(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-31
(45)【発行日】2024-06-10
(54)【発明の名称】植物育成用の発酵組成物
(51)【国際特許分類】
A01G 7/00 20060101AFI20240603BHJP
A01G 24/22 20180101ALI20240603BHJP
【FI】
A01G7/00 605Z
A01G24/22
(21)【出願番号】P 2022579545
(86)(22)【出願日】2022-02-01
(86)【国際出願番号】 JP2022003720
(87)【国際公開番号】W WO2022168816
(87)【国際公開日】2022-08-11
【審査請求日】2023-04-18
(31)【優先権主張番号】P 2021016962
(32)【優先日】2021-02-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(73)【特許権者】
【識別番号】596110729
【氏名又は名称】万田発酵株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(74)【代理人】
【識別番号】100130111
【氏名又は名称】新保 斉
(72)【発明者】
【氏名】加藤 純一
(72)【発明者】
【氏名】矢野 安希子
(72)【発明者】
【氏名】岸田 晋輔
(72)【発明者】
【氏名】藤岡 耕太郎
(72)【発明者】
【氏名】鳥居 英人
【審査官】竹中 靖典
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第98/001042(WO,A1)
【文献】特開2020-204019(JP,A)
【文献】特表2017-512192(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 7/00
A01G 24/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
果実類に属するリンゴ、柿、バナナ、パインアップル、アケビ、マタタビ、イチジク、野いちご、いちご、山ぶどう、ぶどう、山挑、もも、梅、ブルーベリー、ラズベリーから選ばれる1種または2種以上のものと、かんきつ類に属するネーブル、ハッサク、温州みかん、夏みかん、オレンジ、伊予柑、きんかん、ゆず、カボス、ザボン、ポンカン、レモン、ライムから選ばれる1種または2種以上のものと、根菜類に属するゴボウ、ニンジン、ニンニク、レンコン、ゆり根から選ばれる1種または2種以上のものと、穀類に属する玄米、もち米、白米、きび、とうもろこし、小麦、大麦、あわ、ひえから選ばれる1種または2種以上のものと、豆・ゴマ類に属する大豆、黒豆、黒ゴマ、白ゴマ、あずき、くるみから選ばれる1種または2種以上のものと、海草類に属するコンブ、ワカメ、ヒジキ、あおのり、かわのりから選ばれる1種または2種以上のものと、糖類に属する黒糖、果糖、ぶどう糖から選ばれる1種または2種以上のものと、はちみつ、澱粉、きゅうり、しそ、セロリから選ばれる1種または2種以上のものとを、発酵、熟成させることで得られる発酵組成物を主原料と
し、
0.25%w/v以上で植物に投与される、
当該植物の青枯病を抑制させることを特徴とする植物活力補助剤。
【請求項2】
前記発酵組成物は、次の成分及びアミノ酸組成からなる、主成分について、100g当たり、下記を含み、
水分:5.0g~50.0g、
タンパク質:0.5g~10.0g、
脂質:0.05g~10.00g、
炭水化物(糖質):30.0g~75.0g、
炭水化物(繊維):0.1g~5.0g、
灰分:0.5g~5.0g、
β-カロチン:10μg~150μg、
ビタミンA効力:10IU~100IU、
ビタミンB1:0.01mg~0.50mg、
ビタミンB2:0.01mg~0.50mg、
ビタミンB6:0.01mg~0.50mg、
ビタミンE:10.0mg以下、
ナイアシン:0.1mg~6.0mg、
カルシウム:50mg~900mg、
リン:200mg以下、
鉄:1.0mg~5.0mg、
ナトリウム:20mg~300mg、
カリウム:300mg~1000mg、
マグネシウム:40mg~200mg、
食塩相当量:0.05g~1.00g、
銅:7.0ppm以下、
アミノ酸組成について、100g中、
イソロイシン:30~200mg、
ロイシン:50~400mg、
リジン:20~200mg、
メチオニン:10~150mg、
シスチン:10~100mg、
フェニルアラニン:30~250mg、
チロシン:20~200mg、
スレオニン:40~200mg、
トリプトファン:1~100mg、
バリン:30~300mg、
ヒスチジン:10~200mg、
アルギニン:40~400mg、
アラニン:50~300mg、
アスパラキン酸:100~600mg、
グルタミン酸:100~1200mg、
グリシン:30~300mg、
プロリン:40~400mg、
セリン:30~300mg、
であることを特徴とする請求項1
に記載の植物活力補助剤。
【請求項3】
植物生体内で青枯病を抑制させることを特徴とする請求項1又は2に記載の植物活力補助剤。
【請求項4】
植物生体内で青枯病を抑制させるとともに植物の生育の促進させることを特徴とする請求項1
~3
のいずれか
一項に記載の植物活力補助剤。
【請求項5】
砂地または土壌または水耕で栽培する植物の生体内で青枯病を抑制させるとともに植物の生育の促進させることを特徴とする請求項1
~4
のいずれか一項に記載の植物活力補助剤。
【請求項6】
前記植物は、ナス科、キク科、マメ科、アブラナ科、ウリ科、バラ科、バショウ科、シソ科、アマ科、アオイ科、ゴマ科、トウダイグサ科、ショウガ科、イソマツ科、セリ科、ツリフネソウ科、リンドウ科、ベンケイソウ科、キンポウゲ科、
及び、スベリヒユ科
から選択される青枯病菌が感染する植物であることを特徴とする請求項1
~5のいずれか
一項に記載の植物活力補助剤。
【請求項7】
青枯病菌の遺伝子のうち、ralA(ラルフラノン生合成酵素遺伝子)、egl(β-1,4-エンドグルカナーゼ遺伝子)、cbhA(セロビオハイドロラーゼA遺伝子)、tssB、tssM、vgrG、hcpの各遺伝子の1又は2以上の転写抑制させることを特徴とする請求項1
~6のいずれか
一項に記載の植物活力補助剤。
【請求項8】
果実類に属するリンゴ、柿、バナナ、パインアップル、アケビ、マタタビ、イチジク、野いちご、いちご、山ぶどう、ぶどう、山挑、もも、梅、ブルーベリー、ラズベリーから選ばれる1種または2種以上のものと、かんきつ類に属するネーブル、ハッサク、温州みかん、夏みかん、オレンジ、伊予柑、きんかん、ゆず、カボス、ザボン、ポンカン、レモン、ライムから選ばれる1種または2種以上のものと、根菜類に属するゴボウ、ニンジン、ニンニク、レンコン、ゆり根から選ばれる1種または2種以上のものと、穀類に属する玄米、もち米、白米、きび、とうもろこし、小麦、大麦、あわ、ひえから選ばれる1種または2種以上のものと、豆・ゴマ類に属する大豆、黒豆、黒ゴマ、白ゴマ、あずき、くるみから選ばれる1種または2種以上のものと、海草類に属するコンブ、ワカメ、ヒジキ、あおのり、かわのりから選ばれる1種または2種以上のものと、糖類に属する黒糖、果糖、ぶどう糖から選ばれる1種または2種以上のものと、はちみつ、澱粉、きゅうり、しそ、セロリから選ばれる1種または2種以上のものとを、発酵、熟成させることで得られる、
次の成分及びアミノ酸組成からなる、主成分について、100g当たり、下記を含む、
水分:5.0g~50.0g、
タンパク質:0.5g~10.0g、
脂質:0.05g~10.00g、
炭水化物(糖質):30.0g~75.0g、
炭水化物(繊維):0.1g~5.0g、
灰分:0.5g~5.0g、
β-カロチン:10μg~150μg、
ビタミンA効力:10IU~100IU、
ビタミンB1:0.01mg~0.50mg、
ビタミンB2:0.01mg~0.50mg、
ビタミンB6:0.01mg~0.50mg、
ビタミンE:10.0mg以下、
ナイアシン:0.1mg~6.0mg、
カルシウム:50mg~900mg、
リン:200mg以下、
鉄:1.0mg~5.0mg、
ナトリウム:20mg~300mg、
カリウム:300mg~1000mg、
マグネシウム:40mg~200mg、
食塩相当量:0.05g~1.00g、
銅:7.0ppm以下、
アミノ酸組成について、100g中、
イソロイシン:30~200mg、
ロイシン:50~400mg、
リジン:20~200mg、
メチオニン:10~150mg、
シスチン:10~100mg、
フェニルアラニン:30~250mg、
チロシン:20~200mg、
スレオニン:40~200mg、
トリプトファン:1~100mg、
バリン:30~300mg、
ヒスチジン:10~200mg、
アルギニン:40~400mg、
アラニン:50~300mg、
アスパラキン酸:100~600mg、
グルタミン酸:100~1200mg、
グリシン:30~300mg、
プロリン:40~400mg、
セリン:30~300mg、
発酵組成物を主原料とする植物活力補助剤を、
植物に0.25%w/v以上で投与して植物の青枯病を抑制させる方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発酵組成物を主原料とする植物の青枯病を抑制させることを特徴とする植物活力補助剤に関する。
【背景技術】
【0002】
青枯病(bacterial wilt disease)はトマトなどナス科植物を中心に、200種以上の植物に感染、枯死させる農業に多大な被害をもたらす病害である。青枯病となった植物は、急速に凋しおれて植物が青々としている状態で枯死することが特徴である。
【0003】
青枯病に感染した植物は、地際部の切断した茎から菌泥が観察されるのが特徴である。この菌泥は病原体である細菌である青枯病菌(Ralstonia solanacearum)と、青枯病菌が大量生産する細胞外多糖である。青枯病菌が植物の維管束内で増殖し、大量に生産する細胞外多糖が維管束の通水を悪化させることから萎凋が生じ、枯死する。
【0004】
青枯病が発生した土地では、青枯病菌は地中に生き残り、適当な宿主植物が植えられると再び発生する。現行の対策は、抵抗性品種に接ぎ木する方法であるが、接ぎ木には手間がかかり、高価であるとの問題がある。また、トマトやナスなど被害の大きい作物では、食味と青枯病抵抗性の両立が難しい面もあり、その対策は難航している。
【0005】
従来技術としては、Tepidibacter属に属する菌を含んでいる青枯病菌関連病態の抑制剤が開示されている(特開2020-19755(青枯病菌関連病態の抑制剤、青枯病菌関連病態の抑制方法、及びその利用))。
【0006】
また、ペピーノ(Solanum muricatum)であることを特徴とするナス科植物の土壌病害防除用台木、および、ペピーノ(Solanum muricatum)を台木とし、ナス科植物(ペピーノを除く)を穂木として接ぎ木することを特徴とするナス科植物の土壌病害防除方法が開示されている。本発明によれば、ペピーノが備えた土壌病害防除能を穂木として接ぎ木したナス科植物に付与することができるため、農薬を使用することなく、簡易に土壌病害を防除することができるとの報告もある(特開2017-169555(ペピーノ台木接ぎ木トマト、ペピーノ台木接ぎ木トマトの作成方法及びトマトの土壌病害防除方法)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、接ぎ木には手間がかかることや高コストであることから、その普及は問題がある。また、微生物製剤についても、その取扱いが容易ではない面などの課題があると考えられます。さらに、これらの青枯病予防の手段を用いた場合に、作物の食味への影響の可能性も残っている。
【0008】
そこで、本発明者は、試行錯誤や各種実験を経て、本発明に係る発酵組成物を植物に投与させると青枯病が抑制することを見出し、本発明に至った。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明がその技術的課題を解決するために用いる技術的手段としては、次のようなものである。
【0010】
すなわち、本発明は、果実類に属するリンゴ、柿、バナナ、パインアップル、アケビ、マタタビ、イチジク、野いちご、いちご、山ぶどう、ぶどう、山挑、もも、梅、ブルーベリー、ラズベリーから選ばれる1種または2種以上のものと、かんきつ類に属するネーブル、ハッサク、温州みかん、夏みかん、オレンジ、伊予柑、きんかん、ゆず、カボス、ザボン、ポンカン、レモン、ライムから選ばれる1種または2種以上のものと、根菜類に属するゴボウ、ニンジン、ニンニク、レンコン、ゆり根から選ばれる1種または2種以上のものと、穀類に属する玄米、もち米、白米、きび、とうもろこし、小麦、大麦、あわ、ひえから選ばれる1種または2種以上のものと、豆・ゴマ類に属する大豆、黒豆、黒ゴマ、白ゴマ、あずき、くるみから選ばれる1種または2種以上のものと、海草類に属するコンブ、ワカメ、ヒジキ、あおのり、かわのりから選ばれる1種または2種以上のものと、糖類に属する黒糖、果糖、ぶどう糖から選ばれる1種または2種以上のものと、はちみつ、澱粉、きゅうり、しそ、セロリから選ばれる1種または2種以上のものとを、発酵、熟成させることで得られる発酵組成物を主原料とする植物の青枯病を抑制させることを特徴とする植物活力補助剤を提供するものである。
【0011】
前記発酵組成物は、次の成分及びアミノ酸組成の主成分は、100g当たり、水分:5.0g~50.0g、タンパク質:0.5g~10.0g、脂質:0.05g~10.00g、炭水化物(糖質):30.0g~75.0g、炭水化物(繊維):0.1g~5.0g、灰分:0.5g~5.0g、β-カロチン:10μg~150μg、ビタミンA効力:10IU~100IU、ビタミンB1:0.01mg~0.50mg、ビタミンB2:0.01mg~0.50mg、ビタミンB6:0.01mg~0.50mg、ビタミンE:10.0mg以下、ナイアシン:0.1mg~6.0mg、カルシウム:50mg~900mg、リン:200mg以下、鉄:1.0mg~5.0mg、ナトリウム:20mg~300mg、カリウム:300mg~1000mg、 マグネシウム:40mg~200mg、食塩相当量:0.05g~1.00g、 銅:7.0ppm以下、アミノ酸組成について、100g中、イソロイシン:30~200mg、ロイシン:50~400mg、リジン:20~200mg、メチオニン:10~150mg、シスチン:10~100mg、フェニルアラニン:30~250mg、チロシン:20~200mg、スレオニン:40~200mg、トリプトファン:1~100mg、バリン:30~300mg、ヒスチジン:10~200mg、アルギニン:40~400mg、アラニン:50~300mg、アスパラキン酸:100~600mg、グルタミン酸:100~1200mg、グリシン:30~300mg、プロリン:40~400mg、セリン:30~300mgとする発酵組成物を主原料とする植物の青枯病を抑制させることを特徴とする植物活力補助剤を提供するものとしても良い。
【0012】
前記の発酵組成物を主原料とする青枯病を抑制させることを特徴とする植物活力補助剤を提供する。
【0013】
前記の発酵組成物を主原料とする青枯病を抑制させるとともに植物の生育の促進させることを特徴とする植物活力補助剤を提供するものである。ここで、植物は、砂地または土壌または水耕栽培で栽培するものであっても良く、ナス科植物であることを特徴としても良い。
【0014】
また、青枯病菌の遺伝子のうち、ralA (ラルフラノン生合成酵素遺伝子)、egl(β-1,4-エンドグルカナーゼ遺伝子)、cbhA(セロビオハイドロラーゼA遺伝子)、tssB、 tssM、vgrG、hcpの各遺伝子の1又は2以上の転写抑制をさせることを特徴とするものでも良い。また、植物活力補助剤をこれらの遺伝子転写抑制剤としても良い。
【0015】
また、上記の発酵組成物を主原料とする植物活力補助剤を投与して植物の青枯病を抑制させる方法を提供する。
【0016】
以下、添付図面及び実施例を組み合わせて本発明を更に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】万田31号希釈液または蒸留水で2日間処理したトマト苗の青枯病菌接種後の病徴経過を示すグラフ
【
図2】pH未調整およびpH6に調整済みの0.5%万田31号を含むPNS培地を添加した砂耕栽培系における青枯病抑制効果を示すグラフ
【
図3】0.5%万田31号含有および非含有のRSM液体培地での培養における青枯病菌の生菌数を示すグラフ
【
図4】0.5%万田31号含有および非含有のCPG液体培地で培養した青枯病菌細胞における遺伝子転写制御を示すグラフ
【発明の実施の形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。以下の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用方法或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0019】
本発明は、発酵組成物により青枯病を防除する方法である。
【0020】
本発明による青枯病防除法としての有効性を示すための実施例およびその作用機序に言及する試験について説明する。
【0021】
植物としては、青枯病菌の宿主であるナス科のトマト(大型福寿)を用いた。次亜塩素酸とTween 20で殺菌したトマト種を湿らせた濾紙上に播種し、発芽させた後、ピートモスを混合した培養土を含むポットに移し、人工気象器(28℃、昼16時間/夜8時間)内で育成させた。
【0022】
万田31号は、蒸留水を用いて0.5、0.25、0.1% (w/v)(それぞれ250、500、1250倍希釈相当)になるように希釈した。播種後10日目のトマト苗を、ポットごと万田31号希釈液または蒸留水に浸漬し、根を完全に処理液に浸した。さらに2日間人工気象器で保持した後、ポットを各処理液から引き上げ、苗の四方の土にナイフを刺すことによって根を部分的に切断した。
【0023】
本試験では、本発明の発酵組成物は、万田31号とした。万田31号は、大粒果実 (リンゴ、カキ、バナナ、パインアップル)、小粒果実 (イチゴ、ぶどう、山桃、ウメ)、かんきつ類(ネーブルオレンジ、ハッサク、みかん、夏みかん、イヨカン等)、根菜類 (ゴボウ、ニンジン、ニンニク、レンコン)、穀類 (玄米、もち米、白米、キビ、トウモロコシ等)、豆・ゴマ類(大豆、黒豆、黒ゴマ、白ゴマ)、海草類 (コンブ、ワカメ、ヒジキ等)、糖類 (黒糖)、その他 (はちみつ)を原材料とし、温度管理しながら3年以上の発酵熟成を行い、ろ過して検査梱包してできる製品である。本発明の発酵組成物は、万田31号(特殊肥料)に限定されない。
【0024】
青枯病菌株にはRalstonia pseudosolanacearum MAFF 106611を用いた。液体培地でOD600=0.5まで増殖させた青枯病菌株を滅菌水で洗浄後、OD600=0.3に調整し、根を傷つけたトマト苗の根元付近の土に1mL植菌した。接種した苗はさらに14日間人工気象器で保持し、毎日病徴を観察した。病徴はDisease index(0:無症状/1:1~25%萎凋/2:26~50%萎凋/3:51~75%萎凋/4:76~100%萎凋または枯死)として評価した。その結果を
図1に示す。
【0025】
図1に示すように、蒸留水で処理した対照では、接種後2日目から病徴が認められ、7日目には試験したほぼすべての苗で完全な萎凋もしくは枯死が確認された。これに対して、0.5%の万田31号希釈液で処理した苗では、接種後4日目からわずかに病徴が見られ始めるものの、14日経過後も対照と比較して大幅に病徴が抑制されることが示された。また、万田31号における青枯病抑制効果は、濃度依存的であることも示された。
【0026】
万田31号の青枯病抑制効果が抗菌効果に起因する可能性について試験した。R. solanacearum minimal (RSM)液体培地(1.75g/L K2HPO4、0.75g/L KH2PO4、0.15g/L クエン酸三ナトリウム二水和物、1.25g/L(NH4)2SO4、0.25g/L MgSO4・7H2O、5g/L グルコース、pH7)で一晩振盪培養した青枯病菌株R. pseudosolanacearum MAFF 106611を、0.5%万田31号含有および非含有のRSM液体培地にそれぞれOD600=0.001となるように継代し、28℃、120rpmで振盪培養した。培養開始時点および24時間後の培養液を回収し、希釈平板法により生菌数(CFU/ml)を測定した。その結果を
図2に示す。
【0027】
図2に示すように、0.5%万田31号を添加した培地では、添加していない培地と比較して、培養24時間時点の生菌数が有意に向上することがわかる。この結果から、0.5%万田31号には青枯病菌に対する殺菌効果はなく、逆に増殖を促進する基質としてはたらくことが示された。
【0028】
本試験に用いたRSM培地には緩衝能があるため、0.5%万田31号を添加してもpHは7であるが、青枯病抑制試験に用いた蒸留水で調製した0.5%万田31号希釈液のpHはおよそ4.4と弱酸性である。青枯病菌の生育に適したpHは6~7程度であり、弱酸性を示す0.5%万田31号希釈液の場合はpHによる増殖抑制効果はある程度存在するものと考えられる。
【0029】
しかし、
図3に示すようにpHを6に調整した万田31号も未調整のものと同等の青枯病抑制効果示すことが確認された。このことから、万田31号の青枯病抑制効果は抗菌活性に由来しないことが示された。
【0030】
この試験は前述の実施例とは異なる方法で実施したため、本試験の方法について説明する。50gの珪砂を詰めたガラス試験管(φ40mm)をオートクレーブ(121℃、20分)で滅菌したのち、滅菌済みの植物栽培用培地Plant Nutrient Solution(PNS)(0.295 g/L Ca(NO3)2・4H2O, 0.126 g/L KNO3, 0.123 g/L MgSO4・7H2O, 0.136 g/L KH2PO4、微量栄養素(4.6 mg/L Fe [FeEDTAとして]、0.5 mg/L B, 0.05 mg/L Zn, 0.02 mg/L Cu, 0.01 mg/L Mo)12mLを加えたものを栽培系として用いた。殺菌したトマト種をPNS寒天培地に播種し、人工気象器で7日間育成した後、根を茎から1 cm程度離れた位置で切断し砂耕栽培系に植えた。液体培地で一晩振盪培養した青枯病菌R. pseudosolanacearum MAFF106611を洗浄し、OD600=0.001に調整した後、トマト苗から3 cmほど離れた地点に50μL滴下した。接種した苗は14日間人工気象器で保持し、毎日観察した。本試験では、1回の試験に8苗を供し、枯死した苗の割合を算出した(
図3)。
【0031】
万田31号の青枯病抑制効果が青枯病菌の病原性関連遺伝子の発現抑制に起因する可能性について試験した。CPG(1 g/L カザミノ酸、10 g/L ハイポリペプトン、5 g/L グルコース)液体培地で一晩培養した青枯病菌R. pseudosolanacearum MAFF 106611を、0.5%万田31号含有および非含有のCPG液体培地にOD600=0.01となるように継代し、28℃で約10時間培養した。OD600=0.5付近の培養液から青枯病菌細胞を回収し、NucleoSpin RNA(MACHEREY-NAGEL)を用いてRNAを抽出した。抽出したサンプルをRNA-seqに供し、得られたデータをR. solanacearum OE1-1のデータベースをレファレンスとして解析することで(DNAFORM委託解析)、万田31号が各遺伝子の転写に与える影響を比較した。
【0032】
その結果、
図4に示すように、万田31号を添加した培地では、添加していない培地と比較して、25の遺伝子について4倍以上の有意な転写量向上(log2FoldChange≧2)が認められ、290の遺伝子について4分の1以下の有意な転写量低下(log2FoldChange≦2)が確認された。このように圧倒的に発現が低下する遺伝子の方が多く、その中には病原性に寄与する遺伝子も多数見られた。その一例として、細胞外多糖生産に関わる遺伝子(xpsR、epsA-F)や細胞壁分解酵素をコードする遺伝子(egl、cbhA)、VI型分泌装置の構成因子をコードする遺伝子(tssB、tssC、tssM、vgrG、hcp)、ラルフラノン生合成に関わる遺伝子(ralA)が挙げられる。
【0033】
以上の結果から、本発明の発酵組成物(万田31号)は青枯病を顕著に抑制するものであり、その効果は単純な抗菌活性によるものではなく、青枯病菌の病原性に関与する遺伝子の発現抑制がその役割を担うことが示された。