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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-29
(45)【発行日】2024-06-06
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20240530BHJP
【FI】
H02M7/48 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022563800
(86)(22)【出願日】2021-11-17
(86)【国際出願番号】 JP2021042240
(87)【国際公開番号】W WO2022107809
(87)【国際公開日】2022-05-27
【審査請求日】2023-05-02
(31)【優先権主張番号】P 2020192123
(32)【優先日】2020-11-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001845
【氏名又は名称】サンデン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504174135
【氏名又は名称】国立大学法人九州工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100098361
【弁理士】
【氏名又は名称】雨笠 敬
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼田 康平
(72)【発明者】
【氏名】小林 孝次
(72)【発明者】
【氏名】松嶋 徹
【審査官】今井 貞雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-167787(JP,A)
【文献】特開2009-273272(JP,A)
【文献】特開2017-163709(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
各相の上アームスイッチング素子と下アームスイッチング素子を有して三相交流出力をモータに印加する電力変換装置において、
直流電源の正極側と前記上アームスイッチング素子の高電位側端子とを接続する正極側経路と、
前記直流電源の負極側と前記下アームスイッチング素子の低電位側端子とを接続する負極側経路と、
前記上アームスイッチング素子の低電位側端子と前記下アームスイッチング素子の高電位側端子とを接続する中間経路とを備え、
前記正極側経路のインダクタンスをZv、前記負極側経路のインダクタンスをZg、正極側の寄生容量発生ポイントPと基準電位導体間の容量をZt、負極側の寄生容量発生ポイントNと前記基準電位導体間の容量をZbとしたとき、前記正極側経路のインダクタンスZv、前記負極側経路のインダクタンスZg、前記正極側の寄生容量発生ポイントPと前記基準電位導体間の容量Zt、及び、前記負極側の寄生容量発生ポイントNと前記基準電位導体間の容量Zbで構成されるブリッジ回路の平衡条件に基づき、前記正極側の寄生容量発生ポイントPと前記基準電位導体間の容量Zt、及び、前記負極側の寄生容量発生ポイントNと前記基準電位導体間の容量Zbが設定されると共に、
前記中間経路と前記モータとの間には中間付加インピーダンスZm1が接続されていることを特徴とする電力変換装置。
【請求項2】
Zg・Zt=Zb・Zvの関係が成立し、若しくは、Zg・Zt=Zb・Zvの関係が略成立することを特徴とする請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記正極側の寄生容量発生ポイントPと前記基準電位導体との間に接続された正極側付加容量と、前記負極側の寄生容量発生ポイントNと前記基準電位導体との間に接続された負極側付加容量、のうちの何れか一方、又は、双方を備えたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記中間付加インピーダンスZm1は、ノーマルモードコイル、三相コモンモードコイル、フェライトコアのうちの何れか、又は、それらのうちの二つの組み合わせ、若しくは、それらの全てにより構成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のうちの何れかに記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記上下アームスイッチング素子のスイッチングを制御する制御基板と、
前記直流電源、前記制御基板、前記上下アームスイッチング素子、及び、前記モータ間の配線を行うために設けられた配線部材とを備え、
前記中間付加インピーダンスZm1を、前記配線部材に配置したことを特徴とする請求項1乃至請求項4のうちの何れかに記載の電力変換装置。
【請求項6】
前記正極側の寄生容量発生ポイントPと前記基準電位導体との間に接続された正極側付加容量と、前記負極側の寄生容量発生ポイントNと前記基準電位導体との間に接続された負極側付加容量、のうちの何れか一方、又は、双方を備え、
前記正極側付加容量、及び/又は、前記負極側付加容量を、前記配線部材に配置したことを特徴とする請求項5に記載の電力変換装置。
【請求項7】
前記配線部材は、バスバーを樹脂モールドして成るバスバーアセンブリであることを特徴とする請求項5又は請求項6に記載の電力変換装置。
【請求項8】
前記直流電源と前記上下アームスイッチング素子の間に接続されたEMIフィルタを備え、
該EMIフィルタは、前記正極側経路と前記負極側経路の双方にそれぞれ接続されたノーマルモードコイルを備えたことを特徴とする請求項1乃至請求項7のうちの何れかに記載の電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三相交流出力をモータに印加する電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
スイッチング素子のスイッチングにより、直流電源から三相交流出力を生成してモータに印加する電力変換装置では、スイッチング動作による急峻な電圧変動により、モータと筐体(基準電位導体)間の寄生容量(寄生結合)を介して筐体に流出するコモンモード電流(ノイズ)が多くなる。そのため、従来より制御基板の電源入力部にコモンモードコイルやYコンデンサ(コモンモードコンデンサ)から成る大型のEMIフィルタを搭載し、寄生容量を介して筐体に流出するコモンモード電流(ノイズ)をスイッチング素子(ノイズ源)に還流させ、ノイズの低減を図る対策が採られていた(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、係るノイズ対策ではノイズ対策部品の大型化と制御基板を含む製品自体の大型化が否めなくなるため、ブリッジ回路を用い、ノイズ源であるスイッチング素子に対して周辺のインピーダンスのバランスをとり、ノイズ流出源とノイズ測定点の電位差を低減することで、結果としてコモンモード電流(ノイズ)を低減する対策も開発されている(例えば、特許文献2、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5091521号公報
【文献】特開2019-221061号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】「パワーMOSFET近傍の寄生結合とコモンモード電圧の関係」 一般財団法人電子情報通信学会 信学技報 IEICE Technical Report EMCJ2017-61 (2017-11)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2の対策では、バランスをとるために付加したインダクタンスやキャパシタンスをスイッチで切り換える際にサージによる新たなノイズが発生することになり、更に、切り換えを行うために制御が複雑化する問題がある。また、特許文献2ではノイズ流出ルートの一つであるモータの巻線と筐体間の寄生容量が考慮されていない。
【0007】
また、非特許文献1ではDC-DCコンバータにおけるインピーダンスバランス法が提案されている。この場合、スイッチング素子のアーム中点と筐体間の寄生容量が小さく、中間インピーダンスが十分に大きいことを前提としているが、ブリッジ回路を用いてインピーダンスのバランスをとる際、三相モータの場合にはアーム中点と筐体間の寄生容量が大きく、中間インピーダンスが小さいため、バランスをとるのが困難となり、且つ、効果が限定的になるという問題があった。
【0008】
本発明は、係る従来の技術的課題を解決するために成されたものであり、三相交流出力を印加してモータを駆動する場合にも、比較的容易にインピーダンスバランスをとることができて、効果的にコモンモード電流によるノイズを抑制することができるようにした電力変換装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の電力変換装置は、各相の上アームスイッチング素子と下アームスイッチング素子を有して三相交流出力をモータに印加するものであって、直流電源の正極側と上アームスイッチング素子の高電位側端子とを接続する正極側経路と、直流電源の負極側と下アームスイッチング素子の低電位側端子とを接続する負極側経路と、上アームスイッチング素子の低電位側端子と下アームスイッチング素子の高電位側端子とを接続する中間経路とを備え、正極側経路のインダクタンスをZv、負極側経路のインダクタンスをZg、正極側の寄生容量発生ポイントPと基準電位導体間の容量をZt、負極側の寄生容量発生ポイントNと基準電位導体間の容量をZbとしたとき、正極側経路のインダクタンスZv、負極側経路のインダクタンスZg、正極側の寄生容量発生ポイントPと基準電位導体間の容量Zt、及び、負極側の寄生容量発生ポイントNと基準電位導体間の容量Zbで構成されるブリッジ回路の平衡条件に基づき、正極側の寄生容量発生ポイントPと基準電位導体間の容量Zt、及び、負極側の寄生容量発生ポイントNと基準電位導体間の容量Zbが設定されると共に、中間経路とモータとの間には中間付加インピーダンスZm1が接続されていることを特徴とする。
【0010】
請求項2の発明の電力変換装置は、上記発明においてZg・Zt=Zb・Zvの関係が成立し、若しくは、Zg・Zt=Zb・Zvの関係が略成立することを特徴とする。
【0011】
請求項3の発明の電力変換装置は、上記各発明において正極側の寄生容量発生ポイントPと基準電位導体との間に接続された正極側付加容量と、負極側の寄生容量発生ポイントNと基準電位導体との間に接続された負極側付加容量、のうちの何れか一方、又は、双方を備えたことを特徴とする。
【0012】
請求項4の発明の電力変換装置は、上記各発明において中間付加インピーダンスZm1は、ノーマルモードコイル、三相コモンモードコイル、フェライトコアのうちの何れか、又は、それらのうちの二つの組み合わせ、若しくは、それらの全てにより構成されていることを特徴とする。
【0013】
請求項5の発明の電力変換装置は、上記各発明において上下アームスイッチング素子のスイッチングを制御する制御基板と、直流電源、制御基板、上下アームスイッチング素子、及び、モータ間の配線を行うために設けられた配線部材とを備え、中間付加インピーダンスZm1を、配線部材に配置したことを特徴とする。
【0014】
請求項6の発明の電力変換装置は、上記発明において正極側の寄生容量発生ポイントPと基準電位導体との間に接続された正極側付加容量と、負極側の寄生容量発生ポイントNと基準電位導体との間に接続された負極側付加容量、のうちの何れか一方、又は、双方を備え、正極側付加容量、及び/又は、負極側付加容量を、配線部材に配置したことを特徴とする。
【0015】
請求項7の発明の電力変換装置は、請求項5又は請求項6の発明において配線部材は、バスバーを樹脂モールドして成るバスバーアセンブリであることを特徴とする。
【0016】
請求項8の発明の電力変換装置は、上記各発明において直流電源と上下アームスイッチング素子の間に接続されたEMIフィルタを備え、このEMIフィルタは、正極側経路と負極側経路の双方にそれぞれ接続されたノーマルモードコイルを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、各相の上アームスイッチング素子と下アームスイッチング素子を有して三相交流出力をモータに印加する電力変換装置であって、直流電源の正極側と上アームスイッチング素子の高電位側端子とを接続する正極側経路と、直流電源の負極側と下アームスイッチング素子の低電位側端子とを接続する負極側経路と、上アームスイッチング素子の低電位側端子と下アームスイッチング素子の高電位側端子とを接続する中間経路があるものに、更に、中間経路とモータとの間に中間付加インピーダンスZm1を接続したので、モータと基準電位導体間の寄生容量を経由する経路のインピーダンスを増加させ、この経路から流出するコモンモード電流を低減させることができるようになり、ノイズの抑制を図ることが可能となる。
【0018】
特に、中間経路とモータとの間に中間付加インピーダンスZm1を接続して、モータと基準電位導体間の寄生容量を経由する経路のインピーダンスを十分に大きくしているので、正極側経路のインダクタンスをZv、負極側経路のインダクタンスをZg、正極側の寄生容量発生ポイントPと基準電位導体間の容量をZt、負極側の寄生容量発生ポイントNと基準電位導体間の容量をZbとしたとき、正極側経路のインダクタンスZv、負極側経路のインダクタンスZg、正極側の寄生容量発生ポイントPと基準電位導体間の容量Zt、及び、負極側の寄生容量発生ポイントNと基準電位導体間の容量Zbで構成されるブリッジ回路の平衡条件に基づき、正極側の寄生容量発生ポイントPと基準電位導体間の容量Zt、及び、負極側の寄生容量発生ポイントNと基準電位導体間の容量Zbを設定することで、インピーダンスバランス(平衡)をとる際に、中間インピーダンスが関わる値を無視できる程に小さくすることが可能となり、バランスがとり易くなって効果的にノイズを低減することができるようになる。
【0019】
この場合、各相の上アームのスイッチング素子と下アームのスイッチング素子を有して三相交流出力をモータに印加する場合には、アーム中点と基準電位導体間の寄生容量が大きく、中間インピーダンスが小さいため、バランスをとることが困難となるが、本発明の如く中間付加インピーダンスを接続することで、効果的に係る問題を解消することが可能となる。
【0020】
上記における平衡条件は、請求項2の発明の如くZg・Zt=Zb・Zvの関係が成立し、若しくは、Zg・Zt=Zb・Zvの関係が略成立することである。
【0021】
また、請求項3の発明の如く正極側の寄生容量発生ポイントPと基準電位導体との間に正極側付加容量を接続し、及び/又は、負極側の寄生容量発生ポイントNと基準電位導体との間に負極側付加容量を接続するようにすれば、一層容易にインピーダンスバランスがとり易くなる。
【0022】
更に、請求項4の発明の如く中間付加インピーダンスZm1は、ノーマルモードコイル、三相コモンモードコイル、フェライトコアのうちの何れか、又は、それらのうちの二つの組み合わせ、若しくは、それらの全てにより構成するとよい。中間付加インピーダンスとして三相コモンモードコイルとフェライトコアを設けることにより、コモンモードインピーダンスを増加させてコモンモード電流の流出を減少させることができるようになる。一方、中間付加インピーダンスとしてノーマルモードコイルを設けることにより、スイッチングサージを効果的に抑制することが可能となり、結果として三相線間のモード変換(ノーマルモードからコモンモード)の抑制となるので、これらにより、モータと基準電位導体間の寄生容量の影響を受け難くすることができるようになる。
【0023】
また、ノーマルモードコイルは、コモンモードコイルと異なり、三相線の結合が不要なことから、別々に配置することが可能であり、配置上の制約が少なく、コモンモードコイルの場合よりも小型化し易い。更に、三相全てに入れなくとも(例えば二相のみ)、ノイズ低減効果が得られることから、使い勝手がよいという利点がある。
【0024】
また、請求項5の発明の如く上下アームスイッチング素子のスイッチングを制御する制御基板と、直流電源、制御基板、上下アームスイッチング素子、及び、モータ間の配線を行うために設けられた配線部材が設けられている場合、中間付加インピーダンスZm1を、配線部材に配置することで、装置の小型化を図ることもできるようになる。
【0025】
この場合、更に請求項6の発明の如く正極側付加容量や負極側付加容量も配線部材に配置するようにすれば、より一層、装置の小型化を図ることができるようになる。
【0026】
また、請求項7の発明の如く配線部材を、バスバーを樹脂モールドして成るバスバーアセンブリで構成することで、絶縁を確保しながら耐震性も担保することができるようになるものである。
【0027】
更に、請求項8の発明の如く直流電源と上下アームスイッチング素子の間に接続されたEMIフィルタに、正極側経路と負極側経路の双方にそれぞれ接続されたノーマルモードコイルを設けることにより、ノーマルモード電流がコモンモード電流として基準電位導体に流出する不都合を抑制することができる。特に、正極側経路と負極側経路の双方にノーマルモードコイルを接続することで、正極側と負極側のインピーダンスを等しくし、平衡度を保つことができるようになり、インピーダンスバランスの効果を最大限に引き出すことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明を適用した電力変換装置の電気回路図である。
図2図1の電力変換装置のインバータ回路と制御基板の電気回路図である。
図3図1の電力変換装置の制御基板(バスバーアセンブリを含む)の寄生成分を説明する図である。
図4図1の電力変換装置のモデル化されたブリッジ回路を示す図である。
図5】従来の電力変換装置のノイズ経路を説明する図である。
図6図1の電力変換装置のノイズ経路を説明するための電気回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の一実施形態について、図面に基づき詳細に説明する。図1は本発明を適用した一実施例の電力変換装置1の電気回路図、図2はインバータ回路2と制御基板11の電気回路図である。
【0030】
(1)電力変換装置1
実施例の電力変換装置1は、三相のインバータ回路2の各相の上下アームを構成するIGBT(MOSFETでもよい)から成る6個のスイッチング素子3~8と(図2)、プリント配線に制御回路が実装された制御基板11(図2)と、後述するバッテリ14、制御基板11、各スイッチング素子3~8、及び、モータM間の配線を行うための配線部材としてのバスバーアセンブリ12と、フィルタ基板13を備え、直流電源としての車両の前記バッテリ14から給電される直流電力を三相交流電力に変換して、モータMのステータコイル(図示せず)に給電するものである。
【0031】
実施例のモータMは、IPMSM(Interior Permanent Magnet Synchronous Motor)から構成されており、車両に搭載された図示しない電動圧縮機の金属製(例えば、アルミニウム)の筐体15内に収納された図示しない圧縮機構を駆動し、冷媒を圧縮して図示しない車両用空気調和装置の冷媒回路内に吐出するものである。そして、電力変換装置1は電動圧縮機の筐体15に一体に設けられているものとする。
【0032】
(2)電力変換装置1の電気回路
先ず、図1を用いて実施例の電力変換装置1の電気回路を説明する。16はバッテリ14の正極側(+)にLISN(疑似電源回路網)を介して接続された正極側経路、17はバッテリ14の負極側(-)にLISNを介して接続された負極側経路であり、これら正極側経路16と負極側経路17にはEMIフィルタ18と平滑コンデンサ19が接続されている。これらEMIフィルタ18と平滑コンデンサ19はバッテリ14とインバータ回路2のスイッチング素子3~8の間に接続されている。
【0033】
上記EMIフィルタ18は、正極側経路16と負極側経路17間に接続されたXコンデンサ21と、このXコンデンサ21の後段の正極側経路16と負極側経路17の双方にそれぞれ接続されたノーマルモードコイル22及び35と、これらノーマルモードコイル22、35の後段に接続されたコモンモードコイル23と、このコモンモードコイル23の後段において、正極側経路16及び負極側経路17と筐体15間にそれぞれ接続されたYコンデンサ26及びYコンデンサ24から構成されている。
【0034】
そして、これらEMIフィルタ18と平滑コンデンサ19はフィルタ基板13に配置されている。上記Xコンデンサ21はノーマルモードノイズを低減するためのコンデンサであり、Yコンデンサ24、26はコモンモードノイズを低減するためのコンデンサである。また、平滑コンデンサ19は電圧リプルを平滑すると共に、インピーダンスバランスの起点として高周波を短絡とみなすためのコンデンサである。
【0035】
尚、筐体15は車体27(GND)に接続されている。そして、実施例では筐体15が電力変換装置1の基準電位導体となる。また、25はバスバーアセンブリ12と平滑コンデンサ19の間の負極側経路17に接続されたシャント抵抗である。
【0036】
(2-1)中間付加インピーダンスZm1(ノーマルモードコイル30、三相コモンモードコイル28及びフェライトコア29
また、平滑コンデンサ19の後段の正極側経路16及び負極側経路17にはインバータ回路2が接続されており、インバータ回路2の後述する中間経路31U~31WとモータMの間には、本発明における中間付加インピーダンスZm1を構成するノーマルモードコイル30、三相コモンモードコイル28、及び、フェライトコア29が順次接続されている。これらノーマルモードコイル30や三相コモンモードコイル28は主に低周波のインピーダンスを増加させ、フェライトコア29は高周波のインピーダンスを増加させる。フェライトコア29は後述する出力経路32U~32Wの周囲に配置するものであるが、本発明では係る配置も接続と称する。また、ノーマルモードコイル30は実施例では出力経路32U~32Wの全てにそれぞれ接続されているものとする。
【0037】
(2-2)正極側付加容量(コンデンサ33)及び負極側付加容量(コンデンサ34)
更に、インバータ回路2と平滑コンデンサ19の間の正極側経路16と筐体15(基準電位導体)間には、実施例では正極側の寄生容量発生ポイントPと筐体15間の容量Ztを構成する正極側付加容量としてのコンデンサ33(インピーダンスバランス用)を接続し、インバータ回路2と平滑コンデンサ19の間の負極側経路17と筐体15(基準電位導体)間には、実施例では負極側の寄生容量発生ポイントNと筐体15間の容量Zbを構成する負極側付加容量としてのコンデンサ34(インピーダンスバランス用)を接続している。尚、図1では寄生容量発生ポイントP、Nと離れてコンデンサ33、34を示しているが、実際には図3に示すように、コンデンサ33(正極側付加容量)は正極側の寄生容量発生ポイントP(上アームスイッチング素子3~5のコレクタと正極側経路16の交点)と筐体15間に接続され、コンデンサ34(負極側付加容量)は実施例ではシャント抵抗25を介し、負極側の寄生容量発生ポイントN(下アームスイッチング素子6~8のエミッタと負極側経路17の交点)と筐体15間に接続されている。また、シャント抵抗25の位置も、図1では分かりやすくするために負極側の寄生容量発生ポイントNから離して示している。
【0038】
そして、これらコンデンサ33、34と、前述したノーマルモードコイル30、三相コモンモードコイル28、フェライトコア29は、実施例ではバスバーアセンブリ12に配置されている。尚、図1中36で示す容量はインバータ回路2と筐体15間の寄生容量(寄生結合)を示し、37で示す容量はモータMと筐体15間の寄生容量(寄生結合)を示している。
【0039】
(2-3)インバータ回路2
次に、図2にはインバータ回路2の電気回路と制御基板11を示している。インバータ回路2は、U相インバータ38U、V相インバータ38V、W相インバータ38Wを有しており、各相インバータ38U~38Wは、それぞれ前述した上アーム側のスイッチング素子(上アームスイッチング素子と称す)3~5と、下アーム側のスイッチング素子(下アームスイッチング素子と称す)6~8を個別に有している。更に、各スイッチング素子3~8には、それぞれフライホイールダイオード39が逆並列に接続されている。
【0040】
そして、インバータ回路2の上アームスイッチング素子3~5の高電位側端子は正極側経路16に接続されており、下アームスイッチング素子6~8の低電位側端子は負極側経路17に接続されている。U相インバータ38Uの上アームスイッチング素子3の低電位側端子と下アームスイッチング素子6の高電位側端子は中間経路31Uにて接続され、この中間経路31Uが出力経路32UによってモータMのU相のステータコイルに接続される。
【0041】
また、V相インバータ38Vの上アームスイッチング素子4の低電位側端子と下アームスイッチング素子7の高電位側端子は中間経路31Vにて接続され、この中間経路31Vが出力経路32VによってモータMのV相のステータコイルに接続される。更に、W相インバータ38Wの上アームスイッチング素子5の低電位側端子と下アームスイッチング素子8の高電位側端子は中間経路31Wにて接続され、この中間経路31Wが出力経路32WによってモータMのW相のステータコイルに接続される。そして、前述したノーマルモードコイル30、三相コモンモードコイル28、及び、フェライトコア29は中間経路31U~31WとモータMの間に位置する出力経路32U~32W中に設けられる。尚、フェライトコア29は出力経路32U~32Wについて図1に大きな四角で示す如く全相一括で配置してもよく、図1に小さな四角で示す如く各相の出力経路32U~32Wの周囲にそれぞれ別個に配置してもよい。
【0042】
(2-4)制御基板11
一方、制御基板11の制御回路はプロセッサを有するマイクロコンピュータから構成されており、実施例では車両のECUから回転数指令値を入力し、シャント抵抗25を用いてモータMの相電流を検出及び算出し、これらに基づき、インバータ回路2の各上下アームスイッチング素子3~8のON/OFF状態を制御する。具体的には、各上下アームスイッチング素子3~8のゲート端子に印加するゲート電圧(駆動信号)を制御し、各相の上下アームスイッチング素子3~8をそれぞれ接続する中間経路31U~31Wの電圧(相電圧)を三相交流出力とし、出力経路32U~32Wを介してモータMの各相のステータコイルに印加することで当該モータMを駆動する。
【0043】
(2-5)バスバーアセンブリ12
また、実施例のバスバーアセンブリ12は、導電性金属から成るバスバーを硬質樹脂によりモールドした構成とされている。このバスバーアセンブリ12のバスバーにフィルタ基板13や制御基板11、各スイッチング素子3~8、モータMが接続されることで、バッテリ14、制御基板11、各スイッチング素子3~8、モータM間の配線が成される。
【0044】
(2-6)バスバーアセンブリ12を含む制御基板11の寄生成分(インダクタンスや容量)
次に、図3を用いて、電力変換装置1の制御基板11(バスバーアセンブリ12を含む)の寄生成分について説明する。図中Zvはバスバーアセンブリ12を含む正極側経路16(配線)のインダクタンス、Zgはバスバーアセンブリ12を含む負極側経路17(配線)のインダクタンスである。正極側経路16や負極側経路17には他の寄生成分も存在するが、配線のインダクタンスが支配的となる。
【0045】
また、図中Ztはバスバーアセンブリ12を含む正極側の寄生容量発生ポイントP(図4)と筐体15(基準電位導体)間の容量、Zbはバスバーアセンブリ12を含む負極側の寄生容量発生ポイントN(図4)と筐体15間の容量である。実施例の容量Ztには、正極側の寄生容量発生ポイントPと筐体15間の寄生容量と前述したコンデンサ33(インピーダンスバランス用の正極側付加容量)の容量が含まれる。また、容量Zbには、負極側の寄生容量発生ポイントNと筐体15間の寄生容量と前述したコンデンサ34(インピーダンスバランス用の負極側付加容量)の容量が含まれる。
【0046】
図中41で示す破線で示した部分は各スイッチング素子3~8(スイッチング記号で示す)により構成されるノイズ源であり、42は各相に分岐した正極側経路16のインダクタンス(これもインダクタンスが支配的となるという意味)、43はPCBパターンのインダクタンス(これもインダクタンスが支配的となるという意味)である。44は上アームスイッチング素子3~5のコレクタと筐体15間の寄生容量、46は下アームスイッチング素子6~8のコレクタと筐体15間の寄生容量である(これらも寄生容量が支配的となるという意味)。48は上アームスイッチング素子3~5のエミッタと筐体15間の寄生容量+バスバーと筐体15間の寄生容量(これらも寄生容量が支配的となるという意味)である。49は下アームスイッチング素子6~8のエミッタと筐体15間の寄生容量である(これらも寄生容量が支配的となるという意味)。
【0047】
図中Zmは中間インピーダンスを示している。この中間インピーダンスZmは、上下アームスイッチング素子3~8のコレクタやエミッタ、バスバーアセンブリ12のバスバー、モータMの巻線と、寄生容量37、43、46、48、寄生インダクタンス47を含む中間経路31U~31W(上アームスイッチング素子3~5と下アームスイッチング素子6~8の中点)と筐体15間の寄生成分であり、この中間インピーダンスZmを介してコモンモード電流が筐体15に流出し、コモンモードノイズが発生することになる。
【0048】
尚、図3では前述した中間付加インピーダンスZm1を示していないが、本発明では、図1の実施例に示すように、中間経路31U~31WとモータMの間の出力経路32U~32Wに、ノーマルモードコイル30、三相コモンモードコイル28、及び、フェライトコア29から成る中間付加インピーダンスZm1が追加して接続され、その分、中間インピーダンスZmの値は増大している。
【0049】
(3)インピーダンスバランス条件(平衡条件)を成立させることによるノイズの低減
次に、図4を参照しながら、インピーダンスバランス条件(平衡条件)を成立させることによるノイズの低減対策について説明する。図4のブリッジ回路は例えば図2中のU相インバータ38Uがノイズ源V1となるとき(上アームスイッチング素子3がノイズ源となる際)のコモンモード等価回路(モデル化されたブリッジ回路)であり、図中Zvは前述した正極側経路16のインダクタンス、Zgは負極側経路17のインダクタンス、Ztはコンデンサ33の容量を含む正極側の寄生容量発生ポイントPと筐体15(基準電位導体)間の容量、Zbはコンデンサ34の容量を含む負極側の寄生容量発生ポイントNと筐体15間の容量、Zmは中間付加インピーダンスZm1を含む中間インピーダンスである。下アームスイッチング素子6がノイズ源となる際は、ノイズ源は中間インピーダンスZmとの交点の下側に位置することになる。
【0050】
尚、本発明における正極側の寄生容量発生ポイントPは図4の場合は上アームスイッチング素子3のコレクタと正極側経路16の交点であり、負極側の寄生容量発生ポイントNは下アームスイッチング素子6のエミッタと負極側経路17の交点である。また、図4の場合、本発明における正極側経路16のインダクタンスZvは上アームスイッチング素子3のコレクタとの交点までの正極側経路16のインダクタンスであり、負極側経路17のインダクタンスZgは下アームスイッチング素子6のエミッタとの交点までの負極側経路17のインダクタンスである。また、V相インバータ38Vがノイズ源V1となる場合は、同様に上アームスイッチング素子4のコレクタと正極側経路16の交点が正極側の寄生容量発生ポイントPとなり、下アームスイッチング素子7のエミッタと負極側経路17の交点が負極側の寄生容量発生ポイントNとなる。その場合は、上アームスイッチング素子4のコレクタとの交点までの正極側経路16のインダクタンスがZvとなり、下アームスイッチング素子7のエミッタとの交点までの負極側経路17のインダクタンスがZgとなる。更に、W相インバータ38Wがノイズ源V1となる場合は、上アームスイッチング素子5のコレクタと正極側経路16の交点が正極側の寄生容量発生ポイントPとなり、下アームスイッチング素子8のエミッタと負極側経路17の交点が負極側の寄生容量発生ポイントNとなる。その場合は、上アームスイッチング素子5のコレクタとの交点までの正極側経路16のインダクタンスがZvとなり、下アームスイッチング素子8のエミッタとの交点までの負極側経路17のインダクタンスがZgとなる。
【0051】
また、図4中Z1はノイズ源V1の上アームの内部インピーダンス+インダクタンス42(図3)、Z2はノイズ源V1の下アームの内部インピーダンス+インダクタンス42を表している。インダクタンス42は微小で、コンデンサ33と寄生容量44の接続位置は略同じなので、寄生容量44はZ1ではなく、容量Ztとなる。また、ZrはインダクタンスZvとインダクタンスZgの交点(図4のブリッジ回路の向かって左側の起点)から筐体15までのコモンモードインピーダンスを表している。図4のインダクタンスZvとインダクタンスZgの交点は、バッテリ14(電源)側の起点であり、高周波短絡ポイントである。
【0052】
そして、図4中Vcはノイズ測定点であるLISN側に生じるコモンモード電圧である。回路内部のスイッチング動作によって生じるコモンモード電圧Vcによって、接続される配線にコモンモード電流が流れ、ノイズが発生する。このコモンモード電圧Vcを零、若しくは、極めて小さくする平衡条件(インピーダンスバランス条件)を成立させることで、スイッチング動作に伴い流出するコモンモード電流によるノイズを解消、若しくは、著しく低減させることが可能となる。
【0053】
この回路方程式から計算すると、コモンモード電圧Vcは以下の式(I)で表すことができる。
【0054】
【数1】
【0055】
尚、インピーダンスZ1は上アームスイッチング素子3のON状態であり、他の素子に対して値が低いため無視している。
【0056】
更に、Zmが十分に大きい場合、式(I)の分子第二項と分母第二項は無視することができるようになり、式(I)は下記式(II)で書き表すことができる。
【0057】
【数2】
【0058】
ここで、式(II)の分子(ZgZt-ZbZv)を零とする条件、即ち、インピーダンスバランス条件は、下記式(III)となる。
Zg・Zt=Zb・Zv ・・・(III)
【0059】
そこで、この実施例では図1に示したインピーダンスバランスをとるために接続するコンデンサ33、34の容量を選定することにより、正極側の寄生容量発生ポイントPと筐体15(基準電位導体)間の容量Ztと、負極側の寄生容量発生ポイントNと筐体15間の容量Zbを調整して、上記式(III)を成立させ、若しくは、略成立するように電力変換装置1を設計する。尚、略成立とは、Zg・Zt=Zb・Zvでは無いが、ニアリーイコール(両者の差が極めて小さい一定の許容範囲A以内)であることを意味するものとする。これにより、効果的にノイズを低減することができるようになる。
【0060】
具体的には、例えばインダクタンスZvとインダクタンスZgの比率が1:1で、正極側の寄生容量発生ポイントPと筐体15間のもともとの寄生容量が100pFであった場合、容量Ztの成分として900pFのコンデンサ33(正極側付加容量)を接続し、容量Zbの成分として1000pFのコンデンサ34(負極側付加容量)を接続すれば、容量Ztと容量Zbの比率も1:1となって、インピーダンスバランス条件を満たすことになる。
【0061】
或いは、もともとの寄生容量100pFを無視できるような値、例えば10nFのコンデンサ33(正極側付加容量)とコンデンサ34(負極側付加容量)を接続しても、容量Ztと容量Zbの比率が略1:1となるので、インピーダンスバランス条件を満たすことになる。
【0062】
特に、本発明では中間経路31U~31WとモータMとの間に中間付加インピーダンスZm1(ノーマルモードコイル30、三相コモンモードコイル28、及び、フェライトコア29)を接続しているので、駆動対象が三相モータMであるにもかかわらず、寄生容量37を経由する経路のインピーダンスが十分に大きくなっている。これにより、インピーダンスバランス(平衡)をとる際に、中間インピーダンスZmが関わる値、即ち、式(I)の分子第二項と分母第二項が無視できる程に小さくなるので、正極側の寄生容量発生ポイントPと筐体15(基準電位導体)間の容量Ztと負極側の寄生容量発生ポイントNと筐体15間の容量Zb(実施例ではコンデンサ33、34の容量の選定)によるブリッジ回路の平衡(バランス)がとり易くなり、容易、且つ、効果的にノイズを低減することができるようになる。
【0063】
また、実施例のように中間経路31U~31WとモータMとの間に中間付加インピーダンスZm1(ノーマルモードコイル30、三相コモンモードコイル28、及び、フェライトコア29)を追加して接続したことで、寄生容量37を経由する経路のインピーダンスが増加することになり、この経路から流出するコモンモード電流を低減させることができるようになる。これにより、モータMと筐体15間の寄生容量37が大きい場合にも、インピーダンスバランスの効果を向上させることが可能となり、大型のEMIフィルタを搭載すること無く、ノイズを一層抑制することができるようになる。
【0064】
また、実施例では中間付加インピーダンスZm1をノーマルモードコイル30と、三相コモンモードコイル28と、フェライトコア29により構成している。このように中間付加インピーダンスZm1として三相コモンモードコイル28とフェライトコア29を設けることにより、コモンモードインピーダンスを増加させてコモンモード電流の流出を減少させることができるようになる。一方、中間付加インピーダンスZm1としてノーマルモードコイル30を設けることにより、スイッチングサージを効果的に抑制することが可能となり、結果として三相線間のモード変換(ノーマルモードからコモンモード)の抑制となるので、これらにより、モータMと筐体15間の寄生容量37の影響を受け難くすることができるようになる。
【0065】
また、ノーマルモードコイル30は、コモンモードコイルと異なり、三相線の結合が不要なことから、別々に配置することが可能であり、実施例の如くバスバーアセンブリ12に配置する際にも、配置上の制約が少なく、コモンモードコイルの場合よりも小型化し易い。尚、ノーマルモードコイル30は、実施例の如く出力経路32U~32W(三相)の全てに入れなくとも、例えば二相のみに入れてもよい。それによっても、ノイズ低減効果が得られることから、使い勝手がよいという利点がある。
【0066】
更に、実施例のようにEMIフィルタ18に正極側経路16と負極側経路17にそれぞれ接続されたノーマルモードコイル22及び35を設けることで、ノーマルモード電流がコモンモード電流として筐体15に流出する不都合を抑制することができる。特に、正極側経路16と負極側経路17の双方にノーマルモードコイル22及び35を接続することで、正極側と負極側のインピーダンスを等しくし、平衡度を保つことができるようになり、インピーダンスバランスの効果を最大限に引き出すことが可能となる。
【0067】
尚、実施例では正極側経路16と負極側経路17の何れにもノーマルモードコイルを接続しない場合にも平衡度を保つことはできるが、その場合にはノーマルモード電流がコモンモード電流として流出する不都合を抑制することができなくなる。
【0068】
(4)ノイズ低減効果
次に、図5図6を参照しながら、本発明によるノイズ低減効果について説明する。図5は前述したノーマルモードコイル30、三相コモンモードコイル28、フェライトコア29、コンデンサ33、34を設けない電力変換装置100の電気回路図を示している。尚、この図において図1と同一符号で示すものは同一若しくは同様の機能を奏するものとする。
【0069】
この図中、N1で示す矢印はモータMから寄生容量37を介して筐体15に流出するコモンモード電流(ノイズ)、N2で示す矢印はインバータ回路2から寄生容量36を介して筐体15に流出するコモンモード電流(ノイズ)、N3で示す矢印は筐体15からYコンデンサ24、26を介してインバータ回路2の上下アームスイッチング素子3~8に還流するコモンモード電流(ノイズ)、N9で示す矢印は筐体15に取り付けられたHVコネクタのシールド線を通って正極側(+)及び負極側(-)のLISN16、17に流入するコモンモード電流(ノイズ)をそれぞれ示している。また、N4で示す矢印は筐体15から車体27に流出するコモンモード電流(ノイズ)、N5~N8で示す矢印は、車体27からLISN17、LISN16を経由してEMIフィルタ18に流入するコモンモード電流(ノイズ)を示している。尚、図中の矢印は単一方向のみで示しているが、実際にはコモンモード電流の流れは単純ではなく、各場所において双方向で流出/流入している。
【0070】
図5の電力変換装置100の場合、モータMから寄生容量37を介して流出するコモンモード電流(N1)が大きくなる。また、このコモンモード電流とインバータ回路2から筐体15に流出するコモンモード電流(N2)はYコンデンサ24、26を介してノイズ源であるインバータ回路2の上下アームスイッチング素子3~8に還流するが(N3)、モータMやインバータ回路2からYコンデンサ24、26は離れているため、還流経路が長くなり、Yコンデンサ24、26のフィルタ効果(コモンモード電流を還流させる効果)が十分に得られなくなる。
【0071】
一方、実施例では図1図6に示す如くコンデンサ33、34を接続してインピーダンスバランスをとり、コモンモード電圧Vcを零、若しくは、極めて小さくしているのでコモンモード電流(N1)を抑制し、ノイズを解消、若しくは、著しく低減することが可能となる。
【0072】
特に、本発明では中間経路31U~31WとモータMとの間に中間付加インピーダンスZm1(ノーマルモードコイル30、三相コモンモードコイル28、及び、フェライトコア29)を接続しているので、寄生容量37を経由する経路のインピーダンスが十分に大きくなっている。これにより、インピーダンスバランス(平衡)をとる際に、中間インピーダンスZmが関わる値(式(I)の分子第二項と分母第二項)が無視できる程に小さくなるので、正極側の寄生容量発生ポイントPと筐体15(基準電位導体)間の容量Ztと、負極側の寄生容量発生ポイントNと筐体15間の容量Zbの調整、即ち、実施例でのコンデンサ33と34の容量の選定によるブリッジ回路の平衡(バランス)がとり易くなり、容易、且つ、効果的にノイズを低減することができるようになる。
【0073】
また、図1図6のようにコンデンサ33、34をバスバーアセンブリ12に配置することにより、モータMから寄生容量37を介して流出するコモンモード電流(N1)とインバータ回路2から筐体15に流出するコモンモード電流(N2)のうちの多くは、図6に矢印N10で示すように、コンデンサ33、34を介してノイズ源であるインバータ回路3の上下アームスイッチング素子3~8に還流するようになる。
【0074】
バスバーアセンブリ12はフィルタ基板13よりもモータMやインバータ回路2の上下アームスイッチング素子3~8に近い位置に設けられるので、これらコンデンサ33、34をバスバーアセンブリ12に配置することで還流経路が短くなり、コンデンサ33、34において高いフィルタ効果を得ることができるようになる。これにより、従来の如く電源入力部に大型のコモンモードコイルを挿入すること無く、ノイズを抑制することが可能となり、小型化を図りながら、効果的にノイズを抑制することができるようになる。
【0075】
また、実施例ではインバータ回路2の上下アームスイッチング素子3~8とモータM間のバスバーアセンブリ12にノーマルモードコイル30、三相コモンモードコイル28、及び、フェライトコア29を配置したので、寄生容量37を経由する経路のインピーダンスが増加し、寄生容量37を経由して流出するコモンモード電流(ノイズ。矢印N1で示す)は小さくなる。これによっても、大型のコモンモードコイルを電源入力部に挿入する必要がなくなり、インバータ一体型電動圧縮機1の小型化を図りながら、効果的にノイズの抑制を図ることが可能となる。
【0076】
尚、実施例では正極側経路16と筐体15間に、正極側付加容量としてコンデンサ33を接続し、負極側経路17と筐体15間にも、負極側付加容量としてコンデンサ34を接続することで正極側の寄生容量発生ポイントPと筐体15(基準電位導体)間の容量Ztと、負極側の寄生容量発生ポイントNと筐体15間の容量Zbを調整し、インピーダンスバランスをとるようにしたが、コンデンサ33と34のうちの何れか一方のみを接続し、他方の容量(ZbかZt)については、筐体15間の寄生容量の調整で対応するようにしてもよい。
【0077】
具体的には、例えばインダクタンスZvとインダクタンスZgの比率が1:1で、正極側の寄生容量発生ポイントPと筐体15間のもともとの寄生容量が100pFであった場合、これを容量Ztと見做して、容量Zbの成分として新たに100pFのコンデンサ34(負極側付加容量)のみを接続すれば、容量Ztと容量Zbの比率も1:1となって、インピーダンスバランス条件を満たすことになる。
【0078】
また、請求項1や請求項2の発明では、コンデンサ33(正極側付加容量)及びコンデンサ34(負極側付加容量)を接続せず、正極側の寄生容量発生ポイントPと筐体15間の容量Zt及び負極側の寄生容量発生ポイントNと筐体15間の容量Zbの双方を寄生容量の調整のみで対応し、インピーダンスバランスをとるようにしてもよい。これらの場合の寄生容量の調整は、例えば、各スイッチング素子3~8を放熱させるヒートシンクと放熱シート間の距離を変更することや、コレクタとヒートシンクの間の寄生結合、エミッタとヒートシンクの間の寄生結合が異なるスイッチング素子を選定することによって行うことができる。
【0079】
ヒートシンクと放熱シート間の距離の変更は、寄生容量の調整となり、図3の寄生容量44の値が変わることになるので、容量Ztが変わる(調整)ことになる。スイッチング素子自体は内部インピーダンス+寄生容量の値及び位置によって変更(調整)することができる。内部インピーダンスが変われば、図4のZ1、Z2が変わるが、インピーダンスバランスにおいてはZ1、Z2は支配的な要因ではないため、寄生容量44が変わるのみとなる。
【0080】
また、実施例では配線部材として、バスバーを硬質樹脂でモールドしたバスバーアセンブリ12を採用したが、請求項1~請求項6の発明では樹脂でモールドしないバスバーであってもよい。また、実施例では中間付加インピーダンスZm1としてノーマルモードコイル30、三相コモンモードコイル28、及び、フェライトコア29を接続したが、それに限らず、それらのうちの何れかのみ、或いは、それらのうちの二つの組み合わせ(ノーマルモードコイル30と三相コモンモードコイル28の組み合わせ、又は、ノーマルモードコイル30とフェライトコア29の組み合わせ、若しくは、三相コモンモードコイル28とフェライトコア29の組み合わせ)を接続して中間付加インピーダンスZm1としてもよい。
【0081】
また、実施例では正極側経路16と負極側経路17の双方にノーマルモードコイル22及び35を接続したが、請求項8以外の発明では正極側経路16と負極側経路17のうちの何れか一方にのみノーマルモードコイル(22か35)を接続するようにしてもよい。
【0082】
更に、実施例で示した電力変換装置1により電動圧縮機のモータMを駆動する例で説明したが、それに限定されるものでは無く、三相モータを駆動する種々の装置に本発明が有効であることは云うまでもない。
【符号の説明】
【0083】
1 電力変換装置
2 インバータ回路
3~8 上下アームスイッチング素子
11 制御基板
12 バスバーアセンブリ(配線部材)
14 バッテリ(直流電源)
15 筐体(基準電位導体)
16 正極側経路
17 負極側経路
22、35 ノーマルモードコイル
28 三相コモンモードコイル(Zm1)
29 フェライトコア(Zm1)
30 ノーマルモードコイル(Zm1)
31U~31W 中間経路
32U~32W 出力経路
33 コンデンサ(正極側付加容量)
34 コンデンサ(負極側付加容量)
M モータ
N 負極側の寄生容量発生ポイント
P 正極側の寄生容量発生ポイント
Zb 負極側の寄生容量発生ポイントNと筐体15間の容量
Zg 負極側経路のインダクタンス
Zm 中間インピーダンス
Zm1 中間付加インピーダンス
Zt 正極側の寄生容量発生ポイントPと筐体15間の容量
Zv 正極側経路のインダクタンス
図1
図2
図3
図4
図5
図6