(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-30
(45)【発行日】2024-06-07
(54)【発明の名称】SARS-CoV-2の検出キットおよびSARS-CoV-2の検出方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/569 20060101AFI20240531BHJP
G01N 33/543 20060101ALI20240531BHJP
C07K 16/00 20060101ALI20240531BHJP
C12N 7/00 20060101ALI20240531BHJP
C12P 21/08 20060101ALN20240531BHJP
【FI】
G01N33/569 L ZNA
G01N33/543 501A
G01N33/543 521
C07K16/00
C12N7/00
C12P21/08
(21)【出願番号】P 2022563754
(86)(22)【出願日】2021-11-16
(86)【国際出願番号】 JP2021041983
(87)【国際公開番号】W WO2022107737
(87)【国際公開日】2022-05-27
【審査請求日】2023-04-26
(31)【優先権主張番号】P 2020190706
(32)【優先日】2020-11-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】505155528
【氏名又は名称】公立大学法人横浜市立大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】氏原 大
(72)【発明者】
【氏名】片田 順一
(72)【発明者】
【氏名】梁 明秀
【審査官】大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第111269313(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第111398589(CN,A)
【文献】国際公開第2020/045524(WO,A1)
【文献】特開平02-130473(JP,A)
【文献】KURIHARA, Y. et al.,The evaluation of a novel digital immunochromatographic assay with silver amplification to detect SARS-CoV-2,Journal of Infection and Chemotherapy,2021年07月13日,Vol.27,pp.1493-1497,doi.org/10.1016/j.jiac.2021.07.006
【文献】廣津 伸夫 他,銀増幅イムノクロマトグラフィーを用いた高感度SARS-CoV-2抗原検出システムの臨床評価,医学と薬学,2021年06月27日,Vol.78, No.7,pp.873-879
【文献】YAMAOKA, Y. et al.,Highly specific monoclonal antibodies and epitope identification against SARS-CoV-2 nucleocapsid protein for antigen detection tests,Cell Reports Medicine,2021年06月15日,Vol.2, No.100311,pp.1-11,e1-e5,doi.org/10.1016/j.xcrm.2021.100311
【文献】山川 賢太郎 他,イムノクロマト法を用いた新型コロナウイルスSARS-CoV-2抗原検出試薬の開発,医薬と薬学,2020年05月27日,Vol.77, No.6,pp.937-944
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48 - 33/98
C07K 16/00
C12N 7/00
C12P 21/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
SARS-CoV-2ヌクレオカプシドタンパク質と特異的に反応する少なくとも1種の抗体を含む、生体試料に含まれるヌクレオカプシドタンパク質を特異的に検出するSARS-CoV-2の検出キットであって、
前記抗体が、サブクラスがIgG2bである抗体を少なくとも一種含み、
銀を含む化合物を収容する第一の容器と、銀イオンを還元し得る還元剤を収容する第二の容器とを含む、SARS-CoV-2の検出キット。
【請求項2】
前記抗体が、断片化抗体である、請求項1に記載のSARS-CoV-2の検出キット。
【請求項3】
前記断片化抗体が、プロテアーゼ処理により作製された抗体である、請求項2に記載のSARS-CoV-2の検出キット。
【請求項4】
前記抗体が標識物質により標識されており、標識物質による情報を、銀を含む化合物と銀イオンを還元し得る還元剤により増幅して検出する、請求項1から3のいずれか一項に記載のSARS-CoV-2の検出キット。
【請求項5】
前記標識物質が金コロイドである、請求項4に記載のSARS-CoV-2の検出キット。
【請求項6】
前記還元剤が、Fe
2+の金属塩である、請求項1から5のいずれか一項に記載のSARS-CoV-2の検出キット。
【請求項7】
不溶性担体をさらに含む、請求項1から6のいずれか一項に記載のSARS-CoV-2の検出キット。
【請求項8】
前記不溶性担体が、被検物質を捕捉する捕捉領域と、還元剤を検出する発色領域を有する、請求項7に記載の、SARS-CoV-2の検出キット。
【請求項9】
SARS-CoV-2ヌクレオカプシドタンパク質と特異的に反応する少なくとも1種の抗体を用いた、生体試料に含まれるヌクレオカプシドタンパク質を特異的に検出するSARS-CoV-2の検出方法であって、
前記抗体として、サブクラスがIgG2bである抗体を少なくとも一種使用し、
前記検出する方法が、ヌクレオカプシドタンパク質の検出情報を、銀を含む化合物と、銀イオンを還元し得る還元剤により増幅することを含む、
SARS-CoV-2の検出方法。
【請求項10】
前記抗体が、断片化抗体である、請求項9に記載のSARS-CoV-2の検出方法。
【請求項11】
前記断片化抗体が、プロテアーゼ処理により作製された抗体である、請求項10に記載のSARS-CoV-2の検出方法。
【請求項12】
前記抗体が標識物質により標識されており、標識物質による情報を、銀を含む化合物と銀イオンを還元し得る還元剤により増幅して検出する、請求項9から11のいずれか一項に記載のSARS-CoV-2の検出方法。
【請求項13】
前記標識物質が金コロイドである、請求項12に記載のSARS-CoV-2の検出方法。
【請求項14】
前記還元剤がFe
2+の金属塩である、請求項9から13のいずれか一項に記載のSARS-CoV-2の検出方法。
【請求項15】
前記検出方法が、イムノクロマト法である、請求項9から14のいずれか一項に記載のSARS-CoV-2の検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検出情報の銀増幅を利用した、SARS-CoV-2の検出キットおよびSARS-CoV-2の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2020年にパンデミックを起こしたCOVID-19の原因ウイルスであるSARS(Severe acute respiratory syndrome)-CoV-2では、診断に用いられている主な手法として、例えば、非特許文献1に記載されているように、ゲノムRNAを検出するRT-PCR(逆転写ポリメラーゼ連鎖反応)が広く市販されている。RT-PCRによる検出は、逆転写酵素を用いてわずかなRNAをcDNAに変換した後に検出可能な濃度まで増幅することにより、少量のRNAが検出可能であり、高感度で確定診断が可能となる検査方法である。
【0003】
一方で、非特許文献2に記載されているように、ゲノムRNAの保護機能を持つとされているヌクレオカシドプロテイン(NP)を検出し、COVID-19を診断するための抗原検査キットが開発された。抗原検査は、主にSARS-コロナウイルスの遺伝子と共に含まれるタンパク質の存在を検出する検査方法であり、それらの検査方法の中で簡便に検査を行うことが可能なイムノクロマトグラフ法による検出方法が使用されている。
【0004】
特許文献1には、2019-nCOV(SARS-CoV-2)ウイルスに対する非ヒト動物由来の抗血清および/または非ヒト動物由来の免疫グロブリンが記載されている。特許文献2には、新規コロナウイルスまたはその誘導体に対するモノクローナル抗体であって、抗原相補性決定領域CDR1、CDR2およびCDR3が規定されているモノクローナル抗体が記載されている。
【0005】
また、免疫反応を用いて測定する方法の中でもイムノクロマトグラフ法は、操作が簡便で短時間での測定が可能であることから、一般的に開業医や、診療所の医師により広く利用されている。このイムノクロマトグラフ法の感度を上げる方法として、特許文献3には、銀を含む化合物および銀イオンのための還元剤を用いて標識粒子のサイズを増加させることで高感度な検出を可能とする技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】中国特許公開CN111471103A号公報
【文献】中国特許公開CN111560070A号公報
【文献】特許第5091075号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】国立感染研究所 病原体検出マニュアル 2019-nCoV Ver.2.9.1
【文献】医学と薬学77巻6号イムノクロマト法を用いた新型コロナウイルスSARS-CoV-2抗原検出試薬の開発SARS-CoV-2
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のように、ゲノムRNA情報を検出する方法であるRT-PCRによる検査は、抗原検査に比べて感度が高く確定診断が可能であるが、測定に長時間を要し迅速に結果を得ることが難しい。一方、抗原検査のイムノクロマトグラフ法により検出する方法は、短時間で測定が可能な簡便な簡易検査方法であるが、RT-PCR検査に比べて感度が低いことが指摘されていた。
【0009】
本発明は、簡易的により高感度でSARS-CoV-2の検出が可能となる、SARS-CoV-2の検出キットおよびSARS-CoV-2の検出方法を提供することを解決すべき課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、SARS-CoV-2ヌクレオカプシドタンパク質(NP)を検出する抗体を使用し、銀を含む化合物および銀イオンを還元し得る還元剤を用いて、上記抗体で検出されるSARS-CoV-2ヌクレオカプシドタンパク質(NP)の情報を増幅することによって、簡易的で高感度な測定を行うことができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明によれば、以下の発明が提供される。
<1> SARS-CoV-2ヌクレオカプシドタンパク質(NP)と特異的に反応する少なくとも1種の抗体を含む、生体試料に含まれるヌクレオカプシドタンパク質(NP)を特異的に検出するSARS-CoV-2の検出キットであって、
上記抗体が、サブクラスがIgG2bである抗体を少なくとも一種含み、
銀を含む化合物を収容する第一の容器と、銀イオンを還元し得る還元剤を収容する第二の容器とを含む、SARS-CoV-2の検出キット。
<2> 上記抗体が、断片化抗体である、<1>に記載のSARS-CoV-2の検出キット。
<3> 上記断片化抗体が、プロテアーゼ処理により作製された抗体である、<2>に記載のSARS-CoV-2の検出キット。
<4> 上記抗体が標識物質により標識されており、標識物質による情報を、銀を含む化合物と銀イオンを還元し得る還元剤により増幅して検出する、<1>から<3>のいずれか一に記載のSARS-CoV-2の検出キット。
<5> 上記標識物質が金コロイドである、<4>に記載のSARS-CoV-2の検出キット。
<6> 上記還元剤が、Fe2+の金属塩である、<1>から<5>のいずれか一に記載のSARS-CoV-2の検出キット。
<7> 不溶性担体をさらに含む、<1>から<6>のいずれか一に記載のSARS-CoV-2の検出キット。
<8> 上記不溶性担体が、被検物質を捕捉する捕捉領域と、還元剤を検出する発色領域を有する、<7>に記載の、SARS-CoV-2の検出キット。
【0012】
<9> SARS-CoV-2ヌクレオカプシドタンパク質(NP)と特異的に反応する少なくとも1種の抗体を用いた、生体試料に含まれるヌクレオカプシドタンパク質(NP)を特異的に検出するSARS-CoV-2の検出方法であって、
上記抗体として、サブクラスがIgG2bである抗体を少なくとも一種使用し、
上記検出する方法が、ヌクレオカプシドタンパク質(NP)の検出情報を、銀を含む化合物と、銀イオンを還元し得る還元剤により増幅することを含む、
SARS-CoV-2の検出方法。
<10> 上記抗体が、断片化抗体である、<9>に記載のSARS-CoV-2の検出方法。
<11> 上記断片化抗体が、プロテアーゼ処理により作製された抗体である、<10>に記載のSARS-CoV-2の検出方法。
<12> 上記抗体が標識物質により標識されており、標識物質による情報を、銀を含む化合物と銀イオンを還元し得る還元剤により増幅して検出する、<9>から<11>のいずれか一に記載のSARS-CoV-2の検出方法。
<13> 上記標識物質が金コロイドである、<12>に記載のSARS-CoV-2の検出方法。
<14> 上記還元剤がFe2+の金属塩である、<9>から<13>のいずれか一に記載のSARS-CoV-2の検出方法。
<15> 上記検出方法が、イムノクロマト法である、<9>から<14>のいずれか一に記載のSARS-CoV-2の検出方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明のSARS-CoV-2の検出キットおよびSARS-CoV-2の検出方法によれば簡易的に高感度でSARS-CoV-2を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本発明のイムノクロマトグラフキットの一実施形態の態様を示す斜視図である。
【
図2】
図2は、本発明のイムノクロマトグラフキットの一実施形態の態様を示す分解概略斜視図である。
【
図3】
図3は、検査用ストリップ、第1および第2のポットの位置関係を示す模式側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明において「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値および最大値として含む範囲を意味する。
【0016】
(1)コロナウイルス
本発明で検出対象となる新型コロナウイルスは、ニドウイルス目に属し、エンベロープと長さ約30kbpの大きなゲノムを持つ一本鎖プラス鎖RNAウイルスである。その名称はSARS-CoV-2であり、この新型コロナウイルスによる感染症の正式名称を「COVID-19」とWHO(世界保健機関)により命名されている。このSARS-CoV-2を構成するタンパク質としては、スパイク(S)タンパク質、エンベロープ(E)タンパク質、膜(M)タンパク質、ヌクレオカプシド(N)タンパク質の少なくとも4つの構造タンパク質が含まれることが知られている。このうちのヌクレオカプシド(N)タンパク質は、ウイルスのエンベロープ内のウイルスRNAゲノムを、カプシドと呼ばれるリポ核タンパク質複合体にパッケージ化する機能を持ち、免疫原性のリン酸タンパク質であり、配列の保存性と、強い免疫原性を持つ。
【0017】
(2)抗原
上記の4つの構造タンパクは、抗原に用いることが可能であるが、本発明においては、免疫原性のリン酸タンパク質として、配列の保存性と、強い免疫原性を持つことから、ヌクレオカプシド(N)タンパク質を検出対象とする抗原として使用する。
【0018】
(3)抗体
本発明で用いる抗体は、ヌクレオカプシド(N)タンパク質に対する抗体である。このタンパク質に限らず、一般に抗体のサブクラスは、IgA、IgD、IgE、IgM、IgGと5つのクラスに分類することができ、この中で、IgGは、血清中で最も豊富に認められる抗体クラスでさらに5種類のサブクラス(IgG1、IgG2a、IgG2b、IgG3、IgG4)に分類されている。これらのサブクラスの中で、抗原となるヌクレオカプシドタンパク質(以下、NPとも称す)を高感度に検出できる抗体として、本発明においてはサブクラスがIgG2bである抗NP抗体を少なくとも一種使用する。
【0019】
(4)抗体の製造
抗体としては、抗原(被検物質)によって免疫された動物の血清から調製する抗血清、または抗血清から精製された免疫グロブリン画分を使用してもよい。即ち、実験動物に抗原を免疫することで、血清中に産生されるポリクローナル抗体を利用することができる。
または、腹腔内に抗原で免疫された動物の脾臓から採取したB細胞またはB細胞を含む細胞群をミエローマ細胞と融合させることで得られた融合細胞(ハイブリドーマ)が産生するモノクローナル抗体を利用してもよい。または、プラスミドを宿主細胞に導入することで細胞が産生するモノクローナル抗体を利用してもよい。本発明では、モノクローナル抗体を産生する方法を用いることが好ましい。
【0020】
(5)抗体の断片化
上記で述べたように取得した抗体を断片化することにより得られる断片化抗体[例えば、F(ab’)2、Fab、Fab’、またはFv]を利用することも好ましい。
断片化抗体としては、プロテアーゼ処理により作製された抗体を使用することができる。 断片化抗体の作製方法として代表的なものは、次の2つである。まず、抗体をパパイン酵素で処理した場合、2つのFabフラグメントと1つのFcフラグメントに分解される。また、抗体をペプシン酵素で処理した場合、Fabフラグメントが2つ結合したF(ab’)2と断片化されたFcフラグメントに分解される。更に、F(ab’)2は2-メルカプトエチルアミンなどの還元剤で処理することにより、Fab’にすることもできる。これら以外にも、断片化抗体を作製する酵素としては、フィシン、リシルエンドペプチダーゼ、V8プロテアーゼ、ブロメライン、クロストリパイン、メタロエンドペプチダーゼ、パパインを活性化処理した活性化パパインなどがある。これらの酵素処理で得られるFabフラグメントとF(ab’)2フラグメントおよびFab’フラグメントには抗原結合部位があるが、不要なFcフラグメントが除去されている。従って、抗原検出でこれらのフラグメントを使用することで、非特異吸着が減少しノイズも減少する。本発明で用いる断片化抗体は、上記の方法によって作製されたものに限定されず、Fcフラグメントが除去された抗体であれば、いずれも用いることが可能である。
【0021】
(6)イムノクロマトグラフ法
本発明の一例においては、検出情報(検出シグナル)をイムノクロマトグラフ法において増幅させることができる。一般には、イムノクロマトグラフ法とは以下のような手法で被検物質を簡便かつ迅速に、また特異的に、判定や測定を行う手法で、検出情報として、標識物質の情報を用いる方法である。より具体的には以下に記載する方法である。すなわち、被検物質と結合可能な結合物質(被検物質と結合し得る第二の結合物質、または下記の第一の結合物質への結合性を有する物質に相当する。具体的には抗体、抗原等)を有する検査領域を少なくとも1つ含む標識物質捕捉領域を備えたクロマトグラフ担体(不溶性担体の一部)を固定相として用いる。このクロマトグラフ担体上で、被検物質と結合し得る第一の結合物質によって修飾された標識物質を含む液を移動層として、クロマトグラフ的に移動させる。これにより、被検物質と標識物質とが特異的に結合しながら、検査領域を有する標識物質捕捉領域まで到達する。標識物質捕捉領域の検査領域において、被検物質と標識物質の複合体が、固定化された結合物質(第二の結合物質または第一の結合物質への結合性を有する物質)に特異的に結合することにより、被検試料中に被検物質が存在する場合にのみ、結合物質(第二の結合物質または第一の結合物質への結合性を有する物質)に標識物質が濃縮される。目視または適当な機器を用いて標識量を測定することにより、被検試料中に被検物質が存在することを定性および定量的に分析する。
【0022】
本発明におけるイムノクロマトグラフ方法においては、標識物質捕捉領域の検査領域において、被検物質と標識物質の複合体が、固定化された結合物質(第二の結合物質または第一の結合物質への結合性を有する物質)に特異的に結合した後に、洗浄液を用いて反応部位を洗浄し、その後、増幅液を使用してシグナルを増幅する。標識物質のシグナルを増幅するために使用する増幅試薬(好ましくは2種の増幅試薬、例えば、好ましくは銀イオンを還元し得る還元剤および銀を含む化合物)を使用し、標識物質捕捉領域上の固定化試薬に結合した被検物質と標識物質との複合体を核として、増幅反応によってシグナルを増幅し、結果として高感度化を達成することができる。本発明によれば、迅速な高感度クロマトグラフで測定を実施することができる。
【0023】
(7)被検試料
本発明の検出キットおよび検出方法における被検試料としては、新型コロナウイルスSARS-CoV-2のウイルスを含む、生体試料(例えば、鼻水、鼻汁、または唾液など)を使用することができる。被検物質としては、新型コロナウイルスSARS-CoV-2の検出が可能となるものが好ましく、核タンパクであるヌクレオカプシドタンパク質(NP)を被検物質として検出することが可能である。コロナウイルスには、スパイク(S)タンパク質、エンベロープ(E)タンパク質、膜(M)タンパク質、ヌクレオカプシド(N)タンパク質の少なくとも4つの構造タンパク質が含まれることが知られており、このうちのヌクレオカプシド(N)タンパク質は、免疫原性のリン酸タンパク質で、ウイルスゲノム複製や細胞シグナル伝達調節に関わっている。ヌクレオカプシド(N)タンパク質は、配列の保存性と、強い免疫原性から、診断の被検物質として選ばれている。
【0024】
(8)被検試料の前処理
本発明においては、被検試料をそのままで、あるいは、被検試料を適当な抽出用溶媒を用いて抽出して得られる抽出液の形で、更には、抽出液を適当な希釈剤で希釈して得られる希釈液の形で、若しくは抽出液を適当な方法で濃縮した形で、用いることができる。本発明で用いられる抽出用溶媒としては、通常の免疫学的分析法で用いられる溶媒(例えば、水、生理食塩液、または緩衝液等)、あるいは、かかる溶媒で希釈することにより直接抗原抗体反応を実施することができる水混和性有機溶媒を用いることもできる。
【0025】
(9)構成
本発明をイムノクロマトグラフ方法において実施する場合におけるイムノクロマトグラフ用キットにおいては、クロマトグラフ用ストリップを組み込んで使用することができる。使用することのできるクロマトグラフ用ストリップとしては、通常のイムノクロマトグラフ法に用いることができるクロマトグラフ用ストリップである限り、特に限定されるものではない。
【0026】
本発明において使用することができるクロマトグラフ用ストリップとしては、被検物質を含む被検試料の展開方向の上流方向から下流方向に向かって、標識物質保持領域、標識物質捕捉領域を有している。例えば、試料添加パッド、標識物質保持領域を有する標識物質保持パッド(例えば金コロイド抗体保持パッド)、不溶性担体である結合物質固定化メンブレン(例えば、標識物質捕捉領域を有するクロマトグラフ担体)、および吸収パッドをこの順に、粘着シート上に配置する態様が好ましく用いられる。結合物質を固定化したクロマトグラフ担体(不溶性担体)としては、被検物質と特異的に結合する抗体または抗原を固定化した反応部位である検査領域(テストラインともいう)を少なくとも1つ有する領域である標識物質捕捉領域を有し、所望により、コントロール用抗体または抗原を固定化した確認領域(コントロール領域ともいう)を少なくとも1つ有する領域を更に有していてもよい。更に、標識物質捕捉領域の下流に、増幅指標領域を有していても良い。
【0027】
本発明で用いることができる標識物質保持領域を有する標識物質保持パッドは、標識物質を含む懸濁液を調製し、その懸濁液を適当な吸収パッド(例えば、グラスファイバーパッド)に塗布した後、それを乾燥することにより調製することができる。
【0028】
(9-1)標識物質
本発明で用いる標識物質(被検物質(抗原)と特異的に結合する第一の結合物質を標識するのに用いる標識)として、金属を含む標識物質を用いるのが好ましい。本発明で用いることができる金属の種類としては、好ましくは、金、銀、白金の貴金属や、鉄、鉛、銅、カドミウム、ビスマス、アンチモン、錫、または水銀を用いることができ、更に好ましくは金、銀、白金の貴金属であることが好ましい。本発明において使用できる金属を含む標識物質の好ましい形態としては、金属コロイド標識または金属硫化物標識を用いることができる。金属コロイド標識としては、好ましくは、白金コロイド、金コロイド、銀コロイド、鉄コロイド、または水酸化アルミニウムコロイドなどを用いることができ、金属硫化物標識としては、好ましくは、鉄、銀、鉛、銅、カドミウム、ビスマス、アンチモン、錫、または水銀の各硫化物を用いることができる。本発明においては更に好ましくは、白金コロイド、金コロイド、銀コロイド、最も好ましくは金コロイドを用いることができる。金属コロイド標識として金コロイド粒子を用いる場合には、市販のものを用いてもよい。あるいは、常法、例えば塩化金酸をクエン酸ナトリウムで還元する方法(Nature Physical Science,241(1973)20等)により金コロイド粒子を調製することができる。
【0029】
金属コロイドの平均粒径としては、約1nm~500nmが好ましく、3~100nmがさらに好ましく、5~60nmが特に好ましい。本発明に用いられる金属コロイドの平均粒径は、市販の粒度分布計等で計測することができる。粒度分布の測定法としては、光学顕微鏡法、共焦点レーザー顕微鏡法、電子顕微鏡法、原子間力顕微鏡法、静的光散乱法、レーザー回折法、動的光散乱法、遠心沈降法、電気パルス計測法、クロマトグラフィー法、超音波減衰法等が知られており、それぞれの原理に対応した装置が市販されている。
【0030】
粒径範囲および測定の容易さから、本発明においては動的光散乱法を好ましく用いることができる。動的光散乱を用いた市販の測定装置としては、ナノトラックUPA(日機装(株))、動的光散乱式粒径分布測定装置LB-550((株)堀場製作所)、濃厚系粒径アナライザーFPAR-1000(大塚電子(株))等が挙げられ、本発明においては、25℃の測定温度で測定したメジアン径(d=50)の値として求める。
【0031】
検出用の標識物質として金属コロイド標識または金属硫化物標識、その他金属合金標識(以下、金属系標識と称することがある)、また金属を含むポリマ-粒子標識を用いるクロマトグラフでは、金属系標識の信号を増幅させることを特徴とする。具体的には、被検物質と標識物質の複合体の形成後に、無機銀塩や有機銀塩などの銀を含む化合物から供給される銀イオンと銀イオンを還元し得る還元剤とを接触させ、還元剤によって銀イオンを還元して銀粒子を生成させると、その銀粒子が金属系標識を核として金属系標識上に沈着するので、金属系標識が増幅され、被検物質の分析を高感度に実施することができる。従って、本発明のイムノクロマトグラフ方法においては、還元剤による銀イオンの還元作用により生じた銀粒子を用いて、免疫複合体の標識に沈着させる反応を実施し、こうして増幅された信号を分析することを除けば、それ以外の点では従来公知のクロマトグラフ法をそのまま適用することができる。
【0032】
(9-2)結合物質
標識物質は、被検物質と結合し得る第一の結合物質で修飾されている。第一の結合物質としては、例えば被検物質(抗原)に対する抗体、被検物質(抗体)に対する抗原、被検物質(たんぱく質、低分子化合物等)に対するアプタマーなど、被検物質に対して親和性を持つ化合物であれば用いることが可能であるが、本発明ではSARS-CoV-2ヌクレオカプシドタンパク質(NP)と特異的に反応する抗体を用いることが好ましい。本発明においては、下記で述べる第二の結合物質と第一の結合物質のうちの少なくとも一方として、抗体のサブクラスがIgG2bである抗体を用いる。
【0033】
本発明の検出キットは、好ましくは、不溶性担体(クロマトグラフ担体)を有し、このストリップに標識物質捕捉領域を有している。この標識物質捕捉領域には、被検物質と結合し得る第二の結合物質を有する検査領域を有しており、第一の結合物質への結合性を有する結合物質を有する確認領域を更に有している態様が好ましい。
【0034】
被検物質と結合し得る第二の結合物質としては、例えば被検物質(抗原)に対する抗体、被検物質(抗体)に対する抗原、被検物質(たんぱく質、低分子化合物等)に対するアプタマーなど、被検物質に対して親和性を持つ化合物であれば用いることが可能であるが、本発明ではSARS-CoV-2ヌクレオカプシドタンパク質(NP)と特異的に反応する抗体を用いることが好ましい。
【0035】
本発明においては、上記した第一の結合物質と第二の結合物質の少なくとも一方として、抗体のサブクラスがIgG2bである抗体を用いる。また、第二の結合物質と第一の結合物質とは異なるものでもよいし、同一のものでもよい。第一の結合物質への結合性を有する物質とは、被検物質そのものでもよいし、第一の結合物質が認識する部位を持つ化合物でもよく、たとえば被検物質の誘導体とタンパク質(例えば、BSA(Bovine Serum Albumin)など)とを結合させたような化合物などが挙げられる。
【0036】
好ましくは、第一の結合物質が抗体であり、および/または第二の結合物質が抗体である。より好ましくは、第一の結合物質がSARS-CoV-2ヌクレオカプシドタンパク質(NP)と特異的に反応する抗体であり、第二の結合物質がSARS-CoV-2ヌクレオカプシドタンパク質(NP)と特異的に反応する抗体である。
【0037】
また、本発明の不溶性担体の標識物質捕捉領域には、増幅指標領域を有する態様も好ましい。増幅指標領域は、後述する増幅試薬と反応して発色もしくは色が変化して増幅試薬の展開が増幅指標領域に達したことを判定する領域である。増幅指標領域は、好ましくは、還元剤を検出する発色領域である。例えば、第2の増幅液として、硝酸鉄水溶液とクエン酸(富士フイルム和光純薬株式会社製、038-06925)の混合水溶液を使用する場合には、ブロモクレゾールグリーン(富士フイルム和光純薬株式会社製)がライン状に固定化された発色試薬固定化ラインにより増幅指標領域を構成する態様が好ましい。このとき第2の増幅液が増幅指標領域に到達すると、領域は緑色からオレンジ色へと変化する。この変色は、増幅指標領域およびそれまでに展開した領域が第2の増幅液により十分に満たされたことの指標として捕えることができる。
【0038】
本発明において、第一の結合物質を用いて標識物質を修飾する方法のうち、例えば、金属コロイドと特異結合物質とを結合させる方法としては、以下に記載されている従来公知の方法(例えばThe Journal of Histochemistry and Cytochemistry,30,7,(1982)691-696)が挙げられる。具体例としては、金属コロイドと特異結合物質(例えば抗体)を適当な緩衝液中で室温下にて5分以上混合する。反応後、遠心分離により得た沈殿を、ポリエチレングリコ-ル等の分散剤を含む溶液中に分散させることにより、目的とする物質を得ることができる。
【0039】
(9-3)不溶性担体
本発明で用いることができる不溶性担体としては、多孔性担体が好ましい。特に、ニトロセルロース膜、セルロース膜、アセチルセルロース膜、ポリスルホン膜、ポリエーテルスルホン膜、ナイロン膜、ガラス繊維、不織布、布、または糸等が好ましく、ニトロセルロース膜がより好ましい。
【0040】
本発明においては、不溶性担体の標識物質捕捉領域に、被検物質と結合し得る第二の結合物質を有し、第一の結合物質への結合性を有する物質を固定化させた確認領域を有することが好ましい。被検物質と結合し得る第二の結合物質、または第一の結合物質への結合性を有する物質は、不溶性担体の一部に物理的または化学的結合により、直接固定化させて標識物質捕捉領域を形成させてもよいし、あるいはラテックス粒子などの微粒子に物理的または化学的に結合させ、この微粒子を不溶性担体の一部にトラップさせて固定化させ、標識物質捕捉領域を形成してもよい。なお、不溶性担体は、第二の結合物質、または第一の結合物質への結合性を有する物質を固定化した後、不活性タンパク質による処理等により非特異的吸着防止処理を施して使用することが好ましい。本発明の不溶性担体は、検査領域を複数種有している態様も好ましく用いることができ、更には標識物質捕捉領域の一部として、所望により、上述の確認領域を有していてもよい。
【0041】
(9-4)標識物質保持パッド
不溶性担体は、標識物質保持領域を有する標識物質保持パッドを組み込んで使用することが好ましい。標識物質保持パッドとしては、金コロイドを保持するパッドが挙げられる。標識物質保持パッドの素材としては、例えば、セルロース濾紙、グラスファイバー、および不織布等を好ましく使用することができる。標識物質保持パッドは、上記素材に、前述のように調製した標識物質を一定量含浸させ、次いで乾燥させて作製できる。
【0042】
(9-5)試料添加パッド
不溶性担体は更に、試料添加パッドを組み込み使用することが好ましい。試料添加パッドは、添加された被検物質を含む試料(被検試料)を受入れるだけでなく、試料中の不溶物粒子等を濾過する機能をも兼ねる態様が好ましい。試料添加パッドの材質としては、セルロース濾紙、ガラス繊維、ポリウレタン、ポリアセテート、酢酸セルロース、ナイロン、および綿布等の均一な特性を有するものが挙げられる。また、分析の際、試料中の被検物質が試料添加パッドの材質に非特異的に吸着し、分析の精度を低下させることを防止するため、試料添加部を構成する材質は、予め非特異的吸着防止処理して用いることもできる。本発明においては、試料添加パッドは、(9-4)で述べた標識物質保持領域を有する標識物質保持パッドを兼ねていてもよい。
【0043】
(9-6)吸収パッド
本発明においては、吸収パッドを不溶性担体に好ましく組み込んで用いることができる。吸収パッドは、クロマト移動した、添加された被検試料を物理的に吸収すると共に、クロマトグラフ担体の反応部位に捕捉されない標識物質等を吸収除去する部位であり、セルロース濾紙、不織布、布、セルロースアセテート等吸水性材料が用いられる。添加された被検試料がクロマト移動して吸収パッドに届いてからのクロマト移動の速度は、吸収パッドの材質、大きさなどにより異なるので、その選定により被検物質の測定に合った速度を設定することができる。
【0044】
(10)洗浄液(第2の増幅液)
本発明では、洗浄液は、特異的な結合反応以外で不溶性担体中に残存している(つまり非特異的に残存している)標識物質を洗浄する機能を有する液であり、洗浄効果を上げるためにそのpHを調整したり、界面活性剤成分やBSAなどのタンパク質などの高分子化合物を加えた洗浄液を用いてもよい。本発明においては、洗浄液として、以下に説明する銀イオンを還元し得る還元剤を含有する液を用いることが好ましい。その場合、使用される2種類の増幅液(後述する)のうちの一方の増幅液は、洗浄液としての役割をも担うことになる。
【0045】
洗浄液は、展開途中に非特異的に残存した標識物質を洗浄しながら展開するので標識化物質を含みながら展開されることになるが、展開される前の洗浄液は洗浄効果を高めるために、標識物質を含んでいない液を用いることが好ましい。
【0046】
洗浄液は、被検試料(検体液)を展開した後に、不溶性担体に添加されるものであり、不溶性担体中に残存する、特異的な結合反応で結合した標識物質以外の標識物質を洗浄する。洗浄液の送液方法としては、検体液を展開した後にそのまま試料滴下部に添加する方法や、予め不溶性担体に洗浄液送液の為の送液用不溶性担体(洗浄液添加パッド)、吸収用不溶性担体(吸水パッド)を付着させておき、その送液用不溶性担体に添加し吸収用不溶性担体方向へ送液する方法、予め不溶性担体に洗浄液の添加部位を備えておき、検体液の展開後にその洗浄液の添加部位に洗浄液を添加する方法、または、検体液を不溶性担体に展開した後に洗浄液送液の為の送液用不溶性担体、吸収用不溶性担体を不溶性担体に付着させても良い。
【0047】
本発明においては、被検試料(検体液)の展開方向と洗浄液の展開方向との成す角は特に限定されず、0度から180度で行うことができるが、好ましくは、0度から90度で行うことが好ましい。送液用不溶性担体は、洗浄液を添加できれば特に制限はなく、グラスファイバーパッドやセルロースメンブレン、ニトロセルロースメンブレンなどを用いることができる。吸収用不溶性担体は、吸水することが可能な物質であれば特に制限はなく、セルロース、ニトロセルロース、グラスファイバー、それらの混合体などを用いることができる。
【0048】
(11)免疫検査の方法
以下、イムノクロマトグラフ方法について、その具体的な実施態様であるサンドイッチ法について説明する。
サンドイッチ法では、特に限定されるものではないが、例えば、以下の手順により被検物質の分析を実施することができる。まず、被検物質(抗原)に対して特異性を有する第一の結合物質(例えば、第1抗体)および第二の結合物質(例えば、第2抗体)を、先に述べた方法により予め調製しておく。また、第一の結合物質で、予め標識物質を修飾しておく。第二の結合物質を、適当な不溶性担体(例えば、ニトロセルロ-ス膜、ガラス繊維膜、ナイロン膜、またはセルロ-ス膜等)上に固定して標識物質捕捉領域の検出領域とし、被検物質(抗原)を含む可能性のある被検試料(またはその抽出液)と接触させると、その被検試料中に被検物質が存在する場合には、第二の結合物質との結合(例えば、第二抗体との抗原抗体反応)が起こる。被検物質と第二の結合物質との結合と同時または結合後に、更に第一の結合物質で修飾した標識物質を過剰量接触させると、被検試料中に被検物質が存在する場合には、固定化された第二の結合物質と被検物質(抗原)と第一の結合物質で修飾した標識物質とからなる複合体が形成される。
【0049】
サンドイッチ法では、固定化された第二の結合物質と被検物質(抗原)、および被検物質と標識物質を修飾した第一の結合物質との反応が終了した後、免疫複合体を形成しなかった標識物質を除去し、続いて、例えば、不溶性担体の標識物質捕捉領域をそのまま観察しその標識物質を検出、または定量し、被検試料中の被検物質の有無判定または量を測定することができる。本発明においては、例えば、還元剤および銀イオン含有化合物を供給することにより、かかる複合体を形成した標識物質からの信号を増幅し検出する。
【0050】
(12)増幅液
本発明で使用する増幅液は、増幅試薬を含有する液である。増幅試薬は、標識物質や被検物質の作用により、触媒的に反応することで、着色した化合物や発光などを生じ、シグナルの増幅を起こすことができる試薬であり、試薬を含有する溶液の状態、即ち増幅液として使用することができる。例えば、金属標識上で、物理現像により金属銀の析出を起こす銀イオン溶液や、ペルオキシダーゼ標識と過酸化水素の作用により色素となる、フェニレンジアミン化合物とナフトール化合物の溶液などが挙げられる。
【0051】
詳細には、写真化学の分野での一般書物(例えば、「改訂写真工学の基礎-銀塩写真編-」(日本写真学会編、コロナ社)、「写真の化学」(笹井明、写真工業出版社)、「最新処方ハンドブック」(菊池真一他、アミコ出版社))に記載されているような、いわゆる現像液を、増幅試薬を含有する増幅液として用いることができる。すなわち、液中に銀イオンを含み、液中の銀イオンが現像の核となるような金属コロイド等を中心に還元される、いわゆる物理現像液であれば、特に限定されることなく増幅液として用いることができる。
【0052】
本発明では、2種の増幅試薬を用いることができる。標識物質捕捉領域に捕捉された標識物質のシグナルを増幅するために使用する2種の増幅試薬のうち、第1の増幅試薬を第1の増幅液に、第2の増幅試薬を第2の増幅液に含有させておき、第2の増幅液および第1の増幅液を順次、添加することにより増幅を行うことが好ましい。
【0053】
増幅液の具体例としては、銀イオンを還元し得る還元剤を含む第2の増幅液、および、銀を含む化合物を含む第1の増幅液の組み合わせを用いることができる。
以下、第2の増幅液に含まれる銀イオンを還元し得る還元剤と第1の増幅液に含まれる銀を含む化合物等について説明する。
【0054】
(12-1)銀を含む化合物
銀を含む化合物としては、銀イオン含有化合物、例えば、有機銀塩、無機銀塩、もしくは銀錯体を用いることができる。好ましくは、水などの溶媒に対して溶解度の高い銀イオン含有化合物であり、硝酸銀、酢酸銀、乳酸銀、酪酸銀、チオ硫酸銀などが挙げられる。特に好ましくは硝酸銀である。銀錯体としては、水酸基やスルホン基など水溶性基を有する配位子に配位された銀錯体が好ましく、ヒドロキシチオエーテル銀等が挙げられる。
【0055】
無機銀塩、もしくは銀錯体は、銀として一般に0.001モル/m2~0.2モル/m2、好ましくは0.01モル/m2~0.05モル/m2含有されることが好ましい。
【0056】
(12-2)銀イオンを還元し得る還元剤
銀イオンを還元し得る還元剤は、銀イオンを銀に還元することができれば、無機・有機のいかなる材料、またはその混合物でも用いることができる。
無機還元剤としては、Fe2+、V2+、Ti3+、などの金属イオンで原子価の変化し得る還元性金属塩、還元性金属錯塩を好ましく挙げることができる。無機還元剤を用いる際には、酸化されたイオンを錯形成するか還元して、除去するか無害化する必要がある。例えば、Fe2+を還元剤として用いる系では、クエン酸やEDTAを用いて酸化物であるFe3+の錯体を形成し、無害化することができる。本系ではこのような無機還元剤を用いることが好ましく、より好ましくはFe2+の金属塩が好ましい。
【0057】
なお、湿式のハロゲン化銀写真感光材料に用いられる現像主薬(例えばメチル没食子酸塩、ヒドロキノン、置換ヒドロキノン、3-ピラゾリドン類、p-アミノフェノール類、p-フェニレンジアミン類、ヒンダードフェノール類、アミドキシム類、アジン類、カテコール類、ピロガロール類、アスコルビン酸(またはその誘導体)、およびロイコ色素類)、および本分野の当業者にとって明らかなその他の材料、例えば米国特許第6,020,117号に記載されている材料も用いることができる。
【0058】
還元剤としては、アスコルビン酸還元剤も好ましい。有用なアスコルビン酸還元剤は、アスコルビン酸と類似物、異性体とその誘導体を含み、例えば、D-またはL-アスコルビン酸とその糖誘導体(例えばγ-ラクトアスコルビン酸、グルコアスコルビン酸、フコアスコルビン酸、グルコヘプトアスコルビン酸、マルトアスコルビン酸)、アスコルビン酸のナトリウム塩、アスコルビン酸のカリウム塩、イソアスコルビン酸(またはL-エリスロアスコルビン酸)、その塩(例えばアルカリ金属塩、アンモニウム塩または当技術分野において知られている塩)、エンジオールタイプのアスコルビン酸、エナミノールタイプのアスコルビン酸、チオエノ-ルタイプのアスコルビン酸等を好ましいものとして挙げることができ、特にはD、LまたはD,L-アスコルビン酸(そして、そのアルカリ金属塩)若しくはイソアスコルビン酸(またはそのアルカリ金属塩)が好ましく、ナトリウム塩が好ましい塩である。必要に応じてこれらの還元剤の混合物を用いることができる。
【0059】
(13)その他の助剤
増幅液のその他の助剤としては、緩衝剤、防腐剤(例えば酸化防止剤または有機安定剤)、速度調節剤を含む場合がある。緩衝剤としては、例えば、酢酸、クエン酸、水酸化ナトリウムまたはこれらの何れかの塩、またはトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンを用いた緩衝剤、その他一般的化学実験に用いられる緩衝剤を用いることができる。これら緩衝剤を適宜用いて、その増幅液に最適なpHに調整することができる。また、カブリ防止剤としてアルキルアミンを添加剤として用いることができ、特に好ましくはドデシルアミンである。またこれら添加剤の溶解性向上のため、界面活性剤を用いることができ、特に好ましくはC9H19-C6H4-O-(CH2CH2O)50Hである。
【0060】
増幅試薬をイムノクロマトグラフ用キットに点着する方法としては、還元剤溶液を送液するためのパッドに、第2の増幅液としての還元剤溶液を点着して標識物質捕捉領域に還元剤溶液を送液し、標識物質捕捉領域を含む領域に、第1の増幅液としての銀イオン溶液を不溶性担体の上部から点着して、銀イオン溶液を不溶性担体の厚み方向に浸潤させる方法が好ましい。
【0061】
2種の増幅試薬をイムノクロマトグラフ用キットに内蔵する方法としては、各増幅試薬を含むポット(容器)として、還元剤溶液を含む第2の増幅液貯蔵ポット(第二の容器)、第1の増幅液貯蔵ポット(第一の容器)を、各増幅試薬を点着する部位の上部に配置する方法が挙げられる。還元剤溶液を含む第2の増幅液貯蔵ポット(第二の容器)を、還元剤溶液を送液するためのパッドの上部に置き、銀イオン溶液(第1の増幅液)を含む第1の増幅液貯蔵ポット(第一の容器)を銀イオン溶液充填孔のすぐ上部に設置する態様が挙げられる。より詳細な添加方法に関しては、特許第5276568号公報の
図1に記載のデバイスのように配置することにより、それぞれのポットを押すことで液が流れ、所定の部位に点着することができる。
【0062】
増幅試薬をイムノクロマトグラフ用キットに点着するもう一つの方法としては、還元剤溶液を含む第2の増幅液貯蔵ポットを、試料添加パッドに対し、標識物質捕捉領域と反対側となる不溶性担体の端に相当する部分に設置し、不溶性担体に還元剤溶液を供給することで被検試料の展開方向と同じ方向に被検試料に遅れて展開させる。標識物質捕捉領域を還元剤液で満たした後に、標識物質捕捉領域に、第1の増幅液である銀イオン溶液を不溶性担体の上部から点着して不溶性担体の厚み方向に浸潤させる態様が挙げられる。より詳細な添加方法に関しては、特許第6570652号公報の
図1~
図8に記載のデバイスのように配置することによりそれぞれの凸状変形部を押すことで液が流れ、所定の位置に点着することができる。
【0063】
(14)イムノクロマトグラフ用キット
本発明の検出方法は、被検物質と結合し得る第一の結合物質で修飾した標識物質と、被検物質と結合し得る第二の結合物質、または被検物質と結合し得る第一の結合物質への結合性を有する物質を含んだ不溶性担体とを具えたイムノクロマトグラフ用キットを用いて実施することができる。その場合、イムノクロマトグラフ用キットは、被検物質と結合し得る第一の結合物質で修飾した標識物質を予め不溶性担体上に具えているものでもよい。あるいは、被検物質と結合し得る第一の結合物質で修飾した標識物質を不溶性担体とは別に具えているものでもよい。この場合、不溶性担体とは別に具えられた標識物質を被検試料と混合した後に不溶性担体上を展開するなどの方法で測定を行うことができる。本発明のイムノクロマトグラフ用キットは、洗浄液、および増幅液を備えるものであり、好ましくは、銀を含む化合物を含む第1の増幅液と、銀イオンを還元し得る還元剤を含む洗浄液としての機能を兼ねた第2の増幅液を具えることができる。イムノクロマトグラフ用キットを構成する各素材の例、好ましい範囲は、イムノクロマトグラフ方法等で記載した例、範囲を好ましく用いることができる。
【0064】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0065】
実施例のイムノクロマトグラフキットは、NP抗原を検出するためのSARS-CoV-2抗原検出用イムノクロマトグラフキットである。
【0066】
実験A
<1>抗NPモノクローナル抗体の調製
(1)マウスの免疫およびハイブリドーマ細胞の作製
精製済みの300μgの抗原タンパク質(配列番号1に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質)をフロイントアジュバントと混合して乳化させ、BALB/cマウスに複数回(1回あたり300μgの抗原タンパク質を投与)皮下注射して免疫した。免疫したマウスから1か月後にB細胞を回収し、ポリエチレングリコール溶液を用いてミエローマ細胞と融合させた。融合したハイブリドーマ細胞を選択培地と共に96穴マイクロプレートに播種した。
【0067】
(2)ハイブリドーマ細胞のスクリーニングとクローニング
次に、各ハイブリドーマが産生するモノクローナル抗体のSARS-CoV-2NPに対する反応性をELISA(酵素結合免疫吸着アッセイ)法とウエスタンブロット法により調べた。ELISA法では、まず、His-tagが付加された組換えSARS-CoV-2 NPタンパク質5μgをELISAプレート上に固定化した。プレートをブロッキングした後、プレートにハイブリドーマの培養上清100μLを添加して反応させた後、ペルオキシダーゼ標識したヤギ抗マウス免疫イムノグロブリン抗体を添加して反応させた。その後、ペルオキシダーゼ基質溶液を加えて発色させ、その吸光度を測定した。ウエスタンブロット法では、まずHis-tagが付加された組換えSARS-CoV-2 NPタンパク質1μgを2×SDSサンプル緩衝液(125mM Tris-HCl、4%SDS、20%グリセロール、0.01%ブロモフェノールブルー、10%2-メルカプトエタノール)と混合して熱処理し、ポリアクリルアミドゲルに供して電気泳動した。電気泳動後のゲルをPVDFメンブレンに転写した。メンブレンを2%スキムミルク溶液でブロッキングした後、ハイブリドーマの培養上清5mLを添加して反応させ、ペルオキシダーゼ標識された抗マウス免疫イムノグロブリン抗体と反応させた。その後、ペルオキシダーゼ基質溶液を加えて発光させて検出した。これらのスクリーニングで特定したハイブリドーマをクローニングすることにより、抗原タンパク質に高い反応性を示すモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞を得た。
【0068】
(3)モノクローナル抗体の調製
各ハイブリドーマを無血清・無タンパク質培養液で培養し、培養上清を回収した。回収した培養上清から、プロテインAカラムを用いて各々のハイブリドーマ細胞が産生するモノクローナル抗体を精製した。まず、培養上清120mLを平衡化・洗浄緩衝液(1.5mol/L Glycine、3mol/L NaCl、pH8.9)で2倍に希釈して、平衡化・洗浄緩衝液で平衡化したプロテインAカラム(容積1.04mL)に添加して抗体をプロテインA担体に捕捉させ、担体に非特異的に吸着された成分を平衡化・洗浄緩衝液10mLで洗い流した。次にカラムに吸着した抗体を溶出緩衝液(100mmol/Lクエン酸ナトリウム、pH3.0)10mLで溶出させた。回収した溶離液は、アミコンウルトラ(メルクミリポア社)を用いて濃縮した。得られた精製抗体の濃度は、280nmのUV吸収法で定量した。
【0069】
(4)サブクラスの決定
ISO-GOLD Rapid Isotyping Kitを用いて、サブクラスを同定した。精製した抗体をSample Diluent Bufferで100倍希釈した。この溶液150μLをラテラルフローキットに添加し、5分静置した。検出したラインを読み取り、サブクラスを同定した。抗体は複数作製した。
上記により、IgG2b(No1)、IgG2b(No2)、IgG1(No1)、およびIgG1(No2)の4種の抗体を得た。
【0070】
<2>イムノクロマトグラフキットの作製
<実施例1>
(2-1)被検物質に結合可能な第1の物質が修飾された標識物質としての抗NP抗体修飾金コロイドの作製
直径50nmの金コロイドを含有する溶液(品番:EM.GC50、BBI社製)9mLに50mmol/LのKH2PO4バッファー(pH8.0)を1mL加えてpHの調整を行い、その後、20μg/mLの抗NPモノクローナル抗体(サブクラスがIgG2b(No1)の抗体)含有溶液1mLを加えて10分間攪拌した。その後、10分間静置した後に、1質量%のポリエチレングリコール(PEG(polyethylene glycol);重量平均分子量(Mw.):20000、品番:168-11285、富士フイルム和光純薬株式会社製)含有水溶液を550μL加えて10分間攪拌し、続いて10質量%牛血清アルブミン(BSA(Bovine Serum Albumin);FractionV、品番:A-7906、SIGMA社製)の水溶液を1.1mL加えて10分間攪拌した。この溶液を遠心分離装置(himacCF16RX、日立株式会社製)を用いて、8000×g、4℃の条件で30分間遠心分離した。容器の底に1mLを残して上澄み液を取り除き、超音波洗浄機により容器の底に残った1mL液中に含まれる金コロイドを再分散した。この後、20mLの金コロイド保存液(20mmol/L Tris-HCl(トリス塩酸)バッファー(pH8.2)、0.05%PEG(Mw.20000)、150mmol/L NaCl、1%BSA)に分散し、再び同じ遠心分離装置を用いて同様の条件で遠心分離を行い、上澄み液を取り除き、超音波分散後、金コロイド保存液に分散し、抗体修飾金コロイド(50nm)溶液を得た。
【0071】
(2-2)標識保持パッドとしての抗NP抗体修飾金コロイド保持パッドの作製
(2-1)で作成した抗NP抗体修飾金コロイドを、Tris-HClバッファー(pH8.2)の濃度が20mmol/L、PEG(Mw.20000)の濃度が0.05質量%、スクロースの濃度が5質量%、そして光路長10mmとしたときの金コロイドの520nmの光学濃度が0.1となるように水で希釈し、金コロイド塗布液とした。この塗布液を、5mm×300mmに切ったグラスファイバーパッド(GlassFiber Conjugate Pad、ミリポア社製)1枚あたり1mLずつ均一に塗布し、24時間減圧乾燥することで抗NP抗体修飾金コロイド保持パッドを得た。
【0072】
(2-3)クロマトグラフ担体の作製
不溶性担体として、60mm×300mmに切断したニトロセルロースメンブレン(プラスチックの裏打ちあり、HiFlow Plus HF135(キャピラリーフローレート=135秒/cm)、ミリポア社製)を用い、このメンブレン上に以下のような方法により、捕捉領域として、以下の3つの領域である、検出領域、確認領域および増幅指標領域を形成してクロマトグラフ担体を作製した。
【0073】
ニトロセルロースメンブレンの60mmの短辺のうちの下流側から15mmの位置に、1.5mg/mLとなるように調製した抗NPモノクローナル抗体(サブクラスがIgG2b(No2)の抗体)溶液をライン状に塗布し検査領域とした。さらに60mmの短辺のうちの下流側から11mmの位置に、0.5mg/mLとなるように調製した抗マウスIgG抗体溶液をライン状に塗布し確認領域とした。さらに60mmの短辺のうちの下流側から9mmの位置に、30mmol/Lに調製したブロモクレゾールグリーン(富士フイルム和光純薬株式会社製)をライン状に塗布し増幅指標領域とした。それぞれの塗布の後にニトロセルロースメンブレンを、温風式乾燥機で50℃、30分間乾燥した。乾燥が終了した後、ブロッキング液(0.5質量%カゼイン(乳由来、品番030-01505、富士フイルム和光純薬株式会社製)を含有する50mmol/Lのホウ酸バッファー(pH8.5))500mLを入れたバットに、上記のように乾燥したニトロースメンブレンを浸漬させてそのまま30分間静置した。その後ニトロセルロースメンブレンを取り出して、別のバットに準備した洗浄・安定化液(0.5質量%スクロースおよび0.05質量%コール酸ナトリウムを含む50mmol/L Tris-HCl(pH7.5)バッファー)500mL中にニトロセルロースメンブレンを浸し、そのまま30分間静置した。その後、ニトロセルロースメンブレンを液から取り出し、25℃の環境で24時間乾燥させた。抗NP抗体を固定化した部分が、被検物質に結合する第2の物質を含む検査領域、抗マウスIgG抗体を固定化した部分が、第1の物質に結合可能な物質を含む確認領域、ブロモクレゾールグリーンを固定した部分が、第1の増幅液と反応する物質を含む増幅指標領域にそれぞれ相当する。これら3つ領域を合わせて捕捉領域としている。
【0074】
(2-4) 検査用ストリップの作製
バック粘着シート(60mm×300mm(Adhesives Research社製))に、(2-3)で作製したクロマトグラフ担体を貼り付けた。次に、クロマトグラフ担体の短辺のうちの下流側から26mmの位置に幅3mmの両面テープ(日東電工)を固定した。その後、両面テープの下流端と8mm×300mmに切ったグラスファイバーパッド(GlassFiber Conjugate Pad、ミリポア社製)の下流端が重なるようにして金コロイド保持パッドをクロマトグラフ担体に固定した。送液用パッド(25mm×300mmに切ったグラスファイバーパッド(Glass Fiber Conjugate Pad、ミリポア社製))をクロマトグラフ担体の上流側に、送液用パッドとクロマトグラフ担体が7mm重なるように貼り付けた。こうして作製した部材を、300mmの長辺と垂直な方向に対して平行に、幅が5mmとなるようにギロチン式カッター(CM4000、ニップンテクノクラスタ社製)で切断し、60本の検査用ストリップ(但し、吸収パッドを含まない。)を作製した。
【0075】
(2-5)増幅液の作製
(2-5-1)第2のポットに封入する増幅液(還元剤溶液)の作製
水290gに、硝酸鉄(III)九水和物(富士フイルム和光純薬株式会社製、095-00995)を水に溶解して作製した1mol/Lの硝酸鉄水溶液23.6mL、クエン酸(富士フイルム和光純薬株式会社製、038-06925)13.1gを溶解させた。全て溶解したら、スターラーで攪拌しながら硝酸(10重量%)溶液を36mL加え、硫酸アンモニウム鉄(II)六水和物(富士フイルム和光純薬株式会社製、091-00855)を60.8g加えた。このように調製した溶液を第2のポットに封入する第2の増幅液である還元剤溶液とした。
【0076】
(2-5-2)第1のポットに封入する増幅液(銀イオン溶液)の作製
水66gに、硝酸銀溶液8mL(10gの硝酸銀を含む)と1mol/Lの硝酸鉄水溶液24mLを加えた。さらに、この溶液と、硝酸(10重量%)5.9mL、ドデシルアミン(富士フイルム和光純薬株式会社製、123-00246)0.1g、界面活性剤C12H25-C6H4-O-(CH2CH2O)50H 0.1gをあらかじめ47.6gの水に溶解した溶液を混合し、これを第1のポットに封入する第1の増幅液である銀イオン溶液とした。
【0077】
(2-6)吸収パッドの作製
12mm×10mmに切ったグラスファイバーパッド(ガラス濾紙、アドバンテック社製)を60枚準備し、吸収パッドとした。
【0078】
(2-7)イムノクロマトグラフキットの部品の作製
図1および
図2に示すようなイムノクロマトグラフキット100を構成する下部ケース20、上部ケース10、中間部材30、および第1のポット40、第2のポット45を、ポリプロピレンを材料として射出成形によりそれぞれ作製した。上部ケースは住友化学株式会社製オレフィン系エラストマーであるタフセレン(登録商標)を50質量%含有するポリプロピレンを材料として射出成形により作製した。なお、上部ケース10は、2つの変形可能な部位(第1の凸状変形部と第2の凸状変形部と)を備え、この2つの変形部は上部ケース10と分離する部分はなく、すべての境界部で上部ケース10の一部として射出成形で作成した。
【0079】
なお、実施例の上部ケースは、
図1および
図2に示す第1の凸状変形部12が2本の突起部を有し、第2の凸状変形部14が1本の突起部を有する構成とした。
【0080】
(2-8-1)実施例1のイムノクロマトグラフキットの作製
下部ケース20、(1-4)で作製した検査用ストリップ1と(1-6)で作製した吸収パッド6を、
図1、および
図2に示すように固定した。次に、
図3に示すように、第1のポット40、第2のポット45に、それぞれ、(1-5-2)、(1-5-1)で作製した第1のポット40に封入する第一の増幅液41、第2のポット45に封入する第2の増幅液46を充填し、シート部材48としてのアルミ箔でポット45を、シート部材43としてのアルミ箔でポット40をそれぞれ封止し、
図1、および
図2に示すように、第2のポット45を、シート部材48を上にして下部ケース20に、第1のポット40を、シート部材43を下にして中間部材30に装着した。そして、上部ケース10と下部ケース20とを外周同士が接触するように嵌め合わせた状態で、上部ケースと下部ケースとの接触部を超音波溶着により接合させた。このとき、溶着部位は密閉状態で均一にすべての部位で溶着されていることを確認した。このようにしてイムノクロマトグラフキットを作製した。
【0081】
<実施例2>
実施例1の(2-1)で記載した抗NP抗体修飾金コロイドの作製において、サブクラスがIgG2b(No1)の抗体の代わりに、サブクラスがIgG2b(No2)の抗体を用いたこと、および、実施例1の(2-3)で記載したクロマトグラフ担体の作製において、サブクラスがIgG2b(No2)の抗体の代わりに、サブクラスがIgG2b(No1)の抗体を用いたこと、以外は全て実施例1と同様にして、実施例2の金のクロマトグラフキットを作製した。
【0082】
<実施例3>
実施例1の(2-3)で記載したクロマトグラフ担体の作製において、サブクラスがIgG2b(No2)の抗体の代わりに、サブクラスがIgG1(No2)の抗体を用いたこと、以外は全て実施例1と同様にして、実施例3の金のクロマトグラフキットを作製した。
【0083】
<比較例1>
実施例1の(2-1)で記載した抗NP抗体修飾金コロイドの作製において、サブクラスがIgG2b(No1)の抗体の代わりに、サブクラスがIgG1(No1)の抗体を用いたこと、および、(2-3)で記載したクロマトグラフ担体の作製において、サブクラスがIgG2b(No2)の抗体の代わりに、サブクラスがIgG1(No2)の抗体を用いたこと、以外は全て実施例1と同様にして、比較例1の金のクロマトグラフキットを作製した。
【0084】
<比較例2>
実施例1の(2-1)で記載した抗NP抗体修飾金コロイドの作製において、サブクラスがIgG2b(No1)の抗体の代わりに、サブクラスがIgG1(No2)の抗体を用いたこと、および、(2-3)で記載したクロマトグラフ担体の作製において、サブクラスがIgG2b(No2)の抗体の代わりに、サブクラスがIgG1(No1)の抗体を用いたこと、以外は全て実施例1と同様にして、比較例2の金のクロマトグラフキットを作製した。
【0085】
<3>検出感度の評価
(3-1)評価液
Tween(登録商標)80(4g)を超純水3280mLに添加し、溶解した。トリスヒドロキシジメチルメタンを120gとカゼイン4g、EDTA・Na(エチレンジアミン四酢酸ナトリウム)60gを添加した。pH7.7になるように調整した後、4Lにメスアップした。
【0086】
(3-2)検体調液
上記のように調製した評価液中に、上記(1)で調製したSARS-CoV-2組換えNPを添加し、各濃度の検体を調液した。
【0087】
(3-3)実施例および比較例のイムノクロマトグラフキットを用いた測定
上記のように調液した検体24μLをキットに点着した。
検体の点着直後に、第2の凸状変形部14を押下することで、第2のポット45に封入した第二の増幅液46を封止しているシート部材48のアルミ箔を破り、第2のポット45の中に送液用パッド4を浸すことにより、毛細管現象を利用して第2の増幅液46を不溶性担体2に供給した。
【0088】
増幅指標領域L3が緑からオレンジに変色した後、第1の凸状変形部12を押下して第1のポット40を中間部材30の第1のポット収容部32の破断部34に向けて移動させることにより、第1のポット40を封止しているシート部材43のアルミ箔を破断部34により押し破り、第1の増幅液41である銀イオン溶液を中間部材30の開口部から不溶性担体2に供給して、銀増幅反応を行った。銀増幅反応は数十秒で完了する。
銀増幅反応終了後、目視にて陽性または陰性を判定した。判定は、捕捉量は、そのNP量に比例して増減する抗NP抗体塗布ライン黒色の呈色度合いをLAS4000(GE製)で撮影しシグナルを算出した。
【0089】
以下の基準により評価した。
A:シグナル濃度0.1を超え、十分に検体の存在が確認できる。
B:シグナル濃度0.05~0.1で、濃度上昇検出可能で、検体の存在が確認される。
C:シグナル濃度0.03~0.05で、検体検出がかろうじて検出される。
D:シグナル濃度0.03以下。検体がない、あるいは検出不可である。
【0090】
結果を表1に示す。
【0091】
【0092】
イムノクロマトグラフキットの抗NPモノクローナル抗体として、IgG2bの抗体を少なくとも1種使用した場合の検出感度が高いことが分かった。
富士レビオ株式会社製のSARS-CoV-2抗原検出用試薬「スプラインSARS-CoV-2」の添付文書に記載の最小検出感度が、25pg/mLと記載されており、その検出感度に対し、優位に高感度が実現できる可能性があることが分かった。
【0093】
実験B
<1>抗体の断片化
リン酸2ナトリウムを純水に溶解し、1mol/L塩酸を用いて、pH7.8に調整し、消化液とした。抗体の緩衝液を脱塩カラム(Zebatm Spin Desalting Columns, 7K MWCO)を用いて、消化液に置換した。Endoproteinase Glu-C (V8 Protease)(シグマアルドリッチ社製または富士フイルム和光純薬社製)を2.0mg測り取り、消化液を300μL添加し、酵素液を作製した。抗体(IgG2b(No1))2mgに対し、酵素液150μL添加し、37℃で20時間反応させた。反応後、アミコンウルトラ(メルク社製)で限外ろ過を行い、Monospin proA(GLサイエンス社製)を用いて、Whole抗体を除去し、断片化抗体の精製を行った。
【0094】
<2>イムノクロマトグラフキットの作製
<実施例4>
(2-1)被検物質に結合可能な第1の物質が修飾された標識物質としての抗NP断片化抗体修飾金コロイドの作製
直径50nmの金コロイドを含有する溶液(品番:EM.GC50、BBI社製)9mLに50mmol/LのKH2PO4バッファー(pH8.0)を1mL加えてpHの調整を行い、その後、(1)で調製した、20μg/mLの断片化抗NPモノクローナル抗体(含有溶液1mL)を加えて10分間攪拌した。その後、10分間静置した後に、1質量%のポリエチレングリコール(PEG(polyethylene glycol);重量平均分子量(Mw.):20000、品番:168-11285、富士フイルム和光純薬株式会社製)含有水溶液を550μL加えて10分間攪拌し、続いて10質量%牛血清アルブミン(BSA(Bovine serum albumin);FractionV、品番:A-7906、SIGMA社製)の水溶液を1.1mL加えて10分間攪拌した。この溶液を遠心分離装置(himacCF16RX、日立株式会社製)を用いて、8000×g、4℃の条件で30分間遠心分離した。容器の底に1mLを残して上澄み液を取り除き、超音波洗浄機により容器の底に残った1mL液中に含まれる金コロイドを再分散した。この後、20mLの金コロイド保存液(20mmol/L Tris-HCl(トリス塩酸)バッファー(pH8.2)、0.05%PEG(Mw.20000)、150mmol/L NaCl、1%BSA)に分散し、再び同じ遠心分離装置を用いて同様の条件で遠心分離を行い、上澄み液を取り除き、超音波分散後、金コロイド保存液に分散し、断片化した抗NP抗体修飾金コロイド(50nm)溶液を得た。
【0095】
(2-2)標識保持パッドとしての抗NP抗体修飾金コロイド保持パッドの作製
(2-1)で作成した抗NP抗体修飾金コロイドを、Tris-HClバッファー(pH8.2)の濃度が20mmol/L、PEG(Mw.20000)の濃度が0.05質量%、スクロースの濃度が5質量%、そして光路長10mmとしたときの金コロイドの520nmの光学濃度が0.1となるように水で希釈し、金コロイド塗布液とした。この塗布液を、5mm×300mmに切ったグラスファイバーパッド(GlassFiber Conjugate Pad、ミリポア社製)1枚あたり1mLずつ均一に塗布し、24時間減圧乾燥することで抗NP抗体修飾金コロイド保持パッドを得た。
【0096】
(2-3)クロマトグラフ担体の作製
不溶性担体として、60mm×300mmに切断したニトロセルロースメンブレン(プラスチックの裏打ちあり、HiFlow Plus H135(キャピラリーフローレート=135秒/cm)、ミリポア社製)を用い、このメンブレン上に以下のような方法により、検査領域、確認領域および増幅指標領域を形成してクロマトグラフ担体を作製した。
【0097】
ニトロセルロースメンブレンの60mmの短辺のうちの下流側から15mmの位置に、1.5mg/mLとなるように調製した抗NPモノクローナル抗体(IgG1(No2))溶液をライン状に塗布し検査領域とした。さらに60mmの短辺のうちの下流側から11mmの位置に、0.5mg/mLとなるように調製した抗マウスIgG抗体溶液をライン状に塗布し確認領域とした。さらに60mmの短辺のうちの下流側から9mmの位置に、30mmol/Lに調製したブロモクレゾールグリーン(富士フイルム和光純薬株式会社製)をライン状に塗布し増幅指標領域とした。それぞれの塗布の後にニトロセルロースメンブレンを、温風式乾燥機で50℃、30分間乾燥した。乾燥が終了した後、ブロッキング液(0.5質量%カゼイン(乳由来、品番030-01505、富士フイルム和光純薬株式会社製)を含有する50mmol/Lのホウ酸バッファー(pH8.5))500mLを入れたバットに、上記のように乾燥したニトロースメンブレンを浸漬させてそのまま30分間静置した。その後ニトロセルロースメンブレンを取り出して、別のバットに準備した洗浄・安定化液(0.5質量%スクロースおよび0.05質量%コール酸ナトリウムを含む50mmol/L Tris-HCl(pH7.5)バッファー)500mL中にニトロセルロースメンブレンを浸し、そのまま30分間静置した。その後、ニトロセルロースメンブレンを液から取り出し、25℃の環境で24時間乾燥させた。抗NP抗体を固定化した部分が、被検物質に結合する第2の物質を含む検査領域、抗マウスIgG抗体を固定化した部分が、第1の物質に結合可能な物質を含む確認領域、ブロモクレゾールグリーンを固定した部分が第1の増幅液と反応する物質を含む増幅指標領域にそれぞれ相当する。
【0098】
(2-4) 検査用ストリップの作製
バック粘着シート(60mm×300mm(Adhesives Research社製))に、(2-3)で作製したクロマトグラフ担体を貼り付けた。次に、クロマトグラフ担体の短辺のうちの下流側から26mmの位置に幅3mmの両面テープ(日東電工)を固定した。その後、両面テープの下流端と8mm×300mmに切ったグラスファイバーパッド(GlassFiber Conjugate Pad、ミリポア社製)の下流端が重なるようにして(2-2)で作製した金コロイド保持パッドをクロマトグラフ担体に固定した。送液用パッド(25mm×300mmに切ったグラスファイバーパッド(Glass Fiber Conjugate Pad、ミリポア社製))をクロマトグラフ担体の上流側に、送液用パッドとクロマトグラフ担体が7mm重なるように貼り付けた。こうして作製した部材を、300mmの長辺と垂直な方向に対して平行に、幅が5mmとなるようにギロチン式カッター(CM4000、ニップンテクノクラスタ社製)で切断し、60本の検査用ストリップ(但し、吸収パッドを含まない。)を作製した。
【0099】
(2-5)増幅液の作製
(2-5-1)第2のポットに封入する増幅液(還元剤溶液)の作製
水290gに、硝酸鉄(III)九水和物(富士フイルム和光純薬株式会社製、095-00995)を水に溶解して作製した1mol/Lの硝酸鉄水溶液23.6mL、クエン酸(富士フイルム和光純薬株式会社製、038-06925)13.1gを溶解させた。全て溶解したら、スターラーで攪拌しながら硝酸(10重量%)溶液を36mL加え、硫酸アンモニウム鉄(II)六水和物(富士フイルム和光純薬株式会社製、091-00855)を60.8g加えた。このように調製した溶液を第2のポットに封入する第2の増幅液である還元剤溶液とした。
【0100】
(2-5-2)第1のポットに封入する増幅液(銀イオン溶液)の作製
水66gに、硝酸銀溶液8mL(10gの硝酸銀を含む)と1mol/Lの硝酸鉄水溶液24mLを加えた。さらに、この溶液と、硝酸(10重量%)5.9mL、ドデシルアミン(富士フイルム和光純薬株式会社製、123-00246)0.1g、界面活性剤C12H25-C6H4-O-(CH2CH2O)50H 0.1gをあらかじめ47.6gの水に溶解した溶液を混合し、これを第1のポットに封入する第1の増幅液である銀イオン溶液とした。
【0101】
(2-6)吸収パッドの作製
12mm×10mmに切ったグラスファイバーパッド(ガラス濾紙、アドバンテック社製)を60枚準備し、吸収パッドとした。
【0102】
(2-7)イムノクロマトグラフキットの部品の作製
図1および
図2に示すようなイムノクロマトグラフキット100を構成する下部ケース20、上部ケース10、中間部材30、および第1のポット40、第2のポット45を、ポリプロピレンを材料として射出成形によりそれぞれ作製した。上部ケースは住友化学株式会社製オレフィン系エラストマーであるタフセレン(登録商標)を50質量%含有するポリプロピレンを材料として射出成形により作製した。なお、上部ケース10は、2つの変形可能な部位(第1の凸状変形部と第2の凸状変形部と)を備え、この2つの変形部は上部ケース10と分離する部分はなく、すべての境界部で上部ケース10の一部として射出成形で作成した。
【0103】
なお、実施例の上部ケースは、
図1および
図2に示す第1の凸状変形部12が2本の突起部を有し、第2の凸状変形部14が1本の突起部を有する構成とした。
【0104】
(2-8)実施例のイムノクロマトグラフキットの作製
下部ケース20、(2-4)で作製した検査用ストリップ1と(2-6)で作製した吸収パッド6を、
図1、および
図2に示すように固定した。次に、
図3に示すように、第1のポット40、第2のポット45に、それぞれ、(1-5-2)、(1-5-1)で作製した第1のポット40に封入する第1の増幅液41、第2のポット45に封入する第2の増幅液46を充填し、シート部材48としてのアルミ箔で第2のポット45を、シート部材43としてのアルミ箔で第1のポット40をそれぞれ封止し、
図1、および
図2に示すように、第2のポット45を、シート部材48を上にして下部ケース20に、第1のポット40を、シート部材43を下にして中間部材30に装着した。そして、上部ケース10と下部ケース20とを外周同士が接触するように嵌め合わせた状態で、上部ケースと下部ケースとの接触部を超音波溶着により接合させた。このとき、溶着部位は密閉状態で均一にすべての部位で溶着されていることを確認した。このようにしてイムノクロマトグラフキットを作製した。
【0105】
<実施例5>
実施例4において、下記の表2に記載の抗体に変更した以外は、実施例4と同様に、実施例5のイムノクロマトキットを作製した。
【0106】
<3>検出感度の評価
(3-1)評価液
Tween(登録商標)80(4g)を、超純水3280mLに添加し、溶解した。トリスヒドロキシジメチルメタンを120gとカゼイン4g、EDTA・Naを60g、添加した。pH7.7になるように調整した後、4Lにメスアップした。
【0107】
(3-2)検体調液
評価液中に、SARS-CoV-2組換えNPを添加し、各濃度の検体を調液した。
【0108】
上記のように調液した検体24μLをキットに点着した。
検体の点着直後に、第2の凸状変形部14を押下することで、第2のポット45に封入した第2の増幅液46を封止しているシート部材48であるアルミ箔を破り、第2のポット45の中に送液用パッド4を浸すことにより、毛細管現象を利用して第2の増幅液46を不溶性担体2に供給した。
増幅指標領域L3が緑からオレンジに変色した後、第1の凸状変形部12を押下して第1のポット40を中間部材30の第1のポット収容部32の破断部34に向けて移動させることにより、第1のポット40を封止しているシート部材43であるアルミ箔を破断部34により押し破り、第1の増幅液41である銀イオン溶液を中間部材30の開口部から不溶性担体2に供給して、銀増幅反応を行った。銀増幅反応は数十秒で完了する。
銀増幅反応終了後、目視にて陽性または陰性を判定した。判定は、捕捉量は、そのNP量に比例して増減する抗NP抗体塗布ライン黒色の呈色度合いをLAS4000(GE製)で撮影しシグナルを算出した。
【0109】
以下の基準により評価した。
E:シグナル濃度0.045以上で、十分に高濃度で検出できる。
F:シグナル濃度0.025~0.045で、濃度上昇検出可能で、検体の存在が確認される。
G:シグナル濃度0.015~0.025で、わずかに濃度が判別される。
H:シグナル濃度0.010~0.015で、かろうじて濃度が判別できる。
I:シグナル濃度0.010以下。濃度が検出されない。
【0110】
結果を表2に示す。
【0111】
【0112】
金コロイド抗体、膜抗体共に未断片化抗体の実施例5に比べ、金コロイド抗体を断片化した抗体である実施例4の方が、評価液中にSARS-CoV-2が含まれない試料(NP濃度0pg/mL)のシグナル濃度が低く、偽陽性が発生しにくいことが分かった。加えて、断片化しても、富士レビオ株式会社製のSARS-CoV-2抗原検出用試薬「スプラインSARS-CoV-2」の検出感度に対し、優位に高感度が実現できる可能性があることが分かった。
【0113】
(実施例6)
実施例1で調製した、サブクラスがIgG1、IgG2bの抗NPモノクローナル抗体を用いて、特許第5430995号公報に記載の実施例1に従ってアッセイデバイスを作製して評価し実施例1と同様の濃度測定を行ったところ、実施例1と同様に本発明の効果が確認された。
【符号の説明】
【0114】
1 検査用ストリップ
2 不溶性担体
3 標識保持パッド
4 送液用パッド
6 吸収パッド
7 バック粘着シート
9 ハウジングケース
10 上部ケース
12 第1の凸状変形部
14 第2の凸状変形部
16 試料液滴下用開孔
18 観察窓
20 下部ケース
21 不溶性担体収容部
22 吸収パッド収容部
24 第2のポット収容部
30 中間部材
32 第1のポット収容部
34 破断部
35 流路形成部
36 流路形成部35の裏面
40 第1のポット
41 第1の増幅液
42 ポット容器
43 シート部材
45 第2のポット
46 第2の増幅液
47 ポット容器
48 シート部材
100 イムノクロマトグラフキット
L1 検査領域
L2 確認領域
L3 増幅指標領域
【配列表】