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特許7496239薄膜リチウム二次電池及び薄膜リチウム二次電池の製造方法
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  • 特許-薄膜リチウム二次電池及び薄膜リチウム二次電池の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-29
(45)【発行日】2024-06-06
(54)【発明の名称】薄膜リチウム二次電池及び薄膜リチウム二次電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0585 20100101AFI20240530BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20240530BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240530BHJP
   H01M 4/134 20100101ALI20240530BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20240530BHJP
【FI】
H01M10/0585
H01M10/0562
H01M10/052
H01M4/134
H01M4/38 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020086666
(22)【出願日】2020-05-18
(65)【公開番号】P2021182473
(43)【公開日】2021-11-25
【審査請求日】2023-03-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100104215
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100196575
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 満
(74)【代理人】
【識別番号】100168181
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 哲平
(74)【代理人】
【識別番号】100144211
【弁理士】
【氏名又は名称】日比野 幸信
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 俊介
(72)【発明者】
【氏名】小野 敦央
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-190513(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0585
H01M 10/0562
H01M 10/052
H01M 4/134
H01M 4/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のリチウム複合酸化物を有する正極層と、
前記正極層から放出されるリチウムイオンを吸蔵または前記正極層にリチウムイオンを放出することが可能な負極層と、
前記負極層と前記正極層との間に設けられ、第2のリチウム複合酸化物を有する固体電解質層とを具備し、
前記負極層は、非晶質シリコン層であり、
前記負極層のヤング率E1、前記負極層の厚みD1、前記負極層の充放電における体積変化率β、前記固体電解質層のヤング率E2、及び前記固体電解質層の厚みD2との間に、
(E1×D1×β)/(E2×D2)<260%の関係がある
薄膜リチウム二次電池。
【請求項2】
第1のリチウム複合酸化物を有する正極層と、
前記正極層から放出されるリチウムイオンを吸蔵または前記正極層にリチウムイオンを放出することが可能な負極層と、
前記負極層と前記正極層との間に設けられ、第2のリチウム複合酸化物を有する固体電解質層とを具備し、
前記負極層のヤング率E1、前記負極層の厚みD1、前記負極層の充放電における体積変化率β、前記固体電解質層のヤング率E2、及び前記固体電解質層の厚みD2との間に、
(E1×D1×β)/(E2×D2)<260%の関係があり、
前記第2のリチウム複合酸化物は、0<x<0.5とした場合、LiPON、LiPO、LiSiO、LiBO、LiGeO、LiSiO4-x、LiBO3-x、LiGeO4-xの少なくとも1つを含む
薄膜リチウム二次電池。
【請求項3】
第1のリチウム複合酸化物を有する正極層と、リチウムイオンを吸蔵またはリチウムイオンを放出することが可能であって非晶質シリコン層である負極層とに挟まれた、第2のリチウム複合酸化物を有する固体電解質層とを有する積層体を形成する際に、
前記負極層のヤング率をE1、前記負極層の厚みをD1、前記負極層の充放電における体積変化率をβ、前記固体電解質層のヤング率をE2、及び前記固体電解質層の厚みをD2とした場合、
(E1×D1×β)/(E2×D2)<260%の関係を満たすように、前記負極層及び前記固体電解質層を形成する
薄膜リチウム二次電池の製造方法。
【請求項4】
第1のリチウム複合酸化物を有する正極層と、リチウムイオンを吸蔵またはリチウムイオンを放出することが可能な負極層とに挟まれた、第2のリチウム複合酸化物を有する固体電解質層とを有する積層体を形成する際に、
前記第2のリチウム複合酸化物は、0<x<0.5とした場合、LiPON、Li PO 、Li SiO 、Li BO 、Li GeO 、Li SiO 4-x 、Li BO 3-x 、Li GeO 4-x の少なくとも1つを含み、
前記負極層のヤング率をE1、前記負極層の厚みをD1、前記負極層の充放電における体積変化率をβ、前記固体電解質層のヤング率をE2、及び前記固体電解質層の厚みをD2とした場合、
(E1×D1×β)/(E2×D2)<260%の関係を満たすように、前記負極層及び前記固体電解質層を形成する
薄膜リチウム二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜リチウム二次電池及び薄膜リチウム二次電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
正極集電層、正極層、固体電解質層、負極層、及び負極集電層を真空蒸着法、スパッタリング法等のドライプロセスによって積層させた薄膜リチウム二次電池が注目されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
正極側と負極側との間に位置する固体電解質層は、リチウムイオンを通過させる電解質層として機能するほか、正極層と負極層との間のセパレータとして機能する。また、薄膜リチウム二次電池の充放電時には、負極層が正極層から放出されたリチウムイオンを吸蔵したり、あるいは逆にリチウムイオンを正極層側に放出したりする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-051363号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、固体電解質層、並びに固体電解質層に接する負極層はともに薄膜である。このため、正極側と負極側との間での充放電が繰り返し行われ、負極層でのリチウムイオンの吸蔵や放出が繰り返し行われたとしても、固体電解質層と負極層との間で密着した固体と固体との界面での破壊、剥離等が起きにくい信頼性の高い薄膜リチウム二次電池が求められている。
【0006】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、信頼性が高い薄膜リチウム二次電池及び薄膜リチウム二次電池の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る薄膜リチウム二次電池は。正極層と、負極層と、固体電解質層とを具備する。
上記正極層は、第1のリチウム複合酸化物を有する。
上記負極層は、上記正極層から放出されるリチウムイオンを吸蔵または上記正極層にリチウムイオンを放出することができる。
上記固体電解質層は、上記負極層と上記正極層との間に設けられ、第2のリチウム複合酸化物を有する。
上記負極層のヤング率E1、上記負極層の厚みD1、上記負極層の充放電における体積変化率β、上記固体電解質層のヤング率E2、及び上記固体電解質層の厚みD2との間に、は、(E1×D1×β)/(E2×D2)<260%の関係がある。
【0008】
このような薄膜リチウム二次電池であれば、上記関係式を満たしているため、信頼性が高い薄膜リチウム二次電池が形成される。
【0009】
上記の薄膜リチウム二次電池においては、上記負極層は、非晶質シリコン層であってよい。
【0010】
このような薄膜リチウム二次電池であれば、上記関係式を満たし、負極層が非晶質シリコン層であることから、信頼性が高い薄膜リチウム二次電池が形成される。
【0011】
上記の薄膜リチウム二次電池においては、上記第2のリチウム複合酸化物は、0<x<0.5とした場合、LiPON、LiPO、LiSiO、LiBO、LiGeO、LiSiO4-x、LiBO3-x、LiGeO4-xの少なくとも1つを含んでもよい。
【0012】
このような薄膜リチウム二次電池であれば、上記関係式を満たし、固体電解質層が上記組成であることから、信頼性が高い薄膜リチウム二次電池が形成される。
【0013】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る薄膜リチウム二次電池の製造方法では、第1のリチウム複合酸化物を有する正極層と、リチウムイオンを吸蔵またはリチウムイオンを放出することが可能な負極層とに挟まれた、第2のリチウム複合酸化物を有する固体電解質層とを有する積層体を形成する際に、上記負極層のヤング率をE1、上記負極層の厚みをD1、上記負極層の充放電における体積変化率をβ、上記固体電解質層のヤング率をE2、及び上記固体電解質層の厚みをD2とした場合、(E1×D1×β)/(E2×D2)<260%の関係を満たすように、上記負極層及び上記固体電解質層が形成される。
【0014】
このような薄膜リチウム二次電池の製造方法であれば、上記関係式を満たすように製造さるため、信頼性が高い薄膜リチウム二次電池が形成される。
【発明の効果】
【0015】
以上述べたように、本発明によれば、信頼性が高い薄膜リチウム二次電池及び薄膜リチウム二次電池の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】図(a)は、本実施形態に係る薄膜リチウム二次電池の一例を示す模式的断面図である。図(b)は、本実施形態に係る薄膜リチウム二次電池の一例を示す模式的上面図である。
図2】薄膜リチウム二次電池の製造過程の一例を示す模式的断面図である。
図3】負極層としてのSi層を用いた場合の充放電サイクルの回数(横軸)と、容量維持率(縦軸)との関係を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。各図面には、XYZ軸座標が導入される場合がある。また、同一の部材または同一の機能を有する部材には同一の符号を付す場合があり、その部材を説明した後には適宜説明を省略する場合がある。また、以下に示す数値は例示であり、この例に限らない。
【0018】
図1(a)は、本実施形態に係る薄膜リチウム二次電池の一例を示す模式的断面図である。図1(b)は、本実施形態に係る薄膜リチウム二次電池の一例を示す模式的上面図である。図1(a)は、図1(b)のA1-A2線断面に対応している。
【0019】
薄膜リチウム二次電池1は、基板90の上に複数の層が積層されたリチウム二次電池であり、正極集電層60と、正極層10と、固体電解質層30と、負極層20と、負極集電層61とを具備する。さらに、薄膜リチウム二次電池1は、基板90と、封止樹脂91とを具備する。正極集電層60、正極層10、固体電解質層30、負極層20、及び負極集電層61は、基板90の上に設けられている。封止樹脂91は、負極層20を封止する。
【0020】
正極集電層60は、基板90の上に設けられる。正極集電層60は、基板90の側から、Pt膜/Ti膜の順に積層された積層膜である。正極集電層60は、正極層10に電気的に接続されている。正極集電層60は、封止樹脂91から引き出されている。正極集電層60は、薄膜リチウム二次電池1における正極側の引き出し電極である。
【0021】
正極層10は、正極活物質層である。正極層10は、例えば、正極集電層60の上に設けられる。正極層10は、リチウム複合酸化物(第1のリチウム複合酸化物)を有する。正極層10は、充電時にはリチウムイオンを放出したり、放電時にはリチウムイオンを吸蔵したりする。正極層10の厚み(体積)は、薄膜リチウム二次電池の目的とする電気容量に応じて適宜決定される。
【0022】
正極層10は、特に限定されず、例えば、LiCoO、LiMn、LiFePO、LiNiCoMn(0<x、y、z<1)、LiNiCoAl(0<x、y、z<1)の少なくとも1つを含む。
【0023】
固体電解質層30は、例えば、正極層10から引き出された正極集電層60の上、並びに正極層10の上に設けられる。固体電解質層30は、リチウム複合酸化物(第2のリチウム複合酸化物)を有する。固体電解質層30は、正極層10から負極層20に移動するリチウムイオンを通過させたり、負極層20から正極層10に移動するリチウムイオンを通過させたりする。
【0024】
固体電解質層30は、正極層10と負極層20との間に設けられる。固体電解質層30は、正極層10と負極層20とのセパレータとして機能する。また、固体電解質層30は、非晶質層であり、リチウムイオンの伝導度に異方性がない。
【0025】
固体電解質層30は、特に限定されず、0<x<0.5とした場合、LiPON、LiPO、LiSiO、LiBO、LiGeO、LiSiO4-x、LiBO3-x、LiGeO4-xの少なくとも1つを含む。
【0026】
負極層20は、固体電解質層30の上に設けられる。負極層20は、固体電解質層30を通じて、正極層10から放出されるリチウムイオンを吸蔵したり正極層10にリチウムイオンを放出したりする。例えば、負極層20は、充電時にはリチウムイオンを吸蔵したり、放電時にはリチウムイオンを放出したりする。
【0027】
負極層20は、特に限定されず、例えば、Si層があげられる。このほか、負極層20は、カーボン層、SiO層、またはLi層であってもよい。本実施形態では、負極層20として、Si層をあげて説明する。また、負極層20は、非晶質層である。例えば、負極層20は、非晶質Si層である。
【0028】
薄膜リチウム二次電池1において、負極層20のヤング率をE1、負極層20の厚みをD1、負極層20の充放電における体積変化率をβ、固体電解質層30のヤング率をE2、及び固体電解質層30の厚みをD2とした場合、
(E1×D1×β)/(E2×D2)<260%・・・(1)式
の関係がある。
【0029】
(1)式で表される関係は、例えば、薄膜リチウム二次電池1を正極層10、固体電解質層30、及び負極層20が積層された方向(基板90に対して垂直な方向)から見た場合、負極層20と固体電解質層30とが互いに対向する領域で成立する。特に、薄膜リチウム二次電池1を基板90に対して垂直な方向から見た場合、固体電解質層30及び負極層20が積層された領域Aにおいて成立する。
【0030】
ここで、体積変化率βは、充電前の負極層20の体積をVi、充電後の負極層20の体積をVfとした場合、
(Vf/Vi)×100(%)
で定義される。
【0031】
負極集電層61は、固体電解質層30と負極層20との間に設けられる。負極集電層61は、固体電解質層30の側から、Cr膜/Ni膜の順に積層された積層膜である。負極集電層61は、負極層20に電気的に接続されている。負極集電層61は、封止樹脂91から引き出されている。負極集電層61は、薄膜リチウム二次電池1における負極側の引き出し電極である。負極集電層61は、負極層20と封止樹脂91との間に設けられてもよい。
【0032】
基板90は、シート状、フィルム状、または、板状の基板である。基板90は、特に限定されず、例えば、ガラス、アルミナ等のセラミックス材料、シリコン等の半導体材料、金属等の導電性材料、樹脂材料、ポリイミド、雲母、及びメタル/絶縁層等の少なくともいずれか1つを有する。
【0033】
封止樹脂91は、絶縁材料で構成される。封止樹脂91は、負極層20を被覆する。これにより、例えば、負極層20がLi等で構成されている場合には、負極層20の酸化が抑制される。絶縁材料は、特に限定されず、合成樹脂材料、金属化合物材料、あるいは、これらの積層体があげられる。
【0034】
また、図1(a)の例では、基板90の側から、正極集電層60、正極層10、固体電解質層30、負極層20、及び負極集電層61の順に積層されている。積層の順序は、基板90の側から、負極集電層61、負極層20、固体電解質層30、正極層10、及び正極集電層60の順に積層されてもよい。
【0035】
薄膜リチウム二次電池1の製造過程を正極層10としてLiCoO層、固体電解質層30としてLiPON層、負極層20としてSi層を例に説明する。
【0036】
図2(a)~図2(c)は、薄膜リチウム二次電池の製造過程の一例を示す模式的断面図である。ここで、本実施形態での成膜は、ターボ分子ポンプ、ドライポンプ等の複数の排気ユニットが少なくとも1つ組み合わされた超高真空槽を用いたドライプロセスで進行される。
【0037】
例えば、図2(a)に示すように、基板90の上に、正極集電層60が形成される。正極集電層60は、例えば、成膜法(例えば、スパッタリング法、真空蒸着法等)、光リソグラフィ、及びエッチング(ドライエッチング、ウェットエッチング)等の手法によって形成される。
【0038】
ここで、正極集電層60の厚みは、正極集電層60の上に形成される正極層10の表面粗さに影響を与えない程度に設定される。例えば、Pt膜の膜厚は、一例として80nm~120nm程度、Ti膜の膜厚は、10nm~30nm程度に設定される。
【0039】
次に、正極集電層60の上に、正極層10としてのLiCoO層が成膜法、光リソグラフィ、エッチング等の手法によって形成される。例えば、LiCoO層の成膜条件の一例を以下に示す。LiCoO層の成膜条件は、以下の例に限らない。
【0040】
成膜方式:RFマグネトロンスパッタリング法にDCマグネトロンスパッタリング法を重畳
スパッタリングターゲット:LiCoOターゲット
投入電力:RF2.8W/cm、DC2.8W/cm
放電ガス:Ar
放電圧力:3.0Pa
基板温度:室温
成膜後アニール:500℃、10h、大気雰囲気
【0041】
次に、図2(b)に示すように、正極層10の上に、固体電解質層30としてのLiPON層が成膜法、光リソグラフィ、エッチング等の手法によって形成される。例えば、LiPON層の成膜条件の一例を以下に示す。LiPON層の成膜条件は、以下の例に限らない。
【0042】
成膜方式:RFマグネトロンスパッタリング法
スパッタリングターゲット:LiPOターゲット
投入電力:RF2.8W/cm
放電ガス:N
放電圧力:0.3Pa
基板温度:室温
【0043】
次に、図2(c)に示すように、固体電解質層30の上、及び基板90の上に、例えば、成膜法、光リソグラフィ、及びエッチング等の手法によって負極集電層61が形成される。
【0044】
次に、固体電解質層30の上及び負極集電層61の上に、成膜法、光リソグラフィ、エッチング等の手法によって負極層20が形成される。例えば、Si層の成膜条件の一例を以下に示す。Si層の成膜条件は、以下の例に限らない。
【0045】
成膜方式:DCマグネトロンスパッタリング法
スパッタリングターゲット:Siターゲット
投入電力:DC12.3W/cm
放電ガス:Ar
放電圧力:3.0Pa
基板温度:室温
【0046】
これにより、基板90上には、正極層10と、負極層20とに挟まれた固体電解質層30とを有する積層体が形成される。この積層体を形成する際に、関係式(1)が満たすように、負極層20及び固体電解質層30が形成される。この後、封止樹脂91によって、負極層20が封止される。このような製造過程によって、薄膜リチウム二次電池1が形成される。
【0047】
本実施形態の作用効果について説明する。図3(a)~図3(c)は、負極層としてのSi層を用いた場合の充放電サイクルの回数(横軸)と、容量維持率(縦軸)との関係を示すグラフ図である。図3(a)~図3(c)のそれぞれには、2つのサンプルの充放電サイクルの回数と容量維持率との関係が示されている。ここで、図3(a)でのSi層の厚みは、0.4μmであり、図3(b)でのSi層の厚みは、0.8μmであり、図3(c)でのSi層の厚みは、1.6μmである。固体電解質層30としてのLiPON層の厚みは、2μmとしている。
【0048】
例えば、図3(a)に示すように、Si層の厚みが0.4μmでは、充放電サイクルが増加しても容量維持率は、ほぼ「1」を維持している。図3(a)では、2つのサンプルの線がほぼ重なっている。これに対して、Si層の厚みが0.8μm(図3(b))、または1.6μm(図3(c))になると、充放電サイクルが10を満たないうちに急減に容量維持率が減少することが分かった。このような容量維持率の急減な変化の一要因として、固体電解質層30と負極層20との間の破壊、剥離が考えられる。
【0049】
【表1】
【0050】
表1に、Si層の厚みを変化させた場合の関係式(1)の左辺、容量維持良否の結果を示す。ここで、固体電解質層30としてのLiPON層の厚みは、1μmまたは2μmであり、本実施形態で形成したLiPON層のヤング率は、64GPa、Si層のヤング率は185GPaとしている。
【0051】
Si層は、非晶質層であり、Liを吸蔵すると体積が膨張し、Liを放出すると体積が収縮する。従って、Si層とSi層の下地であるLiPON層との界面での破壊、剥離をいかにして抑制するかが重要になる。例えば、Si層の充電後の体積変化率は、300%になる。一方、LiPON層は、電極活性がない電解質であるため、充放電時には、その体積変化は少なく、Si層とLiPON層との間の界面からの破壊や剥離に影響を及ぼさない。正極層10の場合もSi層と同様にLiの吸蔵、放出によって体積変化を伴うが、インサーション反応により、充放電が行われるため、充放電時には、その体積変化が少なく、Si層とLiPON層との界面での破壊、剥離に影響を及ぼさない。
【0052】
また、「〇」は、充放電サイクルが50回を超えても容量維持率が「1」付近を維持したことを意味する。「×」は、充放電サイクルが10回に満たないうちに、容量維持率が「1」から急激に減少したことを意味する。「△」は、充放電サイクルが10回に満たないうちに、容量維持率が「1」から急激に減少する兆候があったことを意味している。
【0053】
表1には、Si層との厚みとして、0.2μm、0.4μm、0.6μm、0.8μm、及び1.6μmの結果が示されている。表1に示すように、Si層の厚みの増加に応じて、関係式(1)の左辺の値は増加することが分かる。
【0054】
例えば、LiPON層の厚みが1μmでは、関係式(1)の左辺の値が173%では、容量維持は、「〇」となった。これに対して、関係式(1)の左辺の値が348%になると、「×」となった。
【0055】
LiPON層の厚みが2μmでは、関係式(1)の左辺の値が87%、173%では、ともに容量維持は、「〇」となった。これに対して、関係式(1)の左辺の値が260%になると、「△」となった。関係式(1)の左辺の値が348%、692%になると、「×」となった。
【0056】
このように、関係式(1)の左辺の値が260%よりも小さい場合には、充放電サイクルが50回を超えても、図3(a)のように容量維持率がほぼ「1」を維持し、薄膜リチウム二次電池が優れた充放電特性を示すことが分かった。例えば、関係式(1)の左辺の値が250%以下の場合には、充放電サイクルが50回を超えても、容量維持率がほぼ「1」を維持し、薄膜リチウム二次電池が優れた充放電特性を示すことが分かった。さらに、より好ましくは、関係式(1)の左辺の値が173%以下の場合に、容量維持率がより確実に「1」に漸近し、さらにより好ましくは、関係式(1)の左辺の値が87%以下の場合に、容量維持率がより確実に「1」に漸近し、薄膜リチウム二次電池が優れた充放電特性を示すことが分かった。
【0057】
すなわち、薄膜リチウム二次電池1を設計する場合、事前に薄膜リチウム二次電池が関係式(1)を満たいているか否かを知ることにより、固体電解質層30と負極層20との間で破壊、剥離が起きにくく充放電特性に優れた薄膜リチウム二次電池を確実且つ簡便に形成できることが分かった。
【0058】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく種々変更を加え得ることは勿論である。各実施形態は、独立の形態とは限らず、技術的に可能な限り複合することができる。
【符号の説明】
【0059】
1、2…薄膜リチウム二次電池
10…正極層
20…負極層
30…固体電解質層
60…正極集電層
61…負極集電層
90…基板
91…封止樹脂
図1
図2
図3