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特許7496051液晶ディスプレイパネル及び無アルカリガラスの基板
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  • 特許-液晶ディスプレイパネル及び無アルカリガラスの基板 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-29
(45)【発行日】2024-06-06
(54)【発明の名称】液晶ディスプレイパネル及び無アルカリガラスの基板
(51)【国際特許分類】
   C03C 3/091 20060101AFI20240530BHJP
   C03C 3/093 20060101ALI20240530BHJP
   G02F 1/1333 20060101ALI20240530BHJP
   G02F 1/1343 20060101ALI20240530BHJP
   G09F 9/30 20060101ALI20240530BHJP
【FI】
C03C3/091
C03C3/093
G02F1/1333 500
G02F1/1343
G09F9/30 310
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022191502
(22)【出願日】2022-11-30
(62)【分割の表示】P 2021066554の分割
【原出願日】2015-11-27
(65)【公開番号】P2023036599
(43)【公開日】2023-03-14
【審査請求日】2022-12-27
(31)【優先権主張番号】P 2014241601
(32)【優先日】2014-11-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】小野 和孝
(72)【発明者】
【氏名】加藤 保真
(72)【発明者】
【氏名】欅田 昌也
【審査官】三村 潤一郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/183626(WO,A1)
【文献】特開2013-253309(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0203181(US,A1)
【文献】特開2014-162659(JP,A)
【文献】特開2010-118409(JP,A)
【文献】国際公開第2011/001920(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/077609(WO,A1)
【文献】特開2001-172041(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0179510(US,A1)
【文献】国際公開第2014/087971(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/183539(WO,A1)
【文献】特表2009-525942(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00 - 14/00
G02F 1/1333
G02F 1/1343
G09F 9/30
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクティブマトリクス駆動形式の液晶ディスプレイパネルであって、
該液晶ディスプレイパネルは、無アルカリガラスの基板と、
該無アルカリガラスの基板の少なくとも一の表面上に形成される金属からなる配線膜と、
該配線膜の表面上に形成される無機物質からなる絶縁膜とを備え、
該配線膜は、厚さが0.1μm以上であり、
該絶縁膜は、厚さが100nm以上であり、
該基板は、長辺が1800mm以上、短辺が1500mm以上、厚さが0.5mm以下であり、
該金属は、その室温でのヤング率と熱膨張係数の積が10,000×10-7GPa/℃~25,000×10-7GPa/℃であり、
該無機物質は、該無アルカリガラスより小さい平均熱膨張係数(50℃~350℃)を有し、
該無アルカリガラスは、ヤング率(E)が70~95GPa、50℃~350℃の平均熱膨張係数(α)が32×10-7~45×10-7(1/℃)、且つ下記式(1)を満たし、
1394≧20α+7E≧1310 (1)、
式(1)において、αの単位は10-7(1/℃)、Eの単位はGPaであり、及び、
酸化物基準のモル%表示で下記組成を有する、
SiO 66~74、
Al 10~13
1~3、
MgO 2~12、
CaO 5~11、
SrO 0.1~4、
BaO ~1、
ZrO 0~2、
MgO+CaO+SrO+BaO 19~21、
Al*(MgO/(MgO+CaO+SrO+BaO)):5.5以上、液晶ディスプレイパネル。
【請求項2】
前記無アルカリガラスは、酸化物基準のモル%表示で表される組成が、759-13.1×SiO-7.5×Al-15.5×B+9.7×MgO+21.8×CaO+27.2×SrO+27.9×BaO≧0の関係を満たす、請求項1に記載の液晶ディスプレイパネル。
【請求項3】
前記無アルカリガラスは、酸化物基準のモル%表示で表される組成が、MgO/(MgO+CaO+SrO+BaO)が0.45以上の関係を満たす、請求項1又は2に記載の液晶ディスプレイパネル。
【請求項4】
該金属が、銅、アルミニウム、又はモリブデンである、請求項1から3のいずれか1項に記載の液晶ディスプレイパネル。
【請求項5】
該無機物質が窒化シリコン、酸窒化シリコン又は酸化シリコンである、請求項1から4のいずれか1項に記載の液晶ディスプレイパネル。
【請求項6】
前記液晶ディスプレイパネルの製造プロセスの最高温度が450℃以下である、請求項1から5のいずれか1項に記載の液晶ディスプレイパネル。
【請求項7】
酸化物基準のモル%表示で、
SiO 66~74、
Al 10~13
1~3、
MgO 2~12、
CaO 5~11、
SrO 0.1~4、
BaO ~1、
ZrO 0~2、
MgO+CaO+SrO+BaO 19~21、
Al×(MgO/(MgO+CaO+SrO+BaO)):5.5以上を含み、
ヤング率(E)が70~95GPa、50℃~350℃の平均熱膨張係数(α)が32×10-7~45×10-7(1/℃)、且つ下記式(1)を満たす、
1394≧20α+7E≧1310 (1)、
式(1)において、αの単位は10-7(1/℃)、Eの単位はGPaである、無アルカリガラスの基板。
【請求項8】
前記無アルカリガラスの基板は、酸化物基準のモル%表示で表される組成が、759-13.1×SiO-7.5×Al-15.5×B+9.7×MgO+21.8×CaO+27.2×SrO+27.9×BaO≧0の関係を満たす、請求項7に記載の無アルカリガラスの基板。
【請求項9】
前記無アルカリガラスの基板は、酸化物基準のモル%表示で表される組成が、MgO/(MgO+CaO+SrO+BaO)が0.45以上の関係を満たす、請求項7又は8に記載の無アルカリガラスの基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ディスプレイパネルに関する。詳細には、所定の無アルカリガラスから成る基板上に画素アレイが形成されて成る液晶ディスプレイパネルに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶ディスプレイパネルが大型化且つ高精細化する中にあって、製造工程中の熱処理による画素アレイのパターンずれの抑制が最重要課題の一つとなっている。高精細化の要求によって、基板上に形成される半導体素子アレイの金属配線がより細くなっているため、パターンずれの許容度がますます小さくなっている。
【0003】
パターンずれは、液晶ディスプレイパネル製造工程におけるガラス基板の構造緩和による熱収縮が原因であると考えられている。これを抑制するために提案されている第1の方法はガラスの平均熱膨張係数を小さくすることである。この方法を用いるものとして、30~380℃における平均熱膨張係数が25×10-7~36×10-7/℃である無アルカリガラス(特許文献1)、50~300℃における平均熱膨張係数が30×10-7~43×10-7/℃である無アルカリガラス(特許文献2)が提案されている。また、平均熱膨張係数をガラス基板上に成膜されるa-Si、p-Si等に近くしたガラスも提案されている(特許文献3)。
【0004】
第2の方法はガラスの歪点を高くすることである。上記特許文献1は歪点を640℃以上とすること、特許文献2は710℃以上725℃未満とすること、特許文献3は680℃以上740℃未満とすることを、夫々、提案している。
【0005】
その他、ガラスの撓みを抑制するためにガラスの密度を低くすること(特許文献1、2)、ヤング率を高くすること(特許文献3)等が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】日本国特開2002-308643号公報
【文献】国際公開第2013/161902号
【文献】日本国特開2014-118313号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、製造プロセスにおける熱処理等の最高温度が200~450℃程度と比較的低い場合のパターンずれは、ガラスの構造緩和の影響では説明することが難しい。実際、基板ガラスの平均熱膨張係数を低くすると、却ってパターンずれが大きくなる場合がある。
【0008】
本発明は、このような状況に鑑み、製造プロセスの最高温度が比較的低い大型液晶ディスプレイパネルのパターンずれを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、アクティブマトリクス駆動形式の液晶ディスプレイパネルであって、
該液晶ディスプレイパネルは、無アルカリガラスの基板の少なくとも一の表面上に、金属からなる膜を成膜し、得られる金属膜をパターニングして配線膜とし、次いで無機物質からなるゲート絶縁膜を成膜する工程を含む製造プロセスで製造される液晶ディスプレイパネルであって、前記無アルカリガラスの基板の少なくとも一の表面上には、前記金属からなる配線膜と前記無機物質からなる絶縁膜とが備えられてなる。
即ち本発明は、無アルカリガラスの基板と、金属からなる配線膜と、該配線膜の表面上に形成される無機物質からなる絶縁膜とを備え、
該配線膜は、厚さが0.1μm以上であり、
該絶縁膜は、厚さが100nm以上であり、
該基板は、長辺が1800mm以上、短辺が1500mm以上、厚さが0.5mm以下であり、
該金属は、その室温でのヤング率と熱膨張係数の積が10,000×10-7GPa/℃~25,000×10-7GPa/℃であり、
該無機物質は、該無アルカリガラスより小さい平均熱膨張係数(50℃~350℃)を有し、
該無アルカリガラスは、ヤング率(E)が70~95GPa、50℃~350℃の平均熱膨張係数(α)が32×10-7~45×10-7(1/℃)、且つ下記式(1)を満たし、
20α+7E≧1310 (1)、
式(1)において、αの単位は10-7(1/℃)、Eの単位はGPaであり、
及び、
酸化物基準のモル%表示で下記組成を有する、
SiO 66~74、
Al 10~15、
0.1~5、
MgO 2~12、
CaO 3~11、
SrO 0~10、
BaO 0~5、
ZrO 0~2、
好ましくは、酸化物基準のモル%表示で下記組成を有する、
SiO 66~74、
Al 10~15、
0.1~3.0未満、
MgO 2~10、
CaO 3~11、
SrO 0.1~10、
BaO 0~5、
ZrO 0~2、
液晶ディスプレイパネルである。
好ましいさらに他の例において、上記無アルカリガラスは、酸化物基準のモル%表示で下記組成を有する、
SiO 68.0~74、
Al 10~15、
0.1~5、
MgO 2~9.0、
CaO 3~11、
SrO 0~10、
BaO 0~1、
ZrO 0~2、
MgO+CaO+SrO+BaO:18以下。
【発明の効果】
【0010】
本発明者らは、種々検討した結果、製造プロセスにおける熱処理の最高温度が比較的低い(例えば450℃以下)大型液晶ディスプレイパネルでは、配線膜金属及び絶縁膜誘導体と基板ガラスとの組合せの影響が無視できないことを見出した。本発明を限定する趣旨ではないが、製造プロセスにおける熱処理の最高温度が比較的低い場合、従来考慮されていた構造緩和ではなく、ガラス基板の反りがパターンずれを起こす大きな要因であると考えられる。上記本発明の液晶ディスプレイパネルは、基板を構成するガラス、配線を構成する金属、絶縁膜を構成する誘電体、及びディスプレイパネルの設計態様を所定の組合せとすることによって、パターンずれが顕著に抑制されている。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1(a)~(c)は、例1におけるガラス基板の変形状態を示す図であり、図1(b)はステップ1、図1(a)はステップ2、図1(c)はステップ3における変形状態をそれぞれ示す図である。
図2図2は、実施例で調製したガラスを基板として用い、その上に所定膜厚の銅パターン、及び該銅パターンを覆う所定膜厚の窒化ケイ素膜が形成された場合の基板の反りをシミュレーションしてプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
最初に、本発明の液晶ディスプレイパネルにおけるガラス基板を構成する無アルカリガラスについて説明する。本発明において、「無アルカリ」ガラスとは、NaO、KO等のアルカリ金属酸化物を実質的に含有しないガラスを意味する。ここで「実質的に含有しない」とは、不可避的不純物を除き含有しないことを意味する(以下、同じ)。本発明においては、不可避的に含有されるアルカリ金属は、多くとも0.1モル%程度である。
【0013】
該無アルカリガラスは、該ガラスの骨格を形成するSiO、Alに加え、所定量のアルカリ土類金属酸化物等を含む。先ず、これら各成分の酸化物基準での含有量について説明する。以下において、特に断りがない限り、「%」は「モル%」を意味する。
【0014】
SiOの含有量が66%未満であると、歪点が充分に高くなく、熱膨張係数及び比重が高くなりすぎる傾向がある。従って、SiOの含有量は66%以上であり、好ましくは66.5%以上である。一方、含有量が74%を超えると、ガラス粘度が10ポアズ(dPa・s)となる温度(T)が高くなる等、溶解性が悪くなり、失透温度が上昇し、ヤング率が低下する傾向がある。従って、SiOの含有量は74%以下であり、73%以下が好ましく、72%以下がより好ましく、71%以下がさらに好ましい。
【0015】
Alは、分相性を抑制し、歪点を向上させ、ヤング率を高める効果があるが、その含有量が10%未満では、これらの効果を十分に得ることが難しい。従って、Alの含量は10%以上であり、好ましくは11%以上、より好ましくは12%以上である。一方、含有量が15%を超えると、Tが上昇して溶解性が悪くなり、及び失透温度も高くなる傾向がある。従って、Alの含量は15%以下であり、14%以下が好ましく、13%以下がより好ましい。
【0016】
はガラスの溶解性を良くし、失透温度を低下させる効果がある必須成分であるが、その量が5%超であると、ヤング率が過度に低下し且つ熱膨張係数が低くなりすぎる傾向がある。従って、Bの含量は5%以下であり、好ましくは4%以下、さらには3%未満であり、より好ましくは2.7%以下であり、さらに好ましくは2.5%以下、よりさらに好ましくは2.0%以下であり、特に好ましくは1.5%以下である。一方、含有量が0.1%未満であると、溶解性が悪化し、均質なガラスを得にくくなる。従って、Bの含量は0.1%以上であり、好ましくは0.2%以上、より好ましくは0.3%以上であり、さらに好ましくは0.5%以上である。
【0017】
MgOは、熱膨張係数を高くしすぎることなく、且つ、歪点を大きく低下することなく、溶解性を向上し、比重を低下する効果があるが、その含有量が2%未満であると該効果を十分に得られない。従って、MgOの含量は2%以上であり、好ましくは3%以上であり、より好ましくは4%以上である。一方、含有量が12%を超えると、失透温度が高くなる。そのため、MgOの含量は12%以下であり、10%以下が好ましく、9.5%以下がより好ましく、9%以下がさらに好ましい。
【0018】
CaOも、熱膨張係数を高くしすぎることなく、且つ、歪点を大きく低下することなく、溶解性を向上し、ヤング率を高くし、失透温度を低下する効果があり、その含有量が3%未満であると、該効果が十分に得られない。CaOの含量は3%以上であり、好ましくは4%以上であり、より好ましくは5%以上である。一方、含有量が11%を超えると、失透温度が高くなり、CaOの原料である石灰石(CaCO)中の不純物であるリンの量が多くなるおそれがある。そのため、CaOの含量は11%以下であり、10%以下が好ましく、9%以下がより好ましく、8%以下がさらに好ましい。
【0019】
SrOは、必須成分ではないが、失透温度を上昇させることなく溶解性を向上する効果があり、また、比較的熱膨張率を高める効果を得るにはSrOの含量は、好ましくは0.1%以上であり、より好ましくは1%以上であり、さらに好ましくは2%以上である。一方、含有量が10%を超えると、比重及び熱膨張係数を高くしすぎる傾向がある。そのため、SrOの含量は10%以下であり、8%以下が好ましく、7%以下がより好ましく、6%以下がさらに好ましい。
【0020】
BaOは必須成分ではないが、溶解性向上や耐失透性の向上の効果があるので、5%以下で含有してよい。しかし、該量を超えると、密度が増加する傾向がある。好ましくは4.5%以下であり、4%以下がより好ましく、1%以下がさらに好ましく、0.5%以下が特に好ましく、実質的に含有されないことが最も好ましい。
【0021】
ZrOも必須成分ではないが、溶融温度を低下し、及び、焼成時の結晶析出を促進する効果があるので、2%以下で含有してもよい。該量を超えると、ガラスの耐失透性が低下し、また、比誘電率(ε)が大きくなる傾向がある。好ましくは、1.5%以下であり、1%以下がより好ましく、0.5%以下がさらに好ましく、実質的に含有されないことが最も好ましい。
【0022】
本発明の無アルカリガラスは、アルカリ土類金属酸化物、即ちMgO、CaO、SrOおよびBaOの合量の合計(モル%)が15%未満であると、ヤング率が低くなり、また溶解性が悪くなる傾向がある。従って、合計が15%以上であることが好ましく、16%以上がより好ましく、17%以上がさらに好ましい。一方、合計が21%を超えては熱膨張係数が大きくなりすぎる傾向がある。好ましくは20%以下であり、より好ましくは19%以下であり、18%以下がさらに好ましい。
【0023】
さらに、MgOと他のアルカリ土類金属との間で、含有量が下記3条件を満たすことが好ましい。これにより、失透温度を上昇させることなしに、歪点を高くし、さらにガラスの粘性、特にガラス粘度が10dPa・sとなる温度Tを下げることができる。
MgO/(MgO+CaO+SrO+BaO)が0.20以上であることが好ましく、0.25以上がより好ましく、0.3以上がさらに好ましく、0.4以上が特に好ましく、0.45以上が最も好ましい。
MgO/(MgO+CaO)が0.3以上であり、0.4以上がより好ましく、0.52以上がさらに好ましく、0.55以上が特に好ましく、0.6以上が最も好ましい。
MgO/(MgO+SrO)が0.6以上であり、0.63以上がより好ましく、0.65以上がさらに好ましい。
【0024】
また、好ましくはAl×(MgO/(MgO+CaO+SrO+BaO))が5.5以上である。該比が5.5未満であると、ヤング率が低くなる傾向がある。より好ましくは5.75以上であり、6以上がさらに好ましく、6.25以上が最も好ましい。
【0025】
本発明の無アルカリガラスは、各成分の関係、具体的には酸化物基準のモル%表示で表される組成が、759-13.1×SiO-7.5×Al-15.5×B+9.7×MgO+21.8×CaO+27.2×SrO+27.9×BaO≧0であると、熱膨張率とヤング率の範囲が反りを抑制するために好適な範囲となることを見出した。
【0026】
上記各成分に加え、該ガラスは、その溶解性、清澄性、成形性等を向上する効果がある、ZnO、Fe、SO、F、Cl、SnOを総量で2%以下、好ましくは1%以下、より好ましくは0.5%以下で含有してもよい。
【0027】
一方、該ガラスは、ガラス板表面に設ける金属または酸化物等の薄膜の特性劣化を生じさせないために、Pを実質的に含有しないことが好ましい。さらに、ガラスのリサイクルを容易にするため、PbO、As、Sbを実質的に含有しないことが好ましい。
【0028】
次に、上記無アルカリガラスの諸特性について説明する。
該ガラスは、50~350℃での平均熱膨張係数(α)が45×10-7/℃以下である。これにより、耐熱衝撃性が大きく、パネル製造時の生産性を高くすることができる。好ましくは42×10-7/℃以下であり、より好ましくは41×10-7/℃以下、さらに好ましくは40×10-7/℃以下である。一方、αが小さすぎると成膜時の反りが大きくなるため、32×10-7/℃以上である。33×10-7/℃以上が好ましく、35×10-7/℃以上がより好ましい。
【0029】
該ガラスは、ヤング率(E)が70GPa以上である。斯かる高いヤング率によりガラスの破壊靭性が高く、大型ディスプレイ用基板に好適である。好ましくは75GPa以上であり、より好ましくは78GPa以上であり、さらに好ましくは80GPa以上であり、特に好ましくは83GPa以上である。一方、ヤング率が高すぎるとガラスの切断性が悪化するため、95GPa以下である。好ましくは90GPa以下であり、より好ましくは88GPa以下である。
【0030】
上記αとEは、下記式(1)を満たす。
20α+7E≧1310 (1)
ここで、αの単位は10-7/℃、Eの単位はGPaである。上記式(1)を満たす場合、大型基板であっても加熱による反りが小さい。
【0031】
好ましくは、該ガラスは、粘度ηが10ポイズ(dPa・s)となる温度Tが1710℃以下であり、これにより溶解が比較的容易である。より好ましくは1710℃未満であり、さらに好ましくは1700℃以下、よりさらに好ましくは1690℃以下である。
【0032】
好ましくは、該ガラスは粘度ηが10ポイズとなる温度Tが1320℃以下であり、フロート成形に適する。より好ましくは1315℃以下であり、さらに好ましくは1310℃以下、よりさらに好ましくは1305℃以下である。
【0033】
好ましくは、該ガラスは、歪点が680℃以上であり、より好ましくは710℃以上であり、さらに好ましくは730℃以上である。
好ましくは、該ガラスは、上記歪点と同様の理由で、ガラス転移点が760℃以上であり、より好ましくは770℃以上であり、さらに好ましくは780℃以上である。
【0034】
好ましくは、該ガラスは、比重が2.65以下であり、より好ましくは2.64以下であり、さらに好ましくは2.62以下である。
【0035】
好ましくは、該ガラスは失透温度が、1350℃以下であり、これによりフロート法による成形がより容易となる。より好ましくは1340℃以下であり、さらに好ましくは1330℃以下である。本発明における失透温度は、白金製の皿に粉砕されたガラス粒子を入れ、一定温度に制御された電気炉中で17時間熱処理を行い、熱処理後の光学顕微鏡観察によって、ガラスの表面及び内部に結晶が析出する温度である。
【0036】
好ましくは、該ガラスは、光弾性定数が31nm/MPa/cm以下である。液晶ディスプレイパネル製造工程や液晶ディスプレイ装置使用時に発生した応力によってガラス基板が複屈折性を有することにより、黒の表示がグレーになり、液晶ディスプレイのコントラストが低下する現象が認められることがある。光弾性定数を31nm/MPa/cm以下とすることにより、この現象を抑制することができる。より好ましくは30nm/MPa/cm以下、さらに好ましくは29nm/MPa/cm以下、よりさらに好ましくは28.5nm/MPa/cm以下、特に好ましくは28nm/MPa/cm以下である。また、該ガラスは、他の物性確保の容易性を考慮すると、光弾性定数が好ましくは23nm/MPa/cm以上、より好ましくは25nm/MPa/cm以上である。なお、光弾性定数は円盤圧縮法により測定できる。
【0037】
好ましくは、該ガラスは、比誘電率が5.6以上である。日本国特開2011-70092号公報に記載されているような、インセル型のタッチパネル(液晶ディスプレイパネル内にタッチセンサを内蔵したもの)の場合、タッチセンサのセンシング感度の向上、駆動電圧の低下、省電力化の観点から、ガラス基板の比誘電率が高いほうがよい。比誘電率を5.6以上とすることにより、タッチセンサのセンシング感度が向上する。より好ましくは5.8以上、さらに好ましくは6.0以上である。さらに液晶ディスプレイの画像の表示品質低下(クロストーク)、消費電力増大、高精細化が難しくなることの抑制を考慮すると、好ましくは7.5以下、より好ましくは7以下、さらに好ましくは6.5以下である。なお、比誘電率はJIS C-2141に記載の方法で測定できる。
【0038】
本発明の液晶ディスプレイパネルは、上記無アルカリガラスからなる基板上にTFT等のスイッチング素子を備えるアクティブマトリクス駆動形式のパネルである。該基板は長辺が1800mm以上、短辺が1500mm以上である。好ましくは、長辺が2100mm以上、短辺が1800mm以上である。より好ましくは、長辺が2400mm以上、短辺が2100mm以上である。また、該基板は厚さが0.5mm以下であり、好ましくは0.4mm以下であり、さらに好ましくは、0.3mm以下である。該基板の各辺の上限及び厚さの下限については特に制限はないが、例えば、長辺が3200mm以下、短辺が2900mm以下であり、板厚は0.05mm以上である。
【0039】
該基板上の少なくとも一の表面上には、金属からなる配線膜と無機物質からなる絶縁膜とが備えられている。本発明は、これらの膜と無アルカリガラスの諸特性の組合せの観点から、パターンずれを抑制する。
【0040】
該配線膜は、ゲート電極、ゲートバスライン、補助容量配線、補助容量電極等を含む回路パターンを構成する。該配線膜は、その厚さが0.1μm以上である。厚さの上限値については特に制限はないが、実際上、0.3~0.6μm程度である。この厚みを有する場合、ゲートバスラインを幅4~10μm程度の細線として形成することが可能である。
【0041】
該金属は、その室温でのヤング率と熱膨張係数の積が10,000×10-7GPa/℃~25,000×10-7GPa/℃、好ましくは10,000×10-7GPa/℃~24,000×10-7GPa/℃、より好ましくは10,000×10-7GPa/℃~22,000×10-7GPa/℃である。積が前記範囲外のものは、配線膜成膜後にガラス基板の反りを増大する傾向がある。
【0042】
該金属の例としては、銅、アルミニウム、モリブデン、チタン、クロム、タンタル、タングステン、及びこれらの合金が挙げられる。ゲート電極は、これら金属が積層された構造としてもよい。好ましくは、銅、アルミニウム、モリブデン又はこれらの合金が使用され、より好ましくは銅、アルミニウム、又はモリブデンが使用される。これらの室温でのヤング率と熱膨張係数の積は以下に示すとおりである。
銅: 21,000~23,000×10-7GPa/℃
アルミニウム: 16,000~17,000×10-7GPa/℃
モリブデン: 15,000~17,000×10-7GPa/℃
【0043】
該基板は、上記回路パターンを覆う無機物質からなる絶縁膜を備える。該絶縁膜は、その厚さが100nm以上である。厚さの上限値については特に制限はないが、実際上、300~400nm程度である。
【0044】
該無機物質は、上記無アルカリガラスの平均熱膨張係数(α)、即ち、32×10-7~45×10-7/℃、より小さい平均熱膨張係数(50~350℃)を有する。このような無機物質の例としては、酸化シリコン、窒化シリコン、酸窒化シリコン、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸窒化アルミニウム等が挙げられ、これらを単層もしくは積層構造としてよい。好ましくは窒化シリコン、酸化シリコン、または酸窒化シリコンが使用される。これらの平均熱膨張係数は、例えば以下に示すとおりである。
窒化シリコン: 32×10-7/℃
酸化シリコン: 5.5×10-7/℃
なお、酸窒化シリコンの熱膨張率は、酸素窒素比により上記の中間の数値を取ると考えられる。
【0045】
なお、成膜条件のコントロールにより、膜応力が変化することが知られており、膜応力を変化させることにより、ガラス基板の反りを適宜低減させることは可能である。しかし、ゲート電極用の金属膜の場合には、成膜時の印加出力が大きくなりすぎ、異常放電の可能性が高くなる。また、ゲート絶縁膜の場合には、水素添加などを用いることができるが、望みの特性のトランジスタが得られない可能性がある。そこで、成膜条件に制約がある場合や、さらに反りを抑制させたい場合には、本発明の所定のガラス基板を適用することにより、反りを有効に抑制させることが可能となる。
【0046】
液晶ディスプレイパネルが高精細になると、金属配線膜は細くなることから抵抗値を維持するために金属配線膜は厚くなる。ガラス基板上に金属配線膜の回路パターンが形成され、絶縁膜が該配線の間及びその上を覆ってガラス基板のほぼ全面に形成される。このとき、ガラス基板と厚くなった金属配線膜と絶縁膜のそれぞれの熱膨張係数とヤング率の違いにより、製造工程における熱処理の際に、ガラス基板と金属配線膜と絶縁膜が一体となった状態で反りが発生することを見出した。特に金属配線膜の回路パターンが、主に縦方向または横方向のように偏っていた場合には、反りが顕著となりやすいことを見出した。ガラス基板に反りが発生すると、配線や素子の当初の設計位置からのパターンずれが発生しやすくなる。
【0047】
該絶縁膜の上側に、TFTの活性層、パシベーション膜、平坦化膜等が備えられて、TFT基板となる。TFT基板は、公知の製造工程により製造することができ、例えば該製造工程の最高温度が好ましくは450℃以下である。該最高温度は、通常、TFTの活性層形成プロセスにおける最高温度である。なお、適用される半導体の種類やプロセスによって、最高温度がより好ましくは400℃以下、あるいはさらに好ましくは370℃以下、よりさらに好ましくは350℃以下である場合がある。また製造プロセスやTFT性能の安定性を考慮すると、好ましくは200℃以上、より好ましくは250℃以上、さらに好ましくは300℃以上である。そのような活性層用の半導体としては、例えば非晶質シリコン(a-Si)、インジウムーガリウム-亜鉛の酸化物半導体が挙げられる。該TFTはボトムゲート型(逆スタガ型)であってもトップゲート型(スタガ型)であってもよいが、本発明の効果を十分に発揮するためには、TFT製造工程の初期に金属膜と絶縁膜を形成するプロセスを取ることが多い、逆スタガ型の方が好ましい。パシベーション膜、平坦化膜等としては、公知の材料を用いてよい。
即ち、本発明の液晶ディスプレイパネルは、アクティブマトリクス駆動形式の液晶ディスプレイパネルであって、該液晶ディスプレイパネルは、例えば非晶質シリコン(a-Si)やインジウム-ガリウム-亜鉛の酸化物半導体等のような、無アルカリガラスの基板の少なくとも一の表面上に、金属からなる膜を成膜して該金属膜をパターニングして配線膜とし、さらに無機物質からなるゲート絶縁膜を成膜する工程を含む製造プロセスで製造される液晶ディスプレイパネルである。即ち、LTPSのような高温熱処理される製造プロセスとは異なるものであり、本発明における液晶ディスプレイパネル(非晶質シリコン(a-Si)やインジウム-ガリウム-亜鉛系の酸化物半導体等をTFTとして用いた液晶ディスプレイパネル)の前記製造プロセスの最高温度は低温熱処理の温度、例えば450℃以下である。前記無アルカリガラスの基板の少なくとも一の表面上には、前記金属からなる配線膜と前記無機物質からなる絶縁膜とが備えられて成る。
【0048】
該TFT基板は、カラーフィルター基板、液晶分子、シール材、偏光板、導光板、各種光学フィルム、バックライト等と組み合わされて、液晶ディスプレイパネルとなる。ディスプレイのサイズは、用途に応じて適切に選択されるが、例えば対角長3~10インチ程度のモバイルディスプレイ用のパネルや、対角長30~70インチの4Kテレビ用ディスプレイなどとなる。精細度については30インチ以上のものでは100pixel per inch(以下ppi)以上が好ましく、150ppi以上がより好ましく、200ppi以上がさらに好ましい。モバイルディスプレイ用途では300ppi以上が好ましく、400ppi以上がより好ましく、500ppi以上がさらに好ましい。
【実施例
【0049】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。
【0050】
各成分の原料を、ガラス組成が表1に示す目標のガラス組成(単位:モル%)になるように調合し、白金坩堝を用いて1500~1600℃の温度で溶解した。溶解にあたっては、白金スターラを用い撹拌しガラスの均質化を行った。次いで溶解ガラスを流し出し、板状に成形後徐冷した。このガラス板を用いて、各種評価を行った。表1中、例1~4及び7~12は本発明の例となるガラスであり、例5~6は比較用の例となるガラスである。カッコは計算値を示す。
【0051】
表1に、ガラス組成(単位:モル%)と50~300℃での平均熱膨脹係数(単位:×10-7/℃)、歪点(単位:℃)、ガラス転移点(単位:℃)、比重(単位:g/cm)、ヤング率(GPa)(超音波法により測定)、高温粘性値として、溶解性の目安となる温度T(ガラス粘度ηが10dPa・sとなる温度、単位:℃)、とフロート成形性およびフュージョン成形性の目安となる温度T(ガラス粘度ηが10dPa・sとなる温度、単位:℃)、失透温度(単位:℃)、光弾性定数(単位:nm/MPa/cm)(円盤圧縮法により測定)、および、比誘電率(JIS C-2141に記載の方法により測定)を示す。
【0052】
【表1】
【0053】
本発明の効果を確認するために、有限要素法を用いてガラス基板の変形を計算した。計算ソフトウェアとして、MSC社のMARCを用い、以下の手順で計算した。まず、ステップ1として、例1のガラスを基板サイズG6(長辺1800mm、短辺1500mm)、厚さ0.5mmの基板として用い、その上に、膜厚200nmの銅膜を200℃にてコーティングし、室温(20℃)まで冷却した場合の基板変形を計算した。次に、ステップ2として、幅7μm、ピッチ70μmのパターニングを模擬するために、室温で、基板の長軸方向に対して、端軸方向のヤング率が1/10となるような異方性を銅膜に与えた場合の基板変形を計算した。さらに、ステップ3として、ステップ2にて異方性を与えた基板を200℃まで加熱し、該窒化ケイ素膜を膜厚200nmでコーティングし、室温(20℃)まで冷却した場合の基板の変形を計算した。銅膜における銅の室温でのヤング率と熱膨張係数の積は21,000×10-7~23,000×10-7GPa/℃である。また、窒化ケイ素の平均熱膨張係数(50~350℃)は32×10-7/℃であり、ガラスの平均熱膨張係数よりも小さい。
図1(a)~図1(c)に、例1のガラス(ヤング率84GPa、熱膨張率が39×10-7/℃)の基板に対して、計算した結果をコンター図として示す。ステップ1(図1(b))では、当方的な膜のため同心円状の変形であるが、ステップ2(図1(a))では銅膜の異方性により、鞍型の変形が見られた。さらに、ステップ3(図1(c))では、ステップ2と比較して、変形が軽減されていることがわかった。
【0054】
図2は、例1~12のガラスを、基板サイズG6(長辺1800mm、短辺1500mm)、厚さ0.5mmのガラス基板として用い、その上に膜厚200nm、幅7μm、及びピッチ70μmの一方向に平行な銅パターン相当及び該銅パターンを覆ってガラス基板全面に厚さ200nmの窒化ケイ素膜が形成されたと想定した場合の、該窒化ケイ素膜成膜後における基板の反りの最大値を上記の方法で計算し、プロットしたものである。同図において、右上程反りが小さく、左下程反りが大きい。直線の右上の部分が、20α+7E≧1300に相当する部分である。同図から分かるように、本発明の要件を満たす例1~4および7~12のガラスは、反りが小さく、パターンずれを起こし難い。一方、ガラス組成及び且つ式(1)を満たさない例5、6は反りが大きく、パターンずれが大きくなると考えられる。
【0055】
本発明を詳細に、また特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。本出願は2014年11月28日出願の日本特許出願(特願2014-241601)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の液晶ディスプレイパネルは、基板ガラス、配線金属、誘電体、及びディスプレイパネルの設計態様の所定の組合せによって、パターンずれが顕著に抑制されている。
図1
図2