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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-29
(45)【発行日】2024-06-06
(54)【発明の名称】液晶組成物および温度応答性調光素子
(51)【国際特許分類】
   C09K 19/38 20060101AFI20240530BHJP
   C09K 19/54 20060101ALI20240530BHJP
   C09K 19/12 20060101ALI20240530BHJP
   G02F 1/13 20060101ALI20240530BHJP
   G02F 1/1334 20060101ALI20240530BHJP
【FI】
C09K19/38
C09K19/54 Z
C09K19/12
G02F1/13 505
G02F1/1334
G02F1/13 500
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020541212
(86)(22)【出願日】2019-09-02
(86)【国際出願番号】 JP2019034457
(87)【国際公開番号】W WO2020050224
(87)【国際公開日】2020-03-12
【審査請求日】2022-09-01
(31)【優先権主張番号】P 2018164604
(32)【優先日】2018-09-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000205638
【氏名又は名称】大阪有機化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【弁理士】
【氏名又は名称】森住 憲一
(74)【代理人】
【識別番号】100162710
【弁理士】
【氏名又は名称】梶田 真理奈
(72)【発明者】
【氏名】垣内田 洋
(72)【発明者】
【氏名】加畑 雅之
(72)【発明者】
【氏名】大久保 恵理奈
(72)【発明者】
【氏名】松山 剛知
【審査官】井上 莉子
(56)【参考文献】
【文献】欧州特許出願公開第00643121(EP,A1)
【文献】特表2008-522208(JP,A)
【文献】特開平06-016616(JP,A)
【文献】特開2004-175949(JP,A)
【文献】KHANDELWAL Hitesh,Dual electrically and thermally responsive broadband reflectorsbased on polymer network stabilized chiral nematic liquidcrystals,Chemical Communications,52,2016年,10109-10112
【文献】FUCHIGAMI Yuuta,Electrical Actuation of Cholesteric Liquid Crystal Gels,ACS Macro Letters,3,2014年,813-818
【文献】KARIMI Nazanin,Molding Optical Waveguides with Nematicons,Advanced Optical Materials,5,2017年,1700199
【文献】液晶デバイスハンドブック,日刊工業新聞社,1989年,119-120
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 19/00
G02F 1/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶化合物(A)、シアノフェニル基を有する重合性液晶化合物(B)、および、2個以上の重合性基を有する重合性化合物(C)を含み、
前記液晶化合物(A)がシアノビフェニル系液晶化合物であり、前記重合性化合物(C)が2個以上の重合性基を有する、前記重合性液晶化合物(B)とは異なる重合性液晶化合物であり、
前記液晶化合物(A)のネマチック相から等方相への相転移温度(TNI)が20~120℃の範囲にあり、
前記液晶化合物(A)の含有量が、液晶化合物(A)、重合性液晶化合物(B)および重合性化合物(C)の総量を基準に45~75質量%であり、
前記液晶化合物(A)のTNI未満の温度では光透過状態に、前記液晶化合物(A)のTNIを超える温度では光散乱状態に可逆的に変化する温度応答性調光素子用の、液晶組成物。
【請求項2】
液晶化合物(A)の分子量は200~1000である、請求項1に記載の液晶組成物。
【請求項3】
重合性化合物(C)の含有量は、液晶化合物(A)、重合性液晶化合物(B)および重合性化合物(C)の総量を基準に0.05~5質量%である、請求項1または2に記載の液晶組成物。
【請求項4】
重合性液晶化合物(B)が有するシアノフェニル基はシアノフェニルエステル基またはシアノビフェニル基である、請求項1~3のいずれかに記載の液晶組成物。
【請求項5】
重合性液晶化合物(B)は、炭素数1~12のアルキレン基または炭素数1~12のオキシアルキレンエーテル基、および少なくとも1つの重合性基を有する、請求項1~4のいずれかに記載の液晶組成物。
【請求項6】
重合性液晶化合物(B)が有する少なくとも1つの重合性基は、アクリロイル基、メタクリロイル基、エポキシ基およびビニル基からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項5に記載の液晶組成物。
【請求項7】
光ラジカル重合開始剤をさらに含む、請求項1~のいずれかに記載の液晶組成物。
【請求項8】
液晶化合物(A)、および、シアノフェニル基を有する重合性液晶化合物(B)と2個以上の重合性基を有する重合性化合物(C)との重合体を含んでなる層と、
前記層の両側に配置された一対の基材と、
を備え、
前記液晶化合物(A)がシアノビフェニル系液晶化合物であり、前記重合性化合物(C)が2個以上の重合性基を有する、前記重合性液晶化合物(B)とは異なる重合性液晶化合物(C1)であり、
前記液晶化合物(A)のネマチック相から等方相への相転移温度(TNI)が20~120℃の範囲にあり、
前記液晶化合物(A)の含有量が、液晶化合物(A)、前記重合体中の重合性液晶化合物(B)および重合性化合物(C)の総量を基準に45~75質量%であり、
前記液晶化合物(A)のTNI未満の温度では光透過状態に、前記液晶化合物(A)のTNIを超える温度では光散乱状態に可逆的に変化する温度応答性調光素子。
【請求項9】
前記一対の基材の少なくとも1つは配向膜付基材である、請求項に記載の温度応答性調光素子。
【請求項10】
20℃における可視直進透過率が60%以上である、請求項またはに記載の温度応答性調光素子。
【請求項11】
20℃と50℃におけるそれぞれの可視直進透過率の差が60%以上である、請求項10のいずれかに記載の温度応答性調光素子。
【請求項12】
請求項11のいずれかに記載の温度応答性調光素子を含むフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶組成物および温度応答性調光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
微細な液晶滴が高分子中に分散した液晶-高分子相の二相構造からなる高分子分散型液晶(PDLC)は、その特性に応じて、調光部材や照明器具、ディスプレイ等の様々な分野において利用されている。従来、高分子分散型液晶としては、主に、温度応答性および電気応答性の高分子分散型液晶が広く知られており、上記のような様々な用途に適した種々の高分子分散型液晶が開発されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、光学異方性高分子材料を用いて光学異方性高分子相を形成することにより、ネマチック相-等方相転移温度未満の温度では光透過状態に、ネマチック相-等方相転移温度を超える温度では光散乱状態に可逆的に変化する、温度応答性の高分子分散型液晶が開示されている。また、特許文献2には、電圧を印加することにより透過性の切換が可能な、コレステリック相の液晶材料を含むフィルタが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-152445号公報
【文献】特開平07-168148号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
室温付近の温度範囲に応答性を示す高分子分散型液晶は、太陽光などによる自然な温度変化に応じて光透過状態と光散乱状態とを切換ることが可能である。このため、かかる温度応答性の高分子分散型液晶は、エネルギーの供給を別途必要とする電気応答性の高分子分散型液晶と比較して省エネルギーであり、また、透過性切換のための電極等を必要としないため、様々な形態の部材への取付けや配置が容易であることから、周辺環境の温度変化等に応じて自動的に日射を制御することが可能な調光部材を構成する材料としての活用が期待されている。
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に記載されるような従来の温度応答性の高分子分散型液晶は、遮光性能を発揮する(光散乱状態となる)温度を大きく超える環境下に曝された場合や、遮光性能を発揮する温度下に長時間放置された場合において、切り替え機能が失われたり、遮光性能を発揮する環境下に再度配置した場合に光散乱状態を維持できなくなったりするなど、調光部材を形成する材料としては十分に満足のいくものではなかった。また、従来の高分子分散型液晶は、一般に、光重合性モノマーを重合して液晶相および高分子相へ相分離する際に、光拡散板を用いて照射強度分布を不均一にした状態で露光する、いわゆる不均一露光と呼ばれる露光方法により製造されていることが多く、光拡散板を用いない均一露光法に比べて、操作が複雑であり、生産性や製造費用の面における改善の要求も存在する。
【0007】
そこで、本発明は、遮光性能を発揮する温度を超える環境下に曝された場合や、遮光性能を発揮する温度下に長時間放置された場合においても、光透過性の切換機能を維持することができ、継続的に高い遮光性能を発揮し得る温度応答性調光素子の製造に好適な液晶組成物であって、光拡散板を用いる必要がなく、容易にかつ生産性よく温度応答性調光素子を作製し得る液晶組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、以下の好適な態様を包含する。
[1]液晶化合物(A)、シアノフェニル基を有する重合性液晶化合物(B)、および、2個以上の重合性基を有する重合性化合物(C)を含み、
前記液晶化合物(A)のネマチック相から等方相への相転移温度(TNI)が20~120℃の範囲にある、液晶組成物。
[2]液晶化合物(A)の分子量は200~1000である、前記[1]に記載の液晶組成物。
[3]液晶化合物(A)の含有量は、液晶化合物(A)、重合性液晶化合物(B)および重合性化合物(C)の総量を基準に45~90質量%である、前記[1]または[2]に記載の液晶組成物。
[4]重合性化合物(C)の含有量は、液晶化合物(A)、重合性液晶化合物(B)および重合性化合物(C)の総量を基準に0.05~5質量%である、前記[1]~[3]のいずれかに記載の液晶組成物。
[5]重合性液晶化合物(B)が有するシアノフェニル基はシアノフェニルエステル基またはシアノビフェニル基である、前記[1]~[4]のいずれかに記載の液晶組成物。
[6]重合性液晶化合物(B)は、炭素数1~12のアルキレン基または炭素数1~12のオキシアルキレンエーテル基、および少なくとも1つの重合性基を有する、前記[1]~[5]のいずれかに記載の液晶組成物。
[7]重合性液晶化合物(B)が有する少なくとも1つの重合性基は、アクリロイル基、メタクリロイル基、エポキシ基およびビニル基からなる群から選択される少なくとも1種である、前記[6]に記載の液晶組成物。
[8]重合性化合物(C)は、2個以上の重合性基を有する、前記重合性液晶化合物(B)とは異なる重合性液晶化合物(C1)である、前記[1]~[7]のいずれかに記載の液晶組成物。
[9]光ラジカル重合開始剤をさらに含む、前記[1]~[8]のいずれかに記載の液晶組成物。
[10]液晶化合物(A)、および、シアノフェニル基を有する重合性液晶化合物(B)と2個以上の重合性基を有する重合性化合物(C)との重合体を含んでなる層と、
前記層の両側に配置された一対の基材と、
を備え、
前記液晶化合物(A)のネマチック相から等方相への相転移温度(TNI)が20~120℃の範囲にある温度応答性調光素子。
[11]前記一対の基材の少なくとも1つは配向膜付基材である、前記[10]に記載の温度応答性調光素子。
[12]20℃における可視直進透過率が60%以上である、前記[10]または[11]に記載の温度応答性調光素子。
[13]20℃と50℃におけるそれぞれの可視直進透過率の差が60%以上である、前記[10]~[12]のいずれかに記載の温度応答性調光素子。
[14]前記[10]~[13]のいずれかに記載の温度応答性調光素子を含むフィルム。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、遮光性能を発揮する温度を超える環境下に曝された場合や、遮光性能を発揮する温度下に長時間放置された場合においても、光透過性の切換機能を維持することができ、継続的に高い遮光性能を発揮し得る温度応答性調光素子の製造に好適な液晶組成物を提供することができる。また、本発明の液晶組成物を用いることにより、製造費用を抑えるとともに、生産性よく温度応答性調光素子を作製することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<液晶組成物>
本発明の液晶組成物は、液晶化合物(A)を含む。前記液晶化合物(A)は、液晶-等方相転移により光学異方-等方性変化を示す液晶化合物であり、液晶相として少なくともネマチック相を示す化合物である。ここで、本発明において「ネマチック相」とは、棒状の液晶分子が層構造を持たず、一次元に配向して構成される液晶相を意味し、液晶層が螺旋状に重なるようにして構成され、「キラルネマチック相」ともいわれるコレステリック相とは区別される。液晶化合物(A)が、液晶(ネマチック相)-等方相転移により光学異方-等方性変化を可逆的に繰り返し得る化合物であることによって、該液晶化合物を含む高分子分散型液晶に光透過性の切換機能を付与することができる。また、液晶相としてネマチック相を示す化合物であることにより、液体に近い流動性を有する液晶相を形成することができる。このような液晶相においては液晶化合物が動きやすくなり、応答速度が速くなる傾向にあることから温度応答性の高分子分散型液晶の製造に適した液晶組成物を得ることができる。
【0011】
液晶化合物(A)は、ネマチック相から等方相への相転移温度が20~120℃の範囲にある化合物である。ネマチック相から等方相への相転移温度が20℃以上であると、該液晶化合物を含む液晶組成物から得られる高分子分散型液晶において、20℃未満の温度での光透過率が上昇し、室温以下などの比較的低い温度域で高い光透過率を確保できる。また、ネマチック相から等方相への相転移温度が120℃以下であると、高分子分散型液晶において遮光性能を発揮し得る温度が高くなり過ぎず、一般に、生活環境下での使用が期待される調光部材などを構成する温度応答性の高分子分散型液晶に用いる材料として好適である。
【0012】
本発明において、液晶化合物(A)のネマチック相から等方相への相転移温度の下限は、20℃以上であり、好ましくは25℃以上、より好ましくは30℃以上である。また、ネマチック相から等方相への相転移温度の上限は、120℃以下であり、好ましくは100℃以下、より好ましくは90℃以下、さらに好ましくは80℃以下、特に好ましくは70℃以下である。これらの上限と下限は任意の組合せであってもよい。また、通常、等方相からネマチック相への相転移温度も上記範囲にある。したがって、以下、本明細書において「ネマチック相-等方相転移温度」と記載する場合、ネマチック相から等方相への相転移温度および等方相からネマチック相への相転移温度の両方を含む。ネマチック相-等方相転移温度が上記の上限と下限との範囲内であると、温度応答性の高分子分散型液晶の材料として好適であり、例えば、温度応答性調光素子として窓部材等に用いた場合に、冬場等の一般に室内へ太陽光を取り入れることが好まれる環境下においては高い透過率を有し、夏場等の一般に太陽光を遮断することが好まれる環境下においては高い遮光率を有する高分子分散型液晶を作製できる。
なお、ネマチック相-等方相転移温度(TNI)は、例えば、温度調節ステージを備えた偏光顕微鏡および示差走査熱量計(DSC)を用いて測定することができる。
【0013】
液晶化合物(A)の複屈折率(Δn=n-n)は、好ましくは0.06~0.29、より好ましくは0.1~0.29、さらに好ましくは0.15~0.29の範囲である。液晶化合物(A)の複屈折率(Δn=n-n)が上記範囲内である場合には、低温時と高温時の光透過率の差が大きくなる傾向にあり、高い遮光性を確保しやすい。複屈折率(Δn=n-n)は、例えば複屈折率測定装置を用いて、測定および算出することができる。
【0014】
温度応答性の高分子分散型液晶の材料として好適に用い得るため、液晶化合物(A)の分子量は、好ましくは200~1000であり、より好ましくは200~800であり、さらに好ましくは200~600である。
【0015】
本発明において、液晶化合物(A)としては、20~120℃の範囲でネマチック相から等方相へ相転移する液晶化合物であれば特に限定されるものではなく、公知の液晶化合物を用いることができる。ネマチック相-等方相転移温度が上記特定の温度範囲内にあり、室温付近で光透過性の切換機能を発揮しやすいことから、液晶化合物(A)としては、シアノビフェニル系液晶化合物が好ましく、分子量が200~1000であるシアノビフェニル系液晶化合物がより好ましい。
【0016】
本発明において好適なシアノビフェニル系液晶化合物として、具体的には、式(1):
【化1】
[式(1)中、Rは炭素数1~9のアルキル基を表す]
で表される4-シアノ-4’-アルキルビフェニル、および
式(2):
【化2】
[式(2)中、Rは炭素数1~9のアルキル基を表す]
で表される4-シアノ-4’-アルキルオキシビフェニル等が挙げられる。ネマチック相を示す液晶分子となりやすいことから、液晶化合物(A)はキラル中心を有しないシアノビフェニル系液晶化合物であることが好ましく、上記式(1)および(2)中、Rが炭素数1~9の直鎖アルキル基であるシアノビフェニル系液晶化合物がより好ましい。中でも、室温付近(25℃~45℃)に液晶-等方相転移温度を有する観点から、4-シアノ-4’-アルキルビフェニルが好ましく、4-シアノ-4’-ペンチルビフェニル(5CB)、4-シアノ-4’-ヘキシルビフェニル(6CB)および4-シアノ-4’-ヘプチルビフェニル(7CB)が特に好ましい。
【0017】
液晶化合物(A)として、市販の液晶化合物を用いてもよい。代表的な市販品の例としては、K18(4-シアノ-4’-ヘキシルビフェニル、TNI=29℃、メルク社製)、K15(4-シアノ-4’-ペンチルビフェニル、TNI=35℃、メルク社製)等が挙げられる。
【0018】
液晶化合物(A)は、所望する光透過率や光学異方-等方性変化の切換温度に応じて、1種のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。液晶化合物(A)として2種以上を組み合わせて用いる場合、上記ネマチック相-等方相転移温度は、液晶組成物を構成する全ての液晶化合物(A)を液晶組成物における組成と同じ比率で混合した液晶化合物の混合物を用いて、1種の液晶化合物を用いる場合と同様にして測定される温度を意味する。
【0019】
本発明の液晶組成物は、上記液晶化合物(A)と共に、シアノフェニル基を有する重合性液晶化合物(B)を含む。上述の液晶化合物(A)と分子構造が近似する重合性液晶化合物(B)を用いることにより、高分子分散型液晶を形成した場合に、低温および高温での光透過率の差並びに低温での光透過率が向上しやすくなるため、重合性液晶化合物(B)は液晶化合物(A)が有する構造単位の少なくとも1つと同一の構造単位を有することが好ましい。
【0020】
重合性液晶化合物(B)は、シアノフェニル基を有するものであれば特に限定されるものではなく、公知の重合性液晶化合物を用いることができる。重合性液晶化合物(B)におけるシアノフェニル基としては、シアノフェニルエステル基、シアノビフェニル基等が挙げられ、シアノフェニルエステル基およびシアノビフェニル基が好ましい。
【0021】
重合性液晶化合物(B)の複屈折率(Δn=n-n)は、好ましくは0.06~0.29、より好ましくは0.1~0.29、さらに好ましくは0.15~0.29であり、液晶化合物(A)の複屈折率(Δn=n-n)との差が小さくなるように選択されることが望ましい。重合性液晶化合物(B)と液晶化合物(A)の複屈折率(Δn=n-n)の差は好ましくは0.01~0.2、より好ましくは0.01~0.1、さらに好ましくは0.01~0.05である。また、重合性液晶化合物(B)と液晶化合物(A)の屈折率nおよびnのそれぞれの差が小さくなるように重合性液晶化合物(B)を選択することにより、低温および高温での光透過率の差が大きく、低温で高い光透過率を有する高分子分散型液晶を得ることができる。
【0022】
上記複屈折率が好適な範囲となりやすいため、重合性液晶化合物(B)としては、炭素数1~12のアルキレン基または炭素数1~12のオキシアルキレンエーテル基、および少なくとも1つの重合性基を有する重合性液晶化合物(以下、「重合性液晶化合物(B1)」ともいう)が好ましい。
【0023】
配向性向上の観点から、重合性液晶化合物(B)が棒状構造となることが好ましく、炭素数1~12のアルキレン基および炭素数1~12のオキシアルキレンエーテル基は直鎖状であることが好ましく、炭素数3~8のアルキレン基または炭素数3~8のオキシアルキレンエーテル基がより好ましい。
【0024】
比較的低温条件下で重合できる点で有利であり得るため、重合性基としては、光重合性基が好ましい。ここで、光重合性基とは、光重合開始剤から発生した活性ラジカルや酸等によって重合反応に関与し得る基をいう。光重合性基としては、例えば、アクリロイル基、メタクリロイル基、エポキシ基、およびビニル基からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、アクリロイル基またはメタクリロイル基がより好ましい。
【0025】
炭素数1~12のアルキレン基または炭素数1~12のオキシアルキレンエーテル基、および少なくとも1つの重合性基を有する重合性液晶化合物(B1)としては、具体的に、式(3):
【化3】
および、
式(4):
【化4】
[式(3)および(4)中、Pは重合性基、Rは炭素数1~12のアルキレン基またはオキシアルキレン基、およびnは1~12の整数を表すが、構造:-[R-O]n-中の全炭素数は1~12である]
で表される化合物が挙げられる。
【0026】
式(3)で表される重合性液晶化合物の具体例としては、式(5):
【化5】
で示される6-{[4’-シアノ-(1,1’-ビフェニル)-4-イル]オキシ}ヘキシルアクリレート(CAS番号89823-23-4)が挙げられる。
【0027】
一般式(4)で表される重合性液晶化合物の具体例としては、式(6):
【化6】
で示される4-(6-アクリロイルオキシヘキシルオキシ)安息香酸4-シアノフェニル(CAS番号83847-14-7)等が挙げられる。
【0028】
重合性液晶化合物(B)は、公知の製造方法、例えば「Macromolecules」、第26巻、第6132~6134頁、1993年に記載の方法、「Makromol.Chem.」、第183巻、第2311~2321頁、1982年に記載の方法等により製造してもよいし、市販の重合性液晶化合物を用いてもよい。
【0029】
重合性液晶化合物(B)は、用いる液晶化合物(A)の種類や所望する光透過率に応じて、1種のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
本発明の液晶組成物は、2個以上の重合性基を有する重合性化合物(C)(但し、重合性液晶化合物(B)とは異なる)を含む。本発明の液晶組成物から形成される高分子分散型液晶において、2個以上の重合性基を有する重合性化合物(C)は架橋剤として機能する。
先に記載した特許文献1に記載されるような従来の温度応答性高分子分散型液晶は、遮光性能を発揮する温度を超える環境下、例えば、遮光性能を発揮する上限温度より10~20℃程度高温下に曝された場合や、長時間(例えば、1時間以上程度)遮光性能を発揮する温度下に放置された場合において、重合性液晶化合物により形成された高分子構造が崩壊されやすい。このような構造崩壊が一旦生じると光透過性の切換機能が低下したり、遮光性能自体が低下したり消失したりするため、継続的に高い遮光性能を発揮することが困難となる。本発明の液晶組成物は、重合性化合物(C)を含むことにより、重合性液晶化合物(B)から形成されるポリマー主鎖を固定化し、高分子構造を強固にし得るため、高分子分散型液晶を形成した場合にその耐熱性を向上させることができる。これにより、遮光性能を発揮する温度を大きく超える環境下に曝された場合や、長時間遮光性能を発揮する温度下に放置された後であっても、良好な光透過性切換性能を維持し、高い遮光性能を維持し得る温度応答性調光素子を作製することができる。
【0031】
重合性化合物(C)は2個以上の重合性基を有する化合物である。重合性化合物(C)が有する重合性基は、光重合性基であることが好ましく、例えば、アクリロイル基、メタクリロイル基、エポキシ基、ビニル基、ビニルオキシ基等が挙げられ、アクリロイル基、メタクリロイル基、エポキシ基およびビニル基からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、アクリロイル基またはメタクリロイル基がより好ましい。また、反応性の観点から、重合性化合物(C)が重合性液晶化合物(B)の重合性基と同じ重合性基を有することが好ましく、重合性化合物(C)が有する全ての重合性基が重合性液晶化合物(B)の重合性基と同一であることがより好ましい。
【0032】
重合性化合物(C)における重合性基の数は2個以上であり、通常、4個以下であり、好ましくは2個または3個、より好ましくは2個である。重合性化合物(C)が有する2個以上の重合性基は同一であっても異なっていてもよい。
【0033】
重合性化合物(C)としては、2個以上の重合性基を有し、重合性液晶化合物(B)と架橋構造を形成し得るものであればよく、非液晶性の重合性化合物であっても、重合性液晶化合物であってもよく、これらを組み合わせて用いてもよい。
【0034】
非液晶性の重合性化合物(C)としては、例えば、直鎖または分枝のアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート、アルキレングリコールトリ(メタ)アクリレート、アルキレングリコールテトラ(メタ)アクリレート、アルキレングリコールペンタ(メタ)アクリレート、アルキレングリコールヘキサ(メタ)アクリレート等の脂肪族系多官能(メタ)アクリレート;脂環式、芳香環または複素環等の環状構造含有ジ(メタ)アクリレート、トリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。具体的には、脂肪族系多官能(メタ)アクリレートとして、例えば、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートなど、環状構造含有ジ(メタ)アクリレートとして、例えば、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールFジ(メタ)アクリレートなどを用いることができる。
中でも直鎖または分枝のアルキレングリコールジ(メタ)アクリレートおよびアルキレングリコールトリ(メタ)アクリレート、脂環式または芳香族系環状構造含有ジ(メタ)アクリレートが好ましく、脂環式または芳香族系環状構造含有ジ(メタ)アクリレートがより好ましい。特に、上記化合物の分子量が200~800程度であることが好ましい。
なお、本明細書において「(メタ)アクリレート」は、アクリレートおよびメタクリレートの双方またはいずれかを表す。
【0035】
重合性化合物(C)が、重合性液晶化合物(B)と分子構造上近似している場合、重合性液晶化合物(B)と重合性化合物(C)との混和性が良好となり、高分子分散型液晶における遮光性能をより向上させることができるため、重合性化合物(C)は、2個以上の重合性基を有する、重合性液晶化合物(B)とは異なる重合性液晶化合物(以下、「重合性液晶化合物(C1)」ともいう)であることが好ましい。液晶組成物が、重合性液晶化合物(C1)を含むことにより、得られる高分子分散型液晶が遮光性能を発揮する温度を大きく超える環境下に曝された場合や、長時間遮光性能を発揮する温度下に放置された後においても、光透過性切換性能を継続的に維持し得ることに加えて、遮光性能を発揮する温度範囲における高い遮光性も維持することができる。
【0036】
重合性液晶化合物(B)と分子構造が近くなり、重合性液晶化合物(B)との混和性が良好となるため、重合性液晶化合物(C1)は、芳香環構造を含むことが好ましく、芳香環構造とカルボニル基および/またはエーテル基とを含むことがより好ましい。
重合性液晶化合物(C1)としては、例えば、4-[3-[(1-オキソ-2-プロペン-1-イル)オキシ]プロポキシ]安息香酸1,1’-(2-メチル-1,4-フェニレン)、4-[[6-[(1-オキソ-2-プロペン-1-イル)オキシ]へキシル]オキシ]安息香酸1,1’-(2-メチル-1,4-フェニレン)、2-メチル-1,4-フェニレンビス(4-(((4-(アクリロイルオキシ)ブトキシ)カルボニル)オキシ)ベンゾエート、2-メチル-1,4-フェニレンビス(4-(((4-アクリロイルオキシ)ブトキシ)カルボニル)オキシ)ベンゾエート)が挙げられる。
【0037】
中でも、重合性液晶化合物(C1)として、下記式(7):
【化7】
[式(7)中、nは3~6の整数である]
で表される化合物、および、式(8):
【化8】
[式(8)中、nは3~6の整数である]
で表される化合物が好ましい。
【0038】
上記式(7)で表される化合物としては、具体的に下記化合物が挙げられる。
【化9】
【化10】
【0039】
上記式(8)で表される化合物としては、具体的に下記化合物が挙げられる。
【化11】
【0040】
また、重合性化合物(C)として下記化合物も好適である。
【化12】
【0041】
重合性化合物(C)は、用いる液晶化合物(A)や重合性液晶化合物(B)の種類や所望する光透過率等に応じて、1種のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0042】
本発明において、液晶組成物を構成する重合性液晶化合物(B)と重合性化合物(C)とが近似する分子構造を有することが好ましく、液晶化合物(A)と重合性液晶化合物(B)と重合性化合物(C)とが近似する分子構造を有することがより好ましい。ここで、「近似する分子構造を有する」とは、一分子内に同一の構造単位を有することをいう。
【0043】
本発明において、液晶組成物中の液晶化合物(A)の含有量は、液晶化合物(A)、重合性液晶化合物(B)および重合性化合物(C)の総量を基準に、好ましくは45~90質量%である。液晶化合物(A)の含有量が上記範囲にあると、耐熱性を向上させることができ、温度応答性調光素子を形成した際に良好な調光性能を発揮することができる。また、均一な調光素子を得やすくなる。本発明において、液晶化合物(A)の含有量は、好ましくは45質量%以上、より好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは55質量%以上、特に好ましくは60質量%以上であり、さらに特に好ましくは65質量%以上であり、また、好ましくは90質量%以下、より好ましくは85質量%以下、さらに好ましくは80質量%以下、特に好ましくは75質量%以下であり、これらの上限と下限の任意の組合せであってもよい。
【0044】
本発明において、液晶組成物中の重合性液晶化合物(B)の含有量は、液晶化合物(A)、重合性液晶化合物(B)および重合性化合物(C)の総量を基準に、好ましくは9.95~54.95質量%である。重合性液晶化合物(B)の含有量が上記範囲にあると、耐熱性を向上させることができ、温度応答性調光素子を形成した際に良好な調光性能を発揮することができる。また、均一な調光素子を得やすくなる。本発明において、重合性液晶化合物(B)の含有量は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、さらに好ましくは25質量%以上であり、また、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下、さらに好ましくは35質量%以下であり、これらの上限と下限の任意の組合せであってもよい。
【0045】
本発明において、液晶組成物中の重合性化合物(C)の含有量は、液晶化合物(A)、重合性液晶化合物(B)および重合性化合物(C)の総量を基準に、好ましくは0.05~5質量%である。重合性化合物(C)の含有量が上記範囲にあると、耐熱性を向上させることができ、温度応答性調光素子を形成した際に良好な調光性能を発揮することができる。また、均一な調光素子を得やすくなる。本発明において、重合性化合物(C)の含有量は、好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上であり、また、好ましくは5質量%以下、より好ましくは2.5質量%以下、さらに好ましくは2質量%以下、特に好ましくは1.5質量%以下であり、これらの上限と下限の任意の組合せであってもよい。
【0046】
本発明の液晶組成物は、光透過率の調節等を目的として、必要に応じて、重合性液晶化合物(B)および重合性化合物(C)とは異なった重合性化合物(以下、他の重合性化合物とも称する)をさらに含むことができる。他の重合性化合物の例としては、1つの重合性基を有し、かつ、シアノフェニル基を有さない重合性液晶化合物、アクリロイル基、メタクリロイル基、エポキシ基またはビニル基のような重合性官能基を1つ有する非液晶化合物などが挙げられる。液晶化合物が、他の重合性化合物を含む場合その含有量は、液晶化合物(A)、重合性液晶化合物(B)および重合性化合物(C)の総量を基準に、好ましくは0.1~20質量%であり、より好ましくは0.1~10質量%である。
【0047】
本発明の液晶組成物は、必要に応じて光ラジカル重合開始剤、増感剤、界面活性剤、フィラーを本発明の目的が達成される範囲内の量で含むことができる。
【0048】
光ラジカル重合開始剤としては、例えばN-フェニルグリシン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン等が挙げられる。光ラジカル重合開始剤の代表的市販品としては、例えばBASFジャパン(株)からのダロキュアー1173(2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン)、IRGACURE651(2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン)、IRGACURE184(1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン)、IRGACURE127、IRGACURE500(IRGACURE184とベンゾフェノンの混合物)、IRGACUR2959、IRGACURE907、IRGACURE369、IRGACURE379、IRGACURE754、IRGACURE1300、IRGACURE819、IRGACURE1700、IRGACURE1800、IRGACURE1850、IRGACURE1870、ダロキュアー4265、ダロキュアーMBF、ダロキュアーTPO、IRGACURE784、IRGACURE、IRGACUREOXE01、IRGACUREOXE02等、および(株)ADEKAからのアデカオプトマーN-1919、アデカアークルズNCI-831およびアデカアークルズNCI-930等が挙げられる。ダロキュアーおよびIRGACUREはいずれもBASFジャパン(株)の登録商標である。アデカオプトマーおよびアデカアークルズはいずれも(株)ADEKAの登録商標である。液晶組成物が光ラジカル重合開始剤を含有する場合、液晶組成物中の光ラジカル重合開始剤の含有量は、重合性液晶化合物および重合性化合物の総質量に対して例えば1質量%以下である。
【0049】
増感剤としては、ジブロモフルオレセイン、ローズベンガル、ローダミン6G、3,3’-カルボニルビス(7-ジエチルアミノクマリン)等が挙げられる。液晶組成物が増感剤を含有する場合、液晶組成物中の増感剤の含有量は、重合性液晶化合物および重合性化合物の総質量に対して例えば1質量%以下である。
【0050】
界面活性剤としては、例えばシリコーン系界面活性剤およびフッ素系界面活性剤等が挙げられる。
【0051】
フィラーとしては、有機フィラーおよび無機フィラーが挙げられる。
【0052】
また、本発明の液晶組成物は、必要に応じて、重合禁止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定化剤、レベリング剤、着色剤等の添加剤を、本発明の目的が達成される範囲内の量であれば添加することができる。
【0053】
本発明の液晶組成物は、液晶化合物(A)、重合性液晶化合物(B)および重合性化合物(C)を、場合により他の重合性液晶化合物および/または添加剤等と共に混合することにより製造することができる。混合は、加熱および/または撹拌しながら行うことにより均一な溶液が得られるため好ましい。加熱温度は、液晶組成物の組成、液晶化合物(A)、重合性液晶化合物(B)および重合性化合物(C)の種類等に応じて適宜設定することができるが、例えば30~100℃の温度範囲で設定することができる。
【0054】
本発明の液晶組成物は、常温で固体状、液体状またはこれらが混合した状態であってよく、成分の一部が液体状または固体状であってよい。液晶組成物は、好ましく室温~100℃の範囲、より好ましくは室温~80℃の範囲で各成分が均一に溶解した液体状である。
【0055】
本発明の液晶組成物は耐熱性に優れるため、高分子分散型液晶の形成に好適である。本発明の液晶組成物を用いることにより、継続的に光透過状態と光散乱状態とを切換可能であり、高い遮光性能を発揮し得る高分子分散型液晶を作製することができることから、本発明の液晶組成物は温度応答性調光素子の製造に好適である。本発明において液晶組成物の耐熱性は、例えば、該液晶組成物から作製された高分子分散型液晶において、遮光性能を発揮する温度から10℃高温の温度下に3時間放置した際に該温度下に放置する前の遮光性能を維持することができるか、および、遮光性能を発揮する温度から10℃高温の温度での加熱と前記遮光性能を発揮する温度未満への冷却を3往復繰り返した際に遮光性能の切換機能を維持することができるかを指標として評価される。なお、これらの評価方法についての詳細は、後述の実施例に記載する。
【0056】
<温度応答性調光素子>
本発明の温度応答性調光素子は、上述の本発明の液晶組成物から構成される層(以下、液晶組成物層ともいう)および一対の基材を含み、液晶組成物から構成される層は前記一対の基材間に存在する。液晶組成物層は、液晶化合物(A)と、重合性液晶化合物(B)および重合性化合物(C)の重合物である液晶ポリマーとを含む層である。言い換えれば、本発明の温度応答性調光素子は、液晶化合物(A)と、シアノフェニル基を有する重合性液晶化合物(B)および重合化合物(C)が重合された重合体とを含有する層(液晶組成物層)、および前記層の両側に配された一対の基材を備えてなる温度応答性調光素子である。
【0057】
液晶組成物層では、液晶組成物に含まれる液晶化合物(A)と重合性液晶化合物(B)および重合性化合物(C)の重合物である液晶ポリマーとが相分離することにより、液晶化合物(A)が液晶滴として液晶ポリマー中に分散して液晶相と高分子相とが形成されている。
【0058】
液晶滴の形状は通常、楕円球状であり、その長軸の長さは、例えば10nm~50μmが好ましく、50nm~20μmがより好ましく、50nm~10μmがさらに好ましい。液晶滴の大きさが上記範囲内である場合、高温時に効果的に光散乱し易くなる傾向がある。液晶滴の大きさは、液晶組成物に含まれる液晶化合物および重合性液晶化合物の種類および量、後述する温度応答性調光素子の製造方法において液晶組成物を注入および/または冷却する温度、重合時の温度等を適宜変更することにより調節することができる。液晶滴の形状や大きさは液晶組成物層を走査型電子顕微鏡等で観察することにより、測定することができる。
【0059】
液晶滴中の液晶化合物(A)の分子は、ネマチック相-等方相転移温度未満の温度では、重合した重合性液晶化合物(B)の分子、すなわち液晶ポリマーの配向方向と同じ方向に長軸が伸びるように配向されている。一方、ネマチック相-等方相転移温度を超える温度では、重合した重合性液晶化合物(B)の分子、すなわち液晶ポリマーの配向方向と異なる方向に長軸が伸びるように配向されている。このため、液晶化合物(A)のネマチック相-等方相転移温度未満の温度では光透過状態に、ネマチック相-等方相転移温度を超える温度では光散乱状態に可逆的に変化する。
【0060】
基材は、液晶組成物を重合するのに必要な光を透過するものであれば特に限定されず、例えばガラス基板やプラスチックフィルム等を用いることができる。プラスチックフィルムとしては、透明な樹脂フィルムが好ましく、無色であっても有色であってもよい。樹脂フィルムに用い得る樹脂としては、例えばポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂等が挙げられる。これらの樹脂は、必要に応じて2種以上を組合せて用いることもできる。また、基材は、後述する配向膜付基材であってよい。
【0061】
一対の基材のうち少なくとも1つは配向膜付基材であることが好ましい。基材の液晶組成物層側の表面に配向処理が施されていると、液晶化合物(A)のネマチック相-等方相転移温度未満の温度において液晶化合物および液晶ポリマーの相を特定の方向に配向させやすくなる。例えば、一対の配向膜付基材の間に液晶組成物を注入した場合、液晶滴中の液晶化合物(A)と重合性液晶化合物(B)、および存在する場合に重合性液晶化合物(C1)は、分子配列方向が制御された状態で、光重合、相分離され、液晶化合物および液晶ポリマーの相が特定の方向に配向されることとなる。
【0062】
液晶化合物(A)は、ネマチック相-等方相転移温度未満の温度においてネマチック状態で特定方向への配向秩序を高く維持することができ、高い光透過率を得られるため、一対の基材を構成する両方の基材が配向膜付基材であることが好ましく、該配向膜が液晶組成物層側になるよう配置することが好ましい。
【0063】
配向処理としては、例えば基材表面に配向膜を設ける方法等が挙げられる。具体的な配向処理としては、例えば、配向膜形成用の組成物(溶液)を塗布した基材に対して、ナイロンなどの布を巻いたローラーを一定圧力で押し込みながら回転させることによって、配向膜表面を一定方向に擦る(ラビングする)ことで基材表面に配向膜を設ける処理が挙げられる。配向膜の種類としては特に限定されず、例えばポリイミド膜等が挙げられる。配向方向としては、基材表面に対し平行かつ特定の方向であってよく、または基材表面に対し垂直方向であってよい。
【0064】
一対の基材間は、所定の間隔でのギャップを有しており、その間隔は、例えば1~500μmの範囲であってよく、3~100μmの範囲が好ましく、5~50μmの範囲がより好ましい。基材間の距離が上記範囲内である場合には、所望の光散乱特性が得られ易い傾向にある。
【0065】
本発明の温度応答性調光素子は、20℃における可視直進透過率(Tlum)が好ましくは60%以上、より好ましくは65%以上、さらに好ましくは70%以上、特に好ましくは75%以上、より特に好ましくは79.5%以上、さらに特に好ましくは80%以上、極めて特に好ましくは85%以上である。20℃における可視直進透過率が上記下限以上であると、通常、室温付近などの生活環境温度下で高い光透過性を求められる窓ガラス用の調光部材として好適に用いることができる。20℃における可視直進透過率の上限は特に限定されるものではなく、理想的には100%である。
可視直進透過率(Tlum)は、例えば、後述する実施例において説明する測定方法に従って求められる。可視直進透過率(Tlum)はヘイズ(白濁度)の指標となり、可視直進透過率(Tlum)の増加(減少)は、ヘイズの減少(増加)に相当する。
【0066】
本発明の温度応答性調光素子は、これを構成する液晶化合物(A)のネマチック相-等方相転移温度より高温状態での可視直進透過率(以下、「高温時可視直進透過率」ともいう)が、ネマチック相-等方相転移温度より低温状態での可視直進透過率(以下、「低温時可視直進透過率」ともいう)より低ければよい。ここで、本発明において、「液晶化合物(A)のネマチック相-等方相転移温度より高温状態」とは、液晶化合物(A)のネマチック相-等方相転移温度より10℃以上高い温度下にある状態を意味し、「液晶化合物(A)のネマチック相-等方相転移温度より低温状態」とは、液晶化合物(A)のネマチック相-等方相転移温度より10℃以上低い温度下にある状態を意味する。本発明の温度応答性調光素子において、高温時可視直進透過率は低温時可視直進透過率の好ましくは65%未満、より好ましくは50%以下、さらに好ましくは35%以下、特に好ましくは15%以下、より特に好ましくは10%以下である。なお、高温時および低温時の各可視直進透過率は、それぞれ、液晶化合物(A)のネマチック相-等方相転移温度より10℃以上高い特定の温度(好ましくは10℃高い温度)、または、10℃以上低い特定の温度(好ましくは10℃低い温度)で測定、算出することができる。
【0067】
本発明の温度応答性調光素子において、高温時可視直進透過率と低温時可視直進透過率との差は、好ましくは10%以上、より好ましくは15%以上、さらに好ましくは30%以上、特に好ましくは45%以上、より特に好ましくは60%以上、さらに特に好ましくは70%以上である。
【0068】
低温時可視直進透過率および高温時可視直進透過率はそれぞれ、液晶組成物に含まれる液晶化合物および重合性液晶化合物の種類および量、後述する温度応答性調光素子の製造方法において液晶組成物を注入および/または冷却する温度、重合時の温度等を適宜変更することにより調節することができる。
【0069】
温度応答性調光素子の形態としては、特に制限されず、温度応答性調光素子の基材の種類、製造方法、用途、保管および輸送方式等に応じてフィルム状やシート状であってよく、ロール状に巻き取られた形態や、所望の寸法に形成または断裁された形態等であってもよい。
【0070】
本発明において、温度応答性調光素子は、例えば1)一対の基材間に液晶組成物を配置する工程、および2)液晶組成物を硬化する工程、を含む方法により製造することができる。特に、本発明の液晶組成物は、光拡散板を用いることなく液晶化合物を液晶ポリマー中に分散するように硬化させることができるため、上記工程2)における液晶組成物の硬化を、光拡散板を用いない、いわゆる均一露光といわれる露光方法により実施することが好ましい。これにより、容易にかつ生産性よく温度応答性調光素子を製造することができる。
【0071】
一対の基材間に液晶組成物を配置する方法としては、少なくとも一方の基材の表面に液晶組成物をコーティングした基材を貼合わせることにより液晶組成物を2つの基材間に挟み込む方法、所定の間隔でギャップを設けた基材間に液晶組成物を注入する方法等が挙げられる。
【0072】
一対の基材を所定の間隔のギャップで維持することを目的として、少なくとも一方の基材の表面に所定の高さを有するスペーサーを配置することができる。スペーサーとしては、公知のものを用いることができ、球状、棒状または柱状の樹脂スペーサーや球状シリカ等が挙げられる。球状樹脂スペーサーや球状シリカは、基材を貼合わせるための接着剤や封止剤中に、あるいは液晶組成物中に含有させて用いてよく、または基材表面に湿式または環式散布装置を用いて散布してよい。棒状樹脂スペーサーは、基材表面に接着剤等により接着して用いることができる。柱状樹脂スペーサーは、光硬化型樹脂組成物を公知のフォトリソグラフィ技術により基材表面に形成するものであってよい。スペーサーの高さは、所望とする基材間のギャップに応じて適宜選択することができ、通常、数nm~数百μmである。また、一定のギャップを有する市販のセル〔例えばKSRP-25/B507P7NSS(ギャップ間隔25μm)〕を用いることもできる。
【0073】
液晶組成物を基材にコーティングする方法としては、例えばロールコーティング、ディップコーティング、スプレーコーティング、スロットコーティング、ダイコーティング、スピンコーティング、滴下法等が挙げられる。液晶組成物が溶剤を含む場合、コーティング後、液晶組成物の塗膜中に残存する溶剤を除去するために減圧および/または加熱することができる。
【0074】
液晶組成物を注入する方法としては、公知の液晶注入法、例えば真空差圧を利用した方法等を用いることができる。
【0075】
液晶組成物のコーティングまたは注入は、液晶組成物を所定の温度に加熱しながら行うことができる。加熱温度は、液晶組成物がコーティングまたは注入することができるように十分な流動状態であり、および各成分が均一に溶解する温度であればよく、例えば30℃~100℃の範囲の温度であってよい。液晶組成物が十分に流動することができる状態であれば、液晶化合物(A)および重合性液晶化合物(B)、並びに存在する場合重合性液晶化合物(C1)の分子を配向膜に沿って十分に配向させやすく、コーティングムラや注入の際の気泡の発生を抑制しやすい。
【0076】
液晶組成物をコーティングまたは注入した後、液晶組成物が配向する温度まで冷却することにより、液晶化合物(A)および重合性液晶化合物(B)、並びに存在する場合重合性液晶化合物(C1)の分子の配向状態を固定することができる。冷却温度は、液晶組成物が配向する温度以下の温度であればよく、例えば0~40℃等であってよい。
【0077】
基材の貼合わせは、少なくとも一方の基材の表面に接着剤または封止剤を塗布し、基材同士を接着させることにより行うことができる。液晶組成物をコーティングにより配置する場合、接着剤または封止剤を、液晶組成物をコーティングする前に予め基材周囲に塗布しておくことにより、コーティングの際に液晶組成物が基材上からはみ出したり、貼合わせ後に液晶組成物が漏出したりすることを防止することができる。
【0078】
液晶組成物を硬化する工程は、例えば液晶組成物中の重合性液晶化合物(B)および重合性化合物(C)が光重合性である場合には、液晶組成物を配置した一対の基材を露光することにより、液晶組成物中の重合性液晶化合物(B)および重合性化合物(C)を重合することにより行うことができる。
【0079】
露光はレーザー照射または紫外線照射により行うことができる。露光は光拡散板を用いて行ういわゆる不均一露光により行ってもよいが、本発明の液晶組成物は、光拡散板を用いない、いわゆる均一露光といわれる露光方法によっても液晶化合物を液晶ポリマー中に分散するように硬化させることができる。均一露光は、複雑な操作を行わなくとも本発明の温度応答性調光素子を作製し得るため、生産効率や製造費用の点において不均一露光よりも有利である。
【0080】
レーザー照射または紫外線照射を行う温度は、液晶化合物(A)および重合性液晶化合物(B)、並びに存在する場合重合性液晶化合物(C1)の分子の配向状態を乱さない温度であればよく、例えば0~40℃の範囲の温度である。
【0081】
レーザー照射に用いるレーザーには、例えばYAGレーザー、エキシマレーザー、アルゴンレーザー、半導体レーザー等を用いることができる。照射するレーザー波長としては、光重合開始剤の反応域の波長であればよく、例えば波長532nmまたは351nmのレーザーを照射することにより行うことができる。レーザーを照射する時間は、レーザーの種類、液晶組成物の組成等に応じて適宜設定することができるが、例えば1秒~1時間の範囲で設定することができ、好ましくは10秒~10分の間である。
【0082】
紫外線照射に用いる光源(ランプ)には、紫外線を発生させるランプ、例えばメタルハライドランプ、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ等を用いることができる。照射する紫外線の波長としては、光重合開始剤の反応域の波長であってよく、例えば365nm中心波長が好ましく、必要に応じて365nm未満の紫外線をカットして使用することがより好ましい。照射する紫外線の強度は、0.1mW/cm~100W/cmが好ましく、2mW/cm~50W/cmがより好ましい。照射する紫外線のエネルギー量は、液晶組成物の組成等に応じて適宜調整することができるが、10mJ/cm~500J/cmが好ましく、100mJ/cm~200J/cmがより好ましい。紫外線を照射する時間は、照射する紫外線強度により適宜選択することができるが、例えば1秒~1時間の範囲で設定することができ、好ましくは10秒~10分の間である。
【0083】
レーザー照射および紫外線照射は組み合わせて行ってもよく、例えばレーザー照射を行った後、紫外線照射をさらに行うことができる。
【0084】
<温度応答性調光素子を含むフィルム>
本発明の温度応答性調光素子を含むフィルムとしては、例えばフィルム基材と温度応答性調光素子を貼り合わせたものや、上述の温度応答性調光素子の基材としてのプラスチックフィルムをフィルム基材としてその表面上に直接、温度応答性調光素子を形成したものなどが挙げられる。フィルム基材は、透明性および柔軟性を有するものが好ましく、温度応答性調光素子の基材として上述した種々の無色または有色透明な樹脂フィルムを用いることができる。
【0085】
フィルム基材と温度応答性調光素子とは、粘着剤層を介して貼り合わせることができる。粘着剤層は、公知の粘着剤または接着剤から構成されてよく、粘着剤または接着剤は感圧型、UV硬化型、熱硬化型等であってよく、透明であるものが好ましい。粘着剤層は、フィルム基材および温度応答性調光素子の少なくとも一方の貼合わせる表面上に形成することができる。形成方法としては、特に制限されず、ロールコーティング、ディップコーティング、スプレーコーティング、スロットコーティング、ダイコーティング、ナイフコーティング、グラビアコーティング等の種々のコーティング法により透明粘着剤または透明接着剤を塗布することにより形成する方法、およびいわゆる両面テープのような透明粘着剤または透明接着剤を添付することにより形成する方法等が挙げられる。
【0086】
本発明のフィルムの製造方法としては、ロール状に巻き取られたフィルム基材と温度応答性調光素子を、粘着剤層を設けながらロールツーロール形式で貼合わせる方法、および、所望の寸法に形成または断裁されたフィルム基材と温度応答性調光素子の少なくとも一方に、粘着剤層を設けた後、貼り合わせる方法等が挙げられる。
【0087】
本発明のフィルムは、例えば、窓ガラス等の被着体と貼合わせるためにフィルムの少なくとも一方の表面にさらなる粘着剤層を有していてよい。さらなる粘着剤層は、上述の透明粘着剤または透明接着剤から構成されてよい。さらなる粘着剤層は、その表面にプラスチックフィルム等からなる剥離層を有していてよく、本発明のフィルムと被着体とを貼合わせる際に剥離して、さらなる粘着剤層を露出させて被着体と貼合わせることができる。
【0088】
本発明のフィルムは、温度応答性調光機能を付与するために調光窓ガラス等に好適に用いることができる。また、センサー等においても用いることができる。
【0089】
以下、実施例により、本発明についてさらに詳しく説明する。
【実施例
【0090】
実施例および比較例の液晶組成物を構成する成分として、以下の化合物を用いた。
【0091】
<液晶化合物(A)>
[6-CB]
4-シアノ-4’-ヘキシルビフェニル、東京化成工業株式会社製、ネマチック相-等方相転移温度(TNI)=30℃、複屈折率(Δn=n-n)=0.15、分子量=263
[7-CB]
4-シアノ-4’-ヘプチルビフェニル、東京化成工業株式会社製、ネマチック相-等方相転移温度(TNI)=43℃、複屈折率(Δn=n-n)=0.15、分子量=277
【0092】
<重合性液晶化合物(B)>
[重合性化合物(B1)]
6-[[4’-シアノ-(1,1’-ビフェニル)-4-イル]オキシ}ヘキシルアクリレート(「Macromolecules」、第26巻、第6132~6134頁、1993年に記載の方法に準拠して製造)
【0093】
<重合性化合物(C)>
1)重合性非液晶化合物
[カヤラッドR-684]
トリシクロデカンジメタノールジアクリレート、日本化薬(株)製
[ビスコート#230]
1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、大阪有機化学工業(株)製
[カヤラッドR712]
EO変性ビスフェノールFジアクリレート、日本化薬(株)製
[NKエステルA-200]
ポリエチレングリコールジアクリレート、新中村化学工業(株)製
[ビスコート#215]
ネオペンチルグリコールジアクリレート、大阪有機化学工業(株)社製
[V#295]
トリメチロールプロパントリアクリレート、大阪有機化学工業(株)製
【0094】
2)重合性液晶化合物(C1)
[重合性液晶化合物(C1a)]
4-[3-[(1-オキソ-2-プロペン-1-イル)オキシ]プロポキシ]安息香酸1,1’-(2-メチル-1,4-フェニレン)、特開2013-253041号公報に記載の方法に準じて合成した。
[重合性液晶化合物(C1b)]
4-[[6-[(1-オキソ-2-プロペン-1-イル)オキシ]へキシル]オキシ]安息香酸1,1’-(2-メチル-1,4-フェニレン)、特開2013-253041号公報に記載の方法に準じて合成した。
[重合性液晶化合物(C1c)]
2-メチル-1,4-フェニレンビス(4-(((4-(アクリロイルオキシ)ブトキシ)カルボニル)オキシ)ベンゾエート、特開2013-253041号公報に記載の方法に準じて合成した。
[重合性液晶化合物(C1d)]
特開2013-253041号公報に記載の方法に従って合成した。
【0095】
<その他の重合性化合物>
[重合性液晶化合物(B2)]
4-[[6-[(1-オキソ-2-プロペン-1-イル)オキシ]へキシル]オキシ]安息香酸4-メトキシフェニル、Makromol.Chem.,183,2311-2321(1982)の記載の方法に準じて合成した。
【0096】
実施例および比較例で用いた液晶化合物(A)における上記ネマチック相-等方相転移温度および複屈折率は、液晶便覧(液晶便覧編集委員会 編、丸善、2000.10発行)に記載の値である。
なお、液晶化合物(A)のネマチック相-等方相転移温度は、温度調節ステージを備えた偏光顕微鏡(例えば、オリンパス社製;BX53)を用いた観察および示差走査熱分析装置(例えば、日立ハイテクノロジーズ社製DSC6200)を用いて、スキャンスピード(Scan Rate)10℃/分の条件で測定することにより算出することができる。
【0097】
1.液晶組成物の調製
(1)実施例1
表1に記載の組成に従い、液晶化合物(A)として7-CB、重合性液晶化合物(B1)、および、重合性化合物(C)として重合性液晶化合物(C1a)を、重合性液晶化合物(B1)と重合性液晶化合物(C1a)との合計質量の1質量%の光重合開始剤〔イルガキュア651(2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、BASF社製)〕とともに混合し、60℃~80℃で加熱撹拌して、液晶組成物1を調製した。
【0098】
(2)実施例2~13
表1に記載の組成に従い、それぞれ、液晶化合物(A)、重合性液晶化合物(B1)および重合性化合物(C)並びに光重合開始剤〔イルガキュア651(2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、BASF社製)〕を混合し、実施例1と同様にして液晶組成物2~13を得た。光重合開始剤の量は、いずれも、重合性液晶化合物(B1)と重合性化合物(C)の合計質量の1質量%である。
【0099】
(3)比較例1および2
重合性化合物(C)を用いず、表1に記載の組成に従い、それぞれ、液晶化合物(A)および重合性液晶化合物(B1)並びに光重合開始剤〔イルガキュア651(2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、BASF社製)〕を混合した以外は、実施例1と同様にして液晶組成物14および15を得た。光重合開始剤の量は、いずれも、重合性液晶化合物(B1)と重合性化合物(C)の合計質量の1質量%である。
【0100】
(4)比較例3
重合性液晶化合物(B1)に代えて重合性液晶化合物(B2)を用いた以外は、実施例11と同様にして液晶組成物16を得た。
【0101】
【表1】
【0102】
2.温度応答性調光素子の作製
実施例1~13および比較例1~3で調製した液晶組成物1~16を用いて、以下の手順に従い、温度応答性調光素子を作製した。
(1)実施例14
二枚のラビング配向膜付きガラス基板(イーエッチシー社製、アンチパラレル)を、スペーサビーズを挟んでギャップ間隔30±5μmとして接着したガラスセルに、実施例1において作製した液晶組成物1を注入した。この液晶組成物を光重合するため紫外線照射(約10mW/cm)により均一露光し、温度応答性調光素子を得た。上記露光は具体的には、20~25℃で約5分行った。
【0103】
(2)実施例15~26および比較例4~6
液晶組成物として、実施例2~13および比較例1~3で調製した液晶組成物2~16をそれぞれ用いた以外は、実施例14と同様の方法により温度応答性調光素子を作製した。なお、各液晶組成物に対する露光温度は、重合性液晶化合物(B)および存在する場合には重合性液晶化合物(C1a)の配向状態を乱さないよう30~50℃の範囲内で一定温度に調整した。
【0104】
3.温度応答性調光素子の評価
得られた温度応答性調光素子の遮光性能および耐熱性について、以下の手順に従い評価した。結果を表2に示す。
【0105】
<遮光性能(白濁可否)>
温度応答性調光素子を構成する液晶化合物(A)のネマチック相-等方相転移温度より10℃高い温度(6-CBでは約40℃、7-CBでは約53℃)に設定したホットプレート上に、前記液晶化合物(A)のネマチック相-等方相転移温度未満の温度下で透明状態になっている温度応答性調光素子を置き、白濁するか否かを目視で確認した。
評価基準
○:均一に白濁した。
△:ムラはあるが白濁した。
×:白濁しなかった。
【0106】
<耐熱性>
耐熱性は、遮光性能を発揮する温度を超える温度下に3時間保持した後の遮光性能、および、遮光性能を発揮する温度を大きく超える温度と前記遮光性能を発揮する温度未満への冷却を繰り返した後の光透過性切換性能を、それぞれ以下の手順で試験することにより評価した。
【0107】
<遮光性能>
各温度応答性調光素子の白濁発生温度より10℃高い温度(表2中の白濁発生温度+10℃)に設定したホットプレート上に温度応答性調光素子を放置し、3時間経過後の白濁の様子を目視で確認し、初期(ホットプレート上に放置後約3分)の白濁状態と比較した。なお、白濁発生温度は、白濁消失温度とともに後述する方法に従い測定した。
評価基準
○:3時間後の白濁状態は初期白濁時と同程度であった。
△:3時間後白濁状態を維持していたが白濁の程度は初期白濁時より低下した。
×:3時間後、白濁が消失していた。
【0108】
(白濁発生温度および白濁消失温度の測定)
各温度応答性調光素子を構成する液晶化合物(A)のネマチック相-等方相転移温度程度に設定したホットプレート上に温度応答性調光素子を置いた後、ホットプレートの温度を上げて加熱し、温度応答性調光素子が白濁した温度を白濁発生温度とした。その後、ホットプレートの温度をさらに上げて加熱を続け、温度応答性調光素子の白濁が完全に消失した温度を白濁消失温度とした。
【0109】
<光透過性切換性能>
各温度応答性調光素子の白濁発生温度より10℃高い温度(表2中の白濁発生温度+10℃)に設定したホットプレート上に温度応答性調光素子を置き、透明から白濁になるのを確認した後、白濁した温度応答性調光素子を室温まで冷却した。次いで、再び温度応答性調光素子の白濁発生温度より10℃高い温度に設定したホットプレート上に温度応答性調光素子を置き、白濁するか否かを確認した。この一連の操作を3回繰り返し、白濁状態を評価した。
評価基準
○:3回とも同程度に白濁した。
△:回数とともに白濁の程度が低下した。
×:可逆性を消失し、白濁しなかった。
【0110】
【表2】
【0111】
実施例14~17、20、21および23並びに比較例4および5の温度応答性調光素子について、可視直進透過率を測定した。温度応答性調光素子の可視直進透過率は、以下の手順に従い測定した。結果を表3に示す。
<可視直進透過率>
可視直進透過率は、JISR3106「板ガラス類の透過率・反射率・放射率・日射熱取得率の試験方法」に準じて測定した。具体的には、各温度応答性調光素子(試料セル)の分光透過率(T(λ))を、温調アタッチメントを付属した分光光度計(日立ハイテクノロジーズU4100)を用い、日射エネルギーが分布する0.2~2.5μmの範囲の光波長(λ)で測定した。T(λ)の測定光学系は、セル後方から垂直に一定距離だけ離した位置に積分球検出器が配置され、セルを透過した光のうち、広がり角10°の範囲の直進成分が検出された。この直進透過率のうち、可視直進透過率(Tlum)を以下の式(I):
【数1】
に従って計算した。式(I)に示す通り、Tlumは、T(λ)を波長に関する重み付け積分平均で求めた。ここで、Tlum(λ)は視感度を表す重価係数である。
【0112】
表3中の低温時可視直進透過率は、20℃での測定に基づき算出された値であり、高温時可視直進透過率は、各温度応答性調光素子を構成する液晶化合物(A)のネマチック相-等方相転移温度より10℃高い温度(6CBでは40℃、7CBでは53℃)での測定に基づき算出された値である。また、コントラストは、低温時可視直進透過率と高温時可視直進透過率との差を示す。
【0113】
【表3】
【0114】
本発明に従う液晶組成物(実施例1~13)から作製された温度応答性調光素子は、いずれも、遮光性能を発揮する温度を大きく超える環境下に繰り返し曝された場合でも、光透過性の切換性能が維持されることが確認された(実施例14~26)。特に、重合性化合物(C)として重合性液晶化合物を用いた液晶組成物(実施例1~3および10~13)から作製された温度応答性調光素子は、高い遮光性能を有したまま、光透過性の切換機能を維持することができ、高い耐熱性を有することが確認された(実施例14~16および24~26)。これに対して、重合性化合物(C)を配合せず、本発明に従わない液晶組成物(比較例1および2)から作製された温度応答性調光素子は、耐熱性に劣り、遮光性能を発揮する温度を一旦大きく超えると可逆的な光透過性切換機能が失われた(比較例4および5)。また、重合性液晶化合物(B)としてシアノフェニル基を有する重合性液晶化合物を配合しない液晶組成物(比較例3)から作製された温度応答性調光素子は、遮光性能を示さなかった(比較例6)。