(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-30
(45)【発行日】2024-06-07
(54)【発明の名称】発酵乳およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
A23C 9/123 20060101AFI20240531BHJP
【FI】
A23C9/123
(21)【出願番号】P 2020043228
(22)【出願日】2020-03-12
【審査請求日】2023-01-04
(73)【特許権者】
【識別番号】711002926
【氏名又は名称】雪印メグミルク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】弁理士法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柴 真由美
(72)【発明者】
【氏名】門脇 喬之
(72)【発明者】
【氏名】阿部 勇佑
(72)【発明者】
【氏名】角藤 雅子
(72)【発明者】
【氏名】市川 一幸
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 光太郎
【審査官】戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/169171(WO,A2)
【文献】国際公開第2012/133015(WO,A1)
【文献】特開2018-170980(JP,A)
【文献】特開平06-014706(JP,A)
【文献】特開2018-074911(JP,A)
【文献】特開2018-074913(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23C 9/00-9/20
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
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(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質が4重量%以上、カゼインタンパク質とホエイタンパク質に対するカゼインタンパク質の比率が83重量%以上であって、10℃で7日間保存した後のpHが4.65以上であることを特徴とする発酵乳
であって、硬度が20~180g、90%粒子径が350μm以下である発酵乳。
【請求項2】
硬度が25~180g、90%粒子径が350μm以下、せん断速度0~200s
-1で測定したときの最高粘度が45Pa・s以上であることを特徴とする請求項
1に記載のスプレッドタイプの発酵乳。
【請求項3】
タンパク質が4重量%以上、カゼインタンパク質とホエイタンパク質に対するカゼインタンパク質の比率が83重量%以上であって、10℃で7日間保存した後のpHが4.65以上であることを特徴とする発酵乳であって、粘度が400mPa・s以下、90%粒子径が70μm以下であ
る液状発酵乳。
【請求項4】
無脂肪であることを特徴とする請求項1~
3のいずれかに記載の発酵乳。
【請求項5】
タンパク質が4重量%以上、カゼインタンパク質とホエイタンパク質に対するカゼインタンパク質の比率が83重量%以上である発酵乳ベースミックスを調製する工程と、前記発酵乳ベースミックスのpHが4.9以上で発酵を終了させる工程と、を含むことを特徴とする発酵乳の製造方法。
【請求項6】
請求項
5に記載の発酵乳の製造方法において、前記発酵を終了させる工程の後に、さらに、均質化処理を施す工程を有することを特徴とする液状発酵乳の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な発酵乳およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に、タンパク質を高濃度で含む発酵乳は、濃厚な食感や風味が楽しめる点に特徴がある。しかし、タンパク質のネットワークが強固に形成された結果、硬度や粘度が高く、ざらつくことが知られている。発酵乳が硬くざらつくと、喫食時の舌触り等の食感が悪くなる。また、液状発酵乳においては、粘度が高いと、もたついて飲み込みづらくなる。
これらの課題は、特に無脂肪の発酵乳で大きな問題となっている。
【0003】
タンパク質を高濃度で含む発酵乳の製造方法は、種々の方法が知られている。
例えば、特許文献1には、タンパク質5.6重量%以上の発酵乳の製造方法が記載されており、110~145℃で0.1~30秒間加熱殺菌した発酵乳ミックスを用いることが開示されている。この製造方法によれば、タンパク質を高濃度で含んでいるにもかかわらず、滑らかな食感を有する発酵乳を得ることができるとされている。
【0004】
特許文献2には、タンパク質5.6重量%以上の発酵乳の製造方法が記載されており、殺菌済の発酵乳ミックスにスターターおよびラクターゼを加えて発酵させる方法が開示されている。この製造方法によれば、タンパク質が高濃度でふくまれているにもかかわらず、ざらつきなどによる食感や風味の悪化がなく、滑らかな食感を有する発酵乳を得ることができるとされている。
【0005】
非特許文献1には、タンパク質8%、脂肪0.5%未満の発酵乳において、カゼインタンパク質とホエイタンパク質に対するカゼインタンパク質比率が高い発酵乳は、硬度が低く、粒子径が小さいことが開示されている。
【0006】
一方、特許文献3には、発酵時間を短縮する方法として、原料ミックスを高圧で均質化し、発酵終了時のpHを4.7~5.4とする製造方法が開示されている。この製造方法によれば、醗酵時間を短縮しても十分な硬度を有する発酵乳を製造することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2018-157784
【文献】特開2018-157785
【文献】特開2018-170980
【非特許文献】
【0008】
【文献】International Dairy Journal,47,p6-18,2015
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、これらの従来技術によれば、高タンパク質含量の発酵乳を得ることができるとしても、本発明の発明者らが求めるような、硬度や粘度が充分に低くざらつきが少ない発酵乳を得ることができなかった。
本発明は、従来にない新規な高タンパク質の発酵乳、およびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題の解決手段として、以下の構成を含む発明を提供するものである。
(1)タンパク質が4重量%以上、カゼインタンパク質とホエイタンパク質に対するカゼインタンパク質の比率が83重量%以上であって、10℃で7日間保存した後のpHが4.65以上であることを特徴とする発酵乳。
(2)硬度が20~180g、90%粒子径が350μm以下であることを特徴とする(1)に記載の発酵乳。
(3)硬度が25~180g、90%粒子径が350μm以下、せん断速度0~200s-1で測定したときの最高粘度が45Pa・s以上であることを特徴とする(1)または(2)に記載のスプレッドタイプの発酵乳。
(4)粘度が400mPa・s以下、90%粒子径が70μm以下であることを特徴とする(1)に記載の液状発酵乳。
(5)無脂肪であることを特徴とする(1)~(4)のいずれかに記載の発酵乳。
(6)タンパク質が4重量%以上、カゼインタンパク質とホエイタンパク質に対するカゼインタンパク質の比率が83重量%以上である発酵乳ベースミックスを調製する工程と、前記発酵乳ベースミックスのpHが4.9以上で発酵を終了させる工程と、を含むことを特徴とする発酵乳の製造方法。
(7)(6)の発酵乳の製造方法において、前記発酵を終了させる工程の後に、さらに、均質化処理を施す工程を有することを特徴とする液状発酵乳の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高タンパク質でありながら、硬度や粘度が低く、ざらつきが少ない発酵乳、およびその製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(発酵乳)
本発明において、「発酵乳」とは、牛乳等の獣乳またはこれと同等以上の無脂乳固形分を含む乳等を、乳酸菌、ビフィズス菌、酵母のうちいずれか一つまたはこれらの組み合わせにより発酵させたものである。発酵乳を性状と製法により分類すると1)静置型発酵乳、2)攪拌型発酵乳、3)液状発酵乳に分けられる。
【0013】
1)静置型発酵乳は、ハードタイプの発酵乳と称され、小売容器に充填して発酵させたプリン状の組織を有するものであり、例えば以下のように製造される。まず、乳、乳製品、ショ糖等の原材料を混合・溶解して調製した発酵ミックスを均質化、殺菌、冷却した後、乳酸菌スターターを接種し、容器に充填して密封してから培養室や発酵トンネル内で発酵させ、適度な酸度になった時点で直ちに10℃以下に冷却して発酵を終了させ、最終製品とする。静置型発酵乳には、スプレッドタイプの発酵乳も含まれる。
2)攪拌型発酵乳は、ソフトタイプの発酵乳とも称され、発酵ミックスに乳酸菌スターターを添加し、タンクで発酵後、カードを破砕して容器に充填して、最終製品とする。
3)液状発酵乳は、発酵ミックスを攪拌型発酵乳と同様の方法で発酵させ、カードを破砕後に均質化して液状にした発酵乳を最終製品とする。
本発明においては、上記のうち、1)静置型発酵乳と3)液状発酵乳が含まれる。本願では1)静置型発酵乳と3)液状発酵乳をあわせて本発明発酵乳と記載することもある。
【0014】
(タンパク質量)
本発明発酵乳において「高タンパク質量」とは、普通牛乳に含まれる3.4重量%を超えるタンパク質を含むことを指す。本発明発酵乳のタンパク質量は3.4重量%を越えるものであれば制限はないが、4重量%以上とすることも可能であり、5重量%以上20重量%以下とすることもでき、さらに5重量%以上9重量%以下とすることもできる。
本発明では、タンパク質を高濃度で含有することによる濃厚な風味を得るために、タンパク質量は4重量%以上であることが好ましい。
【0015】
(タンパク質組成)
本発明発酵乳は、本発明発酵乳に含まれるカゼインタンパク質とホエイタンパク質の合計量(重量%)に対するカゼインタンパク質の含量(重量%)の比率を、83~99%とする。この比率は84~96%とするのが好ましく、84~93%とするのがより好ましく、87~90%とするのがさらに好ましい。
本発明者らは、カゼインタンパク質の含量を上記した範囲に調製することにより、高タンパク質含量でありながら、硬度や粘度が低く、ざらつきが少ない発酵乳を得ることができるという知見を見出した。本発明はこのような新たな知見に基づくものである。
【0016】
(発酵乳のpH)
本発明発酵乳は、10℃で7日間保存した後のpHが4.65以上である。後に説明するように、本発明発酵乳の製造においては、発酵の開始後にpHが4.9以上になった時点で発酵を終了させている。その結果、製造後の発酵の進行を抑制することができるので、硬度や粘度の増加やざらつき感をもたらすことなく、7日間保存した後であっても、製造直後の良好な食感と風味を維持することができる。
【0017】
(硬度)
本発明の静置型発酵乳の硬度は、20g~180gとすればよいが、25g~120gとするのが好ましく、25g~60gとするのがさらに好ましい。また、スプレッド性の点からは、硬度は25g~180gとするのが好ましく、40g~130gとするのがさらに好ましい。
【0018】
硬度の測定は、テクスチャーアナライザー(Stable Micro Systems社製)、レオナー(山電社製)などの圧縮試験機で測定できる。10℃に調整した試料に直径16mmのプランジャーを速度1mm/秒で陥入した際の最大荷重を硬度とした。
なお、本発明の液状発酵乳については、硬度の規定はない。
【0019】
(90%粒子径)
本発明の静置型発酵乳の90%粒子径は、350μm以下とすればよいが、300μm以下とするのが好ましく、150μm以下とするのがさらに好ましい。
本発明の液状発酵乳の90%粒子径は、70μm以下とすればよいが、30μm以下とするのが好ましく、20μm以下とするのがさらに好ましい。
【0020】
90%粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置、レーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置、画像解析式粒子径分布測定装置、精密粒度分布測定装置、リアルタイムゼータ電位・ナノ粒子径測定装置、動的光散乱式(DLS)粒子径分布測定装置、分析用超遠心システムなど、粒度分布を測定する装置で測定することができる。
得られた体積基準での積算分布曲線の90%に相当する粒子径を90%粒子径(μm)とし、測定60秒後の値を用いる。
【0021】
(静置型発酵乳の最高粘度)
本発明の静置型発酵乳のスプレッド性を評価するために、せん断速度0~200s-1で測定したときの最高粘度(以下では単に最高粘度という)を測定した。最高粘度が45Pa・s以上であれば、スプレッド性に優れ、塗りやすい組織であるといえる。静置型発酵乳のなかで、特にスプレッド性に優れた発酵乳をスプレッドタイプの発酵乳という。本発明の静置型発酵乳の最高粘度は、スプレッド性の点からは、45Pa・s~800Pa・sとすればよいが、70Pa・s~500Pa・sとするのが好ましく、90Pa・s~300Pa・sとするのがさらに好ましい。
【0022】
最高粘度は、パラレルプレート型粘度計(ARES(TAインスツルメントジャパン社))を用い、測定温度10℃でせん断速度を0~200s-1の範囲で増大させながら粘度を測定したときの最高値とした。
なお、スプレッドタイプ以外の本発明の静置型発酵乳については、粘度の規定はない。
【0023】
(液状発酵乳の粘度)
本発明の液状発酵乳の粘度は、3mPa・s~400mPa・sとすればよいが、5mPa・s~100mPa・sとするのが好ましく、5mPa・s~80mPa・sとするのがさらに好ましい。
液状発酵乳の粘度は、東機産業株式会社製等の一般的なB型粘度計を用い、200mlの試料を測定容器に分注し、測定プローブ(ローターM2)を挿入し、60rpmで30秒間回転したときの粘度(mPa・s)を測定する方法を例示できる。
【0024】
(本発明発酵乳の製造方法)
(タンパク質原料)
本発明発酵乳は、上記したとおり、発酵乳に含まれるカゼインタンパク質とホエイタンパク質の合計量(重量%)に対するカゼインタンパク質の含量(重量%)の比率を所定の範囲に調整する。
このために用いるカゼインタンパク質が豊富な原材料としては、カゼインタンパク質とホエイタンパク質の合計量(重量%)に対するカゼインタンパク質の含量(重量%)の比率が83%程度以上であるものがよく、脱脂乳を精密ろ過膜等で処理することで得られる濃縮乳、ミセラーカゼイン等を例示できる。
また、ホエイタンパク質が豊富な原材料としては、カゼインタンパク質とホエイタンパク質の合計量(重量%)に対するカゼインタンパク質の含量(重量%)の比率が83%未満であればよく、ホエイタンパク質分離物(Whey Protein Isolate:WPI)、ホエイタンパク質濃縮物(Whey Protein Concentrate:WPC)、乳清パウダー、ミルクタンパク質濃縮物(Milk Protein Concentrate:MPC)、生乳、脱脂乳、脱脂粉乳等を例示できる。
【0025】
(その他原材料)
本発明発酵乳は、本発明の効果を妨げない範囲で、食品に使用可能な原材料を使用することができる。
【0026】
(静置型発酵乳の製造方法)
静置型発酵乳の製造方法の具体的一態様を記載する。
タンパク質を4重量%以上、かつカゼインタンパク質とホエイタンパク質の合計量(重量%)に対するカゼインタンパク質の含量(重量%)の比率を、83%以上とした発酵乳ベースミックスを調製する。低脂肪や無脂肪タイプとしたい場合は、そのような発酵乳ベースミックスを調製する。
調製した発酵乳ベースミックスを、均質化、及び殺菌処理に供する。均質化処理と殺菌処理の順序に制限はなく、殺菌温度、均質化圧は定法を参考に本発明の効果を妨げない範囲で適宜設定する。
均質化、及び殺菌処理に供した発酵乳ベースミックスを35~45℃程度とし、乳酸菌を添加する。乳酸菌を添加後、35~45℃程度で発酵し、pHが4.9~5.2となったところで10℃程度以下に冷却し発酵を終了させることで本発明の静置型発酵乳が得られる。
【0027】
(液状発酵乳の製造方法)
上記の静置型発酵乳を均質化処理に供することで本発明の液状発酵乳が得られる。このとき、静置型発酵乳に水や糖液を加えることができる。均質化処理の均質化圧、均質化温度は定法を参考に本発明の効果を妨げない範囲で適宜設定する。
【実施例】
【0028】
次に、実施例を示して本発明を具体的に説明する。しかし、本発明は、実施例に限定して解釈されるものではない。
(精密ろ過による濃縮乳の調製)
精密ろ過膜(Membralox、0.1μm(Pall Exekia社))で脱脂乳を3.5倍まで濃縮し、濃縮乳を調製した。濃縮乳のカゼインタンパク質とホエイタンパク質に対するカゼインタンパク質比率は83~88%であった。以下では、精密ろ過濃縮乳と表記する。
【0029】
(ホエイ濃縮物の調製)
精密ろ過膜(Membralox 0.1μm(Pall Exekia社))で脱脂乳を3.5倍まで濃縮した際に得られた透過液を限外ろ過膜(SPE10、10kDa(Synder社))で62倍まで濃縮し、ホエイタンパク質濃縮物を得た。ホエイタンパク質濃縮物のカゼインタンパク質とホエイタンパク質に対するカゼインタンパク質比率は17%であった。以下では、ホエイ濃縮物と表記する。
【0030】
[実施例A]高タンパク質含量の発酵乳の調製(実施例1~4、比較例1)
表1に示す配合に従い、次の調製方法によって実施例1~4、比較例1の発酵乳を調製した。ここで、実施例1~4においてはガゼインタンパク質とホエイタンパク質に対するガゼインタンパク質の比率が83%以上であるが、比較例1は83%に満たない配合である。
発酵乳の調製においては、発酵乳ベースの原材料をホモミキサーで混合溶解し、発酵乳ベースミックスを調製した。発酵乳ベースミックスを65℃まで加温し、15MPaの均質圧で均質処理した後、95℃で5分間加熱殺菌した。その後、40℃まで冷却し、ラクトバチルス・ブルガリクスを1.5重量%、ストレプトコッカス・サーモフィラスを0.15重量%添加し、43℃で発酵させ、pH5.0になったところで5℃まで冷却して発酵を終了させた。実施例1~4、比較例1のタンパク質は8.7重量%、脂肪は0.5重量%以下であった。また、実施例1~4、比較例1の乳糖、ナトリウム、カルシウム濃度は同濃度であった。
【0031】
【0032】
[実施例B]発酵を終了させるpHの影響(実施例5~8、比較例2)
本発明発酵乳の製造において、発酵乳ベースミックスの発酵を終了させるpHについて、製造される発酵乳の特性に及ぼす影響を調べた。実施例1と同様の配合で発酵乳を調製し、それぞれ実施例5~8、比較例2とした。調製においては、発酵終了時のpHは表2に示すpHとし、それ以外の調製方法は実施例Aと同様とした。
【0033】
【0034】
[実施例C]タンパク質含量の影響(実施例9~14)
本発明発酵乳の製造において、発酵乳のタンパク質含量について、製造される発酵乳の特性に及ぼす影響を調べた。表3に示す配合に従い、実施例Aと同様の方法で実施例9~14の発酵乳を調製した。実施例9~14の発酵乳の脂肪は0.5重量%以下であった。
【0035】
【0036】
表4に実施例1~14および比較例1、2の発酵乳の特性を示す。特性値は、調製から7日後の品温10℃の発酵乳の値である。スプレッド性の評価は、スプーンですくっても垂れにくく、塗りやすい組織を有している場合は〇、硬すぎて塗りにくい場合は×、スプーンですくったときに垂れてしまい塗りにくい場合は△とした。ざらつきは有無で評価した。
実施例1~14では、硬度が20~180g、90%粒子径が350μm以下となり、適度な硬度を持ち、ざらつきや離水が少ない組織であった。いずれも静置型発酵乳として優れた特性である。
スプレッド性は、硬度が25~180g、最高粘度が45Pa・s以上ではスプーンですくっても垂れにくく、塗りやすい組織を有していた。
ざらつきは、90%粒子径が350μm以下では、ざらつきが少ない組織であった。
したがって、実施例1~7、9~14では、硬度が25~180g、90%粒子径が350μm以下、最高粘度が45Pa・s以上となり、スプレッドタイプの発酵乳として優れた特性である。実施例1~14の発酵乳は、いずれも濃厚で良好な風味を有していた。
【0037】
【0038】
[実施例D]液状発酵乳の調製(実施例15、16、比較例3、4)
実施例1の発酵乳と殺菌水を7:3または10:0の比率で混合し、15MPaの均質圧で均質処理し、タンパク質6.1または8.7重量%の液状発酵乳を調製した。
タンパク質6.1重量%の液状発酵乳を実施例15、タンパク質8.7重量%の液状発酵乳を実施例16とした。
また、比較例1と同じ配合で、発酵終了時のpHを4.9に設定した発酵乳を調製し、実施例15と同様の方法で液状発酵乳を調製し、これを比較例3とした。さらに、比較例1と同じ配合で、発酵終了時のpHを4.8に設定した発酵乳を調製し、実施例15と同様の方法で液状発酵乳を調製し、これを比較例4とした。
表5に実施例15、16および比較例3、4の発酵乳の特性を示す。特性値は、調製から1日後または7日後の品温10℃の値である。実施例15の保存1日後の粘度は19mPa・s、90%粒子径は6μm、実施例16の保存1日後の粘度は75mPa・s、90%粒子径は6μmであった。実施例15、16の液状発酵乳はざらつきがなく、さらっとした粘度で飲みやすく、良好な食感と風味を有しており、保存7日後も良好な食感と風味を保持していた。一方、比較例3、4は粘度が高く、もたついて飲みにくく、ざらつきがあり食感が悪かった。
このような結果となった原因は、比較例3、4では比較例1の発酵乳を液状化処理しており、比較例1の発酵乳は、ガゼインタンパク質とホエイタンパク質に対するガゼインタンパク質の割合が79%であるので、本発明で規定する83%に達しなかったためであると考えられる。
【0039】
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明によれば、高タンパク質含量でありながら、硬度や粘度が低く、ざらつきが少ない発酵乳、およびその製造方法を提供することができる。