(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-31
(45)【発行日】2024-06-10
(54)【発明の名称】プラズマ処理装置、プラズマ処理方法及び導通部材
(51)【国際特許分類】
H01L 21/3065 20060101AFI20240603BHJP
H01L 21/205 20060101ALI20240603BHJP
H05H 1/46 20060101ALI20240603BHJP
【FI】
H01L21/302 101G
H01L21/302 101C
H01L21/205
H05H1/46 L
(21)【出願番号】P 2021507302
(86)(22)【出願日】2020-03-13
(86)【国際出願番号】 JP2020011050
(87)【国際公開番号】W WO2020189545
(87)【国際公開日】2020-09-24
【審査請求日】2023-01-17
(31)【優先権主張番号】P 2019048408
(32)【優先日】2019-03-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】519094189
【氏名又は名称】株式会社ノアリーディング
(73)【特許権者】
【識別番号】303058328
【氏名又は名称】東芝マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004026
【氏名又は名称】弁理士法人iX
(72)【発明者】
【氏名】横田 昌広
(72)【発明者】
【氏名】八甫谷 明彦
(72)【発明者】
【氏名】高橋 健
(72)【発明者】
【氏名】森田 修介
(72)【発明者】
【氏名】大島 次郎
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 秀一
(72)【発明者】
【氏名】八木 典章
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 敦也
【審査官】宇多川 勉
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/184824(WO,A1)
【文献】特開平04-269822(JP,A)
【文献】特開2008-060148(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/3065
H01L 21/205
H05H 1/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1部材と、前記第1部材に対して着脱可能な第2部材と、を有するチャンバーと、
前記第1部材と前記第2部材との間に配置された導通部材と、
前記チャンバー内にプラズマを生成させる第1高周波電源と、
を備え、
前記第1部材は接地されており、前記チャンバー内に面し、
前記第2部材は接地されておらず、前記チャンバー内に面し、
前記導通部材は、
樹脂材料からなる樹脂部材と、
前記樹脂部材の表面上に設けられた金属膜と、
を有したプラズマ処理装置。
【請求項2】
前記第1部材と前記第2部材との間には隙間が形成されている請求項1記載のプラズマ処理装置。
【請求項3】
前記チャンバー内に設けられ被処理部材を保持するホルダーと、
前記ホルダーに対して高周波電流を供給する第2高周波電源と、
をさらに備えた請求項1
または2に記載のプラズマ処理装置。
【請求項4】
前記第2部材に固定され、前記第1高周波電源から高周波電流が供給されるコイルをさらに備えた請求項1~
3のいずれか1つに記載のプラズマ処理装置。
【請求項5】
前記導通部材の圧縮率は、前記金属膜に亀裂が発生しない範囲の圧縮率である請求項1~
4のいずれか1つに記載のプラズマ処理装置。
【請求項6】
第1部材と、前記第1部材に対して着脱可能な第2部材と、を有するチャンバーと、
前記第1部材と前記第2部材との間に配置された導通部材と、
前記チャンバー内にプラズマを生成させる第1高周波電源と、
を備え、
前記導通部材は、
樹脂材料からなる樹脂部材と、
前記樹脂部材の表面上に設けられた金属膜と、
を有し、
前記導通部材の圧縮率は、圧縮率を変えながら前記導通部材を繰り返し圧縮し、圧縮及び解放の度に前記導通部材の電気抵抗値を測定することによって決定され
たプラズマ処理装置。
【請求項7】
前記導通部材の圧縮率は5%以上25%以下である請求項1~
6のいずれか1つに記載のプラズマ処理装置。
【請求項8】
前記樹脂材料は弾性ゴムである請求項1~
7のいずれか1つに記載のプラズマ処理装置。
【請求項9】
前記樹脂材料はフッ素ゴムである請求項1~
8のいずれか1つに記載のプラズマ処理装置。
【請求項10】
前記金属膜は、ニッケル、クロム、チタン、タングステン、コバルト、金、銀、銅、錫及び亜鉛からなる群より選択された1種以上の金属を含む請求項1~
9のいずれか1つに記載のプラズマ処理装置。
【請求項11】
前記金属膜の膜厚は200nm以上である請求項1~
10のいずれか1つに記載のプラズマ処理装置。
【請求項12】
プラズマエッチング装置である請求項1~
11のいずれか1つに記載のプラズマ処理装置。
【請求項13】
第1部材と第2部材とを含むチャンバー
であって、前記第1部材は接地されており、前記チャンバー内に面し、前記第2部材は接地されておらず、前記チャンバー内に面したチャンバー内に被処理部材を装入し、前記第1部材と前記第2部材との間に、樹脂材料からなる樹脂部材の表面上に金属膜が設けられた導通部材を配置し、前記導通部材を圧縮する工程と、
高周波電流を印加することにより、前記チャンバー内にプラズマを生成する工程と、
を備えたプラズマ処理方法。
【請求項14】
前記導通部材の圧縮率は、前記金属膜に亀裂が発生しない範囲の圧縮率である請求項13に記載のプラズマ処理方法。
【請求項15】
プラズマ処理装置の電気的に分離した部品を導通させる導通部材であって、
ゴム弾性基材と、
前記ゴム弾性基材の表面にめっきされた金属膜と、
を備え
、
前記導通部材の圧縮率は、圧縮率を変えながら前記導通部材を繰り返し圧縮し、圧縮及び解放の度に前記導通部材の電気抵抗値を測定することによって決定された導通部材。
【請求項16】
圧縮率が5~25%の範囲で圧縮された状態で、前記プラズマ処理装置に配置される請求項15記載の導通部材。
【請求項17】
前記金属膜の膜厚は100~2000nmである請求項15または16に記載の導通部材。
【請求項18】
前記金属膜の膜厚は100~1000nmである請求項17記載の導通部材。
【請求項19】
前記金属膜の材料は、ニッケル、クロム、チタン、タングステン、コバルト、金、銀、銅、錫及び亜鉛からなる群より選択された1種以上の金属である請求項15~18のいずれか1つに記載の導通部材。
【請求項20】
前記金属膜は、相互に異なる材料からなる2層以上の金属層が積層された積層膜である請求項15~19のいずれか1つに記載の導通部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
実施形態は、プラズマ処理装置、プラズマ処理方法及び導通部材に関する。
【背景技術】
【0002】
メモリ、ロジック回路、パワーデバイス、液晶パネルのTFT(Thin Film Transistor:薄膜トランジスタ)基板等の半導体デバイスには、トランジスタ、キャパシタ、ダイオード等の素子が集積されており、これらの素子間が配線及びビア等の導電部材によって接続されている。半導体デバイスの製造においては、このような素子及び導電部材を統合的に形成するために、シリコン、炭化シリコン、サファイア、窒化ガリウム、及び、ガラス等からなる基板上に、導電膜、絶縁膜、半導体膜等の薄膜の形成と、これらの薄膜のパターニングとが繰り返される。
【0003】
半導体デバイスの製造工程においては、薄膜の形成及びパターニングの他にも、半導体の電気物性を制御するためのイオン注入、薄膜やその界面の物性を制御するためのアニール処理、基板全体やパターンの表面の清浄化又は表面改質を目的とした洗浄処理、CMP(Chemical Mechanical Polishing:化学的機械的研磨)等の平坦化処理等の各種処理を適宜組み合わせる。そして、半導体デバイスの種類や世代によっても異なるが、通常はパターニングだけでも数十回程度実施して、ようやく半導体デバイスが完成する。
【0004】
しかしながら、上述の各種処理には、不可避的にバラツキが発生する。例えば、薄膜のパターニングにおいて、薄膜のパターンに寸法のバラツキや形状の異常等の形状誤差が発生すると、パターンを積層したときに、上下のパターン間で位置がずれたり、意図しない空隙や凸部が形成される。また、形状誤差は電気的特性のバラツキの原因となり、半導体デバイスとしての性能を確保できなくなる。また、各種処理の制御性が半導体デバイスの歩留まりに及ぼす影響も極めて大きい。例えば、ダストや汚染が許容量を超えて発生すると、パターンの欠陥や薄膜の電気的特性の劣化の要因となり、半導体デバイスの歩留まりを低下させる。
【0005】
一方で、半導体デバイスは年々微細化している。
図24は、横軸に年代をとり、縦軸にトランジスタの集積度をとって、半導体デバイスの微細化の傾向を示すグラフである。
【0006】
図24に示すように、少なくとも現在までは、ムーアの法則にしたがって、半導体デバイスの集積度が指数関数的に増加している。これに伴い、半導体デバイスのパターンは微細化している。近年では、トランジスタのチャネル長が10nm以下のデバイスも発表されている。このため、パターニングに用いるマスクパターンも微細化が要求され、例えば線幅を10nm以下とする必要がある。
【0007】
マスクパターンを微細化すると、形状誤差が相対的に大きくなるため、従前は問題にならなかった形状誤差が今後は許容できなくなる。例えば、わずかな形状誤差が半導体デバイスの歩留まりを著しく低下させることになる。このため、パターニングに要求される制御性がより厳しくなる。また、パターンの微細化に伴い、従前は問題とならなかった低レベルのダストや汚染が、今後は問題となる。このため、将来的には、半導体デバイスの製造工程を構成する各種処理について、より高い制御性が要求される。特に、パターニングの制御性の向上は、半導体デバイスの微細化の決定的な要件となる。
【0008】
パターニングの制御性を決定する要因は数多く存在するが、そのうち、プラズマエッチングにおける要因の例を以下に列挙する。プラズマエッチングでは、マスクパターンに覆われていない部分を、プラズマにより励起されたイオンやラジカルを用いて、物理化学的にエッチングする。
【0009】
図25(a)~(e)は、一般的なプラズマエッチング工程を示す断面図である。
図26は、プラズマエッチングで制御すべき代表的な要因を示す図である。
【0010】
図25(a)に示すように、下地部材300を準備する。下地部材300は洗浄された基板でもよく、基板上に形成された薄膜でもよい。次に、
図25(b)に示すように、下地部材300上の全面に薄膜301を堆積させる。薄膜301の堆積方法は、例えば、スパッタリング又はCVD(Chemical Vapor Deposition:化学気相成長法)等である。次に、
図25(c)に示すように、薄膜301上にフォトレジストを塗布し、露光し、現像することにより、所定のパターンが形成されたレジストパターン302を形成する。次に、
図25(d)に示すように、レジストパターン302をマスクとして、プラズマを用いたエッチングを施すことにより、薄膜301をパターニングする。次に、
図25(e)に示すように、例えばアッシングを行い、レジストパターン302を除去する。このようにして、薄膜301が所定の形状にパターニングされる。
【0011】
図26に示すように、プラズマエッチングの制御性を決定する要因には、レジストパターン302の寸法、薄膜301の形状、レジストパターン302と薄膜301とのエッチング選択性、薄膜301と下地部材300とのエッチング選択性、薄膜301のエッチング残り等、パターン形成に関わる寸法的な要因が大きい。その他にも、プラズマエッチング装置やエッチングガスなどに起因する不純物による汚染、イオンの打ち込みによる下地部材の構造変化等も、半導体デバイスの電気的特性に及ぼす影響が大きい。さらに、エッチング生成物の残留や、マスクパターンの構造変化等は、次工程以降の制御性に影響を及ぼす要因となる。
【0012】
レジストパターン302の寸法に誤差が生じると、例えば
図26に示すプラズマエッチング工程がトランジスタのゲートを形成する工程である場合、トランジスタのチャネル長にバラツキが生じることになる。このため、トランジスタの電気的特性が直接的な影響を受ける。
【0013】
エッチング後の薄膜301の形状に誤差が生じると、例えば
図26に示すプラズマエッチング工程が配線を形成する工程であり、その後の工程で配線を絶縁膜で埋め込む場合に、絶縁膜にボイド(空隙)が形成されてしまい、配線間の容量が変化して信号が遅延したり、信頼性が低下することがある。また、配線とトランジスタの接続部分にエッチング生成物が残留すると、電気抵抗が大きくなり、配線遅延や断線不良の原因となる。
【0014】
薄膜301と下地部材300とのエッチング選択性が低下すると、薄膜301をエッチングする際に、いわゆるオーバーエッチングが生じ、下地部材300もエッチングされてしまう。このため、形状精度が低下する。また、オーバーエッチングが著しい場合には、オーバーエッチングにより形成された凹部が下地部材300を貫通し、さらに下方に配置された部材(図示せず)まで到達してしまう。下方の部材と薄膜301が導電部材であり、下地部材300が絶縁膜である場合は、本来絶縁されるべき導電部材同士が接触することになり、短絡やリークが発生し、半導体デバイスが正常に動作しなくなる。
【0015】
図27は、横軸にエッチング時間をとり、縦軸に不良率をとって、許容されるエッチング量のマージンを示すグラフである。
図25(a)~(e)及び
図26において説明した薄膜のパターニングにおいて、エッチング量はエッチング時間によって制御することが多い。
図27に示すように、エッチング量が不足するとエッチング残りが発生して不良品となり、エッチング量が過剰であると下地部材を過度にエッチングしてしまい、やはり不良品となる。エッチング残りが発生せず、かつ、下地部材のエッチング量が許容量以下となるようなエッチング量が、許容されるエッチング量のマージンであるが、半導体デバイスの微細化が進むと、このマージンが狭くなる。
【0016】
このように、1回のエッチングによっても、様々な形状誤差が発生する。上述の如く、半導体デバイスを製造する際には、数十回程度のエッチングが必要となるため、各エッチングにおいて発生した形状誤差が蓄積されてしまう。このため、1回のエッチングにおいて発生した形状誤差が微小なものであっても、最終的な半導体デバイスの特性や歩留まりには大きく影響する。また、今後の半導体デバイスの微細化に伴い、形状誤差は相対的に大きくなるため、許容マージンは格段に小さくなり、エッチング工程の難易度がますます上昇する。
【0017】
また、半導体デバイスの微細化が進むと、チャンバーの内壁への生成物の堆積、プラズマによる各パーツの消耗に伴う寸法の微小な変化、高周波電力の出力の整合状態等もエッチングの制御性に影響を及ぼすようになり、処理装置間の機差や、同じ装置における経時変化も問題となる。
【0018】
このため、ガスの流量、圧力及び温度、高周波電力の出力及び整合状態等のパラメータを常に装置側でモニターし、異常があれば警告を表示したり処理を中断する機構が実用化されている。しかし、チャンバーの内壁の状態や、パーツのわずかな消耗などは、直接モニターすることが難しく、いわゆる装置QC(Quality Check)によるエッチング特性の確認や、基板に形成されたテストパターンの出来栄え評価による確認が実施されている。また、エッチング装置などは、部材の消耗や内壁状態の変化による経時変化を抑制するために、定期的に装置をメンテナンスし、消耗部材の交換及び装置内のクリーニングを実施している。
【0019】
しかしながら、定期的にメンテナンスを実施しても、メンテナンス後に装置のエッチング特性が完全に均一になるとは限らない。例えば、パーツ同士のわずかな取り付け誤差がエッチング特性に影響を与える。これは、同一の装置においてメンテナンスの度に誤差が生じるだけでなく、装置間でも誤差が生じ、生産性向上のために一台の装置に複数のチャンバーが設けられている場合にはチャンバー間でも誤差が生じる。
【0020】
このため、装置QCにより合わせ込みを行い、上述の誤差を低減している。しかしながら、そのためには、作業者及び作業時間が必要となり、また、高価な処理装置を生産に使用できない時間が長くなるため、半導体デバイスの生産性を著しく低下させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
本発明は上述の課題に鑑みてなされたものであり、動作が安定したプラズマ処理装置、プラズマ処理方法及び導通部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
実施形態に係るプラズマ処理装置は、第1部材と、前記第1部材に対して着脱可能な第2部材と、を有するチャンバーと、前記第1部材と前記第2部材との間に配置された導通部材と、前記チャンバー内にプラズマを生成させる第1高周波電源と、を備える。前記導通部材は、樹脂材料からなる樹脂部材と、前記樹脂部材の表面上に設けられた金属膜と、を有する。
【0024】
実施形態に係るプラズマ処理方法は、第1部材と第2部材とを含むチャンバー内に被処理部材を装入し、前記第1部材と前記第2部材との間に、樹脂材料からなる樹脂部材の表面上に金属膜が設けられた導通部材を配置し、前記導通部材を圧縮する工程と、高周波電流を印加することにより、前記チャンバー内にプラズマを生成する工程と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】横軸に時間をとり、縦軸にエッチング量をとって、従来のプラズマエッチング装置におけるエッチング量とメンテナンス及び部品交換との関係の一例を示すグラフである。
【
図2】横軸に時間をとり、縦軸にチャンバーの下部と上部との間の電気抵抗値をとって、導通部材の交換時期と電気抵抗値との関係の一例を示すグラフである。
【
図3】横軸にホルダーに供給する電力をとり、縦軸にエッチング量をとって、供給電力とエッチング量との関係の一例を示すグラフである。
【
図4】第1の実施形態に係るプラズマエッチング装置を示す断面図である。
【
図5】(a)は第1の実施形態に係るプラズマエッチング装置の下部を示す平面図であり、(b)は(a)に示すA-A’線による断面図である。
【
図6】(a)は本実施形態に係るプラズマエッチング装置の導通部材を示す斜視図であり、(b)はその断面図である。
【
図7】(a)は横軸に時間をとり、縦軸にエッチング量をとって、第1の実施形態に係るプラズマエッチング装置におけるエッチング量とメンテナンス及び部品交換との関係の一例を示すグラフであり、(b)は横軸に時間をとり、縦軸にインピーダンスをとって、第1の実施形態に係るプラズマエッチング装置におけるインピーダンスとメンテナンス及び部品交換との関係の一例を示すグラフであり、(c)は横軸に時間をとり、縦軸にインピーダンスをとって、比較例に係るプラズマエッチング装置におけるインピーダンスとメンテナンス及び部品交換との関係の一例を示すグラフである。
【
図8】(a)はチャンバー解放時の導通部材の形状を示す断面図であり、(b)はチャンバー密閉時の導通部材の形状を示す断面図であり、(c)は金属膜に亀裂が発生した状態の導通部材を示す写真である。
【
図9】(a)は、横軸に圧縮率をとり、縦軸に電気抵抗値をとって、金属膜がニッケルからなり、厚さが100nmである導通部材について、圧縮率を変えながら繰り返し圧縮力を印加したときの抵抗値の変化を示すグラフであり、(b)は(a)に示すデータについて、横軸に圧縮時の圧縮率をとり、縦軸に圧縮時及び解放時の電気抵抗値をとって、圧縮率が電気抵抗値に及ぼす影響を示すグラフである。
【
図10】(a)は、横軸に圧縮率をとり、縦軸に電気抵抗値をとって、金属膜がニッケルからなり、厚さが400nmである導通部材について、圧縮率を変えながら繰り返し圧縮力を印加したときの抵抗値の変化を示すグラフであり、(b)は(a)に示すデータについて、横軸に圧縮時の圧縮率をとり、縦軸に圧縮時及び解放時の電気抵抗値をとって、圧縮率が電気抵抗値に及ぼす影響を示すグラフである。
【
図11】(a)は、横軸に圧縮率をとり、縦軸に電気抵抗値をとって、金属膜がニッケルからなり、厚さが800nmである導通部材について、圧縮率を変えながら繰り返し圧縮力を印加したときの抵抗値の変化を示すグラフであり、(b)は(a)に示すデータについて、横軸に圧縮時の圧縮率をとり、縦軸に圧縮時及び解放時の電気抵抗値をとって、圧縮率が電気抵抗値に及ぼす影響を示すグラフである。
【
図12】(a)は、横軸に圧縮率をとり、縦軸に電気抵抗値をとって、金属膜が銅からなり、厚さが100nmである導通部材について、圧縮率を変えながら繰り返し圧縮力を印加したときの抵抗値の変化を示すグラフであり、(b)は(a)に示すデータについて、横軸に圧縮時の圧縮率をとり、縦軸に圧縮時及び解放時の電気抵抗値をとって、圧縮率が電気抵抗値に及ぼす影響を示すグラフである。
【
図13】(a)は、横軸に圧縮率をとり、縦軸に電気抵抗値をとって、金属膜が銅からなり、厚さが400nmである導通部材について、圧縮率を変えながら繰り返し圧縮力を印加したときの抵抗値の変化を示すグラフであり、(b)は(a)に示すデータについて、横軸に圧縮時の圧縮率をとり、縦軸に圧縮時及び解放時の電気抵抗値をとって、圧縮率が電気抵抗値に及ぼす影響を示すグラフである。
【
図14】(a)は、横軸に圧縮率をとり、縦軸に電気抵抗値をとって、金属膜が銅からなり、厚さが800nmである導通部材について、圧縮率を変えながら繰り返し圧縮力を印加したときの抵抗値の変化を示すグラフであり、(b)は(a)に示すデータについて、横軸に圧縮時の圧縮率をとり、縦軸に圧縮時及び解放時の電気抵抗値をとって、圧縮率が電気抵抗値に及ぼす影響を示すグラフである。
【
図15】横軸に圧縮時の圧縮率をとり、縦軸に解放時の電気抵抗値をとって、金属膜の組成及び膜厚が圧縮率と電気抵抗値との関係に及ぼす影響を示すグラフである。
【
図16】横軸に金属膜の膜厚をとり、縦軸に抵抗値が不可逆的な変化を示す直前の圧縮率をとって、導通部材の好適な使用範囲を示すグラフである。
【
図17】第2の実施形態に係るプラズマエッチング装置の下部を示す平面図である。
【
図18】(a)は第2の実施形態に係るプラズマエッチング装置の導通部材を示す断面図であり、(b)は開放状態の導通部材を示す斜視図であり、(c)は圧縮状態の導通部材を示す斜視図である。
【
図19】(a)は試験例においてエッチング対象としたテスト材を示す平面図であり、(b)はエッチング処理前のテスト材を示す断面図であり、(c)はエッチング処理後のテスト材を示す断面図である。
【
図20】(a)及び(b)は、横軸に位置をとり、縦軸にエッチング速度をとって、カーボン膜に対するエッチング速度分布を示すグラフである。
【
図21】(a)及び(b)は、横軸に位置をとり、縦軸にエッチング速度をとって、シリコン酸化膜に対するエッチング速度分布を示すグラフである。
【
図22】(a)及び(b)は、横軸に位置をとり、縦軸にエッチング速度をとって、シリコン窒化膜に対するエッチング速度分布を示すグラフである。
【
図23】横軸にサンプルをとり、縦軸にエッチング後のテスト材におけるニッケル検出量をとって、ニッケル汚染の有無を示すグラフである。
【
図24】横軸に年代をとり、縦軸にトランジスタの集積度をとって、半導体デバイスの微細化の傾向を示すグラフである。
【
図25】(a)~(e)は、一般的なプラズマエッチング工程を示す断面図である。
【
図26】プラズマエッチングで制御すべき代表的な要因を示す図である。
【
図27】横軸にエッチング時間をとり、縦軸に不良率をとって、許容されるエッチング量のマージンを示すグラフである。
【
図28】エッチングの制御性に影響を及ぼす要因の例を示す図である。
【
図29】一般的な誘導結合型プラズマ方式のドライエッチング装置の例を示す図である。
【
図31】横軸にバイアス電圧をとり、縦軸にエッチングレートをとって、エッチングレートのバイアス電圧依存性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
<課題の原因究明>
本発明者らは、上述のプラズマエッチング処理のばらつきの原因を推定した。
図28は、エッチングの制御性に影響を及ぼす要因の例を示す図である。
図28に示すように、エッチングの制御性に影響を及ぼす要因としては、少なくとも以下の要因が考えられる。
【0027】
(1)プラズマ種となるガスの組成、流量、圧力のばらつき
(2)プラズマを形成するための高周波電源の出力のばらつき
(3)処理温度のばらつき
(4)バイアスを印加するための高周波電源の出力のばらつき
(5)バイアス電圧とエッチングレートの検量線のずれ
(6)エッチングによるチャンバー内の各部の損傷及び補修
(7)プラズマ処理装置を構成する部品の劣化及び交換
【0028】
上記(1)のプラズマ種となるガスの組成、流量、圧力のばらつきについては、通常、購入した高純度ガスを供給ラインから直接チャンバー内に流量制御を行って導入している。このため、給気管やチャンバーのリーク等がない限り、プラズマ種の組成のばらつきがエッチングレートのばらつきの原因とは考えにくい。また、ガスの流量及び圧力は容易に制御及び測定できるため、ガスの流量及び圧力が大きくばらつくことも考えにくい。
【0029】
上記(2)のプラズマを形成するための高周波電源の出力のばらつきについては、あるプラズマ処理装置において、常に処理量が過多となるわけではなく、正常であったり、過小であったり、過多であったりする。このため、高周波電源に故障がない限り、高周波電源の出力のばらつきがエッチングレートのばらつきの原因とは考えにくい。また、多くのプラズマ処理装置で同様なばらつきが発生するため、高周波電源の故障であるとも考えにくい。
【0030】
上記(3)の処理温度のばらつきについては、種々の要因によりプラズマ処理中のウェーハの温度がばらつくことはあり得る。しかし、ウェーハの温度は直接的に測定することができ、測定されたウェーハの温度とエッチング量との間に有意な関係は認められない。このため、処理温度のばらつきがエッチングレートに及ぼす影響は、仮にあったとしても限定的であると考えられる。
【0031】
上記(4)のバイアスを印加するための高周波電源の出力のばらつきについても、上記(2)と同じ理由により、エッチングレートのばらつきの原因としては考えにくい。
【0032】
上記(5)のバイアス電圧とエッチングレートの検量線のずれについては、上述のごとく、あるプラズマ処理装置において、常に処理量が過多となるわけではなく、正常となる場合も過少となる場合もある。このため、検量線のずれがエッチングレートのばらつきの原因とは考えにくく、検量線の精度をさらに向上させても、エッチングレートのばらつきを収束させる効果は少ないと考えられる。
【0033】
上記(6)のエッチングによるチャンバー内の各部の損傷及び補修については、上述の如く、各装置について定期的にメンテナンスを行い、損傷した部分を補修している。このため、メンテナンスの時期とばらつきとの間に相関関係があれば、エッチングによる損傷及び補修がばらつきの原因であることが推定される。
【0034】
上記(7)の部品の劣化及び交換についても、上述の如く、各装置において消耗部品を定期的に交換している。このため、交換の時期とばらつきとの間に相関関係があれば、部品の劣化及び交換がばらつきの原因であることが推定される。
【0035】
以下、本発明者らが検討の対象とした典型的なプラズマ処理装置について説明する。
プラズマ処理装置の一例として誘導結合型プラズマ(ICP:Inductively Coupled Plasma)方式のドライエッチング装置について説明する。
【0036】
図29は、一般的な誘導結合型プラズマ方式のドライエッチング装置の例を示す図である。
図30は、導通部材を示す斜視図である。
図29に示すように、プラズマエッチング装置100においては、チャンバー101が設けられている。チャンバー101は、下部102及び上部103により構成されている。通常、下部102はフレーム等に固定され、接地されている。上部103は、下部102に対して開閉可能に設けられており、チャンバー101の蓋として機能する。
【0037】
下部102内には、ホルダー106が設けられている。ホルダー106は、被処理部材としてのウェーハ200を保持する。ホルダー106は電圧制御部107を介して高周波電源108に接続されている。電圧制御部107及び高周波電源108はそれぞれ接地されている。上部103には誘電体板109が設けられており、誘電体板109上にはコイル110が設けられており、コイル110は高周波電源111に接続されている。高周波電源111も接地されている。
【0038】
下部102と上部103との境界部分には、チャンバー101内の気密を担保するための気密部材115と、下部102と上部103との間の導通を担保するための導通部材116が設けられている。気密部材115は例えばOリングであり、導通部材116は例えば金属コイルである。また、下部102と上部103とは、金属製のボルト及びナットにより連結される。これにより、下部102と上部103とが機械的に結合されると共に、同電位化される。チャンバー101には、チャンバー101内にガスを供給する給気管118と、チャンバー101内からガスを排出する排気管119が設けられている。
【0039】
図30に示すように、導通部材116は、金属帯をスパイラル状に巻きあげて形成したコイル状の部材である。例えば、チャンバー101の下部102における上部103と当接する面に、導通部材116の直径よりも少し浅い溝が形成されており、この溝内に導通部材116が収納される。これにより、上部103を閉じたときに、導通部材116が圧縮されて弾性変形し、下部102及び上部103の双方を押圧する。この結果、下部102と上部103との間で、導通部材116を介して電気的な導通が確保される。
【0040】
次に、このプラズマエッチング装置100を用いたプラズマ処理方法を説明する。
図29に示すように、ホルダー106にウェーハ200を装着する。また、上部103を下部102に連結させて、チャンバー101内を気密状態とする。そして、排気管119を介してチャンバー101内を排気すると共に、給気管118を介してプラズマ種となるガスを導入する。この状態で、高周波電源111がコイル110に対して高周波電流を供給する。これにより、ガスが電離してプラズマ250が形成される。また、高周波電源108がホルダー106に対して高周波電流を供給する。これにより、プラズマ250にバイアス電圧が印加され、プラズマ中のイオンが加速されて、ウェーハ200に衝突する。この結果、ウェーハ200がエッチングされる。
【0041】
図31は、横軸にバイアス電圧をとり、縦軸にエッチングレートをとって、エッチングレートのバイアス電圧依存性を示すグラフである。
図31に示すように、バイアス電圧を高くするほど、イオンの加速電圧が高くなり、エッチングレートが高くなる。この相関関係は被処理部材の材料によって異なり、装置の設計によっても異なり、装置の個体差もある。そこで、バイアス電圧とエッチングレートとの関係を予め検量しておく。そして、エッチング処理を行う際には、目標とするエッチングレートに対応したバイアス電圧を電圧制御部107に入力する。これにより、電圧制御部107が高周波電源108の出力を制御し、所望のエッチングレートを実現する。一定のエッチングレートで一定時間エッチングを行うことにより、ウェーハ200が一定量エッチングされる。
【0042】
本発明者らが多数のプラズマ処理装置について長期間にわたって調査したところ、以下の傾向が認められた。
図1は、横軸に時間をとり、縦軸にエッチング量をとって、従来のプラズマエッチング装置におけるエッチング量とメンテナンス及び部品交換との関係の一例を示すグラフである。
図1は、1台のプラズマエッチング装置についての調査結果である。
図1において、図示の縦方向に延びる破線はメンテナンスのタイミングを表し、実線は導通部材116の交換のタイミングを表す。後述する
図2についても同様である。
なお、本明細書に添付した図面は基本的に模式図である。実際のデータに基づいて作成されているが、絶対値を表すものではない。
【0043】
図1に示すように、エッチング量は、上記(6)のメンテナンスの度に増加し、上記(7)の導通部材116の交換の後、減少する傾向が認められた。この装置の場合は、導通部材116の交換周期はメンテナンスの周期よりも長く、数回のメンテナンスに1回、導通部材116を交換する。
図1に示す結果からは、メンテナンス及び導通部材116が、エッチングレートのばらつきの一因であることが示唆される。上述の如く、導通部材116はチャンバー101の下部102と上部103とを電気的に接続する部品である。
【0044】
そこで、本発明者らは、チャンバー101の下部102と上部103との間の電気抵抗値を、長期間にわたって測定した。なお、本明細書において、「電気抵抗値」とは直流電流の流れにくさを意味し、「インピーダンス」とは、高周波電流の流れにくさを意味する。
図2は、横軸に時間をとり、縦軸にチャンバーの下部と上部との間の電気抵抗値をとって、導通部材の交換時期と電気抵抗値との関係の一例を示すグラフである。
図2に示すように、電気抵抗値は安定して低く、下部102と上部103との間で十分に導通がとれていた。また、メンテナンスの時期及び導通部材116の交換時期と電気抵抗値との間に相関関係は認められなかった。
【0045】
本発明者らは、以上の調査結果から、以下の仮説を立てた。
エッチング量がメンテナンスの時期及び導通部材116の交換の時期に不連続的に変化していることから、メンテナンス及び導通部材116がエッチングの条件に影響を及ぼしていることが推定される。一方、直流電流の電気抵抗値と高周波電流のインピーダンスは必ずしも同じではなく、チャンバー101の下部102と上部103との間で、直流電流は十分に導通しても、高周波電流は十分に導通しないことも考えられる。このため、メンテナンスに伴って、導通部材116の電気抵抗値は変わらないがインピーダンスが増加していることが考えられる。
【0046】
メンテナンスを行う際には、上部103を下部102から取り外して、チャンバー101を開く。そして、エッチングにより損傷した部分の補修等、必要な処置を施した後、上部103を下部102に固定して、チャンバー101を閉じる。この作業の度に、導通部材116は圧縮と開放を繰り返す。導通部材116は金属製であるため、圧縮力が印加されれば弾性変形するが、このとき、局所的に塑性変形も発生する。このため、チャンバー101の開閉により導通部材116が変形を繰り返すと、導通部材116が下部102及び上部103を押圧する力が減少し、直流の電気抵抗値は変化しなくても、高周波電源108及び111が出力する高周波電流に対するインピーダンスは増加している可能性がある。
【0047】
この結果、プラズマ処理の進行中に、上部103の平均電位が下部102の平均電位からずれ、電圧制御部107が基準とする接地電位と、プラズマ250から見た接地電位とがずれる。プラズマ250から見た接地電位とは、チャンバー101の内壁の電位の平均であると考えられる。このため、
図31に示す検量線に従ってバイアス電圧を調整しても、エッチング量は
図31に示す検量線からずれてしまう。この結果、エッチング量が過多になる場合があると推定される。
【0048】
しかしながら、上記仮説を検証するために、プラズマ250から見た接地電位を測定することは困難であり、チャンバー101の下部102と上部103との間の高周波電流のインピーダンスを測定することも困難である。そこで、実際にホルダー106に供給されている高周波電力[W]とエッチング量との関係を測定した。
図3は、横軸にホルダーに供給する電力をとり、縦軸にエッチング量をとって、供給電力とエッチング量との関係を示すグラフである。
【0049】
図3に示すように、エッチング量は投入電力に対して正の相関を示し、エッチングが過多になるときは、投入電力も過多になっていた。上記(4)で考察したように、バイアスを印加するための高周波電源108の出力がばらつくことは考えにくいため、高周波電源108には、電圧制御部107から、設定値よりも高いバイアス電圧になるような制御信号が入力されていると考えられる。
【0050】
このため、上記仮説のとおり、事前に取得した検量線に従ってバイアス電圧を設定しても、電圧制御部107が基準とする接地電位と、プラズマ250から見た接地電位とが異なるため、実際にプラズマ250に作用するバイアス電圧が設定値とは異なることが推定される。また、その原因としては、導通部材116の高周波電力に対するインピーダンスの増加が推定される。インピーダンスが増加する原因としては、導通部材116の塑性変形が考えられる。
【0051】
このような推定に基づいて、
図1に示す結果を解釈すると、以下のようになる。すなわち、メンテナンスを実施すると、パーツ間のインピーダンスが増大し、接地電位がずれることで、単位時間当たりのエッチング量が大きくなる傾向が生じる。しかし、パーツ間に設置されている導通部材116(
図30参照)を新品に交換することにより、インピーダンスが低下し、単位時間あたりのエッチング量が初期状態に戻る傾向がある。
【0052】
また、
図3に示す結果を解釈すると、以下のようになる。
図29に示すプラズマエッチング装置100においては、プラズマの自己バイアスを測定し、その値が設定値に近づくように投入電力を制御している。この投入電力の大きさを
図3の横軸に示す。チャンバー101の下部102と上部103との間のインピーダンスが変化することにより、プラズマの自己バイアスの測定する際に参照する接地電位がずれ、自己バイアスの測定値にインピーダンスに依存する誤差が生じる。このため、この測定値に基づいて制御される投入電力にも誤差が生じる。このように、下部102と上部103とのインピーダンスに依存して投入電力に誤差が生じるため、結果として単位時間当たりのエッチング量にも誤差が生じる。
【0053】
<課題を解決するための方針>
本発明者らは、上述の考察を踏まえ、課題を解決するための方針を研究した。
チャンバー101の下部102と上部103との間の高周波電流に対するインピーダンスの増加を抑制するために、金属帯をコイル状に成形した導通部材116の替わりに、新たな導通部材を設けることを検討した。新たな導通部材は、弾性変形が可能で、塑性変形が実質的に発生せず、かつ、高周波電流を導電可能であることが要求される。
【0054】
弾性変形し、かつ、塑性変形が発生しない材料としては、樹脂材料が考えられる。しかしながら、樹脂材料はそのままでは導電性がない。そこで、樹脂材料に導電性を付与することが要求される。
【0055】
樹脂材料に導電性を付与する方法としては、樹脂材料内にカーボンブラック又は金属フィラー等の導電性の粒子を含有させる方法と、表面に金属をコーティングする方法が考えられる。導体に高周波電流を流す場合、周波数が高くなるほど、電流が表面に集中する。このため、樹脂材料中に導電性の粒子を含有させるよりも、樹脂材料からなる部材の表面に金属をコーティングした方が、高周波電流のインピーダンスを効果的に低減できることが予想される。以上の考察に基づいて、以下の実施形態を考案した。
【0056】
<第1の実施形態>
先ず、第1の実施形態について説明する。
本実施形態においては、プラズマ処理装置として、ICP方式のプラズマエッチング装置を例に挙げて説明するが、これには限定されない。
図4は、本実施形態に係るプラズマエッチング装置を示す断面図である。
図5(a)は本実施形態に係るプラズマエッチング装置の下部を示す平面図であり、(b)は(a)に示すA-A’線による断面図である。
図6(a)は本実施形態に係るプラズマエッチング装置の導通部材を示す斜視図であり、(b)はその断面図である。
【0057】
図4、
図5(a)及び
図5(b)に示すように、本実施形態に係るプラズマエッチング装置1においては、チャンバー11が設けられている。チャンバー11においては、下部12及び上部13が設けられている。通常、下部12はフレーム等に固定され、接地されている。上部13は、下部12に対して着脱可能に設けられており、接地されていない。下部12に上部13が着脱することで、チャンバー11が開閉される。下部12と上部13との間には、若干の隙間がある。隙間の間隔は、例えば、0.3mm以下である。チャンバー11には、チャンバー11内にガスを供給する給気管28と、チャンバー11内からガスを排出する排気管29が設けられている。
【0058】
下部12内には、ホルダー16が設けられている。ホルダー16は被処理部材であるウェーハ200を保持する。ホルダー16は電圧制御部17を介して高周波電源18に接続されている。電圧制御部17及び高周波電源18はそれぞれ接地されている。高周波電源18は、例えば、周波数が13.56MHzの高周波電流を出力する。
【0059】
上部13には誘電体板19が設けられており、誘電体板19上にはコイル20が設けられている。コイル20は上部13に固定されている。コイル20は高周波電源21に接続されている。高周波電源21も接地されている。高周波電源21は、例えば、周波数が13.56MHzの高周波電流を出力する。
【0060】
下部12と上部13との境界部分には、チャンバー11内の気密を担保するための気密部材15と、下部12と上部13との間の導通を担保するための導通部材30が設けられている。すなわち、下部12の上面には、円環状の溝12aが形成されており、溝12aの外側には、円環状の溝12bが形成されている。そして、溝12a内には、気密部材15が配置されている。気密部材15は、例えば、Oリングである。溝12b内には、導通部材30が配置されている。このように、導通部材30は気密部材15の外側に配置されている。また、下部12と上部13とは、金属製のボルト及びナットにより連結される。これにより、下部12と上部13とが機械的に結合されると共に、気密部材15及び導通部材30が下部12と上部13とにより押圧される。
【0061】
図6(a)及び(b)に示すように、本実施形態の導通部材30の全体的な形状は環状である。導通部材30においては、樹脂材料からなる樹脂リング31の表面全体に、金属材料からなる金属膜32が被覆されている。導通部材30のリング径R0は、チャンバー11の外径に依存するが、例えば、ウェーハ200の直径が300mm(ミリメートル)である場合は、リング径R0は600mm程度である。導通部材30の直径D0は、例えば、2~4mm(ミリメートル)程度である。金属膜32の膜厚T0は、例えば、200nm(ナノメートル)以上である。例えば、導通部材30は、圧縮率が5%以上25%以下の範囲で圧縮されたときに、圧縮方向の最大径が2mm以上4mm以下であることが好ましい。
【0062】
樹脂リング31を形成する樹脂材料は、例えば、弾性ゴムであり、例えば、フッ素ゴムであり、例えば、FKM-70である。樹脂リング31の弾性率は、例えば、10MPaである。樹脂リング31の直径は、例えば、3mmであり、ポアッソン比は約0.5である。金属膜32の膜構成は、例えば、ニッケル(Ni)又は銅(Cu)からなる単層膜であってもよく、2以上の層を積層させた多層膜であってもよい。
【0063】
金属膜32は、例えば、分子間接着接合により樹脂リング31の表面に被着させることができる。具体的には、樹脂リング31を形成した後、樹脂リング31に対してコロナ放電処理を施して、表面にOH基を生成する。次に、樹脂リング31をアルコキシシリルプロピルアミドトリアジンチオールに接触させて、表面にジチオールトリアジン基を生成する。次に、樹脂リング31をめっき液に浸漬する。これにより、めっき液中の金属イオンがジチオールトリアジン基と化学結合して、金属膜32が形成される。これにより、樹脂リング31と金属膜32の間で高い密着力を実現することができる。
【0064】
次に、本実施形態に係るプラズマ処理装置の動作、すなわち、本実施形態に係るプラズマ処理方法について説明する。
図4に示すように、チャンバー11内をメンテナンスする際には、下部12から上部13を取り外すことにより、チャンバー11を開く。このとき、導通部材30に印加されていた圧縮力が除去される。この状態で、必要なメンテナンスを行う。メンテナンス終了後、下部12の溝12a内に気密部材15が配置され、溝12b内に導通部材30が配置された状態で、上部13を下部12に連結する。これにより、導通部材30が圧縮される。
【0065】
ウェーハ200に対してプラズマエッチングを行う際には、チャンバー11のロードロック部を介して、ホルダー16にウェーハ200を装着する。そして、排気管29を介してチャンバー11内を排気すると共に、給気管28を介してプラズマ種となるガスを導入する。この状態で、高周波電源21がコイル20に対して高周波電流を供給する。これにより、ガスが電離してプラズマ250が形成される。また、高周波電源18がホルダー16に対して高周波電流を供給する。これにより、プラズマ250にバイアス電圧が印加され、プラズマ中のイオンが加速されて、ウェーハ200に衝突する。この結果、ウェーハ200がエッチングされる。このとき、下部12と上部13との間で、導通部材30を介して、高周波電流が導通する。
【0066】
上部13を下部12に連結したときは、樹脂リング31に上下方向の圧力が加わり、樹脂リング31が弾性変形する。金属膜32も樹脂リング31の弾性変形に伴って変形する。樹脂リング31の弾性力により、金属膜32が下部12及び上部13に押し付けられる。そして、高周波電源18及び21が出力する高周波電流は、金属膜32を介して、下部12と上部13との間で伝導する。この結果、下部12の平均電位と上部13の平均電位との差が小さくなり、電圧制御部17が基準とする接地電位と、プラズマ250から見た接地電位との差が小さくなる。一方、チャンバー11を開いたとき、すなわち、上部13を下部12から脱離させたときは、樹脂リング31に加わっていた圧力が消失するため、樹脂リング31の形状が元に戻る。このとき、金属膜32の形状も元に戻る。
【0067】
このように、樹脂リング31に対して圧縮力が繰り返し印加されても、樹脂リング31は樹脂材料により形成されているため、塑性変形することはない。このため、塑性変形によって金属膜32を下部12及び上部13に押し付ける力が減少することもない。これにより、金属膜32のインピーダンスの増加を抑制できる。
【0068】
なお、上述の樹脂リング31の変形に伴い、金属膜32が塑性変形する可能性もあるが、金属膜32を下部12及び上部13に押し付ける力は、金属膜32自体ではなく樹脂リング31の弾性力に起因している。このため、金属膜32が塑性変形しても、押し付け力は変わらず、金属膜32の塑性変形に起因してインピーダンスが大きく増加することはない。また、導通部材30の体積の大部分は絶縁性の樹脂リング31が占めるため、導通部材30の直流電流に対する電気抵抗値は、
図30に示す従来の導通部材116の電気抵抗値よりも高くなることがある。しかしながら、上述の如く、高周波電流は導通部材30の表層部分に集中し、この部分には金属膜32が配置されているため、高周波電流に対するインピーダンスは十分に低い。
【0069】
次に、本実施形態の効果について説明する。
図7(a)は、横軸に時間をとり、縦軸にエッチング量をとって、本実施形態に係るプラズマエッチング装置におけるエッチング量とメンテナンス及び部品交換との関係の一例を示すグラフであり、(b)は横軸に時間をとり、縦軸にインピーダンスをとって、第1の実施形態に係るプラズマエッチング装置におけるインピーダンスとメンテナンス及び部品交換との関係の一例を示すグラフであり、(c)は横軸に時間をとり、縦軸にインピーダンスをとって、比較例に係るプラズマエッチング装置におけるインピーダンスとメンテナンス及び部品交換との関係の一例を示すグラフである。
【0070】
図7(a)に示すように、本実施形態によれば、メンテナンス及び導通部材30の交換を行っても、エッチング量が大きく変化することはなく、安定した運転が可能であった。また、
図7(b)に示すように、本実施形態によれば、メンテナンス及び導通部材30の交換を行っても、下部12と上部13との間のインピーダンスの変化が小さく、安定した運転が可能であることが裏付けられた。
【0071】
一方、
図29に示す比較例に係るプラズマエッチング装置100においても、下部102と上部103との間のインピーダンスを測定した。この結果、
図7(c)に示すように、比較例に係るプラズマエッチング装置100においては、メンテナンスを実施することで、導通部材116(
図30参照)の変形等に起因して、メンテナンス後に下部102と上部103との間のインピーダンスが大きくなった。但し、導通部材116を新品に交換することにより、インピーダンスは初期値に戻る傾向が認められた。このインピーダンスの変化と単位時間当たりのエッチング量には1対1の相関が認められた。
【0072】
このように、本実施形態によれば、導通部材30において、樹脂材料、例えば、弾性ゴムからなる樹脂リング31と、樹脂リング31の表面を被覆する金属膜32とが設けられているため、チャンバー11の開閉を繰り返しても、樹脂リング31の弾性力が低下することがない。このため、下部12と上部13との間のインピーダンスの増加を抑制し、エッチングレートがずれることを抑制することができる。この結果、プラズマエッチング処理を安定して実施することができる。
【0073】
また、導通部材30の体積の大部分は樹脂リング31によって構成されているため、導通部材30は全体として軟質である。このため、金属帯からなる導通部材116と比較して、下部12の凹部12b内への装着が容易である。
【0074】
<実装のための検討>
次に、本実施形態に係るプラズマエッチング装置1を実際に設計する場合について検討する。
【0075】
本実施形態に係るプラズマエッチング装置1を実際に設計する際には、要求される仕様によって各部の寸法等が異なるため、導通部材30を含むプラズマエッチング装置1をどのように設計するかが問題となる。導通部材30のリング径R0はチャンバー11のサイズに応じて決定され、チャンバー11のサイズは被処理部材であるウェーハ200のサイズによって決定される。一方、導通部材30の直径D0は圧縮率を考慮して決定する。
【0076】
図8(a)はチャンバー解放時の導通部材30の形状を示す断面図であり、(b)はチャンバー密閉時の導通部材30の形状を示す断面図であり、(c)は金属膜32に亀裂が発生した状態の導通部材30を示す写真である。
【0077】
図8(a)に示すように、チャンバー11が解放されて、導通部材30に外力が印加されていないときの導通部材30の直径をD0とし、
図8(b)に示すように、チャンバー11が密閉されたときの導通部材30の直径をDとしたとき、圧縮率Cを下記数式1のように定義する。
C=(D0-D)/D0×100[%] (数式1)
【0078】
図8(c)に示すように、圧縮率Cが所定の値を超えると、導通部材30の金属膜32に亀裂32aが発生する。亀裂32aが発生すると、高周波電流に対するインピーダンスが著しく増加する可能性が高い。そこで、導通部材30は、金属膜32に亀裂32aが発生しないような圧縮率Cで使用することが好ましい。
【0079】
以下、亀裂32aが発生しないような圧縮率Cの範囲を求める実験例について説明する。
本実験例においては、導通部材30に圧縮率を変えながら繰り返し圧縮力を印加し、圧縮及び解放の度に、導通部材30の電気抵抗値を測定する。金属膜32に大きな亀裂32aが生成すると、導通部材30の電気抵抗値が不可逆的に大きく増加する。
【0080】
図9(a)は、横軸に圧縮率をとり、縦軸に電気抵抗値をとって、金属膜32がニッケルからなり、厚さが100nmである導通部材について、圧縮率を変えながら繰り返し圧縮力を印加したときの抵抗値の変化を示すグラフであり、(b)は(a)に示すデータについて、横軸に圧縮時の圧縮率をとり、縦軸に圧縮時及び解放時の電気抵抗値をとって、圧縮率が電気抵抗値に及ぼす影響を示すグラフである。
【0081】
図10(a)~
図14(b)も
図9(a)及び(b)と同様なグラフである。
図10(a)及び(b)は金属膜32がニッケルからなり、厚さが400nmである場合を示し、
図11(a)及び(b)は金属膜32がニッケルからなり、厚さが800nmである場合を示し、
図12(a)及び(b)は金属膜32が銅からなり、厚さが100nmである場合を示し、
図13(a)及び(b)は金属膜32が銅からなり、厚さが400nmである場合を示し、
図14(a)及び(b)は金属膜32が銅からなり、厚さが800nmである場合を示す。
【0082】
図15は、横軸に圧縮時の圧縮率をとり、縦軸に解放時の電気抵抗値をとって、金属膜の組成及び膜厚が圧縮率と電気抵抗値との関係に及ぼす影響を示すグラフである。
図16は、横軸に金属膜の膜厚をとり、縦軸に抵抗値が不可逆的な変化を示す直前の圧縮率をとって、導通部材の好適な使用範囲を示すグラフである。
【0083】
図9(a)~
図14(b)に示すように、金属膜32がニッケル又は銅からなり、膜厚が100nm~800nmの範囲においては、圧縮率を増加させながら圧縮と解放を繰り返すと、次第に電気抵抗値が増加し、圧縮率がある臨界値Tcを超えるように圧縮すると、次の解放時に電気抵抗値が大幅に増加するような臨界値Tcの存在が認められた。臨界値Tcまで圧縮し、その後解放したときに、金属膜32に大きな亀裂32aが生成したものと考えられる。
【0084】
図15及び
図16に示すように、膜厚が同じであれば、金属膜32をニッケルにより形成するよりも銅により形成した方が圧縮に対する耐性が高い。また、金属膜32の材料が同じであれば、膜厚が厚い方が圧縮に対する耐性が高い。
【0085】
このように、金属膜32の組成及び膜厚に応じて圧縮率の臨界値Tcを求めることにより、
図16に示すように、導通部材30を繰り返し使用可能な圧縮率の範囲を求めることができる。この結果、導通部材30の直径D0と、下部12に形成する溝12bの深さとの関係を決定することができる。
【0086】
例えば、金属膜32がニッケルからなり、膜厚が200nm以上である場合、圧縮率は25%以下とすることが好ましく、膜厚が400nm以上である場合、圧縮率は30%以下とすることが好ましく、膜厚が800nm以上の場合、圧縮率は35%以下とすることが好ましい。また、金属膜32が銅からなり、膜厚が200nm以上である場合、圧縮率は35%以下とすることが好ましい。一方、インピーダンスを十分に低く抑えるためには、圧縮率は5%以上とすることが好ましい。例えば、金属膜32の膜厚は、100nm以上2000nm以下とすることが好ましく、100nm以上1000nm以下とすることがより好ましい。
【0087】
なお、金属膜32の材料は、ニッケル及び銅には限定されない。金属膜32の材料として、例えば、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、チタン(Ti)、タングステン(W)、コバルト(Co)、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、錫(Sn)及び亜鉛(Zn)からなる群より選択された1種以上の金属を用いてもよい。
【0088】
また、金属膜32は多層膜としてもよい。例えば、金属膜32を、樹脂リング31側から順に下地層、主層、表層からなる三層膜としてもよい。この場合に、例えば、下地層の材料として、結晶構造が緻密で化学的安定性が高い材料、例えば、ニッケルを使用し、主層の材料として、延展性が優れた材料、例えば、銅を使用し、表層の材料として、化学的安定性及び導電性が優れた材料、例えば、金を使用してもよい。すなわち、金属膜32を、(Ni/Cu/Au)三層膜としてもよい。下地層をニッケルにより形成することによって、主層中の銅が樹脂リング31内に拡散し、銅害により樹脂リング31を劣化させることを抑制できる。また、主層を銅により形成することによって、金属膜32に亀裂32aが発生することを抑制できる。更に、表層を金により形成することによって、主層中の銅が大気によって酸化することを抑制できる。又は、下地層及び表層をニッケルにより形成し、主層を銅によって形成してもよい。すなわち、金属膜32を、(Ni/Cu/Ni)三層膜としてもよい。この場合に例えば、下地層及び表層の厚さをそれぞれ100nmとし、主層の厚さを400nmとしてもよい。
【0089】
<第2の実施形態>
次に、第2の実施形態について説明する。
図17は、本実施形態に係るプラズマエッチング装置の下部を示す平面図である。
図18(a)は本実施形態に係るプラズマエッチング装置の導通部材を示す断面図であり、(b)は開放状態の導通部材を示す斜視図であり、(c)は圧縮状態の導通部材を示す斜視図である。
【0090】
図17に示すように、本実施形態に係るプラズマエッチング装置2においては、気密部材15の周囲に、複数の導通部材40が設けられている。
図17、
図18(a)及び(b)に示すように、各導通部材40の形状は円環状ではなく、球形である。チャンバー11の下部12の上面には、例えば円筒状の凹部が形成されており、この凹部内に導通部材40が収納されている。各導通部材40においては、樹脂材料、例えば弾性ゴム、例えばフッ素ゴムからなる樹脂球41が設けられており、樹脂球41の表面上に金属膜42が被覆されている。金属膜42の組成及び膜厚は、第1の実施形態における金属膜32と同様である。
【0091】
プラズマエッチング装置2においては、チャンバー11の気密性は気密部材15によって実現されているため、導通部材40は必ずしも環状でなくてもよい。本実施形態のように、塊状、例えば球状の導通部材40を設けてもよい。また、導通部材40を複数個設けることにより、チャンバー11の各部において低いインピーダンスを実現することができる。
【0092】
また、
図18(b)及び(c)に示すように、導通部材40は球形であるため、1軸方向、例えば、
図18(b)及び(c)に示すZ軸方向に圧縮されたときに、他の2軸方向、例えば、X軸方向及びY軸方向に延伸することができる。これにより、1軸当たりの延伸率が小さくなり、金属膜42に印加される機械的なストレスが分散する。この結果、金属膜42はより高い圧縮率に耐えることができる。このため、導通部材40をより高い圧縮率で使用することができ、インピーダンスをより確実に低減することができる。
【0093】
但し、導通部材40の形状は、下記数式2を満たすことが好ましい。下記数式2は、オイラーの式を不等式としたものである。下記数式2を満たすことにより、導通部材40が座屈することを確実に回避できる。下記数式2において、Pは導通部材40に印加される荷重、Pcrは導通部材40の座屈荷重、Cは端末条件係数、πは円周率、Eはヤング率、Iは断面2次モーメント、Lは長さである。
【0094】
P<Pcr=Cπ2EI/L2 (数式2)
【0095】
本実施形態における上記以外の構成、動作及び効果は、前述の第1の実施形態と同様である。
【0096】
なお、前述の各実施形態においては、導通部材をチャンバー11の下部12と上部13との間に配置する例を示したが、これには限定されない。プラズマ処理装置のうち、ウェーハ200を脱着するためのロードロック部分、及び、フランジの継目等、プラズマに近接する部分であって他の部材と十分に電気的に接続されていない部分があれば、上述の各実施形態で説明した導通部材を介在させることができる。
【0097】
また、前述の各実施形態においては、プラズマ処理装置の例として、プラズマエッチング装置について説明したが、プラズマ処理装置はエッチング装置には限定されず、例えば、プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition:化学気相成長)装置等の成膜装置であってもよい。
【0098】
以上説明した実施形態によれば、動作が安定したプラズマ処理装置、プラズマ処理方法及び導通部材を実現することができる。
【0099】
<試験例>
以下、試験例について説明する。
本試験例においては、
図4、
図5(a)及び(b)、
図6(a)及び(b)に示す第1の実施形態に係るプラズマエッチング装置1を実際に作製し、これを「実施例」とした。このとき、導通部材30の金属膜32の材料はニッケルとし、厚さは400nmとした。
【0100】
一方、
図29及び
図30に示す一般的なプラズマエッチング装置100を実際に作製し、これを「比較例」とした。そして、実施例に係る装置及び比較例に係る装置により、テスト材に対してエッチング処理を施して、テスト材内におけるエッチング速度の分布を測定した。
【0101】
図19(a)は本試験例においてエッチング対象としたテスト材を示す平面図であり、(b)はエッチング処理前のテスト材を示す断面図であり、(c)はエッチング処理後のテスト材を示す断面図である。
【0102】
図19(a)~(c)に示すように、本試験例において使用するテスト材300においては、シリコンウェーハ301が設けられている。シリコンウェーハ301には、ノッチ301nが形成されている。シリコンウェーハ301の上面に平行な方向のうち、シリコンウェーハ301の中心301cからノッチ301nに向かう方向を「X方向」とし、X方向に直交する方向を「Y方向」とする。
【0103】
テスト材300においては、シリコンウェーハ301上に、以下の膜が順に積層されている。括弧内の数値は、各膜の厚さを示す。
・シリコン酸化膜302(10nm)
・シリコン窒化膜303(20nm)
・シリコン酸化膜304(500nm)
・カーボン膜305(500nm)
・シリコン酸化膜306(50nm)
・レジストパターン310(100nm)
【0104】
シリコン酸化膜304は、TEOS(Tetraethyl orthosilicate:オルトケイ酸テトラエチル:Si(OC2H5)4)を原料としたCVD法により形成した。シリコン酸化膜306は、塗布法により形成した。レジストパターン310には、リソグラフィ法により、所定のパターンを形成した。
【0105】
このテスト材300を2つ作製し、実施例及び比較例に係るプラズマエッチング装置により、RIE(Reactive Ion Etching)を施した。エッチング条件は、エッチング対象となる膜に応じて調整するものの、実施例と比較例の間では同じとした。
【0106】
先ず、レジストパターン310をマスクとしてシリコン酸化膜306をエッチングすることにより、シリコン酸化膜306をパターニングした。その後、レジストパターン310を除去した。
【0107】
次に、パターニングされたシリコン酸化膜306をマスクとしてカーボン膜305をエッチングすることにより、カーボン膜305をパターニングした。このとき、テスト材300の面内におけるカーボン膜305のエッチング速度分布を測定した。
【0108】
次に、パターニングされたカーボン膜305をマスクとしてシリコン酸化膜304をエッチングすることにより、シリコン酸化膜304をパターニングした。このとき、テスト材300の面内におけるシリコン酸化膜304のエッチング速度分布を測定した。その後、シリコン酸化膜304のエッチングに伴って発生した残渣物を除去した。
【0109】
次に、パターニングされたカーボン膜305及びシリコン酸化膜304をマスクとしてシリコン窒化膜303をエッチングすることにより、シリコン窒化膜303をパターニングした。このとき、テスト材300の面内におけるシリコン窒化膜303のエッチング速度分布を測定した。
【0110】
図20(a)及び(b)は、横軸に位置をとり、縦軸にエッチング速度をとって、カーボン膜305に対するエッチング速度分布を示すグラフである。
図21(a)及び(b)は、横軸に位置をとり、縦軸にエッチング速度をとって、シリコン酸化膜304に対するエッチング速度分布を示すグラフである。
図22(a)及び(b)は、横軸に位置をとり、縦軸にエッチング速度をとって、シリコン窒化膜303に対するエッチング速度分布を示すグラフである。
各図の横軸は、シリコンウェーハ301におけるX方向又はY方向の位置を表し、中心301cの位置が「0」である。
【0111】
図20(a)~
図22(b)に示すように,エッチング速度はテスト材300の面内において分布を持つものの、エッチング速度及びその分布は、実施例と比較例との間で実質的に同一であった。このため、従来のプラズマエッチング装置を、第1の実施形態に係るプラズマエッチング装置に置き換えても、エッチング条件を再調整する必要はなく、継続して使用できることが判明した。
【0112】
実施例に係るプラズマエッチング装置1においては、導通部材30の金属膜32をニッケルにより形成しているため、装置内がニッケルで汚染される懸念があった。そこで、エッチング後のテスト材300において、ニッケル量を測定した。
【0113】
図23は、横軸にサンプルをとり、縦軸にエッチング後のテスト材におけるニッケル検出量をとって、ニッケル汚染の有無を示すグラフである。
図23に示すように、実施例におけるニッケルの検出量は、比較例におけるニッケル検出量と比較して同等以下であった。このため、導通部材30に起因するニッケル汚染は発生していないといえる。また、ダストの発生量についても、実施例は比較例と比較して同等以下であり、現行の基準を満たしていた。
【0114】
このように、実施例に係るプラズマエッチング装置1は、比較例に係るプラズマエッチング装置100と比較して、エッチング速度及びその分布が実質的に同一であり、導通部材30に起因する汚染も認められず、ダストの発生量も増加しなかった。これにより、従来のプラズマエッチング装置を第1の実施形態に係るプラズマエッチング装置に置き換えても、問題がないことが確認された。例えば、
図29に示すプラズマエッチング装置100において、導通部材116を導通部材30(
図6(a)及び(b)参照)に置き換えることにより、低コストでプラズマエッチング装置1を実現することができる。
【0115】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、請求の範囲に記載された発明及びその等価物の範囲に含まれる。