーザビーム反射ロスを加味した各キャピラリの照射強度から計算される蛍光強度である。レーザ光源から発振したレーザビームの全強度が1本のキャピラリの内部に照射された場合に期待される蛍光強度を1としている。両側照射の計算では、レーザビームの全強度の半分がキャピラリアレイの両側から照射されるとした。このグラフは、式(2)および式(4)で表される各キャピラリのレーザ照射強度に対応する。ただし、式(2)および式(4)がレーザビームの異なる媒体間の界面への入射角を0°と仮定した近似式であるのに対して、このグラフはレーザビーム光線追跡によって求められる実際の入射角に基づいて計算された結果であるため、より正確である。以降の、
図7(a)、
図9、
図11、
図13、
図15、
図17、
図19、および
図20で示される同様のグラフも、実際の入射角に基づいて計算された、より正確な結果である。
図5(a)のn
3=1.41の場合、24本のキャピラリについて相対蛍光強度の最小値がMIN=0.42、変動係数(=相対蛍光強度の標準偏差/相対蛍光強度の平均値)がCV=11%という結果が得られ、実用性能であるMIN≧0.2、CV≦20%およびCV≦15%を満たすことが分かる。キャピラリ番号に対する相対蛍光強度が下に凸の分布になっているのは、マルチフォーカスが機能しているにも関わらず、レーザビームがキャピラリアレイ内を進行するのに伴って、反射ロスによってレーザビームの強度が減衰するためである。これに対して、n
3=1.33の場合、MIN=0.068、およびCV=74%が得られ、いずれの実用性能も満たさないことが分かる。
【0060】
図5(b)は、
図5(a)の結果に対して、3500シリーズジェネティックアナライザの光学系のケラレ効果を加味した、すなわち、ケラレ効果に基づいた光学系補正係数を乗じることによって得られる、各キャピラリの光学系補正相対蛍光強度を示す図である。n
3=1.41の場合、キャピラリ番号に対して、相対蛍光強度の下に凸の分布と光学系補正の分布が相殺し、光学系補正相対蛍光強度は平坦な分布になっている。その結果、蛍光強度の最小値MIN=0.42は変化しないが、変動係数がCV=0.76%に大幅に減少した。もちろん、実用性能はすべて満たされている。これに対して、n
3=1.33の場合、MIN=0.066、およびCV=61%とあまり変化せず、実用性能を満たさないことに変わりがない。
【0061】
<第1の実施形態によるキャピラリアレイの構成例>
図6(a)は、第1の実施形態に基づくキャピラリアレイの構成例を示す断面図である。外径2R=126 μm、内径2r=50 μmの24本のキャピラリのレーザ照射部が間隔155 μmで同一平面上に配列している。キャピラリ外部は空気でありn
1=1.00、キャピラリ素材は石英ガラスでありn
2=1.46である。
【0062】
図6(b)は、上記条件下で、キャピラリ内部が高屈折率の分離媒体でありn
3=1.41の場合に、φ50 μmのレーザビームを左側から片側照射した際のレーザビーム光線追跡結果を示す図である。明らかにマルチフォーカスが機能しており、24本すべてのキャピラリの内部を効率良く照射できている。これは、式(1)によりΔθ=-5.8°となり、各キャピラリが凸レンズ作用を示すことに対応している。
【0063】
これに対して、
図6(c)は、上記条件下で、キャピラリ内部が低屈折率の分離媒体でありn
3=1.33の場合の同様のレーザビーム光線追跡結果を示す図である。この場合も、明らかにマルチフォーカスが機能しており、24本すべてのキャピラリの内部を効率良く照射できている。これは、式(1)によりΔθ=-3.2°となり、各キャピラリが凸レンズ作用を示すことに対応している。このように、高屈折率の分離媒体(n
3≧1.36)でも、低屈折率の分離媒体(n
3<1.36)でも、各キャピラリが凸レンズ作用を示し、マルチフォーカスが機能することは、いずれの公知例でも実現できなかったことであり、本開示の技術によって初めて実現されることである。すなわち、本実施形態のキャピラリアレイ電気泳動装置は、n
3<1.36の第1の分析モードとn
3≧1.36の第2の分析モードのいずれにおいてもマルチフォーカスが機能する。
【0064】
<第1の実施形態(
図6)のキャピラリアレイ構成による相対蛍光強度分布>
図7(a)は、
図6(b)および(c)に示される片側照射の結果を両側照射の場合に焼き直した場合についての、各キャピラリの相対蛍光強度を示す図である。
図7(a)のn
3=1.41の場合、24本のキャピラリについて相対蛍光強度の最小値がMIN=0.42、変動係数がCV=11%という結果が得られ、実用性能であるMIN≧0.2、CV≦20%およびCV≦15%を満たすことが分かる。一方、n
3=1.33の場合にも、MIN=0.40、およびCV=12%となり、同様に実用性能を満たす。
【0065】
図7(b)は、
図7(a)の結果に対して、3500シリーズジェネティックアナライザの光学系のケラレ効果を加味した、すなわち、ケラレ効果に基づいた光学系補正係数を乗じることによって得られる、各キャピラリの光学系補正相対蛍光強度を示す図である。光学系補正の結果、n
3=1.41の場合はMIN=0.42、CV=9.0%となり、n
3=1.33の場合はMIN=0.40、およびCV=10%となり、同様に実用性能を満たしている。
【0066】
図7によれば、
図5の場合と異なり、光学系補正の有無で相対蛍光強度があまり変化していない。これは、
図4のキャピラリアレイの全幅が間隔370 μm×(24本-1本)=8.5 mmであるのに対して、
図6のキャピラリアレイの全幅が間隔155 μm×(24本-1本)=3.6 mmと狭いため、つまり、各キャピラリの光軸からの距離が短いため、光学系のケラレ効果が小さいためである。
【0067】
この結果、
図4に示す3500シリーズジェネティックアナライザのキャピラリアレイでn
3=1.41とする場合は光学系のケラレ効果による光学系補正によってCV=11%がCV=0.76%に大幅に低減されるのに対して、
図6に示す本実施形態のキャピラリアレイでn
3=1.41とする場合は光学系のケラレ効果による光学系補正によってCV=11%がCV=9%にしか低減されないのである。同様に、本実施形態のキャピラリアレイでn
3=1.33とする場合も、光学系のケラレ効果による光学系補正によってCV=12%がCV=10%にしか低減されないのである。
【0068】
<第1の実施形態のまとめ>
以上より、第1の実施形態の構成は、n3=1.41を含めて、n3≧1.33の任意の屈折率を有する分離媒体を用いた場合に、各キャピラリが凸レンズ作用を示し、マルチフォーカスが機能することが明らかになった。また、本構成の変形例として、R/r≦4.4の任意のキャピラリ、例えば、内径2r=50 μmを固定した場合、外径2R≦220 μmの任意のキャピラリを用いた場合にも、n3≧1.33の条件下で各キャピラリが凸レンズ作用を示すため、マルチフォーカスを機能させることが可能である。
【0069】
(C)第2の実施形態
第1の実施形態では、キャピラリの外部が空気である場合(屈折率n1=1.00)について説明した。第2の実施形態においては、キャピラリの外部が空気ではない場合(屈折率n1≠1.00)について説明する。このような場合においても、本開示の技術によれば、n3=1.41を含めて、n3≧1.33の任意の屈折率を有する分離媒体を用いた場合に、各キャピラリが凸レンズ作用を示し、マルチフォーカスが機能する。
【0070】
<従来(特許文献2)のキャピラリアレイの構成例>
図8(a)は、特許文献2に基づく3730シリーズジェネティックアナライザのキャピラリアレイの構成を示す断面図である。外径2R=126 μm、内径2r=50 μmの96本のキャピラリのレーザ照射部が間隔155 μmで同一平面上に配列している。キャピラリ外部はフッ素溶液でありn
1=1.29、キャピラリ素材は石英ガラスでありn
2=1.46である。
【0071】
図8(b)は、上記条件下で、キャピラリ内部が高屈折率の分離媒体でありn
3=1.41の場合に、φ50 μmのレーザビームを左側から片側照射した際のレーザビーム光線追跡結果を示す図である。マルチフォーカスが機能しており、96本すべてのキャピラリの内部を効率良く照射できている。これは、式(1)によりΔθ=-0.69°となり、各キャピラリが凸レンズ作用を示すことに対応している。
【0072】
これに対して、
図8(c)は、上記条件下で、キャピラリ内部が低屈折率の分離媒体でありn
3=1.33の場合の同様のレーザビーム光線追跡結果を示す図である。マルチフォーカスが機能せず、レーザビームがキャピラリアレイから発散しており、キャピラリアレイ全体を効率良く照射できていない。これは、式(1)によりΔθ=+2.9°となり、各キャピラリが凹レンズ作用を示すことに対応している。
【0073】
<従来(特許文献2)のキャピラリアレイ構成による相対蛍光強度分布>
図9は、
図8(b)および(c)に示される片側照射の結果を両側照射の場合に焼き直した場合についての、各キャピラリの相対蛍光強度を示す図である。n
3=1.41の場合、96本のキャピラリについて相対蛍光強度の最小値がMIN=0.63、変動係数がCV=3.2%という結果が得られ、実用性能であるMIN≧0.2、CV≦20%およびCV≦15%を満たすことが分かる。これに対して、n
3=1.33の場合、MIN=0.00067、およびCV=192%となり、実用性能が満たされないことが分かる。
【0074】
<従来(非特許文献1)のキャピラリアレイの構成例>
図10(a)は、非特許文献1に基づくキャピラリアレイの構成を示す断面図である。外径2R=126 μm、内径2r=50 μmの96本のキャピラリのレーザ照射部が間隔155 μmで同一平面上に配列している。キャピラリアレイの中で、48本の分析キャピラリと48本のレンズキャピラリが交互に配列している。キャピラリ外部はマッチング溶液でありn
1=1.46、キャピラリ素材は石英ガラスでありn
2=1.46である。レンズキャピラリの内部の媒体の屈折率をn
4=1.53とする。
【0075】
図10(b)は、上記条件下で、分析キャピラリ内部が高屈折率の分離媒体でありn
3=1.41の場合に、φ50 μmのレーザビームを左側から片側照射した際のレーザビーム光線追跡結果を示す図である。マルチフォーカスが機能しており、96本すべてのキャピラリの内部を効率良く照射できている。これは、式(1)より、分析キャピラリ1本の屈折角はΔθ
A=+2.4°である一方、レンズキャピラリ1本の屈折角はΔθ
B=-3.0°であり、Δθ
A+Δθ
B=-0.6°となるため、分析キャピラリ1本とレンズキャピラリ1本の1組で凸レンズ作用を示し、マルチフォーカスが機能するためである。
【0076】
これに対して、
図10(c)は、上記条件下で、分析キャピラリ内部が低屈折率の分離媒体でありn
3=1.33の場合の同様のレーザビーム光線追跡結果を示す図である。マルチフォーカスが機能せず、レーザビームがキャピラリアレイから発散しており、キャピラリアレイ全体を効率良く照射できていない。これは、式(1)より、分析キャピラリ1本の屈折角はΔθ
A=+6.6°である一方、レンズキャピラリ1本の屈折角はΔθ
B=-3.0°となる。このとき、Δθ
A+Δθ
B=+3.6°となるため、分析キャピラリ1本とレンズキャピラリ1本の1組で凹レンズ作用を示し、マルチフォーカスが機能しないためである。
【0077】
<従来(非特許文献1)のキャピラリアレイ構成による相対蛍光強度分布>
図11は、
図10(b)および(c)に示される片側照射の結果を両側照射の場合に焼き直した場合についての、各キャピラリの相対蛍光強度を示す図である。n
3=1.41の場合、48本の分析キャピラリについて相対蛍光強度の最小値がMIN=0.58、変動係数がCV=7%という結果が得られ、実用性能であるMIN≧0.2、CV≦20%およびCV≦15%を満たすことが分かる。これに対して、n
3=1.33の場合、MIN=0.00247、およびCV=193%となり、実用性能を満たされないことが分かる。
【0078】
<従来(特許文献3)のキャピラリアレイの構成例>
図12(a)は、特許文献3に基づくキャピラリアレイの構成例を示す断面図である。外径2R=126 μm、内径2r=50 μmの96本のキャピラリのレーザ照射部が間隔155 μmで同一平面上に配列している。キャピラリアレイの中で、48本の分析キャピラリと48本のレンズキャピラリが交互に配列している。キャピラリ外部は水でありn
1=1.33、キャピラリ素材は石英ガラスでありn
2=1.46である。レンズキャピラリの内部の媒体の屈折率をn
4=1.53とする。
【0079】
図12(b)は、上記条件下で、分析キャピラリ内部が高屈折率の分離媒体でありn
3=1.41の場合に、φ50 μmのレーザビームを左側から片側照射した際のレーザビーム光線追跡結果を示す図である。マルチフォーカスが機能しており、96本すべてのキャピラリの内部を効率良く照射できている。これは、式(1)より、分析キャピラリ1本の屈折角はΔθ
A=+0.03°である一方、レンズキャピラリ1本の屈折角はΔθ
B=-2.1°であり、Δθ
A+Δθ
B=-2.07°となるため、分析キャピラリ1本とレンズキャピラリ1本の1組で凸レンズ作用を示し、マルチフォーカスが機能するためである。
【0080】
これに対して、
図12(c)は、上記条件下で、分析キャピラリ内部が低屈折率の分離媒体でありn
3=1.33の場合の同様のレーザビーム光線追跡結果を示す図である。マルチフォーカスが機能せず、レーザビームがキャピラリアレイから発散しており、キャピラリアレイ全体を効率良く照射できていない。これは、式(1)より、分析キャピラリ1本の屈折角はΔθ
A=+3.7°である一方、レンズキャピラリ1本の屈折角はΔθ
B=-2.1°であり、Δθ
A+Δθ
B=+1.6°となるため、分析キャピラリ1本とレンズキャピラリ1本の1組で凹レンズ作用を示し、マルチフォーカスが機能しないためである。このため、低屈折率の分離媒体を用いる場合は、複数本のキャピラリのレーザビームによる同時照射が不可能である。
【0081】
<従来(
図12)のキャピラリアレイ構成による相対蛍光強度分布>
図13は、
図12(b)および(c)に示される片側照射の結果を両側照射の場合に焼き直した場合についての、各キャピラリの相対蛍光強度を示す図である。n
3=1.41の場合、48本の分析キャピラリについて相対蛍光強度の最小値がMIN=0.79、変動係数がCV=1%という結果が得られ、実用性能であるMIN≧0.2、CV≦20%およびCV≦15%を満たすことが分かる。これに対して、n
3=1.33の場合、MIN=0.00975、およびCV=119%となり、実用性能が満たされないことが分かる。
【0082】
<第2の実施形態によるキャピラリアレイの構成例>
図14(a)は、第2の実施形態のキャピラリアレイの構成例を示す断面図である。外径2R=126 μm、内径2r=50 μmの96本のキャピラリのレーザ照射部が間隔155 μmで同一平面上に配列している。キャピラリアレイの中で、48本の分析キャピラリと48本のレンズキャピラリが交互に配列している。キャピラリ外部はフッ素溶液でありn
1=1.29、キャピラリ素材は石英ガラスでありn
2=1.46である。レンズキャピラリの内部の媒体の屈折率をn
4=1.46とする。n
2=n
4=1.46であるため、レンズキャピラリの代わりに、外径2R=126 μm、屈折率1.46のロッドレンズを用いても良い。しかしながら、キャピラリの外径と、ロッドレンズの外径を一致させることは通常は困難である。したがって、同じ仕様かつ同じロットのキャピラリを分析キャピラリとレンズキャピラリの両方に用いた方が、両者の外径を一致させることが容易である。
【0083】
図14(b)は、上記条件下で、分析キャピラリ内部が高屈折率の分離媒体でありn
3=1.41の場合に、φ50 μmのレーザビームを左側から片側照射した際のレーザビーム光線追跡結果を示す図である。マルチフォーカスが機能しており、96本すべてのキャピラリの内部を効率良く照射できている。これは、式(1)より、分析キャピラリ1本の屈折角はΔθ
A=-0.7°である一方、レンズキャピラリ1本の屈折角はΔθ
B=-2.7°であり、Δθ
A+Δθ
B=-3.4°となるため、分析キャピラリ1本とレンズキャピラリ1本の1組で凸レンズ作用を示し、マルチフォーカスが機能するためである。
【0084】
これに対して、
図14(c)は、上記条件下で、分析キャピラリ内部が低屈折率の分離媒体でありn
3=1.33の場合の同様のレーザビーム光線追跡結果を示す図である。マルチフォーカスが機能しているが、レーザビームがキャピラリアレイからやや発散しており、キャピラリアレイ全体をあまり効率良く照射できていない。これは、式(1)より、分析キャピラリ1本の屈折角はΔθ
A=+2.9°である一方、レンズキャピラリ1本の屈折角はΔθ
B=-2.7°であり、Δθ
A+Δθ
B=+0.2°となるため、分析キャピラリ1本とレンズキャピラリ1本の1組で僅かに凹レンズ作用を示し、マルチフォーカスの機能が低下しているためである。しかしながら、
図10(c)および
図12(c)に示す従来法の結果と比較すると、各キャピラリを効率良く同時照射できている。
【0085】
<第2の実施形態(
図14)のキャピラリアレイ構成による相対蛍光強度分布>
図15は、
図14(b)および(c)に示される片側照射の結果を両側照射の場合に焼き直した場合についての、各キャピラリの相対蛍光強度を示す図である。n
3=1.41の場合、48本の分析キャピラリについて相対蛍光強度の最小値がMIN=0.68、変動係数がCV=2%という結果が得られ、実用性能であるMIN≧0.2、CV≦20%およびCV≦15%を満たすことが分かる。これに対して、n
3=1.33の場合、MIN=0.42、およびCV=11%となり、MIN≧0.2、およびCV≦20%を満たすが、CV≦15%が満たされないことが分かる。そこで、次に、48本以上の分析キャピラリをさらに効率的にレーザビームで同時照射する方法を提案する。
【0086】
<第2の実施形態によるキャピラリアレイの他の構成例>
図16(a)は、第2の実施形態のキャピラリアレイの構成例を示す断面図である。外径2R=126 μm、内径2r=50 μmの96本のキャピラリのレーザ照射部が間隔155 μmで同一平面上に配列している。キャピラリアレイの中で、48本の分析キャピラリと48本のレンズキャピラリが交互に配列している。キャピラリ外部はフッ素溶液でありn
1=1.25、キャピラリ素材は石英ガラスでありn
2=1.46である。n
1=1.25のフッ素溶液は、
図8および
図14で用いられているn
1=1.29のフッ素溶液は異なる仕様であり、公知技術の範囲では採用されていない仕様である。キャピラリ外部の屈折率を下げることによって、各キャピラリの凸レンズ作用を強めることができるが、同時に、反射ロスが増大するため、48本以上の分析キャピラリの同時照射に有効であるかどうかは不明である。尚、n
1=1.25のフッ素溶液は、例えば、3M社から販売されているフロリナート(登録商標)とすることができる。レンズキャピラリの内部の媒体の屈折率をn
4=1.46とする。
【0087】
図16(b)は、上記条件下で、分析キャピラリ内部が高屈折率の分離媒体でありn
3=1.41の場合に、φ50 μmのレーザビームを左側から片側照射した際のレーザビーム光線追跡結果を示す図である。マルチフォーカスが機能しており、96本すべてのキャピラリの内部を効率良く照射できている。これは、式(1)より、分析キャピラリ1本の屈折角はΔθ
A=-1.4°である一方、レンズキャピラリ1本の屈折角はΔθ
B=-3.3°であり、Δθ
A+Δθ
B=-4.7°となるため、分析キャピラリ1本とレンズキャピラリ1本の1組で凸レンズ作用を示し、マルチフォーカスが機能するためである。
【0088】
これに対して、
図16(c)は、上記条件下で、分析キャピラリ内部が低屈折率の分離媒体でありn
3=1.33の場合の同様のレーザビーム光線追跡結果を示す図である。マルチフォーカスが機能しており、96本すべてのキャピラリの内部を効率良く照射できている。これは、式(1)より、分析キャピラリ1本の屈折角はΔθ
A=+2.0°である一方、レンズキャピラリ1本の屈折角はΔθ
B=-3.3°であり、Δθ
A+Δθ
B=-1.3°となるため、分析キャピラリ1本とレンズキャピラリ1本の1組で凸レンズ作用を示し、マルチフォーカスが機能するためである。
【0089】
<第2の実施形態(
図16)のキャピラリアレイ構成による相対蛍光強度分布>
図17は、
図16(b)および(c)に示される片側照射の結果を両側照射の場合に焼き直した場合についての、各キャピラリの相対蛍光強度を示す図である。n
3=1.41の場合、48本の分析キャピラリについて相対蛍光強度の最小値がMIN=0.54、変動係数がCV=6%という結果が得られ、実用性能であるMIN≧0.2、CV≦20%およびCV≦15%を満たすことが分かる。これに対して、n
3=1.33の場合、MIN=0.47、およびCV=8%となり、MIN≧0.2、CV≦20%およびCV≦15%を満たすことが分かる。すなわち、本構成は、48本以上の分析キャピラリのレーザビームによる同時照射に適した方法である。
【0090】
<第2の実施形態によるキャピラリアレイの他の構成例>
図18(a)は、本実施形態のキャピラリアレイの構成断面図である。外径2R=126 μm、内径2r=50 μmの192本のキャピラリのレーザ照射部が間隔155 μmで同一平面上に配列している。キャピラリアレイの中で、96本の分析キャピラリと96本のレンズキャピラリが交互に配列している。キャピラリ外部はフッ素溶液でありn
1=1.25、キャピラリ素材は石英ガラスでありn
2=1.46である。レンズキャピラリの内部の媒体の屈折率をn
4=1.46とする。
【0091】
図18(b)は、上記条件下で、分析キャピラリ内部が高屈折率の分離媒体でありn
3=1.41の場合に、φ50 μmのレーザビームを左側から片側照射した際のレーザビーム光線追跡結果を示す図である。マルチフォーカスが機能しており、192本すべてのキャピラリの内部を効率良く照射できている。各キャピラリの屈折角は
図16(b)の場合と同等である。
【0092】
これに対して、
図18(c)は、上記条件下で、分析キャピラリ内部が低屈折率の分離媒体でありn
3=1.33の場合の同様のレーザビーム光線追跡結果を示す図である。マルチフォーカスが機能しており、192本すべてのキャピラリの内部を効率良く照射できている。各キャピラリの屈折角は
図16(c)の場合と同等である。
【0093】
<第2実施形態(
図18)のキャピラリアレイ構成による相対蛍光強度分布>
図19は、
図18(b)および(c)に示される片側照射の結果を両側照射の場合に焼き直した場合についての、各キャピラリの相対蛍光強度を示す図である。n
3=1.41の場合、96本の分析キャピラリについて相対蛍光強度の最小値がMIN=0.30、変動係数がCV=20%という結果が得られ、実用性能であるMIN≧0.2、およびCV≦20%は満たされているが、CV≦15%は満たされていないことが分かる。これに対して、n
3=1.33の場合、MIN=0.23、およびCV=27%となり、MIN≧0.2は満たされたが、CV≦20%およびCV≦15%は満たされないことが分かる。しかしながら、本構成は、
図9(特許文献2)のn
3=1.33の場合と比較して、96本以上の分析キャピラリのレーザビームによる同時照射に明らかに適した方法である。
【0094】
<キャピラリ本数の変更>
図20は、
図16~
図19と同様に、外径2R=126 μm、内径2r=50 μmの分析キャピラリおよびレンズキャピラリのそれぞれが24本、48本、72本、および96本、同一平面上に間隔155 μmで配列している場合に、レーザビームの両側照射を行った際の各分析キャピラリの相対蛍光強度を示す図である。キャピラリ外部はフッ素溶液でありn
1=1.25、キャピラリ素材は石英ガラスでありn
2=1.46、分析キャピラリ内部は低屈折率の分離媒体でありn
3=1.33、レンズキャピラリの内部の媒体の屈折率をn
4=1.46とする。つまり、
図20の分析キャピラリ48本の黒ひし形のプロットのグラフは
図17のn
3=1.33のグラフと同一であり、分析キャピラリ96本の黒四角プロットのグラフは
図19のn
3=1.33のグラフと同一である。このように、本実施形態の構成は、24本~96本の様々な本数の分析キャピラリのレーザビームによる同時照射に適していることが分かる。もちろん、24本以下、あるいは96本以上の分析キャピラリに対しても有効であることは言うまでもない。
【0095】
(D)第3の実施形態
第3の実施形態では、
図16に示した第2の実施形態キャピラリアレイの構成において、キャピラリ外部の媒体の屈折率の影響を評価する。外径2R=126 μm、内径2r=50 μmの96本のキャピラリのレーザ照射部が間隔155 μmで同一平面上に配列している。キャピラリアレイの中で、48本の分析キャピラリと48本のレンズキャピラリが交互に配列している。キャピラリ素材は石英ガラスでありn
2=1.46、分析キャピラリ内部は低屈折率の分離媒体でありn
3=1.33、レンズキャピラリの内部の媒体の屈折率をn
4=1.46とする。
【0096】
図21(a)は、この条件下で、キャピラリ外部の屈折率n
1を1.20~1.33まで変化させたときの、48本の分析キャピラリの相対蛍光強度の最大値を黒三角プロット、平均値を黒丸プロット、最小値を黒四角プロットで示している。この結果より、n
1≦1.31のとき、実用性能のMIN≧0.2が満足されることが分かる。また、n
1≦1.30、および1.23≦n
1≦1.29にすることによって、MIN≧0.3、およびMIN≧0.4が満たされ、より高い性能が得られる。
【0097】
図21(b)は、
図21(a)と同じ条件下で、キャピラリ外部の屈折率n
1を1.20~1.33まで変化させたときの、48本の分析キャピラリの相対蛍光強度の変動係数を示している。この結果より、n
1≦1.30のとき、実用性能のCV≦20%が満足されることが分かる。また、1.21≦n
1≦1.29のとき、実用性能のCV≦15%が満足されることが分かる。さらに、1.24≦n
1≦1.28のとき、より高い性能のCV≦10%が満足されることが分かる。
【0098】
図16におけるn
1=1.25はCV≦10%が得られる条件になっており、実際、
図17に示されている通り、MIN=0.47、CV=8%である。
図14におけるn
1=1.29はCV≦15%が得られるが、CV≦10%が得られない条件になっており、実際、
図15に示されている通り、MIN=0.42、CV=11%である。つまり、n
1=1.29よりもn
1=1.25の方が好適条件であることは
図21からも明らかである。以上より、総合的には、1.24≦n
1≦1.28のときにより高い性能が得られ、さらに、n
1=1.26のときに最も高い性能が得られることが分かる。
【0099】
(E)第4の実施形態
第4の実施形態では、
図16に示した第2の実施形態のキャピラリアレイの構成において、キャピラリの外径および外径内径比の影響を評価する。内径2r=50 μmの96本のキャピラリのレーザ照射部が同一平面上に配列している。キャピラリアレイの中で、48本の分析キャピラリと48本のレンズキャピラリが交互に配列している。キャピラリ外部はフッ素溶液でありn
1=1.25、キャピラリ素材は石英ガラスでありn
2=1.46、分析キャピラリ内部は低屈折率の分離媒体でありn
3=1.33、レンズキャピラリの内部はマッチング溶液でありn
4=1.46とする。
【0100】
図22(a)は、この条件下で、キャピラリの外径2Rを75 μm~250 μmまで変化させたときの、48本の分析キャピラリの相対蛍光強度の最大値を黒三角プロット、平均値を黒丸プロット、最小値を黒四角プロットで示している。キャピラリの配列間隔は、外径2Rに29 μmを加えた値とする。この結果より、外径2R≦190 μmのとき、実用性能のMIN≧0.2が満足されることが分かる。また、2R≦175 μm、および90 μm≦2R≦150 μmにすることによって、MIN≧0.3、およびMIN≧0.4が満たされ、より高い性能が得られる。すなわち、外径内径比R/r≦3.8のとき、実用性能のMIN≧0.2が満足されることが分かる。また、R/r≦3.5、および1.8≦R/r≦3.0にすることによって、MIN≧0.3、およびMIN≧0.4が満たされ、より高い性能が得られる。
【0101】
図22(b)は、
図22(a)と同じ条件下で、キャピラリの外径2Rを75 μm~250 μmまで変化させたときの、48本の分析キャピラリの相対蛍光強度の変動係数を示している。この結果より、外径2R≦175 μmのとき、実用性能のCV≦20%が満足されることが分かる。また、85 μm≦2R≦160 μmのとき、実用性能のCV≦15%が満足されることが分かる。さらに、100 μm≦2R≦140 μmのとき、より高い性能のCV≦10%が満足されることが分かる。すなわち、外径内径比R/r≦3.5のとき、実用性能のCV≦20%が満足されることが分かる。また、1.7≦R/r≦3.2のとき、実用性能のCV≦15%が満足されることが分かる。さらに、2.0≦R/r≦2.8のとき、より高い性能のCV≦10%が満足されることが分かる。
【0102】
以上より、総合的には、100 μm≦2R≦140 μmのとき、すなわち、2.0≦R/r≦2.8のときに最も高い性能が得られることが分かる。
【0103】
(F)第5の実施形態
<本開示の技術の一般化>
第5の実施形態では、本開示の分析キャピラリとレンズキャピラリを交互に配列するキャピラリアレイの構成の特徴を一般化する。ここで、分析キャピラリとレンズキャピラリは必ずしも同数本である必要はない。キャピラリアレイの両端を分析キャピラリとする場合は、Nを2以上の整数として、N本の分析キャピラリとN-1本のレンズキャピラリが交互配列されれば良い。キャピラリアレイの両端をレンズキャピラリとする場合は、N本の分析キャピラリとN+1本のレンズキャピラリが交互配列されれば良い。以下では、「キャピラリ」の表記は、「分析キャピラリ」と「レンズキャピラリ」の両方を指し示すものとする。キャピラリのレーザ照射部において、キャピラリの外半径をR(外径は2R)、内半径をr(内径は2r)、キャピラリの外部の媒体の屈折率をn1、キャピラリの素材の屈折率をn2とし、分析キャピラリの内部の媒体(分離媒体)の屈折率をn3、レンズキャピラリの内部の媒体の屈折率をn4とする。レーザビームが1本の分析キャピラリを透過する際の屈折角をθA、レーザビームが1本のレンズキャピラリを透過する際の屈折角をθBとするとき、レーザビームが分析キャピラリ1本とレンズキャピラリ1本の1組を透過する際の屈折角は、式(1)より、下記式(5)で表される。
【0104】
【0105】
これまでの第2の実施形態~第4の実施形態で明らかにした通り、本開示の技術の構成において、マルチフォーカスが機能するための条件は、ΔθA+ΔθB≦0である。この条件は本開示の技術で初めて見出されたものである。特に、分析キャピラリの内部が低屈折率の分離媒体で満たされる場合、具体的にはn3<1.36、理想的にはn3≦1.35、さらに理想的にはn3≦1.34、そして究極的にはn3=1.33の条件下で、ΔθA+ΔθB≦0が成立することが必要である。これらは、いずれの公知例でも実現されていない。また、レンズキャピラリによるレーザビームの反射ロスを低減するためには、n2=n4とする条件が良い。このとき、式(5)は、下記式(6)に変形される。
【0106】
【0107】
レンズキャピラリの代わりに屈折率がn2のロッドレンズを用いる場合も式(6)で表される。
【0108】
<分析キャピラリとレンズキャピラリの比率について>
以上では、分析キャピラリとレンズキャピラリを1:1の比率で交互に配列しているが、必ずしも1:1である必要はない。例えば、2本の分析キャピラリに対して、1本のレンズキャピラリを用いた場合、全体として凸レンズ作用が示され、マルチフォーカスが機能すれば良い。この場合、2本の分析キャピラリと1本のレンズキャピラリの1組を単位として、複数の単位が繰り返されるようにキャピラリが配列されれば良い。キャピラリアレイの全体に渡って単位が繰り返される必要はなく、キャピラリアレイの一部で単位が繰り返されても良い。一般に、mを正の整数として、m本の分析キャピラリに対して、1本のレンズキャピラリを用いた場合に、つまり、m本の分析キャピラリと1本のレンズキャピラリの1組を単位として凸レンズ作用が示され、マルチフォーカスが機能するためには、下記式(7)として、mΔθA+ΔθB≦0が成立することが必要である。
【0109】
【0110】
m=1の場合、式(7)は式(5)と同じになる。
【0111】
一方で、これまでの実施形態で明らかにしている通り、マルチフォーカスが機能している場合においても、キャピラリによるレーザビームの反射ロスが大きいと、すべての分析キャピラリのレーザビームによる同時照射が困難になる。レーザビームが1本の分析キャピラリを透過する際の透過率をTA、レーザビームが1本のレンズキャピラリを透過する際の透過率をTBとするとき、レーザビームが分析キャピラリ1本とレンズキャピラリ1本の1組を透過する際の透過率は、式(2)より、下記式(8)で表される。
【0112】
【0113】
また、レンズキャピラリによるレーザビームの反射ロスを低減するためには、n2=n4とする条件が良い。このとき、式(8)は、下記式(9)に変形される。
【0114】
【0115】
レンズキャピラリの代わりに屈折率がn2のロッドレンズを用いる場合も式(9)で表される。
【0116】
N本の分析キャピラリとN本のレンズキャピラリが交互に配列されているキャピラリアレイで、レーザビームの両側照射を行う場合、キャピラリアレイの中央に配置される分析キャピラリのレーザ照射強度が最小になる。キャピラリアレイの中央に配置される分析キャピラリのキャピラリ番号は、Nが奇数のときはn=(N+1)/2、Nが偶数のときはn=N/2またはn=N/2+1である。したがって、レーザ照射強度の最小値は、式(4)より、Nが奇数のときは、下記式(10)で表される。
【0117】
【0118】
Nが偶数のときは、下記式(11)で表される。
【0119】
【0120】
実用性能を満たすためには、式(10)または式(11)を用いて、MIN≧0.2が成立する必要がある。特に、24本以上、および48本以上の分析キャピラリのレーザビームによる同時照射を実現するためには、N=24、およびN=48の条件下で、MIN≧0.2が成立する必要がある。式(11)でN=48とすると、MIN≧0.2を満たすためには、TA×TB≧93%が成立すれば良い。これらの条件は本開示で初めて見出されたものである。特に、分析キャピラリの内部が低屈折率の分離媒体で満たされる場合、具体的にはn3<1.36、理想的にはn3≦1.35、さらに理想的にはn3≦1.34、そして究極的にはn3=1.33の条件下で、MIN≧0.2が成立することが必要である。
【0121】
N本の分析キャピラリのレーザ照射強度の変動係数CVは、式(4)から近似的に求めることができる。キャピラリアレイの両端に配置されるキャピラリ(n=1およびn=N)でレーザ照射強度の最大値MAXが得られ、キャピラリアレイの中央に配置されるキャピラリ(Nが奇数のときはn=(N+1)/2、Nが偶数のときはn=N/2またはn=N/2+1)でレーザ照射強度の最小値MINが得られる。MAXは、式(4)より、Nが奇数か、偶数かを問わず、下記式(12)で表される。
【0122】
【0123】
このとき、CVは、MAX-MINを、MAXとMINの平均値で割った値を、3で割った値で近似できる。すなわち、下記式(13)で表される。
【0124】
【0125】
実用性能を満たすためには、式(10)または式(11)、式(12)、および式(13)を用いて、CV≦20%、およびCV≦15%が成立する必要がある。
【0126】
以上より、一層高い実用性能を得るためには、(i)ΔθA+ΔθB≦0またはmΔθA+ΔθB≦0、(ii)MIN≧0.2、(iii)CV≦20%またはCV≦15%の3条件が同時に成立することが複数の分析キャピラリの効率的なレーザビームによる同時照射に必要である。特に、分析キャピラリの内部が低屈折率の分離媒体で満たされる場合、具体的にはn3<1.36、理想的にはn3≦1.35、さらに理想的にはn3≦1.34、そして究極的にはn3=1.33の条件下で、これらが同時に成立することが必要である。
【0127】
(G)第6の実施形態
第6の実施形態では、分析キャピラリとレンズキャピラリを交互に配列するキャピラリアレイの具体的な構成を示す。以下では、「キャピラリ」の表記は、「分析キャピラリ」と「レンズキャピラリ」の両方を指し示すものとする。
【0128】
図23は、複数のキャピラリのレーザ照射部14の周辺を示す図である。複数の分析キャピラリ1と、複数のレンズキャピラリ24のレーザ照射部14が配列平面上に交互に配列され、キャピラリアレイを構成している。分析キャピラリ1は点線、レンズキャピラリ24は実線で示されている。レーザビーム13が配列平面の側方より入射され、各キャピラリのレーザ照射部14が同時照射されている。
【0129】
図23では、分析キャピラリ1は全体の内のレーザ照射部14の近傍のみが描かれているのに対して、レンズキャピラリ24は全体が描かれている。つまり、レンズキャピラリの全長は、分析キャピラリの全長と比較して短くされている。レンズキャピラリは、レーザ照射部14にのみ存在していれば良いためである。これによって、キャピラリの消費量を減らすことができる上、キャピラリアレイ全体をシンプルにすることが可能である。レンズキャピラリの内部には高屈折率な媒体を充填する。例えば、キャピラリの素材がn
2=1.46の石英ガラスの場合には、レンズキャピラリの内部にn
4=1.46のマッチング溶液を充填するのが良い。また、レンズキャピラリに充填した溶液が蒸発等によってレンズキャピラリから抜け出さないように、レンズキャピラリの両端を封止することは有効である。さらに、
図23に示すように、封止部25を用いて、複数のレンズキャピラリの両端をそれぞれ束ねて、まとめて封止するのが良い。これによって、キャピラリアレイ全体を一層シンプルにすることができる。封止部25とレンズキャピラリの結合には接着剤を用いるのが簡便である。
【0130】
以上では、分析キャピラリ及びレンズキャピラリのいずれにも屈折率n2=1.46の石英ガラス製のキャピラリを用いることを説明したが、レンズキャピラリの代わりに石英ガラス棒を用いて、当該ガラス棒の外径を分析キャピラリの外径と等しくするようにしてもよい。この場合も、石英ガラス棒の全長は、分析キャピラリの全長と比較して短くすることができる。
【符号の説明】
【0131】
1 キャピラリ(分析キャピラリ)
2 試料注入端
3 試料溶出端
4 陰極
5 陽極
6 陰極側緩衝液
7 陽極側緩衝液
8 電源
9 ポリマブロック
10 バルブ
11 シリンジ
12 レーザ光源
13 レーザビーム
14 レーザ照射部
15 集光レンズ
16 レーザカットフィルタ
17 透過型回折格子
18 結像レンズ
19 センサ
20 発光点
21 蛍光
22 結像点
23 光軸
24 レンズキャピラリ
25 封止部