(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-29
(45)【発行日】2024-06-06
(54)【発明の名称】ひずみ取りのための加熱方案の作成方法
(51)【国際特許分類】
B23K 31/00 20060101AFI20240530BHJP
【FI】
B23K31/00 F
B23K31/00 B
(21)【出願番号】P 2020141870
(22)【出願日】2020-08-25
【審査請求日】2023-07-06
(73)【特許権者】
【識別番号】519135633
【氏名又は名称】公立大学法人大阪
(74)【代理人】
【識別番号】100065248
【氏名又は名称】野河 信太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【氏名又は名称】稲本 潔
(72)【発明者】
【氏名】柴原 正和
(72)【発明者】
【氏名】加藤 拓也
(72)【発明者】
【氏名】生島 一樹
(72)【発明者】
【氏名】前田 新太郎
(72)【発明者】
【氏名】木谷 悠二
(72)【発明者】
【氏名】芦田 崚
【審査官】岩見 勤
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-069954(JP,A)
【文献】特開2020-040092(JP,A)
【文献】特開2012-117927(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 31/00
G06F 30/23
G06F 30/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発生した溶接ひずみのひずみ取りのための加熱方案の作成方法であって、
前記溶接ひずみが発生した溶接構造の形状を読み取り前記溶接構造の解析モデルを作成するステップと、
第1加熱条件と修正ひずみとの関係に関するデータベースを用いて前記解析モデルについてFEM弾性解析又はFEM熱弾塑性解析を第2加熱条件を変えて繰り返し、解析結果が溶接ひずみのない目的形状に近づくように第2加熱条件を最適化するステップとを含み、
前記データベースは、前記溶接構造の母材の材料、前記溶接構造の溶接に用いた溶接方法及び前記溶接構造の溶接継手の種類に対応したデータベースであることを特徴とする加熱方案作成方法。
【請求項2】
ランダムサーチ法、コンプレックス法、遺伝的アルゴリズム又は人工知能を用いて第2加熱条件を最適化する請求項1に記載の作成方法。
【請求項3】
前記データベースは、第1加熱条件と溶接残留応力との関係、又は第1加熱条件と加熱による残留応力との関係を含み、
第2加熱条件の最適化は、溶接残留応力が低減するように、又は加熱による残留応力が低くなるように行われる請求項1又は2に記載の作成方法。
【請求項4】
第1及び第2加熱条件のぞれぞれは、入熱量及び加熱位置を含む請求項1~3のいずれか1つに記載の作成方法。
【請求項5】
前記データベースは、実験データに基づくデータベース又はFEM熱弾塑性解析を用いて作成されたデータベースである請求項1~4のいずれか1つに記載の作成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ひずみ取りのための加熱方案の作成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
溶接により構造物を製作する際には溶接ひずみ(製作誤差)が発生する。この溶接ひずみは溶接構造の精度や見た目に大きく影響する。溶接ひずみを最小限に抑えるには熟練した作業が必要となる。また、溶接後に溶接構造に熱を加えることにより生じる熱変形を利用して溶接ひずみを修正することができるが熟練した作業が必要である。
また、線状加熱による金属板の曲げ加工に用いる加熱方案の算出方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
熟練作業者が行っている溶接ひずみの修正を経験の浅い作業者やロボットなどが行うことを可能にする方法が求められている。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、溶接ひずみを適切に修正することができる加熱方案の作成方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、発生した溶接ひずみのひずみ取りのための加熱方案の作成方法であり、前記溶接ひずみが発生した溶接構造の形状を読み取り前記溶接構造の解析モデルを作成するステップと、第1加熱条件と修正ひずみとの関係に関するデータベースを用いて前記解析モデルについてFEM弾性解析又はFEM熱弾塑性解析を第2加熱条件を変えて繰り返し、解析結果が溶接ひずみのない目的形状に近づくように第2加熱条件を最適化するステップとを含む。前記データベースは、前記溶接構造の母材の材料、前記溶接構造の溶接に用いた溶接方法及び前記溶接構造の溶接継手の種類に対応したデータベースである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、母材の材料、溶接方法、溶接継手の種類に対応したデータベースを用いてFEM弾性解析又はFEM熱弾塑性解析を行う。このため、板部と継手部との熱変形の度合いの違いを考慮したFEM弾性解析又はFEM熱弾塑性解析を行うことができる。また、繰り返し行うFEM弾性解析又はFEM熱弾塑性解析で第2加熱条件を最適化するため、最適化された第2加熱条件(加熱方案)に従い溶接構造を加熱し熱変形させることにより溶接ひずみを適切に修正することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】(a)は溶接ひずみが発生していない溶接構造の概略斜視図であり、(b)は溶接ひずみが発生した溶接構造の概略斜視図である。
【
図2】本発明の一実施形態の加熱方案作成方法のフローチャートである。
【
図3】本発明の一実施形態の加熱方案作成方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、発生した溶接ひずみのひずみ取りのための加熱方案の作成方法であり、前記溶接ひずみが発生した溶接構造の形状を読み取り前記溶接構造の解析モデルを作成するステップと、第1加熱条件と修正ひずみとの関係に関するデータベースを用いて前記解析モデルについてFEM弾性解析又はFEM熱弾塑性解析を第2加熱条件を変えて繰り返し、解析結果が溶接ひずみのない目的形状に近づくように第2加熱条件を最適化するステップとを含む。前記データベースは、前記溶接構造の母材の材料、前記溶接構造の溶接に用いた溶接方法及び前記溶接構造の溶接継手の種類に対応したデータベースである。
【0009】
本発明の加熱方案作成方法において、ランダムサーチ法、コンプレックス法、遺伝的アルゴリズム又は人工知能を用いて第2加熱条件を最適化することが好ましい。
前記データベースは、第1加熱条件と溶接残留応力との関係、又は第1加熱条件と加熱による残留応力との関係を含むことが好ましく、第2加熱条件の最適化は、溶接残留応力が低減するように、又は加熱による残留応力が低くなるように行われることが好ましい。このことにより、溶接残留応力や加熱による残留応力を小さくすることができる加熱方案を作成することができる。
第1及び第2加熱条件のぞれぞれは、入熱量及び加熱位置を含むことが好ましい。
前記データベースは、実験データに基づくデータベース又はFEM熱弾塑性解析を用いて作成されたデータベースであることが好ましい。
【0010】
以下、図面を用いて本発明の一実施形態を説明する。図面や以下の記述中で示す構成は、例示であって、本発明の範囲は、図面や以下の記述中で示すものに限定されない。
【0011】
図1(a)は、溶接ひずみが発生していない溶接構造10の概略斜視図であり、
図1(b)は溶接ひずみが発生した溶接構造10の概略斜視図である。
本発明は、溶接構造10に発生した溶接ひずみのひずみ取りのための加熱方案の作成方法である。加熱方案は、溶接構造10を加熱することにより生じる熱変形を用いて溶接構造10に発生した溶接ひずみを修正するための加熱プランである。加熱方案は、本実施形態の加熱方案作成方法により作成される。加熱方案は、作業者により実行できるように作成されてもよく、ロボットにより実行できるように作成されてもよい。また、本実施形態の加熱方案作成方法は、コンピューターを用いて実行することができる。
【0012】
例えば、本発明の加熱方案作成方法は、
図1(b)に示したような溶接ひずみが発生した溶接構造10を加熱し熱変形させることにより、
図1(a)に示したような溶接ひずみが発生していない溶接構造10に近づけ溶接ひずみを修正すること(ひずみ取り)ができる加熱方案(加熱プラン)を作成する方法である。従って、
図1(a)に示したような溶接ひずみが発生していない溶接構造10が加熱方案を算出するための目的形状となる。
【0013】
溶接構造10は、溶接により2つ以上の母材2、3が一体化された構造体である。溶接は、溶加材を加える溶接であってもよく、溶加材を加えない溶接であってもよい。溶接構造は、母材の板部4と、継手部5とを有する。
母材2、3は、溶接対象となる部材である。母材2、3の材料は、鉄、アルミニウム、チタンなどの金属材料であってもよく、プラスチック、カーボンなどの非金属材料であってもよい。プラスチック、カーボンなどはレーザー溶接などにより溶接することができる。
【0014】
継手部5(溶接継手)は、例えば、T継手、突合せ継手、重ね継手、十字継手、角継手、当て金継手、へり継手などである。
図1(a)(b)に例示した溶接構造10では、第1母材2と第2母材3とをT継手により組み合わせている。
溶接構造10の溶接に用いた溶接方法は、例えば、開先溶接、すみ肉溶接、シーム溶接、せん溶接、スロット溶接などである。また、溶接方法は、例えば、溶融電極式アーク溶接(マグ溶接、ミグ溶接、サブマージアーク溶接など)、非溶融電極式アーク溶接(ティグ溶接、プラズマ溶接など)、レーザー溶接などである。
図1(a)(b)に例示した溶接構造10では、第1母材2と第2母材3とをすみ肉溶接により接合している。
【0015】
溶接ひずみは、母材2、3を溶接し一体化することにより溶接構造10に生じるひずみである。溶接ひずみは、例えば、横収縮、縦収縮、縦曲り変形、角変形(横曲り変形)、座屈変形などである。
図1(a)に例示した溶接構造10では溶接ひずみは発生しておらず、
図1(b)に示した溶接構造10では縦曲り変形及び角変形(横曲り変形)が発生している。
【0016】
本実施形態の加熱方案作成方法は、溶接ひずみが発生した溶接構造10の形状を読み取り溶接構造10の解析モデルを作成するステップと、第1加熱条件と修正ひずみとの関係に関するデータベースを用いて解析モデルについてFEM弾性解析又はFEM熱弾塑性解析を第2加熱条件を変えて繰り返し、解析結果が溶接ひずみのない目的形状に近づくように第2加熱条件を最適化するステップとを含む。
作成した加熱方案に従った溶接ひずみの修正に用いる熱源は、ガスバーナーであってもよく、レーザーであってもよく、誘導加熱であってもよい。溶接ひずみを修正する際の溶接構造10の加熱の仕方は、点焼きであってもよく、線焼き(松葉焼き、クロス焼き、格子焼きを含む)であってもよく、三角焼きであってもよい。また、点焼き、線焼き、三角焼きのうち少なくとも2つを混ぜて溶接構造10を加熱してもよい。第1加熱条件及び第2加熱条件は、熱源及び加熱の仕方を考慮して決定される。
【0017】
データベース(修正ひずみデータベース)は、第1加熱条件と修正ひずみとの関係に関するデータベースである。第1加熱条件は、データベースを作成するための加熱条件である。第1加熱条件は、入熱量と加熱位置を含むことができる。修正ひずみとは、溶接ひずみを修正するために、第1又は第2加熱条件で溶接構造10を加熱した場合に溶接構造10に生じるひずみである。
データベースは、実験データに基づくデータベースであってもよい。例えば、溶接ひずみが発生した溶接構造10の形状を3次元スキャナなどで読み取った後、第1加熱条件で溶接構造10を加熱し、溶接構造10を熱変形させる。そして、熱変形後の溶接構造10の形状を3次元スキャナなどで読み取る。加熱前後の溶接構造10の形状の変化が修正ひずみとなる。このような加熱前後の溶接構造10の形状の読み取りを、第1加熱条件を変えて繰り返すことにより、第1加熱条件と修正ひずみとの関係に関するデータベースを作成することができる。
【0018】
データベースは、FEM熱弾塑性解析(有限要素法による熱弾塑性解析)を用いて作成されたデータベースであってもよい。FEM熱弾塑性解析を用いることにより実験では事実上得られない規模の大量のデータを蓄積することができる。
FEM熱弾塑性解析では、溶接ひずみが発生した溶接構造10の解析モデルを用いて第1加熱条件を設定して実行される。また、構造解析では、母材2、3の材料物性値(ヤング率、ポアソン比、密度など)、溶加材の材料物性値などを用いる。FEM熱弾塑性解析を第1加熱条件を変えて繰り返し実行することにより、第1加熱条件と修正ひずみとの関係に関するデータベースを作成することができる。
FEM熱弾塑性解析では、加熱条件(設定した加熱の位置及び入熱量(J/mm))に対して選び出した要素の縦収縮,横収縮,角変形,縦曲りの4成分の固有ひずみ量を算出する。FEM熱弾塑性解析では、熱及び変形履歴を逐次再現し変形解析を行うため、過渡の状況を解析できる。
【0019】
また、データベースは、第1加熱条件と溶接残留応力との関係、又は第1加熱条件と加熱による残留応力との関係を含むことができる。溶接残留応力及び加熱による残留応力は、例えば、FEM熱弾塑性解析により算出することができる。
【0020】
また、加熱方案の作成に用いるデータベースは、加熱方案の作成の対象となる溶接構造10の母材2、3の材料、加熱方案の作成の対象となる溶接構造10の溶接に用いた溶接方法及び加熱方案の作成の対象となる溶接構造10の溶接継手の種類に対応したデータベースである。このようなデータベースを加熱方案の作成に用いることにより、板部4と継手部5との間での曲がる度合いの違いを考慮してFEM弾性解析(有限要素法による弾性解析)又はFEM熱弾塑性解析を実行することができる。また、このデータベースは、母材2、3の厚さ、溶接ひずみを修正するために用いる熱源及び溶接ひずみの種類にも対応したデータベースであってもよい。また、このデータベースは、溶接ひずみを修正するための加熱位置や、溶接構造10の残留応力にも対応したデータベースであってもよい。
例えば、母材2、3の材料・厚さ、溶接方法、溶接継手の種類、溶接ひずみを修正するために用いる熱源、溶接ひずみの種類などが異なる様々なデータベースを予め作成しておき、加熱方案の作成の対象となる溶接構造10に応じて適切なデータベースを選択し、選択したデータベースを用いて加熱方案を作成することができる。また、ひずみを取る場所や部品ごとの修正ひずみデータベースを作成してもよい。
【0021】
本実施形態の加熱方案作成方法は、上述のデータベースを用いてFEM弾性解析又はFEM熱弾塑性解析を第2加熱条件を変えて繰り返し、解析結果が溶接ひずみのない目的形状に近づくように第2加熱条件を最適化するステップを含む。第2加熱条件は溶接構造10の溶接ひずみを修正するための加熱条件であり、第2加熱条件を最適化することにより加熱方案が作成される。第2加熱条件は、入熱量及び加熱位置を含む。
第2加熱条件の最適化には、例えば、ランダムサーチ法、コンプレックス法、遺伝的アルゴリズム又は人工知能(DQN強化学習、ニューラルネットワークなど)を用いることができる。本明細書では、ランダムサーチ法及びコンプレックス法を用いて第2加熱条件を最適化する方法について説明するが、第2加熱条件は、遺伝的アルゴリズム又は人工知能を用いることにより最適化することもできる。
【0022】
図2は、ランダムサーチ法を用いて最適化を行う加熱方案作成方法のフローチャートである。このフローチャートを用いて本実施形態の加熱方案作成方法について説明する。
まず、溶接ひずみが発生した溶接構造10の形状をスキャナなどを用いて読み取り、コンピューターを用いて溶接構造10の解析モデルを作成する。例えば、レーザー光などを用いる三次元スキャナ、多視点画像を用いる三次元形状復元などにより溶接構造10の形状を読み取ることができる。
【0023】
解析モデルでは、読み取った溶接構造10の三次元形状に基づき、溶接構造10の長さ、幅、厚さなどを設定する。また、解析モデルを複数個の要素(メッシュ)に分割する。要素は、例えば、四角形又は三角形のシェルであってもよく、立方体、直方体、三角錐、三角柱などのソリッドであってもよい。また、要素の各頂点が節点となる。
【0024】
次に、目的形状のモデルを作成する。目的形状は、加熱方案を用いる加熱による熱変形の目標となる形状であり、溶接ひずみが発生していない溶接構造10の形状である。例えば、加熱方案作成の対象となる溶接構造10が
図1(b)のような形状を有する場合、目的形状は
図1(a)のような形状となる。
また、目的形状のモデルは、解析モデルと比較できるように複数個の要素(メッシュ)に分割されている。目的形状のモデルは、例えば、溶接構造10の解析モデルの形状が目的形状となるように節点を動かして作成することができる。
【0025】
次に、FEM弾性解析又はFEM熱弾塑性解析に用いる上述のデータベースを選択する。具体的には、溶接構造10の母材2、3の材料、溶接構造10の溶接に用いた溶接方法、溶接構造10の溶接継手の種類に対応したデータベースを、予め作成している複数のデータベースの中から選択する。
また、溶接構造10に対応したデータベースを予め作成している場合には、そのデータベースを用いる。
【0026】
次に、解析モデルにおいて加熱線の位置、長さ、角度をランダムに選択し、試行条件Xtrial(第2加熱条件)を決定する。試行条件の決定には極座標系を用いることができる。加熱線は、溶接構造10を加熱する箇所に対応する。加熱線は、溶接構造10の表面の加熱線を選択してもよく、溶接構造10の裏面の加熱線を選択してもよい。また、母材2の表面又は裏面の加熱線を選択してもよく、母材3の表面又は裏面の加熱線を選択してもよく、母材2と母材3にまたがる加熱線を選択してもよい。また、継手部5の加熱線を選択してもよい。また、試行条件Xtrialは、複数本の加熱線を含んでもよい。また、選択する加熱線は直線であってもよく、曲線であってもよい。また、選択する加熱線の長さが短い場合は点焼きとなる。
【0027】
次に、選択したデータベースを用いてFEM弾性解析(固有ひずみ法による弾性解析)又はFEM熱弾塑性解析を実行し、試行条件Xtrial(第2加熱条件)に対応する変形を算出する。
固有ひずみ法による弾性解析では、加熱による溶接構造10(解析モデル)の変形は、固有変形によって発生すると考える。この固有変形が既知であれば、加熱による溶接構造10(解析モデル)の変形が,弾性解析において加熱線に沿って固有変形を強制ひずみとして加える事で予測可能になる。従って、固有ひずみ法による弾性解析では、予め算出した又は測定した固有ひずみ(選択したデータベース)を用いて構造解析をおこなう。固有ひずみ法による弾性解析は、入熱量と固有ひずみとの関係を表す式を用いて行うことができる。
また、固有ひずみ法は、弾性解析であるため,計算時間が熱弾塑性解析に比べてかなり短時間であることが特徴として挙げられる。
次に、FEM弾性解析又はFEM熱弾塑性解析の解析結果である変形後の形状と、目的形状との差(変形誤差)を算出する。
【0028】
このような試行条件Xtrial(第2加熱条件)の決定、FEM弾性解析又はFEM熱弾塑性解析、変形誤差の算出を試行条件Xtrial(第2加熱条件)を変えながらY回繰り返す。例えば、100回繰り返すことができる。変形誤差の小さい試行条件Xtrialが100回で見つからなければ、繰り返し回数を適宜増やしてもよい。
試行条件Xtrialの決定、FEM弾性解析又はFEM熱弾塑性解析、変形誤差の算出の繰り返しがY回に達すると、変形誤差が小さかった試行条件Xtrial(第2加熱条件)を加熱方案として選択し、加熱方案が完成する。選択する試行条件Xtrialは、変形誤差の小ささ、加熱の容易さなどを考慮して決定することができる。
このように、試行条件Xtrial(第2加熱条件)をランダムサーチを繰り返し変形誤差の小さい試行条件Xtrial(第2加熱条件)を選択することにより、第2加熱条件を最適化することができる。
【0029】
選択したデータベースが、第1加熱条件と修正ひずみとの関係及び第1加熱条件と溶接残留応力との関係を含む場合、FEM弾性解析又はFEM熱弾塑性解析により、試行条件Xtrial(第2加熱条件)に対応する変形及び溶接残留応力を算出することができる。
この場合、繰り返した試行条件Xtrialの中から選択する試行条件Xtrialは、変形誤差の小ささ、溶接残留応力の小ささ、加熱の容易さなどを考慮して決定することができる。
【0030】
選択したデータベースが、第1加熱条件と修正ひずみとの関係及び第1加熱条件と加熱による残留応力との関係を含む場合、FEM弾性解析又はFEM熱弾塑性解析により、試行条件Xtrial(第2加熱条件)に対応する変形及び加熱による残留応力を算出することができる。
この場合、繰り返した試行条件Xtrialの中から選択する試行条件Xtrialは、変形誤差の小ささ、加熱による残留応力の小ささ、加熱の容易さなどを考慮して決定することができる。
【0031】
図3は、コンプレックス法を用いて最適化を行う加熱方案作成方法のフローチャートである。
図4は、コンプレックス法の説明図である。これらを用いて本実施形態の加熱方案作成方法について説明する。
解析モデルの作成、目的形状のモデルの作成、データベースの選択、試行条件X
trialの決定、FEM弾性解析又はFEM熱弾塑性解析の実行、変形誤差の算出は、ランダムサーチ法を用いて最適化した上述の説明と同様である。なお、
図3のフローチャートでは、変形誤差から評価値を算出している。また、
図3に示したフローチャートでは加熱線をランダムに選択しているが、経験則や選択したデータベースに基づいて加熱線を選択してもよい。
ランダムサーチ法を用いた最適化では、試行条件X
trialの決定、FEM弾性解析又はFEM熱弾塑性解析の実行、変形誤差の算出を多数回繰り返したが、コンプレックス法を用いた最適化では、試行条件X
trial(第2加熱条件)の決定、FEM弾性解析又はFEM熱弾塑性解析の実行、評価値の算出の繰り返しを例えばN回とすることができる。N回の繰り返しで決定した試行条件をX
1~X
Nとする。この繰り返し回数Nは例えば4~10回であってもよい。
【0032】
図4は、試行条件X
1~X
4(第2加熱条件)を点で示したグラフである(N=4)。グラフの縦軸、横軸などは、例えば、加熱線の位置、加熱線の長さ、加熱線の角度、入熱量などである。ここでは、説明のために、2次元グラフ(2次元配列)として示しているが、3次元グラフ(3次元配列)であってもよく、4次元グラフ(4次元配列)であってもよく、5次元グラフ(5次元配列)であってもよく、それ以上の多次元グラフ(多次元配列)であってもよい。
図4には、試行条件X
1~X
4(第2加熱条件)の評価値を示している。この評価値は、各試行条件を100点満点で評価した値であり、変形後の形状と目的形状との差(変形誤差)に基づき算出することができる。評価値が高いほど変形誤差が少ないことを表す。
また、FEM弾性解析又はFEM熱弾塑性解析により試行条件(第2加熱条件)に対応する溶接残留応力や加熱による残留応力を算出する場合、評価値は、変形誤差、溶接残留応力及び加熱による残留応力に基づいて算出することができる。変形誤差、溶接残留応力及び加熱による残留応力のそれぞれが小さいほど評価値は高くなる。
【0033】
次に、試行条件X
1~X
NからX
worstとX
centerを算出する。X
worstは試行条件X
1~X
Nのうち最も評価値が低かった試行条件である。
図4では試行条件X
2がX
worstとなる。
X
centerは、試行条件X
1~X
NからX
worstを除いた(N-1)個の試行条件の重心に位置する条件である。
図4では算出した試行条件X
1、X
3、X
4の重心がX
centerとなる。
【0034】
次に、式:X
trial=X
center+α(X
center-X
worst)を用いて新たな試行条件X
trial(第2加熱条件)を決定する。αは経験則により決められる数値である。
次に、上述のデータベースを用いてFEM弾性解析又はFEM熱弾塑性解析を実行し、X
trialに対応する変形を算出する。また、溶接残留応力又は加熱による残留応力を算出することができる。
次に、算出された変形後の解析モデルの形状と目的形状との差(変形誤差)を算出し、評価値を算出する。評価値は、変形誤差、溶接残留応力、加熱による残留応力などに基づいて決定することができる。
X
trialの評価値がX
worstの評価値よりも低い場合、αを異なる数値に変えて新たな試行条件X
trialを決定し、FEM弾性解析又はFEM熱弾塑性解析を実行、評価値の算出を再び行う。例えば、
図4に示したように、X
trialの評価値が4であった場合には、新たな試行条件X
trial(第2加熱条件)を決定する(
図4では、新たな試行条件X
trialの評価値は26となっている)。
【0035】
X
trialの評価値がX
worstの評価値よりも高い場合、X
trialの評価値が十分に高いかどうか(例えば、評価値が99点以上であるかどうか)を判断する。
X
trialの評価値が十分に高くない場合、N回の試行条件X
1~X
NからX
worst(
図4ではX
2)を除き、評価値がX
worstの評価値よりも高いX
trialを加えて、X
worst、X
centerの算出、式:X
trial=X
center+α(X
center-X
worst)を用いた試行条件X
trialの決定、FEM弾性解析又はFEM熱弾塑性解析を実行、評価値の算出を再び行う。このようにN回の試行条件(第2加熱条件)から試行条件X
worstを除外し新たなX
trial(第2加熱条件)を追加しながらFEM弾性解析又はFEM熱弾塑性解析を繰り返すことにより、試行条件X
trial(第2加熱条件)の評価値は徐々に高くなっていく。そして、試行条件X
trialの評価値が十分に大きくなると、評価値が最も高い試行条件(第2加熱条件)を加熱方案として選択し、加熱方案が完成する。
コンプレックス法を用いると、このようにして第2加熱条件を最適化することができ、加熱方案を作成することができる。
【符号の説明】
【0036】
2: 第1母材 3:第2母材 4:板部 5:継手部 10:溶接構造