(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-29
(45)【発行日】2024-06-06
(54)【発明の名称】溶接電極およびスポット溶接装置
(51)【国際特許分類】
B23K 11/30 20060101AFI20240530BHJP
B23K 11/11 20060101ALI20240530BHJP
B23K 35/04 20060101ALI20240530BHJP
C22C 9/00 20060101ALN20240530BHJP
【FI】
B23K11/30
B23K11/11
B23K35/04
C22C9/00
(21)【出願番号】P 2023503699
(86)(22)【出願日】2022-02-16
(86)【国際出願番号】 JP2022006203
(87)【国際公開番号】W WO2022185920
(87)【国際公開日】2022-09-09
【審査請求日】2023-08-31
(31)【優先権主張番号】P 2021034592
(32)【優先日】2021-03-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】519135633
【氏名又は名称】公立大学法人大阪
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【氏名又は名称】稲本 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100174883
【氏名又は名称】冨田 雅己
(74)【代理人】
【識別番号】100189429
【氏名又は名称】保田 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100213849
【氏名又は名称】澄川 広司
(72)【発明者】
【氏名】柴原 正和
(72)【発明者】
【氏名】生島 一樹
(72)【発明者】
【氏名】田中 亮匡
(72)【発明者】
【氏名】河原 充
【審査官】後藤 泰輔
(56)【参考文献】
【文献】実開昭51-79527(JP,U)
【文献】特開2020-82091(JP,A)
【文献】特開平6-23566(JP,A)
【文献】特開2001-246478(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 11/30
B23K 11/11
B23K 35/04
C22C 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークピースのスポット溶接に用いる溶接電極であって、
前記溶接電極は、前記ワークピースに接触するように設けられた端面と、前記端面に設けられた少なくとも1つの細長い溝又は前記端面に設けられた複数の非貫通孔とを有し、
前記溝の深さ又は前記非貫通孔の深さは、0.5mm以上20mm以下であり、
前記溝の幅又は前記非貫通孔の大きさは、0.01mm以上0.5mm以下であり、
前記溝の幅wに対する前記溝の深さdの比率(d/w)又は前記非貫通孔の大きさsに対する前記非貫通孔の深さdの比率(d/s)は、2以上であり、
前記溝の幅は、深さ方向において実質的に一定であり、
前記非貫通孔の大きさは、深さ方向において実質的に一定であることを特徴とする溶接電極。
【請求項2】
前記溝の幅wに対する前記溝の深さdの比率(d/w)又は前記非貫通孔の大きさsに対する前記非貫通孔の深さdの比率(d/s)は、4以上である請求項1に記載の溶接電極。
【請求項3】
前記溶接電極は、複数の前記溝を有し、
複数の溝は、格子状に設けられた請求項1又は2に記載の溶接電極。
【請求項4】
前記溶接電極は、複数の前記溝を有し、
複数の前記溝又は複数の前記非貫通孔は、前記端面の中心部における前記溝の密度又は前記非貫通孔の密度が大きくなるように設けられた請求項1~3のいずれか1つに記載の溶接電極。
【請求項5】
前記端面は、曲率半径が15mm以上60mm以下であるドーム形状を有する請求項1~
4のいずれか1つに記載の溶接電極。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか1つに記載の少なくとも1つの溶接電極と、前記溶接電極と電気的に接続した電源装置とを備え、
前記溶接電極及び前記電源装置は、前記電源装置の出力電流が前記溶接電極を介して前記ワークピースに流れるように設けられた溶接装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接電極およびスポット溶接装置に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム合金板の比重は、鋼板の比重の約3分の1であり、自動車車体などの軽量化材料として注目されている。一方、スポット溶接は、溶接部分に大電流を流すことで発生する抵抗発熱を利用した溶接方法であり、自動車車体などの組み立てにおいて多く用いられている。しかし、アルミニウム合金板は表面酸化膜を有するため、アルミニウム合金板をスポット溶接する際には電流が表面酸化膜により部分的に遮断され、ナゲット生成が不安定になる。この結果、溶接品質が不安定になる。
アルミニウム合金板をスポット溶接する際に、溶接電極(チップ)をアルミニウム合金板に押し付け電極表面の凸部をアルミニウム合金板の表面酸化膜を貫通させることにより、合金板と溶接電極との境界部における電気抵抗を低減する溶接方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
また、溶接電極は、スポット溶接を繰り返している間にその端面が焼けて汚れてくる。汚れがひどくなれば溶接電極とワークピースとの間の電気抵抗が増え、ワークピースを溶融するのに充分な電流が流れなくなる。このため、チップドレッサーを用いて溶接電極の端面を削り表面の汚れを除去する処理(ドレッシング)を行う必要がある。このドレッシングは、溶接特性を変化させないために、溶接電極の端面の形状が初期形状となるように行う必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、端面に凸部を設けた溶接電極についてドレッシングを行う場合、凸部形状を変化させないで端面を削る必要があり、特殊なチップドレッサーを用いる必要があり一般的なチップドレッサーを用いることができない。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、表面酸化膜を有するワークピースを安定した溶接品質でスポット溶接することができ、かつ、一般的なチップドレッサーを用いることができる溶接電極を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、ワークピースのスポット溶接に用いる溶接電極を提供する。前記溶接電極は、前記ワークピースに接触するように設けられた端面と、前記端面に設けられた少なくとも1つの細長い溝又は前記端面に設けられた複数の非貫通孔とを有し、前記溝の深さ又は前記非貫通孔の深さは、0.5mm以上20mm以下であり、前記溝の幅wに対する前記溝の深さdの比率(d/w)又は前記非貫通孔の大きさsに対する前記非貫通孔の深さdの比率(d/s)は、2以上である。
【発明の効果】
【0006】
本発明の溶接電極は、端面に少なくとも1つの細長い溝又は複数の非貫通孔を有するため、表面酸化膜を有するワークピースに溶接電極の端面を押圧することにより、ワークピースの一部が溝内又は孔内に入り込むようにワークピースを変形させることができる。この変形により、ワークピースの表面酸化膜の一部が切断され、ワークピースの金属と溶接電極とが表面酸化膜を介さず直接接触する部分を形成することができる。このことにより、溶接電極とワークピースとの境界部分の電気抵抗を低減することができ、ワークピースに安定して大きな電流を流すことができる。この結果、大きなサイズのナゲットを安定して形成することができ、表面酸化膜を有するワークピースを安定した溶接品質でスポット溶接することができる。また、ワークピースに流れる電流の電流密度を効率よく高くすることができ、大きなナゲットを形成することができる。また、溶接電極とワークピースとの境界部分における発熱を抑制することができ、溶接電極とワークピースとがくっつくことを抑制することができる。
前記溝の深さ又は前記非貫通孔の深さは、0.5mm以上20mm以下である。溝が十分深い深さを有することにより、チップドレッサーを用いて溶接電極の端面を削った場合でも、溝がなくなることはない。従って、ドレッシングを行った後にスポット溶接を行う場合でも溝によりワークピースの表面酸化膜の一部を切断することができ、ワークピースの金属と溶接電極とが表面酸化膜を介さず直接接触する部分を形成することができる。この結果、ドレッシングを行った後でも表面酸化膜を有するワークピースを安定した溶接品質でスポット溶接することができる。
前記溝の幅wに対する前記溝の深さdの比率(d/w)又は前記非貫通孔の大きさsに対する前記非貫通孔の深さdの比率(d/s)は、2以上であることが好ましい。このことにより、ワークピースと溶接電極との接触面積を広くすることができ、ワークピースの表面部から溶接電極への放熱量を大きくすることができる。この結果、表面散りが生じることを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の一実施形態の溶接電極の概略斜視図である。
【
図2】
図1の破線A-Aにおける溶接電極の概略断面図である。
【
図3】本発明の一実施形態の溶接電極の概略端面図である。
【
図4】
図3の破線X-Xにおける溶接電極の概略断面図である。
【
図5】(a)~(d)はそれぞれ本発明の一実施形態の溶接電極の概略端面図である。
【
図6】本発明の一実施形態の溶接装置の概略図である。
【
図7】
図6の破線で囲んだ範囲Bの拡大断面図である。
【
図8】
図7の破線で囲んだ範囲Cの拡大断面図である。
【
図9】溶接電極の端面を切削する際のチップドレッサーの部分断面図である。
【
図10】(a)~(d)はそれぞれ3次元スポット溶接解析の対象とした溶接電極の概略斜視図である。
【
図11】3次元スポット溶接解析で用いた解析モデルである。
【
図12】(a)~(d)はそれぞれ3次元スポット溶接解析で得られた最高到達温度分布である。
【
図13】溶融領域の直径の経時変化を示すグラフである。
【
図14】溶融領域の直径の経時変化を示すグラフである。
【
図15】ワークピースの表面の最高到達温度分布を示すグラフである。
【
図16】ワークピースの表面の最高到達温度分布を示すグラフである。
【
図17】溶接電極により押圧されたワークピースの表面の形状の解析結果である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の溶接電極は、ワークピースのスポット溶接に用いる溶接電極である。前記溶接電極は、前記ワークピースに接触するように設けられた端面と、前記端面に設けられた少なくとも1つの細長い溝又は前記端面に設けられた複数の非貫通孔とを有し、前記溝の深さ又は前記非貫通孔の深さは、0.5mm以上20mm以下であり、前記溝の幅wに対する前記溝の深さdの比率(d/w)又は前記非貫通孔の大きさsに対する前記非貫通孔の深さdの比率(d/s)は、2以上である。
【0009】
前記溶接電極は、複数の前記溝を有し、複数の溝は、格子状に設けられることが好ましい。このことにより、スポット溶接時にワークピースの表面酸化膜を格子状に切断することができ、安定した形状のナゲットを形成することができる。
前記溝の幅又は前記非貫通孔の大きさは、0.01mm以上2mm以下である。このことにより、ワークピースと溶接電極との接触面積を広くすることができ、ワークピースの表面部から溶接電極への放熱量を大きくすることができる。この結果、表面散りが生じることを抑制することができる。
複数の溝又は複数の前記非貫通孔は、前記端面の中心部における前記溝の密度又は前記非貫通孔の密度が大きくなるように設けられることが好ましい。このことにより、ワークピースと溶接電極との境界部分の電気抵抗を小さくすることができ、大きな直径を有するナゲットを形成することが可能になる。
【0010】
前記端面は、曲率半径が15mm以上60mm以下であるドーム形状を有することが好ましい。
また、本願発明は、本願発明の溶接電極と、前記溶接電極と電気的に接続した電源装置とを備えた溶接装置も提供する。前記溶接電極及び前記電源装置は、前記電源装置の出力電流が前記溶接電極を介して前記ワークピースに流れるように設けられる。
【0011】
以下、図面を用いて本発明の一実施形態を説明する。図面や以下の記述中で示す構成は、例示であって、本発明の範囲は、図面や以下の記述中で示すものに限定されない。
【0012】
図1~
図5は本実施形態の溶接電極の概略図などであり、
図6~
図8は溶接装置の概略図などである。
本実施形態の溶接電極2は、ワークピース5のスポット溶接に用いる溶接電極である。溶接電極2は、ワークピース5に接触するように設けられた端面3と、端面3に設けられた少なくとも1つの細長い溝4又は端面3に設けられた複数の非貫通孔11とを有し、溝4の深さ又は非貫通孔11の深さは、0.5mm以上20mm以下であり、溝4の幅wに対する溝4の深さdの比率(d/w)又は非貫通孔11の大きさsに対する非貫通孔11の深さdの比率(d/s)は、2以上であることを特徴とする。
また、本実施形態の溶接装置20は、少なくとも1つの溶接電極2と、溶接電極2と電気的に接続した電源装置10とを備え、溶接電極2及び電源装置10は、電源装置10の出力電流が溶接電極2を介してワークピース5に流れるように設けられたことを特徴とする。
【0013】
溶接装置20は、抵抗スポット溶接を行う装置である。溶接装置20は、ロボットガンであってもよく、ポータブルガンであってもよく、定置式スポット溶接機であってもよい。また、溶接装置20は、Cタイプであってもよく、Xタイプであってもよい(
図6に例示する溶接装置20はCタイプである)。また、溶接装置20は、両面スポット溶接を行う装置であってもよく、片面スポット溶接を行う装置であってもよい。
ワークピース5a、5bは、金属板である。また、本実施形態おいて、ワークピース5a、5bは、アルミニウム合金板などの表面酸化膜を有する金属板である。
【0014】
溶接装置20が
図6に例示するような、両面スポット溶接を行う装置である場合、2つの溶接電極2a、2bで2つのワークピース5a、5bの積層体を圧力を加えて挟持しながら溶接電極2aと溶接電極2bとの間のワークピース5a、5bに電流を流すように設けられる。溶接装置20を用いてワークピース5a、5bに電流が流れると、ワークピース5aとワークピース5bとの接触面(この部分が最も電気抵抗が大きい)にジュール熱が発生し、接触面付近の温度が急上昇し、この領域のワークピース5a、5bが溶融し溶融領域が形成される。通電を停止すると、溶融領域は冷却され固まり
図7に示したようなナゲット6となる。このナゲット6により、ワークピース5aとワークピース5bは接合される。従って、大きなナゲット6を安定して形成できると溶接品質を安定化することができる。なお、ワークピース5がアルミニウム合金板である場合、アルミニウム合金は熱伝導係数が高いためにワークピース5a、5b間で発生した熱が熱拡散しやすく、ナゲット6が大きくなりにくい。
【0015】
溶接装置20によるスポット溶接は、ワークピース5の溶接電極2と接触する表面は溶融しないように行うことができる。このことにより、溶融領域がワークピース5の表面に達することを防止することができ、表散りが生じることを抑制することができる。ワークピース5と溶接電極2との接触面では、ワークピース5の熱が溶接電極2へと放熱されワークピース5の表面の温度上昇が抑制されるため、ワークピース5の表面が溶融することを抑制することができる。
【0016】
溶接装置20が片面スポット溶接を行う装置である場合、溶接装置20は、2つのワークピース5a、5bのうち一方をアース接続し、他方のワークピース5に溶接電極2を押し付けながらワークピース5a、5bに電流を流すように設けられる。この場合、溶接装置20は1つの溶接電極2を有する。この場合も両面スポット溶接と同様に、ワークピース5aとワークピース5bとの間に溶融領域が形成され、この溶融領域が冷却されてナゲット6が形成される。
【0017】
溶接電極2(チップ)は、ワークピース5a、5bに接触、押圧しワークピース5a、5bに電流を流すための電極である。また、溶接電極2は、溶接装置20に交換可能に取り付けることができるように設けられる。溶接電極2は、ワークピース5に接触するように設けられた端面3を有する。また、溶接電極2は円柱形状を有することができる。また、円柱形状の上面と下面のうち一方が端面3であり、他方が溶接装置20に接続される面である。端面3は、平面であってもよく、曲面であってもよく、平面と曲面を組み合わせた面であってもよく、曲率半径の異なる2つ以上の曲面を組み合わせた面であってもよい。
【0018】
溶接電極2は、端面3(接触面)の形状により分類される。溶接電極2は、フラットタイプ(F)であってもよく、ラジアスタイプ(R)であってもよく、ドームタイプ(D)であってもよく、ドームラジアスタイプ(DR)であってもよく、コーンフラットタイプ(CF)であってもよく、コーンラジアスタイプ(CR)であってもよい。また、端面3は、曲率半径が15mm以上60mm以下であるドーム形状を有することが好ましい。
溶接電極2の材料は、ワークピース5a、5bに電流を流すことができる材料であれば、特に限定されないが、例えば、銅、銅合金(銅に0.4wt%~1.2wt%のクロムを添加した銅合金、銅に0.02wt%~0.2wt%のジルコニウムを添加した銅合金、銅に0.7wt%~1.2wt%クロム及び0.06wt%以上0.15wt%以下のジルコニウムを添加した銅合金、アルミナ分散強化銅など)、タングステン、タングステン合金、ハフニウム、ハフニウム合金、炭化タングステンなどである。また、溶接電極2は、溶接電極2をワークピース5a、5bに押し付けてもほとんど変形しない強度を有することができる。
【0019】
溶接電極2は、端面3に設けられた少なくとも1つの細長い溝4又は端面3に設けられた複数の非貫通孔11を有する。例えば、
図1、
図2に示した溶接電極2の端面3には複数の細長い溝4が形成されている。また、例えば、
図3、
図4に示した溶接電極2の端面3には複数の非貫通孔11が形成されている。また、端面3に細長い溝4と非貫通孔11の両方が形成されていてもよい。
このような端面3で表面酸化膜7を有するワークピース5を押圧することにより、ワークピース5の一部が溝4内又は非貫通孔11内に入り込むようにワークピース5が変形する。例えば、
図8のように、ワークピース5aが変形する。この変形により、ワークピース5の表面酸化膜7の一部が切断され、ワークピース5の金属と溶接電極2とが表面酸化膜7を介さず直接接触する部分を形成することができる。このことにより、溶接電極2とワークピース5との境界部分の電気抵抗を低減することができ、ワークピース5に安定して大きな電流を流すことができる。この結果、大きなサイズのナゲット6を安定して形成することができ、表面酸化膜7を有するワークピース5を安定した溶接品質でスポット溶接することができる。また、ワークピース5に流れる電流の電流密度を効率よく高くすることができ、大きなナゲット6を形成することができる。また、溶接電極2とワークピース5との境界部分における発熱を抑制することができ、溶接電極2とワークピース5とがくっつくことを抑制することができる。
【0020】
溝4の幅wは、例えば、0.01mm以上5mm以下、0.01mm以上3mm以下、0.01mm以上2mm以下、0.01mm以上1mm以下又は0.01mm以上0.5mm以下である。溝4の幅wは、0.01mm以上0.5mm以下であることが好ましい。また、非貫通孔11の大きさは、例えば、0.01mm以上5mm以下、0.01mm以上3mm以下、0.01mm以上2mm以下、0.01mm以上1mm以下又は0.01mm以上0.5mm以下である。非貫通孔11の大きさは、0.01mm以上0.5mm以下であることが好ましい。このことにより、ワークピース5と溶接電極2との接触面積を広くすることができ、ワークピース5の表面部から溶接電極2への放熱量を大きくすることができる。この結果、ワークピース5aとワークピース5bとの間に形成される溶融領域がワークピース5a、5bの表面に達することを抑制することができ、表面散りが生じることを抑制することができる。
非貫通孔11が円い形状である場合、非貫通孔11の大きさは非貫通孔11の直径である。非貫通孔11が四角形状又は三角形状である場合、非貫通孔11の大きさは非貫通孔11の一辺の長さである。非貫通孔11がその他の形状を有している場合、非貫通孔11の大きさは、非貫通孔11の形状の外接円の直径とすることができる。
【0021】
溶接電極2は、スポット溶接を繰り返している間にその先端が焼けて汚れてくる。汚れがひどくなれば、溶接電極2とワークピース5との境界部分における電気抵抗が大きくなり、ワークピース5を溶融するのに充分な電流が流れなくなる。このため、チップドレッサーを用いて溶接電極2の端面3を削り表面の汚れを除去する処理(ドレッシング)を行う必要がある。
図9は、チップドレッサー15により溶接電極2の端面3を削る際のチップドレッサー15及び溶接電極2の概略断面図である。
図9に示したチップドレッサー15は溶接電極2a、2bの端面3を同時に削るタイプのチップドレッサーである。チップドレッサー15は、溶接電極2の形状に合致する形状を有する回転カッター12を有する。
溶接電極2a、2bの端面3を回転カッター12に押し付けた状態で回転カッター12を回転させることにより、溶接電極2a、2bの端面3が削られ、溶接電極2a、2bの端面3の汚れを除去することができる。また、スポット溶接により溶接電極2a又は2bの端面3が変形したとしても回転カッター12で端面3を削ることにより、端面3の形状を初期形状に戻すことができる。
【0022】
端面3に形成された溝4の深さd又は端面3に形成された非貫通孔11の深さdは、0.5mm以上20mm以下であり、好ましくは1mm以上20mm以下である。このように溝4又は非貫通孔11が十分深い深さを有することにより、チップドレッサー15を用いて溶接電極2の端面3を削った場合でも、溝4又は非貫通孔11がなくなることはない。従って、ドレッシングを行った後にスポット溶接を行う場合でも溝4によりワークピース5の表面酸化膜7の一部を切断することができ、ワークピース5の金属と溶接電極2とが表面酸化膜7を介さず直接接触する部分を形成することができる。この結果、ドレッシングを行った後でも表面酸化膜7を有するワークピース5を安定した溶接品質でスポット溶接することができる。
また、溶接電極2の端面3は、チップドレッサー15により削られる面に凸部を有さない。このことにより、ドレッシングにより端面3の形状が変化することを抑制することができる。
【0023】
溝4の幅wに対する溝4の深さdの比率(d/w)又は非貫通孔11の大きさsに対する非貫通孔11の深さdの比率(d/s)は、2以上であることが好ましく、4以上であることがより好ましく、10以上であることがさらに好ましい。このことにより、溝4又は非貫通孔11が十分深い深さを有することができ、ドレッシングにより溝4がなくなることを防止することができる。また、ワークピース5と溶接電極2との接触面積を広くすることができる。
端面3に形成された溝4の長さは、例えば、2mm以上100mm以下とすることができる。また、溝4は、直線であってもよく、曲線であってもよい。
端面3の溝4のパターンは、特に限定されないが、例えば、縦方向の複数の溝4と横方向の複数の溝4とが交差する格子パターンとすることができる。このことにより、スポット溶接時にワークピース5の表面酸化膜7を格子状に切断することができ、安定した形状のナゲット6を形成することができる。例えば、
図1に例示した溶接電極2の端面3では、縦方向の溝4a~4gと、横方向の溝4h~4nとが交差する格子パターンが形成されている。
【0024】
端面3の溝4のパターンは、
図5(a)に示したような、複数の溝4が平行に設けられたストライプ形状とすることもでき、
図5(b)に示したような四角く溝4を巡らせた形状とすることもでき、
図5(c)に示したようにアルファベット形状であってもよい。また、
図5(d)に示したように、溶接電極2が複数の凸部16を有し、複数の凸部16の上面が端面3を形成している場合、隣接する2つの凸部16の間に溝14を配置してもよい。また、溝4又は非貫通孔11を用いて端面3に商標、標章などのマークを描いてもよい。溝4又は非貫通孔11のパターンは、ワークピース5に残るため加工品の出所を示すマークを残すことが可能になる。
【0025】
また、端面3の溝4のパターン又は端面3の非貫通孔11のパターンは、端面3の中心部における溝4又は非貫通孔11の密度が大きくなるように設けることができる。また、端面3の溝4のパターン又は端面3の非貫通孔11のパターンは、端面3の中心付近の溝4又は非貫通孔11の間隔を狭くし、端面3の中心から遠い溝4又は非貫通孔11の間隔を狭くなるように設けることができる。このことにより、直径の大きいナゲット6を形成することができ、かつ、ワークピース5の表面温度が高くなりすぎることを抑制することができる。
【0026】
溶接電極2は、例えば、銅又は銅合金の丸棒を加工切断することにより製造することができる。また、端面3の溝4又は非貫通孔11は、例えば、マイクロカッター、ワイヤーカット、レーザー加工、ドリル加工、放電加工、プラズマ加工、電解加工などにより端面3を削ることにより形成することができる。また、端面3の溝4又は非貫通孔11を有する溶接電極2は、熱間プレス成形、鋳造などにより製造することもできる。
【0027】
3次元スポット溶接解析
理想化陽解法FEMを用いてアルミニウム合金のスポット溶接の三次元解析を行った。
解析では、溶接電極のモデルとして、
図10(a)~(d)に示したようなモデルを用い、全体としては
図11のようなモデルを用いた。解析モデルの節点数は約250000であり、要素数は約260000である。
溶接電極の材質は銅とし、溶接電極の直径を12mmとし、溶接電極の端面の曲率半径を25mmとし、端面の溝の幅を0.1mmとした。
図10(a)の溶接電極は、従来の溶接電極であり端面に溝は形成されていない。
図10(b)~
図10(d)の溶接電極は、本発明の溶接電極であり、それぞれ溝パターンが異なる。
図10(b)(c)に示した溶接電極では、端面の中心部における溝の密度が他の領域よりも高くなるように格子状の溝を形成しており、
図10(b)の解析モデルのほうが
図10(c)の解析モデルよりも溝の本数が多い。また、
図10(b)に示した解析モデルでは、端面の中心付近の溝の間隔を狭くし、端面の中心から遠い溝の間隔を広くしている。また、
図10(d)の解析モデルでは、等間隔の溝の格子が形成されている。
【0028】
ワークピースは、板厚2.3mmの5000系アルミニウム合金板を2枚重ねたモデルを用いた。アルミニウム合金の融点は600℃とした。2つの溶接電極でワークピースを挟み込む圧力(加圧力)は、3kNとした。通電を始めてから0m秒~100m秒ではワークピースに流す電流を4kAとし、通電を始めてから100m秒~400m秒ではワークピースに流す電流を15kAとした。
【0029】
図12(a)は、
図10(a)に示した溶接電極(溝なし)を用いた解析における通電中の溶融領域を含む断面の最高到達温度分布であり、
図13のステップライン(a)はこの解析における溶融領域の直径の変化を示し、
図15の曲線(a)はこの解析におけるアルミニウム合金板(ワークピース5a)の表面(溶接電極と接触する面)における最高到達温度分布である。なお、
図15、
図16のグラフの横軸(
図11のx軸、y=0、z=0)は、溶接電極の端面の中心点を“0”としている。
図12(b)は、
図10(b)に示した溶接電極を用いた解析における通電中の溶融領域を含む断面の最高到達温度分布であり、
図13に示したグラフのステップライン(b)はこの解析における溶融領域の直径の変化を示し、
図15の曲線(b)はこの解析におけるアルミニウム合金板(ワークピース5a)の表面(溶接電極と接触する面)における最高到達温度分布である。
【0030】
図12(c)は、
図10(c)に示した溶接電極を用いた解析における通電中の溶融領域を含む断面の最高到達温度分布であり、
図14のステップライン(c)はこの解析における溶融領域の直径の変化を示し、
図16の曲線(c)はこの解析におけるアルミニウム合金板(ワークピース5a)の表面(溶接電極と接触する面)における最高到達温度分布である。
図12(d)は、
図10(d)に示した溶接電極を用いた解析における通電中の溶融領域を含む断面の最高到達温度分布であり、
図14のステップライン(d)はこの解析における溶融領域の直径の変化を示し、
図16の曲線(d)はこの解析におけるアルミニウム合金板(ワークピース5a)の表面(溶接電極と接触する面)における最高到達温度分布である。
【0031】
図10(a)に示した従来の溶接電極(溝なし)を用いた解析では、
図13のステップライン(a)のように、ワークピースに流す電流を4kAとした時間帯では溶融領域は形成されず、電流を15kAにすると溶融領域の直径が徐々に大きくなり、溶融領域の直径が約5.4mmに達した。
図10(b)に示した溶接電極を用いた解析では、
図13のステップライン(b)のように、ワークピースに4kAの電流を流すとすぐに直径が約3.3mmである溶融領域が形成され、電流を15kAにすると溶融領域の直径が徐々に大きくなり、溶融領域の直径が約6.5mmに達した。
【0032】
図10(c)に示した溶接電極を用いた解析では、
図14のステップライン(c)のように、ワークピースに4kAの電流を流すとすぐに直径が約2.3mmである溶融領域が形成され、電流を15kAにすると溶融領域の直径が徐々に大きくなり、溶融領域の直径が約6.3mmに達した。
図10(d)に示した溶接電極を用いた解析では、
図14のステップライン(d)のように、ワークピースに4kAの電流を流すとすぐに直径が約2.1mmである溶融領域が形成され、電流を15kAにすると溶融領域の直径が徐々に大きくなり、溶融領域の直径が約6.5mmに達した。
【0033】
これらの解析結果から、溝を形成していない従来の溶接電極(
図10(a))を用いた解析では、ワークピースに流す電流が4kAであるときには溶融領域が形成されないのに対し、端面に溝を形成した溶接電極(
図10(b)~(d))を用いた解析では、ワークピースに流す電流が4kAであっても溶融領域が形成されることがわかった。特に、端面の中心部における溝の密度を高くした
図10(b)に示した溶接電極を用いた解析では、ワークピースに流す電流が4kAであっても、直径が約3.3mmである溶融領域が形成された。
また、従来の溶接電極を用いた解析では溶融領域の最大直径が約5.4mmであったのに対し、端面に溝を形成した溶接電極を用いた解析では6.3mmを越える直径の溶融領域が形成された。
【0034】
図15、
図16に示すグラフのように、端面に溝を形成した溶接電極(
図10(b)~(d))を用いた解析では、従来の溶接電極(
図10(a))を用いた解析に比べアルミニウム合金板の表面の最高到達温度が高くなったが、中心部で450℃~500℃であり合金板の表面がアルミニウム合金の融点に達することはなかった。
【0035】
図17は、
図10(b)に示した溶接電極を用いた解析の通電初期におけるアルミニウム合金板の表面形状の解析モデルである。端面に格子状の溝を有する溶接電極でアルミニウム合金板を押圧し通電すると、
図17の解析モデルのように、アルミニウム合金板の一部が溝の中に入り込むように合金板の表面が変形した。このことにより、アルミニウム合金板の表面酸化膜が溝の縁で切断され、アルミニウム合金板の金属と溶接電極とが表面酸化膜を介さず接触することがわかった。
【符号の説明】
【0036】
2a、2b、2:溶接電極 3:端面 4a~4n、4:溝 5a、5b、5:ワークピース 6:ナゲット 7:表面酸化膜 8:加圧アクチュエータ 9:アーム 10:電源装置 11:非貫通孔 12:回転カッター 13:筐体 15:チップドレッサー 16:凸部 20:溶接装置