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特許7496278仕分先特定装置、仕分先特定方法及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-29
(45)【発行日】2024-06-06
(54)【発明の名称】仕分先特定装置、仕分先特定方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   B62D 67/00 20060101AFI20240530BHJP
   G06N 20/00 20190101ALI20240530BHJP
   E04G 23/08 20060101ALN20240530BHJP
   E02F 9/22 20060101ALN20240530BHJP
   E02F 3/36 20060101ALN20240530BHJP
【FI】
B62D67/00
G06N20/00 130
E04G23/08 A
E02F9/22 P
E02F3/36 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020167392
(22)【出願日】2020-10-02
(65)【公開番号】P2022059669
(43)【公開日】2022-04-14
【審査請求日】2023-07-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000246273
【氏名又は名称】コベルコ建機株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】100136250
【弁理士】
【氏名又は名称】立石 博臣
(74)【代理人】
【識別番号】100198719
【弁理士】
【氏名又は名称】泉 良裕
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 勝彦
(72)【発明者】
【氏名】森川 克己
(72)【発明者】
【氏名】西 泰敏
【審査官】山本 賢明
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/110780(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/100823(WO,A1)
【文献】特開2010-138657(JP,A)
【文献】国際公開第2016/125915(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 67/00
G06N 20/00
E04G 23/08
E02F 9/22
E02F 3/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
旋回部と対象物を保持する保持部とを備える被操作機械の操作に伴って、作業領域で前記対象物を保持し、前記対象物を保持した状態で所定方向に旋回すると共に前記対象物を開放して複数の仕分先のいずれかに仕分け、前記所定方向とは反対に旋回して前記作業領域に戻る動作を繰り返す作業において、前記対象物の仕分先を特定する仕分先特定装置であって、
前記作業の作業期間中にサンプリングされた作業データであって、サンプリング時刻と、前記被操作機械の基準位置に対する旋回角度と、前記保持部の保持状態とが関連付けられたレコードが時系列に記録された作業データを取得する取得手段と、
前記作業データのうち時系列に記録された前記旋回角度に基づいて前記被操作機械の旋回方向が前記所定方向から逆転した時刻に記録されたレコードを逆転位置レコードとして抽出し、前記逆転位置レコードの直前に記録されたレコードのうち保持状態に開放が記録されたレコードを開放位置レコードとして抽出し、直前に前記開放位置レコードを有する前記逆転位置レコードを開放後逆転位置レコードとして抽出する抽出手段と、
前記開放後逆転位置レコードに記録された前記旋回角度に基づいて、前記対象物の仕分先を前記複数の仕分先の中から特定する特定手段と、
を備えることを特徴とする仕分先特定装置。
【請求項2】
前記レコードには、前記保持部の位置座標が更に関連付けられており、
前記特定手段は、前記開放後逆転位置レコードに記録された前記旋回角度と前記開放位置レコードに記録された前記位置座標とに基づいて、前記対象物の仕分先を特定することを特徴とする請求項1に記載の仕分先特定装置。
【請求項3】
前記開放後逆転位置レコードと前記開放位置レコードとに基づいて、機械学習用の入力データであって前記旋回方向が前記所定方向から逆転した際の旋回角度に関する情報と前記対象物が開放された開放位置に関する座標情報とを含む入力データを演算する演算手段と、
前記入力データと、前記対象物の仕分先を示す出力データとを教師データとして機械学習し、前記対象物の仕分先を特定するための予測モデルを生成する生成手段と、
を更に備え、
前記特定手段は、前記予測モデルを用いて、前記対象物の仕分先を特定することを特徴とする請求項2に記載の仕分先特定装置。
【請求項4】
前記予測モデルは、ランダムフォレストによって生成される複数の決定木であり、
前記入力データは、前記ランダムフォレストの説明変数であり、
前記出力データは、前記ランダムフォレストの目的変数であり、
前記特定手段は、前記教師データによって機械学習された前記複数の決定木を用いて前記対象物の仕分先を特定することを特徴とする請求項3に記載の仕分先特定装置。
【請求項5】
前記抽出手段は、前記作業データのうち時系列に記録された前記旋回角度を指数平滑化し、指数平滑化された前記旋回角度に基づいて前記逆転位置レコードを抽出することを特徴とする請求項1から4のうち何れかに記載の仕分先特定装置。
【請求項6】
旋回部と対象物を保持する保持部とを備える被操作機械の操作に伴って、作業領域で前記対象物を保持し、前記対象物を保持した状態で所定方向に旋回すると共に前記対象物を開放して複数の仕分先のいずれかに仕分け、前記所定方向とは反対に旋回して前記作業領域に戻る動作を繰り返す作業において、前記対象物の仕分先を特定する仕分先特定方法であって、
仕分先特定装置の制御部が、前記作業の作業期間中にサンプリングされた作業データであって、サンプリング時刻と、前記被操作機械の基準位置に対する旋回角度と、前記保持部の保持状態とが関連付けられたレコードが時系列に記録された作業データを取得し、
前記制御部が、前記作業データのうち時系列に記録された前記旋回角度に基づいて前記被操作機械の旋回方向が前記所定方向から逆転した時刻に記録されたレコードを逆転位置レコードとして抽出し、前記逆転位置レコードの直前に記録されたレコードのうち保持状態に開放が記録されたレコードを開放位置レコードとして抽出し、直前に前記開放位置レコードを有する前記逆転位置レコードを開放後逆転位置レコードとして抽出し、
前記制御部が、前記開放後逆転位置レコードに記録された前記旋回角度に基づいて、前記対象物の仕分先を前記複数の仕分先の中から特定することを特徴とする仕分先特定方法。
【請求項7】
旋回部と対象物を保持する保持部とを備える被操作機械の操作に伴って、作業領域で前記対象物を保持し、前記対象物を保持した状態で所定方向に旋回すると共に前記対象物を開放して複数の仕分先のいずれかに仕分け、前記所定方向とは反対に旋回して前記作業領域に戻る動作を繰り返す作業において、前記対象物の仕分先を特定するプログラムであって、
コンピュータに、
a)前記作業の作業期間中にサンプリングされた作業データであって、サンプリング時刻と、前記被操作機械の基準位置に対する旋回角度と、前記保持部の保持状態とが関連付けられたレコードが時系列に記録された作業データを取得するステップと、
b)前記作業データのうち時系列に記録された前記旋回角度に基づいて前記被操作機械の旋回方向が前記所定方向から逆転した時刻に記録されたレコードを逆転位置レコードとして抽出し、前記逆転位置レコードの直前に記録されたレコードのうち保持状態に開放が記録されたレコードを開放位置レコードとして抽出し、直前に前記開放位置レコードを有する前記逆転位置レコードを開放後逆転位置レコードとして抽出するステップと、
c)前記開放後逆転位置レコードに記録された前記旋回角度に基づいて、前記対象物の仕分先を前記複数の仕分先の中から特定するステップと、
を実行させることを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、仕分先特定装置及びこれに関連する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、作業アタッチメント先端に破砕機(ニブラー)を装着した作業機械(解体機)が知られている。例えば、特許文献1記載の解体機(1)においては、アタッチメント(4)の一部を構成するアーム(8)の先端部に破砕機(9)が装着されている(特許文献1の図1参照)。
【0003】
ところで、ニブラーを備えた自動車解体機は、廃車に含まれるハーネスや小部品といったリサイクル可能な部品(解体部品)を回収する作業に用いられる。当該作業においては、自動車解体機が操作されることによって、廃車から部品が回収され、回収された部品が複数の仕分先のいずれかに仕分けられる。
【0004】
より詳細には、作業領域において廃車から部品(ハーネス等)をニブラーで掴み、当該部品を掴んだ状態で旋回して複数の仕分先のいずれかに部品を放し、作業領域に戻るといった動作が繰り返される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-141552号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した作業を分析する手法として、作業の様子を撮影し、撮影された動画を閲覧しながら予め定められた情報を手入力で記録することが考えられるが、膨大な時間と手間を要するため、必ずしも効率的であるとは言えない。
【0007】
これに対し、本願の発明者らは、上述した作業中に被操作機械(自動車解体機等)で取得された作業データ(時系列データ)のみを用いて作業を分析できる手法を検討している。その中の課題の1つとして、作業データのみを用いて、対象物(解体部品等)が仕分けられた仕分先を複数の仕分先の中から正確に特定することが挙げられる。
【0008】
上述した課題に対し、本願の発明者らは、当初、ニブラーの開放点の座標に基づいて解体部品(対象物)の仕分先を特定する手法を検討したが、十分な精度が得られなかった。精度が得られない原因を分析したところ、ニブラーで掴んだ解体部品が各仕分先に仕分けられる際に、旋回の勢いを利用して当該解体部品が各仕分先に対して放り投げられていることが判明した。その結果、ニブラーで掴んでいた解体部品が各仕分先よりも手前で放されていることがわかった。
【0009】
つまり、ニブラーの開放点は実際の仕分先よりも手前に存在する可能性が高く、ニブラーの開放点の座標に基づいて仕分先を特定しようとすると、正確に特定できない可能性が高いことが明らかになった。
【0010】
そこで、本発明の目的は、被操作機械の操作に伴って、作業領域で対象物を保持し、当該対象物を保持した状態で所定方向に旋回すると共に当該対象物を開放して複数の仕分先のいずれかに仕分け、所定方向とは反対に旋回して作業領域に戻る動作を繰り返す作業において、対象物の仕分先を正確に特定することが可能な技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明は、旋回部と対象物を保持する保持部とを備える被操作機械の操作に伴って、作業領域で前記対象物を保持し、前記対象物を保持した状態で所定方向に旋回すると共に前記対象物を開放して複数の仕分先のいずれかに仕分け、前記所定方向とは反対に旋回して前記作業領域に戻る動作を繰り返す作業において、前記対象物の仕分先を特定する仕分先特定装置であって、前記作業の作業期間中にサンプリングされた作業データであって、サンプリング時刻と、前記被操作機械の基準位置に対する旋回角度と、前記保持部の保持状態とが関連付けられたレコードが時系列に記録された作業データを取得する取得手段と、前記作業データのうち時系列に記録された前記旋回角度に基づいて前記被操作機械の旋回方向が前記所定方向から逆転した時刻に記録されたレコードを逆転位置レコードとして抽出し、前記逆転位置レコードの直前に記録されたレコードのうち保持状態に開放が記録されたレコードを開放位置レコードとして抽出し、直前に前記開放位置レコードを有する前記逆転位置レコードを開放後逆転位置レコードとして抽出する抽出手段と、前記開放後逆転位置レコードに記録された前記旋回角度に基づいて、前記対象物の仕分先を前記複数の仕分先の中から特定する特定手段と、を備えることを特徴とする仕分先特定装置を提供している。
【0012】
ここで、前記レコードには、前記保持部の位置座標が更に関連付けられており、前記特定手段は、前記開放後逆転位置レコードに記録された前記旋回角度と前記開放位置レコードに記録された前記位置座標とに基づいて、前記対象物の仕分先を特定するのが好ましい。
【0013】
また、前記開放後逆転位置レコードと前記開放位置レコードとに基づいて、機械学習用の入力データであって前記旋回方向が前記所定方向から逆転した際の旋回角度に関する情報と前記対象物が開放された開放位置に関する座標情報とを含む入力データを演算する演算手段と、前記入力データと、前記対象物の仕分先を示す出力データとを教師データとして機械学習し、前記対象物の仕分先を特定するための予測モデルを生成する生成手段と、を更に備え、前記特定手段は、前記予測モデルを用いて、前記対象物の仕分先を特定するのが好ましい。
【0014】
また、前記予測モデルは、ランダムフォレストによって生成される複数の決定木であり、
前記入力データは、前記ランダムフォレストの説明変数であり、前記出力データは、前記ランダムフォレストの目的変数であり、前記特定手段は、前記教師データによって機械学習された前記複数の決定木を用いて前記対象物の仕分先を特定するのが好ましい。
【0015】
更に、前記抽出手段は、前記作業データのうち時系列に記録された前記旋回角度を指数平滑化し、指数平滑化された前記旋回角度に基づいて前記逆転位置レコードを抽出するのが好ましい。
【0016】
また、本発明は、旋回部と対象物を保持する保持部とを備える被操作機械の操作に伴って、作業領域で前記対象物を保持し、前記対象物を保持した状態で所定方向に旋回すると共に前記対象物を開放して複数の仕分先のいずれかに仕分け、前記所定方向とは反対に旋回して前記作業領域に戻る動作を繰り返す作業において、前記対象物の仕分先を特定する仕分先特定方法であって、前記作業の作業期間中にサンプリングされた作業データであって、サンプリング時刻と、前記被操作機械の基準位置に対する旋回角度と、前記保持部の保持状態とが関連付けられたレコードが時系列に記録された作業データを取得し、前記作業データのうち時系列に記録された前記旋回角度に基づいて前記被操作機械の旋回方向が前記所定方向から逆転した時刻に記録されたレコードを逆転位置レコードとして抽出し、前記逆転位置レコードの直前に記録されたレコードのうち保持状態に開放が記録されたレコードを開放位置レコードとして抽出し、直前に前記開放位置レコードを有する前記逆転位置レコードを開放後逆転位置レコードとして抽出し、前記開放後逆転位置レコードに記録された前記旋回角度に基づいて、前記対象物の仕分先を前記複数の仕分先の中から特定することを特徴とする仕分先特定方法を提供している。
【0017】
更に、本発明は、旋回部と対象物を保持する保持部とを備える被操作機械の操作に伴って、作業領域で前記対象物を保持し、前記対象物を保持した状態で所定方向に旋回すると共に前記対象物を開放して複数の仕分先のいずれかに仕分け、前記所定方向とは反対に旋回して前記作業領域に戻る動作を繰り返す作業において、前記対象物の仕分先を特定するプログラムであって、コンピュータに、a)前記作業の作業期間中にサンプリングされた作業データであって、サンプリング時刻と、前記被操作機械の基準位置に対する旋回角度と、前記保持部の保持状態とが関連付けられたレコードが時系列に記録された作業データを取得するステップと、b)前記作業データのうち時系列に記録された前記旋回角度に基づいて前記被操作機械の旋回方向が前記所定方向から逆転した時刻に記録されたレコードを逆転位置レコードとして抽出し、前記逆転位置レコードの直前に記録されたレコードのうち保持状態に開放が記録されたレコードを開放位置レコードとして抽出し、直前に前記開放位置レコードを有する前記逆転位置レコードを開放後逆転位置レコードとして抽出するステップと、c)前記開放後逆転位置レコードに記録された前記旋回角度に基づいて、前記対象物の仕分先を前記複数の仕分先の中から特定するステップと、を実行させることを特徴とするプログラムを提供している。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、被操作機械の操作に伴って、作業領域で対象物を保持し、当該対象物を保持した状態で所定方向に旋回すると共に当該対象物を開放して複数の仕分先のいずれかに仕分け、所定方向とは反対に旋回して作業領域に戻る動作を繰り返す作業において、複数の仕分先の中から対象物の仕分先を正確に特定することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施形態による解体機(被操作機械)を示す側面図。
図2】解体機による解体部品の仕分作業を説明するための概略平面図。
図3】仕分作業の作業期間中にサンプリングされた作業データを示す図。
図4】本発明の実施形態による仕分先特定装置を示す機能ブロック図。
図5】仕分先特定プログラムによる仕分先特定処理を示すフローチャート。
図6】ランダムフォレストの機械学習に用いられる説明変数及び目的変数を示す図。
図7】教師データ集合からランダムフォレストの決定木を生成する様子を示す図。
図8】予測モデルによる検証結果(複数の決定木による仕分精度)を示す図。
図9】比較例(旋回角度を考慮しない予測モデル)による検証結果を示す図。
図10】別の比較例(教師データを増やした予測モデル)による検証結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<1.実施形態>
本発明の実施形態に係る仕分先特定装置について図1から図10に基づいて説明する。以下では、被操作機械の一例として、オペレータによって操作される解体機10(図1参照)を例示する。また、仕分先特定装置の一例として、後述の仕分先特定処理を実行する仕分先特定装置1(図4参照)を例示する。
【0021】
図1に示すように、解体機10は、下部走行体11と、上部旋回体12と、アタッチメント13とを備えて構成される。アタッチメント13の先端には、解体対象(自動車等)から解体部品(ハーネスや小部品)を挟持して取り出すニブラー14が装着されている。
【0022】
ここで、上部旋回体12は、本発明に係る「旋回部」の一例である。また、ニブラー14は、本発明に係る「保持部」の一例である。更に、解体部品は、本発明に係る「対象物」の一例である。
【0023】
解体機10は、オペレータの操作に伴って、自動車等の解体対象からハーネスや小部品等の解体部品を掴んで取り出し、当該解体部品を所定の仕分先に仕分ける作業を行う。
【0024】
詳細には、図2に示すように、解体機10は、解体作業領域AR1において解体部品(ハーネス又は小部品)をニブラー14によって挟持して保持し、ニブラー14で解体部品を保持した状態のまま所定方向(図2では反時計回り)に旋回する。
【0025】
そして、解体機10は、ニブラー14でハーネスを保持していた場合には当該ハーネスをハーネス仕分先AR2の近傍で開放する。一方、解体機10は、ニブラー14で小部品を保持していた場合には当該小部品を小部品仕分先AR3の近傍で開放する。これに伴い、ハーネスはハーネス仕分先AR2に仕分けられ、小部品は小部品仕分先AR3に仕分けられる。
【0026】
この後、解体機10は、所定方向とは反対(図2では時計回り)に旋回し、解体作業領域AR1に戻る。解体機10は、オペレータ操作に伴って、上述したような動作を繰り返し実行する。
【0027】
解体機10は、上述した作業の作業期間中に一定のサンプリング間隔で各種作業情報を取得し、図3に示す作業データDT1として蓄積する。具体的には、解体機10は、ニブラー14の位置座標と、上部旋回体12の旋回角度と、ニブラー14の開閉情報とを作業情報として取得し、作業データDT1に蓄積する。
【0028】
図3に示すように、作業データDT1には、サンプリング時刻と、ニブラー14の位置座標と、上部旋回体12の旋回角度と、ニブラー14の開閉情報とが関連付けられたレコードRC1,RC2,RC3,…が時系列で記録されている。
【0029】
ニブラー14の位置座標としては、ニブラー14のX座標の値とY座標の値とZ座標の値とがそれぞれ蓄積されている。
【0030】
また、上部旋回体12の旋回角度としては、基準位置(例えば、解体作業領域AR1において解体部品を取り出す位置)に対する上部旋回体12の旋回角度の値が蓄積されている。
【0031】
更に、ニブラー14の開閉情報としては、ニブラー14を開閉させるためのシリンダに設けられたストロークセンサの出力値に基づく開閉状態が蓄積されている。
【0032】
続いて、図4を参照しながら、仕分先特定装置1について詳細に説明する。仕分先特定装置1は、上述した作業データDT1に基づいて解体部品の仕分先を特定するためのコンピュータである。図4に示すように、仕分先特定装置1は、制御部3と記憶部5とを備えて構成される。
【0033】
制御部3は、中央処理装置(CPU(Central Processing Unit))を備えて構成され、記憶部5に記憶されるプログラムやデータに基づいて各種の演算処理を実行する。
【0034】
図4に示すように、制御部3は、作業データ取得部31と、レコード抽出部32と、入力データ演算部33と、予測モデル生成部34と、仕分先特定部35とを備えて構成される。
【0035】
作業データ取得部31は、記憶部5に記録されている作業データDT1を取得する処理部である。
【0036】
レコード抽出部32は、所定の条件に合致したレコードを作業データDT1の中から抽出する処理部である。
【0037】
入力データ演算部33は、機械学習のアルゴリズムであるランダムフォレストに使用する説明変数を入力データとして演算する処理部である。
【0038】
予測モデル生成部34は、機械学習のアルゴリズムであるランダムフォレストを用いて解体部品の仕分先を特定するための予測モデルを生成する処理部である。
【0039】
仕分先特定部35は、予測モデルを用いて作業期間中における解体部品の仕分先を特定する処理部である。
【0040】
記憶部5は、メモリや磁気ディスク装置を備えており、各種のプログラムやデータを記憶する。また、記憶部5は、制御部3のワークメモリとしても機能する。なお、記憶部5は、フラッシュメモリや光ディスク等の情報記憶媒体を備えて構成されてもよく、あるいは、当該情報記憶媒体から情報を読み取る読取装置を備えて構成されるようにしてもよい。
【0041】
なお、上述したハードウェア構成はあくまで一例に過ぎない。例えば、上述したハードウェア構成では、記憶部5が仕分先特定装置1に内蔵されている場合を例示したが、これに限定されず、仕分先特定装置1と通信可能な記憶装置が外部接続されるようにしてもよい。
【0042】
図4に示すように、記憶部5には、仕分先特定プログラムPGと、作業データDT1と、教師データDT2と、検証データDT3と、検証結果データDT4とが記憶されている。
【0043】
仕分先特定プログラムPGは、作業期間中における解体部品の仕分先を特定する仕分先特定処理(図5に示すフローチャートの処理)を実行するためのプログラムである。
【0044】
作業データDT1は、上述したように、解体機10が作業期間中に一定のサンプリング間隔で作業情報を取得し、蓄積したデータである(図3参照)。
【0045】
教師データDT2は、機械学習に用いられる入力データ及び出力データである。具体的には、教師データDT2は、ランダムフォレストに用いられる説明変数v=(d,d,d,d,d,d,d)と目的変数tと含むデータである。
【0046】
説明変数v=(d,d,d,d,d,d,d)は、入力データ演算部33において演算された変数である。目的変数tは、実際の仕分先(作業期間中に撮影された動画を作業者が目視で確認した仕分先)を示す変数である。
【0047】
検証データDT3は、機械学習によって生成した予測モデルを検証するためのデータである。検証データDT3は、ランダムフォレストの学習において教師データDT2として用いられていないデータである。
【0048】
検証結果データDT4は、機械学習によって生成した予測モデルを検証データDT3によって検証した結果である。
【0049】
続いて、図5を参照しつつ仕分先特定プログラムPGによって実行される処理について詳細に説明する。なお、以下では、「ステップS」を単に「S」と表記する。
【0050】
まず、S1において、作業データ取得部31は、作業データDT1を記憶部5から取得する。
【0051】
次に、S2において、レコード抽出部32は、作業データDT1のうち時系列に記録された旋回角度を指数平滑化する。
【0052】
そして、S3において、レコード抽出部32は、指数平滑化された旋回角度に基づいて解体機10の旋回方向が所定方向から逆転した時刻に記録されたすべてのレコードを逆転位置レコードとして抽出する。
【0053】
具体的には、レコード抽出部32は、指数平滑化された旋回角度の関数の傾きの符号が逆転(プラスからマイナス又はマイナスからプラスに逆転)した時刻に記録されたすべてのレコードを逆転位置レコードとして抽出する。
【0054】
指数平滑化された旋回角度は、上部旋回体12が所定方向に旋回している最中は増加(又は減少)し続け、上部旋回体12が所定方向とは反対方向に旋回している最中は減少(又は増加)し続けるというという特性を有する。すなわち、上部旋回体12の旋回方向が逆転すると、指数平滑化された旋回角度の関数の傾きの符号も逆転する。S3では、このような特性を利用することで逆転位置レコードが特定されている。
【0055】
また、作業データDT1に記録された旋回角度の元データは、単調増加又は単調減少するものではなく、ノイズを含んでいる。そのため、逆転位置レコードの抽出(S3)において旋回角度の元データをそのまま使用すると、逆転位置レコードが誤って抽出される可能性がある。そこで、本実施形態では、S2において旋回角度の元データを指数平滑化し、S3において指数平滑化された旋回角度を用いて逆転位置レコードを特定している。
【0056】
S4において、レコード抽出部32は、逆転位置レコードの直前に記録されたレコードのうちニブラー14の開閉情報に「開」が記録されたレコードを開放位置レコードとして抽出する。より詳細には、レコード抽出部32は、逆転位置レコードよりも前に記録された所定数のレコードのうちニブラー14の開放情報に「開」が最初に記録されたレコードを開放位置レコードとして抽出する。
【0057】
なお、本実施形態において、逆転位置レコードの直前に記録されたレコードとは、単に逆転位置レコードの1つ前のレコードを意味するものではなく、逆転位置レコードよりも前に記録された所定数のレコードを意味するものである。なお、所定数は、作業データDT1のサンプリング間隔に応じて適宜設定される。
【0058】
S5において、レコード抽出部32は、直前に開放位置レコードを有する逆転位置レコードを開放後逆転位置レコードとして抽出する。つまり、レコード抽出部32は、ニブラー14が開放された後に旋回が逆転した時刻に記録されたレコードを開放後逆転位置レコードとして抽出する。逆に言えば、ニブラー14が閉じた状態のまま旋回が逆転した時刻に記録されたレコードは、開放後逆転位置レコードとして抽出されない。
【0059】
S6において、入力データ演算部33は、機械学習のアルゴリズムであるランダムフォレストに用いる入力データ(説明変数v=(d,d,d,d,d,d,d))を演算する。
【0060】
具体的には、入力データ演算部33は、S4で抽出した開放位置レコードに記録された作業情報とS5で抽出した開放後逆転位置レコードに記録された作業情報とを用いて入力データ(説明変数v)を演算する。
【0061】
より詳細には、図6に示すように、入力データ演算部33は、逆転位置における旋回角度の角度偏差d1、開放位置におけるニブラー14の位置座標d2,d3,d4、及び、開放位置から逆転位置までの経過時間d5、移動距離d6、移動旋回角度d7を説明変数vとして演算する。
【0062】
入力データ演算部33は、抽出されたすべての開放位置レコード及び開放後逆転位置レコードに関して、上述した説明変数v=(d1,d2,d3,d4,d5,d6,d7)を演算する。
【0063】
教師データDT2は、説明変数v=(d1,d2,d3,d4,d5,d6,d7)と、目的変数tとを関連付けて記録したものである。なお、目的変数tは、上述したとおり、作業期間中に撮影された動画を作業者が目視で確認した仕分先(正しい仕分先)を示す変数である。
【0064】
なお、説明の都合上、以下では、教師データDT2を教師データ集合S={(v,t)}とも表現する(図6参照)。
【0065】
S7において、予測モデル生成部34は、ランダムフォレストによる予測モデルを生成する。なお、ランダムフォレストとは、公知の機械学習のアルゴリズムであり、複数の決定木(弱識別器)の結果をあわせて識別・回帰・クラスタリングを行うアンサンブル学習アルゴリズムである。
【0066】
本実施形態では、複数の仕分先の中から解体部品の仕分先を特定するという分類問題を扱うため、ランダムフォレストの決定木として分類木が用いられる。
【0067】
図7に示すように、予測モデル生成部34は、教師データ集合Sの中から個々の決定木の学習に用いるトレーニングデータS,S,…,Sをブートストラップによってランダムにサンプリングする。
【0068】
予測モデル生成部34は、まず、トレーニングデータSの中から分岐に用いられるM個の変数をランダムサンプリングし、決定木Tを作成する。予測モデル生成部34は、このような処理を、トレーニングデータS,…,Sに関しても繰り返し実行し、最終的に、N個の決定木T,T,…,Tを生成する。
【0069】
なお、各決定木は、予め定められた深さまで分割される。また、根ノード及び中間ノードの分割基準にはジニ係数の値が用いられる。更に、葉ノードには目的変数tが設定される。
【0070】
S8において、仕分先特定部35は、N個の決定木T,T,…,Tに検証データDT3を入力し、それぞれ決定木T,T,…,Tによって分類された仕分先を多数決することで解体部品の仕分先を特定する。その結果、作業期間中における各解体部品の仕分先が、作業領域AR1とハーネス仕分先AR2と小部品仕分先AR3とのいずれかに分類される。
【0071】
図8の検証結果データDT4(DT41)は、教師データDT2を用いてN個の決定木T,T,…,T(予測モデル)を生成し、検証データDT3を用いて仕分精度を検証した結果である。
【0072】
具体的には、検証結果データDT41の1行目は、教師データDT2として15番のデータを用いて予測モデル(N個の決定木T,T,…,T)を生成し、検証データDT3として16~20番のデータを用いて当該予測モデルを検証した結果である。
【0073】
また、検証結果データDT41の2行目は、教師データDT2として16番のデータを用いて予測モデルを生成し、検証データDT3として15,17~20番のデータを用いて当該予測モデルを検証した結果である。検証結果データDT41の3~6行目も同様の基準で予測モデルを検証した結果である。
【0074】
検証結果データDT41では、平均で91.3パーセント(図8の太枠参照)の仕分精度が得られている。従来手法(ランダムフォレストを使用しないクラスタリング)では、平均で72%の仕分精度しか得られていなかったため、仕分精度が大幅に向上していることがわかる。
【0075】
また、図9の検証結果データDT4(DT42)は、上記実施形態よりも説明変数vの数を減らした予測モデル(比較例)による仕分精度を検証した結果である。比較例では、逆転位置における旋回角度の角度偏差d1と、開放位置から逆転位置までの経過時間d5、移動距離d6、移動旋回角度d7とを説明変数vから除外し、説明変数v=(d2,d3,d4)として予測モデルが生成されている。つまり、比較例では、ニブラー14の開放位置に関する情報のみを用いて予測モデルが生成されている。
【0076】
図9に示すように、検証結果データDT42では、平均で89.3パーセント(図9の太枠参照)の仕分精度が得られている。よって、上記実施形態と同様に、従来手法(ランダムフォレストを使用しないクラスタリング)に比べると仕分精度は向上している。
【0077】
ただし、上記実施形態に比べると上記比較例の仕分精度は劣っている。そのため、逆転位置における旋回角度の角度偏差d1と、開放位置から逆転位置までの経過時間d5、移動距離d6、移動旋回角度d7とが仕分精度の向上に寄与していることがわかる。
【0078】
上述したように、実際の作業では、ニブラー14で掴んだ解体部品が各仕分先に仕分けられる際、ニブラー14で掴んでいた解体部品が各仕分先よりも手前で放され、各仕分先に放り投げられている。そのため、ニブラー14の開放点は実際の仕分先よりも手前である可能性が高い。よって、ニブラー14の開放位置に関する情報のみで仕分先を特定しようとすると、仕分先を正確に特定できない可能性が高いことが推測されていた。
【0079】
他方、上部旋回体12は、ニブラー14が開放され解体部品が放り投げられた後も慣性によって多少旋回する。そのため、上部旋回体12の旋回が逆転する逆転位置が解体部品の仕分先と一致する可能性が高いと推測されていた。そこで、上記実施形態では、ニブラー14の開放位置に関する情報のみならず、上部旋回体12の旋回角度に関する情報がランダムフォレストの入力データ(説明変数)として用いられていた。
【0080】
図8の検証結果データDT41と図9の検証結果データDT42とを比較すると、解体部品の仕分先の特定において上部旋回体12の旋回角度に関する情報を考慮することが有効であることが明らかであるため、上述の推測が概ね正しかったと言える。
【0081】
図10の検証結果データDT4(DT43)は、教師データDT2の数を増やして生成した予測モデルの仕分精度を検証した結果である。
【0082】
具体的には、検証結果データDT43の1行目は、教師データDT2として15番のデータと16番のデータとを用いて予測モデルを生成し、検証データDT3として17~20番のデータを用いて当該予測モデルを検証した結果である。
【0083】
また、検証結果データDT43の2行目は、教師データDT2として15番のデータと17番のデータとを用いて予測モデルを生成し、検証データDT3として16,18~20番のデータを用いて当該予測モデルを検証した結果である。検証結果データDT43の3行目以降も同様の基準で予測モデルを検証した結果である。
【0084】
検証結果データDT43では、平均で96.0パーセント(図10の太枠参照)の仕分精度が得られている。よって、教師データDT2の数を増やした予測モデルでは、検証結果データDT41における平均の仕分精度(91.3%)よりも高い仕分精度が得られることがわかる。
【0085】
上述した実施形態によれば、解体部品の仕分作業において、ランダムフォレストによって機械学習したN個の決定木T,T,…,Tを用いて、作業期間中の各解体部品(ハーネス又は小部品)の仕分先を正確に特定することが可能である。
【0086】
特に、上述した実施形態によれば、ニブラー14の開放位置に関する情報のみならず、上部旋回体12の旋回角度に関する情報がランダムフォレストの入力データ(説明変数)として用いられている。そのため、解体部品の仕分作業において高い仕分精度を得ることが可能である。
【0087】
<2.変形例>
本発明による仕分先特定装置は上述の実施形態に限定されず、特許請求の範囲に記載した範囲で種々の変形や改良が可能である。
【0088】
例えば、上記実施形態では、ランダムフォレストを用いて予測モデルを生成する場合を例示したが、これに限定されない。ランダムフォレスト以外の機械学習のアルゴリズムを用いて予測モデルを生成するようにしてもよい。
【0089】
また、上記実施形態では、ランダムフォレストによる予測モデルで解体部品の仕分先を特定する場合を例示したが、これに限定されない。例えば、上述した開放後逆転位置レコードに記録された旋回角度が予め設定した範囲にあるか否かを判定することによって解体部品の仕分先を特定するようにしてもよい。
【0090】
具体的には、ハーネス仕分先AR2に対応する旋回角度範囲RG1と、小部品仕分先AR3に対応する旋回角度範囲RG2とを予め設定するようにすればよい。そして、開放後逆転位置レコードに記録された旋回角度が旋回角度範囲RG1の範囲内である場合には解体部品の仕分先をハーネス仕分先AR2と特定し、開放後逆転位置レコードに記録された旋回角度が旋回角度範囲RG2の範囲内である場合には解体部品の仕分先を小部品仕分先AR3と特定するようにすればよい。
【産業上の利用可能性】
【0091】
以上のように本発明による仕分先特定装置は、被操作機械の操作に伴って、作業領域で対象物を保持し、当該対象物を保持した状態で所定方向に旋回すると共に当該対象物を開放して複数の仕分先のいずれかに仕分け、所定方向とは反対に旋回して作業領域に戻る動作を繰り返す作業において、対象物の仕分先を正確に特定するのに適している。
【符号の説明】
【0092】
1 仕分先特定装置
3 制御部
5 記憶部
10 解体機
11 下部走行体
12 上部旋回体
13 アタッチメント
14 ニブラー
31 作業データ取得部
32 レコード抽出部
33 入力データ演算部
34 予測モデル生成部
35 仕分先特定部
AR1 解体作業領域
AR2 ハーネス仕分先
AR3 小部品仕分先
DT1 作業データ
DT2 教師データ
DT3 検証データ
DT4 検証結果データ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10