IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社アイカムス・ラボの特許一覧 ▶ 国立大学法人岩手大学の特許一覧

<>
  • 特許-薬液投与装置及び薬液投与制御方法 図1
  • 特許-薬液投与装置及び薬液投与制御方法 図2
  • 特許-薬液投与装置及び薬液投与制御方法 図3
  • 特許-薬液投与装置及び薬液投与制御方法 図4
  • 特許-薬液投与装置及び薬液投与制御方法 図5
  • 特許-薬液投与装置及び薬液投与制御方法 図6
  • 特許-薬液投与装置及び薬液投与制御方法 図7
  • 特許-薬液投与装置及び薬液投与制御方法 図8
  • 特許-薬液投与装置及び薬液投与制御方法 図9
  • 特許-薬液投与装置及び薬液投与制御方法 図10
  • 特許-薬液投与装置及び薬液投与制御方法 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-30
(45)【発行日】2024-06-07
(54)【発明の名称】薬液投与装置及び薬液投与制御方法
(51)【国際特許分類】
   A61M 5/20 20060101AFI20240531BHJP
   A61M 5/24 20060101ALI20240531BHJP
   A61M 5/28 20060101ALI20240531BHJP
【FI】
A61M5/20
A61M5/24
A61M5/28
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020042683
(22)【出願日】2020-03-12
(65)【公開番号】P2021142108
(43)【公開日】2021-09-24
【審査請求日】2023-01-13
(73)【特許権者】
【識別番号】503366841
【氏名又は名称】株式会社アイカムス・ラボ
(73)【特許権者】
【識別番号】504165591
【氏名又は名称】国立大学法人岩手大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小川 裕二
(72)【発明者】
【氏名】河野 賢一郎
(72)【発明者】
【氏名】千田 勝友
(72)【発明者】
【氏名】木村 浩行
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 友彦
(72)【発明者】
【氏名】金 天海
【審査官】上石 大
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-544163(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0199855(US,A1)
【文献】特表2015-525585(JP,A)
【文献】特表2009-518056(JP,A)
【文献】特開2015-119571(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/20
A61M 5/24
A61M 5/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動モータを用いたリニアアクチュエータによって薬液カートリッジ内の薬液を押し出し、注射針を介して薬液を投与する薬液投与装置であって、
前記電動モータを駆動する実デューティ比が無外乱時のデューティ比となるように実デューティ比を制御するモータ駆動制御部を備え
前記モータ駆動制御部は、
無外乱時のデューティ比を入力として無外乱時の消費電力を予測出力する学習を予め行った学習済みモデルを用いて、実デューティ比に対する無外乱時の消費電力を予測する無外乱消費電力予測部を備え、
実デューティ比から得られる実消費電力から、予測した無外乱時の消費電力を減算した外乱消費電力を算出し、該外乱消費電力をディーティ比に変換した外乱デューティ比分を差し引いた実デューティ比を前記電動モータに出力することを特徴とする薬液投与装置。
【請求項2】
前記学習済みモデルは、階層的に分割された状態空間にそれぞれ対応付けられた複数のノードを階層的に配置することにより構成された木構造を有する学習モデルに対し、無外乱時のデューティ比を入力として無外乱時の消費電力に関するデータ群を学習させたものであることを特徴とする請求項に記載の薬液投与装置。
【請求項3】
前記薬液カートリッジは、薬液ごとに異なる形状のカートリッジアダプタを介して装着され、
前記カートリッジアダプタには、前記薬液カートリッジの薬液に対応した薬液情報が形成され、あるいは付され、
前記薬液情報を読み取る読取部を備えたことを特徴とする請求項1又は2に記載の薬液投与装置。
【請求項4】
薬液投与に関する情報を送受信できる無線通信機能を有したことを特徴とする請求項1~のいずれか一つに記載の薬液投与装置。
【請求項5】
薬液の被投与者の生体認証機能を有することを特徴とする請求項1~のいずれか一つに記載の薬液投与装置。
【請求項6】
薬液投与の時間を案内する案内機構を有することを特徴とする請求項1~のいずれか一つに記載の薬液投与装置。
【請求項7】
前記モータ駆動制御部は、前記外乱消費電力が所定値以上となった場合、モータ駆動を停止させることを特徴とする請求項1又は2に記載の薬液投与装置。
【請求項8】
電動モータを用いたリニアアクチュエータによって薬液カートリッジ内の薬液を押し出し、注射針を介して薬液を投与する薬液投与装置はモータ駆動制御部を備え、前記モータ駆動制御部は、前記電動モータを駆動する実デューティ比が無外乱時のデューティ比となるように実デューティ比を制御して薬液の投与を制御する薬液投与制御方法であって、
前記モータ駆動制御部は、
前記電動モータに出力される無外乱時のデューティ比を入力として無外乱時の消費電力を予測出力する学習を予め行った学習済みモデルを用いて、実デューティ比に対する無外乱時の消費電力を予測する無外乱消費電力予測ステップと、
実デューティ比から得られる実消費電力から、予測した無外乱時の消費電力を減算した外乱消費電力を算出し、該外乱消費電力をディーティ比に変換した外乱デューティ比分を差し引いた実デューティ比を前記電動モータに出力する出力ステップと、
を含む薬液投与制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬液投与時に発生する鈍痛を抑え、低侵襲な薬液投与を行うことができる薬液投与装置及び薬液投与方法に関する。
【背景技術】
【0002】
患者自身が治療行為を医療機器である薬液投与装置には、数回分の薬液があらかじめセットされたプレフィルドタイプや、カートリッジを交換できるタイプなど、多くの手動方式によるものが市販化されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-98013号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、これらの手動式の薬液投与装置は、バネ等の荷重により設定投与量を一気に全寮吐出するため、投与負荷に対する投与速度のフィードバックがなく、投与時に鈍痛を伴う場合がある。
【0005】
一方、電動式の薬液投与装置が知られている(特許文献1参照)が、この電動式の薬液投与装置においても、単にモータが薬液カートリッジアダプタのピストンに駆動力を供給するのみで、薬液投与時における鈍痛を抑止できるものではない。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、薬液投与時に発生する鈍痛を抑え、低侵襲な薬液投与を行うことができる薬液投与装置及び薬液投与方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、電動モータを用いたリニアアクチュエータによって薬液カートリッジ内の薬液を押し出し、注射針を介して薬液を投与する薬液投与装置であって、前記電動モータを駆動する実デューティ比が無外乱時のデューティ比となるように実デューティ比を制御するモータ駆動制御部を備えることを特徴とする。
【0008】
また、本発明は、上記の発明において、前記モータ駆動制御部は、無外乱時のデューティ比を入力として無外乱時の消費電力を予測出力する学習を予め行った学習済みモデルを用いて、実デューティ比に対する無外乱時の消費電力を予測する無外乱消費電力予測部を備え、実デューティ比から得られる実消費電力から、予測した無外乱時の消費電力を減算した外乱消費電力を算出し、該外乱消費電力をディーティ比に変換した外乱デューティ比分を差し引いた実デューティ比を前記電動モータに出力することを特徴とする。
【0009】
また、本発明は、上記の発明において、前記学習済みモデルは、階層的に分割された状態空間にそれぞれ対応付けられた複数のノードを階層的に配置することにより構成された木構造を有する学習モデルに対し、無外乱時のデューティ比を入力として無外乱時の消費電力に関するデータ群を学習させたものであることを特徴とする。
【0010】
また、本発明は、上記の発明において、前記薬液カートリッジは、薬液ごとに異なる形状のカートリッジアダプタを介して装着され、前記カートリッジアダプタには、前記薬液カートリッジの薬液に対応した薬液情報が形成され、あるいは付され、前記薬液情報を読み取る読取部を備えたことを特徴とする。
【0011】
また、本発明は、上記の発明において、薬液投与に関する情報を送受信できる無線通信機能を有したことを特徴とする。
【0012】
また、本発明は、上記の発明において、薬液の被投与者の生体認証機能を有することを特徴とする。
【0013】
また、本発明は、上記の発明において、薬液投与の時間を案内する案内機構を有することを特徴とする。
【0014】
また、本発明は、上記の発明において、前記モータ駆動制御部は、前記外乱消費電力が所定値以上となった場合、モータ駆動を停止させることを特徴とする。
【0015】
また、本発明は、電動モータを用いたリニアアクチュエータによって薬液カートリッジ内の薬液を押し出し、注射針を介して薬液を投与する薬液投与方法であって、前記電動モータに出力される無外乱時のデューティ比を入力として無外乱時の消費電力を予測出力する学習を予め行った学習済みモデルを用いて、実デューティ比に対する無外乱時の消費電力を予測する無外乱消費電力予測ステップと、実デューティ比から得られる実消費電力から、予測した無外乱時の消費電力を減算した外乱消費電力を算出し、該外乱消費電力をディーティ比に変換した外乱デューティ比分を差し引いた実デューティ比を前記電動モータに出力する出力ステップと、を含む。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、薬液投与時に発生する鈍痛を抑え、低侵襲な薬液投与を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、本発明の実施の形態である薬液投与装置の正面図である。
図2図2は、図1に示した薬液投与装置の右側面図である。
図3図3は、図1に示した薬液投与装置を斜め前方右上からみた透視図である。
図4図4は、図1に示した薬液投与装置を斜め後方右上からみた透視図である。
図5図5は、着脱部の構成を示す分解斜視図である。
図6図6は、薬液投与装置の制御系の構成を示す模式図である。
図7図7は、モータ駆動制御部の制御系の構成を示すブロック図である。
図8図8は、無外乱消費電力予測部の学習を説明する説明図である。
図9図9は、学習済みモデルの一例を説明する説明図である。
図10図10は、予測した外乱消費電力を減算する電力制御結果の一例を示す図である。
図11図11は、コントローラによる薬液投与制御処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面を参照してこの発明を実施するための形態について説明する。
【0019】
<全体構成>
図1は、本発明の実施の形態である薬液投与装置1の正面図である。また、図2は、図1に示した薬液投与装置1の右側面図である。また、図3は、図1に示した薬液投与装置1を斜め前方右上からみた透視図である。また、図4は、図1に示した薬液投与装置1を斜め後方右上からみた透視図である。図1図4に示すように、薬液投与装置1は、本体部1aに着脱部1bが装着される。
【0020】
本体部1aの前面には、表示操作部25、電源スイッチSW1、選択スイッチSW2、決定スイッチSW3が設けられ、本体部1aの基部には、投与スイッチSW4が設けられる。表示操作部25は、タッチパネル付き液晶パネルなどの入出力デバイスであるが、液晶パネルなどの表示デバイスだけであってもよい。電源スイッチSW1は、電源投入を指示するスイッチである。選択スイッチSW2は、表示操作部25に表示された内容を選択し、決定スイッチSW3は、選択状態の表示項目に対する決定を指示するスイッチである。投与スイッチSW4は、薬液投与の開始を指示するスイッチである。
【0021】
本体部1aの内部には、無線モジュール15、バッテリ19、給電モジュール18を含み、後述するコントローラ20や電動モータ10が含まれる。
【0022】
着脱部1bは、図5に示すように、薬液が内包された薬液カートリッジ32がカートリッジアダプタ31に装着され、さらに、カートリッジアダプタ31がカートリッジホルダ30に装着される。カートリッジホルダ30の先端には、薬液カートリッジ32の先端に接続される注射針33が取り付けられる。
【0023】
薬液カートリッジ32は、薬液ごとに異なる形状のカートリッジアダプタ31にのみ装着可能であり、カートリッジアダプタ31には、薬液カートリッジ32の薬液に対応した薬液情報であるバーコードが付される突起31aを有する。この突起31aのバーコードは、後述するアダプタ検出センサS2によって読み取られる。この場合、アダプタ検出センサS2は、バーコードリーダとして機能する読取部となる。アダプタ検出センサS2は、カートリッジアダプタ31の装着の検出、及び、バーコードの読み取りを行う。なお、バーコード及びバーコードスキャナに限らず、カートリッジアダプタ31の突起31aの配置及び数によって薬液情報を示すようにしてもよい。この場合、アダプタ検出センサS2は、突起31aとの篏合状態を薬液情報として検出する。また、別途設けたバーコードスキャナによって、カートリッジホルダの前面に設けられた長孔からカートリッジアダプタ31に付されたバーコードを読み取るようにしてもよい。
【0024】
なお、本体部1aは、衛生面を考慮して丸洗いができる防水構造である。また、薬液投与装置1は、携帯型であるため、落下した場合であっても動作が可能な堅牢性を有している。さらに、カートリッジアダプタ31は、抗菌樹脂で形成され、雑菌の繁殖を防いでいる。
【0025】
<制御系の構造>
図6は、薬液投与装置1の制御系の構成を示す模式図である。図6に示すように薬液投与装置1は、電動モータ10を有する。電動モータ10の回転軸には、すべりネジ11が図示しない減速機構を介して接続される。すべりネジ11の先端には、すべりネジ11に螺合するナット12が結合され、ナット12は、すべりネジ11の回転に伴ってすべりネジ11の軸方向に直動する。ナット12には、プランジャ13が結合され、ナット12の直動に伴ってプランジャ13は薬液カートリッジ32内に挿脱する。このプランジャ13の挿入に伴って薬液カートリッジ32内の薬液が注射針33から吐出される。この電動モータ10、すべりネジ11、ナット12、プランジャ13は、リニアアクチュエータを構成する。
【0026】
コントローラ20には、プランジャ位置センサS1、アダプタ検出センサS2、無線モジュール15、生体認証モジュール16を含む表示操作部25、給電モジュール18、回転数検出センサ14、電源スイッチSW1、選択スイッチSW2、決定スイッチSW3、投与スイッチSW4が接続される。
【0027】
プランジャ位置センサS1は、ナット12の位置を検出することでプランジャ13の位置を検出する。アダプタ検出センサS2は、カートリッジアダプタ31の装着の検出、及び、薬液情報の読み取りを行う。
【0028】
無線モジュール15は、Bluetooth(登録商標)などの低消費近距離無線デバイスであり、外部の薬液投与管理装置100と無線接続して、各種情報の送受信を行う。
【0029】
表示操作部25は、タッチパネル付き液晶パネルなどの入出力デバイスであり、生体認証モジュール16の機能も有する。生体認証モジュール16は、例えば、表示操作部25の表示画面に、被投与者の指を載置して指紋認証を行う。指紋認証の照合は、コントローラ20に指紋認証用データを転送して保持してもよいし、薬液投与管理装置100側に指紋を送付して認証処理を行わるようにしてもよい。
【0030】
給電モジュール18は、薬液投与装置1が載置される外部のクレードル200に設けられた送電モジュール201との間の無線給電の処理を行い、給電された電力は、バッテリ19に蓄えられる。回転数検出センサ14は、電動モータ10の回転数を検出する。
【0031】
コントローラ20は、薬液投与装置1全体の制御を行う制御部である。コントローラ20は、モータ駆動制御部21を有する。モータ駆動制御部21は、電動モータ10を駆動する実デューティ比DをもつPWM信号を電動モータ10に出力する。モータ駆動制御部21は、実デューティ比Dが無外乱時のデューティ比D0となるように実デューティ比Dを制御する。
【0032】
<モータ駆動制御>
図7は、モータ駆動制御部21の制御系の構成を示すブロック図である。モータ駆動制御部21は、PWM制御部41、無外乱消費電力予測部42、外乱消費電力算出部43、及び、乗算部44を有する。
【0033】
無外乱消費電力予測部42は、無外乱時のデューティ比D0を入力として無外乱時の消費電力P0を予測出力する学習を予め行った学習済みモデルを用いて、実デューティ比Dに対する無外乱時の消費電力P0を予測する。
【0034】
学習済みモデルは、図8に示すように、無外乱時のデューティ比D0を入力し、次の状態(時点)での無外乱時の消費電力P0を予測出力する学習を行ったものである。この学習済モデルは、階層的に分割された状態空間にそれぞれ対応付けられた複数のノードを階層的に配置することにより構成された木構造を有する学習モデルに対し、無外乱時のデューティ比D0を入力として無外乱時の消費電力P0に関するデータ群を学習させたものである。
【0035】
この学習済みモデルは、計算量の上限を設けるべく、限られた階層及びノードの木構造データであり、合致する値が存在しない場合、上位層の値の平均をとって出力するようにしている。したがって、薬液投与装置1のように、高速なリアルタイムシステム上において、安定した制御周期での稼働が保証されるとともに、必要とする計算時間を短くすることができる。
【0036】
図9に示すように、例えば学習済みモデルは、3階層のノードに分岐した木構造である。なお、各階層の状態空間は、デューティ比の1次元としている。予測条件としたディーティ比以外の条件を付加した多次元の空間としてもよい。図9(a)は、ルートRから2分岐した上位のノードN11,N12を有し、さらに下位に各ノードN11,N12が2分岐した4つのノードN21~N24を有し、さらにノードN21~N24がそれぞれ2分岐した8つの葉ノードであるノードN31~N38に分岐している。
【0037】
学習時は、入力されたデューティ比D0に対する無外乱時の消費電力P0の教師データを記憶する。この教師データは、図9(b)では、「×」として示している。その後、各ノードの無外乱時の消費電力P0は、各ノードの無外乱時の消費電力P0の教師データの平均(相加平均)として記憶する。例えば、ノードN36の無外乱時の消費電力P0は、4つの教師データの平均である消費電力P36が記憶される。
【0038】
予測時は、入力されたデューティ比Dに対応したノードをたどり、葉ノードの無外乱時の消費電力P0を出力する。例えば、デューティ比Dの値が0.7である場合、順に、ルートR、ノードN12、ノードN23、ノードN36をたどり、ノードN36の無外乱時の消費電力P36を出力する。ここで、例えば、デューティ比Dが0.1の場合、ノードN31には教師データがなく無外乱時の消費電力P31が存在しないため、上位ノードN21の無外乱時の消費電力P21が代替として出力される。なお、ノードN35に対する教師データ(デューティ比Dが0.5~0.625の教師データ)が多数存在する場合、さらに下位のノードに分岐した状態空間の階層を設けて予測精度を高めてもよい。
【0039】
図7に戻り、外乱消費電力算出部43は、実デューティ比Dから得られる実消費電力Pから、無外乱消費電力予測部42が出力した無外乱時の消費電力P0を減算した外乱消費電力ΔPを算出する。PWM信号は、電流制御の信号であり、実消費電力Pは、実デューティ比Dから算出することができる。なお、電動モータ10に流れる電流及び電圧をもとに直接、実消費電力Pを得てもよい。
【0040】
乗算部44は、外乱消費電力算出部43から出力される外乱消費電力ΔPに、予め設定された変換計数αを乗算し、外乱消費電力ΔPをデューティ比に変換するとともに、適切な値に調整する。この乗算部44によって変換された外乱デューティ比分ΔD(=α・ΔP)はPWM制御部41に入力される。
【0041】
PWM制御部41は、入力された目標回転数ωaから、回転数検出センサ14が検出した実回転数ωfを減算した誤差回転数Δω分を増減した、無外乱時のデューティ比D0を算出する。そして、PWM制御部41は、算出したデューティ比D0から外乱デューティ比分ΔDを減算し、減算したデューティ比を実デューティ比Dとして電動モータ10に出力する。
【0042】
すなわち、モータ駆動制御部21は、実デューティ比Dを次式(1)で算出して電動モータ10に出力している。
D=D0-α(P-P0) …(1)
ここで、Dは実デューティ比であり、D0は目標回転数ωa時の無外乱時のデューティ比であり、Pは実消費電力であり、P0は予測した無外乱時の消費電力であり、αは消費電力をデューティ比に調整する変換係数である。
【0043】
この式(1)では、電動モータ10への外乱が加わった場合、実デューティ比Dが抑えられ、電動モータ10への外乱がない場合、実デューティ比Dは、無外乱時のデューティ比D0となり、目標回転数ωaが維持される。電動モータ10への外乱が加わった場合に実デューティ比Dが抑えられるので、無駄な消費電力を削減することができるとともに、注射針33からの薬液の投与速度が徐々に上げられ、薬液投与時の鈍痛を抑えることができる。
【0044】
例えば、歯科において麻酔薬を投入する場合、細い針の利用で穿刺の際に痛みはないが針内径が細いことから薬液投与速度が速くなるため、鈍痛を発生しやすいが、本実施の形態では、消費電力を抑えて、薬液投与速度を徐々に上げる制御が行われるため、薬液投与時の痛みを抑えることができる。
【0045】
ここで、痛みの発生の一つの要因として、薬液投与時の圧力がある。本実施の形態では、薬液投与時の圧力が、実消費電力Pと相関があり、実消費電力Pが大きいほど薬液投与時の圧力も大きい傾向にあり、薬液投与時の圧力が大きい状態で薬液を押し込むと人は痛みを感じることに着目し、薬液投与時の圧力、すなわち実消費電力が大きく(外乱消費電力ΔPが大きく)なりそうだと予測した場合、薬液の押し込みを緩めるという制御を行うようにしている。例えば、図10に示すように、実消費電力Pが無外乱時の消費電力P0となるように、予測した外乱消費電力ΔPを減算する電力制御を行うようにしている。
【0046】
<薬液投与制御処理>
図11は、コントローラ20による薬液投与制御処理を示すフローチャートである。図10に示すように、コントローラ20は、まず、電源スイッチSW1がオンであるか否かを判定する(ステップS110)。電源スイッチSW1がオンでない場合(ステップS110:No)、本判定処理を繰り返す。
【0047】
電源スイッチSW1がオンである場合(ステップS110:Yes)、認証が許可されたか否かを判定する(ステップS120)。この認証は、例えば、生体認証モジュール16による被投与者の指紋認証である。認証が許可されない場合(ステップS120:No)、本処理を終了する。なお、生体認証を行うのは、被投与者本人に必要な薬液や、必要な投与量以上は投与しないようにするためである。
【0048】
認証が許可された場合(ステップS120:Yes)、さらに薬液種類が許可されたものであるか否かを判定する(ステップS130)。この薬液種類は、アダプタ検出センサS2による薬液情報をもとに判定する。この薬液種類が許可されたものか否かは、例えば、無線モジュール15を介して薬液投与管理装置100に問い合わせる。薬液種類が許可されない場合(ステップS130:No)には、本処理を終了する。
【0049】
薬液種類が許可された場合(ステップS130:Yes)、この薬液の投与時刻を事前に告知する(ステップS140)。この投与時刻の事前告知の情報は、例えば、無線モジュール15を介して薬液投与管理装置100に問い合わせる。また、この投与時刻の事前告知は、例えば、表示操作部25に表示する案内でもよいし、図示しないスピーカから音声案内してもよいし、図示しない振動部によるバイブレーションで案内するようにしてもよい。表示操作部25による案内は、例えば、光の点滅などの照明アラームであってもよい。
【0050】
その後、選択スイッチSW2及び決定スイッチSW3によって薬液の投与量が設定されたか否かを判定する(ステップS150)。薬液の投与量が設定されていない場合(ステップS150:No)、本判定処理を繰り返す。一方、薬液の投与量が設定された場合(ステップS150:Yes)、さらに、投与スイッチSW4がオンされたか否かを判定する(ステップS160)。
【0051】
投与スイッチSW4がオンされた場合(ステップS160:Yes)、モータ駆動制御部21によるモータ駆動制御をオンにし(ステップS170)、薬液の投与を行う。その後、コントローラ20は、電動モータ10が無負荷になったか否かを判定する(ステップS190)。電動モータ10が無負荷とは薬液が空になった状態である。なお、電動モータ10が無負荷になったか否かの判定の替わりに、プランジャ位置センサS1が検出する位置によって薬液が空になったか否かを判定するようにしてもよい。電動モータ10が無負荷になっていない場合(ステップS190:No)、ステップS160に移行する。
【0052】
一方、投与スイッチがオンされていない場合(ステップS160:No)、モータ駆動制御部21によるモータ駆動制御をオフし(ステップS180)、ステップS160に移行する。
【0053】
電動モータ10が無負荷になった場合(ステップS190:Yes)、薬液の投与量を含むログ情報の記録処理を行い(ステップS200)、本処理を終了する。なお、このログ情報の記録処理は、コントローラ20内あるいはコントローラ20に接続される記憶部内に記録してもよいし、無線接続される薬液投与管理装置100内に記録するようにしてもよい。また、上記の投与スイッチSW4は、押下状態の時にオン状態なることを前提で説明したが、これに限らず、投与スイッチSW4を一度押下した場合、その後オン状態を維持し、再度の投与スイッチSW4の押下によって投与を停止するようにしてもよい。
【0054】
なお、コントローラ20は、薬液カートリッジ32の割れなどを防ぐため、外乱消費電力ΔPが所定値以上となった場合、電動モータ10を停止させるようにしてもよい。
【0055】
また、上記の実施の形態で図示した各構成は機能概略的なものであり、必ずしも物理的に図示の構成をされていることを要しない。すなわち、各装置及び構成要素の分散・統合の形態は図示のものに限られず、その全部又は一部を各種の使用状況などに応じて、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。
【符号の説明】
【0056】
1 薬液投与装置
1a 本体部
1b 着脱部
10 電動モータ
11 すべりネジ
12 ナット
13 プランジャ
14 回転数検出センサ
15 無線モジュール
16 生体認証モジュール
18 給電モジュール
19 バッテリ
20 コントローラ
21 モータ駆動制御部
25 表示操作部
30 カートリッジホルダ
31 カートリッジアダプタ
31a 突起
32 薬液カートリッジ
33 注射針
41 PWM制御部
42 無外乱消費電力予測部
43 外乱消費電力算出部
44 乗算部
100 薬液投与管理装置
200 クレードル
201送電モジュール
D 実デューティ比
D0 デューティ比
P 実消費電力
P0 無外乱時の消費電力
S1 プランジャ位置センサ
S2 アダプタ検出センサ
SW1 電源スイッチ
SW2 選択スイッチ
SW3 決定スイッチ
SW4 投与スイッチ
α 変換計数
ΔD 外乱デューティ比分
ΔP 外乱消費電力
ωa 目標回転数
ωf 実回転数
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11