(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-29
(45)【発行日】2024-06-06
(54)【発明の名称】ルテニウムの半導体用処理液
(51)【国際特許分類】
H01L 21/308 20060101AFI20240530BHJP
【FI】
H01L21/308 F
(21)【出願番号】P 2022503672
(86)(22)【出願日】2021-02-25
(86)【国際出願番号】 JP2021006986
(87)【国際公開番号】W WO2021172397
(87)【国際公開日】2021-09-02
【審査請求日】2022-05-13
【審判番号】
【審判請求日】2023-06-22
(31)【優先権主張番号】P 2020029907
(32)【優先日】2020-02-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 伴光
(72)【発明者】
【氏名】吉川 由樹
(72)【発明者】
【氏名】下田 享史
(72)【発明者】
【氏名】根岸 貴幸
【合議体】
【審判長】恩田 春香
【審判官】中野 浩昌
【審判官】棚田 一也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/074601(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/150990(WO,A1)
【文献】特開2019-218436(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L21/308
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ルテニウムと配位する配位子と酸化剤を含む、ルテニウムの半導体用処理液であって、
前記酸化剤
が次亜臭素酸イオ
ンであり、
該次亜臭素酸イオンの濃度が0.01~1.9質量%であり、
前記ルテニウムと配位する配位子がカルボニル基を有する化合物であり、
前記ルテニウムと配位する配位子の濃度が0.01~35質量%である、ルテニウムの半導体用処理液。
【請求項2】
前記ルテニウムと配位する配位子が、下記式(1)~(4)で表される配位子からなる群から選ばれる一種以上である、請求項1に記載のルテニウムの半導体用処理液。
【化1】
(R
1およびR
2は独立して、水酸基若しくは/およびエーテル結合を含んでもよい炭素数1~10の炭化水素基、または水酸基である。)
【化2】
(R
3、R
5は独立して、水酸基若しくは/およびエーテル結合を含んでもよい炭素数1~10の炭化水素基、または水酸基であり、R
4は水酸基若しくは/およびエーテル結合を含んでもよい炭素数1~10の炭化水素基である。)
【化3】
(R
6、R
8、R
9は独立して、水酸基若しくは/およびエーテル結合を含んでもよい炭素数1~10の炭化水素基、または水酸基であり、R
7は水酸基若しくは/およびエーテル結合を含んでもよい炭素数1~10の炭化水素基である。)
【化4】
(R
10、R
12~14は独立して、水酸基若しくは/およびエーテル結合を含んでもよい炭素数1~10の炭化水素基、または水酸基であり、R
11は水酸基若しくは/およびエーテル結合を含んでもよい炭素数1~10の炭化水素基である。)
【請求項3】
前記ルテニウムと配位する配位子が、下記式(5)で表される配位子である、請求項1に記載のルテニウムの半導体用処理液。
【化5】
(R
15およびR
16は独立して、水酸基若しくは/およびエーテル結合を含んでもよい炭素数1~10の炭化水素基、または水酸基である。)
【請求項4】
前記カルボニル基を有する化合物が、シュウ酸、シュウ酸ジメチル、1,2,3,4,5,6-シクロヘキサンヘキサカルボン酸、コハク酸、酢酸、ブタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸、ジメチルマロン酸、グルタル酸、ジグリコール酸、クエン酸、マロン酸、1,3-アダマンタンジカルボン酸、または2,2-ビス(ヒドロキシメチル)プロピオン酸である、請求項2または3に記載のルテニウムの半導体用処理液。
【請求項5】
前
記次亜臭素酸イオンの濃度が0.012~1.9質量%である、請求項1~
4のいずれか一項に記載のルテニウムの半導体用処理液。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか一項に記載の処理液を用いる、ルテニウム含有ウェハを処理する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子の製造工程において、ルテニウムを含む半導体ウェハと処理液を接触させた際に発生するルテニウム含有ガスを抑制するための新規な処理液に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体素子のデザインルールの微細化が進んでおり、配線抵抗が増大する傾向にある。配線抵抗が増大した結果、半導体素子の高速動作が阻害されることが顕著になっており、対策が必要となっている。そこで、配線材料としては、従来の配線材料よりも、エレクトロマイグレーション耐性や抵抗値の低減された配線材料が所望されている。
【0003】
従来の配線材料であるアルミニウム、銅と比較して、ルテニウムは、エレクトロマイグレーション耐性が高く、配線の抵抗値を低減可能という理由で、特に、半導体素子のデザインルールが10nm以下の配線材料として、注目されている。その他、配線材料だけでなく、ルテニウムは、配線材料に銅を使用した場合でも、エレクトロマイグレーションを防止することが可能なため、銅配線用のバリアメタルとして、ルテニウムを使用することも検討されている。
【0004】
ところで、半導体素子の配線形成工程において、ルテニウムを配線材料として選択した場合でも、従来の配線材料と同様に、ドライ又はウェットのエッチングによって配線が形成される。しかしながら、ルテニウムはエッチングガスによるドライでのエッチングやCMP研磨によるエッチング、除去が難しいため、より精密なエッチングが所望されており、具体的には、ウェットエッチングが注目されている。
【0005】
ルテニウムをアルカリ性条件下でウェットエッチングする場合、ルテニウムは、例えばRuO4
-やRuO4
2-として処理液中に溶解する。RuO4
-やRuO4
2-は、処理液中でRuO4へと変化し、その一部がガス化して気相へ放出される。RuO4は強酸化性であるため人体に有害であるばかりでなく、容易に還元されてRuO2パーティクル(RuO2の粒子)を生じる。一般的に、RuO2パーティクルは歩留まり低下を招くため半導体形成工程において非常に問題となる。このような背景から、RuO4ガスの発生を抑制する事は非常に重要となる。
【0006】
特許文献1には、ルテニウム膜のエッチング液として、pHが12以上、かつ酸化還元電位が300mV vs.SHE以上である薬液が示されている。さらに、次亜塩素酸塩、亜塩素酸塩、又は臭素酸塩のようなハロゲンの酸素酸塩溶液を用いてルテニウム膜をエッチングする方法が提示されている。
【0007】
また、特許文献2には、オルト過ヨウ素酸を含むpH11以上の水溶液により、ルテニウムを酸化させ、溶解、除去する方法が提案されている。
【0008】
特許文献3には、ルテニウムの化学機械研磨(CMP)において、RuO4ガスを発生しないようなルテニウム配位酸化窒素配位子(N-O配位子)を含むCMPスラリーが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2002-161381号公報
【文献】国際公開第2016/068183号
【文献】国際公開第2009/017782号
【非特許文献】
【0010】
【文献】伊豆津公佑著、「非水溶液の電気化学」、培風館、1995年、p3
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、本発明者の検討によれば、先行技術文献に記載された従来の処理液では、以下の点で改善の余地があることが分かった。
【0012】
例えば、特許文献1に記載のルテニウムをエッチングする方法は、半導体基板の裏面やベベルに付着したルテニウム残渣の除去を目的としており、ルテニウムを溶解、除去することは可能である。しかしながら、特許文献1ではRuO4ガスの抑制について何ら言及されておらず、実際に特許文献1に記載の方法ではRuO4ガス発生を抑制する事は出来なかった。
【0013】
また、特許文献2では、オルト過ヨウ素酸を含むルテニウム除去組成物が開示されており、ルテニウムが含まれるエッチング残渣をエッチング可能であることが示されている。しかしながら、特許文献2ではRuO4ガスの抑制について何ら言及されておらず、エッチング処理中に発生するRuO4ガスを抑制することは出来なかった。
【0014】
その他、特許文献3には、CMPにおいてルテニウム配位酸化窒素配位子(N-O配位子)を含むCMPスラリーを使用する事で、毒性のあるRuO4ガスを抑制可能である事が示されている。しかし、特許文献3で示されているCMPスラリーは酸性であり、ルテニウムの溶解機構が異なるアルカリ性条件下では、特許文献3に示されるCMPスラリー組成によるRuO4ガスの抑制は難しい。事実、次亜塩素酸を含むアルカリ性のルテニウムエッチング液に、特許文献3に記載のルテニウム配位酸化窒素配位子を添加したところ、RuO4ガスが発生し、RuO4ガス抑制効果が無いことが確認された。
【0015】
したがって、本発明の目的は、ルテニウムを含む半導体ウェハと処理液をアルカリ性条件下において接触させる際に、RuO4ガスの発生を抑制可能な半導体ウェハ用処理液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った。そして、ルテニウムを含む半導体ウェハ用処理液に、種々の配位子を添加することを検討した。単にルテニウムを含む半導体ウェハ用処理液だけでは、RuO4ガスを抑制することが出来ないため、様々な添加成分を組み合せた。その結果、特定の配位子を添加することにより、RuO4ガス発生を抑制することが可能になることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0017】
すなわち、本発明の構成は以下の通りである。
項1 ルテニウムと配位する配位子を含む、ルテニウムの半導体用処理液。
項2 前記ルテニウムと配位する配位子がカルボニル基を有する化合物である、項1に記載のルテニウムの半導体用処理液。
項3 前記ルテニウムと配位する配位子が窒素を含む複素環式化合物である、項1に記載のルテニウムの半導体用処理液。
項4 前記ルテニウムと配位する配位子が、下記式(1)~(4)で表される配位子からなる群から選ばれる一種以上である、項1または2に記載のルテニウムの半導体用処理液。
【化1】
(R
1およびR
2は独立して、水酸基若しくは/およびエーテル結合を含んでもよい炭素数1~10の炭化水素基、または水酸基である。)
【化2】
(R
3、R
5は独立して、水酸基若しくは/およびエーテル結合を含んでもよい炭素数1~10の炭化水素基、または水酸基であり、R
4は水酸基若しくは/およびエーテル結合を含んでもよい炭素数1~10の炭化水素基である。)
【化3】
(R
6、R
8、R
9は独立して、水酸基若しくは/およびエーテル結合を含んでもよい炭素数1~10の炭化水素基、または水酸基であり、R
7は水酸基若しくは/およびエーテル結合を含んでもよい炭素数1~10の炭化水素基である。)
【化4】
(R
10、R
12~14は独立して、水酸基若しくは/およびエーテル結合を含んでもよい炭素数1~10の炭化水素基、または水酸基であり、R
11は水酸基若しくは/およびエーテル結合を含んでもよい炭素数1~10の炭化水素基である。)
項5 前記ルテニウムと配位する配位子が、下記式(5)で表される配位子である、項1または2に記載のルテニウムの半導体用処理液。
【化5】
(R
15およびR
16は独立して、水酸基若しくは/およびエーテル結合を含んでもよい炭素数1~10の炭化水素基、または水酸基である。)
項6 前記カルボニル基を有する化合物が、シュウ酸、シュウ酸ジメチル、1,2,3,4,5,6-シクロヘキサンヘキサカルボン酸、コハク酸、酢酸、ブタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸、ジメチルマロン酸、グルタル酸、ジグリコール酸、クエン酸、マロン酸、1,3-アダマンタンジカルボン酸、または2,2-ビス(ヒドロキシメチル)プロピオン酸である、項4または5に記載のルテニウムの半導体用処理液。
項7 前記窒素を含む複素環式化合物が、ピリジン化合物、ピペラジン化合物、トリアゾール化合物、ピラゾール化合物、またはイミダゾール化合物である、項3に記載のルテニウムの半導体用処理液。
項8 25℃におけるpHが7以上14以下である、項1~7のいずれか一項に記載のルテニウムの半導体用処理液。
項9 前記ルテニウムと配位する配位子の濃度が0.0001~60質量%である、項1~8のいずれか一項に記載のルテニウムの半導体用処理液。
項10 前記処理液が酸化剤を含む、項1~9のいずれか一項に記載のルテニウムの半導体用処理液。
項11 前記酸化剤が次亜塩素酸イオンであり、かつ該次亜塩素酸イオンの濃度が0.05~20.0質量%である、項10に記載のルテニウムの半導体用処理液。
項12 前記酸化剤が次亜臭素酸イオンであり、かつ該次亜臭素酸イオンの濃度が0.01~1.9質量%である、項10に記載のルテニウムの半導体用処理液。
項13 前記酸化剤が次亜臭素酸イオンであり、かつ該次亜臭素酸イオンの濃度が0.012~1.9質量%である、項10に記載のルテニウムの半導体用処理液。
項14 前記酸化剤が、次亜塩素酸イオンおよび次亜臭素酸イオンであり、並びに該次亜塩素酸イオンの濃度が0.05~20.0質量%であり、該次亜臭素酸イオンの濃度が0.01~1.9質量%である、項10に記載のルテニウムの半導体用処理液。
項15 前記酸化剤がオルト過ヨウ素酸またはメタ過ヨウ素酸である、項10に記載のルテニウムの半導体用処理液。
項16 項1~15のいずれか一項に記載の処理液を用いる、ルテニウム含有ウェハを処理する方法。
項17 ルテニウムと配位する配位子を含む、ルテニウム含有ガスの発生抑制剤。
項18 前記ルテニウムと配位する配位子がカルボニル基を有する化合物である、項17に記載のルテニウム含有ガスの発生抑制剤。
項19 前記ルテニウムと配位する配位子が窒素を含む複素環式化合物である、項17に記載のルテニウム含有ガスの発生抑制剤。
項20 前記カルボニル基を有する化合物が、下記式(1)~(4)で表される化合物からなる群から選ばれる一種以上である、項18に記載のルテニウム含有ガスの発生抑制剤。
【化6】
(R
1およびR
2は独立して、水酸基若しくは/およびエーテル結合を含んでもよい炭素数1~10の炭化水素基、または水酸基である。)
【化7】
(R
3、R
5は独立して、水酸基若しくは/およびエーテル結合を含んでもよい炭素数1~10の炭化水素基、または水酸基であり、R
4は水酸基若しくは/およびエーテル結合を含んでもよい炭素数1~10の炭化水素基である。)
【化8】
(R
6、R
8、R
9は独立して、水酸基若しくは/およびエーテル結合を含んでもよい炭素数1~10の炭化水素基、または水酸基であり、R
7は水酸基若しくは/およびエーテル結合を含んでもよい炭素数1~10の炭化水素基である。)
【化9】
(R
10、R
12~14は独立して、水酸基若しくは/およびエーテル結合を含んでもよい炭素数1~10の炭化水素基、または水酸基であり、R
11は水酸基若しくは/およびエーテル結合を含んでもよい炭素数1~10の炭化水素基である。)
項21 前記カルボニル基を有する化合物が、下記式(5)で表される化合物である、項18に記載のルテニウム含有ガスの発生抑制剤。
【化10】
(R
15およびR
16は独立して、水酸基若しくは/およびエーテル結合を含んでもよい炭素数1~10の炭化水素基、または水酸基である。)
項22 前記カルボニル基を有する化合物が、シュウ酸、シュウ酸ジメチル、1,2,3,4,5,6-シクロヘキサンヘキサカルボン酸、コハク酸、酢酸、ブタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸、ジメチルマロン酸、グルタル酸、ジグリコール酸、クエン酸、マロン酸、1,3-アダマンタンジカルボン酸、または2,2-ビス(ヒドロキシメチル)プロピオン酸である、項20または21に記載のルテニウム含有ガスの発生抑制剤。
項23 前記窒素を含む複素環式化合物が、ピリジン化合物、ピペラジン化合物、トリアゾール化合物、ピラゾール化合物、またはイミダゾール化合物である、項19に記載のルテニウム含有ガスの発生抑制剤。
項24 25℃におけるpHが7以上14以下である、項17~23のいずれか一項に記載のルテニウム含有ガスの発生抑制剤。
項25 前記ルテニウムと配位する配位子の濃度が0.0001~60質量%である、項17~24のいずれか一項に記載のルテニウム含有ガスの発生抑制剤。
項26 さらに酸化剤を含む、項17~25のいずれか一項に記載のルテニウム含有ガスの発生抑制剤。
項27 前記酸化剤が次亜塩素酸イオンであり、かつ該次亜塩素酸イオンの濃度が0.05~20.0質量%である、項26に記載のルテニウム含有ガスの発生抑制剤。
項28 前記酸化剤が次亜臭素酸イオンであり、かつ該次亜臭素酸イオンの濃度が0.01~1.9質量%である、項26に記載のルテニウム含有ガスの発生抑制剤。
項29 前記酸化剤が、次亜塩素酸イオンおよび次亜臭素酸イオンであり、並びに該次亜塩素酸イオンの濃度が0.05~20.0質量%であり、該次亜臭素酸イオンの濃度が0.01~1.9質量%である、項26に記載のルテニウム含有ガスの発生抑制剤。
項30 前記酸化剤がオルト過ヨウ素酸またはメタ過ヨウ素酸である、項26に記載のルテニウム含有ガスの発生抑制剤。
項31 項17~30のいずれか一項に記載のルテニウム含有ガスの発生抑制剤の使用。
項32 ルテニウムと配位する配位子を含む、ルテニウム含有廃液の処理剤。
項33 前記ルテニウムと配位する配位子がカルボニル基を有する化合物である、項32に記載のルテニウム含有廃液の処理剤。
項34 前記ルテニウムと配位する配位子が窒素を含む複素環式化合物である、項32に記載のルテニウム含有廃液の処理剤。
項35 前記カルボニル基を有する化合物が、下記式(1)~(4)で表される化合物からなる群から選ばれる一種以上である、項33に記載のルテニウム含有廃液の処理剤。
【化11】
(R
1およびR
2は独立して、水酸基若しくは/およびエーテル結合を含んでもよい炭素数1~10の炭化水素基、または水酸基である。)
【化12】
(R
3、R
5は独立して、水酸基若しくは/およびエーテル結合を含んでもよい炭素数1~10の炭化水素基、または水酸基であり、R
4は水酸基若しくは/およびエーテル結合を含んでもよい炭素数1~10の炭化水素基である。)
【化13】
(R
6、R
8、R
9は独立して、水酸基若しくは/およびエーテル結合を含んでもよい炭素数1~10の炭化水素基、または水酸基であり、R
7は水酸基若しくは/およびエーテル結合を含んでもよい炭素数1~10の炭化水素基である。)
【化14】
(R
10、R
12~14は独立して、水酸基若しくは/およびエーテル結合を含んでもよい炭素数1~10の炭化水素基、または水酸基であり、R
11は水酸基若しくは/およびエーテル結合を含んでもよい炭素数1~10の炭化水素基である。)
項36 前記カルボニル基を有する化合物が、下記式(5)で表される化合物である、項33に記載のルテニウム含有廃液の処理剤。
【化15】
(R
15およびR
16は独立して、水酸基若しくは/およびエーテル結合を含んでもよい炭素数1~10の炭化水素基、または水酸基である。)
項37 前記ルテニウムと配位する配位子の濃度が、0.0001~60質量%である、項32~36のいずれか一項に記載のルテニウム含有廃液の処理剤。
項38 項32~37のいずれか一項に記載の処理剤を用いる、ルテニウム含有廃液の処理方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明の処理液によれば、ルテニウムと配位する配位子の効果によって、半導体製造工程においてRuO2パーティクルおよび歩留まり低下の原因となる、ルテニウム含有ガスの発生を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(配位子)
配位子は、ルテニウムの溶解により生成されたルテニウム含有化合物(RuO4等)をトラップするために添加され、窒素、酸素、硫黄、リン等のヘテロ原子を含む化合物、より具体的には、例えば、アミノ基、ホスフィノ基、カルボキシル基、カルボニル基、チオール基を有する化合物や、窒素を含む複素環式化合物を含む。これらの配位子の中でも、後述する酸化剤に対する耐性の高い、カルボキシル基またはカルボニル基を有する化合物や、窒素を含む複素環式化合物は、ルテニウムの半導体用処理液、ルテニウム含有ガスの発生抑制剤、及び/またはルテニウム含有廃液の処理剤に含まれる配位子として好適に使用できる。なお、「ルテニウムの半導体」とは、ルテニウムを含む半導体を意味する。一般に、ルテニウム(Ru)と配位する配位子として様々な種類が知られているが、本明細書における「ルテニウムと配位する配位子」とは、後述するように、ルテニウム含有化合物(RuO4等)に配位するものを指す。すなわち、ルテニウム含有化合物に配位しないものは、本発明の「ルテニウムと配位する配位子」には含まれない。ルテニウム(Ru)と錯体を形成する配位子としては、例えば、塩化物イオン(Cl-)や硝酸イオン(NO3
-)などが知られている。しかし、これらの配位子は、ルテニウム(Ru)には配位するものの、ルテニウム含有化合物(RuO4等)には配位しないため、本発明の「ルテニウムと配位する配位子」には含まれない。この理由は必ずしも明らかではないが、Ru-O間の結合が強く、RuO4の酸素(O)と配位子(Cl-、NO3
-)の置換反応が遅いため、もしくは、Ru-O間の結合が強く、適当な空間配置を取れない(立体的な制約により配位できない)ためであると推測される。したがって、ルテニウムと配位する配位子、すなわち、ルテニウム含有化合物(RuO4等)と配位する配位子としては、適切な配位子を選ぶことが重要となる。
【0020】
本発明のルテニウムと配位する配位子がRuO4ガス発生を抑制するメカニズムは、次のように推測される。すなわち、アルカリ性の溶液中にルテニウムが溶解した場合、ルテニウムはRuO4
-やRuO4
2-のようなイオンあるいはRuO4やRuO2のような中性の分子(ルテニウム含有化合物;これらの化学種(イオンまたは中性の分子)をRuO4等と記すこともある)として存在する。RuO4
-やRuO4
2-、RuO2は溶液中でRuO4に変化し、その一部又は全部がRuO4ガスとして気相に放出される。以下、溶液中に溶解しているRuO4を例にRuO4ガス発生抑制メカニズムを説明する。RuO4中では、ルテニウム/酸素間の電気陰性度の差から、ルテニウムは電荷がプラスに偏った状態で存在する。このプラス電荷のルテニウムへ、本発明のルテニウムと配位する配位子に含まれるアミノ基、ホスフィノ基、カルボキシル基、カルボニル基、チオール基中のN、P、OまたはSの孤立電子対が配位すると考えられる。配位子が窒素を含む複素環式化合物である場合は、該窒素を含む複素環式化合物中のNの孤立電子対が、プラス電荷のルテニウムへ配位すると考えられる。該窒素を含む複素環式化合物中にN以外のヘテロ原子が含まれる場合は、さらに、P、OまたはSの孤立電子対がプラス電荷のルテニウムへ配位することも考えられる。
【0021】
また、C=Oの結合を有する、カルボニル基またはカルボキシル基では、以下のガス抑制機構も生じるため、特にガス抑制効果が高いと考えられる。RuO4は、それを構成するルテニウムの電気陰性度が金属の中では高い事から一般的に親電子性の強い金属酸化物として知られている。親電子性の強い金属酸化物は、不飽和結合炭素に配位しやすいため、不飽和結合を有するカルボニル基を含む化合物へRuO4が配位すると考えられる。配位子が窒素を含む複素環式化合物である場合は、該窒素を含む複素環式化合物の複素環またはヘテロ原子へRuO4が配位すると考えられる。
【0022】
このように、配位子がRuO4等に配位する場合と、配位子がRuO4等に逆配位される場合があるが、本出願ではいずれの場合も含めて「ルテニウムと配位する配位子」と定義する。また、上記、ルテニウムが溶解した溶液としては、例えば、ルテニウムが溶解した本発明のルテニウムの半導体用処理液、ルテニウム含有ガスの発生抑制剤、またはルテニウム含有廃液の処理剤等が挙げられる。(ルテニウムの半導体用処理液、ルテニウム含有ガスの発生抑制剤、及びルテニウム含有廃液の処理剤を総称して処理液等と記すこともある。)
【0023】
以上のメカニズムにより、処理液等において、RuO4等と配位子が結び付いた化合物(以下、ルテニウム配位体と記すこともある)が形成される。これにより、RuO4等がより大きな化学種となるため、また、無極性分子であるRuO4に極性を有する配位子が配位した事により、RuO4等は処理液等に安定して存在する事ができると考えられる。これにより、RuO4等のガス化が抑制される事で、RuO4ガスの発生量が低減される。さらに、RuO4の生成が妨げられるため、RuO4が還元することで生じるRuO2パーティクルの発生も抑制される、と推測される。
【0024】
以上の理由から、RuO4ガスの発生を抑制するためには、配位子が孤立電子対を含んでいればよいが、中でもカルボニル基若しくはカルボキシル基を含む配位子である場合、または窒素を含む複素環式化合物が配位子である場合は、上記のメカニズムで説明した通り、特にガス抑制効果が高い。なお、上記ガス抑制機構より、カルボニル基(C=O結合)を含む事が重要であり、カルボキシル基はカルボニル基を含んでいるため、本明細書中でカルボニル基と記載する場合、カルボキシル基中のC=O結合も含む。カルボニル基を含む化合物としては、中でも、酸化剤に対する安定性の高い、ケトン、カルボン酸、エステル、アミド、エノン、酸塩化物、酸無水物などからなる群から選ばれる一種以上が好ましい。
【0025】
上記配位子がカルボニル基を含む化合物である場合、該化合物は好ましくは式(1)~(5)で表される化合物からなる群から選ばれる一種以上である。
【0026】
【化16】
(R
1およびR
2は独立して、水酸基若しくは/およびエーテル結合を含んでもよい炭素数1~10の炭化水素基、または水酸基である。)
【0027】
【化17】
(R
3、R
5は独立して、水酸基若しくは/およびエーテル結合を含んでもよい炭素数1~10の炭化水素基、または水酸基であり、R
4は水酸基若しくは/およびエーテル結合を含んでもよい炭素数1~10の炭化水素基である。)
【0028】
【化18】
(R
6、R
8、R
9は独立して、水酸基若しくは/およびエーテル結合を含んでもよい炭素数1~10の炭化水素基、または水酸基であり、R
7は水酸基若しくは/およびエーテル結合を含んでもよい炭素数1~10の炭化水素基である。)
【0029】
【化19】
(R
10、R
12~14は独立して、水酸基若しくは/およびエーテル結合を含んでもよい炭素数1~10の炭化水素基、または水酸基であり、R
11は水酸基若しくは/およびエーテル結合を含んでもよい炭素数1~10の炭化水素基である。)
【0030】
【化20】
(R
15および
16は独立して、水酸基若しくは/およびエーテル結合を含んでもよい炭素数1~10の炭化水素基、または水酸基である。)
上記の構造を持つ配位子は、アルカリ性の処理液等の中で安定に存在しうる。また、上記式(1)~(5)において、R
1~16の炭素数、水酸基若しくは/およびエーテル結合の有無を適宜選択することで、該配位子の処理液等への溶解度、及び該配位子とRuO
4等から成る化合物の安定性を制御することが可能である。
【0031】
例えば、配位子の炭化水素基の炭素数が大きいと分子量が増えるため、該配位子の処理液等に対する溶解度は低下する。溶解度が低下すると処理液等に含まれる配位子の濃度が低下するため、RuO4ガスの抑制効果も低下する。このような理由から、効果的にガス抑制を行うために必要な溶解度を保つためには、R1~16の炭素数は10以下である事が好ましく5以下であることがより好ましい。
【0032】
上記RuO4ガスの抑制メカニズムで述べたとおり、RuO4中のルテニウムへ孤立電子対を有するOが配位する事から、上記式(1)~(5)中のR1~16は水酸基若しくは/およびエーテル結合を含む事が好ましい。
【0033】
本発明において、好適に使用できる配位子としては、
好ましくは、トリエタノールアミン、ニトリロ三酢酸、エチレンジアミン四酢酸、グリシンなどのアミン類、システイン、メチオニンなどのチオール類、トリブチルホスフィン、テトラメチレンビス(ジフェニルホスフィン)などのホスフィン類、酢酸、ギ酸、乳酸、グリコール酸、2,2-ビス(ヒドロキシメチル)プロピオン酸、グルコン酸、α―グルコへプトン酸、へプチン酸、フェニル酢酸、フェニルグリコール酸、ベンジル酸、没食子酸、けい皮酸、ナフトエ酸、アニス酸、サリチル酸、クレソチン酸、アクリル酸、安息香酸などのモノカルボン酸またはそのエステル類、リンゴ酸、アジピン酸、コハク酸、マレイン酸、酒石酸、シュウ酸、シュウ酸ジメチル、グルタル酸、マロン酸、1,3-アダマンタンジカルボン酸、ジグリコール酸、フタル酸などのジカルボン酸またはそのエステル類、クエン酸に代表されるトリカルボン酸またはそのエステル類、ブタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸に代表されるテトラカルボン酸またはそのエステル類、1,2,3,4,5,6-シクロヘキサンヘキサカルボン酸に代表されるヘキサカルボン酸またはそのエステル類、アセト酢酸エチル、ジメチルマロン酸などのカルボニル化合物等を挙げることができ、
より好ましくは、酢酸、ギ酸、乳酸、グリコール酸、2,2-ビス(ヒドロキシメチル)プロピオン酸、グルコン酸、α―グルコへプトン酸、へプチン酸、フェニル酢酸、フェニルグリコール酸、ベンジル酸、没食子酸、けい皮酸、ナフトエ酸、アニス酸、サリチル酸、クレソチン酸、アクリル酸、安息香酸などのモノカルボン酸またはそのエステル類、リンゴ酸、アジピン酸、コハク酸、マレイン酸、酒石酸、シュウ酸、シュウ酸ジメチル、グルタル酸、マロン酸、1,3-アダマンタンジカルボン酸、ジグリコール酸などのジカルボン酸またはそのエステル類、クエン酸に代表されるトリカルボン酸またはそのエステル類、ブタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸に代表されるテトラカルボン酸またはそのエステル類、1,2,3,4,5,6-シクロヘキサンヘキサカルボン酸に代表されるヘキサカルボン酸またはそのエステル類、アセト酢酸エチル、ジメチルマロン酸などのカルボニル化合物、
さらに好ましくは、シュウ酸、シュウ酸ジメチル、1,2,3,4,5,6-シクロヘキサンヘキサカルボン酸、コハク酸、酢酸、ブタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸、ジメチルマロン酸、グルタル酸、ジグリコール酸、クエン酸、マロン酸、1,3-アダマンタンジカルボン酸、または2,2-ビス(ヒドロキシメチル)プロピオン酸、等を挙げることができる。
【0034】
本発明に使用できる配位子としては、ルテニウム配位体を形成し得るものであればよく、異性体が存在する場合はそれに限定されない。例えば、乳酸は、D体とL体が存在するが、このような異性体の違いによって配位子が制限されるものではない。また、RuO4等への配位またはRuO4等からの逆配位においては、単座配位であってもよいし、キレートのような多座配位であってもよい。これらの場合、RuO4等1分子に対して、配位子1分子が配位してもよいし、複数の分子が配位してもよい。
【0035】
本発明において窒素を含む複素環式化合物とは、窒素を一つ以上含む複素環を有する化合物を指す。本発明の配位子として使用できる窒素を含む複素環式化合物としては、好ましくは、ピペリジン化合物、ピリジン化合物、ピペラジン化合物、ピリダジン化合物、ピリミジン化合物、ピラジン化合物、1,2,4-トリアジン化合物、1,3,5-トリアジン化合物、オキサジン化合物、チアジン化合物、シトシン化合物、チミン化合物、ウラシル化合物、ピロリジン化合物、ピロリン化合物、ピロール化合物、ピラゾリジン化合物、イミダゾリジン化合物、イミダゾリン化合物、ピラゾール化合物、イミダゾール化合物、トリアゾール化合物、テトラゾール化合物、オキサゾール化合物、チアゾール化合物、オキサジアゾール化合物、チアジアゾール化合物、チアゾリジンジオン化合物、スクシンイミド化合物、オキサゾリドン化合物、ヒダントイン化合物、インドリン化合物、インドール化合物、インドリジン化合物、インダゾール化合物、イミダゾール化合物、アザインダゾール化合物、インドール化合物、プリン化合物、ベンゾイソオキサゾール化合物、ベンゾイソチアゾール化合物、ベンゾオキサゾール化合物、ベンゾチアゾール化合物、アデニン化合物、グアニン化合物、カルバゾール化合物、キノリン化合物、キノリジン化合物、キノキサリン化合物、フタラジン化合物、キナゾリン化合物、シンノリン化合物、ナフチリジン化合物、ピリミジン化合物、ピラジン化合物、プテリジン化合物、オキサジン化合物、キノリノン化合物、アクリジン化合物、フェナジン化合物、フェノキサジン化合物、フェノチアジン化合物、フェノキサチイン化合物、キヌクリジン化合物、アザアダマンタン化合物、アゼピン化合物、ジアゼピン化合物、などを例示することができ、より好ましくは、ピリジン化合物、ピペラジン化合物、ベンゾトリアゾール等のトリアゾール化合物、ピラゾール化合物、イミダゾール化合物を例示できるが、これらに限定されるものではない。窒素を含む複素環式化合物において、異性体が存在する場合は、区別することなく本発明の配位子として使用できる。例えば、窒素を含む複素環式化合物がインドール化合物である場合、1H-インドールであってもよいし、2H-インドールであってもよいし、3H-インドールであってもよいし、これらの混合物であってもよい。また、窒素を含む複素環式化合物は任意の官能基で修飾されていてもよく、複数の環が縮合した構造を有していてもよい。窒素を含む複素環式化合物は一種類であってもよく、複数種を組み合わせて用いてもよい。本発明の配位子として、窒素を含む複素環式化合物と、窒素を含む複素環式化合物以外のルテニウムと配位する配位子とを組み合わせて用いることもできる。
【0036】
本発明のルテニウムと配位する配位子が窒素を含む複素環式化合物である場合、上記のメカニズムにより、該窒素を含む複素環式化合物中のNの孤立電子対がプラス電荷のルテニウムへ配位する、または、該窒素を含む複素環式化合物の複素環若しくはヘテロ原子へRuO4が配位することで、RuO4等のガス化が抑制され、RuO4ガスの発生量が低減されると考えられる。さらに、RuO4の生成が妨げられるため、RuO4が還元することで生じるRuO2パーティクルの発生も抑制される、と推測される。
【0037】
本発明の配位子が、後述する処理液およびルテニウムを処理するための液(以下、総称してルテニウムの半導体用処理液とも記載)に含まれる場合に発現する効果としては、RuO4ガスの抑制だけでなく、ルテニウムの半導体用処理液における安定性の向上も挙げられる。本発明の配位子は、ルテニウム以外の金属にも配位する能力を有する。すなわち、ルテニウムの半導体用処理液に不純物として微量に含まれる金属に配位する事で、金属不純物を原因とした該処理液の安定性低下を抑制する事が可能となる。さらにルテニウムの半導体用処理液中に酸化剤が含まれる場合、本発明の配位子は、酸化剤の安定性の向上にも効果を示す。すなわち、本発明の配位子が該処理液中で金属不純物と配位する事で、該金属と酸化剤との反応活性が低下し、酸化剤の分解が抑制されるため、該処理液の安定性が向上する。
【0038】
さらに、配位子と金属が結び付く事を利用して、ルテニウムを含むウェハを処理する際に、処理後のウェハ表面に残存する金属量を低減することも可能となる。これは、ルテニウムの半導体用処理液に含まれる配位子により補足された金属が、錯体、キレートなどの形でルテニウムの半導体用処理液中に安定に存在しうる事を利用している。
【0039】
(処理液)
本発明のルテニウムの半導体用処理液(以下、単に処理液とも記載)は、RuO4ガスなどのルテニウム含有ガスの発生を抑制しながらルテニウムを含む半導体ウェハを処理できる処理液である。そのため、本発明の処理液は、半導体製造工程におけるエッチング工程、残渣除去工程、洗浄工程、CMP工程、ルテニウム含有廃液処理工程等で好適に用いることができる処理液である。
【0040】
本発明の処理液が適用される半導体ウェハに含まれるルテニウムは、いかなる方法により形成されていてもよい。ルテニウムの成膜には、半導体製造工程で広く公知の方法、例えば、CVD、ALD、スパッタ、めっき等を利用できる。これらのルテニウムは、金属ルテニウムであってもよいし、ルテニウム酸化物や、他の金属との合金、金属間化合物、イオン性化合物、錯体であってもよい。また、ルテニウムはウェハの表面に露出していてもよいし、他の金属や金属酸化膜、絶縁膜、レジスト等に覆われていてもよい。他の材料に覆われている場合であっても、ルテニウムが処理液に接触してルテニウムの溶解が起こる際、本発明の処理液に含まれる配位子によりRuO4ガスなどのルテニウム含有ガスの発生抑制効果が発揮される。さらに、本発明の処理液は、ルテニウムを積極的に溶解させない場合、すなわち、ルテニウムが保護の対象である処理であっても、極僅かに溶解したルテニウムから発生するRuO4ガスなどのルテニウム含有ガスを抑制する事が可能である。
【0041】
また、処理液中の配位子の濃度は0.0001~60質量%である事が好ましい。配位子の添加量が少なすぎると、RuO4等との相互作用が弱まりRuO4ガス抑制効果が低減するだけでなく、処理液中に溶解可能なRuO4等の量が少なくなるため、処理液の再使用(リユース)回数が少なくなる。一方、添加量が多すぎると、配位子のルテニウム表面への吸着量が増大し、ルテニウム溶解速度の低下や、ルテニウム表面の不均一なエッチングの原因となる。したがって、本発明の処理液は、配位子を0.0001~60質量%含むことが好ましく、0.01~35質量%含むことがより好ましく、0.1~20質量%含むことがさらに好ましい。なお、配位子を添加するに場合には、1種のみを添加してもよいし、2種以上を組み合わせて添加してもよい。2種類以上の配位子を含む場合であっても、配位子の濃度の合計が上記の濃度範囲であれば、RuO4ガスの発生を効果的に抑制する事ができる。
【0042】
例えば、ルテニウム配線形成工程において本発明の処理液を用いる場合は、次のようになる。まず、半導体(例えばSi)からなる基体を用意する。用意した基体に対して、酸化処理を行い、基体上に酸化シリコン膜を形成する。その後、低誘電率(Low-k)膜からなる層間絶縁膜を成膜し、所定の間隔でビアホールを形成する。ビアホール形成後、熱CVDによって、ルテニウムをビアホールに埋め込み、さらにルテニウム膜を成膜する。このルテニウム膜を本発明の処理液を用いてエッチングすることで、RuO4ガス発生を抑制しながら平坦化を行う。これにより、RuO2パーティクルが抑制された、信頼性の高いルテニウム配線を形成できる。
【0043】
また、本発明の処理液による半導体ウェハの処理方式は、ウェットエッチングに限定されるものではなく、洗浄用途や残渣除去用途の処理液としても好適に利用できる。例えば、洗浄用途に用いる場合には、酸化剤等を含む処理液等でルテニウムを含むウェハのウェットエッチングを行った後に、本発明のルテニウムと配位する配位子を含む処理液で該ウェハを洗浄することができる。ルテニウムと配位する配位子を含む処理液で洗浄することで、ウェットエッチングにより生じたルテニウム含有化合物をルテニウム配位体とし、RuO4ガスの発生を抑制すると共にRuO2パーティクル生成を防ぐことが可能となる。本発明のルテニウムと配位する配位子を含む処理液でウェハを洗浄した後、所望により、水等でリンスをすることもできる。さらに、本発明の処理液をCMP研磨に用いれば、CMP研磨工程においてもRuO4ガスの発生を抑制する事が可能である。本発明の処理液によるルテニウムを含むウェハの処理は、枚葉処理でもよく、浸漬処理でもよい。本発明の処理液は、ルテニウムのエッチング液に含まれていてもよいし、廃液処理という目的でRuO4ガスを抑制するためにルテニウム含有溶液へ添加してもよい。また、処理液の温度は特に制限されることはなく、いずれの処理温度においても、処理液に含まれる配位子によりRuO4ガス抑制効果が発揮される。
【0044】
本発明の処理液において、配位子および下記に詳述する有機溶媒及びその他の添加剤以外の残分は水である。本発明の処理液に含まれる水は、蒸留、イオン交換処理、フィルター処理、各種吸着処理などによって、金属イオンや有機不純物、RuO2パーティクルなどが除去された水が好ましく、特に純水、または超純水が好ましい。このような水は、半導体製造に広く利用されている公知の方法で得ることができる。
【0045】
本発明の処理液は酸化剤を含んでいてもよい。
(酸化剤)
酸化剤は、半導体ウェハに含まれるルテニウムを実質的に溶解し得る能力を有するものを指す。酸化剤としてはルテニウムを溶解し得る酸化剤として公知の酸化剤を何ら制限なく用いることができる。該酸化剤の一例を挙げれば、ハロゲン酸素酸、過マンガン酸、およびこれらの塩、過酸化水素、オゾン、セリウム(IV)塩等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。ここで、ハロゲン酸素酸は、次亜塩素酸、亜塩素酸、塩素酸、過塩素酸、次亜臭素酸、亜臭素酸、臭素酸、過臭素酸、次亜ヨウ素酸、亜ヨウ素酸、ヨウ素酸、メタ過ヨウ素酸、オルト過ヨウ素酸またはこれらのイオンを指す。該酸化剤を含む半導体ウェハ用処理液は、ウェハに含まれるルテニウムを溶解することができるため、該酸化剤とルテニウムと配位する配位子を含む処理液は、ルテニウムの溶解とRuO4ガス抑制を同時に行うことができる。また、処理液が酸化剤を含有することで、ルテニウムの溶解が促進されると共に、析出したRuO2パーティクルの再溶解が促進される。このため、配位子と酸化剤を含有する処理液は、RuO4ガスとRuO2パーティクルの発生を抑制しながら効率的にルテニウム含有ウェハの処理を行うことができる。
【0046】
該酸化剤のうち、アルカリ性で安定して使用でき、濃度範囲を広く選択できることから、ハロゲン酸素酸、ハロゲン酸素酸のイオン、または過酸化水素が酸化剤として好適であり、次亜塩素酸、次亜臭素酸、メタ過ヨウ素酸、オルト過ヨウ素酸、またはそれらのイオンがより好適であり、次亜塩素酸、次亜臭素酸、次亜塩素酸イオン、または次亜臭素酸イオンが最も好適である。また、これらの酸化剤は塩として処理液中に存在していてもよく、該塩としては、例えば、次亜塩素酸テトラアルキルアンモニウム、または次亜臭素酸テトラアルキルアンモニウムが好適である。これらの塩に含まれるテトラアルキルアンモニウムイオンのアルキル鎖は炭素数1~5であることが好ましく、炭素数1の次亜塩素酸テトラメチルアンモニウム、または次亜臭素酸テトラメチルアンモニウムがより好適である。なお、処理液に含まれる酸化剤としては、1種であってもよいし、2種以上が含まれていてもよい。
【0047】
上記次亜塩素酸テトラメチルアンモニウムまたは次亜臭素酸テトラメチルアンモニウムの製造方法は特に制限されず、広く公知の方法により製造したものを用いることができる。例えば、水酸化テトラメチルアンモニウムに塩素または臭素を吹き込む方法や、次亜塩素酸または次亜臭素酸と水酸化テトラメチルアンモニウムを混合する方法、イオン交換樹脂を用いて次亜塩素酸塩または次亜臭素酸塩溶液中のカチオンをテトラメチルイオンに置換する方法、次亜塩素酸塩または次亜臭素酸を含む溶液の蒸留物と水酸化テトラメチルアンモニウムとを混合する方法などにより製造された、次亜塩素酸テトラメチルアンモニウムまたは次亜臭素酸テトラメチルアンモニウムを好適に用いることができる。
【0048】
本発明の処理液が次亜塩素酸イオンを含む処理液である場合、次亜塩素酸イオンの濃度の範囲は、処理液全体に対して、0.05~20.0質量%であることが好ましい。上記範囲内であれば、処理液中の次亜塩素酸イオンの分解反応を抑制し、該次亜塩素酸イオンの濃度の低下を抑制し、20Å/分以上のエッチング速度でルテニウムをエッチングすることが可能である。そのため、次亜塩素酸イオンの濃度の範囲は、好ましくは0.1~15質量%であり、より好ましくは0.3~10質量%であり、さらに好ましくは0.5~6質量%であり、特に好ましくは0.5~4質量%である。なお、本発明の処理液が次亜塩素酸イオンを含む処理液である場合、処理液のpHによっては、次亜塩素酸イオンは共役酸である次亜塩素酸として存在することがある。このような場合は、処理液に含まれる次亜塩素酸イオンと次亜塩素酸の合計濃度が上記濃度範囲にあればよい。
【0049】
本発明の処理液が次亜臭素酸イオンを含む処理液である場合、該次亜臭素酸イオンの濃度は、本発明の目的を逸脱しない限り特に制限されることはないが、好ましくは、0.01質量%以上1.9質量%以下である。0.01質量%未満ではルテニウムをエッチングする速度が小さく、実用性が低い。一方、1.9質量%を超える場合は、次亜臭素酸イオンの分解が生じやすくなるため、ルテニウムのエッチング速度が安定しにくくなる。ルテニウムのエッチングを十分な速度で安定して行うためには、0.012質量%以上1.9質量%以下であることがより好ましく、該次亜臭素酸イオンの濃度が0.048質量%以上1.9質量%以下であることがさらに好ましく、0.096質量%以上1.0質量%以下であることが最も好ましい。なお、本発明の処理液が次亜臭素酸イオンを含む処理液である場合、処理液のpHによっては、次亜臭素酸イオンは共役酸である次亜臭素酸として存在することがある。このような場合は、処理液に含まれる次亜臭素酸イオンと次亜臭素酸の合計濃度が上記濃度範囲にあればよい。
【0050】
本発明の処理液および後述するルテニウム含有ガスの発生抑制剤が次亜臭素酸イオンを含む場合、次亜臭素酸イオン以外の酸化剤(第二の酸化剤)をさらに含有することが好ましい。第二の酸化剤が本発明の処理液およびルテニウム含有ガスの発生抑制剤に含まれることで、次亜臭素酸イオンが分解して生じた臭化物イオン(Br-)を再び次亜臭素酸イオンに酸化する役割を果たす。本発明の処理液およびルテニウム含有ガスの発生抑制剤は、次亜臭素酸イオンおよび第二の酸化剤に加え、これらの酸化剤とは異なる酸化剤をさらに含んでいてもよいが、次亜臭素酸イオンおよび第二の酸化剤が含まれることで、後述する通り、エッチング速度の安定性向上と、さらなるRuO4ガスの発生量抑制が期待できる。
【0051】
ルテニウムを酸化する際、次亜臭素酸イオンはBr-へと還元される。また、次亜臭素酸イオンは処理液中で容易に自然分解し、一部がBr-へと変化する。さらに、次亜臭素酸イオンは紫外線、可視光線により分解が促進され、一部がBr-へと変化する。さらに、次亜臭素酸イオンは加熱や酸との接触、金属との接触によっても分解が進み、一部がBr-へと変化する。次亜臭素酸イオンの還元や分解により生じたBr-はルテニウムを溶解しないため、次亜臭素酸イオンの還元または分解が進むと、ルテニウムエッチング速度および溶液の酸化還元電位が低下する。処理液およびルテニウム含有ガスの発生抑制剤に適切な第二の酸化剤が含まれることで、還元または分解により生じたBr-を次亜臭素酸イオンに酸化することができ、ルテニウムエッチング速度および酸化還元電位の低下を緩やかにすることが可能となる。すなわち、次亜臭素酸イオンと適切な第二の酸化剤が、処理液およびルテニウム含有ガスの発生抑制剤に含まれることで、エッチング速度の安定時間は長くなり、かつRuO4ガスの発生量は低下する。RuO4ガスの発生量が低下する理由は、後述するように、溶液の酸化還元電位を保つ事で、配位子がルテニウム含有化合物に配位しやすくなるためである。
【0052】
処理液およびルテニウム含有ガスの発生抑制剤中に含まれてもよい、第二の酸化剤は、第二の酸化剤/該第二の酸化剤が還元して生じる化学種間の酸化還元電位が、次亜臭素酸イオン/Br-系の酸化還元電位を超えることが好ましい。このような第二の酸化剤を用いれば、Br-を次亜臭素酸イオンに酸化することができる。処理液およびルテニウム含有ガスの発生抑制剤中に含まれてもよい第二の酸化剤/該第二の酸化剤が還元して生じる化学種間の酸化還元電位は、第二の酸化剤及び該第二の酸化剤が還元して生じる化学種の濃度、溶液の温度およびpH等により変化するが、これらの条件に依らず、第二の酸化剤/該第二の酸化剤が還元して生じる化学種間の酸化還元電位が、次亜臭素酸イオン/Br-系の酸化還元電位を超えていればよい。
【0053】
一方、処理液およびルテニウム含有ガスの発生抑制剤に含まれてもよい第二の酸化剤において、第二の酸化剤/該第二の酸化剤が還元して生じる化学種間の酸化還元電位の上限は、本発明の目的を逸脱しない限り特に制限されることはない。しかしながら、該酸化還元電位がRuO4
-/RuO4系の酸化還元電位(1.0V vs. SHE)より高い場合は、処理液およびルテニウム含有ガスの発生抑制剤に溶解したRuO4
-やRuO4
2-等が酸化剤によりRuO4へと酸化され、RuO4ガス発生が増える可能性がある。このような場合は処理液に加える第二の酸化剤の量や、第二の酸化剤を添加するタイミングを適宜調整することで、RuO4
-からRuO4への酸化を抑制し、RuO4ガス発生量を制御することが可能である。
【0054】
本発明の処理液およびルテニウム含有ガスの発生抑制剤に含まれてもよい第二の酸化剤は、半導体製造において問題となる金属元素を含まないこと、また、溶液への溶解度が高く、溶液内で安定に存在し、濃度調整しやすいという理由から、次亜塩素酸イオンである事が好ましい。
【0055】
本発明の処理液およびルテニウム含有ガスの発生抑制剤が、次亜臭素酸イオンおよび次亜塩素酸イオンを含む場合、該次亜塩素酸イオンの濃度は、本発明の趣旨を逸脱しない限り制限されないが、0.05質量%以上20質量%以下であることが好ましい。次亜塩素酸イオンの濃度が0.05質量%より小さいとBr-を効率よく酸化することができず、ルテニウムエッチングレートおよび溶液の酸化還元電位が低下する。一方、次亜塩素酸イオンの添加量が20質量%より大きいと、次亜塩素酸イオンの安定性が低下するので適当でない。ルテニウムエッチング速度およびRuO4ガス抑制の観点から、次亜塩素酸イオンの濃度は、0.3質量%以上7質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以上4質量%以下であることが最も好ましい。なお、次亜臭素酸イオンと次亜塩素酸イオンが共存する系における次亜臭素酸イオンの好ましい濃度範囲は、上記記載の範囲と同じである。なお、処理液のpHによっては、次亜臭素酸イオンまたは次亜塩素酸イオンは、それぞれ共役酸である次亜臭素酸または次亜塩素酸として存在することがある。このような場合は、処理液に含まれる次亜臭素酸イオンおよび次亜臭素酸の合計濃度、並びに次亜塩素酸イオンおよび次亜塩素酸の合計濃度は、それぞれ、上記濃度範囲にあればよい。
【0056】
(有機溶媒)
上記のように、本発明では、ルテニウムが溶解する際に生成されたRuO4等へ配位子が配位する事により、RuO4等が処理液中に保持される事で、RuO4ガスの発生を抑制している。この場合、ルテニウム配位体の処理液中における溶解度を超えた場合は沈殿物となる。この沈殿物は半導体形成工程においてRuO2パーティクルの要因となるため、歩留まりの低下を招く。そのため、沈殿物を生じさせないことが重要であり、それにはルテニウム配位体の溶解度を上げることが好ましい。この方法として有機溶媒の添加が有効である。
【0057】
一般に、溶媒の比誘電率が低いほど、電気的に中性である化学種を溶解しやすくなる。ルテニウム配位体が電気的に中性である場合、溶媒の比誘電率が低い方が溶解しやすい。また、ルテニウム配位体が電荷を有する場合でも、該ルテニウム配位体は嵩高いため電荷密度が低く、溶媒の比誘電率が低いほうが安定に存在できる。したがって、ルテニウム配位体の溶解度を上昇させるためには、本発明の処理液に添加する有機溶媒として、水の比誘電率78(非特許文献1)よりも低い比誘電率をもつ有機溶媒を添加することが望ましい。このようにすることで、処理液の比誘電率を水のみの場合に比べて低下させることができ、ルテニウム配位体の溶解度を上げ、RuO4ガスの発生を効果的に抑制する事ができる。添加する有機溶媒としては、水よりも低い有機溶媒であればどのような有機溶媒を用いてもよいが、25℃における比誘電率が45以下のものが好ましい。
【0058】
このような有機溶媒を具体的に挙げれば、1,4-ジオキサン(比誘電率2.2)、四塩化炭素(比誘電率2.2)、ベンゼン(比誘電率2.3)、トルエン(比誘電率2.4)、プロピオン酸(比誘電率3.4)、トリクロロエチレン(比誘電率3.4)、ジエチルエーテル(比誘電率4.3)、クロロホルム(比誘電率4.9)、酢酸(比誘電率6.2)、安息香酸メチル(比誘電率6.6)、ギ酸メチル(比誘電率8.5)、フェノール(比誘電率9.8)、p-クレゾール(比誘電率9.9)、イソブチルアルコール(比誘電率17.9)、アセトン(比誘電率20.7)、ニトロエタン(比誘電率28.1)、アセトニトリル(比誘電率37)、エチレングリコール(比誘電率37.7)、スルホラン(比誘電率43)、等であるが、当然のことながら、有機溶媒はこれらに限定されるものではない。比誘電率の低い有機溶媒を添加する場合、水と混和しにくい場合もあり得る。しかし、そのような場合であっても、水に僅かに溶解した有機溶媒によりルテニウム配位体の溶解度を高めることが可能であり、有機溶媒の添加はRuO4ガス発生の抑制に有効である。
【0059】
処理液中に酸化剤が含まれる場合、有機溶媒が酸化剤によって分解されることを防ぐため、両者は反応しないことが好ましいが、酸化剤との反応性が低いものであればどのような有機溶媒を用いてもよい。一例を挙げれば、酸化剤がハロゲン酸素酸またはハロゲン酸素酸イオンである場合には、スルホラン類、アルキルニトリル類、ハロゲン化アルカン類、エーテル類などは上記酸化剤との反応性が低いため、処理液に添加する有機溶媒として好適に用いることができる。このような有機溶媒を具体的に挙げれば、スルホラン、アセトニトリル、四塩化炭素、1,4-ジオキサン等であるが、当然のことながら、有機溶媒はこれらに限定されるものではない。
【0060】
有機溶媒は、沈殿物生成を抑制するのに必要な量を添加すればよい。このため、処理液中の有機溶媒の濃度は0.1質量%以上であればよいが、ルテニウム配位体の溶解量を増やし、RuO4等をルテニウム配位体として安定に溶液内に保持するため、有機溶媒の濃度は1質量%以上である事が好ましい。また、ルテニウムの溶解性や処理液の保存安定性を損なわない範囲であれば、有機溶媒の添加量が多いほど処理液中に溶解し得るルテニウム配位体の量が増えるため、沈殿物生成を抑制できるだけでなく、有機溶媒が少量蒸発した場合でもRuO4ガス発生の抑制効果が低下しない、処理液を再利用した際にもRuO4ガス発生を抑制できるなど、利点が多い。一方、有機溶媒の濃度の上限として、例えば、30質量%を挙げることができる。さらに、添加する有機溶媒は1種類であっても、複数を組み合わせて添加してもよい。複数の有機溶媒を組み合わせて添加する場合でも、添加した有機溶媒の合計濃度が上記範囲内であれば、RuO4ガスの発生を抑制できる。
【0061】
有機溶媒として揮発性の高い溶媒を用いると、半導体ウェハを処理している間に処理液中の有機溶媒が蒸発するため、有機溶媒の濃度が変化して処理液の比誘電率が変化し、安定した処理が難しくなる。また、保存安定性の観点からも有機溶媒は揮発性の低いものが好ましい。具体的には、20℃における蒸気圧が50mmHg以下である有機溶媒が好ましく、20mmHg以下である有機溶媒がより好ましい。
【0062】
本発明の処理液は、25℃におけるpHが、7以上14以下であることが好ましい。処理液のpHが7未満の場合は、RuО2パーティクルを生じやすくなり、RuО4ガスの発生量が多くなるといった問題が生じる。また、処理液中に含まれる酸化剤がハロゲン酸素酸あるいはハロゲン酸素酸イオンである場合、pHが7未満では酸化剤の分解が進行する。一方、pHが14を超えると、ルテニウムをエッチングしにくくなるため処理液として適していない。したがって、本発明の処理液がRuО4ガス発生抑制能を十分に発揮するためには、処理液のpHは7以上14以下が好ましく、7超14以下であることがより好ましく、9以上13以下がさらに好ましい。
【0063】
(その他の添加剤)
本発明の処理液には、所望により本発明の目的を損なわない範囲で、従来から半導体用処理液に使用されているその他の添加剤を配合してもよい。例えば、その他の添加剤として、酸、金属防食剤、水溶性有機溶媒、フッ素化合物、還元剤、錯化剤、キレート剤、界面活性剤、消泡剤、pH調整剤、安定化剤などを加えることができる。これらの添加剤は単独で添加してもよいし、複数を組み合わせて添加してもよい。
【0064】
これらの添加剤に由来して、また、処理液の製造上の都合などにより、本発明の処理液には、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン等が含まれていてもよい。例えば、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン等が含まれてもよい。しかし、これらアルカリ金属イオン、およびアルカリ土類金属イオン等は、半導体ウェハ上に残留した場合、半導体素子に悪影響(半導体ウェハの歩留まり低下等の悪影響)を及ぼすことから、その量は少ない方が好ましく、実際には限りなく含まれない方がよい。具体的には、アルカリ金属イオンおよびアルカリ土類金属イオンはその合計量が、1質量%以下であることが好ましく、0.7質量%以下であることがより好ましく、0.3質量%以下であることがさらに好ましく、10ppm以下であることが特に好ましく、500ppb以下であることが最も好ましい。そのため、例えばpH調整剤としては、水酸化ナトリウム等の水酸化アルカリ金属や水酸化カルシウム等の水酸化アルカリ土類金属に代表される無機アルカリではなく、アンモニア、アミン、コリン又は水酸化テトラアルキルアンモニウム等の有機アルカリであることが好ましい。
【0065】
(ルテニウム含有ガスの発生抑制剤)
ルテニウム含有ガスの発生抑制剤とは、ルテニウムを処理するための液に添加する事で、ルテニウム含有ガスの発生を抑制するものであり、ルテニウムと配位する配位子を含む液を指す。
【0066】
ルテニウムを処理するための液は、ルテニウムと接触し、該ルテニウムに物理的、化学的変化を与える成分を含む液であればどのような液でもよく、例えば、酸化剤を含む溶液が例示される。該酸化剤としては、本発明の処理液の説明で例示したような酸化剤を挙げることができる。ルテニウムを処理するための液で処理されたルテニウムは、その全部または一部が該処理液中に溶解、分散、または沈殿し、RuO4ガス及び/またはRuO2パーティクルを生じる原因となる。
【0067】
ルテニウムを処理するための液と本発明のルテニウム含有ガスの発生抑制剤とを含む液(ガス発生抑制剤を含有する処理液とも表記する)では、該処理液中に存在するRuO4等と、配位子とが、該処理液に溶解するルテニウム配位体を形成する。これにより、RuO4等から処理液に溶存するRuO4及びRuO2パーティクルが形成されることが抑制される。これは、処理液に溶存したRuO4から生じるRuO4ガスを大幅に低減するとともに、RuO4ガスにより生じるRuO2パーティクルの生成を抑えるためである。
【0068】
上記で説明したとおり、本発明のルテニウムの半導体用処理液は、ルテニウムと配位する配位子を含むため、RuO4ガスを発生させることなく、ルテニウムを含む半導体ウェハを処理できる処理液である。すなわち、該処理液は、ルテニウムを処理するための液であると同時にルテニウム含有ガスの発生抑制剤でもある。そのため、本発明の処理液は、ルテニウム含有ガスの発生抑制剤としても使用できる。
【0069】
ルテニウム含有ガスの発生抑制剤は酸化剤を含む事が好ましい。酸化剤を含む事によって、溶液中のルテニウムを、配位子が配位しやすい形態に保ちやすくなるため、RuO4ガスの抑制効果が高くなる。たとえば、ルテニウムのエッチングにおいて、溶解したルテニウムがRuO2パーティクルへと変化しやすいような、ルテニウムを処理するための液に対して、酸化剤を含む該抑制剤を添加する。この場合、溶解したルテニウムは、例えば、RuO4
-やRuO4などの、より配位子が配位しやすいルテニウム化学種に保たれやすい。これは、酸化剤によって、溶液の酸化還元電位が高く保たれる事に起因している。
【0070】
このような酸化剤としては、ハロゲン酸素酸、過マンガン酸、およびこれらの塩、過酸化水素、オゾン、セリウム(IV)塩等である事が好ましい。該酸化剤のうち、アルカリ性で安定して使用でき、濃度範囲を広く選択できることから、ハロゲン酸素酸またはハロゲン酸素酸のイオンが酸化剤として好適であり、次亜塩素酸、次亜臭素酸、メタ過ヨウ素酸、オルト過ヨウ素酸、またはそれらのイオンがより好適であり、次亜塩素酸、次亜臭素酸、次亜塩素酸イオン、または次亜臭素酸イオンが最も好適である。また、これらの酸化剤は塩として処理液中に存在していてもよく、該塩としては、例えば、次亜塩素酸テトラアルキルアンモニウム、または次亜臭素酸テトラアルキルアンモニウムが好適である。これらの塩に含まれるテトラアルキルアンモニウムイオンのアルキル鎖は、炭素数1~5であることが好ましく、炭素数1の次亜塩素酸テトラメチルアンモニウム、または次亜臭素酸テトラメチルアンモニウムがより好適である。なお、ルテニウム含有ガスの発生抑制剤に含まれる酸化剤としては、1種であってもよいし、2種以上が含まれていてもよい。
【0071】
本発明のルテニウム含有ガスの発生抑制剤が酸化剤として次亜塩素酸イオンを含む場合、次亜塩素酸イオンの濃度の範囲は、0.05~20.0質量%であることが好ましい。上記範囲内であれば、混合液中の次亜塩素酸イオンの分解反応を抑制し、該次亜塩素酸イオンの濃度の低下を抑制し、配位子が配位しやすいルテニウム化学種に保つことが可能である。そのため、次亜塩素酸イオンの濃度の範囲は、好ましくは0.1~15質量%であり、より好ましくは0.3~10質量%であり、さらに好ましくは0.5~6質量%であり、特に好ましくは0.5~4質量%である。
【0072】
本発明のルテニウム含有ガスの発生抑制剤が酸化剤として次亜臭素酸イオンを含む場合、該次亜臭素酸イオンの濃度は、上述の次亜塩素酸イオンと同様の理由から、0.01質量%以上1.9質量%以下である事が好ましい。該次亜臭素酸イオンの濃度は、より好ましくは0.012質量%以上1.9質量%以下であり、0.048質量%以上1.9質量%以下であることがさらに好ましく、0.096質量%以上1.0質量%以下であることが最も好ましい。
【0073】
本発明のルテニウム含有ガスの発生抑制剤は、次亜塩素酸イオンと、次亜臭素酸イオンを共に含んでいてもよい。本発明のルテニウム含有ガスの発生抑制剤が酸化剤として次亜塩素酸イオンと、次亜臭素酸イオンを含む場合、前述した処理液の場合と同様の理由により、該次亜塩素酸イオンの濃度の範囲は、0.05~20.0質量%である。該次亜臭素酸イオンの濃度の範囲は、前述した処理液の場合と同様の理由により、0.01~1.9質量%であることが好ましく、0.012~1.9質量%であることがより好ましく、0.048~1.9質量%であることがさらに好ましく、0.096質量%以上1.0質量%以下であることが最も好ましい。なお、次亜臭素酸イオンと次亜塩素酸イオンが共存する系における次亜臭素酸イオンの好ましい濃度範囲は、上記記載の範囲と同じである。これらの酸化剤が前記濃度範囲にあれば、前述したように、混合液中の次亜ハロゲン酸イオンの分解反応を抑制し、配位子が配位しやすいルテニウム形態に保つことが可能である。
【0074】
ルテニウム含有ガスの発生抑制剤における、ルテニウムと配位する配位子の種類及びその含有量、その他の成分及びその含有量、pH等の条件については、本発明のルテニウムの半導体用処理液の説明で記載されている条件と同じ条件を適用できる。
【0075】
また、それらの条件以外にも、例えば、ルテニウム含有ガスの発生抑制剤における、ルテニウムと配位する配位子の含有量としては、0.0001~60質量%を挙げることができ、0.01~35質量%であることがより好ましく、0.1~20質量%である事がさらに好ましい。この濃度は、後述するように、ガス発生抑制剤を含有する処理液に含まれる上記のルテニウムと配位する配位子の濃度が所定量になるように、調整することができる。また、ルテニウム含有ガスの発生抑制剤には、上述したpH調整剤と同じものを適宜添加してもよい。pH調整剤の含有量については、後述するように、ガス発生抑制剤を含有する処理液のpHが所定範囲になるように、調整することができる。例えば、ルテニウム含有ガスの発生抑制剤における、pH調整剤の含有量として、有効量であればよく、具体的には0.000001~10質量%を例示できる。
【0076】
(ルテニウム含有ガスの発生抑制方法)
ルテニウム含有ガスの発生抑制方法は、上記のルテニウム含有ガスの発生抑制剤を、ルテニウムを処理するための液に添加する工程を含む、ルテニウム含有ガスの発生抑制方法である。具体的には、たとえば、半導体製造工程におけるエッチング工程、残渣除去工程、洗浄工程、CMP工程等のルテニウムを処理する工程において使用する液(ルテニウムを処理するための液)に対して、本発明のルテニウム含有ガスの発生抑制剤を添加する事で、ルテニウム含有ガスの発生を抑制する事ができる。また、これら半導体製造工程に使用した各装置において、チャンバー内壁や配管等に付着したルテニウムを洗浄する際にも、ルテニウム含有ガスの発生抑制剤を用いる事でルテニウム含有ガスの発生を抑制できる。例えば、物理蒸着(PVD)や化学蒸着(CVD)を用いてルテニウムを形成する装置のメンテナンスにおいて、チャンバーや配管等に付着したルテニウムを除去する際に使用する洗浄液へ、本発明のルテニウム含有ガスの発生抑制剤を添加する事により、洗浄中に発生するルテニウム含有ガスの抑制が可能となる。当該方法によれば、上記のルテニウム含有ガスの発生抑制剤の説明で示したメカニズムにより、ルテニウム含有ガスの発生を抑制できる。
【0077】
なお、ルテニウム含有ガスの発生抑制方法においては、ガス発生抑制剤を含有する処理液における、上記のルテニウムと配位する配位子の1種以上の濃度が、0.0001~60質量%となるように、ルテニウム含有ガスの発生抑制剤における上記ルテニウムと配位する配位子の濃度と、その添加量を調整することが好ましい。また、ルテニウム含有ガスの発生抑制方法においては、ルテニウム含有ガスの発生抑制剤に、上述したpH調整剤と同じものを適宜添加してもよい。ルテニウム含有ガスの発生抑制剤におけるpH調整剤の含有量と、ルテニウム含有ガスの発生抑制剤の添加量については、ガス発生抑制剤を含有する処理液の25℃におけるpHが、例えば7~14になるように、適宜調整することができる。
【0078】
ルテニウムを処理するための液に対する、ルテニウム含有ガスの発生抑制剤の添加量は、ガス発生抑制剤を含有する処理液に溶解されるルテニウム量による。ルテニウム含有ガスの発生抑制剤の添加量は特に制限されないが、例えば、ルテニウムを処理するための液に溶解されるルテニウム量を1としたときに、重量比で1~10000が好ましく、より好ましくは10~5000であり、さらに好ましくは100~2000である。
【0079】
(ルテニウム含有廃液の処理剤)
ルテニウム含有廃液の処理剤とは、ルテニウム含有廃液に添加する事で、ルテニウム含有ガスの発生を抑制するものであり、ルテニウムと配位する配位子を含む液を指す。よって、本発明のルテニウムの半導体用処理液は、そのルテニウム含有ガスの発生抑制効果を利用して、ルテニウム含有廃液の処理剤としても用いることができる。
【0080】
ここで、ルテニウム含有廃液とは、少量でもルテニウムを含む溶液を意味する。ここで、ルテニウムとは、ルテニウム金属に限定されず、ルテニウム元素を含んでいればよく、例えば、Ru、RuO4
-、RuO4
2-、RuO4、RuO2などが挙げられる。ルテニウム含有廃液としては、例えば、ルテニウムを含有する半導体ウェハのエッチング処理を、本発明の処理液とは異なる組成のエッチング液を用いて行った後の液や、本発明の処理液を用いて処理を行った後の液などを挙げることができる。また、半導体ウェハのエッチングに限らず、上記のルテニウム含有ガスの発生抑制方法にて述べたような、半導体製造工程やチャンバー洗浄などにより発生したルテニウム含有液もその一例である。
【0081】
廃液に微量でもルテニウムが含まれると、RuO4ガスを経由してRuO2パーティクルが発生するため、タンクや配管を汚染するし、RuO2パーティクルの酸化作用によって装置類の劣化を促進する。また、廃液中から発生するRuO4ガスは低濃度でも人体に強い毒性を示す。このように、ルテニウム含有廃液は、装置類あるいは人体に対して様々な悪影響を及ぼすため、早急に処理してRuO4ガスの発生を抑制する必要がある。
【0082】
本発明のルテニウム含有廃液の処理剤においては、ルテニウムと配位する配位子の種類及びその含有量や、その他の成分及びその含有量、pH等の条件については、本発明のルテニウムの半導体用処理液の説明で記載されている条件と同じ条件を適用できる。
【0083】
また、これらの条件以外にも、例えば、ルテニウム含有廃液の処理剤における、上記ルテニウムと配位する配位子の含有量としては、0.0001~60質量%を挙げることができ、0.001~35質量%であることがより好ましい。この濃度は、後述するように、ルテニウム含有廃液と混合した際の混合液における上記のルテニウムと配位する配位子の濃度が所定量になるように、調整することができる。また、ルテニウム含有廃液の処理剤には、上述したpH調整剤と同じものを適宜添加してもよい。pH調整剤の含有量については、後述するように、ルテニウム含有廃液と混合した際の混合液のpHが所定範囲になるように、調整することができる。例えば、ルテニウム含有廃液の処理剤における、pH調整剤の含有量として、有効量であればよく、具体的には0.000001~10質量%を例示できる。
【0084】
(ルテニウム含有廃液の処理方法)
本発明のルテニウム含有廃液の処理方法は、上記のルテニウム含有廃液の処理剤を、ルテニウム含有廃液に添加する工程を含む、ルテニウム含有廃液の処理方法である。当該方法によれば、上記のルテニウム含有ガスの発生抑制剤の説明で示したメカニズムにより、ルテニウム含有廃液から発生するルテニウム含有ガスを抑制できる。そのため、ルテニウム含有廃液の取り扱いが容易になるだけでなく、排気設備や除外設備を簡素化でき、ルテニウム含有ガスの処理にかかる費用を削減できる。さらに、毒性の高いルテニウム含有ガスに作業者が晒される危険性が減り、安全性が大幅に向上する。
【0085】
なお、ルテニウム含有廃液の処理方法においては、ルテニウム含有廃液の処理剤と、ルテニウム含有廃液との混合液における、上記のルテニウムと配位する配位子の1種以上の濃度が、例えば、0.0001~60質量%となるように、ルテニウム含有廃液の処理剤における上記ルテニウムと配位する配位子の濃度と、その添加量を調整することが好ましい。また、ルテニウム含有廃液の処理方法においては、ルテニウム含有廃液の処理剤に、上述したpH調整剤と同じものを適宜添加してもよい。ルテニウム含有廃液の処理剤におけるpH調整剤の含有量と、ルテニウム含有廃液の処理剤の添加量については、ルテニウム含有廃液と混合した際の混合液のpHが、例えば7~14になるように、適宜調整することができる。
【0086】
ルテニウム含有廃液に対する、ルテニウム含有廃液の処理剤の添加量は、ルテニウム含有廃液中のルテニウム量による。ルテニウム含有廃液の処理剤の添加量は特に制限されないが、例えば、ルテニウム含有廃液中のルテニウム量を1としたときに、重量比で1~10000が好ましく、より好ましくは10~5000であり、さらに好ましくは100~2000である。
【実施例】
【0087】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
【0088】
(処理液の製造)
100mLのフッ素樹脂製容器に次亜塩素酸ナトリウム(和光純薬製)あるいは次亜臭素酸ナトリウム(関東化学製)あるいはオルト過ヨウ素酸(富士フィルム和光純薬)、配位子、超純水を加え、HClおよびNaOH水溶液を用いてpHを調整する事で表1に記載の組成の処理液60mLを得た。
(次亜塩素酸イオンおよび次亜臭素酸イオン濃度の算出方法)
次亜塩素酸イオンおよび次亜臭素酸イオン濃度の測定は紫外可視分光光度計(UV-2600、島津製作所社製)を用いた。濃度既知の次亜塩素酸イオンおよび次亜臭素酸イオン水溶液を用いて検量線を作成し、製造した溶液中の次亜塩素酸イオンおよび次亜臭素酸イオン濃度を決定した。次亜塩素酸イオンおよび次亜臭素酸イオン濃度は、溶液調製後、吸収スペクトルが安定したときの測定データから求めた。
【0089】
(pH測定方法)
実施例及び比較例で調製した処理液10mLを、卓上型pHメーター(LAQUA F―73、堀場製作所製)を用いてpH測定した。pH測定は、処理液を調製し、25℃で安定した後に、実施した。
【0090】
(RuO4ガスの定量分析)
RuO4ガスの発生量は、ICP-OESを用いて測定した。密閉容器に処理液を5mLとり、膜厚1200Åのルテニウムを成膜した10×20mmのSiウェハ1枚を、25℃でルテニウムが全て溶解するまで浸漬させた。なお、実施例25および26では、上記ルテニウムを製膜したウェハの代わりに、2.1mgの過酸化ルテニウムテトラプロピルアンモニウムおよび0.4mgのRuO2粉末をそれぞれ用いた。その後、密閉容器にAirをフローし、密閉容器内の気相を吸収液(1mol/L NaOH)の入った容器にバブリングして、Ruウェハ浸漬中に発生したRuO4ガスを吸収液にトラップした。この吸収液中のルテニウム量をICP-OESにより測定し、発生したRuO4ガス中のルテニウム量を求めた。処理液に浸漬したSiウェハ上のルテニウムが全て溶解したことは、四探針抵抗測定器(ロレスタ‐GP、三菱ケミカルアナリテック社製)により浸漬前および浸漬後のシート抵抗をそれぞれ測定し、膜厚に換算する事で確認した。
<実施例1~29および比較例1~6>
表1に、処理液の組成および各評価結果を示す。なお、表1におけるルテニウム量は、ルテニウム含有ガスの吸収液に含まれるルテニウムの重量を、ルテニウム付ウェハの面積で割った値である。
【0091】
【0092】
pHが同じである実施例3、5~18と比較例3~5を比べると、ルテニウムと配位する配位子を添加する事で、RuO4ガスの発生量を低減できていることが分かる。一方、配位子を添加していない比較例3に対して、ルテニウム含有化合物に配位しない配位子を添加した比較例4(配位子:SCN-)および比較例5(配位子:Cl-)を比べると、RuO4ガスの発生量に変化がない事が分かる。これより、SCN-やCl-等のルテニウム(Ru)に配位しない配位子ではRuO4ガスの発生抑制に効果がなく、RuO4ガス発生を抑制するためには、実施例1~29に示したようなルテニウム含有化合物(RuO4等)と配位する配位子を添加する必要がある事が分かる。
【0093】
実施例1~3と比較例1~3を比べると、いずれのpHにおいても配位子の添加によりRuO4ガスの発生量を低減できていることが分かる。また、実施例4より、pH13において配位子を添加した処理液を用いた場合、ルテニウム量は0μg/cm2となった。
【0094】
比較例3に対して実施例3と5を比べると、配位子を高濃度添加する事よりRuO4ガスの発生量はさらに低減できていることが分かる。
【0095】
比較例3に対して実施例12と13を比べると、配位子を微量添加した場合においてもRuO4ガスの発生量を低減できていることが分かる。
【0096】
比較例3および6に対して実施例3と19~24を比べると、酸化剤の種類に依らず配位子の添加によりRuO4ガスの発生量を低減できていることが分かる。
【0097】
実施例25および26では、処理液中に酸化剤は含まれないが、このような場合でもルテニウム含有ガスの発生は抑制されている。
【0098】
実施例27~29では、ルテニウムと配位する配位子として窒素を含む複素環式化合物を用いているが、このような場合でもルテニウム含有ガスの発生は抑制されている。
【0099】
<実施例30~58、比較例7~12>
(ルテニウムを処理するための液、およびルテニウム含有ガスの発生抑制剤の混合液の調製)
まず、100mLのフッ素樹脂製容器に、次亜塩素酸ナトリウム(和光純薬製)および超純水を加え、HClおよびNaOH水溶液を用いてpHを調整する事で、表2に記載の組成のルテニウムを処理するための液30mLを得た。次に、100mLのフッ素樹脂製容器に、配位子および超純水を加えた後、上記と同様、表2に記載のpHに調整する事で、30mLのルテニウム含有ガスの発生抑制剤を得た。得られたルテニウムを処理するための液と、ルテニウム含有ガスの発生抑制剤を混合した混合液60mLを得た。なお、比較例7~12では、ルテニウム含有ガスの発生抑制剤の代わりに、ルテニウムを処理するための液と同じpHに調整した超純水30mLを混合した。各液中の酸化剤濃度およびpHは実施例1~29と同様の方法により評価した。
【0100】
(RuO4ガスの定量分析)
得られた混合液を用いて、実施例1~29と同様の方法に従い、RuO4ガスの定量分析を行った。なお、実施例54および55では、ルテニウムを製膜したウェハの代わりに、2.1mgの過酸化ルテニウムテトラプロピルアンモニウム、および0.4mgのRuO2粉末をそれぞれ用いた。
【0101】
【0102】
表2に示すとおり、ルテニウムを処理するための液に対して、本発明のルテニウム含有ガスの発生抑制剤を添加する事で、ルテニウム含有ガスの発生を抑制できる事が分かった。
【0103】
<実施例59~73>
(ルテニウム含有廃液と、ルテニウム含有廃液の処理剤との混合液の調製)
フッ素樹脂製容器に次亜塩素酸ナトリウム(和光純薬製)、超純水を加えた後、HClあるいはNaOH水溶液を用いて表3に記載のpHに調整することで、2.0質量%の次亜塩素酸ナトリウムを含むルテニウムエッチング用の処理液を得た。得られた処理液1Lへ膜厚1360Åのルテニウムを成膜した300mmのSiウェハを25℃にてルテニウムが全て溶解するまで浸漬した後、ルテニウム含有廃液を廃液タンクに回収した。
【0104】
次に、フッ素樹脂製容器に次亜塩素酸ナトリウム(和光純薬製)、配位子、超純水を加えた後、HClあるいはNaOH水溶液を用いて表3に記載のpHに調整することで、表3に記載のルテニウム含有廃液の処理剤を得た。ただし、実施例72および73では、次亜塩素酸ナトリウムを添加していない(酸化剤不含)。得られたルテニウム含有廃液の処理剤1Lを、廃液タンクに25℃にて混合することで、6.0×10-4mol/Lのルテニウムを含む、表3に記載の、ルテニウム含有廃液とルテニウム含有廃液の処理剤との混合液(以下、単に混合液ともいう)を得た。
(RuO4ガスの定量分析)
RuO4ガスの発生量は、得られた混合液を用いて、実施例1と同様の方法により測定した。
<実施例74>
実施例59と同様の方法により、4.0質量%の次亜塩素酸ナトリウムを含むルテニウムエッチング用処理液を得た。得られた処理液1Lを、膜厚2720Åのルテニウムを成膜した300mmのSiウェハ表面へ25℃にて10分間かけ流し、1Lの超純水にてリンスした後、ルテニウム含有廃液を廃液タンクに回収した。次に、実施例59と同様の方法により得られた、表3に記載のルテニウム含有廃液の処理剤2Lを廃液タンクに混合することで、6.0×10-4mol/Lのルテニウムを含む、表3に記載の、ルテニウム含有廃液とルテニウム含有廃液の処理剤との混合液を得た。RuO4ガスの定量分析については、実施例59と同様の手順で行った。
【0105】
<比較例13~15>
フッ素樹脂製容器に次亜塩素酸ナトリウム(和光純薬製)、超純水を加えた後、HClあるいはNaOH水溶液を用いて表4に記載のpHに調整することで、2.0質量%の次亜塩素酸ナトリウムを含むルテニウムエッチング用の処理液を得た。得られた処理液1Lへ膜厚680Åのルテニウムを成膜した300mmのSiウェハを25℃にて10分間浸漬した後、廃液タンクに回収することで、6.0×10-4mol/LのRuを含む、表4に記載のルテニウム含有廃液を得た。RuO4ガスの定量分析については、実施例59と同様の手順で行った。
【0106】
<比較例16>
実施例59と同様の方法により、4.0質量%の次亜塩素酸ナトリウムを含むルテニウムエッチング用の処理液を得た。得られた処理液1Lを、膜厚1360Åのルテニウムを成膜した300mmのSiウェハ表面へ25℃にて10分間かけ流し、1Lの超純水にてリンスした後、廃液タンクに回収することで、6.0×10-4mol/LのRuを含む表4に記載のルテニウム含有廃液を得た。RuO4ガスの定量分析については、実施例59と同様の手順で行った。
【0107】
【0108】
【0109】
表3及び4の結果から、配位子を含むルテニウム含有廃液の処理剤を、ルテニウム含有廃液に添加した場合には、ルテニウム含有ガスの発生が抑制されることが分かった。これにより、本発明のルテニウム含有廃液の処理剤を、ルテニウム含有廃液の処理に用いた場合には、ルテニウム含有ガスの発生を抑制するので、ルテニウム含有廃液の処理に好適に用いることができる。
【0110】
<実施例75~77および比較例17、18>
まず、実施例1と同様の手順に従い、表5に記載の各処理液を得た。得られた処理液を60℃にて保管し、5、20、40、60時間経過後の次亜塩素酸イオンおよび次亜臭素酸イオン濃度を実施例1と同様の方法により測定した。0時間(処理液製造直後)の酸化剤濃度を100%とし、各測定時間における酸化剤濃度を表5にまとめた。
【表5】
【0111】
表5の結果から、酸化剤として次亜塩素酸イオンまたは次亜臭素酸イオンを含む場合、処理液中に本発明の配位子を含む方が、各処理液の安定性は良好である事が分かった。