(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-31
(45)【発行日】2024-06-10
(54)【発明の名称】超純水製造装置の運転管理方法
(51)【国際特許分類】
G01N 15/06 20240101AFI20240603BHJP
C02F 1/00 20230101ALI20240603BHJP
G01N 15/00 20240101ALI20240603BHJP
【FI】
G01N15/06 E
C02F1/00 V
G01N15/00 C
(21)【出願番号】P 2020123572
(22)【出願日】2020-07-20
【審査請求日】2023-05-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000004400
【氏名又は名称】オルガノ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】市原 史貴
(72)【発明者】
【氏名】近藤 司
(72)【発明者】
【氏名】菅原 広
(72)【発明者】
【氏名】加藤 晴久
(72)【発明者】
【氏名】中村 文子
【審査官】外川 敬之
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-196902(JP,A)
【文献】国際公開第2019/155672(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 15/06
C02F 1/00
G01N 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パーティクルカウンタの計測精度を評価する工程と、
前記計測精度が評価されたパーティクルカウンタ
を超純水製造装置に設置し、該超純水製造装置で製造される超純水中の微粒子をオンラインで計測する工程と、を含む、超純水製造装置の運転管理方法であって、
前記計測精度を評価する工程が、
市販の標準粒子を用意する工程と、
前記用意した標準粒子の粒子径分布曲線を取得して粒子径分布の値付けを行い、該標準粒子からなる試験粒子を得る工程と、
前記試験粒子を含む試料液を調製する工程と、
前記パーティクルカウンタを用いて前記試料液中の前記試験粒子を計測する工程と、
前記試験粒子の計測結果に基づいて、前記パーティクルカウンタの計測精度を評価する工程と、を含む、超純水製造装置の運転管理方法。
【請求項2】
前記試験粒子を得る工程が、前記粒子径分布の値付けを行う前に、前記標準粒子を所定の粒子径に分級することを含む、請求項1に記載の超純水製造装置の運転管理方法。
【請求項3】
前記標準粒子は、前記分級される前の公称平均粒子径が100nm以下である、請求項2に記載の超純水製造装置の運転管理方法。
【請求項4】
前記標準粒子が、ポリスチレンラテックス粒子、シリカ粒子、または、金粒子である、請求項1から3のいずれか1項に記載の超純水製造装置の運転管理方法。
【請求項5】
前記パーティクルカウンタは、最小可測粒径の公称値が50nm以下である、請求項1から4のいずれか1項に記載の超純水製造装置の運転管理方法。
【請求項6】
前記微粒子をオンラインで計測する工程が、前記超純水製造装置の最下流部に設置された限外ろ過膜の下流側に、前記パーティクルカウンタを設置することを含む、請求項1から5のいずれか1項に記載の超純水製造装置の運転管理方法。
【請求項7】
前記パーティクルカウンタの計測結果に基づいて、前記超純水製造装置のメンテナンスを実施するか否かを判定する工程をさらに含む、請求項1から6のいずれか1項に記載の超純水製造装置の運転管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超純水製造装置の運転管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスや液晶デバイスの製造プロセスでは、洗浄工程など様々な用途に、不純物が高度に除去された超純水が用いられている。超純水に含まれる微粒子は、デバイスの歩留まりを低下させる直接の原因となるため、そのサイズ(粒径)および個数(濃度)が厳しく管理されている。近年では、半導体デバイスの急激な高集積化・微細化に伴い、管理すべき微粒子のサイズおよび個数の要求はますます高まっており、例えば、国際半導体技術ロードマップ(ITRS)によれば、超純水に含まれる微粒子として、粒径が10nmレベルの微粒子を管理することが求められている。
【0003】
超純水に含まれる粒径が10nmレベルの微粒子を計測する方法として、直接検鏡法が知られている。直接検鏡法は、超純水をろ過した膜面上に微粒子を捕捉し、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて粒子形状を観察したり、個数を計測したりするものである。また、直接検鏡法によれば、エネルギー分散型X線分析装置(EDX)などの元素分析装置を併用することで、微粒子の組成分析を行うこともできる。ただし、直接検鏡法は、微粒子の計測・分析に多くの時間を要する。そのため、直接検鏡法による詳細な微粒子の計測・分析は必要に応じて行われ、日常的な微粒子管理には、オンラインで微粒子を計測可能な液中パーティクルカウンタ(LPC)が用いられるのが一般的である(例えば、特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-170406号公報
【文献】特開2014-226642号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
超純水製造装置の運転状態を適切に管理するためには、製造される超純水の水質をできるだけ正確に把握することが求められる。したがって、LPCを用いて超純水の水質を評価する場合には、LPCの計測結果の信頼性を高めることが必要になる。しかしながら、LPCの計測結果は、計測器メーカーによって異なることがあり、同じ計測器メーカーの同じ機種であっても異なることすらある。このような計測結果のばらつきは、計測器メーカーによるLPCの校正・性能評価が適切に行われていない可能性があるためと推測され、LPCの計測結果の信頼性を高めるためには、LPCの性能(計測精度)を適切に評価することが求められる。
【0006】
そこで、本発明の目的は、製造される超純水の水質を正確に評価して超純水製造装置の運転状態を適切に管理する超純水製造装置の運転管理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した目的を達成するために、本発明の超純水製造装置の運転管理方法は、パーティクルカウンタの計測精度を評価する工程と、計測精度が評価されたパーティクルカウンタを超純水製造装置に設置し、超純水製造装置で製造される超純水中の微粒子をオンラインで計測する工程と、を含み、計測精度を評価する工程が、市販の標準粒子を用意する工程と、用意した標準粒子の粒子径分布曲線を取得して粒子径分布の値付けを行い、その標準粒子からなる試験粒子を得る工程と、試験粒子を含む試料液を調製する工程と、パーティクルカウンタを用いて試料液中の試験粒子を計測する工程と、試験粒子の計測結果に基づいて、パーティクルカウンタの計測精度を評価する工程と、を含んでいる。
【0008】
このような超純水製造装置の運転管理方法によれば、試験粒子の粒子径分布を正確に把握した上で計測精度評価を行うことで、パーティクルカウンタの計測精度の信頼性を高めることができ、それにより、製造される超純水の水質を正確に評価することができる。
【発明の効果】
【0009】
以上、本発明によれば、製造される超純水の水質を正確に評価して超純水製造装置の運転状態を適切に管理することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態に係る超純水製造装置の概略構成図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る計測精度評価装置の概略構成図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る計測精度評価方法を示すフローチャートである。
【
図4】流れ流動場分離法を用いて微小材料を分離する原理を説明するための図である。
【
図5】実施例における試験粒子1,2の粒子径累積分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
【0012】
図1は、本発明の一実施形態に係る超純水製造装置の概略構成図である。なお、図示した超純水製造装置の構成は、単なる一例であり、本発明を制限するものではない。
【0013】
超純水製造装置1は、一次純水タンク2と、ポンプ3と、熱交換器4と、紫外線酸化装置5と、非再生型混床式イオン交換装置(カートリッジポリッシャー)6と、限外ろ過(UF)膜装置7とを有している。これらは、二次純水システム(サブシステム)を構成し、一次純水システム(図示せず)で製造された一次純水を順次処理して超純水を製造し、その超純水をユースポイント8に供給するものである。
【0014】
一次純水タンク2に貯留された被処理水(一次純水)は、ポンプ3により送出され、熱交換器4に供給される。熱交換器4を通過して温度調節された被処理水は、紫外線酸化装置5に供給されて紫外線を照射され、被処理水中の全有機炭素(TOC)が分解される。その後、被処理水は、カートリッジポリッシャー6においてイオン交換処理により金属などが除去され、UF膜装置7において微粒子が除去される。こうして得られた超純水は、一部がユースポイント8に供給され、残りが一次純水タンク2に返送されるようになっている。一次純水タンク2には、必要に応じて、一次純水システム(図示せず)から一次純水が供給される。一次純水タンク2、ポンプ3、熱交換器4、紫外線酸化装置5、カートリッジポリッシャー6、およびUF膜装置7としては、超純水製造装置のサブシステムにおいて一般的に用いられているものを使用することができる。例えば、UF膜装置7としては、ポリスルフォン製で分画分子量が6000の中空糸膜を用いた日東電工株式会社製の中空糸膜モジュール(品番:NTU-3306-K6R)を用いることができる。
【0015】
超純水製造装置1では、製造される超純水が半導体デバイスや液晶デバイスなどの洗浄に使用される場合、上述したように、超純水に含まれる微粒子のサイズ(粒径)および個数(濃度)を厳しく管理することが求められる。このため、超純水製造装置1は、その最下流部に設置されたUF膜装置7のさらに下流側に、超純水に含まれる微粒子を計測する液中パーティクルカウンタ(LPC)10を有している。LPC10としては、例えば、国際デバイスおよびシステムロードマップ(IRDS)などからの超純水中の微粒子管理の要求に対応するために、最小可測粒径の公称値ができるだけ小さいものを用いることが好ましく、例えば、50nm以下のものを用いることが好ましい。
【0016】
LPC10の計測結果は、超純水製造装置1の運転管理のために利用される。例えば、超純水製造装置1の運転状態(異常の有無など)を正確に判断し、超純水製造装置1のメンテナンス、特に、UF膜装置7の洗浄または交換、あるいはカートリッジポリッシャー6の洗浄または交換を実施するか否かを判定するために用いられる。なお、LPCは、図示したサブシステムの他、前処理システムや一次純水システム(いずれも図示せず)にも設けられていてよく、それらに設置されたろ過装置(各種フィルタ、イオン交換装置、活性炭など)のメンテナンスを効率的に実施するために、その計測結果が用いられてもよい。
【0017】
したがって、超純水製造装置1の運転状態を正確に判断して適切に管理するためには、LPC10の計測結果の信頼性を高めることが必要である。しかしながら、LPCの計測結果は、計測器メーカーによって異なることがあり、同じ計測器メーカーの同じ機種であっても異なることすらある。このような計測結果のばらつきは、以下のような理由により、計測器メーカーによるLPCの校正・性能評価が適切に行われていない可能性があるためと推測される。
【0018】
LPCの校正・性能評価方法は、日本産業規格(JIS B 9925)で規定されており、その規定によれば、校正用粒子(標準粒子)を用いて、例えば、粒径分解能や計数効率、最小可測粒径などが評価される。したがって、LPCの校正・性能評価が適切に行われるには、平均粒子径や粒子径分布が適切に管理された標準粒子を用いることが重要になる。しかしながら、LPCの校正・性能評価に実際に使用される標準粒子は、公称平均粒子径が同じであっても、それを製造する粒子メーカーによって粒子径分布が異なることがあり、特に粒径が50nm未満の標準粒子では、粒子径分布の値付けすらされていないのが現状である。したがって、例えば、最小可測粒径の公称値が50nm以下のLPCでは、最小可測粒径よりも大きな粒子径のものを含む標準粒子を用いて校正・性能評価が行われている可能性があり、実際の最小可測粒径はその公称値よりも大きい可能性がある。また、LPCの校正・性能評価方法の実際の運用では、試料液中の標準粒子濃度などの具体的な条件が計測器メーカーごとに異なる上、粒子メーカーによる標準粒子の公称個数濃度も、各粒子を球状粒子とする仮定に基づいて算出された計算値であるため、実際の個数濃度と一致しないことが多い。そのため、計数効率の公称値が実際のLPCの性能を反映していない可能性があり、最小可測粒径の公称値が同じLPCであっても、実際に得られる測定結果が異なる可能性がある。
【0019】
このように、一般的な標準粒子を用いただけの市販のLPCの性能(計測精度)評価が適切に行われていない可能性があることから、LPCの計測結果の信頼性を高めるためには、LPCの計測精度を適切に評価することが必要になる。そこで、本実施形態では、LPC10として、以下に示す計測精度評価方法により予め計測精度が評価されたものが用いられる。以下、
図2および
図3を参照して、その計測精度評価方法について説明する。
図2は、本実施形態の計測精度評価方法を実施するために用いられる計測精度評価装置を示す概略構成図であり、
図3は、本実施形態の計測精度評価方法を示すフローチャートである。
【0020】
まず、標準粒子を用意し(ステップS1)、用意した標準粒子の粒子径分布曲線を取得して粒子径分布(個数基準)の値付けを行うことで、粒子径分布が値付けされた標準粒子からなる試験粒子を得る(ステップS2)。
【0021】
標準粒子としては、市販のポリスチレンラテックス(PSL)粒子、シリカ粒子、金粒子などを用意することができる。標準粒子として金粒子を用意する場合、粒径が10nmよりも小さい市販の標準粒子を入手することができる。
【0022】
なお、試験粒子用の標準粒子は、LPCの計測対象となる微粒子の粒径に応じて用意され、本実施形態では、公称平均粒子径(メディアン径)が100nm以下のものが用意される。しかしながら、このような標準粒子では、上述したように、公称平均粒子径が同じであっても、実際の粒子の性状(粒子径分布)が同じであるとは限らず、特に粒径が50nm未満の市販の標準粒子では、粒子径分布の値付けすらされていないのが現状である。そのため、本実施形態では、LPCの計測精度を適切に評価するために、粒子径分布(個数基準)が値付けされた標準粒子からなる試験粒子が使用される。これにより、用意した標準粒子が市販品であるか、そのような市販品を後述するように分級したものであるかにかかわらず、試験粒子の性状(粒子径分布)が正確に把握される。なお、値付けの結果、平均粒子径(個数平均径)や粒子径分布など、LPCの計測対象となる微粒子に適合しない標準粒子は、試験粒子としては使用されない。
【0023】
標準粒子の粒子径分布を値付けする方法としては、特に制限はなく、例えば、動的光散乱法(DLS)やパルス磁場勾配核磁気共鳴法(PFG-NMR)などの散乱法、静的光散乱法(SLS)やレーザー光回折法などの光散乱回折法、光学顕微鏡法や電子顕微鏡法などの顕微鏡法、または、微分型静電分級法(DMA)用いることができ、あるいは、これらを組み合わせて用いることもできる。なお、用意した標準粒子が単分散の粒子径分布を有する場合、DLS、顕微鏡法、DMAを用いることが好ましく、多分散の粒子径分布を有する場合、走査型電子顕微鏡法(SEM)や透過型電子顕微鏡法(TEM)などの電子顕微鏡法、DMAを用いることが好ましい。
【0024】
さらに、LPCの計測精度の信頼性を高めるためには、粒子径分布幅ができるだけ狭く単分散性に優れた試験粒子を使用することが重要となる。したがって、試験粒子用の標準粒子として市販のものを用意した場合でも、粒子径分布の値付けを行う前に、精度の高い分級方法を用いて改めて粒子の分級を行うことが好ましい。そのような分級方法としては、特に限定されず、例えば、重力分級、遠心分級、慣性分級などの公知の分級方法を用いることもできるが、好ましくは、流動場分離法が用いられる。
【0025】
流動場分離法は、粒径に依存した自己拡散現象とその拡散と逆方向への外部場の負荷を利用することにより、粒径による分離を行うものである。外部場としては様々なものがあるが、特に、外部場として交叉場(クロスフロー)が与えられる流れ流動場分離法が一般的に用いられている。ここで、
図4を参照して、流れ流動場分離法を用いて微小材料を分離する原理について説明する。
【0026】
まず、
図4(a)に示すように、様々なサイズの微小材料20が流体と共に流路21内に注入される。流路21は、流入口22と流出口23とフィルタ部24とを有し、フィルタ部24は、流路21の壁の一部を構成し、流路21内を流れる流体のみを通過させる。流路21内での流体の流れには、流入口22から流出口23に向かう流れと、流出口23から流入口22に向かう流れと、これらの流れに垂直なフィルタ部24を通過して外部に流出する流れ(クロスフロー25)がある。微小材料20は、このような流れにより、
図4(b)に示すように1ヵ所に集められる。その後、微小材料20は、それぞれのサイズに依存した拡散速度の違いにより、
図4(c)に示すように、クロスフロー25の方向に沿ってサイズごとに並べられる。すなわち、微小材料20は、よりサイズの大きなものがフィルタ部24のより近いに位置するように並べられる。そして、
図4(d)に示すように、流出口23から流入口22に向かう流れを止めることにより、微小材料20は、サイズの小さいものから順番に流出口23から流出し、流出時間の違いによって分級されることになる。
【0027】
流動場分離法では、外部場の種類に応じて、材料の流出時間に影響を与える物理化学パラメータが異なるが、流れ流動場分離法では、分離対象となる粒子の粒径がそのようなパラメータとなるため、粒径による分級をより高精度に行うことが可能になる。
【0028】
このように、試験粒子としては、例えば、流れ流動場分離法により所望の粒子径に分級されたものを使用することが好ましい。なお、試験粒子は、単分散の粒子径分布を有するものに限定されず、多分散の粒子径分布を有するものであってもよい。具体的には、複数種類の標準粒子からなるもの、例えば、材質が同じで平均粒子径(個数平均径)の異なる複数種類の標準粒子からなるものであってもよく、あるいは、材質が異なる複数種類の標準粒子からなるものであってもよい。このとき、試験粒子を構成する複数種類の標準粒子のうち少なくとも1種類は、上述した流動場分離法によって分級されたものであることが好ましい。これにより、平均粒子径(個数平均径)の異なる複数種類の標準粒子の場合、個々の標準粒子に対して粒子径分布の値付けを行うことが可能になる。
【0029】
次に、試験粒子を含む試料液を調製し(ステップS3)、例えば、
図2に示す計測精度評価装置を用いて、計測精度の評価対象となるLPCで試料液中の試験粒子を計測する(ステップS4)。
【0030】
具体的には、まず、試験粒子を含む溶液またはスラリー(以下、単に「溶液」という)を用意して貯留容器11に貯留する。ここで、溶液の溶媒としては超純水が用いられる。そして、シリンジポンプ12を用いて、貯留容器11内の溶液をサンプリング配管L2に注入する。サンプリング配管L2は、バルブV1を介して、超純水が流れるメイン配管L1に接続されている。したがって、注入された溶液は、サンプリング配管L2内の超純水の流れで希釈されて混合される。こうして、超純水に試験粒子が添加された試料液が調製される。このとき、溶液の注入量は、試料液中の試験粒子濃度が所定の濃度、例えば、100~10000個/mlになるように調製される。なお、試料液中の試験粒子濃度は、予め測定された溶液中の試験粒子濃度を用いて、溶液の希釈倍率(溶液と超純水との混合比)から算出される。また、溶液中の試験粒子濃度は、シリンジポンプ12による溶液注入時のコンタミネーションの影響が十分に無視できるように、溶液の希釈倍率と試料液中の試験粒子濃度の設定値とを考慮して予め調整される。
【0031】
この工程では、添加された試験粒子を超純水中で均一に分散させるために、サンプリング配管L2に混合部13が設けられていることが好ましい。混合部13は、図示したキャピラリー配管の他、スタティックミキサーであってもよい。ただし、混合部13としては、不要な発塵(試料液への試験粒子以外の粒子の混入)を回避するために、機械的な可動部を有していないものが好ましい。なお、サンプリング配管L2の寸法やシリンジポンプ12の仕様、サンプリング配管L2を流れる超純水の流量は、試験粒子濃度が一定で均一な試料液が得られるように適宜決定される。
【0032】
そして、調製された試料液は、サンプリング配管L2を通り、サンプリング配管L2から分岐した分岐配管L11~L12内に供給される。そして、分岐配管L11~L12に設けられた2つの評価対象LPC14,15でそれぞれ試料液中の試験粒子が計測され、具体的には、粒径区分ごとの微粒子濃度(個/ml)が測定される。このとき、個々の評価対象LPC14,15で安定した計測結果が得られるように、試料液は、温度、圧力、流量が一定の状態で評価対象LPC14,15に供給されることが好ましい。なお、評価対象LPC14,15に供給される試料液の流量の合計よりもサンプリング配管L2を流れる試料液の流量が大きい場合、その差分の試料液を外部に排出するために、サンプリング配管L2には、バルブV2を介してもう1つの分岐配管L13が接続されていてもよい。また、分岐配管L13は、評価対象LPC14,15の定格流量に大きな差がある場合、試料液が混合部13から分岐配管L11,L12に分岐する際に粒子の片流れを抑制するための流量調整ラインとして機能させてもよい。
【0033】
その後、こうして得られた計測結果に基づいて、個々の評価対象LPC14,15の計測精度を評価する(ステップS5)。具体的には、例えば、個々の評価対象LPC14,15に対して、検出効率(試料液中の試験粒子濃度に対する評価対象LPC14,15で測定された微粒子濃度の割合)を算出し、算出した検出効率がどの程度であるかに基づいて計測精度を評価する。このとき、平均粒子径(個数平均径)の異なる複数の標準粒子からなる試験粒子を用いて検出効率を算出してもよく、さらに、試料液中の試験粒子濃度を変化させ、その濃度変化により検出効率がどのような影響を受けるかを調べてもよい。
【0034】
なお、上述した例では、2つの評価対象LPC14,15に対して個別に計測精度の評価を行っているが、評価の手法はこれに限定されるものではない。例えば、2つの評価対象LPC14,15の一方のLPCを、校正済みの参照用LPCに置き換え、そのような参照用LPCとの比較により、他方のLPCの校正を行ったり、計測結果の妥当性を検証したりしてもよい。あるいは、2つの評価対象LPC14,15として、同じ計測器メーカーの同じ機種のものや、異なる計測器メーカーの最小可測粒径の公称値が同じものを2つ用意し、それらの計測精度に関する機差を確認してもよい。ただし、このように比較に基づいて評価を行う場合には、2つの分岐配管L11,L12に対して、温度、圧力、流量が同じ条件で試料液が供給されることが必要になる。
【0035】
以上、本実施形態では、値付けすることで粒子径分布が正確に把握された標準粒子からなる試験粒子を用いてLPCの性能(計測精度)評価を行うため、LPCの計測精度の信頼性を高めることができる。そして、こうして高い計測精度を有するLPCを用いて、超純水中の微粒子管理を行うことで、超純水製造装置1の運転状態(異常の有無など)を正確に判断して適切な運転管理を実施することができる。
【0036】
(実施例)
次に、具体的な実施例を挙げて、本発明の効果について説明する。
【0037】
本実施例では、まず、試験粒子用の標準粒子として、公称平均粒子径が約20nmの市販のPSL粒子(A社製)を用意し、そのPSL粒子から2種類の試験粒子を得た。具体的には、分級を行わずに粒子径分布の値付けをしたもの(試験粒子1)と、分級した後で粒子径分布の値付けをしたもの(試験粒子2)の2種類の試験粒子を得た。粒子径分布の値付けについては、動的光散乱法(DLS)を用いて粒子径分布曲線を取得し、走査型電子顕微鏡法(SEM)を用いて平均粒子径(個数平均径)dnなどの算出を行った。また、分級は、粒子径が20nmを超える粒子が取り除かれるように流動場分離法を用いて行った。
【0038】
図5は、試験粒子1,2の粒子径累積分布(個数基準)を示すグラフである。
図5から、試験粒子1は、試験粒子2と比べて粒子径分布幅が広く、粒子径が20nmを超える粒子が全粒子数の約85%を占めていることが分かる。なお、平均粒子径d
nは、試験粒子1では26.5nm、試験粒子2では18.1nmであった。したがって、試験粒子1は、例えば、最小可測粒径の公称値が30nmの市販のLPCの計測精度評価には使用できるものの、仮に公称平均粒子径が約20nmであっても、最小可測粒径の公称値が20nmの市販のLPCの計測精度評価にそのまま使用するのは適切ではないことが分かる。換言すると、任意のLPCにおいて粒子径が20nmの粒子を計測できるかどうかを正しく評価するためには、試験粒子1よりも粒子径分布幅が狭く、平均粒子径も20nmにより近い試験粒子2を使用することが適切であることが分かる。
【0039】
次に、本実施例では、このような試験粒子1,2を含む4種類の試料液を用いて、計測精度の評価対象となるLPCの検出効率を調べた。具体的には、それぞれの試験粒子に対して、試験粒子濃度がそれぞれ10個/mL(条件1)、100個/ml(条件2)になるように試料液を調製し、最小可測粒径の公称値が20μmの市販のLPC(B社製)を用いて、それぞれの試料液中の微粒子濃度(個/ml)を測定し、測定した微粒子濃度に基づいて当該LPCの検出効率を算出した。算出結果を表1に示す。
【表1】
【0040】
条件1では、試験粒子1,2のいずれも検出されなかったのに対し、条件2では、試験粒子1のみが検出され、試験粒子2は検出されなかった。すなわち、本実施例で用いたLPCは、最小可測粒径の公称値が20nmとされているにもかかわらず、実際には、より高い試験粒子濃度の条件2においても粒子径が20nmの粒子を検出できないことが確認された。このことは、本実施例で用いたLPCに対しては、計測器メーカーによる性能評価において平均粒子径や粒子径分布が適切に管理されていない標準粒子(試験粒子)が使用されたために、適切な性能評価が行われなかったことを示している。なお、試験粒子1のうち条件2で検出された粒子は、
図5に示す測定結果を考慮すると、試験粒子2では分級により取り除かれて検出されなかった粒子、すなわち粒子径が20nmを超える粒子である可能性が高いと考えられる。
【0041】
このように、本実施例によれば、LPCの計測精度評価を適切に行うためには、LPCの計測対象となる微粒子の粒径に応じて適切な試験粒子を選択することが重要であり、そのためには、試験粒子の性状(粒子径分布)を正確に把握することが重要であることが確認された。
【符号の説明】
【0042】
1 超純水製造装置
2 一次純水タンク
3 ポンプ
4 熱交換器
5 紫外線酸化装置
6 非再生型混床式イオン交換装置(カートリッジポリッシャー)
7 UF膜装置
8 ユースポイント
10 LPC
11 貯留容器
12 シリンジポンプ
13 混合部
14,15 評価対象LPC
20 微小材料
21 流路
22 流入口
23 流出口
24 フィルタ部
25 クロスフロー
L1 メイン配管
L2 サンプリング配管
L11~L13 分岐配管
V1,V2 バルブ